特許第5776548号(P5776548)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気硝子株式会社の特許一覧

特許5776548ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置
<>
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000008
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000009
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000010
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000011
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000012
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000013
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000014
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000015
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000016
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000017
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000018
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000019
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000020
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000021
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000022
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000023
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000024
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000025
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000026
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000027
  • 特許5776548-ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置 図000028
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776548
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】ガラス製造装置の製造方法及びガラス製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/43 20060101AFI20150820BHJP
   C03B 5/08 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   C03B5/43
   C03B5/08
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-510773(P2011-510773)
(86)(22)【出願日】2011年3月8日
(86)【国際出願番号】JP2011055306
(87)【国際公開番号】WO2011118375
(87)【国際公開日】20110929
【審査請求日】2013年10月3日
(31)【優先権主張番号】特願2010-69263(P2010-69263)
(32)【優先日】2010年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-269296(P2010-269296)
(32)【優先日】2010年12月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東條 真
(72)【発明者】
【氏名】川口 正隆
(72)【発明者】
【氏名】相徳 孝志
(72)【発明者】
【氏名】金谷 仁
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−084697(JP,A)
【文献】 特表2004−523449(JP,A)
【文献】 特表2009−509898(JP,A)
【文献】 特開平06−056516(JP,A)
【文献】 特開2006−077318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00−5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属製のガラス製造容器の表面上に、焼成被膜を形成するためのコーティング材を塗布する工程と、前記ガラス製造容器の周りに支持材を設ける工程と、前記コーティング材が塗布された前記ガラス製造容器と前記支持材との間に充填材を充填する工程と、前記コーティング材及び前記充填材を焼成して前記焼成被膜及び充填材層を形成する工程とを備え、
前記コーティング材及び前記充填材が、それぞれガラス成分を含むガラス製造装置の製造方法。
【請求項2】
前記充填材中のガラス成分の含有量が、20質量%以上である請求項1に記載のガラス製造装置の製造方法
【請求項3】
前記充填材中のガラス成分の含有量は、前記コーティング材におけるガラス成分の含有量の0.9〜1.5倍の範囲内である請求項1または2に記載のガラス製造装置の製造方法
【請求項4】
前記充填材は、アルミナファイバー及び平均粒子径が5nm〜50nmの範囲内にあるアルミナ微粒子の少なくとも一方をさらに含む請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス製造装置の製造方法
