(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776839
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】質量分析装置及びイオンガイドの駆動方法
(51)【国際特許分類】
H01J 49/06 20060101AFI20150820BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
H01J49/06
H01J49/42
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-504590(P2014-504590)
(86)(22)【出願日】2012年3月16日
(86)【国際出願番号】JP2012056850
(87)【国際公開番号】WO2013136509
(87)【国際公開日】20130919
【審査請求日】2014年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】糸井 弘人
【審査官】
桐畑 幸▲廣▼
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−529156(JP,A)
【文献】
特開2010−118310(JP,A)
【文献】
特表2005−522845(JP,A)
【文献】
特開昭53−011566(JP,A)
【文献】
特開2007−207756(JP,A)
【文献】
特表2010−505218(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/136779(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/06
H01J 49/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン光軸に沿って延伸する2n(ただしnは3以上の整数)個の棒状又は板状の電極がイオン光軸を取り囲むように配置されてなるイオンガイドを具備する質量分析装置において、
a)前記イオンガイドの各電極で囲まれる空間に高周波電場を形成するための電圧として、第1の高周波電圧と、該第1の高周波電圧と振幅が同一で位相が反転した第2の高周波電圧と、を生成する電圧生成手段と、
b)前記イオンガイドを構成する2n個の電極の中の、イオン光軸の周りに隣接するm(ただしmは2以上2n−1以下の整数)個の電極に、第1の高周波電圧が印加され、他の2n−m個の電極の中の少なくとも1個の電極に第2の高周波電圧が印加されるように、前記電圧生成手段と前記イオンガイドの各電極とを電気的に接続する配線部である電気的接続手段と、
を備え、前記2n個の電極の中の、イオン光軸の周りに1つおきに位置するn個の電極に前記第1の高周波電圧が印加され、他のn個の電極に前記第2の高周波電圧が印加されるように前記電圧生成手段と前記イオンガイドの各電極とが電気的に接続される配線部が用いられた場合に2n重極型イオンガイドとして機能するイオンガイドを、前記電気的接続手段を用いることで、2n重極未満の多重極場成分を有する高周波電場又は偏向電場を形成するイオンガイドとして利用してなることを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析装置であって、
前記イオンガイドを構成する電極の数はn=p×q(ただし、pは2以上の整数、qは4以上の整数)個であり、前記電気的接続手段は、イオン光軸の周りで隣接する任意のp個の電極を1組としたq組の電極群について、イオン光軸の周りで1組おきのp×q/2個の電極に第1の高周波電圧が印加され、他のp×q/2個の電極に第2の高周波電圧が印加されるように、前記電圧生成手段と前記イオンガイドの各電極とを電気的に接続する配線部であることを特徴とする質量分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の質量分析装置であって、
nは8、pは2、qは4であり、前記イオンガイドを構成する8個の電極で囲まれる空間に、主として四重極場成分を有する高周波電場を形成することを特徴とする質量分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の質量分析装置であって、
前記電気的接続手段は、イオン光軸の周りで、第1の高周波電圧が印加される電極と第2の高周波電圧が印加される電極との配置が回転非対称であるように、前記電圧生成手段と前記イオンガイドの各電極とを電気的に接続する配線部であることを特徴とする質量分析装置。
【請求項5】
イオン光軸に沿って延伸する2n(nは3以上の整数)個の棒状又は板状の電極がイオン光軸を取り囲むように配置されてなるイオンガイドの、前記各電極にそれぞれ所定の電圧を印加することにより、それら電極で囲まれる空間にイオンの挙動を制御する電場を形成するイオンガイド駆動方法であって、
