(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態のガラス基板の製造方法について説明する。
【0015】
(ガラス基板の製造方法の全体概要)
図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の工程図である。
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、供給工程(ST4)と、成形工程(ST5)と、徐冷工程(ST6)と、切断工程(ST7)と、を主に有する。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有し、梱包工程で積層された複数のガラス基板は、納入先の業者に搬送される。
【0016】
図2は、熔解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を行う装置を模式的に示す図である。当該装置は、
図2に示すように、主に熔解装置200と、成形装置300と、切断装置400と、を有する。熔解装置200は、熔解槽201と、清澄槽202と、攪拌槽203と、ガラス供給管204,205,206と、を主に有する。なお、ガラス供給管204,205は、後述するように熔融ガラスMGを流す金属管であるとともに清澄機能を有するので、実質的に清澄槽でもある。以降では、ガラス供給管204を第1清澄槽204、清澄槽202を第2清澄槽202、ガラス供給管205を第3清澄槽205という。なお、熔解槽201以降、成形装置300までの各槽間を接続する第1清澄槽204,第3清澄槽205,ガラス供給管206および第2清澄槽202と攪拌槽203の本体部分は、白金あるいは白金合金管により構成されている。第1清澄槽204および第3清澄槽205は円筒形状もしくは、樋形状を成している。
【0017】
熔解工程(ST1)では、SnO
2が清澄剤として添加されて熔解槽201内に供給されたガラス原料を、図示されない火焔および電極を用いた通電加熱により熔解することで熔融ガラスを得る。具体的には、図示されない原料投入装置を用いてガラス原料Mは熔融ガラスGの液面に分散させて供給される。ガラス原料Mは、火炎で高温となった気相により加熱されて徐々に熔解し、熔融ガラスMG中に溶ける。熔融ガラスMGは、通電加熱により昇温される。
【0018】
清澄工程(ST2)は、少なくとも第1清澄槽204、第2清澄槽202および第3清澄槽205において行われる。清澄工程では、第1清澄槽204内の熔融ガラスMGが昇温されることにより、熔融ガラスMG中に含まれるO
2、CO
2あるいはSO
2等のガス成分を含んだ泡が、清澄剤であるSnO
2の還元反応により生じたO
2を吸収して成長し、熔融ガラスMGの液面に浮上して放出される。また、清澄工程では、熔融ガラスMGの温度の低下による泡中のガス成分の内圧が低下することと、SnO
2の還元反応により得られたSnOが熔融ガラスMGの温度の低下によって酸化反応をすることにより、熔融ガラスMGに残存する泡中のO
2等のガス成分が熔融ガラスMG中に再吸収されて、泡が消滅する。清澄剤による酸化反応及び還元反応は、熔融ガラスMGの温度を調整することにより行われる。熔融ガラスMGの温度の調整は、第1清澄槽204、第2清澄槽202、第3清澄槽205の温度を調整することにより、行われる。各清澄槽の温度の調整は、管そのものへ電気を流す直接通電加熱、或いは、第1清澄槽204、第2清澄槽202、第3清澄槽205の周りに配置したヒータを用いて各槽を加熱する間接加熱、さらに、空冷、水冷のクーラーによる間接冷却、第1清澄槽204、第2清澄槽202、第3清澄槽205のへのエアー吹きつけ、また水噴霧等のいずれかの加熱、冷却方法、或いは、これらの方法の組み合わせによって行われる。また、
図2では、清澄を行う槽が、第1清澄槽204、第2清澄槽202、第3清澄槽205の3つの部分に分かれているが、さらに細分化されても当然よい。