【請求項5】
前記充填材中に含まれるアルミナファイバーと平均粒子径が5nm〜50nmの範囲内にあるアルミナ微粒子との合量が、5質量%以上である請求項4に記載のガラス製造装置の製造方法
【請求項6】
前記充填材中に含まれるガラス成分は、Si成分を含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載のガラス製造装置の製造方法
【請求項7】
前記充填材は、シリカ粒子をさらに含む請求項1〜6のいずれか一項に記載のガラス製造装置の製造方法
【請求項8】
前記支持材の気孔率が1%〜20%の範囲内にある耐火物である請求項1〜7のいずれか一項に記載のガラス製造装置の製造方法
【請求項9】
前記支持材の厚みが5mm〜200mmの範囲内にある請求項1〜8のいずれか一項に記載のガラス製造装置の製造方法
【請求項10】
前記ガラス製造容器と前記支持材とのクリアランスが1mm〜200mmの範囲内にある請求項1〜9のいずれか一項に記載のガラス製造装置の製造方法
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法で製造された装置であって、前記充填材が前記コーティング材と異なる組成を有するガラス製造装
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス製造容器用充填材、それが焼成されてなるガラス製造容器用充填材層、それを備えるガラス製造装置及びガラス製造装置の製造方法に関する。特には、本発明は、貴金属製のガラス製造容器の表面上に焼成被膜を形成するためのコーティング材であって、ガラス成分を含むコーティング材が表面にコーティングされたガラス製造容器と支持材との間に充填されるガラス製造容器用充填材、それが焼成されてなるガラス製造容器用充填材層、それを備えるガラス製造装置及びガラス製造装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学ガラスやディスプレイ用ガラスなどの高品位なガラスを製造するためのガラス製造容器としては、従来、Ptなどの貴金属または貴金属を含む合金からなるガラス製造容器(以下、「Pt容器」とする。)が広く用いられている。その理由は、Pt容器は、1000℃以上といった高温雰囲気中においても高い剛性を有し、かつ、内部のガラスを汚染しにくいためである。なお、ガラス製造用容器は、通常外側が支持材で覆われ、ガラス製造用容器と支持材との空隙に充填材が充填固化されることにより固定される。
【0003】
しかしながら、Pt容器をガラスの製造に用いた場合、ガラス中の水分に起因する泡が、容器の溶融ガラス側の表面に発生する場合がある。この泡が発生する原因は、ガラス中に含まれる水が分解することで生じた水素がPt容器を透過して外部に放出されることによって、Pt容器の表面付近に位置する溶融ガラスの酸素濃度が増大するためであると考えられている(具体的には、特許文献1参照)。すなわち、特許文献1によれば、下記の式(1)に示す反応により生じた水素がPt容器を透過して外部に放出される一方、Pt容器を透過できない酸素がPt容器の表面近傍に位置する溶融ガラス中に溶存することにより、Pt容器の表面付近に位置する溶融ガラスの酸素濃度が溶解度限界よりも高くなり、泡が発生するものと考えられている。
【0004】
OH → 1/2O + 1/2H + e ・・・ (1)
【0005】
特に、ディスプレイ用ガラスなどとして利用される、アルカリ金属成分を実質的に含まない所謂無アルカリガラスは、高温時においても粘度が高く、脱泡が困難であるため、泡の発生は大きな問題になりやすい。
【0006】
このような問題に鑑み、例えば、下記の特許文献1〜4では、PtまたはPtを含む合金からなる容器を用いた場合に、ガラス中の水分に起因する泡の発生を抑制する方法が提案されている。
【0007】
例えば、下記の特許文献1では、ガラス製造時に、Pt容器の外側の水素の分圧を、Pt容器の内側の水素の分圧に対して制御することにより、ガラス中の水分に起因する泡の発生を抑制する方法が提案されている。
【0008】
下記の特許文献2,3では、Pt容器の外表面にガラスのバリアコーティングを施してPt容器の水素透過性を低下させることにより、ガラス中の水分に起因する泡の発生を抑制する方法が提案されている。
【0009】
また、下記の特許文献4では、アルミナとシリカとを含む耐火成分と、ガラス成分とを含むコーティング材によりPt容器の外表面を被覆することにより、ガラス中の水分に起因する泡の発生を抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2001−503008号公報
【特許文献2】特表2004−523449号公報
【特許文献3】特表2006−522001号公報
【特許文献4】WO2006/030738 A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の特許文献1に記載の方法によりガラス中の水分に起因する泡の発生を抑制しようとすると、ガラス製造中に水素を供給し続ける必要がある。このため、ガラスの製造コストが上昇するという問題がある。また、Pt容器の外側の水素分圧が高すぎると、水素がPt容器の外側からPt容器を透過してPt容器内に進入し、ガラス融液中に溶け込むため、水素の泡が発生するおそれがある。従って、ガラス融液中に泡が発生することを十分に抑制することは困難であるという問題がある。また、水素が白金とガラス成分の反応を助長し、結果として、白金損傷が生じて溶融ガラスが流出するおそれがある。
【0012】
特許文献2〜4に記載のように、Pt容器の外表面にガラス成分を含むバリアコーティング層を形成することによりガラス中の水分に起因する泡の発生の抑制を図る場合は、ガラス溶融中に水素を供給し続ける必要は必ずしもない。特に、特許文献4に記載のように、ガラス成分と共に、アルミナ粒子とシリカ粒子などの耐火物成分を含むコーティング材を用いてPt容器の外表面を被覆した場合は、特許文献2,3に記載のように、ガラス成分からなるバリアコーティング層を形成した場合よりも高い水素遮断性が得られやすい。従って、ガラス融液中の水に起因する泡の発生を効果的に抑制し得る。
【0013】
