特許第5776099号(P5776099)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5776099遷移金属錯体、光増感色素及び該色素を含む酸化物半導体電極及び色素増感太陽電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776099
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】遷移金属錯体、光増感色素及び該色素を含む酸化物半導体電極及び色素増感太陽電池
(51)【国際特許分類】
   C07D 409/14 20060101AFI20150820BHJP
   C07D 213/79 20060101ALI20150820BHJP
   C09B 57/10 20060101ALI20150820BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20150820BHJP
   H01M 14/00 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   C07D409/14CSP
   C07D213/79
   C09B57/10
   H01L31/04 154Z
   H01M14/00 P
【請求項の数】12
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2009-187792(P2009-187792)
(22)【出願日】2009年8月13日
(65)【公開番号】特開2011-37788(P2011-37788A)
(43)【公開日】2011年2月24日
【審査請求日】2012年8月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】591282205
【氏名又は名称】島根県
(73)【特許権者】
【識別番号】598041795
【氏名又は名称】神戸天然物化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077481
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 義一
(74)【代理人】
【識別番号】100088915
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 和夫
(72)【発明者】
【氏名】野田 修司
(72)【発明者】
【氏名】今若 直人
(72)【発明者】
【氏名】久保田 教子
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝一
(72)【発明者】
【氏名】古川 誠
【審査官】 深谷 良範
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/091525(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/020098(WO,A1)
【文献】 Advanced Materials,2007年,Vol.19,p.3888-3891
【文献】 Journal of the American Chemical Society,2008年,Vol.130,p.10720-10728
【文献】 Journal of Physical Chemistry C,2009年,Vol.113,p.14559-14566
【文献】 Angewandte Chemie International Edition,2008年,Vol.47,p.7342-7345
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D,C09B,H01L,H01M
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される二価の遷移金属錯体であって、

ML122 (I)

式(I)中、Mは二価の鉄イオン、ルテニウムイオンまたはオスミウムイオンであり、
Aはそれぞれ独立に、イソチオシアナト基(−NCS)、イソシアナト基(−NCO)またはイソセレノシアナト基(−NCSe)であり、
式(I)中、L1が下記式(II−1)で表され、
【化1】

式(II−1)中、
1はそれぞれ独立に、カルボキシル基(−CO2H)、ホスホン酸基(−PO32)、スルホン酸基(−SO3H)またはそれらの塩を表し、
2はそれぞれ独立に、カルボキシル基(−CO2H)、ホスホン酸基(−PO32)、スルホン酸基(−SO3H)またはそれらの塩を表し、
a及びbはそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、但し、aとbは同時に0になることはなく、a+bが2以上のときQ1及びQ2のうちの少なくとも一つを除き、Q1及びQ2がエステル化またはアミド化されていてもよく、
1及びZ2はそれぞれ独立に炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基を表し、
c及びdはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、
a+c、b+dはそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、
1及びZ2は、Z1が複数ある場合のZ1同士、Z2が複数ある場合のZ2同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよく、
式(I)中、L2が下記式(III−1)〜(III−3)のいずれかで表され、
【化2】
【化3】
【化4】
式(III−1)中、
1及びn2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、
Ar1及びAr2はそれぞれ独立にArを表し、
1及びY2はそれぞれ独立に水素原子またはArを表し、
1又はY2がArの場合、それぞれAr1又はAr2と同一でも異なっていてもよく、
3及びZ4はそれぞれ独立に炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基を表し、
e及びfはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、
3及びZ4は、Z3が複数ある場合のZ3同士、Z4が複数ある場合のZ4同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよく、
式(III−2)中、
3は0〜3の整数を表し、
Ar3はArを表し、
3は水素原子またはArを表し、
3がArの場合、それはAr3と同一でも異なっていてもよく、
5及びZ6はそれぞれ独立に炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基を表し、
gは0〜3の整数を表し、
hは0〜4の整数を表し、
5及びZ6は、Z5が複数ある場合のZ5同士、Z6が複数ある場合のZ6同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよく、
式(III−3)中、
Ar4はArを表し、
4は水素原子またはArを表し、
4がArの場合、それはAr4と同一でも異なっていてもよく、
7及びZ8はそれぞれ独立に炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基を表し、
i及びjはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、
7及びZ8は、Z7が複数ある場合のZ7同士、Z8が複数ある場合のZ8同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよく、
Arは下記式(IV−1)で表され、


式(IV−1)中、
XはO、S、NH、NR1またはNR2を表し、
1はフルオロ基で置換されていてもよい炭素数4〜16のアルキル基であって、かつ、第四級炭素原子を含むか、またはR1の1位の炭素原子が第三級炭素原子である基を表し、
2はフルオロ基で置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基であって、かつ、第四級炭素原子を含まず、R2の1位の炭素原子が第三級炭素原子でもない基を表し、
9はそれぞれ独立にフルオロ基で置換されていてもよい炭素数4〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基であって、かつ、Z9がアルキル基である場合には第四級炭素原子を、Z9がアルコキシアルキルまたはアルコキシ基である場合には第四級炭素原子またはアルコキシ酸素原子に直接結合する第三級炭素原子を含む基を表し、
