特許第5776857号(P5776857)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5776857エマルジョン凝固剤及びこれを用いるタイヤパンク修理キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776857
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】エマルジョン凝固剤及びこれを用いるタイヤパンク修理キット
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20150820BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   C09K3/00 103L
   C09K3/10 A
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-549017(P2014-549017)
(86)(22)【出願日】2014年3月20日
(86)【国際出願番号】JP2014057884
(87)【国際公開番号】WO2014148629
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2014年12月11日
(31)【優先権主張番号】特願2013-60779(P2013-60779)
(32)【優先日】2013年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】岡松 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 雅公
(72)【発明者】
【氏名】高原 英之
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/063688(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/148854(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/148853(WO,A1)
【文献】 特開2011−074194(JP,A)
【文献】 特開2006−063204(JP,A)
【文献】 特開2000−017026(JP,A)
【文献】 特開平08−134431(JP,A)
【文献】 特開平03−119088(JP,A)
【文献】 特開平02−308884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00、
C09K3/10−3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミド基及びスルホン酸基を有し、重量平均分子量が30,000以下である両イオン性アクリル系ポリマーを含み、エマルジョンを凝固させるために使用する、エマルジョン凝固剤。
【請求項2】
前記アミド基と前記スルホン酸基のモル比(アミド基:スルホン酸基)が、0.05以上0.3未満:0.95以下0.7を超える範囲である請求項1に記載のエマルジョン凝固剤。
【請求項3】
前記両イオン性アクリル系ポリマーが、アミド基含有重合性モノマー及びスルホン酸基含有重合性モノマーを少なくとも使用して製造され、
前記アミド基含有重合性モノマーが、アクリルアミドであり、
前記スルホン酸基含有重合性モノマーが、アクリルアミドt−ブチルスルホン酸及び/又はメタリルスルホン酸である請求項1又は2に記載のエマルジョン凝固剤。
【請求項4】
前記両イオン性アクリル系ポリマーが更にカルボン酸基を有する請求項1〜3のいずれかに記載のエマルジョン凝固剤。
【請求項5】
前記アミド基と前記スルホン酸基及び前記カルボン酸基の合計のモル比[アミド基:(スルホン酸基+カルボン酸基)]が、0.05以上0.3未満:0.95以下0.7を超える範囲である請求項4に記載のエマルジョン凝固剤。
【請求項6】
前記カルボン酸基と前記スルホン酸基とのモル比(カルボン酸基:スルホン酸基)が、0.1:0.9〜0.9:0.1である請求項4又は5に記載のエマルジョン凝固剤。
【請求項7】
前記両イオン性アクリル系ポリマーが、アミド基含有重合性モノマー、スルホン酸基含有重合性モノマー及びカルボン酸基含有重合性モノマーを少なくとも使用して製造され、
前記カルボン酸基含有重合性モノマーが、メタクリル酸である請求項〜6のいずれかに記載のエマルジョン凝固剤。
【請求項8】
