特許第5777032号(P5777032)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5777032
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20150820BHJP
【FI】
   H01L33/00 410
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-526424(P2012-526424)
(86)(22)【出願日】2011年7月15日
(86)【国際出願番号】JP2011066230
(87)【国際公開番号】WO2012014702
(87)【国際公開日】20120202
【審査請求日】2014年5月21日
(31)【優先権主張番号】特願2010-167064(P2010-167064)
(32)【優先日】2010年7月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 向星
(72)【発明者】
【氏名】福永 浩史
(72)【発明者】
【氏名】広崎 尚登
【審査官】 吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/126567(WO,A1)
【文献】 特開2009−167328(JP,A)
【文献】 特開2008−285659(JP,A)
【文献】 特開2006−241249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電球色領域の白色光を発する発光装置であって、
青色光を発する発光素子と、当該青色光を吸収して橙色光を発する橙色蛍光体と、当該青色光を吸収して赤色光を発する赤色蛍光体とを少なくとも備え、
上記橙色蛍光体は、下記式
cCaAlSiN・(1−c)LiSi
(但し、0.2≦c≦0.8)
で表される組成を有する結晶に、Ceと酸素とが固溶した固溶体結晶からなるCe賦活CaAlSiN蛍光体であり、
上記赤色蛍光体と上記赤色蛍光体以外の蛍光体との重量比率は、
(赤色蛍光体)/(赤色蛍光体以外の蛍光体) < 0.2
であり、
上記橙色蛍光体は、Liを1.4重量%以上4重量%以下含有することを特徴とする発光装置。
【請求項2】
上記橙色蛍光体は、発光スペクトルの半値幅が130nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
上記赤色蛍光体は、Eu賦活窒化物系若しくは酸窒化物系蛍光体であることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項4】
上記赤色蛍光体は、発光スペクトルの半値幅が70nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項5】
上記赤色蛍光体は、Eu賦活MAlSiN蛍光体(M=Ca,Sr)であることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項6】
上記赤色蛍光体及び橙色蛍光体に加えて、緑色蛍光体を含有することを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項7】
上記緑色蛍光体は、発光スペクトルの半値幅が55nm以下であることを特徴とする請求項に記載の発光装置。
【請求項8】
上記緑色蛍光体はEu賦活βサイアロン蛍光体であることを特徴とする、請求項に記載の発光装置。
【請求項9】
上記Eu賦活βサイアロン蛍光体は、600nmにおける光の吸収率が10%以下であることを特徴とする請求項に記載の発光装置。
【請求項10】
上記Eu賦活βサイアロン蛍光体は、Si6−z’Alz’z’8−z’(但し、0<z’<0.5)の組成を有するものに、Euが賦活された蛍光体であることを特徴とする請求項9に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体を備えた発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)等の半導体発光素子は、小型で消費電力が少なく、高輝度の発光を安定に行なうことができるという利点を有しており、近年白熱灯等の照明器具を、白色光を発するLEDからなる発光装置を用いた照明器具に置き換える動きが進んでいる。白色光を発するLEDとしては、例えば青色LEDと(Y,Gd)(Al,Ga)12:Ceの組成式で示されるCe賦活YAG系蛍光体とを組み合わせたものがある。
【0003】
上記構成の発光装置では、LEDの青色光と蛍光体のCe賦活YAG蛍光体とから発せられる黄色光との混色により白色光を実現している。この構成では、Ce賦活YAG蛍光体の発光特性に起因して赤色成分が足りず、家庭用照明器具等で求められる電球色に近い温かみのある白色光を発することには不向きである。
【0004】
そこで、青色LEDとCe賦活YAG系蛍光体とに加えて窒化物系の赤色蛍光体を更に組み合わせることにより、赤みを帯びた暖色系の白色を発することが実現可能な発光装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に例示される構成にすることにより、3,250K以下の電球色領域の色温度において、高い演色性評価指数(Ra)を示し、特に赤色の見え方を示す特殊演色評価数(R9)が優れた値を示す白色光を発する発光装置が可能となることが開示されている。
【0006】
また、少なくともLi,Ca,Si,Al,O,N,Ceを含むCaAlSiN結晶を母体結晶とする蛍光体が近年提案され、青色LEDと組み合わせて白色LED用途に好適に用いられることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2003−321675号公報(2003年11月14日公開)」
【特許文献2】WO2010/110457A1号公報(2010年9月30日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1の構成では、発光装置の発光効率が著しく低いという問題が生じる。
【0009】
