(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内輪、外輪、及び、これらの間に介装された複数の転動体を備え、前記内輪と前記外輪との間に形成された環状開口部に、スリンガー、芯金、及び、これらの間に設けられたフッ素シールを有する、シール部が取付けられて、ハブシャフトに装着された軸受部を有し、
前記シール部に、前記外輪と前記内輪とを導電状態とする、通電NBRからなる通電体が設けられ、
前記通電体は、ほぼ円環状に形成されて、内径側が前記シール部のスリンガーに取付けられ、外径側が前記シール部の芯金又は前記外輪に当接し、
前記フッ素シールは、前記複数の転動体が配置された空間と前記通電体が配置された空間との間をシールする、
ことを特徴とする車軸用軸受装置。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の車輪を保持する車軸用軸受装置において、これに装着された軸受部の内輪と外輪との間に電位差が発生して外輪に静電気が帯電し、断続的にスパークを繰り返えすことがある。このようなスパークは、車載したラジオや電子機器に対して電気的ノイズとして作用し、悪影響を及ぼすため、内輪と外輪との間を導電状態として両者を同電位とし、静電気を除電するようにしている。
【0003】
従来のこの種の装置に、相互に回転する二部材の間に装着され、内部と外部を密封遮断する複数の環状物によって構成された密封装置を有し、この密封装置は、導電材からなる補強環に導電性ゴムからなるシールリップを形成したシール環と、導電材からなる金属環とを組付けて、これら部材間にシールリップで囲まれた空洞部を形成し、この空洞部に導電性グリースを封入して二部材間を通電状態にさせるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の軸受装置は、導電性ゴムからなるシール環と導電性グリースとにより、外側部材(外輪)と内側部材(内輪)との間の通電性を確保している。
ところで、車軸用軸受装置の軸受部は高温になり易く、特に、スリンガーと芯金とに囲まれた領域内に位置するゴム材からなる導電性のシール環又はリング状弾性シール(以下、これらを総称してパックシールという)は熱に弱く、このため、例えば150℃を超えるとシール機能が低下するという問題があった。
【0006】
このような問題を解決するために、パックシールに耐熱性に優れたフッ素ゴムが用いられることがある。しかしながら、フッ素ゴムからなるパックシール(以下、フッ素シールという)は導電機能を有しないため、フッ素シールを介して外輪と内輪の間を導電状態とすることができない。そのため、フッ素シールとは別に、外付けの通電ダストシール等を軸受部とハブシャフトとの間に設け、この通電ダストシール等を介して外輪と内輪とを導電状態とするようにしている。
【0007】
しかしながら、このような通電ダストシール等は取付けが面倒であるばかりでなく、軸受部とハブシャフトとの間に十分なスペースを確保できない場合は、通電ダストシール等を取付けることができないため、外輪と内輪との間の通電性を確保することができなかった。
【0008】
この場合、パックシールとして、導電性を有し耐熱性に優れたアクリル樹脂材を用いることも考えられるが、アクリル樹脂材は水に弱いため、例えば、走行中に泥水などがかかり易い自動車等の車軸用軸受装置には使用することができなかった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、シール部にフッ素シールを用いた軸受部において、軸受部とハブシャフトとの間に十分なスペースがない場合でも、外輪と内輪との間の通電性を確実に確保することのできる車軸用軸受装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る車軸用軸受装置は、内輪、外輪、及び、これらの間に介装された複数の転動体を備え、前記内輪と前記外輪との間に形成された環状開口部に、スリンガー、芯金、及び、これらの間に設けられたフッ素シールを有する、シール部が取付けられて、ハブシャフトに装着された軸受部を有し、前記シール部に、前記外輪と前記内輪とを導電状態とする、通電NBRからなる通電体が設けられ、
前記通電体は、ほぼ円環状に形成されて、内径側が前記シール部のスリンガーに取付けられ、外径側が前記シール部の芯金又は前記外輪に当接し、前記フッ素シールは、前記複数の転動体が配置された空間と前記通電体が配置された空間との間をシールするものである。
【0011】
前記通電体の外径側は、櫛歯状に複数に分割されているものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非導電性シールを有する軸受部のシール部において、一方のシール部又はドライブシャフトに環状の通電体を設けることにより、外輪と内輪との間を導電状態にして同電位を確保し、静電気を除電するようにしたので、簡単な構造で外輪と内輪との間の通電性を容易かつ確実に確保することができ、信頼性の高い車軸用軸受装置を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1に係る車軸用軸受装置の要部の縦断面図、
