(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776576
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】車両のステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/181 20060101AFI20150820BHJP
B62D 1/187 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
B62D1/181
B62D1/187
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-27787(P2012-27787)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-163460(P2013-163460A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084124
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 一眞
(72)【発明者】
【氏名】盛永 真也
(72)【発明者】
【氏名】黒川 泰明
(72)【発明者】
【氏名】丸谷 武司
【審査官】
柳元 八大
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−091363(JP,A)
【文献】
特開2011−088546(JP,A)
【文献】
特開2009−292429(JP,A)
【文献】
特開2004−262323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/181
B62D 1/187
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に固定される固定ブラケットと、前記車体に対し揺動可能に支持されるステアリングコラムを備え、該ステアリングコラムを前記固定ブラケットに対し所望の傾斜角度のチルト位置に調整する車両のステアリング装置において、前記ステアリングコラムを保持し、前記固定ブラケットに対し相対移動可能に支持されるチルトブラケットと、前記車体の横方向に延在し、前記固定ブラケットに対し前記ステアリングコラムの軸方向に相対移動可能に支持されるチルトシャフトと、該チルトシャフトの軸を中心に前記チルトブラケットを回転駆動し前記固定ブラケットに対する前記チルトブラケットの相対位置を調整する駆動ユニットとを備え、前記固定ブラケットには、前記ステアリングコラムの軸方向に長尺側の寸法を有する長穴が形成されており、該長穴に前記チルトシャフトが相対移動可能に支持されるように構成され、当該長穴と前記チルトシャフトとの間に介装されるチルトスライダと、該チルトスライダを前記チルトシャフトの軸方向に付勢する付勢部材を具備したことを特徴とする車両のステアリング装置。
【請求項2】
前記チルトスライダは、軸方向に切欠を有する中空円錐台部材で、該中空円錐台部材の中空部の内径は前記チルトシャフトの外径より小に設定され、当該中空円錐台部材の最小外径は前記長穴の短尺側の寸法より小に設定され、当該中空円錐台部材の最大外径は前記長穴の短尺側の寸法より大に設定されていることを特徴とする請求項1記載の車両のステアリング装置。
【請求項3】
前記付勢部材は、前記チルトシャフトに支持し、前記チルトスライダを前記チルトシャフトの軸方向に付勢する皿ばねであることを特徴とする請求項2記載の車両のステアリング装置。
【請求項4】
前記付勢部材は、前記チルトシャフトに支持し、前記チルトスライダを前記チルトシャフトの軸方向に付勢するコイルばねであることを特徴とする請求項2記載の車両のステアリング装置。
【請求項5】
前記長穴に嵌合され、前記固定ブラケットと前記チルトスライダとの間に介装されるブシュを備えたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の車両のステアリング装置。
【請求項6】
前記駆動ユニットは、前記チルトシャフトに一端が固定されるクランク部材と、前記チルトブラケットに固定される電動モータと、該電動モータの出力を減速して前記クランク部材の他端を回転駆動する減速機を備えたことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の車両のステアリング装置。
