特許第5776681号(P5776681)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776681
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/06 20060101AFI20150820BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20150820BHJP
   F02M 63/00 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   F02D41/06 325
   F02D41/34 C
   F02M63/00 P
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-286109(P2012-286109)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-126045(P2014-126045A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2014年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100095441
【弁理士】
【氏名又は名称】白根 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100119976
【弁理士】
【氏名又は名称】幸長 保次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100172580
【弁理士】
【氏名又は名称】赤穂 隆雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(74)【代理人】
【識別番号】100134290
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 将訓
(72)【発明者】
【氏名】川辺 敬
(72)【発明者】
【氏名】平石 文昭
(72)【発明者】
【氏名】村上 信明
【審査官】 立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−224699(JP,A)
【文献】 特開2012−067639(JP,A)
【文献】 特開2005−113693(JP,A)
【文献】 特開2005−307916(JP,A)
【文献】 特開2005−226529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00−41/40
F02M 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒にそれぞれ設置されて各筒内へ直接燃料を噴射する第1のノズルと、前記各気筒の吸気ポートにそれぞれ設置されて前記吸気ポートへ燃料を噴射する第2のノズルと、前記各気筒における燃料噴射を制御する制御装置と、を備えるエンジンであって、
前記制御装置は、このエンジンの始動制御における前記各気筒の最初の点火が、奇数番目である気筒の最初の燃料噴射を前記第1のノズル及び前記第2のノズルの一方で実施し、偶数番目である気筒の最初の燃料噴射を前記第1のノズル及び前記第2のノズルの他方で実施するとともに、すべての気筒の初爆が完了した後、一定の運転条件が満たされるまですべての気筒に対して前記第1のノズルから燃料を噴射する
ことを特徴とするエンジン。
【請求項2】
前記制御装置は、最初の点火が前記偶数番目である気筒に対する最初の燃料噴射を前記第1のノズルで実施する
ことを特徴とする請求項1に記載されたエンジン。
【請求項3】
前記制御装置は、前記一定の運転条件が満足された後、すべての気筒に対して前記第2のノズルから燃料を噴射する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたエンジン。
【請求項4】
前記一定の運転条件は、このエンジンの冷却水の温度が一定値以上であること、または、前記エンジンの回転数が目標回転数以上であること、を含む
