特許第5776216号(P5776216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5776216電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776216
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 3/045 20060101AFI20150820BHJP
   F02P 3/05 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   F02P3/045 301A
   F02P3/05 E
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-34463(P2011-34463)
(22)【出願日】2011年2月21日
(65)【公開番号】特開2012-172572(P2012-172572A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2014年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150441
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 繁美
【審査官】 寺川 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−004991(JP,A)
【文献】 特開2012−036848(JP,A)
【文献】 特開2005−351263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 1/00 − 3/12
F02P 7/00 − 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火信号に応じて点火コイルの一次コイルに流れる一次電流のオン・オフを制御する絶縁ゲート型トランジスタと、前記一次電流の電流値を制御する電流制御回路と、少なくとも前記一次電流値が予め設定された定格電流値を超える過電流状態を含む異常状態を検知すると前記一次電流を遮断する自己遮断回路部と、を有する半導体装置であって、
前記自己遮断回路部が前記異常状態を検知すると、前記定格電流を前記一次電流に等しい電流値にしてから漸減させ、前記一次電流を前記定格電流により規制して減少させることを特徴とする電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置。
【請求項2】
前記半導体装置は、コンデンサの一端の電圧に前記定格電流を電圧に換算した基準電圧を生成する前記自己遮断回路部を有し、前記一次電流を電圧に換算したセンス電圧を検出して該センス電圧が前記基準電圧より大きいと該センス電圧が前記基準電圧に等しくなるよう前記一次電流の制御行い、
前記自己遮断回路部が前記異常状態を検知すると、前記センス電圧と前記コンデンサの一端を短時間だけ短絡させることを特徴とする請求項1に記載の電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置。
【請求項3】
前記センス電圧と前記コンデンサの一端を短絡させた後に、前記コンデンサを前記センス電圧から開放するとともに電流源により前記コンデンサを放電させることを特徴とする請求項2に記載の電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置。
【請求項4】
点火信号に応じて点火コイルの一次コイルに流れる一次電流のオン・オフを制御する絶縁ゲート型トランジスタと、前記一次電流の電流値を制御する電流制御回路と、を有する半導体装置であって、
前記電流制御回路は、前記一次電流を電圧に換算したセンス電圧を検出するセンス電圧検出部と、予め設定された定格電流を電圧に換算した基準電圧を生成する基準電圧回路部と、前記センス電圧と前記基準電圧の差電圧を検出して前記センス電圧が前記基準電圧より大きいと前記絶縁ゲート型トランジスタのゲート電圧を制御して前記一次電流が前記定格電流に等しくなるように制御するゲート電圧制御部と、少なくとも前記一次電流値が前記定格電流を超える過電流状態を含む異常状態を検知すると前記一次電流を遮断する自己遮断回路部と、前記自己遮断回路部が前記異常状態を検知すると短時間のパルス信号を生成するパルス発生回路と、前記パルス信号によりオン・オフが制御されるスイッチ回路と、を備え、
