特許第5776840号(P5776840)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5776840-フッ素ゴム組成物、及び、その製造方法 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776840
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】フッ素ゴム組成物、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20150820BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20150820BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20150820BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   C08L27/12
   C08K3/04
   C08J3/20 BCEQ
   C08J3/24 Z
【請求項の数】6
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2014-506386(P2014-506386)
(86)(22)【出願日】2013年1月18日
(65)【公表番号】特表2014-527088(P2014-527088A)
(43)【公表日】2014年10月9日
(86)【国際出願番号】JP2013051512
(87)【国際公開番号】WO2013108935
(87)【国際公開日】20130725
【審査請求日】2014年2月6日
(31)【優先権主張番号】61/589,176
(32)【優先日】2012年1月20日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/602,842
(32)【優先日】2012年2月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 大助
(72)【発明者】
【氏名】上田 明紀
(72)【発明者】
【氏名】門脇 優
(72)【発明者】
【氏名】田枝 真由子
(72)【発明者】
【氏名】北市 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】土井 迪子
(72)【発明者】
【氏名】山邑 和裕
(72)【発明者】
【氏名】福岡 昌二
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−011087(JP,A)
【文献】 特開平07−134469(JP,A)
【文献】 特開2010−285526(JP,A)
【文献】 特開2001−261846(JP,A)
【文献】 特開平07−196881(JP,A)
【文献】 特表2014−521755(JP,A)
【文献】 特表2011−522921(JP,A)
【文献】 特開2001−233997(JP,A)
【文献】 特開2002−201289(JP,A)
【文献】 特開2011−032465(JP,A)
【文献】 特開平06−240153(JP,A)
【文献】 特開2004−123878(JP,A)
【文献】 特表2012−519221(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/026559(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
C08J 3/00 − 3/28
C08J 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉式混練機により、最高温度が80〜220℃に達するまで、フッ素ゴム(A)及びカーボンブラック(B)を混練して、中間組成物を得る工程(1−1)と、
50℃未満になるまで中間組成物を冷却する工程(1−2)と、
最高温度が10℃以上80℃未満に達するまで、冷却した中間組成物を混練して、フッ素ゴム組成物を得る工程(2−1)と、
を含み、
工程(2−1)は、工程(2−1)で得られるフッ素ゴム組成物のG’(1%)/G’(100%)の値(P)を、工程(1−2)で得られる中間組成物のG’(1%)/G’(100%)の値(Q)で除して求められる値(P/Q)(但し、G’(1%)/G’(100%)は、動的歪み1%時の剪断弾性率G’(1%)と動的歪み100%時の剪断弾性率G’(100%)との比を表す。)が0.3〜1.5となるように実施される
ことを特徴とするフッ素ゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
フッ素ゴム(A)は、ビニリデンフルオライドゴムである請求項1記載のフッ素ゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
工程(1−1)において、フッ素ゴム(A)100質量部に対して5〜65質量部のカーボンブラック(B)を混練する請求項1又は2記載のフッ素ゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
カーボンブラック(B)は、窒素吸着比表面積(NSA)が25〜180m/gであって、ジブチルフタレート(DBP)吸油量が45〜180ml/100gである請求項1、2又は3記載のフッ素ゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
工程(1−1)において、更に、架橋剤(C)および/または架橋促進剤(D)を混練する請求項1、2、3又は4記載のフッ素ゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
更に、工程(2−1)で得られたフッ素ゴム組成物と、架橋剤(C)および/または架橋促進剤(D)とを混練する工程を含む請求項1、2、3、4又は5記載のフッ素ゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、本明細書において全体にわたって参照として組み込まれた2012年1月20日出願の米国仮特許出願第61/589,176号及び2012年2月24日出願の米国仮特許出願第61/602,842号の35U.S.C.§119(e)に基づく利益を請求する。
【0002】
本発明は、フッ素ゴム組成物、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
フッ素ゴムは、耐薬品性、耐油性、耐熱性、耐寒性等に優れることが知られている。
【0004】
特許文献1では、高い温度に加熱した後でも改良された耐圧縮永久ひずみ性を有している臭素含有フッ素ゴム組成物が提案されている。
特許文献2では、極めて高い引張強度を達成し、かつ従来のフッ素ゴム加硫物と同様に耐圧縮永久ひずみ性、耐熱性、耐油性、耐薬品性に優れた架橋物を与えるフッ素ゴム加硫組成物が提案されている。
特許文献3では、100℃といった高温破断時の伸びおよび0℃といった低温における耐圧縮永久歪特性にすぐれた加硫物を与え得る含フッ素エラストマーが提案されている。
特許文献4では、優れた熱時強度を有する組成物として、フッ素樹脂(b)100重量部に対して5〜100重量部の含フッ素熱可塑性エラストマーを含んでなるフッ素ゴム組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−55050号公報
【特許文献2】特開平3−122153号公報
【特許文献3】特開2008−184496公報
【特許文献4】特開平06−25500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐熱性だけではなく、高温時の機械物性にも優れた架橋物を与えるフッ素ゴム組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、密閉式混練機により、最高温度が80〜220℃に達するまで、フッ素ゴム(A)及びカーボンブラック(B)を混練して、中間組成物を得る工程(1−1)と、50℃未満になるまで中間組成物を冷却する工程(1−2)と、最高温度が10℃以上80℃未満に達するまで、冷却した中間組成物を混練して、フッ素ゴム組成物を得る工程(2−1)と、を含むことを特徴とするフッ素ゴム組成物の製造方法である。
【0008】
フッ素ゴム(A)は、ビニリデンフルオライド系ゴムであることが好ましい。
【0009】
工程(1−1)において、フッ素ゴム(A)100質量部に対して5〜65質量部のカーボンブラック(B)を混練することが好ましい。
【0010】
カーボンブラック(B)は、窒素吸着比表面積(NSA)が25〜180m/gであって、ジブチルフタレート(DBP)吸油量が45〜180ml/100gであることが好ましい。
【0011】
工程(1−1)において、更に、架橋剤(C)および/または架橋促進剤(D)を混練することが好ましい。
【0012】
本発明は、更に、工程(2−1)で得られたフッ素ゴム組成物と、架橋剤(C)および/または架橋促進剤(D)とを混練する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐熱性だけではなく、高温時の機械物性にも優れた架橋物を与えるフッ素ゴム組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】工程(2−1)及び工程(2−2)における混練方法を模式的に示す図である。
図2】プライマーバルブの形状の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
工程(1−1)は、最高温度が80〜220℃に達するまで、フッ素ゴム(A)及びカーボンブラック(B)を混練して、中間組成物を得る工程である。
【0016】
工程(1−1)は、高温でフッ素ゴム(A)とカーボンブラック(B)とを混練することを特徴とする。工程(1−1)を経ることによって、高温時の機械物性に優れたフッ素ゴム架橋物を与えるフッ素ゴム組成物を製造することができる。
【0017】
工程(1−1)における混練は、密閉式混練機により実施する。密閉式混練機としては、バンバリーミキサー等の接線式密閉式混練機、インターミックス等のかみ合い式密閉式混練機、加圧ニーダー、一軸混練機、二軸混練機などが挙げられる。
【0018】
密閉式混練機を使用する場合、ローターの平均剪断速度を20〜1000(1/秒)とすることが好ましく、50〜1000(1/秒)とすることがより好ましく、100〜1000(1/秒)とすることが更に好ましく、200〜1000(1/秒)とすることが更により好ましく、300〜1000(1/秒)とすることが特に好ましい。
【0019】
平均剪断速度(1/秒)は、つぎの式により算出される。
平均剪断速度(1/秒)=(π×D×R)/(60(秒)×c)
(式中、
D:ローター径またはロール径(cm)
R:回転速度(rpm)
c:チップクリアランス(cm。ローターとケーシングとの間隙の距離、またはロール同士の間隙の距離))
【0020】
工程(1−1)において、更に、架橋剤(C)および/または架橋促進剤(D)を混練してもよい。特に、架橋系がポリオール架橋系である場合は、工程(1−1)において、更に、架橋剤(C)および/または架橋促進剤(D)を混練することが好ましい。フッ素ゴム(A)と、カーボンブラック(B)と、架橋剤(C)および/または架橋促進剤(D)とを同時に密閉式混練機に投入してから混練してもよいし、フッ素ゴムと架橋剤(C)および/または架橋促進剤(D)とを混練した後、カーボンブラック(B)を混練してもよい。
また、工程(1−1)において、更に有機アミン化合物および/または受酸剤を混練することも好ましい。
【0021】
工程(1−1)における混練は、混練中の混練物の最高温度が80〜220℃に達するまで行うものである。上記混練は、最高温度が120℃以上に達するまで行うことが好ましく、最高温度が200℃以下に達するまで行うことが好ましい。上記最高温度は、混練機から排出された直後の混練物の温度を測定することにより把握することができる。
【0022】
本発明において、工程(1−2)は、工程(1−1)により得られた中間組成物を50℃未満になるまで冷却する工程である。工程(1−1)において得られる中間組成物は、温度が80〜220℃であるが、中間組成物を充分に冷却してから工程(2−1)を実施することによって、高温時の機械物性に優れたフッ素ゴム架橋物を与えるフッ素ゴム組成物を製造することができる。工程(1−2)は、中間組成物全体が上述した範囲の温度になるように冷却することが好ましい。冷却温度の下限は特に限定されないが、10℃であってよい。
【0023】
工程(1−2)において、ロール練り機を使用して、中間組成物を混練しながら冷却することも好ましい。
【0024】
工程(1−1)及び工程(1−2)は、任意の回数繰り返してもよい。繰り返す場合の工程(1−1)及び工程(1−2)において、最高温度が120〜220℃に達するまで中間組成物を混練することが好ましく、最高温度が120〜140℃に達するまで中間組成物を混練することがより好ましい。工程(1−1)及び工程(1−2)を繰り返す場合、混練を密閉式混練機により行ってもよいし、ロール練り機により行ってもよい。
【0025】
ロール練り機を使用する場合、ローターの平均剪断速度を20(1/秒)以上とすることが好ましく、50(1/秒)以上とすることがより好ましく、100(1/秒)以上とすることが更に好ましく、200(1/秒)以上とすることが更により好ましく、300(1/秒)以上とすることが特に好ましく、また、1000(1/秒)以下とすることが好ましい。
【0026】