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載されたエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒内直接噴射およびポート噴射の2系統の燃料噴射ノズルを有し、始動をする際にこれらを使い分ける燃料噴射制御を行なうエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
筒内噴射用燃料噴射弁と吸気ポート噴射用燃料噴射弁とを備える内燃機関がある。運転状態に応じてこれら2種類の噴射弁を使い分けることで、燃費の向上を図っている。内燃機関の始動時には、機関温度が低い、いわゆる「冷態」であることもあり、燃費の気化が進まないため燃焼状態が安定しない。筒内噴射用燃料噴射弁から噴射させる燃料の圧力を高圧にすることによって燃料の気化が促進されることを期待するが、内燃機関が冷態である場合は、残圧が無いことが多く、燃料の噴射圧力を十分に高くするためにはしばらく時間を要する。
【0003】
特許文献1に記載された内燃機関は、気筒内に燃料を直接噴射供給するメインインジェクタ、および吸気通路内に燃料を噴射供給するサブインジェクタを有する。この内燃機関の燃料噴射制御装置は、圧力センサで測られた燃料噴射圧力が所定圧力よりも低い場合、および、温度センサによって測られたエンジン冷却水の温度が所定温度よりも低い場合、少なくともサブインジェクタから吸気行程において燃料噴射を実行する。そして、噴射された燃料の圧力が低く粒径が大きくても気筒内に燃料が供給されるまでに気化して空気と混合されることが、記載されている。
【0004】
特許文献2に記載された内燃機関は、気筒内に燃料を噴射するための筒内噴射用インジェクタと、吸気通路内に燃料を噴射するための吸気通路噴射用インジェクタとを備える。この内燃機関の制御装置は、内燃機関を始動させる際、内燃機関が温間である場合は筒内噴射用インジェクタのみから燃料を噴射し、内燃機関が冷間である場合は吸気通路噴射用インジェクタのみから燃料を噴射させる。筒内噴射用インジェクタによる燃料噴射は、圧縮行程で行われ、吸気通路噴射用インジェクタによる燃料噴射は、吸気行程で行われる。冷間であっても燃料を吸気通路に噴射することで、燃料の気化が促進されることが特許文献1と同様に記載されている。
【0005】
特許文献3に記載された内燃機関は、各気筒の吸気通路に配置されたポート噴射弁と、少なくとも2つの気筒に配置された筒内噴射弁とを備える。筒内噴射弁は、任意の1つの気筒、及びこの気筒が圧縮行程以外または膨張行程以外となるときに圧縮行程または膨張行程となるように配置された気筒にそれぞれ設置されている。この内燃機関の制御装置は、機関を始動させる始動要求があった場合、吸気行程および排気行程の気筒にポート噴射弁で燃料を噴射するとともに圧縮行程または膨張行程の気筒に筒内噴射弁で燃料を噴射する。このように構成されていることで、クランクシャフトがどの角度で停止していてもエンジン始動の初回のサイクルで筒内噴射弁によって燃料が噴射された気筒から速やかに初爆を得ることで機関を素早く始動することが記載されている。
【0006】
この特許文献3には、直列4気筒の内燃機関においてすべての気筒に筒内噴射弁とポート噴射弁とを備えることも記載されている。この内燃機関では、機関を始動させる始動要求があった時点で、クランクシャフトの回転角度によらずに2つの気筒が必ず圧縮行程および膨張行程にあることで、より強力な初爆を得ている。また、同じ技術をV型6気筒エンジンに適用した例も記載されている。ある1つの気筒及び、この気筒に対してクランク角において360°位相がずれている気筒のそれぞれに筒内噴射弁を配置することで、初回のサイクルで確実に初爆を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−176574号公報
【特許文献2】特開2006−258017号公報
