(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ロータ軸とラジアル軸受の摺動部に給油された潤滑油は、過給機の運転中に次のような挙動を有していると考えられる。即ち、軸受ハウジング内における嵌挿穴付近に飛散した潤滑油は、重力により嵌挿穴の下部付近に溜まる傾向にあり、第1シールリングの合口部の周方向位置が鉛直下方位置にあるか又は鉛直下方位置に近いと、潤滑油が第1シールリングの合口部を通過し易くなる。また、第2シールリングの合口部の周方向位置が第1シールリングの合口部の周方向位置と同じであるか又は近いと、潤滑油が第1シールリングの合口部を通過した直後に、第2シールリングの合口部を通過し易くなる。更に、第1シールリングの合口部から第2シールリングの合口部までのロータ軸の回転方向に沿った距離が短いと、第1シールリングの合口部を通過した潤滑油がロータ軸の回転による連れ回りによって第2シールリングの合口部を通過し易くなる。
【0007】
一方、近年、車両用過給機においては、コンプレッサ圧力比及びタービン膨張比の向上の要請が強まっており、それに伴い、軸受ハウジング側からインペラ側への潤滑油の漏れの要因となるインペラの背面側の負圧が上昇する傾向にある。そのため、多重シール構造のシール性能をより高いレベルまで向上させることが急務になってきている。
【0008】
そこで、本発明は、前述の問題を解決するために、過給機の運転中における潤滑油の挙動を考慮した新規な構成の多重シール構造等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の本発明
は、軸受ハウジングにラジアル軸受を介して回転可能に支持されたロータ軸と、前記ロータ軸の端部
に連結されたインペラとを備えた過給機に用いられ、前記軸受ハウジング側から前記インペラ側への潤滑油の漏れ及び前記インペラ側から前記軸受ハウジング側へのガスの漏れを防止する多重シール構造において、前記軸受ハウジングにおける前記インペラ側の側部に前記ロータ軸を嵌挿可能な嵌挿穴が形成され、前記ロータ軸の外周面に第1リング溝が前記嵌挿穴の内周面に対向して形成され、前記ロータ軸の外周面における前記第1リング溝よりも前記インペラ側に第2リング溝が前記嵌挿穴の内周面に対向して形成され、前記嵌挿穴の内周面に第1シールリングがその弾性力によって圧接して(圧接した状態で)設けられ、前記第1シールリングの内周縁部が前記第1リング溝内に嵌入し、前記第1シールリングの内周縁部がガスの圧力によって前記第1リング溝の壁面に押付けられ
、前記嵌挿穴の内周面における前記第1シールリングよりも前記インペラ側に第2シールリングがその弾性力によって圧接して設けられ、前記第2シールリングの内周縁部が前記第2リング溝内に嵌入し
、前記第2シールリングの内周縁部がガスの圧力によって前記第2リング溝の壁面に押付けられ
、前記嵌挿穴の内周面と前記ロータ軸の外周面との間のシールリングとして前記第1シールリング及び前記第2シールリングのみ有し、前記第1シールリングの合口部(合口部の中心)の周方向位置(円周方向の位置)は、鉛直上方位置と実質的に同じ位置に設定され、前記第2シールリングの合口部(合口部の中心)の周方向位置は、鉛直上方位置から前記ロータ軸の回転方向の反対側に20〜90度ずれた位置に設定されている
。
【0010】
なお、本願の明細書及び特許請求の範囲において、「インペラ」とは、ガスの圧力のエネルギーを利用して回転力を発生させるタービンインペラ、遠心力を利用してガスを圧縮するコンプレッサインペラを含む意であって、「ガス」とは、排気ガス、空気(圧縮空気)等を含む意である。また、「形成され」とは、直接的に形成されたことの他に、別部材を介して間接的に形成されたことを含む意である。更に、「鉛直上方位置と実質的に同じ位置」とは、鉛直上方位置から±5度の範囲内にある周方向位置のことをいう。
【0011】
第1の本発明の構成によると、前記嵌挿穴の内周面に前記第1シールリングがその弾性力によって圧接して設けられ、前記第1シールリングの内周縁部が前記インペラ側のガスの圧力によって前記第1リング溝の壁面に押付けられるようになっているため、前記第1シールリングによって前記嵌挿穴と前記第1リング溝との間をシールすることができる。また、前記嵌挿穴の内周面における前記第1シールリングよりも前記インペラ側に第2シールリングがその弾性力によって圧接して設けられ、前記第2シールリングの内周縁部が前記インペラ側のガスの圧力によって前記第2リング溝の壁面に押付けられるようになっているため、前記第2シールリングによって前記嵌挿穴と前記第2リング溝との間をシールすることができる。これにより、前記過給機の運転中に、前記軸受ハウジング側から前記インペラ側への潤滑油の漏れ及び前記インペラ側から前記軸受ハウジング側へのガスの漏れを防止することができる。
