(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
最初に本発明における光学的分析装置の構成を、
図1から
図3により説明する。
図1は、本発明における光学的分析装置の構成ブロック図であり、
図2は本発明の光学的分析装置における位置情報検出部の構成ブロック図、
図3は発明の光学的分析装置におけるピックアップ部の構成ブロック図である。
【0018】
図1に示すように光学的分析装置10は、スピンドルモータ11、ピックアップ部12、サーボ信号検出部13、サーボ回路14、RF信号検出部15、位置情報検出部16、標識用ビーズ検出部18、制御部19、メモリ部20を備える。光学的分析装置10の構成は、上記以外にも必要に応じて他の要素を備えてもよい。
【0019】
スピンドルモータ11は、制御部19の制御によって装填された試料分析用ディスク100を所定の回転数で回転させる。ピックアップ部12は、試料分析用ディスク100に所定波長のレーザ光を照射し、その反射光を取得する。
【0020】
試料分析用ディスク100は、別途説明するが、回転による遠心力によって内周に滴下された試料を外周方向に展開し、流路内で抗原−抗体反応による標識用ビーズ300が結合し、試料分析用ディスク100の所定位置に標識用ビーズ300が固定化される。
【0021】
ピックアップ部12は、試料分析用ディスク100の半径方向に移動可能に設置されており、試料分析用ディスク100上にレーザ光を集光させ、試料分析用ディスク100上においてレーザ光を集光させた位置における反射光を検出する。
【0022】
試料分析用ディスク100からの反射光はピックアップ部12における光検出部128で電気信号に変換され、変換された信号の一部はサーボ信号検出部13に送られる。また、ピックアップ部12からの信号のうち受光部129からの信号は、RF信号検出部15に送られる。RF信号検出部15では、ピックアップ部12から送られた受光部129による4つの信号を広帯域のアンプにより加算し増幅してRF信号を生成する。
【0023】
サーボ信号検出部13は、ピックアップ部12が検出した反射光に基づく信号から試料分析用ディスク100上に照射する光スポットのFE(フォーカスエラー)信号を生成する。また、試料分析用ディスク100上のトラックに対するTE(トラッキングエラー)信号を生成する。
【0024】
サーボ回路14は、サーボ信号検出部13において生成されたFE信号およびTE信号に基づき、制御部19の制御によってピックアップ部12における対物レンズ121を2方向に駆動する電磁アクチュエータを制御し、光スポットに対し適切なフォーカス制御及びトラッキング制御を行う。
【0025】
RF信号検出部15は、ピックアップ部12から送られたピックアップ部12における受光部129による4つの信号を広帯域のアンプにより加算および増幅してRF信号を生成する。RF信号検出部15で生成したRF信号は、位置情報検出部16、標識用ビーズ検出部18、制御部19に送出される。
【0026】
位置情報検出部16は、RF信号検出部15で生成されたRF信号に基づき読み取ったトラックにおける、トラック上の位置およびトラック上の欠陥として認識される出力電圧値を欠陥情報として制御部19に出力し、制御部19は欠陥情報をメモリ部20に記録する。
【0027】
標識用ビーズ検出部18は、RF信号検出部15で生成されたRF信号の変化に基づきトラック上に固定されている標識用ビーズ300を検出し、検出データを制御部19に出力する。
【0028】
制御部19は、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)により構成される。制御部19は、図示しない操作部による操作に応じた各種制御を行う。また制御部19はRF信号検出部15から送出されたRF信号に基づきサーボ回路14を制御し、図示しないトラッキングサーボやフォーカスサーボを動作させる。さらに制御部19は位置情報検出部16から送出された欠陥情報をメモリ部20に記録するとともに、欠陥情報により標識用ビーズ検出部18における標識用ビーズ300の検出結果を補正する。さらに制御部19は標識用ビーズ検出部18から送出された標識用ビーズ300の検出結果を計数する。
【0029】
メモリ部20は、制御部19や各部において動作するプログラムが格納される。また、標識用ビーズ300の検出結果や欠陥情報を記憶する。メモリ部20はROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)から構成されるが、着脱可能なメモリ等他の記録媒体であってもよい。