【請求項7】
前記チルトシャフトは二分割されて成り、対向する端部に前記クランク部材が結合されることを特徴とする請求項6記載の車両のステアリング装置。
【請求項8】
前記減速機は、前記電動モータの出力軸に固定する第1のウォームギヤと、該第1のウォームギヤに噛合する第1のウォームホイールと、該第1のウォームホイールと一体的に回転する第2のウォームギヤと、該第2のウォームギヤに噛合する第2のウォームホイールを備え、該第2のウォームホイールの回転軸を前記クランク部材の他端に固定することを特徴とする請求項6又は7記載の車両のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のステアリング装置に関し、特に、車体に対しステアリングコラムを揺動可能に支持し所望のチルト位置に調整するステアリング装置に係る。
【背景技術】
【0002】
ステアリングホイールの操作位置を所望のチルト位置に調整する機構として、電動のチルト機構が知られており、例えば下記の特許文献1には、「チルト作動に影響を及ぼすことなく、上下方向のがたつきを好適に抑制し得るステアリング装置を提供すること」を目的とし(特許文献1の段落〔0004〕に記載)、「ステアリングホイールに連結されるステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトを回転自在に収容支持する筒状のコラムハウジングを有し、固定ブラケットにより車体に固定されるステアリングコラムと、チルトモータの作動に基づいて前記固定ブラケットに対する前記ステアリングコラムの傾動量を調整するチルト機構とを備えたステアリング装置において、前記チルト機構は、前記チルトモータにより回転駆動されるシャフトと、前記シャフトの回転に基づいて該シャフト上をスライドするスライド部材と、前記スライド部材および前記固定ブラケットに対して前記コラムハウジングを連結し、前記スライド部材のスライドに基づいて、前記ステアリングコラムを前記固定ブラケットに対して傾動作動させるリンク機構とを備え、前記リンク機構を、前記コラムハウジングの径方向外側において該コラムハウジングの左右両側に配置」することが提案されている(同段落〔0005〕に記載)。
【0003】
また、下記の特許文献2には、「チルト・テレスコピック機構の駆動方式に関係なく、ステアリングコラムを共通使用することができるステアリング装置を提供すること」を目的とし(特許文献2の段落〔0005〕に記載)、「ステアリングホイールが取着されるステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトを回転可能に収容支持するステアリングコラムと、前記ステアリングコラムにステアリング位置調整機構を取り付けるためのブラケットを備えるステアリング装置において、前記ステアリングコラムは、前記ブラケットが着脱自在に構成」された装置が提案されている(同段落〔0006〕に記載)。更に、「前記ブラケットは、手動式チルト・テレスコピック機構を取り付けるためのサポートブラケット又は電動式チルト・テレスコピック機構を取り付けるためのベースブラケットである」と記載され(同段落〔0007〕)、「前記サポートブラケットの取付部と、前記ベースブラケットの取付部を共通化」することが記載されている(同段落〔0009〕)。
【0004】
更に、電動式チルト機構における螺子軸とナット部材との間のガタを防止し、円滑な摺動性を確保する技術に関し、例えば下記の特許文献3には、「駆動源の出力軸に連動して回転する雄ネジ部を有するシャフトと、前記シャフトの回転方向に回転規制されつつ前記雄ネジ部のまわりに配設され前記雄ネジ部と噛み合うとともに駆動対象と連動する略円筒状の雌ネジ部材と、前記雌ネジ部材を径方向へ付勢する付勢部材と、前記雄ネジ部に当接する当接部を有するとともに前記付勢部材の付勢力の反力を受け前記反力が前記雄ネジ部と前記当接部との当接力として作用する押し付け部材とを有することを特徴とするスライダ機構」が提案され(特許文献3の段落〔0011〕に記載)、「略円筒状の雌ネジ部材は付勢部材の付勢力により径方向へ付勢されシャフトの雄ネジ部に確実に当接し、かつ、その付勢力の反力は押し付け部材が受け、押し付け部材の当接部が確実にシャフトの雄ネジ部に当接することで、ネジの噛み合い部のバックラッシュは、強制的に除去されるものである。」と記載されている(同段落〔0012〕)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−327374号公報
