特許第5776991号(P5776991)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776991
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】硬化防食鋼板部材の表面仕上げ方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 31/00 20060101AFI20150820BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20150820BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20150820BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20150820BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   B24B31/00 Z
   C23C2/26
   C23C2/06
   C22C38/00 301T
   C22C38/60
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-525196(P2013-525196)
(86)(22)【出願日】2011年6月6日
(65)【公表番号】特表2013-542858(P2013-542858A)
(43)【公表日】2013年11月28日
(86)【国際出願番号】EP2011059272
(87)【国際公開番号】WO2012022510
(87)【国際公開日】20120223
【審査請求日】2014年3月26日
(31)【優先権主張番号】102010037077.0
(32)【優先日】2010年8月19日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506029255
【氏名又は名称】フェストアルピネ シュタール ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】VOESTALPINE STAHL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120352
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126930
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】ロスナー,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ディーゼンライター,グレゴール
(72)【発明者】
【氏名】ルッケネーダー,ゲラルト
(72)【発明者】
【氏名】アウテングルーバー,ロベルト
【審査官】 石田 智樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−526937(JP,A)
【文献】 特開2004−322245(JP,A)
【文献】 特開2003−019654(JP,A)
【文献】 特開2004−190123(JP,A)
【文献】 特開2007−254887(JP,A)
【文献】 特開平06−246548(JP,A)
【文献】 特開平05−285820(JP,A)
【文献】 特開2003−082474(JP,A)
【文献】 特開2009−299095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 31/00 − 31/16
C22C 38/00
C22C 38/60
C23C 2/06
C23C 2/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属皮膜層又は防食皮膜層で被覆された硬化防食鋼板部材の表面仕上げ方法であって、
前記鋼板部材加熱し、さらに、焼入れ急冷
前記焼入れ急冷を行った後にバレル仕上げを行うことで、前記金属皮膜層又は前記防食皮膜層上に存在する酸化物を除去すると共に前記金属皮膜層又は前記防食皮膜層においてナノ多孔性金属表面を形成することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記防食皮膜層は亜鉛系の皮膜層であり、加熱および焼入れ急冷時に前記防食皮膜層内にZnFe相が形成され、前記表面仕上げの実施の際に、前記防食皮膜層上に存在または付着している酸化物が研磨によって除去され、前記防食皮膜層内に存在するZnFe相が磨出されて該層の微孔が露出させられることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化物は研磨除去されるとともにZnFe相が磨出されるが、前記防食皮膜層は実質的に研磨除去されることがないように、前記バレル仕上げの持続時間、前記バレル仕上げの振動振幅、前記バレル仕上げの研磨粒子のうちの一部またはすべてが調整されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記バレル仕上げに際して、バレル仕上げ粒子及び、固体添加物または液体添加物あるいはその両方の添加物が使用され、その際、前記添加物は、摩耗屑を取り込んで排出されるか、または表面仕上げに加えてさらに表面を防食被覆する添加物が存在することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