本発明の製造方法において、密閉式混練機に、フッ素ゴム(A)及びカーボンブラック(B)を投入する工程を有することも好ましい。上記工程において、架橋剤(C)および/または架橋促進剤(D)を投入してもよいし、有機アミン化合物および/または受酸剤を投入してもよい。
【0027】
工程(1−1)は、中間組成物を排出するまでの間に任意の添加剤を投入する工程を含んでもよい。該添加剤としては、1種又は2種以上を用いることができる。投入回数は1回でも複数回でもよい。2種以上の添加剤を投入する場合には、同時に投入してもよく、夫々別々の回に投入してもよい。また、1種の添加剤を複数回投入してもよい。「中間組成物を排出するまでの間に任意の添加剤を投入する工程」としては、例えば、工程(1−1)において最初に投入したカーボンブラック(B)とは異なるカーボンブラック(B’)を、中間組成物を排出するまでの間に投入する工程を挙げることができる。
【0028】
工程(1−1)及び工程(1−2)を繰り返す場合にも、各回の工程(1−1)は、上述した「中間組成物を排出するまでの間に任意の添加剤を投入する工程」を含んでよい。例えば、2回目の工程(1−1)において、1回目の工程(1−1)で用いたカーボンブラック(B)とは異なるカーボンブラック(B’)を更に投入してもよい。
【0029】
本発明の製造方法において、工程(2−1)は、工程(1−2)で得られた冷却された中間組成物を混練して、フッ素ゴム組成物を得る工程である。
【0030】
工程(2−1)は、工程(1−2)において充分に冷却された中間組成物を、更に混練する工程であって、フッ素ゴム架橋物の高温時の機械物性を改良するために重要となる工程である。
【0031】
工程(2−1)における混練は、組成物の最高温度が10℃以上80℃未満に達するまで行うことが好ましい。混練中の組成物の最高温度が高すぎると、高温時の機械物性に優れたフッ素ゴム架橋物を与えるフッ素ゴム組成物を得ることができないおそれがある。
【0032】
工程(2−1)は、工程(1−2)で得られた冷却された互いに異なる中間組成物同士を混練する工程を含んでもよい。この場合の混練は、上記互いに異なる中間組成物の混合物の最高温度が10℃以上80℃未満に達するまで行えばよい。
【0033】
本発明の製造方法は、工程(2−1)を実施した後、更に、工程(2−1)をm−1回(mは2以上の整数である)繰り返す工程(2−2)を含むことが好ましい。工程(2−1)を合計で2回以上実施することにより、高温時の機械物性に優れたフッ素ゴム架橋物を与えるフッ素ゴム組成物を安定して製造することができる。上記mは5以上の整数であることが好ましく、10以上の整数であることがより好ましく、30以上の整数であることが更に好ましく、50以上の整数であることが特に好ましい。工程(2−2)おける各混練の前には中間組成物を冷却する工程を含むことも好ましい。
【0034】
工程(2−1)及び工程(2−2)における混練は、上述した密閉式混練機又はロール練り機で実施することができる。
【0035】
工程(2−1)及び工程(2−2)は、中間組成物をロール練り機に投入して薄通しを行うことにより中間組成物を混練する工程であることが好ましい。
また、ロール練り機を使用する際には、フッ素ゴムの発熱を抑えて混練するのが好ましい。そのような混練方法としては、例えば、ロールの冷却効率を高めて混練する方法、練りバッチ重量を小さくして混練する方法などの方法が挙げられる。本発明の製造方法において、ロール練り機を使用する際に、フッ素ゴムの発熱を抑えて混練することにより、本発明の効果をより顕著に発現させることが可能となるが、本発明の製造方法はこのように混練するものに限定されない。
【0036】
図1に薄通しによる混練の方法を概略的に示す。図1(a)に示すように、中間組成物を第1のロール11と第2のロール12とを備えるオープンロール10に投入する。第1のロール11と第2のロール12とは矢印の方向に異なる速度で回転している。投入された中間組成物は、次に、図1(b)に示すように、剪断力を受けながら第1のロール11と第2のロール12との間を通過することによりシート状に分出しされた後、図1(c)に示すように、分出しされた組成物が任意の箇所で巻き取られる。
【0037】
工程(2−1)及び工程(2−2)は、高温時の機械物性に優れたフッ素ゴム架橋物を与えるフッ素ゴム組成物を得る観点から、工程(2−1)で得られるフッ素ゴム組成物及び工程(2−2)で得られるフッ素ゴム組成物のG’(1%)/G’(100%)の値(P)を、工程(1−2)で得られる中間組成物のG’(1%)/G’(100%)の値(Q)で除して求められる値(P/Q)が、いずれも、0.3〜1.5となるように実施することが好ましく、1.3以下となるように実施することがより好ましく、1.0以下となるように実施することが更に好ましく、1.0未満となるように実施することが特に好ましく、0.9以下となるように実施することが殊更に好ましい。
【0038】
動的歪み1%時の剪断弾性率G’(1%)及び剪断弾性率G’(1%)と動的歪み100%時の剪断弾性率G’(100%)との比(G’(1%)/G’(100%))は、アルファテクノロジーズ社製のラバープロセスアナライザ(型式:RPA2000)を用いて、100℃で1分間予熱後、100℃、1Hzの条件で測定される動的粘弾性から算出することができる。
【0039】
1回の薄通しでも架橋物の高温時の機械物性を向上させることができるが、更に優れた高温時の機械物性を達成するために、上記薄通しを合計でm回(mは2以上の整数である)行うことが好ましい。上記mは5以上の整数であることが好ましく、10以上の整数であることがより好ましく、30以上の整数であることが更に好ましく、50以上の整数であることが特に好ましい。
【0040】
本発明の製造方法により得られるフッ素ゴム組成物は、ラバープロセスアナライザ(RPA)による未架橋ゴムでの動的粘弾性試験(測定温度:100℃、測定周波数:1Hz)における動的歪み1%時のせん断弾性率G’(1%)および動的歪み100%時のせん断弾性率G’(100%)の差δG’(G’(1%)−G’(100%))が、120kPa以上3,000kPa以下であるもの好適である
【0041】
差δG’は、ゴム組成物の補強性という性質を評価する指標として用い、ラバープロセスアナライザによる動的粘弾性試験で測定算出される。
【0042】
差δG’が120kPa以上3000kPa以下の範囲にあるフッ素ゴム組成物は、常態物性および高温時の機械物性などの点で有利である。
【0043】
差δG’は、常態物性および高温時の機械物性などが良好な点から、好ましくは150kPa以上、更には160kPa以上であり、常態物性、硬度、押出成形時の粘度および高温時の機械物性などが良好な点から、好ましくは2800kPa以下、更には2500kPa以下である。
【0044】
本発明の製造方法は、更に、工程(2−1)又は工程(2−2)で得られたフッ素ゴム組成物と、架橋剤(C)および/または架橋促進剤(D)とを混練する工程を含むことも好ましい。上述したとおり、架橋剤(C)および/または架橋促進剤(D)は、工程(1−1)において混練してもよい。架橋系が過酸化物架橋系である場合は、工程(1−1)において架橋剤(C)および架橋促進剤(D)を混練することなく、工程(2−1)又は工程(2−2)で得られたフッ素ゴム組成物と架橋剤(C)および/または架橋促進剤(D)とを混練することが好ましい。
【0045】
架橋剤(C)と架橋促進剤(D)は同時に配合し混練してもよいし、まず架橋促進剤(D)を配合混練し、ついで架橋剤(C)を配合混練してもよい。工程(1−1)において混練する場合、架橋剤(C)と架橋促進剤(D)の混練条件は、混練の最高温度が130℃以下であるほかは、上述した工程(1−1)と同じ条件であってよい。なかでも、ローターの平均速度を20(1/秒)以上、好ましくは50(1/秒)以上、より好ましくは100(1/秒)以上、更に好ましくは200(1/秒)以上、特に好ましくは300(1/秒)以上としたオープンロール、密閉式混練機等を使用して混練することが好ましい。工程(2−1)又は工程(2−2)で得られたフッ素ゴム組成物と架橋剤(C)および/または架橋促進剤(D)とを混練する場合は、最高温度が130℃未満となるように混練することが好ましい。
【0046】
次に、上述のフッ素ゴム組成物の各成分について説明する。
【0047】
(A)フッ素ゴム
本発明に用いるフッ素ゴム(A)としては、たとえばテトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニリデン(VdF)および式(1):
CF=CF−R (1)
(式中、Rは−CFまたは−OR(Rは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基))で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物(たとえばヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)など)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体に由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0048】
別の観点からは、フッ素ゴムとしては、非パーフルオロフッ素ゴムおよびパーフルオロフッ素ゴムが好ましい。
【0049】
非パーフルオロフッ素ゴムとしては、フッ化ビニリデン(VdF)系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン(Pr)系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン(Pr)/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系フッ素ゴム、エチレン(Et)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン(Et)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/テトラフルオロエチレン(TFE)系フッ素ゴム、フルオロシリコーン系フッ素ゴム、またはフルオロホスファゼン系フッ素ゴムなどが挙げられ、これらをそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組み合わせて用いることができる。これらの中でも、VdF系フッ素ゴム、TFE/Pr系フッ素ゴム、TFE/Pr/VdF系フッ素ゴムが、耐熱老化性、耐油性が良好な点からより好適である。
【0050】
上記VdF系ゴムは、VdF繰り返し単位が、VdF繰り返し単位とその他の共単量体に由来する繰り返し単位との合計モル数の20モル%以上、90モル%以下が好ましく、40モル%以上、85モル%以下であることがより好ましい。更に好ましい下限は45モル%、特に好ましい下限は50モル%であり、更に好ましい上限は80モル%である。
【0051】
そして、上記VdF系ゴムにおける共単量体としてはVdFと共重合可能であれば特に限定されず、たとえば、TFE、HFP、PAVE、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニル、ヨウ素含有フッ素化ビニルエーテル、一般式(2)
CH=CFR (2)
(式中、Rは炭素数1〜12の直鎖または分岐したフルオロアルキル基)で表される含フッ素単量体などのフッ素含有単量体;エチレン(Et)、プロピレン(Pr)、アルキルビニルエーテル等のフッ素非含有単量体、架橋性基(キュアサイト)を与える単量体、および反応性乳化剤などが挙げられ、これらの単量体や化合物のなかから1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
前記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)がより好ましく、特にPMVEが好ましい。
【0053】
また、前記PAVEとして、式:CF=CFOCFOR
(式中、Rは炭素数1〜6の直鎖または分岐状パーフルオロアルキル基、炭素数5〜6の環式パーフルオロアルキル基、1〜3個の酸素原子を含む炭素数2〜6の直鎖または分岐状パーフルオロオキシアルキル基である)で表されるパーフルオロビニルエーテルを用いてもよく、CF=CFOCFOCF、CF=CFOCFOCFCF、または、CF=CFOCFOCFCFOCFを用いることが好ましい。
【0054】
上記式(2)で表される含フッ素単量体としては、Rが直鎖のフルオロアルキル基である単量体が好ましく、Rが直鎖のパーフルオロアルキル基である単量体がより好ましい。Rの炭素数は1〜6であることが好ましい。上記式(2)で表される含フッ素単量体としては、CH=CFCF、CH=CFCFCF、CH=CFCFCFCF、CH=CFCFCFCFCFなどが挙げられ、なかでも、CH=CFCFで示される2,3,3,3−テトラフルオロプロピレンが好ましい。
【0055】
上記VdF系ゴムとしては、VdF/HFP共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/CTFE/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体、VdF/TFE/プロピレン(Pr)共重合体、VdF/エチレン(Et)/HFP共重合体及びVdF/式(2)で表される含フッ素単量体の共重合体等が挙げられる。このなかでも、VdF/HFP共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体、VdF/式(2)で表される含フッ素単量体の共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体及びVdF/HFP/TFE/PAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の共重合体がより好ましく、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/式(2)で表される含フッ素単量体の共重合体及びVdF/PAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の共重合体が更に好ましく、VdF/HFP共重合体、VdF/式(2)で表される含フッ素単量体の共重合体及びVdF/PAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の共重合体が更により好ましい。