【特許文献2】特開2006−264547号公報
【特許文献3】特開2000−280916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載のステアリング装置は、チルトモータ(電動モータ)の出力をスクリューシャフト(台形螺子等)を用いたスライド機構により直線運動に変換し、ベルクランクを用いたリンク機構によりステアリングホイールの上下変位(チルト作動)に変換するように構成されたものであり、電動チルト機構は、駆動ユニットを構成する電動モータ、リンク機構等の構成部品が多く、大型であり、車両への搭載が困難である。また、上記特許文献3に記載の技術は、駆動源の出力軸に連動して回転するシャフト(螺子軸)とスライダ(ナット部材)との間のガタの防止を企図したものであり、更に、付勢部材(ばね)や押し付け部材等が必要となり、部品点数が多く、組付工数も多くなる。何れも、手動チルト機構とは構造が大きく異なり、手動チルト機構との互換性が考慮されたものでもないので、構成部品の共通化は期待できない。
【0007】
一方、上記特許文献2に記載のステアリング装置においては、手動チルト機構と電動チルト機構のブラケット取付部を共通化することが提案されており、夫々のチルト機構部をサブアッセンブリ化し、ステアリングコラムに対し着脱可能な構成とすれば、ステアリングコラムは共通化しつつ、両者を適宜選択することができる。然し乍ら、特許文献2に記載のチルト機構部は従前の手動チルト機構と電動チルト機構の構造を踏襲しているので、電動チルト機構は従前同様大型であり、車両への搭載が困難である。
【0008】
そこで、本発明は、ステアリングコラムを所望のチルト位置に調整する車両のステアリング装置において、手動チルト機構との互換性を有すると共に、チルト作動に伴うガタを防止して円滑な作動を確保し、車両への搭載が容易な小型の電動チルト機構を構成し得るステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するため、本発明は、車体に固定される固定ブラケットと、前記車体に対し揺動可能に支持されるステアリングコラムを備え、該ステアリングコラムを前記固定ブラケットに対し所望の傾斜角度のチルト位置に調整する車両のステアリング装置において、前記ステアリングコラムを保持し、前記固定ブラケットに対し相対移動可能に支持されるチルトブラケットと、前記車体の横方向に延在し、前記固定ブラケットに対し前記ステアリングコラムの軸方向に相対移動可能に支持されるチルトシャフトと、該チルトシャフトの軸を中心に前記チルトブラケットを回転駆動し前記固定ブラケットに対する前記チルトブラケットの相対位置を調整する駆動ユニットとを備え、前記固定ブラケットには、前記ステアリングコラムの軸方向に長尺側の寸法を有する長穴が形成されており、該長穴に前記チルトシャフトが相対移動可能に支持されるように構成され、当該長穴と前記チルトシャフトとの間に介装されるチルトスライダと、該チルトスライダを前記チルトシャフトの軸方向に付勢する付勢部材を具備することとしたものである。
【0010】
上記のステアリング装置において、前記チルトスライダは、軸方向に切欠を有する中空円錐台部材で、該中空円錐台部材の中空部の内径は前記チルトシャフトの外径より小に設定され、当該中空円錐台部材の最小外径は前記長穴の短尺側の寸法より
小に設定され、当該中空円錐台部材の最大外径は前記長穴の短尺側の寸法より
大に設定されたものとするとよい。
【0011】
上記のステアリング装置において、前記付勢部材は、前記チルトシャフトに支持し、前記チルトスライダを前記チルトシャフトの軸方向に付勢する皿ばねで構成するとよい。あるいは、前記付勢部材は、前記チルトシャフトに支持し、前記チルトスライダを前記チルトシャフトの軸方向に付勢するコイルばねで構成してもよい。更に、前記長穴に嵌合され、前記固定ブラケットと前記チルトスライダとの間に介装されるブシュを備えたものとするとよい。
【0012】
