(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る定着装置と、画像形成装置と、定着装置の押付部材を製造するための金型装置と、インサート成形品である押付部材の製造方法の実施形態について、添付の図面に基づいて説明する。
【0022】
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係る定着装置を有する画像形成装置の構成の一例を示している。画像形成装置10の装置本体10Aの上下方向を矢印Y方向、左右方向を矢印X方向、奥行き方向を矢印Z方向として記載する。
【0023】
図1に示すように、画像形成装置10の装置本体10Aには、複数のローラ12に張架され、モータ(図示省略)の駆動により矢印A方向に搬送される無端ベルト状の被転写体の一例としての中間転写体ベルト14が設けられている。
【0024】
画像形成装置10は、カラー画像の形成に対応しており、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色に対応するトナー像を形成する画像形成ユニット28Y、28M、28C、28Kを有している。画像形成ユニット28Y、28M、28C、28Kは、中間転写体ベルト14の搬送方向に沿って配置され、装置本体10Aに脱着可能に支持されている。
【0025】
尚、各色に設けられた部材については、符号の末尾に各々の色を示すアルファベット(Y/M/C/K)を付与して示す。特に色を区別せずに説明する場合は、この符号末尾のアルファベットを省略する。
【0026】
各画像形成ユニット28Y、28M、28C、28Kは、図示しないモータ及びギアからなる駆動手段によって時計方向へ回転する像保持体の一例としての感光体ドラム16Y、16M、16C、16Kを備えている。
【0027】
各感光体ドラム16の周面には、感光体ドラム16の表面を一定の電位に一様に帯電させるための帯電ローラ18が配置されている。帯電ローラ18は、導電性のローラであり、その周面が感光体ドラム16の周面に接触し、かつ帯電ローラ18の軸線方向と感光体ドラム16の軸線方向とが平行となるように配置されている。
【0028】
各感光体ドラム16の回転方向の帯電ローラ18よりも下流側の周面には、露光装置の一例としてのLEDプリントヘッド(以下、「LPH」という)20が配置されている。LPH20は長尺であり、発光体ドラム16の軸方向に沿って配置されている。LPH20は、LED(発光ダイオード)アレイを光源として有している。LPH20は、画像データに応じて光ビームを感光体ドラム16に照射することにより、感光体ドラム16表面に静電潜像を形成させる。
【0029】
各感光体ドラム16の回転方向のLPH20よりも下流側の周面には、現像装置22が配置されている。現像装置22は、感光体ドラム16表面に形成された静電潜像を各色(イエロー/マゼンタ/シアン/ブラック)のトナーによって現像してトナー像を形成させるためのものである。
【0030】
具体的には、現像装置22は、感光体ドラム16に近接して配置され、回転可能に設けられた円筒状の現像ローラ24を有している。現像ローラ24には、現像バイアスが印加され、現像装置22内に装填されたトナーが周面に付着される。現像ローラ24の回転により、現像ローラ24に付着されたトナーが感光体ドラム16の表面に搬送され、トナーが感光体ドラム16に擦りつけられて、感光体ドラム16表面に形成された静電潜像がトナー像として現像される構成となっている。
【0031】
各感光体ドラム16の回転方向の現像装置22よりも下流側の周面には、各感光体ドラム16上のトナー像を中間転写体ベルト14に転写する転写装置の一例としての転写ローラ30が設けられている。転写ローラ30は、一定の電位に帯電されると共に、反時計方向に回転して中間転写体ベルト14を一定の速度で搬送し、中間転写体ベルト14を感光体ドラム16に押し付けている。これにより、感光体ドラム16表面のトナー像が中間転写体ベルト14上に転写されるようになっている。
【0032】
各感光体ドラム16の周面の転写ローラ30よりも下流側の周面には、クリーニングブレード26が配置されている。クリーニングブレード26は、一端が感光体ドラム16の表面に接触するように配設されており、中間転写体ベルト14に転写されずに感光体ドラム16上に残留したトナーや、転写時に感光体ドラム16上に付着してしまった他の色のトナーを削ぎとって回収するものである。
【0033】
各画像形成ユニット28により形成された各トナー像は、中間転写体ベルト14のベルト面上で、互いに重なり合うように転写される。これにより、中間転写体ベルト14上にカラーのトナー像が形成される。このようにして4色のトナー像が重ねて転写されたトナー像を、以下、「最終トナー像」と称する。