【0030】
次に、位置情報検出部16の構成を
図2に基づき説明する。位置情報検出部16は、アドレス検出部160、カウント信号生成部161、カウンタA162、欠陥検出部163、クロック生成部164、カウンタB165、位置情報計算部166を備える。
【0031】
アドレス検出部160は、RF信号検出部15から送出されたアドレス用ピット115によるRF信号の変化を検出して復調することにより、読み取り中のトラックを特定するアドレス情報を生成する。アドレス検出部160において生成されたアドレス情報は、トラックにおける位置情報としてカウンタA162および制御部19に送出される。
【0032】
カウント信号生成部161は、ピックアップ部12により標識用ビーズ300が固定化されているピット109またはグルーブ107を読み取ることにより生成されるRF信号より得られる連続した振幅変動の波形をパルス化したカウント信号を生成する。
【0033】
カウンタA162は、カウント信号生成部161において生成したカウント信号を、アドレス検出部160において生成した新たなアドレス情報の検出毎にカウント値をリセットしながらカウントし、アドレス情報を基準としたトラックの現在位置情報をカウント数で把握できるようにする。
【0034】
欠陥検出部163は、RF信号検出部15からのRF信号を取得し、RF信号の波形における所定の連続した振幅変動の波形を検出することで異常値を欠陥情報として検知する。
【0035】
クロック生成部164は、カウント信号生成部161において生成されたカウント信号によって一定の周波数からなるクロック信号を生成する。このクロック信号は、アドレス検出部160において生成した新たなアドレス情報が検出された後に再度カウント信号によって生成され、生成されたクロック信号に更新される。ここで、アドレス情報が検出された直後に欠陥検出部163において欠陥情報が検出された場合は、クロック信号を更新せず更新前のクロック信号が継続される。
【0036】
カウンタB165は、クロック生成部164で生成されたクロック信号をカウントする。カウンタB165は、欠陥検出部114において欠陥情報が出力された時点でカウントされた値をリセットするとともにカウントを再開する。
【0037】
位置情報計算部166は、通常の状態においてはカウンタA162より出力されたカウント値に基づき基準となるアドレス情報からの読み取り位置を求める。また、欠陥検出部163より欠陥情報を取得すると、読み取り位置が欠陥のある領域を読み取っていると判断するため、欠陥のある領域を読み取っている間はカウンタB165から出力されたカウント値に基づき基準となるアドレス情報からの読み取り位置を求める。このように求められた読み取り位置情報は制御部19に送出され、制御部19においては位置情報計算部166により求められた位置情報およびアドレス検出部160により送出されたアドレス情報に基づき、トラック上のピット109またはグルーブ107における位置情報を欠陥の有無とともに把握することができる。また、制御部19では、検出した欠陥による出力電圧値情報も受け、欠陥情報として、出力電圧値、欠陥開始位置、欠陥終了位置を得ることができる。これらの情報は、メモリ部20に保存される。
【0038】
次に、ピックアップ部12の構成について
図3を用いて説明する。ピックアップ部12は、一般的な光学式ディスクの読み取り装置と同様の構成であり、
図3に示すように、対物レンズ121、波長板122、偏光プリズム123、集光レンズ125、レーザ発振器126、検出レンズ127、光検出部128を備え、光検出部128は受光部129を備える。
【0039】
ピックアップ部12における光源は、レーザダイオードにより構成されるレーザ発振器126を用いる。レーザ発振器126から出射されるレーザ光の波長は、標識用ビーズ300の大きさにより適切なものを用いるが、例えば直径が約140nmの標識用ビーズ300を使用する場合には、レーザ光の波長が400nm程度の青紫色レーザを出射するレーザダイオードを使用するのが望ましい。レーザ発振器126は、例えばBlu-ray(BD)ディスクの再生用と同一の波長405nmの半導体レーザ発振器を用いることができる。
【0040】
レーザ発振器126より出射されたレーザ光は、集光レンズ125により平行な光束となり、偏光プリズム123を通過する。
【0041】
偏光プリズム123を通過したレーザ光は、波長板122を通過することにより、直線偏光の状態から円偏光に変換され、対物レンズ121により集光され、試料分析用ディスク100上に読み取りスポットとして照射される。
