(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776119
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G11B 5/851 20060101AFI20150820BHJP
G11B 5/64 20060101ALI20150820BHJP
G11B 5/65 20060101ALI20150820BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
G11B5/851
G11B5/64
G11B5/65
G11B5/738
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-287301(P2011-287301)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-137842(P2013-137842A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100092820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100103274
【弁理士】
【氏名又は名称】千且 和也
(72)【発明者】
【氏名】西村 芳寛
(72)【発明者】
【氏名】佐野 聡
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 高行
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕三
(72)【発明者】
【氏名】高橋 有紀子
(72)【発明者】
【氏名】ボラプラガタ バラプラサド
(72)【発明者】
【氏名】宝野 和博
【審査官】
中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−264732(JP,A)
【文献】
特開2011−198455(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/073533(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/851
G11B 5/64
G11B 5/65
G11B 5/738
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にMgOとTiCとを主成分とするスパッタリングターゲットをDCスパッタリングすることにより配向制御層を形成する第一工程と、
前記配向制御層上にFeとPtとを主成分とする磁性層を形成する第二工程と、
を備えることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記第二工程は、前記配向制御層を形成した前記基板の温度が450℃以上に加熱された状態で形成され、
磁性層は、L10構造を有するFePt微粒子がC、SiO2、Al2O3、B、ZrO、ホウ素酸化物及びチタン酸化物のうちいずれか1種類以上からなる非磁性マトリックス中に均一に分散しており、前記FePt微粒子の組成がFexPt1−xであってxの範囲が0.4<x<0.6であり、前記FePt微粒子が膜垂直方向に磁化されていることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法により製造されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大量の情報を処理及び記憶することが可能な超高密度磁気記録媒体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の情報化社会の発展に伴い、大量の情報を処理及び記憶することが可能な超高密度磁気記録媒体の開発が切望されている。磁気記録媒体は、数nmの強磁性微粒子を非磁性マトリックス中に均一に分散したような微細構造をとっている。磁気記録媒体の記録密度を増加させるために、強磁性微粒子のサイズを現行の8nmから4nm程度まで減少させる必要がある。しかし、現在使われている磁気記録媒体は、CoCrPt−SiO
2のグラニュラー薄膜であり、CoCrPtを4nm程度にまで小さくすると、粒子の異方性エネルギーが小さくなり熱擾乱の影響を受け、確率的な磁化反転が起こる(超常磁性)ことが知られている。
【0003】
これを防ぐために、強磁性微粒子としてFePtなどの高い異方性をもつ材料を使う必要がある。FePtは、理論的には粒子のサイズを4nmまで小さくしても超常磁性化しないとされている。一方で、FePt粒子のサイズを4nmまで小さくすると磁化反転させるために必要な磁場(保磁力)が大きな値になる。
【0004】
高保磁力FePt媒体に情報を書き込むために開発されているのが、熱アシスト磁気記録である。熱アシスト磁気記録では、媒体をキュリー点(強磁性が常磁性に転移する温度)付近まで加熱して記録をするため、記録時の媒体の保磁力が小さく記録が可能になる。熱アシスト磁気記録媒体では、4nm程度で膜面垂直方向に磁化容易軸が向いたFePt微粒子を非磁性マトリックス中に均一(粒子径の分散が15%以下)に分散させたようなグラニュラー構造が必要とされる。ここで、このFePtグラニュラー薄膜等のFePt磁性層は工業的に安価なガラス基板上に形成する必要がある。しかし、ガラス基板(あるいはガラス基板上のヒートシンク層、たとえばNiTa)はアモルファスであり、通常FePtは垂直配向しない。そこで、例えば特許文献1では、高保磁力FePt媒体において、FePtを垂直配向させるためにMgOを用いた配向制御層を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−091009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、配向制御層として用いられるMgOは、絶縁体でありスパッタするには高周波(RF)スパッタリングが必要である。一方で、RFスパッタリングを用いた薄膜作製は、成膜速度が遅く、そのためにスループットが悪いという問題がある。磁気記録媒体の量産装置では、RFスパッタリング装置ではなく直流電源を用いたDCスパッタリング装置が使われているのが現状であり、FePt媒体の実用化においても、DCスパッタリング法により形成できるような配向制御層材料の開発が切望されている。