更に水を含み、前記水の量が当該エマルジョン凝固剤中の20〜80質量%であり、前記両イオン性アクリル系ポリマーの量が当該エマルジョン凝固剤中の10〜70質量%である、請求項1〜7のいずれかに記載のエマルジョン凝固剤。
【請求項9】
前記エマルジョンが、タイヤパンク修理剤であり、前記タイヤパンク修理剤が、天然ゴムラテックス及び/又は合成樹脂エマルジョンと、凍結防止剤とを含有する、請求項1〜8のいずれかに記載のエマルジョン凝固剤。
【請求項10】
前記凍結防止剤が、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール及びグリセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項9に記載のエマルジョン凝固剤。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のエマルジョン凝固剤とタイヤパンク修理剤とを有するタイヤパンク修理キット。
【請求項12】
前記エマルジョン凝固剤の量が、前記タイヤパンク修理剤100質量部に対して、8〜80質量部である請求項11に記載のタイヤパンク修理キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエマルジョン凝固剤及びこれを用いるタイヤパンク修理キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤパンク修理剤を用いてタイヤのパンクを修理した後、タイヤパンク修理剤を回収するために、エマルジョン凝固剤が使用されている。
本願出願人はこれまでにエマルジョン凝固剤として、天然ゴムラテックスを含有するエマルジョンを凝固させる液状凝固剤であって、pHが2.0〜4.0であり、カチオン性官能基を有するウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂を含有する液状凝固剤(特許文献1)を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4784694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまで、日本国内においてエマルジョン凝固剤を使用する環境温度の下限は−20℃と想定されていたが、海外においてはさらに低温な温度環境下(例えば外気温が−40℃以下)にある極寒冷地においてエマルジョン凝固剤を使用することが必要とされる。
外気温が−40℃以下となる極めて低温な条件下において、従来のエマルジョン凝固剤を使用する場合、タイヤパンク修理剤が凝固しないという問題があることを本願発明者は見出した。
そこで、本願発明は極めて低温な温度環境下においてエマルジョン(例えばタイヤパンク修理剤)を速やかに凝固させることができるエマルジョン凝固剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、アミド基及びスルホン酸基を有し、重量平均分子量が30,000以下である両イオン性アクリル系ポリマーが、極めて低温な温度環境下においてエマルジョン(例えばタイヤパンク修理剤)を速やかに凝固させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、下記1〜12を提供する。
1. アミド基及びスルホン酸基を有し、重量平均分子量が30,000以下である両イオン性アクリル系ポリマーを含み、エマルジョンを凝固させるために使用する、エマルジョン凝固剤。
2. 前記アミド基と前記スルホン酸基のモル比(アミド基:スルホン酸基)が、0.05以上0.3未満:0.95以下0.7を超える範囲である上記1に記載のエマルジョン凝固剤。
3. 前記両イオン性アクリル系ポリマーが、アミド基含有重合性モノマー及びスルホン酸基含有重合性モノマーを少なくとも使用して製造され、
前記アミド基含有重合性モノマーが、アクリルアミドであり、
前記スルホン酸基含有重合性モノマーが、アクリルアミドt−ブチルスルホン酸及び/又はメタリルスルホン酸である上記1又は2に記載のエマルジョン凝固剤。
4. 前記両イオン性アクリル系ポリマーが更にカルボン酸基を有する上記1〜3のいずれかに記載のエマルジョン凝固剤。
5. 前記アミド基と前記スルホン酸基及び前記カルボン酸基の合計のモル比[アミド基:(スルホン酸基+カルボン酸基)]が、0.05以上0.3未満:0.95以下0.7を超える範囲である上記4に記載のエマルジョン凝固剤。
6. 前記カルボン酸基と前記スルホン酸基とのモル比(カルボン酸基:スルホン酸基)が、0.1:0.9〜0.9:0.1である上記4又は5に記載のエマルジョン凝固剤。
