(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炭化室の炉壁に相当する側壁に突起部を形成した押出負荷測定装置を用いた試験用コークスケーキの押出し試験によって、試験用コークスケーキが前記突起による炉幅狭窄部を通過するのに必要な突起乗り越え力を測定し、測定された該乗り越え力に基づいて、炭化室の炉壁に突起部を有する実コークス炉のコークス押出負荷を推定する方法であって、
揮発分含有量VMの異なる原料石炭をそれぞれ異なる嵩密度BDで試験用乾留炉に装入して、全空隙率の異なる試験用コークスケーキを作製し、乾留後のコークスケーキの全空隙率を測定して、該全空隙率と前記VM及びBDとの間の関係を予め求めておき、
さらに、前記全空隙率の異なる試験用コークスケーキを用いて前記押出し試験を実施し、該コークスケーキの全空隙率と前記突起乗り越え力との関係を予め求めておき、
実コークス炉炭化室におけるコークス押出し時において、原料石炭の揮発分含有量VMと装入嵩密度BDから、前記関係式に基づいて炭化室におけるコークスケーキの全空隙率を求め、前記予め求めておいた全空隙率と突起乗り越え力との関係から、前記突起部を有する実コークス炉のコークス押出負荷を推定することを特徴とするコークス押出負荷の推定方法。
【背景技術】
【0002】
近年のコークス炉操業では、コークス品質及び生産性の向上を狙って炭化室内へ装入する石炭の水分を低減させる方法が多く取り入れられており、石炭の装入(充填)密度が上昇する傾向にある。その結果、コークスケーキを押し出す際に炭化室の側壁(炉壁)にかかる荷重が上昇し、これにともないコークス押出負荷も増加する傾向にある。
【0003】
また、長期間稼動して炉体の老朽化が進展しているコークス炉も増えており、そのようなコークス炉の炭化室では、炉壁にカーボンが付着して突起部(凸部)が形成されている場合も多い。
炭化室の炉壁に突起部が存在するとその分だけ炉幅(炉壁間距離)が狭くなる。そのような炉幅が狭くなった狭窄部をコークスケーキが通過する際、炉壁面とコークスケーキ表面との間の相互作用が大きくなり、押出しに必要な力(以降、「押出負荷」と記載する場合がある。)や炉壁に作用する荷重がさらに増加することになる。
【0004】
このため、炭化室からコークスケーキを押出すのに必要な力や炉壁に作用する荷重(炉壁押し圧)を事前に評価し、押出し機や炭化室の炉壁に過度の荷重が付加されないようにすることがより重要になっている。
【0005】
本発明者らも、特許文献1、2のように、炉壁に形成された凹凸が、コークスケーキ押出し力や炉壁荷重に与える大きさを測定する押出負荷測定装置を開発し、その装置を用いたコークス押出し試験によって、炉壁に存在する凹凸が押出負荷に与える影響を評価する技術や、特許文献3のように、炭化室炉壁の凹凸形状を一定のルールに則って「抵抗指数」として数値化し、予め求められた抵抗指数と押出負荷との関係からコークスケーキの押出負荷を求める技術を開発している。
【0006】
一方、炭化室に装入された石炭は、乾留過程において軟化溶融し、形成された軟化溶融層が炉幅方向中央で会合した後に炉幅方向に収縮し、コークスの水平焼減りが生じる。この水平焼減りは、コークス内部の空隙量、および、炉壁とコークス塊間に形成される空隙量と密接に関連している。
水平焼減り量が多くて炉幅方向の空隙が大きいほど、押出しに必要な力は少なくて済み、結果として、炉壁にかかる荷重(圧力)も低減されるため、コークス押出し力や炉壁荷重に与える影響を評価する際、炉幅方向の空隙を考慮することが必要である。
【0007】
この観点から、特許文献4では、X線CTを用いて試験コークス炉で乾留したコークスケーキの断層画像を撮影し、得られた断層画像を画像解析して、コークスケーキの炉幅方向収縮量と、コークスケーキ内部に存在する亀裂量とを求め、求められた収縮量及び亀裂量に基づいてコークスケーキの押出し性を推定する技術を提案している。
【0008】