【特許文献3】特開2012−67639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び特許文献2では、エンジンが冷めた冷態において始動させる場合、吸気通路噴射用インジェクタ(サブインジェクタ)から燃料噴射している。しかしながら、冷態から始動させる場合、吸気通路噴射用インジェクタから噴射される燃料は、吸気ポートの内面に付着してしまい、供給された量よりもダイリューション(希釈)されてしまう。そのため、本来必要な濃度の噴射燃料を得るためには、より多くの燃料を噴射しなければならない。一般にポート噴射を行うエンジンにおいて冷態始動させる場合、燃料が十分に気化される時間を取るために、まず全気筒に非同期で燃料噴射をしてからさらに各気筒に順番に燃料噴射を行う。このように、ポート噴射によってエンジンを冷態始動させる場合、燃焼に寄与する以上に多くの燃料を消費してしまう。
【0009】
また、特許文献3では、アイドリングストップ後の再始動、すなわちエンジンが暖まった温態における始動を対象としており、始動のための燃料は筒内噴射弁から供給される。始動開始と同時に筒内噴射弁で燃料を噴射させる場合、エンジンの回転力が足りず、燃料の噴射圧力を十分に高くすることができない。そのため、燃料の粒径が小さくならない、つまり霧化し難い。その結果、排気ガス中のスモークが増えてしまう。また、燃料の圧力が低いと、噴射された燃料が拡散され難く、燃料の密度分布にもばらつきが生じやすい。
【0010】
そこで、本発明は、吸気ポート及び内筒へ燃料を噴射するノズルを各気筒に有しているエンジンを始動する際に、消費される燃料を低減するエンジンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る一実施形態のエンジンは、第1のノズルと第2のノズルと制御装置とを備えているエンジンである。第1のノズルは、複数の気筒にそれぞれ設置され、各筒内へ直接燃料を噴射する。第2のノズルは、各気筒の吸気ポートにそれぞれ設置され、吸気ポートへ燃料を噴射する。制御装置は、各気筒における燃料噴射を制御する。そして、この制御装置は、エンジンの始動制御における各気筒の最初の点火が、奇数番目である気筒の最初の燃料噴射を第1のノズル及び第2のノズルの一方で実施し、偶数番目である気筒の最初の燃料噴射を第1のノズル及び第2のノズルの他方で実施するとともに、すべての気筒の初爆が完了した後、一定の運転条件が満たされるまで、すべての気筒に対して第1のノズルから燃料を噴射する。
【0012】
この場合、制御装置は、最初の点火が偶数番目である気筒に対する最初の燃料噴射を第1のノズルで実施することが好ましい。また、制御装置は、一定の運転条件が満足された後、すべての気筒に対して第2のノズルから燃料を噴射する。
【0013】
このとき一定の運転条件は、このエンジンの冷却水の温度が一定値以上であること、または、このエンジンの回転数が目標回転数以上であること、を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るエンジンによれば、最初の点火の順番が奇数番目である気筒に対して最初の燃料噴射を第1のノズルから行った場合、最初の点火の順番が偶数番目である気筒に対して最初の燃料噴射を第2のノズルから行い、最初の点火の順番が偶数番目である気筒に対して最初の燃料噴射を第1のノズルから行った場合、最初の点火の順番が奇数番目である気筒に対して最初の燃料噴射を第2のノズルから行なう。上記のどちらの場合でも、第1のノズルで燃料が噴射されるタイミングは、連続しないので、第1のノズルから噴射される燃料の圧力が十分に高い圧力に達している。
【0015】
エンジンの始動制御において第1のノズルから噴射された燃料が適正に霧化されるとともに、また筒内噴射されることによって余分な燃料を噴射することがなく、エンジンを始動させることができる。吸気ポートに第2のノズルから燃料が噴射された気筒と、筒内に第1のノズルから燃料が噴射された気筒とが交互に点火されるので、筒内噴射するための燃料の圧力の変動も小さく、第1のノズルから噴射される燃料の圧力を高く維持しやすい。第2のノズルから吸気ポートへ燃料を噴射させることによって燃料が当該気筒の筒内へ入るえ前に気化されるので、始動時に燃料に点火しやすくなる。また、第1のノズルから筒内へ噴射された燃料は、全て燃焼に利用される。これらの結果、エンジンの回転数が始動後の早い段階で安定し、また、目標回転数にも到達しやすい。したがって、エンジンの始動時の燃料の消費量を削減することができる。
【0016】
