特許第5776101号(P5776101)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5776101ヒト神経前駆細胞のドーパミン性ニューロンへの分化方法及び分化用培地
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776101
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】ヒト神経前駆細胞のドーパミン性ニューロンへの分化方法及び分化用培地
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0797 20100101AFI20150820BHJP
【FI】
   C12N5/00 202T
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-515258(P2013-515258)
(86)(22)【出願日】2011年6月7日
(65)【公表番号】特表2013-528396(P2013-528396A)
(43)【公表日】2013年7月11日
(86)【国際出願番号】KR2011004118
(87)【国際公開番号】WO2011159050
(87)【国際公開日】20111222
【審査請求日】2014年3月17日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0055832
(32)【優先日】2010年6月14日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】507298256
【氏名又は名称】カレッジ オブ メディスン ポーチョン シーエイチエー ユニバーシティ インダストリー−アカデミック コーポレーション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ムーン,ジスク
【審査官】 上條 肇
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0070303(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0076019(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0255589(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/079 − 5/0797
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/
EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フザリン酸を含む培地中でヒト神経前駆細胞を培養することを含むヒト神経前駆細胞のドーパミン性ニューロンへの分化方法。
【請求項2】
前記培地が、ジブチリル環状アデノシンモノホスフェート(db−cAMP)、フォルスコリン、B27、ソニックヘッジホッグ(SHH)及び線維芽細胞増殖因子−8(FGF8)を含むドーパミン性ニューロン分化用培地に、フザリン酸を加えて調製されることを特徴とする請求項1に記載の分化方法。
【請求項3】
前記培地が、フザリン酸、db−cAMP、フォルスコリン及びB27を含むNB培地であることを特徴とする請求項1に記載の分化方法。
【請求項4】
前記培地が、50μMないし4mMのフザリン酸、50μMないし4mMのdb−cAMP、5ないし20μMのフォルスコリン及び0.5ないし5重量%のB27を含むNB培地であることを特徴とする請求項3に記載の分化方法。
【請求項5】
前記培地が、100μMのフザリン酸、100μMのdb−cAMP、10μMのフォルスコリン及び2重量%のB27を含むNB培地であることを特徴とする請求項3に記載の分化方法。
【請求項6】
前記培養が2ないし10%の酸素分圧を有する低酸素条件で行われることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の分化方法。
【請求項7】
フザリン酸、db−cAMP、フォルスコリン及びB27を含むNB培地である、ヒト神経前駆細胞のドーパミン性ニューロンへの分化用培地。
【請求項8】
50μMないし4mMのフザリン酸、50μMないし4mMのdb−cAMP、5ないし20μMのフォルスコリン及び0.5ないし5重量%のB27を含むNB培地であることを特徴とする請求項7に記載の分化用培地。
【請求項9】