【0034】
4つの感光体ドラム16よりも中間転写体ベルト14の搬送方向下流側には、対向する2つのローラ34A、34Bを含んで構成される二次転写装置34が配設されている。二次転写装置34では、画像形成装置10の底部に設けられた用紙トレイ36から取り出されてローラ34A、34Bの間に搬送されてきた記録用紙Pに、中間転写体ベルト14上に形成された最終トナー像が転写されるようになっている。
【0035】
最終トナー像が転写された記録用紙Pの搬送経路には、定着装置100が設けられている。定着装置100は加熱ローラ110と加圧ローラ120とを含んで構成されており、定着装置100に搬送された記録用紙Pは加熱ローラ110と加圧ローラ120とによって挟持搬送される。それにより、記録用紙P上のトナーは溶融されると共に記録用紙Pに圧着されて記録用紙Pに定着される。
【0036】
一方、中間転写体ベルト14の外周面において、二次転写装置34よりも中間転写体ベルト14の搬送方向下流側には、二次転写装置34によって記録用紙Pに転写されずに中間転写体ベルト14上に残留したトナーを回収するクリーナ装置42が配設されている。クリーナ装置42は、中間転写体ベルト14に接するブレード44を有しており、中間転写体ベルト14上に残留したトナーを擦り取ることによって回収するようになっている。
【0037】
上記構成による画像形成装置10では、次のようにして画像が形成される。
【0038】
まず、帯電ローラ18によって感光体ドラム16の表面が一様にマイナス帯電される。次いで、帯電された感光体ドラム16表面に対し、LHP20によって印刷すべき画像データに基づいて露光が行われ、感光体ドラム16表面に静電潜像が形成される。
【0039】
次いで、感光体ドラム16表面の静電潜像が現像装置22の現像ローラ24を通過すると、静電気力によってトナーが静電潜像に付着し、静電潜像はトナー像として可視化される。
【0040】
次いで、可視化された各色のトナー像は、転写ローラ30によって中間転写体ベルト14へ順次転写され、中間転写体ベルト14上にカラーの最終トナー像が形成される。
【0041】
次いで、中間転写体ベルト14上の最終トナー像は二次転写装置34のローラ34A、34Bの間に送り込まれ、用紙トレイ36から取り出されてローラ34A、34Bの間に搬送されてきた記録用紙Pに対してこの最終トナー像が転写される。
【0042】
次いで、記録用紙Pに転写されたトナー像は定着装置100で定着され、永久画像とされる。定着装置100を通過した記録用紙Pは、装置外へ排出される。
【0043】
(定着装置100の構成)
次に、定着装置100の詳細について説明する。
【0044】
図2に示すように、定着装置100はローラの一例としての加熱ローラ110と加圧ローラ120を備えている。加熱ローラ110は中心部に熱源の一例として例えばハロゲンランプ112を有している。ハロゲンランプ112は、長尺の形状を呈し、長手方向を矢印Z方向に向けられて配置されている。加熱ローラ110のローラ部114は、ハロゲンランプ112から発せられる熱によって加熱される。ローラ部114はモータなどの駆動源(図示省略)によって回転駆動される構成となっている。即ち、加熱ローラ110は熱源を有する回転可能な駆動ローラとして構成されている。
【0045】
加圧ローラ120は、加熱ローラ110のローラ部114の回転に従動して(ローラ部114の回転と共に)回転移動する無端状ベルト122と、無端状ベルト122の内側に配置されて無端状ベルト122の回転移動を案内すると共に無端状ベルト122を加熱ローラ110に押し付けるための押付部材124とを備えている。
【0046】
押付部材124は矢印Z方向における両端側に設けられるバネ等の付勢部材(図示省略)によって矢印X方向において加熱ローラ110側に付勢されており、その付勢力によって無端状ベルト122を加熱ローラ110に押し付けている。無端状ベルト122が押付部材124によって加熱ローラ110に押し付けられることで、無端状ベルト122と加熱ローラ110との間には記録用紙Pを挟持搬送しつつトナーを記録用紙Pに定着させるためのニップ部Nが形成される。尚、加熱ローラ110の熱はニップ部Nを介して無端状ベルト122に伝わることとなる。
【0047】
押付部材124は、無端状ベルト122の回転移動を案内する案内部126と、無端状ベルト122を加熱ローラ110に押し付ける押付部128と、案内部126と押付部128とを保持するための例えば鋼材から構成される板材の一例としての金属板130とを有している。
【0048】
