特許第5776550号(P5776550)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776550
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】複合半透膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/82 20060101AFI20150820BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20150820BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20150820BHJP
   C08F 230/08 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   B01D71/82 500
   B01D69/12
   B01D69/10
   C08F230/08
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-526730(P2011-526730)
(86)(22)【出願日】2011年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2011057637
(87)【国際公開番号】WO2011122560
(87)【国際公開日】20111006
【審査請求日】2014年3月25日
(31)【優先権主張番号】特願2010-77003(P2010-77003)
(32)【優先日】2010年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託研究「省水型・環境調和型水循環プロジェクト/水循環要素技術研究開発/革新的膜分離技術の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】峰原 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】中辻 宏治
【審査官】 宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−310720(JP,A)
【文献】 特開昭60−064601(JP,A)
【文献】 特開2002−110200(JP,A)
【文献】 特表2006−519287(JP,A)
【文献】 特表2004−501229(JP,A)
【文献】 特表2004−515351(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/113656(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 71/82
B01D 69/12
B01D 71/70
C08F 8/00
C08F 26/06
C08G 77/26
C08G 77/442
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微多孔性支持膜上に分離機能層を有する複合半透膜であって、
該分離機能層が、側鎖に酸性基および一般式(1)で表される官能基を有するポリマーの縮合生成物からなり、
前記酸性基と一般式(1)で表される官能基がイオン結合していることを特徴とする複合半透膜。
【化1】
(一般式(1)中、nは1〜4のいずれかの整数であり、R, Rは、それぞれ水素原子あるいは炭素数1〜7の炭化水素基から任意に選ばれるか、互いに共有結合していても良い。Rは水素原子あるいは炭素数1〜4のいずれかのアルキル基である。)
【請求項2】
酸性基がカルボキシル基、スルホン酸基、およびホスホン酸基のうちから選ばれる、少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項3】
ポリマーが一般式(2)で表される化合物と、酸性基および重合可能な二重結合を有する化合物を少なくとも1種含む単量体または単量体混合物とを重合してなることを特徴とする、請求項1または2に記載の複合半透膜。
【化2】
(一般式(2)中、nは1〜4のいずれかの整数である。R, Rは、それぞれ水素原子あるいは炭素数1〜7の炭化水素基から任意に選ばれるか、互いに共有結合していても良い。Rは水素原子あるいは炭素数1〜4のいずれかのアルキル基を、Rは重合可能な二重結合を有する官能基を、Yは任意の陰イオンを表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体混合物の成分を選択的に分離するための複合半透膜およびその製造方法に関する。詳しくは、分離機能層とこれを支持する微多孔質支持体とからなり、選択分離性に優れる複合半透膜に関する。
【背景技術】
【0002】
溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがあるが、近年、省エネルギーおよび省資源のための低コストプロセスとして膜分離法が水処理分野において積極的に利用されてきている。膜分離法に使用されている代表的な膜には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノフィルトレーション膜(NF膜)、逆浸透膜(RO膜)がある。