前記異常状態が発生すると、前記パルス信号により前記スイッチ回路が短時間だけ導通し前記基準電圧を前記センス電圧に等しくなるようにしてから漸減させ、前記一次電流を前記基準電圧により規制して減少させることを特徴とする電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置。
【請求項5】
前記スイッチ回路は、MOSFETで構成されることを特徴とする請求項4に記載の電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置。
【請求項6】
前記パルス発生回路は、前記自己遮断回路部が前記異常状態を検知したことを知らせる自己遮断信号を、抵抗とコンデンサで構成される積分回路とインバータの駆動電圧に供給し、前記積分回路の出力を前記インバータに入力することにより短時間のパルス信号を発生させることを特徴とする請求項4に記載の電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置。
【請求項7】
前記絶縁ゲート型トランジスタの代りに、MOSFETまたはバイポーラトランジスタを用いることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の内燃機関点火装置に用いられる半導体装置に関し、特に、電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用内燃機関の点火装置には、点火コイルの一次側電流をスイッチング制御するパワー半導体素子を内蔵した半導体装置が用いられている。図2に、パワー半導体素子として絶縁ゲート型トランジスタ(以下、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)という。)を使用した、従来の内燃機関の点火用半導体装置の構成例を示す。図2は、本出願人が本願に先行して出願した点火用半導体装置の構成例である。(特許文献1)
図2に示した点火用半導体装置は、エンジンコントロールユニット(以下、ECU(Electronic control unit)という。)1と、点火用半導体集積回路(以下、点火用IC(Integrated Circuit)という。)2と、点火コイル7と、電圧源10と、点火プラグ11と、から構成されている。
【0003】
点火用IC2は、点火コイルの一次電流をオン(短絡)・オフ(開放)制御する出力段IGBT4と、その出力段IGBT4のコレクタ電流、すなわち、点火コイル7の一次電流を制御する電流制御回路3から構成されている。
【0004】
また、電圧源10は一定電圧(例えば14V)であり、電圧源10は点火コイル7の一次コイル8に接続される。一次コイル8の別端子は点火用IC2のC端子(コレクタ電極)に接続され、点火用IC2のE端子(エミッタ電極)は接地電位(以下、GNDという。)に、G端子(ゲート電極)はECU1に接続されている。
【0005】
ここで、図2に示した点火用半導体装置の動作について説明する。ECU1は、点火用IC2の出力段IGBT4のオンとオフを制御する信号を、点火用IC2のG端子に出力する。例えば、G端子に5Vが出力されると、点火用IC2の出力段IGBT4がオンし、G端子に0Vが出力されると、点火用IC2の出力段IGBT4がオフする。
【0006】
先ず、ECU1からG端子にオン信号が出力されると、点火用IC2の出力段IGBT4はオンし、電圧源10から点火コイル7の一次コイル8を介して、点火用IC2のC端子にコレクタ電流(以下、Icという。)が流れ始める。このIcは一次コイル8のインダクタンスと一次コイル8に印加される電圧でdI/dtが決定され、電流制御回路3で制御される一定電流値(例えば20A)まで増加するとこの電流値を維持する。
【0007】
次に、ECU1からオフ信号がG端子に出力されると、点火用IC2の出力段IGBT4はオフし、Icは急激に減少する。この急激なIcの変化により、一次コイル8の両端電圧は急激に大きくなる。同時に、二次コイル9の両端電圧も数10kV(例えば30kV)まで増加し、その電圧が点火プラグ11に印加される。点火プラグ11は、印加電圧が約10kV以上で放電する。
【0008】
また、ECU1から出力されたオン信号が所定時間より長い(例えば10msec以上)、あるいは、IC2の温度が規定値より高い(例えば180℃以上)等、点火コイル7やIC2に焼損等の故障が発生する恐れのある異常状態の場合は、タイマー回路あるいは温度検知回路等の手段を用いた自己遮断信号源15で生成される自己遮断信号Vsdを発信し、自己遮断回路16が動作しIcを遮断する。