最初の点火が偶数番目である気筒に対する最初の燃料噴射を制御装置が第1のノズルで実施する発明のエンジンによれば、第1のノズルで燃料を噴射するために必要な圧力を得るための十分な時間が確保できるので、第1のノズルから噴射される燃料が筒内で適正に霧化され、エンジンを始動させることができる。
【0017】
また、すべての気筒の初爆が完了したのち、一定の運転条件が満足されるまで、制御装置がすべての気筒に対して第1のノズルから燃料を噴射する発明のエンジンによれば、各気筒の2回目以降の燃料噴射を第1ノズルによる筒内噴射になるので、始動直後の燃焼安定性を高めることができる。早い段階でエンジン回転数が目標回転数に達するので、エンジンの始動時に要する燃料が軽減される。第1のノズルから燃料が噴射される場合、圧縮行程で行われるので、燃料が霧化しやすく、燃焼状態が改善される。また、第1のノズルから噴射される燃料は、筒内へ直接噴射されるので、余分な燃料消費を抑制できる。
【0018】
一定の運転条件が満たされた後、全ての気筒に対して制御装置が第2のノズルから燃料を噴射させる発明のエンジンによれば、第2のノズルで行われるポート噴射の方が第1のノズルで行われる筒内噴射よりも、エンジンの出力を安定させ易い。特に微小なパルス幅の制御が求められるアイドル運転において、エンジンの出力制御に有効である。
【0019】
一定の運転条件に、エンジンの冷却水の温度が一定値以上であることと、エンジン回転数が目標回転数以上であることを含む発明のエンジンによれば、これらの条件のどちらかを満たしていれば、第2のノズルで吸気ポートに噴射された燃料が霧化しやすい。第1のノズルで筒内に噴射された燃料によるスモーク(HC(炭化水素))の発生量が確実に減る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る第1の実施形態のエンジンを模式的に示す図。
図2図1のエンジンの始動制御において、各気筒の行程、燃料噴射、および点火のタイミングを示す図。
図3図1のエンジンの始動制御において、各気筒の行程、燃料噴射、および点火のタイミングを示す図。
図4図1のエンジンの始動制御を示すフローチャート。
図5】本発明に係る第2の実施形態のエンジンを模式的に示す図。
図6図5のエンジンの始動制御において、各気筒の行程、燃料噴射、および点火のタイミングを示す図。
図7図5のエンジンの始動制御において、各気筒の行程、燃料噴射、および点火のタイミングを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る第1の実施形態のエンジン1について、図1から図4を参照して説明する。このエンジン1は、車両に搭載されるエンジン、特にアイドリングストップ運転が可能である車両やハイブリッド車両に搭載されるエンジンとして採用される。図1に示すエンジン1は、直列4気筒エンジンであって、以下に説明する。エンジン1は、4つの気筒#1〜#4と、各気筒#1〜#4の筒内A1〜A4へ直接燃料を噴射する第1のノズルDi1〜Di4と、各気筒#1〜#4の吸気ポートB1〜B4へ燃料を噴射する第2のノズルPi1〜Pi4と、各気筒#1〜#4における燃料噴射を制御する制御装置2とを備える。本明細書及び各図中において、第1のノズルDi1〜Di4から燃料を噴射させることを「Di噴射」、第2のノズルPi1〜Pi4から燃料を噴射させることを「Pi噴射」と称することもある。
【0022】
燃料噴射制御を実行する制御装置(電子制御装置(ECU))2は、車両が停車していることを検知するためのセンサ21、アイドリングストップ制御が働いていることを検出するアイドルスイッチ(ID_SW)22、エンジン1の冷却水の温度を計測する温度センサ23、クランク角度がどの位置であるか検知する角度センサ24などと接続されている。車両が停車していることを検出するためのセンサ21として、パーキングブレーキ、フットブレーキ、車速センサ、変速機がニュートラルであるかを検出するセンサ、アクセルペダルポジションセンサなどを単独で又は複合的に採用することができる。
【0023】
第1の実施形態のエンジン1は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程を有した直列4気筒の4サイクルエンジンであり、振動及びトルクバランスなどを考慮して、各気筒が#1→#3→#4→#2の順にそれぞれ圧縮行程の終わりで点火されるように、各気筒の行程と点火順序が決められている。図2及び図3において、圧縮行程と膨張行程の間に印された星印は、そのタイミングで点火が行われることを意味している。
