特許第5777112号(P5777112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5777112通信システム、スレーブノード、ルート構築方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5777112
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】通信システム、スレーブノード、ルート構築方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04W 40/12 20090101AFI20150820BHJP
   H04W 40/28 20090101ALI20150820BHJP
   H04W 84/18 20090101ALI20150820BHJP
【FI】
   H04W40/12
   H04W40/28
   H04W84/18 110
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-501788(P2012-501788)
(86)(22)【出願日】2011年2月22日
(86)【国際出願番号】JP2011053845
(87)【国際公開番号】WO2011105371
(87)【国際公開日】20110901
【審査請求日】2014年2月24日
(31)【優先権主張番号】特願2010-40271(P2010-40271)
(32)【優先日】2010年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-37141(P2010-37141)
(32)【優先日】2010年2月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100116573
【弁理士】
【氏名又は名称】羽立 幸司
(72)【発明者】
【氏名】古川 浩
(72)【発明者】
【氏名】金 光日
【審査官】 小林 正明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−018083(JP,A)
【文献】 特開2009−088750(JP,A)
【文献】 金 光日、古川浩,B−21−2無線バックホールにおける安定ルーティングプロトコル,電子情報通信学会2010年通信ソサイエティ大会講演論文集2,日本,社団法人電子情報通信学会,2010年 8月31日,p.439
【文献】 金 光日、古川浩,無線バックホールにおける安定ルーチングプロトコル,電子情報通信学会論文誌 (J94−B) 第4号,日本,社団法人電子情報通信学会,2011年 4月 1日,第J94-B巻,pages:615-628
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24− 7/26
H04W 4/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基幹網に接続するコアノードと、前記コアノードに直接又は他のスレーブノードを経由して無線通信により接続する複数のスレーブノードを備える通信システムであって、
前記コアノードは、前記スレーブノードに対して、前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の初期化を指示するリセット・ルーティング・パケットを送信し、その後、前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の構築を指示するノーマル・ルーティング・パケットを複数送信するものであり、
前記各スレーブノードは、
前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の評価値である自経路評価値を記憶する自経路評価値記憶手段と、
当該スレーブノードから前記コアノードへ至る通信経路における最初の中継先ノードである上り中継先ノードを示す上り中継先情報を記憶する上り中継先記憶手段と、
前記リセット・ルーティング・パケットを受信してからn個(nは自然数)の前記ノーマル・ルーティング・パケットを同じ送信元ノードより受信した場合、前記送信元ノードを新たな前記上り中継先ノードとするか否かを判断して前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路を決定するルート構築処理手段を備え、
前記ルート構築処理手段は、
n番目に受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットの受信電力に基づき、当該スレーブノードと前記送信元ノードとの間の受信電力の評価値である受信電力評価値を計算する受信電力評価値計算手段と、
前記コアノードから前記送信元ノードに至る中継経路の評価値及び前記受信電力評価値に基づいて、n番目に受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットが経由した通信経路の評価値である新累積経路評価値を計算する新累積経路評価値計算手段と、
前記新累積経路評価値が前記自経路評価値よりも小さい場合、前記上り中継先記憶部に対して、新たな前記上り中継先ノード情報として受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットのパケット送信元を記憶させ、前記自経路評価値記憶手段に対して、新たな前記自経路評価値として前記累積経路評価値を記憶させて更新処理を行う経路更新手段を有し、
前記受信電力評価手段は、nが2以上の場合に、n番目に受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットの受信電力だけでなく、前記リセット・ルーティング・パケットの受信電力又は/及び他に受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットの一部又は全部の受信電力にも基づき、当該スレーブノードと前記送信元ノードとの間の受信電力の評価値である受信電力評価値を計算し、
前記受信電力評価値計算手段は、n番目に受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットの受信電力Rnの評価値である受信電力評価値Anを、定数又は前記リセット・ルーティング・パケットの受信電力を初期値として、αn及びβn(αn及びβnはnの関数であり、αnは恒等的に0でない関数。)に対して式(eq1)により計算する、通信システム。
【数1】
【請求項2】
式(eq1)において、A1=R1であり、nが2以上の場合にαn=(n−1)/nかつβn=1/nである、請求項記載の通信システム。
【請求項3】
式(eq1)において、αn又は/及びβnは定数である、請求項記載の通信システム。
【請求項4】
基幹網に接続するコアノードに直接又は他のノードを経由して無線通信により接続するスレーブノードであって、
