特許第5776731号(P5776731)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776731
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】ドライブトレインの試験システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20150820BHJP
【FI】
   G01M17/00 Z
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-128204(P2013-128204)
(22)【出願日】2013年6月19日
(65)【公開番号】特開2015-4515(P2015-4515A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2015年4月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】秋山 岳夫
(72)【発明者】
【氏名】澤田 喜正
【審査官】 谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−176978(JP,A)
【文献】 特開2006−184041(JP,A)
【文献】 特開2011−107051(JP,A)
【文献】 特開2011−2454(JP,A)
【文献】 特開2005−61889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/007
G01M 15/00
G01M 13/02
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試体の出力軸に連結された動力計と、
指令信号に応じた電力を前記動力計に供給するインバータと、
前記出力軸に作用する軸トルクを検出する軸トルク検出器と、
前記動力計の回転速度を検出する速度検出器と、を備えたドライブトレインの試験システムであって、
前記供試体の出力軸に連結される仮想的な差動装置の一対の出力軸それぞれに接続される第1タイヤの速度値及び第2タイヤの速度値を算出するタイヤ速度演算部と、
前記第1、第2タイヤを駆動輪として走行する仮想的な車両の速度値を算出する車両速度演算部と、
前記第1、第2タイヤ速度値及び前記車両速度値に基づいて、前記第1タイヤと仮想的な第1路面との間の摩擦力によって発生する第1車両駆動トルク値並びに前記第2タイヤと仮想的な第2路面との間の摩擦力によって発生する第2車両駆動トルク値を算出する車両駆動トルク演算部と、
前記軸トルク検出器の検出値に基づいて前記差動装置の一対の出力軸それぞれに発生する第1デフトルク値及び第2デフトルク値を算出するデフトルク演算部と、
前記第1及び第2タイヤ速度値に基づいて算出された速度指令値と前記速度検出器の検出値との偏差がなくなるように指令信号を出力する速度制御装置と、を備え、
前記タイヤ速度演算部は、前記第1デフトルク値及び前記第1車両駆動トルク値に基づいて前記第1タイヤ速度値を算出し、前記第2デフトルク値及び前記第2車両駆動トルク値に基づいて前記第2タイヤ速度値を算出することを特徴とするドライブトレインの試験システム。
【請求項2】
前記デフトルク演算部は、前記差動装置のトルク分配機能を模して、前記軸トルク検出器の検出値に所定の第1トルク分配比及び第2トルク分配比を乗算することによって前記第1デフトルク値及び前記第2デフトルク値を算出することを特徴とする請求項1に記載のドライブトレインの試験システム。
【請求項3】
前記デフトルク演算部は、前記軸トルク検出器の検出値に前記第1トルク分配比及び前記差動装置の所定のギア比を乗算することによって前記第1デフトルク値を算出し、前記軸トルク検出器の検出値に前記第2トルク分配比及び前記ギア比を乗算することによって前記第2デフトルク値を算出することを特徴とする請求項2に記載のドライブトレインの試験システム。
【請求項4】
前記速度制御装置は、前記第1タイヤ速度値及び前記第2タイヤ速度値の平均値に前記差動装置の所定のギア比を乗算して得られる値を速度指令値とすることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のドライブトレインの試験システム。
【請求項5】
前記供試体の出力軸の回転を減速させる制動装置と、
前記軸トルク検出器の検出値、前記速度検出器の検出値、及び前記インバータへの指令信号の値に基づいて、前記出力軸の減速トルク値を算出する減速トルク演算部と、をさらに備えることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載のドライブトレインの試験システム。
【請求項6】
仮想的な制動装置によって前記差動装置の前記第1タイヤ側の出力軸に発生する第1ブレーキトルク値を算出する第1ブレーキトルク演算部と、
前記制動装置によって前記差動装置の前記第2タイヤ側の出力軸に発生する第2ブレーキトルク値を算出する第2ブレーキトルク演算部と、をさらに備え、
前記タイヤ速度演算部は、前記第1デフトルク値から前記第1車両駆動トルク値及び前記第1ブレーキトルク値を減算して得られる値に基づいて前記第1タイヤ速度値を算出し、前記第2デフトルク値から前記第2車両駆動トルク値及び前記第2ブレーキトルク値を減算して得られる値に基づいて前記第2タイヤ速度値を算出し、
前記第1ブレーキトルク演算部は、所定のブレーキトルク指令値を上限値とし、当該上限値より小さくかつ前記第1タイヤ速度値が0になるように前記第1ブレーキトルク値を算出し、
