特許第5776982号(P5776982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776982
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】鉄道用テンションバランサ
(51)【国際特許分類】
   B60M 1/26 20060101AFI20150820BHJP
【FI】
   B60M1/26 B
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-56929(P2012-56929)
(22)【出願日】2012年3月14日
(65)【公開番号】特開2013-189091(P2013-189091A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2014年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】原田 崇史
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】森田 寿郎
【審査官】 久保田 創
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第1289904(CN,A)
【文献】 独国特許出願公開第2537663(DE,A1)
【文献】 国際公開第2011/007793(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
架線に張力を与えると共に前記支持体に対して前記架線が張られた方向に動くことが可能な可動部と、
前記可動部に第1の軸によって回転自在な状態で取り付けられた第1のリンクアームと、
前記第1の軸と異なる部分において、前記第1のリンクアームに第2の軸によって回転自在な状態で取り付けられ、且つ、前記第2の軸と異なる部分で前記支持体に第3の軸によって回転自在な状態で取り付けられた第2のリンクアームと、
前記第2のリンクアームに力を加え、前記可動部が前記第3の軸に近づく方向に、前記第2のリンクアームを前記第3の軸を支点として回転させる手段と
を備え、
前記回転させる手段は、前記支持体に対して回転が可能であり、ばね定数kのばねの力により、前記第2のリンクアームに力を加える手段であり、
前記ばね定数kは、前記架線に与える張力T、前記第2の軸と前記第3の軸との間の距離l、前記第2のリンクアームの前記回転させる手段からの力が加わる位置と前記第3の軸との間の距離p、および前記第3の軸と前記回転させる手段の前記回転の中心との間の距離hによって決められていることを特徴とする鉄道用テンションバランサ。
【請求項2】
前記ばね定数kは、前記Tおよび前記lに比例し、前記pおよび前記hに反比例することを特徴とする請求項1に記載の鉄道用テンションバランサ。
【請求項3】
前記ばね定数kは、(2Tl/ph)で表されることを特徴とする請求項2に記載の鉄道用テンションバランサ。
【請求項4】
前記ばねがコイルばねまたは流体を用いたばねであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の鉄道用テンションバランサ。
【請求項5】
前記回転させる手段が、
前記第2のリンクアームに軸を介して結合した可動ロッドと、
前記可動ロッドをその軸方向に揺動可能な状態で保持すると共に前記支持体に対して回転可能な状態で前記支持体に取り付けられた揺動スライダと、
前記可動ロッドを可動させる前記ばね定数kのばねと
を備え、
前記ばねから生じる力により、前記可動ロッドを介して前記第2のリンクアームを回転させる力が生じることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の鉄道用テンションバランサ。
【請求項6】
前記第2のリンクアームは、長辺と短辺から構成されるL字形状を有し、
前記長辺と短辺が交差する部分に前記第3の軸が位置し、
前記長辺の前記第3の軸が位置した部分から離れた位置に前記第2の軸が位置し、
前記短辺の前記第3の軸が位置した部分から離れた位置に前記可動ロッドが第4の軸を介して回転自在な状態で結合していることを特徴とする請求項5に記載の鉄道用テンションバランサ。
【請求項7】
