【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るガラス製造容器用充填材は、貴金属製のガラス製造容器の表面上に焼成被膜を形成するために使用され、ガラス成分を含むコーティング材が表面にコーティングされたガラス製造容器と支持材との間に充填される充填材である。
【0016】
なお、本発明において、「ガラス製造容器」とは、ガラス融液と接触する内表面と、ガラス融液と接触しない外表面とを有し、ガラス融液を保持または搬送できる部材のことをいう。「ガラス製造容器」には、溶融槽、清澄槽、撹拌槽等のガラス融液を保持できる容器、ガラス融液を搬送できるガラス搬送パイプ、成形用部材等が含まれる。ここで、「成形用部材」とは、ガラス融液を所定の形状を有する部材に成形するために用いる部材をいう。従って、「成形用部材」には、成形用スリーブ、ノズル等が含まれるものとする。
【0017】
本発明において、「貴金属製のガラス製造容器」とは、貴金属または貴金属を含む合金からなるガラス製造容器をいう。貴金属の具体例としては、Pt、Rh、Ir、Pd、Au等が挙げられる。貴金属を含む合金としては、Pt、Rh、Ir、Pd及びAuからなる群から選ばれた一種以上を含む合金が挙げられる。貴金属を含む合金の具体例としては、Pt/Rh合金、Pt/Ir合金、Pt/Pd合金などが挙げられる。
【0018】
本発明において、「支持材」とは、ガラス製造容器を支持するための部材である。支持材は、例えば、ガラス製造容器の周囲に設けられた耐火物からなる。
【0019】
本発明に係るガラス製造容器用充填材は、ガラス成分を含む。このため、例えば、従来のガラス成分を含まないモルタルのような充填材と比較して、ガラス成分を含むコーティング材と反応し難い。従って、本発明に係るガラス製造容器用充填材を用いることによって、コーティング材と充填材とが反応することに起因する焼成被膜の組成のずれを抑制することができる。つまり、本発明に係るガラス製造容器用充填材を用いることによって、所望の組成を有し、高い水素ガス遮蔽性を有する焼成被膜を形成することができる。従って、ガラス融液中に水素ガスの泡が発生しにくいガラス製造装置を作製することができる。
【0020】
コーティング材の焼成時におけるコーティング材と充填材との反応を抑制する観点からは、ガラス製造容器用充填材におけるガラス成分の含有量は、コーティング材におけるガラス成分の含有量と近いことが好ましい。ここで、水素ガス遮蔽性の高い焼成被膜を形成するためには、コーティング材におけるガラス成分の含有量は、20質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましい。このため、ガラス製造容器用充填材におけるガラス成分の含有量も20質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましい。
【0021】
より好ましくは、ガラス製造容器用充填材におけるガラス成分の含有量は、コーティング材におけるガラス成分の含有量の0.9〜1.5倍の範囲内である。
【0022】
なお、ガラス成分の種類や形態は、特に限定されない。ガラス成分の形態としては、例えば、ガラス粉末を用いることができる。ガラス成分の種類としては、ガラス軟化温度が高いガラスであることが好ましい。具体的には、ガラス成分は、例えば、硼珪酸塩系ガラスや珪酸塩系ガラスであることが好ましく、アルカリ金属やアルカリ土類金属の含有量が少ない硼珪酸塩系ガラスや珪酸塩系ガラスであることがより好ましい。ガラス製造容器用充填材に含まれるガラス成分の種類は、コーティング材に含まれるガラス成分の種類と実質的に等しいことが好ましい。
【0023】
なお、本発明において、ガラス成分には、結晶化ガラスが含まれるものとする。
【0024】
ところで、上述のように、コーティング材との反応性を低下させる観点からは、ガラス製造容器用充填材がガラス成分を含有している必要がある。しかしながら、ガラス成分は、例えば耐火成分などと比べて融点が低く溶けやすい。このため、コーティング材の焼成時に、ガラス成分が溶けて、充填材層から脱落しやすくなる傾向にある。その結果、充填材層が収縮してしまい、ガラス製造容器と支持材との間に隙間が生じる場合がある。そうすると、ガラス製造容器を支持材に強固に固定できなくなる場合がある。
