(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の治療法は、網膜の静脈に注射針を刺し、この注射針を通して治療用の液体(以下「治療液」と総称)を静脈に注入する方法である。このため、網膜の静脈に刺通できる注射針を用意する必要がある。しかしながら、網膜の静脈(血管)の太さは直径100μm程度と非常に細いため、これに刺す注射針は更に細く形成する必要がある。このような極細の注射針は、ガラス製のキャピラリチューブであれば作ることも可能であるが、網膜の静脈のような細い血管に刺す注射針の用途にキャピラリチューブを使用するには、以下の点で難がある。
【0006】
キャピラリチューブは、硬質の脆性材料であるガラスで作られているため、非常に折れやすい性質をもっている。したがって、たとえば、キャピラリチューブを血管に刺した状態で、キャピラリチューブが折れたり、あるいは欠けたりすると、血管の中にガラス片が残ってしまうおそれがある。このため、キャピラリチューブは上記の用途に不向きであった。
【0007】
そこで本出願人は、非常に細い血管であっても針管を刺通させ、その針管を通して血管に治療液を注入することができる注射針を試行錯誤の末に実現し、その注射針に係る発明を出願した(特願2012−230450号明細書を参照)。
【0008】
その後、本発明者らは、上記先願の注射針について更なる改良を試みた。そのなかで、本発明者らは当初、網膜の静脈に注射針を刺すときは、通常の血管注射と同様に、血管に沿うように注射針を傾けた(倒した)状態で針先を血管に刺すことが望ましいと考えた。このため、上記先願の明細書には、注射針を曲げた構成を一つの実施の形態として開示した。また、針先の形状等に関しては、通常の医療用の注射針と同様に、注射針の中心軸に対して刃面の傾斜角度を20°程度に小さくしたり、刃面の傾斜角度を2段階に変えたりすることを考えた。
【0009】
ところが、網膜静脈閉塞症の治療に使用する注射針としては、必ずしもそのような構成の注射針が好ましいわけではないことが判明した。以下、説明する。
網膜静脈閉塞症の治療では、網膜の静脈に対して注射針を所定の角度(以下、「刺入角度」ともいう。)で刺して治療液を注入する。その際、注射針の曲がりを利用して針の先端側を大きく傾けた状態(刺入角度を小さくした状態)にすると、治療液が効率良く血管(静脈)に注入されずに、血管の外に漏れてしまうことがあった。この原因は、静脈に注射針を刺したときに、針先部分にある治療液の吐出口が血管内に収まりきれず、吐出口の一部がはみ出すことにより、治療液が血管の外に漏れるためであることが分かった。
【0010】
このような不具合は、注射針の刃面の傾斜角度を小さくすると発生しやすくなる。その理由は、次のとおりである。まず、刃面の傾斜角度が小さくなると、注射針の中心軸方向における刃面の長さが長くなる。刃面の長さが長くなると、静脈に注射針を刺したときに、針先が刺通方向奥側の血管壁に干渉しやすくなる。このため、静脈に対する注射針の刺し込みが浅くなり、吐出口が血管からはみ出しやすくなる。また、静脈に対する注射針の刺入角度を大きくすると、針先がますます血管壁に干渉しやすくなる。
【0011】
このような事情により、本発明者らは、上記先願の注射針の構成、特に、針先部分の形状や寸法等について鋭意検討を重ねて本願発明を想到するに至った。
【0012】
本発明の主な目的は、非常に細い血管に針管を刺通させ、その針管を通して血管に効率良く治療液を注入することができる注射針を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様は、
針先に治療液の吐出口を有する針管を備える注射針であって、
前記針管は、前記吐出口が形成された刃面を有する刺通管と、この刺通管よりも太い主針管とを有し、前記主針管の先端部に前記刺通管を設けたものであり、
前記刺通管は、外径が70μm以下(ゼロを含まず)、内径が40μm以下(ゼロを含まず)の寸法条件を満たすとともに、当該刺通管の中心軸に対する前記刃面の傾斜角度θが30°<θ≦45°の条件を満たす
ことを特徴とする注射針である。
【0014】
本発明の第2の態様は、