本実施形態の熔融ガラスMGの温度の調整では、上述した方法の一つである直接通電加熱が用いられる。具体的には、第2清澄槽202に熔融ガラスMGを供給する第1清澄槽204に設けられた図示されない金属製フランジと、第2清澄槽202に設けられた図示されない金属製フランジとの間で電流を流し(
図3(a)中の矢印)、さらに、第2清澄槽202に設けられた図示されない金属製フランジと、この金属フランジに対して熔融ガラスMGの下流側の第2清澄槽202に設けられた図示されない金属製フランジとの間に電流を流す(
図3(a)中の矢印)ことにより熔融ガラスMGの温度が調整される。本実施形態では、金属製フランジ間の1つ目の領域と、金属製フランジ間の2つ目の領域に、別々の一定の電流を流して第1清澄槽204と第2清澄槽202を通電加熱することにより、熔融ガラスMGの温度を調整するが、この通電加熱は2つの領域の通電加熱による温度調整に限定されず、1つの領域の通電加熱を行って、あるいは、3つ以上の領域で通電加熱を行って、熔融ガラスMGの温度調整を行うこともできる。
均質化工程(ST3)では、第3清澄槽205を通って供給された攪拌槽203内の熔融ガラスMGを、スターラ203aを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。攪拌槽203は2つ以上設けられてもよい。
供給工程(ST4)では、ガラス供給管206を通して熔融ガラスが成形装置300に供給される。
【0019】
成形装置300では、成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)が行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスを板状ガラスGに成形し、板状ガラスGの流れを作る。本実施形態では、後述する成形体310を用いたオーバーフローダウンドロー法を用いる。徐冷工程(ST6)では、成形されて流れる板状ガラスGが、内部歪が生じないように冷却される。
切断工程(ST7)では、切断装置400において、成形装置300から供給された板状ガラスGを所定の長さに切断することで、ガラス基板を得る。切断されたガラス基板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作製される。この後、ガラスの端面の研削、研磨およびガラス基板の洗浄が行われ、さらに、泡や脈理等の欠点の有無が検査された後、検査合格品のガラス基板が最終製品として梱包される。
【0020】
(清澄工程)
図3(a)は、清澄工程を行う装置構成を主に示す図である。清澄工程は、脱泡工程と吸収工程とを含む。脱泡工程では、熔融ガラスMGを1630℃以上に昇温させて、清澄剤であるSnO
2が酸素を放出させ、この酸素を熔融ガラスMGの既存の泡Bに取り込ませ、既存の泡Bの泡径を拡大させる。これにより、熔融ガラスMGの温度上昇に起因した泡B内のガス成分の内圧上昇による泡径の拡大と、熔融ガラスMGの温度上昇に起因した熔融ガラスMGの粘性の低下との相乗効果により、泡Bの浮上速度が高まり、脱泡が促進する。
吸収処理では、脱泡処理とは逆に熔融ガラスMGの温度を低下させることにより、熔融ガラスMG中の泡B内の酸素を再び熔融ガラスMGに吸収させることと、熔融ガラスMGの温度低下により泡B内のガス成分の内圧を低下させることとの相乗効果により、泡径を縮小させ、熔融ガラスMG中に泡Bを消滅させる。
なお、脱泡工程では、2℃/分以上の昇温速度で熔融ガラスMGの温度を1630℃以上に昇温させる。この熔融ガラスの昇温を実現するために、脱泡工程の一部を担うガラス供給管204の管断面形状は、後述するように扁平形状となっている。この点については後述する。なお、2℃/分以上の昇温速度とは、熔融ガラスMGの温度が、熔解工程後の熔融ガラスMGの温度(例えば1580℃であり、1560〜1620℃)から清澄温度(例えば、1630〜1700℃)に到達する範囲における、熔融ガラスMGの平均昇温速度が2℃/分以上であることをいう。
【0021】