kは、XがNR1を表す場合には0〜3の整数を表し、XがNR1以外を表す場合には1〜3の整数を表し、
10はそれぞれ独立にフルオロ基で置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基であって、かつ、第四級炭素原子も、アルコキシ酸素原子に直接結合する第三級炭素原子も含まない基を表し、
lは、XがNR1を表す場合には0〜3の整数を表し、XがNR1以外を表す場合には0〜2の整数を表し、
k+lは、XがNR1を表す場合には0〜3の整数を表し、XがNR1以外を表す場合には1〜3の整数を表し、
XがNR1である場合のそれぞれのZ9、Z10及びR1、XがNR2である場合のそれぞれのZ9、Z10及びR2、またはXがO、SまたはNHである場合のZ9及びZ10は、Z9が複数ある場合のZ9同士、Z10が複数ある場合のZ10同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよいことを特徴とする遷移金属錯体。
【請求項2】
前記Z9がアルキル基である場合、前記Z9の1〜5位のいずれか一つが第四級炭素原子であり、但し、前記5位が第四級炭素原子である場合、前記Z9の炭素数は5〜16であり、
前記Z9がアルコキシアルキル基である場合、前記Z9の1〜5位のいずれか一つが、アルコキシ酸素原子と直接結合していない第四級炭素原子、またはアルコキシ酸素原子と直接結合している第三級炭素原子であり、
前記Z9がアルコキシ基である場合、前記Z9の3〜5位のいずれか一つが第四級炭素原子、またはアルコキシ酸素原子に直接結合した炭素原子である2位の炭素原子が第三級炭素原子である、
ことを特徴とする、請求項1に記載の遷移金属錯体。
【請求項3】
前記Z9がアルキル基である場合、前記Z9の1位または2位が第四級炭素原子であり、
前記Z9がアルコキシアルキル基である場合、前記Z9の1位または2位が、アルコキシ酸素原子と直接結合していない第四級炭素原子、またはアルコキシ酸素原子と直接結合している第三級炭素原子であり、
前記Z9がアルコキシ基である場合、アルコキシ酸素原子に直接結合した炭素原子である2位の炭素原子が第三級炭素原子である、
ことを特徴とする、請求項1に記載の遷移金属錯体。
【請求項4】
前記配位子Aがいずれもイソチオシアナト基であり、前記Mが二価のルテニウムイオンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の遷移金属錯体。
【請求項5】
前記L2が、下記式(V−1)で表され、
【化6】

式中、X1はO、S、NH、NR3またはNR4を表し、
3はフルオロ基で置換されていてもよい炭素数4〜16のアルキル基であって、かつ、第四級炭素原子を含むか、またはR3の1位の炭素原子が第三級炭素原子である基を表し、
4はフルオロ基で置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基であって、かつ、第四級炭素原子を含まず、R4の1位の炭素原子が第三級炭素原子でもない基を表し、
11はそれぞれ独立にフルオロ基で置換されていてもよい炭素数4〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基であって、かつ、Z11がアルキル基である場合には第四級炭素原子を、Z11がアルコキシアルキルまたはアルコキシ基である場合には第四級炭素原子またはアルコキシ酸素原子に直接結合する第三級炭素原子を含む基を表し、
mは、X1がNR3を表す場合には0〜3の整数を表し、X1がNR3以外を表す場合には1〜3の整数を表し、
12はそれぞれ独立にフルオロ基で置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基であって、かつ、第四級炭素原子も、アルコキシ酸素原子に結合する第三級炭素原子も含まない基を表し、
nは、X1がNR3を表す場合には0〜3の整数を表し、X1がNR3以外を表す場合には0〜2の整数を表し、
m+nは、X1がNR3を表す場合には0〜3の整数を表し、X1がNR3以外を表す場合には1〜3の整数を表し、
1がNR3である場合のそれぞれのZ11、Z12及びR3、X1がNR4である場合のそれぞれのZ11、Z12及びR4、またはX1がO、S又はNHである場合のZ11及びZ12は、Z11が複数ある場合のZ11同士、Z12が複数ある場合のZ12同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよく、
2はO、S、NH、NR5またはNR6を表し、
5はフルオロ基で置換されていてもよい炭素数4〜16のアルキル基であって、かつ、第四級炭素原子を含むか、またはR5の1位の炭素原子が第三級炭素原子である基を表し、
6はフルオロ基で置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基であって、かつ、第四級炭素原子を含まず、R6の1位の炭素原子が第三級炭素原子でもない基を表し、
13はそれぞれ独立にフルオロ基で置換されていてもよい炭素数4〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基であって、かつ、Z13がアルキル基である場合には第四級炭素原子を、Z13がアルコキシアルキルまたはアルコキシ基である場合には第四級炭素原子またはアルコキシ酸素原子に直接結合する第三級炭素原子を含む基を表し、
oは、X2がNR5を表す場合には0〜3の整数を表し、X2がNR5以外を表す場合には1〜3の整数を表し、
14はそれぞれ独立にフルオロ基で置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基であって、かつ、第四級炭素原子も、アルコキシ酸素原子に結合する第三級炭素原子も含まない基を表し、
pは、X2がNR5を表す場合には0〜3の整数を表し、X2がNR5以外を表す場合には0〜2の整数を表し、
o+pは、X2がNR5を表す場合には0〜3の整数を表し、X2がNR5以外を表す場合には1〜3の整数を表し、
2がNR5である場合のそれぞれのZ13、Z14若しくはR5、X2がNR6である場合のそれぞれのZ13、Z14若しくはR6、またはX2がO、SまたはNHである場合のZ13及びZ14は、Z13が複数ある場合のZ13同士、Z14が複数ある場合のZ14同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよいことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の遷移金属錯体。
【請求項6】
1及びX2はそれぞれ独立にOまたはSを表し、m=o=1,n=p=0、かつZ11及びZ13はそれぞれ独立に炭素数4〜16のアルキル基であって第四級炭素原子を含むことを特徴とする請求項5に記載の遷移金属錯体。
【請求項7】
前記Arが下記式(IV−2):
【化7】

で表され、
9は請求項1に定義されるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の遷移金属錯体。
【請求項8】
前記Arが下記式(IV−3):
【化8】

で表され、
9は請求項1に定義されるものであり、R7は、分岐を含んでもよい炭素数1〜4のアルキレン基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の遷移金属錯体。
【請求項9】
前記式(I)中、L1が下記式(II−2):

【化9】

で表されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の遷移金属錯体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の遷移金属錯体の構造を有する光増感色素。
【請求項11】
請求項10の光増感色素を酸化物半導体上に吸着させたことを特徴とする酸化物半導体電極。
【請求項12】
請求項11の酸化物半導体電極からなるアノード、電荷移動物質または有機ホール移動物質、及びカソードから構成されることを特徴とする色素増感太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広いスペクトル領域で強い吸収を有し、かつより一層、耐久性に優れた新規光増感色素として有用な遷移金属錯体、これを含む酸化物半導体電極および色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の枯渇及びその燃焼による地球温暖化に伴い、これに替わる新エネルギーの開発が急務になってきている。太陽エネルギーは次世代の持続的発展を支えるに充分なポテンシャルを有するクリーンで環境に優しいエネルギー源である。太陽エネルギーを電気に変換する方法としてはシリコン系の半導体太陽電池が開発されてきている。しかし、ここで使用されるシリコンは非常に高純度である必要があり、この精製工程に費やされる多大なエネルギーと複雑な工程のため高い製造コストが要求される。