前記第1のリンクアームと前記第2のリンクアームは、等長リンクであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の鉄道用テンションバランサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道用の架線に張力を与える鉄道用テンションバランサに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道用の架線に張力を与える装置として、鉄道用テンションバランサが知られている。例えば、特許文献1には、ガスばね式のものが記載され、特許文献2には、滑車式のものが記載され、特許文献3には、コイルばね式のものが記載されている。また、特許文献4には、アームの先端で重量物を吊り下げる構造において、アームの角度によらず同じ力で対象物を吊り上げる自重補償機構が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−016068号公報
【特許文献2】特開昭和59−213528号公報
【特許文献3】特開平09−207629号公報
【特許文献4】WO2011/007793A1号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄道用の架線は、気温により伸縮し、また車両のパンタグラフが接触した際に上下する。これらの際、鉄道用テンションバランサの可動部が動き、架線の動きが吸収される。ここで、ガスばね式やコイルばね式のものは、可動部が動くと架線を引っ張る張力が変化する。この点、滑車式は、一定の張力を架線に与えることができる。しかしながら、滑車式は、錘を支えるワイヤが破断した際に張力が作用しなくなり、自身の破損のみならず、架線が垂れ下げる等の2次災害を引き起こす可能性がある。
【0005】
このような背景において、本発明は、可動部が動いても一定の張力で架線を引っ張ることができる鉄道用テンションバランサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、支持体と、架線に張力を与えると共に前記支持体に対して前記架線が張られた方向に動くことが可能な可動部と、前記可動部に第1の軸によって回転自在な状態で取り付けられた第1のリンクアームと、前記第1の軸と異なる部分において、前記第1のリンクアームに第2の軸によって回転自在な状態で取り付けられ、且つ、前記第2の軸と異なる部分で前記支持体に第3の軸によって回転自在な状態で取り付けられた第2のリンクアームと、前記第2のリンクアームに力を加え、前記可動部が前記第3の軸に近づく方向に、前記第2のリンクアームを前記第3の軸を支点として回転させる手段とを備え、前記回転させる手段は、前記支持体に対して回転が可能であり、ばね定数kのばねの力により、前記第2のリンクアームに力を加える手段であり、前記ばね定数kは、前記架線に与える張力T、前記第2の軸と前記第3の軸との間の距離l、前記第2のリンクアームの前記回転させる手段からの力が加わる位置と前記第3の軸との間の距離p、および前記第3の軸と前記回転させる手段の前記回転の中心との間の距離hによって決められていることを特徴とする鉄道用テンションバランサである。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、可動部の位置が変化し、ばねが生成する力が変化しても、リンク機構の作用による可動部への力の伝わり方も同時に変化し、この2つの変化が相殺される。このため、可動部の位置が変化しても可動部が架線を引っ張る張力は変化しない。なお、架線という概念には、送電線、送電線を吊架する(吊り下げる)ための吊架線、これらの線に張力を与えるためにこれらの線に接続されたガイド線のいずれか、あるいはその複数が含まれる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ばね定数kは、前記Tおよび前記lに比例し、前記pおよび前記hに反比例することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記ばね定数kは、(2Tl/ph)で表されることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記ばねがコイルばねまたは流体を用いたばねであることを特徴とする。本発明において、ばねは、コイルばね等の材料の弾性変形を利用したばねに限定されず、その使用範囲内でばね定数kが定義でき、ばねとしての機能を発現する手段であれば、その形式は限定されない。