図2は
図1のシール部の拡大図で、本実施の形態は、内輪回転型の軸受部を備えたものである。なお、以下の説明では、図の左側をインナ側、右側をアウタ側という。
【0015】
図において、1は車軸用軸受装置で、鋼材からなるハブシャフト2のアウタ側の外周には、車輪(図示せず)を取付けるためのボルト(図示せず)が圧入される複数のボルト穴4を有するフランジ3が設けられており、フランジ3の中心部にはインナ側に突出し、外周に後述の軸受部10が装着される円筒部5が設けられている。6は円筒部5の中心部の軸方向に貫設され、ドライブシャフトが嵌入される貫通穴で、一般に内周にスプラインが設けられている。
【0016】
軸受部10は2分割されてそれぞれ両端部に設けた鍔部の間に転走面(軌道面)が設けられた軸受用鋼材からなる内輪11と、この内輪11の転走面に対応して2列の転走面が設けられた軸受用鋼材からなる外輪12と、鋼材や樹脂材からなる保持器14a,14bのポケットにそれぞれ転動自在に保持され、内輪11と外輪12の転走面の間に2列に配設された軸受用鋼材からなる転動体としての円錐ころ13とを備えている。なお、2分割された内輪11は、一方をハブシャフト2と一体に構成し、他方を別部材で構成してもよい。
【0017】
20a,20bは、内輪11と外輪12の間の両側に形成された環状開口部をシールするシール部である。このシール部20a,20bは、
図2に示すように、例えばステンレス鋼板の如き金属板を環状にプレス加工してなり、外周の断面形状がL字状で、周壁21aを外側にして円筒部21bが内輪11の両端部外周に圧入されたスリンガー21と、同じくステンレス鋼板の如き金属板を環状にプレス加工してなり、外周の断面形状が逆L字状で、周壁22aをスリンガー21の内側にして、円筒部22bが外輪12の両端部内周に圧入された芯金22と、この芯金22の周壁22aに取付けられ、スリンガー21と芯金22とによって囲まれた領域内に位置して、そのリップがスリンガー21に圧接された非導電性の材料からなるシール、例えばフッ素ゴムからなるフッ素シール23とによって構成されている。
【0018】
そして、アウタ側のシール部20aの芯金22の円筒部22bのアウタ側端部には、例えば通電NBR等の導電性合成ゴムからなるほぼ円筒状の通電体24が取付けられている。
この通電体24は、例えば
図3に示すように、一方の側に設けられて芯金22の円筒部22bに嵌合して固定される嵌合溝26を有する取付部25と、他方の側に設けられたリップ部27とからなり、リップ部27は例えば櫛歯状に複数に分割されている。
【0019】
次に、上記のように構成した車軸用軸受装置1の組立手順の一例について説明する。
先ず、内輪11、外輪12、円錐ころ13等からなる軸受部10の組立体の、内輪11と外輪12との間の両側に形成された環状開口部のアウタ側に、
図2に示すように、通電体24を有するシール部20aを圧入し、また、インナ側の環状開口部に、通電体24の無いシール部20bを圧入して、軸受部10を組立てる。
【0020】
次に、組立てられた軸受部10の内輪11を、シール部20aをアウター側(フランジ部3側)にしてハブシャフト2の円筒部5にインナ側から圧入し、円筒部5のインナ側の端部を外周に折曲げてかしめる(かしめ部7)。これにより、軸受部10はかしめ部7とアウタ側に設けた段部8との間に軸力が付与されて、ハブシャフト2に固定される。このとき、アウタ側のシール部20aの通電体24のリップ27は、
図4に示すように、ハブシャフト2のフランジ部3の壁面に押し付けられ、折曲げられて圧接される。
【0021】
このようにして軸受部10が設けられたハブシャフト2は、その貫通穴6をドライブシャフト(図示せず)に嵌入して一体に固定される。そして、軸受部10の外輪12に設けたフランジ部15が車軸ケース等に回転不能に固定され、ドライブシャフトを含むハブシャフト2及び軸受部10の内輪11は、円錐ころ13を介して回転自在に支持される。
【0022】
上記のようにしてドライブシャフトに取付けられた車軸用軸受装置1は、ドライブシャフトが回転すると、これと一体化されたハブシャフト2、軸受部10の内輪11及びシール部20a,20bのスリンガー21が回転する。
一方、軸受部10の外輪12、シール部20a,20bの芯金22及びこれに取付けたフッ素シール23は回転せず、フッ素シール23のリップは回転するスリンガー21に摺接して、環状開口部をシールする。
【0023】
このとき、シール部20aの芯金22に設けた通電体24も回転せず、そのリップ部27は、回転するハブシャフト2のフランジ3の壁面に摺接する。
これにより、外輪12と内輪11とは、芯金22、通電体24、ハブシャフト2を介して通電性が確保されて、両者は同電位に保持されるため外輪12に静電気が帯電することがなく、したがって、スパークを生じることもない。なお、自動車等の走行によって飛散した泥水は、シール部20a,20bによって軸受部10内への浸入が防止される。
【0024】
図5、
図6は本実施の形態に係る車軸用軸受装置1の軸受部10のシール部20aの他の例を示す説明図である。