有機酸、アルコール、界面活性剤、ワックスのいずれか、またそれらを組み合わせたものを含む液体コンパウンドが、前記バレル仕上げ粒子に加えられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記鋼板部材の材料として、以下の重量%組成、つまり
C=0.07〜0.7
Mn=0.2〜2.5
Al=0.005〜0.27
Si=0.1〜1.1
Cr=0.01〜0.8
Ni=0.01〜0.8
Nb=〜0.06
Ti=0.005〜0.1
V=〜0.001
N=〜0.01
B=0.0003〜0.01
P=〜0.05
S=〜0.3
Cu=〜0.1
Mo=0.05〜0.6
残り=Fe+不純物
を有する鋼が使用されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに記載された、硬化防食鋼板部材の表面仕上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板部品に防食皮膜層を付して、鋼板の腐食を防止することは公知である。
【0003】
さらに、卑金属を用いて上述したような防食皮膜層被覆を実施することで、この卑金属がいわゆる陰極防食を形成することも公知である。
【0004】
本願出願人の国際公開公報WO2005/021822号から、陰極防食皮膜層を保護すべく、高温処理時に、陰極防食皮膜層を形成する卑金属中に酸素親和性元素を一定限度付加することで、材料を焼入れ急冷する際の高温処理時に陰極防食皮膜層を保護することは公知である。この種の部品の硬化のためには、当該部品(この場合、鋼である)を母材金属のオーステナイト化温度以上に加熱しなければならない。特に、高硬化性鋼の場合、この温度は800℃以上である。このような温度では、ほとんどの陰極防食皮膜層は蒸発または酸化によって破壊されてしまうため、当該処理された部品は硬化後には陰極防食機能を失ってしまう。酸素親和性元素の添加によって、陰極防食皮膜層から酸素親和性元素が表面に拡散し、そこで非常に薄い保護皮膜を形成することになる。このような非常に薄い保護皮膜は、たとえば、酸化マグネシウムまたは酸化アルミニウムまたはそれらの混合物からなる。この国際特許公開公報WO2005/021822号には、この種の方法をロール成形品に適用することも開示されている。
【0005】
欧州特許公開公報EP1561542号から、部品に形成された皮膜層を取り除く方法が公知である。この皮膜層とは、支持体を損なうことなく支持体から除去される必要のある皮膜層であり、有機バインダーからなる。そのため、表面全体にドライアイス粒子の吹付けが行われ、発生するドライアイス粒子の作用によって、有機バインダーを含んだ皮膜層が材料から取り除かれる。ドライアイス吹付けによる剥離の際には、異物による汚染を回避するとともに、部品の金属母体が損傷しないようにしなければならない。
【0006】
欧州特許公報EP1321625号明細書から、金属皮膜層を除去する方法が公知である。ここでは、皮膜層系は、金属皮膜層と、該金属皮膜層によって被覆された支持体とからなり、その除去処理は吹付け処理である。吹付け処理としてサンドブラスティング処理を用いることができ、その際、金属皮膜層は、支持体に比較してその金属皮膜層の低温脆化を達成するべく、強く冷却される。
【0007】
欧州特許公開公報EP1034890号から、異なった吹付け剤を吹き付ける方法とそのための装置が公知である。ここでは、吹付け剤による吹付け研磨処理が行われ、その際、通常条件時に液体の形で存在する吹付け剤と通常条件時に固体凝塊状態で存在する吹付け剤との間に研磨作用が生ずる。ここでは、第1の吹付け剤たとえばドライアイスと第2の研磨吹付け剤たとえばサンドとからなる混合物が使用される。
【0008】
ドイツ特許公開公報DE19945975号から、皮膜層を支持体から除去するための装置ならびに方法であって、支持体材料を損なわずに軟質の皮膜層の除去にも硬質の皮膜層の除去にも適した装置ならびに方法が公知である。ここでは、皮膜層の脆化をもたらす冷却剤の吹付けによる冷却処理と、それに続く加工ツールによる研磨洗浄作用が実施されるが、その際、冷却処理が実施されることにより、従来の技術による加工ツールよりも硬度の低いツール剤による機械的研磨加工を行うことができる。
【0009】
