特許第5776537号(P5776537)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776537
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】車両の衝撃吸収部材
(51)【国際特許分類】
   B60R 19/24 20060101AFI20150820BHJP
   B60R 19/34 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   B60R19/24 D
   B60R19/34
【請求項の数】2
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2011-283389(P2011-283389)
(22)【出願日】2011年12月26日
(65)【公開番号】特開2013-132943(P2013-132943A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 修久
【審査官】 田合 弘幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−182769(JP,A)
【文献】 特開2012−228926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/34
B60R 19/03
F16F 7/00
F16F 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の木材と、該木材に外嵌された金属製の中空筒状の枠体とを備え、前記木材の繊維方向と軸方向が一致しており、衝突時の衝撃を軸方向の圧縮荷重として受ける車両の衝撃吸収部材であって、
前記枠体は正四角筒状であり、前記枠体の(正四角形の一辺の外寸/厚み)比が9〜12であることを特徴とする車両の衝撃吸収部材。
【請求項2】
柱状の木材と、該木材に外嵌された金属製の中空筒状の枠体とを備え、前記木材の繊維方向と軸方向が一致しており、衝突時の衝撃を軸方向の圧縮荷重として受ける車両の衝撃吸収部材であって、
前記枠体は楕円筒状であり、該楕円形の内寸の(長径/短径)比が3以下であることを特徴とする車両の衝撃吸収部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝撃吸収部材に関し、詳しくは、柱状の木材と、該木材に外嵌された金属製の中空筒状の枠体とを備え、衝突時の衝撃を軸方向の圧縮荷重として受ける車両の衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両の衝撃吸収部材は、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1の衝撃吸収部材では、アルミニウム製中空材からなる枠体に木材が略ぴったりとあるいは若干きつく嵌め込まれている。具体的実施例では、軸方向に直交する平断面が40mm角の正四角形であり、軸方向長さが120mm、厚みが2mmの枠体に木材が嵌装されている。この特許文献1では、このような枠体に木材を嵌め込むことにより衝撃を受けて衝撃吸収部材が変位するのに伴う反力としての圧縮荷重の変動を抑制することができるとされている。更に、木材の繊維方向を枠体の軸方向に一致させることで、衝撃エネルギーの吸収量の増加が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−182769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たしかに、木材は、本来多孔質であるとともに繊維が一方向に揃っているので、繊維方向を圧縮方向に一致させ、真っ直ぐに圧縮することができれば、木材を枠体に嵌装する単純な構成にて圧縮荷重の変動を効果的に抑制しながら衝撃エネルギーの吸収量を向上させることができるはずである。ところが、特許文献1の実施例に準じて従来の衝撃吸収部材を軸方向に圧縮してみると、実際には圧縮荷重の変動を有効に抑制することができなかった。この衝撃吸収部材では、枠体が内側と外側とに交互に大きく折れ曲がりながら蛇腹状に座屈変形していた。そして、内側に折れ曲がった枠体が木材に食い込むことで、局所的に木材の繊維の変形方向が傾斜し、圧縮荷重の変動を招いていた。つまり、枠体が木材に食い込むことで、木材の本来の特徴が最大限には活かされなかった。