【0024】
この制御装置2は、エンジン1の始動制御における各気筒#1〜#4の最初の点火が、奇数番目である気筒の最初の燃料噴射を第1のノズルまたは第2のノズルの一方で実施し、偶数番目である気筒の最初の燃料噴射を第1のノズル及び第2のノズルの他方で実施する。第1の実施形態では、図2及び図3に示すように、奇数番目の気筒#1及び気筒#4に対する最初の燃料噴射を第2のノズルPi1、Pi4で実施し、偶数番目である気筒#3及び気筒#2に対する最初の燃料噴射を第1のノズルDi3,Di2で実施する。
【0025】
また、本実施形態の場合、エンジン1の始動制御における各気筒#1〜#4の最初の燃料噴射を、始動開始の時に排気行程および圧縮行程に位置した気筒に対して第2のノズルから実施し、始動開始の時に膨張行程および吸気行程に位置した気筒に対してそれぞれの圧縮行程で第1のノズルから実施するように、構成されている。
【0026】
具体的に例をあげると、図2及び図3に示すように、始動開始の時に排気行程に位置している気筒#1および圧縮行程に位置している気筒#4に対して、第2のノズルPi1,Pi4から燃料噴射を行ない、始動開始の時に膨張行程に位置している気筒#3および吸気行程に位置している気筒#2に対して、それぞれの圧縮行程で第1のノズルDi3,Di2から燃料噴射を行なう。
【0027】
このとき、図2及び図3に示すように、始動開始の時に排気行程に位置した気筒#1および圧縮行程に位置した気筒#4に対して第2のノズルPi1,Pi4から行われる燃料噴射は、開始と同時に行われる。この燃料噴射は、エンジン1のクランク角度に対応していない非同期噴射である。
【0028】
また図2及び図3に示すように、制御装置2は、すべての気筒#1〜#4の初爆が完了すると、一定の運転条件が満たされるまで、すべての気筒#1〜#4に対して第1のノズルDi1〜Di4から燃料を噴射させる。そして、一定の運転条件が満足されると、制御装置2は、すべての気筒#1〜#4に対して第2のノズルPi1〜Pi4から燃料を噴射する。ここで、一定の運転条件は、エンジン1の冷却水の温度が一定値以上であること、または、エンジン1の回転数が目標回転数以上であることを含む。
【0029】
以下にこの制御装置2が実行する始動制御について説明する。制御装置2は、始動制御が開始されると、図4に示すように、車両が停車中であるかセンサ21の信号を基に判断(S1)する。停車中である場合、さらにアイドルスイッチ22がONであるか判断(S2)する。アイドルスイッチ22がONである場合、すなわちエンジン1が停止している場合、温度センサ23で計測された温度が、所定値以下であるか判断(S3)する。この場合、温度センサ23に設定される所定値は、例えば、約20℃である。S1で停車中ではない場合、またはS2でアイドルスイッチ22がOFFである場合、またはS3で冷却水の温度が所定値以上である場合、いずれも通常の始動制御によって、エンジン1が始動(S4)される。
【0030】
S3において冷却水の温度が所定値以下である場合、すなわちエンジン1が冷態である場合、始動においてクランキングを行い(S5)、角度センサ24で検出されるクランク角度を基に各気筒#1〜#4がどの行程にあるかを識別(S6)する。
【0031】
識別された各気筒#1〜#4の行程のうち、排気行程および圧縮行程にあると判定された気筒に対し始動制御を開始するのと同時にPi噴射を実施する非同期噴射(S7)が行われる。例えば、図2及び図3に示すように始動開始の時に排気行程である気筒#1及び圧縮行程である気筒#4に対して、第2のノズルPi1,Pi4で同時に吸気ポートB1,B4に燃料噴射を行う。圧縮行程、膨張行程、および排気行程において、吸気弁は、閉じられている。したがって、噴射された燃料は、吸気ポートB1,B4内で気化される。Pi噴射が実施される気筒#1,#4は、図2及び図3に示すように、点火順序が1番目及び3番目である。
【0032】