前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の評価値である自経路評価値を記憶する自経路評価値記憶手段と、
当該スレーブノードから前記コアノードへ至る通信経路における最初の中継先ノードである上り中継先ノードを示す上り中継先情報を記憶する上り中継先記憶手段と、
前記コアノードから、前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の初期化を指示するリセット・ルーティング・パケットを受信してから、前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の構築を指示するノーマル・ルーティング・パケットを同じ送信元ノードよりn個(nは自然数)受信した場合、前記送信元ノードを新たな前記上り中継先ノードとするか否かを判断して前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路を決定するルート構築処理手段を備え、
前記ルート構築処理手段は、
n番目に受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットの受信電力Rnを評価する受信電力評価値Anを、前記リセット・ルーティング・パケットの受信電力及び受信したn個の前記ノーマル・ルーティング・パケットの逐次平均、又は、受信したn個の前記ノーマル・ルーティング・パケットの逐次平均により計算する受信電力評価値計算手段と、
前記コアノードから前記送信元ノードに至る中継経路の評価値及び前記受信電力評価値に基づいて、n番目に受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットが経由した通信経路の評価値である新累積経路評価値を計算する新累積経路評価値計算手段と、
前記新累積経路評価値が前記自経路評価値よりも小さい場合、前記上り中継先記憶部に対して、新たな前記上り中継先ノード情報として受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットのパケット送信元を記憶させ、前記自経路評価値記憶手段に対して、新たな前記自経路評価値として前記累積経路評価値を記憶させて更新処理を行う経路更新手段を有し、
前記受信電力評価値計算手段は、n番目に受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットの受信電力Rnの評価値である受信電力評価値Anを、定数又は前記リセット・ルーティング・パケットの受信電力を初期値として、αn及びβn(αn及びβnはnの関数であり、αnは恒等的に0でない関数。)に対して式(eq2)により計算する、スレーブノード。
【数2】
【請求項5】
基幹網に接続するコアノードと、前記コアノードに直接又は他のスレーブノードを経由して無線通信により接続する複数のスレーブノードを備える通信システムにおけるルート構築方法であって、
前記各スレーブノードは、
前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の評価値である自経路評価値を記憶する自経路評価値記憶手段と、
当該スレーブノードから前記コアノードへ至る通信経路における最初の中継先ノードである上り中継先ノードを示す上り中継先情報を記憶する上り中継先記憶手段と、
パケットを送受信可能なノード及び当該ノードとのパケット送受信時の受信電力の評価値である受信電力評価値の組み合わせを記憶する周辺ノード記憶手段を備え、
前記コアノードが、前記スレーブノードに対して、前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の初期化を指示するリセット・ルーティング・パケットを送信し、前記リセット・ルーティング・パケットを受信したスレーブノードの初期化手段が、当該リセット・ルーティング・パケットを初めて受信したか否かを判断し、初めて受信した場合には、同じ前記リセット・ルーティング・パケットを前記周辺ノード記憶手段に記憶されたノードに送信して、前記周辺ノード記憶手段に記憶された情報を削除し、前記自経路評価値を最大値に設定する初期化ステップと、
前記コアノードが、前記スレーブノードに対して、前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の構築を指示するノーマル・ルーティング・パケットを、送信された順番を特定して複数送信し、前記ノーマル・ルーティング・パケットを受信した前記スレーブノードにおいて、
受信電力評価値計算手段が、
受信したノーマル・ルーティング・パケットの送信元ノードが、前記周辺ノード記憶手段に記憶されていない場合には、前記ノーマル・ルーティング・パケットの受信電力に基づき当該スレーブノードと前記送信元ノードとの間の受信電力の評価値である受信電力評価値を計算し、前記周辺ノード記憶手段に対して、前記送信元ノードと前記受信電力評価値の組み合わせを記憶させ、
受信したノーマル・ルーティング・パケットの送信元ノードが、前記周辺ノード記憶手段に記憶されている場合には、前記ノーマル・ルーティング・パケットの受信電力だけでなく、前記周辺ノード記憶手段に記憶された前記受信電力評価値にも基づいて、新たな受信電力評価値を計算し、前記周辺ノード記憶手段に対して、前記送信元ノードと新たな前記受信電力評価値の組み合わせを記憶させ、
新ラウンド処理手段が、前記送信された順番に基づいて、受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットが、以前に受信したことのない前記ノーマル・ルーティング・パケットであるか否かを判断し、受信したことがないならば、前記新自経路評価値を最大値とし、
新累積経路評価値計算手段が、前記コアノードから前記送信元ノードに至る中継経路の評価値及び前記受信電力評価値に基づいて、受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットが経由した通信経路の評価値である新累積経路評価値を計算し、
経路更新手段が、前記新累積経路評価値が前記自経路評価値よりも小さい場合、前記上り中継先記憶部に対して、新たな前記上り中継先ノード情報として受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットのパケット送信元を記憶させ、前記自経路評価値記憶手段に対して、新たな前記自経路評価値として前記累積経路評価値を記憶させて更新処理を行い、前記周辺ノード記憶手段に記憶されたノードに対して新たな前記自経路評価値を送信することにより、前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路を決定するルート構築ステップを含み、
前記受信電力評価値計算手段は、n番目に受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットの受信電力Rnの評価値である受信電力評価値Anを、定数又は前記リセット・ルーティング・パケットの受信電力を初期値として、αn及びβn(αn及びβnはnの関数であり、αnは恒等的に0でない関数。)に対して式(eq3)により計算する、ルート構築方法。