【0005】
そこで、本発明者は、衝撃吸収部材の構成を複雑化させることなく、枠体が木材に食い込むのを抑制することで木材本来の特徴を最大限に活かすことはできないかと鋭意検討した。そして、軸方向に直交する平断面が正四角形の中空筒状の枠体を木材に外嵌した従来の衝撃吸収部材において、枠体の厚みが正四角形の一辺の長さと特定のバランスである場合にのみ、枠体が外側にのみ膨らみながら座屈し、枠体が木材に食い込みにくいことを見出した。また、軸方向に直交する断面形状を正四角形よりも正円形に近づけると、枠体の厚みに関係なく、枠体が外側にのみ膨らみながら座屈し、枠体が木材に食い込みにくいことを見出した。更に、軸方向に直交する断面形状を特定の(長径/短径)比の楕円形とした場合にも、枠体の厚みに関係なく、枠体が外側にのみ膨らみながら座屈し、木材に食い込みにくいことを見出した。
【0006】
本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものであり、本発明は、柱状の木材と、該木材に外嵌された金属製の中空筒状の枠体とを備え、衝突時の衝撃を軸方向の圧縮荷重として受ける車両の衝撃吸収部材において、圧縮変形時に枠体が木材に食い込むのを抑制し、木材本来の機能を的確に発揮させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、柱状の木材と、該木材に外嵌された金属製の中空筒状の枠体とを備え、前記木材の繊維方向と軸方向が一致しており、衝突時の衝撃を軸方向の圧縮荷重として受ける車両の衝撃吸収部材であって、前記枠体は正四角筒状であり、前記枠体の(正四角形の一辺の外寸/厚み)比が9〜12であることを特徴とする車両の衝撃吸収部材である。
【0008】
第2の発明は、柱状の木材と、該木材に外嵌された金属製の中空筒状の枠体とを備え、前記木材の繊維方向と軸方向が一致しており、衝突時の衝撃を軸方向の圧縮荷重として受ける車両の衝撃吸収部材であって、前記枠体は楕円筒状であり、該楕円形の内寸の(長径/短径)比が3以下であることを特徴とする車両の衝撃吸収部材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の衝撃吸収部材によれば、その原理は必ずしも明らかではないが、軸方向の圧縮荷重を受けると枠体が外側に膨らんで座屈するのを繰り返しながら潰れるため、木材に食い込みにくい。そのため、木材の本来の特徴を最大限に活かすことができ、圧縮荷重の安定した車両の衝撃吸収部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態1に係る衝撃吸収部材の斜視図である。
図2図1に示される衝撃吸収部材の軸方向に直交する平断面図である。
図3図1に示される衝撃吸収部材のIII−III断面に対応して枠体の変形態様を模式的に示す図であり、(a)は(正四角形の一辺の外寸/厚み)比が9〜12の場合(実施形態1)を示し、(b)は、(正四角形の一辺の外寸/厚み)比が9〜12を外れている場合の変形態様の一例を示している。
図4】本発明の実施形態2に係る衝撃吸収部材の斜視図である。
図5】本発明の実施形態3に係る衝撃吸収部材の斜視図である。
図6】本発明の実施形態4に係る衝撃吸収部材の斜視図である。
図7図6に示される衝撃吸収部材の軸方向に直交する平断面図である。
図8】試験例1に係るグラフであり、スギの角材について、変位と反力としての圧縮荷重との関係を示すグラフである。
図9】試験例2に係るグラフであり、No.1の衝撃吸収部材について、衝撃吸収部材の変位と反力としての圧縮荷重との関係を示すグラフである。
図10】試験例2のNo.1の衝撃吸収部材について、圧縮後の外観を斜め方向から見た状態として示す写真である。
図11】試験例2に係るグラフであり、No.2の衝撃吸収部材について、衝撃吸収部材の変位と反力としての圧縮荷重との関係を示すグラフである。
図12】試験例2のNo.2の衝撃吸収部材について、圧縮後の外観を斜め方向から見た状態として示す写真である。
図13】試験例3の枠体Aについて、圧縮後の外観を斜め方向から見た状態として示す写真である。
図14】試験例3の枠体Bについて、圧縮後の外観を斜め方向から見た状態として示す写真である。