第1清澄槽204、第2清澄槽202及び第3清澄槽205は、上述した温度履歴を、熔融ガラスMGに与えることにより、熔融ガラスMGの脱泡と、泡Bの吸収を行う装置である。このため、第1清澄槽204、第2清澄槽202及び第3清澄槽205を目的の温度に加熱、冷却することができるような温度調節機能を有している。
第1清澄槽204、第2清澄槽202及び第3清澄槽205それぞれの温度調整は、各清澄槽そのものを通電する直接通電加熱、或いは、各槽周りに配置した図示されないヒータによる清澄槽の間接加熱、さらに、空冷、水冷のクーラーによる間接冷却、各清澄槽へのエアー吹きつけ、水噴霧等のいずれか1つの方法を用いて、或いは、これらの方法の組み合わせを用いて行われる。
【0022】
このように、脱泡工程では、2℃/分以上の昇温速度で熔融ガラスMGの温度を1630℃以上に昇温させるために、第1清澄槽であるガラス供給管204の管断面形状は、水平方向の長さが鉛直方向に比べて長い扁平形状となっている。すなわち、
図3(b)に示すように、ガラス供給管204の管断面形状の鉛直方向の長さ(最大寸法)D
1に対して、水平方向の長さ(最大寸法)D
2が長くなるように、ガラス供給管204は構成されている。ガラス供給管204の管断面形状を扁平形状とすることにより、ガラス供給管204の加熱源となる内壁面と熔融ガラスMGが接触して熱を受けるときの熔融ガラスMGの表面積は、従来の同じ管断面積を有する正円の管において熔融ガラスが内壁面から熱を受ける表面積に比べて大きくなっている。いいかえると、熔融ガラスMGがガラス供給管204を通過する熔融ガラスMGの量に対する、加熱源となる内壁面と接触する熔融ガラスの面積の比は、正円の管の場合に比べて大きい。このため、熔融ガラスMGは内壁面から広い表面積で熱を受けるので、熔融ガラスMGの温度を急速に、かつ、均一に昇温することができる。すなわち、第1清澄槽であるガラス供給管204の管断面積に一致する断面積を有する、断面が正円である円管を基準としたときと比して、本実施形態の第1清澄槽であるガラス供給管204の熔融ガラスMGは、ガラス供給管204の内壁面から熱を受ける熔融ガラスMGの表面積が大きくなっている。
なお、本実施形態では、水平方向の長さD
2が鉛直方向D
1に比べて長い扁平形状であるが、水平方向の長さD
2が鉛直方向D
1に比べて短い扁平形状であってもよい。しかし、ガラス供給管204は、熔解槽201と接続する管であるので、十分に熔解した均質な熔融ガラスを溶解槽201の底部から抜き出す点を考慮すると、底部の熔融ガラスを抜き出すことが可能な形状であることが好ましい。したがって、水平方向の長さD
2が鉛直方向の長さD
1に比べて長い扁平形状であることが好ましい。また、本実施形態では、第1清澄槽であるガラス供給管204の管断面形状は、管の全長に亘って扁平形状となっているが、ガラス供給管204の一部において管断面形状は扁平形状となっていてもよい。
【0023】
図3(a)にしたがって、より詳しく清澄を説明する。
熔解槽201で熔解され、ガラス原料の分解反応により生成した泡Bを多く含んだ液状の熔解ガラスMGが、第1清澄槽204に導入される。
第1清澄槽204では、第1清澄槽204の本体である白金あるいは白金合金管の加熱により熔融ガラスMGが1630℃以上まで加熱され、清澄剤の還元反応が促進されることにより、多量の酸素が熔融ガラスMGに放出される。熔融ガラスMG内の既存の泡Bは、熔融ガラスMGの温度上昇に起因した、泡B内のガス成分の圧力の上昇効果による泡径の拡大に、清澄剤の還元反応により放出された酸素が泡B内に拡散して入り込むことが重なって、この相乗効果により既存の泡Bの泡径が拡大する。この時、熔融ガラスMGは、2℃/分以上の昇温速度で1630℃以上の温度に達するまで加熱される。
【0024】
続いて、この熔融ガラスMGが第2清澄槽202に導入される。
第2清澄槽202は、第1清澄槽204と異なり、第2清澄槽202内部の上部開空間が気相の雰囲気空間であり、熔融ガラスMG中の泡Bが熔融ガラスMGの液面に浮上して熔融ガラスMGの外に放出できるようになっている。