【0009】
しかし、このような電流制御機能や自己遮断機能によりIcを急激に遮断するとIcに振動を発生させ、点火プラグの誤点火を引き起こし、エンジンにダメージを与えるという問題点がある。このIcの振動による誤点火の問題の解決策として、Icを緩減する技術が知られており、特許文献2では、ソフトシャットオフ回路を設け緩減時間を設定する方法が開示されている。また、特許文献3では、ダイオードとコンデンサによる積分回路を設けIcの緩減時間を設定する方法が開示されている。
【0010】
一方、図2に示した点火用半導体装置は、点火用IC2の出力段IGBT4を後で説明するゲート制御回路19で制御することにより、点火プラグ11が誤放電しないような範囲でIcの緩減(dI/dt(例えば−1A/msec))を実現している。
【0011】
次に、図2に示した点火用IC2の電流制御回路3の回路構成について説明する。電流制御回路3は、G端子とE端子間の電圧で駆動され、センスIGBT5と、センス抵抗6と、ゲート抵抗12と、基準電圧源13と、レベルシフト回路14と、自己遮断信号源15と、自己遮断回路16と、オペアンプ17と、MOSFET((Metal-Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)以下、MOSという。)18と、ゲート制御回路19と、から構成されている。
【0012】
センスIGBT5のコレクタは出力段IGBT4のコレクタと共通に接続され、ゲートはゲート制御回路19により制御され、エミッタはセンス抵抗6が直列接続されている。このセンスIGBT5とセンス抵抗6により、センス抵抗6に流れる電流(センス電流)を電圧に変換し、Icに比例した電流値を電圧値に換算したセンス電圧源Vsを生成する。そして、このセンス電圧源Vsを基準電圧源13に予め設定された電圧値と等しくなるようにオペアンプ17はMOS18のゲート電圧を制御し、ゲート抵抗12およびゲート制御回路19を介して出力段IGBT4およびセンスIGBT5のゲート電圧を制御しIcを規定電流値に制御する。
【0013】
図3に基準電圧源13の回路構成例を示す。基準電圧源13は、DepMOSFET((Depression Metal-Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)以下、DepMOSという。)22とMOS23がゲートを共通にして直列接続されるバイアス回路で生成される電圧を、抵抗24と抵抗25の分圧回路にて所定の電圧に分圧し、基準電圧源Vrを生成する。この基準電圧源Vrの設定電圧により、Icの定格電流を制御する。
【0014】
図4にレベルシフト回路14の回路構成例を示す。レベルシフト回路14は、DepMOS26とMOS27がゲートを共通にして直列接続されるバイアス回路と、MOS27とカレントミラー回路を構成するMOS29と、MOS29と直列接続されるDepMOS28とで構成され、入力信号(基準電圧源Vrまたはセンス電圧源Vs)によりDepMOS28のゲート電圧を制御し、所定の電圧値にレベルシフトした出力信号(基準電圧Vrefまたはセンス電圧Vsns)を生成し出力する。
【0015】
図5に自己遮断回路16の回路構成例を示す。自己遮断回路16は、DepMOS30とMOS31がゲートを共通にして直列接続されるバイアス回路と、MOS31とカレントミラー回路を構成するMOS34と、MOS34と直列接続されるMOS33と、インバータ32と、コンデンサ35で構成される。MOS33は、自己遮断信号源15で生成される自己遮断信号Vsdでオン・オフが制御され、通常動作時はオンで異常時はオフとなる。また、MOS33のオン抵抗をMOS34のオン抵抗に比べ十分小さく設定することで、通常動作時は基準電圧Vref(基準電圧源Vrがレベルシフトされた電圧)がコンデンサ35に充電されてそのまま出力し、異常時はコンデンサ35に充電された基準電圧VrefがMOS34を介してGNDに放電することにより出力電圧をVrefから0Vへ徐々に低下させる。
【0016】
オペアンプ17は、レベルシフト回路14を介して各々レベルシフトされた基準電圧Vrefとセンス電圧Vsnsの差電圧を検出し、検出結果によりMOS18のゲート電圧を制御する。すなわち、基準電圧Vref>センス電圧Vsnsの場合は、MOS18はオフとなり、基準電圧Vref<センス電圧Vsnsの場合は、MOS18はオンとなり、ゲート電圧によりMOS18のオン抵抗が制御される。
