特許第5776555号(P5776555)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 宇部興産株式会社の特許一覧

特許5776555金属アルコキシド化合物及び当該化合物を用いた金属含有薄膜の製造法
<>
  • 特許5776555-金属アルコキシド化合物及び当該化合物を用いた金属含有薄膜の製造法 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776555
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】金属アルコキシド化合物及び当該化合物を用いた金属含有薄膜の製造法
(51)【国際特許分類】
   C07C 31/125 20060101AFI20150820BHJP
   C07F 7/00 20060101ALI20150820BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20150820BHJP
   H01L 21/8242 20060101ALI20150820BHJP
   H01L 27/108 20060101ALI20150820BHJP
   C07F 7/28 20060101ALN20150820BHJP
【FI】
   C07C31/125CSP
   C07F7/00 A
   C07F7/00 Z
   C23C16/40
   H01L27/10 651
   !C07F7/28 B
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-549020(P2011-549020)
(86)(22)【出願日】2011年1月6日
(86)【国際出願番号】JP2011050117
(87)【国際公開番号】WO2011083820
(87)【国際公開日】20110714
【審査請求日】2013年11月5日
(31)【優先権主張番号】特願2010-236797(P2010-236797)
(32)【優先日】2010年10月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-2312(P2010-2312)
(32)【優先日】2010年1月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(74)【代理人】
【識別番号】100129610
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 暁子
(72)【発明者】
【氏名】角田 巧
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 千尋
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 央
【審査官】 爾見 武志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/116292(WO,A1)
【文献】 特開2003−221672(JP,A)
【文献】 特開2000−219969(JP,A)
【文献】 Inorganica Chimica Acta,2006年,Vol.359,p.4159-4167
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 31/125
C07F 7/00
C23C 16/40
H01L 21/8242
H01L 27/108
C07F 7/28
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式中、Mはジルコニウム、又はハフニウムを示し、4つのRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ互いに独立に、炭素原子数2〜6の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)
で示される金属アルコキシド化合物。
【請求項2】
一般式(1)
【化2】
(式中、Mはジルコニウム、ハフニウム又はチタニウムを示し、4つのRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ互いに独立に、炭素原子数2〜6の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)
で示される金属アルコキシド化合物又はこの金属アルコキシド化合物の溶液を金属供給源として用いた化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【請求項3】
一般式(1)
【化3】
(式中、Mはジルコニウム、ハフニウム又はチタニウムを示し、4つのRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ互いに独立に、炭素原子数2〜6の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)