7. 前記両イオン性アクリル系ポリマーが、アミド基含有重合性モノマー、スルホン酸基含有重合性モノマー及びカルボン酸基含有重合性モノマーを少なくとも使用して製造され、
前記カルボン酸基含有重合性モノマーが、メタクリル酸である上記〜6のいずれかに記載のエマルジョン凝固剤。
8. 更に水を含み、前記水の量が当該エマルジョン凝固剤中の20〜80質量%であり、前記両イオン性アクリル系ポリマーの量が当該エマルジョン凝固剤中の10〜70質量%である、上記1〜7のいずれかに記載のエマルジョン凝固剤。
9. 前記エマルジョンが、タイヤパンク修理剤であり、前記タイヤパンク修理剤が、天然ゴムラテックス及び/又は合成樹脂エマルジョンと、凍結防止剤とを含有する、上記1〜8のいずれかに記載のエマルジョン凝固剤。
10. 前記凍結防止剤が、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール及びグリセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記9に記載のエマルジョン凝固剤。
11. 上記1〜10のいずれかに記載のエマルジョン凝固剤とタイヤパンク修理剤とを有するタイヤパンク修理キット。
12. 前記エマルジョン凝固剤の量が、前記タイヤパンク修理剤100質量部に対して、8〜80質量部である上記11に記載のタイヤパンク修理キット。
【発明の効果】
【0007】
本発明のエマルジョン凝固剤は、極めて低温な温度環境下においてエマルジョンを速やかに凝固させることができる。
本発明のタイヤパンク修理キットは、極めて低温な温度環境下においてタイヤパンク修理剤を速やかに凝固させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明について以下詳細に説明する。
本発明のエマルジョン凝固剤は、
アミド基及びスルホン酸基を有し、重量平均分子量が30,000以下である両イオン性アクリル系ポリマーを含み、エマルジョンを凝固させるために使用する、エマルジョン凝固剤である。
本発明のエマルジョン凝固剤は、両イオン性アクリル系ポリマーを含むことによって、極めて低温な温度環境下においてエマルジョン(例えばタイヤパンク修理剤)を速やかに凝固させることができる。
【0009】
両イオン性アクリル系ポリマーについて以下に説明する。本発明のエマルジョン凝固剤に含まれる両イオン性アクリル系ポリマーは、アミド基及びスルホン酸基(−SO3H)を有することによってカチオン・アニオンの両性であり、主鎖が(メタ)アクリル系樹脂である。本発明において、(メタ)アクリルは、アクリル及びメタクリルのうちの一方又は両方であることを意味する。
本発明において、両イオン性アクリル系ポリマーを形成する全モノマーの50モル%以上が例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルアミン基(いわゆる(メタ)アクリルアミド系モノマーに由来)及び(メタ)アクリロイルオキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有するモノマーであるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。また、アクリル系ポリマーの主鎖は(メタ)アクリル樹脂であるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0010】
アミド基は主鎖と直接又は有機基を介して結合することができる。スルホン酸基も同様である。
本発明において、有機基としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のようなヘテロ原子を有してもよい炭化水素基が挙げられる。炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらの組み合わせが挙げられる。炭化水素基は、鎖状、分岐状のいずれでもよく、不飽和結合を有してもよい。
両イオン性アクリル系ポリマーは、側鎖にアミド基及びスルホン酸基を有するのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0011】
本発明において、スルホン酸基(スルホ基)は塩であってもよい。スルホン酸基の塩を形成する金属としては例えば、ナトリウム、カリウムのようなアルカリ金属が挙げられる。
【0012】
本発明において、アミド基(広義のアミド基)は−CONH2(狭義のアミド基)、−CONHR(Rは炭化水素基である。炭化水素基は上記と同義である。)又は−CONR2(Rは炭化水素基である。炭化水素基は上記と同義である。)を意味する(以下同様)。