100μMのフザリン酸、100μMのdb−cAMP、10μMのフォルスコリン及び2重量%のB27を含むNB培地であることを特徴とする請求項8に記載の分化用培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト神経前駆細胞のドーパミン性ニューロンへの分化方法に係り、さらに詳細には、フザリン酸を含む培地中でヒト神経前駆細胞を培養することを含むヒト神経前駆細胞のドーパミン性ニューロンへの分化方法に関し、また、ヒト神経前駆細胞のドーパミン性ニューロンへの分化用培地に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病は、中脳黒質(substantia nigra)におけるドーパミン性ニューロンの選択的な退化を特徴とする。胎児中脳組織(fetal midbrain tissue)の移植によってパーキンソン病患者のドーパミン性ニューロンを置き換える治療法が様々な形で研究されている(非特許文献1参照)。移植された胎児中脳組織は、ヒトの脳で長期間生存しつつ、患者の線条体(striatum)へのドーパミン神経支配を回復させ、パーキンソン病による運動症状(motor symptoms)を軽減する(非特許文献2参照)。
【0003】
移植はパーキンソン病の治療に効果的ではあるが、大量にヒトの堕胎胎児組織(abortion fetal tissues)を得ることは困難であることから、その臨床的な適用は、数例に限られている。このような問題点を克服するために、パーキンソン病の移植治療のための供与細胞として多様な候補細胞が研究されてきた(非特許文献3)。
【0004】
一方、胎児中脳組織由来のヒト神経前駆細胞(hNPCs)は、長期にわたって増殖活性を有することから自己再生能にすぐれ、かつドーパミン性ニューロンに分化可能であるため、移植用の卓越した候補細胞源(cell source)である(非特許文献4及び5参照)。従って、ドーパミン性ニューロン置換(すなわち、移植)によるパーキンソン病の治療には、hNPCsを効率的に増殖(proliferation)または拡大(expansion)させる方法、及びhNPCsをドーパミン性ニューロンに効果的に分化させる方法を確立することが非常に重要である。
【0005】
先行文献で公知のhNPCsのドーパミン性ニューロンへの分化方法は、アスコルビン酸とジブチリル環状アデノシンモノホスフェート(db−cAMP)とを含む培地中で3日間培養して分化させる方法(非特許文献6参照);脳由来神経栄養因子(BDNF)、ドーパミン及びフォルスコリンを含む培地中で3週間培養して分化させる方法(非特許文献7参照);及びソニックヘッジホッグ(SHH)、線維芽細胞増殖因子−8(FGF−8)、脳由来神経栄養因子(BDNF)及びアスコルビン酸を含む培地中で3週間培養して分化させる方法(非特許文献8参照)などを含む。
【0006】
しかし、先行文献による分化方法は、満足できる分化効率を示すことができず、しかも分化には長期間を要する。また、SHH、FGF−8などの高価な添加剤を含む培地の使用により、経済的な困難も生じる。パーキンソン病を患う患者を治療するために必要な細胞を大量に増殖させるための技術は依然として不十分である。従って、これらを臨床的に適用するには多くの限界がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Bjorklund, A. et al. Reconstruction of the nigro-striatal dopamine pathway by intra-cerebral nigral transplants. Brain Res. 1979; 177: 555-560
【非特許文献2】Perlow, M. et al. Brain grafts reduce motor abnormalities produced by destruction of nigrostriatal dopamine system. Science 1979; 204: 643-647
【非特許文献3】Brain J. Snyder et al. Stem cell treatment for parkinson's disease: an update for 2005. Current Opinion in Neurology 2005; 18: 376-385
【非特許文献4】Storch A. et al. Midbrain-derives neural stem cells: from basic science to therapeutic approaches. Cell tissue Res. 2004; 318: 15-22
【非特許文献5】Yang M. et al. Neural stem cells spontaneously express dopaminergic traits after transplantation into the intact or 6-hydrodopamine lesioned rat. Exp Neurol. 2002; 177: 50-60
【非特許文献6】Sanchez-Pernaute, R. et al. In vitro generation and transplantation of precursor-derived human dopamine neurons. J. Neurosic. Res. 2001; 65(4). 284-288
【非特許文献7】Riaz, S.S. et al. The differentiation potential of human foetal neuronal progenitor cells in vitro. Brain Res. Dev. Brain Res. 2004; 153(1), 39-51