【0007】
そこで、本発明は、DCスパッタリングのできる配向制御層の上にFePt磁性層を形成し、量産可能な磁気記録媒体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するため、本発明は、基板上にMgOとTiCとを主成分とするスパッタリングターゲットをDCスパッタリングすることにより配向制御層を形成する第一工程と、前記配向制御層上にFeとPtとを主成分とする磁性層を形成する第二工程と、を備えることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、上記製造方法により製造されたことを特徴とする磁気記録媒体に関する。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、DCスパッタリングのできる配向制御層の上にFePt磁性層を形成し、量産可能な磁気記録媒体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1における磁気記録媒体のX線回折像を示す図である。
【
図2】実施例1における磁気記録媒体の断面TEM像を示す図である。
【
図3】実施例1における磁気記録媒体の磁化曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る磁気記録媒体の製造方法において、第1工程で用いられるスパッタリングターゲットは、MgOとTiCとを主成分とする。MgOとTiCとを主成分とすることで、形成された配向制御層に(001)配向の結晶配向性を付与することが可能となる。また、MgOとTiCとを主成分とすることで、スパッタリングターゲットが導電性を有し、絶縁体であるMgO単体では不可能なDCスパッタリングを行うことができる。DCスパッタリングを行うことで、成膜速度はMgO単体をRFスパッタリングする場合と比べると5倍以上早くすることが可能となる。なお、さらにDC電力をあげることにより、より高速の成膜が可能になる。また、第1工程において、DCスパッタリングの方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0013】
上記スパッタリングターゲット中に含まれるMgOとTiCとの比率(wt換算)は、90:10〜70:30であることが好ましく、85:15〜75:25であることがより好ましい。MgOの比率が90wt%より大きいとDCスパッタリングに適さなくなり、70wt%より小さくなるとc面配向が困難になる。
【0014】
また、上記スパッタリングターゲットは、MgOとTiCとを上記所定の割合で混合し、その混合物を既知のMgOなどの焼結方法、例えば、常圧焼結法、ホットプレス焼結法、熱間等方圧(HIP)焼結法、放電プラズマ(SPS)焼結法などで焼結することにより得ることが好ましい。上記のようにスパッタリングターゲットを製造することで、焼結体中のTiCが連なって導電性を有するため、DCスパッタリングによって、基板上に配向制御層を形成することができる。また、TiCは、MgOとともにDCスパッタリングによって成膜された際に、(001)配向の結晶配向性のある配向制御層を形成することが出来る。
【0015】
第1工程によって形成された配向制御層の膜厚は、15〜20nmが好ましい。15nm未満では、配向が不十分であり、20nmを超えると表面ラフネスが増加するため好ましくない。また、第1工程によって形成された配向制御層は、(001)配向の結晶配向性を有することが好ましい。配向制御層が(001)配向の結晶配向性を有することで、後述する磁性層を形成した際に磁性層として用いられるFePt微粒子を膜垂直方向に磁性化させることができる。
【0016】
本発明に係る磁気記録媒体の製造方法において、基板としては、ガラス基板、熱酸化Si基板などが好適に用いられる。その中でも、実用化の点から、ガラス基板が特に好ましい。
【0017】
本発明に係る磁気記録媒体の製造方法においては、上記基板と配向制御層との間に、NiTaからなるヒートシンク層を設けることもできる。ヒートシンク層を設けることで、記録後に効率的にFePt微粒子を冷却することができる。また、ヒートシンク層にNiTaを用いることで、配向制御層の(001)配向性をさらに向上させることが可能となるため好ましい。ヒートシンク層の膜厚は、20〜100nmが好ましい。ヒートシンク層は、例えば公知のスパッタリング方法などにより基板上に形成することができる。
【0018】
本発明に係る磁気記録媒体の製造方法において、第二工程は、例えばFeとPtを主成分とする合金スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングすることによって磁性層を形成することができる。また、FeとPtのそれぞれのスパッタリングターゲットを用いて同時スパッタリングすることによっても磁性層を形成することができる。
第二工程は、スパッタリング以外にも、物理蒸着法や化学蒸着法などで行うことも可能である。また、スパッタリングの場合には、DCスパッタリングだけでなくRFスパッタリングでも行うことができる。工業化においては、大きなスループットを必要とするため、DCを使ったスパッタリング法を使うのが好適である。
【0019】
上記FeとPtを主成分とする合金スパッタリングターゲットは、成膜される磁性層中のFeとPtの組成が1:1に近い組成、具体的には、Fe
xPt
1−xであってxの範囲が、0.4<x<0.6を示すように調整されたターゲット組成が好ましい。1:1組成とすることで、L1
0/A1相の規則・不規則変態温度が一番高くなることから、高いL1