具体的には、上記特許文献1の構成では、赤色蛍光体がCe賦活YAG系蛍光体から発する蛍光を吸収するため、蛍光体間の相互吸収の影響が大きく、発光装置の発光効率が著しく低下してしまう。
また、特許文献2には、赤色蛍光体が橙色蛍光体から発する蛍光を吸収することを抑制することによって演色性に優れた電球色領域の白色光を発することについては何ら開示されておらず、赤色蛍光体が橙色蛍光体から発する蛍光を吸収することを抑制するための構成も開示されていない。そのため、演色性に優れた電球色領域の白色光を高効率で発することはできない。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、演色性に優れた電球色領域の白色光を高効率に発する発光装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述のように、発光する光において高い演色性を実現し、且つ発光効率の高い発光装置を提供すべく、蛍光体、及び蛍光体と半導体発光素子とを用いた発光装置の試作を繰り返し行った。その結果、以下に示す組み合わせにより、上記課題を解決する発光装置を提供し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。以下に本発明の詳細な内容について記す。
【0012】
即ち、本発明に係る発光装置は、上記課題を解決するために、電球色領域の白色光を発する発光装置であって、青色光を発する発光素子と、当該青色光を吸収して橙色光を発する橙色蛍光体と、当該青色光を吸収して赤色光を発する赤色蛍光体とを少なくとも備え、上記橙色蛍光体は、下記式
cCaAlSiN・(1−c)LiSi
(但し、0.2≦c≦0.8)
で表される組成を有する結晶に、Ceと酸素とが固溶した固溶体結晶からなるCe賦活CaAlSiN蛍光体であることを特徴としている。
【0013】
上記構成によれば、赤色蛍光体と、上記構成の橙色蛍光体とを備えているため、演色性を大幅に悪化させることなく、赤色蛍光体が橙色蛍光体から発する蛍光を吸収することを抑制することができる。このため、演色性に優れた電球色領域の白色光を高効率に発する発光装置を提供することができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る発光装置は、以上のように、電球色領域の白色光を発する発光装置であって、青色光を発する発光素子と、当該青色光を吸収して橙色光を発する橙色蛍光体と、当該青色光を吸収して赤色光を発する赤色蛍光体とを少なくとも備え、上記橙色蛍光体は、下記式
cCaAlSiN・(1−c)LiSi
(但し、0.2≦c≦0.8)
で表される組成を有する結晶に、Ceと酸素とが固溶した固溶体結晶からなるCe賦活CaAlSiN蛍光体であることを特徴としている。
【0015】
このため、演色性に優れた電球色領域の白色光を高効率に発する発光装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施の形態に係る発光装置の概略構成を示す断面図である。
図2】JIS Z9112に規定される電球色の色度点領域を示すグラフである。
図3】製造例1−1で得られた蛍光体粉末の発光スペクトルを示すグラフである。
図4】製造例1−1で得られた蛍光体粉末の励起スペクトルを示すグラフである。
図5】製造例1−2で得られた蛍光体粉末の発光スペクトルを示すグラフである。
図6】製造例1−2で得られた蛍光体粉末の励起スペクトルを示すグラフである。
図7】製造例1−3で得られた蛍光体粉末の発光スペクトルを示すグラフである。
図8】製造例1−3で得られた蛍光体粉末の励起スペクトルを示すグラフである。
図9】Ceと酸素とが固溶した固溶体結晶の、発光強度のLi濃度依存性を示すグラフである。
図10】Ceと酸素とが固溶した固溶体結晶の、波長450nmの光で励起した際における発光スペクトルの半値幅のLi濃度依存性を示すグラフである。
図11】製造例2で得られた蛍光体粉末の発光スペクトルを示すグラフである。
図12】製造例3で得られた蛍光体粉末の発光スペクトルを示すグラフである。
図13】実施例1で作製した発光装置の発光スペクトルを示すグラフである。
図14】実施例2で作製した発光装置の発光スペクトルを示すグラフである。
図15】実施例3で作製した発光装置の発光スペクトルを示すグラフである。
図16】実施例4で作製した発光装置の発光スペクトルを示すグラフである。
図17】実施例5で作製した発光装置の発光スペクトルを示すグラフである。
図18】実施例6で作製した発光装置の発光スペクトルを示すグラフである。
図19】比較例1で作製した発光装置の発光スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下の通りである。尚、本明細書では、範囲を示す「A〜B」はA以上B以下であることを示す。また、本明細書で挙げられている各種物性は、特に断りの無い限り後述する実施例に記載の方法により測定した値を意味する。
【0018】
図1は、本実施の形態に係る発光装置の概略構成を示す断面図である。
【0019】
本実施の形態に係る発光装置1は、電球色領域の白色光を発する発光装置1であって、青色光を発する発光素子2と、当該青色光を吸収して橙光を発する橙色蛍光体13と、当該青色光を吸収して赤色光を発する赤色蛍光体14とを備える。
【0020】
尚、本明細書において、「青色光」とは、波長420〜480nmに発光スペクトルのピークを持つ光を意味し、「緑色光」とは、波長500〜550nmに発光スペクトルのピークを持つ光を意味し、「黄色光」とは、波長551〜569nmに発光スペクトルのピークを持つ光を意味し、「橙色光」とは、波長570〜630nmに発光スペクトルのピークを持つ光を意味し、「赤色光」とは、波長631nm〜680nmに発光スペクトルのピークを持つ光を意味する。
【0021】
また、「緑色蛍光体」とは上記緑色光を発光する物質を意味し、「黄色蛍光体」とは上記黄色光を発光する物質を意味し、「橙色蛍光体」とは上記橙色光を発光する物質を意味し、「赤色蛍光体」とは上記赤色光を発光する物質を意味する。
【0022】
更には、「電球色領域の白色光」であるとは、発光する光の相関色温度(TCP)が2600K〜3250Kの範囲内であり、発光する光の色度点が図2に示すJIS Z9112に規定される範囲内にあることを意味する。