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明において、前記回転させる手段が、前記第2のリンクアームに軸を介して結合した可動ロッドと、前記可動ロッドをその軸方向に揺動可能な状態で保持すると共に前記支持体に対して回転可能な状態で前記支持体に取り付けられた揺動スライダと、前記可動ロッドを可動させる前記ばね定数kのばねとを備え、前記ばねから生じる力により、前記可動ロッドを介して前記第2のリンクアームを回転させる力が生じることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記第2のリンクアームは、長辺と短辺から構成されるL字形状を有し、前記長辺と短辺が交差する部分に前記第3の軸が位置し、前記長辺の前記第3の軸が位置した部分から離れた位置に前記第2の軸が位置し、前記短辺の前記第3の軸が位置した部分から離れた位置に前記可動ロッドが第4の軸を介して回転自在な状態で結合していることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発明において、前記第1のリンクアームと前記第2のリンクアームは、等長リンクであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可動部が動いても一定の張力で架線を引っ張ることができる鉄道用テンションバランサが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態の原理図である。
図2】リンクCDの自由体図(A)と、リンクOCの自由体図(B)である。
図3】実施形態の原理図である。
図4】リンク機構の幾何関係を示す図である。
図5】実施形態の組図である。
図6】変形例の原理図である。
図7】変形例の原理図である。
図8】変形例の原理図である。
図9】変形例の原理図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(基本原理)
図1には、実施形態の原理図が示されている。図1に示す機構は、固定ロッド101を備えている。固定ロッド101は、この機構の支持体を構成する棒状の部材である。固定ロッド101は、略水平に保持され、図における左端の部分がコンクリート柱や鉄柱に固定される。固定ロッド101には、スライダ102がその軸方向に移動可能な状態で取り付けられている。スライダ102の部分に架線が接続され、架線によってスライダ102が図の右の方向に張力Tで引っ張られる。換言すると、架線は、スライダ102の部分によって図の左の方向に張力Tで引っ張られた状態で保持される。
【0017】
スライダ102には、軸103を介して第1のリンクアーム104の一端が回転自在な状態で取り付けられている。第1のリンクアーム104の他端は、軸106を介して第2のリンクアーム105の一端に回転自在な状態で連結されている。第1のリンクアーム104と第2のリンクアーム105は、長さの等しい等長リンクとされている。第2のリンクアーム105の他端は、軸107により、固定ロッド101に回転自在な状態で連結されている。また、軸106と軸107との間の位置において、可動ロッド108の一端が軸109によって第2のリンクアーム105に回転自在な状態で連結されている。
【0018】
可動ロッド108は、揺動スライダ110によって軸方向にスライド可能な状態で保持され、揺動スライダ110は、軸111によって固定ロッド101に回転自在な状態で連結されている。可動ロッド108の端部は、拡径された構造のばねストッパ部108aとされ、そこと揺動スライダ110との間に圧縮ばね112が配置されている。圧縮ばね112は、圧縮されたコイルばねであり、その内側に可動ロッド108が位置する状態で、可動ロッド108に取り付けられている。圧縮ばね112が延びようとする伸長力は、ストッパ部108aと揺動スライダ110との間を押し広げようとする力として作用する。
【0019】
この構造において、第1のリンクアーム104は、軸103を中心として固定ロッド101に対して回転が可能であり、更に第1リンクアーム104は、軸106を中心として、第2のリンクアーム105に対して回転が可能であり、第2のリンクアーム105は、軸107を中心として固定ロッド101に対して回転が可能であり、可動ロッド108は軸109を中心として第2のリンクアーム104に対して回転が可能であり、且つ、軸111を中心として固定ロッド101に対して回転が可能である。なお、明細書中における回転とは、図示する図面の面内での回転(言い換えると、図面に垂直な方向を軸としての回転)を意味している。
【0020】
ここで、軸110の部分を点A、軸109の部分を点B、軸106の部分を点C、軸103の部分を点Dとする。この構造では、圧縮ばね112の伸びよとする伸長力により、点Bが点Aの方向に引かれ、それにより点Cの部分が図の左に方向に移動しようとする。これにより、点Dの部分が左に移動しようとする力が作用し、スライダ102が張力Tで架線を引っ張る力が発生する。