図5(a)は、軸受部10のシール部20aの内輪11に固定されたスリンガー21の外周端部に、導電性合成ゴムからなる環状でラッパ状の通電体24の内径側を取付けて、その外周に設けたリップ部27を、外輪12に固定された芯金22の円筒部22bの内周面に当接させたものである。なお、この場合、芯金22は通電性を有する鋼板等の金属材で形成することが必要である。
【0025】
また、
図5(b)は、導電性合成ゴムからなる環状の通電体24の内径側を、スリンガー21の外周端部に取付けて、そのリップ部27を外輪12のアウタ側端面に当接させたものである。
さらに、
図6は導電性合成ゴムからなり芯金22の円筒部22bの内径より大径の環状の通電体24の内径側を、スリンガー21の外周端部に取付けて、そのリップ部27をほぼC字状に折曲げて芯金22の円筒部22bの内周面に当接させ、リップ部27のインナ側と芯金22の円筒部22bの内周面との間にグリース28を充填したものである。
なお、
図5及び
図6の通電体24のリップ部27は全周を芯金22や外輪12に当接させる必要はなく、例えば、
図3で説明したように、櫛歯状などに形成して断続的に当接させてもよく、少なくとも一部が当接して通電できればよい。
【0026】
図5(a)及び
図6の場合は、軸受部10の外輪12と内輪11とは、芯金22、通電体24、スリンガー21を介して導電状態となり、
図5(b)の場合は、通電体24、スリンガー21を介して外輪12と内輪11が導電状態となって、両者が同電位に保持されるので、外輪12に静電気が帯電することがない。
上記の
図5(a),(b)の説明では、アウタ側のシール部20aに通電体24を設けた場合を示したが、インナ側のシール部20bに通電体24を設けてもよい。
【0027】
本実施の形態によれば、非導電性のフッ素シール23を有する軸受部10のシール部20a,20bにおいて、外付けの導電性ダストシール等を設けることなく、一方のシール部20aに外輪12と内輪11を通電する環状の通電体24を設け、外輪12と内輪11とが導電状態となって同電位に保持されるようにしたので、軸受部10とハブシャフト2との間に十分なスペースがない場合でも、簡単な構造で外輪12と内輪11との間の通電性を容易かつ確実に確保することができ、静電気の帯電を防止することができる。
【0028】
上記の説明では、内輪回転型の軸受部10からなる車軸用軸受装置1に本実施の形態に係るシール部20を用いた場合を示したが、外輪回転型の軸受部を備えた車軸用軸受装置にも、本実施の形態に係るシール部20を用いることができる。
【0029】
[実施の形態2]
図7は本発明の実施の形態2に係る車軸用軸受装置の要部の断面図、
図8は
図7の通電部材の断面図である。なお、
図7はハブシャフト2の貫通穴6にドライブシャフト35を嵌入して固定した状態を示すもので、以下の説明では、図の右側をインナ側、左側をアウタ側といい、実施の形態1と同じ部分にはこれと同じ符号を付し説明を省略する。
【0030】
30は通電部材で、
図8に示すように、例えば、鉄、ステンレス鋼板等の金属板をプレス加工により、円筒部31とその外周に設けたフランジ部32とにより環状に形成され、フランジ部32には通電NBR等の導電性合成ゴムからなる環状でラッパ状の通電体24が一体に取付けられている。そして、円筒部31の内径はドライブシャフト35の段部36の外径とほぼ等しく、通電体24のリップ部27の外径は、軸受部10の外輪12の外径とほぼ等しいか、又は僅かに小径に形成されている。なお、リップ部27は、実施の形態1の場合と同様に、例えば櫛歯状に形成されている。
【0031】
上記のように構成した通電部材30は、リップ部27をアウタ側にしてその円筒部31をドライブシャフト35の段部36に圧入し、又は嵌合して接着剤等により固定する。
そして、車軸用軸受装置1のハブシャフト2の貫通穴6をドライブシャフト35に嵌入して固定する。これにより、ドライブシャフト35の段部36がハブシャフト2のかしめ部7に当接し、また、通電部材30の通電体24のリップ部27が軸受部10の外輪12のインナ側端面に圧接される。
【0032】
上記のように構成した本実施の形態において、軸受部10の外輪12は実施の形態1の場合と同様に固定され、ハブシャフト2及び内輪11はドライブシャフト35により回転駆動される。このとき、ドライブシャフト35の段部36に装着された通電部材30も回転し、これに設けた通電体24のリップ部27は、外輪12の端面に摺接して回転する。
【0033】
これにより、軸受部10の外輪12と内輪11とは、通電体24を含む通電部材30、ドライブシャフト35、ハブシャフト2を介して導電状態となり、同電位に保持される。なお、通電部材30は、金属部材と導電性ゴムからなる場合を示したが、導電性ゴムを直接ドライブシャフト35に取付けてもよい。
本実施の形態においても、実施の形態1の場合とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0034】
上記の説明では、図示の車軸用軸受装置1に本発明を実施した場合を示したが、これに限定するものではなく、他の構造の車軸用軸受装置にも本発明を実施することができる。