【0013】
なお、本発明において、両イオン性アクリル系ポリマーが1つの側鎖又は末端において−CONH(例えば、上記の−CONH−R)又は−CON(例えば、上記の−CONR2)及びスルホン酸基を有する場合、このような基は、アミド基から除かれ、スルホン酸基に含まれるものとする。具体的には例えば、上記各式のR(Rが複数ある場合はそのうちの少なくとも一方又は両方)にスルホン酸基が結合する場合が挙げられる。
【0014】
両イオン性アクリル系ポリマーは、極めて低温の環境下でより速やかにエマルジョンを凝固させることができ(以下、極めて低温の環境下で速やかにエマルジョンを凝固させることを速凝固性ということがある。)、少量で凝固させることができるという観点から、更にカルボン酸基(−COOH)を有するのが好ましい。
両イオン性アクリル系ポリマーは、側鎖及び/又は末端にカルボン酸基を有するのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0015】
本発明において、両イオン性アクリル系ポリマーの重量平均分子量は30,000以下である。速凝固性により優れ、少量で凝固させることができるという観点から、両イオン性アクリル系ポリマーの重量平均分子量は、5000〜30000であるのが好ましく、7000〜25000であるのがより好ましい。
【0016】
両イオン性アクリル系ポリマーは、例えば、アミド基を有するビニル系モノマー(アミド基含有重合性モノマー)とスルホン酸基を有するビニル系モノマー(スルホン酸基含有重合性モノマー)とを少なくとも含むモノマーを使用することによって製造することができる。
アミド基含有重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル系モノマー、(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能であり(メタ)アクリル系モノマー以外のモノマーが挙げられる。スルホン酸基含有重合性モノマーも同様である。
(メタ)アクリル系モノマーは、アミド基又はスルホン酸基の他に、例えば、CH2=CR−(Rは水素原子又はメチル基)、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基を有することができる。(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能なモノマーは、アミド基又はスルホン酸基の他に、例えば、CH2=CR−(Rは水素原子又はメチル基)のようなビニル系官能基を有することができる。
【0017】
アミド基含有重合性モノマーは、アミド基(広義のアミド基)を少なくとも1個及びビニル重合性基を少なくとも1個有する化合物であれば特に制限されない。
アミド基としては、例えば、−CONH2(狭義のアミド基)、−CONHR(Rは炭化水素基である。炭化水素基は上記と同義である。)、−CONR2(Rは炭化水素基である。炭化水素基は上記と同義である。)が挙げられる。−CONR2としては例えば、ジメチルアミド基のようなジアルキルアミド基が挙げられる。
ビニル重合性基としては、例えば、ビニル基、CH2=CR−(Rは水素原子又はメチル基)のようなビニル系官能基;(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基が挙げられる。
アミド基とビニル重合性基とは単結合で又は有機基を介して結合することができる。有機基は上記と同義である。具体的には例えば、炭素数1〜10のアルキル基が挙げられる。CH2=CR−と広義のアミド基とが単結合で結合する場合、アミド基含有重合性モノマーとして(メタ)アクリルアミド系モノマーを形成することができる。
【0018】
(メタ)アクリルアミド系モノマーとしては例えば、式:CH2=CR1−CONR22で表される化合物が挙げられる。式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2はそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基である。炭化水素基は上記と同義である。R2のうちの少なくとも一方又は両方が炭化水素基である場合、その炭化水素基にスルホン酸又はその塩が結合する化合物はアミド基含有重合性モノマーから除かれ、スルホン酸基含有重合性モノマーとして取り扱われる。
【0019】