【0012】
前記第1シールリングの合口部の周方向位置が鉛直上方位置と実質的に同じ位置に設定されているため、前記第1シールリングの合口部を前記嵌挿穴の下部から遠ざけることができる。これにより、前記軸受ハウジング内をおいて飛散した潤滑油が重力により前記嵌挿穴の下部付近に溜まっても、前記第1シールリングの合口部を通過することを抑えることができる。
【0013】
前記第2シールリングの合口部の周方向位置が鉛直上方位置から前記ロータ軸の回転方向の反対側に20度以上ずれた位置に設定されているため、前記第2シールリングの合口部を前記第1シールリングの合口部から遠ざけることができる。これにより、潤滑油が前記第1シールリングの合口部を通過しても、前記第1シールリングの合口部を通過した直後に前記第2シールリングの合口部を通過することを抑えることができる。
【0014】
前記第2シールリングの合口部の周方向位置が鉛直上方位置から前記ロータ軸の回転方向の反対側に90度を超えてずれないように設定されているため、前記第1シールリングの合口部から前記第2シールリングの合口部まで前記ロータ軸の回転方向に沿った距離(連れ回り距離)を長くすることができる。これにより、潤滑油が前記第1シールリングの合口部を通過しても、前記ロータ軸の回転による連れ回りによって前記第2シールリングの合口部を通過することを抑えることができる。
【0015】
第2の本発明
は、エンジンからの排気ガスのエネルギーを利用して、前記エンジン側に供給される空気を過給する過給機において、第1の
本発明の構成からなる多重シール構造を備えた
。
【0016】
第2の
本発明の構成によると、第1の
本発明の構成による作用と同様の作用を奏する。
第3の本発明は、軸受ハウジングにラジアル軸受を介して回転可能に支持されたロータ軸と、前記ロータ軸の端部に連結されたインペラとを備え、前記軸受ハウジングは内側に支持ブロックを有し、前記支持ブロックに水平方向へ延びた設置穴が貫通形成され、エンジンからの排気ガスのエネルギーを利用して、前記エンジン側に供給される空気を過給する過給機において、前記軸受ハウジングにおける前記インペラ側の側部に前記ロータ軸を嵌挿可能な嵌挿穴が形成され、前記ロータ軸の外周面にシール用第1リング溝が前記嵌挿穴の内周面に対向して形成され、前記ロータ軸の外周面における前記シール用第1リング溝よりも前記インペラ側にシール用第2リング溝が前記嵌挿穴の内周面に対向して形成され、前記嵌挿穴の内周面に第1シールリングがその弾性力によって圧接して設けられ、前記第1シールリングの内周縁部が前記シール用第1リング溝内に嵌入し、前記第1シールリングの内周縁部がガスの圧力によって前記シール用第1リング溝の壁面に押付けられ、前記嵌挿穴の内周面における前記第1シールリングよりも前記インペラ側に第2シールリングがその弾性力によって圧接して設けられ、前記第2シールリングの内周縁部が前記シール用第2リング溝内に嵌入し、前記第2シールリングの内周縁部がガスの圧力によって前記シール用第2リング溝の壁面に押付けられ、前記第1シールリングの合口部の周方向位置は、鉛直上方位置と実質的に同じ位置に設定され、前記第2シールリングの合口部の周方向位置は、鉛直上方位置から前記ロータ軸の回転方向の反対側に20〜90度ずれた位置に設定され、前記支持ブロックの前記設置穴の内周面に取付用第1リング溝が形成され、前記支持ブロックの前記設置穴の内周面における前記取付用第1リング溝よりも前記インペラ側に取付用第2リング溝が形成され、前記取付用第1リング溝に前記ラジアル軸受の軸方向の一方側の移動を規制する第1止め輪がその弾性力によって圧接して設けられ、前記取付用第2リング溝に前記ラジアル軸受の前記軸方向の他方側の移動を規制する第2止め輪がその弾性力によって圧接して設けられ、前記第1止め輪の合口部及び前記第2止め輪の合口部の周方向位置が同じ位置でかつ鉛直下方位置から前記ロータ軸の回転方向の反対側に30〜90度ずれた位置に設定されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、重力により前記第1シールリングの下側付近に溜まった潤滑油が前記第1シールリングの合口部を通過することを抑えた上で、潤滑油が前記第1シールリングの合口部を通過しても、前記第2シールリングの合口部を通過することを抑えることができるため、前記インペラの背面側の負圧が上昇しても、前記軸受ハウジング側から前記インペラ側への潤滑油の漏れを十分に防止して、前記多重シール構造のシール性能をより高いレベルまで向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について
図1から
図7を参照して説明する。なお、図面中、「FF」は、前方向、「FR」は、後方向、「U」は、鉛直上方、「D」は、鉛直下方をそれぞれ指してある。
【0020】
図1、