【0023】
本実施の形態に係る発光装置1は、基体としてのプリント配線基板3上に、半導体発光素子2が載置され、同じくプリント配線基板3上に載置された樹脂枠4の内側に、橙色蛍光体13及び赤色蛍光体14を分散させた透光性樹脂からなるモールド樹脂5が充填されて、半導体発光素子2が封止されている。
【0024】
上記半導体発光素子2は、活性層としてInGaN層6を有し、InGaN層6を挟んで、p側電極7及びn側電極8を有しており、このn側電極8が、プリント配線基板3の上面から背面にかけて設けられたn電極部9に、導電性を有する接着剤10を介して電気的に接続されている。また、半導体発光素子2のp側電極7は、上述したn電極部9とは別にプリント配線基板3の上面から背面にかけて設けられたp電極部11と金属ワイヤ12を介して電気的に接続されている。
【0025】
尚、本実施の形態に係る発光装置1は、図1に示した構造に限定されるものではなく、従来公知の一般的な発光装置の構造を採用することができる。
【0026】
(I)発光素子
本実施の形態では、発光素子として半導体発光素子2を用いており、半導体発光素子2は発光ダイオード(LED)である。しかしながら、上記半導体発光素子2としては発光ダイオード(LED)に限定されず、半導体レーザ、無機EL(electroluminescence)素子等の青色光を発する従来公知の素子を使用することができる。尚、LEDは、例えば、Cree社製等の市販品を用いることができる。
【0027】
上記半導体発光素子2の発光ピーク波長は特には限定されないが、発光効率の観点から420〜480nmの範囲内であることが好ましい。また、蛍光体の励起効率をより高く、更にはRa、R9値をより高くする観点から、440〜470nmの範囲内であることがより好ましく、455nm以上470nm以下であると特に高い演色性能を示す。
【0028】
(II)橙色蛍光体
上記橙色蛍光体13は、Ce賦活CaAlSiN蛍光体であり、
cCaAlSiN・(1−c)LiSi
(式中、0.2≦c≦0.8である)
の組成を有する結晶に、Ceと酸素とが固溶した固溶体結晶である。尚、上記式中のcは、0.3≦c≦0.7であることがより好ましい。
【0029】
Ce賦活CaAlSiN蛍光体の中でも、上記固溶体結晶からなる橙色蛍光体は、Ce賦活YAG蛍光体と比較して、より発光スペクトルのピーク波長が長波長であり、且つ半値幅が広くなる。よって、上記固溶体結晶からなる橙色蛍光体を赤色蛍光体と組み合わせる場合、例えば、Ce賦活YAG蛍光体と赤色蛍光体とを組み合わせる場合と比較すると、赤色蛍光体による相互吸収が抑制される。これは、上記固溶体結晶からなる橙色蛍光体の発光色は、Ce賦活YAG蛍光体の発光色と比較して赤色の成分が強いことに起因する。
【0030】
よって、電球色領域の白色を示す発光装置を構成する際は、Ce賦活YAG蛍光体を用いるよりも上記固溶体結晶からなる橙色蛍光体を用いることが好ましい。中でも、上記固溶体結晶からなる橙色蛍光体の発光スペクトルの半値幅が130nm以上であることが更に好ましい。橙色蛍光体の発光スペクトルの半値幅の上限は、特には限定されないが、150nm以下であることが好ましい。
【0031】
発光スペクトルの半値幅を広くする観点から、上記橙色蛍光体におけるLi濃度は1.4重量%以上であることが好ましい。本実施の形態に係る発光装置においては、橙色蛍光体13の発光スペクトルの半値幅が広い程、高い演色性を有し、発光効率が高い発光装置を実現することが可能となる。
【0032】
また、上記橙色蛍光体におけるLi濃度は、発光効率の観点から4重量%以下であることが好ましい。
【0033】
上記Ce賦活蛍光体を、上記組成を有する結晶にCeと酸素とが固溶した固溶体結晶とするためには、例えば、CeOのように構成金属元素の酸化物を少なくとも1種類原料粉末に含有させる必要がある。
【0034】
また、半導体発光素子を照明器具等に用いる場合、インジケータ等に用いる場合と比較して大電流を流す必要があり、半導体発光素子の周辺温度は100℃〜150℃にも達する。例えば、特開2003−321675号公報に例示されるYAG:Ce蛍光体は、特開2008−127529号公報に開示されるように周辺温度150℃の高温環境において室温の50%まで発光強度が低下してしまう。このような従来の蛍光体に対し、本願明細書において例示されている酸窒化物系蛍光体は、特に高温環境での発光特性が優れており、例えば非特許文献(Science and Technology of Advanced Materials 8 (2007)588−600)に例示される蛍光体と同様に、周辺温度100℃〜150℃の高温環境においても室温の85%〜90%程度の発光強度を維持する。
【0035】
本実施の形態に係る発光装置が備える蛍光体も上記非特許文献に例示される蛍光体と同等の高温環境での発光特性を有することが好ましく、そのような観点からは、Ceと酸素とが固溶した上記固溶体結晶におけるCe濃度は、0重量%を超え、6重量%以下が好ましい。
【0036】
上記橙色蛍光体13の粒径は1μm〜50μmであることが好ましく、5μm〜20μmであることが更に好ましい。また、粒子の形状としては、凝集体の状態よりも単独の粒子であることが好ましく、具体的には比表面積が1m/g以下、より好ましくは0.4m/g以下であることが好ましい。このような粒径調整、粒子形状調整には、機械的粉砕、酸処理による粒界相除去、アニール処理等の技術を適宜用いることができる。
【0037】
(III)赤色蛍光体
本実施の形態では、青色光を発する発光素子2及び橙色蛍光体13に加え、赤色蛍光体14を備える。これにより、電球色領域の白色光を発する発光装置を実現することが可能となる。
【0038】
上記赤色蛍光体14として、温度特性等の安定性に優れるため、Eu賦活窒化物系若しくは酸窒化物系蛍光体を好適に用いることができる。
【0039】
上記Eu賦活窒化物系若しくは酸窒化物系蛍光体として、例えば特開2006−8721号公報に例示されるEu賦活MAlSiN(M=Ca,Sr)蛍光体や、特開2006−206729号公報に例示されるEu賦活M2−zSi8−z(M=Ba,Sr,Ca)(0<z<1)蛍光体が好適に用いられる。これらの中でも、Eu賦活MAlSiN(M=Ca,Sr)蛍光体が、発光効率が高く、温度特性等の安定性に優れるため特に好ましい。