【数3】
【請求項6】
コンピュータを、請求項記載のスレーブノードとして機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システム、スレーブノード、ルート構築方法及びプログラムに関し、特に、基幹網に接続するコアノードと、直接又は他のノードを経由して無線通信によりコアノードに接続する複数のスレーブノードを備える通信システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
新世代ブロードバンドモバイルを実現する一形態として、半径が数十メートルの狭小セル基地局群を無線でマルチホップ中継接続するセルラシステムが検討されている。このシステムでは、基地局群のうち、コアノードと呼ばれるいくつかの基地局は有線で基幹網に接続され、その他はコアノードを介した無線マルチホップ中継により基幹網との通信が行われる。
【0003】
このような無線中継網は、通称、無線バックホールと呼ばれる。その安定運用と大容量化は、良質な無線マルチホップ中継プロトコルの実現にかかっている。無線バックホールのルーティングプロトコルは、メトリックとアルゴリズムにより特徴づけられ、メトリックの定義により対応するアルゴリズムも異なる。これまでに提案されているメトリックには、例えば、ホップカウントや、ノード間の無線リンクの品質などがある。ETX(Expected Transmission Count)メトリック、RTT(Per-hop Round Trip Time)メトリック、WCETT(Weighted Cumulative Expected Transmission)メトリックなどである。また、従来よく使われているアルゴリズムには、Bellman-FordアルゴリズムやDijkstraアルゴリズムなどがある。
【0004】
また、発明者らは、伝搬損をメトリックとするルーティング手法(以下、「従来の最小伝搬損ルーティング」という。)を提案した(特許文献1〜3、非特許文献1参照)。従来の最小伝搬損ルーティングは、ノード間の受信電力(RSSI,Received Signal Strength Indicator)により伝搬損を求め、これをメトリックとし、Bellman-Fordアルゴリズムにより各スレーブノードからコアノードまでの伝搬損が最小になるような中継経路を構築するものである。図8を参照して、従来の最小伝播損ルーティングについて具体的に説明する。図8は、従来の最小伝播損ルーティングにおけるスレーブノードの動作を示すフロー図である。コアノードがメトリック0のルーティングパケットを1回ブロードキャストし、スレーブノードがルーティングパケットを受信すると(ステップSTSP1)、受信時のRSSIにより伝搬損を計算し、これと受信パケット中に含まれる累積メトリック(当該受信パケットを送信したノードからコアノードまでの伝搬損の和を表す)とを加算して新しいメトリックを計算する(ステップSTSP2)。この新しいメトリックが自ノードの保持している累積メトリックより小さいなら(ステップSTSP3)、ルートを更新し、新メトリックを含むルーティングパケットを周囲にブロードキャストする(ステップSTSP4)。ステップSTSP3において、小さくないならば、ルートの更新処理は行わない。以上を繰り返すことでルートが形成される。また、ルーティングパケットを受信せず、所定の時間が経過した後には(ステップSTSP5)、ノード登録パケットを送信し(ステップSTSP6)、処理を終了する。最終的には、コアノードを中心とするツリー型の経路が構築される。最小伝搬損ルーティングは、ノード間の伝搬損をメトリックとしているので、中継経路全体として干渉への耐性が高く、高品質・高効率な伝送特性が期待できるものである。
【0005】
また、無線マルチホップ中継におけるルーティングプロトコルについては、既に多数の手法が提案されており、アドホック型の無線バックホールにおいてはIETF(Internet Engineering Task Force)のMANET(Mobile Ad-Hoc Networks)WGにより標準化も進められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ホップカウントをメトリックとする場合、遠くの離れたノード間のリンクがルートに使われてしまい、ルートの安定性獲得とは逆行する。
【0007】
また、従来の最小伝播損ルーティングでは、伝搬路の変動によりルートが不安定となる問題がある。すなわち、非特許文献1では、最小伝搬損ルーティングについて、伝搬路の変動の影響を考慮せずに計算機シミュレーションによりその有効性を評価している。しかし、実環境においては、各ノードは固定的に設置されているにもかかわらず、人の往来等によりRSSIは変動する(図2の線a参照)。従来の最小伝搬損ルーティングにおいては、メトリックは、受信されたルーティングパケットのRSSIのみにより計算されるので、RSSIが変動すれば経路構築に用いられるメトリックも変動し、構築されたルートも実行時刻によって変動、すなわち不安定となる。
【0008】
既に提案されている無線マルチホップ中継におけるルーティングプロトコルも、伝搬路の変動に対して安定的な経路を獲得するような機構は持ち合わせていない。そのため、これらにより構築されたルートは、特定時刻に最適なルートにすぎず、伝搬路の変動に対処するためには頻繁な経路再構築が必要となり、ネットワークの負荷を高めてしまう。
【0009】
具体的に検討すると、これらのルーティングプロトコルはオン・デマンド型とスタティック型に分類できる。
【0010】
オン・デマンド型のルーティングプロトコルでは、通信要求が発生する都度ルーティング処理が行われ、構築されたルートは一定の生存期間(TTL)存続する。通信が終了すると該ルートは削除される。オン・デマンド型のルーティングプロトコルはルーティング処理の負荷は大きいがネットワークトポロジーの変化に早く対応できるので、移動性の大きいモバイルアドホックネットワーク向きである。
【0011】
他方、スタティック型ルーティングプロトコルでは、ネットワークを構築する際、システムの起動と同時にルートを構築し、その後は該ルートを保持したままサービスを開始する。無線バックホールでは、各基地局は固定して設置されるためスタティック型のルーティングプロトコルが適している。
【0012】
無線バックホールで各基地局は固定設置されるが、伝搬路は人の動きなどによるフェージングの影響を受け変動する。しかし、従来のスタティック型ルーティングプロトコルでは、従来の最小伝播損ルーティングと同様に、伝搬路の変動を考慮したアルゴリズムの設計がなされていない。伝搬路の時間変動をまったく無視しているので、同じノード配置でもルーティングの実行時刻によって異なる中継経路が構築される。また、独自のテストベッドを用いて、無線バックホールにおける伝搬路の変動により構築されたルートが時間変動する現象を調べ、それによりシステムのスループットが変動することも報告されている。