【0017】
図6に示したゲート制御回路19は、本出願人が特許文献1にて開示した回路構成例であり、G端子に接続するゲート抵抗12とMOS18のオン・オフで確定する電圧とE端子間で駆動される。出力段IGBT4のゲート電圧VGoutは、抵抗41と抵抗42の抵抗分圧回路の分圧電圧により制御される。また、センスIGBT5のゲート電圧VGsnsは、抵抗36と抵抗37の抵抗分圧回路の分圧電圧によりゲートが駆動されるMOS40と抵抗38と抵抗39からなる可変抵抗回路を備え、MOS40のオン抵抗を制御することで抵抗38と抵抗39の分圧電圧を可変して制御される。
【0018】
このゲート制御回路19は、基準電圧Vrefとセンス電圧Vsnsとの差電圧の検出結果を受け、出力段IGBT4のゲート電圧VGoutとセンスIGBT5のゲート電圧VGsnsに電圧差(オフセット)を設け、電流制御時や自己遮断時のコレクタ電流の振動を抑制し、点火プラグの誤点火を防止することを目的としている。
【0019】
次に、図2に示した点火用半導体装置の動作波形について図9を用いて説明する。図9(A)は、Icが電流制限値Ilimに達した後に自己遮断動作する場合を示している。ECU1よりオン信号(例えば5V)が入力されるとセンス電圧Vsns(センス電圧源Vsをレベルシフト回路14で昇圧した電圧)が上昇し、基準電圧Vref(基準電圧源13のセンス電圧源Vrをレベルシフト回路14で昇圧した電圧)に達すると、MOS18がオンして出力段IGBT4のゲート電圧VGoutが低下し、オペアンプ17によりVref=Vsnsになるように制御される(t1)。次に、自己遮断信号源15から自己遮断信号Vsdが出力されると、自己遮断回路16により基準電圧Vrefが徐々に低下し、Vref=Vsnsを保持するようにVGoutも低下していく(t2)。そして、VGout=Vth(IGBT4のしきい値電圧、例えば2V)に達するとIcは完全に遮断する(t3)。
【0020】
ここで、センス電圧Vsnsはレベルシフト回路14により設定した電圧(例えば0.5V)以下にはならないが、基準電圧Vrefは0V程度まで下がるためVGoutはVthより十分小さくしてIcを完全に遮断する。なお、レベルシフト回路14は、Ic=0の場合でもVsns>Vref>0の関係を維持するために設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特願2010−178317号
【特許文献2】特開2008−45514号公報
【特許文献3】特開2006−37822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
図2に示した点火用半導体装置において、通常の動作条件を電流制御の設定値Ilim=20A、電圧源10の駆動電圧Vb=14V、一次コイル8の抵抗と配線抵抗を合算した負荷抵抗RL=0.6Ωに設定していて、駆動電圧Vbが低い場合(例えば12V)や負荷抵抗RLが大きい場合(例えば0.7Ω)の動作波形を、図9(B)に示す。ECU1よりオン信号(例えば5V)が入力されるとセンス電圧Vsnsは上昇するが、基準電圧Vrefまでは上昇せずに一定電圧値を保つ(t4)。この場合Ic=(Vb−Vc)/RLとなる(Vcはコレクタ電圧)。次に、自己遮断信号源15から自己遮断信号Vsdが出力されると(t5)、自己遮断回路16により基準電圧Vrefが徐々に低下を開始し、Vref=Vsnsとなった直後(t6)にVGoutが急激に低下し、その後はVref=Vsnsを保持するようにVGoutも低下していく。
【0023】
タイマーにより自己遮断動作をする場合、自己遮断信号源15のタイマー回路で正確に自己遮断信号Vsdを出力しても、Icが低下し始めるまでには遅延時間(t6−t5)が発生してしまう。すなわち、見掛けのタイマー時間は、駆動電圧Vbや負荷抵抗RLなどの使用条件によって変化してしまうという問題がある。
【0024】
ここで、出力段IGBT4の拡散電位Vbi=0.6V、オン抵抗Ron=0.07Ω、緩減速度dI/dt=−1A/msecの条件での遅延時間の駆動電圧Vbの依存性を図8(A)、負荷抵抗RLの依存性を図8(B)に示す。点火用半導体装置の汎用性を考えると広範囲な動作条件に対応できる必要があり、自己遮断動作時の遅延時間(t6−t5)も一定であることが望ましい。しかし、タイマー時間を10msecに設定した場合、動作条件によって遅延時間が2倍程度まで延びてしまう場合がある。また、自己発熱など動作温度により自己遮断する場合、自己遮断信号源15の温度検知回路で自己遮断信号Vsdを出力しても、Icが低下し始めるまでには遅延時間(t6−t5)が発生してしまう。この場合、Icが低下し始めるまで動作温度は上昇し続けるため、自己遮断信号Vsdが出力された場合は直ちにIcを低下する動作が望ましい。
