(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776907
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】N−アシル保護またはN−グアニジル保護1,4−ブタンジアミン前駆体を介する1,4−ブタンジアミンの調製方法
(51)【国際特許分類】
C12P 13/00 20060101AFI20150820BHJP
【FI】
C12P13/00ZNA
【請求項の数】14
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2012-521018(P2012-521018)
(86)(22)【出願日】2010年7月20日
(65)【公表番号】特表2013-500005(P2013-500005A)
(43)【公表日】2013年1月7日
(86)【国際出願番号】EP2010060480
(87)【国際公開番号】WO2011009859
(87)【国際公開日】20110127
【審査請求日】2013年6月7日
(31)【優先権主張番号】09166374.0
(32)【優先日】2009年7月24日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】ウー, リャン
(72)【発明者】
【氏名】ラーマーカス−フランケン, ペトロネッラ, カタリナ
【審査官】
吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−505652(JP,A)
【文献】
特表2008−505651(JP,A)
【文献】
特開平04−349890(JP,A)
【文献】
特開昭56−151494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 13/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの生体触媒ステップを含む1,4−ジアミノブタン[DAB]の調製方法であって、
N5−アセチルオルニチン、N−アセチルDAB、およびN−アセチル4−アミノブチルアルデヒドからなる群から選択される少なくとも1つのDABのN−保護前駆体の生体触媒による生成とその後の前記N−保護前駆体のDABへのインビトロ変換とを含む方法。
【請求項2】
少なくとも1つの生体触媒ステップを含むDABの調製方法であって、
a)DABのN−保護前駆体を生体触媒により調製するステップであって、DABのN−保護前駆体を含有する生体触媒反応混合物を生じさせるステップと、
b)前記生体触媒反応混合物から前記N−保護前駆体を回収するステップと、
c)前記N−保護前駆体をDABに変換するステップとを含み、
DABの前記N−保護前駆体が、N5−アセチルオルニチン、N−アセチルDAB、およびN−アセチル4−アミノブチルアルデヒドからなる群から選択される、方法。
【請求項3】
前記生体触媒ステップが発酵ステップである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記発酵ステップが単細胞宿主の中で起こる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記発酵ステップが、動物細胞、植物細胞、細菌、古細菌、酵母、および菌類からなる群から選択される宿主細胞の中で起こる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記生体触媒反応混合物からの前記N−保護前駆体の回収が、ろ過、沈降、結晶化、アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、膜分離、および蒸発からなる群から選択される少なくとも1つのステップによって行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記N−保護前駆体のDABへの変換ステップc)が、少なくとも1つの酵素処理ステップまたは化学処理ステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
DABの前記N−保護前駆体が、加水分解酵素を使用してDABに変換される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
加水分解酵素が、カルボン酸エステルヒドロラーゼ、チオールエステルヒドロラーゼ、リパーゼ、およびペプチダーゼからなる群から選択されて使用される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
加水分解酵素が、リパーゼおよびペプチダーゼから選択されて使用される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記加水分解酵素が、セリン型カルボキシペプチダーゼ、金属カルボキシペプチダーゼ、システイン型カルボキシペプチダーゼ、セリンエンドペプチダーゼ、システインエンドペプチダーゼ、アスパラギン酸エンドペプチダーゼ、および金属エンドペプチダーゼの群から選択されるペプチダーゼである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記加水分解酵素が、セリンエンドペプチダーゼである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記セリンエンドペプチダーゼが、サブチリシンである、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記サブチリシンが、サブチリシンカールスバーグである、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの生体触媒ステップを含む、1,4−ジアミノブタン[DAB]の調製方法に関する。
【0002】
化合物DABは、主要なエンジニアリングプラスチックの一部、すなわちホモポリマー形態のポリアミド−4,6、または例えば約5重量%のポリアミド−6モノマー(カプロラクタム)と共重合したポリアミド−4,6を製造するための重要な原料である。ホモポリマーポリアミド−4、6(ナイロン4,6)は、早くも1938年に記載がある(米国特許第2,130,948(A)号明細書、カロザーズ(Carothers))。これはモノマーDABおよびアジピン酸の重縮合生成物である。現在、特にポリアミド−4,6の化合物は、スタニル(STANYL)(登録商標)の商品名でオランダのDSMが製造し、販売している。
【0003】
DABの合成については、いくつかの化学ルートが知られている。これらの化学ルートには、再生が不可能であると考えられる供給源から出発物質を入手しなければならないという欠点がある。しかしながら、再生可能な炭素源から出発し、生化学的プロセス(「生体内変換」とも呼ばれる)を使用するDAB合成のための実現可能な新ルートを提供する実質的な必要性が存在する。
【0004】
少なくとも1つの発酵ステップを含むDABの調製方法が、国際公開第2006/005603号パンフレットおよび国際公開第2006/00504号パンフレットとして公表されたPCT出願に記載されている。両方の文書には、高レベルのオルニチンデカルボキシラーゼ活性を有する微生物における、DABの発酵による製造が記載されている。
【0005】
本方法は、DABの代替調製方法に関する。本発明による方法は、DABの少なくとも1つのN−保護前駆体の生体触媒による生成とその後のN−保護前駆体のDABへのインビトロ変換とを含む、少なくとも1つの生体触媒ステップを含む。
【0006】
生体触媒による生成後のDABの回収は、相当な困難を伴うことが見出された。国際公開第2007/079944号パンフレットには、DABなどの有機アミンの回収が記載されている。そこに記載の特定の実施形態では、アミンの硫酸塩またはリン酸塩(したがって例えば、DAB二硫酸塩)を含有する無細胞培養液が濃縮され、アンモニアのような塩基が添加される。条件に応じて、2層系が形成される。主として有機化合物を含有する層から、所望のアミンが回収され得る。
[発明の詳細な説明]
【0007】
一実施形態によれば、DABの調製方法は、少なくとも1つの生体触媒ステップを含み、(a)DABのN−保護前駆体を生体触媒により調製するステップであって、DABのN−保護前駆体を含有する生体触媒反応混合物を生じさせるステップと、(b)生体触媒反応混合物からN−保護前駆体を回収するステップと、(c)N−保護前駆体をDABに変換するステップとを含む。
【0008】
特定の実施形態によれば、DABを生成させる本発明は、少なくとも1つの生体触媒ステップを含み、このステップは、N
5−保護オルニチン、N−保護DAB、およびN−保護4−アミノブチルアルデヒドからなる群から選択される、DABの少なくとも1つのN−保護前駆体の生体触媒による生成、およびその後のN−保護前駆体のDABへのインビトロ変換を含む。
【0009】
本明細書において「インビトロ変換」とは、細胞外の培地中においてDABのN−保護前駆体がDABへ変換されることを意味する。このインビトロ変換は、少なくとも1つの生体触媒による変換であってもよく、もしくは少なくとも1つの化学ステップを含む化学変換であってもよく、または少なくとも1つの生体触媒ステップと少なくとも1つの化学ステップとの組合せであってもよい。
【0010】
本明細書において「DABのN−保護前駆体」とは、保護アミノ基を含有し、少なくとも1つの化学反応もしくは生体触媒反応、または化学反応と生体触媒反応との組合せによってDABに変換され得る化合物を意味する。
【0011】
本明細書において「N
5−保護オルニチン」とは、N
5原子に保護基を有するオルニチン分子を意味する。本明細書において「N−保護DAB」とは、アミノ基の1つに保護基を有するDAB分子を意味する。本明細書において「N−保護4−アミノブチルアルデヒド」とは、アミノ基に保護基を有する4−アミノブチルアルデヒド分子を意味する。
【0012】
上述の保護基は、1〜6個の炭素原子を有するアシル類からなる群から選択してもよく、またはグアニジル基であってもよい。このような保護基は、生体触媒による生成、生体触媒反応混合物(例えば発酵培養液)からのN−保護前駆体の容易な回収、ならびにその後の最終的にDABを生成するための生体触媒反応および/または化学反応の少なくとも1つを可能にさせるように選択すべきである。
【0013】
N−保護DAB前駆体は、例えば4−アミノブチルアルデヒドまたはオルニチンのアシル化によって調製することができる。例えば、ギ酸中での無水酢酸によるアシル化によってホルミル保護基を導入すること、またはC2〜C6カルボン酸無水物もしくは塩化アシルの反応によってN−アセチル、N−プロピオニル、N−ブチリル、N−バレリル、もしくはN−カプロイル保護基をそれぞれ導入すること。
【0014】
N−グアニジル保護前駆体は、例えばタンパク新生のアルギニンまたはN−グアニジル−アミノブチルアルデヒドもしくはN−グアニジルDABである。発酵ルートが、例えば欧州特許第1260588号明細書に記載されており、その明細書ではアルギニンデカルボキシラーゼの影響下でアルギニンからアグマチンが生化学的に生成されることが記載されている。アグマチンは、N−グアニジル保護DABである。アグマチン(N−グアニジル保護DAB)は、酸加水分解によって、例えば濃塩酸または濃硫酸などの濃鉱酸水溶液中でアグマチンを還流することによって支障なく脱保護されてDABになり得る。これにより、DABの二酸塩ならびに副生成物の二酸化炭素およびアンモニア(後者は使用される鉱酸のアンモニウム塩の形)が得られる。DABをその遊離アミン形で得るために、形成された二酸塩を単離し、再溶解し、塩基で中和すべきである。
【0015】
さらに特定の実施形態によれば、本発明は、DABの少なくとも1つのN−保護前駆体が生成され、そのN−保護前駆体がN
5−アセチルオルニチン、N−アセチルDAB、およびN−アセチル4−アミノブチルアルデヒドからなる群から選択される、DABの調製方法に関する。
【0016】
特定の一実施形態によれば、少なくとも1つの生体触媒ステップを含むDABの調製方法は、(a)N
5−アセチルオルニチンを生体触媒により調製するステップであって、N
5−アセチルオルニチンを含有する生体触媒反応混合物を生じさせるステップと、(b)生体触媒反応混合物からN
5−アセチルオルニチンを回収するステップと、(c)N
5−アセチルオルニチンをDABに変換するステップとを含む。
【0017】
特定の一実施形態によれば、少なくとも1つの生体触媒ステップを含むDABの調製方法は、(a)N−アセチルDABを生体触媒により調製するステップであって、N−アセチルDABを含有する生体触媒反応混合物を生じさせるステップと、(b)生体触媒反応混合物からN−アセチルDABを回収するステップと、(c)N−アセチルDABをDABに変換するステップとを含む。
【0018】
特定の一実施形態によれば、少なくとも1つの生体触媒ステップを含むDABの調製方法は、(a)N−アセチル4−アミノブチルアルデヒドを生体触媒により調製するステップであって、N−アセチル4−アミノブチルアルデヒドを含有する生体触媒反応混合物を生じさせるステップと、(b)生体触媒反応混合物からN−アセチル4−アミノブチルアルデヒドを回収するステップと、(c)N−アセチル4−アミノブチルアルデヒドをDABに変換するステップとを含む。
【0019】
本明細書において、アミンまたはN−保護アミン、例えばN−保護DABを明示的または黙示的に言及する場合、これらの用語は、中性のアミン基、それに対応する荷電を有するプロトン化アミン、およびその塩を含むことを意味する。
【0020】
[定義]
本明細書において使用する用語「または(or)」は、別段の指定がない限り「および/または(and/or)」として定義される。
【0021】
本明細書において使用する用語「1つの(a)」または「1つの(an)」は、別段の指定がない限り「少なくとも1つ」として定義される。