前記刺通管の中心軸方向の前記刃面の長さLhが30μm≦Lh≦120μmの条件を満たす
ことを特徴とする上記第1の態様に記載の注射針である。
【0015】
本発明の第3の態様は、
前記刺通管の刃面の側面を切り欠いた形状とした
ことを特徴とする上記第1または第2の態様に記載の注射針である。
【0016】
本発明の第4の態様は、
前記刺通管の刃面における前記吐出口の位置が針先側に片寄っている
ことを特徴とする上記第1〜第3の態様のいずれかに記載の注射針である。
【0017】
本発明の第5の態様は、
前記針管は、真っ直ぐに形成されている
ことを特徴とする上記第1〜第4の態様のいずれかに記載の注射針である。
【0018】
本発明の第6の態様は、
針先に治療液の吐出口を有する針管を備える注射針であって、
前記針管は、前記吐出口が形成された刃面を有する刺通管と、この刺通管よりも太い主針管とを有し、前記主針管の先端部に前記刺通管を設けたものであり、
前記刺通管は、外径が70μm以下(ゼロを含まず)、内径が40μm以下(ゼロを含まず)の寸法条件を満たすとともに、当該刺通管の中心軸方向の前記刃面の長さLhが30μm≦Lh≦120μmの条件を満たす
ことを特徴とする注射針である。
【0019】
本発明によれば、非常に細い血管に針管を刺通させ、その針管を通して血管に効率良く治療液を注入することができる注射針を提供することが可能となる。これにより、網膜静脈閉塞症患者の網膜の静脈血流の再生に有効な治療法の早期確立に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の実施の形態においては、次の順序で説明を行う。
1.注射針の構成
2.注射針の製造方法
3.実施の形態に係る効果
4.他の実施の形態
5.変形例等
【0022】
<1.注射針の構成>
図1は本発明の実施の形態に係る注射針の構成例を示す図である。図示した注射針1は、主として、針基2と針管3とによって構成されている。針基2は、図示しない注射器に注射針1を取り付ける場合に、この注射器のシリンジ先端に着脱可能に装着される部分である。針基2は、たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂を用いて形成されている。針基2は、全体的に段付きの円筒状に形成されている。
【0023】
針管3は、針基2の先端部に取り付けられている。針管3は、たとえば、ステンレス鋼などの金属を用いて、細い管状に形成されている。針管3は、針基側から針先側に向かって真っ直ぐに形成されている。針管3は、それぞれ寸法(外径、内径、長さ)の異なる複数の管を組み合わせた多段構造になっている。本実施の形態においては、一例として、主針管31、刺通管32および補強管33を組み合わせた3段構造になっている。なお、針管3を金属で構成する場合は、ステンレス鋼の他にも、たとえばニッケルクロム鋼を用いることが可能である。
【0024】
主針管31は、3つの管のなかで最も長い管である。主針管31の長さL1は、針基2の先端部からの突出寸法で規定している。主針管31の基部は、針基2の先端部分に接着等によって固定されている。主針管31の外径d1は、刺通管32の外径d2(
図3参照)よりも大きく、かつ、補強管33の外径d3よりも小さい寸法、たとえば、0.3mmに設定される。主針管31の長さL1は、注射針1の用途に適した寸法に設定される。ちなみに、本実施の形態においては、医療用のなかでも眼科医療、特に、眼球内に針管3を通して網膜の静脈に刺通させる目的で使用される注射針を想定している。このため、主針管31の長さL1は、眼球の大きさを考慮して、たとえば、針基2の先端部から25mm以上の長さ(好ましくは、27mm前後)を確保するように設定される。
【0025】
図2は刺通管の取付状態を示す要部断面図であり、
図3は刺通管の構造を説明する図である。なお、
図3の(B)は(A)のP部断面を示す拡大図である。刺通管32は、3つの管のなかで最も短く、かつ最も細い管である。刺通管32は、主針管31の先端部に設けられている。刺通管32の基部は、主針管31の先端部に同心状に固定されている。刺通管32の先端部(針先)には刃面32Cが設けられている。刃面32Cは、針管3の中心軸に対して斜めに傾斜した状態で形成されている。刃面32Cの傾斜角度については後段で記述する。