前記第2ブレーキトルク演算部は、所定のブレーキトルク指令値を上限値とし、当該上限値より小さくかつ前記第2タイヤ速度値が0になるように前記第2ブレーキトルク値を算出することを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のドライブトレインの試験システム。
【請求項7】
前記第1ブレーキトルク演算部は、前記ブレーキトルク指令値を所定の変化率以下に制限するとともに、当該制限された第1ブレーキトルク値を上限値とし、当該上限値より小さくかつ前記第1タイヤ速度値が0になるように前記第1ブレーキトルク値を算出し、
前記第2ブレーキトルク演算部は、前記ブレーキトルク指令値を所定の変化率以下に制限するとともに、当該制限された第2ブレーキトルク値を上限値とし、当該上限値より小さくかつ前記第2タイヤ速度値が0になるように前記第2ブレーキトルク値を算出することを特徴とする請求項5に記載のドライブトレインの試験システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライブトレインの試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ドライブトレインとは、エンジンで発生したエネルギーを駆動輪に伝達するための複数の装置の総称をいい、エンジン、クラッチ、トランスミッション、ドライブシャフト、プロペラシャフト、デファレンシャルギア、及び駆動輪などで構成される。ドライブトレインの試験システムでは、実際にエンジンでトランスミッションを駆動するとともに、その出力軸に接続されたダイナモメータを電気慣性制御することにより、適切な負荷トルクを出力軸に付与しながら、ドライブトレインの耐久性能や品質などが評価される。
【0003】
このような試験システムで採用されている電気慣性制御の多くは、例えば特許文献1に示されているように、車両慣性モーメントに相当する単一の慣性量のみが設定可能となっている。これは、実車両のタイヤがスリップせず常に路面にグリップして走行している状態を模擬していることに相当する。しかしながら、実際には雪面や氷面などタイヤが滑り易い路面が存在するが、特許文献1に示された試験システムでは、このような路面上でタイヤがスリップした状態を再現するのは困難である。
【0004】
特許文献2には、ドライブトレインが搭載される車両の動特性モデルに基づいて負荷トルクを算出する技術が開示されている。この動特性モデルは、タイヤのスリップ率及び車両に作用する垂直荷重に基づいて車両に作用する前後力を算出するスリップモデルを含んでおり、これにより、タイヤのスリップ挙動を考慮した負荷トルクを動力計で発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−74834号公報
【特許文献2】特開2005−61889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、以上のような試験システムは、試験対象に応じて様々な形式に分類される。例えば特許文献2の試験システムは、デファレンシャルギアまで備えた供試体を試験対象としたものであり、デファレンシャルギアの一対の出力軸に2つのダイナモメータを同軸に固定するため、その外観からT型と呼称される。このように2つのダイナモメータを備えたT型の試験システムでは、これらダイナモメータを独立して駆動することによって、左右両タイヤで異なった状態の路面を再現することができる。
【0007】
このようなT型の試験システムの他、デファレンシャルギアを備えない供試体を試験対象としたI型と呼称される試験システムも知られている。I型の試験システムでは、プロペラシャフトと同軸にダイナモメータを固定するため、供試体のエンジン及びプロペラシャフト、並びにダイナモメータは直線状に配置される。ところがI型の試験システムでは、T型の試験システムとは異なり、1つのダイナモメータしか利用しないため、T型の試験システムである上記特許文献2の技術をそのまま適用して、左右両タイヤで異なった状態の路面を再現することができない。
【0008】
本発明は、デファレンシャルギアを備えない供試体を試験対象とした所謂I型のドライブトレインの試験システムであっても、左右両タイヤで異なった状態の路面を再現できる試験システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するため本発明は、供試体の出力軸(例えば、後述のプロペラシャフトS)に連結された動力計(例えば、後述の動力計2)と、指令信号に応じた電力を前記動力計に供給するインバータ(例えば、後述のインバータ3)と、前記出力軸に作用する軸トルクを検出する軸トルク検出器(例えば、後述の軸トルクメータ5)と、前記動力計の回転速度を検出する速度検出器(例えば、後述のエンコーダ4)と、前記供試体の出力軸に連結される仮想的な差動装置の一対の出力軸それぞれに接続される第1タイヤの速度値(例えば、後述の左タイヤ速度値Vwl)及び第2タイヤの速度値(例えば、後述の右タイヤ速度値Vwr)を算出するタイヤ速度演算部(例えば、後述のタイヤ速度演算部62L,62R,62LB,62RB)と、前記第1、第2タイヤを駆動輪として走行する仮想的な車両の速度値(例えば、後述の車両速度値V)を算出する車両速度演算部(例えば、後述の車両速度演算部64)と、前記第1、第2タイヤ速度値及び前記車両速度値に基づいて、前記第1タイヤと仮想的な第1路面との間の摩擦力によって発生する第1車両駆動トルク値(例えば、後述の左車両駆動トルク値Fxl)並びに前記第2タイヤと仮想的な第2路面との間の摩擦力によって