しかしながら、本発明者らが鋭意研究した結果、特許文献4に記載のように、ガラス成分と耐火物成分とを含むバリアコーティング層によりPt容器の外表面を被覆したとしても、泡の発生を十分に抑制できない場合があることが分かった。本発明者らは、さらに鋭意研究の結果、泡の発生を十分に抑制できない原因が、焼成によりバリアコーティング層を形成する工程で、コーティング材と充填材であるモルタルとが反応し、得られるバリアコーティング層の水素ガス遮蔽性が所望の水素ガス遮蔽性よりも低くなっていることにあることを見出した。
【0014】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、貴金属製のガラス製造容器の表面上に焼成被膜を形成するためのコーティング材が表面にコーティングされた容器本体と支持材との間に充填される充填材であって、コーティング材の焼成工程において、コーティング材と反応し難く、水素遮蔽性の高い焼成被膜を形成できるガラス製造容器用充填材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るガラス製造容器用充填材は、貴金属製のガラス製造容器の表面上に焼成被膜を形成するために使用され、ガラス成分を含むコーティング材が表面にコーティングされたガラス製造容器と支持材との間に充填される充填材である。
【0016】
なお、本発明において、「ガラス製造容器」とは、ガラス融液と接触する内表面と、ガラス融液と接触しない外表面とを有し、ガラス融液を保持または搬送できる部材のことをいう。「ガラス製造容器」には、溶融槽、清澄槽、撹拌槽等のガラス融液を保持できる容器、ガラス融液を搬送できるガラス搬送パイプ、成形用部材等が含まれる。ここで、「成形用部材」とは、ガラス融液を所定の形状を有する部材に成形するために用いる部材をいう。従って、「成形用部材」には、成形用スリーブ、ノズル等が含まれるものとする。
【0017】
本発明において、「貴金属製のガラス製造容器」とは、貴金属または貴金属を含む合金からなるガラス製造容器をいう。貴金属の具体例としては、Pt、Rh、Ir、Pd、Au等が挙げられる。貴金属を含む合金としては、Pt、Rh、Ir、Pd及びAuからなる群から選ばれた一種以上を含む合金が挙げられる。貴金属を含む合金の具体例としては、Pt/Rh合金、Pt/Ir合金、Pt/Pd合金などが挙げられる。
【0018】
本発明において、「支持材」とは、ガラス製造容器を支持するための部材である。支持材は、例えば、ガラス製造容器の周囲に設けられた耐火物からなる。
【0019】
本発明に係るガラス製造容器用充填材は、ガラス成分を含む。このため、例えば、従来のガラス成分を含まないモルタルのような充填材と比較して、ガラス成分を含むコーティング材と反応し難い。従って、本発明に係るガラス製造容器用充填材を用いることによって、コーティング材と充填材とが反応することに起因する焼成被膜の組成のずれを抑制することができる。つまり、本発明に係るガラス製造容器用充填材を用いることによって、所望の組成を有し、高い水素ガス遮蔽性を有する焼成被膜を形成することができる。従って、ガラス融液中に水素ガスの泡が発生しにくいガラス製造装置を作製することができる。
【0020】
コーティング材の焼成時におけるコーティング材と充填材との反応を抑制する観点からは、ガラス製造容器用充填材におけるガラス成分の含有量は、コーティング材におけるガラス成分の含有量と近いことが好ましい。ここで、水素ガス遮蔽性の高い焼成被膜を形成するためには、コーティング材におけるガラス成分の含有量は、20質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましい。このため、ガラス製造容器用充填材におけるガラス成分の含有量も20質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましい。
【0021】
より好ましくは、ガラス製造容器用充填材におけるガラス成分の含有量は、コーティング材におけるガラス成分の含有量の0.9〜1.5倍の範囲内である。
【0022】
なお、ガラス成分の種類や形態は、特に限定されない。ガラス成分の形態としては、例えば、ガラス粉末を用いることができる。ガラス成分の種類としては、ガラス軟化温度が高いガラスであることが好ましい。具体的には、ガラス成分は、例えば、硼珪酸塩系ガラスや珪酸塩系ガラスであることが好ましく、アルカリ金属やアルカリ土類金属の含有量が少ない硼珪酸塩系ガラスや珪酸塩系ガラスであることがより好ましい。ガラス製造容器用充填材に含まれるガラス成分の種類は、コーティング材に含まれるガラス成分の種類と実質的に等しいことが好ましい。
【0023】
なお、本発明において、ガラス成分には、結晶化ガラスが含まれるものとする。
【0024】
ところで、上述のように、コーティング材との反応性を低下させる観点からは、ガラス製造容器用充填材がガラス成分を含有している必要がある。しかしながら、ガラス成分は、例えば耐火成分などと比べて融点が低く溶けやすい。このため、コーティング材の焼成時に、ガラス成分が溶けて、充填材層から脱落しやすくなる傾向にある。その結果、充填材層が収縮してしまい、ガラス製造容器と支持材との間に隙間が生じる場合がある。そうすると、ガラス製造容器を支持材に強固に固定できなくなる場合がある。
【0025】
なお、ガラス成分が脱落し、ガラス製造容器と支持材との間に隙間が生じた場合、通常その隙間はそれほど大きくないため埋めるのは困難である。
【0026】
このため、ガラス製造容器用充填材は、ガラス成分と共に、アルミナファイバー及び平均粒子径が5nm〜50nmの範囲内にあるアルミナ微粒子(以下、「平均粒子径が5nm〜50nmの範囲内にあるアルミナ微粒子」を単に「アルミナ微粒子」とする。)の少なくとも一方をさらに含むことが好ましい。この場合、コーティング材の焼成時に、ガラス成分が充填材層から脱落しにくくなる。よって、コーティング材の焼成時に、充填材層が収縮することが効果的に抑制される。従って、ガラス製造容器と支持材との間に隙間が生じることを抑制することができる。その結果、ガラス製造容器を支持材に強固に固定することができる。
【0027】
なお、本発明において、「平均粒子径」とは、D50(体積基準の平均粒子径)を意味し、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により測定された値をいう。
【0028】
本発明において、「アルミナファイバー」とは、細長形状を有し、アルミナを主成分として含む材料である。アルミナファイバーは、例えば、略円柱状であることが好ましい。アルミナファイバーの横断面における直径は、1μm〜30μm程度であることが好ましい。アルミナファイバーの長手方向における平均粒子径(繊維長さ)は、20μm〜300μm程度であることが好ましい。アルミナファイバーの横断面における直径に対する、アルミナファイバーの長手方向における平均粒子径の比((アルミナファイバーの長手方向における平均粒子径)/(アルミナファイバーの横断面における直径))は、2〜200の範囲内であることが好ましい。