【非特許文献8】Jaroslaw Maciaczyk et al. Combined use of BDNF, ascorbic acid, low oxygen, and prolonged differentiation time generates tyrosine hydroxylase-expressing neurons after long-term in vitro expansion of human fetal midbrain precursor cells. Experimental Neurology 2008; 213: 354-362
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ヒト神経前駆細胞(hNPCs)を高い分化効率でドーパミン性ニューロンに分化させる方法、及び前記分化に有用な培地を提供する。特に、本発明は、分化誘導剤としてフザリン酸を使用してhNPCsをドーパミン性ニューロンに分化させる方法、及び前記分化に有用な培地を提供する。
【0009】
従って、新規の分化誘導剤を含む培地中で、ヒト神経前駆細胞をドーパミン性ニューロンに分化させる方法を提供することが本発明の目的である。
【0010】
また、ヒト神経前駆細胞をドーパミン性ニューロンに分化させるのに有用な分化用培地を提供することが本発明の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によって、フザリン酸を含む培地中でヒト神経前駆細胞を培養することを含む、ヒト神経前駆細胞のドーパミン性ニューロンへの分化方法が提供される。
【0012】
本発明の分化方法において、前記培地は、ジブチリル環状アデノシンモノホスフェート(db−cAMP:dibutyryl cyclic adenosine monophosphate)、フォルスコリン、B27、ソニックヘッジホッグ(SHH)及び線維芽細胞増殖因子−8(FGF8)を含むドーパミン性ニューロン分化用培地に、フザリン酸を加えて調製してもよい。
【0013】
あるいは、本発明の分化方法において、前記培地は、フザリン酸、db−cAMP、フォルスコリン及びB27を含むNB培地であってよく、望ましくは、50μMないし4mMのフザリン酸、50μMないし4mMのdb−cAMP、5ないし20μMのフォルスコリン及び0.5ないし5重量%のB27を含むNB培地であってもよい。さらに望ましくは、前記培地は、100μMのフザリン酸、100μMのdb−cAMP、10μMのフォルスコリン及び2重量%のB27を含むNB培地であってもよい。
【0014】
本発明の分化方法において、前記培養は、2ないし10%の酸素分圧を有する低酸素条件で行ってもよい。
【0015】
本発明の他の態様によって、ヒト神経前駆細胞のドーパミン性ニューロンへの分化用培地として、フザリン酸、db−cAMP、フォルスコリン及びB27を含むNB培地である分化用培地が提供される。
【0016】
前記分化用培地は、50μMないし4mMのフザリン酸、50μMないし4mMのdb−cAMP、5ないし20μMのフォルスコリン及び0.5ないし5重量%のB27を含むNB培地であってよく、望ましくは、100μMのフザリン酸、100μMのdb−cAMP、10μMのフォルスコリン及び2重量%のB27を含むNB培地であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
フザリン酸存在下でヒト神経前駆細胞を培養することによって、ドーパミン性ニューロンへの分化が著しく増加することが本発明によって発見された。特に、本発明の分化方法は、高価な分化誘導剤として使用が制限されるSHH及びFGF8の代わりに、低廉なフザリン酸を使用して、ヒト神経前駆細胞をドーパミン性ニューロンに分化させることができるので、経済的である。また、本発明の分化方法は、従来の分化方法では不十分であった分化効率を著しく改善させることができる。従って、本発明の分化方法は、パーキンソン病を含む神経損傷治療のためのドーパミン性ニューロンの製造に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】多様な培地を使用してドーパミン性ニューロンへの分化を誘導した後、TH及びTuj1をDAPI染色を介して測定して得られた結果を示すグラフ及び写真である。
図2】hNPCsを増殖させ、フザリン酸100μMを含むまたは含まない培地中でニューロンへの分化を誘導した後、TH及びTuj1の発現レベルを測定して得られた結果を示す写真である。
図3】hNPCsを増殖させ、フザリン酸100μMを含むまたは含まない培地中でニューロンへの分化を誘導した後、免疫細胞化学分析及びRT−PCR分析を行って得られた結果を示すグラフである。
図4】異なる分化誘導剤を含む培地を使用してドーパミン性ニューロンへの分化を誘導した後、細胞でのTH発現レベルを測定して得られた結果を示す写真及びグラフである。
図5】低酸素条件(hypoxia)及び正常酸素条件(normoxia)における分化効率を測定して得られた結果を示す写真及びグラフである。