【0042】
対物レンズ121のNA(Numerical aperture:開口数)も標識用ビーズ300の大きさにより適切なものを選択する。例えば、同様に直径が約140nmの標識用ビーズ300を使用する場合には、NAが0.85程度の対物レンズ121を用いることが望ましい。
【0043】
試料分析用ディスク100からの反射光は、波長板122を通過する際に円偏光から往路とは偏光面が90度回転した直線偏光となって、偏光プリズム123で反射し、検出レンズ127を通過して光検出部128で受光される。
【0044】
検出レンズ127は、集光レンズと半円筒型レンズなどの組み合わせによりフォーカスエラー信号を生成する仕組みとなっている。試料分析用ディスク100上のトラックまたはアドレス用ピット、標識用ビーズ300の検出が球面収差により十分な品質で検出できない場合には集光レンズ125に別の複数のレンズを追加して(図示せず)球面収差補正を行うことにより改善することもできる。
【0045】
光検出部128を構成する受光部129は、4分割された受光セルで構成され、その中央部に反射光が照射される。RF信号検出部15によって検出されるRF信号は、受光部129を構成するそれぞれの受光セルによる出力の広帯域の総和信号(A+B+C+D)およびウォブル信号検出のための(A+D)−(B+C)で演算される広帯域の差動信号である。また、サーボ信号検出部13において検出されるFE信号は(A+C)−(B+D)の演算で生成され、TE信号は(A+D)−(B+C)の演算で生成される。
【0046】
次に、本発明の光学的分析装置10によって読み取る、試料分析用ディスク100の構造について、
図4から
図7を用いて説明する。
【0047】
図4は、試料分析用ディスク100の構造を模式的に表した図である。試料分析用ディスク100は、例えばCD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)等と同じ直径の円盤形状であり、素材もポリカーボネートなど同様な素材が用いられている。
【0048】
試料分析用ディスク100は、分析対象となる試料を注入するための複数の注入孔101をディスク内周側に、試料分析用ディスク100の中心に対して回転対象に備える。注入孔101の容積は、検査に必要な試料を計量する大きさになっている。
【0049】
また、注入孔101の各々からは滴下された試料が流れる流路102が、試料分析用ディスク100の中心から見て放射状に備えられる。さらに、流路102の各々に接続され、試料分析用ディスク100の外周部に位置する検出領域104が備えられる。また、流路102の一部には、試料に含まれる特定の抗原に対して結合する抗体が修飾された標識用ビーズ300が規定量充填されているビーズ充填部103が備えられる。
【0050】
試料分析用ディスク100の外周部には、スパイラル状または同心円状のトラック領域105が形成される。トラック領域105の構造は光ディスクの信号面と同様の構造であり、
図6に示すようにピット109またはグルーブ107によって構成される。トラック領域105におけるピット109またはグルーブ107は、検出領域104においても連続して形成され、ピット109またはグルーブ107における検出領域104の開始位置にはアドレス用ピット列126がピット109またはグルーブ107に連続して形成されている。
【0051】
図6は、試料分析用ディスク100におけるトラック領域の断面模式図である。
図6において、
図6(a)はトラック領域105がグルーブ107およびランド108によって形成されている場合の図であり、
図6(b)はトラック領域105がピット109により形成されている場合の図である。
【0052】
図5は、試料分析用ディスク100の断面構造と試料の流れを表した模式図であり、
図5における矢印は、注入孔101に注入された試料の試料分析用ディスク100の回転による流れを示している。試料分析用ディスク100の内周側には、試料分析用ディスク100を構成する素材と保護層106によって深さ100μmから500μmの流路102が形成されており、分析対象の試料が通過する流路102の一部に特定の抗体が修飾された標識用ビーズ300が充填されているビーズ充填部103が備えられる。
【0053】
試料分析用ディスク100を回転させると、注入孔101より滴下された試料は遠心力により抗原−抗体反応のための流路102に導かれる。流路102につながるビーズ充填部103には、試料に含まれる特定の抗原に対して結合する抗体が修飾された標識用ビーズ300が規定量充填されている。
【0054】