図3に示すように、金属板130は矢印Z方向に長手の長尺状を呈すると共に、短手方向(矢印X方向)において片側が直角に折り曲げられており、断面L字状を呈している。金属板130の長手方向における両端側には、長手方向において外方に突出する突出部132が形成されている。前記した付勢部材の一端部は、突出部132に取り付けられている。
【0049】
図2に示すように、金属板130の長手方向は加熱ローラ110の回転軸方向(矢印Z方向)に向けられて配置されている。金属板130は短手方向における一端側で押付部128を保持しており、他端側で案内部126を保持している。
【0050】
押付部128と無端状ベルト122の内周面との間には、シート部材134が配置されている。シート部材134は例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を素材とし、無端状ベルト122のニップNにおける摺動抵抗を低減させるためのものである。
【0051】
図4に示すように、シート部材134は肉薄のシート状を呈しており、可撓性を有している。シート部材134の短手方向(矢印Y方向)の一端側には、複数個(例えば8個)の貫通孔136が長手方向(矢印Z方向)に沿って設けられている。
図2に示すように、シート部材134は貫通孔136に通された係止部162(後述)によって押付部128の内方面128aに係止されており、押付部128の外方面128bに沿うように折り返され、その大部分が押付部128と無端状ベルト122の内周面との間に配置されている。
【0052】
図2、
図5、
図6に示すように、押付部128は、長尺の形状を呈し、金属板130の短手方向における一端側において長手方向を金属板130の長手方向に沿うようにして取り付けられている。
【0053】
図2〜
図10に示すように、案内部126は、金属板130の短手方向における他端側において金属板130の長手方向に沿うように取り付けられる長尺の長尺部138と、長尺部138に接続されて押付部128に向けて延びる複数のリブの一例としての第1のリブ群140と、第1のリブ群140とは金属板130を挟んで反対側に設けられると共に長尺部138に接続されて押付部128に向けて延びる第2のリブ群142と、長尺部138から矢印X方向において押付部128とは反対側の外方に突出する第3のリブ群144とを備えている。
【0054】
図5、
図6に示すように、押付部128と長尺部138は長手方向(矢印Z方向)における両端側においてサイド部146によって接続されている。サイド部146は矢印Z方向から見た場合において略円形を呈しており、サイド部146の内の一方は、外周から張り出す張出部148を有しており、
図2に示すように、無端状ベルト122の矢印Z方向の位置を規定するようになっている。尚、
図5、
図6に示す押付部材124に対して、無端状ベルト122を他方のサイド部146の側から装着し(無端状ベルト122を装着する際、シート部材134は押付部128の外方面128bに沿うように折り返される)、他方のサイド部146に張出部148と同様な形状を有するキャップ部材(図示省略)を嵌め込むことで、無端状ベルト122が押付部材124から抜け落ちないように構成されている。
【0055】
押付部128、長尺部138、第1のリブ群140、第2のリブ群142、第3のリブ群144およびサイド部146は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂材から構成されている。押付部材124は、後述するように、金型304のキャビティ302に金属板130とシート部材134とを入れ込んだ状態で樹脂材(溶融樹脂)を注入することにより、金属板130とシート部材134が樹脂材で一体化されるように形成されたインサート成形品である。
【0056】
図2に示すように、長尺部138の無端状ベルト122の内周面と対向する位置には、不織布(フェルト)150が矢印Z方向に沿って取り付けられている。不織布150には潤滑油が染み込まされており、無端状ベルト122が不織布150に接触しつつ回転移動することで、不織布150から潤滑油が持ち運ばれるようになっている。無端状ベルト122の内周面に潤滑油が行き渡ることにより、無端状ベルト122の摺動抵抗が低減し無端状ベルト122の回転移動が滑らかとなる。
【0057】
図2、
図6、
図8(A)に示すように、第1のリブ群140は、無端状ベルトの回転方向においてニップ部Nよりも下流側に位置し、金属板130の長手方向(矢印Z方向)において間を隔てて設けられる複数個(例えば10個)のリブ152から構成されている。第1のリブ群140の各リブ152は、金属板130から矢印Y方向において張り出すように形成されており、その先端部は無端状ベルト122の回転移動を案内するように矢印Z軸方向から見た場合において円弧状を呈している。第1のリブ群140には、各リブ152同士を連結する連結部154が形成されている。