発生する第2車両駆動トルク値(例えば、後述の右車両駆動トルク値Fxr)を算出する車両駆動トルク演算部(例えば、後述の車両駆動トルク演算部63L,63R)と、前記軸トルク検出器の検出値に基づいて前記差動装置の一対の出力軸それぞれに発生する第1デフトルク値(例えば、後述の左デフトルク値Tdl)及び第2デフトルク値(例えば、後述の右デフトルク値Tdr)を算出するデフトルク演算部(例えば、後述のデフトルク演算部61,61A)と、前記第1及び第2タイヤ速度値に基づいて算出された速度指令値と前記速度検出器の検出値との偏差がなくなるように指令信号を出力する速度制御装置(例えば、後述の速度制御装置65)と、を備え、前記タイヤ速度演算部は、前記第1デフトルク値及び前記第1車両駆動トルク値に基づいて前記第1タイヤ速度値を算出し、前記第2デフトルク値及び前記第2車両駆動トルク値に基づいて前記第2タイヤ速度値を算出することを特徴とするドライブトレインの試験システム(例えば、後述の試験システム1,1A,1B)を提供する。
【0010】
(2)この場合、前記デフトルク演算部は、前記差動装置のトルク分配機能を模して、前記軸トルク検出器の検出値に所定の第1トルク分配比(例えば、後述の左トルク分配比Rl)及び第2トルク分配比(例えば、後述の右トルク分配比Rr)を乗算することによって前記第1デフトルク値及び前記第2デフトルク値を算出することが好ましい。
【0011】
(3)この場合、前記デフトルク演算部は、前記軸トルク検出器の検出値に前記第1トルク分配比及び前記差動装置の所定のギア比(例えば、後述のギア比Gd)を乗算することによって前記第1デフトルク値を算出し、前記軸トルク検出器の検出値に前記第2トルク分配比及び前記ギア比を乗算することによって前記第2デフトルク値を算出することが好ましい。
【0012】
(4)この場合、前記速度制御装置は、前記第1タイヤ速度値及び前記第2タイヤ速度値の平均値に前記差動装置の所定のギア比を乗算して得られる値を速度指令値とすることが好ましい。
【0013】
(5)この場合、前記試験システム(例えば、後述の試験システム1A)は、前記供試体の出力軸の回転を減速させる制動装置(例えば、後述のブレーキ装置7A)と、前記軸トルク検出器の検出値、前記速度検出器の検出値、及び前記インバータへの指令信号の値に基づいて、前記出力軸の減速トルク値(例えば、後述の減速トルク値DB_Trq)を算出する減速トルク演算部(例えば、後述の減速トルク演算部67A)と、をさらに備えることが好ましい。
【0014】
(6)この場合、前記試験システムは、仮想的な制動装置によって前記差動装置の前記第1タイヤ側の出力軸に発生する第1ブレーキトルク値(例えば、後述の左ブレーキトルク値DBl)を算出する第1ブレーキトルク演算部(例えば、後述の左ブレーキトルク演算部68LB,68LC)と、前記制動装置によって前記差動装置の前記第2タイヤ側の出力軸に発生する第2ブレーキトルク値(例えば、後述の右ブレーキトルク値DBr)を算出する第2ブレーキトルク演算部(例えば、後述の右ブレーキトルク演算部68RB)と、をさらに備え、前記タイヤ速度演算部は、前記第1デフトルク値から前記第1車両駆動トルク値及び前記第1ブレーキトルク値を減算して得られる値に基づいて前記第1タイヤ速度値を算出し、前記第2デフトルク値から前記第2車両駆動トルク値及び前記第2ブレーキトルク値を減算して得られる値に基づいて前記第2タイヤ速度値を算出し、前記第1ブレーキトルク演算部は、所定のブレーキトルク指令値(例えば、後述のブレーキトルク指令値DB_ref)を上限値とし、当該上限値より小さくかつ前記第1タイヤ速度値が0になるように前記第1ブレーキトルク値を算出し、前記第2ブレーキトルク演算部は、所定のブレーキトルク指令値(例えば、後述のブレーキトルク指令値DB_ref)を上限値とし、当該上限値より小さくかつ前記第2タイヤ速度値が0になるように前記第2ブレーキトルク値を算出することが好ましい。
【0015】
(7)この場合、前記第1ブレーキトルク演算部は、前記ブレーキトルク指令値を所定の変化率以下に制限するとともに、当該制限された第1ブレーキトルク値を上限値とし、当該上限値より小さくかつ前記第1タイヤ速度値が0になるように前記第1ブレーキトルク値を算出し、前記第2ブレーキトルク演算部は、前記ブレーキトルク指令値を所定の変化率以下に制限するとともに、当該制限された第2ブレーキトルク値を上限値とし、当該上限値より小さくかつ前記第2タイヤ速度値が0になるように前記第2ブレーキトルク値を算出することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
(1)本発明の試験システムでは、タイヤ速度演算部によって仮想的な差動装置を介して接続される仮想的な第1及び第2タイヤの速度値を算出し、これら第1及び第2タイヤ速度値に基づいて算出した指令値と動力計の回転速度とが一致するように速度制御装置によってインバータへの指令信号を決定する。また本発明では、仮想的な差動装置の機能を模擬すべくデフトルク演算部によって軸トルク検出器の検出値に基づいて、上記仮想的な差動装置の一対の出力軸それぞれに発生する第1デフトルク値及び第2デフトルク値を算出する。そして、単一の軸トルク検出器から得られた第1及び第2デフトルク値を入力として、タイヤ速度演算部による第1及び第2タイヤ速度値の演算と、車両速度演算部による仮想的な車両速度値の演算と、車両駆動トルク演算部による仮想的な第1及び第2車両駆動トルク値との3つの仮想的な物理量の演算を、第1タイヤ側と第2タイヤ側とで独立して連立させることによって、速度制御装置への指令値となる第1タイヤ速度値及び第2タイヤ速度値を算出する。これにより本発明では、差動装置を備えない供試体を試験対象とするI型の試験システムであっても、仮想的な第1タイヤと第2タイヤとで独立した演算を行い、左右両タイヤで異なった状態の路面を再現できる。