【0056】
VdF/HFP共重合体は、VdF/HFPの組成が、(45〜85)/(55〜15)(モル%)であることが好ましく、より好ましくは(50〜80)/(50〜20)(モル%)であり、更に好ましくは(60〜80)/(40〜20)(モル%)である。
【0057】
VdF/TFE/HFP共重合体は、VdF/TFE/HFPの組成が(30〜80)/(4〜35)/(10〜35)(モル%)のものが好ましい。
【0058】
VdF/PAVE共重合体としては、VdF/PAVEの組成が(65〜90)/(35〜10)(モル%)のものが好ましい。
【0059】
VdF/TFE/PAVE共重合体としては、VdF/TFE/PAVEの組成が(40〜80)/(3〜40)/(15〜35)(モル%)のものが好ましい。
【0060】
VdF/HFP/PAVE共重合体としては、VdF/HFP/PAVEの組成が(65〜90)/(3〜25)/(3〜25)(モル%)のものが好ましい。
【0061】
VdF/HFP/TFE/PAVE共重合としては、VdF/HFP/TFE/PAVEの組成が(40〜90)/(0〜25)/(0〜40)/(3〜35)(モル%)のものが好ましく、(40〜80)/(3〜25)/(3〜40)/(3〜25)(モル%)のものがより好ましい。
【0062】
VdF/式(2)で表される含フッ素単量体(2)系共重合体としては、VdF/含フッ素単量体(2)単位のモル%比が85/15〜20/80であり、VdFおよび含フッ素単量体(2)以外の他の単量体単位が全単量体単位の0〜50モル%のものが好ましく、VdF/含フッ素単量体(2)単位のモル%比が80/20〜20/80であることがより好ましい。またVdF/含フッ素単量体(2)単位のモル%比が85/15〜50/50であり、VdFおよび含フッ素単量体(2)以外他の単量体単位が全単量体単位の1〜50モル%であるものも好ましい。VdFおよび含フッ素単量体(2)以外の他の単量体としては、TFE、HFP、PMVE、パーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、PPVE、CTFE、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニル、エチレン(Et)、プロピレン(Pr)、アルキルビニルエーテル、架橋性基を与える単量体、および反応性乳化剤などの上記VdFの共単量体として例示した単量体が好ましく、なかでもPMVE、CTFE、HFP、TFEであることがより好ましい。
【0063】
TFE/プロピレン(Pr)系フッ素ゴムとは、TFE45〜70モル%、プロピレン(Pr)55〜30モル%からなる含フッ素共重合体をいう。これら2成分に加えて、特定の第3成分(たとえばPAVE)を0〜40モル%含んでいてもよい。
【0064】
エチレン(Et)/HFP共重合体としては、Et/HFPの組成が、(35〜80)/(65〜20)(モル%)であることが好ましく、(40〜75)/(60〜25)(モル%)がより好ましい。
【0065】
Et/HFP/TFE共重合体は、Et/HFP/TFEの組成が、(35〜75)/(25〜50)/(0〜15)(モル%)であることが好ましく、(45〜75)/(25〜45)/(0〜10)(モル%)がより好ましい。
【0066】
パーフルオロフッ素ゴムとしては、TFE/PAVEからなるものなどが挙げられる。TFE/PAVEの組成は、(50〜90)/(50〜10)(モル%)であることが好ましく、より好ましくは、(50〜80)/(50〜20)(モル%)であり、更に好ましくは、(55〜75)/(45〜25)(モル%)である。
【0067】
この場合のPAVEとしては、たとえばPMVE、PPVEなどが挙げられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。
【0068】
フッ素ゴム(A)は数平均分子量Mn5000〜500000のものが好ましく、10000〜500000のものが更に好ましく、特に20000〜500000のものが好ましい。
【0069】
また、たとえばフッ素ゴム組成物の粘度を低くしたい場合などでは、上記のフッ素ゴム(A)に他のフッ素ゴムをブレンドしてもよい。他のフッ素ゴムとしては、低分子量液状フッ素ゴム(数平均分子量1000以上)、数平均分子量が10000程度の低分子量フッ素ゴム、更には数平均分子量が100000〜200000程度のフッ素ゴムなどが挙げられる。
【0070】
加工性の観点から、フッ素ゴム(A)は100℃におけるムーニー粘度が20〜200、更には30〜180の範囲にあることが好ましい。ムーニー粘度は、ASTM−D1646およびJIS K6300に準拠して測定する。
【0071】
以上説明した非パーフルオロフッ素ゴムおよびパーフルオロフッ素ゴムは、乳化重合、懸濁重合、溶液重合などの常法により製造することができる。特にヨウ素(臭素)移動重合として知られるヨウ素(臭素)化合物を使用した重合法によれば、分子量分布が狭いフッ素ゴムを製造できる。
【0072】
前記非パーフルオロフッ素ゴムやパーフルオロフッ素ゴムとして例示したものは主単量体の構成であり、架橋性基を与える単量体を共重合したものも好適に用いることができる。架橋性基を与える単量体としては、製造法や架橋系に応じて適切な架橋性基を導入できるものであればよく、たとえばヨウ素原子、臭素原子、炭素−炭素二重結合、シアノ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、エステル基などを含む公知の重合性化合物、連鎖移動剤などが挙げられる。
【0073】
好ましい架橋性基を与える単量体としては、
一般式(3):
CY=CY (3)
(式中、Y、Yはフッ素原子、水素原子または−CH;Rは1個以上のエーテル結合性酸素原子を有していてもよく、芳香環を有していてもよい、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐状の含フッ素アルキレン基;Xはヨウ素原子または臭素原子)
で示される化合物が挙げられる。具体的には、たとえば、一般式(4):
CY=CYCHR−X (4)
(式中、Y、Y、Xは前記同様であり、Rは1個以上のエーテル結合性酸素原子を有していてもよく水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐状の含フッ素アルキレン基、すなわち水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐状の含フッ素アルキレン基、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐状の含フッ素オキシアルキレン基、または水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐状の含フッ素ポリオキシアルキレン基;Rは水素原子またはメチル基)
で示されるヨウ素含有モノマー、臭素含有モノマー、一般式(5)〜(22):
CY=CY(CF−X (5)
(式中、Yは、同一又は異なり、水素原子またはフッ素原子、nは1〜8の整数)
CF=CFCF−X (6)
(式中、
【0074】
【化1】
【0075】
であり、nは0〜5の整数)
CF=CFCF(OCF(CF)CF
(OCHCFCFOCHCF−X(7)
(式中、mは0〜5の整数、nは0〜5の整数)
CF=CFCF(OCHCFCF
(OCF(CF)CFOCF(CF)−X(8)
(式中、mは0〜5の整数、nは0〜5の整数)
CF=CF(OCFCF(CF))O(CF−X (9)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜8の整数)
CF=CF(OCFCF(CF))−X (10)
(式中、mは1〜5の整数)
CF=CFOCF(CF(CF)OCFCF(−X)CF (11)
(式中、nは1〜4の整数)
CF=CFO(CFOCF(CF)−X (12)
(式中、nは2〜5の整数)
CF=CFO(CF−(C)−X (13)
(式中、nは1〜6の整数)
CF=CF(OCFCF(CF))OCFCF(CF)−X (14)
(式中、nは1〜2の整数)
CH=CFCFO(CF(CF)CFO)CF(CF)−X (15)
(式中、nは0〜5の整数)、
CF=CFO(CFCF(CF)O)(CF−X (16)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜3の整数)
CH=CFCFOCF(CF)OCF(CF)−X (17)
CH=CFCFOCHCF−X (18)
CF=CFO(CFCF(CF)O)CFCF(CF)−X (19)
(式中、mは0以上の整数)
CF=CFOCF(CF)CFO(CF−X (20)
(式中、nは1以上の整数)
CF=CFOCFOCFCF(CF)OCF−X (21)
CH=CH−(CF (22)
(式中、nは2〜8の整数)
(一般式(5)〜(22)中、Xは前記と同様)
で表されるヨウ素含有モノマー、臭素含有モノマーなどが挙げられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組合わせて用いることができる。
【0076】
一般式(4)で示されるヨウ素含有モノマーまたは臭素含有モノマーとしては、一般式(23):
【0077】
【化2】
【0078】
(式中、mは1〜5の整数であり、nは0〜3の整数)
で表されるヨウ素含有フッ素化ビニルエーテルが好ましく挙げられ、より具体的には、
【0079】
【化3】
【0080】
などが挙げられるが、これらの中でも、ICHCFCFOCF=CFが好ましい。
【0081】
一般式(5)で示されるヨウ素含有モノマーまたは臭素含有モノマーとしてより具体的には、ICFCFCF=CH、I(CFCFCF=CHが好ましく挙げられる。
【0082】
一般式(9)で示されるヨウ素含有モノマーまたは臭素含有モノマーとしてより具体的には、I(CFCFOCF=CFが好ましく挙げられる。
【0083】
一般式(22)で示されるヨウ素含有モノマーまたは臭素含有モノマーとしてより具体的には、CH=CHCFCFI、I(CFCFCH=CHが好ましく挙げられる。
【0084】
また、式:RC=CR−Z−CR=CR
(式中、R、R、R、R、RおよびRは同じかまたは異なり、いずれもH、または炭素数1〜5のアルキル基;Zは、直鎖もしくは分岐状の、酸素原子を含んでいてもよい、好ましくは少なくとも部分的にフッ素化された炭素数1〜18のアルキレンもしくはシクロアルキレン基、または(パー)フルオロポリオキシアルキレン基)で示されるビスオレフィン化合物も架橋性基を与える単量体として好ましい。なお、本明細書において、「(パー)フルオロポリオキシアルキレン基」とは、「フルオロポリオキシアルキレン基又はパーフルオロポリオキシアルキレン基」を意味する。
【0085】
Zは好ましくは炭素数4〜12の(パー)フルオロアルキレン基であり、R、R、R、R、RおよびRは好ましくは水素原子である。
【0086】
Zが(パー)フルオロポリオキシアルキレン基である場合、式:
−(Q)−CFO−(CFCFO)−(CFO)−CF−(Q)
(式中、Qは炭素数1〜10のアルキレン基または炭素数2〜10のオキシアルキレン基であり、pは0または1であり、m及びnはm/n比が0.2〜5となり且つ該(パー)フルオロポリオキシアルキレン基の分子量が500〜10000、好ましくは1000〜4000の範囲となるような整数である。)で表される(パー)フルオロポリオキシアルキレン基であることが好ましい。この式において、Qは好ましくは、−CHOCH−及び−CHO(CHCHO)CH−(s=1〜3)の中から選ばれる。
【0087】
好ましいビスオレフィンは、
CH=CH−(CF−CH=CH
CH=CH−(CF−CH=CH
式:CH=CH−Z−CH=CH
(式中、Zは−CHOCH−CFO−(CFCFO)−(CFO)−CF−CHOCH−(m/nは0.5))
などが挙げられる。
【0088】
なかでも、CH=CH−(CF−CH=CHで示される3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ドデカフルオロ−1,9−デカジエンが好ましい。
【0089】
(B)カーボンブラック
カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイトなどが挙げられ、具体的にはたとえば、SAF−HS(NSA:142m/g、DBP:130ml/100g)、SAF(NSA:142m/g、DBP:115ml/100g)、N234(NSA:126m/g、DBP:125ml/100g)、ISAF(NSA:119m/g、DBP:114ml/100g)、ISAF−LS(NSA:106m/g、DBP:75ml/100g)、ISAF−HS(NSA:99m/g、DBP:129ml/100g)、N339(NSA:93m/g、DBP:119ml/100g)、HAF−LS(NSA:84m/g、DBP:75ml/100g)、HAS−HS(NSA:82m/g、DBP:126ml/100g)、HAF(NSA:79m/g、DBP:101ml/100g)、N351(NSA:74m/g、DBP:127ml/100g)、LI−HAF(NSA:74m/g、DBP:101ml/100g)、MAF−HS(NSA:56m/g、DBP:158ml/100g)、MAF(NSA:49m/g、DBP:133ml/100g)、FEF−HS(NSA:42m/g、DBP:160ml/100g)、FEF(NSA:42m/g、DBP:115ml/100g)、SRF−HS(NSA:32m/g、DBP:140ml/100g)、SRF−HS(NSA:29m/g、DBP:152ml/100g)、GPF(NSA:27m/g、DBP:87ml/100g)、SRF(NSA:27m/g、DBP:68ml/100g)、SRF−LS(NSA:23m/g、DBP:51ml/100g)などが挙げられる。これらの中でも、SAF−HS、SAF、N234、ISAF、ISAF−LS、ISAF−HS、N339、HAF−LS、HAS−HS、HAF、N351、LI−HAF、MAF−HSが好ましい。