【0003】
色素増感太陽電池は、比較的高い変換効率を有し、従来型の太陽電池と比べ低コストであるため、現在、学問的また営業的に広く注目されてきている。特に、1991年にグレッツェルらが報告したこの色素増感太陽電池は、光電変換効率が10〜11%に達してきている。これはナノチタニア粒子表面に色素を吸着することにより、可視光領域の光を吸収することを可能にするものであり、色素の役割は光捕集作用を有することから特に重要である。このような色素としては、N3と呼ばれるシス−ビス(イソチオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジン−4,4’−カルボキシレート)ルテニウム(II)、N719と呼ばれるシス−ビス(イソチオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジン−4,4’−カルボキシレート)ルテニウム(II)ビス(テトラn−ブチルアンモニウム)およびZ907と呼ばれるシス−ビス(イソチオシアナト)−(2,2’−ビピリジン−4,4’−カルボキシレート)−(2,2’−ビピリジン−4,4’−ジノニル)ルテニウム(II)がよく知られている。N3およびN719の色素は高い光電変換効率を示すが、比較的高温での耐久性に問題がある。これは水分子等の攻撃により色素分子が二酸化チタン粒子表面から脱離することに由来する。これに対しZ907は一種の両親媒性ルテニウム色素であり、安定性に優れた色素である。しかし、N3およびN719と比べ可視紫外領域における吸収スペクトル強度が低いため光電変換効率が低いという欠点があった。
【0004】
また、近時報告されたルテニウム色素として、ピリジルキノリン誘導体を配位子とするルテニウム錯体(特許文献1)やテルピリジン誘導体を配位子とするルテニウム錯体(特許文献2〜4)等があるが、いずれも光電変換効率と耐久性を共に向上させるものではない。
【0005】
さらに、グレッツェルらは2,2’−ビピリジン配位子を有する特定構造の光増感色素を最近、報告している(特許文献5および6、非特許文献3)。しかし、依然として可視紫外領域における吸収スペクトル強度が十分とはいえないことと、酸化還元電位の相関関係で光電変換効率が低いことから、光電変換効率の更なる向上が望まれている。
【0006】
また、特許文献7でも、広範囲に2,2’−ビピリジン配位子を有する特定構造の光増感色素を報告している。しかし、具体的に列記される色素の安定性につき、さらに改良が必要と思われる。
【0007】
そこで、本発明者らは、より広いスペクトル領域で強い吸収を有し、かつ耐久性に優れた新規光増感色素として、特定のルテニウム遷移金属錯体をすでに報告している(特許文献8参照)また、近時、同様なルテニウム金属錯体の報告もなされている(特許文献9)。
【0008】
しかし、このような良好な光吸収特性を維持しつつ、更に一層、耐久性を向上させた新規光増感色素を得ることがさらに望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−272721号公報
【特許文献2】特開2003−212851号公報
【特許文献3】特開2005−47857号公報
【特許文献4】特開2005−120042号公報
【特許文献5】欧州特許出願公開1622178号
【特許文献6】国際公開第2006/010290号
【特許文献7】特開2001−291534号公報
【特許文献8】国際公開第2007/091525号
【特許文献9】国際公開第2009/020098号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J.Phys.Chem.B2003,107,14336−144337
【非特許文献2】nature material,p402,Vol.2,2003
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.2005,127,808−809
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、良好な光電変換効率を有し、さらに耐久性を向上させた光増感色素として有用な新規の遷移金属錯体、これを酸化物半導体上に吸着させた酸化物半導体電極、および該酸化物半導体電極を用いた色素増感太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明においては、(i)二酸化チタン粒子表面への吸着サイトとして、ジカルボキシビピリジル(dcbpy)配位子等のビピリジル多酸配位子、(ii)長波長の吸収励起・電荷移動を可能とするイソチオシアナトイオン、イソシアナト基およびイソセレノシアナト基から選ばれる配位子、さらに(iii)ルテニウム錯体等の遷移金属錯体の吸光度を向上させ、かつ吸収の深色効果を向上させる増感色素の求核試薬安定性を付与するためのアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基、好ましくは長鎖アルキル、長鎖アルコキシアルキルまたは長鎖アルコキシ基を有し、特定複素五員環を直接ないし共役的に結合させたビピリジル(bpy)配位子からなる二価の遷移金属錯体において、前記特定複素五員環上のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基として、それがアルキル基である場合には、第四級炭素原子を、あるいは前記特定複素五員環がピロール環である場合の該ピロール環の窒素原子に直接結合する第三級炭素原子を含み、それがアルコキシアルキルまたはアルコキシ基である場合には第四級炭素原子を含むか、アルコキシ酸素原子に直接結合する炭素原子が第三級炭素原子であるものを用いることを特徴とする。
【0013】
すなわち、本発明の第一の態様は、
下記式(I)で表される二価の遷移金属錯体であって、
ML122 (I)
式(I)中、Mは二価の鉄イオン、ルテニウムイオンまたはオスミウムイオンであり、Aはそれぞれ独立に、イソチオシアナト基(−NCS)、イソシアナト基(−NCO)またはイソセレノシアナト基(−NCSe)であり、
式(I)中、L1が下記式(II−1)で表され、
【0014】
【化1】
【0015】
式(II−1)中、
1はそれぞれ独立に、カルボキシル基(−CO2H)、ホスホン酸基(−PO32)、スルホン酸基(−SO3H)またはそれらの塩を表し、
2はそれぞれ独立に、カルボキシル基(−CO2H)、ホスホン酸基(−PO32)、スルホン酸基(−SO3H)またはそれらの塩を表し、
a及びbはそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、但し、aとbは同時に0になることはなく、a+bが2以上のときQ1及びQ2のうちの少なくとも一つを除き、Q1及びQ2がエステル化またはアミド化されていてもよく、
1及びZ2はそれぞれ独立に炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基を表し、
c及びdはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、
a+c、b+dはそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、
1及びZ2は、Z1が複数ある場合のZ1同士、Z2が複数ある場合のZ2同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよく、
式(I)中、L2が下記式(III―1)〜(III−3)のいずれかで表され、
【0016】
【化2】
【0017】
【化3】

【0018】
【化4】
【0019】
式(III−1)中、
1及びn2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、
Ar1及びAr2はそれぞれ独立にArを表し、
1及びY2はそれぞれ独立に水素原子またはArを表し、
1又はY2がArの場合、それぞれAr1又はAr2と同一でも異なっていてもよく、
3及びZ4はそれぞれ独立に炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基を表し、
e及びfはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、
3及びZ4は、Z3が複数ある場合のZ3同士、Z4が複数ある場合のZ4同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよく、
式(III−2)中、
3は0〜3の整数を表し、
Ar3はArを表し、
3は水素原子またはArを表し、
3がArの場合、それはAr3と同一でも異なっていてもよく、
5及びZ6はそれぞれ独立に炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基を表し、
gは0〜3の整数を表し、
hは0〜4の整数を表し、
