【実施例】
【0036】
上記本実施形態に基づいて作製した透明膜の実施例について評価した結果を表1〜3を参照して以下に説明する。
【0037】
本発明の実施例の製造は、以下の条件で行った。
まず、表1に示す組成割合になるように、純度99.9%以上のAl
2O
3粉末,Ga
2O
3粉末又はIn
2O
3粉末とSiO
2粉末とZnO粉末とZnS粉末とを秤量し、得られた粉末と、その4倍量(重量比)のジルコニアボール(直径5mm)とを10Lのポリ容器(ポリエチレン製ポット)に入れ、ボールミル装置にて48時間湿式混合し、混合粉末とした。なお、溶媒には、アルコールを用いた。
【0038】
次に、得られた混合粉末を乾燥後、1200℃にて5時間、200kgf/cm
2の圧力で真空ホットプレスし、焼結体とした。
このようにホットプレスした焼結体を、ターゲットの指定形状(直径125mm、厚さ10mm)に機械加工し、加工したものを無酸素銅からなるバッキングプレートにボンディングして本実施例1〜16のスパッタリングターゲットを作製した。
【0039】
さらに、これらのスパッタリングターゲットを、マグネトロンスパッタリング装置にセットし、電源:DC、投入電力:500W、到達真空度:1×10
−4Pa、スパッタガス分圧(酸素と不活性ガスとの雰囲気ガス全体に対する酸素のガス分圧:O
2/(Ar+O
2)が0.05以上0.2以下、スパッタ圧力:0.67Pa、基板加熱を100℃から200℃とした条件で、透過率測定用としてガラス基板(コーニング社#1737 縦:20mm×横:20mm、厚さ:0.7mm)の上に膜厚100nmを有する透明膜を形成した。
【0040】
また、水蒸気透過率測定用としてPETフィルム(縦:100mm×横:100mm、厚さ120μm)の上に100nmを有する透明膜を形成した。さらに、成膜直後に水蒸気透過性を測定した後、円筒形マンドレル屈曲試験機により膜に繰り返し屈曲変形を加えた。この変形後の膜について水蒸気透過性測定を再実施した。
【0041】
なお、比較例の透明膜として、表1に示す条件において、スパッタリングターゲットの組成を調整し、透明膜中のAlの組成を0.3〜6.0at%の範囲外としたもの(比較例1,2)と、透明膜中のSiの組成を6.0〜27.0at%の範囲外としたもの(比較例3,4)と、透明膜中のSの組成を0.5〜5.0at%の範囲外としたもの(比較例5,6)とを上記実施例と同様に作製した。
【0042】
【表1】
【0043】
このように作製した本発明の実施例及び比較例の透明膜について膜組成をICP発光分析法で測定したところ、全金属成分に対する各金属成分は表2に示すようになった。
また、本発明の実施例及び比較例に用いた各スパッタリングターゲットの抵抗率は、三菱化学社製ロレスタGPを用いて四端子法で測定した。
【0044】
また、本発明の実施例及び比較例の透明膜についてX線回折(XRD)の分析を行い、結晶ピークの有無について調べた結果を表3に示す。
さらに、水蒸気透過率(水蒸気バリア性)は、モコン法を用い、mocon社製PERMATRAN-WMODEL 3/33を用いてJIS規格のK7129法に基づいて測定した。測定されたそれぞれの結果は表3に示す。
【0045】
【表2】
【表3】
【0046】
また、透明膜に対して変形処理を行った後の水蒸気バリア性について評価を行った。この評価では、スパッタした単層膜(本発明の実施例及び比較例の透明膜)の屈曲変形に、JIS 5600−5−1に準拠した円筒形マンドレル屈曲試験器(タイプI)を用いた。なお、使用したマンドレルの直径は20mmであり、フィルムを折り曲げた際に成膜面が外側にくるように屈曲変形した。この変形を、累計回数が50回になるまで繰り返した。そして、屈曲変形試験後の各スパッタ膜(本発明の実施例及び比較例の透明膜)について、再び上記測定法を用いて水蒸気透過率の値を得た。その結果も表3に示す。
【0047】
まず、各比較例について、上記評価は以下のような結果であった。
比較例1:ターゲットの電気抵抗値が高すぎて、DCスパッタができなかったため、RFスパッタにより成膜を行ったところ、成膜された透明膜は、水蒸気バリア性が低かった。
比較例2:ターゲットにZnAl
2O
4の複合酸化物組織ができて異常放電が多発し、DCスパッタができなかったため、RFスパッタしたところ、成膜された透明膜は、複合酸化物(ZnAl
2O
4)が析出して水蒸気バリア性が低かった。
比較例3:成膜された透明膜は、SiO
2添加量が少なく、粗大結晶が析出してアモルファス構造が崩れて水蒸気バリア性が低かった。なお、Si組成が本発明の範囲より低いため、Zn組成が本発明の範囲より高い値となっている。
比較例4:ターゲットの電気抵抗値が高すぎて、DCスパッタができなかったため、RFスパッタしたところ、成膜された透明膜は、複合酸化物(Zn
2SiO
4)が析出したため水蒸気バリア性が低かった。なお、Si組成が本発明の範囲より高いため、Zn組成が本発明の範囲より低い値となっている。
比較例5:成膜された透明膜は、バリア性が高かったが、変形によりクラックが発生し、水蒸気バリア性が低下した。
比較例6:ターゲットの電気抵抗値が高すぎて、DCスパッタできなかったため、RFスパッタしたところ、成膜された透明膜は結晶性が強く、水蒸気バリア性が低下した。また、S(硫黄)の割合が多すぎて膜の可視光透過率が低かった。
比較例7:本比較例は本発明のスパッタ成膜条件を外れた膜の例である。本発明のスパッタリングターゲットを用いても、基板加熱・酸素添加を行わなければ、膜に酸素欠損が残存するため、可視光透過率が低かった。
【0048】
本発明の各実施例について、上記評価は以下のような結果であった。
すなわち、本発明の全ての実施例では、ターゲットに導電性があり、DCスパッタ可能であった。また、スパッタ膜評価を行ったところ、XRDでは結晶ピークがいずれも認められなかった。また、成膜直後に計測した水蒸気透過率はいずれも0.03g/(m
2・day)以下であり、変形試験実施後も水蒸気透過率に変化はなかった。さらに、400〜750nmの波長領域での平均透過率はいずれも90%以上で、透明な膜であった。
実施例9,11,12,13については、Alの添加がない、または添加量が少ないため、本発明の実施例の中では、水蒸気透過率が高めの値となっている。したがって、より良好なガスバリア性を得るためには、Alの含有量を1.5at%以上とすることが好ましい。
このように本発明の各実施例の透明膜は、いずれも電子ペーパーや太陽電池に採用されるガスバリア層として好適な膜特性を備えている。
【0049】
なお、本発明のスパッタリングターゲットを利用するためには、相対密度:90%以上、面粗さ:Ra値2μm以下、Rz値15μm以下、粒径:3μm以下、電気抵抗:1.0×10
1Ω・cm以下、金属系不純物濃度:0.1原子%以下、抗折強度:120MPa以上であることが好ましい。上記各実施例は、いずれもこれらの条件を満たしたものである。
また、本発明の技術範囲は上記実施形態および上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。