【0058】
第1のリブ群140の各リブ152は、長尺部138に接続されて押付部128に向けて延びるが押付部128には接続されないように構成されている。具体的には、押付部128には第1のリブ群140の各リブ152が接続されないように逃げ溝156が形成されている。
【0059】
図8(B)に示すように、
図8(A)に示す第1のリブ群140の別の形態として、第1のリブ群140の各リブ152を押付部128に接続させ、長尺部138に逃げ溝156を形成して長尺部138に接続されないように構成してもよい。
【0060】
このように第1のリブ群140の各リブ152を押付部128と長尺部138のいずれか一方に接続し、他方には接続しない構成とするのは、
図13に示すように、第1のリブ群140の各リブ152を押付部128と長尺部138との両方に接続した場合、定着装置100のヒートサイクルにおいて押付部128と長尺部138との熱膨張差による熱歪みが各リブ152に作用し、各リブ152の接続基端にクラック157が生じてしまうためである。
【0061】
図8(B)に示すように、第1のリブ群140の各リブ152を押付部128に接続する構成とした場合、押付部128の外方面128bの矢印Z方向における中央部のリブ接続箇所に対応する位置には、熱収縮部(ヒケ)158が生じる。これは、押付部128は長手方向(矢印Z方向)における中央部の厚みが端部の厚みよりも厚く形成されており(ここでの厚みは、矢印X方向における厚みをいい、中央部と端部との厚みの差は極僅かであるため、図中では明確に示されていないが、押付部128の外方面128bは中央部で厚み方向おいて凸状に湾曲するようなプロファイルを有している。)、押付部128の外方面128bのリブ接続箇所に対応する位置におけるインサート成形時の熱収縮量が端部よりも中央部の方が多くなるためである。押付部128の外方面128bに熱収縮部158が生じると、無端状ベルト122を加熱ロール110に押し付ける押付力が低下することとなるため、定着装置100の定着性能を低下させる要因となる。
【0062】
押付部128の外方面128bに熱収縮部158を生じさせないためには、第1のリブ群140の各リブ152の接続態様は、
図8(B)に示す接続態様よりも
図8(A)に示す接続態様の方が望ましい。尚、
図8(C)に示すように、第1のリブ群140の各リブ152の内、中央部のリブ152のみを長尺部138に接続して押付部128に接続しない接続態様としてもよい。
【0063】
図2、
図5、
図7に示すように、第2のリブ群142は、金属板130の長手方向(矢印Z方向)において間を隔てて設けられる複数個(例えば12個)のリブ160から構成されている。第2のリブ群142の各リブ160は、金属板130から矢印Y方向において張り出すように形成されており、その先端部は無端状ベルト122の回転移動を案内するように矢印Z軸方向から見た場合において円弧状を呈している。
【0064】
12個のリブ160の内の矢印Z方向における中央寄りの4個のリブ160は、長尺部138に接続されて押付部128に向けて延びるが押付部128には接続されていない。残りの両端寄りの8個のリブ160は、長尺部138に接続されて押付部128に向けて延び、柱状の係止部162を通じて押付部128に接続されている。各係止部162はシート部材134の対応する各貫通孔136に通されており、シート部材134は各リブ160と押付部128の内方面128aとの間から抜けないようになっている。別言すれば、押付部材124は、シート部材134の短手方向における一端部が第2のリブ群142の各リブ160と押付部128との間で保持されるようにインサート成形されている。
【0065】
第2のリブ群142において中央寄りの4個のリブ160に係止部162を設けないようにしたのは、
図8(B)に関して説明したように、押付部128の外方面128bに熱収縮部(ヒケ)158を生じさせないようにするためである。
【0066】
図2、
図10に示すように、第3のリブ群144は、長尺部138の長手方向(矢印Z方向)において間を隔てて設けられる複数個(例えば12個)のリブ164から構成されている。第3のリブ群144の各リブ164の先端部は無端状ベルト122の回転移動を案内するように矢印Z軸方向から見た場合において円弧状を呈している。
【0067】
尚、