【0013】
スタティック型ルーティングにおいて、システム起動時の伝搬路状況だけを見てルーティングを行うと、その後、伝搬路が変動すれば、当該ルートによるシステムの性能が保証できなくなり、最悪の場合、中継経路が断絶される場合もある。
【0014】
そこで、本願発明は、RSSIの変動により伝搬路が変動しても、安定した中継経路を構築可能な通信システム等を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明の第1の観点は、基幹網に接続するコアノードと、前記コアノードに直接又は他のスレーブノードを経由して無線通信により接続する複数のスレーブノードを備える通信システムであって、前記コアノードは、前記スレーブノードに対して、前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の初期化を指示するリセット・ルーティング・パケットを送信し、その後、前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の構築を指示するノーマル・ルーティング・パケットを複数送信するものであり、前記各スレーブノードは、前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の評価値である自経路評価値を記憶する自経路評価値記憶手段と、当該スレーブノードから前記コアノードへ至る通信経路における最初の中継先ノードである上り中継先ノードを示す上り中継先情報を記憶する上り中継先記憶手段と、前記リセット・ルーティング・パケットを受信してからn個(nは自然数)の前記ノーマル・ルーティング・パケットを同じ送信元ノードより受信した場合、前記送信元ノードを新たな前記上り中継先ノードとするか否かを判断して前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路を決定するルート構築処理手段を備え、前記ルート構築処理手段は、n番目に受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットの受信電力に基づき、当該スレーブノードと前記送信元ノードとの間の受信電力の評価値である受信電力評価値を計算する受信電力評価値計算手段と、前記コアノードから前記送信元ノードに至る中継経路の評価値及び前記受信電力評価値に基づいて、n番目に受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットが経由した通信経路の評価値である新累積経路評価値を計算する新累積経路評価値計算手段と、前記新累積経路評価値が前記自経路評価値よりも小さい場合、前記上り中継先記憶部に対して、新たな前記上り中継先ノード情報として受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットのパケット送信元を記憶させ、前記自経路評価値記憶手段に対して、新たな前記自経路評価値として前記累積経路評価値を記憶させて更新処理を行う経路更新手段を有し、前記受信電力評価手段は、nが2以上の場合に、n番目に受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットの受信電力だけでなく、前記リセット・ルーティング・パケットの受信電力又は/及び他に受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットの一部又は全部の受信電力にも基づき、当該スレーブノードと前記送信元ノードとの間の受信電力の評価値である受信電力評価値を計算するものである。
【0016】
本願発明の第2の観点は、第1の観点の通信システムであって、前記受信電力評価値計算手段は、n番目に受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットの受信電力Rnの評価値である受信電力評価値Anを、定数又は前記リセット・ルーティング・パケットの受信電力を初期値として、αn及びβn(αn及びβnはnの関数であり、αnは恒等的に0でない関数。)に対して式(eq1)により計算する。
【0017】
本願発明の第3の観点は、第2の観点の通信システムであって、式(eq1)において、A1=R1であり、nが2以上の場合にαn=(n−1)/nかつβn=1/nである。
【0018】
本願発明の第4の観点は、第2の観点の通信システムであって、式(eq1)において、αn又は/及びβnは定数である。
【0019】
本願発明の第5の観点は、基幹網に接続するコアノードに直接又は他のノードを経由して無線通信により接続するスレーブノードであって、前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の評価値である自経路評価値を記憶する自経路評価値記憶手段と、当該スレーブノードから前記コアノードへ至る通信経路における最初の中継先ノードである上り中継先ノードを示す上り中継先情報を記憶する上り中継先記憶手段と、前記コアノードから、前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の初期化を指示するリセット・ルーティング・パケットを受信してから、前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の構築を指示するノーマル・ルーティング・パケットを同じ送信元ノードよりn個(nは自然数)受信した場合、前記送信元ノードを新たな前記上り中継先ノードとするか否かを判断して前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路を決定するルート構築処理手段を備え、前記ルート構築処理手段は、n番目に受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットの受信電力Rnを評価する受信電力評価値Anを、前記リセット・ルーティング・パケットの受信電力及び受信したn個の前記ノーマル・ルーティング・パケットの逐次平均、又は、受信したn個の前記ノーマル・ルーティング・パケットの逐次平均により計算する受信電力評価値計算手段と、前記コアノードから前記送信元ノードに至る中継経路の評価値及び前記受信電力評価値に基づいて、n番目に受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットが経由した通信経路の評価値である新累積経路評価値を計算する新累積経路評価値計算手段と、前記新累積経路評価値が前記自経路評価値よりも小さい場合、前記上り中継先記憶部に対して、新たな前記上り中継先ノード情報として受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットのパケット送信元を記憶させ、前記自経路評価値記憶手段に対して、新たな前記自経路評価値として前記累積経路評価値を記憶させて更新処理を行う経路更新手段を有する。