【0040】
尚、本明細書における「M=Ca,Sr」のような表現における「,」は、「及び/または」を意味する。つまり、「M=Ca,Sr」は、「MはCa及び/又はSrである」ことを意味する。
【0041】
また、上記赤色蛍光体14の発光スペクトルの半値幅は、発光装置のRa、R9を高める観点から、70nm以上であることが好ましい。赤色蛍光体14の発光スペクトルの半値幅の上限は、特には限定されないが、120nm以下であることが好ましい。
【0042】
(IV)緑色蛍光体
本実施の形態に係る発光装置では、上記橙色蛍光体13と上記赤色蛍光体14に加え、緑色蛍光体を加えることもできる。
【0043】
上記緑色蛍光体は、発光スペクトルの半値幅が上記橙色蛍光体13より狭く、具体的には、発光スペクトルの半値幅が70nm以下であることが好ましく、55nm以下であることがより好ましい。また、上記緑色蛍光体の発光スペクトルの半値幅の下限は、特には限定されないが、15nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましい。
【0044】
緑色蛍光体の発光スペクトルの半値幅が上記範囲であると、橙色蛍光体13による緑色光の吸収が抑制され、発光効率が更に高い発光装置を実現し得る。
【0045】
上記緑色蛍光体としては、上記要件を満たしていれば特には限定されないが、例えば、安定性が高く温度特性に優れるため、Eu賦活酸窒化物系蛍光体が好適に用いられる。
【0046】
更には、Eu賦活酸窒化物系蛍光体の中でも発光効率に優れる、特開2008−138156号公報に示されるEu賦活BSON蛍光体や、特開2005−255895号公報に示されるEu賦活βサイアロン蛍光体が好適に用いられる。
【0047】
上記緑色蛍光体として例示した中でも、特にEu賦活βサイアロン蛍光体は、安定性及び温度特性に優れ、また、発光スペクトルの半値幅が特に狭く優れた発光特性を示す。
【0048】
上記Eu賦活BSON蛍光体として具体的には、
Bay’Eux’Siu’v’w’
(但し、0≦y’≦3、1.6≦y’+x’≦3、5≦u’≦7、9<v’<15、0<w’≦4)
の組成を有する蛍光体が好ましく、上記y’、x’、u’、v’、w’の更に好ましい範囲は、1.5≦y’≦3、2≦y’+x’≦3、5.5≦u’≦7、10<v’<13、1.5<w’≦4である。
【0049】
また、上記Eu賦活βサイアロン蛍光体として具体的には、
Si6−z’Alz’z’8−z’
(但し、0<z’<4.2)
の組成を有するものに、Euが賦活された蛍光体が好ましく、上記z’の更に好ましい範囲は、0<z’<0.5である。
【0050】
また、上記Eu賦活βサイアロン蛍光体は、酸素濃度が0.1〜0.6重量%の範囲であるものが好ましく、Al濃度が0.13〜0.8重量%であることがより好ましい。Eu賦活βサイアロン蛍光体の酸素濃度およびAl濃度がこれら範囲内であれば、より発光スペクトルの半値幅が狭くなる傾向がある。
【0051】
尚、国際公開WO2008/062781号に開示されるEu賦活βサイアロン蛍光体は、焼成後に酸処理等の後処理により蛍光体のダメージ相が取り除かれているため、不要な吸収が少なく発光効率が高い。更に、特開2008−303331号公報に例示されるEu賦活βサイアロン蛍光体は、酸素濃度が0.1〜0.6重量%であるため、より発光スペクトルの半値幅が狭くなり好ましい。
【0052】
上記のような緑色蛍光体として、より具体的には、βサイアロン蛍光体の発光に全く寄与しない波長域であり、且つ上記橙色蛍光体のピーク波長付近である600nmにおける光の吸収率が10%以下であるものを好適に用いることができる。
【0053】
また、上記緑色蛍光体の粒径は1μm〜50μmであることが好ましく、5μm〜20μmであることが更に好ましい。また、粒子の形状としては、凝集体であるよりも単独の粒子であることが好ましく、具体的には、比表面積が1m/g以下であることが好ましく、0.4m/g以下であることがより好ましい。このような粒径調整、粒子形状調整には、機械的粉砕、酸処理による粒界相除去、アニール処理等の技術を適宜用いることができる。
【0054】
本実施の形態において用いられる緑色蛍光体がEu賦活酸窒化物系蛍光体であり、且つ橙色蛍光体13がCe賦活窒化物系蛍光体、又はCe賦活酸窒化物系蛍光体である場合、これら2種類の蛍光体の何れもが窒化物系となるので、2種類の蛍光体の温度依存性、比重、粒径等が近い値となる。
【0055】
このため、上記のような発光装置を形成した際に、歩留まり良く製造することが可能で、周囲環境に影響され難い、高い信頼性の発光装置となる。加えて、窒化物系蛍光体は母体結晶の共有結合性が強いため、特に温度依存性が少なく、化学的、物理的ダメージにも強い。
【0056】
(V)モールド樹脂
上記発光装置1において、半導体発光素子2の封止に用いるモールド樹脂5は、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の透光性樹脂に上記橙色蛍光体13及びを分散させたものである。当該分散方法としては、特には限定されず、従来公知の方法を採用することができる。
【0057】
分散させる、橙色蛍光体13、赤色蛍光体14及び緑色蛍光体の混合比率は、特に制限されず、電球色領域の白色光を発するように適宜決定することができる。例えば、橙色蛍光体13、赤色蛍光体14及び緑色蛍光体に対する透光性樹脂の重量比(透光性樹脂の重量/(橙色蛍光体13+赤色蛍光体14+緑色蛍光体))で2〜20の範囲内とすることができる。
【0058】
また、発光装置の発光効率を高める観点から、(赤色蛍光体14)/(赤色蛍光体14以外の蛍光体)の重量比率は低いことが好ましい。これは、赤色蛍光体が他の蛍光体から発する蛍光を吸収する相互吸収に起因するもので、具体的には、(赤色蛍光体14)/(赤色蛍光体14以外の蛍光体)<0.2の重量比率であれば、上記相互吸収が充分に抑制され、発光効率の高い発光装置が実現可能となる。また、(赤色蛍光体14)/(赤色蛍光体14以外の蛍光体)の重量比率の下限は、0.001以上であることが好ましい。