【0022】
単数形の名詞(例えば化合物(a compound)、添加物(an additive)等)に言及する場合、その複数形も含まれることを意味する。
【0023】
立体異性体が存在する化合物に言及する場合、その化合物はそのような立体異性体のいずれであっても、またはそれらの組合せであってもよい。したがって、例えば鏡像異性体が存在するアミノ酸に言及する場合、そのアミノ酸はL−鏡像異性体であっても、もしくはD−鏡像異性体であっても、またはそれらの組合せであってもよい。天然の立体異性体が存在する場合、その化合物は天然の立体異性体であることが好ましい。
【0024】
酵素がカッコ内の酵素クラス(EC)を付して言及される場合、その酵素クラスは、国際生化学・分子生物学連合の命名法委員会(Nomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology)(NC−IUBMB)によって規定された酵素命名法に基づいて、その酵素が分類されるか、または分類され得るクラスであり、この命名法は、http://www.chem.qmul.ac.uk/iubmb/enzyme/に見つけることができる。特定のクラスに(まだ)分類されていないが、そういうものとして分類され得る他の適切な酵素も含まれることを意味する。
【0025】
用語「同種(homologous)」または「ホモログ」または「オルソログ」は、機能的な関係を有し、配列同一性の程度に基づいて一般に決定される関連配列を指す。これらの用語により、ある種、亜種、変種、培養変種、系統の中で見出された遺伝子と別の種、亜種、変種、培養変種、または系統の中の対応するまたは等価な遺伝子との間の関係について記述することができる。また、これらの用語により、天然に見出された遺伝子と人為的に構築された遺伝子との間の関係、または2つの人為的に構築された遺伝子間の関係について記述することができる。機能的な関係は、これらに限定されないが、(a)配列同一性の程度、(b)同じかまたは類似した生物学的機能を含む、いくつかの方法のいずれか1つで示すことができる。(a)および(b)の両方が示されることが好ましい。用語ホモログにはまた、遺伝暗号の縮重により別の核酸配列とは異なり、かつ同じポリペプチド配列をコードする核酸配列(ポリヌクレオチド配列)も含まれることを意味する。
【0026】
用語「ホモログ」を、ポリペプチドに関して本明細書において使用する場合はいつでも、この用語は、参照ポリペプチドと同じかまたは類似の生物学的機能および一定の配列同一性を有するポリペプチドを指すことを意図する。具体的には、この用語は、少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、具体的には少なくとも85%、より具体的には少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を示すことを意図する。
【0027】
本明細書においては、「配列同一性」または「配列類似性」は、配列の比較により決定される、2つ以上のポリペプチド配列間または2つ以上の核酸配列間の関係として定義される。通常、配列同一性または配列類似性は配列の全長にわたって比較するが、互いにアライメントした配列の一部に対してのみ比較する場合もある。当技術分野では、「同一性」または「類似性」はまた、場合によってはそのような配列間の一致によって決定される、ポリペプチド配列間または核酸配列間の配列関連性の程度を意味する。同一性または類似性を決定する好ましい方法は、検査される配列間に最大の一致を与えるように設計されている。本発明の枠内では、2つの配列間の同一性および類似性を決定する好ましいコンピュータプログラム法としては、NCBIならびに他の供給源(BLAST Manual、Altschul,S.ら、NCBI NLM NIH Bethesda、MD 20894)から公的に入手できるBLASTPおよびBLASTN(Altschul,S.F.ら、J.Mol.Biol.1990、215、403〜410)が挙げられる。BLASTPを使用するポリペプチド配列比較用の好ましいパラメーターは、ギャップ開始10.0、ギャップ伸長0.5、Blosum62マトリックスである。BLASTNを使用する核酸配列比較用の好ましいパラメーターは、ギャップ開始10.0、ギャップ伸長0.5、DNA完全マトリックス(DNA同一性マトリックス)である。
【0028】
本明細書において「生体内変換」または「生体触媒反応」とは、酵素が触媒として使用される生化学反応を意味する。本明細書において本発明に従う場合はいつでも、生体触媒が使用されること、すなわち、この方法の少なくとも1つの反応ステップが、生物学的供給源に由来する生体物質または生体成分、例えば生物またはそれから由来する生体分子によって触媒されることを示す。生体内変換は、具体的には発酵プロセスの場合もある。生体触媒は、具体的には1つまたは複数の酵素を含むことができる。生体触媒は、任意の形態で使用することができる。特定の実施形態では、1つまたは複数の酵素を、自然環境から単離して(それを産生した生物から単離して)、例えば溶液、エマルジョン、分散液、凍結乾燥細胞(の懸濁液)として、溶解物として、または支持体上に固定して使用する。一実施形態では、1つまたは複数の酵素が、生体(生きている細胞全体など)の一部を形成する。これらの酵素は、細胞内で触媒機能を果たすことができる。細胞が存在している培地中に、この酵素を分泌させることも可能である。
【0029】
本明細書において「生体触媒反応混合物」とは、生体触媒反応が起こる環境を意味する。この環境は、細胞環境(細胞内または細胞外の生体触媒反応のための)の場合も、または無細胞環境の場合もある。
【0030】
本明細書において「発酵プロセス」とは、特定の化学成分の形成または変換が、単細胞の宿主の中で、より具体的には細胞培養物中の微生物の中で起こる生産プロセスを意味する。本明細書において「発酵による調製」とは、発酵可能な炭素源を含む細胞培養物中に生体触媒を含み、この炭素源が、調製すべき特定の化学成分に変換されることになる前記化合物のいずれかを含有するか、またはこの細胞が、炭素源から調製すべき特定の化学成分に変換されることになる化合物を調製する微生物中で特定の化学成分を生成させることを意味する。この微生物は、特定の化学成分の天然の生産者である場合も、または組換えDNA技術を使用して、少なくとも1つの適切な酵素をコードする遺伝子によって形質転換されることにより、特定の化学成分を生成する能力を得ている場合もある。特定の化学成分の天然の生産者はまた、所望の特定の化学成分の生成を増大させるために、および/または所望の特定の化学成分の生産性を妨害し得るか、もしくは本発明によるプロセスにおけるさらなるステップを妨害することになる成分の生成を低下させるために、組換えDNAを使用して、少なくとも1つの適切な酵素をコードする遺伝子によって形質転換される場合もある。
【0031】
DABのN−保護前駆体を発酵により調製するための好ましい微生物は、真核生物起源の場合も、または原核生物起源の場合もある。具体的には、微生物は、動物(ヒトを含む)細胞、植物細胞、細菌、古細菌、酵母、および菌類から選択することができる。より具体的には、微生物は、バチルス属(Bacillus)(具体的にはB.スブチリス(B.subtilis))、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)(具体的にはB.ケトグルタミカム(B.ketoglutamicum))、コリネバクテリア属(corynebacteria)(具体的にはC.グルタミカム(C.glutamicum))、エシェリヒア属(Escherichia)(具体的にはE.コリ(E.coli))、クレブシェラ属(Klebsiella)(具体的にはK.ニューモニア(K.pneumoniae))、ラクトバチリ属(lactobacilli)(具体的にはL.ラクチス(L.lactis))、プロピオンバクテリウム属(propionibacterium)、シュードモナス属(pseudomonas)(具体的にはP.プチダ(P.putida))、ロドコッカス属(Rodococcus)(具体的にはR.エリスロポリス(R.erythropolis))、ストレプトミセス属(Streptomyces)(具体的にはS.セリカラー(S.coelicor)およびS.クラブリゲラス(S.clavuligerus))などの細菌、クリベロミセス属(Kluyveromyces)(具体的にはK.ラクチス(K.lactis))、ペニシリウム属(Penicillium)(具体的にはP.クリソゲナム(P.chrysogenum))、サッカロミセス属(Saccharomyces)(具体的にはS.セルビシエ(S.cerevisiae))、アスペルギルス属(Aspergillus)(具体的にはA.ニガー(A.niger))、ピチア属(Pichia)(具体的にはP.パストリス(P.pastoris))、ハンゼヌラ属(Hansenula)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)(具体的にはS.ポンベ(S.pombe))、ヤロウィア属(Yarowia)(具体的にはY.リポリチカ(Y.lypolytica))などの酵母、タラロミセス属(Talaromyces)などの菌類からなる群から選択することができる。
【0032】
最も好ましい実施形態では、N−保護前駆体の発酵生成は、N−保護前駆体がインビボで形成される微生物の中で行なわれる。本発明によるN−保護前駆体の形成が、任意の適切な炭素源に由来するN−保護前駆体への生体内変換であることが好ましい。
【0033】
この発酵プロセス用の炭素源は、具体的には、一価アルコール、多価アルコール、カルボン酸、二酸化炭素、脂肪酸、グリセリドの群から、前記化合物のいずれかを含む混合物も含めて、選択される少なくとも1つの化合物を含有することができる。適切な一価アルコールにはメタノールおよびエタノールが含まれ、適切な多価アルコールにはグリセロールおよび炭水化物が含まれる。適切な脂肪酸またはグリセリドは、具体的には、食用油、好ましくは植物起源の食用油の形で供給することができる。
【0034】
具体的には、炭水化物は、通常、農産物、好ましくは農業廃棄物質など、生物学的に再生可能な資源から大量に得ることができるので、使用することができる。炭水化物は、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、サッカロース、デンプン、セルロース、およびヘミセルロースの群から選択して使用することが好ましい。グルコース、グルコースを含むオリゴ糖、およびグルコースを含む多糖が特に好ましい。
【0035】
さらに、炭素源として、アミノ酸もしくはその誘導体、グルタメートもしくはその誘導体、および/またはオルニチンもしくはその誘導体を使用することができる。
【0036】
窒素源として、アンモニア、アンモニア塩、尿素、硝酸塩、および亜硝酸塩などの無機窒素含有化合物、またはアミノ酸もしくはその誘導体、より具体的にはグルタメートもしくはその誘導体および/またはオルニチンもしくはその誘導体などの有機窒素含有化合物を使用することができる。
【0037】
本明細書において生体触媒に言及する場合、生体触媒は、生体触媒機能に関連する少なくとも1つの酵素を発現する生物を指す場合も、または生物から得られたかまたは由来した少なくとも1つの酵素を指す場合もある。この生物は真核生物の場合も、または原核生物の場合もある。具体的には、この生物は、動物(ヒトを含む)、植物、細菌、古細菌、酵母、および菌類から選択することができる。
【0038】
一実施形態では、生体触媒は、動物に、具体的にはその一部、例えば肝臓、膵臓、脳、腎臓、心臓、またはその他の器官に由来する。この動物は、具体的には哺乳動物の群から選択し、より具体的には霊長類(primates)(ヒト(Homo sapiens)など)、ウサギ科(Leporidae)、ネズミ科(Muridae)、イノシシ科(Suidae)、およびウシ科(Bovidae)から選択することができる。
【0039】
生体触媒の起源として適切な植物は、具体的には、チャセンシダ属(Asplenium);ウリ科(Cucurbitceae)、具体的にはカボチャ属(Cucurbita)、例えばカボチャ(squash)、またはキュウリ属;メルクリアリス属(Mercurialis)、例えばメルクリアリス・ペレンニス(Mercurialis perennis);ヒドノカルプス属(Hydnocarpus);およびイナゴマメ属(Ceratonia)の群から選択される植物である。
【0040】
生体触媒の起源として適切な細菌は、具体的には、アシネトバクター属(Acinetobacter)、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、バチルス属(Bacillus)、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、クロストリジウム属(Clostridium)、コリネバクテリア属(Corynebacterium)、デイノコッカス属(Deinococcus)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、エルウィニア属(Erwinia)、エシェリキア属(Escherichia)、ゲオバチルス属(Geobacillus)、クレブシェラ属(Klebsiella)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、レジオネラ属(Legionella)、ミコバクテリウム属(Mycobacterium)、ナイセリア属(Neisseria)、ニトロソモナス属(Nitrosomonas)、ノボスフィンゴビウム属(Novosphingobium)、パラコッカス属(Paracoccus)、プロテウス属(Proteus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ラルストニア属(Ralstonia)、ロードバクスター属(Rhodobacter)、ロドシュードモナス属(Rhodopseudomonas)、サルモネラ属(Salmonella)、シゲラ属(Shigella)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ストレプトミセス属(Streptomyces)、サームス属(Thermus)、ビブリオ属(Vibrio)およびザイモモナス属(Zymomonas)の群の中から選択することができる。
