(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776900
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】股鉤からの畜体腿肉取り外し装置
(51)【国際特許分類】
A22C 17/00 20060101AFI20150820BHJP
A22C 15/00 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
A22C17/00
A22C15/00
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-247829(P2011-247829)
(22)【出願日】2011年11月11日
(65)【公開番号】特開2013-102722(P2013-102722A)
(43)【公開日】2013年5月30日
【審査請求日】2014年8月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】592051187
【氏名又は名称】マトヤ技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000039
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人 衞藤法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】益留 福一
(72)【発明者】
【氏名】矢野 勇二郎
【審査官】
横山 幸弘
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3162985(JP,U)
【文献】
実開昭56−170134(JP,U)
【文献】
特開平07−313101(JP,A)
【文献】
特開平01−191639(JP,A)
【文献】
特開2000−106818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A22C 15/00
A22C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架設されたレール上を走行する枝肉搬送用トロリーに吊下された股鉤の下方に配置される昇降自在のシュートと、このシュート上に立設されると共に、前記股鉤の頂角よりも大きな頂角を有する凸状に形成され、前記シュートの上昇又は下降に伴って股鉤を回避しながら腿肉を押し上げて、腿肉を股鉤の鉤部から離脱する方向に案内する腿肉外しガイド部と、股鉤の水平方向の位置を決める股鉤ガイド部と、前記シュートの上昇に伴って、股鉤のアームを上方から挟持押圧して股鉤の振れを規制すると共に股鉤の鉛直方向の位置を決める股鉤アーム押え部とからなり、吊り下げる腿肉の鉛直サイズに応じて、前記股鉤ガイド部及び股鉤アーム押え部の高さ並びに前記シュートの昇降位置を変更可能にしたことを特徴とする股鉤からの畜体腿肉取り外し装置。
【請求項2】
シュートの前面に、シュートの上下動に応じて開閉自在にされた飛び出し防止用シャッターを設けたことを特徴とする請求項1記載の股鉤からの畜体腿肉取り外し装置。
【請求項3】
股鉤ガイド部が、シュートに対して前後方向に駆動する一対の可動アームを備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の股鉤からの畜体腿肉取り外し装置。
【請求項4】
股鉤アーム押え部が、回転自在に軸承されたローラー部を先端に有するアームを円弧状に旋回させて可動するトグル機構で構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の股鉤からの畜体腿肉取り外し装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用に解体された牛や豚等の畜体、とくに畜体を股鉤で吊下げて処理施設の天井付近に架設するレール上を走行する枝肉搬送用トロリーにより各処理ステーションに搬送して、ばらし処理を行う処理ラインにおいて使用される装置に関し、とくに畜体の腿肉を股鉤から取り外す装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食肉処理場において、畜体を枝肉搬送用トロリーに吊り下げて搬送するために、頂角を挟んで下方に向かって斜めに拡張する2本のアームの下端部を外上向きの鉤状に形成してなる股鉤が使用される。そして、この股鉤の頂部を枝肉搬送用トロリーに吊支し、さらに股鉤の左右の鉤部に肢脚を突き刺し掛けて搬送される。処理ライン最後のばらしステーションには、二つ割りにされた一対の腿肉部分のみが吊下がった状態で搬送されてくる。
