特許第5776178号(P5776178)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776178
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】ガラス溶融炉の堆積物除去方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/167 20060101AFI20150820BHJP
   G21F 9/16 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   C03B5/167
   G21F9/16 541M
   G21F9/16 541A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-282336(P2010-282336)
(22)【出願日】2010年12月17日
(65)【公開番号】特開2012-126630(P2012-126630A)
(43)【公開日】2012年7月5日
【審査請求日】2013年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100087527
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100157853
【弁理士】
【氏名又は名称】浅尾 英晴
(72)【発明者】
【氏名】西山 裕一
(72)【発明者】
【氏名】村本 知哉
(72)【発明者】
【氏名】泉 良範
(72)【発明者】
【氏名】綾部 統夫
(72)【発明者】
【氏名】前川 弘道
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−328197(JP,A)
【文献】 特開平03−179297(JP,A)
【文献】 特開平10−068798(JP,A)
【文献】 特開昭54−149000(JP,A)
【文献】 特開平06−324196(JP,A)
【文献】 特開2008−037673(JP,A)
【文献】 特開2008−174396(JP,A)
【文献】 特開2010−169415(JP,A)
【文献】 特開2011−202985(JP,A)
【文献】 特開2012−127928(JP,A)
【文献】 G. Chattopadhyay, Y. J. Bhatt, S. K. Khera,"Phase diagram of the Pd-Te system",Journal of the Less-Common Metals,NL,Elsevier Sequoia,1986年 9月,Volume 123,Page 251-266,ISSN 0022-5088
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/167
G21F 9/16
C22B 11/00
C01G 55/00
C01B 19/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉底部に白金族元素を含む堆積物がある状態の高レベル放射性廃液処理用のガラス溶融炉に、テルルを含有するテルル供給材を供給して、該供給されたテルル供給材に含有されるテルルと、上記白金族元素を含む堆積物中のパラジウムとにより、ガラス溶融炉の通常運転温度よりも低融点となるパラジウム−テルル合金、又は、パラジウムとテルルの固溶体を形成させ、この形成されたパラジウム−テルル合金、又は、パラジウムとテルルの固溶体をガラス溶融炉の通常運転温度で溶融させることにより、上記ガラス溶融炉の炉底部の堆積物を流動化させて該ガラス溶融炉の溶融ガラスの出口より排出させるようにすることを特徴とするガラス溶融炉の堆積物除去方法。
【請求項2】
テルル供給材として、テルル単体、二酸化テルル、テルルガラスのいずれかを用いるようにする請求項1記載のガラス溶融炉の堆積物除去方法。
【請求項3】
テルル供給材を、ガラス溶融炉の炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物中のパラジウムの推定量に対し、テルル供給材の供給が行われたガラス溶融炉内に存在するテルルの量が、パラジウム:テルル=63:37〜50:50[at%]の割合となるように供給するようにする請求項1又は2記載のガラス溶融炉の堆積物除去方法。
【請求項4】
テルル供給材を、ガラス溶融炉の運転中に供給するようにする請求項1、2又は3記載のガラス溶融炉の堆積物除去方法。
【請求項5】