で示される金属アルコキシド化合物又はこの金属アルコキシド化合物の溶液と、酸素源とを用いた請求項2記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【請求項4】
一般式(1)
【化4】
(式中、Mはジルコニウム、ハフニウム又はチタニウムを示し、4つのRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ互いに独立に、炭素原子数2〜6の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)
で示される金属アルコキシド化合物又はこの金属アルコキシド化合物の溶液と、窒素源とを用いた請求項2記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【請求項5】
一般式(1)
【化5】
(式中、Mはジルコニウム、ハフニウム又はチタニウムを示し、4つのRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ互いに独立に、炭素原子数2〜6の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)
で示される金属アルコキシド化合物又はこの金属アルコキシド化合物の溶液と、不活性ガスとを用いた請求項2記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【請求項6】
前記金属アルコキシド化合物の溶液の溶媒が、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類及びエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項2乃至5記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニウム、ハフニウム又はチタニウム含有薄膜を形成させる際に使用可能なジルコニウムアルコキシド化合物、ハフニウムアルコキシド化合物又はチタニウムアルコキシド化合物に関する。本発明は、又、ジルコニウムアルコキシド化合物、ハフニウムアルコキシド化合物又はチタニウムアルコキシド化合物を用いて、化学気相蒸着法(Chemical Vapor Deposition法;以下、CVD法と称する)及び原子層蒸着法(Atomic Layer Deposition法;以下、ALD法と称する)により金属含有薄膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DRAMに代表される半導体メモリー及びデバイスの微細化に伴って、高誘電体材料であるジルコニウム、ハフニウム又はチタニウム含有薄膜はキャパシタの分野で注目されている。また、強誘電体キャパシタ、絶縁膜などの電子材料の用途で活発に研究開発が行われている。
【0003】
ジルコニウム、ハフニウム又はチタニウム含有薄膜の製造方法としては、例えば、スパッタ法やゾルゲル法が報告されている。しかし、優れた薄膜の均一性や組成制御、その量産性から、CVD法又はALD法での製造が現在の主流になっていると言える。
【0004】
従来、ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムテトラクロリド(例えば、非特許文献1参照)、ジルコニウムナイトレート(例えば、非特許文献2参照)等の無機ジルコニウム化合物;テトラキス(t−ブトキシド)ジルコニウム(例えば、非特許文献3参照)、テトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)ジルコニウム(例えば、非特許文献4参照)、テトラキス(ジメチルアミノエトキシド)ジルコニウム(例えば、非特許文献5参照)、テトラキス(2−メチル−3−ブテン−2−オキシド)ジルコニウム(例えば、特許文献1参照)等のジルコニウムアルコキシド化合物;テトラキス(エチルメチルアミノ)ジルコニウム(例えば、非特許文献6参照)等のジルコニウムアミド化合物;テトラキス(ジピバロイルメタナト)ジルコニウム(例えば、非特許文献7参照)等のβ−ジケトナトジルコニウム化合物;ビス(メチルシクロペンタジエニル)メチルメトキシドジルコニウム(例えば、非特許文献8及び特許文献2参照)等のジルコニウムシクロペンタジエニル化合物が開示されている。更に、ジルコニウムジイソプロポキシビステトラメチルヘプタンジオネート等も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
又、ハフニウム化合物としては、例えば、ビス(メチルシクロペンタジエニル)ハフニウムジメチルが知られている(例えば、特許文献4参照)。更に、ハフニウム化合物及びチタニウム化合物として、アルコキシアルキルメチル基を有するβ−ジケトナトとアルコキシを配位子とするハフニウム錯体及びチタニウム錯体が知られている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−69135号公報
【特許文献2】特開2009−108402号公報
【特許文献3】特開2009−073858号公報
【特許文献4】特表2009−516078号公報