5及びZ6は、Z5が複数ある場合のZ5同士、Z6が複数ある場合のZ6同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよく、
式(III−3)中、
Ar4はArを表し、
4は水素原子またはArを表し、
4がArの場合、それはAr4と同一でも異なっていてもよく、
7及びZ8はそれぞれ独立に炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基を表し、
i及びjはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、
7及びZ8は、Z7が複数ある場合のZ7同士、Z8が複数ある場合のZ8同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよく、
Arは下記式(IV−1)で表され、
【0020】
【化5】
【0021】
式(IV−1)中、
XはO、S、NH、NR1またはNR2を表し、
1はフルオロ基で置換されていてもよい炭素数4〜16のアルキル基であって、かつ、第四級炭素原子を含むか、またはR1の1位の炭素原子が第三級炭素原子である基を表し、
2はフルオロ基で置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基であって、かつ、第四級炭素原子を含まず、R2の1位の炭素原子が第三級炭素原子でもない基を表し、
9はそれぞれ独立にフルオロ基で置換されていてもよい炭素数4〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基であって、かつ、Z9がアルキル基である場合には第四級炭素原子を、Z9がアルコキシアルキルまたはアルコキシ基である場合には第四級炭素原子またはアルコキシ酸素原子に直接結合する第三級炭素原子を含む基を表し、
kは、XがNR1を表す場合には0〜3の整数を表し、XがNR1以外を表す場合には1〜3の整数を表し、
10はそれぞれ独立にフルオロ基で置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基であって、かつ、第四級炭素原子も、アルコキシ酸素原子に直接結合する第三級炭素原子も含まない基を表し、
lは、XがNR1を表す場合には0〜3の整数を表し、XがNR1以外を表す場合には0〜2の整数を表し、
k+lは、XがNR1を表す場合には0〜3の整数を表し、XがNR1以外を表す場合には1〜3の整数を表し、
XがNR1である場合のそれぞれのZ9、Z10及びR1、XがNR2である場合のそれぞれのZ9、Z10及びR2、またはXがO、SまたはNHである場合のZ9及びZ10は、Z9が複数ある場合のZ9同士、Z10が複数ある場合のZ10同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよいことを特徴とする遷移金属錯体である。
【0022】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様の遷移金属錯体の構造を有する光増感色素を酸化物半導体上に吸着させたことを特徴とする酸化物半導体電極である。
【0023】
本発明の第三の態様は、前記第二の態様の酸化物半導体電極からなるアノード、電荷移動物質または有機ホール移動物質、及びカソードから構成されることを特徴とする色素増感太陽電池である。
【0024】
本発明による新規遷移金属錯体は、ビピリジル配位子に直接ないし共役的に結合する特定複素五員環(IV-1)に、置換基としてアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基を有する両親媒性色素であり、該アルキル基は第四級炭素原子を、またはピロール環の窒素原子(X=NR1の場合)に直接結合する第三級炭素原子を含み、あるいは該アルコキシアルキルまたはアルコキシ基は第四級炭素原子またはアルコキシ酸素原子と直接結合する第三級炭素原子を有していることが大きな特徴である。
【0025】
本発明者らは、かかる分岐を有する色素を用いることで、色素増感太陽電池において、対応する直鎖のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基のものを用いた場合よりも、光電変換効率が向上することを見出した。
【0026】
その理由については、現時点では明確ではないが、以下のように推定している。すなわち、色素増感太陽電池において、色素は半導体上に、色素分子同士が適度な間隔を保持した単層の状態で吸着されている必要があり、過剰量(密度)の色素吸着は変換効率の低下を招くと考えられる。そして、立体的に嵩高い第四級炭素原子等の存在により、この性能低下を引き起こしうる色素の会合・凝集を抑え、過剰な色素吸着を抑制することにより、変換効率が向上するのではないかと考えている。
【0027】
本発明の新規遷移金属錯体は、上記のような特徴に加えて、以下のような特徴も有している。すなわち、疎水性のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基、好ましくは長鎖アルキル、長鎖アルコキシアルキルまたは長鎖アルコキシ基を導入することにより、錯体化合物構造に疎水性及び立体構造性が付与され、これにより電解液に混入している水酸基等の求核物質を錯体分子より遠ざけ、該錯体分子の脱離現象が改善されるため、安定性に優れている。また、特定複素五員環を直接ないし共役的に結合させたビピリジル配位子の導入により、可視紫外領域において高い分子吸光係数を有するため、光増感色素として高い光電変換特性を提供することが可能である。さらに、固体状態の色素増感太陽電池において、色素は、二酸化チタンとホール伝導体間のスペーサーとして作用し、アルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ鎖(好ましくは長鎖アルキル、長鎖アルコキシアルキルまたは長鎖アルコキシ基)と特定複素五員環を含む共役結合構造は、このスペーサー効果を有効に助長し、電子の再結合をブロックする。これにより、固体系色素増感太陽電池の性能向上にも寄与する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の遷移金属錯体を色素増感太陽電池の光増感色素として用いることにより、より一層の改良された優れた耐久性及び高い光電変換特性を有する光電変換素子を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(一)本発明の第一の態様について
本態様は、下記で説明するような式:
ML122 (I)
で表される遷移金属錯体に関するものであり、特に光増感色素として有用である。
【0030】
(i)遷移金属イオンM
前記式(I)中の遷移金属イオンMは、二価の鉄イオン、ルテニウムイオンまたはオスミウムイオンであり、電池性能もしくは環境影響の観点から、二価のルテニウムイオン又は鉄イオンが好ましく、特に二価のルテニウムイオンが好ましい。
【0031】
(ii)配位子A
前記式(I)中の配位子Aはそれぞれ独立に、イソチオシアナト基(−NCS)、イソシアナト基(−NCO)またはイソセレノシアナト基(−NCSe)であり、電子供与性の観点からイソチオシアナト基又はイソセレノシアナト基が好ましく、特にイソチオシアナト基が好ましい。そして、2つの配位子A共にイソチオシアナト基であることが特に好ましい。
【0032】
(iii)配位子L1
前記式(I)中の配位子L1は下記式(II−1)で表される。
【0033】
【化6】
【0034】
式(II)中、Q1はそれぞれ独立に、カルボキシル基(−CO2H)、ホスホン酸基(−PO32)、スルホン酸基(−SO3H)またはそれらの塩であり、Q2はそれぞれ独立に、カルボキシル基(−CO2H)、ホスホン酸基(−PO32)、スルホン酸基(−SO3H)またはそれらの塩であり、a及びbはそれぞれ独立に0〜4の整数、好ましくは1を表し、但し、aとbは同時に0になることはない。また、a+bが2以上のとき、Q1及びQ2のうちの少なくとも一つを除き、Q1及びQ2がエステル化またはアミド化されていてもよい。ここで、「少なくとも一つを除き」とは、Q1またはQ2が複数ある場合、これら複数あるQ1またはQ2のうちの一つを除くことを意味する。このようなエステル化またはアミド化のためのアルコールあるいはアミンとしてはメタノール、エタノール、ジメチルアミンが挙げられる。
【0035】
1及びZ2はそれぞれ独立に炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基を表し、c及びdはそれぞれ独立に0〜3の整数、好ましくはいずれも0を表す。
【0036】
a+c、b+dはそれぞれ独立に0〜4の整数を表す。
【0037】
1及びZ2は、Z1が複数ある場合のZ1同士、Z2が複数ある場合のZ2同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよい。