【0020】
本願発明の第6の観点は、基幹網に接続するコアノードと、前記コアノードに直接又は他のスレーブノードを経由して無線通信により接続する複数のスレーブノードを備える通信システムにおけるルート構築方法であって、前記各スレーブノードは、前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の評価値である自経路評価値を記憶する自経路評価値記憶手段と、当該スレーブノードから前記コアノードへ至る通信経路における最初の中継先ノードである上り中継先ノードを示す上り中継先情報を記憶する上り中継先記憶手段と、パケットを送受信可能なノード及び当該ノードとのパケット送受信時の受信電力の評価値である受信電力評価値の組み合わせを記憶する周辺ノード記憶手段を備え、前記コアノードが、前記スレーブノードに対して、前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の初期化を指示するリセット・ルーティング・パケットを送信し、前記リセット・ルーティング・パケットを受信したスレーブノードの初期化手段が、当該リセット・ルーティング・パケットを初めて受信したか否かを判断し、初めて受信した場合には、同じ前記リセット・ルーティング・パケットを前記周辺ノード記憶手段に記憶されたノードに送信して、前記周辺ノード記憶手段に記憶された情報を削除し、前記自経路評価値を最大値に設定する初期化ステップと、前記コアノードが、前記スレーブノードに対して、前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路の構築を指示するノーマル・ルーティング・パケットを、送信された順番を特定して複数送信し、前記ノーマル・ルーティング・パケットを受信した前記スレーブノードにおいて、受信電力評価値計算手段が、受信したノーマル・ルーティング・パケットの送信元ノードが、前記周辺ノード記憶手段に記憶されていない場合には、前記ノーマル・ルーティング・パケットの受信電力に基づき当該スレーブノードと前記送信元ノードとの間の受信電力の評価値である受信電力評価値を計算し、前記周辺ノード記憶手段に対して、前記送信元ノードと前記受信電力評価値の組み合わせを記憶させ、受信したノーマル・ルーティング・パケットの送信元ノードが、前記周辺ノード記憶手段に記憶されている場合には、前記ノーマル・ルーティング・パケットの受信電力だけでなく、前記周辺ノード記憶手段に記憶された前記受信電力評価値にも基づいて、新たな受信電力評価値を計算し、前記周辺ノード記憶手段に対して、前記送信元ノードと新たな前記受信電力評価値の組み合わせを記憶させ、新ラウンド処理手段が、前記送信された順番に基づいて、受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットが、以前に受信したことのない前記ノーマル・ルーティング・パケットであるか否かを判断し、受信したことがないならば、前記新自経路評価値を最大値とし、新累積経路評価値計算手段が、前記コアノードから前記送信元ノードに至る中継経路の評価値及び前記受信電力評価値に基づいて、受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットが経由した通信経路の評価値である新累積経路評価値を計算し、経路更新手段が、前記新累積経路評価値が前記自経路評価値よりも小さい場合、前記上り中継先記憶部に対して、新たな前記上り中継先ノード情報として受信した前記ノーマル・ルーティング・パケットのパケット送信元を記憶させ、前記自経路評価値記憶手段に対して、新たな前記自経路評価値として前記累積経路評価値を記憶させて更新処理を行い、前記周辺ノード記憶手段に記憶されたノードに対して新たな前記自経路評価値を送信することにより、前記コアノードから当該スレーブノードへ至る通信経路を決定するルート構築ステップを含む。
【0021】
本願発明の第7の観点は、コンピュータを、第5の観点のスレーブノードとして機能させるためのプログラムである。
【0022】
なお、受信電力評価値計算手段は、式(eq1)において、A0をリセット・ルーティング・パケットの受信電力R0として、自然数nに対して、αn=n/(n+1)かつβn=1/(n+1)として受信電力評価値を計算するものであってもよい。特に、本願発明の第6の観点において、リセット・ルーティング・パケットを受信したスレーブノードの初期化手段が、前記周辺ノード記憶手段に記憶された情報を削除した後、前記周辺ノード記憶手段に対して、リセット・ルーティング・パケットの受信電力を受信電力評価値の初期値とし、リセット・ルーティング・パケットの送信元ノードと受信電力評価値の初期値を組み合わせて記憶させるものであってもよい。また、本願発明の第7の観点のプログラムを(定常的に)記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体としてとらえてもよい。
【0023】
【数1】
【0024】
なお、関数αn及びβnは、例えば、αn+βn≦1(特に、αn+βn=1。)である関数であってもよい。さらに、n→∞に対してαn→1及びβn→0である関数とすることにより、受信電力評価値Anをより安定したものとして計算することができる。
【発明の効果】
【0025】
本願発明によれば、従来の最小伝搬損ルーティングとは異なり、各ルート構築処理の開始のきっかけとなるノーマル・ルーティング・パケットのRSSIだけでなく、直近のリセット・ルーティング・パケットの受信以降に受信された他のノーマル・ルーティング・パケットのRSSIも考慮してルート構築処理を行うことにより、リセット・ルーティング・パケットの受信以降、各ノードが固定設置され、設置位置の変動がない状態でRSSIが変動する場合においても、安定した中継経路を構築することが可能となる。
【0026】
さらに、本願発明の第2及び第5の観点にあるように、リセット・ルーティング・パケットの受信からn番目(nは2以上の自然数)に受信したノーマル・ルーティング・パケットの受信電力評価値Anを、このノーマル・ルーティング・パケットの受信電力Rnに加えて受信電力評価値An-1を利用して求めることにより、各スレーブノードに記憶する変数を制限し、さらに、計算処理も軽減することができ、スレーブノードの実現を容易にすることができる。特に、無線バックホールの伝送路では、RSSIは一般に対数正規分布に従うことが知られており、本願発明の第3の観点にあるように、Anを逐次平均により求めることにより、漸近的に安定した中継経路を獲得することができる。また、本願発明の第4の観点にあるように、関数αn又は/及びβnを定数とすることにより、RSSIの変動を緩和することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本願発明の実施例である通信システム1の概要を示す図である。
図2】RSSIの変動(線a)及び逐次平均の変化(線b)を示すグラフである。
図3図1のコアノード5の構成の一例を示すブロック図である。
図4図3のコアノード5の動作の一例を示すフロー図である。