図2、及び
図7に示すように、本発明の実施形態に係る車両用過給機1は、エンジン(図示省略)からの排気ガスのエネルギーを利用して、エンジンに供給される空気を過給(圧縮)するものである。そして、車両用過給機1の具体的な構成等は、以下のようになる。
【0021】
車両用過給機1は、軸受ハウジング3を備えており、この軸受ハウジング3は、内側に、支持ブロック5を有しており、この支持ブロック5には、前後方向(水平方向の1つ)に延びた設置穴7が貫通形成されている。なお、支持ブロック5は、軸受ハウジング3の内部の一部分を構成している。
【0022】
支持ブロック5の設置穴7内には、ラジアル軸受の一例として一対のフローティングメタル(フローティング軸受)9,11が前後方向に離隔して設けられており、各フローティングメタル9(11)は、支持ブロック5の設置穴7に対して回転可能である。また、各フローティングメタル9(11)の前後方向の中央部には、複数の通孔13(15)が周方向に間隔を置いて貫通形成されている。また、一対のフローティングメタル9には、前後方向へ延びたロータ軸(タービン軸)17が回転可能に支持されており、換言すれば、支持ブロック5には、ロータ軸17が一対のフローティングメタル9,11を介して回転可能に支持されている。
【0023】
ロータ軸17の前端部(一端部)には、遠心力を利用して空気を圧縮するコンプレッサインペラ19を一体的に連結されており、軸受ハウジング3の前側には、コンプレッサインペラ19を収容するコンプレッサハウジング21が設けられている。そして、コンプレッサハウジング21におけるコンプレッサインペラ19の入口側(コンプレッサハウジング21の前側)には、空気を取入れる空気取入口23が形成されている。また、コンプレッサハウジング21の内部におけるコンプレッサインペラ19の出口側には、渦巻き状のコンプレッサスクロール流路25が形成されている。更に、コンプレッサハウジング21の適宜位置には、圧縮された空気(圧縮空気)を排出する空気排出口27が形成されており、この空気排出口27は、コンプレッサスクロール流路25に連通してある。
【0024】
ロータ軸17の後端部(他端部)には、排気ガスの圧力エネルギーを利用して回転力(回転トルク)を発生させるタービンインペラ29が一体的に連結されており、軸受ハウジング3の後側には、タービンインペラ29を収容するタービンハウジング31が設けられている。そして、タービンハウジング31の適宜位置には、排気ガスを取入れるガス取入口33が形成されている。また、タービンハウジング31の内部におけるタービンインペラ29の入口側には、渦巻き状のタービンスクロール流路35が形成されており、このタービンスクロール流路35は、ガス取入口33に連通してある。更に、タービンハウジング31におけるタービンインペラ29の出口側(タービンハウジング31の後側)には、排気ガスを排出するガス排出口37が形成されている。
【0025】
ロータ軸17におけるコンプレッサインペラ19側には、環状のスラストカラー39が一体的に設けられている。そして、軸受ハウジング3におけるスラストカラー39の前側には、ロータ軸17に作用する前方向(ロータ軸17の軸方向の一方側)のスラスト荷重をスラストカラー39を介して負担(支持)する環状のスラスト軸受41が設けられている。また、軸受ハウジング3におけるスラストカラー39の後側には、ロータ軸17に作用する後方向(ロータ軸17の軸方向の他方側)のスラスト荷重をスラストカラー39を介して負担する環状のスラスト軸受43が設けられている。更に、ロータ軸17におけるコンプレッサインペラ19とスラストカラー39の間には、油切り45が一体的に設けられている。
【0026】
軸受ハウジング3の上部には、潤滑油Gを取入れる給油口(油取入口)47が形成されている。また、支持ブロック5(軸受ハウジング3の内部)には、各フローティングメタル9(11)とロータ軸17の摺動部及び各スラスト軸受41(43)とスラストカラー39の摺動部に潤滑油Gを給油するための給油通路49が形成されており、この給油通路49は、給油口47に連通してある。ここで、各フローティングメタル9(11)の前後方向の中央部の上側位置(通孔13(15)の上側位置)、及びスラスト軸受41の径方向の中央部の後側位置は、潤滑油Gの給油位置FPになっている。
【0027】
支持ブロック5の下部には、各フローティングメタル9(11)とロータ軸17の摺動部等を潤滑した潤滑油Gを排油するための排油穴51が貫通形成されている。また、給油通路49軸受ハウジング3内における支持ブロック5の下方には、フローティングメタル9(11)とロータ軸17の摺動部等を潤滑した潤滑油Gを受容する受容室(空洞部)53が形成されており、この受容室53は、排油穴51に連通してある。更に、軸受ハウジング3の下部には、潤滑油Gを軸受ハウジング3の外側へ排油する排油口55が形成されており、この排油口55は、受容室53に連通してある。
