【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来のインクジェット記録装置によれば、記録ヘッドが常に加熱されているために、たとえばUVインク等の高粘度のインクを用いた場合であってもインクの粘度を下げて良好に吐出することができる。
また、インクの吐出終了から所定時間経過後は、記録ヘッドの温度を下げることによって、インク水分の蒸発があまり生じないようにして、ノズル詰まり等の原因によるインク不吐出を防止することができるとしている。
【0007】
しかし、上述した従来のインクジェット記録装置では、インク吐出終了から所定時間経過後に記録ヘッドの温度を下げたとしても、インクの不吐出が生じる場合があるという課題がある。そこで、本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、その原因を突き止めることができた。
【0008】
そこで、本発明は上記課題を解決すべくなされ、その目的とするところは、記録ヘッドを加熱する場合において、インクの不吐出が生じないようにできるインクジェット記録装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかるインクジェット記録装置の制御方法によれば、メディアにインクを吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドを加熱する加熱部と、前記記録ヘッドへ供給するインクを保留しておく
とともに、前記加熱部のオフによって温度が低下するインク収納部と、該インク収納部内の圧力を負圧になるように調整する負圧調整部とを具備するインクジェット記録装置を制御する制御方法であって、前記インクジェット記録装置をオフにする際に、前記加熱部による記録ヘッドの加熱をオフにするとともに、前記負圧調整部をオフにせずに
前記インク収納部の温度がほぼ一定になるまで前記インク収納部内の負圧を維持し、その後、前記負圧調整部をオフにする
とともに、インクが前記記録ヘッドから押し出されない圧力と、前記インク収納部内の空気と前記記録ヘッドに形成されたインクが吐出される複数の開口部とが連通してしまうヘッド限界負圧域との間に、前記負圧調整部のオフ後も継続して前記インク収納部内の圧力を維持することを特徴としている。
【0010】
この方法を採用することによる作用は以下のとおりである。
すなわち、本発明者等は、記録ヘッドの加熱とインク収納部の負圧調整を同時にオフにした場合において、次に起動したときの印字においてノズル抜けが生じていることを見出し、その原因を追究した。その結果、インク収納部内のインクは記録ヘッドが加熱されていることにより、温度が高いことがわかっているが、記録ヘッドの加熱とインク収納部の負圧調整を同時にオフとした場合には、その後インク収納部内のインク温度が低下してインク収納部内の空気の体積が収縮し、インク収納部内の(インク以外の空気部分の圧力)、負圧が大きくなってしまうことを見出した。インク収納部内の負圧が大きくなると、記録ヘッドのインク吐出部分である開口部からインク収納部内へ空気が流入してしまい、換言すればインク収納部内と外部とが連通してしまうので、次に起動したときにインク収納部と外部とが連通してしまった部位にインクが再導入し難く、これがノズル抜けの原因になっているのではないかということに想到した。
このため、上記の制御方法を採用することによって、加熱部をオフにして温度を低下させている間は負圧調整を実行し、記録ヘッドの温度低下に基づいてインク収納部内の負圧がインク収納部内と外部とが連通してしまうヘッド限界負圧域に至らぬようにすることができる。
また、負圧調整部のオフ後も、インクが記録ヘッドから押し出されない圧力と、前記インク収納部内の空気と前記記録ヘッドに形成されたインクが吐出される複数の開口部とが連通してしまうヘッド限界負圧域との間に、前記インク収納部内の圧力を維持することで、次に起動したときのノズル抜けという問題が生じないようにすることができる。
【0011】
この点を
図7及び
図8に基づいて説明する。
図7は従来のサブタンク(特許請求の範囲でいうインク収納部、以下同じ)内の負圧変化とサブタンク側面温度変化を示したグラフである。
この
図7に示すように、まず電源をオフにすると、約34℃であったサブタンク側面温度が電源オフにしてからの経過時間に対して反比例的に減少する。これに伴い、サブタンク内負圧も反比例的に増大する。ところが、本発明者らは、サブタンク内の負圧が、電源オフから約1.4時間経過後に約−5kPaに増大したのち、約50秒の間に約−2.6kPaまで減少するという知見を得た。本発明者らは、この現象が、サブタンク内と外部とが連通した結果であることを、鋭意研究の結果確認した。そして、サブタンク内の負圧が、約−4.1kPaよりも大きい負圧をヘッド限界負圧域とし、ヘッド限界負圧域に到達しないように負圧調整を行うことで、サブタンク内と外部とが連通しないようにすることができることを見出した。
【0012】
一方、
図8は本発明によるサブタンク(特許請求の範囲でいうインク収納部、以下同じ)内の負圧変化とサブタンク側面温度変化を示したグラフである。
このグラフによると、まず記録ヘッドの加熱のみをオフにしてから約2時間後に、サブタンク側面温度は約10℃低下する。この間、負圧調整部はオンのままであるので、サブタンク内負圧は、初期の−2.3kPaという値を維持している。
そして、記録ヘッドの加熱をオフにしてから約2時間後に負圧調整部をオフにする。すると、サブタンク内の負圧は反比例的に増大するが、