図10に示すように、第1のリブ群140と第2のリブ群142と第3のリブ群144の各リブ152、160、164は、長手方向の中央に対して対称に形成され、無端状ベルト122の回転方向Bを上向きとして見た場合に、「ハ」の字状に形成されている。これは、無端状ベルト122の内側において無端状ベルト122の回転移動によって潤滑油が矢印Z方向における中央に寄るようにし、潤滑油がサイド部146における隙間から漏れ出すのを抑制するためである。
【0068】
図11(A)は、
図5などに示す本実施形態の押付部材124に対する比較例としての押付部材224を示す斜視図である。
図11(B)は、その分解斜視図である。
図12は、比較例としての押付部材224を有する定着装置200を示す
図2と同様な断面図である。
【0069】
図11(B)に示すように、押付部材224はインサート成形品ではなく、案内部226と押付部228とサイド部246と金属板230とシート部材234とは別部品として構成されており、これら5部品を組み立てることで形成される集合部品である。
【0070】
押付部材224の案内部226は断面U字状の箱型を呈する形状を有しており、その外周面に無端状ベルト122の内周面と接触するリブ222が複数形成されている。金属板230は案内部226の内部に収容されるように組み立てられている。シート部材234は、その一端部に設けられる貫通孔236が押付部228に設けられた係止部262に通されることで、押付部228に取り付けられている。
【0071】
押付部材224の案内部226とサイド部246の片側はポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂材から構成されているが、押付部228は例えば液晶ポリマー(LCP)といったポリエチレンテレフタレート(PET)に比較して強度の高い材料から構成されている。押付部材224の押付部228に高強度の材料が用いられるのは、押付部228に曲げ剛性が要求されるためである。
【0072】
これに対し、本実施形態の押付部材124では、押付部128をポリエチレンテレフタレート(PET)から構成しているが、案内部126と押付部128とサイド部146と金属板130がインサート成形によって一体化されることで、押付部128は十分な曲げ剛性を有するものとなっている。
【0073】
図2と
図12とを参照しつつ本実施形態の押付部材124と比較例としての押付部材224とを対比して説明すると、押付部材124では、案内部126が、長尺部138から矢印Z方向において間隔をおいて立脚される第1のリブ群140と第2のリブ群142を有しているので、金属板130はその大部分において無端状ベルト122の内周面と向い合うようになっている。別言すれば、押付部材124は、金属板130と無端状ベルト122の内周面とが向い合う部分(
図7、
図8(A)で示す露出部分166)を有するようにインサート成形されている。
【0074】
金属板130と無端状ベルト122の内周面とが相対する部分では、
図2中の矢印Cで示すように、無端状ベルト122からの輻射熱は金属板130の表面で反射され無端状ベルト122に戻されるといったリフレクター効果が生じる。このため、無端状ベルト122において加熱ロール110からの熱が無駄に損失されるのが抑制される。即ち、リフレクター効果により、無端状ベルト122の熱は有効利用されることとなる。これに対して押付部材224では、
図12に示すように、案内部226が断面U字状の箱型に形成され金属板230を内部に収容するように構成されていることから、矢印Z方向において金属板230が無端状ベルト122の内周面と相対する部分を有さない。そのため、押付部材224ではリフレクター効果が生じることがない。
【0075】
また、押付部材124では、
図2中の矢印Dで示すように、不織布150から供給される潤滑油の大部分は、シート部材134と無端状ベルト122が接触する位置で掻き取られて不織布150に戻されるようになっている。これに対して押付部材224では、
図12中の矢印Eで示すように、シート部材234と無端状ベルト122が接触する位置で掻き取られた潤滑油が案内部236の内部に入り込み、不織布150に戻らない潤滑油が生じるため、潤滑油の利用率が低下することとなる。
【0076】
さらに、押付部材124で使用される樹脂量は、押付部材224に使用される樹脂量に比べて約23%低減されている。また、押付部材224の押付部228には高価な液晶ポリマー(LCP)を用いている。即ち、押付部材124は押付部材224に比べると材料費において低コストとなっている。
【0077】
また、押付部材224では、5部品を組み立てるための作業を要するが、押付部材124では、案内部126、押付部128、サイド部146およびインサート部品としての金属板130とシート部材134とを一体的に成形しているため、組み立て作業を要しない。即ち、押付部材124は押付部材224に比べると組立費において低コストとなっている。
