(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの燃焼室の上流側にはインテークマニホールドが設けられる。燃焼室には、インテークマニホールドを介して混合気が導入される。そして、インテークマニホールドにはEGRガスやブローバイガスが導入される。したがって、インテークマニホールド内にはEGRガスやブローバイガス中に含まれるオイルや水が溜まってしまう。このようなオイルが大量にエンジンに導入されると、不完全燃焼によりノッキング等が発生してしまう。また、水が大量にエンジンに導入されると、失火の原因ともなり得る。このようなインテークマニホールド内に溜まったオイルや水を適切に排出する技術として、下記に出典を示す特許文献1に関するものがある。
【0003】
特許文献1に記載の吸気通路内蓄積オイルの排出構造は、吸気通路と、吸気絞り弁と、連通管とを備えて構成される。吸気通路は、排気口から排気された空気に所定の処理を施し、吸気口に供給する。吸気絞り弁は、吸気通路内に設けられ、内燃機関による駆動が停止された時に吸気通路を全閉にする。連通管は、吸気通路のオイル溜まり部と吸気絞り弁との間に、吸気通路と並列に設けられ、オイル溜まり部と内燃機関側の吸気絞り弁近傍とを連通する。これにより、吸気通路内に溜まったオイルを負圧により吸い上げて、吸気通路に帰還させている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、吸気通路内の圧力は、エンジンの状態に応じて常に変化している。このため、オイルを吸上げるために必要な負圧が得られない場合には、オイル溜まり部からのオイルの吸い出しを安定して行うことができない可能性がある。したがって、オイル溜り部のオイルを適切に排出できない可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、液溜部のオイルや水を安定して排出することが可能なインテークマニホールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係るインテークマニホールドの特徴構成は、エンジンの燃焼室に
設けられる複数の吸気ポートに空気を導入する導入部と、前記導入部の下側に設けられ、液媒を溜める液溜部と、第1室と第2室と前記第2室側から前記第1室側への流通を規制する差圧弁とを有する差圧タンクと、前記第2室の圧力が前記第1室の圧力よりも高い場合に、前記液溜部に溜まった液媒を当該液溜部から前記第1室に帰還させる帰還通路と、前記第2室の圧力が前記第1室の圧力よりも低い場合に、前記第1室から前記第2室に流通した液媒を
前記導入部を介して前記複数の吸気ポートの夫々に分配する排出通路と、を備える点にある。
【0008】
このような特徴構成とすれば、差圧タンクの第1室と第2室との差圧を利用して吸い出すので、液溜部の液媒を安定して排出することができる。また、比較的安価な差圧弁を用い、差圧弁よりも高価なポンプ等を用いる必要がないので低コストで実現できる。更には、例えば排出通路を導入部と一体的に形成できるので、製造コストも低減できると共に、省スペースで実現できる。
例えば、特定の吸気ポートに導入される燃料と空気との混合比が高くなると(燃料が濃くなると)ノッキングが生じ易くなる。一方、特定の吸気ポートに水分が多く導入されると失火し易くなる。このため、このような構成とすれば、差圧タンクに吸い出した液媒を、各吸気ポートに分配して排出することができるので、特定の吸気ポートに燃料が濃くなったり、水分が多くなったりすることを防止できる。したがって、ノッキングや失火の発生を抑制できる。
【0009】
また、前記差圧タンクが、前記導入部よりも上側に配設されてあると好適である。
【0010】
このような構成とすれば、差圧弁が開弁状態となった場合に、第1室に吸い出された液媒を、第2室を介して導入部にスムーズに流通させることができる。
【0011】
また、前記エンジンが、過給器付きエンジンであると好適である。
【0012】
このような過給器付きエンジンに適用すれば、第1室と第2室との差圧を大きくできるので、液溜部の液媒の吸い出し量を多くすることができる。したがって、効率的に液媒を吸い出すことができる。