【特許文献5】特開2007−31283号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of the Electrochemical Society,vol.155,(9),H633(2008)
【非特許文献2】Journal of the Electrochemical Society,vol.147,(9),3472(2000)
【非特許文献3】Chemistry of Materials,vol.14,1269(2002)
【非特許文献4】Journal of the Electrochemical Society,vol.151,(5),C283(2004)
【非特許文献5】Journal of the Electrochemical Society,vol.149,(1),C23(2002)
【非特許文献6】Journal of the Electrochemical Society,vol.156,(1),H71(2009)
【非特許文献7】Journal of the Electrochemical Society,vol.152,(7),C498(2005)
【非特許文献8】ECS transactions,Vol.11,(7),113(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的にCVD法やALD法に使用される金属化合物は、高い蒸気圧を有し、低融点であること(室温で液状又はガス状であることがより望ましい)が、その物性として要求されている。
【0009】
仮に、低蒸気圧の金属化合物を使用した場合には、化合物を充填する容器、搬送する配管等を高温に保温することが必要となり、高エネルギーを費やすと共に、装置全体が高温仕様となることから高額化してしまうという問題が生じる。
【0010】
一方、高融点の金属化合物を使用した場合には、通常、金属化合物の供給が不安定となり、目的とする金属含有膜の安定製造は困難となる。又、配管等の保温が不完全となると配管内閉塞をもたらし、メンテナンスに膨大な時間を費やすという問題が生じる。
【0011】
以上の観点から、現在までに報告されている金属化合物について考えてみると、無機金属化合物やβ−ジケトナト金属化合物は、いずれも低蒸気圧であるとともに高融点であるため、上記問題点を解決するに至っていなかった。
【0012】
これに対して、金属アルコキシド化合物や金属アミド化合物では、高い蒸気圧を有する金属化合物もいくつか開示されているが、4配位を超える多座配位化や多量化することによって、高沸点化や高融点化するものもある。
【0013】
これらの金属化合物の中でも単量化を達成している化合物、即ち、高い蒸気圧および低融点を有する金属化合物が見出されている。しかしながら、これらの金属化合物は、熱安定性がいずれも低く、その合成時や金属薄膜の製造時に分解してしまうという問題、更には分解することで炭素が不純物として混入してしまう等の問題が生じていた。
【0014】
即ち、本発明の課題は、上記問題点を解決し、低融点、高蒸気圧を有し、熱に対しての安定性に優れるとともに、CVD法及びALD法による金属含有薄膜の製造に適した金属アルコキシド化合物を提供することにある。本発明の課題は、又、当該金属アルコキシド化合物を用いた金属含有薄膜の製造法を提供するものでもある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は以下の事項に関する。
【0016】
1. 一般式(1)
【0017】
【化1】
【0018】
(式中、Mはジルコニウム、ハフニウム又はチタニウムを示し、4つのRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ互いに独立に、炭素原子数2〜6の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)、
で示される金属アルコキシド化合物。
【0019】
2. 上記1記載の金属アルコキシド化合物を用いた金属含有薄膜の製造法。
【0020】
3. 上記1記載の金属アルコキシド化合物又は上記1記載の金属アルコキシド化合物の溶液を金属供給源として用いた化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【0021】
4. 上記1記載の金属アルコキシド化合物又は上記1記載の金属アルコキシド化合物の溶液と、酸素源とを用いた化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【0022】
5. 上記1記載の金属アルコキシド化合物又は上記1記載の金属アルコキシド化合物の溶液と、窒素源とを用いた化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【0023】
6. 上記1記載の金属アルコキシド化合物又は上記1記載の金属アルコキシド化合物の溶液と、不活性ガスとを用いた化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【0024】