【0025】
なお、ガラス成分が脱落し、ガラス製造容器と支持材との間に隙間が生じた場合、通常その隙間はそれほど大きくないため埋めるのは困難である。
【0026】
このため、ガラス製造容器用充填材は、ガラス成分と共に、アルミナファイバー及び平均粒子径が5nm〜50nmの範囲内にあるアルミナ微粒子(以下、「平均粒子径が5nm〜50nmの範囲内にあるアルミナ微粒子」を単に「アルミナ微粒子」とする。)の少なくとも一方をさらに含むことが好ましい。この場合、コーティング材の焼成時に、ガラス成分が充填材層から脱落しにくくなる。よって、コーティング材の焼成時に、充填材層が収縮することが効果的に抑制される。従って、ガラス製造容器と支持材との間に隙間が生じることを抑制することができる。その結果、ガラス製造容器を支持材に強固に固定することができる。
【0027】
なお、本発明において、「平均粒子径」とは、D
50(体積基準の平均粒子径)を意味し、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により測定された値をいう。
【0028】
本発明において、「アルミナファイバー」とは、細長形状を有し、アルミナを主成分として含む材料である。アルミナファイバーは、例えば、略円柱状であることが好ましい。アルミナファイバーの横断面における直径は、1μm〜30μm程度であることが好ましい。アルミナファイバーの長手方向における平均粒子径(繊維長さ)は、20μm〜300μm程度であることが好ましい。アルミナファイバーの横断面における直径に対する、アルミナファイバーの長手方向における平均粒子径の比((アルミナファイバーの長手方向における平均粒子径)/(アルミナファイバーの横断面における直径))は、2〜200の範囲内であることが好ましい。
【0029】
また、アルミナファイバーは、アルミナのみからなるものであってもよいし、アルミナを主成分として含み、さらにアルミナ以外を副成分として含むものであってもよい。アルミナファイバーにおけるアルミナの含有量は、60質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0030】
ガラス製造容器用充填材にアルミナファイバーを含ませることにより、コーティング材の焼成時におけるガラス成分の充填材層からの脱落を抑制できるのは、次の理由によるものと考えられる。すなわち、細長形状を有しており、融点が高いアルミナファイバーが充填材層の構造維持部材としての機能を担うため、充填材層の構造が崩れにくくなるためであると考えられる。
【0031】
一方、ガラス製造容器用充填材にアルミナ微粒子を含ませることにより、コーティング材の焼成時におけるガラス成分の充填材層からの脱落を抑制できるのは、次のような理由によるものと考えられる。すなわち、平均粒子径が小さなアルミナ微粒子は、低温においても、コーティング材の焼成時にガラス成分中に溶解しやすい。このため、ガラス製造容器用充填材中にアルミナ微粒子が含まれる場合は、コーティング材の焼成時において、比較的低い温度からガラス成分中に溶解する。その結果、低温時からガラス成分の粘度が高まる。従って、ガラス成分が充填材層から脱落しにくくなる。また、平均粒子径が小さなアルミナ微粒子は、反応性が高く、ガラス成分に含まれる他の材料と共に、高融点の結晶を生成しやすい。このため、ガラス製造容器用充填材中にアルミナ微粒子が含まれる場合は、コーティング材の焼成時において、比較的低い温度から高融点の結晶が生成し、その高融点の結晶が充填材層の構造維持部材として機能する。従って、ガラス成分が充填材層から脱落しにくくなる。
【0032】
なお、アルミナ微粒子との反応により生じる高融点の結晶の具体例としては、ムライトの結晶が挙げられる。ここで、「ムライト」とは、Al
2O
3・nSiO
2(但し、nは、1/2〜2/3の範囲内)で表される、高温下で安定な珪酸アルミニウム化合物である。このムライトの結晶は、高温時における剛性が特に高いため、コーティング材の焼成時に、ムライトを生成させることが特に効果的である。
【0033】
