【実施例】
【0036】
次に、本発明に係る温度センサ及びその製造方法について、上記実施形態に基づいて作製した実施例により評価した結果を、
図5から
図13を参照して具体的に説明する。
【0037】
<電極構造に関する耐熱試験評価>
上記実施形態に基づいて作製した実施例について、耐熱試験を行った際の抵抗値変化率及びB定数変化率について調べた。すなわち、作製した実施例の温度センサについて、大気中125℃で1000hの耐熱試験を行い、その試験前後における電気特性変化(抵抗値変化率、B定数変化率)を評価した。なお、比較のためTiNの代わりにCrの接合層を用いた温度センサも比較例として作製し、同様に上記評価を行った。
【0038】
この評価の結果、比較例では、抵抗値変化率が4%未満であったのに対し、本発明の実施例では、抵抗値変化率が2%未満と小さくなった。なお、比較例では、B定数変化率が1%未満であり、本発明の実施例でも、B定数変化率が1%未満であり、変わらなかった。
このように、本発明の実施例は、高温試験での電気特性変化が小さく、酸化が抑制されて高い信頼性が得られていることが分かる。
【0039】
<膜評価用素子の作製>
本発明のサーミスタ材料層(薄膜サーミスタ部3)の評価を行う実施例及び比較例として、
図5に示す膜評価用素子21を次のように作製した。
まず、反応性スパッタ法にて、様々な組成比のTi−Al合金ターゲットを用いて、Si基板Sとなる熱酸化膜付きSiウエハ上に、厚さ500nmの表1に示す様々な組成比で形成された金属窒化物材料の薄膜サーミスタ部3を形成した。その時のスパッタ条件は、到達真空度:5×10
−6Pa、スパッタガス圧:0.1〜1Pa、ターゲット投入電力(出力):100〜500Wで、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において、窒素ガス分率を10〜100%と変えて作製した。
【0040】
次に、上記薄膜サーミスタ部3の上に、スパッタ法でCr膜を20nm形成し、さらにAu膜を200nm形成した。さらに、その上にレジスト液をスピンコーターで塗布した後、110℃で1分30秒プリベークを行い、露光装置で感光後、現像液で不要部分を除去し、150℃で5分のポストベークにてパターニングを行った。その後、不要な電極部分を市販のAuエッチャント及びCrエッチャントによりウェットエッチングを行い、レジスト剥離にて所望の櫛形電極部24aを有するパターン電極24を形成した。そして、これをチップ状にダイシングして、B定数評価及び耐熱性試験用の膜評価用素子21とした。
なお、比較としてTi
xAl
yN
zの組成比が本発明の範囲外であって結晶系が異なる比較例についても同様に作製して評価を行った。
【0041】
<膜の評価>
(1)組成分析
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部3について、X線光電子分光法(XPS)にて元素分析を行った。このXPSでは、Arスパッタにより、最表面から深さ20nmのスパッタ面において、定量分析を実施した。その結果を表1に示す。なお、以下の表中の組成比は「原子%」で示している。
【0042】
なお、上記X線光電子分光法(XPS)は、X線源をMgKα(350W)とし、パスエネルギー:58.5eV、測定間隔:0.125eV、試料面に対する光電子取り出し角:45deg、分析エリアを約800μmφの条件下で定量分析を実施した。なお、定量精度について、N/(Ti+Al+N)の定量精度は±2%、Al/(Ti+Al)の定量精度は±1%ある。
【0043】
(2)比抵抗測定
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部3について、4端子法にて25℃での比抵抗を測定した。その結果を表1に示す。
(3)B定数測定
膜評価用素子21の25℃及び50℃の抵抗値を恒温槽内で測定し、25℃と50℃との抵抗値よりB定数を算出した。その結果を表1に示す。
【0044】
なお、本発明におけるB定数算出方法は、上述したように25℃と50℃とのそれぞれの抵抗値から以下の式によって求めている。
B定数(K)=ln(R25/R50)/(1/T25−1/T50)
R25(Ω):25℃における抵抗値
R50(Ω):50℃における抵抗値
T25(K):298.15K 25℃を絶対温度表示
T50(K):323.15K 50℃を絶対温度表示
【0045】
これらの結果からわかるように、Ti
xAl
yN
zの組成比が