【0003】
RO膜およびNF膜のほとんどは複合半透膜であり、それらの大部分は、微多孔性支持膜上にゲル層およびポリマーを架橋した薄膜層(分離機能層)を有するものと、微多孔性支持膜上でモノマーを重縮合した薄膜層(分離機能層)を有するもののいずれかであり、それら薄膜層の素材としては架橋ポリアミドが多用されている。中でも、特許文献1、2に記載されるような、微多孔性支持膜上に多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドからなる薄膜層を被覆してなる複合半透膜は、透水量、塩除去率が高くなり易いので、逆浸透膜やNF膜に適用され広く用いられている。
【0004】
ROおよびNF膜を用いた水処理における経済的要因として、脱塩性能に加えて、イオンの選択分離性が挙げられる。例えば、1価のイオンは透過させ、2価のイオンは阻止したい場合においては、選択分離性の低い膜であると、膜の片側で過剰にイオン濃度が増加し、膜のその側での浸透圧が増加する。片側での浸透圧が増加すると、膜の両側での圧力の均衡を保つためにイオンがますます膜を透過しようとするため、脱塩された水を強制的に膜透過させるためには、より大きな圧力が必要となるのである。結果として高いエネルギーが必要となり、水処理にかかるコストが大きくなる。
【0005】
現行のROおよび/またはNF膜は1価イオンに対する2価イオンの選択分離性が十分でなく、全体の脱塩率が高いため、膜の両側で高い浸透圧が形成され、それゆえ実用的な流束を達成するには、より高い圧力すなわち高いエネルギーが必要となっていたため、省エネルギー化という観点では不十分であった。
【0006】
一方で、材料の分野において、特許文献3や特許文献4、非特許文献1のように親水性有機ポリマーとケイ素化合物の縮合生成物とを分子間相互作用を利用して複合化した有機・無機ハイブリッド材料が知られているが、産業用途で実用化された例はこれまで報告されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−180208号公報
【特許文献2】特開2005−144211号公報
【特許文献3】特開平11−310720号公報
【特許文献4】国際公開WO2004/067611号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「Chemistry Letters」、第37巻、日本化学会、2008年、p580−581
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題点に鑑み、1価イオンに対する2価イオンの選択分離性に優れ、さらに長期耐性にも優れる複合半透膜および、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、以下の構成をとる。
【0011】
(I)微多孔性支持膜上に分離機能層を有する複合半透膜であって、該分離機能層が、側鎖に酸性基および一般式(1)で表される官能基を有するポリマーの縮合生成物からなることを特徴とする複合半透膜。
【0012】
【化1】
【0013】
(一般式(1)中、nは1〜4のいずれかの整数であり、R, Rは、それぞれ水素原子あるいは炭素数1〜7の炭化水素基から任意に選ばれるか、互いに共有結合していても良い。Rは水素原子あるいは炭素数1〜4のいずれかのアルキル基である。)
(II)酸性基がカルボキシル基、スルホン酸基、およびホスホン酸基のうちから選ばれる、少なくとも1種であることを特徴とする、(I)に記載の複合半透膜。
【0014】
(III)ポリマーが一般式(2)で表される化合物と、酸性基および重合可能な二重結合を有する化合物を少なくとも1種を重合してなることを特徴とする、(I)または(II)に記載の複合半透膜。
【0015】
【化2】
【0016】
(一般式(2)中、nは1〜4のいずれかの整数である。R, Rは、それぞれ水素原子あるいは炭素数1〜7の炭化水素基から任意に選ばれるか、互いに共有結合していても良い。Rは水素原子あるいは炭素数1〜4のいずれかのアルキル基を、Rは重合可能な二重結合を有する官能基を、Yは任意の陰イオンを表す。)
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、1価イオンに対する2価イオンの選択分離性に優れた複合半透膜を得ることができる。本発明の複合半透膜は、選択分離性に優れているので従来の複合半透膜よりも経済的に優位であり、また連続的もしくは間欠的に塩素含有原水を透過させて膜の殺菌を行っても従来の複合半透膜ほど劣化しない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の複合半透膜は、実質的に分離性能を有する分離機能層(薄膜層)が、実質的に分離性能を有さない微多孔性支持膜上に被覆されている。
【0019】
本発明において微多孔性支持膜は、実質的にイオン等の分離性能を有さず、実質的に分離性能を有する分離機能層に強度を与えるためのものである。孔のサイズや分布は特に限定されないが、例えば、均一で微細な孔、あるいは分離機能層が形成される側の表面からもう一方の表面まで徐々に大きく変化する微細孔をもち、かつ、分離機能層が形成される側の表面で微細孔の大きさが0.1nm以上100nm以下であるような微多孔性支持膜が好ましい。