【0041】
生体触媒の起源として適切な古細菌は、具体的には、アエロピルム属(Aeropyrum)、アーケオグロブス属(Archaeoglobus)、ハロバクテリウム属(Halobacterium)、メタノバクテリウム属(Methanobacterium)、メタノブレビバクター属(Methanobrevibacter)、メタノカルドコッカス属(Methanocaldococcus)、メタノコックス属(Methanococcus)、メタノピラス属(Methanopyrus)、メタノサルシーナ属(Methanosarcina)、メタノスピリラム属(Methanosphaera)、ピュロバクルム属(Pyrobaculum)、およびサーモプラズマ属(Thermoplasma)の群の中から選択することができる。
【0042】
生体触媒の起源として適切な菌類は、具体的には、アスペルギルス属(Aspergillus)、ニューロスポラ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、リゾプス属(Rhizopus)、およびトリコデルマ属(Trichoderma)の群の中から選択することができる。
【0043】
生体触媒の起源として適切な酵母は、具体的には、カンジダ属(Candida)、シトファギア属(Cytophagia)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、フミコラ属(Humicola)、クリベロミセス属(Kluyveromyces)、ケカビ属(Mucor)、リゾクトニア属(Rhizoctonia)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、およびヤロウィア属(Yarrowia)の群の中から選択することができる。
【0044】
天然に存在する生体触媒(野生型)、または本発明による方法における、適切な活性を有する、天然に存在する生体触媒の変異体を使用できることは、当業者には明らかである。天然に存在する生体触媒の特性は、例えば分子進化または合理的設計など、当業者に知られている生物学的手法によって改善することができる。例えば、当業者には知られている突然変異誘発手法(ランダム突然変異誘発、部位特異的変異誘発、定向進化、遺伝子組換え等)を使用して、生体触媒として働くことができるか、または生体触媒成分(酵素など)を生成させることができる生物のコードするDNAを改変することにより、野生型生体触媒の変異体を作製することができる。具体的には、DNAを改変して、そのDNAが野生型酵素と少なくとも1つのアミノ酸が異なる酵素をコードし、その結果、野生型と比較して1つまたは複数のアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を含む酵素をコードするように、または適切な(宿主)細胞にこのように改変されたDNAを発現させることによって変異体が2つ以上の親酵素の配列を結合するようにできる。後者は、例えば国際公開第2008/000632号パンフレットに記載の方法に基づいて、コドン最適化またはコドンペア最適化など、当業者に知られている方法によって達成することができる。
【0045】
変異体生体触媒は、例えば、基質選択性、活性、安定性、溶媒耐性、pH特性、温度特性、基質特性、阻害感受性、補因子利用、および基質親和性の中の1つまたは複数の点に関して改良された特性を有することができる。特性が改良された変異体は、例えば当業者に知られている方法に基づく適切なハイスループットスクリーニングまたは選択の方法を適用することによって同定することができる。
【0046】
特定の供給源に由来する生体触媒(具体的には酵素)に言及する場合、ドナー生物に起源があるが、実際には(遺伝子改変)宿主生物中で産生される組換え生体触媒(具体的には酵素)は、その最初の生物に由来する生体触媒(具体的には酵素)として含まれることを明確に意味する。
【0047】
本発明の枠内における、任意の生体触媒ステップに対する反応条件は、生体触媒(具体的には酵素)に対する既知の条件、本明細書において開示の情報、および場合によってはいくつかのルーチン実験に基づいて選ぶことができる。
【0048】
使用される反応媒体のpHは、生体触媒がそのpH条件下で活性である限り、広範囲から選ぶことができる。生体触媒および他の要因に応じて、アルカリ性、中性、または酸性の条件を使用することができる。例えば本発明の方法による酵素を発現させるために微生物を使用することがその方法に含まれる場合、pHは、微生物がその意図する機能または複数機能を果たすことができるように選択する。pHは、具体的には中性pH未満の4つのpH単位および中性pHを超える2つのpH単位の範囲内、すなわち25℃の基本的に水性の系の場合にはpH3とpH9との間の範囲から選択することできる。水が唯一の溶媒であるか、または水が主な溶媒(全液体を基準にして>50重量%、具体的には>90重量%)であり、存在し得る微生物が活性を保持する濃度で、例えば少量(全液体を基準にして<50重量%、具体的には<10重量%)のアルコールまたは別の溶媒が溶解(例えば炭素源として)している場合、系は水性であるとみなす。具体的には、酵母および/または菌類を使用する場合、酸性条件が好ましいことがあり、具体的にはそのpHを、25℃における基本的に水性の系に基づいてpH3からpH8の範囲にすることができる。所望される場合には、pHを、酸および/もしくは塩基を用いて調整することも、または酸および塩基を適切に組合せて緩衝することも可能である。
【0049】
インキュベーション条件は、生体触媒が十分な活性および/または増殖を示す限り、広範囲から選ぶことができる。これには好気性条件、微好気性条件、酸素制限条件、および嫌気性条件が含まれる。
【0050】
本明細書においては嫌気性条件は、酸素が全く存在しないか、またはその生体触媒、具体的には微生物によって実質上酸素が消費されない条件と定義され、通常この条件は5mmol/l・時未満、具体的には2.5mmol/l・時未満、または1mmol/l・時未満の酸素消費量に相当する。
【0051】
好気性条件は、媒体中に無制限な増殖にとって十分なレベルの酸素を溶解し、少なくとも10mmol/l・時の、より好ましくは20mmol/l・時を超える、より一層好ましくは50mmol/l・時を超える、最も好ましくは100mmol/l・時を超える酸素消費速度を支えることができる条件である。
【0052】
酸素制限条件は、酸素消費が気体から液体への酸素移動によって制限される条件と定義される。酸素制限条件の下限値は、嫌気性条件の上限値、すなわち通常は少なくとも1mmol/l・時、具体的には少なくとも2.5mmol/l・時、または少なくとも5mmol/l・時によって決まる。酸素制限条件の上限値は、好気性条件の下限値、すなわち100mmol/l・時未満、50mmol/l・時未満、20mmol/l・時未満、または10mmol/l・時未満によって決まる。
【0053】
条件が好気性であるか、嫌気性であるか、または酸素制限であるかは、その方法を実施する条件、具体的には流入する気体流の量および組成、使用する設備の実際の混合/物質移動特性、使用する微生物の種類、および微生物密度に依存している。
【0054】
使用する温度は、生体触媒、具体的には酵素が実質的に活性を示す限り重要ではない。一般に、温度は少なくとも0℃、具体的には少なくとも15℃、より具体的には少なくとも20℃とすることができる。望ましい最高温度は、生体触媒に依存する。一般に、そのような最高温度は当該技術分野で知られており、例えば市販の生体触媒の場合は製品データシートに示されているか、または普通の一般知識および本明細書中で開示する情報に基づいてルーチン的に決めることができる。温度は、通常90℃以下、好ましくは70℃以下、具体的には50℃以下、またはより具体的には40℃以下である。
【0055】
具体的には、生体触媒反応が宿主生物の外側で行われる場合、その媒体中で十分な活性を保持する酵素が使用される場合には有機溶媒を含む反応媒体を、高濃度(例えば50重量%を超える、または90重量%を超える)で使用することができる。
【0056】
好ましい実施形態では、本発明は、DABのN−保護前駆体としてN
5−保護オルニチンを生成させる生体触媒プロセスに関する。例えば、N
5−アセチルオルニチンの調製は、次の酵素触媒反応の1つまたは複数を含むことができる。
1)グルタメートからN−アセチル−グルタメート
2)N−アセチル−グルタメートからN−アセチル−グルタメート5−ホスフェート
3)N−アセチル−グルタメート5−ホスフェートからN−アセチル−グルタメートセミアルデヒド
4)N−アセチル−グルタメートセミアルデヒドからN
2−アセチル−オルニチン
5)N
2−アセチル−オルニチンからN
5−アセチル−オルニチン
【0057】
反応1)は、アシルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1)の群から、好ましくはアミノ酸N−アセチルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.1)の群から選択される酵素によって触媒することができる。この酵素はアセチル基ドナーとしてのアセチルCoAに、アセチル基アクセプターとしてのグルタメートに特異的であることが好ましい。アミノ酸N−アセチルトランスフェラーゼは原核生物由来でも、または真核生物由来でもよい。反応1)を触媒することができる代表的なタンパク質を、Uniprotデータベース中のその受託番号およびその(微)生物源と共に表1に示す。
【0058】
反応2)は、アセチル−グルタメートキナーゼ(EC 2.7.2.8)の群から選択される酵素によって触媒することができる。この酵素は補因子としてATPを使用することができる。アセチル−グルタメートキナーゼは原核生物由来でも、または真核生物由来でもよい。反応2)を触媒することができる代表的なタンパク質を、Uniprot中のその受託番号およびその(微)生物源と共に表1に示す。
【0059】
反応3)は、オキシドレダクターゼ(EC 1.2.1)の群から、好ましくはN−アセチル−γ−グルタミル−ホスフェートレダクターゼ(EC 1.2.1.38)の群から選択される酵素によって触媒することができる。この酵素は補因子としてNADHまたはNADPHを使用することができる。N−アセチル−γ−グルタミル−ホスフェートレダクターゼは原核生物由来でも、または真核生物由来でもよい。反応3)を触媒することができる代表的なタンパク質を、Uniprot中のその受託番号およびその(微)生物源と共に表1に示す。
【0060】
反応4)は、トランスアミナーゼ(EC 2.6.1)の群から、好ましくはアセチルオルニチントランスアミナーゼ(EC 2.6.1.11)の群から選択される酵素によって触媒することができる。この酵素はアミノ基ドナーとしてグルタメートを使用することができる。アセチルオルニチントランスアミナーゼは原核生物由来でも、または真核生物由来でもよい。反応4)を触媒することができる代表的なタンパク質を、Uniprot中のその受託番号およびその(微)生物源と共に表1に示す。
【0061】
反応5)は、グルタメートN−アセチルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.35)などのN−アシルトランスフェラーゼによって触媒することができる。
【0062】
グルタメートは当技術分野でよく知られているグルタメート生合成反応を介して適切な炭素源から得ることができる。大量のグルタミン酸を蓄積する微生物、例えばコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)を使用することが好ましい。グルタミン酸産生を、例えば遺伝子工学によって改善する方法は、当技術分野でよく知られている(Kimura E.、Adv Biochem Eng Biotechnol.2003;79:37〜57)。
【0063】
代替的に、N
5−アセチルオルニチンの調製は、次の酵素触媒反応の1つまたは複数を含むことができる。
6)グルタメートからN−アセチル−グルタメート
7)N−アセチル−グルタメートおよびオルニチンからN
2−アセチル−オルニチン
8)N
2−アセチル−オルニチンからN
5−アセチル−オルニチン
【0065】
反応6)は、反応1)と同一であり、同型の酵素によって触媒することができる。
【0066】
反応7)は、アシルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1)の群から、好ましくはグルタメートN−アセチルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.35)から選択される酵素によって触媒することができる。この酵素がアセチル基アクセプターとしてオルニチンを使用し、それによって、反応生成物としてグルタメートおよびN−アセチル−オルニチンを生成することが好ましい。グルタメートN−アセチルトランスフェラーゼは、N−アセチル−グルタメートに対して加水分解活性を有し、加水分解生成物としてグルタメートおよびアセテートを生成する可能性がある。使用する酵素は検出可能な加水分解活性を有しないことが好ましい。代替的に、加水分解活性が野生型酵素と比較して実質的に低下するように野生型酵素を改変することができる。グルタメートN−アセチルトランスフェラーゼは、原核生物由来でも、または真核生物由来でもよい。反応7)を触媒することができる代表的なタンパク質を、Uniprot中のその受託番号およびその(微)生物源と共に表1に示す。