第2清澄槽202では、第2清澄槽202の本体である白金あるいは白金合金管の加熱により熔融ガラスMGは引き続き1630℃以上の高温に維持され、熔融ガラスMG中の泡Bは、第2清澄槽202の上方に向かって浮上して、熔融ガラスMGの液表面で破泡することにより熔融ガラスMGは脱泡される。特に、熔融ガラスMGが1630℃以上まで加熱されると(例えば1630〜1700℃になると)、SnO
2は、還元反応を加速的に起こす。このとき、例えば、液晶ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ用ガラス基板を製造する場合、ガラスの粘度は、熔融ガラスMGの温度の上昇により、泡Bの浮上、脱泡に適した粘度(200〜800poise)になっている。
ここで、第2清澄槽202の上方の上部開空間で破泡、放出されたガス成分は、図示されない、ガス放出口より、第2清澄槽202外に放出される。第2清澄槽202において、泡Bの浮上、脱泡によって浮上速度の速い径の大きな泡Bが除去された熔融ガラスMGは、第3清澄槽205に導入される。
本実施形態では、例えば、
図3に示すように、第2清澄槽202から第3清澄槽205においては本体を構成する白金あるいは白金合金管の長さ方向に延びる2つの異なる領域に別々に流す電流を制御することにより熔融ガラスMGの昇温が行われてもよい。また、清澄槽の本体を構成する白金あるいは白金合金管の長さ方向に延びる3つ以上の異なる領域に別々に流す電流を制御することにより熔融ガラスMGの昇温が行われてもよい。
このように、熔融ガラスMGの昇温が、清澄槽の異なる少なくとも2つの領域に別々に流す電流を制御することにより、行われることが、脱泡処理を効率よく行わせる点で好ましい。
【0025】
第3清澄槽205では、第3清澄槽205の本体である白金あるいは白金合金管の冷却により(加熱の程度を抑制することにより)熔融ガラスMGは冷却される。この冷却により熔融ガラスMGの温度が下がるので、泡Bの浮上、脱泡は行われず、残存した小さな泡B内のガス成分の圧力は下がり、泡径は徐々に小さくなる。さらに、熔融ガラスMGの温度が1600℃以下になると、脱泡処理においてSnO
2の還元反応で得られたSnOの一部は酸素を吸収して、SnO
2に戻ろうとする。このため、泡B内のガス成分である酸素は、熔融ガラスMG中に再吸収され、泡Bはますます小さくなり、熔融ガラスMG中に吸収されて最終的に消失する。この時、熔融ガラスMGは、1600℃から1500℃の温度範囲で平均2℃/分以上の速度で冷却される。
【0026】
図3に示す例では、清澄工程を行う清澄槽は、第1清澄槽204、第2清澄槽202、及び第3清澄槽205の3つの部分に分かれているが、清澄槽はさらに細分化されても当然よい。清澄槽を細分化した方が、熔融ガラスMGの温度調整をより細かく行うことができる。特に、清澄槽を細分化することは、熔融ガラスMGの種類や熔解量を変更する場合、温度調整がし易い点で有利である。
また、上記説明では簡略化のために、第1清澄槽204では熔融ガラスMGが1630℃まで昇温され、第2清澄槽202では、熔融ガラスMGの泡Bの浮上、脱泡が行われ、第3清澄槽205では、熔融ガラスMGが熔融ガラスMGの降温により泡Bの吸収が行われるように、清澄槽毎に機能を分けて説明したが、清澄槽毎に機能が完全に分かれていなくてもよい。第2清澄槽202の長さ方向の途中までの部分が熔融ガラスMGを昇温させる構成としてもよく、第2清澄槽202の長さ方向の途中から第3清澄槽205の間を、熔融ガラスMGの降温を開始させる部分とするように構成することもできる。