図5図1のスレーブノード7iの構成の一例を示すブロック図である。
図6図5のスレーブノード7iの動作の一例を示すフロー図である。
図7】本実施例の実験により構築された安定ルートを示す図である。
図8】従来の最小伝播損ルーティングにおけるスレーブノードの動作を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下では、図面を参照して、本願発明の実施例について説明する。なお、本願発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
図1は、本願発明の実施例である通信システム1の概要を示す図である。通信システム1は無線バックホールシステムであり、各基地局は固定設置される。通信システム1の基地局は2種類あり、基幹網3に有線接続するコアノード5(本願請求項の「コアノード」の一例)と、複数のスレーブノード71,・・・,710(本願請求項の「スレーブノード」の一例)である。基地局間は無線通信が可能であり(以下では、基地局間の無線通信回線を「中継回線」という。)、中継回線では、図1に示されるように、コアノード5を中心とするツリー型の経路が構築される。また、各基地局には無線通信が可能な領域(クラスターセル)がある。例えば携帯電話のように、移動可能で、基地局と無線通信可能な携帯端末9は、ある基地局のクラスターセル内に存在すれば、この基地局との間で無線通信を行う(以下、基地局と携帯端末等との間の無線通信回線を「アクセス回線」という。)。携帯端末9は、アクセス回線及び中継回線により基幹網3に接続することができる。
【0030】
続いて、本実施例におけるルーティングプロトコルについて、RSSIの逐次平均により、RSSIの評価値を計算する場合について説明する(以下、「本プロトコル」という。)。本プロトコルは複数回のラウンドにより構成され、各ラウンドでは、各中継ノードが周辺のノードとルーティングパケットの送受信を繰り返し行い、RSSIの逐次平均を計算して、完全なルーティングを一つ構築する。
【0031】
無線バックホールの伝搬路において、RSSIは一般に対数正規分布に従うことが知られている(非特許文献2参照)。すなわち、デシベルで表示されたRSSIは、振幅の分布が正規分布に従う確率過程である。
【0032】
ノード間のRSSIを一定時間間隔で均一サンプリングした値の系列{Rn,n=1,2,…}の逐次平均値{An,n=1,2,…}を式(1)により定義する。逐次平均の系列{An}は、nが大きくなるにつれ当該確率過程の平均値に収束する(非特許文献3参照)。そのため、ラウンドの回数を増やすと、各ノード間のRSSIの逐次平均は一定の値に収束するので、各ラウンドで構築したルートは漸近的に安定したルートへと収束する。
【0033】
【数2】
【0034】
図1の中継回線において、伝搬路は人の動きなどによるフェージングの影響を受け変動する。図2のグラフにおいて、三角形の印でプロットされた線aは、IEEE802.11aを無線インターフェースにした場合に、実際に観測されたRSSIの時間変動の様子を示すものである。RSSIは、時間とともに激しく変動する。そのため、従来の最小伝播損ルーティング等を用いて、このRSSIの変動に常に追従しようとすれば、中継回線の経路は不安定なものとなってしまう。
【0035】
それに対し、図2のグラフにおいて、バツ印でプロットされた線bは、式(1)によって得られる逐次平均の変化を示すものである。図2の線bは、−52dBmから−55dBmに変化した後、この値に安定している。このように、ノード間のRSSIを一定間隔でサンプリングして逐次平均をとることにより、一定時間後、RSSIの変動は抑制できることが分かる。
【0036】
続いて、図3乃至図6を参照して、本プロトコルにおける図1のコアノード5及びスレーブノード7i(iはスレーブノードの個数以下の自然数)の構成及び動作の一例について説明する。
【0037】
まず、本プロトコルで扱っているルーティングパケット、各ノードが保持するルーティング変数及びパラメータ等について定義する。
【0038】
「自ノードメトリック」(本願請求項の「自経路評価値」の一例)は、各ノードにおいて、当該ノードからコアノードまでの中継経路上の伝搬損の和である。各ノードは、この自ノードメトリックを保持し、電源投入時に最大値で初期化する。
【0039】
「ルーティングパケット」は、コアノード5が、各スレーブノード7iに対して送信するものである。ルーティングパケットには2種類あり、コアノード5が各スレーブノード7iに対し既存ルート情報のクリア要求を出すときに使うリセット・ルーティング・パケット(本願請求項の「リセット・ルーティング・パケット」の一例)と、ルートを構築する時に使うノーマル・ルーティング・パケット(本願請求項の「ノーマル・ルーティング・パケット」の一例)である。ルーティングパケットには、累積メトリック(本願請求項の「累積経路評価値」の一例)とパケットIDの情報が含まれる。ここで、ルーティングパケットに含まれる累積メトリックは、当該ルーティングパケットを送信したノードが送信時に保持していた自ノードメトリックである。
【0040】
「周辺ノードテーブル」は、周辺ノードのアドレス、RSSIの逐次平均並びにルーティングパケットの送信回数を記録したテーブルである。ここで、周辺ノードとは、自ノードとパケットの送受信ができる範囲内にあるノードである。
【0041】
「上り中継先」は、各スレーブノード7iにおいてルーティング情報として保持された、上り中継先ノードのアドレス(本願請求項の「上り中継先ノード情報」の一例)である。本プロトコルでは、Bellman-Fordアルゴリズムを採用する。そのため、構築される中継経路は、図1のようなツリー構造であり、各スレーブノード7iは唯一の上り中継先のみを持つ。そこで、各スレーブノード7iは、ルーティング情報として上り中継先ノードのアドレスを保持する。下り中継先は中継動作時、上り方向に中継されるパケットの送信元アドレスを調べて確認することができるので、ルーティング時には決定せず、経路が確定後に調べる。
【0042】
「自ノードTimeID」は、各ルーティングパケットの送信時刻を識別するために持つタイムスタンプである。
【0043】
また、本プロトコルで必要とするパラメータは、各スレーブノードのルーティング履歴クリアの待ち時間Tw、ラウンドの実行回数Nr、ラウンド間の間隔Tc、各ラウンドでコアノードの待ち時間Tr、及び、スレーブノードの待ち時間Tsである。
【0044】
まず、図3を参照して、図1のコアノード5について構成の一例を説明する。
【0045】