具体的なアミド基含有重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド(CH2=CR1−CONH2);N−モノアルキル(メタ)アクリルアミド;ジメチルアクリルアミドのようなN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0020】
スルホン酸基含有重合性モノマーは、スルホン酸基を少なくとも1個及びビニル重合性基を少なくとも1個有する化合物であれば特に制限されない。ビニル重合性基は上記と同様である。スルホン酸基とビニル重合性基とは単結合で又は有機基を介して結合することができる。有機基は上記と同義である。
【0021】
スルホン酸基含有重合性モノマーとしては、例えば、式1:CH2=CR1−CONHm−[R2−(SO3X)anで表される化合物、式2:CH2=CR1−R3−(SO3X)aで表される化合物が挙げられる。
式1:CH2=CR1−CONHm−[R2−(SO3X)an
式1中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭化水素基である。炭化水素基は上記と同義である。mは0又は1であり、nは1又は2であり、m+nは2である。Xは水素原子又はアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム)であり、aは0又は1であり、nが2である場合、複数のR2−(SO3X)は同じでも異なってもよい(ただし、nが2である場合、2つのaは同時に0ではない。)。1分子中の−SO3Xの数は1又は2とすることができる。
【0022】
式2:CH2=CR1−R3−(SO3X)a
式2中、R1は水素原子又はメチル基であり、R3は炭化水素基である。炭化水素基は上記と同義である。Xは水素原子又はアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム)であり、aは1又は2である。
【0023】
具体的なスルホン酸基含有重合性モノマーとしては、例えば、アクリルアミドt−ブチルスルホン酸のような上記式1で表される化合物;メタリルスルホン酸[CH2=C(Me)−CH2−SO3H]のような上記式2で表される化合物;これらの塩(例えばナトリウム塩)が挙げられる。
【0024】
アミド基含有重合性モノマーが有するアミド基とスルホン酸基含有重合性モノマーが有するスルホン酸基のモル比(アミド基:スルホン酸基)は、速凝固性により優れ、少量で凝固させることができるという観点から、0.05以上0.3未満:0.95以下0.7を超える範囲であるのが好ましく、0.1以上0.2以下:0.9以下0.8以上であるのがより好ましい。
本発明において、両イオン性アクリル系ポリマーが有するアミド基、スルホン酸基、カルボン酸基の量は、両イオン性アクリル系ポリマーを製造する際に使用される(メタ)アクリル系モノマーが有する各基の量がほぼそのまま反映されるものとする。よって、両イオン性アクリル系ポリマーが有するアミド基とスルホン酸基のモル比(アミド基:スルホン酸基)の好ましい範囲は上記と同様である。
【0025】
両イオン性アクリル系ポリマーがさらにカルボン酸基を有する場合、(メタ)アクリル系モノマーとしてさらにカルボン酸基含有重合性モノマーを使用することができる。
カルボン酸基含有重合性モノマーは、カルボン酸基を少なくとも1個及びビニル重合性基を少なくとも1個有する化合物であれば特に制限されない。ビニル重合性基は上記と同様である。カルボン酸基とビニル重合性基とは単結合で又は有機基を介して結合することができる。有機基は上記と同様である。
カルボン酸基含有重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸が挙げられる。
【0026】
アミド基含有重合性モノマーが有するアミド基とスルホン酸基含有重合性モノマーが有するスルホン酸基及びカルボン酸基含有重合性モノマーが有するカルボン酸基の合計のモル比[アミド基:(スルホン酸基+カルボン酸基)]は、速凝固性により優れ、少量で凝固させることができるという観点から、0.05以上0.3未満:0.95以下0.7を超える範囲であるのが好ましく、0.1以上0.2以下:0.9以下0.8以上であるのがより好ましい。両イオン性アクリル系ポリマーが有するアミド基とスルホン酸基及びカルボン酸基の合計のモル比[アミド基:(スルホン酸基+カルボン酸基)]の好ましい範囲は上記と同様である。
なお、本発明において、両イオン性アクリル系ポリマーの製造の際に使用することができるラジカル重合開始剤がスルホン酸基及び/又はカルボン酸基を有する場合、スルホン酸基、カルボン酸基の量には、ラジカル重合開始剤に起因するスルホン酸基、カルボン酸基は含まれない。