本実施形態では、第1清澄槽204、第2清澄槽202、第3清澄槽205の表面温度、つまり熔融ガラスMGが流れていない清澄槽の外側の表面温度を測定して温度制御をすることにより熔融ガラスMGの昇温速度、降温速度を管理することができる。第1清澄槽204、第2清澄槽202及び第3清澄槽205の表面温度と、第1清澄槽204、第2清澄槽202及び第3清澄槽205の中を流れる熔融ガラスMGの平均温度(清澄槽内で温度分布を持つ熔融ガラスMGの温度の平均値)との関係を、コンピューターシミュレーションにより、清澄槽に供給する熔融ガラスMGの流速と温度の条件を用いて、予め算出することができる。このため、清澄槽の外側の測定された表面温度から、上記関係を用い昇温速度、降温速度を算出して昇温速度、降温速度を管理することができる。なお、熔融ガラスMGの流速は各装置の容積と、成形装置300に流入される単位時間当たりの熔融ガラスMRの量から算出することができる。また、熔融ガラスMGの温度は、ガラスの粘性と熱伝導度から算出することができる。
【0027】
このように、脱泡処理の後、熔融ガラスMGの温度を1600℃から1500℃の温度範囲を、例えば2℃/分以上の降温速度で降温させるのは、後述するように、最終製品であるガラス基板内に残存する単位質量当たりの泡数を低減させるためである。ここでいう泡は、予め設定された泡の体積、例えば直径20μmの泡の体積と同等以上の体積を有する泡をいう。
なお、上記降温速度は、速いほどガラス基板内に残存する泡数を低減できるが、この低減効果は上記降温速度の上昇に伴って小さくなっていく。上記降温速度は、3℃/分以上であることが好ましい。なお、上記降温速度の上限は特に設けられないが、ガラス基板を工業的に製造する場合、以下の理由から、50℃/分が上限となる。
【0028】
すなわち、熔融ガラスMGの降温速度が速くなりすぎると熔融ガラスMGの泡B内の酸素が熔融ガラスMGへ再吸収される現象が阻害され、結果として、熔融ガラスMG中の泡Bそのものは減少しない可能性がある。また、ガラスの熱伝導度は高温でも20〜50W/(m・K)程度と小さいため、さらに、熔融ガラスMGの急激な冷却は特別な手段を取らない限り、第3清澄槽205の外側からしか冷却できないため、上記降温速度を速くした場合、第3清澄槽205の外表面近くの熔融ガラスMGのみが冷えてしまい、第3清澄槽205の中心部の熔融ガラスMGは高温のままに維持される。つまり、第3清澄槽205内において、熔融ガラスMGの外表面部分と中心部との間で温度差が大きくなってしまう。この場合、外表面部分の熔融ガラスMGの中から結晶が析出してしまうという問題が生じる。また、第3清澄槽205内において、熔融ガラスMGの外表面部分と中心部の間で熔融ガラスMGの温度差が大きくなった状態で熔融ガラスMGを攪拌すると、温度差の大きなガラスが混ざり合うので、泡Bが発生する他、ガラスの組成上、均質性を阻害し易くなる。また、熔融ガラスMGの降温速度を速くする為には、第3清澄槽205からの放熱を増やさなければならないので、第3清澄槽205の白金もしくは白金合金管の本体を支えるバックアップレンガ等の支持部材の厚さを薄くしなければならない。しかし、支持部材の厚さを薄くする分だけ、設備の強度が下がる。このため、ガラス基板を工業的に製造する場合、熔融ガラスMGの降温速度をいたずらに速くすることは、上述したような問題を引き起こすのみであり、妥当とは言えない。
以上のことから、熔融ガラスMGの、1600℃から1500℃までの降温速度の上限は、50℃/分であることが好ましく、35℃/分であることがより好ましい。すなわち、本実施形態では、上記降温速度は、2℃/分〜50℃/分であることが好ましく、3℃/分〜35℃/分であることがより好ましい。
【0029】
(成形工程)
図4は、成形工程及び切断工程を行う装置構成を主に示す図である。成形装置300は、成形炉340と徐冷炉350を含む。
成形炉340および徐冷炉350は、耐火レンガ等の耐火物で構成された図示されない炉壁に囲まれて構成されている。成形炉340は、徐冷炉350に対して鉛直上方に設けられている。成形炉340及び徐冷炉350の炉壁で囲まれた炉内部空間に、成形体310と、雰囲気仕切り部材320と、冷却ローラ330と、冷却ユニット335と、搬送ローラ350a〜350dと、が設けられている。
成形体310は、