【0028】
図1に示すように、車両用過給機1は、軸受ハウジング3側からコンプレッサインペラ19側への潤滑油の漏れ及びコンプレッサインペラ19側から軸受ハウジング3側への空気(圧縮空気)の漏れを防止するフロント多重シール構造57を備えており、このフロント多重シール構造57の具体的な構成は、次のようになる。
【0029】
軸受ハウジング3の前側部(コンプレッサインペラ19側の側部)には、シールプレート59が設けられており、このシールプレート59は、中央部に、ロータ軸17の前端部を嵌挿可能なフロント嵌挿穴61を有しており、換言すれば、軸受ハウジング3の後側部には、フロント嵌挿穴61がシールプレート59を介して形成されている。
【0030】
油切り45の外周面には、シール用第1フロントリング溝63がフロント嵌挿穴61の内周面に対向して形成されており、換言すれば、ロータ軸17の前端側の外周面には、第1フロントリング溝63が油切り45を介して形成されている。また、油切り45の外周面における第1フロントリング溝63よりもコンプレッサインペラ19側(前側)には、シール用第2フロントリング溝65がフロント嵌挿穴61の内周面に対向して形成されており、換言すれば、ロータ軸17の外周面における第1フロントリング溝63よりもコンプレッサインペラ19側には、第2フロントリング溝65が油切り45を介して形成されている。
【0031】
フロント嵌挿穴61の内周面には、第1フロントシールリング67がその弾性力によって圧接して(圧接した状態で)設けられている。また、第1フロントシールリング67の内周縁部は、第1フロントリング溝63内に嵌入しており、第1フロントシールリング67の内周縁部は、コンプレッサインペラ19側の空気(圧縮空気)の圧力によって第1フロントリング溝63の壁面に押付けられるようになっている。更に、
図5(a)に示すように、第1フロントシールリング67の外周面に第1フロント凹部67dが形成され、フロント嵌挿穴61の内周面に第1フロント凹部67dに係合可能な第1フロント突起61pが形成されるようにすることが好ましい。或いは、
図5(b)に示すように、フロント嵌挿穴61の内周面に第1フロント凹部61dが形成され、第1フロントシールリング67の外周面に第1フロント凹部61dに係合可能な第1フロント突起67pが形成されるようにすることが好ましい。
【0032】
図1に示すように、フロント嵌挿穴61の内周面における第1フロントシールリング67よりもコンプレッサインペラ19側(前側)には、第2フロントシールリング69がその弾性力によって圧接して設けられている。また、第2フロントシールリング69の内周縁部は、第2フロントリング溝65内に嵌入しており、第2フロントシールリング69の内周縁部は、コンプレッサインペラ19側の空気の圧力によって第2フロントリング溝65の壁面に押付けられるようになっている。更に、第2フロントシールリング69の外周面又はフロント挿通穴61の内周面に第2フロント凹部(図示省略)が形成され、フロント挿通穴61の内周面又は第2フロントシールリング69の外周面に第2フロント凹部に係合可能な第2フロント突起(図示省略)が形成されるようにすることが好ましい。
【0033】
図3(a)に示すように、第1フロントシールリング67の合口部67f(合口部67fの中心)の周方向位置は、鉛直上方位置UPと実質的に同じ位置に設定されている。また、
図3(b)に示すように、第2フロントシールリング69の合口部69f(合口部69fの中心)の周方向位置は、鉛直上方位置UPからロータ軸17の回転方向Sの反対側に20〜90度、好ましくは、30〜60度ずれた位置に設定されている。
【0034】
ここで、第2フロントシールリング69の合口部69fのずれ角度を20度以上にしたのは、20度未満であると、第2フロントシールリング69の合口部69fが第1フロントシールリング67の合口部67fに近くなるからである。一方、第2フロントシールリング69の合口部69fのずれ角度を90度以下にしたのは、90度を超えると、第1フロントシールリング67の合口部67fから第2フロントシールリング69の合口部69fまでロータ軸17の回転方向Sに沿った距離(連れ回り距離)が短くなるからである。
【0035】
なお、フロント多重シール構造57は
、複数のフロントシールリングの厚みを異なるようにし
ても構わない。
【0036】
図2に示すように、車両用過給機1は、軸受ハウジング3側からタービンインペラ29側への潤滑油Gの漏れ及びタービンインペラ29側から軸受ハウジング3側への排気ガスの漏れを防止するリア多重シール構造71を備えており、このリア多重シール構造71の具体的な構成は、次のようになる。
【0037】
