(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
まず、本発明を適用可能なMIMO無線伝送システムの全体構成について説明する。
図1は、本発明を適用可能な一実施形態に係る閉ループ型のMIMO無線伝送システムの下りリンクにおける無線基地局及びユーザ装置の概略構成の一例を示す機能ブロック図である。
図1に示すMIMO無線伝送システムは、ユーザ装置10からフィードバックされる最適な送信アンテナウェイト行列の候補データテーブル(コードブック)のインデックスである制御情報(PMI:Precoding Matrix Indicator)に基づき、送信レイヤ(ストリーム)ごとに異なる送信アンテナウェイトを送信信号に乗算する、閉ループ型のMIMO無線伝送システムである。
なお、本実施形態の閉ループ型のMIMO無線伝送システム(Closed-Loop MIMO)では、LTEの通信規格に準拠した2−送信レイヤ(ランク数が2)の構成の場合について例示するが、本発明は、この構成に限定されるものではない。
【0011】
図1において、ユーザ装置10は、ユーザが各種通信サービスを利用する際に使用可能な無線通信装置であり、「通信端末」や「端末」と呼ばれたり、移動可能なものであるため「移動局」と呼ばれる場合もあり、また、「無線機」と呼ばれる場合もある。ユーザ装置10は、携帯電話機等の移動通信端末であってもよい。
図1に示すように、ユーザ装置10は、複数のアンテナ100と、下りリンクチャネル推定部101と、下りリンク制御信号復調部102と、データ信号分離合成部103と、直列並列変換部(S/P)104と、制御情報(RI/PMI/CQI)生成部105と、上りリンク送信部106とを備えている。
【0012】
なお、
図1の例では、ユーザ装置10が複数のアンテナ100を備えた場合を示しているが、ユーザ装置10が有するアンテナ100の数は特定の数に限定されるものではない。例えば、ユーザ装置10は、1本のアンテナ100を備えるものでもよいし、2本又は4本等の複数本のアンテナ100を備えるものであってもよい。また、ユーザ装置10は、複数のアンテナ100を備える場合、実際のMIMO通信時に使用されるアンテナの本数を切り換えることができるものであってもよい。
【0013】
また、ユーザ装置10の下りリンクチャネル推定部101において、基地局装置20の各アンテナ200〜ユーザ装置10の各アンテナ間の無線伝搬路応答をそれぞれ推定し、MIMOチャネル応答を取得するため、無線基地局20のマルチプレクサ208において、既定のパイロット信号である参照信号RSが多重されるが、本図では図示していない。ここで、参照信号RSは、セルに固有の信号であるため、セル固有参照信号(CSRS:Cell-Specific Reference Signal)とも呼ばれる。
【0014】
下りリンクチャネル推定部101は、まず、各アンテナ100からの受信信号を参照信号RS部分、データ信号部分、下り制御信号部分の受信信号にそれぞれ分割する。次に参照信号RS部分の受信信号と既定の参照信号RSの送信系列にもとづきMIMOチャネル応答を推定する。そして、そのMIMOチャネル応答の推定結果であるチャネル推定値をデータ信号部分および下り制御信号部分の受信信号ともに、データ信号分離部103および下り制御信号復調部にそれぞれ出力する。さらに、上記チャネル推定値を制御情報(RI/PMI/CQI)生成部105に出力する。
【0015】
下りリンク制御信号復調部102は、下りリンクチャネル推定部101から受けた受信信号から制御信号を復調し、ユーザデータを復調および復号するために必要な送信方式の情報であるMCS(Modulation and Coding Scheme)、ランク(Rank)及びT−PMI(Transmit-Precoding Matrix Indicator)の制御情報として取得し、データ信号分離合成部103に出力する。
【0016】
データ信号分離合成部103は、下りリンク制御信号復調部102から受けた制御情報に基づいて、下りリンクチャネル推定部101から受信したユーザデータの受信信号を分離及び/又は合成し、所定数のコードワードからなるデータとして直列並列変換部(S/P)104に出力する。
【0017】
直列並列変換部(S/P)104は、下りリンクのランク数に応じて、データ信号分離合成部103から受けた所定数のコードワードからなるデータを、ユーザが利用可能な受信データ(ユーザデータ)に変換する。
【0018】