上記のステアリング装置において、前記駆動ユニットは、前記チルトシャフトに一端が固定されるクランク部材と、前記チルトブラケットに固定される電動モータと、該電動モータの出力を減速して前記クランク部材の他端を回転駆動する減速機を備えたものとするとよい。前記チルトシャフトは二分割されて成り、対向する端部に前記クランク部材が結合される構成としてもよい。
【0013】
前記減速機は、前記電動モータの出力軸に固定する第1のウォームギヤと、該第1のウォームギヤに噛合する第1のウォームホイールと、該第1のウォームホイールと一体的に回転する第2のウォームギヤと、該第2のウォームギヤに噛合する第2のウォームホイールを備えたものとし、該第2のウォームホイールの回転軸を前記クランク部材の他端に固定するように構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、本発明のステアリング装置においては、上記の構成に成るチルトブラケット、チルトシャフト及び駆動ユニットを備え、駆動ユニットによって、チルトシャフトの軸を中心にチルトブラケットを回転駆動し固定ブラケットに対するチルトブラケットの相対位置を調整するように構成されており、従来に比し少ない部品点数で簡単且つ組み付け容易な小型の電動チルト機構を構成することができるので、車両への搭載が容易で、安価な装置を提供することができる。特に、手動チルト機構と同等の大きさで電動チルト機構を構成することができるので、例えば手動チルト機構をベースにしたステアリング装置に対し、車両搭載性を維持しながら電動チルト化が可能となる。逆に、上記と同様の固定ブラケット及びチルトブラケットに対し、手動チルト機構の構成部品を装着すれば、簡単且つ容易に手動チルト機構を備えたステアリング装置を構成することもでき、手動チルト機構との互換性を有する。更に、固定ブラケットには、ステアリングコラムの軸方向に長尺側の寸法を有する長穴が形成されており、この長穴にチルトシャフトが相対移動可能に支持されるように構成され、当該長穴とチルトシャフトとの間に介装されるチルトスライダと、このチルトスライダをチルトシャフトの軸方向に付勢する付勢部材を具備することとしているので、チルト作動に伴うガタを確実に防止して、円滑な作動を確保することができる。
【0015】
上記のステアリング装置において、チルトスライダを、軸方向に切欠を有する中空円錐台部材で構成し、その中空部の内径はチルトシャフトの外径より小に設定し、最小外径は長穴の短尺側の寸法より
小に設定し、最大外径は長穴の短尺側の寸法より
大に設定すれば、チルト作動に伴うガタを確実に防止することができる。付勢部材は、皿ばねやコイルばねによって簡単且つ安価な部材で構成することができる。更に、長穴にブシュを嵌合すれば、固定ブラケットに対するチルトスライダの円滑な摺動を確保することができる。
【0016】
例えば、上記の駆動ユニットを、上記のクランク部材、電動モータ及び減速機を備えたものとし、電動モータの出力を減速してクランク部材を回転駆動するように構成すれば、従前のスライド機構やリンク機構を必要とすることなく、少ない部品点数で小型に形成することができる。更に、チルトシャフトを二分割とし、対向する端部にクランク部材を結合する構成とすれば、良好な組付性を確保することができる。
【0017】
尚、上記の減速機は、第1及び第2のウォームギヤ並びに第1及び第2のウォームホイールを備えたものとし、第2のウォームホイールの回転軸をクランク部材の他端に固定するように構成すれば、逆効率を極力小さくし得る好適な装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るステアリング装置を示す側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るステアリング装置を示す正面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に供する駆動ユニットを示すもので、
図2のA−A線断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に供する駆動ユニットを示すもので、
図2のB−B線断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るステアリング装置のチルトダウン位置の状態を示す側面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るステアリング装置のチルトアップ位置の状態を示す側面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に供する固定ブラケットを示す斜視図である。