また、特許文献5では、前記の押出負荷測定装置を用いたコークス押出し試験によって、炉壁に存在する突起部によって形成された炉幅狭窄部をコークスケーキが通過するのに必要な力(突起乗り越え力)と、狭窄部を構成する突起の高さh、コークスケーキの炉幅方向の隙間の合計値w、及び、炭化室の炉幅により定義したQ値との対応関係を予め求めておき、実コークス炉炭化室の炉壁のプロファイル情報から得られる突起高さhと原料石炭の種類や乾留条件から得られる炉幅方向の全空隙量wを用いて前記Qを算出してコークスケーキの押出負荷を評価する技術を提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献4、5の方法では、いずれも、コークス炉に装入する原料石炭ごとに、試験炉を用いて乾留試験を行い、得られたコークスケーキから実測によって空隙率を求める必要があり、測定に手間がかかるという問題がある。
また、特許文献4の方法では、炉壁とコークス塊間の両側の空隙、コークスケーキの炉幅方向中央部の空隙ばかりでなく、コークスケーキ内部に存在する空隙も考慮されているが、突起乗り越え力との関連については具体的な検討がなされておらず、一方、特許文献5の方法では、内部に存在する全空隙量を考慮して突起乗り越え力を推定する検討がなされていない。
そこで、本発明では、コークスケーキの全空隙率を、装入石炭の充填状況(装入嵩密度)と石炭の性状からより簡便な方法で推定するとともに、その全空隙率を用いてコークスケーキが炉幅狭窄部を通過するのに必要な力を精度良く推定することにより、実コークス炉炭化室の炉壁に突起部を有する場合のコークス押出負荷を推定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、炭化室の炉壁に突起部がある場合、コークスを炭化室から押出す際に、コークスケーキが突起による炉幅狭窄部を通過するのに必要な力を精度良く推定するために、コークスケーキの全空隙率と突起乗り越え力との間の関係について検討した。
その際、コークスケーキの全空隙率としてコークスケーキ内部に存在する空隙を考慮して検討した結果、全空隙率とコークスケーキが炉幅狭窄部を通過するのに必要な突起乗り越え力との間に一定の関係があることを見出した。
また、実操業では、原料石炭(本願明細書においては、「原料石炭」とは「装入炭」を意味している。)の水分量や揮発分含有量がコークスケーキの押出し力に影響するとされていることから、炭化室内のコークスケーキの全空隙率と、原料石炭の揮発分含有量VM及び石炭の炭化室への装入嵩密度BDとの関係を検討した結果、全空隙率はVMとBDの両方と特定の関係を有しており、乾留後のコークスケーキの全空隙率はこれらの値から予測できることを見出した。
そして、これらの知見に基づき、コークスケーキが炉幅狭窄部を通過するのに必要な突起乗り越え力を原料石炭の揮発分含有量VMと装入嵩密度BDとから予測することを可能として、本発明に到達した。
【0012】
そのようになされた本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 炭化室の炉壁に相当する側壁に突起部を形成した押出負荷測定装置を用いた試験用コークスケーキの押出し試験によって、試験用コークスケーキが前記突起による炉幅狭窄部を通過するのに必要な突起乗り越え力を測定し、測定された該乗り越え力に基づいて、炭化室の炉壁に突起部を有する実コークス炉のコークス押出負荷を推定する方法であって、
揮発分含有量VMの異なる原料石炭をそれぞれ異なる嵩密度BDで試験用乾留炉に装入して、全空隙率の異なる試験用コークスケーキを作製し、乾留後のコークスケーキの全空隙率を測定して、該全空隙率と前記VM及びBDとの間の関係を予め求めておき、
さらに、前記全空隙率の異なる試験用コークスケーキを用いて前記押出し試験を実施し、該コークスケーキの全空隙率と前記突起乗り越え力との関係を予め求めておき、
実コークス炉炭化室におけるコークス押出し時において、原料石炭の揮発分含有量VMと装入嵩密度BDから、前記関係式に基づいて炭化室におけるコークスケーキの全空隙率を求め、前記予め求めておいた全空隙率と突起乗り越え力との関係から、前記突起部を有する実コークス炉のコークス押出負荷を推定することを特徴とするコークス押出負荷の推定方法。
【0013】