これらのカーボンブラックは単独で使用してもよいし、また2種以上を併用してもよい。
【0090】
なかでも、カーボンブラックの好ましいものとしては、窒素吸着比表面積(NSA)が25〜180m/gであって、ジブチルフタレート(DBP)吸油量が45〜180ml/100gであるカーボンブラックが挙げられる。なお、カーボンブラックとして、NSAやDBPの値の高いものを用いるときは、後述する損失弾性率E”や貯蔵弾性率E’の値が高くなる。
【0091】
窒素吸着比表面積(NSA)が25m/gよりも小さくなると、ゴムに配合した場合の機械物性が低下する傾向にあり、この観点から、窒素吸着比表面積(NSA)は50m/g以上が好ましく、70m/g以上がより好ましく、90m/g以上が更に好ましく、110m/g以上が特に好ましい。上限は、一般的に入手しやすい観点から180m/gが好ましい。
【0092】
ジブチルフタレート(DBP)吸油量が45ml/100gよりも小さくなると、ゴムに配合した場合の機械物性が低下する傾向にあり、この観点から、50ml/100g以上、更には60ml/100g以上、特には80ml/100g以上、より更には90ml/100g以上が好ましい。上限は一般的に入手しやすい観点から、175ml/100g、更には170ml/100gが好ましい。
【0093】
カーボンブラック(B)の配合量は、フッ素ゴム(A)100質量部に対して5〜65質量部が好ましい。カーボンブラック(B)が多くなりすぎると架橋物の機械物性が低下する傾向にあり、また、少なくなりすぎると架橋物の機械物性が低下する傾向にある。更に好ましい配合量は、物性バランスが良好な点から、フッ素ゴム(A)100質量部に対して6質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、物性バランスが良好な点から55質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、49質量部以下が更に好ましく、45質量部以下が特に好ましい。
【0094】
(C)架橋剤及び(D)架橋促進剤
架橋剤(C)及び架橋促進剤(D)は、架橋系、架橋するフッ素ゴム(A)の種類(たとえば共重合組成、架橋性基の有無や種類など)、得られる架橋物の具体的用途や使用形態、そのほか混練条件などに応じて、適宜選択することができる。
【0095】
架橋系としては、たとえば過酸化物架橋系、ポリオール架橋系、ポリアミン架橋系、オキサゾール架橋系、チアゾール架橋系、イミダゾール架橋系、トリアジン架橋系などが採用できる。
【0096】
(過酸化物架橋系)
過酸化物架橋系により架橋する場合は、架橋点に炭素−炭素結合を有しているので、架橋点に炭素−酸素結合を有するポリオール架橋系および炭素−窒素二重結合を有するポリアミン架橋系に比べて、耐薬品性および耐スチーム性に優れているという特徴がある。
【0097】
過酸化物架橋系の架橋剤としては、熱や酸化還元系の存在下で容易にパーオキシラジカルを発生し得る過酸化物であればよく、具体的には、たとえば1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)−m−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどの有機過酸化物を挙げることができる。これらの中でも、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン又は2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3が好ましい。
【0098】
また、過酸化物架橋系では、通常、架橋促進剤を含むことが好ましい。過酸化物系架橋剤、特に有機過酸化物系架橋剤の架橋促進剤としては、たとえば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5−トリス(2,3,3−トリフルオロ−2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン)、トリス(ジアリルアミン)−S−トリアジン、N,N−ジアリルアクリルアミド、1,6−ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’−テトラアリルフタルアミド、N,N,N’,N’−テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6−トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5−ノルボルネン−2−メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイトなどが挙げられる。これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。
【0099】
過酸化物架橋系で用いる架橋促進剤としてはまた、低自己重合性架橋促進剤を用いることもできる。低自己重合性架橋促進剤は、架橋促進剤としてよく知られているトリアリルイソシアヌレート(TAIC)とは異なり、自己重合性が低い化合物をいう。
【0100】
低自己重合性架橋促進剤としては、たとえば、
【0101】
【化4】
【0102】
で示されるトリメタリルイソシアヌレート(TMAIC)、
【0103】
【化5】
【0104】
で示されるp−キノンジオキシム(p−quinonedioxime)、
【0105】
【化6】
【0106】
で示されるp,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム(p,p’−dibenzoylquinonedioxime)、
【0107】
【化7】
【0108】
で示されるマレイミド、
【0109】
【化8】
【0110】
で示されるN−フェニレンマレイミド、
【0111】
【化9】
【0112】
で示されるN,N’−フェニレンビスマレイミドなどがあげられる。
【0113】
好ましい低自己重合性架橋促進剤は、トリメタリルイソシアヌレート(TMAIC)である。
【0114】
過酸化物架橋系で用いる架橋促進剤としてはまた、ビスオレフィンを用いることもできる。
【0115】
架橋促進剤として使用できるビスオレフィンとしては、例えば、式:
C=CR−Z−CR=CR
(式中、R、R、R、R、RおよびRは同じかまたは異なり、いずれもH、または炭素数1〜5のアルキル基;Zは、線状(直鎖状)もしくは分岐状の、酸素原子を含んでいてもよい、少なくとも部分的にフッ素化された炭素数1〜18のアルキレンもしくはシクロアルキレン基、または(パー)フルオロポリオキシアルキレン基)で示されるビスオレフィンが挙げられる。
【0116】
Zは好ましくは炭素数4〜12のパーフルオロアルキレン基であり、R、R、R、R、RおよびRは好ましくは水素原子である。
【0117】
Zが(パー)フルオロポリオキシアルキレン基である場合、
−(Q)−CFO−(CFCFO)−(CFO)−CF−(Q)
(式中、Qは炭素数1〜10のアルキレンまたはオキシアルキレン基であり、pは0または1であり、m及びnはm/n比が0.2〜5となり且つ該(パー)フルオロポリオキシアルキレン基の分子量が500〜10000、好ましくは1000〜4000の範囲となるような整数である。)で表される(パー)フルオロポリオキシアルキレン基であることが好ましい。この式において、Qは好ましくは、−CHOCH−及び−CHO(CHCHO)CH−(s=1〜3)の中から選ばれる。
【0118】
好ましいビスオレフィンとしては、
CH=CH−(CF−CH=CH
CH=CH−(CF−CH=CH
式:CH=CH−Z−CH=CH
(式中、Zは−CHOCH−CFO−(CFCFO)−(CFO)−CF−CHOCH−(m/nは0.5))
などがあげられる。
【0119】
なかでも、CH=CH−(CF−CH=CHで示される3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ドデカフルオロ−1,9−デカジエンが好ましい。
【0120】
また、架橋性の観点から、過酸化物架橋系に好適なフッ素ゴム(A)としては、架橋点としてヨウ素原子および/または臭素原子を含むフッ素ゴムが好ましい。ヨウ素原子および/または臭素原子の含有量としては、0.001〜10質量%、更には0.01〜5質量%、特に0.1〜3質量%が、物性のバランスが良好な点から好ましい。
【0121】
過酸化物架橋剤の配合量としては、フッ素ゴム(A)100質量部に対して、0.01〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜9質量部、特に好ましくは0.2〜8質量部である。過酸化物架橋剤が、0.01質量部未満であると、フッ素ゴム(A)の架橋が充分に進行しない傾向があり、10質量部を超えると、物性のバランスが低下する傾向がある。
【0122】
また、架橋促進剤の配合量は、通常、フッ素ゴム(A)100質量部に対して、0.01〜10質量部であり、好ましくは0.1〜9質量部である。架橋促進剤が、0.01質量部より少ないと、アンダーキュアとなる傾向があり、10質量部を超えると、物性バランスが低下する傾向がある。
【0123】
(ポリオール架橋系)
ポリオール架橋系により架橋する場合は、架橋点に炭素−酸素結合を有しており、圧縮永久歪みが小さく、成形性に優れているという特徴がある点で好適である。
【0124】
ポリオール架橋剤としては、従来、フッ素ゴムの架橋剤として知られている化合物を用いることができ、たとえば、ポリヒドロキシ化合物、特に、耐熱性に優れる点からポリヒドロキシ芳香族化合物が好適に用いられる。
【0125】
上記ポリヒドロキシ芳香族化合物としては、特に限定されず、たとえば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(以下、ビスフェノールAFという)、レゾルシン、1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシスチルベン、2,6−ジヒドロキシアントラセン、ヒドロキノン、カテコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(以下、ビスフェノールBという)、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、3,3’,5,5’−テトラクロロビスフェノールA、3,3’,5,5’−テトラブロモビスフェノールAなどが挙げられる。これらのポリヒドロキシ芳香族化合物は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などであってもよいが、酸を用いて共重合体を凝析する場合は、上記金属塩は用いないことが好ましい。
【0126】
これらの中でも、得られるフッ素ゴム架橋物などの圧縮永久歪みが小さく、成形性も優れているという点から、ポリヒドロキシ化合物が好ましく、耐熱性が優れることからポリヒドロキシ芳香族化合物がより好ましく、ビスフェノールAFが更に好ましい。
【0127】
また、ポリオール架橋系では、通常、架橋促進剤を含むことが好ましい。架橋促進剤を用いると、フッ素ゴム主鎖の脱フッ酸反応における分子内二重結合の生成と、生成した二重結合へのポリヒドロキシ化合物の付加を促進することにより架橋反応を促進することができる。
【0128】
ポリオール架橋系の架橋促進剤としては、一般にオニウム化合物が用いられる。オニウム化合物としては特に限定されず、たとえば、第4級アンモニウム塩等のアンモニウム化合物、第4級ホスホニウム塩等のホスホニウム化合物、オキソニウム化合物、スルホニウム化合物、環状アミン、1官能性アミン化合物などが挙げられ、これらの中でも第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩が好ましい。
【0129】
第4級アンモニウム塩としては特に限定されず、たとえば、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムアイオダイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムメチルスルフェート、8−エチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−エイコシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−テトラコシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド(以下、DBU−Bとする)、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−フェネチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−(3−フェニルプロピル)−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリドなどが挙げられる。これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、DBU−Bが好ましい。