【0059】
更には、橙色蛍光体13に対する緑色蛍光体の重量比率(緑色蛍光体/橙色蛍光体13の重量比率)は0.05〜1の範囲内とすることができる。
【0060】
(VI)その他
本実施の形態に係る発光装置1において、発光素子2、橙色蛍光体13、赤色蛍光体14、緑色蛍光体及びモールド樹脂5以外の、プリント配線基板3や接着剤10、金属ワイヤ12等については、従来技術(例えば、特開2003−321675号公報、特開2006−8721号公報等)と同様の構成を採用することができ、従来技術と同様の方法により製造することができる。
【0061】
尚、以上説明した本発明は、以下のように言い換えることもできる。即ち、
(1)電球色領域の白色光を発する半導体発光装置であって、青色光を発する半導体発光素子と、当該青色光を吸収して橙色光を発する橙色蛍光体と、当該青色光を吸収して赤色光を発する赤色蛍光体とを少なくとも備え、上記橙色蛍光体は、Ce賦活CaAlSiN蛍光体であり、
cCaAlSiN・(1−c)LiSi
(但し、0.2≦c≦0.8)
の組成を有する結晶に、Ceと酸素とが固溶した固溶体結晶であることを特徴とする半導体発光装置。
【0062】
(2)上記赤色蛍光体と上記赤色蛍光体以外の色蛍光体は、
(赤色蛍光体)/(赤色蛍光体以外の色蛍光体) < 0.2
の重量比率で含有されることを特徴とする、(1)の半導体発光装置。
【0063】
(3)上記橙色蛍光体は、発光スペクトルの半値幅が140nm以上であることを特徴とする、(1)の半導体発光装置。
【0064】
(4)上記赤色蛍光体は、Eu賦活窒化物系若しくは酸窒化物系蛍光体であることを特徴とする、(1)の半導体発光装置。
【0065】
(5)上記赤色蛍光体の発光スペクトルの半値幅は70nm以上であることを特徴とする、(1)の半導体発光装置。
【0066】
(6)上記赤色蛍光体は、Eu賦活MAlSiN蛍光体(M=Ca,Sr)であることを特徴とする、(1)の半導体発光装置。
【0067】
(7)上記赤色蛍光体及び橙色蛍光体に加えて、緑色蛍光体を含有することを特徴とする、(1)の半導体発光装置。
【0068】
(8)上記緑色蛍光体は、発光スペクトルの半値幅が55nm以下であることを特徴とする、(7)の半導体発光装置。
【0069】
(9)上記緑色蛍光体はEu賦活βサイアロン蛍光体であることを特徴とする、(7)の半導体発光装置。
【0070】
(10)上記Eu賦活βサイアロンは、酸素濃度が0.1重量%〜0.6重量%の範囲であることを特徴とする、(7)の半導体発光装置。
【0071】
(11)上記Eu賦活βサイアロン蛍光体の600nmにおける吸収率が10%以下であることを特徴とする、(7)の半導体発光装置。
【0072】
本願には以下の発明が含まれる。
【0073】
即ち、本発明に係る発光装置は、上記課題を解決するために、電球色領域の白色光を発する発光装置であって、青色光を発する発光素子と、当該青色光を吸収して橙色光を発する橙色蛍光体と、当該青色光を吸収して赤色光を発する赤色蛍光体とを少なくとも備え、上記橙色蛍光体は、下記式
cCaAlSiN・(1−c)LiSi
(但し、0.2≦c≦0.8)
で表される組成を有する結晶に、Ceと酸素とが固溶した固溶体結晶からなるCe賦活CaAlSiN蛍光体であることを特徴としている。
【0074】
上記構成によれば、赤色蛍光体と、上記構成の橙色蛍光体とを備えているため、演色性を大幅に悪化させることなく、赤色蛍光体が橙色蛍光体から発する蛍光を吸収することを抑制することができる。このため、演色性に優れた電球色領域の白色光を高効率に発する発光装置を提供することができるという効果を奏する。
【0075】
本発明に係る発光装置では、上記赤色蛍光体と上記赤色蛍光体以外の蛍光体との重量比率は、
(赤色蛍光体)/(赤色蛍光体以外の蛍光体) < 0.2
であることが好ましい。
【0076】
上記構成によれば、赤色蛍光体による相互吸収がより抑制され、より発光効率の高い発光装置を提供することができる。
【0077】
本発明に係る発光装置では、上記橙色蛍光体は、発光スペクトルの半値幅が130nm以上であることが好ましい。
【0078】
上記構成によれば、赤色蛍光体による相互吸収がより抑制され、より発光効率の高い発光装置を提供することができる。
【0079】
本発明に係る発光装置では、上記橙色蛍光体は、Liを1.4重量%以上4重量%以下含有することが好ましい。
【0080】
上記構成によれば、後述する実施例に示すように、発光スペクトルの半値幅を増大させることができ、かつ、発光強度を高く保つことができる。それゆえ、高い演色性および高い発光効率を有する発光装置を提供することができる。
【0081】
本発明に係る発光装置では、上記赤色蛍光体は、Eu賦活窒化物系若しくは酸窒化物系蛍光体であることが好ましい。
【0082】
上記構成によれば、温度特性等の安定性に優れた発光装置を提供することができる。
【0083】
本発明に係る発光装置では、上記赤色蛍光体は、発光スペクトルの半値幅が70nm以上であることが好ましい。
【0084】
上記構成によれば、より高いRa及びR9を示す発光装置を提供することができる。
【0085】
本発明に係る発光装置では、上記赤色蛍光体は、Eu賦活MAlSiN蛍光体(M=Ca,Sr)であることが好ましい。
【0086】
上記構成によれば、より安定性に優れ、より高い発光効率を示す発光装置を提供することができる。
【0087】
本発明に係る発光装置では、上記赤色蛍光体及び橙色蛍光体に加えて、緑色蛍光体を含有することが好ましい。
【0088】
上記構成によれば、発光効率がより高く、より高いRa及びR9を示す発光装置を提供することができる。
【0089】
本発明に係る発光装置では、上記緑色蛍光体は、発光スペクトルの半値幅が55nm以下であることが好ましい。
【0090】
上記構成によれば、より高いRa及びR9を示し、更に他の蛍光体による緑色光の吸収が充分に抑制されるため、より発光効率の高い発光装置を提供することができる。
【0091】
本発明に係る発光装置では、上記緑色蛍光体はEu賦活βサイアロン蛍光体であることが好ましい。
【0092】
Eu賦活βサイアロン蛍光体は、青色光によって効率的に励起され、且つ青色光による励起で本発明の要件を満たす発光を示す。
