(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776114
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】ポリアミドナノファイバの電界紡糸
(51)【国際特許分類】
D04H 1/728 20120101AFI20150820BHJP
D01F 6/60 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
D04H1/728
D01F6/60 321C
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-520041(P2012-520041)
(86)(22)【出願日】2010年7月15日
(65)【公表番号】特表2012-533006(P2012-533006A)
(43)【公表日】2012年12月20日
(86)【国際出願番号】EP2010060222
(87)【国際公開番号】WO2011006967
(87)【国際公開日】20110120
【審査請求日】2013年7月2日
(31)【優先権主張番号】09165497.0
(32)【優先日】2009年7月15日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】10164875.6
(32)【優先日】2010年6月3日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】デュラート, コンラード, アルベルト, ルイーズ, エクトール
(72)【発明者】
【氏名】ブルタルス, マルクス, ヨハネス, ヘンリクス
(72)【発明者】
【氏名】ルーケンス, ルディ
(72)【発明者】
【氏名】シッシュ, アルノー, デイヴィッド, アンリ
【審査官】
平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2003/0026985(US,A1)
【文献】
特開平05−279968(JP,A)
【文献】
特開2008−025057(JP,A)
【文献】
特表2004−508447(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/051263(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D39/00〜41/04
46/00〜46/54
53/22
61/00〜 71/82
C02F 1/44
D01D 1/00〜13/02
D01F 1/00〜 6/96
9/00〜 9/04
D04H 1/00〜18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界紡糸法によりポリアミドナノファイバを製造する方法であって、マルチノズル装置を使用するマルチノズル電界紡糸法、またはノズルフリーの装置を使用するノズルフリー電界紡糸であり、
− 高電圧を印加する工程、
− ポリマーと溶媒とを含むポリマー溶液を、前記マルチノズル装置、または前記ノズルフリー装置に供給し、前記高電圧の影響下、荷電ジェット流に変換する工程、
− 前記ジェット流を基材に堆積させるか、またはコレクターで捕集する工程、および
− 前記ジェット流中の前記ポリマーを固化させ、それによりナノファイバを形成する工
程
を含み、かつ前記ポリマーが、5.5以下のC/N比、および35,000以下の重量平均分子量(Mw)を有する半結晶ポリアミドを含む、方法。
【請求項2】
マルチノズル電界紡糸法であり、
− 一連の紡糸ノズルを含むスピナレットとコレクターの間、または独立した電極とコレクターの間に、前記高電圧を印加する工程、
− ポリマーと溶媒を含むポリマー溶液の流れを前記スピナレットに供給する工程、および
− 前記ポリマー溶液を前記紡糸ノズルを通して前記スピナレットから導出させ、前記高電圧の影響下、荷電ジェット流に変換する工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ノズルフリー電界紡糸法である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記C/N比が2〜5の範囲であり、かつ/または前記ポリアミドがポリアミド46のホモポリアミド、ポリアミド26、ポリアミド4、ポリアミド36である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリアミドが前記ポリマーに対して少なくとも50重量%含まれ、かつ前記ポリアミドが2,000〜30,000のMwを有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマーが、5.5超のC/N比および/または35,000以下のMwを有する第2のポリアミド、および/または水溶性ポリマーを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶液が、添加剤を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒が、(I)水、水溶性の塩、並びにメタノール、エタノール、グリコールおよび/またはグリセリン、あるいは(II)ギ酸および/または酢酸、並びに水、メタノール、エタノール、グリコール、グリセリンおよびギ酸メチルからなる群より選択される少なくとも1種の液体を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
次の工程:洗浄工程、乾燥工程、硬化工程、および/または後圧縮工程の1つ以上を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
5.5以下のC/N比および35,000以下のMwを有するポリアミドを含むポリマー組成物からなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法によって得られるナノファイバ。
【請求項11】
5未満のC/N比および少なくとも300℃のTmを有するポリアミドを含むポリマー組成物からなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法によって得られるナノファイバ。
【請求項12】
請求項10または11に記載の、または請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法によって得られるナノファイバ、あるいはそれから作製されたマイクロポーラスメンブレンの、次の用途:ガス/ガスろ過、高温ガスろ過、粒子ろ過、精密ろ過、限外ろ過、ナノろ過、逆浸透などの液体ろ過などの分子分離およびろ過;廃水浄化、オイルおよび燃料ろ過電気透析、電気的脱イオン、バッテリーおよび燃料電池などの電気化学的用途;薬剤および栄養補助成分を含む放出制御の用途;パートラクション(pertraction)、パーベーパレイションおよびコンタクター用途;酵素の不動化、および加湿材、ドラッグデリバリー;(工業用)ふき取り布、外科用ガウンおよび掛け布、創傷包帯、組織工学、防護服、触媒担体、およびコーティングのいずれか1つに使用するための使用。
