(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の自動変速機等においては、ラジアル方向の荷重を受ける部位に、すべり軸受(ブッシュ)の代わりに、同じ断面高さを有するシェル形ニードル軸受が使用されている。
図10に示すように、シェル形ニードル軸受100は、内周面に軌道面101aを、両端部に一対のフランジ部101b,101cを有するシェル外輪101と、軌道面101aに沿って転動自在となるようにシェル外輪101内に配置される複数のニードル102と、複数のニードル102を保持するための複数のポケットを有する保持器103と、を備える。
【0003】
このようなシェル形ニードル軸受は、シェル外輪101のフランジ部101cとなる加締め部に防炭加工を施し、浸炭もしくは浸炭窒化処理等により硬化させた後に、ニードル102及び保持器103を挿入して端部を加締める工法や、シェル外輪101を浸炭もしくは浸炭窒化処理等により硬化させた後に、ニードル102及び保持器103を挿入し、加締め部を誘導加熱等により焼きなまして加締める工法がある。さらに、シェル外輪にニードルや保持器を組み込んだ後に、浸炭窒化処理、焼入れ、焼戻し等の熱処理を行なって、加締め部における上記防炭加工や誘導加熱等の工程を行なう方法が採用されている。
【0004】
一方、円周方向の一部に径方向内側に変形可能な部分を有する保持器を用いて、保持器を径方向内側に変形させることで円周方向に収縮させながら保持器をシェル外輪内に配置し、この配置された保持器にニードルを装着することで、上述したような複雑な加工を避けて製造することが考案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、ラジアルニードル軸受においても、
図11に示すように、保持器200の円周方向の一箇所に軸方向中間部に対して対称に形成された弾性連結部201を設け、この弾性連結部201を円周方向に拡径させることで、フランジ部を乗り越えて配置させている(例えば、特許文献2参照。)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載の保持器では、保持器板厚が十分に確保できない場合には、保持器が塑性変形を起こしてしまい、うまくニードルを保持できないという問題がある。また、特許文献2に記載の保持器は、軸方向ねじれに対して十分な強度を確保することができるが、円周方向1箇所にのみ弾性変形部が設けられているため、フランジ部の径方向寸法に対して十分な変形量が得られない可能性がある。また、この保持器は、円周方向に拡径させることを目的としたもので、弾性連結部は柱部に連結されている。
【0008】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、塑性変形が防止され、軸方向ねじれに対する十分な強度と十分な変形量の両方を確保することができる円周方向に収縮或いは伸長可能な保持器を有するニードル軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成によって達成される。
(1) 内周面
に軌道面を、両端部に一対のフランジ部を有する軌道輪と、
前記軌道面に沿って転動自在となるように前記軌道輪内に配置される複数のニードルと、
該複数のニードルを保持するための複数のポケットを有する保持器と、
を備え、
前記保持器には、円周方向に収縮
させる弾性変形部が円周方向に複数設けられており、
該弾性変形部は軸方向中間部に対して対称に形成され、
前記保持器は、複数の円弧状部分によって構成される一対のリム部と、該一対のリム部を軸方向に連結する複数の柱部とを備え、
前記一対のリム部には、円周方向に隣接する前記円弧状部分の各端部間に複数の切れ目が円周方向において同位相でそれぞれ形成され、
前記弾性変形部は、前記隣接する円弧状部分の各端部からそれぞれ軸方向内側に延出するとともに、該延出した部分を円周方向において連結する一対の弾性変形片を有し、
前記弾性変形片は、複数の円弧で構成され、且つ、軸方向内側端部に亘って徐々に径方向で薄肉となるように、外周面又は内周面、或いは前記外周面及び前記内周面の両方がテーパ状に形成されたことを特徴とするニードル軸受。
(2) 前記弾性変形部は、円周方向に隣接する前記柱部間に形成され、
前記切れ目の円周方向距離は、前記隣接する柱部と前記弾性変形片との各円周方向距離の総和よりも小さいことを特徴とする(1)に記載のニードル軸受。
【発明の効果】
【0010】
本発明のニードル軸受によれば、保持器には、円周方向に収縮或いは伸長させる弾性変形部が円周方向に複数設けられており、弾性変形部は軸方向中間部に対して対称に形成されているので、塑性変形が防止され、軸方向ねじれに対する十分な強度と十分な変形量の両方を確保することができる円周方向に収縮
可能な保持器を設けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態に係るニードル軸受について図面を参照して詳細に説明する。
なお、図1乃至図8は、本発明の前提となる参考例である。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態のシェル形ニードル軸受10は、AT内のギアトレイン間、ギア軸とハウジングとの間、或は、オイルポンプギアの側方等に配置されるもので、1.0〜3.5mm程度の軸受断面高さで薄肉化されている。このシェル形ニードル軸受10は、