【0020】
微多孔性支持膜に使用する材料やその形状は特に限定されないが、通常は基材の上に形成された多孔質支持体により構成され、例えばポリエステルまたは芳香族ポリアミドから選ばれる少なくとも一種を主成分とする布帛(基材)により強化されたポリスルホンや酢酸セルロースやポリ塩化ビニル、あるいはそれらを混合したもの(多孔質支持体)が好ましく使用される。多孔質支持体として使用される素材としては、化学的、機械的、熱的に安定性の高いポリスルホンを使用するのが特に好ましい。
【0021】
具体的には、次の化学式に示す繰り返し単位からなるポリスルホンを用いると、孔径が制御しやすく、寸法安定性が高いため好ましい。
【0022】
【化3】
【0023】
例えば、上記ポリスルホンのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を、密に織ったポリエステル布あるいは不織布の上に一定の厚さに注型し、それを水中で湿式凝固させることによって、表面の大部分が直径数10nm以下の微細な孔を有した微多孔性支持膜を得ることができる。
【0024】
上記の微多孔性支持膜の厚みは、複合半透膜の強度およびそれをエレメントにしたときの充填密度に影響を与える。十分な機械的強度および充填密度を得るためには、50μm以上300μm以下の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは100μm以上250μm以下の範囲内である。また、微多孔性支持膜における多孔質支持体の厚みは、10μm以上200μm以下の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは30μm以上100μm以下の範囲内である。
【0025】
多孔質支持体の形態は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡、原子間顕微鏡により観察できる。例えば走査型電子顕微鏡で観察するのであれば基材から多孔質支持体を剥がした後、これを凍結割断法で切断して断面観察のサンプルとする。このサンプルに白金または白金−パラジウムまたは四塩化ルテニウム、好ましくは四塩化ルテニウムを薄くコーティングして3〜6kVの加速電圧で、高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(UHR−FE−SEM)で観察する。高分解能電界放射型走査電子顕微鏡は、日立製S−900型電子顕微鏡などが使用できる。得られた電子顕微鏡写真から多孔質支持体の膜厚や表面孔径を決定する。なお、本発明における厚みや孔径は5回測定した時の平均値を意味するものである。
【0026】
次に、分離機能層は、実質的に分離性能を有する層であって、酸性基および一般式(1)で表される官能基を有するポリマーの縮合生成物からなることを特徴とするものである。この分離機能層においては、該酸性基と一般式(1)で表される官能基がイオン結合していることにより、本発明によって所望の効果が得られるものと考えられる。
【0027】
分離機能層形成のために例示される方法としては、酸性基および少なくとも1つの重合可能な二重結合を有する化合物の少なくとも1種と、上記一般式(2)で表される化合物とを含む塗液を塗布する工程、溶媒を除去する工程、重合可能な二重結合を重合させる工程、加水分解性基を縮合させる工程の順に行う方法が挙げられる。重合可能な二重結合を重合させる工程において、加水分解性基が同時に縮合することがあっても良い。
【0028】
上記製造方法において、塗液を得る方法としては、例えば、酸性基および少なくとも1つの重合可能な二重結合を有する化合物の少なくとも1種と、上記一般式(2)で表される化合物とを溶媒中に溶解または分散させる方法が挙げられるが、上記塗液が2種の化合物を含有していればその方法は限定されない。なお、酸性基および少なくとも1つの重合可能な二重結合を有する化合物や上記一般式(2)で表される化合物は、その解離平衡定数に応じて一部が水中で電離される。
【0029】
また、塗液を微多孔性支持膜上に塗布する方法は特に限定されず、公知の種々の方法、例えば、ディップコート、スピンコート、スプレーコート、刷毛塗りなどの方法により塗布することができるが、本発明では、適量の塗液を微多孔性支持膜上に載せた後、溶媒と接触することによって重合度が変化しないポリエステル製フィルムなどのフィルムを被せて静置する方法を採用することが好ましい。なぜならば、必要な塗液量が少なくすむほか、操作が簡便なためである。この場合、静置する時間は30秒以上2分以下が好ましい。さらにフィルムを剥がした後、膜上に液滴が残らないように十分に液切りすることが望ましい。十分に液切りすることで、膜形成後に液滴残存部分が膜欠点となって膜性能が低下することを防ぐことができる。液切りの方法としては、エアーノズルから窒素などの風を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。
【0030】
上記製造方法では、塗液を微多孔性支持膜上に塗布後、エネルギー線を照射し、次に加熱乾燥を行うことで本発明の複合半透膜が得られる。ここで、エネルギー線の照射により、酸性基および少なくとも1つの重合可能な二重結合を有する化合物の少なくとも1種と一般式(2)で表される化合物との重合および、酸性基および少なくとも1つの重合可能な二重結合を有する化合物同士の重合、一般式(2)で表される化合物同士の重合が起こると考えられる。作業性の観点から、エネルギー線の照射時間は5秒以上30分以下であることが好ましい。