図15】試験例3の枠体Cについて、圧縮後の外観を斜め方向から見た状態として示す写真である。
図16】試験例3の枠体Dについて、圧縮後の外観を斜め方向から見た状態として示す写真である。
図17】試験例4の枠体Kについて、圧縮後の外観を斜め方向から見た状態として示す写真である。
図18】試験例5の枠体Sについて、圧縮後の外観を斜め方向から見た状態として示す写真である。
図19】試験例5の枠体Vについて、圧縮後の外観を斜め方向から見た状態として示す写真である。
図20】試験例6のNo.3の衝撃吸収部材について、圧縮後の外観を斜め方向から見た状態として示す写真である。
図21】試験例6のNo.4の衝撃吸収部材について、圧縮後の外観を斜め方向から見た状態として示す写真である。
図22】試験例6のNo.5の衝撃吸収部材について、(A)は圧縮後の外観を斜め方向から見た状態として示す写真であり、(B)は衝撃吸収部材の変位と反力としての圧縮荷重との関係を示すグラフである。
図23】試験例6のNo.6の衝撃吸収部材について、圧縮後の外観を斜め方向から見た状態として示す写真である。
図24】試験例6のNo.7の衝撃吸収部材について、圧縮途中の外観を斜め方向から見た状態として示す写真である。
図25】試験例6のNo.8の衝撃吸収部材について、圧縮後の外観を斜め方向から見た状態として示す写真である。
図26】試験例7のNo.11の衝撃吸収部材について、圧縮後の外観を斜め方向から見た状態として示す写真である。
図27】試験例7のNo.12の衝撃吸収部材について、圧縮後の外観を斜め方向から見た状態として示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の衝撃吸収部材は、自動車等の車両に設置されて衝突時の衝撃エネルギーを吸収するための部材である。車両における設置場所は、乗員や歩行者等を保護するために衝突エネルギーを吸収すべき場所であれば特に限定されない。例えば、フェンダパネルとボディパネルとの間、バンパリインホースとサイドメンバとの間、ドアパネルとドアトリムとの間、ピラーとピラートリムとの間、天井パネルとルーフライナとの間、フロアパネルとカーペットとの間などに設置することができる。以下、本発明に係る衝撃吸収部材の実施の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
【0012】
<実施形態1>
本実施形態の衝撃吸収部材11は、図1に示されるように、軸方向に直交する平断面が正四角形の四角柱状の木材21と、木材21に外嵌された金属製の枠体31とからなり、衝突時の衝撃を軸方向の圧縮荷重として受けるものである。
【0013】
木材21は、その繊維方向が圧縮荷重(軸方向)と平行になるように四角柱状に製材されている。木材21の種類は特に限定されず、例えば、スギ、ヒノキ、マツ等の針葉樹や、ケヤキやブナ等の広葉樹を用いることができる。比重が大きい木材は強度に優れ、比重が小さい木材は気孔率が高いため、クラッシュストローク(圧縮による変位量)が長くなる特徴がある。この点を考慮し、車両の設置位置に合わせて適宜の比重の木材を選択するのが望ましい。比重が0.2〜0.4の木材を用いると、クラッシュストロークを十分に確保しつつ、ある程度の強度を有することで、衝撃エネルギーの吸収量をより高めることができ好ましい。比重が0.2〜0.4の木材としては、例えば、スギ、ヒノキ、マツ等が挙げられる。
【0014】
枠体31は、正四角筒状、すなわち軸方向に直交する平断面が正四角形の中空筒状であり、厚みが均一な中空筒状である。枠体31は、木材21を支持することができるとともに、軸方向の圧縮荷重を受けて木材21とともに変形することのできるものであり、例えば、アルミニウムや銅、鉄などの金属からなる。枠体31は、木材21の外側に隙間無く嵌っており、木材21の外周面全体を過不足無く覆っている。
【0015】
枠体31の厚みTは均一であり、枠体31の(正四角形の一辺の外寸L/厚みT)比が9〜12である(図2参照)。ここで、正四角形の一辺の外寸Lとは、枠体31の軸方向に直交する平断面形状の正四角形の外寸における一辺の外寸である。
【0016】