前記イオンガイドを構成する2n個の電極の中の、イオン光軸の周りに隣接するm個(mは2以上2n−1以下の整数)の電極に、第1の高周波電圧を印加し、他の2n−m個の電極の中の少なくとも1個の電極に、前記第1の高周波電圧と振幅が同一で位相が反転した第2の高周波電圧を印加するように、前記第1及び第2の高周波電圧を生成する電圧生成手段と前記イオンガイドの各電極とを電気的に接続する配線部を用いることで、前記2n個の電極の中の、イオン光軸の周りに1つおきに位置するn個の電極に前記第1の高周波電圧が印加され、他のn個の電極に前記第2の高周波電圧が印加されるように前記電圧生成手段と前記イオンガイドの各電極とが電気的に接続される配線部が用いられた場合に2n重極型イオンガイドとして機能するイオンガイドを、2n重極未満の多重極場成分を有する高周波電場又は偏向電場を形成するイオンガイドとして利用するようにしたことを特徴とするイオンガイド駆動方法。
【請求項6】
請求項5に記載のイオンガイド駆動方法であって、
電極の数がn=p×q(ただし、pは2以上の整数、qは4以上の整数)個である前記イオンガイドに対し、イオン光軸の周りで隣接する任意のp個の電極を1組としたq組の電極群について、イオン光軸の周りで1組おきのp×q/2個の電極に第1の高周波電圧を印加し、他のp×q/2個の電極に第2の高周波電圧を印加するように、前記電圧生成手段と前記イオンガイドの各電極とを電気的に接続する配線部を用いることを特徴とするイオンガイド駆動方法。
【請求項7】
請求項5に記載のイオンガイド駆動方法であって、
イオン光軸の周りで、第1の高周波電圧が印加される電極と第2の高周波電圧が印加される電極との配置が回転非対称であるように、前記イオンガイドの各電極に第1又は第2の高周波電圧を印加するように、前記電圧生成手段と前記イオンガイドの各電極とを電気的に接続する配線部を用いることを特徴とするイオンガイド駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンを収束させつつ後段へと輸送するイオンガイドを備えた質量分析装置、及びそのイオンガイドを動作させるための駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置では、前段から送られて来るイオンを収束させつつ後段の、例えば四重極マスフィルタ等の質量分析器に送り込むために、イオンガイドと呼ばれるイオン光学素子が用いられる。イオンガイドの一般的な構成は、4本、6本、8本、或いはそれ以上の本数の略円柱状のロッド電極を、イオン光軸を取り囲むように互いに同一の角度間隔離し、且つ互いに平行になるように配置した多重極型の構成である。こうした多重極型のイオンガイドでは、通常、イオン光軸周りの周方向に隣接する2本のロッド電極に、振幅及び周波数が同一で位相が互いに反転した高周波電圧がそれぞれ印加される。このような高周波電圧を各ロッド電極に印加することにより、それらロッド電極で囲まれる略円柱状の空間には多重極の高周波電場が形成され、イオンはこの高周波電場中で振動しながら輸送される。
【0003】
質量分析装置の高感度化や高精度化などの要求に応えるためには、イオンガイドにおいて高周波電場中の等電位線の形状を理論的に導出される所定の曲線にできるだけ近づけ、イオン受容性やイオン透過性などの性能の向上を図る必要がある。そのためには各ロッド電極の配置の精度を高めなければならず、それを実現するために本出願人は特許文献1において新規な構成のイオンガイドを提案している。このイオンガイドの一例について、
図9〜
図13を参照して説明する。
【0004】
図9(a)はイオンガイドユニット100の側面図であり、図
9(b)、(c)はそれぞれ
図9(a)中のA−A’矢視断面図、B−B’矢視断面図である。このイオンガイドユニット100は、イオン光軸Cの方向に延伸した8枚の金属板を電極とするイオンガイド110と、それらを囲繞する円筒状のケース140とを含む。イオンガイド110の各電極はその長手側の端面をイオン光軸Cに向け、イオン光軸Cの周りに互いに45°角度間隔離して回転対称に配置されている。ここでは、8枚の電極のうち一つ置きに配置された4枚の電極を第1電極111とし、それらに隣接する4枚の電極を第2電極112とする。
【0005】
図10は1枚の第1電極111の斜視図である。第1電極111にあってイオン光軸C側の端縁は、イオン光軸Cに直交する面内の断面形状がイオン光軸Cに向けて膨出した円弧状又は双曲線状である。また、イオン光軸C側の端面はイオンの進行方向(
図9(c)及び
図10の右方向)に向かうに従ってイオン光軸Cから僅かに遠ざかるように傾斜している。この傾斜により多重極電場の強さをイオンガイド110の出口側ほど小さくして、飛行するイオンを減速させることができる。この第1電極111以外の他の3枚の第1電極111及びそれらに隣接する4枚の第2電極112も同じ形状を有する。
【0006】
ケース140は第1電極111及び第2電極112を囲繞する筒部141と、筒部141の一方の端部に取り付けられ各電極の一端面(
図9(c)における左側端面)を支える第1支持部142と、筒部141の他方の端部に取り付けられた第2支持部143と、第2支持部143との間に
図11(a)に示すような板バネ130を挟んで固定するための板バネ固定部144と、を備える。第1支持部142及び第2支持部143はセラミックスやプラスチック等の絶縁体から成り、中央にイオンを通過させるための開口が設けられている。さらに第2支持部143には各電極に対応する位置に円筒状の貫通穴が設けられている。