7. 前記金属アルコキシド化合物の溶液の溶媒が、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類及びエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種である上記3乃至6記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、金属含有薄膜を形成させる際に有用な金属アルコキシド化合物を提供することが出来る。本発明の金属アルコキシド化合物は、低融点および高蒸気圧を有し、熱に対しての安定性にも優れており、特にCVD法またはALD法による金属含有薄膜の製造に適している。又、当該金属アルコキシド化合物を用いて、CVD法またはALD法により、良好な成膜特性で、金属含有薄膜を製造することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施例において使用した蒸着装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の金属アルコキシド化合物は、前記の一般式(1)で示される。その一般式(1)において、Mはジルコニウム、ハフニウム又はチタニウムを示す。4つのRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ互いに独立に、炭素原子数2〜6、好ましくは2〜4、特に好ましくは2〜3の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。Rは、例えば、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基であり、好ましくはエチル基、n−プロピル基、イソプロピル基である。4つのRが同一である化合物は比較的容易に合成でき、その点では好ましい。
【0028】
本発明の金属アルコキシド化合物の具体例としては、例えば、式(2)から式(10)で示される化合物が挙げられる。なお、式(2)〜式(10)中、Mはジルコニウム、ハフニウム又はチタニウムを示す。
【0029】
【化2】
【0030】
本発明の金属アルコキシド化合物は、公知の方法を参考にして、アルコキシ交換反応により製造することができる。
【0031】
CVD法及びALD法においては、金属含有薄膜形成のために金属アルコキシド化合物を気化させる必要があるが、本発明の金属アルコキシド化合物を気化させる方法としては、例えば、金属アルコキシド化合物自体を気化室に充填又は搬送して気化させる方法だけでなく、金属アルコキシド化合物を適当な溶媒(例えば、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。)に希釈した溶液を液体搬送用ポンプで気化室に導入して気化させる方法(溶液法)も使用出来る。
【0032】
成膜対象物上への金属含有膜の蒸着方法としては、公知のCVD法及びALD法で行うことが出来、例えば、常圧又は減圧下にて、金属アルコキシド化合物を酸素源(例えば、酸素ガス、オゾンガス等)、あるいは、窒素源(例えば、アンモニアガス、窒素ガス等)と同時、もしくは交互に加熱した基板上に送り込んで金属含有膜を蒸着させる方法が使用出来る。又、不活性なガス(例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス)とともに加熱した基板上に送り込んで金属含有薄膜を蒸着させる方法も使用できる。又、プラズマCVD法で金属含有膜を蒸着させる方法も使用出来る。
【0033】
酸素ガスを用いて金属含有薄膜を蒸着させる場合の全ガス量に対する酸素ガスの含有割合は、好ましくは0.1〜99容量%、更に好ましくは0.5〜95容量%である。
【0034】
本発明の金属アルコキシド化合物を用いて金属含有薄膜を蒸着させる場合、その蒸着条件としては、例えば、反応系内の圧力は、好ましくは1Pa〜200kPa、更に好ましくは10Pa〜110kPa、成膜対象物温度は、好ましくは150〜700℃、更に好ましくは200〜600℃、金属アルコキシド化合物を気化させる温度は、好ましくは20〜250℃、更に好ましくは40〜200℃である。
【0035】
なお、本願発明の金属含有薄膜の製造法の好ましい態様としては以下の通りである。
(1)本願発明の金属アルコキシド化合物又は金属アルコキシド化合物の溶媒溶液と酸素源(特に、酸素ガス、オゾンガスが好ましい)とを用いてCVD法及びALD法により金属含有薄膜を製造する。
(2)本願発明の金属アルコキシド化合物又は金属アルコキシド化合物の溶媒溶液と窒素源(特に、アンモニアガス、窒素ガスが好ましい)とを用いてCVD法及びALD法により金属含有薄膜を製造する。
(3)本願発明の金属アルコキシド化合物又は金属アルコキシド化合物の溶媒溶液と不活性ガス(特に、アルゴンガス、ヘリウムガスが好ましい)とを用いてCVD法により金属含有薄膜を製造する。
【実施例】
【0036】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0037】