【0026】
刺通管32は、一部32Aが主針管31の先端部から突出し、他の部分32Bが主針管31の内部に挿入されている。以降の説明では、刺通管32の一部32Aを「突出部32A」、他の部分32Bを「挿入部32B」という。刺通管32の長さ(全長)L2は、好ましくは、7mm未満(ゼロを含まず)の条件を満たすように設定されている。この条件を適用する理由については後で述べる。突出部32Aの突出寸法L21は、好ましくは、0.3mm以上1.0mm以下に設定されている。突出部32Aの突出寸法L21を0.3mm以上とした理由は、これよりも短くすると、主針管31と刺通管32の外径差に伴う段付き部分の陰に突出部32Aが隠れてしまい、刺通管32の針先部分の位置確認が困難になるためである。ただし、主針管31の先端部分をテーパー加工した場合には、突出部32Aの突出寸法L21を、刺通管32先端の傾斜を考慮して0.15mmとすることが可能である。また、突出部32Aの突出寸法L21を1.0mm以下とした理由は、これよりも長くすると、刺通管32が刺通時の抵抗(以下「刺通抵抗」という。)に負けて曲がりやすくなるためである。挿入部32Bの挿入寸法L22は、刺通管32の長さL2や先端部の加工方法、突出部32Aの突出寸法L21にもよるが、好ましくは、0.5mm以上3.0mm以下に設定される。
【0027】
突出部32Aの先端部には、上述した刃面32Cが形成されている。刃面32Cには吐出口32Dが形成されている。吐出口32Dは、刃面32Cの面内に開口している。吐出口32Dは、図示しない加圧手段による押圧力を受けて治療液が吐出する部分である。治療液は、治療に用いられる液体であれば特に制限はなく、たとえば、薬液、生理食塩水、純水などを挙げることができる。吐出口32Dは、刺通管32の中心軸に沿う流路32E(
図3参照)の最下流部に形成されている。刺通管32の外径d2は、70μm以下(ゼロを含まず)の条件を満たすように設定されている。この条件を適用する理由は、刺通管32の外径d2が70μmを超えると、目的とする100μm程度の太さの血管(網膜の静脈)に対し、刺通管32が太くなりすぎるためである。この血管に刺通管32を刺通させるときの手技の容易性等を考慮すると、刺通管32の外径d2は60μm以下とすることが好ましい。ただし、刺通管32の外径d2を過度に小さくすると、刺通管32を金属で構成する場合に、(1)刺通管32の内径d4の確保が難しくなる、(2)刺通管32が刺通抵抗に負けて曲がりやすくなる、という不具合が生じる可能性がある。このため、刺通管32の外径d2は40μm以上、好ましくは、50μm程度とすることが好ましい。
【0028】
刺通管32の内径(流路32Eの直径)d4は、40μm以下(ゼロを含まず)の条件を満たすように設定されている。この条件を適用する理由は、後述する注射針1の製造方法(特に、刺通管32の作製方法)で採用する引き抜き加工においては、刺通管32の内径d4が刺通管32の外径d2の60%程度又はそれを少し下回る程度の寸法になるためである。刺通管32の内径d4は、単に液体の流通性だけを考慮すれば大きいほうが好ましいものの、上述した刺通管32の外径d2を考慮すると、20μm以上30μm以下とすることが好ましい。なお、刺通管32を引き抜き加工で作製すると、刺通管32の内周面に多数の細かな凹凸(引き抜き加工による絞り皺)が形成される。その場合、刺通管32の内径d4は、上記の凹凸による山の部分と谷の部分の中間にあたる、平均的な径で規定されるものとする。
【0029】
補強管33は、3つの管のなかで最も太い管である。補強管33は、主針管31を内挿するかたちで針管3の根元側に取り付けられている。補強管33は、針管3の補強目的、特に、針管3全体の剛性を高めるために設けられている。補強管33の基部は、上述した主針管31とともに、針基2の先端部分に接着等によって固定されている。補強管33の長さL3は、たとえば、主針管31の長さL1の1/5以上2/3以下の寸法、より好ましくは、1/3以上2/3以下の寸法に設定するとよい。補強管33の長さL3は、針基2の先端部からの突出寸法で規定している。
【0030】
