(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5777540
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】電気音響変換器
(51)【国際特許分類】
H04R 23/00 20060101AFI20150820BHJP
【FI】
H04R23/00 310
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-38742(P2012-38742)
(22)【出願日】2012年2月24日
(65)【公開番号】特開2013-175904(P2013-175904A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2014年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】
千本 潤介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−188037(JP,A)
【文献】
実開平02−062695(JP,U)
【文献】
特開2006−156276(JP,A)
【文献】
特開2009−070706(JP,A)
【文献】
特開昭54−119914(JP,A)
【文献】
実開平03−119999(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0195850(US,A1)
【文献】
米国特許第04811159(US,A)
【文献】
特開2010−183330(JP,A)
【文献】
特開2000−051735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針状電極と、上記針状電極に対向する対向電極と、上記針状電極と対向電極の間に形成される放電部と、上記放電部を含みこの放電部で高周波放電を生起させる高周波発振回路と、を備え、上記放電部に導入される音波に応じて変調される音声信号を取り出し、または上記放電部において音声信号で変調される高周波信号に応じた放電を行わせることにより音声に変換する電気音響変換器であって、
上記針状電極の外周面に向けて不活性ガスを供給する不活性ガス供給路を備え、
上記不活性ガス供給路を構成する部材として、上記針状電極の外周面を覆う針状電極カバーを有しており、
上記針状電極カバーは、上記針状電極の先端よりも対向電極側に延び出して、上記針状電極の先端よりも対向電極側にガス流出口を有している電気音響変換器。
【請求項2】
針状電極カバーは、電気音響変換器内において針状電極の外周面に沿って不活性ガスを流すための不活性ガス案内路を構成している請求項1記載の電気音響変換器。
【請求項3】
不活性ガス案内路は絶縁材からなる請求項1または2記載の電気音響変換器。
【請求項4】
針状電極カバーは、針状電極の外周を保持する絶縁材と一体に形成されている請求項1乃至3のいずれかに記載の電気音響変換器。
【請求項5】
不活性ガスは、ヘリウムガスである請求項1乃至4のいずれかに記載の電気音響変換器。
【請求項6】
不活性ガスは、窒素ガスである請求項1乃至4のいずれかに記載の電気音響変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波放電を利用して電気音響変換することにより振動板をなくすことができる電気音響変換器に関するもので、針状電極の先端部分の摩耗などをより効果的に防止できるとともに、風雑音の発生も抑制できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なマイクロホンやスピーカなどの電気音響変換器では、振動板が用いられている。マイクロホンの場合、音波を受けて振動する振動板の振動を、電磁的な変化、静電容量の変化、あるいは光学的な変化などとしてとらえて電気信号に変換する。スピーカの場合、一般的には、音声信号を電磁変換して振動板の振動に変換し、音波として出力するようになっている。これら電気音響変換器における振動板は、空気振動と電気信号相互間での変換のために用いられる。すなわち、音響系−機械振動系−電気回路系の三つの系を1枚の振動板が繋いだ構成である。このように、従来の一般的な電気音響変換器は、いずれの方式にせよ振動板を備えているため、振動板が存在することに起因する周波数応答の限界が存在する。したがって、振動板の質量を極限まで小さくしたとしても、質量が存在する以上慣性力が働き、周波数において集音限界が存在することになる。
【0003】