【0013】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本発明に係るインテークマニホールド2は、吸気装置100に備えられる。吸気装置100は、エンジンEに空気と排ガスの一部とを適切に混合して供給する機能を備えている。
【0017】
1.エンジンの構成
図1は、吸気装置100を備えるエンジンEが示される。このようなエンジンEは、吸気のタイミングと吸気時間とが吸気制御装置Aにより制御される。また、本実施形態に係るエンジンEは、排気経路と吸気経路との間に排ガスの一部を吸気経路に再循環するEGR(Exhaust Gas Recirculation:排ガス再循環)装置Bを備えている。
【0018】
シリンダヘッド1の一方の側面には、吸気バルブ(図示せず)を介して燃焼室に空気を供給するインテークマニホールド2が連結され、シリンダヘッド1の他方の側面には、排気バルブ(図示せず)を介して燃焼室からの排ガスを送り出すエキゾーストマニホールド3が連結されている。インテークマニホールド2は単一の導入部10からの空気を燃焼室の数に対応する複数のブランチ部2Aを有しており、これと同様に、エキゾーストマニホールド3も複数の燃焼室に対応した複数のブランチ部3Aを有している。
【0019】
EGR装置Bは、エキゾーストマニホールド3から排ガスの一部をインテークマニホールド2に戻す還流通路4を備えて構成される。図示はしないが、還流通路4の中間において排ガスを冷却するEGRクーラや、排ガスの還流量を設定するEGRバルブを備えても良い。また、排ガスに含まれる不要物を濾過するフィルタを備えても良い。
【0020】
このようなEGR装置Bは、排ガスの一部を燃焼室に供給することにより、排ガスの主成分としての水蒸気、窒素、二酸化炭素を含み酸素濃度が低い排ガスを吸気に混入させる構造を有している。この構造から、EGR装置Bは、燃焼温度を低下させ、燃焼速度を低下させる結果、NOxの生成量を減少させる。
【0021】
インテークマニホールド2の上流側には、燃焼室に供給する空気が送られる供給管5が備えられる。また、この供給管5の下流部には、吸気制御装置Aを構成するスロットルArが備えられる。スロットルArは、弁体6が電動モータ7により開閉作動され、エンジンEの燃焼室への吸気量を調整する。電動モータ7は、電圧に対応したバルブ開度を得ることが可能なDCモータが用いられる。電動モータ7は、出力軸の回転位相を検出するためにロータリエンコーダ等で成る回転角センサが備えられる。この回転角センサの検出結果に応じて、電動モータ7はバルブ開度が制御される。
【0022】
エキゾーストマニホールド3には、上述の還流通路4が備えられると共に、図示しない排気浄化装置が備えられる。エンジンEの排ガスのうち、還流通路4に還流されなかった排ガスは、排気浄化装置で浄化された後に大気中に放出される。
【0023】
2.インテークマニホールド
図2は、本発明に係るインテークマニホールド2を模式的に示した斜視図である。インテークマニホールド2は吸気装置100を構成し、上述のように、下流側がシリンダヘッド1の側面に連結固定される。一方、上流側には供給管5及び還流通路4がフンランジ部19で連結固定される。
【0024】
インテークマニホールド2は、
図2(a)に示されるように、導入部10、吸気通路11、液溜部12、差圧タンク13、帰還通路14、排出通路15を備えて構成される。導入部10は、エンジンEの燃焼室に空気を導入する。導入部10は、ブランチ部2Aの上流側に位置し、インテークマニホールド2の内壁で囲まれた所定の容積を有する空間が相当する。
【0025】
吸気通路11は、導入部10へ空気を供給する。吸気通路11は、所定の内径を有する筒状に形成される。吸気通路11の上流側には供給管5が連結固定され、吸気通路11の下流側には導入部10が設けられる。したがって、供給管5を流通してきた空気は、吸気通路11を介して導入部10に供給される。
【0026】