【0029】
また、アルミナファイバーは、アルミナのみからなるものであってもよいし、アルミナを主成分として含み、さらにアルミナ以外を副成分として含むものであってもよい。アルミナファイバーにおけるアルミナの含有量は、60質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0030】
ガラス製造容器用充填材にアルミナファイバーを含ませることにより、コーティング材の焼成時におけるガラス成分の充填材層からの脱落を抑制できるのは、次の理由によるものと考えられる。すなわち、細長形状を有しており、融点が高いアルミナファイバーが充填材層の構造維持部材としての機能を担うため、充填材層の構造が崩れにくくなるためであると考えられる。
【0031】
一方、ガラス製造容器用充填材にアルミナ微粒子を含ませることにより、コーティング材の焼成時におけるガラス成分の充填材層からの脱落を抑制できるのは、次のような理由によるものと考えられる。すなわち、平均粒子径が小さなアルミナ微粒子は、低温においても、コーティング材の焼成時にガラス成分中に溶解しやすい。このため、ガラス製造容器用充填材中にアルミナ微粒子が含まれる場合は、コーティング材の焼成時において、比較的低い温度からガラス成分中に溶解する。その結果、低温時からガラス成分の粘度が高まる。従って、ガラス成分が充填材層から脱落しにくくなる。また、平均粒子径が小さなアルミナ微粒子は、反応性が高く、ガラス成分に含まれる他の材料と共に、高融点の結晶を生成しやすい。このため、ガラス製造容器用充填材中にアルミナ微粒子が含まれる場合は、コーティング材の焼成時において、比較的低い温度から高融点の結晶が生成し、その高融点の結晶が充填材層の構造維持部材として機能する。従って、ガラス成分が充填材層から脱落しにくくなる。
【0032】
なお、アルミナ微粒子との反応により生じる高融点の結晶の具体例としては、ムライトの結晶が挙げられる。ここで、「ムライト」とは、Al・nSiO(但し、nは、1/2〜2/3の範囲内)で表される、高温下で安定な珪酸アルミニウム化合物である。このムライトの結晶は、高温時における剛性が特に高いため、コーティング材の焼成時に、ムライトを生成させることが特に効果的である。
【0033】
上述のように、アルミナファイバーを添加することにより得られる主たる効果と、アルミナ微粒子を添加することにより得られる主たる効果とは、異なる。このため、ガラス製造容器用充填材は、アルミナファイバーとアルミナ微粒子との両方を含むことが好ましい。特に、ガラス製造容器が、例えば、1300℃以上といった高温で使用される場合は、ガラス製造容器用充填材がアルミナファイバーとアルミナ微粒子との両方を含むことが好ましい。
【0034】
その場合、アルミナファイバーによる構造維持効果、アルミナ微粒子がガラス成分に溶解することによるガラス成分の粘度増大効果、及びアルミナ微粒子の反応による高融点結晶の生成効果が得られるため、コーティング材の焼成時におけるガラス成分の充填材層からの脱落をさらに効果的に抑制することができる。
【0035】
本発明において、ガラス製造容器用充填材におけるアルミナファイバー及びアルミナ微粒子の合量は、5質量%以上であることが好ましい。アルミナファイバー及びアルミナ微粒子の合量が少なすぎると、コーティング材の焼成時におけるガラス成分の充填材層からの脱落を十分に抑制できない場合があるためである。ガラス製造容器用充填材におけるアルミナファイバー及びアルミナ微粒子の合量は、コーティング材におけるアルミナファイバー及びアルミナ微粒子の合量と実質的に等しいことが好ましい。ここで、水素ガス遮蔽性が高い焼成被膜を得る観点からは、コーティング材におけるアルミナファイバー及びアルミナ微粒子の合量は、5質量%〜25質量%であることが好ましく、5質量%〜20質量%であることがより好ましい。このため、ガラス製造容器用充填材におけるアルミナファイバー及びアルミナ微粒子の合量も、5質量%〜25質量%であることが好ましく、5質量%〜20質量%であることがより好ましい。
【0036】
ガラス製造容器用充填材が、アルミナファイバーとアルミナ微粒子とのうちのアルミナファイバーのみを含む場合には、ガラス製造容器用充填材におけるアルミナファイバーの含有量は、5質量%〜25質量%であることが好ましく、5質量%〜15質量%であることがより好ましい。
【0037】
ガラス製造容器用充填材が、アルミナファイバーとアルミナ微粒子とのうちのアルミナ微粒子のみを含む場合には、ガラス製造容器用充填材におけるアルミナ微粒子の含有量は、5質量%〜20質量%であることが好ましく、5質量%〜15質量%であることがより好ましい。
【0038】
ガラス製造容器用充填材が、アルミナファイバーとアルミナ微粒子との両方を含む場合は、ガラス製造容器用充填材におけるアルミナファイバーの含有量は、5質量%〜20質量%であることが好ましく、5質量%〜15質量%であることが好ましく、ガラス製造容器用充填材におけるアルミナ微粒子の含有量は、5質量%〜20質量%であることが好ましく、5質量%〜15質量%であることが好ましい。
【0039】
本発明に係るガラス製造容器用充填材は、ガラス成分中にSi成分を含有することが好ましい。ガラス成分中にSi成分を含有していれば、アルミナ微粒子との反応によってムライトを析出しやすくなる。また、ガラス製造容器用充填材は、シリカ粒子を含むことが好ましい。この場合、シリカ粒子の含有量は、15質量%〜35質量%であることが好ましく、20質量%〜30質量%であることがより好ましい。シリカ粒子の含有量が少なすぎると、ムライトの結晶が生成しにくくなったり、コーティング材の焼成時における充填材の収縮が大きくなりすぎたりする場合がある。一方、シリカ粒子の含有量が多すぎると、その分、ガラス成分の含有量が少なくなるため、コーティング材の焼成時におけるコーティング材と充填材との反応を十分に抑制できなくなる場合がある。また、シリカ粒子の平均粒子径は、0.5μm〜100μmであることが好ましく、1μm〜50μmであることが好ましい。シリカ粒子の平均粒子径が小さすぎると、充填材内部におけるシリカ粒子同士の隙間が大きくなり、焼成時に過度の収縮を起こす場合がある。一方、シリカ粒子の平均粒子径が大きすぎると、ガラスに溶け込みにくくなってムライトの形成が遅くなり、焼成時におけるガラス質の流動を抑制しにくくなる場合がある。