制御情報(RI/PMI/CQI)生成部105は、下りリンクチャネル推定部101から受けたチャネル推定値に基づいて、データレートを最大化するランクを決定し、このランクをランク情報(RI:Rank Indicator)として生成して出力する。また、制御情報(RI/PMI/CQI)生成部105は、上記チャネル推定値に基づいて、下りリンクのデータ送信に適したプリコーディングマトリクスを決定し、このプリコーディングマトリクスを示すPMI(Precoding Matrix Indicator)を候補データテーブル(コードブック)の中から選択して出力する。さらに、制御情報(RI/PMI/CQI)生成部105は、上記チャネル推定値に基づいて、チャネル品質情報としてのCQI(Channel Quality Indicator)を測定して出力する。この制御情報(RI/PMI/CQI)生成部105から出力されたランク情報RI、PMI及びCQIはそれぞれ、制御情報として上りリンク送信部106に出力され、上りリンクの制御チャネル(PUCCHまたはPUSCH)を介して、アンテナ100から無線基地局20に送信される。
【0019】
特に、上記下りリンクチャネル推定部101及び制御情報(RI/PMI/CQI)生成部105は、次の(1)〜(4)の各手段としても機能する。
(1)ユーザ装置10と無線基地局20との間で送受信される既知のパイロット信号である参照信号RSの受信結果に基づいて、ユーザ装置10と無線基地局20との間におけるMIMOチャネルの間の相関を示すMIMOチャネル行列の相関行列の複数の固有値を算出する算出手段。
(2)前記既知のパイロット信号である参照信号RSの受信結果に基づいて、MIMOチャネルにおける干渉雑音レベルを推定する干渉雑音レベル推定手段。
(3)前記干渉雑音レベルの推定結果に基づいて閾値を設定する閾値設定手段。
(4)前記算出した複数の固有値と、前記閾値との比較結果に基づいて、MIMOチャネルにおけるデータ送受信に用いる送信レイヤ数を示すランク情報を生成するランク情報生成手段。
【0020】
また、上りリンク送信部106は、制御情報(RI/PMI/CQI)生成部105で生成されたランク情報RIを無線基地局20に送信するランク情報送信手段としても機能する。
【0021】
図1の構成のユーザ装置10は、下りリンクの既知のパイロット信号である参照信号RSの受信結果に基づいてMIMOチャネル応答を推定してチャネル推定値を求め、そのチャネル推定値から最適なランク情報RIを決定し、そのランク情報RIの値を最適なPMI/CQIとともに無線基地局20にフィードバックする。
なお、3GPP LTE(Long Term Evolution)の仕様にあるように、ランク情報RIの送信タイミングと、他の制御情報であるPMIやCQIの送信タイミングとが重なった場合、ランク情報RIの送信が優先される。
【0022】
また、
図1において、無線基地局20は、通信ネットワーク側とユーザ端末装置10との無線通信を中継する無線通信装置であり、「基地局装置」と呼ばれたり、単に「基地局」と呼ばれたりする場合もある。また、無線基地局20は、3GPP、LTEの仕様では「eNodeB(evolved Node B)」と呼ばれたりする場合がある。
【0023】
図1に示すように、無線基地局20は、複数のアンテナ200と、上りリンク受信部201と、下りリンクスケジューラ202と、プリコーディングウェイト生成部203と、下りリンク制御信号生成部204と、直列並列変換・変調部205と、乗算器206と、加算処理部(Σ)207と、マルチプレクサ208とを備えている。
【0024】
なお、
図1の例では、無線基地局20が複数のアンテナ200を備えた場合を示しているが、無線基地局20が有するアンテナ200の数は特定の数に限定されるものではない。例えば、無線基地局20は、1本のアンテナ200を備えるものでもよいし、2本又は4本等の複数本のアンテナ200を備えるものであってもよい。また、無線基地局20は、複数のアンテナ200を備える場合、実際のMIMO通信時に使用されるアンテナの本数を切り換えることができるものであってもよい。
【0025】
上りリンク受信部201は、上りリンクの制御チャネル(PUCCH)を介して、ユーザ装置10から制御情報(RI、CQI、PMI)を受信し、下りリンクスケジューラ202に送る。
【0026】
下りリンクスケジューラ202は、上りリンク受信部201から受信した制御情報(RI、CQI、PMI)に基づいて、ユーザ装置10との間の下りリンクで用いる各種制御パラメータを決定する。例えば、下りリンクスケジューラ202は、空間多重の送信レイヤ数を示すランク数(Rank)と、送信プリコーディング行列を指定するT−PMIと、変調及び符号化の方式を指定するMCSとを決定する。そして、下りリンクスケジューラ202は、上記決定したMCS及びRankの信号を直列並列変換・変調部205に送り、上記Rank及びT−PMIの信号をプリコーディングウェイト生成部203に送り、上記MCS、Rank及びT−PMIの信号を下りリンク制御信号生成部204に送る。