【0038】
置換基Q1およびQ2としては、二酸化チタン等の酸化物半導体と化学結合し、電子を効率よく注入できる点で、カルボキシル基またはホスホン酸基が好ましく、カルボキシル基が特に好ましい。
【0039】
また、置換基Q1およびQ2は同種の置換基であることが、前述の化学結合、電子の注入の点でより好ましい。
【0040】
その位置は、π共役電子系の連鎖の点で、下記式(II−2)にあるように4位と4’位にあるのが好ましい。
【0041】
【化7】
【0042】
置換基Q1およびQ2の塩としては、たとえばアルカリ金属や四級アンモニウムとの塩を形成したものが挙げられる。
【0043】
(iv)配位子L2
a.前記式(I)中の配位子L2は下記式(III−1)〜(III−3)のいずれかで表される。
【0044】
【化8】
【0045】
【化9】
【0046】
【化10】
【0047】
上記式(III−1)〜(III−3)のうち、構造対称性及びπ電子共役性の観点からは、式(III−1)で表されるL2が好ましい。
【0048】
b.式(III−1)において、n1及びn2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、構造安定性の観点から0が好ましい。
【0049】
Ar1及びAr2はそれぞれ独立にArを表す。
【0050】
1及びY2は、それぞれ独立に水素原子またはArを示し、Y1又はY2がArの場合、それぞれAr1又はAr2と同一でも異なっていてもよい。構造対称性の観点から、Ar1とAr2は同じArであることが好ましい。同様に、Y1及びY2はいずれも同種、すなわち、いずれもArまたはいずれも水素原子であることが好ましく、電子ドナー性の観点からはいずれも水素原子であることが好ましい。
【0051】
3及びZ4はそれぞれ独立に炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基を表し、Z3及びZ4は、Z3が複数ある場合のZ3同士、Z4が複数ある場合のZ4同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよい。
【0052】
e及びfはそれぞれ独立に0〜3の整数、好ましくはいずれも0を表す。
【0053】
c.ここで、Arは、下記式(IV−1)によって表され、構造対称性の観点から、Y1がArの場合、Ar1のとるArと同じものであることが好ましく、さらにY1及びY2もArの場合、これらもAr1のとるArと同じものであることが好ましい。
【0054】
【化11】
【0055】
式(IV−1)中、XはO、S、NH、NR1またはNR2を表し、π電子共役系の優位性の観点から、OまたはSが好ましく、その中でもSが特に好ましい。
【0056】
ここで、R1はフルオロ基で置換されていてもよい炭素数4〜16(疎水性の付与、適度な立体構造の点で、好ましくは炭素数5〜10、より好ましくは炭素数5〜8)のアルキル基であって、かつ、第四級炭素原子を含むか、またはR1の1位の炭素原子(特定複素五員環であるピロール環の窒素原子に直接結合する炭素原子)が第三級炭素原子である基を表す。
【0057】
また、R2はフルオロ基で置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基であって、かつ、第四級炭素原子を含まず、R2の1位の炭素原子が第三級炭素原子でもない基を表す。
【0058】
9はそれぞれ独立にフルオロ基で置換されていてもよい炭素数4〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基であって、かつ、Z9がアルキル基である場合には第四級炭素原子を、Z9がアルコキシアルキルまたはアルコキシ基である場合には第四級炭素原子またはアルコキシ酸素原子に直接結合する第三級炭素原子を含む基を表し、疎水性の付与、適度な立体構造の点で、特にアルキル基であることが好ましく、Z9の炭素数は4〜16であるが、疎水性の付与、適度な立体構造の点で、好ましくは炭素数5〜10、より好ましくは炭素数5〜8である。
【0059】
kは、XがNR1を表す場合には0〜3の整数、好ましくは0を表し、XがNR1以外を表す場合には1〜3の整数、好ましくは1を表す。
【0060】
10はそれぞれ独立にフルオロ基で置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基であって、かつ、第四級炭素原子も、アルコキシ酸素原子に結合する第三級炭素原子も含まない基を表す。
【0061】
lは、XがNR1を表す場合には0〜3の整数、好ましくは0を表し、XがNR1以外を表す場合には0〜2の整数、好ましくは0を表す。
【0062】
k+lは、XがNR1を表す場合には0〜3の整数を表し、XがNR1以外を表す場合には1〜3の整数1を表す。
【0063】
XがNR1である場合のそれぞれのZ9、Z10及びR1、XがNR2である場合のそれぞれのZ9、Z10及びR2、またはXがO、SまたはNHの場合のZ9及びZ10は、Z9が複数ある場合のZ9同士、Z10が複数ある場合のZ10同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよい。たとえば、下記式(IV−3):
【0064】
【化12】
【0065】
にあるようにアルキレンジオキシ基により環が形成されているものが例示できる。ここで、R7は、分岐を含んでもよい炭素数1〜4のアルキレン基であり、メチレン、エチレン、1−メチルエチレン、1,2−ジメチルエチレン等が例示できる。
【0066】
上記式(IV−1)のうち、適度な立体構造の点でより好ましいものは、下記式(IV−2):
【0067】
【化13】
【0068】
にあるように、式(IV−1)において、k=1、l=0であり、かつZ9が複素五員環上の5位にあるものに相当するものである。
【0069】
本発明のZ9(アルキル、アルコキシアルキル若しくはアルコキシ基)またはR1(アルキル基)中には、第四級炭素原子、アルコキシ酸素原子に直接結合した第三級炭素原子(Z9がアルコキシアルキルまたはアルコキシ基の場合)、またはピロール環の窒素原子に直接結合した第三級炭素原子(XがNR1の場合)の少なくともいずれか一つを含むが、式(IV−1)で示される複素五員環に直接結合するZ9若しくはR1中の炭素原子(アルコキシアルキルまたはアルキル基の場合)、又はZ9中のアルコキシ酸素原子(アルコキシ基の場合)の位置を1位とした場合、嵩高い置換基の立体効果の観点から、1位〜5位(アルコキシアルキルまたはアルキル基の場合、但し、アルコキシアルキル基の場合、アルコキシ酸素原子も位数の計算には算入するものの、アルコキシ酸素自体は第四級炭素原子ないし第三級炭素原子には当然になりえない)または2位〜5位(アルコキシ基の場合)にあることが好ましく、1位〜2位にあることがより好ましく(アルコキシアルキルまたはアルキル基の場合、但し、アルコキシアルキル基の場合、アルコキシ酸素原子も位数の計算には算入する)、2位にあることがもっとも好ましい。
【0070】
なお、Z9、Z10、R1(XがNR1の場合)及びR2(XがNR2の場合)において、固体電解質との適正の観点からは、1または複数のフルオロ基で置換されていることが好ましい。
【0071】
d.式(III−2)において、n3は0〜3の整数を表し、構造安定性の観点から0が好ましい。
【0072】
Ar3はArを表す。
【0073】
3は水素原子またはArを示し、電子ドナー性の観点からは水素原子であることが好ましい。
【0074】
5及びZ6はそれぞれ独立に炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基を表し、Z5及びZ6は、Z5が複数ある場合のZ5同士、Z6が複数ある場合のZ6同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよい。
【0075】
g及びhはそれぞれ独立に0〜3の整数、好ましくはいずれも0を表す。
【0076】
Arについては、上記c.における式(III−1)で説明したものと同様である。但し、構造対称性の観点から、Y3がArの場合、Ar3のとるArと同じものであることが好ましい。
【0077】
e.式(III−3)において、Ar4はArを表し、Y4は水素原子またはArを表し、Y4がArの場合、それはAr4と同一でも異なっていてもよい。
【0078】
7及びZ8はそれぞれ独立に炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基を表し、Z7及びZ8は、Z7が複数ある場合のZ7同士、Z8が複数ある場合のZ8同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよい。
【0079】
i及びjはそれぞれ独立に0〜3の整数、好ましくはいずれも0を表す。
【0080】
Arについては、上記c.における式(III−1)で説明したものと同様である。