【0003】
そこで、最後のばらし作業にあたって、股鉤に吊られて搬送されてきた一対の腿肉を股鉤から取り外す必要があり、従来はこれを人手により行っていた。
【0004】
当然、このような高所に吊り下げられた重たい腿肉の取り外し作業は危険且つ重労働であり、その機械化が嘱望されていた。そこで、例えば、枝肉搬送用トロリーに吊支された股鉤の左右鉤部に掛け吊りされた枝肉が搬送されてくる枝肉取り外しセクションにおいて、股鉤の左右傾斜アームにそれぞれ係合すべき左右のV字状係止溝を水平線上に有する上下2段の係止部材と、上記股鉤を上記上下2段の係止部材の各係止溝に押し付け固定する開閉自在のクランプアームと、上記股鉤における鉤部の曲がりの外周に沿って上記鉤部に掛けられた枝肉を当該鉤部から外す方向へ往復移動自在に支持された枝肉外し部材と、上記枝肉外し部材を往復動させる駆動手段を設けた股鉤からの枝肉取り外し装置が提案されていた(特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された枝肉取り外し装置は、搬送されて来た腿肉の上方で稼動するため、装置に付着したオイルや堆積した塵埃や錆等の落下による食肉の汚染が危惧される。そこで頻繁に清掃する必要があるが、従来装置は構造が複雑で、製造コスト、イニシャルコスト及びランニングコスト共に嵩むという課題があった。
【0006】
そこで、本発明者らは、作業の安全性が向上し、且つ人的労力を著しく低減できることは勿論のこと、装置構造が簡単で且つ清掃管理に多大な手間を要することなく作業を行うことができる「股鉤からの畜体腿肉取り外し装置」を先に提案している(特許文献2参照。)。
【0007】
この装置は、架設されたレール上を走行する枝肉搬送用トロリーに吊下された股鉤の下方に配置される昇降自在のシュートと、このシュート上に立設されると共に、前記股鉤の頂角よりも大きな頂角を有する凸状に形成され、前記シュートの上昇に伴って股鉤を回避しながら腿肉を押し上げて、腿肉を股鉤の鉤部から離脱する方向に案内するガイド部とから概略構成され、さらに、シュートの上昇に伴って、股鉤のアームを上方から押圧して股鉤の振れを規制する股鉤押え環を設けることで、下記の優れた効果を奏する。
(1)腿肉取り外し作業の安全性が向上し、且つ人的労力を著しく低減することができる。
(2)オイル、塵埃、錆等の異物の落下による食肉の汚染を防止することができる。
(3)装置構造が簡単で、製造コスト、イニシャルコスト及びランニングコスト共に経済的である。
(4)股鉤アーム押え環により、股鉤に吊った左右の腿肉の重量差による偏移を矯正することができると共に、股鉤が振れ止めされ、上昇するガイド部が股鉤と干渉することなく股鉤を回避することができる。
【0008】
通常、畜体のばらしステーションで取り外される食肉用豚の腿肉(以下、単に肉豚という)のサイズは、長さ50cm程度であるが、長さ70cmを超える種豚や母豚の大型サイズの腿肉(以下、大貫という)を処理する場合がある。その際、腿肉搬送レールの高さ(すなわち、天井高さ)が十分取れない食肉処理センター等では、股鉤の位置を上方に掛け換え、床面から腿肉下端までの高さを確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−313101号公報