軸受ハウジング3の後側部(タービンインペラ29側の側部)には、ロータ軸17の後端部を嵌挿可能なリア嵌挿穴73が形成されている。また、ロータ軸17の後端側の外周面には、シール用第1リアリング溝75がリア嵌挿穴73の内周面に対向して形成されており、ロータ軸17の後端側の外周面における第1リアリング溝75よりもタービンインペラ29側(後側)には、シール用第2リアリング溝77がリア嵌挿穴73の内周面に対向して形成されている。
【0038】
リア嵌挿穴73の内周面には、第1リアシールリング79がその弾性力によって圧接して設けられている。また、第1リアシールリング79の内周縁部は、第1リアリング溝75内に嵌入しており、第1リアシールリング79の内周縁部は、タービンインペラ29側の排気ガスの圧力によって第1リアリング溝75の壁面に押付けられるようになっている。更に、第1リアシールリング79の外周面又はリア挿通穴73の内周面に第1リア凹部(図示省略)が形成され、リア挿通穴73の内周面又は第1リアシールリング79の外周面に第1リア凹部に係合可能な第1リア突起(図示省略)が形成されるようにすることが好ましい。
【0039】
リア嵌挿穴73の内周面における第1リアシールリング79よりもタービンインペラ29側には、第2リアシールリング81がその弾性力によって圧接して設けられている。また、第2リアシールリング81の内周縁部は、第2リアリング溝77内に嵌入しており、第2リアシールリング81の内周縁部は、タービンインペラ29側の排気ガスの圧力によって第2リアリング溝77の壁面に押付けられるようになっている。更に、第2リアシールリング81の外周面又はリア挿通穴73の内周面に第2リア凹部(図示省略)が形成され、リア挿通穴73の内周面又は第2リアシールリング81の外周面に第2リア凹部に係合可能な第2リア突起(図示省略)が形成されるようにすることが好ましい。
【0040】
図4(b)に示すように、第1リアシールリング79の合口部79f(合口部79fの中心)の周方向位置(円周方向の位置)は、鉛直上方位置と実質的に同じ位置に設定されている。また、
図4(a)に示すように、第2リアシールリング81の合口部81f(合口部81fの中心)の周方向位置は、鉛直上方位置からロータ軸17の回転方向Sの反対側に20〜90度、好ましくは、30〜60度ずれた位置に設定されている。
【0041】
ここで、第2リアシールリング81の合口部81fのずれ角度を20度以上にしたのは、20度未満であると、第2リアシールリング81の合口部81fが第1リアシールリング79の合口部79fに近くなるからである。一方、第2リアシールリング81の合口部81fのずれ角度を90度以下に設定したのは、90度を超えると、90度を超えると、第1リアシールリング79の合口部79fから第2リアシールリング81の合口部81fまでロータ軸17の回転方向Sに沿った距離(連れ回り距離)が短くなるからである。
【0042】
なお、リア多重シール構造71は
、複数のリアシールリングの厚みを異なるようにし
ても構わない。
【0043】
図2に示すように、車両用過給機1は、ロータ軸17を回転可能に支持するタービンインペラ29側のフローティングメタル11を取付けるためのリア軸受取付構造83を備えており、このリア軸受取付構造83の具体的な構成は、次のようになる。
【0044】
支持ブロック5の設置穴7の内周面には、取付用第1リアリング溝85が形成されており、支持ブロック5の設置穴7の内周面における第1リアリング溝85よりもタービンインペラ29側(後側)には、取付用第2リアリング溝87が形成されている。また、第1リアリング溝85には、フローティングメタル11の前方向(軸方向の一方側)の移動を規制する第1リア止め輪89がその弾性力によって圧接して設けられている。更に、第2リアリング溝87には、フローティングメタル9の後方向(軸方向の他方側)の移動を規制する第2リア止め輪91がその弾性力によって圧接して設けられている。
【0045】
図6(a)(b)に示すように、第1リア止め輪89の合口部89f(合口部89fの中心)及び第2リア止め輪91の合口部91f(合口部91fの中心)の周方向位置は、同じ位置に設定されている。また、第1リア止め輪89の合口部89f及び第2リア止め輪91の合口部91fの周方向位置は、鉛直下方位置DPからロータ軸17の回転方向Sの反対側に30〜90度、好ましくは、40〜60度ずれた位置に設定されている。
【0046】
ここで、第1リア止め輪89の合口部89f及び第2リア止め輪91の合口部91fのずれ角度を30度以上にしたのは、30度未満であると、第1リア止め輪89の合口部89f及び第2リア止め輪91の合口部91fが鉛直下方位置DPが近くなるからである。一方、第1リア止め輪89の合口部89f及び第2リア止め輪91の合口部91fのずれ角度を90度以下にしたのは、90度を超えると、第1リア止め輪89の合口部89f及び第2リア止め輪91の合口部91fがフローティングメタル11の上側位置(給油位置FP)に近くなると共に、フローティングメタル11の下側位置(鉛直下方位置DP)から第1リア止め輪89の合口部89f及び第2リア止め輪91の合口部91fまでロータ軸17の回転方向に沿った距離(連れ回り距離)が短くなるからである。