テルル供給材を、ガラス溶融炉より溶融ガラスのドレンアウトをした後、該ガラス溶融炉に供給してガラス溶融炉の通常運転温度で溶融させるようにする請求項1、2又は3記載のガラス溶融炉の堆積物除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高レベル放射性廃液をガラス原料と共に溶融処理するために用いるガラス溶融炉にて、炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物を除去するために用いるガラス溶融炉の堆積物除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電における使用済み核燃料の再処理過程で発生する高レベル放射性廃液(HALW)は、非常に高い放射能を有する核分裂生成物を多く含むことから、物理的、化学的に安定なガラス固化体に処理するようにしてある。
【0003】
ガラス固化体の製造に使用するガラス溶融炉の1つとしては、直接通電加熱方式のガラス溶融炉があり、これは、金属製ケーシングに収納された耐火レンガ製の溶融炉本体内で、溶融ガラスに直接通電することにより、ジュール熱による加熱を行うことができるようにしてあり、この溶融炉本体内にて、高レベル放射性廃液をガラス原料と共に溶融して溶融ガラス化し、その後、上記溶融ガラスを、ガラス固化体を封入するためのキャニスタへ向けて排出させるようにしてある。
【0004】
ところで、上記高レベル放射性廃液中に含まれる金属元素のうち、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)の白金族元素はガラスマトリクスに溶解せず、酸化物等の形態で溶解ガラス中に懸濁する。
【0005】
これらの白金族元素の懸濁物はガラスよりも比重が大きいため、溶融炉本体内に存在する溶融ガラスの中で炉底部に沈降し易く、しかも粘性が高いために、圧密されることによって炉底部に堆積する。
【0006】
上記のようにして白金族元素を含む堆積物がガラス溶融炉の炉底部に堆積すると、該白金族元素を含む堆積物は溶融ガラスに比して電気抵抗が小さいために、電極より供給される電流が上記堆積物に集中して流れてしまい、ガラス溶融炉内の溶融ガラスに流れる電流が小さくなるために、溶融ガラスの通電加熱(ジュール熱による加熱)が阻害されて、溶融ガラスの加熱効率が低下してしまう。
【0007】
又、白金族元素を含む堆積物が炉底部に堆積することに伴って、溶融ガラスの流下ノズルへの安定した流動が阻害されるようになるため、流下ノズルからキャニスタへの溶融ガラスの排出速度が低下したり、流下ノズルの閉塞を引き起こす可能性もある。
【0008】
そのため従来は、ガラス溶融炉の炉底部に上記白金族元素を含む堆積物が堆積した場合は、ガラス溶融炉より溶融ガラスを一旦ドレンアウトさせた後、ガラス溶融炉の炉底部に堆積している白金族元素を含む堆積物を、はつり作業等で物理的に除去する手法が採られている。
【0009】
又、ガラス溶融炉の炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物を除去するための別の手法としては、ガラス溶融炉内の溶融ガラスを機械的撹拌や空気撹拌して、上記白金族を含む堆積物の流動性を高めるようにする手法が従来提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0010】
ガラス溶融炉の炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物を除去するための更に別の手法としては、ガラス溶融炉の下端部の流下ノズルより溶融ガラスを排出させるときに、流下ノズル付近の炉底部に存在する溶融ガラスの温度を、ガラス溶融炉の中央部に存在する溶融ガラスの温度よりも高くなるように温度制御することで、ガラス溶融炉内全体の溶融ガラスのうち、流下ノズル付近の炉底部に存在する白金族元素の濃度が高い溶融ガラスの粘性を相対的に低くして、該白金族元素の濃度が高い溶融ガラスを流下ノズルへ流下させ易くする手法も従来提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−37673号公報
【特許文献2】特開2008−174396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、ガラス溶融炉の炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物をはつりにより物理的に除去する手法を実施する場合は、ガラス溶融炉内の溶融ガラスをドレンアウトさせた後、該ガラス溶融炉を冷却する必要があるが、上記ガラス溶融炉は溶融炉本体が耐火レンガ製としてあるため、冷却に時間がかかると共に、再起動時に上記溶融炉本体を昇温させる際にも時間を要するため、ガラス溶融炉の運転停止期間が長期に亘るという問題がある。