図2に示すガラス供給管206を通して熔解装置200から流れてくる熔融ガラスMGを板状ガラスGに成形する。成形体310に供給されるときの熔融ガラスは、粘度η(poise)に関してlogη=4.3〜5.7となる温度となっている。この熔融ガラスMGの温度は、ガラスの種類によって異なるが、例えば液晶ディスプレイ用ガラスであれば、1200〜1300℃である。これにより、成形装置300内で、鉛直下方の板状ガラスGの流れが作られる。成形体310には、耐火レンガ等によって構成された細長い構造体であり、
図4に示すように断面が楔形状を成している。成形体310の上部には、熔融ガラスを導く流路となる供給溝312が設けられている。供給溝312は、成形装置300に設けられた供給口において第3清澄槽205と接続され、第3清澄槽205を通して流れてくる熔融ガラスMGは、供給溝312を伝って流れる。供給溝312の深さは、熔融ガラスの流れの下流ほど浅くなっており、供給溝312から熔融ガラスMGが鉛直下方に向かって溢れ出るようになっている。
供給溝312から溢れ出た熔融ガラスは、成形体310の両側の側壁の垂直壁面および傾斜壁面を伝わって流下する。側壁を流れた熔融ガラスは、
図4に示す成形体310の下方端部313で合流し、1つの板状ガラスGが成形される。
【0030】
成形体310の下方端部313の下方近傍には、雰囲気仕切り部材320が設けられている。雰囲気仕切り部材320は、一対の板状の断熱部材であって、板状ガラスGの両側を挟むように、板状ガラスGの厚さ方向の両側に設けられている。雰囲気仕切り部材320は、板状ガラスGと接触しない程度に隙間があけられている。雰囲気仕切り部材320は、成形炉340の内部空間を仕切ることにより、雰囲気仕切り部材320の上方の炉内部空間と下方の炉内部空間との間の熱の移動を遮断する。
【0031】
雰囲気仕切り部材320の下方には冷却ローラ330が設けられている。冷却ローラ330は、板状ガラスGの幅方向の両端近傍の板状ガラスG表面と接触して、板状ガラスGを下方に引き下げて所望の厚さに板状ガラスGを伸ばすとともに、板状ガラスGの両端部を冷却する。
【0032】
成形炉340の下方には、搬送ローラ350a〜350dが所定の間隔で設けられ、板状ガラスGを下方向にけん引する。図示される形態では、搬送ローラは4対設けられるが、5対以上であってもよい。成形炉340の下方の空間は、徐冷炉350の炉内部空間となっている。搬送ローラ350a〜350dのそれぞれは、ローラ対を有し、板状ガラスGの両側を挟むように板状ガラスGの幅方向の両側端部に設けられている。
【0033】
(ガラス組成)
本実施形態のガラス基板の製造方法により製造されるガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板に好適に用いられる。例えば、Li、Na、及びKのいずれの成分も含有されていないか、あるいは、Li、Na、及びKのいずれか少なくとも1つの成分が含有されているとしても、Li、Na、及びKの内含有する成分の合計量が、2質量%以下であるガラス組成を有することが、本実施形態の効果を効率よく発揮する点で好ましい。ガラス組成は、以下に示すものが好適に例示される。
(a)SiO
2:50〜70質量%、
(b)B
2O
3:1〜18質量%、
(c)Al
2O
3:10〜25質量%、
(d)MgO:0〜10質量%、
(e)CaO:0〜20質量%、
(f)SrO:0〜20質量%、
(g)BaO:0〜10質量%、
(h)RO:5〜20質量%(ただしRはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種であり、ROは、MgO、CaO、SrOおよびBaOのうち含有する成分の合計)、
(i)R’
2O:0.1質量%を超え2.0質量%以下(ただしR’はLi、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種であり、R’
2OはLi
2O、Na
2O及びK
2Oのうち含有する成分の合計)、