【0021】
ここで、架線の伸縮等が生じると、点Dの位置が図の左右に動くが、後述する原理により、点Dの位置が左右に動いても、張力Tがほぼ一定に保たれる。以下、この原理について説明する。
【0022】
図2(A)は、リンクCDの自由体図であり、図2(B)は、リンクOCの自由体図である。点Dの部分において、スライダ102に加わる張力(つまり、架線を引く張力)をT、スライダ102が固定ロッド101から受ける垂直抗力をNとすると、点Cまわりの力のモーメントのつり合いより、TとNには、OC間およびDC間の距離をlとして、下記数1の関係が成立する。
【0023】
【数1】
【0024】
ここで、点Cまわりの力のモーメントのつり合いより、Nは数2のように表される。
【0025】
【数2】
【0026】
そして、作用反作用の関係により、図2(B)に示すように、T,Nは、リンクOCにおける点Cに伝達される。これより、点Oまわりの力のモーメントτarmは、数3ように導かれる。また、数3から数4が得られる。
【0027】
【数3】
【0028】
【数4】
【0029】
ここで、図1における圧縮ばね112のばね定数をkとすると、圧縮ばね112のばね力による点Oまわりのモーメントτspは、OB間の距離をpとして、数5のように表される。
【0030】
【数5】
【0031】
ここで、三角形OABの幾何関係について考えると、正弦定理より、数6が成り立ち、数6から数7が得られる。
【0032】
【数6】
【0033】
【数7】
【0034】
数7を用いて、数5は数8のように変形される。
【0035】
【数8】
【0036】
ここで、数4と数8を比較し、仮にばね定数kを数9で置き換えると、数10が得られ、τarm=τspとなる。
【0037】
【数9】
【0038】
【数10】
【0039】
これは、図1に示すモデルにおいて、圧縮ばね112のばね定数kに係り、数9に示す関係を満たすように各パラメータを設定することで、θの変化、すなわちスライダ102の位置に係らず、点Oまわりで成り立つモーメントのつり合いの条件が満足されることを意味している。ここで、数9を見ると、Tは、スライダ102の位置に係らず、一定の値となることが分る。つまり、図1に示すモデルにおいて、数9に示す条件を満足するように各パラメータの値の関係を設定することで、スライダ102の位置に係らず、スライダ102から架線に一定の張力Tが与えられる構造が得られる。
【0040】
図1に示すモデルにおいて、数9に示す条件が満足されている場合を考える。この場合、例えば、架線が伸び、スライダ102が図の左方向に移動してもTは変化しない。また、架線が縮み、スライダ102が図の右方向に移動してもTは変化しない。また、何らかの理由により、架線が上下に揺動する等し、スライダ102が図の左右に揺れ動いた場合であっても張力Tの変化が抑えられる。なお、架線が上下に揺れる場合、固定ロッド101が傾くので、上記の条件は完全には成立しないが、それでもTの変動は、通常のコイルばね式やガスばね式の場合に比較して、極めて小さく抑えられる。
【0041】
図1に示すモデルにおいて、スライダ102の位置に係らず、スライダ102から架線に一定の張力を与えることができる理由は、定性的には、概略以下のように説明することができる。まず、圧縮ばね112の伸長力により、点Bが点Aの方向に引っ張られる。この点Bに作用する力は、第1のリンクアーム104と第2のリンクアーム105のリンク機構により、スライダ102を図の左の方向に動かす力となり、張力Tが発生する。
【0042】
次に、スライダ102が図の右の方向に動く場合(例えば、架線が縮んだ場合)を考える。この場合、点Dが図の右の方向に動くので、点Aと点Bの間の距離が大きくなり、圧縮ばね112はより圧縮され、より大きな伸長力を発揮する(現象1)。他方において、この際、θが大きくなり、同時にφが小さくなるので、リンク機構により作用するモーメントは小さくなり、リンクによるスライダ102を図の左の方向に動かそうとする作用は減少する(現象2)。ここで、現象1の圧縮ばね112の伸長力の増大分と、現象2のリンクを介してのスライダ102を図の左方向に動かそうとする作用の減少分が相殺することで、スライダ102が図の右の方向に動いたとしても、Tに変化は生じない。
【0043】
次に、スライダ102が図の左の方向に動く場合(例えば、架線が延びた場合)を考える。この場合、点Aと点Bの間の距離が小さくなり、圧縮ばね112は伸長され、その伸長力は小さくなる(現象1’)。他方において、この際、θが小さくなり、同時にφが大きくなるので、リンク機構によるモーメントは大きくなり、リンクによるスライダ102を図の左の方向に動かそうとする作用は増大する(現象2’)。ここで、現象1’の圧縮ばねの伸長力の減少分と、現象2’のリンクを介してのスライダ102を図の左方向に動かそうとする作用の増大分が相殺することで、スライダ102が図の左の方向に動いたとしても、Tに変化は生じない。