標識用ビーズ110は直径が100nmから1μm程度の大きさのポリマー粒子、または内部にフェライト等の磁性材料を含む磁気ビーズ等を用いる。また、金コロイドなどの金属微粒子やシリカビーズ等を用いることも可能である。標識用ビーズ300の直径は、検出に利用する光学的分析装置10の光学系により検出に最適な大きさが決定し、光学的分析装置10には、既存の光ディスクのドライブ、特に光ピックアップに利用されている部品を利用することが出来るという利点がある。
【0055】
また、標識用ビーズ300の表面には試料に含まれる抗原200と特異的に結合する抗体210をあらかじめ結合させておく。抗体210の種類には様々なものがあり、例えばB型肝炎の検査の場合には血液中に含まれるHBs抗原と特異的に結合するHBsAgモノクローナル抗体を修飾しておく。修飾する抗体210の種類は検出する抗原200の種類にあわせ特異的に結合するものを選択する。
【0056】
流路102中で抗体210が修飾された標識用ビーズ300と試料が混合されると、試料に含まれる抗原200が標識用ビーズ300の表面に修飾された抗体210と結合し、標識用ビーズ300、抗体210、抗原200の複合物が形成される。
【0057】
この段階で溶液中には試料に含まれる抗原200の量に応じて、抗原200と抗体210が反応した複合物の標識用ビーズ300と、抗原200と反応していない標識用ビーズ300が一定の割合で存在している。さらに試料分析用ディスク100の遠心力により、流路102で反応した溶液を外周部の検出領域104に展開させる。
【0058】
検出領域104は、流路102の底面が接する面が、光ディスクの信号面と同様に、グルーブ107またはピット109が形成されている。これらグルーブ107またはピット109に対して光ディスクの読み取りと同様に対物レンズ121により集光されたレーザ光を照射して、グルーブ107またはピット109さらにはグルーブ107またはピット109に固定された標識用ビーズ300の有無を読み取る。
【0059】
検出領域104には、標識用ビーズ300の表面に修飾したものと同じ種類の抗体210がシランカップリング等の方法で固定されている。検出領域104に展開された溶液に含まれている抗原200、すなわち流路102の中で抗体210が修飾された標識用ビーズ300と反応した複合物は、さらに検出領域104に固定されている抗体210と結合し、標識用ビーズ300、抗体210、抗原200、固相化抗体によるサンドイッチ型の複合物を形成し、検出領域104の基板上にランダムに固定化される。抗原200と反応していない標識用ビーズ300は、検出領域104にとどまらず、遠心力によりさらにディスク外周へ送られ、検出領域104の外に排出される。また、複数設けられている検出領域104には、場所を特定するためのアドレス情報が記録されている。
【0060】
図7は、検出領域104におけるトラック構成を示す模式図である。検出領域104の各トラックの先頭には、複数のアドレス用ピット115からなるアドレス用ピット列126が形成されている。
図7(a)は、アドレス用ピット列126をトラックの先頭としてピット109が形成されている構成を示している。分析用試料が検出領域104に達し、標識用ビーズ300が固定化されたときは、ピット109の内部に標識用ビーズ300が固定されている。
図7(b)は、アドレス用ピット列126をトラックの先頭としてグルーブ107が形成されている構成を示している。分析用試料が検出領域104に達し、標識用ビーズ300が固定化されたときは、グルーブ107の内部に標識用ビーズ300が固定されている。
【0061】
アドレス用ピット列126は、個々の検出領域104におけるトラック毎のアドレス情報が、アドレス情報に相当する変調成分が得られるような複数の長さのアドレス用ピット115が形成されることにより設定されている。このアドレス用ピット列126により、読み取り中の検出領域104における位置とトラック位置を把握することができる。また、アドレス用ピット115は、試料分析用ディスク100の半径方向において標識用ビーズ300の直径よりも小さなピットで形成されている。このため、標識用ビーズ300が誤ってアドレス用ピット115に固定されることは無い。
【0062】
また、
図7(a)の例においては、ピット109は同一形状で形成され、トラック方向に対し等間隔または特定の規則性で配置される。このピット109をピックアップ部12によって読み取ると、ピックアップ部12からの信号出力は、ピット109の有無で出力値が規則的に変動し、連続した振幅変動の波形が得られる。従って、アドレス用ピット115を基準にして、ピット109による振幅変動の波形をカウントすることにより、カウント数により読み取り位置を正確に把握することができる。このため、検出領域104における標識用ビーズ300が固定化されたピット109の位置は、トラックのアドレス情報とカウント数の組み合わせにより決定することができる。