【0067】
反応8)は反応5と同一であり、同じ酵素によって触媒することができる。
【0068】
さらに好ましい実施形態では、本発明は、N−保護DABがN
5−保護オルニチンから生成される生体触媒プロセスに関する。一般に、適切なデカルボキシラーゼは、N
5−保護オルニチンのN−保護DABへの変換を触媒することができるN
5−保護オルニチンデカルボキシラーゼ活性を有する。
【0069】
N
5−保護オルニチンを脱炭酸できる酵素は、具体的には、デカルボキシラーゼ(EC.4.1.1)の群から、好ましくはオルニチンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.17)、ジアミノピメレートデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.20)、分岐鎖α−ケト酸デカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.72)、α−ケトイソバレレートデカルボキシラーゼ、α−ケトグルタレートデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.71)の群から選択することができる。
【0070】
1つまたは複数の他の適切なデカルボキシラーゼは、オキサレートデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.2)、アセトアセテートデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.4)、バリンデカルボキシラーゼ/ロイシンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.14)、アスパルテート1−デカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.11)、3−ヒドロキシグルタメートデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.16)、リジンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.18)、アルギニンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.19)、2−オキソグルタレートデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.71)、およびジアミノブチレートデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.86)の群の中から選択することができる。
【0071】
デカルボキシラーゼは、具体的には、カボチャ;キュウリ;酵母;菌類、例えば、カンジダ・フラレリ(Candida flareri)、ハンゼヌラ種(Hansenula sp.)、クリベロミセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、ニューロスポア・クラッサ(Neurospora crassa)、リゾプス・ジャバニクス(Rhizopus javanicus)、およびサッカロミセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae);哺乳類、具体的には哺乳類脳由来;およびバチルス・カダベリス(Bacillus cadaveris)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、シュードモナス種(Pseudomonas sp.)、およびザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)などの細菌の群から選択される生物のデカルボキシラーゼとすることができる。
【0072】
さらに好ましい実施形態では、本発明は、N−保護DABがN−保護4−アミノブチルアルデヒドを介して生成される生体触媒プロセスに関する。例えば、N−アセチル−DABの調製は、次の酵素触媒反応の1つまたは複数を含むことができる。
9)グルタメートから4−アミノブチレート
10)4−アミノブチレートからN−アセチル−4−アミノブチレート
11)N−アセチル−4−アミノブチレートからN−アセチル−4−アミノブチルアルデヒド
12)N−アセチル−4−アミノブチルアルデヒドからN−アセチル−DAB
【0073】
反応9)は、デカルボキシラーゼ(EC 4.1.1)の群から、好ましくはグルタメートデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.15)の群から選択される酵素によって触媒することができる。グルタメートデカルボキシラーゼは原核生物由来でも、または真核生物由来でも、または古細菌由来でもよい。
【0074】
反応10)は、アシルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1)の群から、好ましくはアミノ酸N―アセチルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.1)、グリシンN−アシルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.13)、アスパルテートN―アセチルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.17)、グルタメートN−アセチルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.35)、D−アミノ酸N−アセチルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.36)、およびジアミンN−アセチルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.57)の群から選択される酵素によって触媒することができる。使用する酵素は、基質である4−アミノブチレートに対して選択的であることが好ましい。野生型酵素は、アミノ基アクセプターとしての4−アミノブチレートに対して低い活性/選択性を有している可能性がある。このような野生型酵素は、4−アミノブチレートに対する活性/選択性が野生型酵素と比較して実質的に高くなるように改変することができる。使用する酵素は、アセチル基ドナーとしてアセチルCoAを使用することができる。代替的に、この酵素は、アセチル基ドナーとしてN−アセチル−グルタメートなどのN−アセチル化アミノ酸を使用することもできる。この酵素は、原核生物由来でも、または真核生物由来でも、または古細菌由来でもよい。
【0075】
代替的に、次の酵素触媒反応によって、N−アセチル−4−アミノブチレートをN−アセチル−4−アミノブチルアルデヒドに変換することができる。
11a)N−アセチル−4−アミノブチレートからN−アセチル−4−アミノブチレートホスフェート
11b)N−アセチル−4−アミノブチレートホスフェートからN−アセチル−4−アミノブチルアルデヒド
【0076】
反応11a)は、ホスホトランスフェラーゼ(EC 2.7.2)の群から、好ましくはアセテートキナーゼ(EC 2.7.2.1)、アスパルテートキナーゼ(EC 2.7.2.4)、ブチレートキナーゼ(EC 2.7.2.7)、アセチルグルタメートキナーゼ(2.7.2.8)、およびグルタメート5−キナーゼ(2.7.2.11)の群から選択される酵素によって触媒することができる。
【0077】
反応11b)は、オキシドレダクターゼ(EC 1.2.1)の群から、好ましくはN−アセチル−γ−グルタミルホスフェートレダクターゼ(EC 1.2.1.38)の群から選択される酵素によって触媒することができる。
【0078】
反応ステップ9)から11)を触媒することができる代表的なタンパク質を、Uniprot中のその受託番号およびその(微)生物源と共に表2に示す。
【0080】
反応12)は、N−保護DABがN−保護4−アミノブチルアルデヒドから生成される生体触媒プロセスに関する。
【0081】
一般に、適切なアミノトランスフェラーゼは、N−保護4−アミノブチルアルデヒドのN−保護DABへの変換を触媒することができるN−保護4−アミノブチルアルデヒドアミノトランスフェラーゼ活性を有する。
【0082】
アミノトランスフェラーゼは、具体的には、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ、ω−アミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1)、クラスIII―アミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1)、4−アミノ−ブチレートアミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1.19)、L―リジン6−アミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1.36)、5−アミノバレレートアミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1.48)、リジン:ピルベート6−アミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1.71)、およびプトレッシン−アミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1.82)の群の中から選択することができる。
【0083】
一実施形態では、アミノトランスフェラーゼは、アラニンアミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1.2)、ロイシンアミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1.6)、アラニン−オキソ酸アミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1.12)、β−アラニン−ピルベートアミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1.18)、(S)−3−アミノ−2−メチルプロピオネートアミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1.22)、L,L−ジアミノピメレートアミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1.83)の群の中から選択することができる。
【0084】
アミノトランスフェラーゼは、具体的には、哺乳類、植物、または微生物に由来するアミノトランスフェラーゼの中から選択することができる。より具体的には、アミノトランスフェラーゼは、アスプレニウム属(Asplenium)、より具体的にはアスプレニウム・ユニラテラーレ(Asplenium unilaterale)またはアスプレニウム・セプテントリオナーレ(Asplenium septentrionale)、バチルス属(Bacillus)、具体的にはバチルス・ウェイヘンステファネンシス(Bacillus weihenstephanensis)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)およびバチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)、セラトニア属、より具体的にはセラトニア・シリクア(Ceratonia siliqua)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、より具体的にはE.カロトボラ(E.carotovora)、エシェリキア属(Escherichia)、より具体的にはE.コリ(E.coli)、レジオネラ属(Legionella)、メルクリアリス属(Mercurialis)、具体的にはメルクリアリス・ペレンニス(Mercurialis perennis)、より具体的にはメルクリアリス・ペレンニス(Mercurialis perennis)の苗条、ナイセリア属(Neisseria)、ニトロソモナス属(Nitrosomonas)、シュードモナス属(Pseudomonas)、具体的にはシュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、ロドバクター属(Rhodobacter)、具体的にはロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、ロドシュードモナス属(Rhodopseudomonas)、サルモネラ属(Salmonella)、より具体的にはS.チフィ(S.typhi)、S.パラチフィ(S.paratyphi)、シゲラ属(Shigella)、より具体的にはSh.ボイディ(Sh.boydii)、Sh.フレクスネリ(Sh.flexneri)、S.ソネイ(S.sonnei)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、具体的にはスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、ビブリオ属(Vibrio)、具体的にはビブリオ・フルビアリス(Vibrio fluvialis)、または酵母、具体的にはサッカロミセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae)に由来することができる。
【0085】