【0007】
図11(a)に示した板バネ130は、金属製のリング状の枠部131と、枠部131から内側に突出する片持ちバネである8個のバネ部132から成る。バネ部132はT字形状であり、隣り合うバネ部132の左右端が接触しない程度に近接されている。
【0008】
第1支持部142における電極を支える面には
図11(b)に示すような金属製の薄板150が配置される。この薄板150は、リング状の枠部151と、枠部151から内側に突出する4個の金属接点152から成る。第1支持部142に配置された薄板150は金属接点152の位置が第1電極111の位置に対応する。これにより、薄板150は第1電極111のみに接触し、第2電極112には接触しない。
【0009】
図12は、イオンガイドユニット100の第2支持部143側の端部における、板バネ130及び板バネ固定部144を取り外した状態の平面図である。第2支持部143に設けられた8個の貫通穴のうち第1電極111に対応する4個の穴には絶縁体から成る絶縁スペーサ121が挿入され、第2電極112に対応する4個の穴には導電体から成る導電スペーサ122が挿入されている。各スペーサは同一長の円筒状体であり、その長さは一端が電極に接触した状態で他端が第2支持部143の表面から僅かに突出する程度である。
【0010】
図13は、
図12に示したイオンガイドユニット100に板バネ130及び板バネ固定部144を取り付けた状態の部分平面図である。板バネ130は隣り合うバネ部132の近接した左右端が1つの絶縁スペーサ121又は1つの導電スペーサ122の突出部を押さえるように配置される。これにより、板バネ130は第1電極111とは絶縁スペーサ121により絶縁され、第2電極112とは導電スペーサ122を介して電気的に接続される。
【0011】
上記構成のイオンガイドユニット100では、板バネ130のバネ部132が、絶縁スペーサ121又は導電スペーサ122を介して第1電極111及び第2電極112を第1支持部142側へと押さえ付ける。これにより、各電極111、112は板バネ130と第1支持部142により両側から挟まれて固定される。このとき、第1電極111の端面は絶縁スペーサ121又は金属製の薄板150に接触し、第2電極112の端面は導電スペーサ122又は絶縁体から成る第2支持部143に接触する。図示しない電圧印加部より、第1電極111には薄板150を介して直流電圧V
DCに高周波電圧v・cosωtが重畳された電圧V
DC+v・cosωtが印加され、第2電極112には板バネ130及び導電スペーサ122を介して同じ直流電圧に位相が反転された(つまり180°ずれた)高周波電圧が重畳された電圧V
DC−v・cosωtが印加される。これにより、8枚の電極111、112の縁端面で囲まれた空間に多重極高周波電場が形成され、そこに導入されるイオンが収束される。
【0012】
このとき、イオン光軸Cに直交する面内で、8枚の電極111、112のイオン光軸C側端の縁はイオン光軸Cに向けて膨出した円弧状又は双曲線状であるため、電極111、112の近傍には、等電位線がその曲線に沿うような形状である電場が発生する。これにより、各電極111、112の端面で囲まれた空間に理想状態に近い電場を形成することができる。
【0013】
ところで、近年の複雑な構成の質量分析装置では、上述したような多重極型のイオンガイドが複数用いられることが多くなってきている。例えば非特許文献1に記載の液体クロマトグラフタンデム四重極型質量分析装置では、イオン源と第1段四重極マスフィルタとの間に2段の八重極型イオンガイドが配置され、コリジョン内部には四重極型のイオンガイドが配設されている。即ち、同一装置に極数の異なる複数のイオンガイドが使用されている。従来の質量分析装置では、そうした異なる極数のイオンガイドはそれぞれ個別の構成を有するものである。例えば、上述したイオンガイドユニット100を使用する場合には、板金電極の枚数のほか、板金電極を保持する絶縁体からなる第1支持部142、第2支持部143、板バネ130などの各部材の形状を、極数に合わせて変更する必要がある。これに対し、上述したような複数のイオンガイドを使用する質量分析装置において、それらイオンガイドとして同一構造のイオンガイドを利用することが可能であれば、コストを削減する上でかなり有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2010−118308号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】「トリプル四重極型LC/MS/MSシステム LCMS-8030」、[online]、株式会社島津製作所、[平成24年3月7日検索]、インターネット<URL: http://www.an.shimadzu.co.jp/lcms/lcms8030/8030-3.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、極数の相違する複数のイオンガイドを備える質量分析装置において、極数の相違に拘わらずそれら複数のイオンガイドとして機械的な構成・構造が同一のイオンガイドを使用することが可能な質量分析装置を提供することである。また、本発明の他の目的は、機械的な構成・構造が同一であるイオンガイドを、四重極、八重極など極数の相違するイオンガイドとして使用するためのイオンガイドの駆動方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置は、イオン光軸に沿って延伸する2n(nは3以上の整数)個の棒状又は板状の電極がイオン光軸を取り囲むように配置されてなるイオンガイドを具備する質量分析装置において、