【特許文献2】実用新案登録第3162985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、普通サイズの腿肉よりもさらに重量がある大貫を、通常よりさらに高くした吊り下げ位置から取り外す作業は危険かつ多大な労力を要する。本発明は上記従来技術の課題に鑑み、肉豚と大貫のいずれのサイズにおいても腿肉外し作業の安全性が向上し、且つ人的労力を著しく低減できることは勿論のこと、装置構造が簡単で且つ清掃管理に多大な手間を要することなく、経済的な畜体腿肉取り外し装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このため、本発明の股鉤からの畜体腿肉取り外し装置は、架設されたレール上を走行する枝肉搬送用トロリーに吊下された股鉤の下方に配置される昇降自在のシュートと、このシュート上に立設されると共に、前記股鉤の頂角よりも大きな頂角を有する凸状に形成され、前記シュートの上昇又は下降に伴って股鉤を回避しながら腿肉を押し上げて、腿肉を股鉤の鉤部から離脱する方向に案内する腿肉外しガイド部と、股鉤の水平方向の位置を決める股鉤ガイド部と、前記シュートの上昇に伴って、股鉤のアームを上方から挟持押圧して股鉤の振れを規制すると共に股鉤の鉛直方向の位置を決める股鉤アーム押え部とからなり、吊り下げる腿肉の鉛直サイズに応じて、前記股鉤ガイド部及び股鉤アーム押え部の高さ並びに前記シュートの昇降位置を変更可能にしたことを第1の特徴とする。
【0012】
シュートの前面に、シュートの上下動に応じて開閉自在にされた飛び出し防止用シャッターを設けたことを第2の特徴とする。
【0013】
股鉤ガイド部が、シュートに対して前後方向に駆動する一対の可動アームを備えていることを第3の特徴とする。
【0014】
股鉤アーム押え部が、回転自在に軸承されたローラー部を先端に有するアームを円弧状に旋回させて可動するトグル機構で構成されていることを第4の特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下の優れた効果がある。
(1)腿肉取り外し作業の安全性が向上し、且つ人的労力を著しく低減することができる。
(2)吊り下げる腿肉の鉛直サイズに応じて、前記股鉤ガイド部及び股鉤アーム押え部の高さ並びにシュートの昇降位置を変更可能にしたので、肉豚又は大貫双方の取り外し作業ができる。
(3)装置構造が簡単で、製造コスト、イニシャルコスト及びランニングコスト共に経済的である。
(4)股鉤アーム押え部により、股鉤に吊った左右の腿肉の重量差による偏移を矯正することができると共に、股鉤が振れ止めされ、上昇又は下降するガイド部が股鉤と干渉することなく股鉤を回避することができる。
(5)股鉤アーム押部がトグル機構で構成されているので、大きな旋回角と確実な保持力で股鉤を固定することができる。
(6)股鉤ガイド板により股鉤の水平方向位置、すなわち、シュートに対して中央部に位置するように矯正できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)は肉豚を、(b)は大貫を股鉤に吊り下げた状態を示す正面図である。
【
図2】本発明装置に係る畜体腿肉取り外し装置を示す正面図である。
【
図3】本発明装置による(a)は肉豚の取り外し状態、(b)は大貫の取り外し状態を示す側面図である。
【
図5】畜体腿肉取り外し装置と飛び出し防止用シャッターの駆動状態を連続的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0018】
図1に示すように、本発明における股鉤3は、食肉処理場において畜体の搬送に広く使用されているものであって、下方に向かって開放かつ扇状に配された2本の傾斜アーム3aと、両アーム3a、3aの下端部をそれぞれ外上向きに折曲して鉤部3b、3bを形成したもので、その頂部3cを天井に配設されたレール1に走行自在に吊支されたトロリー2のフック2a又は2bに引っ掛けて吊るすようにされている。ここで、
図1(a)は、長さL1=50cm程度の肉豚M1をフック2aに、
図1(b)は、長さL2=70cm程度の大貫M2をフック2aより上方に設けられたフック2bに吊るされている。
【0019】
すなわち、食肉処理場には、食肉処理ラインに沿って天井レール1、走行ローラー4を具備した複数のトロリー2を有する枝肉搬送用トロリーCが配設され、その所定位置下方の腿肉取り外しステーションに、ばらし作業台(図示せず)と連結する腰位の高さのローラーコンベア(図示せず)が枝肉搬送用トロリーCと略直交して設置されると共に、ローラーコンベア(図示せず)の近傍に本発明の畜体腿肉取り外し装置10が設置される。