【0040】
ところで、本発明に係るガラス製造容器用充填材は、一般的に、水を加えてペースト状として使用される。具体的には、ガラス製造容器用充填材に水を加えて混練することにより作製したペーストを、コーティング材が表面にコーティングされたガラス製造容器と支持材との間に充填する。その後、コーティング材の焼成と共に、ガラス製造容器用充填材も焼成し、ガラス製造容器と支持材との間に、ガラス製造容器用充填材層を形成する。
【0041】
このため、ガラス製造容器用充填材と水とを含有するペーストにおける水の含有量が多すぎると、焼成時にガラス製造容器用充填材が大きく収縮してしまい、充填材層にひび割れなどが発生する場合がある。このため、焼成時におけるガラス製造容器用充填材の収縮を抑制する観点からは、ガラス製造容器用充填材における水の含有量は、少ない方が好ましい。
【0042】
しかしながら、ガラス製造容器用充填材における水の含有量が少なすぎると、ペースト状ガラス製造容器用充填材の流動性が低下し、ガラス製造容器と支持材との間のクリアランスが小さい場合は、ガラス製造容器と支持材との間にペースト状ガラス製造容器用充填材を確実に充填することが困難となる。すなわち、ガラス製造容器と支持材との間に、ペースト状ガラス製造容器用充填材が充填されない部分が生じやすくなる。
【0043】
このように、ガラス製造容器用充填材に単に水を加えてペースト状ガラス製造容器用充填材を作製した場合は、高い充填性と、焼成時におけるガラス製造容器用充填材の収縮の抑制とを両立させることが困難である。
【0044】
ここで、ガラス製造容器用充填材が、水と共に解膠剤を含む場合は、水の含有量を減らした場合であっても、良好な流動性が得られ、かつ高い充填性を実現することができる。例えば、5mm程度の非常に狭い隙間にもペースト状ガラス製造容器用充填材を確実に充填することが可能となる。従って、ガラス製造容器用充填材は、水と共に解膠剤を含むことが好ましい。
【0045】
ここで、「解膠剤」とは、ガラス製造容器用充填材の固形分をペプチダゼーション(解膠)させる薬剤をいう。ペプチダゼーション(解膠)とは、凝結した固形分を分散させることをいう。解膠剤は、一般的に溶液状態であるものが多く、水などの溶媒に溶解した状態で用いられる場合もある。
【0046】
解膠剤の具体例としては、ポリカルボン酸アンモニウム塩などのカルボン酸アンモニウム系高分子化合物や、カルボン酸のナトリウム塩、リン酸のナトリウム塩などが挙げられる。なかでもカルボン酸アンモニウム系高分子化合物は充填材の流動性を向上させる効果が大きいため好ましい。本発明においては、これらの解膠剤のうちの1種類を用いてもよいし、複数種類の解膠剤を併用してもよい。
【0047】
解膠剤の含有量は、ガラス製造容器用充填材の固形分100質量部に対して0.1質量部〜10質量部の範囲内であることが好ましく、1質量部〜10質量部の範囲内であることが好ましく、1質量部〜9質量部の範囲内であることが好ましい。ガラス製造容器用充填材の固形分に対する解膠剤の含有量が少なすぎると、解膠剤を添加することによる固形分の分散性向上効果が十分に得られない場合がある。一方、ガラス製造容器用充填材の固形分に対する解膠剤の含有量が多すぎると、解膠剤自体に含まれる有機成分、特に炭素成分が充填材内のガラス成分を還元させるなど充填材の特性を変化させてしまう場合がある。
【0048】
ガラス製造容器用充填材に水及び解膠剤を添加した場合、水の含有量は、ガラス製造容器用充填材の固形分100質量部に対して10質量部〜65質量部の範囲内であることが好ましく、15質量部〜60質量部の範囲内であることがより好ましく、20質量部〜50質量部の範囲内であることがさらに好ましい。ガラス製造容器用充填材の固形分に対する水の含有量が少なすぎると、固形分の分散性が悪くなり、ペースト状ガラス製造容器用充填材の流動性が低くなりすぎる場合がある。一方、ガラス製造容器用充填材の固形分に対する水の含有量が多すぎると、焼成時におけるガラス製造容器用充填材の収縮量が大きくなりすぎる場合がある。
【0049】
本発明に係るガラス製造容器用充填材層は、上記本発明に係るガラス製造容器用充填材が焼成されてなるものである。上述の通り、本発明に係るガラス製造容器用充填材は、焼成時にコーティング材と反応し難い。従って、本発明に係るガラス製造容器用充填材層を用いることにより、ガラス中に泡が発生しにくいガラス製造容器を作製することができる。
【0050】
なお、ガラス製造容器用充填材の焼成温度は、ガラス製造容器用充填材の組成などに応じて適宜設定することができる。ガラス製造容器用充填材の焼成温度は、例えば、900℃〜1600℃程度とすることができる。
【0051】
本発明に係るガラス製造装置は、焼成被膜が表面に形成されている貴金属製のガラス製造容器と、支持材と、ガラス製造容器と支持材との間に位置しているガラス製造容器用充填材層とを備えており、ガラス製造容器用充填材層として、上記本発明に係るガラス製造容器用充填材層を用いたものである。このため、本発明のガラス製造装置を用いてガラスを製造することにより、泡の少ないガラスを製造することができる。
【0052】
本発明に係るガラス製造装置は、例えば、焼成被膜を形成するためのコーティング材が表面に塗布されたガラス製造容器と支持材との間に、上記本発明に係るガラス製造容器用充填材を充填し、焼成することにより製造することができる。ここで、例えば、支持材が水分透過性の低いものである場合は、焼成工程において水分が気化し、ガラス製造容器と支持材との間の領域における圧力が急激に上昇する。その結果、コーティング材層やガラス製造容器が損傷してしまう虞がある。従って、支持材は、水分透過性の高いものであることが好ましい。具体的には、支持材は、気孔率が1%以上であるものが好ましく、7%以上であるものが好ましい。但し、支持材の気孔率が高すぎると、支持材の剛性が低くなりすぎる場合がある。従って、支持材の気孔率は、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。
【0053】
支持材の気孔率が1%〜20%の範囲内にある場合は、支持材の厚みは、5mm〜200mmの範囲内にあることが好ましく、25mm〜100mmの範囲内にあることがさらに好ましい。このような厚みの支持材を採用することによって、支持材の十分に高い剛性を確保しつつ、十分に優れた水分透過性を確保することができる。また、支持材の厚みを上記範囲とすることによってガラス製造装置が大型化しすぎることを抑制することができる。ガラス製造容器の使用温度との関係で、気孔率の小さな耐火物を設置する必要がある場合には、充填材と接触する表層部分にだけに上記の気孔率の耐火物を使用し、他の部分を気孔率の小さな耐火物で構成してもよい。