なお、上記コークスケーキの全空隙率は、試験用乾留炉内に装入した乾留缶壁を含む所定断面において、該断面内に存在する、乾留缶の表面とコークス塊間の両側の空隙、コークスケーキの炉幅方向中央部の空隙、及びコークスケーキ内部に存在する空隙の合計面積の、所定断面の面積に対する割合(%)を意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、石炭の装入嵩密度という操業条件に関するパラメータと、石炭の揮発分含有量という石炭性状に関するパラメータだけを用いて、コークスケーキが、炭化室の炉壁に存在する突起による炉幅狭窄部を通過するために必要な乗り越え力を、簡便にかつ精度良く推定することができ、これにより、炉壁に突起部を有する実コークス炉のコークス押出負荷を精度良く推定することができる。
このため、コークス押出負荷を軽減するようにコークス炉の操業条件や装入石炭の性状を管理することで、コークス押し詰まり等のトラブルの発生を防止できる。その結果、コークスの生産性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
本発明者らは、炭化室の炉壁に突起部がある場合、コークスを炭化室から押出す際に、コークスケーキが突起による炉幅狭窄部を通過するのに必要な力を精度良く推定するために、乾留後に生じる空隙を詳細に調査するとともに、コークスケーキの全空隙率と突起乗り越え力との間の関係について検討した。
検討に当たっては、空隙率を変化させた試験用コークスケーキを作製し、特許文献2、3に示されるような押出負荷測定装置を用いて、試験用コークスケーキの押出負荷測定試験を実施し、試験用コークスケーキの全空隙率とコークス押出負荷との関係を調べた。
【0017】
試験用コークスケーキの作製は、試験用乾留炉に原料石炭を装入して行った。詳細には、まず乾留缶に原料石炭を充填し、試験用の小型電気乾留炉を用いて乾留缶を側面から加熱することにより実施した。その際、原料石炭の含水量を調整して装入石炭の装入嵩密度BDを変化させる方法や、揮発分含有量VMの異なる原料石炭を用いる方法によって、乾留に伴う収縮量を変化させ、空隙率の異なる複数のコークスケーキを作製した。なお、乾留缶は、耐熱性に優れた金属性の材料(ブリキ等)が好適である。
【0018】
作製したコークスケーキの空隙率の測定は、前記乾留炉で乾留した試験用コークスケーキを乾留缶に入れた状態で、X線CTを用いて断層画像を撮影し、断層画像を画像解析して求めた。
図1に断層画像の一例を示す。原料石炭の乾留により、
図1のように、炉壁に相当する乾留缶壁9とコークスケーキの間10、及びコークスケーキの炉幅方向中央11に空隙が形成されるとともに、コークスケーキ内部、すなわち、コークスケーキを形成するコークス塊とコークス塊の間12及びコークス塊の内部13にも空隙が形成される。
【0019】
本発明では、この断層画像をコークスケーキの長手方向(紙面と垂直方向)に所定ピッチで複数撮像し、各画像で解析領域を設定し、画像ごとに解析領域内の空隙10〜13の合計面積を画像解析して求め、それを解析領域の面積で割って画像ごとの空隙率を求め、それを平均して全空隙率(%)とする。
なお、断層画像の枚数は、精度向上の点からは10枚以上が好ましく、50枚以上がさらに好ましい。また、断層画像を撮像するための所定のピッチは、撮像する断層画像の枚数とコークスケーキの長手方向(紙面と垂直方向)の長さに応じて、等間隔となる様に設定することが好ましい。
【0020】
このように作製された試験用コークスケーキを用いて押出負荷測定試験を実施した。
図6に、測定装置および試験の概略を示す。
この装置では、試験用コークスケーキ1の前後に押出し側と受け側の当て板4、5を配置し、それぞれの当て板を油圧シリンダ(図示せず)に接続して、試験用コークスケーキ1に対し押出し力Fpと、コークス炉炭化室の炉長方向の想定位置に応じた一定の反力Frを加えながら、試験用コークスケーキ1を押出すようになっている。
試験用コークスケーキ1の押出し時の押出し力Fpと反力Frの測定は、当て板4、5の外側にロードセル(図示せず)を複数個設置して行う。
【0021】
ここで、押出し力Fpに対して反力Frを付加するのは次の理由による。
実コークス炉では、炭化室のPS(押出し機側)からCS(コークガイド車側)に行くにしたがってコークスケーキ内を伝達する力(または、圧力)が減少する。この炉長方向の位置の違いによるコークスケーキに作用する力(または、圧力)の違いを擬似的に再現するために、炉長方向の位置を想定した反力を付加するようにしている。