【0013】
又、特許文献1に示された手法では、ガラス溶融炉内の溶融ガラスを機械的撹拌や空気撹拌により撹拌するようにしてあるが、このような撹拌では、ガラス溶融炉内の炉底部に沈降し、圧密されて粘性が高まっている白金族元素を含む堆積物を完全には浮き上がらせることが困難なため、すべての白金族元素を含む堆積物を流下、排出させることは難しい。そのため、炉底部の白金族元素を含む堆積物の量が徐々に多くなることを回避できないため、堆積物の量が多くなった時点で、上記したようなはつりによる物理的な除去作業を実施しなければならない。
【0014】
特許文献2に示された手法では、白金族元素の濃度が高い溶融ガラスの粘性を、ガラス溶融炉内全体の溶融ガラスの粘性に対して相対的に低くするようにしてあるが、該白金族元素の濃度が高い溶融ガラスは、元々通常の溶融ガラスに比して粘性が高いものであるため、ガラス溶融炉の下端部の流下ノズルより溶融ガラスを排出させるときの該溶融ガラスの排出速度が遅くなってしまう。
【0015】
しかも、上記特許文献1、2に示されたものでは、ガラス溶融炉の溶融炉本体内に、機械的撹拌や空気撹拌用の撹拌手段や、ガラス溶融炉の中央部に存在する溶融ガラスの温度を低下させるための温度制御手段を装備しなければならないため、ガラス溶融炉の構造が複雑化してしまう。
【0016】
そこで、本発明は、ガラス溶融炉の構造の複雑化を招くことなく、ガラス溶融炉の炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物を容易に且つ効率よく除去することができるようにするためのガラス溶融炉の堆積物除去方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、炉底部に白金族元素を含む堆積物がある状態の高レベル放射性廃液処理用のガラス溶融炉に、テルルを含有するテルル供給材を供給して、該供給されたテルル供給材に含有されるテルルと、上記白金族元素を含む堆積物中のパラジウムとにより、ガラス溶融炉の通常運転温度よりも低融点となるパラジウム−テルル合金、又は、パラジウムとテルルの固溶体を形成させ、この形成されたパラジウム−テルル合金、又は、パラジウムとテルルの固溶体をガラス溶融炉の通常運転温度で溶融させることにより、上記ガラス溶融炉の炉底部の堆積物を流動化させて該ガラス溶融炉の溶融ガラスの出口より排出させるようにするガラス溶融炉の堆積物除去方法とする。
【0018】
又、上記構成において、テルル供給材として、テルル単体、二酸化テルル、テルルガラスのいずれかを用いるようにする。
【0019】
更に、上記各構成において、テルル供給材を、ガラス溶融炉の炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物中のパラジウムの推定量に対し、テルル供給材の供給が行われたガラス溶融炉内に存在するテルルの量が、パラジウム:テルル=63:37〜50:50[at%]の割合となるように供給するようにする。
【0020】
上述の各構成において、テルル供給材を、ガラス溶融炉の運転中に供給するようにする。
【0021】
同様に、上述の各構成において、テルル供給材を、ガラス溶融炉より溶融ガラスのドレンアウトをした後、該ガラス溶融炉に供給してガラス溶融炉の通常運転温度で溶融させるようにする。
【発明の効果】
【0022】
本発明のガラス溶融炉の堆積物除去方法によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)炉底部に白金族元素を含む堆積物がある状態の高レベル放射性廃液処理用のガラス溶融炉に、テルルを含有するテルル供給材を供給して、該供給されたテルル供給材に含有されるテルルと、上記白金族元素を含む堆積物中のパラジウムとにより、ガラス溶融炉の通常運転温度よりも低融点となるパラジウム−テルル合金、又は、パラジウムとテルルの固溶体を形成させ、この形成されたパラジウム−テルル合金、又は、パラジウムとテルルの固溶体をガラス溶融炉の通常運転温度で溶融させることにより、上記ガラス溶融炉の炉底部の堆積物を流動化させて該ガラス溶融炉の溶融ガラスの出口より排出させるようにしてあるので、ガラス溶融炉の炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物を、粘性を低下させた状態で、該ガラス溶融炉からの溶融ガラスの排出時に該溶融ガラスと一緒に排出させることができる。このため、ガラス溶融炉の炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物を、容易に且つ効率よく除去することができる。