上述のように、アルミナファイバーを添加することにより得られる主たる効果と、アルミナ微粒子を添加することにより得られる主たる効果とは、異なる。このため、ガラス製造容器用充填材は、アルミナファイバーとアルミナ微粒子との両方を含むことが好ましい。特に、ガラス製造容器が、例えば、1300℃以上といった高温で使用される場合は、ガラス製造容器用充填材がアルミナファイバーとアルミナ微粒子との両方を含むことが好ましい。
【0034】
その場合、アルミナファイバーによる構造維持効果、アルミナ微粒子がガラス成分に溶解することによるガラス成分の粘度増大効果、及びアルミナ微粒子の反応による高融点結晶の生成効果が得られるため、コーティング材の焼成時におけるガラス成分の充填材層からの脱落をさらに効果的に抑制することができる。
【0035】
本発明において、ガラス製造容器用充填材におけるアルミナファイバー及びアルミナ微粒子の合量は、5質量%以上であることが好ましい。アルミナファイバー及びアルミナ微粒子の合量が少なすぎると、コーティング材の焼成時におけるガラス成分の充填材層からの脱落を十分に抑制できない場合があるためである。ガラス製造容器用充填材におけるアルミナファイバー及びアルミナ微粒子の合量は、コーティング材におけるアルミナファイバー及びアルミナ微粒子の合量と実質的に等しいことが好ましい。ここで、水素ガス遮蔽性が高い焼成被膜を得る観点からは、コーティング材におけるアルミナファイバー及びアルミナ微粒子の合量は、5質量%〜25質量%であることが好ましく、5質量%〜20質量%であることがより好ましい。このため、ガラス製造容器用充填材におけるアルミナファイバー及びアルミナ微粒子の合量も、5質量%〜25質量%であることが好ましく、5質量%〜20質量%であることがより好ましい。
【0036】
ガラス製造容器用充填材が、アルミナファイバーとアルミナ微粒子とのうちのアルミナファイバーのみを含む場合には、ガラス製造容器用充填材におけるアルミナファイバーの含有量は、5質量%〜25質量%であることが好ましく、5質量%〜15質量%であることがより好ましい。
【0037】
ガラス製造容器用充填材が、アルミナファイバーとアルミナ微粒子とのうちのアルミナ微粒子のみを含む場合には、ガラス製造容器用充填材におけるアルミナ微粒子の含有量は、5質量%〜20質量%であることが好ましく、5質量%〜15質量%であることがより好ましい。
【0038】
ガラス製造容器用充填材が、アルミナファイバーとアルミナ微粒子との両方を含む場合は、ガラス製造容器用充填材におけるアルミナファイバーの含有量は、5質量%〜20質量%であることが好ましく、5質量%〜15質量%であることが好ましく、ガラス製造容器用充填材におけるアルミナ微粒子の含有量は、5質量%〜20質量%であることが好ましく、5質量%〜15質量%であることが好ましい。
【0039】
本発明に係るガラス製造容器用充填材は、ガラス成分中にSi成分を含有することが好ましい。ガラス成分中にSi成分を含有していれば、アルミナ微粒子との反応によってムライトを析出しやすくなる。また、ガラス製造容器用充填材は、シリカ粒子を含むことが好ましい。この場合、シリカ粒子の含有量は、15質量%〜35質量%であることが好ましく、20質量%〜30質量%であることがより好ましい。シリカ粒子の含有量が少なすぎると、ムライトの結晶が生成しにくくなったり、コーティング材の焼成時における充填材の収縮が大きくなりすぎたりする場合がある。一方、シリカ粒子の含有量が多すぎると、その分、ガラス成分の含有量が少なくなるため、コーティング材の焼成時におけるコーティング材と充填材との反応を十分に抑制できなくなる場合がある。また、シリカ粒子の平均粒子径は、0.5μm〜100μmであることが好ましく、1μm〜50μmであることが好ましい。シリカ粒子の平均粒子径が小さすぎると、充填材内部におけるシリカ粒子同士の隙間が大きくなり、焼成時に過度の収縮を起こす場合がある。一方、シリカ粒子の平均粒子径が大きすぎると、ガラスに溶け込みにくくなってムライトの形成が遅くなり、焼成時におけるガラス質の流動を抑制しにくくなる場合がある。
【0040】
ところで、本発明に係るガラス製造容器用充填材は、一般的に、水を加えてペースト状として使用される。具体的には、ガラス製造容器用充填材に水を加えて混練することにより作製したペーストを、コーティング材が表面にコーティングされたガラス製造容器と支持材との間に充填する。その後、コーティング材の焼成と共に、ガラス製造容器用充填材も焼成し、ガラス製造容器と支持材との間に、ガラス製造容器用充填材層を形成する。