【請求項13】
請求項10または11に記載の、または請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法によって得られるナノファイバ、あるいはそれから作製されたマイクロポーラスメンブレンを使用する分離方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、電界紡糸によるポリアミドナノファイバの製造方法に係り、さらに詳しくは、ポリアミドナノファイバの大規模電界紡糸およびナノファイバメンブレンの製造に関する。本発明はまた、そのようなポリアミドナノファイバからなる不織繊維ウェブを用いたナノファイバメンブレン構造体、並びに、それから製造される製品、およびその使用に関する。
【0002】
ポリマー細繊維としても知られる高分子ナノファイバは、フィルターなどの多くの用途で有用な不織繊維ウェブの形態で製造することができる。高分子ナノファイバはまた、他の様々な分野でも広く使用されている。そのような分野としては、とりわけ、組織工学、特殊フィルター、補強材、防護服、触媒担体および各種コーティング材の分野が挙げられる。
【0003】
ポリマー細繊維の製造に従来使用されている1つの手法は、電界紡糸法である。ナノファイバは様々なポリマーから製造することができ、その選択は、使用目的に関連する、熱、湿度、反応物質、機械的ストレスなどに対する安定性の要求に依存するであろう。ナノファイバの製造に使用するポリマーとしては、特にポリアミドが挙げられる。
【0004】
ポリアミドから作られるナノファイバは、例えば米国特許出願公開第2004/0060268号明細書に記載されている。前記特許出願で使用されているポリアミドは、ナイロン6,66,610、ナイロン66、およびナイロン46とナイロン66とのコポリアミドである。米国特許出願公開第2004/0060268号明細書には、そこに記載のポリアミドナノファイバが電界紡糸により製造されたと記載されているが、前記方法についてあまり詳細には記載されていない。
【0005】
米国特許出願公開第2009/0042029号明細書には、ポリアミド11およびポリアミド12から電界紡糸によって作られた繊維が記載されている。このポリアミドは、ギ酸およびジクロロメタンを含む溶液から紡糸された。紡糸溶液の濃度は低かった(3〜5重量%)が、このナノファイバの多くはリボン形状であり、ファイバの直径分布が比較的広いという特徴を有していた。
【0006】
大規模電界紡糸は、通常、例えば国際公開第05/073441号パンフレット(参照により本明細書中に組み込まれる)に記載されているようなマルチノズル装置を用いたマルチノズル電界紡糸により、また、例えばNanospider
TM装置、バブル紡糸などのノズルフリーの装置を使用したノズルフリー電界紡糸により、または、例えば国際公開第03/080905号パンフレット(参照により本明細書中に組み込まれる)に記載されているような電気ブローにより実施される。しかしながら、針を備えたシリンジを使用するなど、単一ノズル装置を使用した多くの科学的研究が行われている。
【0007】
電界紡糸法は、一般に、そして特にポリアミドナノファイバの場合に、いくつかの問題を抱えており、特にマルチノズルのスピナレットを使用して工業規模で実施するときに問題がある。これらの問題は、例えば、国際公開第05/033381−A2号パンフレット、国際公開第05/073441−A1号パンフレットおよび米国特許出願公開第2009/0123591号明細書などにより、よく知られている。
【0008】
国際公開第05/033381−A2号パンフレットには、電界紡糸について以下のような詳細な記述がある。導電性流体(例えば、荷電半希釈ポリマー溶液または荷電ポリマー溶融体)に外部静電場を印加すると、表面張力が電場と平衡になるような、懸濁した円錐状の液滴が形成される。電界紡糸は、静電場が十分に強くて液体の表面張力に打ち勝つときに行われる。その場合、液滴は不安定になり、スピナレットチップの表面から小さなジェットが噴出する。それが接地したターゲットに達すると、ジェット流は、細かいサブミクロンサイズのファイバが相互に絡み合ったウェブとして捕集することができる。これらの不織のナノスケールのファイバ(ナノファイバ)から得られるフィルムは、体積に対する表面積の比が非常に大きい。
【0009】
国際公開第05/033381−A2号パンフレットに記載されているように、電界紡糸ファイバの製造方法における大きな技術的問題に取り組まなければならないことを認識することは重要である。技術的影響が大きいのは、製造速度である。例えば、ポリマー溶融体が直径700μmのノズルを有するスピナレットから紡糸され、最終フィラメントが直径250nmに形成される場合を考えると、この場合、延伸比は約3×106になるであろう。1つのスピナレットからの通常の押出能力は、約16mg/分(すなわち1g/hr)であるから、高速溶融紡糸法が達成できる最高速度(10,000m/分、すなわち167m/s)と比べると、最終のフィラメント速度は約136m/sとなるであろう。このように、従来の電界紡糸におけるスピナレットの処理量は、商業的な高速溶融紡糸法の約1000分の1である。
【0010】
電界紡糸ファイバの大量生産における他の大きな技術的問題は、電界紡糸中のスピナレットの集合状態である。高速溶融紡糸のように真っ直ぐに進むマルチジェット配置は、隣接する電場がしばしば互いに干渉し合うため、使用することができない。
【0011】
国際公開第05/073441−A1号パンフレットに記載の装置は、マルチノズルを含むノズルブロックと、このノズルブロックから紡糸されるファイバを集合するコレクターと、ノズルブロックおよびコレクターに電圧を印加する電圧発生装置を含む。国際公開第05/073441号パンフレットで使用されているポリマーは、相対粘度が3.2(96%硫酸溶液中で測定)のナイロン6であり、これは48,000g/molのMwに対応する。このポリマーは、例えば固形分20%で粘度が1050cPsの紡糸液を製造するために使用される。国際公開第05/073441号パンフレットでは、電界紡糸は一般に1ホール当たり10
”2〜10
〜3g/分の非常に低い処理速度で行われている。そのため、1ホールで実施される電界紡糸は、商業化目的に必要な大量生産には適していない。商業化に必要な大量生産に使用する大規模電界紡糸装置では、複数のノズルが狭いスペースに配置されなければならない。しかしながら従来の電界紡糸装置では、所定のスペースに限定された数のノズルを配置することは不可能であり、それ故、商業化に必要な大量生産を困難なものにしている。さらに、従来の水平型電界紡糸装置では、ノズルにより紡糸されていないポリマー液の凝集体がコレクタープレートに付着する現象(以下、「液滴」という)が生じ、それにより製品の品質が低下するという他の問題がある。この問題を解決するために、国際公開第05/073441号パンフレットでは、ノズルの出口がノズルブロックに上向きに取り付けられ、コレクターがノズルブロックの上方に位置する、所謂ボトムアップ型の電界紡糸装置を提案している。
【0012】