衝撃吸収部材11は、木材21の軸方向(繊維方向)と車両の衝突方向とが平行になるように設置される。衝突に伴って衝撃吸収部材11に軸方向の圧縮荷重が作用すると、木材21を囲う枠体31は座屈しながら軸方向に押し潰され、木材21は枠体31により転倒が抑制されて軸方向にそのまま圧縮変形する。このとき、その原理は必ずしも明らかではないが、枠体31は、図3(a)に模式的に示されるように、外側にのみ繰り返し膨らみながら座屈変形する。かかる衝撃吸収部材11によれば、軸方向の圧縮荷重が作用すると、木材21を囲う枠体31が軸方向を変えることなく潰れるため、木材21が転倒することなく繊維方向に沿って真っ直ぐ圧縮変形する。その際、枠体31が、内側には入り込まずに外側に膨らみながら潰れるため、木材21に食い込みにくく、木材本来の特徴を最大限に活かすことができる。すなわち、枠体の食い込みにより木材の繊維が部分的に傾倒することによる圧縮荷重の変動を引き起こしにくい。したがって、反力としての圧縮荷重の変動を小さく抑えることが可能である。また、枠体が木材に食い込む場合、木材は、繊維が傾倒させられることで割れやすく、その挙動はそのたび毎に異なるため圧縮荷重の推移のばらつきが大きい。しかし、本実施形態の衝撃吸収部材によれば、木材21に枠体31が食い込みにくいことで、圧縮荷重の挙動のばらつきを小さくすることができる。つまり、衝撃吸収性能のばらつきを小さくすることができる。
【0017】
なお、枠体31の(正四角形の一辺の外寸L/厚みT)比が9〜12を外れる場合は、枠体31が軸方向に潰れるとしても、図3(b)に示されるように、枠体31が内側と外側との双方に折れ曲がりながら蛇腹変形する。したがって、枠体31に木材21が隙間無く嵌っていると枠体31が木材21に食い込みやすい。これに対し、本実施形態の衝撃吸収部材11は、上述のとおり枠体31が内側には入り込まずに潰れるため、枠体31と木材21との間に隙間が無くても枠体31が木材21へ食い込みにくい。もちろん、本実施形態では、枠体31と木材21との間に隙間を形成されていても構わないし、木材21の形状が必ずしも正四角柱状でなくてもよい。ただし、枠体31に木材21が内接していると、枠体31に対する木材21の位置決めが容易であり好ましい。また、枠体31に木材21が隙間無く嵌っていると、衝撃吸収部材11の強度を平断面の面積に対して効率よく高め、ひいては衝撃吸収量を効率よく高めることができるためより好ましい。
【0018】
<実施形態2>
本実施形態の衝撃吸収部材12は、図4に示されるように、軸方向に直交する平断面が正N角形(N≧5)の柱状の木材22と、木材22に外嵌された金属製の枠体32とからなり、衝突時の衝撃を軸方向の圧縮荷重として受けるものである。なお、図4には、N=6の場合、すなわち、軸方向に直交する平断面が正六角形の衝撃吸収部材12が示されている。木材22及び枠体32の材質は、上記実施形態1の木材21及び枠体31と同様であり、形状のみが異なる。
【0019】
枠体32は、軸方向に直交する平断面が木材22と同じ正N角形の中空筒状である。枠体32は、木材22を支持することができるとともに、軸方向の圧縮荷重を受けて木材22とともに変形することのできるものであり、木材22の外側に隙間無く嵌って、木材22の外周面全体を過不足無く覆っている。枠体32の厚みは均一であり、木材22とともに変形可能な範囲で適宜設定される。外寸とのバランスは特に規定されない。
【0020】
衝撃吸収部材12に軸方向の圧縮荷重が作用すると、その原理は必ずしも明らかではないが、枠体32は外側にのみ繰り返し膨らみながら軸方向に押し潰される。同時に、木材22は枠体32により転倒が抑制されて軸方向にそのまま圧縮変形する。かかる衝撃吸収部材12によれば、軸方向の圧縮荷重が作用すると、木材21を囲う枠体32が軸方向を変えることなく潰れるため、木材22が転倒することなく繊維方向に沿って真っ直ぐ圧縮変形する。その際、枠体32が、内側には入り込まずに外側に膨らみながら潰れるため、木材22に食い込みにくく、木材本来の特徴を最大限に活かすことができ、反力としての圧縮荷重の変動を小さく抑えることが可能である。また、枠体32と木材22とが互いに干渉しにくいので、圧縮荷重の挙動のばらつきを小さくすることができる。すなわち、衝撃吸収性能のばらつきを小さくすることができる。
【0021】
<実施形態3>
本実施形態の衝撃吸収部材13は、図5に示されるように、軸方向に直交する平断面が正円形の柱状の木材23と、木材23に外嵌された金属製の枠体33とからなり、衝突時の衝撃を軸方向の圧縮荷重として受けるものである。木材23及び枠体33の材質は、上記実施形態1の木材21及び枠体31と同様であり、形状のみが異なる。