この酵素が哺乳類の酵素である場合、具体的には、哺乳類の腎臓、哺乳類の肝臓、哺乳類の心臓、または哺乳類の脳に由来することができる。例えば、適切な酵素は、哺乳類の肝臓由来の4−アミノ−ブチレートアミノトランスフェラーゼ、具体的にはブタ肝臓由来の4−アミノ−ブチレートアミノトランスフェラーゼ;哺乳類の脳由来の4−アミノブチレートアミノトランスフェラーゼ、具体的にはヒト、ブタ、またはラットの脳由来の4−アミノブチレートアミノトランスフェラーゼ;ビブリオ・フルビアリス(Vibrio fluvailis)のω−アミノトランスフェラーゼ、E.コリ(E.coli)由来の4−アミノ−ブチレートアミノトランスフェラーゼ、およびクロストリジウム属(Clostridium)由来、具体的にはクロストリジウム・アミノワレリクム(Clostridiumu aminovalericum)由来の5−アミノバレレートアミノトランスフェラーゼの群の中から選択することができる。
【0086】
具体的には、アミノドナーは、アンモニア、アンモニウムイオン、アミン、およびアミノ酸の群から選択することができる。適切なアミンは、第一級アミンおよび第二級アミンである。アミノ酸は、D−立体配置であっても、またはL−立体配置であってもよい。アミノドナーの例は、アラニン、グルタメート、イソプロピルアミン、2−アミノブタン、2−アミノヘプタン、フェニルメタンアミン、1−フェニル−1−アミノエタン、グルタミン、チロシン、フェニルアラニン、アスパルテート、α−アミノイソブチラート、β−アラニン、4−アミノブチレート、およびα−アミノアジペートである。
【0087】
さらに好ましい実施形態では、N−保護DABを調製する方法は、ドナーのCH−NH
2基に作用するオキシドレダクターゼ(EC 1.4)の群から、具体的にはアミノ酸デヒドロゲナーゼ(EC.1.4.1)の群から選択される、アンモニア源の存在下における還元的アミノ化反応を触媒することができる酵素の存在下における生体触媒反応を含む。一般には、適切なアミノ酸デヒドロゲナーゼは、N−保護4−アミノブチルアルデヒドのN−保護DABへの変換を触媒する6−アミノカプロン酸6−デヒドロゲナーゼ活性を有する。具体的には、適切なアミノ酸デヒドロゲナーゼは、ジアミノピメレートデヒドロゲナーゼ(EC 1.4.1.16)、リジン6−デヒドロゲナーゼ(EC 1.4.1.18)、グルタメートデヒドロゲナーゼ(EC 1.4.1.3; EC 1.4.1.4)、およびロイシンデヒドロゲナーゼ(EC 1.4.1.9)の群の中から選択することができる。
【0088】
一実施形態では、アミノ酸デヒドロゲナーゼは、NADまたはNADPをアクセプターとして作用するグルタメートデヒドロゲナーゼ(EC 1.4.1.3)、NADPをアクセプターとして作用するグルタメートデヒドロゲナーゼ(EC 1.4.1.4)、ロイシンデヒドロゲナーゼ(EC 1.4.1.9)、ジアミノピメレートデヒドロゲナーゼ(EC 1.4.1.16)、およびリジン6−デヒドロゲナーゼ(EC 1.4.1.18)として分類されるアミノ酸デヒドロゲナーゼの中から選択することができる。
【0089】
アミノ酸デヒドロゲナーゼは、具体的には、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、具体的にはコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum);プロテウス属(Proteus)、具体的にはプロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris);アグロバクテリウム(Agrobacterium)、具体的にはアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens);ゲオバチルス属(Geobacillus)、具体的にはゲオバチルス・ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearothermophilus);アシネトバクター属(Acinetobacter)、具体的には アシネトバクター種ADP1(Acinetobacter sp.ADP1);ラルストニア属(Ralstonia)、具体的にはラルストニア・ソラナセラム(Ralstonia solanacearum);サルモネラ属(Salmonella)、具体的にはサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium);サッカロミセス属(Saccharomyces)、具体的にはサッカロミセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae);ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、具体的にはブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum);およびバチルス属(Bacillus)、具体的にはバチルス・スファエリクス(Bacillus sphaericus)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、またはバチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)の群から選択される生物に由来することができる。例えば、適切なアミノ酸デヒドロゲナーゼは、バチルス属(Bacillus)、具体的にはバチルス・スファエリクス(Bacillus sphaericus)由来のジアミノピメレートデヒドロゲナーゼ;ブレビバクテリウム種(Brevibacterium sp.)由来のジアミノピメレートデヒドロゲナーゼ;コリネバクテリウム属(Corynebacterium)由来のジアミノピメレートデヒドロゲナーゼ、具体的にはコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)由来のジアミノピメレートデヒドロゲナーゼ;プロテウス属(Proteus)由来のジアミノピメレートデヒドロゲナーゼ、具体的にはプロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)由来のジアミノピメレートデヒドロゲナーゼ;アグロバクテリウム属(Agrobacterium)、具体的にはアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)由来のリジン6−デヒドロゲナーゼ、ゲオバチルス属(Geobacillus)、具体的にはゲオバチルス・ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)由来のリジン6−デヒドロゲナーゼ;NADHまたはNADPHを補因子として作用する、アシネトバクター属(Acinetobacter)由来のグルタメートデヒドロゲナーゼ、具体的にはアシネトバクター種ADP1(Acinetobacter sp.ADP1)由来のグルタメートデヒドロゲナーゼ;ラルストニア属(Ralstonia)由来のグルタメートデヒドロゲナーゼ(EC 1.4.1.3)、具体的にはラルストニア・ソラナセラム(Ralstonia solanacearum)由来のグルタメートデヒドロゲナーゼ;NADPHを補因子として作用する、サルモネラ属(Salmonella)由来のグルタメートデヒドロゲナーゼ(EC 1.4.1.4)、具体的にはサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)由来のグルタメートデヒドロゲナーゼ;サッカロミセス属(Saccharomyces)由来のグルタメートデヒドロゲナーゼ(EC 1.4.1.4)、具体的にはサッカロミセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae)由来のグルタメートデヒドロゲナーゼ;ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)由来のグルタメートデヒドロゲナーゼ(EC 1.4.1.4)、具体的にはブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)由来のグルタメートデヒドロゲナーゼ;およびバチルス属(Bacillus)由来のロイシンデヒドロゲナーゼ、具体的にはバチルス・セレウス(Bacillus cereus)またはバチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)由来のロイシンデヒドロゲナーゼの中から選択することができる。
【0090】
生体触媒酵素は、任意の形態で使用することができる。例えば、生体触媒酵素は、―例えば分散液、エマルジョン、溶液の形態、または固定された形態(例えば、支持体、例えば粒状または一体化した担体物質上にロードされた)で、−粗酵素として、市販の酵素として、市販の調製物からさらに精製された酵素として、知られている精製法を組合せてその供給源から得られた酵素として、天然にまたは遺伝子改変を介して加水分解活性を有する細胞全体(場合によっては透過性にしかつ/または固定化した)で、またはそのような活性を有する細胞の溶解物で使用することができる。
【0091】
生体触媒酵素は、任意の生物、具体的には動物、植物、細菌、カビ、酵母、または菌類から得ることまたは引き出すことができる。
【0092】
本発明によるプロセスにおいて、生体触媒活性を有する、天然に存在する(野生型)酵素の変異体も使用することができることは、当業者にとって明らかである。野生型酵素の変異体は、例えば、DNAが野生型酵素とは少なくとも1つのアミノ酸が異なる酵素をコードするように、または野生型に比較して短い酵素をコードするように、当業者に知られている突然変異誘発手法(ランダム突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発、定向進化、遺伝子シャフリングなど)を使用して、野生型酵素をコードするDNAを改変し、適切な(宿主)細胞において、このように改変されたDNAを発現させることによって作製することができる。生体触媒酵素の変異体は、例えば、基質選択性、活性、安定性、溶媒耐性、pH特性、温度特性、基質特性の中の1つまたは複数の点に関して改良された特性を有することができる。
【0093】
特定の供給源に由来する酵素に言及する場合、第1の生物に起源があるが、実際には(遺伝子改変された)第2の生物の中で産生される組換え酵素は、第1の生物に由来する酵素として含まれることを明確に意味する。
【0094】
本発明の方法において1つまたはいくつかの反応ステップを触媒する1つまたは複数の酵素を含む細胞、具体的には組換え細胞は、それ自体当技術分野で知られている分子生物学的手法を使用して構築することができる(Maniatisら 1982「Molecular cloning:a laboratory manual」.Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y.; Miller 1972「Experiments in molecular genetics」、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor; SambrookおよびRussell 2001「Molecular cloning:a laboratory manual」 (第3版)、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press; F.Ausubelら編、「Current protocols in molecular biology」、Green Publishing and Wiley Interscience、New York 1987)。例えば、1つまたは複数の生体触媒を組換え細胞(異種系である場合もある)の中で産生させようとする場合、1つまたは複数の前記生体触媒をコードする1つまたは複数の遺伝子を含むベクター(組換えベクターなど)を用意するために、このような手法を使用することができる。それぞれが1つまたは複数のこのような遺伝子を含む1つまたは複数のベクターを使用することができる。このようなベクターは、1つまたは複数の調節エレメント、例えば生体触媒をコードする遺伝子に作動可能に結合し得る1つまたは複数のプロモーターを含むことができる。
【0095】
本明細書において使用する用語「作動可能に結合した」とは、機能的な関係におけるポリヌクレオチドエレメント(またはコード配列もしくは核酸配列)の結合を指す。核酸配列は、それが別の核酸配列と機能的な関係に配置されている場合、「作動可能に結合して」いる。例えばプロモーターまたはエンハンサーがコード配列の転写に影響を及ぼす場合、それはコード配列と作動可能に結合している。
【0096】
本明細書において使用する用語「プロモーター」とは、遺伝子の転写開始部位の転写の方向に関して上流に位置して1つまたは複数の遺伝子の転写を制御するように機能し、かつDNA依存性RNAポリメラーゼに対する結合部位と、転写開始部位と、これらには限定されないが転写因子結合部位、リプレッサーおよびアクチベータータンパク質結合部位、およびプロモーター由来の転写の量を調節するように直接的または間接的に働くことが当業者に知られている任意の他のヌクレオチド配列を含む任意の他のDNA配列との存在によって構造的に同定される核酸フラグメントを指す。「構成的」プロモーターとは、ほとんどの環境および発生の条件下で活性なプロモーターである。「誘導性」プロモーターとは、環境および発生の調節下で活性なプロモーターである。所与の(組換え)核酸またはポリペプチド分子と所与の宿主生物または宿主細胞との間の関係を示すために使用する場合、用語「同種」とは、自然界ではその核酸またはポリペプチド分子が、同じ種の、好ましくは同じ品種または株の宿主細胞または生物によって産生されることを意味するものと理解される。
【0097】