コアノード5は、周辺ノードテーブルを記憶するノード記憶部13と、各種パラメータを記憶するパラメータ記憶部15と、電源スイッチ17及びリセットボタン19が設けられた入力部21と、スレーブノード7iと無線通信する無線通信部23と、コアノード5の動作を制御する制御部25と、ノード記憶部13の周辺ノードテーブルを更新するノード登録処理部27を備える。無線通信部23は、アンテナ29と、アンテナ29による通信を制御する通信制御部31を備える。電源スイッチ19は、コアノード5の電源投入時に操作されるものである。リセットボタン21は、例えば、コアノード5及びスレーブノード7iの一部又は全部の配置を変更した場合や、スレーブノード7iの一部を通信システム1から削除したり、スレーブノードを新たに追加したりする場合のように、配置されたノードに変更があり、外部から、中継経路を新たに構築するよう指示するために操作されるものである。
【0046】
次に、図4を参照して、図1のコアノード5の動作の一例を説明する。図4は、この処理は、初期化が必要な場合と、それからTc時間間隔でNr回行われるものである。図4では、初期化が必要な場合として、電源スイッチ19又はリセットボタン21が操作された場合を例に説明する。
【0047】
制御部25は、パワーオン又はリセットボタン21が押されたか否かを判断する(ステップSTC1)。操作された場合、コアノード5において、制御部25は、リセット・ルーティング・パケットのパケットIDとコアノード5の自ノードTimeIDは、ルーティングパケットを送信する時刻に設定し、無線通信部23の通信制御部31を制御して、アンテナ部29より、各スレーブノード7iに対してリセット・ルーティング・パケットを送信し(ステップSTC2)、Tw時間(例えば7秒)待ち(ステップSTC3)、Tc間隔で、各スレーブノード7iに対してノーマル・ルーティング・パケットを送信する(ステップSTC4)。この時、ルーティングパケットの累積メトリックは0で、パケットIDはコアノードがブロードキャストパケットを送信する時刻に設定する。他方、ステップSTC1において、パワーオンでもリセットボタン21が押されてもいない場合には、ステップSTC4の処理を行う。これが一回のラウンドであり、コアノード5はラウンドが始まってからTr時間経つとラウンドを終了し、通信システム1は一回のルーティングを完了する。また、ノード登録パケットを受信すると、ノード登録処理部27は、そのパケットのパケット送信元のノードを周辺ノードとして、ノード記憶部13の周辺ノードテーブルに登録する(ステップSTC5)。
【0048】
なお、時間間隔Tcは、一定間隔だけでなく、本プロトコルでは、漸近的に安定することから、回数に応じて時間間隔を変更するようにしてもよい。また、制御部25は、ステップSTC1において、例えば週末や、一日でも夜間と昼間などの時間帯に応じて中継経路を変更するように、所定の時刻でリセット・ルーティング・パケットのブロードキャストを行うようにしてもよい。
【0049】
続いて、図5及び図6を参照して、図1のスレーブノード7iについて説明する。
【0050】
図5を参照して、図1のスレーブノード7iの構成の一例を説明する。スレーブノード7iは、自ノードメトリックを記憶する自経路評価値記憶部51i(本願請求項の「自経路評価値記憶手段」の一例)と、上り中継先ノードのアドレスを記憶する上り中継先記憶手段53i(本願請求項の「上り中継先記憶手段」の一例)と、自ノードTimeIDを記憶するTimeID記憶部55iと、周辺ノードテーブルを記憶するノード記憶部57i(本願請求項の「ノード記憶手段」の一例)と、各種パラメータを記憶するパラメータ記憶部59iと、他のノードと無線通信を行う無線通信部65iと、スレーブノード7iの動作を制御する制御部71iを備える。無線通信部65iは、他のノードと無線通信を行うためのアンテナ61iと、アンテナ61iによる通信を制御する通信制御部63iを備える。
【0051】
制御部71iは、受信したパケットの種類を判断する判断部73iと、リセット・ルーティング・パケットを受信した場合に周辺ノードテーブル等を初期化する初期化部75i(本願請求項の「初期化手段」の一例)と、ノーマル・ルーティング・パケットを受信した場合にコアノード5から当該スレーブノード7iへ至る中継経路の構築処理を行うルート構築処理部77i(本願請求項の「ルート構築処理手段」の一例)を備える。
【0052】
ルート構築処理部77iは、受信したノーマル・ルーティング・パケットのパケット送信元が周辺ノードテーブルに登録されていない場合にパケット送信元を登録するノード登録処理部81i(本願請求項の「ノード登録処理手段」の一例)と、リセット・ルーティング・パケットの受信からn番目(nは自然数)に受信したノーマル・ルーティング・パケットの受信電力Rnの逐次平均An(本願請求項の「受信電力評価値」の一例)を式(1)により計算する受信電力評価値計算部83i(本願請求項の「受信電力評価値計算手段」の一例)と、受信パケットのパケットIDと自ノードTimeIDを比較し、新しいラウンドが始まったか否かを判断する新ラウンド処理部85iと、逐次平均Anを用いて送信元ノードから自ノードまでの伝搬損を計算し、受信パケットに含まれる累積メトリックと加算して新しいメトリック(以下、「新メトリック」という。)を計算する累積経路評価値計算部87i(本願請求項の「累積経路評価値計算手段」の一例)と、新メトリックと自ノードメトリックを比較する比較部89iと、新メトリックが自ノードメトリックよりも小さい場合、パケット送信元を新たな上り中継先とし、新メトリックを新たな自ノードメトリックとして更新処理を行い、周辺ノードテーブルに記憶された各ノードに対して更新後の自ノードメトリックを送信する経路更新部89i(本願請求項の「経路更新手段」の一例)を有する。
【0053】
ここで、累積経路評価値計算部87iは、式(2)により伝搬損を計算する。TX_POWERは送信電力を表し、単位はdBmである。
【0054】
【数3】
【0055】
次に、図6を参照して、図5のスレーブノード7iの動作について説明する。
【0056】
スレーブノード7iは、ルーティングパケットの受信を待ち(ステップSTS1)、ルーティングパケットを受信すると、判断部73iは、受信したルーティングパケットの種類を判断する(ステップSTS2)。リセット・ルーティング・パケットの場合、初期化部は、受信パケットのパケットIDを調べ、自分のTimeIDより新しければ、同じリセット・ルーティング・パケットを周辺ノードにブロードキャストし、周辺ノードテーブルをクリアして、自ノードメトリックを最大値に設定し、自ノードTimeIDを受信パケットのパケットIDに設定する(ステップSTS3)。
【0057】
ノーマル・ルーティング・パケットを受信した場合、ノード登録処理部81iは、送信元ノードを確認し、周辺ノードテーブルに当該送信元ノードの登録がないかを調べ(ステップSTS4)。登録されていない場合、周辺ノードテーブルに登録する。その際、受信時のRSSIを逐次平均の初期値とし、受診回数は1に設定する(ステップSTS5)。
【0058】
既にテーブルに登録されているノードからのルーティングパケットである場合、受信電力評価値計算部83iは、当該送信元ノードに対する現逐次平均An-1と受信電力Rnから式(1)により新たな逐次平均Anを求め、計算した値でテーブルの当該ノードの逐次平均を更新し、受信回数を1回増やす(ステップSTS6)。
【0059】