【0081】
但し、構造対称性の観点から、Y4がArの場合、Ar4のとるArと同じものであることが好ましい。
【0082】
f.特に好ましい配位子L2としては、以下の式(V−1)を挙げることができる。
【0083】
【化14】
【0084】
式(V−1)中、X1はO、S、NH、NR3またはNR4を表す。
【0085】
ここで、R3はフルオロ基で置換されていてもよい炭素数4〜16(疎水性の付与、適度な立体構造の点で、好ましくは炭素数5〜10、より好ましくは炭素数5〜8)のアルキル基であって、かつ、第四級炭素原子を含むか、またはR3の1位の炭素原子(特定複素五員環であるピロール環の窒素原子に直接結合する炭素原子)が第三級炭素原子である基を表す。
【0086】
また、R4はフルオロ基で置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基であって、かつ、第四級炭素原子を含まず、R4の1位の炭素原子が第三級炭素原子でもない基を表す。
【0087】
また、X2はO、S、NH、NR5またはNR6を表す。
【0088】
ここで、R5はフルオロ基で置換されていてもよい炭素数4〜16(疎水性の付与、適度な立体構造の点で、好ましくは炭素数5〜10、より好ましくは炭素数5〜8)のアルキル基であって、かつ、第四級炭素原子を含むか、またはR5の1位の炭素原子(特定複素五員環であるピロール環の窒素原子に直接結合する炭素原子)が第三級炭素原子である基を表す。
【0089】
また、R6はフルオロ基で置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基であって、かつ、第四級炭素原子を含まず、R6の1位の炭素原子が第三級炭素原子でもない基を表す。
【0090】
以上のX1とX2は構造対称性の観点から、同種のもの、特にいずれもSであることがπ電子供与性の点で好ましい。
【0091】
11は疎水性の付与、適度な立体構造の点で、それぞれ独立にフルオロ基で置換されていてもよい炭素数4〜16の、より好ましくは炭素数4〜10、さらに好ましくは5〜8のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基、より好ましくはアルキル基であって、かつ、Z11がアルキル基である場合には第四級炭素原子を、Z11がアルコキシアルキルまたはアルコキシ基である場合には第四級炭素原子またはアルコキシ酸素原子に直接結合する第三級炭素原子を含む基を表す。
【0092】
mは、X1がNR3を表す場合には0〜3の整数、より好ましくは0を表し、X1がNR3以外を表す場合には1〜3の整数、より好ましくは1を表す。
【0093】
12はそれぞれ独立にフルオロ基で置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基であって、かつ、第四級炭素原子も、アルコキシ酸素原子に直接結合する第三級炭素原子も含まない基を表す。
【0094】
nは、X1がNR3を表す場合には0〜3の整数、より好ましくは0を表し、X1がNR3以外を表す場合には0〜2の整数、より好ましくは0を表す。
【0095】
m+nは、XがNR3を表す場合には0〜3の整数を表し、X1がNR3以外を表す場合には1〜3の整数を表す。
【0096】
1がNR3である場合のそれぞれのZ11、Z12及びR3、X1がNR4である場合のそれぞれのZ11、Z12及びR4、XがO、S又はNHである場合のZ11及びZ12は、Z11が複数ある場合のZ11同士、Z12が複数ある場合のZ12同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよい。
【0097】
13は疎水性の付与、適度な立体構造の点で、それぞれ独立にフルオロ基で置換されていてもよい炭素数4〜16の、より好ましくは炭素数4〜10、さらに好ましくは5〜8のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基、より好ましくはアルキル基であって、かつ、第四級炭素原子またはアルコキシ酸素原子に直接結合する第三級炭素原子を含む基を表す。
【0098】
oは、X2がNR5を表す場合には0〜3の整数、より好ましくは0を表し、X2がNR5以外を表す場合には1〜3の整数、より好ましくは1を表す。
【0099】
14は疎水性の付与、適度な立体構造の点で、それぞれ独立にフルオロ基で置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ基であって、かつ、第四級炭素原子も、アルコキシ酸素原子に直接結合する第三級炭素原子も含まない基を表す。
【0100】
pは、X2がNR5を表す場合には0〜3の整数、より好ましくは0を表し、X2がNR5以外を表す場合には0〜2の整数、より好ましくは0を表す。
【0101】
o+pは、XがNR5を表す場合には0〜3の整数、より好ましくは0を表し、XがNR5以外を表す場合には1〜3の整数、より好ましくは1を表す。
【0102】
2がNR5である場合のそれぞれのZ13、Z14及びR5、X2がNR6である場合のそれぞれのZ13、Z14及びR6、XがO、S又はNHである場合のZ13及びZ14は、Z13が複数ある場合のZ13同士、Z14が複数ある場合のZ14同士も含め、お互いに結合して環を形成してもよい。
【0103】
g.さらに電池特性の観点から、式(V−1)の中でも、より好ましい配位子L2としては下記式(V−2)を挙げることができる。
【0104】
【化15】
【0105】
式(V−2)中、X1、X2、Z11及びZ13は式(V−1)中の定義と同様のものを表す。
【0106】
(v)本態様の遷移金属錯体の構造としては、特に光増感色素として好ましいものは下記式(VI)で示される。
【0107】
【化16】
【0108】
式(VI)中、X1、X2、Q1、Q2、Z11およびZ13は、前記式(V−2)及び(II−2)と同じ意味である。
【0109】
(vi) 本態様の遷移金属錯体の合成方法については、任意の公知の方法を採用することができるが、たとえば遷移金属としてルテニウムを採用する場合、ジハロゲノ(p−シメン)ルテニウム(II)二量体、好ましくはジクロロ(p−シメン)ルテニウム(II) 二量体に対して、上記ビピリジル配位子L2、L1を順次作用させた後に、配位子Aを含む塩、たとえば配位子Aとしてイソチオシアナト基を採用する場合、イソチオシアン酸アンモニウム等のイソチオシアン酸塩を用いてルテニウム上のハロゲンをイソチオシアナト基に置換することによって製造することができる。
【0110】
・配位子L1について
配位子L1においてQ1、Q2がカルボキシル基の場合、市販品を用いることができる。配位子L1において、Q1、Q2がホスホン酸基またはスルホン酸基の場合、ビピリジルまたはその誘導体より、任意の公知の方法で合成できる。
【0111】
・配位子L2について
式(III−1)または式(III−2)のタイプの配位子L2については、たとえば、アルキルチオフェン、アルコキシアルキルチオフェンまたはアルコキシチオフェン等のアルキル複素五員環、アルコキシアルキル複素五員環またはアルコキシ複素五員環に塩基(n−ブチルリチウム等)及びジメチルホルムアミド等のホルムアルデヒド供給源を作用させることで、(アルキル、アルコキシアルキルまたはアルコキシ)チオフェン−2−カルバルデヒド等の複素五員環−2−カルバルデヒドを製造し、次いで、4,4’−ジメチル−2,2’−ビピリジン[式(III−1)のタイプの場合]または4−メチル−2,2’−ビピリジン[式(III−2)のタイプの場合]にLDA等の塩基を作用させたものと付加反応させ、得られた付加物をパラトルエンスルホン酸ピリジニウム塩等の酸触媒を用いて脱水することで製造できる。
【0112】
もっとも、本発明の配位子L2を得るためには、上記アルキル複素五員環、アルコキシアルキル複素五員環またはアルコキシ複素五員環のアルキル基、アルコキシアルキル基またはアルコキシ基の少なくとも一つのアルキル基、アルコキシアルキル基またはアルコキシ基につき、第四級炭素原子又はアルコキシ酸素原子に直接結合する第三級炭素原子を含まねばならない。たとえば、該当するアルキルハライドまたはアルカノイルハライド(いずれも第四級炭素原子を含む)とチオフェン等の複素五員環とにより、公知の方法でアルキルチオフェン等のアルキル複素五員環(該アルキル基には第四級炭素原子を含む)を合成できる。あるいは、たとえば、ハロアルカノールとイソブテンを酸触媒で反応させて得られるt-ブトキシアルキルハライドを使用することにより、t-ブトキシアルキルチオフェン等のアルコキシアルキル複素五員環(該アルコキシアルキル基には第四級炭素原子またはアルコキシ酸素原子に直接結合する第三級炭素原子を含む)を合成できる。あるいは、たとえば、2−ブロモチオフェンとマグネシウムから調製されるグリニャール試薬とt−ブチル過安息香酸を反応させて、2-t-ブトキシチオフェン等のアルコキシ複素五員環(該アルコキシ基には第四級炭素原子またはアルコキシ酸素原子に直接結合する第三級炭素原子を含む)を合成できる。