【
図8】本発明の一実施形態に供するチルトスライダを示す斜視図である。
【
図9】本発明の他の実施形態における付勢部材及びチルトシャフトの支持構造を示す断面図である。
【
図10】本発明の更に他の実施形態におけるチルトシャフト及びその支持構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の望ましい実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至
図4は本発明の一実施形態に係るステアリング装置の構成を示すもので、車体(図示せず)に対しステアリングコラム10が揺動可能に支持されており、ステアリングコラム10を固定ブラケット1に対し所望の傾斜角度のチルト位置に調整し得るように構成されている。ステアリングコラム10の車体への支持構造は、車体に固定された固定ブラケット1に対し、チルトブラケット2が相対移動可能に支持されており、このチルトブラケット2にステアリングコラム10の中間部が保持され、車体の前方に配置された揺動中心(C)回りに揺動し得るように支持されている。
【0020】
ステアリングコラム10は、ステアリングシャフト11と、これを囲繞するように同軸上に配置されるメインチューブ12を有し、ステアリングシャフト11の後端にステアリングホイール(図示せず)が支持され、その前端が転舵機構(図示せず)に連結される。ステアリングシャフト11は、後端部にステアリングホイール(図示せず)が接続される筒状のアッパシャフト11aと、このアッパシャフト11aの前端部と連結されるロアシャフト11bから成る。即ち、アッパシャフト11aとロアシャフト11bが軸方向に相対移動可能に連結されており、ロアシャフト11bの前端部が転舵機構(図示せず)に接続されている。この転舵機構はステアリングホイールの操作に応じて駆動されて車輪操舵機構(図示せず)を介して操舵輪(図示せず)を転舵するように構成されている。
【0021】
固定ブラケット1は、車両締結部を有するアッパブラケット1aとU字形状のロアブラケット1bが(例えば溶接により)結合されたものであり、
図7に拡大して示す。また、チルトブラケット2はU字形状に形成され、その両端部がステアリングコラム10の中間部に(例えば溶接にて)固定されている。チルトブラケット2には、車体の横方向に延在するようにチルトシャフト3が支持されている。固定ブラケット1には、ロアブラケット1bの両側壁に、ステアリングコラム10の軸方向に長尺側の寸法(長手方向寸法)を有する長穴1sが形成されており、これらの長穴1sを介してチルトシャフト3が車体の横方向に貫通するように配置され、固定ブラケット1に対しチルトシャフト3がステアリングコラム10の軸方向に相対移動可能に支持されている。
【0022】
そして、本実施形態の駆動ユニット4がチルトブラケット2のU字形状の内側に配置され、螺子等でチルトブラケット2に固定されている。この駆動ユニット4は、チルトシャフト3の軸を中心にチルトブラケット2を回転駆動し固定ブラケット1に対するチルトブラケット2の相対位置を調整するもので、チルトシャフト3に一端が固定されるクランク部材41と、チルトブラケット3に固定される電動モータ42と、この電動モータ42の出力を減速してクランク部材41の他端を回転駆動する減速機50を備えている。
【0023】
本実施形態の減速機50は、ステアリングホイール(図示せず)への荷重入力により運転者が意図しないチルト位置変化が生ずるのを防ぐため、ステアリングホイール入力に対しチルト位置を保持し得るよう、逆効率を極力小さくする構成とされている。即ち、
図3に示すように、電動モータ42の出力軸に固定する第1のウォームギヤ51と、この第1のウォームギヤ51に噛合する第1のウォームホイール52によって第1段の減速機構が構成され、第1のウォームホイール52と一体的に回転する第2のウォームギヤ53と、この第2のウォームギヤ53に噛合する第2のウォームホイール54によって第2段の減速機構が構成されている。尚、第1のウォームホイール52と第2のウォームギヤ53は例えばスプライン結合されており、一体となって回転する。本実施形態においては、電動モータ42の回転出力が2段の減速機構によって減速されるように構成されているが、1段のみとしてもよく、3段以上としてもよい。