【0027】
プリコーディングウェイト生成部203は、下りリンクスケジューラ202から受けたRank及びT−PMIの信号に基づいて、ユーザ装置10に割り当てたリソースブロックでの上りリンクの受信品質から、複数のアンテナ200ごとに送信信号の位相及び/又は振幅を制御するためのプリコーディングウェイトを生成し、乗算器206に送る。
【0028】
下りリンク制御信号生成部204は、下りリンクスケジューラ202から受けたMCS、Rank及びT−PMIの信号に基づいて、下りリンクで用いる参照信号RSと、制御信号とを生成し、マルチプレクサ208に送る。
【0029】
直列並列変換・変調部205は、下りリンクスケジューラ202から受けたランク数(Rank)に基づいて、送信対象のユーザデータを送信レイヤ数分に分配する。また、乗算器206は、3本のアンテナ200に対応する3系統の乗算器206a、206b、206cで構成されている。ユーザデータが入力されると、直列並列変換・変調部205で下りリンクスケジューラ202から受けたデータを、乗算器206a、206b、206cによって送信データにプリコーディングウェイトが乗算され、位相・振幅がそれぞれ制御(シフト)されることにより、複数のアンテナ200ごとに送信信号が生成される。そして、複数の送信レイヤ(
図1の例では2レイヤ)に分配されて生成された送信信号は、その送信レイヤごとに加算器(Σ)207で加算された後、マルチプレクサ208で参照信号RS及び制御信号が更に多重され、3本のアンテナ200それぞれから送信される。
【0030】
上記
図1の構成のMIMO無線伝送システムでは、上記ランク数Rankは、上述したようにユーザ装置10からフィードバックされたランク情報RIに基づいて、無線基地局20側が決定する。例えば、ランク情報RI=1のときにランク数Rank=1、ランク情報RI=2のときにランク数Rank=2のように通常選択される。そして、ランク数Rank=1のとき単一送信ビームフォーミング、ランク数Rank≧2のときマルチビーム送信空間多重となる。
なお、3GPPの仕様にあるように、ランク数Rankの最終決定権は無線基地局20側が持っているので、無線基地局20側でランク数Rankを決定する際に、ユーザ装置10のランク情報RIの値に必ずしも従わなくてもよい。
【0031】
図2は、本発明を適用可能な他の実施形態に係る開ループ型のMIMO無線伝送システム(Open-Loop MIMO)の下りリンクにおける無線基地局及びユーザ装置の概略構成の一例を示す機能ブロック図である。
図2のMIMO無線伝送システムは、ランク情報RIとCQIとをユーザ装置10から無線基地局20にフィードバックするがPMIをフィードバックしない開ループ型のMIMO無線伝送システムである。なお、上記
図1と同様の構成については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0032】
図2において、ユーザ装置10の制御情報(RI/CQI)生成部115は、下りリンクチャネル推定部101から受けたチャネル推定値に基づいて、データレートを最大化するランクを決定し、このランクをランク情報RIとして生成して出力する。また、制御情報(RI/CQI)生成部115は、下りリンクチャネル推定部101から受けたチャネル推定値に基づいて、チャネル品質情報としてのCQIを測定して出力する。この制御情報(RI/CQI)生成部115から出力されたランク情報RI及びCQIは、制御情報として上りリンク送信部106に出力され、アンテナ100を介して無線基地局20に送信される。なお、上記
図1の構成と異なり、PMIの決定及び送信は行われない。
【0033】
このように、
図2の構成のユーザ装置10は、下りリンクの既知のパイロット信号である参照信号RSの受信結果に基づいてMIMOチャネル応答を推定してチャネル推定値を求め、そのチャネル推定値からランク情報RIを決定し、そのランク情報RIの値を最適なCQIとともに、上りリンクの制御チャネル(PUCCHまたはPUSCH)を介して無線基地局20に送信してフィードバックする。
なお、3GPPの仕様にあるように、ランク情報RIの送信タイミングと、他の制御情報であるCQIの送信タイミングとが重なった場合、ランク情報RIの送信が優先される。
【0034】
また、