a)前記イオンガイドの各電極で囲まれる空間に高周波電場を形成するための電圧として、第1の高周波電圧と、該第1の高周波電圧と振幅が同一で位相が反転した第2の高周波電圧と、を生成する電圧生成手段と、
b)前記イオンガイドを構成する2n個の電極の中の、イオン光軸の周りに隣接するm個(mは2以上2n−1以下の整数)の電極に、第1の高周波電圧が印加され、他の2n−m個の電極の中の少なくとも1個の電極に第2の高周波電圧が印加されるように、前記電圧生成手段と前記イオンガイドの各電極とを電気的に接続する
配線部である電気的接続手段と、
を備え
、前記2n個の電極の中の、イオン光軸の周りに1つおきに位置するn個の電極に前記第1の高周波電圧が印加され、他のn個の電極に前記第2の高周波電圧が印加されるように前記電圧生成手段と前記イオンガイドの各電極とが電気的に接続される配線部が用いられた場合に2n重極型イオンガイドとして機能するイオンガイドを、前記電気的接続手段を用いることで、2n重極未満の多重極場成分を有する高周波電場又は偏向電場を形成するイオンガイドとして利用してなることを特徴としている。
【0018】
また上記課題を解決するために成された本発明に係るイオンガイド駆動方法は、イオン光軸に沿って延伸する2n(nは3以上の整数)個の棒状又は板状の電極がイオン光軸を取り囲むように配置されてなるイオンガイドの、前記各電極にそれぞれ所定の電圧を印加することにより、それら電極で囲まれる空間にイオンの挙動を制御する電場を形成するイオンガイド駆動方法であって、
前記イオンガイドを構成する2n個の電極の中の、イオン光軸の周りに隣接するm個(mは2以上2n−1以下の整数)の電極に、第1の高周波電圧を印加し、他の2n−m個の電極の中の少なくとも1個の電極に、前記第1の高周波電圧と振幅が同一で位相が反転した第2の高周波電圧を印加する
ように、前記第1及び第2の高周波電圧を生成する電圧生成手段と前記イオンガイドの各電極とを電気的に接続する配線部を用いることで、前記2n個の電極の中の、イオン光軸の周りに1つおきに位置するn個の電極に前記第1の高周波電圧が印加され、他のn個の電極に前記第2の高周波電圧が印加されるように前記電圧生成手段と前記イオンガイドの各電極とが電気的に接続される配線部が用いられた場合に2n重極型イオンガイドとして機能するイオンガイドを、2n重極未満の多重極場成分を有する高周波電場又は偏向電場を形成するイオンガイドとして利用するようにしたことを特徴としている。
【0019】
即ち、上述したような従来の質量分析装置におけるイオンガイド駆動方法では、イオンを収束させつつ輸送するために、イオンガイドを構成する2n個の電極の中で、イオン光軸の周りに隣接する任意の2個の電極の一方に第1の高周波電圧が印加され、該2個の電極の他方に第2の高周波電圧が印加される。換言すれば、イオン光軸の周りで1個おきの電極に同一の高周波電圧が印加される。したがって、それら電極で囲まれる空間には、主として2n重極場成分を有する高周波電場が形成される(理想的には2n重極場成分のみが現れる筈であるが、現実には他の多重極場成分も現れる)。この場合、高周波電場の形状(高周波電場による等電位線の形状)は、イオン光軸に直交する面内でイオン光軸を中心に回転対称である。これに対し、本発明に係る質量分析装置及びイオンガイド駆動方法では、イオン光軸周りの少なくとも一部で、隣接する2個以上の電極に第1の高周波電圧が印加される。そのため、イオンガイドを構成する2n個の電極で囲まれる空間に形成される高周波電場の主成分は2n重極場成分とはならない。
【0020】
具体的に、本発明に係る質量分析装置の第1の態様は、前記イオンガイドを構成する電極の数はn=p×q(ただし、pは2以上の整数、qは4以上の整数)個であり、前記電気的接続手段は、イオン光軸の周りで隣接する任意のp個の電極を1組としたq組の電極群について、イオン光軸の周りで1組おきのp×q/2個の電極に第1の高周波電圧が印加され、他のp×q/2個の電極に第2の高周波電圧が印加されるように、前記電圧生成手段と前記イオンガイドの各電極とを電気的に接続
する配線部とすることができる。
【0021】
第1の態様の典型的な構成として、nは8、pは2、qは4であり、前記イオンガイドを構成する8個の電極で囲まれる空間に、主として四重極場成分を有する高周波電場を形成するものとすることができる。この場合には、イオン光軸の周りで、第1の高周波電圧が印加される電極と第2の高周波電圧が印加される電極との配置自体が回転対称である。それ故に、高周波電場の形状はイオン光軸に直交する面内でイオン光軸を中心に回転対称である。したがって、イオンガイドに導入されたイオンは高周波電場の作用によりイオン光軸付近で振動しながら、全体としてイオン光軸に沿って進行することになる。
【0022】