ドイツ特許公開公報DE19942785号から、加工固着残留物、表面皮膜層または酸化皮膜を取り除くための方法であって、加工固着残留物が存在する箇所のみが洗浄される方法が公知である。ここでは、洗浄は蒸気吹付け、ドライアイス吹付けまたは工学的に誘起された衝撃波による洗浄(いわゆるレーザクリーナー)によって行うことができる。CO洗浄はそれ自体公知のドライアイスペレットを用いて実施することができる。
【0010】
ドイツ特許公報DE10243035号から、加熱および冷却によって金属部品上に形成された皮膜層を除去するための方法ならびに装置が公知である。金属加工物とくに表面が平坦でない金属加工物たとえば自動車用のアクスル部品およびボディー部品の場合、たとえばスケールやケイ酸酸化物およびスラグ皮膜を除去する際に、研磨圧縮ガス吹付けにより固体粒子は必ずしも完全に金属加工物から取り除かれるわけではない。このため、洗浄される金属加工物にドライアイス粒子とともに吹付けられる圧縮ガス流は、予熱され、当該金属加工物周囲の空気の温度および/または当該金属加工物の表面温度よりも高い温度にされる。これによって、一方で、金属加工物は強度に過冷却されることがなく、他方で、圧縮ガスは少なくとも基本的に湿気を保持せず、したがって、望ましくない復水形成が回避されることになる。金属加工物の表面から除去される皮膜層は、高速で衝突し、それによって、研磨作用を発揮するドライアイス粒子の機械的作用によって、およびドライアイス粒子に起因する局所的に限定された表面ならびに皮膜層の冷却によって、表面から剥離される。
【0011】
ドイツ特許公報DE102007022174号から、特に、塗装性に優れた表面を有する硬化された鋼製部品を製造することを目的として、陰極防食皮膜層の暫定的保護のための暫定保護皮膜を生成すると共に該皮膜を除去するための方法が公知である。この方法の際に形成される(国際特許公開公報WO2005/021822号からも公知である)アルミニウムおよび/または酸化マグネシウムからなる非常に薄い保護皮膜層は、亀裂および/または欠陥を有する。これらの亀裂は、亀裂および/または欠陥によって決定される酸化物スケールをドライアイス吹付けによって剥離することを可能にする。こうした吹付けは添加物なしのドライアイスだけで実施され、その際、ドライアイス粒子は亀裂および/または欠陥を通って保護皮膜層下の空洞中に侵入し、800倍にまで体積増加して昇華する。これにより、酸素親和性元素(単数/複数)の酸化物からなる潜在的緩着粒子または剥離される粒子は、場合によりその上に存在する酸化亜鉛粒子と共に盛り上がって、飛散剥離される。極低温のドライアイス粒子による付加的な熱衝撃によって酸素親和性元素(単数/複数)の酸化物からなる皮膜層にさらなる熱応力がもたらされ、これが所望の剥離を促進する。この場合、研磨による剥離は不要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際特許公開公報WO2005/021822号
【特許文献2】欧州特許公開公報EP1561542号
【特許文献3】欧州特許公報EP1321625号
【特許文献4】欧州特許公開公報EP1034890号
【特許文献5】ドイツ特許公開公報DE19945975号
【特許文献6】ドイツ特許公開公報DE19942785号
【特許文献7】ドイツ特許公報DE10243035号
【特許文献8】ドイツ特許公報DE102007022174号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、硬化を目的とした熱処理後の、防食皮膜層被覆された硬化防食鋼板部材に対して表面仕上げを施し、その塗料付着性および溶接性をさらに改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は請求項1記載の特徴を有する方法によって解決される。
【0015】
好適な実施形態は従属請求項に記載したとおりである。
【0016】
本発明は、表面仕上げとして、サンドブラスティング法またはドライアイス吹付け法に代えて、いわゆるバレル仕上げが実施されることによって達成される。バレル仕上げ法は基本的には公知であり、たとえば以下の文献に述べられている:
− 韓国特許公開公報KR1020000059342号(Hankook Tire)
− 国際特許公開公報WO02/055263号(REM Chemicals)
− 国際特許公開公報WO98/15383号(Terschluse)
− 欧州特許公開公報EP0103848号(Heilberger, Heilberger)
− 欧州特許公開公報EP1857224号(Rosler)
− 欧州特許公開公報EP0324394号(Henkel)
− ドイツ特許公開公報DE4404123号(Dreher)
【0017】