【0093】
本発明に係る発光装置では、上記Eu賦活βサイアロン蛍光体は、600nmにおける光の吸収率が10%以下であることが好ましい。
【0094】
上記構成によれば、緑色蛍光体による橙色光の不要な吸収が抑制され、より発光効率の高い発光装置を提供することができる。
【0095】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。即ち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0097】
〔励起スペクトル及び発光スペクトル〕
励起スペクトル及び発光スペクトルは、F−4500(製品名、日立製作所製)によって測定した。励起スペクトルは、発光ピークの強度をスキャンして測定した。また、各発光スペクトルは、波長450nmの光で励起して測定した。
【0098】
〔吸収スペクトル〕
蛍光体粉末の吸収スペクトルは、分光光度計(製品名:MCPD−7000、大塚電子製)と積分球を組み合わせた測定系を用いて測定した。
【0099】
〔蛍光体粉末のLi濃度及びCe濃度〕
蛍光体粉末のLi濃度及びCe濃度は、ICP(製品名:IRIS Advantage、日本ジャーレル・アッシュ社製)により測定した。
【0100】
〔粉末X線回折測定〕
粉末X線回折測定(XRD)は、CuのKα線を用いて測定した。
【0101】
〔蛍光体の作製〕
(製造例1−1:橙色蛍光体の作製1)
0.6CaAlSiN・0.4LiSi組成の結晶を母体結晶として、これにCeを賦活した蛍光体を得ることを目的として合成を行った。
【0102】
具体的には、Ce0.0017Li0.0664Ca0.0996Al0.0996Si0.23240.00250.4979の理論組成式の化合物を得るべく、Si:51.9重量%、AlN:19.5重量%、LiN:3.7重量%、Ca:23.5重量%、CeO:1.4重量%の組成比率で、全量が2gとなるように原料粉末を秤量し、メノウ乳棒と乳鉢で10分間混合した。その後、得られた混合物を窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて充填した(体積充填率38%)。尚、粉末の秤量、混合の各工程は全て、水分1ppm以下、酸素濃度1ppm以下の窒素雰囲気を保持することができるグローブボックス中で行った。
【0103】
その後、この混合粉末を入れた窒化ホウ素製のるつぼを、黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした。焼成の操作は、まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空とし、室温から800℃まで毎時1200℃の速度で昇温し、800℃において、純度が99.999体積%の窒素を導入して圧力を0.92MPaとし、1800℃の焼成温度まで、毎時600℃で昇温し、1800℃の焼成温度で2時間保持して行った。
【0104】
焼成後、得られた焼成体から余分なLiNを水洗で取り除き、次いで、粗粉砕の後、アルミナ製乳鉢を用いて手で粉砕して、蛍光体粉末を得た。
【0105】
尚、上記蛍光体粉末は、原料粉末に酸化物原料を含むため、Ceと酸素とが固溶した固溶体結晶である。
【0106】
ICPによって得られた、当該蛍光体粉末のCe濃度及びLi濃度、並びに当該Li濃度から求めた各蛍光体の組成を表2に示す。ここで、ICP測定によるLi濃度は理論組成の2.20重量%より低い値であるが、これは焼成中におけるLiの揮発や、焼成後の水洗による影響であると考えられる。
【0107】
得られた蛍光体粉末について、粉末X線回折測定(XRD)を行なったところ、蛍光体粉末は、CaAlSiN相を主相とする結晶構造を有することが確認された。また、蛍光体粉末に、波長365nmの光を発するランプで照射した結果、橙色に発光することが確認された。
【0108】
得られた蛍光体粉末の発光スペクトルを示すグラフを図3に示す。当該グラフにおける縦軸は発光強度(任意単位)であり、横軸は波長(nm)である。図3に示す発光スペクトルの色度座標、ピーク波長、及び半値幅を表3に示す。
【0109】
また、得られた蛍光体粉末の励起スペクトルを示すグラフを図4に示す。当該グラフにおける縦軸は励起強度(任意単位)であり、横軸は波長(nm)である。
【0110】
(製造例1−2:橙色蛍光体の作製2)
0.2CaAlSiN・0.8LiSi組成の結晶を母体結晶として、これにCeを賦活した蛍光体を得ることを目的として合成を行った。
【0111】
具体的には、Ce0.017Li0.1328Ca0.0332Al0.0332Si0.29880.00250.4979の理論組成式の化合物を得るべく、Si、AlN、LiN、Ca、CeOの混合比率を表1に示す値に変更したこと以外は製造例1−1と同様の操作を行い、蛍光体粉末を得た。
【0112】
尚、上記蛍光体粉末は、原料粉末に酸化物原料を含むため、Ceと酸素とが固溶した固溶体結晶である。
【0113】
ICPによって得られた、当該蛍光体粉末のCe濃度及びLi濃度、並びに当該Li濃度から求めた各蛍光体の組成を表2に示す。ここで、ICP測定によるLi濃度は理論組成の4.90重量%より低い値であるが、これは焼成中におけるLiの揮発や、焼成後の水洗による影響であると考えられる。
【0114】
得られた蛍光体粉末について、粉末X線回折測定(XRD)を行なったところ、蛍光体粉末は、CaAlSiN相を主相とする結晶構造を有することが確認できた。また、蛍光体粉末に、波長365nmの光を発するランプで照射した結果、橙色に発光することが確認できた。
【0115】
得られた蛍光体粉末の発光スペクトルを示すグラフを図5に示す。当該グラフにおける縦軸は発光強度(任意単位)であり、横軸は波長(nm)である。図5に示す発光スペクトルの色度座標、ピーク波長、及び半値幅を表3に示す。
【0116】
また、得られた蛍光体粉末の励起スペクトルを示すグラフを図6に示す。当該グラフにおける縦軸は励起強度(任意単位)であり、横軸は波長(nm)である。
【0117】
(製造例1−3:橙色蛍光体の作製3)
0.3CaAlSiN・0.7LiSi組成の結晶を母体結晶として、これにCeを賦活した蛍光体を得ることを目的として合成を行った。