補強管33の外径d3は、主針管31の外径d1にもよるが、たとえば、0.5mmに設定される。補強管33の内径は、補強管33の中に主針管31を通すことができるように、少なくとも主針管31の外径d1よりも大きく設定されている。補強管33は、主針管31の外側に同心状に二重管構造をなすように取り付けられている。なお、補強管33は、本発明において必須の要素ではなく、主針管31の長さや太さにより、必要に応じて設けられるものである。
【0031】
(刃面の傾斜角度)
ここで、刃面32Cの傾斜角度について
図4(A),(B)を用いて説明する。
図示のように、刃面32Cの傾斜角度θは、刺通管32の中心軸Jと刃面32Cとがなす角度で規定される。本実施の形態に係る注射針1では、刺通管32の中心軸Jに対する刃面32Cの傾斜角度θが、30°<θ≦45°の条件を満たすように設定されている。
【0032】
一般的な医療用の注射針では、刃面の傾斜角度が大きくても20°程度に抑えられている。刃面の傾斜角度を小さくする主な理由は、刺通抵抗を小さくするためである。同様の理由で、刃面の傾斜角度を複数段(多くは二段)に変えた注射針もある。たとえば、刃面の傾斜角度を二段に変えた注射針では、刃先の部分が鋭利になるように、針先側の傾斜角度をより小さくしている。
これに対して、本実施の形態に係る注射針では、刺通管32の刃面32Cの傾斜角度θが、一般的な医療用の注射針とくらべて10°以上も大きくなっている。また、刺通管32の刃面32Cは、傾斜角度が異なる複数の平面又は曲面ではなく、傾斜角度が共通の一つの平面で形成されている。ただし、刺通管32の刃面32Cは、平均的な傾斜角度が共通する面であればよく、必ずしも単一の平面で形成されている必要はない。
また、本実施の形態に係る注射針の構成として、上述した刺通抵抗を小さくするために、刺通管32の刃面32Cの側面を切り欠いた形状(刃面32Cの側面のエッジを落とした形状)にしてもよい。
【0033】
図5(A)〜(D)は刃面の傾斜角度を変えた場合の具体例を示す図である。
図5(A)は刃面32Cの傾斜角度θ1を約31°に設定した場合、同(B)は刃面32Cの傾斜角度θ2を約35°に設定した場合である。また、
図5(C)は刃面32Cの傾斜角度θ3を約40°に設定した場合、同(D)は刃面32Cの傾斜角度θ4を約45°に設定した場合である。
【0034】
(刃面の長さ)
上記
図5(A)〜(D)をみて分かるように、刃面32Cの傾斜角度θが大きくなると、それにつれて刃面32Cの長さLhが短くなる。具体的には、刃面32Cの傾斜角度がθ2≒35°のときの刃面32Cの長さLh2は、θ1≒31°のときの刃面32Cの長さLh1よりも短くなり、刃面32Cの傾斜角度がθ3≒40°のときの刃面32Cの長さLh3は、θ2≒35°のときの刃面32Cの長さLh2よりも短くなる。また、刃面32Cの傾斜角度がθ3≒40°のときの刃面32Cの長さLh3は、θ1≒35°のときの刃面32Cの長さLh2よりも短くなり、刃面32Cの傾斜角度がθ4≒45°のときの刃面32Cの長さLh4は、θ3≒40°のときの刃面32Cの長さLh3よりも短くなる。ここで記述する刃面32Cの長さ(Lh)は、上記
図4にも示すように、刺通管32の中心軸Jの方向における刃面32Cの長さを意味し、より具体的には、同方向における刃面32Cの一端Paから他端Pbまでの長さを意味する。
【0035】
刃面32Cの長さLhは、刺通管32を血管(網膜の静脈)に刺したときに、刃面32Cの吐出口32Dの大半(好ましくは全部)が血管内に収まりやすい寸法に設定するのがよい。具体的には、刃面32Cの長さLhは、網膜の静脈の太さが直径100μm程度であることを考慮すると、30μm以上、120μm以下の範囲内に設定するのがよい。
【0036】
<2.注射針の製造方法>
次に、注射針1の製造方法について説明する。まず、注射針1の構成部品となる針基2、主針管31、刺通管32、補強管33を用意する。このうち、刺通管32を除く部品は、一般的な医療用の注射針の構成部品と同様の方法(ただし、刃面の形成はなし)で作製可能である。このため、ここでは刺通管32の作製方法について詳しく説明する。
【0037】