(2)又、上記堆積物の除去処理は、ガラス溶融炉へ上記テルル供給材を投入するという操作のみで実施することができることから、ガラス溶融炉に撹拌装置等の特別な装置を付加する必要はなく、よって、ガラス溶融炉の構造の複雑化を招くことはない。
(3)しかも、上記ガラス溶融炉の炉底部の堆積物の除去を、該ガラス溶融炉の炉内温度を冷却せずに実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のガラス溶融炉の堆積物除去方法の実施の一形態を示す概要図である。
図2】本発明の実施の他の形態を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0025】
図1は本発明のガラス溶融炉の堆積物除去方法の実施の一形態として、図1に示す如きガラス溶融炉に適用する場合を示すもので、以下のようにしてある。
【0026】
ここで、先ず、本発明を適用するガラス溶融炉の構成について概説すると、該ガラス溶融炉は、図1に符号1で示す如く、角筒形状として金属製ケーシング2に収納された耐火レンガ製の溶融炉本体3の内部にガラスの溶融処理を行うための溶融空間3aが形成してある。
【0027】
上記溶融炉本体3の上端部には、上記溶融空間3aに連通する原料供給ノズル4を設けて、該原料供給ノズル4に、高レベル放射性廃液6を供給するための廃液供給管5と、ガラス原料8を供給するための原料供給管7が接続してある。
【0028】
更に、上記ケーシング2及び溶融炉本体3の側壁部には、上記溶融空間3aに露出する複数の電極9が貫通させて設けてある。これにより、上記溶融炉本体3の溶融空間3aに貯留した溶融ガラス10に対し上記電極9を介して直接通電することによって生じるジュール熱を熱源として、該溶融ガラス10を800〜1200℃に加熱できるようにしてある。
【0029】
溶融炉本体3の上部位置には、間接加熱ヒータ11を備えて、ガラス溶融炉1の運転開始時に原料供給管7より原料供給ノズル4を通して溶融空間3aに投入されるガラス原料8を、該間接加熱ヒータ11による加熱によって通電可能な溶融状態とすることができるようにしてある。
【0030】
上記溶融炉本体3における溶融空間3aの下部は、たとえば、下向きの角錐形状として、その下端部に、誘導加熱コイルのような排出制御用の加熱手段13を備えた溶融ガラス10の出口としての流下ノズル12が設けてある。
【0031】
上記流下ノズル12の下端部には、図示しない結合装置を介してキャニスタ14を着脱自在に連結することができるようにしてある。
【0032】
以上の構成としてある上記ガラス溶融炉1を運転する場合は、上記溶融炉本体3の溶融空間3aに、予め上記原料供給管7より供給されるガラス原料8を溶融させて形成した800〜1200℃の溶融ガラス10を或る一定量貯留した状態で、上記廃液供給管5より供給される高レベル放射性廃液6と、上記原料供給管7より供給されるガラス原料8を、原料供給ノズル4を通して溶融空間に投入すると、上記高レベル放射性廃液6がガラス溶融炉1内で800〜1200℃の高温に加熱されて、高レベル放射性廃液6に含まれる水分が蒸発させられ、蒸発後に残った高レベル放射性廃液6が、上記ガラス原料8と共に溶融ガラス化するようになる。
【0033】
その後は、上記流下ノズル12の排出制御用加熱手段13により、該流下ノズル12内で固化している図示しないガラスによるプラグ(栓)を加熱し溶融させている間に、上記溶融炉本体3の溶融空間3aに貯留されている上記高レベル放射性廃液6を含有する溶融ガラス10の一部を、該流下ノズル12を通してその下端部に取り付けてあるキャニスタ14へ注入して、該キャニスタ14に封入することで、ガラス固化体(図示せず)を形成させるようにしてある。
【0034】
上記ガラス溶融炉1の運転を継続して行うと、図1に示すように、該ガラス溶融炉1の炉底部に、白金族元素を含む堆積物15の堆積が生じるようになる。
【0035】
そこで、本発明のガラス溶融炉の堆積物除去方法(以下、単に、本発明の堆積物除去方法と云う)を、上記のような炉底部に白金族元素を含む堆積物15の堆積が生じたガラス溶融炉1に対して、以下のようにして実施する。
【0036】
なお、ガラス溶融炉1の炉底部における白金族元素を含む堆積物15の堆積量は、ガラス溶融炉1の電極9より溶融ガラス10に通電するときの抵抗値の低下度や、電極9より溶融ガラス10に与える電力と該溶融ガラス10の温度との関係から求められる加熱効率の低下度から、推定可能であることが、本発明者等の経験則より判明している。