【0063】
図7(b)においても同様であり、トラックがグルーブ107及びランド108からなる構成であっても、アドレス用ピット列126に続いて形成されるグルーブ107は、等間隔または特定の規則性のウォブル形状で形成されている。このため、ピックアップ部12からの信号出力は、ウォブル形状により出力値が規則的に変動し、連続した振幅変動の波形が得られる。従って、アドレス用ピット115を基準にして、ウォブルによる振幅変動の波形をカウントすることにより、カウント数により読み取り位置を正確に把握することができる。このため、検出領域104における標識用ビーズ300が固定化されたグルーブ107における位置は、トラックのアドレス情報とカウント数の組み合わせにより決定することができる。
【0064】
次に、試料分析用ディスク100を用いた試料の分析について、
図8に基づき説明する。
【0065】
図8は試料分析用ディスク100上で、抗原200と抗体210が反応した後の複合物の構成を模式的に表した図である。この反応は、ウェルプレートで行われるのと同様の抗原−抗体反応を利用したサンドイッチ法による原理により、試料に含まれる抗原200に計測可能な標識である標識用ビーズ300が付けられた状態で、検出領域104に固定されていることになる。サンドイッチ法は検出対象の絶対量に対して出力がリニアに得られることから定量測定が行いやすい方法として多く用いられている。固定化の方法はこれに限らず、競合法など他の方法を用いることも出来る。
【0066】
一般的に、光ディスクは未使用状態であっても汚れやキズなどによる欠陥が存在することがあり、試料分析用ディスク100においても同様である。試料分析用ディスク100において、標識用ビーズ300が固定化される検出領域104にも欠陥が存在する可能性がある。
【0067】
図9は、試料分析用ディスク100におけるトラック上の欠陥要素400を示す模式図であり、ピット109の列によって構成された複数のトラックを跨いで欠陥要素400が存在している様子を示している。欠陥要素400は、傷や試料分析用ディスク100の表面に付着した汚れ等によるトラック上の欠陥である。
【0068】
試料分析用ディスク100に欠陥要素400が存在しない場合は、検出領域104におけるピット109を読み取った信号の出力は、出力値が規則的に変動し、連続した振幅変動の波形が得られる。同様にグルーブ107を読み取った信号の出力は、振幅変動が現れない直流波形に近い波形が得られる。
【0069】
また、ピット109またはグルーブ107に標識用ビーズ300が固定化されている場合は、前述した波形の中に変動が大きく現れる箇所がでる。この出力変動量をある閾値を設けて検知することにより標識用ビーズ300を検出することができるが、標識用ビーズ300の光学的特性のばらつきにより、その出力変動量はある幅を持っていることがある。よって、この幅を考慮した閾値を設定して標識用ビーズ300の検出を行う必要がある。
【0070】
しかし、試料分析用ディスク100に欠陥要素400が存在する場合は、ピット109またはグルーブ107の読み取り波形に乱れが生じ、さらに標識用ビーズ300が固定化されているピット109またはグルーブ107の読み取り波形にも乱れが生じる。このため、欠陥要素400の有無を把握せずに光ピックアップ部12からの信号をそのまま閾値に対して比較してしまうと、標識用ビーズ300の検出に誤った検出結果を生じる可能性がある。また、標識用ビーズ300が固定されていないピット109またはグルーブ107に対しても、欠陥要素400が存在することにより、標識用ビーズ300が固定化されているピット109またはグルーブ107として誤った検出が行われる可能性もある。
【0071】
更に、予め欠陥要素400の状態や位置を把握するため、標識用ビーズ300を固定化する前に一旦検出領域104における各トラックの確認を行う際に、欠陥要素400自体の影響によりピット109のカウントエラーを生じてしまうことにより、欠陥要素400の位置情報などが正しく得られない可能性もある。このようなカウントエラーを防止するために、
図2における位置情報検出部16を用いて、予め欠陥要素400の位置を特定し、標識用ビーズ300の計測値を補正する。
【0072】
以上説明した、試料分析用ディスク100の欠陥を考慮した標識用ビーズ300のカウントについて、