図6】MPP存在下で分化を誘導した際のフザリン酸の影響を測定して得られた結果を示す写真である。
図7】hNPCsを増殖させて継代培養し、初期継代(第7継代)、中間継代(第11継代)、後期継代(第17継代)それぞれのhNPCsの分化を誘導した後、TH及びTuj1の発現レベルを測定して得られた結果を示すグラフである。
図8】hNPCsを増殖させて継代培養し、初期継代(第7継代)、中間継代(第11継代)、後期継代(第17継代)それぞれのhNPCsの分化を誘導した後、それぞれの細胞でのTHの発現レベルを免疫細胞化学法で測定して得られた結果を示す写真である。
図9】hNPCsを増殖させて継代培養し、初期継代(第7継代)、中間継代(第11継代)、後期継代(第17継代)それぞれのhNPCsの分化を誘導した後、それぞれの細胞でのネスチン(神経幹細胞マーカー)、Ki67(増殖性細胞マーカー)及びTuj1(神経マーカー)の発現レベルを免疫細胞化学法で測定して得られた結果を示す写真である。
図10】初期継代(第7継代)のhNPCsに対して、分化誘導前及び1週間の分化誘導後に蛍光活性化細胞選別分析(FACS analysis)を行って得られた結果を示すグラフである。
図11】hNPCsを増殖させて継代培養し、初期継代(第7継代)、中間継代(第11継代)、後期継代(第17継代)それぞれのhNPCsの分化を誘導した後、得られた細胞に対してRT−PCR分析及びウェスタンブロット分析を行って得られた結果を示す図面である。
図12】本発明の分化方法によって分化した細胞の特性を、免疫細胞化学法により分析して得られた結果を示す写真及びグラフである。
図13】本発明の分化方法によって分化した細胞の特性を、RT−PCR、ウェスタンブロット分析及び免疫細胞化学法により分析して得られた結果を示す図面である。
図14】本発明の分化方法によって分化誘導した際の他のサブタイプ(subtype)のニューロン、すなわち、グルタミン酸、GABA、ChAT及びセロトニンの発現を免疫細胞化学法で測定して得られた結果を示す写真及びグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、フザリン酸を含む培地中でヒト神経前駆細胞を培養することを含む、ヒト神経前駆細胞のドーパミン性ニューロンへの分化方法を提供する。
【0020】
前記ヒト神経前駆細胞は、以前に報告された方法、例えば、Storch et al.2001;及びMilosevic et al.2006,2007に記述された方法によって得ることができる。本明細書で、「ヒト神経前駆細胞」というのは、ヒトの体内から分離された生体外(ex vivo)細胞、すなわち、ヒトの体内から分離された後、通常の細胞培養によって増殖するヒト神経前駆細胞を意味する。前記ヒト神経前駆細胞は、幹細胞特性を有し、ニューロン、アストロサイト(astrocyte)、希突起神経膠細胞(oligodendrocyte)などに分化する。
【0021】
本発明による分化方法は、フザリン酸を分化誘導剤として含む培地を使用して遂行される。
【0022】
前記フザリン酸は、化学名が5−ブチルピコリン酸(5−butylpicolinic acid)であって、下記化学式1の化学構造を有する。フザリン酸は、公知の物質であり、公知の方法によって製造することも商業的に購入することもできる(例えば、Sigma-Aldrichなど)。
【化1】
【0023】
本発明の分化方法において、前記培地は、従来のドーパミン性ニューロン分化用培地にフザリン酸を加えて調製してもよい。例えば、前記培地は、ジブチリル環状アデノシンモノホスフェート(db−cAMP:dibutyryl cyclic adenosine monophosphate)、フォルスコリン、B27、SHH(ソニックヘッジホッグ)及びFGF8(線維芽細胞増殖因子−8)を含む従来のドーパミン性ニューロン分化用培地に、フザリン酸を加えて調製してもよい。このとき、フザリン酸は、50μMないし4mMの濃度で加えられてもよい。前記db−cAMP、フォルスコリン、B27、SHH、FGF8は、いずれも一般的に使用される物質であり、商業的に購入することができる。例えば、db−cAMP及びフォルスコリンは、Sigma社から購入することができ、B27は、GIBCO社から購入することができ(商品名:B−27 minus−AO supplement)、SHH及びFGF8は、それぞれR&D system社及びPeproTech社から購入することができる。一実施形態において、従来のドーパミン性ニューロン分化用培地にフザリン酸を加えて調製した培地は、50μMないし4mMのdb−cAMP、5μMないし20μMのフォルスコリン、0.5%ないし5%のB27、25ng/mlないし500ng/mlのSHH、10ng/mlないし200ng/mlのFGF8及び50μMないし4mMのフザリン酸を含むNB培地(Neurobasal media)であってもよい。この基本培地、すなわち、NB培地は、Invitrogen社などから購入することができる。
【0024】
望ましくは、本発明の分化方法に使用される培地は、使用が制限される高価なSHH及びFGF8を除いた培地である。驚くべきことに、SHH及びFGF8を含まずフザリン酸のみを含む培地によるドーパミン性ニューロンへの分化効率は、SHH、FGF8及びフザリン酸をすべて含む培地より高いことが本発明によって発見された。