【0022】
枠体33は、正円筒状、すなわち軸方向に直交する平断面が正円形の中空筒状である。枠体33は、木材23を支持することができるとともに、軸方向の圧縮荷重を受けて木材23とともに変形することのできるものであり、木材23の外側に隙間無く嵌って、木材23の外周面全体を過不足無く覆っている。枠体33の厚みは均一であり、木材23とともに変形可能な範囲で適宜設定される。外寸とのバランスは特に規定されない。
【0023】
衝撃吸収部材13に軸方向の圧縮荷重が作用すると、その原理は必ずしも明らかではないが、木材23を囲う枠体33は外側にのみ繰り返し膨らみながら軸方向に押し潰される。同時に、木材23は枠体33により転倒が抑制されて軸方向にそのまま圧縮変形する。かかる衝撃吸収部材13によれば、軸方向の圧縮荷重が作用すると、木材23を囲う枠体33が軸方向を変えることなく潰れるため、木材23が転倒することなく繊維方向に沿って真っ直ぐ圧縮変形する。その際、枠体33が、内側には折れ曲がらずに外側に折れ曲がりながら潰れるため、木材23に食い込みにくく、木材本来の特徴を最大限に活かすことができ、反力としての圧縮荷重の変動を小さく抑えることが可能である。また、枠体33と木材23とが互いに干渉しにくいので、圧縮荷重の挙動のばらつきを小さくすることができる。すなわち、衝撃吸収性能のばらつきを小さくすることができる。
【0024】
<実施形態4>
本実施形態の衝撃吸収部材14、図6示されるように、軸方向に直交する平断面が楕円形の柱状の木材24と、木材24に外嵌された金属製の枠体34とからなり、衝突時の衝撃を軸方向の圧縮荷重として受けるものである。木材24及び枠体34の材質は、上記実施形態1の木材21及び枠体31と同様であり、形状のみが異なる。
【0025】
枠体34は、楕円筒状、すなわち軸方向に直交する平断面が楕円形の中空筒状である。枠体34の軸方向に直交する平断面形状の楕円形の内寸は、(長径a/短径b)比が3以下である(図7参照)。ここで、(長径a/短径b)比が1の場合に平断面形状は正円形となるので、正確には、1<(長径a/短径b)比≦3である。枠体34は、木材24を支持することができるとともに、軸方向の圧縮荷重を受けて木材23とともに変形することのできるものであり、木材23の外側に隙間無く嵌って、木材23の外周面全体を過不足無く覆っている。枠体34の厚みは均一であり、木材24とともに変形可能な範囲で適宜設定される。
【0026】
衝撃吸収部材14に軸方向の圧縮荷重が作用すると、木材24を囲う枠体34は、その原理は必ずしも明らかではないが、外側にのみ繰り返し膨らみながら軸方向に押し潰され、同時に木材24は圧縮変形する。その際、枠体34が、内側には折れ曲がらずに外側に折れ曲がりながら潰れるため、木材24に食い込みにくく、木材本来の特徴が的確に発揮され、反力としての圧縮荷重の変動を小さく抑えることが可能である。また、枠体34と木材24とが互いに干渉しにくいので、圧縮荷重の挙動のばらつきを小さくすることができる。すなわち、衝撃吸収性能のばらつきを小さくすることができる。
【実施例】
【0027】
[試験1]
試験1は、木材本来の衝撃吸収性能を確認することを目的とした。繊維方向が軸方向(圧縮方向)と平行になるように製材された、軸方向に直交する平断面が正四角形のスギの角材(40×40×軸方向長さ70mm)を用意し、枠体が外嵌されていない状態で株式会社島津製作所製の圧縮試験機(オートグラフAG−100KNE型)へ設置し、2mm/minの条件で軸方向に圧縮した場合の、変位と圧縮荷重(反力)との関係を測定した。その結果を図8に示す。
【0028】
図8から明らかなように、木材をその繊維方向に沿って圧縮すると、圧縮荷重は極めて安定的に推移し、高い衝撃吸収性能を発揮することが確認された。
【0029】
[試験2]
試験2では、上記実施形態1と同様に、軸方向の平断面形状が正四角形の木材の外側に中空筒状の枠体を嵌装してなるNo.1、2の衝撃吸収部材を用意した。木材としてスギの角材を用い、枠体にはアルミニウム(A5052)の押出成形品を用いた。各衝撃吸収部材の寸法については表1に示す。なお、表1中の正四角形の一辺の外寸L及び枠体の厚みTは、図3に示されるL及びTに対応している。
【0030】
【表1】
【0031】