図3に示す3元系の三角図において、点A,B,C,Dで囲まれる領域内、すなわち、「0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1」となる領域内の実施例全てで、抵抗率:100Ωcm以上、B定数:1500K以上のサーミスタ特性が達成されている。
【0046】
上記結果から25℃での抵抗率とB定数との関係を示したグラフを、
図6に示す。また、Al/(Ti+Al)比とB定数との関係を示したグラフを、
図7に示す。これらのグラフから、Al/(Ti+Al)=0.7〜0.95、かつ、N/(Ti+Al+N)=0.4〜0.5の領域で、結晶系が六方晶のウルツ鉱型の単一相であるものは、25℃における比抵抗値が100Ωcm以上、B定数が1500K以上の高抵抗かつ高B定数の領域が実現できている。なお、
図7のデータにおいて、同じAl/(Ti+Al)比に対して、B定数がばらついているのは、結晶中の窒素量が異なるためである。
【0047】
表1に示す比較例3〜12は、Al/(Ti+Al)<0.7の領域であり、結晶系は立方晶のNaCl型となっている。また、比較例12(Al/(Ti+Al)=0.67)では、NaCl型とウルツ鉱型とが共存している。このように、Al/(Ti+Al)<0.7の領域では、25℃における比抵抗値が100Ωcm未満、B定数が1500K未満であり、低抵抗かつ低B定数の領域であった。
【0048】
表1に示す比較例1,2は、N/(Al+Ti+N)が40%に満たない領域であり、金属が窒化不足の結晶状態になっている。この比較例1,2は、NaCl型でも、ウルツ鉱型でもない、非常に結晶性の劣る状態であった。また、これら比較例では、B定数及び抵抗値が共に非常に小さく、金属的振舞いに近いことがわかった。
【0049】
(4)薄膜X線回折(結晶相の同定)
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部3を、視斜角入射X線回折(Grazing Incidence X-ray Diffraction)により、結晶相を同定した。この薄膜X線回折は、微小角X線回折実験であり、管球をCuとし、入射角を1度とすると共に2θ=20〜130度の範囲で測定した。一部のサンプルについては、入射角を0度とし、2θ=20〜100度の範囲で測定した。
【0050】
その結果、Al/(Ti+Al)≧0.7の領域においては、ウルツ鉱型相(六方晶、AlNと同じ相)であり、Al/(Ti+Al)<0.65の領域においては、NaCl型相(立方晶、TiNと同じ相)であった。また、0.65< Al/(Ti+Al)<0.7においては、ウルツ鉱型相とNaCl型相との共存する結晶相であった。
【0051】
このようにTiAlN系においては、高抵抗かつ高B定数の領域は、Al/(Ti+Al)≧0.7のウルツ鉱型相に存在している。なお、本発明の実施例では、不純物相は確認されておらず、ウルツ鉱型の単一相である。
なお、表1に示す比較例1,2は、上述したように結晶相がウルツ鉱型相でもNaCl型相でもなく、本試験においては同定できなかった。また、これらの比較例は、XRDのピーク幅が非常に広いことから、非常に結晶性の劣る材料であった。これは、電気特性により金属的振舞いに近いことから、窒化不足の金属相になっていると考えられる。
【0052】
【表1】
【0053】
次に、本発明の実施例は全てウルツ鉱型相の膜であり、配向性が強いことから、Si基板S上に垂直な方向(膜厚方向)の結晶軸においてa軸配向性が強いか、c軸配向性が強いかであるかについて、XRDを用いて調査した。この際、結晶軸の配向性を調べるために、(100)(a軸配向を示すミラー指数)と(002)(c軸配向を示すミラー指数)とのピーク強度比を測定した。
【0054】
その結果、スパッタガス圧が0.67Pa未満で成膜された実施例は、(100)よりも(002)の強度が非常に強く、a軸配向性よりc軸配向性が強い膜であった。一方、スパッタガス圧が0.67Pa以上で成膜された実施例は、(002)よりも(100)の強度が非常に強く、c軸配向よりa軸配向が強い材料であった。
なお、同じ成膜条件でポリイミドフィルムに成膜しても、同様にウルツ鉱型相の単一相が形成されていることを確認している。また、同じ成膜条件でポリイミドフィルムに成膜しても、配向性は変わらないことを確認している。
【0055】
c軸配向が強い実施例のXRDプロファイルの一例を、
図8に示す。この実施例は、Al/(Ti+Al)=0.84(ウルツ鉱型、六方晶)であり、入射角を1度として測定した。この結果からわかるように、この実施例では、(100)よりも(002)の強度が非常に強くなっている。