図1に示すように、内周面に軌道面11aを、両端部に一対の内向きフランジ部11b,11cを有する軌道輪としてのシェル(鍔付外輪)11と、シェル11の軌道面11aに沿って転動自在となるように、シェル11内に配置される複数のニードル12と、複数のニードル12を保持するための複数のポケット14を有する保持器13と、を備え、図示しない軸(或は内輪部材)を回転自在に支持している。
【0014】
シェル11は、特殊な合金鋼板等に絞り加工等の塑性加工を施すことにより、全体を円筒状に形成され、また、一対のフランジ部11b、11cがプレス加工により屈曲して形成されている。また、シェル11は、浸炭もしくは浸炭窒化処理による熱処理加工によって硬化されている。
【0015】
また、保持器13は、
図2に示すように、一対のリム部15,15と、一対のリム部15,15を軸方向に連結する複数の柱部16とを備える。一対のリム部15,15は、複数(本実施形態では、4つ)の円弧状部分15aによってそれぞれ構成され、円周方向に隣接する円弧状部分15aの各端部15b、15b間に複数の切れ目15cが各リム部15,15において円周方向に同位相でそれぞれ形成されている。なお、切れ目15cの数が多くなると、ニードル12の数が少なくなるので、切れ目15cの数は2〜6箇所が好ましい。
【0016】
そして、保持器13には、この切れ目15cが形成される円周方向において隣接する柱部16,16間に、円周方向に収縮させる弾性変形部17が円周方向に複数設けられている。
【0017】
弾性変形部17は、円周方向に隣接する円弧状部分15a,15aの各端部15b,15bを基端部として、これら各端部15bからそれぞれ軸方向内側に延出するとともに、該延出した部分を円周方向において連結する一対の弾性変形片17a,17aを有する。一対の弾性変形片17a,17aは、同一形状を有しており、弾性変形部17は軸方向中間部Cに対して対称に形成される。
【0018】
図3に拡大して示すように、弾性変形片17aは、それぞれ曲率半径R1〜R3を有する複数の円弧17a1,17a2,17a3で構成されている。ただし、弾性変形片17aは、単一円弧によって構成されてもよい。
【0019】
また、弾性変形部17の基端部となる円弧状部分15aの各端部15bの軸方向幅w1は、基端部の強度を考慮すると、円弧状部分15aの軸方向幅w2と同等以上であることが好ましい。また、基端部の軸方向内側面に形成される円弧面の曲率は大きい(曲率半径rは小さい)ほうが好ましい。
【0020】
さらに、
図4に示すように、弾性変形片17aの径方向肉厚hは、弾性変形片17aの幅w3よりも厚く設定されており、これにより、矢印に示すような径方向への変形を抑制することができる。
【0021】
図5に示すように、外径D1を有する保持器13は、弾性変形部17を変形させることで、切れ目15cの円周方向距離L1を狭め、保持器13を円周方向に収縮させる。これにより、
図6に示すように、保持器13は、シェル11の内径D2より小さい外径D1´まで縮径され、シェル11内に挿入される。従って、保持器15の外周長さと、切れ目15cの円周方向距離L1の総和と、シェル11の内向きフランジ部11b、11cの内周長さの関係は、次式のようになる。
π・D1−L1×(切れ目の数)<π・D2
【0022】
なお、一対の弾性変形片17a,17a間の軸方向距離L3と、切れ目15cの円周方向距離L1により、可動範囲、即ち、弾性変形片の変形量が任意に設定可能となる。ただし、切れ目15cがなくなる前に柱部16と弾性変形片17aとが接触しないように、弾性変形前の切れ目15cの円周方向距離L1は、隣接する柱部16と弾性変形片17aとの各円周方向距離L2,L2の総和よりも小さく設定されている。このため、
図6では、切れ目15cがなくなった時に、柱部16と弾性変形片17aが接触し、且つ、弾性変形片17a同士が接触している状態を示しているが、
図7に示すように、切れ目15cがなくなった時に、柱部16と弾性変形片17a、及び、弾性変形片17a同士がそれぞれ接触しない場合もある。
【0023】
従って、本実施形態のシェル形ニードル軸受10によれば、保持器13には、円周方向に収縮させる弾性変形部17が円周方向に複数設けられており、弾性変形部17は軸方向中間部Cに対して対称に形成されているので、塑性変形が防止され、また、軸方向のねじれに対して十分な強度を有し、かつ、十分な変形量を確保しつつ円周方向に収縮可能な保持器13を設けることができる。また、弾性変形部17により、ニードル12の動きが許容され、フレッチングを防止することも可能である。
【0024】
また、一対のリム部15,15は、複数の円弧状部分15aによって構成され、一対のリム部15,15には、円周方向に隣接する円弧状部分15aの各端部間に複数の切れ目15cが円周方向において同位相でそれぞれ形成され、弾性変形部17は、隣接する円弧状部分15aの各端部15bからそれぞれ軸方向内側に延出するとともに、延出した部分を円周方向において連結する一対の弾性変形片17a,17aを有する。これにより、軸方向中間部Cに対して対称な弾性変形部17を形成することができる。
【0025】
さらに、弾性変形部17は、円周方向に隣接する柱部16,16間に形成され、切れ目15cの円周方向距離L1は、隣接する柱部16と弾性変形片17aとの各円周方向距離L2の総和よりも小さいので、円周方向に収縮させた場合に切れ目15cがなくなる前に柱部16と弾性変形片17aとが接触することがなく、十分な変形量を確保することができる。