【0031】
また、加熱乾燥することにより一般式(1)で表される官能基が縮合し、縮合生成物が得られるが、このときの加熱温度は、微多孔性支持膜が溶融し分離膜としての性能が低下する温度より低いことが要求される。縮合反応を速やかに進行させるために通常0℃以上で加熱を行うことが好ましく、20℃以上がより好ましい。また、前記反応温度は、150℃以下が好ましい。反応温度が0℃以上であれば、加水分解および縮合反応が速やかに進行し、150℃以下であれば、加水分解および縮合反応の制御が容易になる。また、加水分解または縮合を促進する触媒を添加することで、より低温でも反応を進行させることが可能である。さらに本発明では分離機能層が細孔を有するよう加熱条件および湿度条件を選定し、縮合反応を適切に行うようにする。
【0032】
上記製造方法によって得られた複合半透膜は、アルコール水溶液に1分以上20分以下浸漬することによって親水化することが好ましい。なぜならば、アルコールは水に可溶であり、かつ疎水的な膜表面ともなじみやすいため、膜表面を親水化することができ、膜造水量を高めることが可能なためである。親水化に用いられるアルコール水溶液としては、10wt%イソプロピルアルコール水溶液を用いることが一般的である。
【0033】
本発明における酸性基としては、スルホン酸基、スルフィン酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、水酸基、チオール基、などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。本発明においては、これらの酸性基の中でも酸性度および試薬の入手のしやすさの観点から、カルボシキル基、スルホン酸基、およびホスホン酸基のうちから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0034】
本発明では、酸性基および一般式(1)で表される官能基を有するポリマーを合成する際の簡便性や、酸性基と一般式(1)で表される官能基との間で形成されるイオン結合の調整を容易にする観点から、酸性基および一般式(1)で表される官能基を有するポリマーは、少なくとも1つの重合可能な二重結合を有する化合物を少なくとも1種と一般式(2)で表される化合物とを重合してなるものであることが好ましい。
【0035】
本発明における重合可能な二重結合としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、アリル基、ビニル基、スチリル基などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0036】
ここで、酸性基と1つ以上の重合可能な二重結合とを有する化合物について説明する。上記の酸性基と1つ以上の重合可能な二重結合とを有する化合物の中で、カルボン酸基を有する化合物としては、以下のものが例示される。マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸および対応する無水物、10−メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)−N−フェニルグリシンおよび4−ビニル安息香酸が挙げられる。
【0037】
上記の酸性基と1つ以上の重合可能な二重結合とを有する化合物の中で、ホスホン酸基を有する化合物としては、ビニルホスホン酸、4−ビニルフェニルホスホン酸、4−ビニルベンジルホスホン酸、2−メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2−メタクリルアミドエチルホスホン酸、4−メタクリルアミド−4−メチル−フェニル−ホスホン酸、2−[4−(ジヒドロキシホスホリル)−2−オキサ−ブチル]−アクリル酸および2−[2−ジヒドロキシホスホリル)−エトキシメチル]−アクリル酸−2,4,6−トリメチル−フェニルエステルが例示される。
【0038】
上記の酸性基と1つ以上の重合可能な二重結合とを有する化合物の中で、リン酸エステルの化合物としては、2−メタクリロイルオキシプロピル一水素リン酸および2−メタクリロイルオキシプロピル二水素リン酸、2−メタクリロイルオキシエチル一水素リン酸および2−メタクリロイルオキシエチル二水素リン酸、2−メタクリロイルオキシエチル−フェニル−水素リン酸、ジペンタエリトリトール−ペンタメタクリロイルオキシホスフェート、10−メタクリロイルオキシデシル−二水素リン酸、ジペンタエリトリトールペンタメタクリロイルオキシホスフェート、リン酸モノ−(1−アクリロイル−ピペリジン−4−イル)−エステル、6−(メタクリルアミド)ヘキシル二水素ホスフェートならびに1,3−ビス−(N−アクリロイル−N−プロピル−アミノ)−プロパン−2−イル−二水素ホスフェートが例示される。
【0039】