バレル仕上げとは、特に金属加工物の表面加工を行うための分離法として知られている。被加工物は、研磨体および、場合によっては添加剤水溶液などと共に容器中に装入される。この容器中で、加工物と研磨体との間の相対運動が生み出され、それによって加工物からの材料剥離が行われる。この相対運動は、特に、作業容器の振動運動または回転運動によって引き起こされる。
【0018】
バレル仕上げはDIN8589に定められており、この規格ではバレル切削と称されている。これは、バレル仕上げは研削処理だけでなく、やり方によっては、ラップ仕上げまたは研磨も行うことができるからである。
【0019】
作業容器としてはスチールドラムおよび縦長の振動トラフも使用されるが、これらの容器は必要に応じ、騒音および摩耗防止のために、プラスチックでライニングされているとよい。研磨剤としては、種々異なった形状を有することができ、1mm〜80mmの研磨体が使用される。研削・研磨鉱物ないし研削・研磨剤の含有量によって、摩損性および摩耗性ならびに、加工物の表面平滑度が決定される。その際、よく用いられる研磨体は、セラミック製、プラスチック製および天然材製である。添加剤は、発生する研磨屑を取り込んで排出するために使用される。さらに、添加剤としては防食および脱脂用の物質も含めることができる。
【0020】
バレル仕上げは、通例、一回の処理分の加工物と研磨体とがバレル仕上げ容器に装入されて、加工終了後に加工物が取り出される非連続的方法である。
【0021】
特に、容器に応じて、さまざまなバレル仕上げ法が用いられる。
【0022】
ドラム式バレル仕上げにおいて、水平または傾斜した容器が容器長手軸を中心にして回転される。ドラムの回転数は加工時間と達成される表面品質とに決定的な影響を及ぼす。ただし、回転数は一定の点までしか引き上げることができない。
【0023】
振動式バレル仕上げにおいて、大型の振動機が装入内容物全体を振動させる。これにより、重量加工物ないし大型加工物の加工も可能となる。重量加工物ないし大型加工物は、ドラム式または遠心式バレル仕上げの場合には、装入混合物中の下部に留まり続けるか、または容器に打ち当たる。このような内容物は水平な螺旋を描いて運動する。マシンのタイプは、単発充填方式のバッジ処理タイプまたは連続方式のスクリュウコンベヤタイプである。
【0024】
浸漬バレル切削仕上げにおいて、個々のまたは複数の加工物がグリッパによって同時に掴まれ、流動する切削剤フロー中に保持される。
【0025】
遠心バレル切削仕上げとして、主として、2つのタイプが考えられる。その際、遊星歯車式遠心切削仕上げにおいては、外周に複数のドラムが取り付けられたローターが存在し、発生する遠心力はそれぞれのドラム内で通常の重力の15倍に達する。これによって、ドラム式バレル仕上げに比較して大幅な加工時間節約がもたらされる。ただし、不安定な加工物ならびに中空の加工物の研磨仕上げは行うことができない。遠心ディスク切削仕上げにおいては、凹形のプラスチック底が回転する、静止中のポット形容器に混合物が装入されている。放射状に配置された底部の弧状のリブが混合物を連れ回し、混合物は容器壁を上昇し、続いて、その後の流れによって内側に向かって押され再び中心に向かって滑り落ちる。この方式の利点は、ドラム式バレル切削仕上げに比較して、作業時間が短縮されることである。
【0026】
いわゆるフローフィニッシャーでは、内部領域にある安定したベルトが加工物と研磨体とを連続的に回転循環する。
【0027】
特に、本発明には縦長の振動トラフが適している。この振動トラフは、研磨仕上げさるべき物品ならびに研磨体の両者が長手方向に沿って振動通過させられ、通過後に分離され、研磨剤が回収され、その加工物が引き続き加工されるように構成される。
以下、図面を参照して本発明を例示的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】未処理の表面の断面を示す図であり、図中、FeZn皮膜層上には厚さ5μmまでの酸化物皮膜層(黒色)が見出される。
図2】10分間のバレル仕上げ処理後の表面の断面を示す図であり、図中、FeZn表面皮膜層は平滑化され、酸化物はほぼ完全に取り除かれている。
図3】亜鉛被膜層の加熱(910℃、4分)後の図1に示した表面の平面図である。
図4】10分間のバレル仕上げ処理後の図3に示した表面を示す図である。
図5図4に示した研磨済み表面の微孔の電子顕微鏡写真である。
図6】種々異なった表面の対比を示す図である。
図7】使用された鋼種の組成を示す表である。
図8】本方法に適した鋼種およびM−%(重量パーセント)による組成表示を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、試験結果を参照しながら本発明を説明する。
【0030】
図7に示した化学的組成を有する調質性鋼が使用された。表面は亜鉛で溶融めっき仕上げされていた。Zn被覆層の厚さは140g/m(両側)であった。寸法200mm×300mm、鋼板厚さ1mmの試料が実験室炉で910℃にて4分間加熱された。試料は2枚のスチール板の間で硬化された。
【0031】