【0026】
(第2実施形態)
図
8は、本発明の第2実施形態に係るシェル形ニードル軸受の保持器13´を示している。この保持器13´においても、切れ目15cが形成される円周方向において隣接する柱部16,16間に、円周方向に収縮或いは伸長させる弾性変形部17´が円周方向に複数(本実施形態では、4つ)設けられている。
【0027】
この弾性変形部17´では、円周方向に隣接する円弧状部分15a,15aの各端部15b,15bを基端部として、これら各端部15b,15bからそれぞれ軸方向内側に略直線的に延出する軸方向延出部分17b,17bと、該軸方向延出部分17b,17bを円周方向において略直線的に連結する円周方向連結部分17c、17cと、を備えた一対の弾性変形片17a,17aを有する。一対の弾性変形片17a,17aは、同一形状を有しており、弾性変形部17は軸方向中間部Cに対して対称に形成される。
【0028】
なお、本実施形態においても、一対の弾性変形片17a,17a間の軸方向距離L3と、切れ目15cの円周方向距離L1により、可動範囲、即ち、弾性変形片の変形量が任意に設定可能となる。ただし、切れ目15cがなくなる前に柱部16と弾性変形片17aとが接触しないように、弾性変形前の切れ目15cの円周方向距離L1は、隣接する柱部16と弾性変形片17aとの各円周方向距離L2,L2の総和よりも小さく設定されている。
【0029】
従って、本実施形態のシェル形ニードル軸受10においても、保持器13´には、円周方向に収縮させる弾性変形部17´が円周方向に複数設けられており、弾性変形部17´は軸方向中間部Cに対して対称に形成されているので、塑性変形が防止され、また、軸方向のねじれに対して十分な強度を有し、かつ、十分な変形量を確保しつつ円周方向に収縮可能な保持器13´を設けることができる。
【0030】
なお、本実施形態の弾性変形部17´は、変形により弾性変形片17a同士が接触することはないが、角部を有する形状であるため応力集中が発生しやすいことから、第1実施形態の弾性変形部17の形状のほうが好ましい。また、第1実施形態の弾性変形部17の形状のほうが、樹脂の流動性がよく、射出成形時の成形性の観点からも好ましい。
【0031】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものでなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0032】
例えば、
図9(a)及び(b)に示すように、第1実施形態の弾性変形部17において、円弧状部分15の各端部15bから弾性変形片17aの軸方向内側端部に亘って徐々に径方向で薄肉となるように、弾性変形片17の外周面をテーパ状に形成してもよい。これにより、弾性変形片17aにおいて自由端側となる軸方向内側端部が、
図9(b)の仮想線で示すように、遠心力によって径方向外側に変形した場合でもシェル11の軌道面11aとの接触を防止することができる。なお、
図9(c)に示すように、弾性変形片17aの軸方向内側端部が径方向内側に変形するのを考慮して、円弧状部分15の各端部15bから弾性変形片17aの軸方向内側端部に亘って徐々に径方向で薄肉となるように、弾性変形片17aの内周面もテーパ状に形成してもよい。また、弾性変形片17aは、内周面のみをテーパ状に形成してもよい。
【0033】
本実施形態は、内周面に軌道面11a、両端部に内向きフランジ部11b,11cをそれぞれ有する外輪シェル11を使用している
。
また、保持器の材質は、弾性変形可能なものであれば任意に選択されるが、樹脂が好ましく、金属の場合、樹脂よりも弾性変形しづらいので、弾性変形部を多く設定することが好ましい。
保持器に適用される樹脂としては、芳香族ポリアミド(芳香族PA)、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66等のポリアミド(ナイロン樹脂)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアセタール(POM)や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂等が使用できる。また、これらの樹脂にガラス繊維や炭素繊維等の強化剤を混合させたものも好適に使用できる。
より好ましくは、ポリアミド樹脂にガラス繊維または炭素繊維を5〜30%混合し、曲げ弾性率を2000〜5000MPaとしたものが良い。この範囲のものであれば、より好適に、変形部に変形能をもたせ、かつ必要な剛性のあるものとすることができる。
【0034】
また、本発明のニードル軸受は、薄肉のニードル軸受の構成においてより効果を発揮するものであるが、任意の断面高さを有するニードル軸受においても適用可能である。
また、上記実施形態では、金属板を曲げ成形することにより得られるシェル形ニードル軸受について説明したが、金属材料に削り出し加工を施してなるソリッド形ニードル軸受にも適用可能である。
さらに、本実施形態の弾性変形部17,17´を有する保持器
13,13´は、ケージアンドローラのような、軌道輪を有しないニードル軸受にも適用可能である。
【0035】
本出願は、2009年12月25日出願の日本特許出願2009−294136に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。