次いで、No.1の衝撃吸収部材について、上記試験1と同様に軸方向に圧縮し、変位と圧縮荷重(反力)との関係を測定した。また、枠体のみを同様に圧縮して変位と圧縮荷重(反力)との関係も測定した。そして、木材に枠体が嵌装された衝撃吸収部材の結果から、枠体のみの結果を差し引き、衝撃吸収部材における木材の変位と圧縮荷重(反力)との関係を求めた。その結果を図9に示す。また、図10に、圧縮後の衝撃吸収部材の状態を写真で示す。No.2の衝撃吸収部材についてもNo.1と同様に衝撃吸収部材における木材の変位と圧縮荷重(反力)との関係を求め、その結果を同様に図11、12に示す。
【0032】
各衝撃吸収部材における木材の変位と圧縮荷重(反力)との関係を示す図9図11のグラフを比較すると明らかなように、(正四角形の一辺の外寸L/厚みT)比が20のNo.1に比べ、(正四角形の一辺の外寸L/厚みT)比が10のNo.2では、木材の圧力荷重の変動が極めて小さかった。そして、No.2の衝撃吸収部材における木材の圧力荷重は、木材のみを圧縮した試験1の結果と同様に安定していた。そこで、各衝撃吸収部材の変形形態に注目したところ、いずれも中の木材は倒れることなく圧縮変形していたが、枠体の変形の態様は異なっていた。No.1の衝撃吸収部材では、枠体が、隣接する面が交互に内側と外側とに折れ曲がりながら、潰れていた(図10参照)。その結果、内側に折れ曲がった枠体が木材に食い込んでいた。これに対し、No.2の衝撃吸収部材では、枠体が、全周が外側に拡がるように膨らむ変形を繰り返しながら潰れていた(図12参照)。そして、No.2の衝撃吸収部材では、枠体が内側に入り込むことなく潰れており、枠体は木材に食い込んでいなかった。これらの結果から、軸方向に直交する平断面が正四角形の衝撃吸収部材では、(正四角形の一辺の外寸L/厚みT)比が特定の値をとる場合にのみ、枠体が外側にのみ膨らみながら圧縮し、木材へ食い込まないことが明らかとなった。その結果、木材本来の機能を的確に発揮させることができ、圧力荷重を安定させられることが明らかとなった。
【0033】
[試験3]
そこで、試験3では、軸方向の平断面形状が正四角形の中空筒状の枠体を試料とし、試験2と同様に上記試験1と同様に圧縮し、変形の形態を観察した。図13〜16に、圧縮後の衝撃吸収部材の状態を写真で示す。なお、試験3では、アルミニウム(A5052)を押出成形して得たA〜Dの枠体を試料とした。A〜Dの枠体は、それぞれ正四角形の一辺の外寸Lは20mmであり、軸方向の長さは70mmとした。厚みのみが異なっている。各枠体の寸法を表2に示すとともに、その圧縮変形の形態を併記する。なお、表2においては、圧縮変形の形態について、試験2のNo.1のように内側にも外側にも折れ曲がりながら潰れていた場合には×、No.2のように外側にのみ膨らみながら潰れていた場合には○と記した。
【0034】
【表2】
【0035】
表2の結果から明らかなように、枠体の(正四角形の一辺の外寸L/厚みT)比を9〜12とすれば、枠体が、全周が外側に拡がるように膨らむ変形を繰り返しながら潰れ、内側には入り込まないことが明らかとなった(図14、15参照)。一方、枠体の(正四角形の一辺の外寸L/厚みT)比が9〜12を外れると、隣接する面が交互に内側と外側とに折れ曲がりながら潰れており、枠体の一部が内方に入り込んでいた(図13、16参照)。
【0036】
[試験4]
試験4では、試験3と同様に、軸方向の平断面形状が正四角形の中空筒状の枠体を試料とし、試験3と同様に圧縮し、変形の形態を観察した。この試験4では、表3に示される、正四角形の一辺の外寸Lや軸方向の長さも異なるE〜Kの枠体を試験に供した。なお、試験4では、アルミニウム(A6063)を押出成形して各試料を得た。表3に、試験3と同様に圧縮変形の形態を併記する。
【0037】
【表3】
【0038】
表3に示される結果から、正四角形の一辺の外寸Lや軸方向長さを変更しても、(正四角形の一辺の外寸L/厚みT)比9〜12でありさえすれば、枠体が、全周が外側に拡がるように膨らむ変形を繰り返しながら潰れ、内側には入り込まないことが確認された。図17に、代表して、枠体Kの圧縮後の状態を写真で示す。
【0039】
[試験5]