上記の酸性基と1つ以上の重合可能な二重結合とを有する化合物の中で、スルホン酸基を有する化合物としては、ビニルスルホン酸、4−ビニルフェニルスルホン酸または3−(メタクリルアミド)プロピルスルホン酸が挙げられる。例えば、ビニルスルホン酸およびその塩、アリルスルホン酸、o−スチレンスルホン酸およびその塩、p−スチレンスルホン酸およびその塩、m−スチレンスルホン酸およびその塩、2−ビニル安息香酸およびその塩、3−ビニル安息香酸およびその塩、4−ビニル安息香酸およびその塩、アクリル酸およびその塩、メタクリル酸およびその塩、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、3,5−ジアクリルアミド安息香酸、ビニルホスホン酸、アリルホスホン酸、o−スチレンホスホン酸およびその塩、p−スチレンホスホン酸およびその塩、m−スチレンホスホン酸およびその塩、などが挙げられる。
【0040】
ここで、得られる複合半透膜の選択分離性が高いという観点から、一般式(2)で表される化合物として、RとRが水素原子、Rがアリル基、nが3である化合物が好ましく、さらには、該薄膜中に存在する高分子が有する酸性基は、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基のうちから選ばれる、少なくとも1種であることが好ましい。
【0041】
上記と同様の観点から、上記製造方法において、一般式(2)で表される化合物の塗液中での含有率は、反応性組織物中10重量%以上90重量%以下程度が好ましく、10重量%以上50重量%以下程度が更に好ましい。
【0042】
そして本発明では、複合半透膜の分離機能層として該縮合生成物中に存在する酸性基と一般式(1)で表される官能基中のイミダゾリウム基とがイオン結合を形成していることを特徴とする。
【0043】
塗液に用いる溶媒としては、微多孔性支持膜を溶解しないものであり、かつ水と混和する溶媒であれば、特に制限無く用いることができ、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなどのアルコール類などが挙げられる。加熱乾燥工程における縮合を促進するために、塗布液には、一般式(1)で表される官能基が有する縮合可能な官能基数に対して等モル以上の水が含まれていることが好ましい。
【0044】
また、本発明の効果を阻害しない範囲で重合開始剤、重合助剤、その他の添加剤を含んでいてもよい。本発明の製造方法においては、重合反応性を高めるために重合開始剤、重合促進剤等を添加する事が好ましい。ここで、重合開始剤、重合促進剤とは特に限定されるものではなく、1つ以上の重合可能な二重結合を含む化合物の構造、重合手法などに合わせて適宜選択されるものである。
【0045】
重合開始剤としては、使用する溶媒に溶解するものであれば、公知のものを特に制限無く用いることができるが、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、1.2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−トリクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オンのようなアセトフェノン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルのようなベンゾイン類、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アリル化ベンゾフェノンのようなベンゾフェノン類、チオキサンソン、2−クロルチオキサンソン、2−メチルチオキサンソン、2,4−ジメチルチオキサンソンのようなチオキサンソン類、その他、4,4 -アゾビス(4-シアノ吉草酸)、7,7 -アゾビス(7-シアノカプリル酸)、6,6 -アゾビス(6-シアノ-6-シクロヘキシルカプロン酸)、2,2 -アゾビス(2-メチルプロピオン酸)、2,2 -アゾビス(2-エチル-4-メトキシ吉草酸)、2,2 -アゾビス(2-ベンジルプロピオン酸)などが挙げられ、過酸化物系化合物としてたとえば日油(株)製コハク酸パーオキサイド(商品名:パーロイル(登録商標)SA)などを用いることができる。
【0046】
エネルギー線としては、紫外線、プラズマ、ガンマ線、及び電子線などを用いることができるが、中でも装置及び取り扱いの簡便さから紫外線を用いることが好ましく、172nmの波長を用いることがさらに好ましい。
【0047】
高分子の重合度が低下しすぎると、製膜後、RO水で洗浄した際に分離機能層から流れ出し、欠点となるため、添加する重合開始剤の濃度は、反応性組成物中5重量%以下であることが好ましい。
【0048】
このように形成される本発明の複合半透膜は、プラスチックネットなどの原水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0049】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに原水を供給するポンプや、その原水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、原水から飲料水などの透過水と、膜を透過しなかった濃縮水を分離して、目的にあった水を得ることができ、産業用途での利用が期待できる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0051】