【0054】
ガラス製造容器と支持材との間のクリアランスは、1mm〜200mmの範囲内であることが好ましく、1mm〜20mmの範囲内であることがより好ましい。ガラス製造容器と支持材との間のクリアランスが小さすぎるとガラス製造容器と支持材との間にガラス製造容器用充填材を確実に充填することが困難となる場合がある。一方、ガラス製造容器と支持材との間のクリアランスが大きすぎると、上記焼成時における水分の抜けが不十分になる場合がある。
【0055】
本発明において、ガラス製造容器の表面に形成されている焼成被膜は、ガラス成分を含むコーティング材を焼成してなるものであり、水素ガスの透過を抑制するためのものである。すなわち、焼成被膜は、ガラス製造容器よりも水素ガス透過性が低いものである。コーティング材は、ガラス成分と、ガラス成分を保持するための耐火成分とを含むものであることが好ましい。
【0056】
コーティング材に含まれるガラス成分は、特に限定されないが、例えば、硼珪酸塩系ガラスや珪酸塩系ガラスであることが好ましく、アルカリ金属やアルカリ土類金属の含有量が少ない硼珪酸塩系ガラスや珪酸塩系ガラスであることがより好ましい。
【0057】
コーティング材におけるガラス成分の含有量は、特に限定されないが、20質量%以上であることが好ましく、40質量%〜70質量%であることが好ましく、50質量%〜60質量%であることがさらに好ましい。コーティング材におけるガラス成分の含有量が少なすぎると、焼成被膜の水素ガスの遮蔽性が十分に得られない場合がある。一方、コーティング材におけるガラス成分の含有量が多すぎると、焼成時にガラス成分が脱落しやすくなり、水素ガスの遮蔽性が劣化する場合がある。
【0058】
コーティング材に含まれる耐火成分としては、シリカやアルミナなどが含まれる。コーティング材は、ガラス成分と、シリカと、アルミナとの全てを含むものであることが好ましい。この場合、コーティング材におけるシリカの含有量は、15質量%〜40質量%であることが好ましく、20質量%〜30質量%であることがさらに好ましい。コーティング材におけるシリカの含有量が少なすぎると、ガラス成分に溶け込むシリカが少なくなり、ガラス質の粘度が高くならないため、焼成途中に被膜が流動し脱落したり、焼成被膜の剛性が低くなったり場合がある。コーティング材におけるシリカの含有量が多すぎると、相対的にアルミナが少なくなり、ムライト結晶の生成量が少なくなるため、焼成被膜の剛性が低くなる場合がある。
【0059】
コーティング材に含まれるシリカの平均粒子径は、50μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。特に、より細かなシリカの粒子を含むコロイダルシリカを用いることが好ましい。コーティング材に含まれるシリカの平均粒子径が大きすぎると、シリカがガラス成分に溶け込みにくくなるため、ムライトの形成が遅くなり、焼成時におけるガラス成分の流動を抑制しにくくなる場合があるためである。
【0060】
なお、「コロイダルシリカ」とは、分散媒中に平均粒子径が1nm〜30nmのシリカ微粒子が分散しているものをいう。
【0061】
コーティング材におけるアルミナの含有量は、10質量%〜40質量%であることが好ましく、16質量%〜27質量%であることがさらに好ましい。コーティング材におけるアルミナの含有量が多すぎると、ガラス質が不足し焼成被膜にクラックが入る場合がある。コーティング材におけるアルミナの含有量が少なすぎると、ガラス成分に溶け込むアルミナが少なくなり、ガラス質の粘度が十分に高くならず、焼成時にガラス成分が脱落する場合がある。コーティング材に含まれるアルミナは、平均粒子径が1μm〜100μmのアルミナ粒子であることが好ましい。このような平均粒子径を有するアルミナ粒子を添加することにより、焼成被膜の変形やタレを効果的に抑制できるとともに、均一な焼成被膜が形成しやすくなる。なお、平均粒子径がナノオーダー(例えば5nm〜50nm)のアルミナ微粒子やアルミナファイバーをさらに添加することが好ましい。アルミナ微粒子は、ガラス成分への溶け込みが速い。このため、アルミナ微粒子を添加することにより、ガラス成分の粘性を増大させることができるので、焼成時におけるガラス成分の脱落を抑制することができる。またアルミナファイバーを加えることで、焼成被膜の強度を向上させることができる。
【0062】
なお、コーティング材の組成は、ガラス製造容器の使用温度によって適宜調製する必要がある。例えば、ガラス製造容器の使用温度が1300℃以上と高い場合は、耐火成分の含有量を多くしたり、ガラス成分として、軟化温度がより高いガラスを用いたりすることが好ましい。
【0063】
本発明に係るガラス製造装置の製造方法は、貴金属製のガラス製造容器の表面上に、焼成被膜を形成するためのコーティング材を塗布する工程と、ガラス製造容器の周りに支持材を設ける工程と、ガラス製造容器と支持材との間に充填材を充填する工程と、コーティング材及び充填材を焼成して焼成被膜及び充填材層を形成する工程とを備えている。本発明に係るガラス製造装置の製造方法では、充填材がガラス成分を含んでいる。
【0064】
本発明によれば、泡の少ないガラスを製造することができる、上記本発明に係るガラス製造装置を好適に製造することができる。
【0065】
本発明において、貴金属製のガラス製造容器の表面上へのコーティング材の塗布は、例えば、スプレーによる吹き付けにより行うこともできるし、刷毛やへらなどを用いて行うこともできる。なかでも、貴金属製のガラス製造容器の表面上へのコーティング材の塗布は、スプレーによる吹き付けにより行うことが好ましい。均一にコーティング材を塗布できるためである。
【0066】
充填材の充填は、例えば、流動性を有する充填材をガラス製造容器と支持材との間のクリアランスに流し込むことにより行うことができる。
【0067】
本発明においては、コーティング材の焼成により焼成被膜が形成され、充填材の焼成により充填剤層が形成される。コーティング材及び充填材の焼成温度は、コーティング材や充填材の組成などに応じて適宜設定することができる。コーティング材及び焼成被膜の焼成は、例えば、900℃〜1600℃程度で行うことができる。
【0068】
なお、コーティング材及び充填材の焼成に先立って、充填材等の乾燥を行うようにしてもよい。
【発明の効果】
【0069】