本明細書において上述したような本発明の方法で使用する酵素、具体的にはアミノトランスフェラーゼ、アミノ酸デヒドロゲナーゼ、またはデカルボキシラーゼをコードする核酸配列の発現を達成するために使用することができるプロモーターは、その発現される酵素をコードする核酸配列にとって本来のものであってもよく、またそれが作動可能に結合している核酸配列(コード配列)にとって異種であってもよい。プロモーターは、その宿主細胞と同種、すなわち内因性であることが好ましい。
【0098】
異種プロモーター(目的酵素をコードする核酸配列にとって)を使用する場合、この異種プロモーターは、そのコード配列にとって本来のものであるプロモーターより、高い定常状態レベルでそのコード配列を含む転写産物を産生することができる(または、単位時間当たり、より多くの転写分子すなわちmRNA分子を産生することができる)ことが好ましい。本発明の枠内で適切なプロモーターには、構成的および誘導性の両方の天然プロモーターならびに人工プロモーターが挙げられ、これらは当業者にはよく知られている。
【0099】
「強力な構成的プロモーター」とは、天然の宿主細胞に比べて、mRNAを高頻度で開始させるプロモーターである。グラム陽性微生物におけるこのような強力な構成的プロモーターの例としては、SP01−26、SP01−15、veg、pyc(ピルベートカルボキシラーゼプロモーター)、およびamyEが挙げられる。
【0100】
グラム陽性微生物における誘導性プロモーターの例としては、IPTG誘導性Pspacプロモーター、キシロース誘導性PxylAプロモーターが挙げられる。
【0101】
グラム陰性微生物における構成的および誘導性プロモーターの例としては、これらに限定されないが、tac、tet、trp−tet、lpp、lac、lpp−lac、laclq、T7、T5、T3、gal、trc、ara(P
BAD)、SP6、λ−P
R、およびλ−P
Lが挙げられる。
【0102】
(糸状の)菌類細胞のプロモーターは当技術分野で知られており、例えばグルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼgpdAプロモーター、pepA、pepB、pepCなどのプロテアーゼプロモーター、グルコアミラーゼglaAプロモーター、アミラーゼamyA、amyBプロモーター、カタラーゼcatRまたはcatAプロモーター、グルコースオキシダーゼgoxCプロモーター、β−ガラクトシダーゼlacAプロモーター、α−グルコシダーゼaglAプロモーター、翻訳伸長因子tefAプロモーター、xlnA、xlnB、xlnC、xlnDなどのキシラナーゼプロモーター、eglA、eglB、cbhAなどのセルラーゼプロモーター、areA、creA、xlnR、pacC、prfTなどの転写調節因子のプロモーター、または別のプロモーターであってもよく、NCBIウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/)で容易に見つけることができる。
【0103】
用語「異種」とは、核酸(DNAまたはRNA)またはタンパク質に関して使用する場合、それが存在する生物、細胞、ゲノム、またはDNAもしくはRNA配列の一部としては天然に存在しない核酸またはタンパク質を指すか、あるいはそれが自然界に見出されるものとは異なる細胞の中に、またはゲノムまたはDNAもしくはRNA配列の中の部位または複数部位の中に見出される核酸またはタンパク質を指す。これら異種の核酸またはタンパク質は、それが導入される細胞にとって内因性のものではないが、別の細胞から得られたか、または合成もしくは組換えにより生成されたものである。必ずしもそうとは限らないが、一般にそのような核酸は、そのDNAが転写または発現される細胞によって通常は産生されないタンパク質をコードする。同様に外因性RNAは、その外因性RNAが存在する細胞中で通常は発現されないタンパク質をコードする。これら異種の核酸およびタンパク質はまた、外来の核酸およびタンパク質と呼ぶこともできる。それを発現させる細胞にとって異種または外来であると当業者が認識する任意の核酸またはタンパク質は、異種の核酸およびタンパク質という用語によって本明細書に包含される。
【0104】
本発明による方法は、新規であり得る宿主生物で行うことができる。
【0105】
したがって本発明はまた、本発明の方法において少なくとも1つの反応ステップを触媒することができる1つまたは複数の酵素を含む宿主細胞に関する。
【0106】
特定の実施形態では、本発明による宿主細胞は、アミノ基転移反応もしくはN−保護グルタメートセミアルデヒドからN
2−保護オルニチンを形成するための還元的アミノ化反応を触媒することができる酵素をコードするか、またはN
5−保護オルニチンからN
2−保護オルニチンを形成するためのN−アシルトランスフェラーゼ反応を触媒することができる酵素をコードするか、またはN−保護4−アミノブチルアルデヒドからN−保護DABを形成するためのアミノトランスフェラーゼ反応を触媒することができる酵素をコードする核酸配列を含む組換え細胞である。前記配列は、ベクターの一部である場合も、または染色体DNAに挿入されている場合もある。
【0107】
[DABのN−保護前駆体の回収]
N−保護前駆体のDABへの変換の前に、N−保護前駆体は生体触媒反応混合物から回収することになる。
【0108】
生体触媒反応混合物からのN−保護前駆体の回収は、生体触媒反応混合物から類似の化学成分を回収するための当技術分野で知られている方法によって行うことができる。具体的には、発酵生産プロセスにおけるこのような回収プロセスは、細胞分離(細胞を除くための濾過、膜分離(MF)、沈降(重力および遠心力など)、結晶化)からなる群から選択される少なくとも1つのステップを含むことができる。経済的に有利な精製には、N−保護前駆体のさらなる濃縮および精製が必要とされることがある。さらなる濃縮については、蒸発および膜分離(RO、NF、およびUF)のような手法を適用することができる。また、(共晶)凍結濃縮のような手法も使用することができる。
【0109】
さらなる単離には、イオン交換(クロマトグラフィー)または結晶化/沈殿のいずれかが必要になるかもしれない。
【0110】
このプロセスでは、必ずしもN−保護前駆体を綿密に精製することはないが、N−保護前駆体は少なくとも、その後のN−保護前駆体のDABへの変換が混入物および生体触媒反応混合物に由来する副産物によって実質的に妨げられことがない程度に精製されるべきである。場合によっては、N−保護前駆体を濃縮してもよい。
【0111】
さらに、N−保護前駆体は、少なくとも1つの次の変換ステップに対して最適化されている媒体に移すことができる。
【0112】
[DABのN−保護前駆体のDABへの変換]
本発明による、N−保護前駆体のDABへの直接的または間接的変換には、少なくとも1つの生体触媒(具体的には酵素)的変換ステップまたは化学的変換ステップを含むことができる。さらに、その変換には生体触媒的変換ステップと化学的変換ステップとの組合せも含むことができる。
【0113】
例えば、生体触媒により生成されたN−保護DABの無保護DABへの変換は、生体触媒的または化学的加水分解プロセスによって行なうことができる。生体触媒プロセスについては、適切な加水分解酵素を使用することができる。本発明の有利な方法では、脱アシル化が生体触媒的に行われる。具体的には、N−Ac−DABの脱アシル化を触媒することができる、より具体的にはN−アセチル−DABの脱アセチルを触媒することができる加水分解酵素を使用することができる。
【0114】
N−アセチル−DABが化学的または生体触媒的加水分解によってDABに変換される場合、一般にDABとアセテートの両方が形成される。DABの回収後、アセテート含有部分をこのプロセスで再使用することが好ましい。発酵プロセスの場合には、発酵プロセスにおいて、微生物を増殖させるための炭素源として、またはN−保護DABもしくはN−保護DABに変換され得る化合物を生成させるための炭素源としてアセテートを再使用することができる。
【0115】
用語「加水分解酵素」は、本明細書においては分類群E.C.3由来の酵素に対して使用される。1つまたは複数の加水分解酵素が、カルボン酸エステルヒドロラーゼ(E.C.3.1.1)、チオールエステルヒドロラーゼ(E.C.3.1.2)、およびペプチダーゼ(E.C.3.4)の群から選択されて使用されることが好ましい。
【0116】
具体的には、ペプチダーゼ(E.C.3.4)を使用することができる。好ましいペプチダーゼは、セリン型カルボキシペプチダーゼ(E.C.3.4.16)、金属カルボキシペプチダーゼ(E.C.3.4.17)、システイン型カルボキシペプチダーゼ(E.C.3.4.18)、セリンエンドペプチダーゼ(E.C.3.4.21)、システインエンドペプチダーゼ(E.C.3.4.22)、アスパラギン酸エンドペプチダーゼ(E.C.3.4.23)、および金属エンドペプチダーゼ(E.C.3.4.24)の群から、具体的にはセリンエンドペプチダーゼ(E.C.3.4.21)から選択されるペプチダーゼである。具体的には、セリンエンドペプチダーゼ、好ましくはサブチリシンカールスバーグなどのサブチリシン(E.C.3.4.21.62)を用いて好結果が得られた。
【0117】
加水分解酵素が由来し得る生物の例としては、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)由来などのトリコデルマ種(Trichoderma sp,);リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)由来などのリゾプス種(Rhizopus sp.);バチルス・リケニフォルミス(Baccillus licheniformis)、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・クラウジイ(Bacillus clausii)、バチルス・レンタス(Bacillus lentus)、バチルス・アルカロフィラス(Bacillus alkalophilus)、バチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)由来などのバチルス種(Bacillus sp.);アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)またはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来などのアスペルギルス種(Aspergillus sp.)、カスピトサス・ストレプトミセス(caespitosus Streptomyces)またはストレプトミセス・グリセウス(Streptomyces griseus)由来などのストレプトミセス種(Streptomyces sp.);カンジダ種(Candida sp.);菌類;フミコラ種(Humicola sp.);リゾクトニア種(Rhizoctonia sp.);シトファギア(Cytophagia);ムコール種(Mucor sp.);および動物組織、具体的にはブタ膵臓、ウシ膵臓、またはヒツジ膵臓由来などの膵臓由来が挙げられる。
【0118】
上述のように、好ましい酵素はサブチリシンである。様々なサブチリシンが当技術分野で知られており、例えば米国特許第5,316,935号明細書およびそこに引用の文献を参照されたい。サブチリシンAはノボザイムズ社(Novozymes)が市販するサブチリシンである。具体的には、サブチリシンカールスバーグが好ましい。アルカラーゼ(Alcalase)(登録商標)は、本発明の方法で使用するのに特に適していることがわかっている。この製品はノボザイムズ社(バウスヴェア、デンマーク(Bagsvaerd、Denmark))から入手可能である。アルカラーゼ(登録商標)は安価であり、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)によって産生される、工業的に利用可能なタンパク質分解酵素混合物(主要な酵素成分としてサブチリシンカールスバーグを含有する)である。精製されたサブチリシンによる実験によって、サブチリシンがエステル転移反応、活性化、およびペプチド結合形成を触媒することが確認された。
【0119】
デンマーク国バウスヴェアのノボザイムズ社は、オボザイム(ovozyme)、リカナーゼ(liquanase)、アルカナーゼ(登録商標)、アルカナーゼウルトラ(Alcalase−ultra)(登録商標)(特に、アルカリ性pHで効果的)、デュラミル(duramyl)、エスペラーゼ(esperase)、カンナーゼ(kannase)、サビナーゼ(savinase)、サビナーゼウルトラ(savinase ultra)、ターマミル(termamyl)、ターマミルウルトラ(termamyl ultra)、ノボベート(novobate)、ポラザイム(polarzyme)、ニュートラーゼ(neutrase)、ノボリン(novoline)、ピラーゼ(pyrase)、ノボコル(novocor)(細菌アルカリ性プロテアーゼ)を提供する。
【0120】
プロテイナーゼKは、米国マサチューセッツ州イプスウィッチのニューイングランド・バイオラボ社(New England Biolabs、(Ipswich MA,USA))から入手可能である。
【0121】
米国ノースカロライナ州フランクリントンのノボ・ノルディスク・バイオケム・ノース・アメリカ社(Novo Nordisk Biochem North America Inc(Franklinton NC,USA)は、バチルス種(Bacillus sp.)プロテアーゼ(エスペラーゼ6.0T;サビナーゼ6.0T)、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)プロテアーゼ(ニュートラーゼ1.5MG)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)プロテアーゼ(アルカラーゼ3.0T)を提供する。
【0122】