なお、以下の実施例において複合半透膜の排除率(Rej)は次式(3)で計算され、複合半透膜の透過速度(Flux)は次式(4)で計算されるものである。
【0052】
Rej(%)={(供給液の濃度−透過液の濃度)/供給液の濃度}×100 ・・・式(3)
Flux(m/d)=(一日の透過液量)/(膜面積) ・・・式(4)
実施例1
21cm×15cmのポリエステル不織布(通気度0.5〜1cc/cm/sec)上にポリスルホンの15.3重量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を200μmの厚みで室温(25℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって微多孔性支持膜を作製した。
【0053】
この上に、p−スチレンスルホン酸ナトリウム3.0重量部、1−アリル−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウムクロリド2.0重量部、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン0.24重量部、65%イソプロピルアルコール水溶液94.76重量部からなる塗液Aを、表面の水滴を窒素ブローにより除去した微多孔性支持膜上に2ml載せ、東レ(株)製ポリエステルフィルム、ルミラー(登録商標)を表面に被せて1分間静置した。ルミラー(登録商標)を剥がし、窒素ブローにより表面の液滴を除去した後、172nmの紫外線が照射出来るウシオ電機社製エキシマランプUER20−172を用い、ランプと微多孔性支持膜の距離を1cmに設定し紫外線を10分間照射し、その後、熱風乾燥器で120℃、2時間乾燥し、複合半透膜を得た。
【0054】
このようにして得られた複合半透膜を、10%イソプロピルアルコール水溶液に10分間浸漬した後、pH6.5に調整した500ppm食塩水を供給液とし、0.75MPa、25℃の条件下で逆浸透テストを行った結果、表1に示した性能が得られた。また同様に、1500ppmMgSO水溶液を供給液とし、0.75MPa、25℃の条件下で逆浸透テストを行った結果を表1に示す。
【0055】
実施例2
塗液Aをp−スチレンスルホン酸ナトリウム1.5重量部、1−アリル−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウムクロリド3.5重量部、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン0.15重量部、65%イソプロピルアルコール水溶液94.76重量部からなる塗液Bに代え、172nmの紫外線が照射できるウシオ電機社製エキシマランプUER20−172を用い、照射窓と微多孔性支持膜の距離を1cmに設定し紫外線を10分間照射する工程を365nmの紫外線が照射できるハリソン東芝ライティング社製UV照射装置TOSCURE752を用い、照射強度を20mW/cmに設定し、紫外線を30分間照射する工程に代える以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。また、このようにして得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す性能が得られた。
【0056】
実施例3
実施例1で使用した1−アリル−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウムクロリドを1−(2−アクリロイルエチル)−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウムクロリドに代える以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。また、このようにして得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す性能が得られた。
【0057】
実施例4
実施例1で使用した1−アリル−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウムクロリドを1−(4−ビニルベンジル)−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウムクロリドに代える以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。また、このようにして得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す性能が得られた。
【0058】
実施例5
実施例1で使用した1−アリル−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウムクロリドを1−ビニル−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウムクロリドに代える以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。また、このようにして得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す性能が得られた。
【0059】
実施例6