本発明によれば、コーティング材の焼成工程において、コーティング材と反応し難く、水素遮蔽性の高い焼成被膜を形成できるガラス製造容器用充填材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1図1(a)は、充填性及び収縮性の評価に用いた評価用部材の模式的斜視図である。図1(b)は、充填性及び収縮性の評価に用いた評価用部材の模式的平面図である。図1(c)は、充填性及び収縮性の評価に用いた評価用部材の模式的側面図である。
図2図2は、充填性評価におけるサンプル1の断面写真である。
図3図3は、充填性評価におけるサンプル2の断面写真である。
図4図4は、充填性評価におけるサンプル3の断面写真である。
図5図5は、充填性評価におけるサンプル5の断面写真である。
図6図6は、充填性評価におけるサンプル6の断面写真である。
図7図7は、収縮性評価におけるサンプル1の断面写真である。
図8図8は、収縮性評価におけるサンプル2の断面写真である。
図9図9は、収縮性評価におけるサンプル3の断面写真である。
図10図10は、収縮性評価におけるサンプル5の断面写真である。
図11図11は、収縮性評価におけるサンプル6の断面写真である。
図12図12は、サンプル10により作製した充填材ボタンの焼成後の平面写真である。
図13図13は、サンプル10により作製した充填材ボタンの焼成後の側面写真である。
図14図14は、サンプル11により作製した充填材ボタンの焼成後の平面写真である。
図15図15は、サンプル11により作製した充填材ボタンの焼成後の側面写真である。
図16図16は、サンプル12により作製した充填材ボタンの焼成後の平面写真である。
図17図17は、サンプル13により作製した充填材ボタンの焼成後の平面写真である。
図18図18は、サンプル15により作製した充填材ボタンの焼成後の平面写真である。
図19図19は、サンプル15により作製した充填材ボタンの焼成後の平面写真である。
図20図20は、サンプル16により作製した充填材ボタンの焼成後の平面写真である。
図21図21は、サンプル16により作製した充填材ボタンの焼成後の平面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0071】
以下、本発明について、実験例に基づいてさらに詳細に説明する。但し、以下の実験例は、単なる例示である。本発明は、以下の実験例に何ら限定されない。
【0072】
《実験例1》
本実験例1においては、ガラス製造容器用充填材(以下、「ガラス製造容器用充填材」を、単に「充填材」とする。)における水分及び解膠剤の含有量と、充填材の流動性及び焼成時の収縮量との関係について評価した。
【0073】
具体的には、添加する水分量及び解膠剤の量を種々変化させて複数種類の充填材を作製した。その複数種類の充填材について、充填性及び収縮性の評価を行った。
【0074】
(充填材の作製)
充填材(サンプル1〜6)は、下記の表1に示す固形分と、下記の表2に示す量の水及び解膠剤とを混練することにより作製した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
なお、ガラス粉末としては、日本電気硝子社製の無アルカリガラスOA−10Gを使用した。ガラス粉末の平均粒子径は、10μmであった。
【0078】
使用したアルミナ微粒子の平均粒子径は、20nmであった。
【0079】
アルミナファイバーとしては、電気化学工業社製のデンカアルセンB97N3(平均繊維径:3μm、Al:97質量%、SiO:3質量%)を混合機で粉砕したもの(平均粒子径:25μm〜32μm)を使用した。
【0080】
アルミナ粒子としては、住友化学社製AL−42A(平均粒子径:45μm〜55μm)を使用した。
【0081】
シリカ粒子としては、TAM社製MKファインN(平均粒子径:45μm〜55μm)を使用した。
【0082】
解膠剤としては、ポリアクリル酸アンモニウム塩(中京油脂社製セルナD305)を用いた。
【0083】
(充填性の評価)
充填性の評価は、図1に示す評価用部材1を用いて行った。図1に示すように、評価用部材1は、アルミナからなる基盤10上に、アロンセラミック(東亞合成社製アロンセラミックD)を用いて接着された第1及び第2のアルミナ管11,12を備えている。第1及び第2のアルミナ管11,12としては、SSA−Sからなるニッカトー社製のものを使用した。第1のアルミナ管11の内径は18mmであり、外径は25mmである。第2のアルミナ管12は、第1のアルミナ管11と同軸上に配置されている。第2のアルミナ管12の内径は35mmであり、外径は42mmである。このため、第1及び第2のアルミナ管11,12の間のクリアランス13の幅は、5mmである。第1及び第2のアルミナ管11,12の高さは、50mmである。
【0084】
この評価用部材1のクリアランス13に、上記作製の充填材の各サンプルを流し込んだ後に、60℃で半日乾燥させた。その後、ダイヤモンドカッターを用いて、評価用部材1を切断し、充填材の様子を目視評価した。
【0085】
ここで、クリアランス13全体に充填材が充填されている場合を「○」とした。クリアランス13に、充填材を、ある程度充填できたが、途中で充填材の流動が止まり、クリアランス13内に大きな隙間が生じた場合を「△」とした。充填材の粘度が高すぎて、充填材がクリアランス13に全く侵入しなかった場合を「×」とした。結果を、上記表2に示す。また、サンプル1〜3,5,6の断面写真を図2図6に示す。
【0086】
(収縮性の評価)
上記充填性の評価とは別個の評価用部材1のクリアランス13に、上記作製の充填材の各サンプルを流し込んだ後に、60℃で半日乾燥させた。その後、電気炉にて、10℃/分の昇温スピードで1300℃まで加熱し、1300℃で一日保持した後に、710℃で1時間アニールし室温まで2℃/分の冷却スピードで冷却した。その後、ダイヤモンドカッターを用いて、評価用部材1を切断し、充填材の様子を目視観察した。
【0087】
ここで、充填材層にひび割れ等が発生していない場合を「○」とし、充填材層にひび割れ等が発生している場合を「×」とした。結果を、上記表2に示す。また、サンプル1〜3,5,6の断面写真を図7図11に示す。
【0088】
(サンプル1の評価)
固形分100質量部に対する水の含有量が33質量部であり、解膠剤の含有量が3質量部であるサンプル1では、充填性が良好であり、収縮率が低かった。
【0089】
(サンプル2の評価)
固形分100質量部に対する水の含有量が48質量部であり、解膠剤の含有量が1質量部であるサンプル2では、充填性が良好であり、収縮率が低かった。
【0090】
(サンプル3の評価)
解膠剤を含まないサンプル3では、水の含有量がサンプル2と同様であるにもかかわらず、充填性がサンプル2よりも低かった。