また、図4のフローチャートに示されたように、非同期噴射された以外の気筒、すなわち気筒#3,#2は、それぞれ点火順序に合わせて第1のノズルDi3,Di2によって筒内A3,A2へ直接燃料が噴射(S8)される。図2及び図3において始動開始の時に膨張行程に位置した気筒、すなわち点火順序が2番目である気筒#3は、最初に訪れる圧縮行程、すなわち始動開始から第3サイクルの圧縮行程でDi噴射が行われる。また、図2及び図3において始動開始の時に吸気行程に位置した気筒、すなわち点火順序が4番目である気筒#2は、二度目に訪れる圧縮行程、すなわち始動開始から第5サイクルの圧縮行程でDi噴射が行われる。
【0033】
図2及び図3に示すように、点火順序に従って気筒#1の第2サイクルの終わりから点火が始まる。その結果、図2及び図3のいずれの場合も、Pi噴射された気筒(#1、#4)とDi噴射された気筒(#3、#2)が交互に点火されることとなる。Pi噴射された気筒とDi噴射された気筒が交互に点火される運転は、すべての気筒#1〜#4の点火が少なくとも一巡するまで継続される。
【0034】
すべての気筒#1〜#4に対する点火が少なくとも一巡すると、制御装置2は、一定の運転条件が満たされるまで、すべての気筒#1〜#4に対する燃料噴射を図3に示すようにDi噴射に切り換える。そして、一定の運転条件が満たされた場合は、すべての気筒#1〜#4に対する燃料噴射を図2に示すようにPi噴射に切り換える。本実施形態において、運転条件として監視されるのは、エンジン1の冷却水の温度およびエンジン回転数である。
【0035】
そこで、制御装置2は、すべての気筒#1〜#4に対する点火が一巡すると、まず温度センサ23の検出値を基にエンジン1の冷却水の温度が一定の値以上であるか判断(S9)する。冷却水の温度が一定の温度以上になっている場合、その時点でまだ排気行程を経ておらず、第2のノズル(Pi1〜Pi4)によって吸気ポート(B1〜B4)に燃料が噴射されていない気筒から順にPi噴射制御(Piシーケンシャル噴射)(S10)を開始し、アイドルモードに移行(S11)する。
【0036】
また、S9において冷却水温度が一定の値に達していなかった場合、制御装置2は、エンジン回転数が目標回転数よりも高くなったか判断(S12)する。エンジン回転数が目標回転数よりも高くなった場合、その時点でまだ排気行程を経ておらず、第2のノズル(Pi1〜Pi4)によって吸気ポート(B1〜B4)に燃料が噴射されていない気筒から順にPi噴射制御(Piシーケンシャル噴射)(S10)を開始し、アイドルモードに移行(S11)する。
【0037】
図2は、エンジン1の始動制御において、すべての気筒の点火が一巡する前に、第3サイクルで一定の運転条件(冷却水の温度が一定の温度以上であるか、エンジン回転数が目標回転数に達した場合)を満たしていた場合を示す。点火が一巡する間に、一定の運転条件が満たされた場合、制御装置2は、それまでDi噴射だった気筒#3,#2をPi噴射に切り換える。また、気筒#1にとって2巡目になる第6サイクルの終わりで行われる点火をPi噴射によるものとするために、第4サイクルの排気行程でPi噴射が実施される。気筒#2は、第3サイクルの時点で燃料噴射がまだ一度も行われていないので、第5サイクルの圧縮行程でDi噴射および点火が実施されてからPi噴射に移行する。そして、気筒#2は、第7サイクルの排気行程でPi噴射に移行する。
【0038】
図3は、エンジン1の始動制御においてすべての気筒#1〜#4に対する点火が一巡しても、一定の運転条件を満たしていない場合、すなわち冷却水の温度が一定値以下であり、かつ、エンジン回転数が目標回転数に満たない場合を示す。点火が一巡する間に、一定の運転条件が満たされない場合、制御装置2は、排気行程におけるPi噴射を中止し、その後の圧縮行程でDi噴射を実施する。つまり、図3において、第3サイクル及び第4サイクルで一定の運転条件に達していないと、気筒#1の第4サイクルの排気行程および気筒#3の第5サイクルの排気行程でPi噴射を実施せずに、すべての気筒#1〜#4をDi噴射(S13)に切り換える。そして、冷却水の温度が一定値以上になるかエンジン回転数が目標回転数を上回るまで、S9及びS12の判定を繰り返し、Di噴射(S13)が継続される。
【0039】