【0022】
炭化室の炉壁表面に突起が存在することを想定したコークス押出負荷測定試験を実施するには、突起6を作製し、それを、
図6に示すように、試験装置の側面パネル2のコークスケーキと対向する面に、例えば、ボルトや溶接などを用いて取付ける。
突起6は、種々の炭化室の調査に基づき、実炉の炭化室の炉壁に形成された突起の形状を模擬して、
図7に示されるような、側面パネル2上面と連続する斜面7及び該パネル上面と平行な水平面8を有する楔形とした。
【0023】
上記のコークスケーキの押出負荷測定装置を用いた押出し試験においては、まず、側面パネル2、3に、
図7に示す形状とサイズ(長さ400mm、水平面の長さ220mm、突起の厚み30mm、斜面の角度9.5°)の突起を取付ける。次に、小型電気乾留炉で乾留して得られた所定サイズ(例えば、長さ600×高さ370×幅430mm)の試験用コークスケーキ1を乾留缶から取り出して、
図6(a)に示すように、装置の左右の側面パネル2、3及び押し側および受け側の当て板4、5で囲まれる空間に配置する。
【0024】
その際、コークスケーキ1を構成するコークス塊と側面パネル2、3の間の空隙量は、前記測定された空隙10の値(例えば、片側で2.5mm程度)に調整しておく。また、試験用コークスケーキの側面は、突起の形状に合わせた形状としておく。さらに、必要に応じてコークスケーキの上部に所定の重さの錘を積載する。
【0025】
この状態で、図示しない押出し用油圧シリンダ装置を作動させ、当て板4を介してコークスケーキ1に押出し力Fpを付与するとともに、反力付加用油圧シリンダによって当て板5を介して一定の反力Frを作用させながら押出しを開始する。
押出しの開始後、コークスケーキ1は、押出し力Fpによって移動する。その際に、各ロードセルにより、押出し力Fp及び反力Frを連続的に測定する。
コークスケーキ1の側面が突起の斜面7を上り始めると、反力Frは一定を維持するように制御されているので、押出し力と反力の差が次第に増加して行き、コークスケーキ1が突起6の斜面7を乗り超え、
図6(b)に示すように、突起6の水平面8と、それと対向する側面パネル3との間に形成された狭窄部を通過する。その際に、押出し力Fpの値は最大値を示す。この最大値が、コークスケーキが炉幅狭窄部を通過するために必要な力(突起乗り越え力)に相当する。
【0026】
ここで、炉長方向の位置の違いによる反力Frの値は、CSから繰り返し計算を行うことにより、求めることができる。例えば、後述の様に、炉壁を複数の領域(p、q)に区分けした場合、最もCS寄りの領域の反力Frは0であるため、当該領域の力のバランスは、当該領域をPSからCSへ押出す力Fp1と、当該領域の側圧転化により生じる最大押出し力Pw1が釣り合っていることになる。また、最もCS寄りの領域をPSからCSへ押出す力Fp1は、PS寄りの隣の領域の反力と釣り合っているため、このFp1を当該領域の反力として求めることができる。
【0027】
次に、上記のPS寄りの隣の領域のバランスとしては、当該領域をPSからCSへ押出す力Fp2は、当該領域の側圧転化により生じる最大押出し力Pw2と反力であるFp1との合計と釣り合っているため、Pw2を求めることにより、当該領域をPSからCSへ押出す力Fp2を求めることができる。このFp2が、さらにPS寄りの隣の領域の反力として求めることができる。
以降、同様の計算を繰り返すことにより、炉長方向の所望の位置の領域における反力を求めることができる。
【0028】
ちなみに、側圧転化により生じる最大押し出し力については、乾留後のコークスケーキと炉壁との間の間隙から、コークスケーキ押出し時の側圧転化率を求め、この側圧転化率から最大押し出し圧力を算出(例えば、特開平8−283730号公報を参照)し、この最大押し出し圧力に対して、当該領域の側壁面積を乗じた値に、摩擦係数を乗じることにより、当該領域の最大押し出し力を、求めることができる。
また、上記の乾留後のコークスケーキと炉壁との間の間隙については、伝熱計算(例えば、「鉄と鋼」vol.90(2004),No.9, P.728-733を参照)により、求めることができる。