実施例1で使用した塗液Aをアクリル酸0.8重量部、1−アリル−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウムクロリド3.0重量部、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン0.14重量部、65%イソプロピルアルコール水溶液96.06重量部からなる塗液Cに代える以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。また、このようにして得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す性能が得られた。
【0060】
実施例7
実施例1で使用した塗液Aをp-ビニル安息香酸1.0重量部、1−アリル−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウムクロリド3.0重量部、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン0.14重量部、65%イソプロピルアルコール水溶液95.86重量部からなる塗液Cに代える以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。また、このようにして得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す性能が得られた。
【0061】
比較例1
実施例1と同様の方法にて作製した微多孔性支持膜上に、ピペラジン0.8重量%、1,3−ビス(4−ピペリジル)プロパン0.2重量%、界面活性剤(日本乳化剤(株)製、ニューコール271A)0.5重量%、リン酸三ナトリウム1.0重量%を含有した水溶液を塗布し、エアーナイフで液切りした後、120℃の温風で40秒間風乾した。その後、トリメシン酸クロライドの0.3重量%デカン溶液を塗布し、その後、100℃の熱風で5分間熱処理し、反応を進行させてから、炭酸ナトリウム5.0重量%とドデシル硫酸ナトリウム0.1重量%からなるアルカリ水溶液を塗布して反応を停止させ、複合半透膜を得た。また、このようにして得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す性能が得られた。
【0062】
表1から読みとれる通り、比較例1で得られた複合半透膜は、実施例1〜7で得られた複合半透膜に比べて、1価イオンに対する2価イオンの選択分離性において劣ることが示された。
【0063】
比較例2
1−アリル−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウムクロリドを3−メチル−1−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウムクロリドに代える以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。また、このようにして得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す性能が得られた。
【0064】
表1から読みとれる通り、比較例2で得られた複合半透膜の塩除去性能は、実施例1〜7で得られた複合半透膜に比べ、MgSO4除去性能が低く、1価イオンに対する2価イオンの選択分離性に劣ることが示された。
【0065】
比較例3
1−アリル−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウムクロリドを3−クロロプロピルトリメトキシシランに代える以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。また、このようにして得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す性能が得られた。
【0066】
表1から読みとれる通り、比較例3で得られた複合半透膜の塩除去性能は、実施例1〜7で得られた複合半透膜に比べ、著しく塩除去性能に劣ることが示された。
【0067】
比較例4
実施例1における反応液中に、1−アリル−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウムクロリドを含まず、p−スチレンスルホン酸ナトリウムを5重量%とする以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
【0068】
表1から読みとれる通り、比較例4で得られた複合半透膜の塩除去性能は、実施例1〜7で得られた複合半透膜に比べ、著しく塩除去性能に劣ることが示された。
【0069】
比較例5
実施例1における反応液中に、p−スチレンスルホン酸ナトリウムを含まず、1−アリル−3−(3−トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウムクロリドを5重量%とする以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
【0070】
表1から読みとれる通り、比較例5で得られた複合半透膜の塩除去性能は、実施例1〜7で得られた複合半透膜に比べ、MgSO4除去性能が低く、1価イオンに対する2価イオンの選択分離性に劣ることが示された。
【0071】
【表1】