【0130】
また、第4級ホスホニウム塩としては特に限定されず、たとえば、テトラブチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド(以下、BTPPCとする)、ベンジルトリメチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロリド、トリブチルアリルホスホニウムクロリド、トリブチル−2−メトキシプロピルホスホニウムクロリド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロリドなどを挙げることができ、これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド(BTPPC)が好ましい。
【0131】
また、架橋促進剤として、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩とビスフェノールAFの固溶体、特開平11−147891号公報に開示されている塩素フリー架橋促進剤を用いることもできる。
【0132】
ポリオール架橋剤の配合量としては、フッ素ゴム(A)100質量部に対して、0.01〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜7質量部である。ポリオール架橋剤が、0.01質量部未満であると、フッ素ゴム(A)の架橋が充分に進行しない傾向があり、10質量部を超えると、物性のバランスが低下する傾向がある。
【0133】
また、架橋促進剤の配合量は、フッ素ゴム(A)100質量部に対して、0.01〜8質量部であることが好ましく、より好ましくは0.02〜5質量部である。架橋促進剤が、0.01質量部未満であると、フッ素ゴム(A)の架橋が充分に進行しない傾向があり、8質量部を超えると、物性のバランスが低下する傾向がある。
【0134】
(ポリアミン架橋系)
ポリアミン架橋により架橋してなる場合は、架橋点に炭素−窒素二重結合を有しているものであり、動的機械特性に優れているという特徴がある。しかし、ポリオール架橋系または過酸化物架橋系架橋剤を用いて架橋する場合に比べて、圧縮永久歪みが大きくなる傾向がある。
【0135】
ポリアミン系架橋剤としては、たとえば、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ビス(アミノシクロヘキシル)メタンカルバメートなどのポリアミン化合物が挙げられる。これらの中でも、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミンが好ましい。
【0136】
ポリアミン系架橋剤の配合量としては、フッ素ゴム(A)100質量部に対して、0.01〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2〜7質量部である。ポリアミン系架橋剤が、0.01質量部未満であると、フッ素ゴム(A)の架橋が充分に進行しない傾向があり、10質量部を超えると、物性のバランスが低下する傾向がある。
【0137】
本発明においては、架橋系として過酸化物架橋系、またはポリオール架橋系が好ましく、それぞれの架橋系に適した架橋剤(C)を用いることが好ましい。なかでも、過酸化物架橋系の架橋剤を用いることがより好ましい。
【0138】
上述のフッ素ゴム組成物には、必要に応じて通常のゴム配合物、たとえば充填材、加工助剤、可塑剤、着色剤、粘着付与剤、接着助剤、受酸剤、顔料、難燃剤、滑剤、光安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、発泡剤、香料、オイル、柔軟化剤のほか、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタンなどの他の重合体などを本発明の効果を損なわない範囲で配合してもよい。
【0139】
充填材としては、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの金属酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなどの金属水酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩;ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸アルミニウムなどのケイ酸塩;硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩;合成ハイドロタルサイト;二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化銅などの金属硫化物;ケイ藻土、アスベスト、リトポン(硫化亜鉛/硫化バリウム)、グラファイト、フッ化カーボン、フッ化カルシウム、コークス、石英微粉末、タルク、雲母粉末、ワラストナイト、炭素繊維、アラミド繊維、各種ウィスカー、ガラス繊維、有機補強剤、有機充填材、ポリテトラフルオロエチレン、マイカ、シリカ、セライト、クレーなどが例示できる。また、受酸剤として、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイトなどが挙げられ、これらの単独または2種以上を適宜配合してもよい。これらは、先述した混練方法で、どの工程で添加するかは任意であるが、密閉式混練機やロール練り機でフッ素ゴム(A)とカーボンブラック(B)を混練する際に添加するのが好ましい。
【0140】
加工助剤としては、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ラウリン酸などの高級脂肪酸;ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛などの高級脂肪酸塩;ステアリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの高級脂肪酸アミド;オレイン酸エチルなどの高級脂肪酸エステル;カルナバワックス、セレシンワックスなどの石油系ワックス;エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコールなどのポリグリコール;ワセリン、パラフィンなどの脂肪族炭化水素;シリコーン系オイル、シリコーン系ポリマー、低分子量ポリエチレン、フタル酸エステル類、リン酸エステル類、ロジン、(ハロゲン化)ジアルキルアミン、界面活性剤、スルホン化合物、フッ素系助剤、有機アミン化合物などが例示できる。
【0141】
なかでも有機アミン化合物や受酸剤は、フッ素ゴム(A)とカーボンブラック(B)を密閉式混練機やロール練り機で混練する際に共存させることにより、補強性が向上する点から好ましい配合剤である。
【0142】
有機アミン化合物としては、RNHで示される1級アミン、RNHで示される2級アミン、RNで示される3級アミンが好ましく挙げられる。R、R、Rは同じかまたは異なり、いずれも炭素数1〜50のアルキル基が好ましく、アルキル基は官能基としてベンゼン環を含んでいてもよいし、二重結合、共役二重結合を含んでいてもよい。尚、アルキル基は直鎖型であってもよいし、分岐型でもあってもよい。
【0143】
1級アミンとしては、たとえばココナッツアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、牛脂アミン、17−フェニル−ヘプタデシルアミン、オクタデカ−7,11−ジエニルアミン、オクタデカ−7,9−ジエニルアミン、オクタデック−9−エニルアミン、7−メチル−オクタデック−7−エニルアミンなどが挙げられ、2級アミンとしては、たとえばジステアリルアミンなどが、3級アミンとしては、たとえばジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルベヘニルアミンなどが挙げられる。なかでも炭素数が20個程度のアミン、特に1級アミンが入手の容易性や補強性が増大する点から好ましい。
【0144】
有機アミン化合物の配合量は、フッ素ゴム(A)100質量部に対して0.01〜5質量部が好ましい。有機アミン化合物が多くなりすぎると混練しにくくなる傾向にあり、また、少なくなりすぎると補強性が低下する傾向にある。更に好ましい配合量は、補強性の観点から、フッ素ゴム(A)100質量部に対して0.1質量部以上であり、補強性の観点と混練しやすさの観点から4質量部以下である。
【0145】
受酸剤としては、先述したもののうち、たとえば、水酸化カルシウムなどの金属水酸化物;酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、ハイドロタルサイトなどが、補強性の観点から好ましく、特に酸化亜鉛が好ましい。
【0146】
受酸剤の配合量は、フッ素ゴム(A)100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましい。受酸剤が多くなりすぎると物性が低下する傾向にあり、また、少なくなりすぎると補強性が低下する傾向にある。更に好ましい配合量は、補強性の観点から、フッ素ゴム(A)100質量部に対して0.1質量部以上であり、物性の観点と混練しやすさの観点から8質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0147】
本発明の製造方法により得られるフッ素ゴム組成物を架橋することにより、フッ素ゴム架橋物を得ることができる。
【0148】
フッ素ゴム組成物の架橋法は、適宜選択すればよいが、たとえば押出成形や巻蒸し成形などの成形方法、架橋缶などを用いた架橋方法といった通常の架橋法が採用される。また、架橋物の使用目的によって二次架橋が必要な場合は、更にオーブン架橋を施してもよい。
【0149】
フッ素ゴム架橋物はまた、動的粘弾性試験(測定モード:引張、チャック間距離:20mm、引張歪み:1%、測定周波数:10Hz、歪み分散時の静荷重条件を一定力としたときの静張力値:157cN、測定温度:160℃)において、損失弾性率E”が、400kPa以上6000kPa以下であるとき、常態物性および高温時の機械物性などに特に優れたものとなる。
【0150】
下限としては好ましくは420kPa、より好ましくは430kPaであり、上限としては好ましくは5900kPa、より好ましくは5800kPaである。
【0151】
また、得られるフッ素ゴム架橋物は、動的粘弾性試験(測定モード:引張、チャック間距離:20mm、測定温度:160℃、引張歪み:1%、歪み分散時の静荷重条件を一定力としたときの静張力値:157cN、周波数:10Hz)において、貯蔵弾性率E’が1500kPa以上20000kPa以下であることが、高温時の機械物性の向上の点から更に好ましい。下限としては、好ましくは1600kPa、より好ましくは1800kPaであり、上限としては、好ましくは19000kPa、より好ましくは18000kPaである。
【0152】
また、フッ素ゴム架橋物は、160℃において、100〜700%、更には110%以上、特に120%以上、また680%以下、特に650%以下の引張破断伸びを有していることが、高温環境下での使用などに適したものとなることから好ましい。
【0153】
また、フッ素ゴム架橋物は、160℃において、1MPa以上、更には1.5MPa以上、特に2MPa以上、また30MPa以下、特に28MPa以下の引張破断強度を有していることが、高温環境下での使用などに適したものとなることから好ましい。引張破断強度および引張破断伸びは、JIS−K6251に準じて、6号ダンベルを用いて測定する。
【0154】
また、フッ素ゴム架橋物は、160℃において、3〜30kN/m、更には4kN/m以上、特に5kN/m以上、また29kN/m以下、特に28kN/m以下の引裂き強度を有していることが、高温環境下での使用などに適したものとなることから好ましい。
【0155】
また、フッ素ゴム架橋物は、200℃において、100〜700%、更には110%以上、特に120%以上、また680%以下、特に650%以下の引張破断伸びを有していることが、高温環境下での使用などに適したものとなることから好ましい。
【0156】
また、フッ素ゴム架橋物は、200℃において、1〜30MPa、更には1.5MPa以上、特に2MPa以上、また29MPa以下、特に28MPa以下の引張破断強度を有していることが、高温環境下での使用などに適したものとなることから好ましい。
【0157】
また、フッ素ゴム架橋物は、200℃において、3〜30kN/m、更には4kN/m以上、特に5kN/m以上、また29kN/m以下、特に28kN/m以下の引裂き強度を有していることが、高温環境下での使用などに適したものとなることから好ましい。
【0158】
上記フッ素ゴム架橋物は、種々の用途に利用できるが、特にたとえばつぎのような各種の用途に好適に使用できる。
【0159】
(1)ホース
ホースとしては、本発明の製造方法により得られたフッ素ゴム組成物を架橋して得られるフッ素ゴム架橋物のみからなる単層構造のホースであってもよいし、他の層との積層構造の多層ホースであってもよい。
【0160】
単層構造のホースとしては、たとえば排気ガスホース、EGRホース、ターボチャージャーホース、燃料ホース、ブレーキホース、オイルホースなどが例示できる。
【0161】
多層構造のホースとしても、たとえば排気ガスホース、EGRホース、ターボチャージャーホース、燃料ホース、ブレーキホース、オイルホースなどが例示できる。
【0162】