米国特許出願公開第2009/0123591号明細書(米国特許出願第10/936,568号明細書の分割出願)によれば、電界紡糸によるナノファイバ製造の大きな技術的障壁は、製造速度の遅さと、ポリマー溶液に対するプロセスが限られていることにある。これに関連する問題は、米国特許出願公開第2009/0123591号明細書に以下のように要約されている。
1.第1の障壁には、隣接する電極(または紡糸ジェット)間の電界の干渉が含まれ、これが、マルチジェット電界紡糸ダイブロック内に構築される電極間の最小分離距離またはスピナレットの最大密度を限定している。
2.第2の障壁は、個々のスピナレットの処理量の低さに関連する。言い換えれば、ファイバのサイズが非常に細くなれば、電界紡糸プロセスの生産量は非常に少なくなる。
3.第3の障壁は、長時間にわたる連続運転の能力と、最小限の労力を伴ったマルチスピナレットの自動クリーニングの能力によって制限される。
4.電界紡糸の最後の障壁は、溶液処理に制限があることであり、溶媒を使用するためにこの技術の工業的適用が大きく妨げられている。
【0013】
米国特許出願公開第2009/0123591号明細書では、従来の電界紡糸技術における(2)〜(4)の技術的ハードルに打ち勝つ解決策として特定のスピナレットの構成を、また、ガスブローにより(1)の流体ジェット流に影響を及ぼすことを提案している。しかしながら、全ての電界紡糸プロセスをガスブロー式に改造できるものでもなく、従来の装置はガスブローを含んでいない。
【0014】
米国特許出願公開第2009/0123591号明細書は、同じ問題に取り組み、そして電界紡糸を一部ベースとした高処理製造法:電気ブロー紡糸法によるナノファイバの製造装置および製造方法を提案している他の特許出願、国際公開第03/08905号パンフレットを引用している。米国特許出願公開第2009/0123591号明細書によれば、この開示された技術には、次のようないくつかの欠点がある。ブロー中に十分に大きな紡糸延伸比を達成するために電界を十分に利用しておらず、したがって、あまり細径のファイバ(例えば、直径が300nm未満のファイバ)を製造することができない。スピナレット上へのポリマーの堆積(蓄積)が避けられず、持続的運転に重大な問題を引き起こすため、長期間の運転能力(例えば、>5日)を継続することができない。
【0015】
電界紡糸ファイバに関する刊行物の多くは、モノフィラメント実験を用いており、大量生産におけるマルチフィラメント電界紡糸で直面する問題を無視している。
【0016】
例えば、S.S.OjhaらはJ.Appl.Polymer Sc.,Vol.108,308〜319(2008)で、電界紡糸ファイバのモルフォロジーを分子量およびプロセスパラメータの関数として記載している。ポリマー溶液が、ギ酸中で、Mwが異なるナイロン−6ポリマーから製造された。溶液が、キャピラリーチップを有するシリンジから吐出された。低Mwのナイロン6(Mw30,000)ではビーズが多く生成されたことが示された。このビーズの生成は、濃度を増加させても、Mwを50,000にしても減少し、Mwを63,000にすると一層減少した。
【0017】
特許出願、仏国特許出願公開第2911151−A1号明細書にもまた、シリンジおよび針を備えた装置を使用したポリアミドナノファイバの製造が記載されている。Mwが10,000〜50,000のポリアミド6およびポリアミド6,6のギ酸溶液が記載されている。40〜350nmの範囲の細い直径を有するが、広い分布を有するナノファイバが得られている。
【0018】
C.Huangらは、Nanotechnology 17(2006)1558〜1563で、ポリアミド4.6のギ酸溶液から製造した細径の電界紡糸ポリマーナノファイバについて記載している。ポリアミド4.6はAldrichの一グレードであり、そのMwを測定したところ45,000であった。低濃度での紡糸過程でビーズが連なった状態のナノファイバが生成されるのを回避するために、電界紡糸溶液に少量のピリジンが加えられた。そのような低濃度では、細径のファイバが得られた。より高濃度で固形分が12%を超えると、ナノファイバの直径は急激に、略指数関数的に増大するようであった。
【0019】
大規模な商業的電界紡糸に要求される他の要件は、ポリマー溶液粘度の長期安定性である。一般に、電界紡糸に使用されるポリマーは溶解され、その溶液は比較的大きい容器またはタンクに貯蔵され、電界紡糸プロセスで完全に消費されるまでに数週間かかる。ポリマー溶液の粘度は、得られるナノファイバのファイバ径およびその分布に大きく影響するため、安定なポリマー−溶媒系を有することが重要である。
【0020】
このように、大規模生産に使用できる、ナノファイバ、より特にポリアミドナノファイバを製造するための改良電界紡糸法が明らかに要求されている。
【0021】
本発明の目的は、上記欠点の全ては有さない、すなわち、あるいは、少なくともある程度はそう言える、細径で、狭いファイバ分布を有し、かつビーズの生成が少ないナノファイバの製造に適し、同時に、生産性が高く、かつ大規模に実施し得る電界紡糸法を提供することにある。
【0022】
この目的は、本発明の電界紡糸法、すなわち、マルチノズル装置を使用するマルチノズル電界紡糸法、またはノズルフリーの装置を使用するノズルフリー電界紡糸であって、
− 高電圧を印加する工程、
− ポリマーと溶媒とを含むポリマー溶液を、マルチノズル装置、またはノズルフリー装置に供給し、高電圧の影響下、荷電ジェット流に変換する工程、
− ジェット流を基材に堆積させるか、またはコレクターで捕集する工程、および
− ジェット流中のポリマーを固化させ、それによりナノファイバを形成する工程、
を含み、かつポリマーが、5.5以下のC/N比、および35,000以下の重量平均分子量(Mw)を有する半結晶ポリアミドを含む方法により達成された。
【0023】
C/N比は、本明細書中では、ポリアミド中の炭素原子(C)の数とポリアミド中の窒素原子(N)の数との比であると理解される。
【0024】
本発明の方法は、多数のナノファイバを同時に生成し、かつ大規模で実施することができる電界紡糸法である。
【0025】
そのような方法では、高電圧を印加すると、ノズル、またはフリーに存在する液体からの溶液からテイラーコーンが形成される。そのようなテイラーコーンを形成するのに必要な電圧は、通常、少なくとも2.5kVである。電圧は、50kVもしくは60kV、またはさらにそれ以上、例えば65kVとしてもよい。適切には、電圧は少なくとも10kVであり、好ましくは少なくとも20kV、より特には少なくとも30kVである。
【0026】
本方法は、マルチノズル装置、通常は一連のノズルを有するスピナレットを使用したマルチノズル電界紡糸により、また、例えばNanospider
TM装置、またはバブルスピニングを使用するなどの、ノズルフリー装置を使用したノズルフリー電界紡糸により実施することができる。マルチノズル紡糸は、場合により、電気ブローにおけるような、ノズル周りへの強制空気流と組み合わせてもよい。
【0027】
そのような大規模マルチノズル電界紡糸法は、
− 一連の紡糸ノズルを含むスピナレットとコレクターの間、または独立した電極とコレクターの間に、高電圧を印加する工程、