【0078】
本実施形態の押付部材124の構成について付言すると、
図2に示すように、加熱ローラ110と無端状ベルト122の回転の方向が見える横断面から見た場合において、金属板130の矢印X方向を向く部分の中心線L1は、加熱ローラ110の回転中心と無端状ベルト122の回転中心とを含む中心線L2から矢印Y方向に片寄った(オフセットした)位置に設けられている。これは、ニップ部Nを通過した記録用紙Pの自己剥離性を向上させるべく、ニップ部Nの記録用紙Pの搬送方向における中央部よりも下流側で最も強く押付力を付与しており、この最も強い押付力を付与する位置に金属板130を配置することで、押付部128に曲がりが生じるのを抑制するためである。
【0079】
一方、金属板130を挟んで存在する両側の樹脂量が均等でない場合、インサート成形における樹脂材の熱収縮量に差に起因して金属板130に反りが生じるため、第1のリブ群140に連結部154を設け、金属板130の中心線L2からオフセットした側の樹脂量を補うようにしている。即ち、押付部材124では、第1のリブ群140に連結部154を設けることで、金属板130の中心線L1を挟んで存在する両側の樹脂材の量が均等となるようにし、金属板130に反りが生じるのを抑制するように構成している。ここで、「金属板130を挟んで存在する両側(金属板130の両側)」は、金属板130を構成する複数の平面の内、面積の最も大きい平面の外側と、当該面積の最も大きい平面と対向する平面の外側であるとも言える。
【0080】
(金型装置)
次に、インサート成形品である押付部材124の製造に用いられる金型装置300について
図14〜
図20を用いて説明する。金型装置300の上下方向を矢印y方向、左右方向を矢印x方向、奥行き方向を矢印z方向として記載する。
【0081】
図14〜
図17に示すように、金型装置300は、断面視において略円筒状を呈すると共に矢印z方向に長尺なキャビティ302を有する金型304を備えている。金型304は、装置の基台(図示省略)に固定される固定側金型306と、矢印x方向に可動する可動側金型308とを有している。金型304の外部には、固定側金型306と可動側金型308とに接続されて固定側金型306と可動側金型308と加熱するための加熱装置310が設けられている。ここで、加熱装置310とは、媒体(水、油等)を介して、金型304および挟持部材318を予め定められた温度に温度コントロールする温度調整装置(温度コントローラ)のことである。
【0082】
固定側金型306には、射出機(図示省略)から射出された溶融樹脂(樹脂材)をキャビティに注入するための注入口312が設けられている。注入口312は、固定側金型306の矢印z方向における一端側のキャビティ302を臨む位置に1個設けられている。
【0083】
固定側金型306には、その壁面にシート部材134を吸引して固定するための吸引口314が設けられている。吸引口314は、矢印z方向に沿って間を隔てて複数個設けられおり(図中では1個のみ示す)、シート部材134は、その長手方向を矢印z方向に向けられると共に、その短手方向(矢印y方向)における一端部がキャビティ302に挿入されるように固定側金型306に吸引固定される。
【0084】
可動側金型308には、金属板130をキャビティ302内で位置決めするための位置決め溝316(
図14、
図17参照)が設けられている。位置決め溝316は、可動側金型308の矢印z方向における両端側にそれぞれ1個ずつ設けられている(
図14、
図17では1個のみ示す)。
【0085】
図14、
図15に示すように、金属板130は、その長手方向をキャビティ302の長手方向(矢印z方向)に向けられ、位置決め溝316に金属板130の突出部132を嵌め入れることによってキャビティ302内において位置決めされる。
【0086】
可動側金型308には、矢印y方向に可動自在な挟持部材318が設けられている。挟持部材318は上部可動コア320と下部可動コア322から構成されており、
図15に示すように、上部可動コア320と下部可動コア322はそれぞれ可動側金型308の型締め方向Fへの移動に連動して金属板130を挟持する挟持方向Gに移動するようになっている。また、
図17に示すように、上部可動コア320と下部可動コア322はそれぞれ可動側金型308の型開き方向Hへの移動に連動して金属板130を挟持しない非挟持方向Iに移動するようになっている。
【0087】