【0025】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、
電流制御機能や自己遮断機能を備えた点火用半導体装置において、電流制御機能や自己遮断機能が動作した場合のIcの緩減対策とともに、駆動電圧Vbや負荷抵抗RLが変動しても一定の時間で自己遮断する点火用半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上述した課題を解決するため、本発明の電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置は、パルス発生回路とスイッチ回路を備え、自己遮断信号Vsdの出力直後の短時間だけスイッチ回路を短絡させ、基準電圧Vref=センス電圧Vsnsとしてからスイッチ回路を開放する構成とする。
【0027】
すなわち、本発明の電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置は、点火信号に応じて点火コイルの一次コイルに流れる一次電流のオン・オフを制御する絶縁ゲート型トランジスタと、前記一次電流の電流値を制御する電流制御回路と、少なくとも前記一次電流値が予め設定された定格電流値を超える過電流状態を含む異常状態を検知すると前記一次電流を遮断する自己遮断回路部と、を有する半導体装置であって、前記自己遮断回路部が前記異常状態を検知すると、前記定格電流を前記一次電流に等しい電流値にしてから漸減させ、前記一次電流を前記定格電流により規制して減少させる設定することを特徴とする。
【0028】
また、本発明の電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置は、前記半導体装置は、コンデンサの一端の電圧に前記定格電流を電圧に換算した基準電圧を生成する前記自己遮断回路部を有し、前記一次電流を電圧に換算したセンス電圧を検出して該センス電圧が前記基準電圧より大きいと該センス電圧が前記基準電圧に等しくなるよう前記一次電流の制御行い、前記自己遮断回路部が前記異常状態を検知すると、前記センス電圧と前記コンデンサの一端を短時間だけ短絡させることを特徴とする。
【0029】
また、本発明の電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置は、前記センス電圧と前記コンデンサの一端を短絡させた後に、前記コンデンサを前記センス電圧から開放するとともに電流源により前記コンデンサを放電させることを特徴とする。
【0030】
また、本発明の電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置は、点火信号に応じて点火コイルの一次コイルに流れる一次電流のオン・オフを制御する絶縁ゲート型トランジスタと、前記一次電流の電流値を制御する電流制御回路と、を有する半導体装置であって、前記電流制御回路は、前記一次電流を電圧に換算したセンス電圧を検出するセンス電圧検出部と、予め設定された定格電流を電圧に換算した基準電圧を生成する基準電圧回路部と、前記センス電圧と前記基準電圧の差電圧を検出して前記センス電圧が前記基準電圧より大きいと前記絶縁ゲート型トランジスタのゲート電圧を制御して前記一次電流が前記定格電流に等しくなるように制御するゲート電圧制御部と、少なくとも前記一次電流値が前記定格電流を超える過電流状態を含む異常状態を検知すると前記一次電流を遮断する自己遮断回路部と、前記自己遮断回路部が前記異常状態を検知すると短時間のパルス信号を生成するパルス発生回路と、前記パルス信号によりオン・オフが制御されるスイッチ回路と、を備え、前記異常状態が発生すると、前記パルス信号により前記スイッチ回路が短時間だけ導通し前記基準電圧を前記センス電圧に等しくなるようにしてから漸減させ、前記一次電流を前記基準電圧により規制して減少させることを特徴とする。
【0031】
また、本発明の電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置は、前記スイッチ回路は、MOSFETで構成されることを特徴とする。