試験5では、表4に示される軸方向の平断面形状が長方形の中空筒状の枠体を試料とし、試験3、4と同様に圧縮し、変形の形態を観察した。その結果を、試験3、4と同様に表4に併記する。なお、試験5では、アルミニウム(A6063)を押出成形して各試料を得た。表4に示される短辺の外寸、長辺の外寸とは、軸方向に直交する平断面形状の長方形の外寸における短辺、長辺の長さである。
【0040】
【表4】
【0041】
表4から明らかなように、試験5においては、枠体の(長方形の短辺の外寸/厚み)比を9〜12としても、外側にのみ膨らみながら潰れる変形とはならず、内側と外側とに折れ曲がりながら潰れていた。図18、19に、代表して、枠体S、Vの圧縮後の状態を写真で示す。この結果から、軸方向の断面が四角形の場合、少なくとも正四角形の場合には、枠体の厚みに対する辺の外寸の比を9〜12とすることで外側にのみ膨らみながら潰れるようにすることができることが明らかとなった。
【0042】
[試験6]
試験6では、上記実施形態3又は4と同様に、軸方向の平断面形状が円形の木材の外側に中空筒状の枠体を嵌装してなるNo.3〜8の衝撃吸収部材を用意した。木材としてスギの製材を用い、枠体にはアルミニウム(A5052)の押出成形品を用いた。各衝撃吸収部材の寸法については表5に示す。なお、表5中の長径a及び短径bは、図7に示されるa及びbに対応している。次いで、No.3〜8の各衝撃吸収部材について、上記試験2と同様に圧縮し、変形の形態を観察した。図20〜25に圧縮後の各衝撃吸収部材の状態を写真で示す。また、圧縮変形の形態について、表5に併記する。表5では、外側にのみ膨らみながら潰れていた場合には○と記し、その他の場合は注釈を付す。
【0043】
【表5】
【0044】
No.3〜6の結果から、衝撃吸収部材の軸方向に直交する平断面が円形の場合、正円形に限らず、楕円形でも枠体の厚みに関係なく全周が外側に拡がるように膨らむ変形を繰り返しながら潰れ、内側には入り込まないことが明らかとなった。なお、軸方向に直交する平断面が楕円形で枠体が肉薄のNo.5の衝撃吸収部材は、図22(A)に示されるように、軸がずれて斜めに潰れたものの、枠体は内方へは入り込まず外方に膨らみながら潰れ、木材へ食い込まなかった。そのため、木材の繊維が不規則に傾くことはなく、図22(B)に示されるように、圧縮荷重が安定的に推移した。また、No.5〜8の結果から、軸方向に直交する断面が楕円形の場合、その楕円形が平らになりすぎると、衝撃吸収部材全体が座屈しやすくなることも明らかとなり、楕円形の(長径a/短径b)比を3以下とすることがわかった。
【0045】
試験2〜6の結果、衝撃吸収部材の軸方向に直交する平断面形状が四角形から円形に近づくほど、枠体の厚みや平断面形状の平たさに関係なく外側にのみ膨らみながら潰れやすくなることが推察された。そこで、次の試験7では、軸方向に直交する平断面形状が四角形よりも円形に近い多角形の場合について、変形の態様を調べた。
【0046】
[試験7]
試験7では、上記実施形態2に例示されるような衝撃吸収部材の軸方向に直交する平断面形状が多角形のNo.9〜12の衝撃吸収部材を用意した。木材としてスギの製材を用い、枠体にはアルミニウム(A5052)の押出成形品を用いた。各衝撃吸収部材の形状及び寸法については表6に示す。次いで、No.9〜12の各衝撃吸収部材について、上記試験7と同様に圧縮し、変形の形態を観察した。圧縮変形の形態について、表6に併記する。表6では、外側にのみ膨らみながら潰れていた場合には○と記す。
【0047】
【表6】
【0048】
No.9〜11の結果から、軸方向に直交する平断面形状が正六角形の場合には、枠体は、厚みに関係なく全周が外側に拡がるように膨らむ変形を繰り返しながら潰れ、内側には入り込まないことが明らかとなった。図26に、代表して、No.11の衝撃吸収部材の圧縮後の状態を写真で示す。また、軸方向に直交する平断面形状が正八角形の場合にも、枠体が全周が外側に拡がるように膨らむ変形を繰り返しながら潰れ、内側には入り込まないことが確認された(図27参照)。これにより、軸方向に直交する平断面形状を正N角形(N≧5)とすることがわかった。
【符号の説明】
【0049】
11,12,13,14 衝撃吸収部材
21,22,23,24 木材
31,32,33,34 枠体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図11
図10
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27