図2において、無線基地局20の下りリンクスケジューラ202は、上りリンク受信部201から受信した制御情報(RI、CQI)に基づいて、ユーザ装置10との間の下りリンクで用いる各種制御パラメータを決定する。例えば、下りリンクスケジューラ202は、空間多重の送信レイヤ数を示すランク数(Rank)と、変調及び符号化の方式を指定するMCSとを決定する。そして、下りリンクスケジューラ202は、上記決定したMCS及びRankの信号を直列並列変換・変調部205に送り、上記Rankの信号をプリコーディングウェイト生成部203に送り、上記MCS及びRankの信号を下りリンク制御信号生成部204に送信する。
なお、
図2の構成の無線基地局20では、ユーザ装置10からのPMIの受信と、そのPMIの受信結果に基づくT−PMIの生成とは行われない。プリコーディングウェイト生成部203及び下りリンク制御信号生成部204では、ユーザ装置10からのPMIを用いないであらかじめ仕様で既定されたプリコーディング方式が用いられる。
【0035】
上記
図2の構成のMIMO無線伝送システムでは、上記ランク数Rankは、上述したようにユーザ装置10からフィードバックされたランク情報RIに基づいて、無線基地局20側が決定する。例えば、情報RI=1のときにランク数Rank=1、ランク情報RI=2のときにランク数Rank=2のように通常選択される。そして、ランク数Rank=1のときSFBC(空間周波数ブロック符号化)を用いた送信ダイバーシティ、ランク数Rank≧2のときCDD(Code Division Duplex)を併用した空間多重となる。
なお、
図2の構成のMIMO無線伝送システムにおいても、3GPPの仕様にあるように、ランク数Rankの最終決定権は無線基地局20側が持っているので、無線基地局20側でランク数Rankを決定する際に、ユーザ装置10のランク情報RIの値に従わなくてもよい。
【0036】
上記
図1及び
図2のMIMO無線伝送システムでは、無線基地局20からユーザ装置10への下りリンクについて、最適な送信レイヤ数の決定について説明したが、本発明はユーザ装置10から無線基地局20へデータを送信する上りリンクの場合についても適用することができる。
【0037】
図3は、本発明を適用可能な更に他の実施形態に係る閉ループ型のMIMO無線伝送システムの上りリンクにおける無線基地局及びユーザ装置の概略構成の一例を示す機能ブロック図である。なお、本実施形態の閉ループ型のMIMO無線伝送システムでは、LTE−Advancedの通信規格に準拠した2−送信レイヤ(ランク数が2)の構成の場合について例示するが、本発明は、この構成に限定されるものではない。また、上記
図1と同様の構成については詳細な説明を省略する。
【0038】
図3に示すように、ユーザ装置30は、複数のアンテナ300と、下りリンク受信部301と、プリコーディングウェイト生成部302と、直列並列変換・変調部303と、乗算器304と、加算器(Σ)305と、マルチプレクサ306と、上りリンク参照信号生成部307と、を備えている。
【0039】
なお、
図3の例では、ユーザ装置30が複数のアンテナ300を備えた場合を示しているが、ユーザ装置30が有するアンテナ300の数は特定の数に限定されるものではない。例えば、ユーザ装置30は、1本のアンテナ300を備えるものでもよいし、2本又は4本等の複数本のアンテナ300を備えるものであってもよい。また、ユーザ装置30は、複数のアンテナ300を備える場合、実際のMIMO通信時に使用されるアンテナの本数を切り換えることができるものであってもよい。
【0040】
ユーザ装置30では、上りリンク参照信号生成部307で生成された参照信号RSが、マルチプレクサ306で他の制御信号が多重されて、複数のアンテナ300から送信される。
【0041】
また、ユーザ装置30は、無線基地局40から受信した下りリンクの制御チャネルに含まれる制御情報(RI、MCS、PMI)を下りリンク受信部301で分離し、PMIをプリコーディングウェイト生成部302に出力し、RI及びMCSを直列並列変換・変調部303に出力する。これにより、ユーザ装置30は、受信した下りリンク制御チャネルに含まれるRI、MCS、PMIに従い、上りリンクデータチャネルでユーザデータの送信を行う。
【0042】
また、
図3に示すように、無線基地局40は、複数(本例では3本)のアンテナ400と、上りリンクチャネル推定部401と、データ信号分離合成部402と、直列並列変換部(S/P)403と、上りリンクスケジューラ404と、下りリンク送信部405とを備えている。
【0043】
無線基地局40では、複数のアンテナ400で受信された信号が、上りリンクチャネル推定部401に送られる。上りリンクチャネル推定部401は、各アンテナ400からの信号の歪み補正を行い、その歪み補正後の受信信号をデータ信号分離合成部402に出力する。また、上りリンクチャネル推定部401は、ユーザ装置30から受信した既定のパイロット信号としての参照信号RSに基づいてMIMOチャネル応答を推定し、そのMIMOチャネル応答の推定結果であるチャネル推定値を上りリンクスケジューラ404に出力する。