上述した従来のイオンガイド駆動方法によれば、イオンガイドを構成する8個の電極で囲まれる空間には主として八重極場成分を有する高周波電場が形成されるのに対し、この態様では、電極数は8のままでありながら、実質的に四重極型のイオンガイドと同等の高周波電場が形成されることになる。即ち、イオンガイドの電極構成自体は何ら変更することなく、電気的接続手段を変更するだけで、通常の八重極型のイオンガイドとして使用することもできるし、四重極型のイオンガイドとして使用することもできる。
【0023】
また本発明に係る質量分析装置の第2の態様では、前記電気的接続手段は、イオン光軸の周りで、第1の高周波電圧が印加される電極と第2の高周波電圧が印加される電極との配置が回転非対称であるように、前記電圧生成手段と前記イオンガイドの各電極とを電気的に接続してなる構成とすることができる。この構成では、例えば、イオン光軸の周りの或る一部分においてのみ、隣接する3個又はそれ以上の電極に同一の高周波電圧が印加される。
【0024】
上記第1の態様とは異なり、この第2の態様の場合、2n個の電極で囲まれる空間に形成される高周波電場の形状は、イオン光軸に直交する面内でイオン光軸を中心に回転非対称となる。そのため、イオンガイドに導入されたイオンは、その導入時のイオン光軸に直交する面内で片寄った方向の力を受ける。それにより、イオンはその導入時のイオン光軸を直線的に延長した2n個の電極の中心軸から徐々にずれるように、つまり偏向しつつ進行する。即ち、第2の態様によるイオンガイドは、或るイオン光軸に沿って導入されたイオンを該イオン光軸とは同一直線上にはなく平行でもないようなイオン光軸に沿って送り出すイオンガイドとして使用される。
【0025】
なお、本発明に係る質量分析装置において、電気的接続手段とは、電圧生成手段と各電極とを繋ぐ広義の、つまり、各種ケーブル線、基板のパターン線、コネクタ、接続用の各種導電部材、などを含む配線部である。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る質量分析装置及びイオンガイド駆動方法によれば、例えば四重極型イオンガイドと八重極型イオンガイドなど、異なる極数のイオンガイドが同一装置に用いられている場合に、同一電極数で同一電極配置であるイオンガイドを使用して四重極、八重極等、その極数に応じた特性の高周波電場を形成することができる。それにより、極数の相違するイオンガイド毎に、異なる構成や構造のイオンガイドを用意する必要がなくなり、部品や部材を共通化してその総数を減らすことで、製品コストを引き下げることができる。それによって、例えば、装置を従来よりも廉価で提供することが可能となる。
【0027】
また本発明に係る質量分析装置及びイオンガイド駆動方法によれば、単に高次の多重極電場を形成するのではなく偏向電場を形成することもできる。それにより、例えば質量分析の上でノイズとなる中性粒子を除外する軸外しイオン光学系を容易に構成することができる。
さらにまた、単に高次の多重極電場を形成するのではなく、意図的に複数の高次の多重極電場が重畳されたような高周波電場を形成することもできる。それにより、使用目的等によって、イオン受容性やイオン透過性などの特性を細かく調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施例による質量分析装置の全体構成図。
【
図2】第1実施例によるイオンガイドにおける高周波電圧の印加状態を示す図(a)及びそのときのシミュレーション計算による電位分布を示す図(b)。
【
図3】第1実施例によるイオンガイドにおける高周波電圧の別の印加状態を示す図(a)及びそのときのシミュレーション計算による電位分布を示す図(b)。
【
図4】
図2及び
図3に示した状態における高周波電圧の振幅と信号強度との関係を測定した結果を示す図。
【
図5】第1実施例によるイオンガイドにおける高周波電圧のさらに別の印加状態を示す図(a)及びそのときのシミュレーション計算による電位分布を示す図(b)。
【
図6】第2実施例によるイオンガイドにおける高周波電圧の印加状態の例を示す図。
【
図7】第3実施例によるイオンガイドにおける高周波電圧の印加状態の例を示す図。
【
図8】第4実施例によるイオンガイドにおける高周波電圧の印加状態の例を示す図。
【
図9】従来のイオンガイドユニットの側面図(a)、並びに(a)中のA−A’矢視断面図(b)及びB−B’矢視断面図(c)。
【
図11】
図9中の板バネの平面図(a)及び薄板の平面図(b)。
【
図12】板バネ及び板バネ固定部を取り付ける前のイオンガイドユニットの平面図。
【
図13】板バネ及び板バネ固定部を取り付けた後のイオンガイドユニットの拡大平面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施例である質量分析装置について、添付図面を参照して説明する。
図1は第1実施例による質量分析装置の全体構成図である。この質量分析装置は、液体クロマトグラフ(LC)等から供給される液体試料中の成分に対するMS/MS分析を実行可能な、タンデム四重極型質量分析装置である。
【0030】