0規則の駆動力を持つためである。
また、FeとPtのそれぞれのスパッタリングターゲットを用いる場合は、それぞれのターゲットに投入する電力を制御することにより、およそ1:1の成膜速度にすることができる。
非磁性マトリックスとなるC、SiO
2、Al
2O
3、B、ZrO、ホウ素酸化物、チタン酸化物などは、合金ターゲットの場合には上記材料を含んだものを、同時スパッタの場合にはそれぞれのターゲットを用意し同時に成膜を行う。
また、FePt合金+非磁性マトリックスとなる化合物の2つのターゲットを使った同時スパッタリングでもよい。この場合、膜のFeとPtの組成が1:1になるようなターゲット組成が必要である。また、非磁性マトリックスの体積分率は成膜速度を制御することにより行う。
【0020】
第二工程においては、磁性層を形成する際の基板の温度を450℃以上にすることが好ましく、500〜600℃が特に好ましい。基板の温度を450℃以上とすることで、高いL1
0規則度を持つFePt微粒子からなるグラニュラー構造が形成される。
【0021】
第二工程において製造された磁性層には、FePt以外にもC、SiC、SiO
2、Al
2O
3、B、ZrO、ホウ素酸化物、チタン酸化物等が含まれていてもよい。前記含有物は、FePtを100としたときに43〜67vol%であることが好ましい。
【0022】
上記磁性層の膜厚は、4〜6nmが好ましい。また、上記磁性層は、グラニュラー構造であることが好ましく、L1
0構造を有するFePt微粒子が非磁性マトリックスとなるC、SiO
2、Al
2O
3、B、ZrO、ホウ素酸化物及びチタン酸化物のうちいずれか1種類以上の中に均一に分散していることが好ましい。L1
0構造は、成膜時の温度を450℃以上とすることにより得られる。また、FePt微粒子は、非磁性材料と一緒にFePtをスパッタリングすることにより、容易に非磁性マトリックス中に均一分散させることができる。その際、FePt微粒子の粒子分散が10%以下であることが媒体に適しているため好ましい。また、成膜時の温度が高すぎると粒子が大きく不均一になる傾向があるので、成膜時の温度と非磁性マトリックスの体積分率は必要に応じて適宜選択することが好ましい。
【0023】
FePt微粒子の粒径は、10〜4nmであることが好ましい。また、上記磁性層におけるFePt微粒子の組成は、Fe
xPt
1−xであってxの範囲が、0.4<x<0.6であることが好ましい。xの範囲は、スパッタリングターゲットの組成調整、又は同時スパッタリングの場合にはFeとPtの成膜速度を制御することにより制御することができる。FePt微粒子の組成をこの範囲にすることで、L1
0規則構造が平衡相となるため好ましい。
【0024】
上記磁性層は、上記FePt微粒子が膜垂直方向に磁化されていることが好ましい。これは、MgOなどFePtが(001)配向するようなNaCl型の下地を選択することにより実現できる。また、保磁力は10kOe以上、磁気異方性エネルギーは10
7erg/cc以上であることが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。まず、それぞれの測定方法を以下に示す。
【0026】
(薄膜の結晶構造)
エックス線回折法で測定した。具体的には、θ−2θ法にて測定した。
【0027】
(微細構造)
透過型電子顕微鏡で測定した。膜断面を観察するために、断面のTEM試料をイオンミルで作製し、断面垂直方向から電子線を入射させ、明視野像を観察した。
【0028】
(磁気特性)
SQUIDで測定した。4mm角の試料をサンプルホルダーにセットし、膜面内と面直方向に磁場を印加して、磁化を測定した。
【0029】
(実施例1)
まず、膜構成が基板側から、熱酸化Si基板/NiTa(20nm)/MgOTiC(15nm)/FePt−C(6nm)である磁気記録媒体を作製した。具体的には、熱酸化Si基板にDCスパッタリング装置(エイコー社製)を用いて、DCスパッタリング法によりNiTa膜を成膜した。NiTaは合金ターゲットを用いた。成膜条件は、DC電力が20W、Arガス圧が5.5mTorr、成膜レートが0.5Å/sec、温度は室温であった。次に、同様にDCスパッタリングを行うことにより、NiTa膜上にMgOTiCターゲットを用いてMgOTiCからなる配向制御層を作製した。MgOTiCの成膜条件は、DC電力が50W、Arガス圧が4.5mTorr、成膜レートが0.438Å/sec、温度は室温であった。なお、MgOTiCターゲットは、MgOとTiCとを80:20の割合(wt換算)で混合し、ホットプレス焼結法で焼結することにより得た。
【0030】
NiTa、MgOTiCを室温で成膜したのち、基板温度を600℃に設定し、スパッタリング装置(アルバック社製)を用いて、DCスパッタリング法により、FePt−Cからなる磁性層を作製した。FePt−Cは、Fe、Pt、Cの3つのターゲットを用いた同時スパッタリング法により行った。スパッタリングは、磁性層中のFePt微粒子の組成がFe
xPt
1−x(x=0.5)となるように、成膜条件は、Arガス圧が約0.5Pa、投入電力はFeが12W、Ptが6W、Cが130W、成膜速度はFeが0.0714A/sec、Ptが0.0688A/sec、Cが0.0566A/secであった。
【0031】
図1に、薄膜のX線回折像を示す。FePt(001)および(002)、MgOTiC(002)のみの回折線が得られ、(001)配向したMgOTiC上にFePtが(001)配向していることがわかる。また、FePtの規則格子反射である(001)からの回折線が得られていることから、L1
0構造に規則化していることが分かる。
【0032】
図2に、薄膜の断面TEM像を示す。粒径約8nmのFePt微粒子が形成されており、媒体に適用可能な微細構造を持っていることが分かる。
【0033】
図3に、この薄膜の磁化曲線を示す。磁場印加方向は薄膜垂直方向(■)と面内方向(●)である。磁化曲線から薄膜が強い垂直異方性を有すること、また垂直方向で約10kOeの高い値が得られていることが分かる。