実施例1(M=Zr,R=イソプロピル基;テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ジルコニウムの合成(式(4)のジルコニウム化合物)の合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、アルゴン雰囲気にて、テトラキス(イソプロポキシ)ジルコニウム・イソプロパノール付加体5.11g(13.17mmol)及び2,4−ジメチル−3−ペンタノール10.12g(88.61mmol)を加え、液温を170℃まで昇温し、生成したイソプロパノールを留去しながら、同温度で30分間反応させた。反応終了後、反応液を減圧下で濃縮した後、濃縮物を減圧蒸留(150℃、12Pa)し、低粘性の透明液体として、テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ジルコニウム5.73gを得た(単離収率;79%)。
【0038】
なお、テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ジルコニウムは、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0039】
H−NMR(CDCl,δ(ppm));0.90(48H,d)、1.70(8H,m)、3.30(4H,d)
元素分析:C2860Zr
測定値 C:60.5%、H:11.1%、Zr:16.5%
理論値 C:60.9%、H:11.0%、Zr:16.5%
【0040】
実施例2(M=Zr,R=エチル基;テトラキス(2−メチル−3−ペントキシ)ジルコニウムの合成(式(2)のジルコニウム化合物)の合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、アルゴン雰囲気にて、テトラキス(イソプロポキシ)ジルコニウム・イソプロパノール付加体4.42g(11.41mmol)及び2−メチル−3−ペンタノール7.29g(71.36mmol)を加え、液温を170℃まで昇温し、生成したイソプロパノールを留去しながら、同温度で30分間反応させた。反応終了後、反応液を減圧下で濃縮した後、濃縮物を減圧蒸留(140℃、17Pa)し、白色固体として、テトラキス(2−メチル−3−ペントキシ)ジルコニウム4.18gを得た(単離収率;74%)。
【0041】
なお、テトラキス(2−メチル−3−ペントキシ)ジルコニウムは、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0042】
H−NMR(CDCl,δ(ppm));0.92(36H,m)、1.50(8H,m)、1.66(4H,m)、3.29(4H,q)
元素分析:C2452Zr
測定値 C:58.3%、H:10.4%、Zr:18.4%
理論値 C:58.1%、H:10.6%、Zr:18.4%
【0043】
実施例3(M=Zr,R=n−プロピル基;テトラキス(2−メチル−3−ヘキソキシ)ジルコニウムの合成(式(3)のジルコニウム化合物の合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、アルゴン雰囲気にて、テトラキス(イソプロポキシ)ジルコニウム・イソプロパノール付加体4.32g(11.15mmol)及び2−メチル−3−ヘキサノール9.17g(78.91mmol)を加え、液温を200℃まで昇温し、生成したイソプロパノールを留去しながら、同温度で30分間反応させた。反応終了後、反応液を減圧下で濃縮した後、濃縮物を減圧蒸留(150℃、12Pa)し、低粘性の透明液体として、テトラキス(2−メチル−3−ヘキソキシ)ジルコニウム4.20gを得た(単離収率;68%)。
【0044】
なお、テトラキス(2−メチル−3−ヘキソキシ)ジルコニウムは、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0045】
H−NMR(CDCl,δ(ppm));0.68(36H,m)、1.35(12H,m)、1.57(8H,m)3.60(4H,q)
元素分析:C2860Zr
測定値 C:60.7%、H:11.3%、Zr:16.5%
理論値 C:60.9%、H:11.0%、Zr:16.5%
【0046】
実施例4〜6及び比較例1〜5(熱安定性の比較1)
実施例1〜3で得られた式(2)〜(4)の本発明のジルコニウム化合物と、比較として合成した式(11)〜(15)のジルコニウム化合物について、それぞれの熱安定性を確認するため、一度蒸留を行った各化合物について再度蒸留を行い、その回収率を確認した。その結果を表1に示す。なお、化合物の構造を下記式に示す。但し、式中、Mはジルコニウム(Zr)を示す。
【0047】
【化3】
【0048】
【表1】
【0049】
式(11)〜(15)のジルコニウム化合物(比較例1〜5)は再蒸留では熱分解して回収できなかったのに対して、本発明のジルコニウムアルコキシド化合物(式(2)〜(4)のジルコニウム化合物)は再蒸留回収率が97〜99%であり、熱安定性に優れていることが分かる。更に、本発明のジルコニウムアルコキシド化合物は、分子量に関わらず、いずれも低い温度且つ低い減圧度で蒸留でき、このことから、ジルコニウム含有薄膜の製造に適していることが分かる。
【0050】
実施例7及び比較例6(熱安定性の比較2;加熱処理試験)
実施例1で得られた式(4)のジルコニウム化合物と、テトラキス(t−ブトキシド)ジルコニウム(非特許文献3のジルコニウムアルコキシド化合物)について、熱安定性の比較試験を行った。それぞれの化合物を、アルゴン雰囲気で250℃にて10時間加熱した後、熱処理後のジルコニウムアルコキシド化合物について、H−NMRにより分解具合を観察し、また、再蒸留を行い、その回収率を確認し、それぞれの結果を比較した。その結果を表2に示した。