振動板を持たない電気音響変換器の例として、放電を利用して粒子速度を検出し、電気音響変換する方法が特許文献1に記載されている。特許文献1記載の発明は、針状放電電極と、この放電電極を、間隔をおいて取り囲む対向電極を備えている。対向電極は、球状をなしていて音波を透過するように穿孔された導電材料からなり、放電電極は、上記球状対向電極の内部に向かって伸びて球の中心近傍に到達している。放電電極には、音波に変換されるべき低周波信号によって変調された高周波電圧発生回路から高周波電圧信号が印加され、放電電極と対向電極との間で上記高周波電圧信号に対応したコロナ放電が行われることにより、上記低周波信号すなわち音波が放射されるようになっている。
【0004】
特許文献1記載の発明は、電気的な音声信号を、放電を利用して音波に変換するもので、イオンスピーカといわれるものである。特許文献1記載の発明をそのままマイクロホンとして使用することは不可能であり、マイクロホンとして使用することの可能性について示唆されてもいない。
【0005】
本発明者は、針状電極と、この針状電極に対向する対向電極と、この針状電極と対向電極の間に形成される放電部と、この放電部を含みこの放電部で高周波放電を生起させる高周波発振回路と、上記放電部に音波を導入する音波導入部と、上記高周波発振回路で発振され上記放電部に導入される音波に応じて変調された信号を取り出す変調信号取り出し部と、を備えたマイクロホンを発明した。
【0006】
上記マイクロホンのような高周波放電を用いた電気音響変換器は、針状電極と平板電極で不平等電界を作り、ここに高周波の高電圧を加えることによってプラズマを形成するようになっている。針状電極側は高電界になっているため、プラズマは針状電極付近に発生し平板電極の方に向かって伸びる。針状電極はプラズマに接していることから高温になるため、針状電極の先端部が損耗し、この先端付近に放電生成物が付着して、放電状況、例えばプラズマの長さや形などを劣化させる。放電状況の劣化によって異常放電を起こし、放電部から異常な音波を発する、といった不具合を生じる。
【0007】
本発明者は、針状電極の先端付近に放電生成物が付着する原因を追及した結果、放電生成物の原因物質は空気中にあるものと推測し、上記針状電極の外周面に向けて不活性ガスを供給する不活性ガス供給路を設けることにより、継続して高周波放電を行っても針状電極の先端部分の損耗および放電生成物の付着がなく、異常放電を起こすこともない、高周波放電を利用した電気音響変換器について特許出願した(特許文献2参照)。
【0008】
特許文献2に記載されている電気音響変換器の構成例を
図2に示す。
図2において、マイクロホンユニット20は、針状電極23と、この針状電極23との間で放電させるための対向電極24を有している。針状電極23の基部は円筒形状に形成されていて円筒形状の絶縁筒26で覆われ、絶縁筒26はさらに円筒形状の絶縁筒25に嵌合され、絶縁筒25はベース21を厚さ方向に貫通して嵌合されている。換言すれば、針状電極23はその基部が絶縁筒25、26の介在のもとにベース21を厚さ方向に貫通してベース21に固定されている。
【0009】
ベース21は、有底円筒形状のケース22の底部に相当し、ケース22の開放端部外周に鍔が形成されている。針状電極23の先端部は、円錐形状に形成されて先端が尖っており、ケース22のほぼ中心軸線上に延び出るとともにケース22で囲まれる空間内に位置している。針状電極23の素材として、例えば、先端の曲率が50μmのタングステンを用いることができる。
【0010】
ケース22の底部に相当するベース21とは反対側のケース22の開放端部には、この開放端部を塞ぐようにして対向電極24が固定されている。対向電極24は平板状の電極であるが、例えば、無数の小孔が開けられたパンチングメタルを用い、あるいは導電性のワイヤを網状に編み込んだ素材を用いることにより、音波を通すことができる構造になっている。対向電極24は表面が絶縁材で覆われている。対向電極24として、例えば、音波を通すために多数の開口を設けたステンレス鋼板を、厚さ0.1mmのセラミック(シリカ)で被覆して用いることができる。
【0011】
対向電極24は針状電極23の先端と適宜の間隔をおいて対向していて、対向電極24と針状電極23との間で放電部を構成している。この放電部は、高周波放電を生起させる高周波発振回路の一部を構成し、この放電部で高周波放電が生起されるようになっている。この放電は火炎放電といわれるもので、符号27は、放電によって生じる火炎を示している。対向電極24は、上記のように音波をケース22内の放電部に導入する音波導入部を構成している。また、ケース22の周壁にも、音波をケース22内の放電部に導入する音波導入部としての孔を形成してもよい。
【0012】
上記針状電極23と対向電極24との間で高周波放電を生起させるためには高周波の高電圧を印加する必要があるため、高周波発振回路は、高電圧に耐えることができる真空管を発振用の能動素子として使用している。針状電極23と対向電極24との間で形成される放電路の放電電流が上記真空管に帰還するように回路が構成されている。すなわち自励発振による高周波発振回路が構成されている。