Di噴射が継続されたのち冷却水の温度が一定値以上になるかエンジン回転数が目標回転数に達すると、図4に示すようにPi噴射制御(S10)に切り換え、アイドルモードへ移行(S11)する。全ての気筒に対してDi噴射が実施されたのち、Pi噴射に切り換わる場合、一定の運転条件を満たした時点で排気行程を経ていない気筒について、順次Pi噴射に切り換える。図3おいて、第9サイクルで運転条件が一定の値以上に達した場合、その時点で排気行程を過ぎていた気筒は、気筒#1の第10サイクルおよび気筒#3の第11サイクルに示すように、直後の圧縮行程まではDi噴射を実施する。そして一定の運転条件に達した時点で、排気行程に達していなかった気筒#4,#2は、それぞれ第10サイクル及び第11サイクルの排気行程からPi噴射を開始する。
【0040】
以上のように筒内A1〜A4に燃料を直接噴射する第1のノズルDi1〜Di4と気筒の吸気ポートB1〜B4に燃料を噴射する第2のノズルPi1〜Pi4とを備えているエンジン1において、始動開始と同時に点火順序が1番目及び3番目の気筒(#1,#4)に対してPi噴射(ポート噴射)による非同期噴射を実施し、その他の気筒(#3,#2)に対して圧縮行程でDi噴射(直接噴射)を実施する。エンジン1を始動する際に、Pi噴射された気筒とDi噴射された気筒が交互に点火されることになる。Di噴射が含まれているので、冷態始動した場合でも、消費される始動燃料が低減され、かつHC(炭化水素)が軽減されるなど排ガス成分が改善される。またPi噴射を非同期噴射として始動開始の時に行い、その後、圧縮行程においてDi噴射が行われるので、Di噴射までの間にクランクシャフトは、少なくとも1回転する。その結果、Di噴射に必要な燃料圧力を確保することができるので、第1のノズルDiによって噴射された燃料は、確実に霧化される。
【0041】
なお、図2及び図3では、気筒#1から点火が始まるように図示されているが、点火順序は、常に気筒#1から始まらなければならないということはない。エンジン1が停止した状態のクランク角度に応じていずれの気筒#1,#2,#3,#4から点火を始めてもよい。ただし、各気筒#1,#2,#3,#4が直列に並んでいる場合、#1→#3→#4→#2→#1のように、どこから始まってもその次に点火される気筒は決まっている。
【0042】
本発明に係るエンジン1は、4気筒のこのエンジン1のみを搭載した車両においてエンジン1を冷態始動する場合の他に、エンジン1とともに駆動モータ及びバッテリを備えるハイブリッド車両においてエンジン1を冷態始動させる場合にも適用される。
【0043】
本発明に係る第2の実施形態のエンジン1について、図5から図7を参照して説明する。このエンジン1は、3気筒のエンジン1である点が、第1の実施形態のエンジン1と異なっている。第1の実施形態のエンジン1の構成と同じ機能を有する構成は、各図中において、同一の符号を付し、詳細な説明は、第1の実施形態における対応する記載を参照することとする。
【0044】
第1の実施形態のエンジン1は、図5に示すように3気筒の4サイクルエンジンであって、図6及び図7に示すように気筒#1から、#1→#2→#3→#1の順にそれぞれ圧縮行程の終わりで点火されるように、各気筒の行程および点火順序が決められている。第1の実施形態と同様に、図6及び図7において圧縮行程と膨張行程の間に印された星印は、各気筒#1〜#3の点火のタイミングを示している。このエンジン1は、複数の気筒#1〜#3にそれぞれ設置されて各筒内A1〜A3へ直接燃料を噴射する第1のノズルDi1〜Di3と、各気筒#1〜#3の吸気ポートB1〜B3にそれぞれ設置されて吸気ポートへ燃料を噴射する第2のノズルPi1〜Pi3と、これらを制御する制御装置2を備える。
【0045】
制御装置2は、エンジン1の始動制御装置における各気筒#1〜#3に対する最初の点火が、奇数番目である気筒、図6及び図7において1番目の気筒#1及び3番目の気筒#3、に対する最初の燃料噴射を第2のノズルPi1,Pi3で実施し、偶数番目である気筒、図6及び図7において2番目の気筒#2、に対する最初の燃料噴射を第1のノズルDi2で実施する。エンジン1が始動開始されるとき、気筒#1は排気行程に位置し、気筒#2は膨張行程に位置し、気筒#3は圧縮行程に位置している。なお、このエンジン1は3気筒であるので、厳密にはそれぞれの行程の開始時期に約60°の位相差がある。
【0046】