【0025】
従って、本発明の分化方法において、前記培地は、フザリン酸、db−cAMP、フォルスコリン及びB27を含むNB培地であってよく、望ましくは、50μMないし4mMのフザリン酸、50μMないし4mMのdb−cAMP、5ないし20μMのフォルスコリン及び0.5ないし5重量%のB27を含むNB培地であってもよい。さらに望ましくは、前記培地は、50μMないし1mMのフザリン酸、50μMないし1mMのdb−cAMP、5ないし15μMのフォルスコリン及び0.5ないし3重量%のB27を含むNB培地であってもよい。一実施形態において、前記培地は、およそ100μMのフザリン酸、およそ100μMのdb−cAMP、およそ10μMのフォルスコリン及びおよそ2重量%のB27を含むNB培地であってもよい。また、前記培地は、必要によって、ゲンタマイシンなどの抗生物質、またはL−グルタミンなどのアミノ酸を追加で含んでもよい。もちろん、前記抗生物質及びアミノ酸は、他の適切な物質で代替してもよい。
【0026】
本発明の分化方法において、前記培養は、従来の方法で使用される培養条件下で行うことができる。例えば、前記培養は、37℃で7ないし14日、望ましくは、およそ7日間行われてもよい。低酸素分圧条件(すなわち、低酸素条件)下で培養することによって有意に高い分化効率を達成できることが本発明によって明らかになった。従って、本発明の分化方法において、前記培養は、2ないし10%の酸素分圧を有する低酸素条件で行うことが望ましい。
【0027】
本発明の分化方法によって得られたドーパミン性ニューロンは、通常の方法で回収することができる。例えば、Accutase(PAA社)などの酵素を使用して細胞を分離した後、得られた細胞を1,000rpmで、およそ5分間遠心分離して上澄み液を取り除くことにより、分化した細胞を回収することができる。
【0028】
本発明はまた、ヒト神経前駆細胞のドーパミン性ニューロンへの分化用培地として、フザリン酸、db−cAMP、フォルスコリン及びB27を含むNB培地である分化用培地を提供する。
【0029】
前記分化用培地は、上述した通り、従来のドーパミン性ニューロン分化用培地にフザリン酸を加えて調製してもよい。
【0030】
上述した通り、前記分化用培地は、望ましくは、50μMないし4mMのフザリン酸、50μMないし4mMのdb−cAMP、5ないし20μMのフォルスコリン及び0.5ないし5重量%のB27を含むNB培地であってよく、さらに望ましくは、50μMないし1mMのフザリン酸、50μMないし1mMのdb−cAMP、5ないし15μMのフォルスコリン及び0.5ないし3重量%のB27を含むNB培地であってもよい。最も望ましくは、前記培地は、およそ100μMのフザリン酸、およそ100μMのdb−cAMP、およそ10μMのフォルスコリン及びおよそ2重量%のB27を含むNB培地であってもよい。また、前記培地は、必要によって、ゲンタマイシンなどの抗生物質、またはL−グルタミンなどのアミノ酸を追加で含んでもよい。もちろん、前記抗生物質及びアミノ酸は、他の適切な物質で代替してもよい。
【実施例】
【0031】
以下、本発明について実施例によりさらに詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、説明のためだけに提供されるものであり、よって本発明はそれらによって限定されるものではない。
【0032】
1.材料及び試験方法
(1)ヒト神経前駆細胞(hNPCs)の分離
母体の子宮筋無力症(uterine atonies)によって流産したおよそ14週齢の胎児から、ヒト神経前駆細胞を分離した。前記胎児サンプルは、事前に胎児の親からインフォームド・コンセント(informed consent)を得た上で取得した。サンプルの収集及び研究目的のためのその使用は、チャ(CHA)病院の倫理委員会から承認を受けた。
【0033】
Storch et al.2001及びMilosevic et al.2006,2007などに開示された方法によって、ヒト神経前駆細胞を分離した。14週齢の胎児の脳組織から中脳腹側部の組織(ventral midbrain tissue)を分離した後、0.1mg/mlのパパイン及び100μg/mlのDNaseを含む溶液中で、37℃でおよそ30分間処理して、単一細胞に分散した懸濁液を得た。前記懸濁液を、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、50μg/mlのアンチパイン中で、37℃で30分間インキュベーションした。15μg/mlのポリ−L−オルニチン及び4μg/mlのフィブロネクチンでコーティングした培養皿に、得られたヒト神経前駆細胞(hNPCs)を30,000cells/cmの密度で単層になるよう播種して培養した。
【0034】
(2)分化及び分離