【0113】
式(III−3)のタイプの配位子L2については、たとえば、2−ネオペンチルチオフェンと、n−ブチルリチウム存在下、トリメチルホウ酸との反応により得られる5−ネオペンチルチオフェン−2−ボロン酸をテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムの触媒下、4,4‘−ジブロモ−2,2−ビピリジンとのカップリング反応を行うことで合成できる。
【0114】
(二)本発明の第二の態様について
本態様においては、前記第一の態様の遷移金属錯体の構造を有する光増感色素を酸化物半導体上に吸着させたことを特徴とする酸化物半導体電極を提供する。
【0115】
該遷移金属錯体を酸化物半導体薄膜上に吸着させる方法としては任意の公知の方法を用いることができるが、たとえば、二酸化チタン等の酸化物半導体薄膜を遷移金属錯体色素溶液に所定の温度で浸漬する方法(ディップ法、ローラ法、エヤーナイフ法など)や、ルテニウム色素溶液を酸化物半導体層表面に塗布する方法(ワイヤーバー法、アプリケーション法、スピン法、スプレー法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法など)を挙げることができる。
【0116】
(三)本発明の第三の態様について
本態様においては、前記第二の態様の酸化物半導体電極からなるアノード、電荷移動物質または有機ホール移動物質、及びカソードから構成されることを特徴とする色素増感太陽電池を提供する。
【0117】
電荷移動物質または有機ホール移動物質としては、たとえば、酸化還元性電解質を含む液体電解質を挙げることができ、酸化還元性電解質としては、I-/I3-系、Br-/Br3-系、キノン/ハイドロキノン系等を挙げることができる。
【0118】
以下に本発明の具体的な実施例を挙げて、さらに詳細に説明する。
【0119】
[合成例]
A.色素A(比較例)の合成
色素A(比較例)
【0120】
【化17】
【0121】
特許文献8の合成例1及び合成例2に基づき調製した。
【0122】
B.色素C(実施例2)の合成
色素C(実施例2)
【0123】
【化18】
【0124】
(1)2−ピバロイルチオフェンの合成
【0125】
【化19】
【0126】
チオフェン(72g)、ピバロイルクロリド[(CH33COCl、101g]の入った塩化メチレン溶液に、0℃、アルゴン気流下で塩化スズ(100mL)を滴下して加えた。この溶液を室温に昇温して1時間攪拌後、水300mLを滴下して加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を除去して生成物(2−ピバロイルチオフェン、138g)を得た。
【0127】
(2)2−ネオペンチルチオフェンの合成
【0128】
【化20】
【0129】
2−ピバロイルチオフェン(148g)、ヒドラジン1水和物(103g)の入ったエタノール(600mL)溶液を135時間加熱還流した。冷却後、溶媒を除去し、t−ブトキシカリウム(100g)、トルエン(750mL)を入れ、5時間加熱還流した。冷却後、水(3L)に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出した。有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を除去して生成物(2−ネオペンチルチオフェン、106g)を得た。
【0130】
(3)5−ネオペンチルチオフェン−2−カルバルデヒドの合成
【0131】
【化21】
【0132】
2−ネオペンチルチオフェン(50g)の入ったTHF溶液に0℃、アルゴン雰囲気下でn−ブチルリチウム(ヘキサン溶液、1.6M、215mL)を滴下して加えた。この溶液をさらに20分間攪拌し、DMF(30mL)を添加後、室温とした。これを飽和塩化アンモニウム水溶液に注ぎ込み、酢酸エチルで抽出した。有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。粗生成物は溶媒を除去して収集し、カラムクロマトグラフ(担体:二酸化ケイ素、溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=15/1)により精製して生成物(5−ネオペンチルチオフェン−2−カルバルデヒド、49g)を得た。
【0133】
(4)4,4‘−ビス[2−ヒドロキシ−2−(5−ネオペンチル−2−チエニル)エチル]−2,2’−ビピリジンの合成
【0134】
【化22】
【0135】
【化23】
【0136】
−70℃、アルゴン気流下でジイソプロピルアミン(13g)の乾燥THF(80mL)溶液にn−ブチルリチウム(ヘキサン溶液、85mL)を滴下して加えた。この溶液を0℃に昇温し、さらに30分間攪拌し、リチウムジイソプロピルアミドのヘキサン/THF溶液を調製した。
【0137】
次に4,4‘−ジメチルビピリジン(11g)の乾燥THF(300mL)溶液を−70℃に冷却し、先ほどのリチウムジイソプロピルアミドのヘキサン/THF溶液を滴下して加えた。−70℃で1時間攪拌した後、5−ネオペンチルチオフェン−2−カルバルデヒドを滴下して加えた。−70℃で1時間、さらに0℃で1時間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液を添加した。酢酸エチル/THF(体積比1:1)で抽出し、有機層を水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を除去して粗生成物(4,4‘−ビス[2−ヒドロキシ−2−(5−ネオペンチル−2−チエニル)エチル]−2,2’−ビピリジン、41g)を得た。
【0138】
(5)4,4‘−ビス[2−(5−ネオペンチル−2−チエニル)ビニル]−2,2’−ビピリジンの合成
【0139】
【化24】
【0140】
【化25】
【0141】
4,4‘−ビス[2−ヒドロキシ−2−(5−ネオペンチル−2−チエニル)エチル]−2,2’−ビピリジンの粗生成物(41g)とパラトルエンスルホン酸ピリジニウム塩(3g)をトルエン(700mL)に溶解させ、15時間還流した。冷却後、ジエチルアミン(5g)を加えて室温で攪拌し、溶媒を除去して粗生成物を得た。粗生成物をカラムクロマトグラフ[担体:アミノ基修飾二酸化ケイ素、溶出液:ヘキサン/クロロホルム=1/1(体積比)、スラリー洗浄(溶媒:2−プロパノール)で精製して生成物(4,4‘−ビス[2−(5−ネオペンチル−2−チエニル)ビニル]−2,2’−ビピリジン、17g)を得た。
【0142】
4,4‘−ビス[2−(5−ネオペンチル−2−チエニル)ビニル]−2,2’−ビピリジンのNMRデータ(ppm):
1H−NMR(δH/ppm,CDCl3,400MHz)0.99(s、18H),2.69(s,4H),6.69(d,2H),6.84(d,2H),7.01(d,2H),7.30(d,2H),7.52(d,2H),8.48(s,2H),8.63(d.2H)
【0143】
(6)色素Cの合成
得られた4,4‘−ビス[2−(5−ネオペンチル−2−チエニル)ビニル]−2,2’−ビピリジンを用い、特許文献8の合成例2に準じて合成した。
【0144】
得られた色素Cの1H−NMR及びMS・ESIのデータは以下の通りである。
1H−NMR(δH/ppm,DMSO,400MHz)9.50(d,1H),9.13(d,1H),9.00(s,1H),8.84(s,1H),8.81(s,1H),8.65(s,1H),8.24(d,1H),7.98(d,1H),7.96(d,1H),7.86(d,1H),7.71(d,1H),7.62(d,1H),7.34(d,1H),7.30(d,1H),7.24(d,1H),7.19(d,1H),7.08(d,1H),6.88(d,1H),6.82(d,1H),6.81(d,1H),2.77(s,2H),2.70(s,2H),1.01(s,9H),0.96(s,9H)
MS・ESI m/z:916.0(M−NCS)+
【0145】
C.色素B(実施例1)の合成
色素B(実施例1)
【0146】
【化26】
【0147】
上記色素Cの合成に準じて合成した。但し、ピバロイルクロリドの代わりにt−ブチルクロライドを、塩化スズの代わりに塩化アルミニウムを触媒として合成した2−t−ブチルチオフェンを使用した。
【0148】
4,4‘−ビス[2−(5−t−ブチル−2−チエニル)ビニル]−2,2’−ビピリジンのNMRデータ:
1H−NMR(δH/ppm,CDCl3,400MHz)1.41(s,18H),6.76(d,2H),6.83(d,2H),6.98(d,2H),7.31(d.2H),7.53(d,2H),8.47(s,2H),8.63(d.2H)
得られた色素Bの1H−NMR及びMS・ESIのデータは以下の通りである。
【0149】