【0027】
カルボン酸基とスルホン酸基とのモル比(カルボン酸基:スルホン酸基)は、速凝固性により優れ、少量で凝固させることができるという観点から、0.1:0.9〜0.9:0.1であるのが好ましく、0.3:0.7〜0.7:0.3であるのがより好ましい。
【0028】
アミド基含有重合性モノマーとスルホン酸基含有重合性モノマーの合計モル数は、速凝固性により優れ、少量で凝固させることができるという観点から、両イオン性アクリル系ポリマーを製造する際に使用されるモノマーの全モル数の50%以上であるのが好ましい。
両イオン性アクリル系ポリマーがさらにカルボン酸基を有する場合、アミド基含有重合性モノマーとスルホン酸基含有重合性モノマーとカルボン酸基含有重合性モノマーの合計モル数が、両イオン性アクリル系ポリマーを製造する際に使用されるモノマーの全モル数の50%以上であるのが好ましい。
【0029】
両イオン性アクリル系ポリマーは、その製造について特に制限されない。例えば、アミド基含有重合性モノマーとスルホン酸基含有重合性モノマーとを少なくとも含むモノマー(更にカルボン酸基含有重合性モノマーを含んでもよい。)を水中で重合させることによって製造することができる。重合の際にラジカル重合開始剤を使用することができる。重合開始剤は特に制限されない。例えば、スルホン酸基を有するスルホン酸基含有重合開始剤及び/又はカルボン酸基を有するカルボン酸基含有重合開始剤とすることができる。
水中で重合させることによって得られた、両イオン性アクリル系ポリマーの水溶液を両イオン性アクリル系ポリマーとして使用することができる。
【0030】
本発明のエマルジョン凝固剤は、更に水を含むことができる。水の量は、当該エマルジョン凝固剤中の20〜80質量%であるのが好ましく、30〜75質量%であるのがより好ましく、30〜70質量%であるのが更に好ましく、40〜50質量%であるのが特に好ましい。
両イオン性アクリル系ポリマーの量は、速凝固性により優れ、少量で凝固させることができるという観点から、当該エマルジョン凝固剤中の10〜70質量%であるのが好ましく、25〜70質量%であるのがより好ましく、30〜70質量%であるのが更に好ましく、40〜50質量%であるのが特に好ましい。
【0031】
本発明のエマルジョン凝固剤は、上記成分の他に、所望により必要に応じて、例えば、上記以外の両イオン性アクリル系ポリマー、凍結防止剤、充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、界面活性剤、分散剤、脱水剤、帯電防止剤等のような添加剤を含有することができる。
【0032】
本発明のエマルジョン凝固剤がさらに凍結防止剤を含有する場合、凍結防止剤はエマルジョン凝固剤の性能に影響しない。凍結防止剤は後述するものと同様である。
凍結防止剤の量は、極めて低温な温度環境下で凍結することがなく、凝固性能を維持できるという観点から、エマルジョン凝固剤が両イオン性アクリル系ポリマー100質量部に対して水100質量部を含有する場合、当該水100質量部に対して、凍結防止剤(例えばプロピレングリコール)を40〜100質量部とすることができる。
【0033】
本発明のエマルジョン凝固剤は、その製造について特に制限されない。例えば、両イオン性アクリル系ポリマー(上記製造方法によって製造された両イオン性アクリル系ポリマーを含む。)及び必要に応じて使用することができる添加剤とを混合することによって製造することができる。
本発明のエマルジョン凝固剤は両イオン性アクリル系ポリマーのみからなるものであってもよい。また両イオン性アクリル系ポリマーのみの水溶液であってもよい。さらに凍結防止剤を含有してもよい。
【0034】
本発明のエマルジョン凝固剤は、エマルジョンを凝固させるために使用することができる。エマルジョンとしては、例えば、水中にエマルジョン粒子を含有するものが挙げられる。エマルジョンとしては、具体的には例えば、タイヤパンク修理剤が挙げられる。
【0035】
本発明のエマルジョン凝固剤を適用することができるタイヤパンク修理剤は特に制限されない。例えば、天然ゴムラテックス(エマルジョン粒子として天然ゴムの粒子を含む。)及び/又は合成樹脂エマルジョン(エマルジョン粒子として合成樹脂の粒子を含む。)と、凍結防止剤とを含有する、タイヤパンク修理剤が挙げられる。
【0036】