【0091】
(サンプル4の評価)
解膠剤を含まず、固形分100質量部に対する水の含有量が33質量部と少ないサンプル4では、サンプル3とは異なり、クリアランス13にスラリーを充填することが困難であった。なお、サンプル4については、収縮性の評価は行っていない。
【0092】
(サンプル5の評価)
解膠剤を含まないものの、固形分100質量部に対する水の含有量が69質量部と多いサンプル5では、スラリーの作製が可能であり、充填性も良好であった。しかしながら、焼成時における収縮率が高く、充填材層に大きなひび割れが発生した。
【0093】
(サンプル6の評価)
固形分100質量部に対する水の含有量が26質量部であり、解膠剤の含有量が9質量部であるサンプル6は、水の含有量が少ないにも関わらず、充填性が良好であり、収縮率が低かった。
【0094】
以上の結果から、水の含有量が少ない場合であっても、解膠剤を添加することにより充填材スラリーの流動性を高めることができ、その結果、充填性を高めることができることが分かる。また、固形分100質量部に対する水の含有量を65質量部以下、好ましくは、60質量部以下、さらに好ましくは、50質量部以下とすることにより焼成時の収縮率を低くできることが分かる。また、より好ましい解膠剤の添加量は、固形分100質量部に対して1〜10質量部であることが分かる。
【0095】
《実験例2》
下記の表3〜表5に示す組成の充填材スラリーを作製した。作製したスラリーを鋳型に流し込み、直径が35mmで厚みが10mmである充填材ボタンを作製した。その後、表3〜表5に示す温度で、24時間焼成した後のボタンの直径を測定した。その結果、焼成により、ボタンの直径が大きくなっているものは、焼成時に充填材が流動しているものとして、「×」とした。また、焼成により、ボタンの直径が、焼成前よりも10%以上小さくなっているものも、大きく収縮したとして、「×」とした。一方、焼成によるボタンの直径が、焼成前よりも10%以下の範囲内で小さくなった場合及び焼成によりボタンの直径が変化しなかった場合は、焼成時に大きな流動が発生せず、大きく収縮しないものとして、「○」とした。結果を、下記の表3〜表5に示す。また、図12及び図13にサンプル10により作製した充填材ボタンの焼成後平面写真を示す。図14及び図15にサンプル11により作製した充填材ボタンの焼成後平面写真を示す。図16にサンプル12により作製した充填材ボタンの焼成後平面写真を示す。図17にサンプル13により作製した充填材ボタンの焼成後平面写真を示す。図18及び図19にサンプル15により作製した充填材ボタンの焼成後平面写真を示す。図20及び図21にサンプル16により作製した充填材ボタンの焼成後平面写真を示す。
【0096】
なお、充填材スラリーとしては、下記の固形分100質量部に対して、水を33質量部、解膠剤(ポリアクリル酸アンモニウム塩(中京油脂社製セルナD305))を3質量部加えたものを使用した。また、アルミナ微粒子、アルミナファイバー、アルミナ粒子、シリカ粒子は、上記実験例1で使用したものと同様のものを使用した。
【0097】
下記の表3〜表5に示すボタン直径変化率(%)は、((焼成後のボタンの直径)−(焼成前のボタンの直径))/(焼成前のボタンの直径)である。
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】
【0100】
【表5】
【0101】
上記表3〜表5に示すように、アルミナファイバーまたはアルミナ微粒子を含むサンプル7〜12,14,15,17及び18は、焼成時におけるガラス成分の流動が小さかった。この結果から、アルミナファイバー及びアルミナ微粒子の少なくとも一方を含ませることにより、焼成時におけるガラス成分の流動を効果的に抑制できることが分かる。また、焼成温度が1300℃であったサンプル7〜16のなかでも、サンプル7〜9,12,14,15は、焼成時におけるガラス成分の流動がより小さかった。この結果から、アルミナファイバーを5質量%以上含むか、アルミナファイバーを含まない場合は、アルミナ微粒子を10質量%以上含むことがより好ましいことが分かる。
【0102】
《実験例3》
まず、ガラス粉末(平均粒子径:10μm)を50質量%、アルミナ微粒子(平均粒子径:20nm)を10質量%、アルミナファイバー(平均粒子径:30μm)を10質量%、アルミナ粒子(平均粒子径:56μm)を7質量%及びシリカ微粒子(コロイダルシリカ、平均粒子径:10nm)を23質量%含み、これらの原料粉末100gに対して、メチルセルロース1.5質量%水溶液200gを添加したコーティング材を用意した。このコーティング材を、内径46mm、高さ40mmの、ロジウムを10質量%含む白金ロジウム合金製の坩堝の外表面にエアスプレーを用いて複数回に分けて塗布することにより、厚みが1mmのコーティング層を形成した。
【0103】
次に、コーティング層を形成した坩堝を、内径56mmの耐火物坩堝内に、5mmのクリアランスが形成されるように設置し、そのクリアランスに、下記の表6に示す組成の充填材スラリーを流し込み、室温にて乾燥させた。その後、1300℃で3日間焼成し、室温まで冷却した。これにより、上記コーティング層は、焼成被膜となる。なお、表6に示す、ガラス粉末、アルミナ微粒子、アルミナファイバー、アルミナ粒子及びシリカ粒子は、実験例2と同様のものを使用した。
【0104】
次に、坩堝内に無アルカリガラス(日本電気硝子社製OA−10G)を投入し、1300℃にまで昇温し、1300℃で2時間保持した。その後、室温まで冷却し、坩堝内のガラスを、デジタルスコープ(キーエンス社製VHX−500F)を用いて観察し、単位面積あたりに占める泡の面積比率を算出した。結果を下記の表6に示す。
【0105】
また、比較例(サンプル27)として、充填材スラリーとしてアルミナキャスタブル(美濃窯業社製NC−UFR−MF)を用いたこと以外は、同様の条件で実験を行った。結果を下記の表6に示す。
【0106】
【表6】
【0107】
表6に示す結果から、ガラス成分を含む充填材を用いることにより、ガラス融液中に泡が発生することを効果的に抑制することができる。また、焼成被膜中におけるガラス成分の含有比率に対する、充填材中におけるガラス成分の含有比率の比((充填材中におけるガラス成分の含有比率)/(焼成被膜中におけるガラス成分の含有比率))、表6における「ガラス成分の含有比率」を0.9〜1.5とすることにより、泡の発生をより効果的に抑制できることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21