【0037】
又、或る一定量、たとえば、1トンのウラン燃料の使用済み核燃料の再処理過程で発生する高レベル放射性廃液6に含まれる白金族元素であるパラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)のそれぞれの量は判明している。
【0038】
本発明の堆積物除去方法では、上記のようにして白金族元素を含む堆積物15が炉底部に堆積した状態のガラス溶融炉1について、上述したように溶融ガラス10の通電時の抵抗値の低下度や、加熱効率の低下度から堆積物15の量を推定し、該推定された堆積物15の量と、上記高レベル放射性廃液6に含まれる白金族元素中におけるパラジウム(以下、Pdと記す)の含有割合を基に、予め、上記堆積物15中に含まれているPdの量を求めておく。
【0039】
その後、上記のようにして求められた上記堆積物15中のPdの量に対し、ガラス溶融炉1の溶融空間3aに存在するテルル(以下、Teと記す)の量が、Pd:Te=63:37〜50:50[at%(アトミックパーセント)]の割合となるように、Teを含有するテルル供給材16を、上記ガラス溶融炉1の溶融炉本体3の溶融空間3a内へ供給するようにする。
【0040】
具体的には、上記テルル供給材16は、Te単体の粒状物、二酸化テルル(TeO)の粒状物、又は、テルルガラス(Teガラス)の粒状物のいずれかを用いるようにすればよい。いずれのものを用いる場合であっても、上記ガラス溶融炉1へ投入するテルル供給材16の投入量は、上記したようにガラス溶融炉1の堆積物15中に含まれているPdの量との比から求まるTeの必要量と、Te、TeO、Teガラスにおけるテルル含有とを基に算出するようにすればよい。
【0041】
上記テルル供給材16を供給することで、ガラス溶融炉1の溶融空間3aに、上記堆積物15中のPdの推定量と、Teの量が、Pd:Te=63:37〜50:50[at%]の割合で存在させるようにしたのは、PdとTeは、上記63:37〜50:50[at%]の割合で融点が500℃程度(776K)となる共晶をつくることが判明しており、このことに鑑みて、後述するPd−Te合金、又は、PdとTeの固溶体の融点が、ガラス溶融炉1の通常運転温度である800〜1200℃よりも低くなるためである。
【0042】
なお、ガラス溶融炉1の溶融空間3aに供給される上記高レベル放射性廃液6には、元々Teが含まれている。このため、上記テルル供給材16として上記ガラス溶融炉1の溶融空間に実際に存在するTeの量は、溶融空間3aに供給された高レベル放射性廃液6に元々含まれているTeと、上記テルル供給材16により別途供給されたTeの和の量となる。よって、上記堆積物15中のPdの推定量に対し、上記所定の割合のTeを溶融空間3a内に存在させるためには、該所定の割合として必要とされるTeの量から、上記高レベル放射性廃液6に元々含まれているTeの量を引くことで、上記テルル供給材16により供給すべきTeの量を求め、これを該テルル供給材16として用いるTe、TeO、Teガラスにおけるテルル含有率で割ることによって、テルル供給材16の実際の供給量を算出するようにすればよい。
【0043】
又、上記テルル供給材16は、その供給装置(図示せず)を、たとえば、原料供給管7の上流側に接続して、該原料供給管7を通してガラス溶融炉1の溶融炉本体3内へ供給するようにすればよい。
【0044】
上記のようにしてガラス溶融炉1の溶融炉本体3内にテルル供給材16が投入されると、該テルル供給材16が、溶融炉本体3の溶融空間3aに貯留されている溶融ガラス10内で溶融して、上記テルル供給材16に含まれるTeが、溶融ガラス10に供給される。これにより、該溶融ガラス10に対して供給されたTeが、高レベル放射性廃液6に元々含まれていたTeと共に、上記ガラス溶融炉1の炉底部に形成されている堆積物15中のPdと反応して、Pd−Te合金、又は、PdとTeの固溶体となる。
【0045】
この際生成する上記Pd−Te合金、又は、PdとTeの固溶体は、前述したように上記堆積物15中のPdの推定量と溶融空間3a内のTeの量がPd:Te=63:37〜50:50[at%]の割合となるようにコントロールしてあるために、融点が500℃程度(776K)となり、ガラス溶融炉1における高レベル放射性廃液6をガラス原料8と共に溶融ガラス化させるときの処理温度である800〜1200℃よりも融点が低くなる。したがって、上記ガラス溶融炉1では、高レベル放射性廃液6をガラス原料8と共に溶融ガラス化させる処理の間に、上記溶融炉本体3の炉底部に堆積している白金族元素を含む堆積物15にて、該堆積物15中に含まれているPdが、上記Pd−Te合金、又は、PdとTeの固溶体というTeとの化合物となることに伴って800〜1200℃で容易に溶融して、該化合物が堆積物15より分離されるようになる。