1H−NMR(δH/ppm,DMSO,400MHz)9.49(d,1H),9.13(d,1H),9.00(s,1H),8.84(s,1H),8.80(s,1H),8.65(s,1H),8.23(d,1H),7.97(d,1H),7.96(d,1H),7.87(d,1H),7.72(d,1H),7.62(d,1H),7.33(d,1H),7.27(d,1H),7.24(d,1H),7.16(d,1H),7.08(d,1H),6.95(d,1H),6.88(d,1H),6.82(d,1H),1.42(s,9H),1.36(s,9H)
MS・ESI m/z:888.4(M−NCS)+
【0150】
D.色素Dの合成
色素D(実施例3)
【0151】
【化27】
【0152】
上記色素Cの合成に準じて合成した。但し、ピバロイルクロライドに代えて3,3-ジメチルブチリルクロライドを使用した。
4,4‘−ビス{2−[5−(3,3-ジメチルブチリル)−2−チエニル]ビニル}−2,2’−ビピリジンのNMRデータ:
1H−NMR(δH/ppm,CDCl3,400MHz)δ=0.97(s,18H),1.60−1.64(m,4H), 2.79(t,4H),6.72(d,2H),6.80(d,2H),6.98(d,2H),7.31(d,2H),7.52(d,2H),8.46(s,2H),8.63(d,2H)
得られた色素Dの1H−NMR及びMS・ESIのデータは以下の通りである。
【0153】
1H−NMR(δH/ppm,DMSO,400MHz)9.49(d,1H),9.12(d,1H),8.99(s,1H),8.84(s,1H),8.75(s,1H),8.68(s,1H),8.21(d,1H),7.94(d,1H),7.93(d,1H),7.86(d,1H),7.71(d,1H),7.61(d,1H),7.31(d,1H),7.27(d,1H),7.21(d,1H),7.16(d,1H),7.03(d,1H),6.92(d,1H),6.85(d,1H),6.77(d,1H),2.82(m,2H),1.61(m,4H),0.98(s,9H),0.94(s,9H)
MS・ESI m/z:944.1(M−NCS)+
【0154】
E.色素Eの合成
色素E(実施例4)
【0155】
【化28】
【0156】
上記色素Cの合成に準じて合成した。但し、ピバロイルクロライドに代えて、5,5-ジメチルヘキサノイルクロライドを使用した。
【0157】
4,4‘−ビス{2−[5−(5,5-ジメチルヘキシル)−2−チエニル]ビニル}−2,2’−ビピリジンのNMRデータ:
1H−NMR(δH/ppm,CDCl3,400MHz)0.88(s、18H),1.20−1.24(m,4H),1.36(quin, 4H), 1.67(quin,4H),2.82(t,4H),6.71(d,2H),6.81(d,2H),6.98(d,2H),7.31(d,2H),7.51(d,2H),8.46(s,2H),8.62(d,2H)
得られた色素Eの1H−NMR及びMS・ESIのデータは以下の通りである。
【0158】
1H−NMR(δH/ppm,DMSO,400MHz)9.50(d,1H),9.12(d,1H),9.00(s,1H),8.84(s,1H),8.78(s,1H),8.63(s,1H),8.23(d,1H),7.96(d,1H),7.95(d,1H),7.86(d,1H),7.71(d,1H),7.62(d,1H),7.32(d,1H),7.27(d,1H),7.22(d.1H),7.16(d,1H),7.04(d,1H),6.90(d,1H),6.83(d,1H),6.79(d,1H),2.85(m,4H),1.66(m.4H),1.36(m,4H),1.23(m,4H),0.89(s,9H),0.85(s,9H)
MS・ESI m/z:1000.1(M−NCS)+
【0159】
F.色素Fの合成
色素F(実施例5)
【0160】
【化29】
【0161】
上記色素Cの合成に準じて合成した。但し、チオフェンに代えて、3,4−エチレンジオキシチオフェンを使用した。
【0162】
4,4‘−ビス[2−(3,4−エチレンジオキシ−5−ネオペンチル−2−チエニル)ビニル]−2,2’−ビピリジンのNMRデータ:
1H−NMR(δH/ppm,CDCl3、400MHz)δ=0.98(s,18H),2.54(s,4H),4.29(d,8H),6.80(d,2H),7.29(d,2H),7.46(d,2H),8.42(s,2H),8.59(d,2H)
得られた色素Eの1H−NMR及びMS・ESIのデータは以下の通りである。
1H−NMR(δH/ppm,DMSO,400MHz)9.50(d,1H),9.09(d,1H),9.00(s,1H),8.84(s,1H),8.83(s,1H),8.67(s,1H),8.25(d,1H),7.96(d,1H),7.86(d,1H),7.78(d,1H),7.63(d,1H),7.52(d,1H),7.28(d,1H),7.21(d,1H),7.02(d,1H),6.75(d,1H),4.28(t,8H),2.58(s,2H),2.52(s,2H),1.00(s,9H),0.95(s,9H)
MS・ESI m/z:1032.1(M−NCS)+
【0163】
G.色素Gの合成
(1)5−ネオペンチルチオフェン−2−ボロン酸の合成
【0164】
【化30】
【0165】
2−ネオペンチルチオフェンを入れたTHF溶液に、0℃でn−ブチルリチウムを滴下する。0℃で1時間攪拌の後、トリメチルホウ酸を滴下する。15分間攪拌後、塩酸水溶液を加え、酢酸エチルで抽出する。有機層を水洗、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮して粗生成物を得る。
【0166】
(2)4,4‘−ビス(5−ネオペンチル−2−チエニル)−2,2’−ビピリジンの合成
【0167】
【化31】
【0168】
4,4‘−ジブロモ−2,2’−ビピリジン、5−ネオペンチルチオフェン−2−ボロン酸、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム、トリフェニルホスフィン、炭酸ナトリウムを入れたジメトキシエタン(DME)/水の懸濁液を24時間加熱攪拌する。冷却後、反応溶液を水洗、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮して粗生成物を得る。カラムクロマトグラフ(担体:二酸化ケイ素、溶出液:クロロホルム/メタノール)により精製して生成物を得る。
【0169】
(3)色素Gの合成
【0170】
【化32】
【0171】
得られた4,4‘−ビス(5−ネオペンチル−2−チエニル)−2,2’−ビピリジンを用い、特許文献8の合成例2に準じて合成できる。
【実施例】
【0172】
(1)以下の手順により、上記合成例により調製した各種色素A〜Fを用いた色素増感太陽電池を作製した。
【0173】
i. 基板(フッ素ドープ酸化スズ膜付ガラス板、35mm×33mm)上の1辺1cmの正方形面積部分にスクリーン印刷により酸化チタンペースト[触媒化成製PST−18NR]を膜厚8μmにスクリーン印刷し、乾燥後、その上にさらに酸化チタンペースト[触媒化成製PST−400C]を膜厚4μmにスクリーン印刷した。これを500℃で焼成することで、発電層を形成した。
【0174】
ii. 前記発電層を形成した電極を色素溶液[濃度:0.3M、溶媒:アセトニトリル/t−ブタノール1/1(v/v)の混合溶媒]に40℃で2時間、浸漬することで、色素を前記発電層の酸化チタン上に担持させアノード電極を得た。
【0175】
iii. 上記アノード電極の発電層の周囲に接着剤を施し、このアノード電極と、別途用意した電解液注入孔を有する白金被覆チタン板(カソード電極)とを、該接着剤により接着し、両電極が50μm程度の一定間隔を置いて平行に配置されるようにした。
【0176】
iv. 次いで、電解液注入口より電解液を注入した。ここで、用いた電解液は、ヨウ素0.1M、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムヨウ化物0.8M、4−tert−ブチルピリジン0.3M、3−メトキシプロピオニトリルを溶媒とする溶液を用いた。
【0177】
v. 接着剤を用いて電解液注入孔を封止し、アノード電極上に端子取り出しのためのハンダを塗布して実験用セルを完成させた。
(2)上記のようにして得られた色素増感太陽電池につきその性能を評価し、下記の表のような結果を得た。
【0178】
【表1】
【0179】
なお光電変換効率は下記式により計算した。
光電変換効率(%)=
100×[(短絡電流密度×開放電圧×曲線因子)/(照射太陽光エネルギー)]
上記の表に示された結果からも明らかなとおり、第四級炭素原子を有する分岐アルキル基をチエニル基上に有する色素B〜Fは、直鎖アルキル基をチエニル基上に有する色素Aと比べ、いずれも光電変換効率が向上した。特に該アルキル基の2位の炭素原子が第四級炭素原子である色素Cがもっともよい光電変換効率を示した。