【0051】
【表2】
【0052】
本発明のジルコニウムアルコキシド化合物(式(4)のジルコニウム化合物)は、熱処理後においても色の変化がなく、H−NMRのスペクトルパターンでも変化は観られなかった。又、再蒸留での回収率も98%であった。
【0053】
一方、テトラキス(t−ブトキシド)ジルコニウムは、熱処理後すぐに褐色に変色し、再蒸留での回収率も低く、又、蒸留残渣として釜の中に褐色固体(分解物)が残っていた。
【0054】
以上のことから、本発明のジルコニウムアルコキシド化合物が熱に対して高い安定性を有していることが分かった。
【0055】
通常、ALD法では、基板への化合物吸着、反応ガス(例えば、酸素ガス、オゾンガス)との反応を繰り返して成膜が行われる。この基板への化合物の吸着の際、基板温度で化合物が熱分解しないことが求められる。本発明のジルコニウムアルコキシド化合物(式(4)のジルコニウム化合物)は、加熱処理試験の結果より、アルゴンガス雰囲気(不活性ガス雰囲気)での熱安定性が高いことから、基板上で熱分解しないことが示唆されており、ALD法でより好適に使用できることがわかる。一方、テトラキス(t−ブトキシド)ジルコニウム(非特許文献3のジルコニウムアルコキシド化合物)は加熱処理試験において変質、分解物が見られることから、基板上で容易に熱分解することが示唆され、ALD法には不向きであることがわかる。
【0056】
実施例8〜9(蒸着実験;ジルコニウム含有薄膜の製造)
実施例1及び3で得られた式(4)及び(3)のジルコニウムアルコキシド化合物を用いて、CVD法による蒸着実験を行い、成膜特性を評価した。
【0057】
評価試験には、図1に示す装置を使用した。気化器3(ガラス製アンプル)にあるジルコニウムアルコキシド化合物20は、ヒーター10Bで加熱されて気化し、マスフローコントローラー1Aを経て予熱器10Aで予熱後導入されたヘリウムガスに同伴し気化器3を出る。気化器3を出たガスは、マスフローコントローラー1B、ストップバルブ2を経て導入された酸素ガスとともに反応器4に導入される。反応系内圧力は、真空ポンプ手前のバルブ6の開閉により、所定圧力にコントロールされ、圧力計5によってモニターされる。反応器の中央部はヒーター10Cで加熱可能な構造となっている。反応器に導入されたジルコニウムアルコキシド化合物は、反応器内中央部にセットされ、ヒーター10Cで所定の温度に加熱された被蒸着基板21の表面上で酸化熱分解し、基板21上にジルコニウム含有薄膜が析出する。反応器4を出たガスは、トラップ7、真空ポンプを経て、大気中に排気される構造となっている。
【0058】
蒸着条件及び蒸着結果(膜特性)を表3に示す。なお、被蒸着基板としては、6mm×20mmサイズの矩形のものを使用した。
【0059】
【表3】
【0060】
その結果、本発明のジルコニウムアルコキシド化合物(式(3)及び(4)の化合物)は、酸素雰囲気にて、優れた成膜特性を示すことが分かった。
【0061】
実施例10(M=Hf,R=イソプロピル基;テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ハフニウムの合成(式(4)のハフニウム化合物)の合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、アルゴン雰囲気にて、テトラキス(イソプロポキシ)ハフニウム・イソプロパノール付加体5.15g(10.84mmol)及び2,4−ジメチル−3−ペンタノール10.00g(86.06mmol)を加え、液温を170℃まで昇温し、生成したイソプロパノールを留去しながら、同温度で30分間反応させた。反応終了後、反応液を減圧下で濃縮した後、濃縮物を減圧蒸留(150℃、17Pa)し、低粘性の透明液体として、テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ハフニウム4.94gを得た(単離収率;71.3%)。
【0062】
なお、テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ハフニウムは、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0063】
H−NMR(CDCl,δ(ppm));0.90(48H,d)、1.70(8H,m)、3.39(4H,d)
元素分析:C2860Hf
測定値 C:53.0%、H:9.7%、Hf:27.7%
理論値 C:52.6%、H:9.5%、Hf:27.9%
【0064】
実施例11(熱安定性;加熱処理試験)
実施例10で得られた式(4)のハフニウム化合物(本発明)の熱安定性を確認するために再度蒸留を行い、その回収率を確認した。また、アルゴン雰囲気で250℃にて10時間加熱した後、熱処理後のハフニウム化合物について、H−NMRにより分解具合を観察し、また、再蒸留を行い、その回収率を確認した。その結果は以下の通りであった。
【0065】
初回蒸留;150℃(17Pa)
再蒸留回収率;99%
熱処理前;無色透明液体
熱処理後;無色透明液体
熱処理後の再蒸留回収率;97%