【0046】
このため、上記堆積物15における白金族元素の濃度が低下するようになることから、該堆積物15の粘性が低下する。よって、この粘性が低下した堆積物15は、溶融ガラス10を流下ノズル12よりキャニスタ14へ向けて排出させるときに、該溶融ガラス10と一緒に流下、排出させることが可能になる。又、上記800〜1200℃で溶融しているPd−Te合金、又は、PdとTeの固溶体も、溶融ガラス10を流下ノズル12よりキャニスタ14へ向けて排出させるときに、該溶融ガラス10と一緒に流下、排出させることが可能になる。
【0047】
このように、本発明の堆積物除去方法によれば、ガラス溶融炉1の通常運転中に、推定される該堆積物15中のPdの量に対して上記所定の比率以上となるTeを含むテルル供給材16を該ガラス溶融炉1へ供給するという操作により、ガラス溶融炉1の炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物15の粘性を低下させて、該ガラス溶融炉1からの溶融ガラス10の排出時に、該溶融ガラス10と一緒に排出させることができるため、ガラス溶融炉1の炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物15を、容易に且つ効率よく除去することができる。
【0048】
又、上記堆積物15の除去処理は、ガラス溶融炉1の通常運転中に、溶融炉本体3内へ上記テルル供給材16を投入するという操作のみで実施することができることから、溶融炉本体3に特別な装置を付加する必要はないため、ガラス溶融炉1の構造が複雑化することはない。
【0049】
しかも、上記ガラス溶融炉1の炉底部の堆積物15の除去を、該ガラス溶融炉1の運転中に行うことができるため、上記堆積物15の除去処理を行う際のガラス溶融炉1の溶融ガラス10のドレンアウトを実施する手間及び時間を不要にすることができる。
【0050】
又、テルル供給材16として、テルル単体、二酸化テルル、テルルガラスのいずれかを用いるようにしてあるので、該テルル供給材16を溶融ガラス10中に溶解させても、酸素やガラスは溶融ガラス10に元々多く含まれている成分であるため、該溶融ガラス10にTeの濃度変化以外の変化の影響が生じることはない。
【0051】
なお、上記においては、テルル供給材16を、テルル単体、二酸化テルル、テルルガラスの粒状物として説明したが、テルル供給材16の形状やサイズは、供給対象となるガラス溶融炉の形式や、供給手段に応じて適宜変更してもよい。
【0052】
次に、図2は本発明の実施の他の形態を示すもので、以下に示す手順で実施するようにしてある。
【0053】
すなわち、図1に示したと同様のガラス溶融炉1にて、ガラス溶融炉1の炉底部における白金族元素を含む堆積物15の堆積が生じ、溶融ガラス10の通電時の抵抗値の低下度や、加熱効率の低下度から、上記堆積物15の堆積量を推定すると共に、該堆積物15中に含まれているPdの量を求めた段階で、上記ガラス溶融炉1より、溶融ガラス10のドレンアウトを実施する。
【0054】
次に、図1に示したと同様のテルル供給材16を、上記推定される堆積物15中のPdの量に対して前述した所定の比率となるTeを含む量でガラス溶融炉1へ供給する。なお、本実施の形態では、ガラス溶融炉1より溶融ガラス10はドレンアウトさせるため、該ガラス溶融炉1の溶融空間3aには、高レベル放射性廃液6に由来するTeは殆ど残らない。よって、本実施の形態では、テルル供給材16に含まれるTeの量が、上記推定される堆積物15中のPdの量に対して前述した所定の比率となるTeの量となるように、Te供給材16の供給量を設定するようにすればよい。これにより、上記ガラス溶融炉1へ供給されたテルル供給材16は、上記溶融ガラス10がドレンアウトされた後の溶融炉本体3の内側を落下して炉底部、すなわち、該ガラス溶融炉1の炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物15の付近に溜まるようになる。
【0055】
次いで、上記ガラス溶融炉1に装備されている間接加熱ヒータ11により、上記炉底部に溜まった上記テルル供給材16を、800〜1200℃に加熱して溶融させるようにする。
【0056】