【0041】
このため、ガラス製造容器用充填材と水とを含有するペーストにおける水の含有量が多すぎると、焼成時にガラス製造容器用充填材が大きく収縮してしまい、充填材層にひび割れなどが発生する場合がある。このため、焼成時におけるガラス製造容器用充填材の収縮を抑制する観点からは、ガラス製造容器用充填材における水の含有量は、少ない方が好ましい。
【0042】
しかしながら、ガラス製造容器用充填材における水の含有量が少なすぎると、ペースト状ガラス製造容器用充填材の流動性が低下し、ガラス製造容器と支持材との間のクリアランスが小さい場合は、ガラス製造容器と支持材との間にペースト状ガラス製造容器用充填材を確実に充填することが困難となる。すなわち、ガラス製造容器と支持材との間に、ペースト状ガラス製造容器用充填材が充填されない部分が生じやすくなる。
【0043】
このように、ガラス製造容器用充填材に単に水を加えてペースト状ガラス製造容器用充填材を作製した場合は、高い充填性と、焼成時におけるガラス製造容器用充填材の収縮の抑制とを両立させることが困難である。
【0044】
ここで、ガラス製造容器用充填材が、水と共に解膠剤を含む場合は、水の含有量を減らした場合であっても、良好な流動性が得られ、かつ高い充填性を実現することができる。例えば、5mm程度の非常に狭い隙間にもペースト状ガラス製造容器用充填材を確実に充填することが可能となる。従って、ガラス製造容器用充填材は、水と共に解膠剤を含むことが好ましい。
【0045】
ここで、「解膠剤」とは、ガラス製造容器用充填材の固形分をペプチダゼーション(解膠)させる薬剤をいう。ペプチダゼーション(解膠)とは、凝結した固形分を分散させることをいう。解膠剤は、一般的に溶液状態であるものが多く、水などの溶媒に溶解した状態で用いられる場合もある。
【0046】
解膠剤の具体例としては、ポリカルボン酸アンモニウム塩などのカルボン酸アンモニウム系高分子化合物や、カルボン酸のナトリウム塩、リン酸のナトリウム塩などが挙げられる。なかでもカルボン酸アンモニウム系高分子化合物は充填材の流動性を向上させる効果が大きいため好ましい。本発明においては、これらの解膠剤のうちの1種類を用いてもよいし、複数種類の解膠剤を併用してもよい。
【0047】
解膠剤の含有量は、ガラス製造容器用充填材の固形分100質量部に対して0.1質量部〜10質量部の範囲内であることが好ましく、1質量部〜10質量部の範囲内であることが好ましく、1質量部〜9質量部の範囲内であることが好ましい。ガラス製造容器用充填材の固形分に対する解膠剤の含有量が少なすぎると、解膠剤を添加することによる固形分の分散性向上効果が十分に得られない場合がある。一方、ガラス製造容器用充填材の固形分に対する解膠剤の含有量が多すぎると、解膠剤自体に含まれる有機成分、特に炭素成分が充填材内のガラス成分を還元させるなど充填材の特性を変化させてしまう場合がある。
【0048】
ガラス製造容器用充填材に水及び解膠剤を添加した場合、水の含有量は、ガラス製造容器用充填材の固形分100質量部に対して10質量部〜65質量部の範囲内であることが好ましく、15質量部〜60質量部の範囲内であることがより好ましく、20質量部〜50質量部の範囲内であることがさらに好ましい。ガラス製造容器用充填材の固形分に対する水の含有量が少なすぎると、固形分の分散性が悪くなり、ペースト状ガラス製造容器用充填材の流動性が低くなりすぎる場合がある。一方、ガラス製造容器用充填材の固形分に対する水の含有量が多すぎると、焼成時におけるガラス製造容器用充填材の収縮量が大きくなりすぎる場合がある。
【0049】
本発明に係るガラス製造容器用充填材層は、上記本発明に係るガラス製造容器用充填材が焼成されてなるものである。上述の通り、本発明に係るガラス製造容器用充填材は、焼成時にコーティング材と反応し難い。従って、本発明に係るガラス製造容器用充填材層を用いることにより、ガラス中に泡が発生しにくいガラス製造容器を作製することができる。
【0050】