刺通管32を作製する場合は、まず、目的とする上記外径d2よりも大きな外径を有する、断面円形の金属の管を作製する。具体的には、たとえば、SUS304などステンレス鋼の薄板を丸めて継ぎ目の部分を溶接する。このとき、必要に応じて、継ぎ目部分を研磨する。
【0038】
次に、上記の金属管を引き抜き加工により細くする。具体的には、
図6に示すように、金属管11の中に円錐形のプラグ12を挿入し、このプラグ12の円錐面に沿うようにダイス13に設けられたテーパー形状の穴14に金属管11を通す。そして、この穴14の大径側から小径側に向かって金属管11を引き抜く。これにより、ダイス13の穴14を通して引き抜かれた金属管11の外径は、穴14の小径側の開口寸法と同等の寸法まで細く絞られる。このような引き抜き加工を、たとえば、金属管11の外径が0.5mmくらいに細くなるまで複数回にわたって繰り返す。その後さらに、上記のプラグ12を挿入しない状態で引き抜き加工を複数回にわたって繰り返すことにより、金属管11の外径を所望の寸法(たとえば、50μm)まで細くする。
【0039】
次に、金属管11を所望の長さに切断する。次に、ワイヤーカット放電加工や研削加工等によって、金属管11の端部を斜めに切断する。これにより、その切断面を刃面32Cとする刺通管32が得られる。
なお、注射針1の製造方法の変形例として、主針管31の所定の箇所まで更に引き抜き加工を行い、主針管31と刺通管32が一体となった針を製作することも可能である。
【0040】
次に、注射針1の構成部品の組立手順について説明する。
まず、針基2に主針管31を取り付ける。具体的には、針基2の先端側に形成されている貫通孔(不図示)に主針管31の端部を挿入した後、針基2の先端部にディスペンサ等を用いて適量の接着剤を供給する。接着剤としては、たとえば、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を用いることができる。ただし、この段階では、接着剤を未硬化の状態にしておく。
【0041】
次に、主針管31の先端側から補強管33を嵌め入れるとともに、この補強管33の端部を上記接着剤に接触させた状態で針基2の先端部に突き当てる。その後、加熱または光(紫外線等)の照射によって接着剤を硬化させ、針基2の先端部分に主針管31と補強管33を一緒に固定する。
【0042】
次に、主針管31の先端部に刺通管32の端部(挿入部32Bとなる部分)を挿入する。このとき、刺通管32の突出部32Aが主針管31の先端部から、たとえば0.5mmほど突出するように、刺通管32の端部を主針管31の内部に挿入する。その後、たとえば、レーザ溶接や接着剤などによって主針管31に刺通管32を固定する。レーザ溶接の場合は、刺通管32の挿入部32Bを囲んでいる主針管31の外周面にレーザ光を照射することにより、主針管31の内周面と補強管33の外周面とを溶融によって接合する。レーザ光の照射箇所は、主針管31の円周方向の複数箇所(たとえば、120°の等間隔で3箇所)とすればよい。
【0043】
<3.実施の形態に係る効果>
本発明の実施の形態に係る注射針1においては、以下のような効果が得られる。
【0044】
(第1の効果)
針管3の構成として、刺通管32の刃面32Cの傾斜角度θを、通常の医療用の注射針よりも大きい30°<θ≦45°の範囲に設定している。これにより、針管3の刺通性(刺しやすさ)を良好に確保したうえで、針管3を通して静脈に効率良く治療液を注入することができる。以下、詳しく説明する。
【0045】
まず、針管3の刺通性について説明する。
上述のように刃面32Cの傾斜角度θを大きく設定した場合は、それによって切っ先の鋭さが失われる。このため、一般的な医療用の注射針と同様に考えれば、刺通管32の刺通抵抗が大きくなって、狙いとする血管に刺しにくくなることが懸念される。しかしながら、実際に本発明者らが作製した刺通管32付きの注射針1を使用して刺通性を確認したところ、特に支障なく刺通管32を静脈に刺通させることができた。その理由としては、次のようなことが考えられる。
【0046】
一般的な医療用の注射針を使用して血管に注射針を刺す場合は、皮膚を通して注射針を血管に刺すことになる。このため、注射針の刃面の傾斜角度を小さくして切っ先を鋭くしないと、針先を皮膚に刺すときの刺通抵抗が大きくなって刺通性が悪化してしまう。