【0044】
上りリンクスケジューラ404は、上りリンクチャネル推定部401から受けたチャネル推定値に基づいて、ユーザ装置10との間の上りリンクで用いる各種制御パラメータを決定する。例えば、上りリンクスケジューラ404は、上りリンクにおけるデータレートを最大化する空間多重の送信レイヤ数を示すランク情報RIを生成して出力する。また、上りリンクスケジューラ404は、上りリンクのデータ送受信に適したプリコーディングマトリクスを決定し、このプリコーディングマトリクスを示すPMIをコードブックの中から選択して出力する。また、上りリンクスケジューラ404は、変調及び符号化の方式を指定するMCSを決定して出力する。そして、上りリンクスケジューラ404は、上記ランク情報RIを直列並列変換部(S/P)403に送り、上記RI情報、MCS及びPMIをデータ信号分離合成部402と下りリンク送信部405に送信する。下りリンク送信部405は、上りリンクスケジューラ404から受けたランク情報RIを、下りリンクの制御チャネル(PDCCH)を介して、ユーザ装置30に送信してフィードバックする。
【0045】
なお、LTE−Advancedでは、下りリンク、上りリンクともにユーザ装置30の送信方法の決定権は無線基地局40側にあるので、無線基地局40の上りリンクスケジューラ404が算出したランク情報RIがそのまま、上りリンクのランク数Rankとなる。
【0046】
上記
図3の上りリンクの構成において、上りリンクチャネル推定部401及び上りリンクスケジューラ404は、前述の算出手段、干渉雑音レベル推定手段、閾値設定手段及びランク情報生成手段としても機能する。また、下りリンク送信部405は、上りリンクスケジューラ404で生成されたランク情報RIをユーザ装置30に送信するランク情報送信手段としても機能する。
【0047】
次に、上記
図1〜3のMIMO無線伝送システムにおけるランク情報(RI)の生成について説明する。本実施形態におけるユーザ装置10、30や無線基地局40におけるランク情報RIの生成は、以下に示すMIMOチャネル行列を使ったモデルで説明することができる。なお、以下の説明では、ユーザ装置と無線基地局との間のデータ通信は複数のサブキャリアを使って行われる。サブキャリアの数はNsc個であり、kはサブキャリア番号を示す。
【0048】
図4は、無線基地局とユーザ装置との間の伝送路を等価変換したMIMOチャネル行列の各要素を示す模式図である。また、
図4に示すMIMOチャネル行列は、次式のように表される。
【数1】
【0049】
また、上記数1の式の行列H(k)は、一般的なSVD(Singular Value Decomposition)の手法を使って、次式のように3つの行列U(k)、Σ(k)、V(k)を用いた積の形に分解できる。
【数2】
【0050】
ただし、U(k)は左特異ベクトル行列、Σ(k)は特異値行列、V(k)は右特異ベクトル行列と呼ばれ、それぞれ次の数3〜数5の式で表される。
【数3】
【数4】
【数5】
【0051】
また、上記数4の式の行列Σ(k)の対角要素は、上記数2の式の行列H(k)の特異値を示している。
【0052】
図5は、MIMOチャネル行列の等価変換におけるMIMOチャネル行列の等価回路を示す模式図である。ここで、
図5のMIMOチャネル行列の等価回路において、実際に信号を伝送できる等価伝送路の数(以下「等価伝送路数」という。)は、次式に示すように最大M=min(N
r,N
t)本までである。
【数6】
【0053】
また、行列H(k)の各特異値を二乗した値λ
1(k)〜λ
M(k)は、H(k)H
H(k)またはH(k)
HH(k)の固有値と一致し、次の数7に示すように全て0以上の実数となる。
【数7】
【0054】
また、数2の式の左特異ベクトル行列U(k)及び右特異ベクトル行列V(k)は、それぞれH(k)H
H(k)の固有ベクトルから構成される行列及びH
H(k)H(k)の固有ベクトルから構成される行列であり、いずれも次の数8及び数9に示すようにユニタリ行列の性質を持つ。ただし、Iは単位行列、上付き文字Hは行列またはベクトルの複素共役転置をそれぞれ表している。
【数8】
【数9】
【0055】
図6は、SVD−MIMO伝送モデルにおけるチャネル行列の表記を示す模式図である。また、
図6中の各行列式は次式で表される。
【数10】
【0056】
上記数10の式中y(k)は、送信側のプリコーディングとして、V(k)を用い、受信側の空間フィルタリングとして、U