本実施例の質量分析装置は、略大気圧雰囲気に維持されるイオン化室1と、図示しないターボ分子ポンプ等の真空ポンプによる真空排気によって高真空雰囲気に維持される分析室5と、それぞれ真空ポンプによる真空排気によってイオン化室1内のガス圧と分析室5内のガス圧との中間のガス圧に維持される第1中間真空室2、第2中間真空室3、第3中間真空室4とを備える。即ち、この質量分析装置では、イオン化室1から分析室5に向かって各室毎にガス圧が低くなる(真空度が上がる)多段差動排気系の構成が採られている。
【0031】
イオン化室1には、図示しないLCのカラム出口端に接続されたイオン化プローブ6が配設されている。分析室5には、前段四重極マスフィルタ15、内部に第4イオンガイド17が配置されたコリジョンセル16、後段四重極マスフィルタ18及びイオン検出器19が配設されている。また、第1乃至第3中間真空室2、3、4にはイオンを後段へ輸送するための第1乃至第3イオンガイド10、12、14が配設されている。イオン化室1と第1中間真空室2との間は細径の脱溶媒管8を介して連通しており、また第1中間真空室2と第2中間真空室3との間は、スキマー11の頂部に形成された微小径の開口を通して連通し、第2中間真空室3と第3中間真空室4との間は、隔壁に設けられたイオンレンズ13の円形状開口を通して連通している。
【0032】
イオン化プローブ6のノズル7の先端には図示しない直流高圧電源より数kV程度の高電圧が印加される。イオン化プローブ6に導入された液体試料がノズル7の先端に達すると、片寄った電荷を付与されてイオン化室1内に噴霧される。噴霧流中の微小液滴は大気ガスに接触して微細化され、さらに移動相や溶媒が揮発することでさらに微細化が進む。この過程で液滴に含まれる試料成分は電荷を持って液滴から飛び出し、気体イオンとなる。発生したイオンはイオン化室1内と第1中間真空室2内との差圧によって脱溶媒管8へと吸い込まれ、第1中間真空室2内へと送られる。
【0033】
第1イオンガイド10から第3イオンガイド14までの間のイオン輸送光学系は、イオンを分析室5内の前段四重極マスフィルタ15までできるだけ低損失で輸送する機能を有する。電源部21〜25はそれぞれ、制御部20の制御の下に、各イオンガイド10、12、14、スキマー11、イオンレンズ13に、直流電圧と高周波電圧とを重畳した電圧、又は直流電圧のみを印加する。
【0034】
上記イオン輸送光学系によりイオンは前段四重極マスフィルタ15に送り込まれる。前段四重極マスフィルタ15を構成するロッド電極には、電源部26より、分析対象であるイオンの質量電荷比に応じた直流電圧と高周波電圧とを重畳した電圧が印加され、該電圧に対応した質量電荷比を持つイオンのみが該フィルタ15の長軸方向の空間を通り抜けてコリジョンセル16に導入される。コリジョンセル16内には図示しないガス供給源からArなどの所定のCIDガスが供給されており、イオン(プリカーサイオン)はCIDガスに衝突して解離する。解離により生成されたプロダクトイオンは第4イオンガイド17により収束されつつ後段四重極マスフィルタ18へ送られる。
【0035】
後段四重極マスフィルタ18を構成するロッド電極には、電源部28より、分析対象であるプロダクトイオンの質量電荷比に応じた直流電圧と高周波電圧とを重畳した電圧が印加され、該電圧に対応した質量電荷比を持つイオンのみが該フィルタ18の長軸方向の空間を通り抜けてイオン検出器19に到達する。イオン検出器19は到達したイオンの量に応じた検出信号を出力し、図示しないデータ処理部はこの検出信号に基づいて例えばMS/MSスペクトルを作成する。
【0036】
上記構成において、第2イオンガイド12、第3イオンガイド14、及びコリジョンセル16内の第4イオンガイド17は、いずれもイオンを収束させつつ後段へと輸送する機能を有する。例えば非特許文献1に記載の従来の質量分析装置では、第2イオンガイド12及び第3イオンガイド14としては八重極型イオンガイドが使用され、第4イオンガイド17としては四重極型イオンガイドが使用されているが、本実施例の質量分析装置では、それら3つのイオンガイド12、14、17として電極構成が同一であるイオンガイドが用いられている。
【0037】
以下、本実施例で用いられている上記イオンガイドについて詳しく説明する。
図2(a)は第2、第3イオンガイド12、14における高周波電圧の印加状態を示す図であり、
図3(a)は第4イオンガイド17における高周波電圧の印加状態を示す図である。また、
図2(b)は
図2(a)のときのシミュレーション計算による電位分布を示す図、
図3(b)は
図3(a)のときのシミュレーション計算による電位分布を示す図である。
【0038】
イオンガイド12、14、17はいずれも、直線状のイオン光軸Cの周りに45°の回転角度間隔離して互いに平行に配置された8本の略円柱状のロッド電極31〜38からなる。それらロッド電極31〜38はイオン光軸Cを中心軸とする円筒Pに内接しており、これらロッド電極31〜38の配置はイオン光軸Cを中心に回転対称である。なお、
図2(a)及び
図3(a)はイオン光軸Cに直交する面でイオンガイドを切断した断面図である。
【0039】
上述したようにイオンガイド12、14、17はその電極の形状や配置は同一であるものの、各ロッド電極31〜38へ印加される電圧は相違する。即ち、
図2(a)に示すように、第2、第3イオンガイド12、14では、イオン光軸Cの周りに1つおきのロッド電極が互いに電気的に接続されている。即ち、ロッド電極31、33、35、37が互いに電気的に接続され、また残りのロッド電極32、34、36、38が互いに電気的に接続されている。そして、前者の4本のロッド電極31、33、35、37には電源部23(又は25)から直流電圧V