− ポリマーと溶媒を含むポリマー溶液の流れをスピナレットに供給する工程、
− ポリマー溶液を紡糸ノズルを通してスピナレットから導出させ、高電圧の影響下、荷電ジェット流に変換する工程、
− ジェット流をコレクターまたは基材に堆積または捕集させる工程、
− ジェット流中のポリマーを、コレクターまたは基材に堆積または捕集させる前、またはその間に固化させ、それによりナノファイバを形成する工程
を含む。
【0028】
ノズルフリーの方法では、ノズルを有するスピナレットは存在せず、それに向けて溶液が供給され、それからイェット(yet)流が形成される他の装置が存在する。例えば、溶液をナノスパイダー装置の場合のように回転電極で引き上げるか、または、(バブルスピニングの場合のように)溶液を通してガスを放出させることにより溶液から泡を生成させる。ノズルフリー法では、そのような手段で供給された溶液が高電圧の影響下に一連のテーラーコーンを生成する。臨界電圧を超えると、これらのテーラーコーンから荷電ジェット流が形成され、先にマルチノズル法で記載したように、最終的にナノファイバが生成する。
【0029】
本発明の方法の第1の実施形態では、ポリマー溶液中のポリマーは、5.5以下のC/N比および35,000以下の重量平均分子量(Mw)を有する半結晶ポリアミドを含む。
【0030】
5.5以下のC/N比および35,000以下のMwを有する前記半結晶ポリアミドを使用する本発明の方法の効果は多様である。製造されたマルチファイバの組み合わせ中でのファイバの太さの変動は、(または高Mwの分枝状ポリアミドを添加することにより減少する。ポリアミド濃度がより高いポリマー溶液、例えば15重量%超、および20重量%超のものでさえ使用することができ、より高い生産性を与える。プロセス条件は、得ようとするファイバが細いかまたは太いかにより意図的に選択することができ、同時に生産速度を最大化し、かつファイバの平均太さまたはファイバの平均径をコントロールすることができる。本発明の方法により製造されるナノファイバの太さは広範囲に変えることができる。すなわち、この方法では、プロセス条件を、比較的細いファイバも(例えば、溶液の粘度を低下させる、ポリマーの分子量を小さくすることにより)、比較的太いファイバも(例えば、溶液粘度を上げる、ギ酸/エタノール混合物中のエタノール含有量を増加させることにより)製造できるように選択することができる。
【0031】
本方法では、Mwが比較的高い、対応するポリアミドおよび他のポリアミドに対して、同程度の溶媒組成および濃度で、ノズル閉塞がより少なくなる。本方法では、環境により優しい溶媒組成、特に水含有量がより多い溶媒組成を使用することができる。C/N比が6超の前記標準の半結晶ポリアミドとは対照的に、本発明の方法で使用するポリアミドは、ギ酸/水混合物中において高い水含有率で処理することができる。
【0032】
本方法では、他の方法では加工できないか、または溶融加工中の劣化が激しい高融点のポリアミドポリマーを、ナノファイバに加工することができる。
【0033】
他のポリアミドに関し、ナイロン6では20%超、ナイロン6,66,610では10%超の濃度のものは大規模マルチノズルスピナレットで使用することができず、これらのポリマーの溶液粘度を変えても、ファイバの太さは大きく変化しないという事実からすれば、先の結果は驚くべきものである。ナイロン6では、直径が約100nmのファイバが得られ、ナイロン6,66,610では直径が200〜300nmの範囲のファイバが得られる。ナイロン6のMwを減少させると、電界紡糸プロセスは円滑に行われず、良好な品質のナノファイバを製造することには繋がらない。
【0034】
第2の実施形態では、ポリマーは、少なくとも6のC/N比および35,000以下のMwを有する第1のポリアミドと、高Mwの直鎖状ポリアミドである第2のポリアミドを含む。
【0035】
第2のポリアミドは、場合によりアニオン重合で合成されていてもよい高Mw直鎖状ポリアミド、または高Mw分枝状ポリアミドとすることができ、ポリマーの全重量に対して0〜10重量%含まれることが好ましく、0〜5重量%含まれることがより好ましい。また、第1のポリアミドのMwは5,000〜25,000の範囲であることが好ましい。
【0036】
第2の実施形態の方法では、プロセスは安定しており、品質が良好で、シャープなファイバ径分布を有し、かつビーズの生成が非常に少ないファイバ製品が得られる。これは、Mwの小さいポリアミドのみを含む溶液を使用する、対応する方法とは対照的である。比較的低粘度の溶液および/または高濃度を達成するために、そのような低Mwのポリアミドを使用した以前の試みでは、通常、ビーズ、またはビーズが混入したファイバが生成され(特に(生産性を高めるために)マルチノズルに高電圧を印加した場合)、かつ細いファイバおよび/または機械的特性が劣るものが生成された。
【0037】
半結晶ポリアミド中の半結晶という用語は、本明細書中では、アモルファス相に隣接して結晶相を固体形態で含むポリアミドを意味する。結晶相の存在は、X線回折および示差走査熱量計(DSC)などの各種方法により検証することができる。そのような部分的に結晶化したポリアミドの融点も、DSCにより測定することができる。
【0038】
さらに以下で使用されている用語の融点は、本明細書中では、ASTM D3418−97に従い、DSCにより、窒素下、昇温速度10℃/分で測定される、溶融速度が最大となる温度をいう。
【0039】
なお、さらに、xおよびyを下限および上限とするx〜yの範囲という形式の範囲の表記法では、これらの限界値がその範囲に含まれるものとする。
【0040】
本発明の方法で使用することができるポリアミドは、直鎖状ジアミンH2N−(CH2)
X−NH2(但し、X=2、3、4、5、および/または6)と、ジカルボン酸HO
2C(CH
2)
YCO
2H(但し、Y=0、1、2、3、および/または4)から得られるポリアミドである。C6ジアミン、すなわちC原子が6個のジアミンと、C6ジカルボン酸、すなわちC原子が6個のジカルボン酸を併用する場合、C/N比を5.5以下とするには、これらをより短いジアミンおよび/またはより短いジカルボン酸と結合させなければならないことは明らかである。使用し得る他のポリアミドは、アミノ酸H
2N−(CH
2)
Z−CO
2H、またはラクタム[NH(CH
2)−
ZCO](Z=1、2、3、4および/または5)から得られるポリアミドである。
【0041】
C/N比が全体で5.5以下であれば、上記モノマーと、C原子を6個以上含むモノマー単位を結合させたコポリアミドもまた使用することができる。コポリマーは、PA46が70重量%超でPA6単位が30重量%以下のPA46/6、およびPA46が70重量%超でPA66単位が30重量%以下のPA46/66であることが好ましい。
【0042】
5.5以下のC/N比および35,000以下の重量平均分子量(Mw)を有する半結晶ポリアミドとして使用し得る適切な半結晶ポリアミドとしては、ホモポリマーポリアミド46、ポリアミド26、ポリアミド24、ポリアミド4、ポリアミド36およびポリアミド56と、これらのコポリマーが挙げられる。
【0043】