これに対して、本実施の形態に係る注射針1を使用して網膜の静脈に刺通管32を刺す場合は、皮膚を通さずに、網膜の表層(内境界膜)を通して刺通管32を静脈に刺すことになる。網膜の表層は皮膚にくらべて非常に薄く、網膜の静脈も腕などの静脈に比べて弱い。このため、刃面32Cの傾斜角度θがある程度大きくても、比較的容易に刺すことができるものと考えられる。
【0047】
次に、網膜の静脈に治療液を注入するときの注入効率について説明する。
治療液の注入効率を高めるには、刺通管32を静脈に刺したときに、刺通管32の吐出口32Dが静脈の外にはみ出さないようにすることが重要である。この点、上述のように刃面32Cの傾斜角度θを大きく設定した場合は、その分だけ刃面32Cの長さLhが短くなる。このため、刺通管32を静脈に刺通させたときに、刃面32Cの吐出口32Dを静脈の中に収めやすくなる。したがって、網膜の静脈のような非常に細い血管であっても、この血管に針管3を刺通させ、この針管3を通して血管に効率良く治療液を注入することができる。特に、刃面32Cの長さLhを30μm≦Lh≦120μmの範囲に設定した場合は、刺通管32を静脈に刺したときに、針先を刺通方向奥側の血管壁に干渉させることなく、刃面32Cの吐出口32Dを静脈内に収めることができる。
【0048】
以上のことから、針管3の刺通性を良好に確保したうえで、針管3を通して静脈に効率良く治療液を注入することが可能となる。
【0049】
(第2の効果)
本発明の実施の形態に係る注射針1によれば、以下の理由により、静脈に与えるダメージを軽減することができる。
刺通管32を静脈に刺して治療液を注入する場合は、極細の刺通管32に治療液を通す必要がある。このため、図示しない加圧手段によって、ある程度強い圧力を加えて治療液を押し出す必要がある。したがって、刺通管32の吐出口32Dからは、勢いよく治療液が飛び出すことになる。そうした場合、治療液の勢いに押されて静脈がダメージを受けるおそれがある。以下、さらに詳しく説明する。
【0050】
まず、網膜の表層側(内境界膜側)を上側、その反対側を下側とすると、網膜の静脈に刺通管32を刺すときは、吐出口32Dを上向きにする。このとき、刃面32Cの傾斜角度θを仮に通常の注射針と同様に15°〜20°の範囲に設定すると、刃面32Cの吐出口32Dから飛び出した治療液が上側の血管壁に向かって進みやすくなる。したがって、治療液の勢いに押されて静脈がダメージを受けやすくなる。
【0051】
これに対して、刃面32Cの傾斜角度θを30°<θ≦45°の範囲に設定すると、傾斜角度θが大きくなった分だけ、静脈の内部で刃面32Cが先ほどよりも起き上がった状態になる。このため、網膜の静脈に刺通管32を刺すときの角度(刺入角度)が大きい場合は、刃面32Cの吐出口32Dから飛び出した治療液が血管壁に沿って進みやすくなる。したがって、治療液を吐出したときに血管壁に作用する圧力をくらべると、刃面32Cの傾斜角度θを大きくした方が、当該圧力は弱くなる。よって、静脈に与えるダメージは小さくなる。
【0052】
(第3の効果)
本発明の実施の形態に係る注射針1によれば、網膜静脈閉塞症のうち、特に、中心静脈閉塞症の治療に好適に対応することが可能となる。以下、詳しく説明する。
中心静脈閉塞症は、文字通り網膜の中心部(視神経乳頭付近など)で静脈が詰まる病気である。網膜の静脈は、網膜の中心部からアーケード状に網膜全体に広がっている。このため、網膜の中心部(血管の根元部分)で詰まりが発生すると、その影響は網膜全体におよんでしまい、視力への悪影響が大きくなる。したがって、詰まった血管を治療液(血栓溶解剤など)の注入によって解消することが非常に有効になる。ただし、網膜の中心部からは複数の方向に向かって静脈が曲がりながら伸びている。このため、網膜の中心部の静脈であっても、その位置によって静脈の向きが異なる。
【0053】
これに対して、たとえば、上記先願明細書に開示したように、針管3を途中で曲げた形状にすると、閉塞している静脈の向きによっては、注射針の針先部分(刺通管32)を静脈の向きに沿わせることが難しい場合がある。また、針管3が曲がっていると、カニューラの孔に針管3を通しにくくなるうえに、かえって針先の部分を静脈に刺しにくくなる場合がある。