ドーパミン性ニューロンへの分化は別段の記載がない限り、以下の方法で行った。hNPCsを、15μg/mlのポリ−L−オルニチン及び4μg/mlのフィブロネクチンでコーティングした培養皿に、30,000cells/cmの密度で播種し、2日または3日経過したところで、細胞を2%のB−27 minus−AO supplement(GIBCO社)、10μMのフォルスコリン、1mMのdb−cAMP及び1mMのフザリン酸などの分化誘導剤を含むNB培地中で、37℃で7日間培養した。
【0035】
分化した細胞、すなわち、ドーパミン性ニューロンは、次のようにして回収した:培養皿から培地を取り除き、細胞を緩衝液で洗浄した後、Accutase(PAA社)で30分間処理して、細胞を分離した。細胞を再び緩衝液で洗浄した後、1,000rpmでおよそ5分間遠心分離した。上澄み液を取り除いて、分化したドーパミン性ニューロンを回収した。
【0036】
(3)RNA抽出、逆転写及び定量的リアルタイムPCR
全細胞RNAは、トリゾール及びクロロホルムを使用してhNPCsから抽出した。500ngの全RNAから、RNA Superscript II RTase、Oligo−d(T)プライマー、DTT及びdNTPsを使用し、製造元のプロトコールに従ってcDNAを合成した。PCRは、1μlのcDNA及び1μlの10pMプライマーを含む最終容積20μl中、SYBR−Green mixtureを使用して遂行した。内部コントロールとしてRPL22を使用して、TH、DAT、GFAP、Nurr1、Tuj1及びLmx1aの発現を分析した。定量的リアルタイムPCRは、LightCycler Systemを使用して遂行した。蛍光染色剤であるSYBR Greenの二本鎖DNAとの結合量を測定することによって、増幅をモニタリングして分析した。標的DNAは、95℃で10秒、60℃で10秒、72℃で20秒の条件で、全40サイクルを遂行して増幅した。最終伸長(extension)は、72℃で10分間行った。結果は、比較Ct法により、遺伝子RPL22に対して相対的に示した。前記PCRに使用したプライマーは、次の表1の通りである。
【0037】
【表1】
【0038】
(4)免疫細胞化学(immunocytochemistry)
hNPCsをPBSで3回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドを含むPBSで10分間処理して固定した。細胞をPBSで3回洗浄した後、3%正常ヤギ血清、0.2%トリトンX−100及び1%BSAを含むPBSと室温で1時間反応させてブロッキングした。細胞を一次抗体、すなわち、抗TH(rabbit anti−TH、Pelfreez)、抗Tuj1(mouse anti−Tuj1 Millipore、CA、USA)、抗ネスチン(rabbit anti−nestin、COVANCE、CA、USA)、抗GFAP (mouse anti-GFAP Millipore, CA, USA)、抗Ki67 (mouse anti-Ki67, Leica)、抗O4 (mouse anti-O4, Millipore)、抗Sox2 (rabbit anti-Sox2, Abcam)、抗VMAT2 (rabbit anti-VMAT2, Abcam)、抗Pitx3 (rabbit anti-Pitx3, Millipore)、抗DAT (rabbit anti-DAT, Santa Cruz)、抗Nurr1 (rabbit anti-Nurr1, Santa Cruz)、抗NeuN (mouse anti-NeuN, Millipore)、抗GIRK2 (rabbit anti-GIRK2, Alomone lab)、抗Cal28K (mouse anti-Cal28K, Sigma)、抗グルタミン酸 (rabbit anti-Glutamate, Sigma)、抗GABA (rabbit anti-GABA, Sigma)、抗ChAT (mouse anti-ChAT, Millipore)、及び抗5−HT(rabbit anti−5−HT、ImmunoStar)と共に、4℃で一晩中インキュベーションした後、PBSで3回洗浄した。次いで、細胞を二次抗体、すなわち、抗マウス(Alexa FluorTM 488)、抗マウス(Alexa FluorTM 594)、抗ウサギ(Alexa FluorTM 488)及び抗ウサギ(Alexa FluorTM 594)と共に、室温で60分間インキュベーションした後、DAPI(4’,6−diamidino−2−phenylindole)で染色(counterstaining)した。
【0039】
(5)免疫ブロッティング(immunoblotting)