【0044】
この圧縮ばねの伸長力の変化と、リンクを介してのスライダ102を図の左の方向に動かそうとする作用の変化とが相殺される条件がτarm=τspであり、この条件から得られる関係式が数9である。
【0045】
実際には、第1のリンクアーム104等の重量の影響で、点Dの位置の変化による張力Tには、僅かな変化が生じる。しかしながら、その変化は架線を引っ張る張力Tに比較して極めて小さく、実用上は無視することができる。
【0046】
図3は、図1に示す構造において、L字リンクを用いて、点Oまわりの力のモーメントの位相をずらし、ばねの取り付け位置を下部に移動させた例である。この例では、図1におけるリンクOCをL字リンクBOCに置き換えている。また、スライダ102の代わりにローラ202がレール301に対して転がることで、点Dが固定ロッド101上を移動可能とする構造としている。ここで、軸107と軸111は、レール301が固定された図示されない支持構造体に対しての回転を可能とする軸である。つまり、軸107と軸111の位置は、レール301に対して固定されている。なお、特に言及しない図1と同じ符合の部分については、図1と同じである。
【0047】
図3に示す例では、第2のリンクアーム105をL字形状としている。すなわち、第2のリンクアーム105に点Oから点Bの方向に延在した延在部105aを設け、点Bにおいて軸109によって可動ロッド108と連結している。なお、延在部105aを短辺とした場合、点Oと点Cの間が長辺となり、第2のリンクアーム105のL字形状が構成さえる。以下、図3に示す構造の原理を説明する。
【0048】
まず、図3に示す構造における点Oまわりの力のモーメントτspは、数11のように表される。
【0049】
【数11】
ここで、図4に示す△OABの幾何関係について考えると、正弦定理より式12が成り立ち、更に数12より数13が得られる。
【0050】
【数12】
【0051】
【数13】
【0052】
数13より、数11は、数14のように書き直せる。
【0053】
【数14】
ここで、図1のモデルの場合と同様に、数4と数14を比較し、仮にばね定数kを数9で置き換えると、数15が得られ、τarm=τspとなる。
【0054】
【数15】
つまり、この場合も数9に示す関係とすることで、レール301上における軸103の位置に係らず、軸103に加わる張力Tを一定に保つことができる。図3に示す構造は、重量物となる圧縮コイル112を下部に配置することができ、重量バランスがよく、また実際の設置に際して取り扱いが行い易い構造とできる。
【0055】
以上述べたように、図3に示す構造は、支持体の一部を構成するレール310、架線に張力を与えると共にレール301に対して架線が張られた方向に動くことが可能な可動部を構成するローラ202、ローラ202に軸103によって回転自在な状態で取り付けられた第1のリンクアーム104、軸103と異なる部分において、第1のリンクアーム104に軸106によって回転自在な状態で取り付けられ、且つ、軸106と異なる部分でレール301に対して軸107によって回転自在な状態で取り付けられた第2のリンクアーム105、第2のリンクアーム105に力を加え、軸107を支点として、第2のリンクアーム105をローラ202が軸107に近づく方向に回転させる手段を備えている。この回転させる手段は、圧縮ばね112を備え、レール301に対して軸111を中心として回転が可能であり、ばね定数kの圧縮ばね112の力により、第2のリンクアーム105に力を加え、軸107を中心として第2のリンクアーム105を回転させる。
【0056】
また、圧縮ばね112のばね定数kは、架線に与える張力T、軸106と軸107との間の距離l、第2のリンクアーム105の圧縮ばね112からの力が加わる位置(軸109の位置)と軸107との間の距離p、および軸107と圧縮ばね112の回転の中心(軸111の位置)との間の距離hによって決められている。すなわち、圧縮ばね112のばね定数kは、Tおよびlに比例し、pおよびhに反比例する値として決められている。より詳細にいうと、圧縮ばね112のばね定数kは、数9(k=2Tl/ph)で表される。
【0057】