米国バージニア州トロイのアマノ・インターナショナル・エンザイム社(Amano International Enzyme Co(Troy,Va,USA))は、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)プロテアーゼ(プロレザー;プロテアーゼN(Proleather;Protease N))およびアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)プロテアーゼ(プロザイム6(Prozyme 6))を提供する。
【0123】
この種の適切な酵素としては、例えばリゾプス・ジャポニカス(Rhizopus japonicus)リパーゼ、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のリパーゼAP−6、アルカリゲネス種(Alcaligenes sp.)のリパーゼQL、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)のプロテアーゼB(配列番号19)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)のデルボラーゼ(Delvolase)(配列番号20)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)リパーゼ、エスペラーゼ、アルカラーゼ、アスペルギルス種(Aspergillus species)アシラーゼ、プロザイム(Prpzyme)、プロテアーゼM(Protease M)、プロテアーゼNが挙げられる。加水分解酵素は、エステル結合に作用する加水分解酵素(リパーゼ、エステラーゼ)(EC 3.1)、ペプチド結合に作用するペプチドヒドロラーゼ(ペプチダーゼ、プロテイナーゼ)(EC 3.4)、およびペプチド結合以外のC−N結合に作用する加水分解酵素(EC 3.5)の群から選択されることが好ましい。
【0124】
具体的には、ペプチド結合以外のC−N結合に作用する加水分解酵素は、カルボン酸エステルヒドロラーゼ(EC 3.1.1)および直鎖状アミドに作用するアミダーゼ(EC 3.5.1)の群から、具体的にはアミノアミダーゼの群から、より具体的にはマイコバクテリウム属(Mycobacterium)由来のアミノアミダーゼ、より具体的にはマイコバクテリウム・ネオオーラム(Mycobacterium neoaurum)由来のアミノアミダーゼの群から選択することができる。
【0125】
N−保護DABの化学的加水分解に、類似の反応に対して当技術分野で知られているプロセスを含むことができる。適切な方法には、トリフェニルホスフェートの溶液を塩素で滴定することによりインサイチュー(in situ)で調製された(PhO)
3P・Cl
2試薬による脱アシル化が含まれる。この方法は、Saggiariら(Organic Letters (2004)、6(22)、3885〜3888頁)に概ね記載されている。
【0126】
N
5−保護オルニチンの無保護DABへの変換では、以前に記載のように、最初にN
5−保護オルニチンを特異的に脱炭酸させる処理を行い、N−保護DABを得た後、 N−保護DABを加水分解させて無保護DABを生じさせた。
【0127】
N−保護DABを生じさせるN
5−保護オルニチンの特異的脱炭酸のために、リアーゼ活性を有する酵素などの適切な生体触媒を使用することができる。リアーゼ活性を有する適切な酵素はクラスEC4に属する。より具体的には、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)のオルニチンデカルボキシラーゼ(SpeC)(EC 4.1.1.17)、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)の分枝鎖α−ケト酸デカルボキシラーゼ(KdcA;配列番号8)およびα−ケトイソバレレートデカルボキシラーゼ(KivD;配列番号10)、ならびにエシェリキア・コリ(Escherichia coli)のリジンデカルボキシラーゼ(LysA;配列番号12)によって例示される、カルボキシラーゼ(EC 4.1.1)などの炭素−炭素リアーゼ(EC 4.1)を使用することができる。
【0128】
代替的に、最初に述べたN
5−保護オルニチンの特異的脱炭酸は、類似の化学成分に対して当技術分野で知られている化学変換を用いて行うことができる。この目的のための適切な化学的脱炭酸反応は、高温沸騰したジフェニルメタンなどの溶媒中で、場合によっては触媒量の有機過酸化物の存在下で、化合物を加熱することによって行うことができ、または1等量または複数等量のケトンもしくはアルデヒドと共に化合物を加熱することによって行うことができる。
【0129】
その後のN−保護DABの加水分解は、生体触媒により生成されたN−保護DABに対して上述したように、生体触媒プロセスまたは化学プロセスによって行うことができる。
【0130】
上述の2ステップ変換の代替として、N
5−保護オルニチンからDABを生成させるワンポットプロセスを使用することができる。このプロセスは、類似の化合物に対して当技術分野で知られている方法に従って、最初にN
5−保護オルニチンを脱アシル化し、次いで脱炭酸するか、または最初にN
5−保護オルニチンを脱炭酸し、次いで脱アシル化するかのいずれかによって行うことができる。脱炭酸は上述のように行うことができる。脱アシル化はN−保護DABについての上述の方法によって行うことができる。
【0131】
N−保護4−アミノブチルアルデヒドの無保護DABへの変換は、最初にアルデヒド酸素をアミノ基に特異的に置換してN−保護DABを形成させて、次いで後者を脱保護することによって行うことができる。最初の変換のために、上述のようにトランスフェラーゼ活性(EC 2)を有する酵素などの適切な生体触媒を使用することができる。この特定の目的のための、トランスフェラーゼ活性を有する適切な酵素は、窒素含有基を転移させるトランスフェラーゼ(EC 2.6)、より具体的にはアミノトランスフェラーゼ(トランスアミナーゼ)(EC 2.6.1)、さらに具体的には哺乳類肝臓由来の4−アミノ−ブチレートアミノトランスフェラーゼ、より具体的にはブタ肝臓由来の4−アミノ−ブチレートアミノトランスフェラーゼ;哺乳類脳由来の4−アミノ−ブチレートアミノトランスフェラーゼ、より具体的にはヒト、ブタまたはラットの脳由来の4−アミノブチレートアミノトランスフェラーゼ;ビブリオ・フルビアリス(Vibrio fluvialis)のω−アミノトランスフェラーゼ、E.コリ(E.coli)由来の4−アミノ−ブチレートアミノトランスフェラーゼ、ならびにクロストリジウム属(Clostridium)由来、より具体的にはクロストリジウム・アミノワレリクム(Clostridium aminovalericum)由来の5−アミノバレレートアミノトランスフェラーゼ、例えばシゲラ属(Shigella)またはサルモネラ属(Salmonella)のオルニチントランスアミナーゼ(EC 2.6.1.11)、L−アラニン:3−オキソプロピオネートアミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.2.18)、およびプトレッシンアミノトランスフェラーゼによって例示される。特に適切なアミノトランスフェラーゼとしては例えば、ビブリオ・フルビアリス(Vibrio fluvialis)のω−アミノトランスフェラーゼ(配列番号5)、またはシュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)(gi9946143(配列番号1)もしくはgi9951072(配列番号3))、パラコッカス・デニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)(ZP00628577;配列番号14)、バチルス・ウェイヘンステファネンシス(Bacillus weihenstephanensis)(ZP01186960(配列番号16))のアミノトランスフェラーゼがある。
【0132】
N−保護4−アミノブチルアルデヒドをN−保護DABへ変換するための他の適切な生体触媒は、オキシドレダクターゼ(EC 1)を有する酵素、より具体的にはドナーのCH−NH
2基(EC 1.4)またはCH−NH基(EC 1.5)に作用するオキシドレダクターゼ、ならびにより具体的にはクラスEC 1.4.1、1.4.3(好ましくは1.4.3.4)および1.4.99の酵素である。
【0133】
代替的に、N−保護4−アミノブチルアルデヒドの最初の変換は、類似の化学成分に対して当技術分野で知られている化学変換によって行なうことができる。この目的のために適切な化学反応は、類似の化合物に対して当技術分野で知られている方法に従って、N−保護4−アミノブチルアルデヒドを還元的アミノ化することによって実施することができる(例えば独国特許第4322065号明細書を参照されたい)。適切な方法は、例えば不均一触媒(RaNi、Ni/SiO
2および/もしくはAl
2O
3、Ru/C、Rh/Cなど)または均一触媒(均一Rh触媒など)上でアンモニアおよび水素を使用する反応である。
【0134】
その後のN−保護DABの加水分解は、生体触媒により生成されたN−保護DABについて上述したように、生体触媒プロセスまたは化学プロセスによって行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【
図1】N−Ac−オルニチンのN−Ac−DABへの生物変換の終了時点の試料のTLCを示す図である。1)グルタメートDC;2)アスパルテートDC;3)LysA;4)KdcA;5)KivD;6)Kgd;7)リジンDC;8)ODC LJ110;9)ODC DH5α;10)酵素ブランク;11)化学ブランク;12)N−Ac−オルニチン参照試料;13)N−Ac−DAB参照試料;14)N−Ac−オルニチンおよびN−AcーDAB参照試料。
【0136】
[実施例]
[全般的方法]
[分子および遺伝子の手法]
標準的な遺伝子および分子生物学の手法については、当技術分野で一般に知られており、以前に記載されている(Maniatisら 1982 「Molecular cloning:a laboratory manual」、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y.;Miller 1972 「Experiments in molecular genetics」、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor;Sambrook and Russell 2001 「Molecular cloning: a laboratory manual」(第3版)、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press;F.Ausubelら編 「Current protocols in molecular biology」、Green Publishing and Wiley Interscience、New York 1987)。
【0137】
[プラスミドおよび株]
pBAD/Myc−HisCは、米国カリフォルニア州カールスバードのインビトロジェン社(Invitrogen(Carlsbad, CA, USA))から入手した。国際公開第2005/068643号パンフレットに記載のように構築したプラスミドpBAD/Myc−His−DESTは、タンパク質発現のために使用した。E.コリ(E. coli)TOP10(インビトロジェン社、カールスバード、カリフォルニア州、米国(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA))は、すべてのクローニング手法および標的遺伝子発現のために使用した。
【0138】
[培地]
LB培地(10g/lのトリプトン、5g/lの酵母抽出物、5g/lのNaCl)は、E.コリ(E. coli)の増殖用に使用した。プラスミドを維持するために抗生物質(50μg/mlのカルベニシリン)を補った。pBAD/Myc−His−DEST由来プラスミドにおいて、P
BADプロモーターの制御下で遺伝子発現を誘導するために、L−アラビノースを最終濃度0.2%(W/V)になるように加えた。
【0139】
[M.ネオオーラム(M.neoaurum)のアミノアミダーゼの産生]
アミノアミダーゼは、以下の条件下におけるマイコバクテリウム・ネオオーラム(Mycobacterium neoaurum)株ATCC25795の増殖によって得た。4.8g/lのニトリロ三酢酸(NTA)、4g/lの尿素、6g/lのグルコース、20g/lの酵母カーボンベース(Difco製YCB)、1.55g/lのK
2HPO
4、および0.85g/lのNaH
2PO
4・H
2Oを含有する1lのマイコメド(Mycomed)培地をpH7に調整し、それにマイコバクテリウム・ネオオーラム(Mycobacterium neoaurum)株ATCC25795のグリセロール保存培養物をイノキュレートした。前培養物をニュー・ブランズウィック・サイエンティフィック(New Brunswick Scientific)G53シェーカー(150rpm、振幅4cm)にて、37℃、168時間振とうした。3.45の光学濃度(OD
62Onm)に達したとき、前培養物500mlを使用してマイコメド培地9lにイノキュレートした。マイコメド培地中に存在するNTAによってアミダーゼの発現を誘導した。発酵培養物を0.5〜2l/分の通気速度のもとで375〜750rpmにて撹拌した。H
3PO
4およびNaOHの添加によって、pHを7に一定に保持した。培養温度は37℃とした。44時間の培養後、10g/lのYCBを添加して培養物に栄養を与えた。68時間の培養後、10g/lのグルコースを添加して培養物に栄養を与えた。94時間の培養後、12,000gにて10分間遠心分離して培養物を採取した。細胞ペレットを20mMのHEPES/NaOH緩衝液(pH7)中で洗浄し、次いで保存のために凍結乾燥した。
【0140】
[プラスミドの同定]