タンパク質は、プロテアーゼインヒビター(PI)(Roche Molecular Biochemicals)を含むRIPA緩衝液[10mM HEPES−KOH(pH7.9)、10mM KCl、1.5mM MgCl、0.1%NP−40]で抽出した。BCA法(Pierce)により、タンパク質濃度を測定した。タンパク質を、SDS−10%ポリアクリルアミドゲル上で分離した後、PVDF膜に転写した。前記膜を、5%スキムミルク(skim milk)を含むTBS−T緩衝液を用いて室温で2時間ブロッキングした後、一次抗体、すなわち、抗TH(rabbit anti−TH、Pelfreez、1:1000)、抗Tuj1(rabbit anti−Tuj1 COVANCE、1:5000)、抗ネスチン(rabbit anti−Nestin、Abcam、1:1000)、抗Sox2 (rabbit anti-Sox2, Abcam, 1:1000)、抗Bcl2 (mouse anti-Bcl2, Santa Cruz, 1:200)、抗PCNA (mouse anti-PCNA, Santa Cruz, 1:1000)、抗VMAT2 (rabbit anti-VMAT2, Abcam, 1:1000)、抗Pitx3 (rabbit anti-Pitx3, Millipore, 1:2000)、抗DAT (rabbit anti-DAT, Santa Cruz, 1:200)、抗Nurr1 (rabbit anti-Nurr1, Santa Cruz, 1:250)、及び抗アクチン(rabbit anti−Actin、Santa Cruz、1:5000)と共に、4℃で一晩中インキュベーションした。前記膜は、HRP(horse radish peroxidase)が結合(conjugation)した抗マウス及び抗ウサギの二次抗体と共に、1時間室温でインキュベーションした後、化学発光ウェスタンブロット検出試薬(chemiluminescence western blot detection reagents)と反応させた。
【0040】
2.結果及び考察
(1)分化条件(培地条件)の評価
Neurobasal培地[differentiation medium(DM) control]にインターロイキン1β、db−cAMP及びフザリン酸(Fus)を多様な濃度及び組み合わせで加えて得られた培地中で、hNPCsをドーパミン性ニューロンに分化させた。ドーパミン性ニューロンのマーカーであるTH、及び神経マーカーであるTuj1を、DAPI染色を介して測定した(図1)。図1の結果から、db−cAMP及びフザリン酸を含む培地を使用した場合、TH及びTuj1の発現レベルが最も高い、すなわち、分化効率が最も高いことが分かる。また、db−cAMP及びフザリン酸をそれぞれ100μMの濃度で使用した場合、最も高い分化効率が得られることが分かる。
【0041】
DMEM/F12(1:1) Glutamax培地中でhNPCsを増殖させた後、2%のB−27 minus−AO supplement(GIBCO社)、10μMのフォルスコリン及び1mMのdb−cAMPを含み、かつフザリン酸100μMを含むまたは含まないNeurobasal(NB)培地中でニューロンに分化させた。分化誘導後、TH及びTuj1の発現レベルを測定した(図2)。免疫細胞化学分析及びRT−PCR分析の結果を図3に示す。図2及び図3の結果から、フザリン酸を添加した場合、ドーパミン性ニューロンのマーカーであるTHが、著しく高く発現していることが分かる。また、フザリン酸を添加すると、神経マーカーであるTuj1の発現もまた増加した。
【0042】
使用が制限される高価な分化誘導剤SHH及びFGF8に対する代替可能性を評価するために、DMEM/F12(1:1)Glutamax培地中でhNPCsを増殖させた。2%のB27、200ng/mlのSHH、25ng/mlのFGF8、10μMのフォルスコリン、100μMのフザリン酸及び100μMのdb−cAMPを使用して、Neurobasal(NB)培地(Invitrogen社)中で分化を誘導した後、THの発現レベルを測定した(図4)。図4の結果から、SHH及びFGF8の代わりにフザリン酸で処理した場合に、細胞は最も効果的にドーパミン性ニューロンに分化することが分かる。また、SHH及びFGF8に追加でフザリン酸を加えた場合にも、ドーパミン性ニューロンへの分化が増加した。
【0043】
従って、前記図1ないし図4の結果から、フザリン酸を含む培地中でhNPCsの分化を誘導することにより、ドーパミン性ニューロンへの有意に高い分化効率を達成することが可能であることが分かる。
【0044】
(2)分化条件(培養条件)の評価
DMEM/F12(1:1)Glutamax培地中でhNPCsを増殖させた後、2%のB27、10μMのフォルスコリン、100μMのフザリン酸及び100μMのdb−cAMPを含むNeurobasal(NB)培地(Invitrogen社)中、低酸素条件(3%の酸素分圧)下または正常酸素条件(21%の酸素分圧)下で分化させた。分化誘導後、THの発現レベルを測定した(図5)。図5の結果から、細胞は、低酸素条件において、正常酸素条件より効率的にドーパミン性ニューロンに分化することが分かる。
【0045】
(3)フザリン酸の神経保護効果の分析
1−メチル−4−フェニルピリジウム(MPP:1−methyl−4−phenylpyridium)は、ドーパミン性ニューロンに対して細胞毒性を示すことが知られている。従って、MPP存在下における分化誘導により、分化過程でのフザリン酸の機能を評価した(図6)。
【0046】
図6の結果から、フザリン酸を含む培地で分化を誘導した方が、MPP処理下でも、THを発現する細胞が多く生存していることが分かる。また、神経マーカーであるTuj1も相対的に多く発現していた。これらの結果から、フザリン酸は神経保護活性を有し、その結果、THを発現する細胞の生存に影響を及ぼし、相対的により多くのドーパミン性ニューロンを生存させるということが示唆される。