H(k)を用いた場合の受信信号を表している。y(k)の式中に含まれるΣの項は、特異値の対角行列となっているため、各サブストリーム(送信レイヤ)間が存在しない。このことは、送信側のプリコーディングとして、V(k)を用い、受信側の空間フィルタリングとして、U
H(k)を用いることにより、各サブストリーム(送信レイヤ)間の干渉を除去でき、空間多重伝送を実現することが可能であることを示す。
【0057】
図7は、SVD−MIMO伝送等価モデルにおけるチャネル行列の表記を示す模式図である。
図7において、送信側で完全なMIMOチャネル行列又は最適送信ウェイトベクトルV(k)を取得できれば、M本の独立なSISO(Single Input Single Output)チャネルに分解可能である。また、m番目のSISOチャネルの伝搬路利得はλ
m(k)で表される。
【0058】
ここで、平均干渉雑音レベルをσ
2、信号の平均強さをP
m(s)λ
m(k)としたときに、通信路容量C(k)は次式で表される。
【数11】
【0059】
なお、上記数11の式で示す通信路容量C(k)は、いわゆるシャノン容量であり、通信伝送路で送信可能な理論的なデータ容量(チャネル容量)の限界に相当する。従来のSVD−MIMO伝送方式における「注水定理」と呼ばれる手法では、次の数12の式に示すように、MIMOチャネルで送信される総送信電力P
totalが一定の下で上記シャノン容量を最大にするように各送信レイヤに対する最適電力配分を行う。ここで、数12の式中のαは、下記の数13の式を満足するための係数である。
【数12】
【数13】
【0060】
しかしながら、以下に示すようにSVD−MIMO伝送方式における注水定理は現実的な変調方式および誤り訂正符号化方式を考慮した場合、最適な手法ではない。SVD−MIMO伝送方式における注水定理は、信号受信レベルが干渉雑音レベルに近いサブチャネルに対し送信電力配分を行わないことにより、チャネル容量の最大化を図っている。また、SVD−MIMO伝送方式は、送信側で完全なチャネル情報が得られる場合、又は、理想的な送信ウェイトベクトルV(k)が送信側に得られる場合にのみ実現できる。
【0061】
実際のシステムでは、制御遅延が存在し、さらにFDD(Frequency Division Duplex:周波数分割複信)ではフィードバック情報量の制約がある。例えば、LTEでは平均受信SINRに対応する情報として、数ビット程度で表現される離散的なCQI、PMIまたはMCSが送信側にフィードバックされる。LTE/LTE−Advancedではチャネル情報フィードバック量が制限されている中で効率よくシャノン限界に近づく性能を得るため、品質の悪いサブチャネルに送信電力を割り当てない目的でランク情報RIを用いたランクアダプテーションが導入されたと考えることもできる。
【0062】
また、周波数方向に誤り訂正符号化されたOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiple:直交波周波数分割多重)においては,サブキャリア単位で送信レイヤ数を制御することはトランスポートブロックサイズの候補数が増大するため現実的ではない。そのため、LTE/LTE−Advancedでは、誤り訂正符号化の単位で送信レイヤ数(ランク)を制御している。このため、サブキャリア間の平均的な特性に基づき送信レイヤ数を制御する必要がある。特に、LTEでは送信側で適用可能なプリコーディングマトリックスが離散的になっていることから、注水定理により送信電力配分することは最適ではない。さらに不完全なチャネル情報に基づきプリコーディングされたMIMOでは、伝送性能が受信アルゴリズムに依存する。
上記の理由により、OFDMを用いるMIMO無線伝送システムにおいて、最適なランク情報RIを理論的に決定することは困難であり、試行錯誤的な決定法とならざるを得ない。
【0063】
そこで、上記
図1〜
図3に示した本実施形態に係るMIMO無線伝送システムでは、次の(1)〜(3)の点に留意して最適なランク情報RIの生成を行う。
(1)受信SINRが低くなる、又は、フェージング相関が高くなるにしたがって、低いランクの送信が望ましいので、それに適応したランク情報の生成ができる点。
(2)現実的なスループットは、理論的な容量限界(シャノン容量)と乖離している点。
(3)受信アルゴリズムによって、最適な送信レイヤ数は異なると考えられるので、簡単なパラメータ調整でチューニングできる点。
【0064】
上記(1)〜(3)の点に留意し、本実施形態における最適なランク情報RIの生成は、例えば次のように行う。
まず、MIMOチャネルの相関行列H(k)H
H(k)またはH
H(k)H(k)の固有値のサブキャリア間の平均(以下、適宜「平均固有値」という。)を、次式により求める。なお、次式中のN
SCはサブキャリアの総数である。