また、本発明の電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置は、前記パルス発生回路は、前記自己遮断回路部が前記異常状態を検知したことを知らせる自己遮断信号を、抵抗とコンデンサで構成される積分回路とインバータの駆動電圧に供給し、前記積分回路の出力を前記インバータに入力することにより短時間のパルス信号を発生させることを特徴とする。
【0032】
また、本発明の電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置は、前記絶縁ゲート型トランジスタの代りに、MOSFETまたはバイポーラトランジスタを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る電流制御機能および自己遮断機能を備えた点火用半導体装置は、パルス発生回路とスイッチ回路を備え、自己遮断信号Vsdの出力直後に短時間スイッチ回路を短絡させ、基準電圧Vref=センス電圧Vsnsとしてからスイッチ回路を開放する構成としたことにより、駆動電圧Vbや負荷抵抗RLが変動しても一定の時間で自己遮断する点火用半導体装置を実現できる。また、電流制御機能や自己遮断機能の動作時の点火コイルの誤点火も防止できるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に係る電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置の実施例を示す図である。
図2】従来の電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置の構成例を示す図である。
図3】本発明に係る基準電圧源13の回路構成例を示す図である。
図4】本発明に係るレベルシフト回路14の回路構成例を示す図である。
図5】本発明に係る自己遮断回路16の回路構成例を示す図である。
図6】本発明に係るゲートオフセット回路19の回路構成例を示す図である。
図7】本発明に係るパルス信号源20の回路構成例を示す図である。
図8】本発明に係る遅延時間特性を示す図である。
図9】本発明に係る動作波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態に係る電流制御機能および自己遮断機能を備えた半導体装置について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0036】
図1は、本発明の一実施例である電流制御機能および自己遮断機能を備えた点火用半導体装置の構成例である。図2に示した従来の点火用半導体装置の構成例と同じ部位には同じ符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0037】
図1に示す点火用半導体装置は、ECU1と、点火用IC2と、点火コイル7と、電圧源10と、点火プラグ11と、を備えている。
点火用IC2は、点火コイル7の一次電流をオン・オフ制御する出力段IGBT4と、点火コイル7の一次電流を制御する電流制御回路3と、を備え、点火コイル7と接続するC端子、GNDと接続するE端子、ECU1と接続するG端子、の3端子を有している。
【0038】
電流制御回路3は、G端子とE端子間の電圧で駆動され、センスIGBT5と、センス抵抗6と、ゲート抵抗12と、基準電圧源13と、レベルシフト回路14と、自己遮断信号源15と、自己遮断回路16と、オペアンプ17と、MOS18と、ゲート制御回路19と、パルス発生回路20と、スイッチ回路21と、を備えている。この電流制御回路3の回路構成は、図2に示した従来の回路構成に対して、パルス発生回路20と、スイッチ回路21と、が追加された構成となっている。
【0039】
パルス発生回路20の回路構成例を図7に示す。図7に示したパルス発生回路20は、G端子とE端子間の電圧で駆動され、インバータ43〜44、47、48〜49と、抵抗45と、コンデンサ46と、を備える。入力される自己遮断信号Vsdを、バッファ回路(インバータ43〜44)を介して抵抗45とコンデンサ46からなる積分回路とインバータ47の駆動電源に供給する。そして、インバータ47の駆動電圧の立ち上がりに対する入力信号の積分回路での遅延時間を利用して出力信号に短時間のパルス信号を生成し、バッファ回路(インバータ48〜49)を介してパルス信号Vpを出力する。このパルス信号のパルス幅は積分回路の時定数とインバータ47の論理しきい値で設定する。
【0040】