図10から
図13に基づき説明する。
【0073】
図10は、試料分析用ディスク100におけるトラック領域105上の反射光による出力電圧値の例を模式的に表した図であり、トラック領域105にピット109が形成されている。
図10は、分析対象となる試料が注入され、試料における特定の抗原が標識用ビーズ300に結合するとともに検出領域104におけるピット109に固定化された状態を表している。このため、ピット109には、標識用ビーズ300が固定化されていないピットと固定化されているピットとが存在する。
【0074】
ピックアップ部12から照射されたレーザ光が検出領域104上に読み取りスポット410をしながら反射光を検出すると、ピット109以外の部分における反射光はV0に相当する電圧値として検出され、ピット109における反射光はVpに相当する電圧値として検出される。
【0075】
また、ピット109に標識用ビーズ300が固定化されている場合は、(a)に示すようにV1に相当する電圧値として検出される。また、検出領域104上に欠陥要素400が存在する例として、汚れによる欠陥要素400を汚れ401とし、傷による欠陥要素を傷402としている。
【0076】
欠陥要素400において検出される電圧波形は、例えば(b)に示すように電圧値V3のような電圧値が検出される場合や、(c)に示すようにTnに示す範囲に対して電圧が変化する波形が検出される場合などである。
【0077】
先ず、本実施例の全体の処理を
図11に示す。
図11において先ず分析対象なる試料が注入される前における標識用ビーズ300が固定化されていない試料分析用ディスク100を光学的分析装置10にセットし、検出領域104の各々における欠陥要素400を光学的に読み取り、メモリ部20に記憶させる(ステップS10)。
【0078】
次に、ステップS10において欠陥情報として欠陥要素400を抽出した試料分析用ディスク100に対して、分析対象となる試料が注入孔101より注入される。分析対象となる試料が注入された試料分析用ディスク100が回転することにより、分析対象となる試料がビーズ充填部103を通過することによって標識用ビーズ300と結合し、検出領域104に固定化される。この固定化された標識用ビーズ300を光学的に読み取ることによって標識用ビーズ300をカウントするとともに、ステップS10において抽出した欠陥情報によって標識用ビーズ300の数を補正する(ステップS11)。
【0079】
図12を用いて、ステップS10の処理を詳細に説明する。
図12において先ずセットされた試料が注入されていない試料分析用ディスク100のトラック領域105における所定のトラックを読み取るためトラッキングサーボをオンにする(ステップS100)。
【0080】
次に、検出領域104におけるアドレス用ピット列を読み取り、アドレス検出部160は、アドレス用ピット列より取得したアドレス情報から検出領域104のエリア番号を検出する(ステップS101)。エリア番号は、検出領域104に付与されている番号やトラック番号などから決定される。
【0081】
次に、カウント信号生成部161によりカウント信号を検出する(ステップS102)。カウント信号は、アドレス信号の次に検出されるピット109やグルーブ107におけるウォブルによる所定の連続した振幅変動の波形から成る。
【0082】
次に、カウンタA162は連続した振幅変動の波形が示すウォブルまたはピット109をカウントする(ステップS103)。その一方、クロック生成部164はカウント信号からカウント用クロックを生成する(ステップS104)。
【0083】
ここまでの処理と同時に、ピット109やグルーブ107を読み取ることによって得られる出力信号の変化により、欠陥検出部163は読み取りを行っている検出領域104における任意のトラックにおける欠陥要素400の検出を行い、欠陥要素400の有無を判断する(ステップS105)。
【0084】
ステップS105において欠陥要素400が存在していない場合には(ステップS105:No)、ステップS110に推移して、欠陥要素400が存在していない結果をアドレス情報と対応つけてメモリ部20に記録する。ステップS105において欠陥要素400を検出した場合は(ステップS105:Yes)、アドレス信号位置を基準としたカウント信号のカウント数を欠陥開始位置として検出する(ステップS106)。さらにカウント信号をステップS104で生成したクロック信号に切り替えカウンタB165によりカウントする(ステップS107)。
【0085】