タイヤパンク修理剤に用いることができるエマルジョンとしての合成樹脂系エマルジョンは、特に限定されず、例えば従来公知のものが挙げられる。合成樹脂系エマルジョンとしては、例えば、ウレタンエマルジョン、アクリルエマルジョン、ポリオレフィンエマルジョン、エチレン酢酸ビニル共重合体エマルジョン、ポリ酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル共重合体エマルジョン、ポリ塩化ビニル系エマルジョンが挙げられる。
【0037】
エマルジョンは、シール性能に優れ、車載安定性に優れるという観点から、天然ゴムラテックス及び/又は合成樹脂系エマルジョンであるのが好ましい。
これらの中でも、入手が容易で安価であるという観点から、エチレン酢酸ビニル系エマルジョン(例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体エマルジョン)、天然ゴムラテックス、
酢酸ビニルエマルジョンが好ましい。天然ゴムラテックス、エチレン酢酸ビニル系エマルジョン、酢酸ビニルエマルジョンは特に制限されない。いずれも例えば従来公知のものが挙げられる。
【0038】
エマルジョン粒子の量は、シール性能に優れ、タイヤパンク修理剤への混合分散性に優れるという観点から、タイヤパンク修理剤中の10〜50質量%であるのが好ましく、20〜45質量%であるのがより好ましい。
天然ゴムラテックスと合成樹脂エマルジョンとを併用する場合、天然ゴムと合成樹脂の固形分量比は、シール性能に優れ、タイヤパンク修理剤への混合分散性に優れるという観点から、10/90〜80/20であるのが好ましい。
【0039】
凍結防止剤としては例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール及びグリセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0040】
凍結防止剤の量は、タイヤパンク修理剤の凍結を防止する性能に優れる点から、タイヤパンク修理剤としてのエマルジョン中の固形分100質量部に対して、100〜500質量部が好ましく、120〜350質量部がより好ましく、140〜300質量部が更に好ましい。
【0041】
タイヤパンク修理剤は、上述した各成分以外に、所望により必要に応じて、例えば、粘着付与剤、セルロースのような充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、帯電防止剤のような添加剤を含有することができる。
充填剤の量は、シール性に優れる点から、タイヤパンク修理剤全量中の1〜50質量部が好ましく、5〜30質量部がより好ましい。
【0042】
タイヤパンク修理剤はその製造方法について特に限定されない。例えば、容器にエマルジョン、凍結防止剤、必要に応じて使用することができる、粘着付与剤、添加剤を入れ、減圧下で混合ミキサー等のかくはん機を用いて十分に混練する方法が挙げられる。
【0043】
本発明のエマルジョン凝固剤は、使用後又は未使用のタイヤパンク修理剤に対して使用することができる。本発明のエマルジョン凝固剤を使用する際には、本発明のエマルジョン凝固剤をタイヤパンク修理剤に混合すればよい。混合後、タイヤパンク修理剤が凝固する。
本発明のエマルジョン凝固剤の使用量は、極めて低温な温度環境下における凝固性により優れ、より広範な温度範囲での使用が可能となり、タイヤパンク修理剤への混合分散性に優れるという観点から、タイヤパンク修理剤100質量部に対して、8〜80質量部であるのが好ましく、10〜40質量部であるのがより好ましい。
【0044】
両イオン性アクリル系ポリマーの量は、速凝固性により優れるという観点から、タイヤパンク修理剤100質量部に対して、3〜40質量部であるのが好ましく、4〜40質量部であるのがより好ましく、5〜20質量部であるのがさらに好ましい。
【0045】
本発明のエマルジョン凝固剤は極めて低温な温度条件の環境(例えば外気温が−40℃以下)においてタイヤパンク修理剤を速やかに凝固させることができ、優れた凝固性を有する。
また、本発明のエマルジョン凝固剤は、広範な温度範囲の環境下においてタイヤパンク修理剤を速やかに凝固させることができる。本発明のエマルジョン凝固剤は、例えば、−40℃を含め70℃以下の広範な温度条件の環境下において使用することができる。
【0046】
本発明のエマルジョン凝固剤は、その形態(例えば使用形態、販売形態)として、例えば、エマルジョン凝固剤単独、エマルジョン凝固剤とタイヤパンク修理剤とのセット(タイヤパンク修理キット)が挙げられる。エマルジョン凝固剤とタイヤパンク修理剤とのセットをタイヤパンク応急修理キットとして使用することができる。また本発明のエマルジョン凝固剤を未使用のタイヤパンク修理剤を凝固させるために使用することができる。