なお、ガラス製造容器用充填材の焼成温度は、ガラス製造容器用充填材の組成などに応じて適宜設定することができる。ガラス製造容器用充填材の焼成温度は、例えば、900℃〜1600℃程度とすることができる。
【0051】
本発明に係るガラス製造装置は、焼成被膜が表面に形成されている貴金属製のガラス製造容器と、支持材と、ガラス製造容器と支持材との間に位置しているガラス製造容器用充填材層とを備えており、ガラス製造容器用充填材層として、上記本発明に係るガラス製造容器用充填材層を用いたものである。このため、本発明のガラス製造装置を用いてガラスを製造することにより、泡の少ないガラスを製造することができる。
【0052】
本発明に係るガラス製造装置は、例えば、焼成被膜を形成するためのコーティング材が表面に塗布されたガラス製造容器と支持材との間に、上記本発明に係るガラス製造容器用充填材を充填し、焼成することにより製造することができる。ここで、例えば、支持材が水分透過性の低いものである場合は、焼成工程において水分が気化し、ガラス製造容器と支持材との間の領域における圧力が急激に上昇する。その結果、コーティング材層やガラス製造容器が損傷してしまう虞がある。従って、支持材は、水分透過性の高いものであることが好ましい。具体的には、支持材は、気孔率が1%以上であるものが好ましく、7%以上であるものが好ましい。但し、支持材の気孔率が高すぎると、支持材の剛性が低くなりすぎる場合がある。従って、支持材の気孔率は、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。
【0053】
支持材の気孔率が1%〜20%の範囲内にある場合は、支持材の厚みは、5mm〜200mmの範囲内にあることが好ましく、25mm〜100mmの範囲内にあることがさらに好ましい。このような厚みの支持材を採用することによって、支持材の十分に高い剛性を確保しつつ、十分に優れた水分透過性を確保することができる。また、支持材の厚みを上記範囲とすることによってガラス製造装置が大型化しすぎることを抑制することができる。ガラス製造容器の使用温度との関係で、気孔率の小さな耐火物を設置する必要がある場合には、充填材と接触する表層部分にだけに上記の気孔率の耐火物を使用し、他の部分を気孔率の小さな耐火物で構成してもよい。
【0054】
ガラス製造容器と支持材との間のクリアランスは、1mm〜200mmの範囲内であることが好ましく、1mm〜20mmの範囲内であることがより好ましい。ガラス製造容器と支持材との間のクリアランスが小さすぎるとガラス製造容器と支持材との間にガラス製造容器用充填材を確実に充填することが困難となる場合がある。一方、ガラス製造容器と支持材との間のクリアランスが大きすぎると、上記焼成時における水分の抜けが不十分になる場合がある。
【0055】
本発明において、ガラス製造容器の表面に形成されている焼成被膜は、ガラス成分を含むコーティング材を焼成してなるものであり、水素ガスの透過を抑制するためのものである。すなわち、焼成被膜は、ガラス製造容器よりも水素ガス透過性が低いものである。コーティング材は、ガラス成分と、ガラス成分を保持するための耐火成分とを含むものであることが好ましい。
【0056】
コーティング材に含まれるガラス成分は、特に限定されないが、例えば、硼珪酸塩系ガラスや珪酸塩系ガラスであることが好ましく、アルカリ金属やアルカリ土類金属の含有量が少ない硼珪酸塩系ガラスや珪酸塩系ガラスであることがより好ましい。
【0057】
コーティング材におけるガラス成分の含有量は、特に限定されないが、20質量%以上であることが好ましく、40質量%〜70質量%であることが好ましく、50質量%〜60質量%であることがさらに好ましい。コーティング材におけるガラス成分の含有量が少なすぎると、焼成被膜の水素ガスの遮蔽性が十分に得られない場合がある。一方、コーティング材におけるガラス成分の含有量が多すぎると、焼成時にガラス成分が脱落しやすくなり、水素ガスの遮蔽性が劣化する場合がある。
【0058】