制御装置2は、エンジン1の始動制御が開始されると、それとほぼ同時に、各気筒の最初の点火が行われるとき奇数番目となる1番目に点火される気筒#1及び3番目に点火される気筒#3に対して第2のノズルPi1,Pi3でそれぞれの吸気ポートB1,B3に燃料を噴射する。この噴射時期は、エンジン1のクランク角度に対応していない非同期噴射である。偶数番目に点火される気筒#2は、第1のノズルDi2で筒内A2へ直接燃料噴射が行われ、したがって、気筒#2の圧縮行程において燃料噴射が行われる。
【0047】
なお、エンジン1の始動制御が開始されたときに、常に気筒#1が排気行程にあるとは限らない。点火順序が1番目になる気筒は、圧縮行程よりも前で膨張行程よりも後の行程であると、第2のノズルPi1〜Pi3で吸気ポートB1〜B3に噴射された燃料が筒内A1〜A3に吸気されて添加されるまでの間に気化する十分な時間が確保される。また、その結果、点火順序が2番目になる気筒#1〜#3に対して第1のノズルDi1〜Di3からその気筒の筒内A1〜A3へ燃料が噴射されるまで、すなわち2番目に点火される気筒の圧縮行程まで、1番目の気筒が添加されるまでよりもさらに時間が得られる。つまり、第1のノズルDi1〜Di3に必要な燃料の噴射圧力を確保する時間が得られる。
【0048】
このように、最初の点火が偶数番目となる気筒、本実施形態では気筒#2、に対して最初の燃料噴射を第1のノズルDi2で実施するので、燃料噴射に必要な圧力まで高めることができる。またPi噴射によって燃料が供給される気筒とDi噴射によって燃料が供給される気筒が交互に点火されるので、エンジン1を冷態始動させる場合、Pi噴射のみで始動される場合に比べて炭化水素(HC)の排出量が低減されるとともに、Di噴射のみで始動される場合に比べてオイルダイリューションも低減される。
【0049】
また、このエンジン1の制御装置2は、全ての気筒#1〜#3に対する初爆が完了したときに一定の運転条件が満たされていない場合、全ての気筒#1〜#3に対する燃料噴射を第1のノズルDi1〜Di3によるDi噴射にし、一定の運転条件が満たされた場合、全ての気筒#1〜#3に対する燃料噴射を第2のノズルPi1〜Pi3によるPi噴射にする。図6は、全ての気筒#1〜#3の初爆が完了したときに一定の運転条件が満たされていた場合を示し、図7は、全ての気筒#1〜#3の初爆が完了したときに一定の運転条件が満たされていない場合を示している。図7では、各気筒#1〜#3の2回目の燃料噴射が全てDi噴射で行われている。
【0050】
第2の実施形態では、第1の実施形態と同様に、一定の運転条件として、エンジン1の冷却水の温度が一定値以上であること、または、エンジン1の回転数が目標回転数以上であることを監視しており、これらが満たされた場合、全ての気筒#1〜#3の燃料噴射を第2のノズルPi1〜Pi3によるPi噴射に切り換える。Pi噴射の方がDi噴射よりも点火のタイミングに対して早く燃料を噴射しなければならないので、Di噴射からPi噴射に切り換わる場合、図7に示すようにそれぞれが混在することがある。図7では、エンジン回転数が目標回転数を超えたことを検出して燃料噴射をPi噴射に移行している。
【0051】
また、第2の実施形態における制御装置2に因るエンジン1の始動制御は、第1の実施形態の場合と同じであり、したがって、図4に示したフローチャートによって同様に制御される。なお、図4のS3において、エンジン1が冷態であるか否かを判定している。本発明の場合、点火順序が奇数番目の気筒に対する最初の燃料噴射を第2のノズルPi1〜Pi3で行い、点火順序が偶数番目の気筒に対する最初の燃料噴射を第1のノズルDi1〜Di3で行うので、冷態始動であるか温態始動であるかを問わずに、Pi噴射した燃料が気化されるまでの時間が十分にあり、エンジン1の始動を円滑に行えるとともに、偶数番目に行われるDi噴射のための燃料圧力も十分に確保できる。冷態始動と温態始動で燃料噴射の制御を同じ制御フローに基づいて行うことができるため、制御が簡素化される。
【符号の説明】
【0052】
1…エンジン、2…制御装置、#1〜#4…気筒、A1〜A4…筒内、B1〜B4…吸気ポート、Di1〜Di4…第1のノズル、Pi1〜Pi4…第2のノズル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7