また、a軸配向が強い実施例のXRDプロファイルの一例を、
図9に示す。この実施例は、Al/(Ti+Al)=0.83(ウルツ鉱型、六方晶)であり、入射角を1度として測定した。この結果からわかるように、この実施例では、(002)よりも(100)の強度が非常に強くなっている。
【0056】
さらに、この実施例について、入射角を0度として、対称反射測定を実施した。この場合も、やはり(002)よりも(100)の強度が非常に強く、基板面に対して垂直な方向(膜厚方向)に対して、c軸配向よりもa軸配向が強かった。なお、グラフ中(*)は装置由来のピークであり、サンプル本体のピーク、もしくは、不純物相のピークではないことを確認している(なお、対称反射測定において、そのピークが消失していることからも装置由来のピークであることがわかる。)。
【0057】
なお、比較例のXRDプロファイルの一例を、
図10に示す。この比較例は、Al/(Ti+Al)=0.6(NaCl型、立方晶)であり、入射角を1度として測定した。ウルツ鉱型(空間群P6
3mc(No.186))として指数付けできるピークは検出されておらず、NaCl型単独相であることを確認した。
【0058】
次に、ウルツ鉱型材料である本発明の実施例に関して、さらに結晶構造と電気特性との相関を詳細に比較した。
表2及び
図11に示すように、Al/(Ti+Al)比がほぼ同じ比率のものに対し、基板面に垂直方向の配向度の強い結晶軸がc軸である材料(実施例5,7,8,9)とa軸である材料(実施例19,20,21)とがある。
【0059】
これら両者を比較すると、Al/(Ti+Al)比が同じであると、a軸配向が強い材料よりもc軸配向が強い材料の方が、B定数が100K程度大きいことがわかる。また、N量(N/(Ti+Al+N))に着目すると、a軸配向が強い材料よりもc軸配向が強い材料の方が、窒素量がわずかに大きいことがわかる。理想的な化学量論比:N/(Ti+Al+N)=0.5であることから、c軸配向が強い材料のほうが、窒素欠陥量が少なく理想的な材料であることがわかる。
【0060】
【表2】
【0061】
<結晶形態の評価>
次に、薄膜サーミスタ部3の断面における結晶形態を示す一例として、熱酸化膜付きSi基板S上に成膜された実施例(Al/(Ti+Al)=0.84,ウルツ鉱型、六方晶、c軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部3における断面SEM写真を、
図12に示す。また、別の実施例(Al/(Ti+Al)=0.83,ウルツ鉱型六方晶、a軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部3における断面SEM写真を、
図13に示す。
これら実施例のサンプルは、Si基板Sをへき開破断したものを用いている。また、45°の角度で傾斜観察した写真である。
【0062】
これらの写真からわかるように、いずれの実施例も高密度な柱状結晶で形成されている。すなわち、c軸配向が強い実施例及びa軸配向が強い実施例の共に基板面に垂直な方向に柱状の結晶が成長している様子が観測されている。なお、柱状結晶の破断は、Si基板Sをへき開破断した際に生じたものである。
【0063】
<膜の耐熱試験評価>
表3に示す実施例及び比較例において、大気中,125℃,1000hの耐熱試験前後における抵抗値及びB定数を評価した。その結果を表3に示す。なお、比較として従来のTa−Al−N系材料による比較例も同様に評価した。
これらの結果からわかるように、Al濃度及び窒素濃度は異なるものの、Ta−Al−N系である比較例と同じB定数で比較したとき、耐熱試験前後における電気特性変化でみたときの耐熱性は、Ti−Al−N系のほうが優れている。なお、実施例5,8はc軸配向が強い材料であり、実施例21,24はa軸配向が強い材料である。両者を比較すると、c軸配向が強い実施例の方がa軸配向が強い実施例に比べて僅かに耐熱性が向上している。
【0064】
なお、Ta−Al−N系材料では、Taのイオン半径がTiやAlに比べて非常に大きいため、高濃度Al領域でウルツ鉱型相を作製することができない。TaAlN系がウルツ鉱型相でないがゆえ、ウルツ鉱型相のTi−Al−N系の方が、耐熱性が良好であると考えられる。
【0065】
【表3】
【0066】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。