液溜部12は、導入部10の下側に設けられ、液媒を溜める。ここで、インテークマニホールド2には、空気と共に燃料も導入される。この燃料は、エンジンEの構造上、全てが燃焼室に導入されず、インテークマニホールド2内に液体状で残留する。このような液体状の燃料が、上述の液媒に相当する。また、空気に含まれる水分も液媒として液溜部12に溜められる。このような液溜部12は、燃料や水分を重力によって溜めるので、導入部10の下側に設けられる。
【0027】
差圧タンク13は、第1室24と第2室25と当該第2室25側から第1室24側への流通を規制する差圧弁23とを有する。差圧タンク13の内側は差圧弁23により仕切られ、第1室24と第2室25とが形成される。第1室24は差圧弁23よりも上流側の空間であり、第2室25は差圧弁23よりも下流側の空間である。差圧弁23は、第1室24の圧力が第2室25の圧力よりも高い場合に第1室24と第2室25とを連通状態にし、第1室24の圧力が第2室25の圧力よりも低い場合には第1室24と第2室25とを遮断状態にする。このような連通状態と遮断状態とを切り替える第1室24と第2室25との差圧は、差圧弁23が有する付勢部材(図示せず)の弾性力に応じて設定することが可能である。
【0028】
帰還通路14は、第2室25の圧力が第1室24の圧力よりも高い場合に、液溜部12に溜まった液媒を当該液溜部12から第1室24に帰還させる。第2室25の圧力が第1室24の圧力よりも高い場合には、差圧弁23は閉弁状態となり、第1室24と第2室25とは遮断状態となっている。ここで、帰還通路14は、液溜部12の下端と第1室24とを連通して設けられる。係る場合、液溜部12に溜まった液媒は、液溜部12と第1室24との差圧に応じて、帰還通路14を介して第1室24に流通される。この流通は、第1室24の圧力が第2室25の圧力と同程度になるまで継続する。
【0029】
排出通路15は、第2室25の圧力が第1室24の圧力よりも低い場合に、第1室24から第2室25に流通した液媒を導入部10に排出する。第2室25の圧力が第1室24の圧力よりも低い場合には、差圧弁23は開弁状態となり、第1室24と第2室25とは連通状態となっている。これにより、第1室24の液媒は第2室25に流通する。ここで、排出通路15は、第2室25の下端と導入部10とを連通して設けられる。係る場合、第2室25に流通した液媒は、排出通路15を介して導入部10に流通される。ここで、導入部10への流通は、エンジンEの吸気バルブの近傍に行うと好適である。
【0030】
ここで、差圧タンク13は、導入部10よりも上側に配設されてあると好適である。これにより、第1室24と第2室25とが連通状態になった場合に、重力を利用して第1室24から導入部10に液媒をスムーズに流通させることが可能となる。したがって、ポンプ等を用いる必要が無いので、低コストで実現できる。
【0031】
また、上述のように、液溜部12の液媒は、第1室24と第2室25との差圧により第1室24に流通される。ここで、第2室25の圧力は、導入部10の圧力と同様である。一方、第1室24の圧力は、液溜部12に溜まっている液媒により圧力差が保持され、第2室25の圧力と同程度になるまで液溜部12の液媒を吸い出す。したがって、第1室24と導入部10との圧力差が大きい方が、液溜部12から液媒を吸い出すのに効果的である。このため、エンジンEが、過給器付きエンジンであれば好適である。これにより、導入部10の圧力を数十Paとすることができるので、効率良く液溜部12の液媒を第1室24に吸い出すことが可能となる。
【0032】
ここで、
図1及び
図2に示されるように、エンジンEは複数の吸気ポートを備えて構成される。このため、排出通路15が、複数の吸気ポートの夫々に液媒を分配する分配通路であると好適である。このような分配通路が
図2(b)に示される。排出通路15は第2室25からは1つの流路で構成されるが、その後、2つに分離し、更に分離した後2つに分離する。これにより、排出通路15の第2室25端から導入部10までの導入経路長を均等にすることが可能となる。これにより、排出通路15を介して液媒を複数の吸気ポートに均等分配することが可能となる。このため、燃料と空気との混合比をエンジンEのシリンダ毎に一様にすることができると共に、所定のシリンダのみに水分が多く流通することを防止できる。したがって、ノッキングや失火を防止できる。