C/N比は4〜5.5の範囲であることが好ましく、4.5〜5.25の範囲であることがより好ましい。
【0044】
また、半結晶ポリアミドは、ホモポリマーを含むことが好ましく、ホモポリマーは、C/N比が5のナイロン46、およびC/N比が4のナイロン26であることがより好ましい。
【0045】
ポリアミド26および24、並びにそれらのコポリマーのような低C/N比のポリアミド、特にそれらのホモポリマーは、一般に、融点が非常に高いという特徴を有しており、これらのポリマーは高温で加工すると、通常分解する。この分解のために、これらのポリマーを高温で加工することができず、特に溶融加工することができない。そして、多くの場合、それらの高Mw製品を製造することもまた不可能である。本方法では、良好な特性を有するナノファイバを製造することが可能である。
【0046】
C/N比が5.5以下の半結晶ポリアミドは、ポリマーの全量と比較して、その含有量を広範囲に変化させることができる。半結晶ポリアミドの量は、適切には、ナノファイバに含まれるポリマーの全量に対して、少なくとも50重量%、より好ましくは75〜100重量%の範囲、特に好ましくは90〜100重量%である。
【0047】
半結晶ポリアミドの重量平均Mwは、35,000以下であれば、広い範囲にわたって変化させることができる。本明細書でいう重量平均分子量(Mw)は、ゲル透過クロマトグラフィ(GPC)、より特に、3重検出法と組み合わせたサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)で分子量分布を測定することにより求められる。GPC装置は、本明細書では、粘度、屈折率および光散乱検出(90度)と組み合わされる。測定は、ヘキサフルオロイソプロパノールの重量に対して0.1重量%のトリフルオロ酢酸カリウムを含むヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として使用し、かつ3本のPFG linear XLシリカカラムを装着したサイズ排除クロマトグラフを使用して実施される。重量平均分子量は、Viscotek社のソフトウェアTriSEC3.0を使用して、測定した分子量分布から算出する。Mwはg/molの単位で表される。3重検出法には、この方法では絶対値が得られ、外部参照を必要としないという利点がある。
【0048】
Mwは、適切には少なくとも1,000、好ましくは少なくとも2,000、より好ましくは5,000〜30,000の範囲、より一層好ましくは10,000〜25,000の範囲である。Mwをより低くすることの利点は、より高い濃度であっても本プロセスで使用することができ、かつ/または溶媒が水またはアルコールをより多く含有し得ることにある。
【0049】
非常に低いMwのポリアミド、すなわち1,000〜5,000の範囲のMwを有するポリアミドは、高Mwのポリアミドである第2のポリアミドと併用させることが適切である。第2のポリアミドは、高Mwの直鎖状ポリアミド(場合により、アニオン重合されたものであってもよい)、または高Mw分枝状ポリアミドとすることができ、ポリマーの全重量に対し、好ましくは0〜10重量%、より好ましくは0〜5重量%含有させる。このような低Mwポリアミドポリマーを使用する利点は、製造されたナノファイバウェブ中の個々のナノファイバ間の密着性が増大し、かつ生産性が増大することにある。
【0050】
5.5以下のC/N比および35,000以下のMwを有するポリアミドは、また、異なるポリアミドの混合物で構成されていてもよい。例えば、混合物は、Mwが5,000〜35,000の範囲、または35,000に等しいポリアミドと併用した、Mwが非常に低い、例えば1,000〜5,000の範囲のポリアミドから構成されていてもよい。
【0051】
溶液中のポリマーには、半結晶ポリアミドに加えて他の1種または複数種のポリマーを含有させてもよい。含有させることができる他のポリマーは、溶液に使用される溶媒に溶解または分散するものであればいかなるポリマーであってもよい。そのようなポリマーの含有量は、ポリマーの全重量に対して50重量%以下であることが好ましい。より好ましくは0〜25重量%の範囲であり、より一層好ましくは0〜5重量%の範囲である。
【0052】
他のポリマーは、例えば、第2のポリアミドと呼ばれる他のポリアミドであってもよい。このように、ポリマーは、第1のポリアミドと呼ばれる、5.5以下のC/N比および35,000以下のMwを有するポリアミドと、第2のポリアミドとを含むポリアミドの混合物を含むことができる。第2のポリアミドは、第1のポリアミドと同一の化学組成のものであっても、異なる化学組成のものであってもよい。適切には、第2のポリアミドは、高Mwの直鎖状ポリアミド、または高Mwの分枝状ポリアミドである。高Mwのポリアミドは、アニオン重合で合成されたポリアミドであり得る。第2のポリアミドはまた、5.5超のC/N比および/または50,000超、好ましくは70,000超、より好ましくは100,000g/mol超で、200,000g/molもしくはそれ以上までのMwを有するポリアミドであり得る。
【0053】
第2のポリアミドは、ポリマーの全重量%に対して0〜10重量%含まれることが好ましく、0.5〜5重量%含まれることがより好ましい。第2のポリマーがそのような限定された量で含まれることの利点は、特にポリマーが50,000超のMwを有する高Mwポリアミド、またはその分枝状構造体である場合、比較的太いナノファイバの製造を依然可能としつつ、溶液の剪断粘度を低く維持することができることである。
【0054】
ポリマー溶液に使用する溶媒は、適切には溶媒の混合物からなる。より詳しくは、溶媒の混合物は異なる極性溶媒の組み合わせを含む。これらの極性溶媒は、酸、アルコール、水から選択してもよく、場合により、エステルなどのより極性の弱い溶媒、および/または塩などの溶解促進剤を併用してもよい。
【0055】
適切な溶媒混合物としては、(I)水、水溶性の塩、並びにメタノール、エタノール、グリコールおよび/またはグリセリンのいずれかを含み、場合によりNH3、脂肪族アミンおよび/またはジアミンのいずれかを含んでもよい混合物、あるいは(II)ギ酸および/または酢酸、並びに水、メタノール、エタノール、グリコール、グリセリンおよびギ酸メチルからなる群より選択される少なくとも1種の液体を含む混合物が挙げられる。純粋なギ酸、またはギ酸と酸の酸の混合物もまた使用することができる。
【0056】
本発明の方法で使用するポリアミドが親水性であることが、その低Mw性と相まって、水および/またはアルコールの含有量が比較的多い溶媒混合物の使用を可能にしている。
【0057】
水をギ酸とともに含む溶媒混合物においては、水は、溶媒混合物の全重量に対して少なくとも15重量%含まれることが好ましく、20〜30重量%含まれることがより好ましい。
【0058】
水をメタノールおよび塩とともに含む溶媒混合物においては、水は、溶媒混合物の全重量に対して少なくとも30重量%含まれることが好ましく、40〜60重量%含まれることがより好ましい。
【0059】
水の含有量がより多いことの利点は、プロセスが環境により優しくなり、溶媒コストがより低減され、相分離がより速く起こり、かつジェット流中のポリマーの固化がより早期に起こることである。