これにより、上記溶融したテルル供給材16に含まれるTeが、上記ガラス溶融炉1の炉底部に形成されている堆積物15中のPdと反応して、Pd−Te合金、又は、PdとTeの固溶体となり、これらの化合物が800〜1200℃で容易に溶融して、上記堆積物15より分離されるようになるため、該堆積物15における白金族元素の濃度が低下して、その粘性が低下する。
【0057】
よって、この状態で、流下ノズル12を開くことにより、上記粘性が低下した堆積物15、及び、溶融したPdとTeの化合物を、該流下ノズル12を通して外部に排出させることができるようになる。この排出される粘性が低下した堆積物15、及び、溶融したPdとTeの化合物は、キャニスタ14(図1参照)に受けるようにするか、あるいは、白金族元素が含まれている点に鑑みて、別の図示しない容器に回収してから、白金族元素の回収を行う処理設備に送るようにしてもよい。
【0058】
図2において、図1に示したものと同一のものには同一符号が付してある。
【0059】
このように、本実施の形態によっても、ガラス溶融炉1の炉底部に堆積した堆積物15を除去することができる。
【0060】
更に、溶融ガラス10をドレンアウトした後の溶融炉本体3内にテルル供給材16を供給するようにしてあるため、炉底部の堆積物15に対し、間接加熱ヒータ11による加熱で溶融させるテルル供給材16中のTeを効率よく接触させることができる。このため、該堆積物15に含まれるPdとTeとを効率よく反応させることができて、上記堆積物15の粘性を低下させるのに要する時間を低減させる効果や、堆積物15の除去効率をより高める効果が期待できる。
【0061】
更に、本実施の形態の処理を実施する際には、ガラス溶融炉1の運転を一旦停止して、溶融炉本体3より溶融ガラス10のドレンアウトを実施する必要はあるが、該溶融ガラス10のドレンアウト後に上記テルル供給材16を投入するときには、炉内温度を冷却する必要はなく、又、上記したように粘性が低下した堆積物15、及び、溶融したPdとTeの化合物を、流下ノズル12を通して外部に排出させる際にも、炉内温度を冷却する必要はない。よって、ガラス溶融炉1の炉内温度の冷却及び再加熱を必要としないことから、上記堆積物15の除去処理に伴うガラス溶融炉1の運転停止期間を、従来のはつりによる堆積物15の除去処理を行う場合に比して、大幅に短縮させることが可能になる。
【0062】
なお、上記図1の実施の形態においては、ガラス溶融炉1の堆積物15に含まれるPdと、テルル供給材16中のTeと高レベル放射性廃液6に由来するTeとの和の割合を、又、図2の実施の形態では、ガラス溶融炉1の堆積物15に含まれるPdと、テルル供給材16中のTeとの割合を、いずれもPd:Te=63:37〜50:50[at%]となるようにするものとして説明したが、Pd:Te=34:66[at%]の割合よりもTeの割合が大となるように、上記テルル供給材16の供給量を設定するようにしてもよい。
【0063】
このようにすると、上記堆積物15に含まれるPdが、ガラス溶融炉1の溶融空間3a内に存在するTeと共に、450℃程度(719K)の共晶点をとるPd−Te合金(PdTe)、又は、PdとTeの固溶体を形成するようになる。この際、ガラス溶融炉1の溶融空間3aに供給されたTeのうち、Pdと共に上記低融点共晶を形成する量よりも過剰となる分は、上記ガラス溶融炉1の溶融空間3aに貯留されている溶融ガラス10と共にテルルガラスとなって該溶融ガラス10に取り込まれたり、あるいは、単独で溶融するため、ガラス溶融炉1より排出させることに何ら問題は生じない。
【0064】
したがって、この場合にも、炉底部に堆積した白金族元素の堆積物を除去することができる。
【0065】
又、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、テルル供給材16は、原料供給管7を通して溶融炉本体3内に供給するものとして示したが、溶融炉本体3の上部に設けてある図示しない仮設フランジを介して該溶融炉本体3内へ供給するようにしてもよい。
【0066】
本発明の堆積物除去方法は、高レベル放射性廃液6をガラス原料8と共に溶融ガラス10化させるようにしてあるガラス溶融炉1であって、炉底部に堆積する白金族元素を含む粘性の高い堆積物15の除去が必要とされるガラス溶融炉1であれば、図示した以外のいかなる形式のガラス溶融炉1からの堆積物15の除去に適用してもよい。
【0067】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0068】
1 ガラス溶融炉
6 高レベル放射性廃液
10 溶融ガラス
12 流下ノズル(出口)
15 堆積物
16 テルル供給材
図1
図2