また、軸107を中心として第2のリンクアーム105を回転させる手段は、第2のリンクアーム105に軸109を介して結合した可動ロッド108、可動ロッド108をその軸方向に揺動可能な状態で保持すると共にレール301に対して軸111を中心として回転可能な状態とされた揺動スライダ110、圧縮された状態で可動ロッド108に装着されたばね定数kの圧縮ばね112(軸方向に圧縮されたコイルばね)を備えている。
【0058】
ここで、圧縮ばね112は、揺動スライダ110と可動ロッド108の揺動スライダ110から離れた位置に設けられたストッパ部108aとの間で圧縮されており、圧縮された状態の圧縮ばね112の伸長力により、ストッパ部108aを揺動スライダ110から離す方向の力を発生させる。この力により、第2のリンクアーム105をローラ202が軸107に近づく方向に移動するように回転させる力が生じる。
【0059】
また、第1のリンクアーム104と第2のリンクアーム105は、等長リンクである。また、第2のリンクアーム105は、長辺と符合105aで示される短辺から構成されるL字形状を有し、長辺と短辺が交差する部分に軸107が位置し、長辺の軸107が位置した部分から離れた位置に軸106が位置し、短辺の軸107が位置した部分から離れた位置に可動ロッド108が軸109を介して回転自在な状態で結合している。
【0060】
(具体例)
図5には、図3に示す基本構造を用いた鉄道用テンションバランサの組図が示されている。なお、図1および図3で同じ符号の部分は、図1および図3と同じ機能を有する部材である。
【0061】
この例では、固定ロッド101に対応する部材としてレール401が配置されている。レール401には、その上をスライダ402が図の左右の方向(レール401の延在方向)に移動可能な状態とされている。スライダ402がレール401上を移動する仕組みは、摩擦しながら移動する形態であってもよいし、ローラ等の転がり手段を利用した形態であってもよい。スライダ402には、架線403が取り付けられ、スライダ402が架線403を図の左の方向に引っ張って保持する形態とされている。
【0062】
レール401は、レール支持部材404上に固定され、レール支持部材404は、ボルト405および支柱406によって、筐体407に固定されている。スライダ402には、軸103を介して、第1のリンクアーム104がスライダ402に対して回転自在な状態で結合している。第1のリンクアーム104には、軸106を介して、第2のリンクアーム105が第1のリンクアーム104に対して回転自在な状態で結合している。第2のリンクアーム105は、軸107によって筐体407に回転自在な状態で取り付けられている。また、第2のリンクアーム105は、L字形状を有し、軸107の部分から延在した延在部105aを備え、延在部105aの部分が軸109を介して、可動ロッド108に回転自在な状態で結合している。
【0063】
可動ロッド108には、図示されていない(筐体407の影に隠れている)揺動スライダが装着されている。この図示されていない揺動スライダは、図3の揺動スライダ110に対応する部材であり、可動ロッド108に対して、その軸方向に揺動可能な状態で取り付けられている。この図示しない揺動スライダは、軸111を介して支持体406に回転自在な状態で取り付けられている。
【0064】
なお、第1のリンクアーム104と第2のリンクアーム105は、同じ構造のものが、レール401およびレール支持部材404を挟んだ位置にも配置されている。符合409aは、ペアで配置されている第1のリンクアーム同士を結合する結合部材であり、符合409bは、ペアで配置されている第2のリンクアーム同士を結合する結合部材である。
【0065】
可動ロッド108には、圧縮ばね112が装着され、圧縮ばね112の上端は、軸111に装着された図示しない揺動スライダに接触し、圧縮ばね112の下端は、可動ロッド108の下端に配置されたストッパ部108aに接触している。圧縮ばね112の伸長力により、ストッパ部108aが、図の左下の方向に押され、それにより軸109の部分が同様に図の左下の方向に引かれる。これにより、軸107を中心として第2のリンクアーム105を図の時計回りの方向に回転させようとする力が生じ、スライダ402が図の左方向に動こうとする力、つまり架線403を引っ張る張力Tが生じる。
【0066】
筐体407は、取り付け部408,409を備え、取り付け部408が取り付け部材410によりコンクリート柱411に取り付けられ、取り付け部409が取り付け部材412によりコンクリート柱411に取り付けられる。コンクリート柱411が、架線403を支持する支柱となる。
【0067】
図5に示す鉄道用テンションバランサ400は、図3に示す原理により、スライダ402の位置に係らず、架線403を引く張力Tは変化しない特性を示す。すなわち、架線が伸縮し、スライダ402の位置がレール401で動いても、一定の張力Tで架線を引っ張ることができる。