【0029】
なお、押出し用油圧シリンダにより試験用のコークスケーキ1に押出し力を作用する際には、コークスケーキ1に作用する反力Frが一定になるように、反力付加用油圧シリンダを制御する。上述したように、この一定とする反力の設定値を変更(この反力の設定値により押出し力も変化する)することにより、実コークス炉におけるコークスケーキ1の炉長方向の想定位置を変えることができ、突起部が炉長方向の任意の位置にある場合での、コークス押出負荷を評価することができる。
【0030】
また、コークスケーキ1の上部に積載する錘の質量を変えることにより、実コークス炉におけるコークスケーキ1の炉高方向の想定位置を変えることができ、炉高方向の任意の位置でのコークス押出負荷を評価することができる。すなわち、コークスケーキ1の炉高方向の想定位置に対して、当該位置よりも上部のコークスケーキ1の質量の錘を積載することで、コークスケーキ1の炉高方向の想定位置を変えることができる。ここで、錘の質量は、コークスケーキの嵩密度と実コークス炉で想定しているコークスケーキの高さにより設定することができる。
【0031】
上記の突起を側面パネルに取付けて、全空隙率の異なるコークスケーキの押出し試験を実施して得られたコークス押出し力(=押力Fp−反力Fr)の最大値(突起乗り越え力)と、コークスケーキの全空隙率との関係を
図2に示す。
図2から、コークスケーキの全空隙率と突起乗り越え力の間には、下記の式(1)に示す関係があることを見出した。
突起乗り越え力(kN)=−4.17×[全空隙率(%)]+176.7 ・・・(1)
【0032】
次に、原料石炭の配合ごとに、乾留後のコークスケーキの全空隙率をX線CTなどで実測するには手間がかかるため、原料石炭の乾留後の全空隙率を、操業条件や石炭の性状から推定する方法について検討した。
実操業では、装入炭の水分量や揮発分含有量がコークス押出し力に影響するとされていることから、石炭の揮発分含有量VM及び石炭の炭化室への装入嵩密度BDが、炭化室内のコークスケーキの全空隙率と関連があるのではないかと考え、まず、これらの関係について調べた。
【0033】
前記のように、コークスケーキ押出し試験に当たっては、原料石炭の含水量を調整して原料石炭の装入嵩密度BDを変化させる方法及び揮発分含有量VMの異なる原料石炭を用いる方法により、空隙率の異なる複数のコークスケーキを作製した。
そこで、コークスケーキ作製の際に用いたBD及びVMのデータと、作製されたコークスケーキの全空隙率の測定データから、全空隙率とBDとの関係及び原料石炭のVMとの関係を調べた。
【0034】
図3(a)、
図3(b)に、BDあるいはVMに対する全空隙率の関係をプロットした結果を示す。
図3(a)に示すように、BDが低下すると全空隙率が増加する傾向が認められるが、全空隙率を推定できる関係を有するとは言えない。また、
図3(b)に示すように原料石炭のVMとの間には明瞭な相関関係は認められない。
【0035】
BDとVMは、全空隙率に対してそれぞれ個別には特定の関係が認められなかったので、全空隙率はBDとVMの両要因が影響すると考え、下記の式(2)に示す線形結合で表記できると仮定した。
全空隙率(%)=−k
1×[BD(t/m
3)]+k
2×[VM(%)]+k
3 ・・・(2)
【0036】
ここで、式(2)の各係数は、コークスケーキ作製の際に用いたBD及びVMのデータと、作製されたコークスケーキの全空隙率の測定データから、重回帰分析を適用して求めることができる。
重回帰分析で求められた結果を式(3)に示す。
全空隙率(%)=−47.18×[BD(t/m
3)]+0.834×[VM(%)]+48.64 ・・(3)
【0037】
上記コークス押出し試験の際に作製した、原料石炭の装入嵩密度(BD)及び揮発分含有量(VM)のデータを用いて、式(3)で推定した全空隙率と、X線CT画像から求められた全空隙率(実測)の関係を
図4に示すが、両者の間には決定係数(R
2)0.73の良好な対応関係が認められた。
【0038】
次に、式(3)で推定した全空隙率を上記式(1)に適用して算出した突起乗り越え力(推定)と、上記押出試験装置で測定された突起乗り越え力(実測)の関係を