スイッチ回路21は、一端を基準電圧Vrefに他端をセンス電圧Vsnsに接続され、オン・オフをパルス発生回路20の出力であるパルス信号Vpで制御され、例えばMOSのような半導体スイッチ回路で構成される。そして、自己遮断信号Vsdが出力されるとパルス信号Vpが生成され短時間だけMOSがオンとなり、センス電圧Vsnsが基準電圧Vrefと短絡して等しい電圧値になる。
【0041】
尚、スイッチ回路21の一端子または両端子とオペアンプ17との間に、ボルテージフォロアを介挿した回路構成にしてもよい。
【0042】
次に、図1に示した点火用半導体装置の動作波形について図9を用いて説明する。図9(C)は、図9(B)に示した従来回路例と同様に、Icが電流制限値Ilimに達せずに自己遮断動作する場合を示している。
【0043】
先ず、ECU1よりオン信号(例えば5V)が入力されるとセンス電圧Vsnsは上昇するが、基準電圧Vrefまでは上昇せずに一定電圧値を保つ(t4)。次に、自己遮断信号源15から自己遮断信号Vsdが出力されると(t5)、自己遮断動作を開始すると同時に短時間(例えば10μsec)の間パルス発生回路20からパルス信号Vp(例えば5V)を出力し、スイッチ回路21によりオペアンプ17の+入力端子(センス電圧Vsns)と−入力端子(基準電圧Vref)を短絡する。この結果、基準電圧Vrefとセンス電圧Vsnsは同一電位にるため、出力段IGBT4のゲート電位VGoutは低下する。パルス信号Vpが0Vになるとスイッチ回路21は開放され、自己遮断回路16により基準電圧VrefはVref=Vsnsを保ちながら徐々に低下し、Icも減少する。そして、VGout=Vth(IGBT4のしきい値電圧)に達するとIcは完全に遮断する。
【0044】
すなわち、自己遮断信号Vsdが出力されて自己遮断動作が開始される(t5)までは図9(B)と同一であるが、自己遮断動作が開始されると、従来回路では図9(B)に示すように、Vref=Vsnsとなるまでに遅延時間(t6−t5)が発生してしまう。一方、本実施例では図9(C)に示すように、自己遮断動作開始と同時にVref=Vsnsを実現して遅延時間の発生はなくなる。
【0045】
以上説明したように、本発明に係る点火装置用の電流制限機能および自己遮断機能を備えた半導体装置は、電流制御回路3にパルス発生回路20とスイッチ回路21とを設け、自己遮断動作開示時に基準電圧Vrefとセンス電圧Vsnsを短時間だけ短絡して同一電位とすることにより、自己遮断動作開始時の遅延時間をなくし、駆動電圧や負荷抵抗に依存しない自己遮断動作を実現できる。また、ゲート制御回路19を設け、基準電圧Vrefとセンス電圧Vsnsの大小により、出力段IGBT4とセンスIGBT5のゲート電圧に電圧差(オフセット)を設けて制御することにより、自己遮断機能動作時などでのIcの振動発生を抑制して点火プラグの誤点火防止も実現できる。
【0046】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良や変更が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 エンジンコントロールユニット(ECU)
2 点火用半導体集積回路(点火用IC)
3 電流制御回路
4 出力段IGBT
5 センスIGBT
6 センス抵抗
7 点火コイル
8 一次コイル
9 二次コイル
10 電圧源
11 点火プラグ
12 ゲート抵抗
13 基準電圧源
14 レベルシフト回路
15 自己遮断信号源
16 自己遮断回路
17 オペアンプ
18,21,23,27,29,31,33,34,40 MOSFET(MOS)
19 ゲート制御回路
20 パルス発生回路
21 スイッチ回路
22,26,28,30 DepMOSFET(DepMOS)
24,25,36,37,38,39,41,42,45 抵抗
32,43,44,47,48,49 インバータ
35,46 コンデンサ
C コレクタ端子
E エミッタ端子
G ゲート端子
Ic コレクタ電流
Ilim 電流制限値
RL 負荷抵抗
Ron オン抵抗
Vb 駆動電圧
Vbi 拡散電位
VG ゲート端子の電圧
VGout 出力段IGBTのゲート電圧
VGsns センスIGBTのゲート電圧
Vp パルス信号
Vr 基準電圧源
Vref 基準電圧(Vrをレベルシフトした電圧)
Vsd 自己遮断信号
Vs センス電圧源
Vsns センス電圧(Vsをレベルシフトした電圧)
Vth しきい値電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9