硬化された上記鋼板はそれぞれ100mm×150mmの4枚の試料に分割され、そのうち3枚が2分間、5分間および10分間バレル仕上げ洗浄に付された。1枚は参照標本として留保された。バレル仕上げは直径700mmの水平式遠心ドラム中で行われた。このドラムは、長円形のセラミック製研磨体(15mm×15mm×5mm)ならびに、有機酸、アルコールおよび界面活性剤からなる液体コンパウンドで満たされていた。試料は処理時間の経過後にドラムから取り出され、圧縮空気で乾燥された。
【0032】
加熱処理によって生じたFeZnMn酸化物(図1図3)は表面から取り除かれ、亜鉛フェライト皮膜層が露出され、平滑化された(図2図4)。同時に、研磨ドラム(または研磨トラフ)への液体コンパウンドの適切な添加によって暫定防食皮膜層が被着された。
【0033】
表面には酸化物がほぼ存在しないため、溶接性は卓越している。表面接触抵抗の測定(注意書DVS2929−1に準拠)により、材料の点溶接性をチェックすることができる。バレル仕上げによって洗浄された表面の測定値は約0.2mΩ/mおよびそれ以下であり、他方、未処理の表面は一般におよそ10mΩ/m程度の測定値を有している。このような高い表面接触抵抗によって点溶接は実施不能である。1.5mΩ/m以下の値が理想的である。
【0034】
特別に平滑な表面が塗料および接着剤の良好な付着を保証するわけでないことは理論上から知られている。ところが意外にも、上記皮膜層を有した使用材料においては、顕微鏡レベルで平滑化されたFeZn金属相に、電子顕微鏡で100,000倍に拡大して初めて可視化されるナノ微孔が露出する(図5)。これらの微孔のサイズは10〜100nmである。このようなナノ微孔によって表面積は拡大され、その結果、塗料または接着剤の付着は著しく改善される。
【0035】
その他の洗浄方法との比較
試験材料の加熱後、表面にはFe、ZnおよびMn(鋼中の合金元素)からなる混合酸化物が生じている。これらの酸化物の一部は固着し、一部は緩着している。Al−酸化物はZn浴中に添加されたAl(>1%)に起因する。酸化物層の下には、約25μmの厚さのFeZn拡散皮膜層が存在している(図6)。
【0036】
ドライアイス吹き付け(CO)では、単に、緩着酸化物が表面から除去されるだけである(図6)。さらに別のよく使われている洗浄方法は、ブラストホイール中で加速された鋼ショットを表面に吹き付ける無気吹き付け洗浄である。ただしこれは、酸化物が表面から除去されるのではなく、高速の鋼ショット衝突速度によって酸化物がFeZn拡散皮膜層中に押し込まれるということから、狭義の洗浄方法ではない。その際、吹き付けショットの衝突角度次第ではまだらとなる集塊皮膜層が生ずる。
【0037】
本発明によって使用されるバレル仕上げによれば、加熱時に形成された酸化物は効果的に除去され、その下にある金属が露出する。同時に、表面は平滑化される。露出させられたナノ微孔によって、塗料または接着剤の付着は改善される。表面には酸化物が存在しないため、溶接性が保証される。
【0038】
バレル仕上げに必要な液体コンパウンドの付加機能としての暫定防食皮膜層の被着により、その後の表面オイルスプレーは不要である(オイル噴霧の回避、労働者保護)。
【0039】
実施例
1. 自動車用プレス焼入れ部品(鋼板部材)のバレル仕上げ
Bピラー強化部品(約1200mm×500mm、鋼板厚さ1.8mm)(鋼板部材)がトラフ形振動機によって5分間洗浄された。
【0040】
トラフサイズは約1500mm×800mm、処理時間は5分間であった。長円形研磨体ならびに暫定防食機能を有する液体コンパウンドの両者は上述したとおりである。
【0041】
バレル仕上げ処理後の部品の金属組織磨面には、典型的な酸化物除去と表面平滑化が達成されている。塗料付着テストが実施された。洗浄済み部品試料は、リン酸塩処理に付され、KTL皮膜形成されてスクラッチがつけられ、10週間にわたるVDA621−415に準拠して腐食放置された。スクラッチ部の塗膜下腐食浸潤は0mmであった。さらに、腐食放置の前後にクロスカット試験が行われた。いずれの場合にも評価はGT0(最良の結果)であった。溶接性はDVS2929−1に基づく表面接触抵抗測定によって測定された。未処理の表面は一般に約10mΩ/mを有する。洗浄後の表面接触抵抗は0.2mΩ/m以下であった。
【0042】
部品は、たとえば長さ約6mであってよい連続トラフ振動機によっても同じ洗浄結果を達成することができる。これにより、工業的部品生産が行われる場合の多数個のインライン洗浄が可能である。
【0043】
2. 遠心ドラムによる強化部品洗浄
約300mm×約100mmの寸法の部品(強化部品、ストラット)を実施例1の場合と同じコンパウンドおよび同じ研磨体と共に直径700mmの遠心ドラムに装入して洗浄する。処理時間として5分間が選択された。このように処理された部品では、その塗料付着性ならびに溶接性はいずれも優れている。
図3
図4
図5
図7
図8
図1
図2
図6