【0033】
3.液媒の吸い出し
次に、差圧タンク13による液媒の吸い出しについて
図3を用いて説明する。
図3(a)には、差圧タンク13内に液媒がない状態が示される。このような状態において、エンジンEの吸気バルブが開弁されているとする。係る場合、導入部10は負圧となると共に、差圧弁23が開弁状態となる。これにより、第1室24と第2室25とが同圧となり、液溜部12から液媒が第1室24に吸い出されることはない。
【0034】
ここで、エンジンEの吸気バルブが閉弁され、過給器により導入部10が加圧されると、
図3(b)に示されるように、第2室25の圧力が高くなるので差圧弁23が閉弁状態となる。この場合、導入部10の圧力で液溜部12の液面が押圧される。これにより、帰還通路14を介して液溜部12の液媒が第1室24に吸い出される。
【0035】
その後、エンジンEの吸気バルブが開弁されると、
図3(c)に示されるように、第1室24の圧力が第2室25の圧力よりも高くなるので差圧弁23が開弁状態となる。この場合、第1室24の液媒は差圧弁23を介して第2室25に流通し、更に排出通路15を介して吸気ポートに分配される。このように、差圧タンク13の第1室24と第2室25(導入部10)との圧力差を利用して、導入部10の液溜部12に溜まった液媒を吸気ポートに循環させることができる。
【0036】
このように本インテークマニホールド2によれば、差圧タンク13の第1室24と第2室25との差圧を利用して吸い出すので、液溜部12の液媒を安定して排出することができる。したがって、ノッキングや失火を防止しつつ、液溜部12の液媒を低減することが可能となる。また、比較的安価な差圧弁23を用い、差圧弁23よりも高価なポンプ等を用いる必要がないので低コストで実現できる。更には、例えば排出通路15を導入部10と一体的に形成できるので、製造コストも低減できると共に、省スペースで実現できる。
【0037】
4.その他の実施形態
上記実施形態では、エンジンEは、EGR装置Bを備えているとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。EGR装置Bを備えていないエンジンEのインテークマニホールド2に本発明を適用することは当然に可能である。
【0038】
上記実施形態では、差圧タンク13が、導入部10よりも上側に配設されてあるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。差圧タンク13が導入部10よりも上側に無い場合であっても、第1室24と第2室25との差圧により、液溜部12の液媒を第1室24に吸い出し、導入部10の圧力により第2室25から当該導入部10に液媒を導入することは当然に可能である。
【0039】
上記実施形態では、エンジンEが、過給器付きエンジンであるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。自然吸気エンジンであっても、例えばトランスミッションのギヤ変更時等において差圧タンク13の第1室24と第2室25とには差圧を形成できる。したがって、過給器を有さないエンジンであっても、本発明を適用することは当然に可能である。
【0040】
上記実施形態では、排出通路15が、複数の吸気ポートの夫々に液媒を分配する分配通路であるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。例えば、エンジンが単気筒で構成される場合には、排出通路15を均等分配しないように構成することは当然であるし、また、エンジンが複数の吸気ポートを有する場合であっても、均等分配しないように排出通路15を構成することも当然に可能である。
【0041】
上記実施形態では、帰還通路14が、液溜部12の下端と第1室24とを連通して設けられるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。帰還通路14を液溜部12の下端以外の位置に設けることも当然に可能である。
【0042】
本発明は、エンジンの燃焼室に混合気を導入するインテークマニホールドに用いることが可能である。