【0047】
図1に示すように、車両用過給機1は、ロータ軸17を回転可能に支持するコンプレッサインペラ19側のフローティングメタル9を取付けるためのフロント軸受取付構造93を備えており、このフロント軸受取付構造93の具体的な構成は、次のようになる。
【0048】
支持ブロック5の設置穴7の内周面おける第1リアリング溝85よりも前側には、取付用フロントリング溝95が形成されている。また、フロントリング溝95には、フローティングメタル9の後方向の移動を規制するフロント止め輪97がその弾性力によって圧接して設けられている。更に、フローティングメタル9は、スラスト軸受43によって前方向の移動が規制されており、換言すれば、スラスト軸受43は、フローティングメタル9の前方向の移動を規制する規制部材としてフロント軸受取付構造93の一部を構成している。
【0049】
スラスト軸受43がフロント軸受取付構造93の一部を構成する代わりに、支持ブロック5の設置穴7の内周面おけるフロントリング溝95よりも前側に別のフロントリング溝(図示省略)が形成され、別のフロントリング溝にフローティングメタル9の前方向の移動を規制する別のフロント止め輪(図示省略)がその弾性力によって圧接して設けられるようにしても構わない。この場合には、リア軸受取付構造83と同様に、フロント止め輪97の合口部(図示省略)及び別のフロント止め輪の合口部(図示省略)の周方向位置は、同じ位置に設定され、フロント止め輪97の合口部及び別のフロント止め輪の合口部の周方向位置は、鉛直下方位置DPからロータ軸17の回転方向(タービンインペラ29の回転方向)Sの反対側に30〜90度ずれた位置に設定されることが望ましい。
【0050】
続いて、本発明の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0051】
(車両用過給機1の通常の作用)
ガス取入口33から取入れた排気ガスをタービンスクロール流路35を経由してタービンインペラ29の入口側から出口側(排気ガスの流れ方向から見て上流側から下流側)へ流通させることにより、排気ガスの圧力エネルギーを利用して回転力(回転トルク)を発生させて、ロータ軸17及びコンプレッサインペラ19をタービンインペラ29と一体的に回転させることができる。これにより、空気取入口23から取入れた空気を圧縮して、コンプレッサスクロール流路25を経由して空気排出口27から排出することができ、エンジンに供給される空気を過給することができる(車両用過給機1の通常の運転動作)。
【0052】
車両用過給機1の運転中に、給油口47から潤滑油Gを取入れることにより、給油通路49を経由して各フローティングメタル9(11)とロータ軸17の摺動部及び各スラスト軸受41(43)とスラストカラー39の摺動部に潤滑油Gを給油する。これにより、各フローティングメタル9(11)とロータ軸17の摺動部等を潤滑して、各フローティングメタル9(11)とロータ軸17等の焼き付け等を防止することができる。一方、各フローティングメタル9(11)とロータ軸17の摺動部等を潤滑した潤滑油Gは、排油穴51等から流出して、受容室53を経由して排油口55から軸受ハウジング3の外側へ排油される。
【0053】
(フロント多重シール構造57の作用)
フロント嵌挿穴61の内周面に第1フロントシールリング67がその弾性力によって圧接して設けられ、第1フロントシールリング67の内周縁部がコンプレッサインペラ19側の空気(圧縮空気)の圧力によって第1フロントリング溝63の壁面に押付けられるようになっているため、第1フロントシールリング67によってフロント嵌挿穴61と第1フロントリング溝63との間をシールすることができる。また、フロント嵌挿穴61の内周面における第1フロントシールリング67よりもコンプレッサインペラ19側に第2フロントシールリング69がその弾性力によって圧接して設けられ、第2フロントシールリング69の内周縁部がコンプレッサインペラ19側の空気(圧縮空気)の圧力によって第2フロントリング溝65の壁面に押付けられるようになっているため、第2フロントシールリング69によってフロント嵌挿穴61と第2フロントリング溝65との間をシールすることができる。これにより、車両用過給機1の運転中に、軸受ハウジング3側からコンプレッサインペラ19側への潤滑油Gの漏れ及びコンプレッサインペラ19側から軸受ハウジング3側への空気の漏れを防止することができる。
【0054】