【0017】
(2)本発明では、差動装置のトルク分配機能を模して、軸トルク検出器の検出値に第1及び第2トルク分配比を乗算することによって第1及び第2デフトルク値を算出する。これにより、仮想的な差動装置の機能をさらに詳細に模擬できる。
【0018】
(3)本発明では、差動装置の減速機能を模して、軸トルク検出器の検出値に第1トルク分配比及びギア比を乗算することによって第1デフトルク値を算出し、軸トルク検出器の検出値に第2トルク分配比及びギア比を乗算することによって第2デフトルク値を算出する。これにより、仮想的な差動装置の機能をさらに詳細に模擬できる。
【0019】
(4)本発明では、上述のようにそれぞれ独立して算出した第1タイヤ速度値及び第2タイヤ速度値の平均値を算出し、これに差動装置のギア比を乗算して得られる値を速度指令値として速度制御装置によって動力計の速度を制御する。これにより、単一の動力計しか備えないI型の試験システムであっても、左右両タイヤで異なった状態の路面を再現することができる。
【0020】
(5)本発明は、供試体の出力軸の回転を減速させる制動装置を設けた上、この制動装置を作動させることによって発生する減速トルク値を、軸トルク検出器の検出値、速度検出器の検出値、及びインバータへの指令信号の値に基づいて推定する。これにより、制動装置を作動させたときにおける挙動も再現できるので、試験の再現性をさらに向上できる。
【0021】
(6)本発明によれば、第1及び第2ブレーキトルク演算部は、仮想的な制動装置が操作されることによって仮想的な差動装置の一対の軸それぞれに発生する第1及び第2ブレーキトルク値を算出する。タイヤ速度演算部は、デフトルク値から車両駆動トルク値及びブレーキトルク値を減算して得られる値に基づいてタイヤ速度値を算出する。これにより、上記(5)の発明と異なり、供試体に機械的なブレーキが設けられていなくても、ブレーキを操作したときの挙動を再現できる。また本発明では、ブレーキトルク演算部は、所定のブレーキトルク指令値をそのままタイヤ速度演算部に入力せず、これを上限値として扱う。すなわち、ブレーキトルク演算部は、ブレーキトルク指令値を上限値とし、この上限値より小さくかつタイヤ速度演算部によって算出されるタイヤ速度値が0になるようにブレーキトルク値を算出する。これにより、ブレーキトルク指令値を大きくしたり小さくしたりすることにより、ブレーキを強く作動させた場合や弱く作動させた場合における仮想的な走行中の車両が停止するまでの挙動を、I型の試験システムであっても精度良く再現できる。換言すれば、走行中の車両において、強くブレーキを作動させることにより短時間で車両を停止させた場合の挙動や、弱くブレーキを作動させることにより長時間で車両を停止させた場合の挙動を再現できる。
【0022】
(7)本発明によれば、ブレーキトルク演算部は、ブレーキトルク指令値を所定の変化率以下に制限する。そして、制限されたブレーキトルク値を上限値として、この上限値より小さくかつタイヤ速度値が0になるようにブレーキトルク値を算出する。これにより、変化率を大きくしたり小さくしたりすることにより、制動装置を急激に強く作動させた場合や緩やかに作動させた場合における仮想的な走行中の車両が停止するまでの挙動を精度良く再現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態に係るドライブトレインの試験システムの構成を示す模式図である。
図2】上記実施形態に係る動力計制御回路の構成を示すブロック図である。
図3】タイヤ−路面間の摩擦係数値を決定する制御マップの一例を示す図である。
図4】車両速度値、左タイヤ速度値、右タイヤ速度値、及びプロペラシャフトの速度値の変化の一例を示す図である。
図5】本発明の第2実施形態に係るドライブトレインの試験システムの構成を示す模式図である。
図6】上記実施形態に係る動力計制御回路の構成を示すブロック図である。
図7】減速トルク演算部の演算手順を示すブロック図である。
図8】本発明の第3実施形態に係るドライブトレインの試験システムの構成を示す模式図である。
図9】左ブレーキトルク演算部における具体的な演算手順を示すブロック図である。
図10】上記実施形態の変形例に係る左ブレーキトルク演算部における具体的な演算手順を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係るドライブトレインの試験システム1について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の試験システム1の構成を示す模式図である。試験システム1は、図1に示すように、エンジンE、変速機T及びプロペラシャフトSからなり、デファレンシャルギア(差動装置)を備えないドライブトレインを供試体Wとした、所謂I型のシステムである。
【0025】
試験システム1は、プロペラシャフトSに同軸に連結された動力計2と、この動力計2に電力を供給するインバータ3と、この動力計2の回転速度を検出するエンコーダ4と、プロペラシャフトSの軸トルクを検出する軸トルクメータ5と、これらエンコーダ4及び軸トルクメータ5の出力信号等に基づいて動力計2を制御する動力計制御回路6と、エンジンEを制御する図示しないエンジン制御装置と、を備える。この試験システム1では、エンジンEでプロペラシャフトSを回転駆動するとともに、このプロペラシャフトSに連結された動力計2を動力計制御回路6によって電気慣性制御することにより、適切な負荷トルクをプロペラシャフトSに付与しながら、供試体Wの耐久性能や品質などを評価する。