図5に示すが、両者の間には決定係数(R
2)0.80の良好な対応関係が認められた。
【0039】
これにより、実コークス炉炭化室における炉壁プロファイルの測定データから突起部の存在が認められた場合、原料石炭の揮発分含有量VMと装入嵩密度BDから式(3)を用いて全空隙率を推定し、推定された全空隙率から式(1)を用いて突起による炉幅狭窄部を通過するのに必要な力(突起乗り越え力)を推定することができる。
【0040】
図2を求めたコークス押出負荷測定試験では、突起の大きさ、試験用コークスケーキに作用させる反力とコークスケーキ上部に積載する錘の質量(荷重)を一定の条件としたが、さらに、突起の厚みhを種々変えた突起を作製し、同様の測定試験を行うことにより、突起の大きさと関連させて押出負荷との関係を求めることができる。
【0041】
また、炉壁に存在する突起部は、コークス炉炭化室の炉壁の炉長方向および炉高方向の存在位置によって、押出負荷に与える影響が変化するため、反力と荷重を想定位置に応じたものに変えて同様の測定試験を実施しておけば、突起部の炉壁面内の存在位置(炉壁の炉長方向および炉高方向の位置)と関連させて押出負荷との関係を求めることができる。
このようにすれば、側壁に存在する個々の突起の押出負荷への影響を、その大きさや存在位置を考慮して、より正確に推定することができる。また、突起が2箇所以上の場合、それぞれの突起の大きさや存在位置を考慮して、それぞれの突起乗り越え力を推定した値を合計することで、求めることができる。
【0042】
なお、コークス炉炭化室の炉壁面の突起の位置やサイズについては、例えば、特許第3590509号に記載されているような内壁観察装置で撮像し、撮像された画像中に示されたレーザースポットのプロファイルから、特許第4262281号に記載された方法に従い、炉壁表面のコンタマップ(等高線表示)を作成することにより、求めることができる。
【0043】
次に、上記で推定した突起乗り越え力に基づいて、全体のコークスケーキ押出負荷を推定する方法について述べる。
全体のコークスケーキ押出負荷は、実炉の炉壁に突起が形成されている箇所の突起乗り越え力と、突起が形成されていない健全な箇所の側圧転化により生じる最大押出し力との、合計により求めることができる。
【0044】
具体的には、炭化室の炉壁面を炉長さ方向および炉高さ方向の複数の領域(p、q)に区分けし、炭化室の炉壁面のプロファイルから区分けした領域ごとの凹凸情報を求め、区分けした領域に突起(凸部)がある場合には、コークスケーキの押出し時に、その突起(凸部)によってコークスケーキが受ける突起乗り越え力を推定する。
一方、区分けした領域に突起(凸部)がない場合には、側圧転化により生じる最大押し出し力を算出する。なお、側圧転化により生じる最大押出し力の算出方法については、上述の通りである。
なお、複数の領域(p、q)としては、炉長さ方向にp個、炉高さ方向にq個に区分され、合計でp×q個の領域からなる。ちなみに、p、qともに、正の整数であり、目安としては、10個以上とすることが好ましい。
【0045】
このようにして、すべての領域について、区分けした領域に突起(凸部)がある場合には突起乗り越え力を求め、区分けした領域に突起(凸部)がない場合には側圧転化により求まる最大押し出し力を求め、すべての領域を合計することで、全体のコークスケーキ押出負荷を推定することができる。
詳細には、同じ炉高さの領域において、上記に記載した通り、最もCS寄りの領域の力バランスを計算し、順次、PS寄りの隣の領域の力バランスを求めることで、各領域の最大押出し力Fpおよび反力Frが求まり、従って、各領域のコークス押出し力(=Fp−Fr)が求まる。
また、途中の領域に突起(凸部)がある場合は、当該領域の最大押出し力Fpは、上記の突起乗り越え力を採用する。
同様の計算を、すべての炉高方向についても行い、すべての領域(p×q個)を合計することで、全体のコークスケーキ押出負荷を推定することができる。
【0046】
以上のように、本発明は、原料石炭の充填装入嵩密度と揮発分含有量から、炭化室炉壁に存在する突起部をコークスケーキが乗り越える場合に必要な乗り越え力を容易に推定でき、これにより全体のコークスケーキ押出負荷を容易に推定することができる。