ターボチャージャーシステムはディーゼルエンジンに多く装備され、エンジンからの排気ガスをタービンに送って回転させることによりタービンに連結されているコンプレッサーを動かし、エンジンに供給する空気の圧縮比を高め、出力を向上させるシステムである。エンジンの排気ガスを利用し、かつ高出力を得るこのターボチャージャーシステムは、エンジンの小型化、自動車の低燃費化および排気ガスのクリーン化にも繋がる。
【0163】
ターボチャージャーホースは、圧縮空気をエンジンに送り込むためのホースとしてターボチャージャーシステムに用いられている。狭いエンジンルームの空間を有効活用するためには、可撓性や柔軟性に優れたゴム製のホースが有利であり、典型的には、耐熱老化性や耐油性に優れたゴム(特にフッ素ゴム)層を内層とし、シリコーンゴムやアクリルゴムを外層とする多層構造のホースが採用されている。しかし、エンジンルームなどのエンジン周りは高温に曝されており、しかも振動も加えられる過酷な環境にあり、耐熱老化性だけでなく、高温時の機械特性が優れたものが必要になっている。
【0164】
ホースは、単層および多層構造のゴム層として、本発明の製造方法により得られるフッ素ゴム組成物を架橋して得られる架橋フッ素ゴム層を用いることにより、これらの要求特性を高い水準で満たすものであり、優れた特性を有するターボチャージャーホースを提供することができる。
【0165】
ターボチャージャーホース以外の多層構造のホースにおいて、他の材料からなる層としては、他のゴムからなる層や熱可塑性樹脂からなる層、各種繊維補強層、金属箔層などが挙げられる。
【0166】
他のゴムとしては、耐薬品性や柔軟性が特に要求される場合は、アクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、EPDMおよびアクリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種からなるゴムが好ましく、アクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムからなることがより好ましい。
【0167】
また、熱可塑性樹脂としては、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂が好ましく、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0168】
また、多層構造のホースを作製する場合、必要に応じて表面処理を行ってもよい。この表面処理としては、接着を可能とする処理方法であれば、その種類は特に制限されるものではなく、例えばプラズマ放電処理やコロナ放電処理等の放電処理、湿式法の金属ナトリウム/ナフタレン液処理などが挙げられる。また、表面処理としてプライマー処理も好適である。プライマー処理は常法に準じて行うことができる。プライマー処理を施す場合、表面処理を行っていないフッ素ゴムの表面を処理することもできるが、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、金属ナトリウム/ナフタレン液処理などを予め施したうえで、更にプライマー処理すると、より効果的である。
【0169】
上記ホースは、そのほか以下に示す分野で好適に用いることができる。
【0170】
半導体製造装置、液晶パネル製造装置、プラズマパネル製造装置、プラズマアドレス液晶パネル、フィールドエミッションディスプレイパネル、太陽電池基板等の半導体製造関連分野では、高温環境に曝されるCVD装置、ドライエッチング装置、ウェットエッチング装置、酸化拡散装置、スパッタリング装置、アッシング装置、洗浄装置、イオン注入装置、排気装置などのホースに用いることができる。
【0171】
自動車分野では、エンジンならびに自動変速機の周辺装置に用いることができ、ターボチャージャーホースのほか、EGRホース、排気ガスホース、燃料ホース、オイルホース、ブレーキホースなどとして用いることができる。
【0172】
そのほか、航空機分野、ロケット分野、船舶分野、化学プラント分野、分析・理化学機分野、食品プラント機器分野および原子力プラント機器分野などのホースにも用いることができる。
【0173】
(2)シール材
シール材としては、以下に示す分野で好適に用いることができる。
【0174】
たとえば、自動車用エンジンのエンジン本体、主運動系、動弁系、滑剤・冷却系、燃料系、吸気・排気系;駆動系のトランスミッション系;シャーシのステアリング系;ブレーキ系;電装品の基本電装部品、制御系電装部品、装備電装部品などの、耐熱性・耐油性・燃料油耐性・エンジン冷却用不凍液耐性・耐スチーム性が要求されるガスケットや非接触型および接触型のパッキン類(セルフシールパッキン、ピストンリング、割リング形パッキン、メカニカルシール、オイルシールなど)などのシール材などが挙げられる。
【0175】
自動車用エンジンのエンジン本体に用いられるシール材としては、特に限定されないが、たとえば、シリンダーヘッドガスケット、シリンダーヘッドカバーガスケット、オイルパンパッキン、一般ガスケット、Oリング、パッキン、タイミングベルトカバーガスケットなどのシール材などが挙げられる。
【0176】
自動車用エンジンの主運動系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、たとえば、クランクシャフトシール、カムシャフトシールなどのシャフトシールなどが挙げられる。
【0177】
自動車用エンジンの動弁系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、たとえば、エンジンバルブのバルブステムオイルシール、バタフライバルブのバルブシートなどが挙げられる。
【0178】
自動車用エンジンの滑剤・冷却系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、たとえば、エンジンオイルクーラーのシールガスケットなどが挙げられる。
【0179】
自動車用エンジン燃料系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、たとえば、燃料ポンプのオイルシール、燃料タンクのフィラーシール、タンクパッキンなど、燃料チューブのコネクターOリングなど、燃料噴射装置のインジェクタークッションリング、インジェクターシールリング、インジェクターOリングなど、キャブレターのフランジガスケットなど、EGRのシール材などが挙げられる。
【0180】
自動車用エンジンの吸気・排気系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、たとえば、マニホールドの吸気マニホールドパッキン、排気マニホールドパッキン、スロットルのスロットルボディパッキン、ターボチャージのタービンシャフトシールなどが挙げられる。
【0181】
自動車用のトランスミッション系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、たとえば、トランスミッション関連のベアリングシール、オイルシール、Oリング、パッキンなど、オートマチックトランスミッションのOリング、パッキン類などが挙げられる。
【0182】
自動車用のブレーキ系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、たとえば、オイルシール、Oリング、パッキンなど、マスターシリンダーのピストンカップ(ゴムカップ)など、キャリパーシール、ブーツ類などが挙げられる。
【0183】
自動車用の装備電装品に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、たとえば、カーエアコンのOリング、パッキンなどが挙げられる。
【0184】
シール材としては、特にセンサー用シール材(ブッシュ)に適し、更には酸素センサー用シール材、酸化窒素センサー用シール材、酸化硫黄センサー用シール材などに適する。Oリングは角リングであってもよい。
【0185】
自動車分野以外の用途としては、特に限定されず、航空機分野、ロケット分野、船舶分野、油田掘削分野(たとえばパッカーシール、MWD用シール、LWD用シール等)、プラント等の化学品分野、医薬品等の薬品分野、現像機等の写真分野、印刷機械等の印刷分野、塗装設備等の塗装分野、分析・理化学機分野、食品プラント機器分野、原子力プラント機器分野、鉄板加工設備等の鉄鋼分野、一般工業分野、電気分野、燃料電池分野、電子部品分野、現場施工型の成形などの分野で広く用いることができる。
【0186】
たとえば、船舶、航空機などの輸送機関における耐油、耐薬品、耐熱、耐スチームまたは耐候用のパッキン、Oリング、その他のシール材;油田掘削における同様のパッキン、Oリング、シール材;化学プラントにおける同様のパッキン、Oリング、シール材;食品プラント機器および食品機器(家庭用品を含む)における同様のパッキン、Oリング、シール材;原子力プラント機器における同様のパッキン、Oリング、シール材;一般工業部品における同様のパッキン、Oリング、シール材などが挙げられる。
【0187】
(3)ベルト
上記フッ素ゴム架橋物は、以下に示すベルトに好適に用いることができる。
【0188】
動力伝達ベルト(平ベルト、Vベルト、Vリブドベルト、歯付きベルトなどを含む)や搬送用ベルト(コンベアベルト)のベルト材に用いることができる。また、半導体製造装置、液晶パネル製造装置、プラズマパネル製造装置、プラズマアドレス液晶パネル、フィールドエミッションディスプレイパネル、太陽電池基板等の半導体製造関連分野では、高温環境に曝されるCVD装置、ドライエッチング装置、ウェットエッチング装置、酸化拡散装置、スパッタリング装置、アッシング装置、洗浄装置、イオン注入装置、排気装置などのベルト材に用いることができる。
【0189】
平ベルトとしては、たとえば農業用機械、工作機械、工業用機械などのエンジン周りなど各種高温となる部位に使用される平ベルトが挙げられる。コンベアベルトとしては、たとえば石炭、砕石、土砂、鉱石、木材チップなどのバラ物や粒状物を高温環境下で搬送するためのコンベアベルトや、高炉などの製鉄所などで使用されるコンベヤベルト、精密機器組立工場、食品工場などで、高温環境下に曝される用途におけるコンベアベルトが挙げられる。VベルトおよびVリブドベルトとしては、たとえば農業用機械、一般機器(OA機器、印刷機械、業務用乾燥機など)、自動車用などのVベルト、Vリブドベルトが挙げられる。歯付きベルトとしては、たとえば搬送ロボットの伝動ベルト、食品機械、工作機械の伝動ベルトなどの歯付きベルトが挙げられ、自動車用、OA機器、医療用、印刷機械などで使用される歯付きベルトが挙げられる。特に、自動車用歯付きベルトとしては、タイミングベルトが挙げられる。
【0190】
なお、多層構造のベルト材において、他の材料からなる層としては、他のゴムからなる層や熱可塑性樹脂からなる層、各種繊維補強層、帆布、金属箔層などが挙げられる。
【0191】
他のゴムとしては、耐薬品性や柔軟性が特に要求される場合は、アクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、EPDMおよびアクリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種からなるゴムが好ましく、アクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムからなることがより好ましい。
【0192】
また、熱可塑性樹脂としては、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂が好ましく、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0193】
また、多層構造のベルト材を作製する場合、必要に応じて表面処理を行ってもよい。この表面処理としては、接着を可能とする処理方法であれば、その種類は特に制限されるものではなく、例えばプラズマ放電処理やコロナ放電処理等の放電処理、湿式法の金属ナトリウム/ナフタレン液処理などが挙げられる。また、表面処理としてプライマー処理も好適である。プライマー処理は常法に準じて行うことができる。プライマー処理を施す場合、表面処理を行っていないフッ素ゴムの表面を処理することもできるが、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、金属ナトリウム/ナフタレン液処理などを予め施したうえで、更にプライマー処理すると、より効果的である。
【0194】
(4)防振ゴム
上記フッ素ゴム架橋物は、防振ゴムにおける単層および多層構造のゴム層として用いることにより、防振ゴムへの要求特性を高い水準で満たすものであり、優れた特性を有する自動車用防振ゴムを提供することができる。
【0195】
自動車用防振ゴム以外の多層構造の防振ゴムにおいて、他の材料からなる層としては、他のゴムからなる層や熱可塑性樹脂からなる層、各種繊維補強層、金属箔層などが挙げられる。
【0196】
他のゴムとしては、耐薬品性や柔軟性が特に要求される場合は、アクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、EPDMおよびアクリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種からなるゴムが好ましく、アクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムからなることがより好ましい。
【0197】
また、熱可塑性樹脂としては、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂が好ましく、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0198】