【0013】
針状電極23と対向電極24は高周波放電部を構成しており、この高周波放電部の粒子速度が音波の粒子速度によって変化し、高周波放電部の等価インピーダンスが変化する。音波によって高周波放電部の等価インピーダンスが変化することにより、上記発振回路による発信信号が音波によって変調される。この変調信号は、周波数変調すなわちFM変調成分と振幅変調すなわちAM変調成分を含むが、FM変調成分の方がより多く含まれる。したがって、上記FM変調された信号を取り出してこれをFM復調回路に入力すれば、上記音波導入部から導入される音波に対応したオーディオ信号に変換することができる。
【0014】
針状電極23は、その外周が先端近くまで不活性ガス案内路251によって囲まれている。不活性ガス案内路251は、電気音響変換器内において上記針状電極の外周面に沿って不活性ガスを流すために設けられているもので、針状電極23の外周を保持する前記絶縁筒25と一体に、したがって絶縁材で円筒形状に形成されている。不活性ガス案内路251は、針状電極23の外周面との間に空間をおいて針状電極23の外周を囲み、針状電極23の先端部周面に沿って不活性ガスを流すガス流出口252を備えている。針状電極23の先端部分はガス流出口252よりも外方に突出していて、対向電極24との間での放電に支障を来さない形になっている。
【0015】
不活性ガス案内路251にはパイプ42が連通している。パイプ42は前記円筒形状のケース22を半径方向に貫いて固定され、さらに、先端部が不活性ガス案内路251に嵌合されることにより、パイプ42の内部空間が不活性ガス案内路251の内部空間に連通した状態で不活性ガス案内路251に連結されている。ケース22の外周から突出したパイプ42の他端部は、カップリング41を介して別のパイプ40に連結されている。パイプ40、カップリング41およびパイプ42は、上記不活性ガス案内路251とともに、図示されないガスボンベなどからマイクロホンユニット20すなわち電気音響変換器の針状電極23に向けた不活性ガスの供給路を構成している。使用する不活性ガスの例として、ヘリウムガスあるいは窒素ガスがある。
【0016】
上記不活性ガス供給路から不活性ガスを供給しながら針状電極23と対向電極24との間で高周波放電させ、電気音響変換動作を行わせる。パイプ40、カップリング41およびパイプ42からなる供給路を通じて不活性ガス案内路251に導かれる不活性ガスは、不活性ガス案内路251の内部空間に案内されてガス流出口252の方に向かって流れる。不活性ガスはガス流出口252において絞られることにより針状電極23の先端部外周に沿って流れ、針状電極23の外周面と空気との接触が遮断される。したがって、空気中の放電生成物原因物質が針状電極23に付着することを防止することができ、放電生成物の付着を原因とする異常放電を防止して、動作の安定した高周波放電による電気音響変換器を得ることができる。また、従来、空気の流れによって生じていた針状電極の先端部の損耗も防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開昭55−140400号公報
【特許文献2】特開2011−188037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
図2に示す高周波放電を利用した電気音響変換器によれば、針状電極23と対向電極24の間で放電が行われているとき不活性ガス供給路から針状電極の外周面に向けて不活性ガスを供給することにより、針状電極23の表面と空気との接触が遮断され、空気中の放電生成物原因物質が針状電極に付着することを防止することができる。もって、放電生成物の付着を原因とする異常放電を防止することができる。
【0019】
しかし、上に述べたような高周波放電を利用した電気音響変換器の性能向上を目指して技術開発を行ううちに、さらなる改良が必要であることが分かってきた。性能向上の一つは、感度の向上である。高周波放電を利用した電気音響変換器の感度を向上させる一つの手法は放電電力を増加させることである。しかし、放電電力を増加させると火花放電に移行しやすくなる。火花放電を防止するには不活性ガスの流量を増加すればよいが、不活性ガスの流量を増加すると、不活性ガスの流れによってプラズマが吹かれ、マイクロホン一般において生じる風雑音と同様の雑音が発生し、信号対雑音比を劣化させることが分かった。
【0020】