【0024】
そして、
図4に示すように、第2のウォームホイール54の軸部には、クランク回転軸43の一端がスプライン結合されており、クランク回転軸43の他端はクランク部材41の他端側に結合されている。従って、電動モータ42が駆動されるとクランク部材41は第2のウォームホイール54の回転軸を中心に揺動する。尚、クランク部材41の両端部の結合手段としては、一端がチルトシャフト3に固定され、他端がクランク回転軸43に固定されるのであれば、溶接、圧入、螺合等何れでもよい。
【0025】
本実施形態の駆動ユニット4は上記のように構成されているので、電動モータ42が駆動されると、その回転が減速機50によって適切に減速されてクランク部材41に伝達され、クランク部材41が回転(揺動)するが、チルトシャフト3は固定ブラケット1を介して車体(図示せず)に結合されているので、駆動ユニット4全体がチルトシャフト3の軸を中心に回転(揺動)することとなる。そして、駆動ユニット4はチルトブラケット2に固定されているため、チルトブラケット2もチルトシャフト3の軸を中心に回転することになり、チルトブラケット2と一体のステアリングコラム10が揺動中心(C)回りに揺動し、
図5又は
図6に示すようにチルト作動する。而して、ステアリングコラム10が所望のチルト位置となるように、固定ブラケット1に対するチルトブラケット2の相対位置が調整される。尚、
図5及び
図6のNTは中立位置(チルトニュートラル位置)、TDはチルトダウン位置、TUはチルトアップ位置を示す。
【0026】
上記のチルト作動において、クランク部材41(チルトシャフト3と一体)の揺動中心とステアリングコラム10の揺動中心(C)が異なるため、駆動ユニット4(チルトシャフト3に固定)とステアリングコラム10とではコラム軸方向の移動量に差異が生じる。この差異を吸収するため、固定ブラケット1に形成される長穴1sが、ステアリングコラム10の軸方向に長尺側の寸法(長手方向寸法)を有する形状に設定されており、クランク部材41の揺動に応じてチルトシャフト3が長穴1sに案内されて移動し、
図5及び
図6に示す位置で停止する。
【0027】
本実施形態においては、
図2乃至
図4に示すように、固定ブラケット1(ロアブラケット1b)の両側に形成された長穴1sとチルトシャフト3の両端部との間に夫々、チルトスライダ(代表して6で表す)が介装され、付勢部材たる皿ばね(代表して5で表す)によって、チルトスライダ6がチルトシャフト3の軸方向に付勢されており、チルト作動に伴うガタを確実に防止して、円滑な作動を確保するように構成されている。
【0028】
本実施形態のチルトシャフト3は、軸方向に二分割された左右別体の部材で構成され、
図4に示すように、夫々の端部に、同形状の係止頭部3a及び3bが形成されている。そして、チルトシャフト3を構成する左右別体の部材が、ロアブラケット1bの両側壁に形成された長穴1sに対し、左右両側から挿入され、それらの対向する端部に形成された雄螺子部がクランク部材41の雌螺子部に螺合されて、チルトシャフト3にクランク部材41が固定されるように構成されている。尚、チルトシャフト3に対するクランク部材41の固定方法は螺合に限らず、圧入や溶接としてもよい。
【0029】
本実施形態のチルトスライダ6は、
図8に拡大して示すように、軸方向に切欠(スリット)6cを有するC字形状断面の中空円錐台部材で、その中空部の内径はチルトシャフト3の外径より小に設定されている。また、チルトスライダ6の最小外径は上記の長穴1sの短尺側の寸法より
小に設定され、その最大外径は長穴1sの短尺側の寸法より
大に設定されている。即ち、チルトスライダ6は、その外径が長穴1sの短尺側の寸法に対し、径小側は小さく径大側は大きいテーパ形状とされており、径小側がコラム中心側になるように配置されて、長穴1sに嵌合される。これにより、チルトスライダ6がチルトシャフト3に挿入されるときには、チルトスライダ6の切欠6cが拡開され、その中空部の内径はチルトシャフト3の外径に倣って大きくなるので、チルトシャフト3とチルトスライダ6との間のガタを防止することができる。尚、チルトスライダ6は、チルトシャフト3への挿入時に弾性変形させる必要があるため、樹脂やゴム等の弾性部材で形成することが望ましい。
【0030】