【数14】
【0065】
MIMOチャネル行列として、参照信号RSの受信信号に基づいて推定したMIMOチャネル応答のチャネル推定結果を利用する。ここで、上記固有値のサブキャリア間の平均化の方法は、全サブキャリアで行う方法でもよいし、参照信号RSを多重するサブキャリア等の一部のサブキャリアで行う方法等であってもよい。
【0066】
次に、参照信号RSの受信信号に基づいて平均干渉雑音レベルσ
2を推定する。ここで、干渉雑音レベルの平均化の方法は、全サブキャリアで行う方法でもよいし、参照信号RSを多重するサブキャリア等の一部のサブキャリアで行う方法等であってもよい。
【0067】
平均干渉雑音レベルσ
2を推定する方法としては、例えば、参照信号RSの受信信号から1次チャネル推定値を求め、この1次チャネル推定値から干渉雑音電力推定値を求める方法を用いることができる(例えば、非特許文献5参照)が、この方法に限定されるものではない。
【0068】
次に、上記推定した平均干渉雑音レベルσ
2に基づいて、RI生成用のパメータである閾値βを決定する。具体的には、次の数15の式に示すように、上記推定した平均干渉雑音レベルσ
2を所定のオフセット量Δ[dB]だけオフセットし、総送信電力P
totalで正規化した値を、上記閾値βとして決定する。
【数15】
【0069】
なお、上記閾値βを決定するときに用いるオフセット量Δは、実際のMIMO送信法(Open Loop-MIMO,Closed-Loop MIMO)におけるチャネル推定および信号分離アルゴリズムを考慮した計算機シミュレーション、実験等により最適な値を決定する。
【0070】
次に、上記閾値βを越える平均固有値の数(MIMOチャネルの実効ランク)を算出し、その算出結果に基づいてランク情報RIを生成する。ここで、上記算出した実効ランクが0のときは、ランク情報RI=1と設定する。それ以外の場合には、実効ランクの値をランク情報RIの値に設定する。
【0071】
図8は、上記SVD−MIMO伝送等価モデルにおける等価伝送路数Mが任意の個数の場合における平均固有値と閾値βとに基づくランク情報RIの設定の説明図である。ランク情報RIは、
図8及び次式に示すように設定される。
【数16】
【0072】
例えば、閾値βを超える平均固有値の数が0個のとき又は最大の平均固有値が閾値βと等しいときは、ランク情報RI=1と設定する。また、閾値βを超える平均固有値の数がm個のときは、ランク情報RI=mと設定する。そして、M個すべての平均固有値が閾値βを超えるとき又は最小の平均固有値が閾値βと等しいときは、ランク情報RI=Mと設定する。つまり、M個の平均固有値と閾値βとを比較するという簡単な比較演算処理でランク情報RIを設定することができる。
【0073】
図9は、上記等価伝送路数Mが2個の場合における平均固有値と閾値βとに基づくランク情報RIの設定の説明図である。
図9において、2個の平均固有値λ
1、λ
2のいずれも閾値βを超えないとき、すなわち、最小の平均固有値λ
2が閾値β以下のときは、ランク情報RI=1と設定する。また、最大の平均固有値λ
1が閾値βを超え、かつ、最小の平均固有値λ
2が閾値β以下のときも、ランク情報RI=1と設定する。そして、2個の平均固有値λ
1、λ
2がいずれも閾値βを超えたとき、すなわち最小の平均固有値λ
2が閾値βを超えたときは、ランク情報RI=2と設定する。つまり、
図9の例では、最小の平均固有値λ2と閾値βとを比較するというより簡単な比較演算処理でランク情報RIを設定することができる。
【0074】
以上、本実施形態によれば、複数の無線通信装置としてのユーザ装置10(30)と無線基地局20(40)との間で複数のアンテナを用いた複数の異なる送信レイヤによるデータの送受信を行う無線伝送システムにおいて、ユーザ装置10(30)と無線基地局20(40)との間で送受信される既知のパイロット信号としての参照信号RSの受信結果に基づいて、ユーザ装置と無線基地局との間におけるMIMOチャネルの無線伝送特性を示すMIMOチャネル行列の相関行列の複数の固有値λを算出する。また、前記既知の参照信号RSの受信結果に基づいて、MIMOチャネルにおける干渉雑音レベルσ
2を推定し、その干渉雑音レベルσ