【0118】
具体的には、Ce0.020Li0.1161Ca0.0497Al0.0497Si0.28190.00310.4974の理論組成式の化合物を得るべく、Si、AlN、LiN、Ca、CeOの混合比率を表1に示す値に変更したこと以外は製造例1−1と同様の操作を行い、蛍光体粉末を得た。
【0119】
尚、上記蛍光体粉末は、原料粉末に酸化物原料を含むため、Ceと酸素とが固溶した固溶体結晶である。
【0120】
ICPによって得られた、当該蛍光体粉末のCe濃度及びLi濃度、並びに当該Li濃度から求めた各蛍光体の組成を表2に示す。ここで、ICP測定によるLi濃度は理論組成の4.16重量%より低い値であるが、これは焼成中におけるLiの揮発や、焼成後の水洗による影響であると考えられる。
【0121】
得られた蛍光体粉末について、粉末X線回折測定(XRD)を行なったところ、蛍光体粉末は、CaAlSiN相を主相とする結晶構造を有することが確認できた。また、蛍光体粉末に、波長365nmの光を発するランプで照射した結果、橙色に発光することが確認できた。
【0122】
得られた蛍光体粉末の発光スペクトルを示すグラフを図7に示す。当該グラフにおける縦軸は発光強度(任意単位)であり、横軸は波長(nm)である。図7に示す発光スペクトルの色度座標、ピーク波長、及び半値幅を表3に示す。
【0123】
また、得られた蛍光体粉末の励起スペクトルを示すグラフを図8に示す。当該グラフにおける縦軸は励起強度(任意単位)であり、横軸は波長(nm)である。
【0124】
(製造例1−4〜1−7:橙色蛍光体の作製4〜7)
Si、AlN、LiN、Ca、CeOの混合比率を表1に示す値に変更したこと以外は製造例1−1と同様の操作を行い、Ce濃度及びLi濃度を変化させた、Ceと酸素とが固溶した各種固溶体結晶を合成した。ICPによって得られた、各種固溶体結晶のCe濃度及びLi濃度、並びに当該Li濃度から求めた各蛍光体の組成を表2に示す。
【0125】
尚、上記蛍光体粉末は、原料粉末に酸化物原料を含むため、Ceと酸素とが固溶した固溶体結晶である。
【0126】
得られた各種固溶体結晶について、発光強度のLi濃度依存性を示すグラフを図9に示す。図9に示すように、固溶体結晶におけるLi濃度が4重量%以下であれば、発光強度が高くなる傾向にある。ここで、固溶体結晶におけるCe濃度及びLi濃度が上記範囲を外れた場合に発光強度が低下するのは、発光に寄与する元素の濃度が低すぎることや、異相が生成すること等に起因すると考えられる。
【0127】
また、図10に上記各種固溶体結晶を波長450nmの光で励起した際における発光スペクトルの半値幅のLi濃度依存性を示す。図10より、Li濃度が1.5重量%以上であれば、発光スペクトルの半値幅が特に増大する傾向にあることが分かる。
【0128】
尚、本製造例で述べた発光強度はMCPD−7000(大塚電子製)と積分球とを組み合わせた装置を用いて測定した。
【0129】
(製造例2:Eu賦活βサイアロン緑色蛍光体の作製)
Si6−z’Alz’z’8−z’で表される組成式において、z’=0.23のものにEuが0.09at.%賦活されたEu賦活βサイアロン蛍光体を得るべく、α型窒化ケイ素粉末95.82重量%、窒化アルミニウム粉末3.37重量%及び酸化ユーロピウム粉末0.81重量%の組成となるように秤量し、窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒とを用い、10分以上混合し粉体凝集体を得た。この粉体凝集体を直径20mm、高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて入れた。
【0130】
次に、上記るつぼを、黒鉛抵抗加熱方式の加圧電気炉にセットし、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して圧力を1MPaとした後、毎時500℃で1900℃まで昇温し、更にその温度で8時間保持して、蛍光体試料を得た。得られた蛍光体試料をメノウ製乳鉢で粉砕し、蛍光体試料を得た。得られた蛍光体試料をメノウ製乳鉢によって粉砕し、更に50%フッ化水素酸と70%硝酸の1:1混酸中で処理し、蛍光体粉末を得た。
【0131】
当該蛍光体粉末について、粉末X線回折測定(XRD)を行なったところ、当該蛍光体粉末から得られたチャートは全てβ型サイアロン構造であることを示した。また、当該蛍光体粉末に、波長365nmの光を発するランプで照射した結果、緑色に発光することを確認した。
【0132】
得られたEu賦活βサイアロン蛍光体の粉末の発光スペクトルを測定した結果、図11に示される発光スペクトルが得られた。図11において縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。図11に示す発光スペクトルの色度座標、ピーク波長、及び半値幅を表3に示す。
【0133】
また、燃焼法による酸素窒素分析計(LECO社製TC436型)を用いて、これらの合成粉末中に含まれる酸素量を測定したところ、酸素含有量は1.12重量%であった。また、MCPD−7000(大塚電子製)を用いて波長600nmの光の吸収率を測定した結果、9.1%であった。
【0134】
(製造例3:Eu賦活CaAlSiN赤色蛍光体の作製)
窒化アルミニウム粉末29.7質量%、α型窒化ケイ素粉末33.9質量%、窒化カルシウム粉末35.6質量%及び窒化ユーロピウム粉末0.7質量%を秤量し、窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒とを用い、10分以上混合し粉体凝集体を得た。窒化ユーロピウムは、金属ユーロピウムをアンモニア中で窒化して合成したものを用いた。この粉体凝集体を直径20mm、高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて入れた。尚、粉末の秤量、混合、成形の各工程は全て、水分1ppm以下、酸素1ppm以下の窒素雰囲気を保持することができるグローブボックス中で行なった。
【0135】