熱処理後のH−NMR(CDCl,δ(ppm));変化なし
【0066】
以上の結果より、本発明の金属アルコキシド化合物が、優れた熱安定性を有するとともに、特にCVD法またはALD法により金属含有膜を製造する際に有用な化合物であることが分かる。
【0067】
実施例12(M=Ti,R=イソプロピル基;テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)チタニウムの合成(式(4)のチタニウム化合物)の合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、アルゴン雰囲気にて、テトラキス(イソプロポキシ)チタニウム5.00g(17.59mmol)及び2,4−ジメチル−3−ペンタノール10.00g(86.06mmol)を加え、液温を170℃まで昇温し、生成したイソプロパノールを留去しながら、同温度で30分間反応させた。反応終了後、反応液を減圧下で濃縮した後、濃縮物を減圧蒸留(160℃、21Pa)し、無色透明固体として、テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)チタニウム6.50gを得た(単離収率;72.6%)。
【0068】
なお、テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)チタニウムは、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0069】
融点:65〜75℃
H−NMR(CDCl,δ(ppm));0.93(48H,m)、1.71(8H,m)、3.70(4H,m)
元素分析:C2860Ti
測定値 C:66.3%、H:12.2%、Ti:9.3%
理論値 C:66.1%、H:11.9%、Ti:9.4%
【0070】
実施例13(M=Zr,R=イソプロピル基;テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ジルコニウムの合成(式(4)のジルコニウム化合物)の合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、アルゴン雰囲気にて、四塩化ジルコニウム4.02g(17.25mmol)及びメチルシクロヘキサン50mlを秤量し、水冷下でイソプロピルアミン12ml(140.08mmol)を滴下した。次に2,4−ジメチル−3−ペンタノール12ml(85.61mmol)を滴下して1時間反応させた後、反応液をろ過し、ろ液を濃縮した。濃縮物を減圧蒸留(160℃、13Pa)し、低粘性の透明液体として、テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ジルコニウム7.71gを得た(単離収率;81.0%)。
【0071】
実施例14(M=Zr,R=イソプロピル基;テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ジルコニウムの合成(式(4)のジルコニウム化合物)の合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容積50mlのフラスコに、アルゴン雰囲気にて、四塩化ジルコニウム4.12g(17.68mmol)及びメチルシクロヘキサン25mlを秤量し、水冷下でsec−ブチルアミン13ml(128.51mmol)を滴下した。この溶液を2,4−ジメチル−3−ペンタノール9.88g(85.03mmol)及びメチルシクロヘキサン25mlを仕込んだ攪拌装置及び温度計を備えた内容積100mlのフラスコに滴下して1時間反応させた。反応液をろ過し、ろ液を濃縮した。濃縮物を減圧蒸留(160℃、15Pa)し、低粘性の透明液体として、テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ジルコニウム8.05gを得た(単離収率;82.5%)。
【0072】
実施例15(M=Zr,R=イソプロピル基;テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ジルコニウムの合成(式(4)のジルコニウム化合物)の合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、アルゴン雰囲気にて、四塩化ジルコニウム4.20g(18.02mmol)及びトルエン50mlを秤量し、水冷下でtert−ブチルアミン23.5ml(224.91mmol)を滴下した。次に2,4−ジメチル−3−ペンタノール12ml(85.61mmol)を滴下して1時間反応させた後、反応液をろ過し、ろ液を濃縮した。濃縮物を減圧蒸留(160℃、10Pa)し、低粘性の透明液体として、テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ジルコニウム7.69gを得た(単離収率;77.3%)。
【0073】