コーティング材に含まれる耐火成分としては、シリカやアルミナなどが含まれる。コーティング材は、ガラス成分と、シリカと、アルミナとの全てを含むものであることが好ましい。この場合、コーティング材におけるシリカの含有量は、15質量%〜40質量%であることが好ましく、20質量%〜30質量%であることがさらに好ましい。コーティング材におけるシリカの含有量が少なすぎると、ガラス成分に溶け込むシリカが少なくなり、ガラス質の粘度が高くならないため、焼成途中に被膜が流動し脱落したり、焼成被膜の剛性が低くなったり場合がある。コーティング材におけるシリカの含有量が多すぎると、相対的にアルミナが少なくなり、ムライト結晶の生成量が少なくなるため、焼成被膜の剛性が低くなる場合がある。
【0059】
コーティング材に含まれるシリカの平均粒子径は、50μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。特に、より細かなシリカの粒子を含むコロイダルシリカを用いることが好ましい。コーティング材に含まれるシリカの平均粒子径が大きすぎると、シリカがガラス成分に溶け込みにくくなるため、ムライトの形成が遅くなり、焼成時におけるガラス成分の流動を抑制しにくくなる場合があるためである。
【0060】
なお、「コロイダルシリカ」とは、分散媒中に平均粒子径が1nm〜30nmのシリカ微粒子が分散しているものをいう。
【0061】
コーティング材におけるアルミナの含有量は、10質量%〜40質量%であることが好ましく、16質量%〜27質量%であることがさらに好ましい。コーティング材におけるアルミナの含有量が多すぎると、ガラス質が不足し焼成被膜にクラックが入る場合がある。コーティング材におけるアルミナの含有量が少なすぎると、ガラス成分に溶け込むアルミナが少なくなり、ガラス質の粘度が十分に高くならず、焼成時にガラス成分が脱落する場合がある。コーティング材に含まれるアルミナは、平均粒子径が1μm〜100μmのアルミナ粒子であることが好ましい。このような平均粒子径を有するアルミナ粒子を添加することにより、焼成被膜の変形やタレを効果的に抑制できるとともに、均一な焼成被膜が形成しやすくなる。なお、平均粒子径がナノオーダー(例えば5nm〜50nm)のアルミナ微粒子やアルミナファイバーをさらに添加することが好ましい。アルミナ微粒子は、ガラス成分への溶け込みが速い。このため、アルミナ微粒子を添加することにより、ガラス成分の粘性を増大させることができるので、焼成時におけるガラス成分の脱落を抑制することができる。またアルミナファイバーを加えることで、焼成被膜の強度を向上させることができる。
【0062】
なお、コーティング材の組成は、ガラス製造容器の使用温度によって適宜調製する必要がある。例えば、ガラス製造容器の使用温度が1300℃以上と高い場合は、耐火成分の含有量を多くしたり、ガラス成分として、軟化温度がより高いガラスを用いたりすることが好ましい。
【0063】
本発明に係るガラス製造装置の製造方法は、貴金属製のガラス製造容器の表面上に、焼成被膜を形成するためのコーティング材を塗布する工程と、ガラス製造容器の周りに支持材を設ける工程と、ガラス製造容器と支持材との間に充填材を充填する工程と、コーティング材及び充填材を焼成して焼成被膜及び充填材層を形成する工程とを備えている。本発明に係るガラス製造装置の製造方法では、充填材がガラス成分を含んでいる。
【0064】
本発明によれば、泡の少ないガラスを製造することができる、上記本発明に係るガラス製造装置を好適に製造することができる。
【0065】
本発明において、貴金属製のガラス製造容器の表面上へのコーティング材の塗布は、例えば、スプレーによる吹き付けにより行うこともできるし、刷毛やへらなどを用いて行うこともできる。なかでも、貴金属製のガラス製造容器の表面上へのコーティング材の塗布は、スプレーによる吹き付けにより行うことが好ましい。均一にコーティング材を塗布できるためである。
【0066】
充填材の充填は、例えば、流動性を有する充填材をガラス製造容器と支持材との間のクリアランスに流し込むことにより行うことができる。
【0067】
本発明においては、コーティング材の焼成により焼成被膜が形成され、充填材の焼成により充填剤層が形成される。コーティング材及び充填材の焼成温度は、コーティング材や充填材の組成などに応じて適宜設定することができる。コーティング材及び焼成被膜の焼成は、例えば、900℃〜1600℃程度で行うことができる。
【0068】
なお、コーティング材及び充填材の焼成に先立って、充填材等の乾燥を行うようにしてもよい。