相異なる遺伝子を保持するプラスミドを、形質転換細胞の抗生物質に対する抵抗性、形質転換細胞のPCR診断分析またはプラスミドDNAの精製、精製プラスミドDNAの制限酵素分析またはDNA配列分析などの当技術分野で一般に知られている遺伝的、生化学的および/または表現型手段によって同定した。
【0141】
[標的遺伝子のクローニング]
[発現構築物の設計]
ゲートウェイ(Gateway)技術(インビトロジェン社、カールスバード、カリフォルニア州、米国)を使用するクローニングを容易にするために、すべての遺伝子にattB部位を、リボソーム結合部位および開始コドンの上流、ならびに停止コドンの下流に付加した。
【0142】
[遺伝子合成およびプラスミドの構築]
合成遺伝子を、DNA2.0から得て、E.コリ(E.coli)中で発現させるためにDNA2.0の標準的手順に従ってコドンを最適化した。ビブリオ・フルビアリス(Vibrio fluvialis)JS17ω−アミノトランスフェラーゼ[配列番号6]およびバチルス・ウェイヘンステファネンシス(Bacillus weihenstephanensis)KBAB4アミノトランスフェラーゼ(ZP_01186960)[配列番号17]をそれぞれコードするV.フルビアリス(V.fluvialis)JS17[配列番号5]およびB.ウェイヘンステファネンシス(B.weihenstephanensis)KBAB4[配列番号16]由来のアミノトランスフェラーゼ遺伝子をコドン最適化し、その結果として得られた配列[配列番号7]および[配列番号18]をDNA合成によって得た。
【0143】
この遺伝子構築物を、製造業者のプロトコール(www.invitrogen.com)に従い、導入したattB部位およびエントリーベクターとしてpDONR201(インビトロジェン社)を介して、ゲートウェイ技術(インビトロジェン社)によりpBAD/Myc−His−DEST発現ベクターの中にクローン化した。このようにして発現ベクターpBAD−Vfl_ATおよびpBAD−Bwe_ATをそれぞれ得た。化学的にコンピテントなE.コリ(E. coli)TOP10(インビトロジェン社)を、それぞれのpBAD−発現ベクターにより形質転換して、対応する発現株を得た。
【0144】
同様な方法で、配列番号15のアミノ酸配列をコードする、パラコッカス・デニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)由来のアミノトランスフェラーゼ遺伝子[配列番号14]の発現ベクターを作製した。
【0145】
[PCRによるクローニング]
製造業者の仕様書に従ってPCR Supermix High Fidelity(インビトロジェン社)を使用し、表3に載せたプライマーを用いることにより、アミノトランスフェラーゼ遺伝子をゲノムDNAからPCR増幅した。
【0146】
【表3】
【0147】
PCR反応物をアガロースゲル電気泳動により分析し、QIAquick PCR精製キット(キアゲン社、ヒルデン、ドイツ(Qiagen,Hilden,Germany))を用いて適当な大きさのPCR産物をゲルから溶出した。精製PCR産物を、製造業者のプロトコールに記載のように、導入したattB部位およびエントリーベクターとしてpDONR−zeo(インビトロジェン社)を介して、ゲートウェイ技術(インビトロジェン社)によりpBAD/Myc−His−DEST発現ベクターの中にクローン化した。PCRによってクローン化した遺伝子の配列を、DNAシークエンシングにより検証した。このようにして発現ベクターpBAD−Pae_gi9946143_AT、pBAD−Pae_gi9951072_AT、およびpBAD−Pde_AT_ZP00628577を得た。化学的にコンピテントなE.コリ(E.coli)TOP10(インビトロジェン社)をpBAD構築物により形質転換して、対応する発現株を得た。
【0148】
[タンパク質発現用のE.コリ(E. coli)の増殖]
0.02%(w/v)のL−アラビノースを含有する培地940μlの入った96ディープウェルプレート中で小規模増殖を行った。96ウェルスタンプ(キューネル社、ビルスフェルデン、スイス(Kuehner,Birsfelden,Switzerland))によって凍結保存培養物から細胞を移すことにより、イノキュレーションを行った。プレートは、25℃で48時間、旋回シェーカー(300rpm、振幅5cm)上でインキュベートした。通常は、2〜4のOD
620nmが得られた。
【0149】
[細胞溶解物の調製]
[溶菌緩衝液の調製]
溶菌緩衝液は、表4に載せた成分を含有した。
【0150】
【表4】
【0151】
この溶液は、使用直前に新たに調製した。
【0152】
[溶菌による無細胞抽出物の調製]
小規模の増殖(前段落を参照されたい)から得られた細胞を、遠心分離によって集め、上清を廃棄した。遠心分離の間に形成された細胞ペレットを、−20℃で少なくとも16時間冷凍し、次いで氷上で解凍した。新たに調製した溶菌緩衝液500μlを各ウェルに加え、プレートを2〜5分間激しく渦撹拌することによって細胞を再懸濁させた。溶菌を達成するためにプレートを室温で30分間インキュベートした。細胞片を除去するためにプレートを4℃、6000gで20分間遠心分離した。上清を新たなプレートに移し、次に使用するまで氷上で保持した。
【0153】
[超音波処理による無細胞抽出物の調製]
中規模の増殖(前段落を参照されたい)から得られた細胞を、遠心分離によって集め、上清を廃棄した。湿細胞ペレット0.5gにリン酸カリウム緩衝液(pH7)1mlを加え、激しく渦撹拌することによって細胞を再懸濁させた。溶菌を達成するために細胞を20分間超音波処理した。細胞片を除去するために溶解物を4℃、6000gで20分間遠心分離した。上清を新たなチューブに移し、次に使用するまで−20℃で冷凍した。
【0154】
[N−アセチル−4−アミノブチルアルデヒドのN−アセチル−DABへの生物変換]
[スクリーニング条件]
酵素はすべて、最終容積100μlになるように100mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)に懸濁した。酵素反応は、アミンドナー(L−アラニンまたは(S)−αメチルベンジルアミン)および補因子(PLP)を含有する保存溶液150μlを添加することにより開始させた。反応混合物250μl中の最終濃度は、N−アセチル−アミノブタナール(70mM)、アミンドナー(140mM)、PLP(12.5mM)とした。2種類のアミンドナーは別々に実験した。反応混合物を、IKAの旋回シェーカー上にて560rpmで振とうさせながら、28℃で一晩(16.5および16時間)インキュベートした。インキュベーション後、0.2%のギ酸を含む60%稀釈のアセトニトリル750μlを添加してこの反応混合物を停止させ、希釈した。マイクロタイタープレートを3500rpmで20分間遠心分離した。分析はLC−MS分析によって行った(分析ジョブ2009−02−00649を参照されたい)。
【0155】
[分析法:]
合計148の試料をジョブ2009−01−00306に記載の分析法を用いて、LC−MSによって分析した。検出限界;直線範囲:アミンドナーL−アラニンに対して、0μmol/L〜550μmol/L、アミンドナー(S)−αメチルベンジルアミンに対して0μmol/L〜280μmol/L。
【0156】
[N−アセチル−4−アミノブチルアルデヒドのN−アセチル−DABへの生物変換の結果]
合計148のトランスアミナーゼ酵素を、N−アセチル−4−アミノブチルアルデヒドのN−アセチル−DABへの経路に対してスクリーニングした。すべての試料を、この変換に関してLC−MSによって分析した。この変換はN−アセチル−DABの形成に基づいて計算した。アミンドナーとしてL−アラニンを使用した場合に、合計31のアミノトランスフェラーゼでヒット(2%を超える変換)が得られた。さらに、これらのうちの20が、アミンドナーとして(S)−α−メチルベンジルアミンを使用した場合でも陽性であった。これら陽性ヒットのうちの5つを表5に例示する。
【0157】
【表5】
【0158】
[N−アセチル−DABのDABへの生物変換]
[スクリーニング条件]
酵素はすべて、100mMのリン酸カリウム(pH7.5)に最終容積100μlになるように懸濁した。酵素反応は、100mMのリン酸カリウム緩衝液中の13.33mg/mlのN−アセチル−DAB・HCl溶液150μl(最終反応濃度、8mg/ml≒48mMのN−アセチル−DAB)を添加して開始させた。反応混合物を、IKAの旋回シェーカー上にて460rpmで振とうさせながら、37℃で一晩インキュベートした。インキュベーション後、H
2O中の100mMのHClO
4750μl(pH1.0)を添加してこの反応混合物を停止させ、希釈した。マイクロプレートを3500rpmで20分間遠心分離し、以下に記載のようにHPLC−PCR−FL分析を用いてDABについて分析した。
【0159】
[DAB測定のためのHPLC−MS分析法]
[試料調製:]
0.2%のギ酸を含む、アセトニトリルと水との混合物を用いて、試料を希釈した。アセトニトリルの割合は少なくとも50%にしなければならない。
【0160】
【表6】
【0161】
適用条件下で、DABは6.3分に溶出する。
【0162】
[N−アセチル−DABのDABへの生物変換の結果]
試験した酵素の中から、N−アセチル−DABのDABへの生物変換において加水分解活性を示した酵素を選択して表6に載せた。これらの酵素の中のいくつかについては、本特許出願に組み入れられた配列情報によっても特徴付けられる。
【0163】
【表7】
【0164】
[結論]
多くの加水分解酵素が、N−アセチル−DABのDABへの変換のための生体触媒として有用であることが見出された。
【0165】
他のアシル保護基を有するN−保護DAB前駆体は、例えば4−アミノブチルアルデヒドまたはオルニチンのアシル化によって調製することができる。例えば、ギ酸中で無水酢酸によるアシル化によってホルミル保護基を導入すること、またはC2〜C6カルボン酸無水物もしくは塩化アシルの反応によってN−アセチル、N−プロピオニル、N−ブチリル、N−バレリルもしくはN−カプロイル保護基をそれぞれ導入すること。N−ホルミル−DABおよびC3〜C6アシル保護基を有する高級同族体などのN−保護DAB前駆体は、上記の酵素によって同様に変換されることが予想される。
【0166】
[N
5−アセチル−オルニチンのN−アセチル−DABへの生物変換]
[細胞培養および発現]
この生物変換はデカルボキシラーゼを用いて行われた。大部分のデカルボキシラーゼは標準条件下でE.コリ(E.coli)において発現させた。
【0167】
前培養物は、pBAD−DEST_lysA、pBAD−DEST_kdcA、pBAD−DEST_kivD、またはpBAD−DEST_kgdを内包するE.コリ(E.coli)Top10を、グリセロールストックからLB
carb培地5mlにイノキュレーションして作製した。前培養物は、28℃で一晩インキュベートした。各前培養物0.5mlを、LB
carb培地50ml中に希釈した。OD
600が0.6に到達する(平均して3〜4時間後)まで、この培養物を28℃でインキュベートした。タンパク質発現は、最終濃度0.02%までアラビノースを添加することにより誘導した。28℃で一晩のインキュベーション後、細胞を採取した(10分、5000rpm、4℃)。SDS−PAGEによる分析のために、誘導前、誘導3時間後、および一晩の後に、試料1mlを採取した。細胞をペレット化し(5分、13,000rpm)、そのペレットを−20℃で保存した。
【0168】
2つのオルニチンデカルボキシラーゼ、pBAD2_ODC E.コリ(E.coli)DH5α/LJ110を、わずかに異なった条件下で増殖および発現させた。ここで、50μMのIPTGによる誘導前に、OD
620が1.5になるまで本培養物を増殖させた。他のすべての条件は上記と同じとした。
【0169】
[超音波処理によるCFEの調製]
細胞ペレットを氷上で解凍し、2容積の50mMリン酸カリウム(KPi)緩衝液(pH7.5)に再懸濁した。この細胞懸濁液を、10秒間パルスで10分間断続的に超音波処理した。超音波処理後、細胞片を遠心分離(20分、13,200rpm、4℃)によってペレットにした。SDS−PAGE分析を用いて発現レベルを測定し、CFEを−20℃で保存した。
【0170】
【表8】
【0171】
N−Ac−オルニチンのN−Ac−DABへの反応はすべて、37℃で撹拌およびインキュベートした。試料を0、2、18、28、および44時間の時点で採取し、−20℃に保存した。分析のために、各試料500μlをアセトニトリル500μlに加え、最高速度で10分間回転させた。試料をTLC上で分析するために、アンモニア:メタノール(1:1)の溶離液で流し、ニンヒドリンスプレーで染色した。定量分析のために、下記の方法に従って、LC−MS−MSにより試料を測定した。
【0172】
[N−アセチル−DAB測定のためのHPLC−MS分析法]
[試料調製:]
0.2%のギ酸を含む、アセトニトリルと水との混合物を用いて、試料を希釈した。アセトニトリルの割合は少なくとも50%にしなければならない。
【0173】
実験はアプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems)のPE SCIEX API2000 LC−MS/MSで行った。
【0174】
【表9】
【0175】
適用条件下で、N−Ac−DABは4.2分に溶出する。
【0176】
N
5−アセチル−オルニチンのN−アセチル−DABへの生物変換の結果
オルニチンのDABへの変換については、終了時点の試料(44時間)をTLC上で分析した(
図1)。
【0177】
終了時点の試料はすべてLC−MS−MSにより分析した。対照試料のレベルより少なくとも3μmol超の値を示す試料を表8に示す。
【0178】
【表10】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]