図7の場合と異なり、予めサブタンクの温度が低下しているので急激な増大はなく、負圧調整部をオフにしてから約6.6時間後に一定となる(約−3.5kPa)。このように、
図8の場合では、サブタンク内負圧は、約−3.5kPaで一定となり、ヘッド限界負圧域まで到達しない。サブタンク内負圧がヘッド限界負圧域まで到達するまでのマージンは約0.6kPa程度ある。このように、加熱部をオフとしてから所定時間経過後に負圧調整部をオフとすることによって、サブタンク内の負圧がヘッド限界負圧域に到達しないようにして、サブタンク内と外部とが連通しないようにすることができる。
【0013】
本発明にかかるインクジェット記録装置の制御方法によれば、メディアにインクを吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドを加熱する加熱部と、前記記録ヘッドへ供給するインクを保留しておく
とともに、前記加熱部のオフによって温度が低下するインク収納部と、該インク収納部内の圧力を負圧になるように調整する負圧調整部とを具備するインクジェット記録装置を制御する制御方法であって、前記インクジェット記録装置をオフにする際に、前記加熱部による記録ヘッドの加熱をオフにするとともに、前記負圧調整部は、所定の周期で繰り返し起動するスリープモードとして制御
し、インクが前記記録ヘッドから押し出されない圧力と、前記インク収納部内の空気と前記記録ヘッドに形成されたインクが吐出される複数の開口部とが連通してしまうヘッド限界負圧域との間に、前記インク収納部内の圧力を維持することを特徴としている。
この方法を採用することによる作用は以下のとおりである。
上述したように、記録ヘッドの加熱とインク収納部の負圧調整を同時にオフにした場合において、次に起動したときの印字においてノズル抜けが生じていることが見出されたが、これを解決するには、加熱部における加熱終了後であってもインク収納部内が負圧が大きくならないよう、すなわちインク収納部内と外部とが連通してしまうヘッド限界負圧域に至らぬように調整されればよい。そこで、負圧制御部が所定の周期で繰り返し起動して負圧を調整することによって、記録ヘッドの温度低下に基づいてインク収納部内の負圧がインク収納部内と外部とが連通してしまうヘッド限界負圧域に至らぬようにすることができる。
また、インクが記録ヘッドから押し出されない圧力と、前記インク収納部内の空気と前記記録ヘッドに形成されたインクが吐出される複数の開口部とが連通してしまうヘッド限界負圧域との間に、前記インク収納部内の圧力を維持することで、次に起動したときのノズル抜けという問題が生じないようにすることができる。
【0014】
本発明にかかるインクジェット記録装置の制御方法によれば、メディアにインクを吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドを加熱する加熱部と、前記記録ヘッドへ供給するインクを保留しておく
とともに、前記加熱部のオフによって温度が低下するインク収納部と、該インク収納部内の圧力を負圧になるように調整する負圧調整部とを具備するインクジェット記録装置を制御する制御方法であって、予め設定された所定時間、インクジェット記録装置が操作されていない場合には、自動的に加熱部をオフにするとともに、前記負圧調整部をオフにせずに
前記インク収納部の温度がほぼ一定になるまで前記インク収納部内の負圧を維持し、その後、前記負圧調整部をオフにする
とともに、インクが前記記録ヘッドから押し出されない圧力と、前記インク収納部内の空気と前記記録ヘッドに形成されたインクが吐出される複数の開口部とが連通してしまうヘッド限界負圧域との間に、前記負圧調整部のオフ後も継続して前記インク収納部内の圧力を維持することを特徴としている。
この方法によれば、操作されていない時間があればその間に加熱部をオフにしておくことができるので、装置全体がオフとなるまでの時間を短縮することができ、また加熱部をオフにして温度を低下させている間は負圧調整を実行し、記録ヘッドの温度低下に基づいてインク収納部内の負圧がインク収納部内と外部とが連通してしまうヘッド限界負圧域に至らぬようにすることができる。
負圧調整部のオフ後も、インクが記録ヘッドから押し出されない圧力と、前記インク収納部内の空気と前記記録ヘッドに形成されたインクが吐出される複数の開口部とが連通してしまうヘッド限界負圧域との間に、前記インク収納部内の圧力を維持することで、次に起動したときのノズル抜けという問題が生じないようにすることができる。
【0015】
また本発明にかかるインクジェット記録装置の制御方法において、前記負圧調整部は、前記インク収納部内の空気と、前記記録ヘッドに形成されたインクが吐出される複数の開口部とが連通してしまうヘッド限界負圧域に至らぬように負圧調整を行うことが好ましい。
この方法によれば、インク収納部内の負圧がヘッド限界負圧にさえ到達しなければ、インク収納部内の空気と記録ヘッドの開口部とが連通してしまうことがなく、次に起動したときのノズル抜けという問題が生じないようにすることができる。
【0016】
また本発明にかかるインクジェット記録装置の制御方法において、前記加熱部をオフにする際に、前記負圧調整部は、インク収納部内をインクのボタ落ちが生じない程度に負圧を小さくさせておくことが好ましい。
この方法によれば、温度の低下に伴ってインク収納部内の負圧が大きくなってしまうことを防止するという本願発明の課題について、ボタ落ちが生じない程度に予め負圧を小さくしておくことにより、たとえ負圧が大きくなったとしてもインク収納部内の空気と記録ヘッドの開口部とが連通してしまうような大きな負圧になることを防止できる。