なお、コンプレッサインペラ19側から軸受ハウジング3側への空気の漏れに関しては、コンプレッサインペラ19側の空気の圧力による影響が大きく、第1フロントシールリング67の合口部67f及び第2フロントシールリング69の合口部69fの周方向位置による影響は小さいものと考えられる。
【0055】
第1フロントシールリング67の合口部67fの周方向位置が鉛直上方位置UPと実質的に同じ位置に設定されているため、第1フロントシールリング67の合口部67fをフロント嵌挿穴61の下部から遠ざけることができる。これにより、軸受ハウジング3内をおいて飛散した潤滑油Gが重力によりフロント嵌挿穴61の下部付近に溜まっても、第1フロントシールリング67の合口部67fを通過することを抑えることができる。
【0056】
第2フロントシールリング69の合口部69fの周方向位置が鉛直上方位置UPからロータ軸17の回転方向Sの反対側に20度以上ずれた位置に設定されているため、第2フロントシールリング69の合口部69fを第1フロントシールリング67の合口部67fから遠ざけることができる。これにより、潤滑油Gが第1フロントシールリング67の合口部67fを通過しても、第1フロントシールリング67の合口部67fを通過した直後に第2フロントシールリング69の合口部69fを通過することを抑えることができる。
【0057】
第2フロントシールリング69の合口部69fの周方向位置が鉛直上方位置UPからロータ軸17の回転方向Sの反対側に90度を超えてずれないように設定されているため、第1フロントシールリング67の合口部67fから第2フロントシールリング69の合口部69fまでロータ軸17の回転方向Sに沿った距離(連れ回り距離)を長くすることができる。これにより、潤滑油Gが第1フロントシールリング67の合口部67fを通過しても、ロータ軸17の回転による連れ回りによって第2フロントシールリング69の合口部69fを通過することを抑えることができる。
【0058】
(リア多重シール構造71の作用)
リア嵌挿穴73の内周面に第1リアシールリング79がその弾性力によって圧接して設けられ、第1リアシールリング79の内周縁部がタービンインペラ29側の排気ガスの圧力によって第1リアリング溝75の壁面に押付けられるようになっているため、第1リアシールリング79によってリア嵌挿穴73と第1リアリング溝75との間をシールすることができる。また、リア嵌挿穴73の内周面における第1リアシールリング79よりもタービンインペラ29側に第2リアシールリング81がその弾性力によって圧接して設けられ、第2リアシールリング81の内周縁部がタービンインペラ29側の排気ガスの圧力によって第2リアリング溝77の壁面に押付けられるようになっているため、第2リアシールリング81によってリア嵌挿穴73と第2リアリング溝77との間をシールすることができる。これにより、車両用過給機1の運転中に、軸受ハウジング3側からタービンインペラ29側への潤滑油Gの漏れ及びタービンインペラ29側から軸受ハウジング3側への排気ガスの漏れを防止することができる。
【0059】
なお、タービンインペラ29側から軸受ハウジング3側への排気ガスの漏れに関しては、タービンインペラ29側の排気ガスの圧力による影響が大きく、第1リアシールリング79の合口部79f及び第2リアシールリング81の合口部81fの周方向位置による影響は小さいものと考えられる。
【0060】
第1リアシールリング79の合口部79fの周方向位置が鉛直上方位置UPと実質的に同じ位置に設定されているため、第1リアシールリング79の合口部79fをリア嵌挿穴73の下部から遠ざけることができる。これにより、軸受ハウジング3内をおいて飛散した潤滑油Gが重力によりリア嵌挿穴73の下部付近に溜まっても、第1リアシールリング79の合口部79fを通過することを抑えることができる。
【0061】
第2リアシールリング81の合口部81fの周方向位置が鉛直上方位置UPからロータ軸17の回転方向Sの反対側に20度以上ずれた位置に設定されているため、第2リアシールリング81の合口部81fを第1リアシールリング79の合口部79fから遠ざけることができる。これにより、潤滑油Gが第1リアシールリング79の合口部79fを通過しても、第1リアシールリング79の合口部79fを通過した直後に第2リアシールリング81の合口部81fを通過することを抑えることができる。
【0062】
第2リアシールリング81の合口部81fの周方向位置が鉛直上方位置UPからロータ軸17の回転方向Sの反対側に90度を超えてずれないように設定されているため、第1リアシールリング79の合口部79fから第2リアシールリング81の合口部81fまでロータ軸17の回転方向Sに沿った距離(連れ回り距離)を長くすることができる。これにより、潤滑油Gが第1リアシールリング79の合口部79fを通過しても、ロータ軸17の回転による連れ回りによって第2リアシールリング81の合口部81fを通過することを抑えることができる。
【0063】