本発明は、以上説明した従来の高周波放電を利用した電気音響変換器の問題点を解消すること、すなわち、風雑音の発生を防止しながら感度を高めることができる高周波放電を利用した電気音響変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、針状電極と、上記針状電極に対向する対向電極と、上記針状電極と対向電極の間に形成される放電部と、上記放電部を含みこの放電部で高周波放電を生起させる高周波発振回路と、を備え、上記放電部に導入される音波に応じて変調される音声信号を取り出し、または上記放電部において音声信号で変調される高周波信号に応じた放電を行わせることにより音声に変換する電気音響変換器であって、上記針状電極の外周面に向けて不活性ガスを供給する不活性ガス供給路を備え、上記不活性ガス供給路を構成する部材として、上記針状電極の外周面を覆う針状電極カバーを有しており、上記針状電極カバーは、上記針状電極の先端よりも対向電極側に延び出して、上記針状電極の先端よりも対向電極側にガス流出口を有していることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
針状電極と対向電極の間で放電が行われているとき不活性ガス供給路から針状電極の外周面に向けて不活性ガスを供給することにより、針状電極の表面と空気との接触を遮断し、空気中の放電生成物原因物質が針状電極に付着することを防止する。不活性ガス供給路を構成する針状電極カバーは、上記針状電極の先端よりも対向電極側に延び出して、上記針状電極の先端よりも対向電極側にガス流出口を有しているため、不活性ガスの流量が少なくても、かつ、放電電力を増加させても、火花放電に移行しにくく、感度を高めつつ風雑音の発生を抑制し信号対雑音比を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る電気音響変換器の実施例を示す縦断面図である。
【
図2】従来の高周波放電による電気音響変換器の例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0024】
以下、本発明に係る電気音響変換器の実施例について
図1を参照しながら説明する。なお、
図1に示す実施例の構成部分の多くは
図2に示す従来例の構成部分と同じであるから、同じ構成部分には共通の符号を付している。
【0025】
図1において、マイクロホンユニット20は、針状電極23と、この針状電極23との間で放電させるための対向電極24を有している。針状電極23の基部外周面は円筒面になっていて、上記基部外周面は円筒形状の絶縁筒26で覆われ、絶縁筒26はさらに円筒形状の絶縁筒25に嵌合され、絶縁筒25はベース21を厚さ方向に貫通して嵌合されている。換言すれば、針状電極23はその基部が絶縁筒25、26の介在のもとにベース21を厚さ方向に貫通してベース21に固定されている。ベース21の外周の一面側からは円筒形のケース22が一体に延び出ている。ベース21は円筒形のケース22の底部に相当している。針状電極23はケース22のほぼ中心軸線上に、かつ、ケース22で囲まれる空間内に位置している。針状電極23の先端部は円錐形状に形成されてケース22内に延び出ている。針状電極23の先端は鋭角的に尖っている。針状電極23の素材として、例えば、先端の曲率が50μmのタングステンを用いることができる。
【0026】
ケース22のベース21とは反対側の開放端部には、この開放端部を塞ぐようにして前記対向電極24が固定されている。対向電極24は平板状の電極であるが、例えば、無数の小孔が開けられたパンチングメタルを用い、あるいは導電性のワイヤを網状に編み込んだ素材を用いることにより、音波を通すことができる構造になっている。対向電極24は表面が絶縁材で覆われている。対向電極24として、例えば、音波を通すために多数の開口を設けたステンレス鋼板を、厚さ0.1mmのセラミック(シリカ)で被覆して用いることができる。対向電極24は針状電極23の先端と適宜の間隔をおいて対向していて、対向電極24と針状電極23との間で放電部を構成している。この放電部は、高周波放電を生起させる高周波発振回路の一部を構成し、この放電部で高周波放電が生起されるようになっている。この放電は火炎放電といわれるもので、
図1における符号27は、対向電極24と針状電極23との間の放電部において放電によって生じる火炎を示している。対向電極24は、上記のように音波をケース22内の放電部に導入する音波導入部を構成している。また、ケース22の周壁にも、音波をケース22内の放電部に導入する音波導入部としての孔を形成してもよい。
【0027】
針状電極23と対向電極24との間で高周波放電を生起させるためには高周波の高電圧を印加する必要があるため、高周波発振回路は、高電圧に耐えることができる真空管を発振用の能動素子として使用している。針状電極23と対向電極24との間で形成される放電路の放電電流が上記真空管に帰還するように回路が構成されることにより、自励発振による高周波発振回路が構成されている。針状電極23と対向電極24は高周波放電部を構成しており、この高周波放電部の粒子速度が音波の粒子速度によって変化し、高周波放電部の等価インピーダンスが変化する。音波によって高周波放電部の等価インピーダンスが変化することにより、上記発振回路による発信信号が音波によって変調される。この変調信号は、周波数変調すなわちFM変調成分と振幅変調すなわちAM変調成分を含むが、FM変調成分の方がより多く含まれる。したがって、上記FM変調された信号を取り出してこれをFM復調回路に入力すれば、上記音波導入部から導入される音波に対応したオーディオ信号に変換することができる。