また、多層構造の防振ゴムを作製する場合、必要に応じて表面処理を行ってもよい。この表面処理としては、接着を可能とする処理方法であれば、その種類は特に制限されるものではなく、例えばプラズマ放電処理やコロナ放電処理等の放電処理、湿式法の金属ナトリウム/ナフタレン液処理などが挙げられる。また、表面処理としてプライマー処理も好適である。プライマー処理は常法に準じて行うことができる。プライマー処理を施す場合、表面処理を行っていないフッ素ゴムの表面を処理することもできるが、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、金属ナトリウム/ナフタレン液処理などを予め施したうえで、更にプライマー処理すると、より効果的である。
【0199】
(5)ダイヤフラム
上記フッ素ゴム架橋物は、以下に示すダイヤフラムに好適に用いることができる。
【0200】
例えば、自動車エンジンの用途としては、耐熱性、耐酸化性、耐燃料性、低ガス透過性などが求められる、燃料系、排気系、ブレーキ系、駆動系、点火系などのダイヤフラムが挙げられる。
【0201】
自動車エンジンの燃料系に用いられるダイヤフラムとしては、例えば燃料ポンプ用ダイヤフラム、キャブレター用ダイヤフラム、プレッシャレギュレータ用ダイヤフラム、パルセーションダンパー用ダイヤフラム、ORVR用ダイヤフラム、キャニスター用ダイヤフラム、オートフューエルコック用ダイヤフラムなどが挙げられる。
【0202】
自動車エンジンの排気系に用いられるダイヤフラムとしては、例えばウェイストゲート用ダイヤフラム、アクチュエータ用ダイヤフラム、EGR用ダイヤフラムなどが挙げられる。
自動車エンジンのブレーキ系に用いられるダイヤフラムとしては、例えばエアーブレーキ用ダイヤフラムなどが挙げられる。
自動車エンジンの駆動系に用いられるダイヤフラムとしては、例えばオイルプレッシャー用ダイヤフラムなどが挙げられる。
自動車エンジンの点火系に用いられるダイヤフラムとしては、例えばディストリビューター用ダイヤフラムなどが挙げられる。
【0203】
自動車エンジン以外の用途としては、耐熱性、耐油性、耐薬品性、耐スチーム性、低ガス透過性などが求められる、一般ポンプ用ダイヤフラム、バルブ用ダイヤフラム、フィルタープレス用ダイヤフラム、ブロワー用ダイヤフラム、空調用機器用ダイヤフラム、制御機器用ダイヤフラム、給水用ダイヤフラム、給湯用の熱水を送液するポンプなどに用いられるダイヤフラム、高温蒸気用ダイヤフラム、半導体装置用ダイヤフラム(例えば製造工程などで使用される薬液移送用ダイヤフラム)、食品加工処理装置用ダイヤフラム、液体貯蔵タンク用ダイヤフラム、圧力スイッチ用ダイヤフラム、石油探索・石油掘削用途で用いられるダイヤフラム(例えば石油掘削ビットなどの潤滑油供給用ダイヤフラム)、ガス瞬間湯沸かし器やガスメーター等のガス器具用ダイヤフラム、アキュムレーター用ダイヤフラム、サスペンションなどの空気ばね用ダイヤフラム、船舶用のスクリューフィーダー用ダイヤフラム、医療用の人工心臓用ダイヤフラムなどが挙げられる。
【0204】
(6)中空ゴム成形体
上記フッ素ゴム架橋物は、中空ゴム成形体にも好適に用いることができる。
上記中空ゴム成形体としては、ブラダー、蛇腹構造成形体、プライマーポンプ等を挙げることができる。
【0205】
(6−1)ブラダー
上記フッ素ゴム架橋物は、タイヤの加硫工程および成型工程で使用されるブラダー(タイヤ製造用ブラダー)にも好適に用いることができる。
【0206】
一般に、タイヤの製造工程においては、タイヤの各構成部材を組み立てて生タイヤ(未加硫タイヤ)を成型する際に用いるタイヤ成型用ブラダーと、加硫時に最終的な製品タイヤ形状を付与するために用いるタイヤ加硫用ブラダーとの、大きく分けて2種類のブラダーが使用されている。
【0207】
上記フッ素ゴム架橋物は、タイヤ成型用ブラダー及びタイヤ加硫用ブラダーのいずれにも用いることができるが、特に、加熱条件下で繰り返し使用され、高い耐熱性や高温時の引張特性が要求されるタイヤ加硫用ブラダーに用いることが好ましい。
【0208】
(6−2)蛇腹構造成形体
蛇腹構造は、例えば、円筒の外周方向に山部又は谷部、若しくはその両方を有する構造であり、山部又は谷部の形状は、円弧を帯びる波形状でもよいし、三角波形状でもよい。
蛇腹構造成形体として、具体的には、例えば、フレキシブルジョイント、エキスパンションジョイント等のジョイント部材、ブーツ、グロメットなどが挙げられる。
【0209】
ジョイント部材とは、配管および配管設備に用いられる継ぎ手のことであり、配管系統から発生する振動、騒音の防止、温度変化、圧力変化による伸縮や変位の吸収、寸法変動の吸収や地震、地盤沈下による影響の緩和、防止などの用途に用いられる。
【0210】
フレキシブルジョイント、エキスパンションジョイントは、例えば、造船配管用、ポンプやコンプレッサーなどの機械配管用、化学プラント配管用、電気配管用、土木・水道配管用、自動車用などの複雑形状成形体として好ましく用いることができる。
【0211】
ブーツは、例えば、等速ジョイントブーツ、ダストカバー、ラックアンドピニオンステアリングブーツ、ピンブーツ、ピストンブーツなどの自動車用ブーツ、農業機械用ブーツ、産業車両用ブーツ、建築機械用ブーツ、油圧機械用ブーツ、空圧機械用ブーツ、集中潤滑機用ブーツ、液体移送用ブーツ、消防用ブーツ、各種液化ガス移送用ブーツなどの各種産業用ブーツなどの複雑形状成形体として好ましく用いることができる。
本発明の複雑形状成形体は、以下に示すプライマーバルブにも好適に用いることができる。自動車用、船舶用、航空機用、建設機械用、農業機械用、鉱業機械用などのプライマーバルブが挙げられる。例えば、船舶用プライマーバルブとして特に有用である。
【0212】
(6−3)プライマーバルブ
プライマーバルブは、エンジン始動が容易に行えるよう、あらかじめ、気化器(気化器のフロート室)へ燃料を送るためのポンプである。プライマーバルブは、例えば、円筒の外周方向に山部を一つ有するものであり、山部の形状は、円弧を帯びる波形状である。プライマーバルブの形状は、例えば、図2で示される形状であり、通常、プライマーバルブ21は、吐出側(エンジン側)ホース23と吸入側(燃料タンク側)ホース24との間に配置される。
【0213】
上記プライマーバルブとしては、自動車用、船舶用、航空機用、建設機械用、農業機械用、鉱業機械用などのプライマーバルブが挙げられる。例えば、船舶用プライマーバルブとして特に有用である。
【0214】
(7)フッ素ゴム塗料組成物
本発明の製造方法により得られるフッ素ゴム組成物は、フッ素ゴム塗料組成物にも適用可能である。上記フッ素ゴム塗料組成物から得られる塗膜は、高温時の引張特性に優れるため、高温条件下でも破断しにくい。
【0215】
上記フッ素ゴム塗料組成物は、本発明のフッ素ゴム組成物が液状媒体に溶解又は分散されてなるものであることが好ましい。本発明の製造方法により得られたフッ素ゴム組成物をフッ素ゴム塗料用組成物に適用する場合、フッ素ゴム組成物は、上述したフッ素ゴム(A)及びカーボンブラック(B)以外に、少なくともポリオール架橋剤又はポリアミン架橋剤を更に含んでもよい。
【0216】
上記フッ素ゴム塗料組成物は、フッ素ゴム組成物を構成するための各成分を例えば上述した方法によって混練し、得られたフッ素ゴム組成物をケトン類、エステル類、エーテル類等の液状媒体に溶解又は分散させることにより調製することができる。
【0217】
上記フッ素ゴム塗料組成物は、金属、ガラス、樹脂、ゴム等からなる基材上に直接塗布してもよく、エポキシ塗料等によってプライマー層を形成した後、その上に塗布してもよい。更に、上記フッ素ゴム塗料組成物から得られる塗膜の上に他の塗膜(トップコート層)を形成してもよい。
【0218】
上記フッ素ゴム塗料組成物から得られる塗膜は、例えば、シート及びベルト;シーリング部材のシーラント;プレコートメタル;パッキンゴム、O−リング、ダイヤフラム、耐薬品性チューブ、薬栓、燃料ホース、バルブシール、化学プラント用ガスケット、エンジンガスケット;複写機、プリンター、ファクシミリ等のOA機器用のロール(例えば、定着ロール、圧着ロール)及び搬送ベルト等が挙げられる。上記エンジンガスケットとしては、例えば、自動車エンジン等のヘッドガスケット等に利用できる。
【0219】
(8)電線被覆材
本発明の製造方法により得られたフッ素ゴム組成物は、耐熱性および柔軟性(可撓性)が求められる電線の絶縁被覆材や、電線における絶縁層の外周に設けられるシース層を形成するシース材にも好適に用いることができ、高温時の耐屈曲性に優れた被覆を与えることができる。
【0220】
上記絶縁被覆材又はシース材としては、特に耐熱性が要求される自動車や航空機、軍需車輌などの耐熱電線に用いられる絶縁被覆材又はシース材を挙げることができ、なかでも、内燃機関のトランスミッションオイルまたはエンジンオイルに接触する環境で使用される被覆電線、または自動車のオートマチックトランスミッション内またはエンジンのオイルパン内で使用される被覆電線の絶縁被覆材又はシース材として好適である。
【0221】
(9)耐バイオディーゼル燃料部材(耐BDF部材)
上記フッ素ゴム架橋物は、生物起源のディーゼル燃料、すなわちバイオディーゼル燃料(BDF)と接触する部材にも好適に用いることができる。バイオディーゼル燃料とは、バイオマスを原料としてそれを加工、及び/又は、精製することにより得られたディーゼル機関用燃料を含むものをいう。
【0222】
上記フッ素ゴム架橋物を耐BDF部材に用いる場合、上記フッ素ゴム架橋物が受酸剤を含むと、受酸剤がBDFと反応してフッ素ゴム架橋物が膨潤し、劣化するおそれがあるため、上記フッ素ゴム架橋物は受酸剤を含まないことが好ましい。言い換えれば、本発明のフッ素ゴム組成物は、得られる架橋物を耐BDF部材に用いる場合には、受酸剤を含まないことが好ましい。
【0223】
上記耐バイオディーゼル燃料部材は、BDFと接触する種々の用途に利用でき、例えば、フィルム、シート、自動車燃料用ホース、給油ホース等のホース、ガソリンスタンド用地下埋設チューブ、自動車の燃料用タンク等のボトル、容器、タンク類、ダイヤフラム、パッキン、キャブレターのフランジガスケット、燃料ポンプのOリング等の各種自動車用シール、油圧機器のシール等の各種機械関係シール等の用途に用いることができる。
上記耐バイオディーゼル燃料部材は、上述した中でも、ホース又はシール材であることが好ましく、ホースであることがより好ましい。
【実施例】
【0224】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0225】
本発明で採用した各種の物性の測定方法は、以下のとおりである。
【0226】
(1)剪断弾性率G’
動的歪み1%時の剪断弾性率G’(1%)及び動的歪み1%時の剪断弾性率G’(1%)と動的歪み100%時の剪断弾性率G’(100%)との比G’(1%)/G’(100%)の測定方法
アルファテクノロジーズ社製のラバープロセスアナライザ(型式:RPA2000)を用いて、100℃で1分間予熱後、100℃、1Hzで動的粘弾性を測定する。
【0227】
(2)ムーニー粘度(ML1+10(100℃))
ムーニー粘度は、ASTM−D1646およびJIS K6300に準拠して測定する。測定温度は100℃である。
【0228】
(3)引張疲労試験
JIS K6270に準じ、6号ダンベルを用いて、チャック間を50mmに設定し、150℃の条件下で、歪み60mm、2Hzの周波数で繰り返し引張歪みを与え、ダンベルが破断するまでのサイクル数を求める。測定は10000回又は11000回を上限とする。
【0229】
(4)引張破断強度、引張破断伸び
試験機は、(株)エー・アンド・ディ社製の「テンシロン」RTG−1310、(株)東洋精機製作所製の「ストログラフ」TH−200Dを用いる。JIS−K6251に準じ、チャック間50mmに設定、引張速度500mm/min、6号ダンベルを用いて引張破断強度、引張破断伸びを測定する。測定温度は、25℃、160℃とする。
【0230】
実施例では、次のフッ素ゴム、カーボンブラック、架橋剤、架橋促進剤、加工助剤及び受酸剤を使用した。
【0231】
(カーボンブラック)
ISAF(NSA=119m/g、DBP吸油量=114ml/100g)。東海カーボン(株)製の「シースト6」(商品名)
(架橋剤)
2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン。日油(株)製の「パーヘキサ25B」(商品名)
(架橋促進剤)
トリアリルイソシアヌレート(TAIC)。日本化成(株)製の「タイク」(商品名)
(加工助剤)
ステアリルアミン(ファーミン86T)(花王(株)製)
ステアリン酸(関東化学(株))
(受酸剤)
酸化亜鉛(一種)(堺化学工業(株)製)
【0232】
(フッ素ゴムA1)
3Lのステンレススチール製のオートクレーブに純水1.7L、CH=CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COONHの50%水溶液を0.17g、F(CFCOONHの50%水溶液6.8gを仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換した。600rpmで攪拌しながら80℃に昇温した後、初期槽内モノマー組成をVdF/HFP=45/55モル%、1.52MPaとなるようにモノマーを圧入した。ついでAPS60mgを5mlの純水に溶解した重合開始剤溶液を窒素ガスで圧入し、反応を開始した。重合の進行に伴い内圧が1.42MPaに降下した時点でVdF/HFP=78/22モル%の追加混合モノマーを内圧が1.52MPaとなるまで圧入した。このとき、ジヨウ素化合物I(CFIの1.96gを圧入した。昇圧、降圧を繰り返しつつ、3時間ごとにAPSの60mg/純水5ml水溶液を窒素ガスで圧入して、重合反応を継続した。混合モノマーを600g追加した時点で、未反応モノマーを放出し、オートクレーブを冷却して、固形分濃度26.1質量%のフッ素ゴムのディスパージョンを610g得た。重合時間は7.1時間であった。NMR分析によりこのフッ素ゴムの共重合組成を調べたところ、VdF/HFP=78/22(モル%)であり、ムーニー粘度(ML1+10(100℃))は77であった。このフッ素ゴムをフッ素ゴムA1とする。