【0060】
水の含有量がより多いことの可能性は、プロセスの柔軟性を促進するためにも使用することができる。水の含有量は、スピナレットに入る前の供給流れ、すなわち供給工程の溶液に、水を添加することにより増加させることができる。そうすることにより、高濃度のポリマー溶液を含む単一貯蔵タンク、異なる濃度およびファイバ直径を使用することができる。水を加えることで、溶液中のポリマー濃度および/または溶液の粘度および/またはスピナレットを出た後の相分離の速度を制御することができ、それにより、得られるファイバの直径を調節することができる。水は、そのまま加えることができるが、好ましくは1種または2種以上の共溶媒の一部で希釈する。これは、ポリマーの早期沈殿によって引き起こされる溶媒組成における過度の局所的変化を防止するために行うことができる。
【0061】
水を含む溶液中のポリマーは、また、上記溶媒およびポリマーとは別に水溶性ポリマーを含むことができる。水溶性ポリマーは、製造されたナノファイバから水と共に抽出することができ、これにより微孔性ナノファイバを得ることができる。水溶性ポリマーとしてはポリビニルピロリドン(PVP)が適している。
【0062】
溶液は、さらに1種以上の添加剤を含んでもよい。
【0063】
適切な添加剤としては、表面張力剤もしくは界面活性剤(例えば、ペルフオルオロアクリジン)、架橋剤、粘度調節剤(例えば、HYBRANEなどの超分枝状ポリマー)、電解質、抗微生物添加剤、粘着性改良剤、例えば無水マレイン酸グラフト化ゴム、またはPPもしくはPETを基質とした他の粘着性改良添加剤、ナノチューブまたはナノクレイなどのナノ粒子などが挙げられる。適切な電解質としては、水溶性金属塩、このような金属アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩および亜鉛の塩が挙げられる。適切な電解質の例は、LiCl、HCOOK(ギ酸カリウム)、CaCl2、ZnCl2、KI3、NaI3である。電解質は、溶液の全重量に対して0〜2重量%含有させることが好ましい。水溶性の塩は製造されたナノファイバから水と共に抽出することができ、これにより微孔性ナノファイバを得ることができる。
【0064】
高分子ナノファイバへナノ粒子を取り込ませると、ナノ粒子がファイバの機械的、電気的、熱的、磁気的、光学的および化学的特性を変化または促進さえもすることから、さらなる利点が付与される。
【0065】
電界紡糸法では、ジェット流中のポリマーが固化し、それによりナノファイバが形成され、そして、ジェット流および/またはそれから得られたナノファイバがコレクターまたは基材に堆積または捕集される。
【0066】
適切には、ナノファイバは、ロールまたはマンドレルにより半連続的に巻き取られる。これらのナノファイバは、また、その後、特性をさらに改善するために後延伸することができる。あるいは、ナノファイバを基材またはコレクタープレート上に集めて、ナノファイバの不織ウェブを形成することができる。
【0067】
本発明の方法で得られたナノファイバは、連続的に巻き取られたファイバとして得られたか、不織ウェブとして得られたか、または他の任意の形状で得られたかに関係なく、1工程以上の処理工程にさらに供することができる。例えば、ナノファイバに、洗浄、乾燥、硬化、アニールおよび/または後圧縮を行うことができる。
【0068】
ジェット流中のポリマーが固化し、ナノファイバが形成されたなら、ポリマーは水に不溶であるから、適切には、ナノファイバを水で洗浄し、その後、乾燥させる。乾燥は、100℃超の温度で行うことが好ましい。この温度は200℃でも、それを超える温度であってさえもよいであろう。
【0069】
ポリマー溶液およびそれから製造されるナノファイバが架橋剤または粘着性改良剤を含むならば、架橋工程を適用することが有利である。
【0070】
本発明はまた、本発明の方法、およびその特定の好ましい実施形態により得られるナノファイバに関し、それぞれ、5.5以下のC/N比および35,000以下のMwを有するポリアミドを含むポリマー組成物からなるナノファイバに関する。
【0071】
この組成物に含まれるポリアミドは、上記のように、5.5以下のC/N比および35,000以下のMwを有するポリアミドであればいかなるものであってもよく、第1のポリアミドとも呼ばれる。ナノファイバの製造に使用する溶液に含まれ、第1のポリアミドと共に沈殿し得る、任意成分の第2のポリアミド、他のポリマー、および添加剤についても同様である。これらの成分についても、ポリマーの種類や量などに関する実施例および実施形態が、ポリマー組成物に適用される。
【0072】
好ましくは、ナノファイバは
a)5.5以下のC/N比および35,000以下のMwを有するポリアミド75〜100重量%
b)5.5超のC/N比および/または35,000超のMwを有するポリアミド、並びに/あるいは他のポリマーである第2のポリマー0〜25重量%
(ここで、a)およびb)の重量%は、a)およびb)の全重量に対するものである)、および
c)少なくとも1種の添加剤0〜25重量%(ここで、c)の重量%はa)、b)およびc)の全重量に対するものである)
からなるポリマー組成物からなる。
【0073】
より好ましくは、第1のポリアミド(a)は5未満のC/N比を有する。
【0074】
また、好ましくは、ナノファイバ中のポリアミドは、少なくとも250℃、好ましくは少なくとも270℃、より好ましくは少なくとも290℃、特に好ましくは300〜350℃の融点(Tm)を有する。
【0075】
本発明はまた、
(i)本発明はまた、5未満のC/N比および35,000超のMwを有するポリアミド75〜100重量%、からなるポリマー組成物からなるナノファイバに関する
(ii)少なくとも5のC/N比を有するポリアミドおよび/または他のポリマーのいずれかである第2のポリマー0〜25重量%
(ここで、(i)および(ii)の重量%は(i)および(ii)の全重量に対するものである)、および(iii)少なくとも1種の添加剤0〜25重量%(ここで、(iii)の重量%は(i)、(ii)および(iii)の全重量に対するものである)
からなるポリマー組成物からなるナノファイバに関する。
【0076】
そのようなナノファイバは、5未満のC/N比および35,000未満のMwを有するポリアミドを使用する本発明の方法の後、後圧縮工程またはアニーリング工程を行うことにより製造することができる。この方法の利点は、得られるナノファイバが非常に良好な機械的および高温特性を有していることであり、他の方法ではそのようなナノファイバは製造することができなかった。
【0077】
本発明のナノファイバ中のポリアミドは、融点が少なくとも290℃であることが好ましく、300〜350℃であることがより好ましい。そのような特性は、5未満のC/N比を有するポリアミドとして、例えば、PA26、PA4もしくはPA44のホモポリアミド、またはPA26、PA4もしくはPA44それぞれのコポリアミド(コモノマーを少量含有)を含むナノファイバに、後圧縮工程またはアニーリング工程を行うことより得ることができる。
【0078】