【0068】
(変形例1)
図6には、図1に示す構造の変形例が示されている。図6に示す構造では、ローラ202がレール301上を転がることで、軸103の部分が図の左右の方向に可動する。動作の原理、および圧縮ばね112のばね定数kを数9に示す関係とすることで、軸103の位置に係らず張力Tが一定となる点は、図1の場合と同じである。
【0069】
(変形例2)
図7には、図1と同様な構造において、液体を介して第2のリンクアーム105に駆動力を与える例である。この例では、ピストンを内蔵したシリンダ301にホース302を介して、シリンダ303内に満たされた液体(例えばオイル)の圧力が加えられる。シリンダ301内のピストンは、可動ロッド108に繋がっており、シリンダ301内から流体が抜かれると、可動ロッド108がシリンダ301の内部に後退し、図1の場合と同様の作用が得られる。
【0070】
シリンダ303には、ピストン304が出入り可能とされ、ピストン304には、圧縮ばね305が装着されている。ピストン304の端部にはストッパ部306が設けられ、ストッパ部306とシリンダ303の間を離そうとする力が圧縮ばね305から作用する。この圧縮ばね305の作用により、シリンダ301内のオイルがシリンダ303側に吸引され、可動ロッド108がシリンダ301の内部に引き込まれる。
【0071】
張力Tが発生する原理、および圧縮ばね115のばね定数kを数9に示す関係とすることで、軸103の位置に係らず張力Tが一定となる点は、図1の場合と同じである。
【0072】
(変形例3)
図8には、図3に示す構造の変形例が示されている。この場合、軸107(点O)の位置が図3の場合と異なっている。また、この例では、軸103の部分をスライダ102で固定ロッド101に対して移動可能としている。動作の原理、および圧縮ばね112のばね定数kを数9に示す関係とすることで、軸103(スライダ102)の位置に係らず張力Tが一定となる点は、図3の場合と同じである。
【0073】
(変形例4)
図9に示す例では、第2のリンクアーム105の中間部分から分岐アーム105aを出し、その先端の部分を軸109(点B)によってスライダ501に回転自在な状態で結合させている。スライダ501は、ロッド502上でスライド可能とされ、ロッド502上におけるスライダ501とロッド502の一端側に設けられたストッパ部503との間に圧縮ばね504が配置されている。ロッド502の他端側は、軸111(点A)を介して、固定ロッド101の他端側から分岐した分岐部101aの先端に回転自在な状態で結合している。
【0074】
この構造では、圧縮ばね504が伸長しようとすると、スライダ501が軸111の方向にロッド502上を動こうとし、これに従って、第2のリンクアーム105が、軸107を中心として時計回りの方向に回転しようとする。その結果、軸107(点O)と軸103(点D)の間隔が狭くなろうとし、張力Tが発生する。動作の原理、および圧縮ばね504のばね定数kを数9に示す関係とすることで、軸103(スライダ102)の位置に係らず張力Tが一定となる点は、図3の場合と同じである。
【0075】
(その他)
コイルばねの代わりに他の形態のばねを用いることも可能である。この場合、例示した圧縮ばねと同様の力が生じるようにばねを配置し、そのばね定数kが数9に示す関係を満足するように各パラメータの設定を行なえばよい。このようなばねの形態としては、空気ばね、さらばね、トーションばね等を挙げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、鉄道用テンションバランサに利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
101…固定ロッド、102…スライダ、103…軸、104…第1のリンクアーム、105…第2のリンクアーム、106…軸、107…軸、108…可動ロッド、108a…ストッパ部、109…軸、110…揺動スライダ、111…軸、112…圧縮ばね、301…レール、400…鉄道用テンションバランサ、401…レール、402…スライダ、403…架線、404…レール支持部材、405…ボルト、406…支柱、407…筐体、408…取り付け部、409…取り付け部、409a…結合部材、409b…結合部材、410…取り付け部材、411…コンクリート柱、412…取り付け部材、501…スライダ、502…ロッド、503…ストッパ部、504…圧縮ばね。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9