【0233】
実験例1
実験例1では、工程(1−1)及び工程(1−2)を実施した後、工程(2−1)を実施した例並びに工程(2−1)の後で工程(2−2)を実施した例を示す。
混練機((株)モリヤマ製のMixLabo0.5L、ローター直径:6.6cm、チップクリアランス:0.05cm)を用いて、フロントローター回転数:60rpm、バックローター回転数:50rpmの混練条件で、フッ素ゴム(A1)100質量部にカーボンブラック20質量部、ステアリルアミン0.5質量部、酸化亜鉛1.0質量部を混練した。混練機から排出された混練物の温度は165℃であった。この混練物を25℃に温調した8インチオープンロールミキサーで100℃以下になるように冷却混練してから排出した。続いて、冷却混練して得られた混練物を25℃で24時間熟成させて、フッ素ゴムプレコンパウンドB1を得た。フッ素ゴムプレコンパウンドB1の剪断弾性率G’(1%)は866kPaであり、剪断弾性率G’(1%)と剪断弾性率G’(100%)との比(G’(1%)/G’(100%))は4.9であった。
【0234】
次に、混練機((株)モリヤマ製のMixLabo0.5L、ローター直径:6.6cm、チップクリアランス:0.05cm)を用いて、フロントローター回転数:60rpm、バックローター回転数:50rpmの混練条件で、フッ素ゴムプレコンパウンドB1を再度混練した。混練機から排出された混練物の温度は131℃であった。この混練物を25℃に温調した8インチオープンロールミキサーで100℃以下になるように冷却混練してから排出した。続いて、冷却混練した混練物を25℃で24時間熟成させて、フッ素ゴムプレコンパウンドC1(本発明の製造方法における中間組成物)を得た。フッ素ゴムプレコンパウンドC1の剪断弾性率G’(1%)は795kPaであり、剪断弾性率G’(1%)と剪断弾性率G’(100%)との比(G’(1%)/G’(100%))は4.5であった。
【0235】
さらに、フッ素ゴムプレコンパウンドC1を8インチオープンロールミキサー(ロール温度25℃、フロントロール回転数21rpm、バックロール回転数19rpm、ロール間隙0.05cm)を用いて、最高温度が25〜70℃となるように薄通しした。
【0236】
1回薄通ししたものをフッ素ゴムプレコンパウンドD1、10回(すなわちmが10)薄通ししたものをフッ素ゴムプレコンパウンドD2とする。
フッ素ゴムプレコンパウンドD1の剪断弾性率G’(1%)は690kPaであり、剪断弾性率G’(1%)と剪断弾性率G’(100%)との比(G’(1%)/G’(100%))は4.1であった。フッ素ゴムプレコンパウンドD1のG’(1%)/G’(100%)の値をフッ素ゴムプレコンパウンドC1のG’(1%)/G’(100%)の値で除して求められる値は0.92であった。
フッ素ゴムプレコンパウンドD2の剪断弾性率G’(1%)は631kPaであり、剪断弾性率G’(1%)と剪断弾性率G’(100%)との比(G’(1%)/G’(100%))は3.9であった。フッ素ゴムプレコンパウンドD2のG’(1%)/G’(100%)の値をフッ素ゴムプレコンパウンドC1のG’(1%)/G’(100%)の値で除して求められる値は0.87であった。
【0237】
次に、8インチオープンロール(関西ロール(株)製)を用いて、ロール温度25℃、フロントロール回転数21rpm、バックロール回転数19rpm、ロール間隙0.1cmの混練条件で、フッ素ゴムプレコンパウンド(C1、D2)121.5質量部、架橋剤1.0質量部、架橋促進剤0.5質量部、及び、ステアリン酸1.0質量部を15分間混練し、フッ素ゴムフルコンパウンド(E1、E2)を調製した。排出された混練物の温度は70〜73℃であった。
【0238】
フッ素ゴムフルコンパウンド(E1、E2)をそれぞれ160℃で30分間プレスして架橋を行い、厚さ2mmのシート状試験片を作製した。このシートより試験片(JIS6号ダンベル)を作製し、試験片が破断するまでのサイクルを測定した。結果を表1に示す。
【0239】
【表1】
【0240】
表1に示すとおり、オープンロールで薄通して得られたフッ素ゴムプレコンパウンドD2からは、高温時の機械物性に優れたフッ素ゴム架橋物が得られることが分かる。
【0241】
参考例1
8インチオープンロール(関西ロール(株)製)を用いて、ロール温度25℃、フロントロール回転数21rpm、バックロール回転数19rpm、ロール間隙0.1cmの混練条件で、実験例1において得られたフッ素ゴムプレコンパウンド(B1、C1、D1、D2)を各々121.5質量部、架橋剤1.0質量部、架橋促進剤0.5質量部、及び、ステアリルアミン0.5質量部を15分間混練し、4種類のフッ素ゴムフルコンパウンドを調製した。排出された混練物の温度はそれぞれ70〜73℃であった。
【0242】
フッ素ゴムフルコンパウンドをそれぞれ160℃で30分間プレスして架橋を行い、厚さ2mmのシート状試験片を作製した。
【0243】
得られた各シート状試験片を95体積%の水と5体積%ジエタノールアミンとからなる溶液に90℃で200時間浸漬させた。驚くべきことに、B1、C1、D1、D2を架橋して得られるシート状試験片は、体積膨潤5%以下であるのに対し、フッ素ゴム(A1)100質量部に対し、MTカーボンブラックを20質量部、架橋促進剤(TAIC)を4質量部、架橋剤(パーオキサイド)1.5質量部を25℃に温調した8インチロールで混練し、160℃、30分の条件でプレス架橋して得られたシート状試験片は、同様な条件で100%体積膨潤した。
【0244】
(フッ素ゴムA11)
82Lのステンレススチール製のオートクレーブに純水44L、CH=CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COONHの50%水溶液を8.8g、F(CFCOONHの50%水溶液176gを仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換した。230rpmで攪拌しながら80℃に昇温した後、初期槽内モノマー組成をVdF/HFP=50/50モル%、1.52MPaとなるようにモノマーを圧入した。ついでAPS1.0gを220mlの純水に溶解した重合開始剤溶液を窒素ガスで圧入し、反応を開始した。重合の進行に伴い内圧が1.42MPaに降下した時点で追加モノマーであるVdF/HFP=78/22モル%の混合モノマーを内圧が1.52MPaとなるまで圧入した。このとき、ジヨウ素化合物I(CFIの71gを圧入した。昇圧、降圧を繰り返しつつ、3時間ごとにAPSの1.0g/純水220ml水溶液を窒素ガスで圧入して、重合反応を継続した。混合モノマーを14000g追加した時点で、未反応モノマーを放出し、オートクレーブを冷却して、固形分濃度23.5質量%のフッ素ゴムのディスパージョンを得た。このフッ素ゴムをNMR分析により共重合組成を調べたところ、VdF/HFP=78/22(モル%)であり、ムーニー粘度(ML1+10(100℃))は62であった。このフッ素ゴムをフッ素ゴムA11とする。
【0245】
実験例2
実験例2では、工程(1−1)及び工程(1−2)を実施した後、工程(2−1)を実施した例並びに工程(2−1)の後で工程(2−2)を実施した例を示す。
混練機(トーシン(株)製のTD35 100MB、ローター直径:30cm、チップクリアランス:0.1cm)を用いて、フロントローター回転数:40rpm、バックローター回転数:33rpmの混練条件で、フッ素ゴムA11の100質量部にカーボンブラックを20質量部、ステアリルアミンを0.5質量部、酸化亜鉛を1質量部混練し、フッ素ゴムプレコンパウンドを調製した。混練機から排出された混練物の温度は175℃であった。
この混練物を25℃に温調した16インチオープンロールミキサーで100℃以下になるように冷却混練してから排出した。続いて、冷却混練して得られた混練物を25℃で24時間熟成させて、フッ素ゴムプレコンパウンドB11を得た。フッ素ゴムプレコンパウンドB11の剪断弾性率G’(1%)は865.9kPaであり、剪断弾性率G’(1%)と剪断弾性率G’(100%)との比(G’(1%)/G’(100%))は4.86であった。
【0246】
次に、混練機(トーシン(株)製のTD35 100MB、ローター直径:30cm、チップクリアランス:0.1cm)を用いて、フロントローター回転数:40rpm、バックローター回転数:33rpmの混練条件で、フッ素ゴムプレコンパウンドB11を再度混練した。混練機から排出された混練物の温度は131℃であった。この混練物を25℃に温調した16インチオープンロールミキサーで100℃以下になるように冷却混練してから排出した。続いて、冷却混練した混練物を25℃で24時間熟成させて、フッ素ゴムプレコンパウンドC11を得た。フッ素ゴムプレコンパウンドC11の剪断弾性率G’(1%)は795.0kPaであり、剪断弾性率G’(1%)と剪断弾性率G’(100%)との比(G’(1%)/G’(100%))は4.45であった。
【0247】
さらに、フッ素ゴムプレコンパウンドC11を22インチオープンロールミキサー(ロール温度25℃、フロントロール回転数12rpm、バックロール回転数11rpm、ロール間隙0.2cm)を用いて、最高温度が76℃となるように薄通しした。
【0248】
1回薄通ししたものをフッ素ゴムプレコンパウンドD11、10回(すなわちmが10)薄通ししたものをフッ素ゴムプレコンパウンドD12、50回(すなわちmが50)薄通ししたものをフッ素ゴムプレコンパウンドD13とする。
フッ素ゴムプレコンパウンドD11の剪断弾性率G’(1%)は689.7kPaであり、剪断弾性率G’(1%)と剪断弾性率G’(100%)との比(G’(1%)/G’(100%))は4.10であった。フッ素ゴムプレコンパウンドD11のG’(1%)/G’(100%)の値をフッ素ゴムプレコンパウンドC1のG’(1%)/G’(100%)の値で除して求められる値は0.92であった。
フッ素ゴムプレコンパウンドD12の剪断弾性率G’(1%)は630.6kPaであり、剪断弾性率G’(1%)と剪断弾性率G’(100%)との比(G’(1%)/G’(100%))は3.86であった。フッ素ゴムプレコンパウンドD12のG’(1%)/G’(100%)の値をフッ素ゴムプレコンパウンドC11のG’(1%)/G’(100%)の値で除して求められる値は0.87であった。
フッ素ゴムプレコンパウンドD13の剪断弾性率G’(1%)は563.5kPaであり、剪断弾性率G’(1%)と剪断弾性率G’(100%)との比(G’(1%)/G’(100%))は3.59であった。フッ素ゴムプレコンパウンドD13のG’(1%)/G’(100%)の値をフッ素ゴムプレコンパウンドC11のG’(1%)/G’(100%)の値で除して求められる値は0.81であった。
【0249】
次に、22インチオープンロール(関西ロール(株)製)を用いて、ロール温度25℃、フロントロール回転数12rpm、バックロール回転数11rpm、ロール間隙0.4cmの混練条件で、フッ素ゴムプレコンパウンド(C11、D12、D13)121.5質量部、架橋剤1.0質量部、架橋促進剤0.5質量部、及び、ステアリン酸1.0質量部を60分間混練し、フッ素ゴムフルコンパウンド(E11、E12、E13)を調製した。排出された混練物の温度は100〜104℃であった。
【0250】
フッ素ゴムフルコンパウンド(E11、E12、E13)をそれぞれ160℃で30分間プレスして架橋を行い、厚さ2mmのシート状試験片を作製した。このシートより試験片(JIS6号ダンベル)を作製し、25℃、160℃における引張破断強度、引張破断伸び測定、及び150℃における引張疲労試験を行った。結果を表2に示す。
【0251】
【表2】
【0252】
表2に示すとおり、オープンロールで薄通して得られたフッ素ゴムプレコンパウンドD12、D13からは、高温時の機械物性に優れたフッ素ゴム架橋物が得られることが分かる。
【0253】
参考例2
8インチオープンロール(関西ロール(株)製)を用いて、ロール温度60℃、フロントロール回転数21rpm、バックロール回転数19rpm、ロール間隙0.1cmの混練条件で、実験例2において得られたフッ素ゴムプレコンパウンド(B11、C11、D11、D12、D13)を各々121.5質量部、架橋剤1.0質量部、架橋促進剤0.5質量部、及び、ステアリルアミン0.5質量部を15分間混練し、5種類のフッ素ゴムフルコンパウンドを調製した。排出された混練物の温度はそれぞれ90〜95℃であった。
【0254】
フッ素ゴムフルコンパウンドをそれぞれ160℃で30分間プレスして架橋を行い、厚さ2mmのシート状試験片を作製した。
【0255】
得られた各シート状試験片を95体積%の水と5体積%ジエタノールアミンとからなる溶液に90℃で200時間浸漬させた。驚くべきことに、B11、C11、D11、D12、D13を架橋して得られるシート状試験片は、体積膨潤5%以下であった。一方、フッ素ゴム(A11)100質量部に対し、MTカーボンブラックを20質量部、架橋促進剤(TAIC)を4質量部、架橋剤(パーオキサイド)1.5質量部を8インチロール(関西ロール(株)製)を用いて、ロール温度60℃、フロントロール回転数21rpm、バックロール回転数19rpm、ロール間隙0.1cmの混練条件で混練し、フッ素ゴムフルコンパウンドを調製した。排出された混練物の温度は87℃であった。このフッ素ゴムフルコンパウンドを160℃、30分の条件でプレス架橋し、厚さ2mmのシート状試験片を作製した。得られたシート状試験片は、同様な浸漬条件で100%体積膨潤した。
【符号の説明】
【0256】
10 オープンロール
11 第1のロール
12 第2のロール
13 中間組成物
14 分出し後の組成物
図1
図2