【0026】
インバータ3は、動力計制御回路6から出力されるトルク電流指令信号に応じた電力を動力計2に供給する。エンコーダ4は、動力計2の回転速度を検出し、検出値に略比例した信号を動力計制御回路6に送信する。軸トルクメータ5は、プロペラシャフトSのうち動力計2側に作用する軸トルクを、例えば軸のねじれ方向の歪み量から検出し、検出値に略比例した信号を動力計制御回路6に送信する。
【0027】
図2は、動力計制御回路6の構成を示すブロック図である。
動力計制御回路6は、デフトルク演算部61と、左タイヤ速度演算部62Lと、右タイヤ速度演算部62Rと、左車両駆動トルク演算部63Lと、右車両駆動トルク演算部63Rと、車両速度演算部64と、速度制御装置65と、フィードフォワード入力演算部66と、を備える。
【0028】
デフトルク演算部61は、仮想的なデファレンシャルギアの減速機能及びトルク分配機能を模擬することによって、単一の軸トルクメータの検出値SHTに基づいてデファレンシャルギアの一対の出力軸それぞれに発生する左デフトルク値Tdl及び右デフトルク値Tdrを算出する。
【0029】
左デフトルク値Tdlは、軸トルクメータの検出値SHTに所定のギア比Gdと所定の左トルク分配比Rlとを乗算することによって算出される(下記式(1)参照)。また、右デフトルク値Tdrは、軸トルクメータの検出値SHTにギア比Gdと所定の右トルク分配比Rrとを乗算することによって算出される(下記式(2)参照)。ここで、左トルク分配比Rl及び右トルク分配比Rrの値は、それぞれ0から1/2の範囲内に設定される。以下では、Rl=Rr=1/2とする。
Tdl=SHT×Gd×Rl (1)
Tdr=SHT×Gd×Rr (2)
【0030】
車両速度演算部64は、上記デファレンシャルギアの一方の出力軸に連結される仮想的な左タイヤと仮想的な左側路面との間の摩擦力によって発生する車両駆動力に相当する後述の左車両駆動トルク値Fxlと、デファレンシャルギアの他方の出力軸に連結される仮想的な右タイヤと仮想的な右側路面との間の摩擦力によって発生する車両駆動力に相当する後述の右車両駆動トルク値Fxrとを入力とし、上記仮想的な左右のタイヤを駆動輪として走行する仮想的な車両の慣性モーメントJvで特徴付けられる車両の運動方程式(下記式(3)参照)によって、車両の速度に相当する車両速度値Vを算出する。
Fxl+Fxr=Jv・dV/dt (3)
【0031】
左タイヤ速度演算部62Lは、上述のデフトルク演算部61によって算出された左デフトルク値Tdl及び左車両駆動トルク値Fxlを入力として、左タイヤの慣性モーメントJtlで特付けられる左タイヤの運動方程式(下記式(4)参照)によって、左タイヤの回転速度に相当する左タイヤ速度値Vwlを算出する。
Tdl−Fxl=Jtl・dVwl/dt (4)
【0032】
左タイヤ速度演算部62Lは、より具体的には、左デフトルク値Tdlから左車両駆動トルク値Fxlを減算して得られる値を左タイヤの回転に寄与する左タイヤ駆動トルク値と定義し、これに左タイヤ慣性モーメントJtlの逆数を乗算し、これに積分演算を施したものを左タイヤ速度値Vwlとする。
【0033】
右タイヤ速度演算部62Rは、上述のデフトルク演算部61によって算出された右デフトルク値Tdr及び右車両駆動トルク値Fxrを入力として、右タイヤの慣性モーメントJtrで特徴付けられる右タイヤの運動方程式(下記式(5)参照)によって、右タイヤの回転速度に相当する右タイヤ速度値Vwrを算出する。右タイヤ速度値Vwrを算出する具体的な手順は、左タイヤ速度値Vwlを算出する手順と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
Tdr−Fxr=Jtr・dVwr/dt (5)
【0034】
左車両駆動トルク演算部63Lは、左タイヤ速度値Vwlと車両速度値Vとの差に基づいて、左タイヤと仮想的に設定された左側路面との間の摩擦力によって発生する車両駆動力に相当する左車両駆動トルク値Fxlを算出する。以下、その手順について具体的に説明する。
【0035】
左車両駆動トルク演算部63Lは、先ず、速度差(Vwl−V)並びに速度値Vwl及びVの何れか大きい方に基づいて、左タイヤの左側路面上における左スリップ率λlを下記式(6)に基づいて算出する。次に、左車両駆動トルク演算部63Lは、算出した左スリップ率λlを引数として、図3に示すような制御マップflに基づいて左タイヤ−左側路面間の左摩擦係数値μlを決定する(下記式(7)参照)。なお、この摩擦係数値を決定する制御マップは、左側路面の状態(雪面、乾燥路面等)に応じて適宜選択可能となっている。次に、左車両駆動トルク演算部63Lは、左タイヤが左側路面から受ける左垂直抗力値Nzlに、左摩擦係数値μlを乗算することにより、左車両駆動トルク値Fxlを算出する(下記式(8)参照)。この左垂直抗力値Nzlは、予め定められた定数又は車両速度値Vなどに応じて推定された値が用いられる。
λl=(Vwl−V)/max(Vwl,V) (6)
μl=fl(λl) (7)
Fxl=Nzl・μl (8)
【0036】
右車両駆動トルク演算部63Rは、右タイヤ速度値Vwrと車両速度値Vとを入力として、下記式(9)〜(11)に基づいて、右タイヤと右側路面との間の摩擦力によって発生する車両駆動力に相当する右車両駆動トルク値Fxrを算出する。右車両駆動トルク値Fxrを算出する具体的な手順は、右車両駆動トルク値Fxrを算出する手順と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