【0020】
図2に示すように、畜体腿肉取り外し装置10は、前記腿肉取り外しステーションにおいて、枝肉搬送用トロリーCに吊下された股鉤3の下方に配置される昇降自在のシュート(昇降台)6と、このシュート6上に立設されると共に、股鉤3の頂角よりも大きな頂角を有する凸状に形成され、シュート6の上昇に伴って股鉤3を回避しながら股鉤3の鉤部3bに突き刺して懸吊された肉豚M1又は大貫M2を押し上げて、肉豚M1又は大貫M2を股鉤3の鉤部3bから離脱する方向に案内するガイド部7とから構成されている。
【0021】
さらに、股鉤3の水平方向の位置を決める股鉤ガイド板9と、前記シュート6の上昇に伴って、股鉤3のアーム3aを上方から挟持押圧して股鉤3の振れを規制すると共に股鉤の鉛直方向の位置を決める股鉤押えローラー部5とからなり、吊り下げる肉豚M1又は大貫M2の鉛直サイズに応じて、股鉤ガイド板9及び股鉤押えローラー部5の高さ並びに前記シュート6の昇降位置を支柱8に沿って変更可能にされている。
【0022】
図3に示すように、股鉤アーム押え部5は、回転自在に軸承されたローラー5aを先端に有する押えアーム5bとリンク5cを介して円弧状に旋回させて可動するトグル機構で構成されており、トグル機構による大きな旋回角と確実な保持力で股鉤3を所望する高さで不動状態にすることができる。ここで、股鉤3の鉤部3bの外向き形状を考慮し、股鉤アーム押え部5は股鉤3を斜め上方から位置決めするようにされている。そして、肉豚M1と大貫M2に応じて、股鉤押えローラー部5、股鉤ガイド板9及びシュート6の昇降位置を替えることができるようにされている。すなわち、
図3(a)に示すように、サイズの小さな肉豚M1を処理する場合は、これら装置全体を下降させ、サイズの大きな大貫M2を処理する場合はこれら装置全体を上昇させる。
【0023】
図4に示すように、股鉤ガイド板9は、シュート6に対してエアーシリンダ9bにより前後方向に駆動する一対の可動アーム9aを備え、この股鉤ガイド板5により股鉤の水平方向位置、すなわち、シュート6に対して中央部に位置するように矯正するようにされている。
【0024】
以上のように、股鉤3には、左右に吊った腿肉M1又は大貫M2の重量差による偏移や走行による振れが生じるが、本発明では一対の股鉤アーム押え部5を設け、シュート6の上昇に伴って股鉤3のアーム3aを上方且つ両側から挟持することにより、股鉤3の偏移を矯正することができると共に、股鉤3が振れ止めされ、上昇又は下降するガイド部7が股鉤3と干渉することなく、正確に股鉤3を回避し、腿肉M1又は大貫M2を確実に取り外すことができる。シュート6は、ローラーコンベア(図示せず)側に向かって下方に傾斜した滑り台であり、股鉤3から取り外された肉豚M1又は大貫M2はシュート6上を自然に滑落してローラーコンベアに載置され、ばらし作業台(図示せず)に搬送される。
【0025】
さらに、本発明装置では、
図5に示すように、シュート6の前面に、シュート6の上下動に応じて開閉自在にされた飛び出し防止用シャッター11を設けている。シャッター板11aは、門扉状の支柱11cの上方に掛け渡された支持棒11dに回動自在に軸支され、エアーシリンダ11bによって開閉操作を行うことができるようにされており、例えば、高く上がったシュート6が所望する高さに下がってくるまで閉止しておき、その位置より下がった安全な位置になったら自動的に開放され、肉豚M1又は大貫M2がシュート6を滑り出るようにされている。これにより、とくに大貫M2のように高所での取り外し作業を安全に行うことができる。
【符号の説明】
【0026】
1 天井レール
2 トロリー
2aトロリーのフック
2bトロリーのフック
3 股鉤
3a股鉤のアーム
3b鉤部(フック)
3c股鉤の頂部
4 トロリーの走行ローラー
5 股鉤アーム押え部
5a押えローラー
5b押えアーム
5cリンク
5dエアーシリンダ
6 シュート(昇降台)
7 腿肉外しガイド部(凸部)
8 支柱
9 股鉤ガイド板
9a可動アーム
9bエアーシリンダ
10畜体腿肉取り外し装置
11飛び出し防止用シャッター
11aシャッター板
11bエアーシリンダ
11c門扉状支柱
11d支持棒
C 枝肉搬送用トロリー
M1 腿肉(肉豚)
M2 腿肉(大貫)