【0047】
(4)分化/増殖の評価
DMEM/F12(1:1)Glutamax培地中でhNPCsを増殖させた後、2日に1回培地を替えつつ、3%の酸素分圧の条件下で連続的に継代培養した。初期継代(第7継代)、中間継代(第11継代)、後期継代(第17継代)で得られたhNPCsを、2%のB27、10μMのフォルスコリン、100μMのフザリン酸及び100μMのdb−cAMPを含むNB培地(Invitrogen社)中、3%の酸素分圧の条件下で7日間培養して分化させた。
【0048】
初期継代(第7継代)、中間継代(第11継代)、後期継代(第17継代)で得られたそれぞれの細胞(増殖細胞及び分化細胞)におけるTH及びTuj1の発現レベルを測定した(図7)。免疫細胞化学法により、細胞でのTH発現レベルを測定した(図8)。また、免疫細胞化学法により、ネスチン(神経幹細胞マーカー)、Ki67(増殖性細胞マーカー)及びTuj1(神経マーカー)の発現レベルを測定した(図9)。本発明によって分化した細胞中のTH陽性細胞数は、非分化誘導細胞(すなわち、増殖細胞)中のそれに比べて20%以上増加した。分化効率は、継代回数の増加と共に、およそ30%まで上昇した(図7のA参照)。また、分化後のTuj1陽性細胞数も、分化前のおよそ10%から、40ないし45%まで増加し、これは、後期継代でも変わらなかった(図7のB参照)。前記結果は、TH陽性細胞に対する免疫細胞化学分析の結果とも一致しており、分化効率は、継代が後期になるにつれて上昇した(図8参照)。分化後のネスチン及びki67の発現は減少したが、一方でTuj1発現は増加した(図9参照)。このような結果は、分化が進行するにつれて、増殖する細胞が幹細胞特性を徐々に失い、成熟したニューロンに分化することを示している。
【0049】
また、初期継代(第7継代)のhNPCに対して行った蛍光活性化細胞選別分析(FACSanalysis)の結果、神経幹細胞の表面マーカー、すなわち、CD15,184及び133は分化後、分化前より有意に減少した(図10参照)。このような結果は、細胞が幹細胞の特性を失い、分化細胞に変化していることを示す。また、RT−PCR分析の結果、継代回数の増加と共に、ドーパミン性ニューロンのマーカーであるTHの発現は正常に維持されたが、神経マーカーであるTuj1の発現は増加し、神経幹細胞マーカーであるネスチン、sox2、musashi1の発現は減少した(図11のA参照)。ウェスタンブロット分析の結果、継代回数の増加と共に、THの発現は正常に維持されたが、Tuj1の発現は増加し、ネスチン、sox2の発現は減少した(図11のB参照)。これは、RT−PCR分析の結果と同様であった。また、Bcl2(抗アポトーシスマーカー)及びPCNA(増殖マーカー)も減少した(図11のB参照)。
【0050】
従って、前記図7ないし図11の結果から、後期継代まで細胞を培養した後、前記分化培地で分化させた場合、初期継代の細胞と同様の分化効率で分化が誘導されることが分かる。
【0051】
(5)分化したドーパミン性ニューロンの特性分析
hNPCsを、2%のB27、10μMのフォルスコリン、100μMのフザリン酸及び100μMのdb−cAMPを含むNB培地(Invitrogen社)中、3%の酸素分圧の条件で14日間培養して分化させた。
【0052】
得られた細胞におけるTHの発現及び成熟したドーパミン性ニューロンのマーカー(NeuN、VMAT2、Nurr1及びPitx3)の発現を、免疫細胞化学法で測定した(図12のA)。TH発現細胞のタイプ(A9タイプまたはA10タイプ)を確認するために、Girk2及びcal28Kの発現を、免疫細胞化学法で測定した(図12のB)。Girk2及びTHが同時に発現している場合、細胞はA9タイプと見なされる。cal28K及びTHが同時に発現している場合、細胞はA10タイプと見なされる。図12の結果から、本発明の分化方法によって得られたドーパミン性ニューロンは、A9タイプの成熟したドーパミン性ニューロンであることが分かる。
【0053】
また、RT−PCR分析の結果、THと共に、VMAT2、Pitx3、DAT、Nurr1などの成熟ドーパミン性ニューロンのマーカーは分化後(+)、分化前(−)より著しく増加した(図13のA)。ウェスタンブロット分析において、THと共に、VMAT2、Pitx3、DAT、Nurr1などの成熟ドーパミン性ニューロンのマーカーは分化後(+)、分化前(−)より著しく増加した(図13のB)。このような結果は、免疫細胞化学分析の結果とも一致した(図13のC)。成熟ドーパミン性ニューロンのマーカーは、分化誘導後7日から14日の間に顕著に増加することを免疫細胞化学法により確認した。
【0054】
また、他のサブタイプ(subtype)のニューロンへの分化を確認するために、グルタミン酸、GABA、ChAT及びセロトニンの発現を、免疫細胞化学法で測定した(図14)。図14の結果から、他のサブタイプのニューロンは、ドーパミン性ニューロンより発現が有意に少ないことが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]