【0054】
一方、本実施の形態に係る注射針1においては、針管3を真っ直ぐに形成した構成を採用している。この構成を採用した場合は、網膜の中心部の静脈に刺通管32を刺すときの角度(刺入角度)が非常に大きくなる。具体的には、刺入角度が45°以上、90°以下の範囲となる。このため、静脈に対してより垂直に近い方向から刺通管32を突き刺すことになる。このとき、刺通管32の刃面32Cの傾斜角度θが大きくても、静脈やこれを覆っている膜が非常に弱いため、刺通管32の先端を容易に突き刺すことができる。また、刃面32Cの長さLhが短くなるため、吐出口32Dが静脈内に収まりやすくなる。さらに、曲がった針管3を使用する場合は、狙いとする静脈の向きに刺通管32の向きを沿わせる必要があるが、本実施の形態のように針管3を真っ直ぐに形成した場合は、その必要がない。また、針管3が針基から針先に向かって真っ直ぐに伸びているため、狙いとする静脈に正確に針先(刺通管32)を刺すことができる。したがって、中心静脈閉塞症の治療に好適に対応することが可能となる。
【0055】
<4.他の実施の形態>
図7は本発明の他の実施の形態に係る注射針の要部の構成を示す図である。
図7においては、刺通管32の刃面32Cにおける吐出口32Dの位置が針先側に片寄っている。具体的には、刺通管32の中心軸Jの方向において、刃面32Cの針先側の長さLaが、刃面32Cの針基側の長さLbよりも短くなっている。このため、刺通管32の針先の直近に吐出口32Dの端が位置している。各々の長さLa,Lbの比は、たとえば、長さLaを1.0とすると、長さLbを1以上、4以下の範囲に設定することが望ましい。
このような構成の注射針は、上述した<注射針の製造方法>において、金属管11の端部を斜めに切断した後、この切断面を化学研磨することにより得られる。
【0056】
上記構成の注射針を使用して網膜の静脈に治療液を注入する場合は、静脈に対して刺通管32をそれほど深く刺さなくても、静脈内に吐出口32Dを収めることができる。このため、刺通管32の針先が静脈の血管壁に干渉しにくくなる。したがって、網膜静脈閉塞症の治療を、より安全に行うことができる。
【0057】
ちなみに、刺通管32の中心軸方向において、吐出口32Dの位置を刃先側に寄せた構成は、刃面32Cの傾斜角度θを30°<θ≦45°の範囲で規定したものや、刃面32Cの長さLhを30μm≦Lh≦120μmの範囲で規定したものに適用可能であることは勿論であるが、これ以外の注射針にも広く適用可能である。その場合の好ましい態様を以下に付記する。
【0058】
(付記)
針先に治療液の吐出口を有する針管を備える注射針であって、
前記針管は、前記吐出口が形成された刃面を有する刺通管と、この刺通管よりも太い主針管とを有し、前記主針管の先端部に前記刺通管を設けたものであり、
前記刺通管の刃面における前記吐出口の位置が針先側に片寄っている
ことを特徴とする注射針。
【0059】
<5.変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0060】
たとえば、上記実施の形態においては、針管3を真っ直ぐに形成したものを例示したが、本発明はこれに限らず、たとえば
図8に示すように、針管3が途中で曲がった形状のもの、あるいは図示はしないが、針管3が全体的に弓形に曲がった形状のものにも適用可能である。網膜静脈閉塞症の治療においては、狙いとする静脈の位置や向きにより、針管3が曲がった注射針が使いやすい場合と、針管3が真っ直ぐの注射針が使いやすい場合がある。このため、狙いとする静脈の位置や向きに応じて、針管3の形状が異なる注射針を使い分けてもよい。
【0061】
また、上記実施の形態においては、刺通管32の刃面32Cの傾斜角度θを30°<θ≦45°とし、かつ、刺通管32の刃面32Cの長さLhを30μm≦Lh≦120μmとしたが、これらの条件は必ずしも同時に満たす必要はなく、いずれか一方の条件を満たすものであってもよい。
【0062】
また、上記実施の形態においては、特に好ましい形態例として、刺通管32の刃面32Cの傾斜角度θを「30°超45°以下」と規定しているが、これを次の(付記2)に記載するように「30°以上45°以下」と規定してもよい。