本発明はまた、本発明の方法の第2の実施形態により得られるナノファイバに関し、それぞれ、5.5超のC/N比を有し、かつ35,000以下のMwを有するポリアミド、および35,000超のMwを有する直鎖状または分枝状ポリアミドを含むポリアミド組成物からなるナノファイバに関する。
【0079】
本発明、または本発明の方法の実施形態の1つにより得られるナノファイバは、広範囲のファイバ径を有することができる。ファイバ径は、5〜500nm、またはこれを超える場合さえあり、好ましくは50〜300nm、より好ましくは100〜250nmである。本明細書中でいう平均径は、走査電子顕微鏡(SEM)により統計的に十分多数の測定点で測定した数平均径である。
【0080】
ファイバ径は次のように決定した。各ナノファイバ試料、またはそのウェブ層について、倍率5,000×で十(10)枚のSEM像を撮影した。各写真で十(10)個の明瞭に識別できるナノファイバの直径を測定し記録して、合計で百(100)個の個別の測定値を得た。欠陥部は含めなかった(すなわち、ナノファイバ塊、ポリマー滴、ナノファイバの交差部分)。各ナノファイバ試料の数平均ファイバ径を、百(100)個の個別の測定値から算出した。
【0081】
本発明、並びにその種々の実施例および実施形態のナノファイバは、連続したマルチフィラメントファイバの形態、または不織ウェブの形態であり得る。本発明の方法により製造されたナノファイバから作られた不織ウェブは、メンブレンの用途に非常に適している。そのようなメンブレンはナノファイバメンブレンまたはマイクロポーラスメンブレンと称することができる。
【0082】
本発明はまた、本発明、並びにその種々の実施例および実施形態のナノファイバ、または本発明の方法の一実施形態により得られたナノファイバの、マイクロポーラスメンブレンにおける使用に関するとともに、それから作られた、次の用途:ガス/ガスろ過、高温ガスろ過、粒子ろ過、液体ろ過(精密ろ過、限外ろ過、ナノろ過、逆浸透など)のような分子分離およびろ過;廃水浄化、オイルおよび燃料ろ過;電気透析、電気的脱イオン、バッテリー(例えば、バッテリー用セパレータ)および燃料電池などの電気化学的用途;薬剤および栄養補助成分を含む放出制御の用途;パートラクション(pertraction)、パーベーパレイションおよびコンタクター用途;酵素の不動化、および加湿材、ドラッグデリバリー;(工業用)ふき取り布、外科用ガウンおよび掛け布、創傷包帯、組織工学、防護服、触媒担体、および各種コーティングのいずれか1つに使用するためのマイクロポーラスメンブレンに関する。このメンブレンはまた、例えば、透明フィルムなどのフィルムと組み合わせることにより補強材として使用することができる。
【0083】
本発明のナノファイバ、およびそれから作られた製品は親水性であり、したがって医療用途に非常に適している。そのような親水性ポリマーは、タンパク質凝固性をごく僅かに示すか、または全く示さない。このメンブレンは非常に高いフィルター効率を有しており、極性溶媒および水と組み合わせて使用すると有利である。創傷包帯では、メンブレンは抗微生物添加剤を含有させると有利である。抗微生物添加剤は、電界紡糸プロセスの前に溶液に加えてもよく、例えば、本発明の方法で得られる多孔質のナノファイバメンブレンに塗布してもよい。
【0084】
以下の実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明する。
【0085】
[方法]
[ゲル透過クロマトグラフィ(GPC)による分子量の測定]
Viscotek Triple Detector Analyzer(TDA 302)およびViscotek PDAと接続したViscotek GPCmax装置(Malvern)を使用してGPC測定を行った。3本の7μのPFG linear XLカラム(PSS)を使用した。移動相は、改質剤として0.1重量%のトリフルオロ酢酸カリウムを含むヘキサフルオロイソプロパノールとした。流量は0.8ml/分とした。SEC装置、カラムおよび検出器は35℃で操作した。データを収集し、3重検出器(屈折率、粘度および光散乱)キャリブレーションをベースに、Omnisec 4.6.1ソフトウェア(Viscotek)を使用して分析した。試料は、溶媒(移動相と同じ)に溶解する前に真空中で16時間乾燥させた。溶液は、GPC装置に注入する前に0.45μmのフィルター(Schleicher & Schuell)でろ過した。
【0086】
[溶液粘度]
ポリマー溶液の溶液粘度を、円筒測定システムに適したC−PTD200−SN80425502(Peltier)温度制御装置を備えたAnton Paar Physica MCR 501レオメータにより測定した。測定システムとして、同心円筒システムCC27(シリアルナンバー1770、直径26.64mm、同心度6μm)を使用した。使い捨てシリンダーを使用し、個々の溶液毎に新しいものを使用した。測定中の蒸発を防止/最小化するために、シリンダーの上部に取り付けた水を含有する溶媒トラップでシリンダー中の溶液を覆った。通常、試料溶液を25℃に保持して、使い捨てシリンダーに注いで移し、その後、5分待って試料の温度を25℃の測定温度に到達させた。測定は25℃で10〜1000s−1の定常剪断速度掃引により実施した。剪断速度100s−1における粘度の値を溶液の粘度としてmPa・s単位で報告した。なお、異なる溶液について測定したすべてで、剪断速度100s−1付近での粘度が剪断速度に依存することはなかった。
【0087】
[生産率]
連続ナノファイバ電界紡糸プロセスの生産率[g/hr]を、1時間に製造されるメンブレンまたはナノウェブの量と定義する。生産率の測定にあたり、連続紡糸ナノファイバメンブレンの層から、直径47mmの円形試料(いわゆるディスク)を打ち抜く。五(5)枚のディスクの重さを測定し、数平均値を計算する。この平均値から次式を使用して生産率を計算する。
【数1】
式中、
P=生産率[g/hr]
M=ディスク1枚当たりの堆積した物質の平均重さ[g]
O=ディスクの表面積[m
2]
S=線速[m/hr]
W=電極の幅[m]
【0088】
[ナノファイバのキャラクタリゼーション:ファイバ径、数平均および分布と標準偏差]
ファイバの数平均径を決定するために、十(10)個の試料をナノファイバウェブ層から採取し、それぞれについて、倍率5,000×で走査電子顕微鏡(SEM)像を撮像した。各写真から十(10)個の明瞭に識別できるナノファイバの直径を測定し記録して、合計百(100)個の個別の測定値を得た。欠陥は含めない(すなわち、ナノファイバ塊、ポリマー滴、ナノファイバの交差部分)。ファイバ径の分布は、これら百個の個々の測定値からなる。これらの百(100)個の個々の測定値から、ファイバの数平均径(d)および標準偏差(S)を計算する。
【0089】
[材料]
PA46−1/7 ポリアミド46ポリマー、全て直鎖状、MWは13,000g/Mol〜65,000g/Molで異なる、全て標準的な重合法により国内のDSMで製造。
PA46−X Aldrichから入手したPA46サンプル(製品番号44,299−2)
PA6−1/2 ポリアミド6ポリマー、両者とも直鎖状、Mwはそれぞれ30,000および41,000g/Mol、両者とも標準的な重合法を使用して国内のDSMで製造。