λr=(Vwr−V)/max(Vwr,V) (9)
μr=fr(λr) (10)
Fxr=Nzr・μr (11)
【0037】
以上のように、動力計制御回路6では、仮想的なデファレンシャルギアを介してその一対の出力軸の両端側に接続される左タイヤ及び右タイヤと、これらタイヤを駆動輪として左側路面及び右側路面上を走行する車両とを仮想的に設定し、これらを独立した慣性モーメントJtl,Jtr,Jvを有する物体とした上、それぞれに対する運動方程式(3)〜(11)を連立させることにより、車両速度値V、左タイヤ速度値Vwl、及び右タイヤ速度値Vwrを算出する。また、動力計制御回路6では、仮想的なデファレンシャルギアの機能を模擬することによって軸トルクメータの検出値から左右のデフトルク値Tdl,Tdrを算出し(式(1)〜(2)参照)、これらデフトルク値Tdl,Tdrを左右のタイヤ速度演算部62L,62Rに入力することによって左右のタイヤ速度値Vwl,Vwrを算出する。
【0038】
速度制御装置65は、左右のタイヤ速度演算部62L,62Rによって算出された左タイヤ速度値Vwl,Vwrの平均値にデファレンシャルギアのギア比Gdを乗算して得られる仮想的なタイヤ速度値を速度指令値とし、エンコーダの検出値がこの速度指令値になるようにトルク電流指令信号を出力する。
【0039】
フィードフォワード入力演算部66は、デフトルク値Tdl,Tdrと車両駆動トルク値Fxl、Fxrとの差に比例した信号を速度制御装置65から出力されるトルク電流指令信号に合成し、このトルク電流指令信号を補正する。より具体的には、フィードフォワード入力演算部66は、図2に示すように、左デフトルク値Tdlと左車両駆動トルク値Fxlとの差に左タイヤの慣性モーメントJtlの逆数を乗算して得られる値と、右デフトルク値Tdrと右車両駆動トルクFxrとの差に右タイヤの慣性モーメントJtrの逆数を乗算して得られる値との平均値を算出する。さらにフィードフォワード入力演算部66は、この平均値にギア比Gdと動力計の慣性モーメントJdyを乗算し、これを速度制御装置65から出力されるトルク電流指令信号に合成する。このようなフィードフォワード入力演算部66の機能により、タイヤ速度値Vwl,Vwrの変化に対する応答性を高めることができる。
【0040】
図4は、車両速度値V、左タイヤ速度値Vwl、右タイヤ速度値Vwr、及びプロペラシャフトの速度値(エンコーダの検出値に相当)の変化の一例を示す図である。図4では、車両が停止した状態から、時刻t1においてアクセルペダルを深く踏み込みエンジンEを急加速させ、その後時刻t2においてアクセルペダルの踏み込みを弱めたときにおけるこれら速度値の変化の一例を示す。なお、図4に示す結果では、仮想的な路面の設定について、左側路面は右側路面よりも滑りやすくなるように設定した。すなわち、左車両駆動トルク演算部63Lにおいて用いられる制御マップflは、右車両駆動トルク演算部63Rにおいて用いられる制御マップfrよりも摩擦係数値が大きくなるようにした。
【0041】
図4に示すように、時刻t1においてエンジンEを急加速させると、左タイヤ速度値(細破線)は車両速度値(太破線)に比べて著しく上昇するのに対し、右タイヤ速度値(細実線)は車両速度値とほぼ同じ変化を示す。また、時刻t2においてアクセルペダルの踏み込みを弱めると、車両速度値は上昇しながら左タイヤ速度値は減少する。そして時刻t3では、左タイヤ速度値と右タイヤ速度値と車両速度値とがほぼ等しくなる。以上のように、本実施形態の試験システムによれば、軸トルクメータの検出値に基づいて左デフトルク値Tdlと右デフトルク値Tdrとを算出し、左タイヤ速度値Vwlと右タイヤ速度値Vwrとを別々に算出することにより、I型の試験システムであっても、左右両タイヤで異なった状態の路面上での発進及び走行動作を模擬することができる。
【0042】
本実施形態の試験システムによれば、以下の効果(A)〜(C)を奏する。
(A)試験システム1では、仮想的なデファレンシャルギアの機能を模擬すべくデフトルク演算部61によって軸トルクメータの検出値SHTに基づいて、仮想的なデファレンシャルギアの一対の出力軸それぞれに発生する左右のデフトルク値Tdl,Tdrを算出する。そして、単一の軸トルクメータから得られた左右のデフトルク値Tdl、Tdrを入力として、タイヤ速度演算部62L,62Rによる左右のタイヤ速度値Vwl,Vwrの演算と、車両速度演算部64による仮想的な車両速度値Vの演算と、車両駆動トルク演算部63L,63Rによる仮想的な左右の車両駆動トルク値Fxl,Fxrとの3つの仮想的な物理量の演算を、左タイヤ側と右タイヤ側とで独立して連立させることによって、速度制御装置65への指令値となる左右のタイヤ速度値Vwl,Vwrを算出する。これにより試験システム1では、左右両タイヤで異なった状態の路面上での発進及び走行動作を模擬することができる。
【0043】
(B)試験システム1では、デファレンシャルギアのトルク分配機能及び減速機能を模して、軸トルクメータの検出値SHTに左トルク分配比Rl及びギア比Gdを乗算したものを左デフトルク値Tdlとし、軸トルクメータの検出値SHTに右トルク分配比Rr及びギア比Gdを乗算したものを右デフトルク値Tdrとする。これにより、仮想的なデファレンシャルギアの機能をさらに詳細に模擬できる。
【0044】
(C)試験システム1では、上述のようにそれぞれ独立して算出した左右のタイヤ速度値Vwl,Vwrの平均値を算出し、これにデファレンシャルギアのギア比Gdを乗算して得られる値を速度指令値として速度制御装置65によって動力計の速度を制御する。これにより、単一の動力計しか備えないI型の試験システム1であっても、左右両タイヤで異なった状態の路面上での発進及び走行動作を模擬することができる。