図16に示すように、金属板130は、キャビティ302の横断面(キャビティ302の短手方向断面)から見た場合において、キャビティ302の中心からオフセットした位置において挟持部材318によって挟持される。ここで、キャビティ302の中心を別言すると、キャビティ302内でインサート成形されたインサート成形品(押付部材124)に無端状ベルト122を装着したと仮定した場合に、当該無端状ベルト122の回転中心(設計値)のことである。樹脂材は、挟持部材318によって金属板130を挟持した状態でキャビティ302に注入される。前述したように、インサート成形における樹脂材の熱収縮量に差に起因して金属板130に反りが生じるのを抑制するため、キャビティ302において金属板130を挟んで存在する両側の樹脂材の量が均等となるように固定側金型306と可動側金型308と上部可動コア320と下部可動コア322の形状が決定されている。
【0088】
具体的には、
図18に示すように、上部可動コア320と下部可動コア322にはそれぞれ、第1のリブ群140と第2のリブ群142を形成するためのリブ用溝324が形成されており、上部可動コア320には、さらに連結部154を形成するための連結部用溝326が形成されている。連結部用溝326を設けることにより、キャビティ302において金属板130を挟んで存在する両側の樹脂材の量が均等とされるようになっている。
【0089】
図18に示すように、上部可動コア320と下部可動コア322はそれぞれ、リブ用溝324によってキャビティ302の長手方向(矢印z方向)において分割された複数の挟持部328によって金属板130を挟持する構成となっている(上部可動コア320は、さらに連結部用溝326によって短手方向(矢印x方向)においても分割されている)。また、上部可動コア320と下部可動コア322の挟持部328は、金属板130を押し切る(金属板130の厚みを縮小させる)ように金属板130を挟持するように構成されている。別言すれば、金型304を型締めする際、上部可動コア320と下部可動コア322の挟持方向Gの移動量が、金属板130を押し切る(金属板130の厚みを縮小させる)ように設定されている。それにより、挟持部328と金属板130との間に樹脂材が入り込むことがなくバリが生じるのが抑制される。
【0090】
図16、
図18に示すように、シート部材134の短手方向(矢印y方向)における一端部は矢印z方向において下部可動コア322の複数の挟持部328に渡って配置されつつキャビティ302に挿入されている。シート部材134は、矢印z方向において各貫通孔136が各リブ用溝324に一致するように配置されている。
【0091】
以下、シート部材134の捲れ上がりと注入口312から注入される樹脂材の流れとの関係について説明する。
【0092】
図19(A)に示すように、キャビティ302内において押付部相当部330を流れる樹脂材の流れが長尺部相当部332を流れる樹脂材の流れよりも速い場合、
図16、
図18、
図19(A)において矢印Jで示すように、樹脂材はリブ用溝324を押付部相当部330側から長尺部相当部332側に向かって通過する。この場合、シート部材134には複数の挟持部328に押し付けられる方向の力が加わる。その結果、
図20(A)に示すように、インサート成形された押付部材124において、シート部材134は押付部128の外方面128b側に捲れ上がることなく押付部128の内方面128aと第2のリブ群142との間に保持され一体化されることになる。
【0093】
一方、
図19(B)に示すように、キャビティ302内において押付部相当部330を流れる樹脂材の流れが長尺部相当部332を流れる樹脂材の流れよりも遅い場合、
図16、
図18、
図19(B)において矢印Kで示すように、樹脂材はリブ用溝324を長尺部相当部332側から押付部相当部330側に向かって通過する。この場合、シート部材134には複数の挟持部328から引き離される方向の力が加わる。その結果、
図20(B)に示すように、インサート成形された押付部材124において、シート部材134は押付部128の外方面128b側に捲れ上がり一体化されないことになる。
【0094】
ここで、本実施形態の金型装置300の注入口312は固定側金型306に設けられている。即ち、注入口312はシート部材134に対して複数の挟持部328とは反対側に設けられているため、注入口312から注入される樹脂材のリブ用溝324を通過する方向は、矢印Jで示す方向となり、シート部材134には複数の挟持部328に押し付けられる方向の力が加わる。そのため、
図20(A)に示すように、インサート成形された押付部材124においてシート部材134は押付部128の外方面128b側に捲れ上がることなく押付部128の内方面128aと第2のリブ群142との間に保持され一体化されることになる。
【0095】
(インサート成形品の製造方法)