実施例16(M=Zr,R=イソプロピル基;テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ジルコニウムの合成(式(4)のジルコニウム化合物)の合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、アルゴン雰囲気にて、四塩化ジルコニウム4.20g(18.02mmol)及びトルエン50mlを秤量し、水冷下でジエチルアミン16.5ml(157.92mmol)を滴下した。次に2,4−ジメチル−3−ペンタノール12ml(85.61mmol)を滴下して1時間反応させた後、反応液をろ過し、ろ液を濃縮した。濃縮物を減圧蒸留(160℃、11Pa)し、低粘性の淡黄色透明液体として、テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ジルコニウム7.76gを得た(単離収率;76.7%)。
【0074】
実施例17(M=Zr,R=イソプロピル基;テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ジルコニウムの合成(式(4)のジルコニウム化合物)の合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、アルゴン雰囲気にて、四塩化ジルコニウム4.20g(18.02mmol)及びトルエン50mlを秤量し、系内を−10℃以下となるようにジエチルアミン16.0ml(153.13mmol)を滴下した。次に2,4−ジメチル−3−ペンタノール12ml(85.61mmol)を滴下して1時間反応させた後、反応液をろ過し、ろ液を濃縮した。濃縮物を減圧蒸留(160℃、11Pa)し、低粘性の透明液体として、テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ジルコニウム7.92gを得た(単離収率;79.6%)。
【0075】
実施例18(M=Zr,R=イソプロピル基;テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ジルコニウムの合成(式(4)のジルコニウム化合物)の合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、アルゴン雰囲気にて、四塩化ジルコニウム4.20g(18.02mmol)及びトルエン50mlを秤量し、系内を−10℃以下となるようにジメチルアミン11.61g(257.54mmol)を滴下した。次に2,4−ジメチル−3−ペンタノール12ml(85.61mmol)を滴下して1時間反応させた後、反応液をろ過し、ろ液を濃縮した。濃縮物を減圧蒸留(160℃、11Pa)し、低粘性の透明液体として、テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ジルコニウム7.81gを得た(単離収率;76.3%)。
【0076】
実施例19(M=Hf,R=イソプロピル基;テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ハフニウムの合成(式(4)のハフニウム化合物)の合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、アルゴン雰囲気にて、四塩化ハフニウム5.03g(15.71mmol)及びトルエン50mlを秤量し、水冷下でtert−ブチルアミン10ml(95.71mmol)を滴下した。次に2,4−ジメチル−3−ペンタノール10ml(71.34mmol)を滴下して1時間反応させた後、反応液をろ過し、ろ液を濃縮した。濃縮物を減圧蒸留(170℃、19Pa)し、低粘性の透明液体として、テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)ハフニウム3.50gを得た(単離収率;34.9%)。
【0077】
実施例20(M=Ti,R=イソプロピル基;テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)チタニウムの合成(式(4)の化合物)の合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、アルゴン雰囲気にて、四塩化チタン5.85g(30.84mmol)及びトルエン50mlを秤量し、水冷下でtert−ブチルアミン16ml(153.13mmol)を滴下した。次に2,4−ジメチル−3−ペンタノール17.5ml(124.85mmol)を滴下して1時間反応させた後、反応液をろ過し、ろ液を濃縮した。濃縮物を減圧蒸留(160℃、17Pa)し、透明固体として、テトラキス(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)チタニウム8.81gを得た(単離収率;56.2%)。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明により、特にCVD法またはALD法により金属含有薄膜を形成させる際に有用な金属アルコキシド化合物を提供することが出来る。又、当該金属アルコキシド化合物を用いて金属含有薄膜を製造する方法も提供することが出来る。
【符号の説明】
【0079】
1A マスフローコントローラー
1B マスフローコントローラー
2 ストップバルブ
3 気化器
4 反応器
5 圧力計
6 バルブ
7 トラップ
8 ストップバルブ
10A 予熱器
10B 気化器ヒーター
10C 反応器ヒーター
20 金属アルコキシド化合物
21 基板
図1