(リア軸受取付構造83の作用)
第1リア止め輪89の合口部89f及び第2リア止め輪91の合口部91fの周方向位置が同じ位置に設定されているため、フローティングメタル11における前後方向(ロータ軸17の軸方向)の中央部の上側位置(給油位置FP)から潤滑油Gが給油された場合において、フローティングメタル11における前後方向の両側から流出する潤滑油Gの流出量、換言すれば、フローティングメタル11における前後方向の両側に作用する潤滑油Gの油圧を差を極力小さくすることができる。これにより、車両用過給機1の運転中にフローティングメタル11に生じる前後方向の荷重を低減することができる。
【0064】
第1リア止め輪89の合口部89f及び第2リア止め輪91の合口部91fの周方向位置が鉛直下方位置DPからロータ軸17の回転方向Sの反対側に30度以上ずれた位置に設定されているため、第1リア止め輪89の合口部89f及び第2リア止め輪91の合口部91fをフローティングメタル11の下側位置(鉛直下方位置DP)から遠ざけることができる。これにより、重力によりフローティングメタル11の下側付近に溜まった潤滑油Gが第1リア止め輪89の合口部89f又は第2リア止め輪91の合口部91fからフローティングメタル11の外側へ流出することを抑えることができる。
【0065】
第1リア止め輪89の合口部89f及び第2リア止め輪91の合口部91fの周方向位置が鉛直下方位置DPからロータ軸17の回転方向Sの反対側に90度を超えてずれないように設定されているため、第1リア止め輪89の合口部89f及び第2リア止め輪91の合口部91fをフローティングメタル11の上側位置(通常の給油位置)から遠ざけると共に、フローティングメタル11の下側位置(鉛直下方位置DP)から第1リア止め輪89の合口部89f及び第2リア止め輪91の合口部91fまでロータ軸17の回転方向Sに沿った距離(連れ回り距離)を長くすることができる。これにより、潤滑油Gがフローティングメタル11の上側位置(給油位置FP)から給油された直後に第1リア止め輪89の合口部89f又は第2リア止め輪91の合口部91fからフローティングメタル11の外側へ流出することを抑えることができると共に、重力によりフローティングメタル11の下側付近に溜まった潤滑油Gがロータ軸17の回転による連れ回りによって第1リア止め輪89の合口部89f又は第2リア止め輪91の合口部91fからフローティングメタル11の外側へ流出することを抑えることができる。
【0066】
(本発明の実施形態の効果)
以上の如き、本発明の実施形態によれば、重力により第1フロントシールリング67の下側付近に溜まった潤滑油Gが第1フロントシールリング67の合口部67fを通過することを抑えた上で、潤滑油Gが第1フロントシールリング67の合口部67fを通過しても、第2フロントシールリング69の合口部69fを通過することを抑えることができるため、コンプレッサインペラ19の背面側の負圧が上昇しても、軸受ハウジング3側からコンプレッサインペラ19側への潤滑油Gの漏れを十分に防止して、フロント多重シール構造57のシール性能(車両用過給機1のシール性能)をより高いレベルまで向上させることができる。
【0067】
同様に、重力により第1リアシールリング79の下側付近に溜まった潤滑油Gが第1リアシールリング79の合口部79fを通過することを抑えた上で、潤滑油Gが第1リアシールリング79の合口部79fを通過しても、第2リアシールリング81の合口部81fを通過することを抑えることができるため、タービンインペラ29の背面側の負圧が上昇しても、軸受ハウジング3側からタービンインペラ29側への潤滑油Gの漏れを十分に防止して、リア多重シール構造71のシール性能(車両用過給機1のシール性能)をより高いレベルまで向上させることができる。特に、潤滑油Gが第1リア止め輪89の合口部89f又は第2リア止め輪91の合口部91fからフローティングメタル11の外側へ流出することを抑えることができるため、軸受ハウジング3側からタービンインペラ29側への潤滑油Gの漏れを防止して、車両用過給機1のシール性能を更に向上させることができる。
【0068】
フローティングメタル11における前後方向の中央部の上側位置から潤滑油Gが給油された場合において、車両用過給機1の運転中にフローティングメタル11に生じる前後方向の荷重を低減できるため、フローティングメタル11に偏摩耗(側面摩耗)が発生することを抑えて、支持ブロック5の設置穴7に対するフローティングメタル11のがたつきを十分に低減して、フローティングメタル11の支持性能を高めることができる。
【0069】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限るものでなく、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。