【0047】
本発明のタイヤパンク修理キットについて以下に説明する。
本発明のタイヤパンク修理キットは、本発明のエマルジョン凝固剤とタイヤパンク修理剤とを有するタイヤパンク修理キットである。
本発明のタイヤパンク修理キットに使用されるエマルジョン凝固剤は本発明のエマルジョン凝固剤であれば特に制限されない。本発明のタイヤパンク修理キットに使用されるタイヤパンク修理剤は上記と同様である。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
[評価]
下記のとおり製造したエマルジョン(タイヤパンク修理剤)と、下記のとおり製造したエマルジョン凝固剤を用いて、−40℃での凝固時間を、下記の評価方法及び評価基準で評価した。
・評価方法
下記のとおり製造したエマルジョンを−40℃に冷やして、当該−40℃のエマルジョン100質量部に、下記のとおり製造したエマルジョン凝固剤(固形分30%、常温)を、両イオン性アクリル系ポリマー(エマルジョン凝固剤の固形分)の量が下記第1表に示す量(質量部)となる量で添加し、−40℃の条件下で、混合物を5分攪拌した。
撹拌後、上記混合物から液状分がしみださず、流動性がなくなるまでの時間(凝固時間)を測定した。結果を第1表に示す。
・評価基準
凝固時間が30分以内である場合凝固性に非常に優れるとしてこれを「◎」と表示し、凝固時間が30分より長く40分以内である場合凝固性に優れるとしてこれを「○」と表示し、凝固時間が40分より長く60分以内である場合凝固性に劣りマルジョン凝固剤として使用できないとしてこれを「×」と表示し、凝固時間が60分を超える又は混合物が凝固しない場合凝固性が悪くエマルジョン凝固剤として使用できないとしてこれを「××」と表示した。
【0049】
[エマルジョン凝固剤の製造]
第1表に示す、アミド基含有重合性モノマー、スルホン酸基含有重合性モノマー、カルボン酸基含有重合性モノマー、重合開始剤を同表に示す量で用い、これらを水100mlに入れて、70℃の条件下で、6時間ラジカル重合を行い、その後重合を停止して、両イオン性アクリル系ポリマーを含む水溶液を得た。得られた水溶液をエマルジョン凝固剤1〜18とする。
[両イオン性アクリル系ポリマーの重量平均分子量]
上記のとおり製造されたエマルジョン凝固剤を乾燥させ、乾燥後に得られた両イオン性アクリル系ポリマーの重量平均分子量を、ジメチルフォルムアミドを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算で測定した。結果を第1表に示す。
【0050】
[エマルジョンの製造]
第1表のエマルジョンの欄に示す成分を同表に示す量(質量部)で用いてこれらを混合しエマルジョンを製造した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
第1表に示されている各成分の詳細は、以下のとおりである。
・アクリルアミド:和光純薬社製
・アクリルアミドt−ブチルスルホン酸:和光純薬社製
・メタリルスルホン酸:和光純薬社製
・メタクリル酸:和光純薬社製
・アゾビスシアノ吉草酸:和光純薬社製
・エマルジョン1 NR:天然ゴムエマルジョン(HA Latex、固形分60質量%、Golden Hope社製)
・エマルジョン2 EVA:エチレン酢酸ビニルエマルジョン(固形分51質量%、スミカフレックスS−408HQE、住化ケムテックス社製)
・凍結防止剤 PG:プロピレングリコール(固形分100質量%、和光純薬工業社製)
【0054】
第1表に示す結果から明らかなように、アミド基を有さないアクリル系ポリマーを含む比較例1は極めて低温の環境下においてエマルジョンを凝固させることができなかった。ポリマーの重量平均分子量が30,000を超える比較例2、3は極めて低温の環境下における凝固性能が劣った。スルホン酸基を有さないポリマーを含む比較例4は極めて低温の環境下においてエマルジョンを凝固させることができなかった。またスルホン酸基を有さないポリマーを含む比較例5はポリマーの量を増やしても極めて低温の環境下において凝固性能が劣った。
これに対して、実施例1〜20は、極めて低温の環境下においてエマルジョンを速やかに凝固させることができる。また、実施例1〜20はこのような環境下において少量の添加でエマルジョンを凝固させることができる。
このように本発明のエマルジョン凝固剤は、極めて低温の環境下においてエマルジョンを速やかに凝固させることができる。また、本発明のエマルジョン凝固剤は、このような環境下において少量の添加でエマルジョンを速やかに凝固させることができる。