次に、当該るつぼを、黒鉛抵抗加熱方式の加圧電気炉にセットし、純度が99.999体積%の窒素を導入して圧力を1MPaとし、毎時500℃で1800℃まで昇温し、更に1800℃で2時間保持して蛍光体試料を得た。得られた蛍光体試料をメノウの乳鉢を用いて粉砕し、蛍光体粉末を得た。当該蛍光体粉末について、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)を行なったところ、当該蛍光体粉末は、CaAlSiN結晶の構造を有することがわかった。また、当該蛍光体粉末に、波長365nmの光を発するランプで照射した結果、赤色に発光することを確認した。
【0136】
得られたEu賦活CaAlSiN蛍光体の粉末の発光スペクトルを測定した結果、図12に示される発光スペクトルが得られた。図12において縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。図12に示す発光スペクトルの色度座標、ピーク波長、及び半値幅を表3に示す。
【0137】
【表1】
【0138】
【表2】
【0139】
【表3】
【0140】
〔半導体発光装置の作製〕
<実施例1〜6>
表4に示す各蛍光体を、表5に示す重量比率でシリコーン樹脂(商品名:KER2500、信越シリコーン社製)と混合して当該シリコーン樹脂中に分散させたモールド樹脂を用いて、図1に示した構造を有する、実施例1〜6の各半導体発光装置を作製した。
【0141】
尚、半導体発光素子として、表4に示す発光ピーク波長を有するLED(商品名:EZR、Cree社製)を用いた。
【0142】
ここで、各発光装置の相関色温度は電球色となるようにモールド樹脂との混合比率及びLEDのピーク波長を調整した。図13図18に本実施例で例示する半導体発光装置の発光スペクトルを、表6に各半導体発光装置の諸特性を示す。図13図18において、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。また、表6においてTCPは相関色温度(単位:K)、Duvは偏差、u’およびv’は色度座標を表す。
【0143】
本発明にかかる発光装置は、青色光を発する発光素子から、少なくとも橙色蛍光体および赤色蛍光体に青色光が照射されると、電球色領域の白色光を発光する。実施例1〜4では、上記LEDから橙色蛍光体および赤色蛍光体に、表4に示す波長に発光スペクトルのピークを有する青色光を照射すると、それぞれ図13〜16に示す発光スペクトルを有する電球色領域の白色光を発した。実施例5,6では、上記LEDから橙色蛍光体、赤色蛍光体および緑色蛍光体に、表4に示す波長に発光スペクトルのピークを有する青色光を照射すると、それぞれ図17,18に示す発光スペクトルを有する電球色領域の白色光を発した。
【0144】
<比較例1>
Ce賦活YAG蛍光体と、製造例3で作製した赤色蛍光体を、(Ce賦活YAG蛍光体):(製造例3で作製した赤色蛍光体):(シリコーン樹脂(商品名:KER2500、信越シリコーン社製))=1.000:0.080:0.041の重量比率で混合して、当該シリコーン樹脂中に分散させたモールド樹脂を用いて、図1に示した構造と同様の構造を有する、比較例1半導体発光装置を作製した。
【0145】
尚、Ce賦活YAG蛍光体は、商品名「P46−Y3」(化成オプトニクス社製)を用いた。黄色蛍光体であるCe賦活YAG蛍光体は、460nmの光で励起した際の発光スペクトルにおけるピーク波長が557nm、半値幅117nmであり、色度座標は(u’,v’)=(0.210,0.565)であった。
【0146】
また、半導体発光素子として、460nmに発光ピーク波長を有するLED(商品名:EZR、Cree社製)を用いた。ここで、上記発光装置の相関色温度は電球色となるようにモールド樹脂との混合比率及びLEDのピーク波長を調整し、図19に示す発光スペクトルが得られ、表6に示す特性が得られた。図19において、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【0147】
尚、図13図19に例示する半導体発光装置の発光スペクトルは、分光光度計(製品名:MCPD−7000、大塚電子製)により測定し、表6に示される各指数は測定された発光スペクトルに基づいて計算した。また、半導体発光装置の発光効率(光度)は、分光光度計(製品名:MCPD−7000、大塚電子製)と積分球とを組み合わせた測定系を用いて測定した。
【0148】
表6に示す結果より、実施例に示す半導体発光装置は、比較例に示す半導体発光装置と比べて発光効率が高いことがわかる。これは、実施例に示す半導体発光装置は何れもCe賦活CaAlSiN蛍光体であり、
cCaAlSiN・(1−c)LiSi
(式中、0.2≦c≦0.8である)
の組成を有する結晶に、Ceと酸素とが固溶した固溶体結晶からなる橙色蛍光体を備え、比較例と比較して、(赤色蛍光体)/(赤色以外の蛍光体)の重量比率が著しく低いことに起因する。
【0149】
尚、実施例に示す半導体発光装置では、Ra及びR9の値が比較例に示す半導体発光装置よりも低いが、何れもRa>70、R9>0を満たしており、一般家庭用途や車両用灯具に用いるのには問題ないレベルである。
【0150】
また、実施例の中でも実施例1及び2と実施例3〜6を比較すると、実施例3〜6の半導体発光装置の方が発光効率が高い。これは、実施例3及び4は橙色蛍光体の発光スペクトルの半値幅が特に広いことに起因し、また、実施例5及び6は橙色蛍光体に加えて緑色蛍光体を備えていることに起因する。
【0151】
【表4】
【0152】
【表5】
【0153】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明の半導体発光素子は、発光効率が高く、高いRa及びR9を示す、電球色光を発する。このため、家庭用照明、車両用灯具等の各種照明器具に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0155】
1 発光装置
2 発光素子
3 プリント配線基板
4 樹脂枠
5 モールド樹脂
6 InGaN層
7 p側電極
8 n側電極
9 n電極部
10 接着剤
11 p電極部
12 金属ワイヤ
13 橙色蛍光体
14 赤色蛍光体
図1
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