DCに高周波電圧vcosωtが重畳された電圧V
DC+vcosωtが印加され、後者の4本のロッド電極32、34、36、38には電源部23(又は25)から同じ直流電圧V
DCに位相が反転した高周波電圧−vcosωtが重畳された電圧V
DC−vcosωtが印加される。即ち、各ロッド電極31〜38と電源部23(又は25)とを接続する
図2(a)に示すような配線部が本発明における電気的接続手段に相当する。なお、
図2(a)及び
図3(a)では、電圧V
DC−vcosωtが印加されているロッド電極の断面を斜線で示している。
【0040】
イオン光軸Cの周りに1つおきの4本のロッド電極31、33、35、37に共通の電圧V
DC+vcosωtが印加され、それら各ロッド電極に対しイオン光軸C周りに隣接する4本のロッド電極32、34、36、38に共通の電圧V
DC−vcosωtが印加されている。これは、一般的な八重極型イオンガイドと同じであり、上述したように各ロッド電極31〜38に印加される電圧によって、それらロッド電極31〜38で囲まれる空間には主として八重極場成分を有する高周波電場が形成される。この高周波電場による等電位線の形状は、
図2(b)に示すように、イオン光軸Cを中心とした回転対称形状である。
【0041】
一方、
図3(a)に示すように、第4イオンガイド17は、イオン光軸Cの周りで隣接する2つのロッド電極が互いに電気的に接続されて1組とされ、さらにイオン光軸Cの周りに1つおきの組に含まれるロッド電極が互いに電気的に接続されている。即ち、4本のロッド電極31、32、35、36が互いに電気的に接続され、また残りの4本のロッド電極33、34、37、38が互いに電気的に接続されている。そして、前者の4本のロッド電極31、32、35、36には電源部23(又は25)から直流電圧V
DCに高周波電圧vcosωtが重畳された電圧V
DC+vcosωtが印加され、後者の4本のロッド電極33、34、37、38には電源部23(又は25)から同じ直流電圧V
DCに位相が反転した高周波電圧−vcosωtが重畳された電圧V
DC−vcosωtが印加される。即ち、この場合も、各ロッド電極31〜38と電源部23(又は25)とを接続する
図3(a)に示すような配線部が本発明における電気的接続手段に相当する。
【0042】
この場合、同じ組に属する隣り合う2本のロッド電極は同電位であるため、電位的には、これら2本のロッド電極は一体であるとみなし得る。これは擬似的な四重極型イオンガイドであり、上述したように各ロッド電極31〜38に印加される電圧によって、それらロッド電極31〜38で囲まれる空間には主として四重極場成分を有する高周波電場が形成される。この高周波電場による等電位線の形状も
図3(b)に示すように、イオン光軸Cを中心とした回転対称形状である。
【0043】
図4(a)は
図2に示した八重極型イオンガイドとしての駆動状態における高周波電圧の振幅と信号強度との関係を測定した結果を示す図であり、
図4(b)は
図3に示した擬似四重極型イオンガイドとしての駆動状態における高周波電圧の振幅と信号強度との関係を測定した結果を示す図である。
図4(b)を見ると、高周波電圧の振幅が大きくなると信号強度が顕著に低下していることが分かる。これは、四重極場成分のほうがローマスカットオフ(Low Mass Cut-off)現象が顕著であり、イオンが発散してしまうためであると考えられる。一方、信号強度の大きさだけを見れば、
図4(b)は
図4(a)に比べて顕著に高くなっている。これは、四重極場成分のほうがイオンの収束作用が強いためであると考えられ、これにより、
図4(b)のほうが高い感度を実現できることが分かる。
【0044】
上記結果から、ロッド電極の構成(形状や配置など)は八重極型イオンガイドであっても、高周波電圧を印加するための配線部の相違だけで、換言すれば、イオンガイド駆動方法の変更のみで、そのイオンガイドを実質的に四重極型イオンガイドとして動作させることが可能であることが分かる。このようにして、本実施例の質量分析装置では、コリジョンセル16内に配置される第4イオンガイド17として第2及び第3イオンガイド12、14と同じ構成の電極を使用することができ、それによって装置のコスト削減を図ることができる。
【0045】
上記実施例では、ロッド電極31〜38により形成される高周波電場の形状はイオン光軸Cを中心とした回転対称形状であったが、これを回転非対称形状とするように印加電圧を変更することで、ロッド電極31〜38で囲まれる空間に、イオンを偏向させる偏向電場を形成することができる。
図5(a)は、
図2(a)及び
図3(a)に示した電極構成において偏向電場を形成する場合における高周波電圧の印加状態の一例を示す図であり、
図5(b)は
図5(a)のときのシミュレーション計算による電位分布を示す図である。
【0046】
図5(a)に示すように、この例では、4本のロッド電極31、33、35、38には電源部23(又は25)から電圧V
DC+vcosωtが印加され、残りの4本のロッド電極32、34、36、37には電源部23(又は25)から電圧V