次に、インサート成形品である押付部材124の製造方法について
図14〜
図17、
図21を用いて説明する。
【0096】
図21に示すように、先ずS10において、インサート部品の内の1つである金属板130を予備加熱する(金属板加熱工程)。この予備加熱は、金属板130をキャビティ302に設置する前に金型装置300とは別に準備される加熱器(図示省略)によって行われる。金属板130は、金型304と同温度(例えば、120℃)となるまで予備加熱される。ここで、同温度とは、金属板130と金型304の温度が等しい場合のみならず、金属板130と金型304の温度が等しい温度であるとみなして差し支えない略同温度である場合も含まれる。
【0097】
次いでS12に進み、インサート部品である金属板130とシート部材134とを金型304に設置する。具体的には、
図14、
図15に示すように、金属板130の突出部132を可動側金型308に設けられた位置決め溝316に嵌め入れ、金属板130を金型304に設置する。また、シート部材134の一端部がキャビティ302に挿入されるようにシート部材134を固定側金型306の壁面に吸引固定し、シート部材134を金型304に設置する。
【0098】
次いでS14に進み、インサート部品である金属板130とシート部材134とを金型304で挟持する(挟持工程)。具体的には、
図15、
図16に示すように、可動側金型308を固定側金型306の方へ可動させて型締めすることで、上部可動コア320と下部可動コア322によって金属板130を挟持すると共に、下部可動コア322と固定側金型306の間でシート部材を挟持する。
【0099】
この場合は、金属板加熱工程において金属板130は金型304と同温度に加熱されているので、挟持工程が完了した時点で金属板130は金型304と同温度になっている。金属板130と金型304を同温度にする理由は後述するが、金属板130と金型304を同温度にすることができれば、金属板加熱工程は、挟持工程の後であっても良い。すなわち、先ずS12においてインサート部品である金属板130の突出部132を可動側金型308に設けられた位置決め溝316に嵌め入れ、シート部材134の一端部がキャビティ302に挿入されるようにシート部材134を固定側金型306の壁面に吸引固定する。その後、S14においてインサート部品である金属板130とシート部材134とを金型304で挟持する(挟持工程)。そうすると、加熱装置310によって固定側金型306と可動側金型308は、一定温度、例えば120℃(予め定められた温度)に温度コントロールされているので、固定側金型306と可動側金型308からの熱伝導により、挟持部材318である上部可動コア320と下部可動コア322を介して、金属板130も120℃まで加熱される。
【0100】
次いでS18に進み、溶融樹脂(樹脂材)を注入する(注入工程)。具体的には、射出機(図示省略)から射出された溶融樹脂を注入口312からキャビティ302に注入し、溶融樹脂をキャビティ302に充填させる。
【0101】
次いでS20に進み、インサート部品である金属板130とシート部材134とを一体化する(一体化工程)。具体的には、加熱装置310により、固定側金型306と可動側金型308を一定温度(例えば、120℃)に温度調整することで、例えば300℃の溶融樹脂を120℃まで冷却して固化させ、インサート成形品として金属板130とシート部材134とを一体化する。
【0102】
次いでS20に進み、インサート成形品である押付部材124をキャビティ302からから取り出す(取出工程)。具体的には、
図17に示すように、可動側金型308を固定側金型306から離すように可動させて型開きすることで、上部可動コア320と下部可動コア322とを非挟持方向Iに可動させ、キャビティ302からインサート成形品である押付部材124を取り出す。
【0103】
上記の如く、金属板130を予め加熱しておき、または金型304の熱により金属板130と金型304とを同温度とした上で溶融樹脂をキャビティ302に注入するようにしているので、溶融樹脂が冷却されて固化するに際して、キャビティ302内に充填された溶融樹脂の冷却が均一に進み、金属板130に接触する樹脂材と金属板130に接触しない樹脂材との間に冷却歪みが生じるのが抑制される。そのため、押付部材124をキャビティ302から取り出した後に生じる変形量も抑制され、押付部材124の形成精度を向上させられる。
【0104】
尚、本実施形態に係る画像形成装置10では、中間転写ベルト14を有し一次転写と二次転写を行う形式のものについて説明したが、感光体ドラム16に保持されるトナー像を記録用紙Pに直接転写する形式の画像形成装置についても本発明を適用可能である。