2の推定結果に基づいて閾値βを設定する。そして、前記複数の固有値λと閾値βとの比較結果に基づいて、MIMOチャネルにおけるデータ送受信に用いる送信レイヤ数を示すランク情報RIを生成する。上記算出した複数の固有値λの個数は、MIMOチャネルを互いに独立で並列の関係にあるように分解した仮想的なSISO(Single Input Single Output)チャネルの最大個数、すなわち互いに独立にデータを送信可能な送信レイヤの最大個数Mに対応する。また、複数の固有値λそれぞれの大きさは、SISOチャネルすなわち送信レイヤに形成される伝送路の伝送利得に対応する。ここで、ある所定の閾値βよりも大きな値を有する固有値λを選択し、その選択した固有値λに対応する送信レイヤを使用すれば、所定の伝送利得を有する送信レイヤのみでデータを送信することになるので、当該MIMOチャネルで送受信可能なデータ容量を理論的な容量限界(シャノン容量)に近づけることができる。したがって、複数の固有値λとある所定の閾値βとの比較結果に基づいて、当該MIMOチャネルにおけるデータ送受信に用いる送信レイヤ数を示すランク情報を生成することにより、当該MIMOチャネルで送受信可能なデータ容量を理論的な容量限界(シャノン容量)に近づけることができる最適なランク情報RIを生成することができる。
しかも、本実施形態においては、前記既知の参照信号RSの受信結果に基づいて推定した干渉雑音レベルσ
2は、特に複数の基地局装置を面的に展開するセルラ環境の場合、周辺セルにおける他ユーザの通信状況等によって増減し、MIMOチャネルにおける無線伝送路の状態を反映したものである。このようにMIMOチャネルにおける無線伝送路の状態を反映した干渉雑音レベルσ
2を推定し、その干渉雑音レベルσ
2の推定結果に基づいて、上記複数の固有値λと比較する閾値βを設定している。この閾値βは、当該MIMOチャネルにおける無線伝送路の状態を反映したものであるとともに、受信アルゴリズムの種類に応じて変更するなどの簡易な処理で任意に調整することができる。そして、このように設定した閾値βと複数の固有値λとを比較し、その比較結果に基づいてMIMOチャネルにおけるデータ送受信に用いる送信レイヤ数を示すランク情報RIを生成することにより、受信SINRやフェージング相関等の無線伝送路の状態の変動に適応できるだけでなく、受信アルゴリズムの種類に依存する無線伝送特性(スループット特性)の差異を吸収してランク情報を生成することができる。
また、本実施形態によれば、前記MIMOチャネルの最大送信レイヤ数Mが2のとき、前記複数の固有値λについて最小値を求め、その最小値が閾値β以上又は閾値βよりも大きい場合に最適なランク情報RI(送信レイヤ数)を2にする。このように最大送信レイヤ数Mが2の場合、複数の固有値λの最小値が閾値β以上又は閾値βよりも大きければ、他の固有値も閾値β以上又は閾値βよりも大きいので、最小値のみ閾値βと比較すればよい。この固有値の最小値が閾値β以上又は閾値βよりも大きい場合にランク情報RIを2とし、それ以外の場合には、ランク情報RIを1とする。よって、ランク情報RIを算出して設定する処理が容易となる。
また、本実施形態によれば、前記閾値βは、干渉雑音レベルσ
2を予め設定したオフセット量Δだけオフセットし、参照信号RSの総送信電力で正規化したものである。これにより、干渉雑音レベルσ
2を所定のオフセット量Δだけオフセットさせるという簡易な処理で、上記受信アルゴリズムの種類などに依存する無線伝送特性の差異を考慮した閾値βの調整が可能になるだけでなく、しかも、その閾値βに基づいて生成されるランク情報RIに対する送信電力の影響を小さくすることができる。
また、本実施形態によれば、ユーザ装置10(30)と無線基地局20(40)との間の送受信は複数のサブキャリアを用いて行われ、ユーザ装置と無線基地局との間で送受信される複数のサブキャリアのそれぞれによる既知の参照信号RSの受信結果に基づいて、MIMOチャネル行列の複数の固有値λそれぞれについて複数のサブキャリア間の平均値を算出する。また、複数のサブキャリアのそれぞれによる既知の参照信号RSの受信結果に基づいて、MIMOチャネルにおける干渉雑音レベルσ
2を推定し、前記複数の固有値λの平均値と閾値βとの比較結果に基づいて、MIMOチャネルのランク情報RIを生成する。これにより複数のサブキャリアを用いたデータ送受信においても最適なランク情報RIを生成することが可能となる。
また、本実施形態によれば、前記固有値λの平均値は、複数のサブキャリアごとに重み付けを行って平均したものである。これにより、ランク情報RIの生成に用いる固有値λの平均値の精度を高めることができる。
【0075】
なお、上記各実施形態では、ランク情報RIの生成に、MIMOチャネル行列の相関行列の固有値(λ)を用いているが、MIMOチャネル行列の特異値((λ)
1/2)を用いてもよい。この場合は、例えば、複数のユーザ装置10(30)の間で送受信される複数のサブキャリアのそれぞれによる参照信号RSの受信結果に基づいて、MIMOチャネル行列の複数の特異値を二乗した値それぞれについて前記複数のサブキャリア間の平均値を算出し、その複数の特異値の二乗平均値と閾値βとの比較結果に基づいて、MIMOチャネルのランク情報RIを生成する。