ギ酸 工業用グレード、ギ酸95%、水5%。
【0090】
上記GPC法により、全てのポリマー材料について特性評価を行った。PA46−XはAldrichから入手したPA46サンプルであり、GPCでより詳しく分析し、結果をPA46−1のものと共に表1に併せ示す。
【0092】
Aldrich製品はPA46−1よりはるかに高いMwを有しており、実際、本発明の範囲外のもののようであった。なお、さらに、両製品は、直鎖状ポリマーの指標となるMark−Houwinkプロットを示した。
【0093】
[電界紡糸用ポリマー溶液の製造]
10〜30gの範囲のポリマー粉末または粒子を秤量し、200mlの95%ギ酸(プロアナライズ(Proanalyse)グレード、Merck製)に加えた。密閉フラスコ中、室温(25℃)で、マグネティックスターラーを使用して溶液を12時間撹拌した。その後、上記の方法で、25℃、剪断速度100s
−1における溶液粘度を測定した。
【0094】
異なる量のポリマーを使用して異なる濃度の溶液を製造した。得られた粘度のデータを濃度対粘度でプロットし、これを、予め選択した粘度の溶液を製造するのに必要な材料の量を特定するために使用した。異なるポリマーについてそれぞれ約600mPa・sおよび1000mPa・sの粘度の溶液であって、さらに別の実験で使用される溶液を、上記と同じ方法で、プロットから算出された特定の量から出発して製造した。溶液の製造後、その粘度を測定した。表2および3にこれらの溶液に関連するデータを示した。
【0095】
[ノズルフリー電界紡糸装置によるナノファイバの電界紡糸]
装置チャンバー、溶液槽、18cm回転4線式シリンダー型電極、トップ電極、および空気循環システムを備える、Czech RepublicのElmarco s.r.o.製、NS Lab 500を使用してナノファイバを紡糸した。電極が溶液槽を通って回転するとき、そのワイヤ上に溶液の一部を同伴させる。
基材として、厚さ約0.01mmの標準的な家庭用アルミホイルを使用した。全ての実験で、4線式18cm幅の電極を使用した。紡糸距離および印加電圧は全ての実験で固定し、それぞれ10cmおよび60kVとした。装置チャンバー内の相対湿度は、プリセット値(それぞれ45、38および27%RH)に設定およびコントロールし、各紡糸実験の間、標準相対湿度計を使用して連続的に測定した。乾燥空気条件を得るために、装置下部の空気吸入ゾーンにシリカゲル粒子を置いた。より高い湿度条件が必要な場合は、塩の飽和溶液または熱水容器のいずれかを装置チャンバー内に置いた。
【0096】
使用したポリマー溶液を25℃または29℃の温度で供給し、装置チャンバー内の空調システムを使用してその温度に維持した。実験の間、温度を測定し、報告した。基材速度として0.13m/分を使用し、下部シリンダー型電極には50Hzの回転周波数を使用した。各実験は少なくとも3分間行い、得られた、ナノファイバ堆積層で被覆された基材を回収した。
【0097】
ナノファイバの堆積層から、生産率、ナノウェブの坪量、ファイバの数平均径およびファイバ径分布を調べた。
【0098】
異なる相対湿度で行った異なるポリマー溶液の結果を、さらに下表にまとめる。
【0100】
データセットの最初の部分(パートA)は、実施例Iの比較的低MwのPA46でかなり高い生産性が得られたことを示している。比較実験Aの比較的高MwのPA46で、また比較実験Bの低MwのPA6では、生産率が非常に低くなっている。この低い生産率は、濃度が実施例Iに比べやや低いものの、比較実験Aよりはるかに高い比較実験BのPA6のデータから明らかなように、濃度がより低いというだけでは説明することはできない。さらに、高MwのPA46では、非常に低濃度で既にファイバ径は非常に大きくなっている。
【0101】
データセットの第2の部分(パートB)は、相対湿度が低いと、生産率が著しく増大することを示している。生産率は、比較実験Cから実施例IIになると、すなわち、ポリアミド46のMwが低下すると増加する。比較実験D、すなわち、3つの全実験の中でMwは最も小さく、かつ濃度が最も高いPA−6で、生産率が最も低くなっている。
【0102】
データセットの最後の部分(パートC)は、加工中の温度を上昇させると、実施例IIIと実施例IIを比較すると明らかなように、ファイバ径やその分布に殆ど影響することなく、生産率がより増大することを示している。さらに、PA46のMwをより減少させると、重大なビーズの生成を全く引き起こすことなく、生産率をより増大させることができる。これは、2つの比較実験BとDが両者ともいくらかのビーズを生成したことと対照的である。
【0103】
なお、さらに、標準偏差値が小さいことから明らかなように、PA46を使用した全ての実施例で、生産率の変動が非常に小さく、かつファイバの分布幅が狭かった(但し、実施例IV、およびMwが最も小さいPA46を用いた実施例では、ファイバの分布幅はやや広かった)。これらのポリマーでは、細径のファイバおよび最高の生産率が得られ、ビーズの生成は起こらなかった。これらの結果は、ピリジンを添加するなどの他の手段を使用せずに、高濃度の溶液を用いることによって達成された。
【0104】
[マルチノズル電界紡糸]
国際公開第05/073441A1号パンフレットに記載のものに類似したマルチノズル電界紡糸装置を使用した。紡糸距離および印加電圧は全ての実験で固定し、それぞれ12cmおよび32kVとした。基材速度は0.7m/分を選んだ。大気温度および湿度は、25℃および40%RHにコントロールした。実験では、ギ酸/水が85/15(重量/重量)の溶媒中で、数平均分子量が異なるPA46ポリマーから溶液を製造した。電界紡糸プロセスには、約1000mPa・sの粘度を有するポリマー溶液を使用した。データおよび結果を表3にまとめた。
【0106】
本発明の実施例VIおよびVIIのポリマーは、比較実験EおよびFと比べて、低粘度を保持しつつ、はるかに高濃度とすることができ、かつ電界紡糸プロセスをより円滑に進めながら、より高い生産能力を達成することができた。結果は、また、高濃度を使用でき、かつ、依然細径のナノファイバが得られることを示している。
【0107】
[溶液安定性]
200mlの異なる溶媒混合物およびシステムに、特定量のポリマー粉末または粒子を加えた。この研究では、3つの異なる高純度溶媒成分、すなわち、99.9%ギ酸、エタノールおよび水を使用した。異なる溶媒ブレンド物の組成を表3に示す。密閉フラスコ中、室温で、マグネティックスターラーを使用して溶液を12時間撹拌した。この12時間が経過後、溶液の粘度を、Anton Paar Physica MCR501レオメータにより、上記の方法で測定した。フラスコを室温条件で保存し、8週間に数回、溶液の粘度を測定した。4週間後および8週間後の試験結果を初期粘度と比較し、減少率(初期粘度のパーセントで表す)を表4に示す。
【0109】
表中のデータは、より低Mwのポリマー溶液、すなわち、本発明の実施例VIIIおよびIXが、高Mwポリマーの溶液より、はるかに良好な粘度安定性を有しており、本発明の方法が、他のポリマーより長い待機時間(stand times)で稼働可能であることを示している。