更に、本実施形態においては、
図1及び
図4に示すように、例えば樹脂製C字形状のブシュ7が長穴1sに嵌合されており、固定ブラケット1(ロアブラケット1b)とチルトスライダ6との間にブシュ7が介装されている。チルトスライダ6とブシュ7との間の車体上下方向の関係は、
図1及び
図4には表れていないが、後述する
図9に示す断面と同様、チルトスライダ6のテーパ面がブシュ7の内側に当接する関係にある。これにより、チルトスライダ6の長穴1s内の円滑な摺動作動を確保することができる。尚、ブシュ7は金属製としてもよく、長穴1sの内面に対しチルトスライダ6が円滑に摺動し得るのであればブシュ7を省略してもよい。
【0031】
前述のように、本実施形態では、チルトシャフト3の係止頭部3a及び3bと各チルトスライダ6との間には夫々、皿ばね5が介装されており、これらの皿ばね5によってチルトスライダ6がチルトシャフト3の軸方向に付勢される。これにより、チルトスライダ6がコラム中心側に押し付けられるような付勢力が印加され、チルトスライダ6のテーパ面が(ブシュ7を介して)長穴1sの短尺側の内面に押接されるので、両者間に生じ得るガタを防止することができる。更に、皿ばね5の付勢力を適切に設定することにより、チルトスライダ6のテーパ面や長穴1sの内面の初期寸法バラツキや摩耗などの経年変化が生じたときにも、チルトスライダ6がチルトシャフト3の軸方向(且つコラム中心側)に移動することでそれらを吸収し、ガタやコジリの発生を防止することができる。
【0032】
尚、固定ブラケット1に対しステアリングコラム10の軸方向に相対移動可能にチルトシャフト3を支持する構造に関し、上記の皿ばね5に代えて、
図9に示すように、付勢部材としてコイルばね5xを用いることとしてもよい。
図9におけるその他の構成は
図1乃至
図4に示す実施形態と同様であるので、実質的に同一の部材については同一の符号を付して説明を省略する。
【0033】
図10は、本発明の他の実施形態におけるチルトシャフトの支持構造を示すもので、単一の部材で形成されたチルトシャフト3xが用いられ、チルトシャフト3xの一端には、上記のチルトスライダ6と同様のテーパ面を有する頭部3cが形成されている。チルトシャフト3xの他端には係止溝3dが形成されており、この係止溝3d側の端部が一方の長穴1s側から挿入され、ブシュ8を介してクランク部材41の中空部に嵌合された後、他方の長穴1s側から延出した状態で、チルトスライダ6、皿ばね5、環状のシム9の順に組み付けられ、ストッパ9s(例えばCリング)が係止溝3dに係止されて、これらが固定される。
【0034】
図10に示すように構成することにより、チルトシャフト3xを単一の部材で形成することができるだけではなく、一個の皿ばね5のみによってチルトシャフト3xの頭部3cのテーパ面とチルトスライダ6のテーパ面の両者に、ロアブラケット1bに対する押圧力を付与することができる。尚、この実施形態では、皿ばね5の付勢力によりチルトシャフト3が軸方向移動する必要があるので、クランク部材41の中空部とチルトシャフト3xとの間に、締め代をもったブシュ8が介装され、軸方向に移動可能で、軸に対し直角の方向には移動不可となるように構成されている。
【0035】
更に、上記の各実施形態のステアリング装置における固定ブラケット1に若干の変更を加え、駆動ユニット4に代えて手動チルト機構の構成部品をチルトブラケット2に装着すれば、手動操作でチルト作動を行い得るステアリング装置を構成することができる。即ち、チルト機構部を除く基本構成、例えばステアリングコラム10及びチルトブラケット2を共通仕様とし、固定ブラケット1又は手動チルト機構用の固定ブラケット(図示ぜず)を用いることにより、夫々、電動チルト機構又は手動チルト機構を構成することができ、何れかを選択可能な仕様となる。而して、電動チルト機構から手動チルト機構への変換、あるいはその逆の変換を、大幅なコストアップや車両搭載性の困難化等を惹起することなく、容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0036】
1 固定ブラケット
1s 長穴
2 チルトブラケット
3,3x チルトシャフト
4 駆動ユニット
5 皿ばね(付勢部材)
5x コイルばね(付勢部材)
6 チルトスライダ
7,8 ブシュ
10 ステアリングコラム
41 クランク部材
42 電動モータ
50 減速機