(付記2)
針先に治療液の吐出口を有する針管を備える注射針であって、
前記針管は、前記吐出口が形成された刃面を有する刺通管と、この刺通管よりも太い主針管とを有し、前記主針管の先端部に前記刺通管を設けたものであり、
前記刺通管は、外径が70μm以下(ゼロを含まず)、内径が40μm以下(ゼロを含まず)の寸法条件を満たすとともに、当該刺通管の中心軸に対する前記刃面の傾斜角度θが30°≦θ≦45°の条件を満たす
ことを特徴とする注射針。
このように規定した場合でも、一般的な医療用の注射針で採用されている刃面の傾斜角度(15°〜20°)とくらべて、刺通管32の刃面32Cの傾斜角度θが十分に大きなものとなる。このため、網膜の静脈に治療液を注入するときに用いて好適な注射針を実現することができる。
【0063】
また、上記実施の形態においては、注射針1を製造する場合に、所望の外径を有する金属管を所望の長さに切断してから、その針先部分をワイヤーカット放電加工や研削加工するとしたが、本発明はこれに限らず、次のような方法を採用することも可能である。
【0064】
まず、上述した引き抜き加工によって所望の寸法(外径)まで細くした金属管を、最終的に得られる刺通管32の2本分の長さに切断する。次に、その金属管の長さ方向の中間部分をレーザ加工によって斜めに切断する。これにより、1回のレーザ照射による切断によって2本の刺通管32が同時に得られる。その際、レーザ加工としては、非熱加工が可能なパルスレーザ加工、さらに好ましくは、フェムト秒レーザ加工またはピコ秒レーザ加工を採用することが望ましい。その理由は、パルスレーザ加工等を採用した場合は、刺通管32の元になる金属管の切断面のエッジ部分が、熱によってダレたりせずに鋭利に形成され、刺通抵抗が小さくなるためである。また、太さが100μm程度の細い血管を想定して径を細く絞った刺通管32の先端を研磨する場合は、その細さ故に研磨くずの発生やそれによる詰まりなどが懸念されるが、パルスレーザ加工等を採用した場合は、そのような懸念が生じることもない。
【0065】
また、上記のレーザ加工に際しては、たとえば、2本分の長さをもつ複数の金属管を図示しない支持具に並べ、それらの金属管をレーザ加工により順に切断することにより、効率的に作業を進めることができる。また、上記の支持具を用いて、金属管の切断予定部を浮いた状態に支持し、そこにレーザ光を集光させて切断することにより、金属管の切断面の汚染を低減することができる。その理由は、金属管の切断予定部を浮いた状態にして、そこにレーザ光を集光させると、金属管以外の物質の蒸発や飛散が抑えられ、金属管の切断面に他の物質が付着しにくくなるためである。
【0066】
また、パルスレーザ加工等を採用する場合は、次のような製造手順を採用することも可能となる。まず、引き抜き加工によって得られた金属管を、取り扱い容易な長さ(たとえば、10mmなど)に切断する。次に、切断した金属管の一部を主針管31内に挿入してレーザ溶接等により固定する。その後、パルスレーザ加工等により金属管の先端部分を所望の長さで斜めに切断する。この手順を採用することにより、外径70μm以下の刺通管32を有する注射針であっても、突出部を短く設定することができる。
【0067】
また、上記実施の形態においては、針基2に取り付ける針管3の構造を、主針管31、刺通管32および補強管33を用いた3段構造としたが、本発明はこれに限らない。具体的には、針管3の構成として、刺通管32を除く部分を、主針管31と補強管33を組み合わせた二重管構造とせず、一重管構造の主針管だけで構成することも可能である。その場合は、上述した引き抜き加工によって金属管(主針管)の長さ方向の途中にテーパー状(斜め)の段部を形成し、この段部を境にして針基側の管径を大きく、針先側の管径を小さくした構成とすればよい。
【0068】
また、針基2にフィルタを内蔵し、このフィルタで微細な異物等を捕獲することにより、針管3内(特に、刺通管32内)での詰まりを回避し得る構成を採用してもよい。
【0069】
また、上記の注射針1は、非常に細い血管に刺通する際に用いて好適なものであるが、本発明はこれに限らず、医療用途全般またはそれ以外の用途にも広く使用することが可能である。