【0045】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係るドライブトレインの試験システム1Aについて、図面を参照しながら説明する。
図5は、本実施形態の試験システム1Aの構成を示す模式図である。以下の試験システム1Aの説明において、第1実施形態の試験システム1と同じ構成については同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。試験システム1Aは、プロペラシャフトSの回転を減速させるブレーキ装置7Aをさらに備える点と、動力計制御回路6Aの構成が第1実施形態の試験システム1と異なる。
ブレーキ装置7Aは、プロペラシャフトSのうち動力計2側に設けられたブレーキロータを図示しないブレーキキャリパで挟持することにより、プロペラシャフトSの回転を減速させる。
【0046】
図6は、動力計制御回路6Aの構成を示すブロック図である。
動力計制御回路6Aは、減速トルク演算部67Aをさらに備える点、及びデフトルク演算部61Aの構成が、第1実施形態の試験システム1と異なる。
【0047】
図7は、減速トルク演算部67Aの演算手順を示すブロック図である。
減速トルク演算部67Aは、軸トルクメータの検出値SHT、エンコーダの検出値DYw、及びトルク電流指令信号DYTに基づいて、プロペラシャフトSのうち動力計側に設けられたブレーキ装置による減速トルク値DB_Trqを算出する。より具体的には、減速トルク演算部67Aは、値SHT,DYw、DYTを入力として、慣性モーメントJdyを有する動力計の運動方程式(下記式(12)参照)に基づいて、減速トルク値DB_Trqを算出する。
Jdy・dDYw/dt=SHT+DYT−DB_Trq (12)
【0048】
図6に戻って、デフトルク演算部61Aは、軸トルクメータの検出値SHTからブレーキ装置による減速トルク値DB_Trqを減算することによって得られた値に、ギア比Gd及び左トルク分配比Rlを乗算することによって左デフトルク値Tdlを算出する(下記式(13)参照)。また、デフトルク演算部61Aは、軸トルクメータの検出値SHTからブレーキ装置による減速トルク値DB_Trqを減算することによって得られた値に、ギア比Gd及び右トルク分配比Rrを乗算することによって右デフトルク値Tdrを算出する(下記式(14)参照)。
Tdl=(SHT−DB_Trq)×Gd×Rl (13)
Tdr=(SHT−DB_Trq)×Gd×Rr (14)
【0049】
本実施形態の試験システム1Aによれば、上記効果(A)〜(C)に加えて、以下の効果(D)を奏する。
(D)試験システム1Aでは、供試体WのプロペラシャフトSの回転を減速させるブレーキ装置7Aを設けた上、このブレーキ装置7Aを作動させることによって発生する減速トルク値DB_Trqを、軸トルクメータの検出値SHT、エンコーダの検出値DYw、及びインバータへのトルク電流指令信号DYTに基づいて推定する。これにより、走行中にブレーキ装置7Aを作動させたときにおける挙動も再現できるので、試験の再現性をさらに向上できる。
【0050】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態に係るドライブトレインの試験システム1Bについて、図面を参照しながら説明する。
図8は、試験システム1Bの動力計制御回路6Bの構成を示すブロック図である。以下の試験システム1Bの説明において、第1実施形態の試験システム1と同じ構成については同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。動力計制御回路6Bは、左ブレーキトルク演算部68LB及び右ブレーキトルク演算部68RBをさらに備える点と、左タイヤ速度演算部62LB及び右タイヤ速度演算部62RBの構成が図2の動力計制御回路6と異なる。
【0051】
左ブレーキトルク演算部68LBは、供試体の仮想的なデファレンシャルギアの一対の出力軸のうち、左タイヤが設けられた方に設けられる仮想的な左ブレーキ装置が操作されることによって発生する左ブレーキトルク値DBlを算出する。
【0052】
図9は、左ブレーキトルク演算部68LBにおける具体的な演算手順を示すブロック図である。
左ブレーキトルク演算部68LBは、ブレーキASR681とブレーキトルクリミッタ682とを備え、以下の手順に従って左ブレーキトルク値DBlを算出する。
ブレーキASR681は、速度制御装置65のASRと同じ機能を有し、所定の停止目標値(例えば、0)から左タイヤ速度値Vwlを減算して得られる偏差入力値が0になるようなブレーキトルク値を算出する。
【0053】
ブレーキトルクリミッタ682は、図示しない外部の入力装置から、上記仮想的な左ブレーキ装置によって発生させるべきブレーキトルクに対する指令値となる正のブレーキトルク指令値DB_refが入力されると、ブレーキASR681のブレーキトルク値に比例した出力を、下限値を−DB_refとし上限値をDB_refとした範囲内に制限する。なお、図9に示す組み合わせでは、偏差入力が正の場合のブレーキASR681の出力は負になる。そこでブレーキトルクリミッタ682は、演算の便宜上、ブレーキASR681の出力を−DB_refからDB_refの範囲内に制限した値に−1を乗算したものを、左ブレーキトルク値DBlとする。
【0054】