次に、制御部19はRF信号検出部15からの出力により欠陥要素400における出力信号の変化量を欠陥信号電圧値として検出する(ステップS108)。
【0086】
次に、読み取りスポット410による読み取り位置が欠陥要素400の範囲から外れることによって、出力信号が通常の波形となった時点で、カウンタB165においてカウント信号をクロック信号に切り替えてカウントしてきたカウント数を欠陥終了位置として検出する(ステップS109)。
【0087】
最後に、ステップS106で検出した欠陥開始位置と、ステップS109で検出した欠陥終了位置に加えて欠陥要素400における出力信号の値をメモリ部20に記録する(ステップS110)。
【0088】
図12の処理を、検出領域104内の全てのトラックに対して繰り返す。トラックがスパイラル形状の場合には連続して工程を繰り返すことになるが、トラックが同心円形状の場合は、1トラックごと測定し、ジャンプパルスを付加して所定のトラックを次々とトレースする。
【0089】
次ぎに、
図11におけるステップS11の処理を
図13によって説明する。
図13における処理は、標識用ビーズ300が固定化された後に標識用ビーズ300のカウントを行う過程で、読み取りスポット410がトレースしている場所と、予めメモリに記憶しておいた欠陥要素400の場所が一致するときに選択される対応を示している。従って、予め欠陥要素400を検出する時に、発見された欠陥要素400により対応方法を予め決定することになる。
【0090】
先ず、制御部19は欠陥要素400による出力電圧値であるV3が任意の出力電圧値V2以上であるか否かを判断する(ステップS200)。任意の出力電圧値V2とは、標識用ビーズ300を読み取るときの出力電圧V1とそのばらつき量によって決定される。例えばV1とV2との関係はV1≦V2となる。
【0091】
ステップS200において、欠陥要素400による出力電圧値であるV3が任意の出力電圧値V2以上であると判断された場合は(ステップS200:Yes)、欠陥要素400による出力電圧値であるV3の大きさによって標識用ビーズ300による出力電圧値を補正する(ステップS201)。具体的には、標識用ビーズ300を検出するための閾値に対して欠陥要素400による出力電圧値の補正を行う。例えば、補正後の閾値をV'1とするとV'1<V1−a・V1/V3のように決定される。ここでaは標識用ビーズ300による信号変調度により設定された定数である。
【0092】
ステップS200において、欠陥要素400による出力電圧値であるV3が任意の出力電圧値V2以上ではないと判断された場合は(ステップS200:No)、制御部19は欠陥領域内の標識用ビーズ300のカウントを中止する(ステップS202)。
【0093】
次に、標識用ビーズ300の検出対象となっている検出領域104に対する欠陥要素400の比率を総ピット数(カウント数)により計算し、その割合が所定値以下であるか否かを判断する(ステップS203)。この判断は、検出されている欠陥要素400の範囲に相当するピット数を
図10(c)に示すようにTnとすると、検出対象となっている検出領域104内全ての欠陥要素400の範囲に相当する総ピット数はΣ(Tn)となる。検出対象となっている検出領域104内の全ピット数Aに対するΣ(Tn)の割合Σ(Tn)/Aが所定値以下であるかを判断する。この所定値は分析対象となる試料の濃度により設定され、試料の濃度が低濃度であるほど設定値は小さくなる。
【0094】
ステップS203において、所定値以下であると判断された場合は(ステップS203:Yes)、標識用ビーズ300のカウント結果の総数を欠陥要素400の比率に応じて補正し、補正した値をその検出領域104全体における標識用ビーズ300の総数とする(ステップS204)。
【0095】
ステップS203において、所定値以下ではないと判断された場合は(ステップS203:No)、その検出領域104における検出は行わないこととする(ステップS205)。ステップS205の処理は、
図11に示すステップS10の処理において抽出した欠陥情報に基づいて行ってもよい。
【0096】
以上の様に、標識用ビーズ300を固定化する前に試料分析用ディスク100に存在する各種欠陥の状態を、その位置や大きさ、信号出力値などにより定量化しておくことにより、標識用ビーズ300の信号出力値のばらつきや、低濃度試料において固定化される標識用ビーズ300の数量が少ない場合でも欠陥による信号の乱れ影響を受けずに標識用ビーズ300を正確にカウントすることができ、生体試料に含まれる抗体または抗原の詳細な定量化が可能となり、検査能力、応用範囲の拡大を図ることができる。