次に、新ラウンド処理部85iは、受信パケットのパケットIDを調べ、自ノードTimeIDより新しい場合、新しいラウンドが始まったと判断し(ステップSTS7)、自ノードメトリックを最大値に、また自ノードTimeIDを受信パケットのパケットIDに設定する(ステップSTS8)。以前のラウンドであれば、ステップSTS9の処理へ進む。
【0060】
次に、累積経路評価値計算部87iは、逐次平均されたRSSIを用いて送信元ノードから自ノードまでの伝搬損を計算し、受信パケットに含まれる累積メトリックと加算して新メトリックを得る(ステップSTS9)。
【0061】
次に、比較部87iは、新メトリックと自ノードメトリックを比較する(ステップSTS10)。新メトリックが自ノードメトリックより小さい場合、自ノードメトリックを当該値で更新し、上り中継先を受信パケットの送信元ノードのアドレスに更新する。そして、新メトリックを累積メトリックとする新しいルーティングパケットをブロードキャストする(ステップSTS11)。小さくない場合には、ステップSTS1の処理に戻る。
【0062】
スレーブノード7iは、新しいラウンドが始まってからTs時間が経過したらラウンドを終了する。
【0063】
続いて、ノード間RSSIの逐次平均を用いたルーティング手法をテストベッド上に実装し、実フィールドで特性評価を行った。テストベッドには、発明者らが推進する文部科学省知的クラスタ創成事業II期「MIMO−MESHポイント」の開発プロジェクトの成果物であるPicomesh LunchBox(以下、「LB」という。)を用いた。
【0064】
LBは、802.11b/g/a準拠の汎用無線LANモジュールを3系統搭載していて、中継回線用に2系統、アクセス回線用に1系統割り当てられている。各無線モジュールには異なる周波数チャネルを割り当て、アクセス回線と中継回線の間の干渉を回避する。
【0065】
図7に示すように、コアノードCと5つのスレーブノードS1〜S5の通信システムを構築する。実験時プロトコルのパラメータは、各ラウンドでコアノードの待ち時間Trが2秒、各ラウンドでスレーブノードの待ち時間Tsが2秒、スレーブノードのリセット待ち時間Twが5秒、各ラウンドの間隔Tcが3分、ラウンド回数Nrが100回である。
【0066】
表1は、従来の最小伝搬損ルーティングを適用して、3分間毎に、計100回のルーティングを実行した場合に出現した中継経路のパタンと、本実施例におけるルーティングプロトコルを適用して、同様に計100回のルーティングを実行し、出現した中継経路のパタンの実験結果を示すものである。
【0067】
従来のルーティング手法を適用した場合は、時間帯により、8つの異なるパタンの中継経路が構築されている。ルーティング時の伝搬路の状況に依存しており、システムが不安定である。これに対し、提案プロトコルを適用した場合は、2、3回目のラウンドから図7に示すルート1に固定されることを確認した。よって、本実施例により、伝搬路が時間変動する実環境でも安定した中継経路が構築できるのが分かる。
【0068】
【表1】
【0069】
なお、本実施例は、コアノードが一つのシステムを前提にしているが、複数のコアノードが存在するシステムにも容易に拡張することができる。コアノードが複数存在する場合、ルーティングパケットが、各コアノードから送信される。そのため、例えば、コアノード5は、初期化の際に自ノードTimeIDを0に設定する。コアノード5は、リセット・ルーティング・パケットを受信すると、パケットIDを調べ、自ノードTimeIDより新しければ、同じリセット・ルーティング・パケットをブロードキャストし、自ノードTimeIDを受信パケットのパケットIDで更新する。それから、Tw時間後Tc間隔で周囲にノーマル・ルーティング・パケットをブロードキャストし、送信回数がNrに達すると終了する。このようなシステムとすることにより、複数のコアノードが存在する場合でも実現することができる。
【0070】
また、本願発明は、受信電力評価値計算部83iの受信電力評価値の計算も、本実施例に限定されない。例えば、式(3)にあるように、リセット・ルーティング・パケットの受信電力R0を受信電力評価値の初期値A0とし、n番目(nは自然数)に受信したノーマル・ルーティング・パケットの受信電力評価値Anについて、ルーティングパケットの受信電力の逐次平均により計算するものであってもよい。この場合、図6のステップSTS3において、初期化部75iが周辺ノード記憶部57iを初期化する場合には、周辺ノード記憶部57iに対して、リセット・ルーティング・パケットの送信元ノードと受信電力評価値の初期値を組み合わせて記憶させ、その後は、逐次平均を計算すればよい。このように、リセット・ルーティング・パケットの受信電力を用いて受信電力評価値を計算するようにしてもよい。一般的には、受信電力評価値計算部83iは、受信したノーマル・ルーティング・パケットの受信電力だけでなく、リセット・ルーティング・パケットの受信電力又は/及び他のノーマル・ルーティング・パケットの一部又は全部の受信電力も用いて受信電力評価値を計算するようにしてもよい。特に、n番目(nは2以上の自然数)に受信したノーマル・ルーティング・パケットの受信電力Rnの評価値である受信電力評価値Anを、αn及びβn(αn及びβnはnの関数であり、恒等的に0でない関数。)に対して式(4)により計算してもよい。この場合、nが1のときは、例えば、A1=R1としてもよい。さらに、A0をリセット・ルーティング・パケットの受信電力R0として式(4)と同様に定数倍の加算によりA1を計算してもよい。
【0071】
さらに、式(4)において、αn及びβnの少なくとも一方は、定数であってもよい。このような定数とすることにより、RSSIの変動を緩和することが可能となる。
【0072】
また、図6において、ステップSTS7及びSTS8の処理の前に、ステップSTS9の処理を行うようにしてもよい。
【0073】
【数4】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0074】
【特許文献1】特許第3928636号公報
【特許文献2】特許第4227737号公報
【特許文献3】特許第4389929号公報
【非特許文献】
【0075】
【非特許文献1】江幡、古川著,“無線基地局中継網における中継用指向性アンテナ数と所要周波数帯域に関する検討”,信学技法,RCS2001-94,July 2001.
【非特許文献2】Andrea Goldsmith,“Wireless Communications”.
【非特許文献3】B.P.Lathi,“Modern Digital and Analog Communication system”.
【符号の説明】
【0076】
1 通信システム、3 基幹網、5 コアノード、7i スレーブノード、51i 自経路評価値記憶部、53i ノード記憶部、75i 初期化部、81i ノード登録処理部、83i 受信電力評価値計算部、87i 累積経路評価値計算部、91i 経路更新部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8