DC−vcosωtが印加される。これにより、ロッド電極31〜38で囲まれる空間には、
図5(b)に示すように、イオン光軸Cの周りに回転対称ではない等電位線形状を有する高周波電場が形成される。このような回転非対称である高周波電場の作用により、イオンは
図5(b)中に矢印で示した方向に力を受ける。そのため、イオン光軸Cに沿ってこのイオンガイドに導入されたイオンの軌道は、進行に伴って徐々に
図5(b)中の矢印の方向にずれて曲がってゆく。したがって、
図5中のイオン光軸C(この場合には、イオン軌道の中心ではないので厳密な意味でのイオン光軸ではない)に対し所定の角度を有し傾いた中心軌道に沿ってイオンガイドから出射する。
【0047】
一般に質量分析装置では、試料成分由来のイオン流に混じっている中性粒子(例えばイオン化されなかった試料成分分子など)を除去するために、いわゆる軸外し(又は軸ずらし)イオン光学系が利用されることがある。そうした目的で、例えば特許第3542918号公報、米国特許出願公開2009/0294663号明細書などでは、湾曲形状のロッド電極を用いたイオンガイドが提案されているが、こうした形状の電極を精度良く製造することは難しい。これに対し、上記例によれば、電極構造は通常と同じであり、イオンガイド駆動方法のみを変更することでイオン入射軸とイオン出射軸とが斜交するイオンガイドを得ることができるので、コスト的に非常に有利である。
【0048】
また上記実施例では、イオンガイドの各ロッド電極と電源部との電気的な接続を変更することで、電極数とは異なる多重極場成分を有する高周波電場を形成したり偏向電場を形成したりしていた。電気的な接続を変更する具体的な方法としては、配線部としてのケーブル線を繋ぎ変える、基板のパターン配線を変更する、配線を入れ替える中継ケーブルを使用する、など様々な方法を採り得る。また、イオンガイドとして、
図9〜
図13により説明したイオンガイドユニット100を用いる場合には、該イオンガイドユニット100を構成する各種部品を何ら変更することなく全く同じ部品を使用しながら、電気的な接続の変更を簡単に行うことができる。
【0049】
具体的には、
図9に示すように電極が8枚である構成において、当該イオンガイド101を八重極型イオンガイドとして動作させる際には、
図12に示すように、導電スペーサ122と絶縁スペーサ121とをイオン光軸Cの周りに交互に配置している。これに対し、当該イオンガイド101を四重極型イオンガイドとして動作させる際には、イオン光軸Cの周りに導電スペーサ122を2個隣接して配置し、その隣りには絶縁スペーサを2個隣接して配置するように、第2支持部143に設けられた8個の貫通穴への、導電スペーサ122と絶縁スペーサ121の挿入位置を変更すればよい。
【0050】
このようにイオンガイドユニット100では、本発明における電気的接続手段に相当する、金属製の薄板150、第2支持部143、導電スペーサ122、絶縁スペーサ121、などの構成自体は変更することなく、組立時において導電スペーサ122及び絶縁スペーサ121の挿入位置を変更するのみで、八重極型のイオンガイドと
図3に示したような擬似四重極型のイオンガイドとの一方を構成することができる。
【0051】
また、上記実施例は電極の数が8の例であるが、電極数は2n(nは3以上の整数)であればよい。
図6〜
図8はそれぞれnが3、5、6である場合のイオンガイド40、50、60を構成する各電極への高周波電圧の印加状態を示す図である。
図6〜
図8の(a)はいずれも、各イオンガイド40、50、60をそれぞれの電極数に応じた六重極型、十重極型、十二重極型のイオンガイドとして動作させるときの電圧印加状態である。一方、
図6、
図7の(b)は偏向電場を形成する場合の高周波電圧の印加状態の一例を示す図である。また、
図8(b)は電極数が12であるイオンガイドを擬似四重極型のイオンガイドとして動作させる場合の電圧印加状態である。このように、2nが8である場合に限らず、任意の2nの電極数のイオンガイドに本発明を適用することが可能である。
【0052】
さらにまた、上記実施例や各種変形例はいずれも一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても、本願請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0053】
1…イオン化室
2…第1中間真空室
3…第2中間真空室
4…第3中間真空室
5…分析室
6…イオン化プローブ
7…ノズル
8…脱溶媒管
10…第1イオンガイド
11…スキマー
12…第2イオンガイド
13…イオンレンズ
14…第3イオンガイド
15…前段四重極マスフィルタ
16…コリジョンセル
17…第4イオンガイド
18…後段四重極マスフィルタ
19…イオン検出器
20…制御部
21〜28…電源部
31〜38、41〜46、51〜5A、61〜6C…ロッド電極
40、50、60…イオンガイド
100…イオンガイドユニット
110…イオンガイド
111…第1電極
112…第2電極
121…絶縁スペーサ
122…導電スペーサ
130…板バネ
131…枠部
132…バネ部
140…ケース
141…筒部
142…第1支持部
143…第2支持部
144…板バネ固定部
150…薄板
151…枠部
152…金属接点
C…イオン光軸