【0028】
前記絶縁筒25の先端部はケース22の内方まで進入していて、絶縁筒25の先端に針状電極カバー50の基端が結合されている。針状電極カバー50は、針状電極23の先端よりも対向電極24側に延び出して、針状電極23の先端よりも対向電極24側にガス流出口51を有している。針状電極23の先端部が絞られることによりガス流出口51の径は小さくなっている。針状電極23は円筒状の部材で、その内部空間は不活性ガス案内路52となっている。したがって、針状電極23の長さ方向全体が不活性ガス案内路52で覆われている。
【0029】
不活性ガス案内路52は、電気音響変換器内において針状電極23の外周面に沿って不活性ガスを流すために設けられていて、針状電極23の外周を保持する前記絶縁筒25と一体に結合されている。不活性ガス案内路52は、針状電極23の外周を針状電極23の長さ方向全体にわたり針状電極23の外周面との間に空間をおいて囲み、針状電極23の先端部周面に沿って不活性ガスを流す上記ガス流出口51を備えている。ガス流出口51は針状電極23の先端部分よりも対向電極24側に突出している。ガス流出口51があることによって、針状電極23と対向電極24との間での放電に支障を来さない形になっている。
【0030】
不活性ガス案内路52にはパイプ42が連通している。パイプ42は前記円筒形状のケース22を半径方向に貫いて固定され、さらに、先端部が絶縁筒25に嵌合されることにより、パイプ42の内部空間が不活性ガス案内路52に連通している。ケース22の外周から突出したパイプ42の他端部は、カップリング41を介して別のパイプ40に連結されている。パイプ40、カップリング41およびパイプ42は、図示されないガスボンベなどからマイクロホンユニット20すなわち電気音響変換器に向けた不活性ガスの供給路を構成していて、上記不活性ガス案内路52とともに不活性ガス供給路を構成している。使用する不活性ガスの例として、ヘリウムガスあるいは窒素ガスがある。
【0031】
上記不活性ガス供給路から不活性ガスを供給しながら針状電極23と対向電極24との間で高周波放電させ、電気音響変換動作を行わせる。パイプ40、カップリング41およびパイプ42、針状電極カバー50からなる不活性ガス供給路を通じて不活性ガス案内路52に導かれる不活性ガスは、不活性ガス案内路52の内部空間に案内されてガス流出口51の方に向かって流れる。不活性ガスはガス流出口51において絞られることにより針状電極23の円錐形状の先端部外周に沿って流れ、針状電極23の先端部外周面と空気との接触が遮断される。したがって、空気中の放電生成物原因物質が針状電極23に付着することを防止することができ、放電生成物の付着を原因とする異常放電を防止して、動作の安定した高周波放電を利用した電気音響変換器を得ることができる。また、従来、空気の流れによって生じていた針状電極の先端部の損耗も防止することができる。
【0032】
図1に示す実施例では、電気音響変換動作中に針状電極23全体が針状電極カバー50で覆われ、針状電極23全体が不活性ガスで覆われて外気に触れることがないため、放電によって針状電極23の先端が損耗するとか、先端付近に放電生成物が付着する、といった不具合を防止することができ、放電生成物を原因とする異常放電を防止することができる。
【0033】
また、不活性ガス供給路を構成する針状電極カバー50は、針状電極23の先端よりも対向電極側に延び出して、針状電極23の先端よりも対向電極24側にガス流出口51を有しているため、不活性ガスの流量が少なくても火花放電に移行しにくい。したがって、放電電力を増加させて感度を高めても、火花放電を防止するための不活性ガスの流量は少なくてもよく、不活性ガスの流れによる風雑音の発生を抑制して信号対雑音比を改善することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
図示の実施例では、高周波放電を利用したマイクロホンとして説明したが、高周波発振回路で発振される高周波信号を音声信号で変調し、この変調信号で針状電極23と対向電極24との間で放電させることにより、前記イオンスピーカの原理により、スピーカとして動作させることができる。よって、本発明に係る電気音響変換器は、マイクロホンとしてもスピーカとしても利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
20 マイクロホンユニット
23 針状電極
24 対向電極
25 絶縁筒
27 火炎
42 不活性ガス供給路としてのパイプ
50 針状電極カバー
51 ガス流出口
52 不活性ガス案内路