図8に戻って、左ブレーキトルク演算部68LBでは、外部から入力されたブレーキトルク指令値DB_refを上限値として扱い、この上限値より小さくかつ左タイヤ速度値Vwlが停止目標値0になるようにブレーキASR681(図9参照)によって左ブレーキトルク値DBlを算出する。右ブレーキトルク演算部68RBは、外部から入力されたブレーキトルク指令値DB_refを上限値として扱い、この上限値より小さくかつ右タイヤ速度値Vwrが停止目標値0になるようにブレーキASR(図示せず)によって右ブレーキトルク値DBrを算出する。なお、右ブレーキトルク演算部68RBにおける具体的な演算手順は、左ブレーキトルク演算部68LBとほぼ同じであるので、これ以上詳細な説明を省略する。
【0055】
左タイヤ速度演算部62LBは、左デフトルク値Tdlから左車両駆動トルク値Fxl及び左ブレーキトルク値DBlを減算して得られる値をタイヤ駆動トルク値とし、これを入力として下記式(15)に示す左タイヤの運動方程式によって左タイヤ速度値Vwlを算出する。
Tdl−DBl−Fxl=Jtl・dVwl/dt (15)
【0056】
右タイヤ速度演算部62RBは、右デフトルク値Tdrから右車両駆動トルク値Fxr及び右ブレーキトルク値DBrを減算して得られる値をタイヤ駆動トルク値とし、これを入力として下記式(16)に示す右タイヤの運動方程式によって右タイヤ速度値Vwrを算出する。
Tdr−DBr−Fxr=Jtr・dVwr/dt (16)
【0057】
本実施形態の試験システム1Bによれば、上記効果(A)〜(C)に加えて、以下の効果(E)を奏する。
(E)左右のブレーキトルク演算部68LB,68RBは、仮想的なブレーキ装置が操作されることによって仮想的なデファレンシャルギアの一対の出力軸それぞれに発生する左右のブレーキトルク値DBl,DBrを算出する。タイヤ速度演算部62LB,62RBは、デフトルク値Tdl,Tdrから車両駆動トルク値Fxl,Fxr及びブレーキトルク値DBl,DBrを減算して得られる値に基づいてタイヤ速度値Vwl,Vwrを算出する。これにより、上記第2実施形態の試験システム1A(図5参照)と異なり、供試体Wに機械的なブレーキ装置7Aが設けられていなくても、ブレーキを操作したときの挙動を再現できる。また試験システム1Bでは、ブレーキトルク演算部68LB,68RBは、所定のブレーキトルク指令値DB_refをそのままタイヤ速度演算部62LB,62RBに入力せず、これを上限値として扱う。すなわち、ブレーキトルク演算部68LB,68RBは、ブレーキトルク指令値DB_refを上限値とし、この上限値より小さくかつ左右のタイヤ速度値Vwl,Vwrが0になるようにブレーキトルク値DBl,DBrを算出する。これにより、ブレーキトルク指令値DB_refを大きくしたり小さくしたりすることにより、ブレーキを強く作動させた場合や弱く作動させた場合における仮想的な走行中の車両が停止するまでの挙動を、I型の試験システム1Bであっても精度良く再現できる。換言すれば、走行中の車両において、強くブレーキを作動させることにより短時間で車両を停止させた場合の挙動や、弱くブレーキを作動させることにより長時間で車両を停止させた場合の挙動を再現できる。
【0058】
以上、本発明の第3実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。
例えば、左ブレーキトルク演算部68LB及び右ブレーキトルク演算部68RBにおける演算は、図10に示すような手順に置き換えてもよい。
図10は、第3実施形態の変形例に係る左ブレーキトルク演算部68LCにおける具体的な演算手順を示すブロック図である。
【0059】
左ブレーキトルク演算部68LCは、ブレーキトルク指令値DB_refの変化率を制限する変化率制限部683をさらに備える点で、図9に示す左ブレーキトルク演算部68LBと異なる。変化率制限部683は、外部の入力装置から入力されたブレーキトルク指令値DB_refを所定の変化率[Nm/sec]以下に制限する。すなわち、ブレーキトルク指令値DB_refがステップ状に変化した場合には、これを予め定められた変化率以下で変化させる。
【0060】
左ブレーキトルク演算部68LCは、この変化率制限部683によって制限されたブレーキトルク指令値DB_ref_rを上限値とし、図9を参照して説明したのと同様に、この上限値より小さくかつ左タイヤ速度値Vwlが0になるように左ブレーキトルク値DBlを算出する。
【0061】
この変形例によれば、上記(A)〜(C)及び(E)の効果に加えて、以下の効果(F)を奏する
(F)ブレーキトルク演算部68LCは、ブレーキトルク指令値DB_refを所定の変化率以下に制限する。そして、制限されたブレーキトルク値を上限値として、この上限値より小さくかつタイヤ速度値Vwlが0になるようにブレーキトルク値を算出する。これにより、変化率を大きくしたり小さくしたりすることにより、ブレーキ装置を急激に強く作動させた場合や緩やかに作動させた場合における仮想的な走行中の車両が停止するまでの挙動を精度良く再現できる。
【符号の説明】
【0062】
1,1A,1B…試験システム
2…動力計
3…インバータ
4…エンコーダ(速度検出器)
5…軸トルクメータ(軸トルク検出器)
61,61A…デフトルク演算部
62L,62R,62LB,62RB…タイヤ速度演算部
63L,63R…車両駆動トルク演算部
64…車両速度演算部
65…速度制御装置
67A…減速トルク演算部
68LB,68LC…左ブレーキトルク演算部(第1ブレーキトルク演算部)
68RB…右ブレーキトルク演算部(第2ブレーキトルク演算部)
7A…ブレーキ装置(制動装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10