(j)酸化錫、酸化鉄および酸化セリウムなどから選ばれる少なくとも1種の金属酸化物を合計で0.05〜1.5質量%。
なお、上記(i),(j)の組成は必須ではないが、(i),(j)の組成を含むことができる。上記のガラスには、As
2O
3およびPbOを実質的に含まず、SnO
2が含まれている。なお、環境問題の観点からは、Sb
2O
3も実質的に含まないことが好ましい。
また、(i)のR’
2Oの含有が0質量%であっても構わない。
【0034】
上述した成分に加え、本実施形態のガラス基板は、ガラスの様々な物理的、熔融、清澄、および成形の特性を調節するために、様々な他の酸化物を含有しても差し支えない。そのような他の酸化物の例としては、以下に限られないが、TiO
2、MnO、ZnO、Nb
2O
5、MoO
3、Ta
2O
5、WO
3、Y
2O
3、およびLa
2O
3が挙げられる。
また、本実施形態においては、SnO
2はガラスを失透しやすくする成分であるため、清澄性を高めつつ失透を起こさせないためには、その含有率が0.01〜0.5質量%であることが好ましく、0.05〜0.3質量%であることがより好ましく、0.1〜0.3質量%であることがさらに好ましい。
上記金属酸化物に酸化鉄を含む場合、上記酸化鉄は、その含有量が0.01〜0.1質量%であることが好ましく、0.01〜0.08質量%であることがより好ましい。
【0035】
また、上記(i)のR’
2Oは、液晶ディスプレイ用ガラス基板や有機ELディスプレイ用ガラス基板として適用する場合には、実質的に含まないこと、または、液晶ディスプレイ用ガラス基板や有機ELディスプレイ用ガラス基板としてガラス表面に形成されるTFT(Thin Film Transistor)に影響を及ぼさない程度に微量含むこと、が好ましい。ガラス中に上記成分を敢えて微量含有させることによって、TFTに影響を及ぼすことなしに、ガラスの熱膨張を一定範囲内に抑制しつつ、ガラスの塩基性度を高め、価数変動する金属の酸化を容易にして、清澄性を発揮させることが可能である。また、R’
2Oはガラスの電気比抵抗を下げ、熔解性を向上させることができる。そこで、R’
2Oの合計含有率は0〜2.0質量%であり、0.1質量%を超え1.0質量%以下であることがより好ましく、0.2〜0.5質量%がさらに好ましい。なお、Li
2O,Na
2Oは含有させずに、上記成分中でも、ガラスから溶出して半導体素子に影響を最も及ぼし難いK
2Oを含有させることが好ましい。K
2Oの含有率は、0〜2.0質量%であることが好ましく、0.1〜1.0質量%がより好ましく、0.2〜0.5質量%がさらに好ましい。
【0036】
本実施形態のガラス基板が、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等に用いられるガラス基板として好適に用いられるような特性を得るためには、熔融ガラスMGの清澄温度における粘度が、アルカリを多量に含有したガラス基板等に比較して高くなるので、脱泡処理において泡の浮上速度が遅くなりやすい。本実施形態のガラス基板が、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等を構成するガラス基板である場合、例えば、1630℃の温度における熔融ガラスMGの粘度が130〜350poiseであることが好ましい。
【0037】
(熔融ガラスの温度履歴)
図5は、本実施形態における熔解工程から成形工程に至る温度履歴の一例を説明する図である。
本実施形態のガラス基板の製造に用いるガラス原料は、目標とする化学組成となるように、種々の原料を秤量し、よく混ぜ合わせてガラス原料が作られる。その際、SnO
2が清澄剤として所定量、ガラス原料に添加される。こうして作られるSnO
2が添加されたガラス原料は、熔解槽201に投入されて高温で熔解し、熔融ガラスMGがつくられる。熔解槽201に投入されたガラス原料は、その成分の分解温度に達したところで分解し、ガラス化反応により、熔融ガラスMGとなる。熔融ガラスMGは熔解槽201を流れる間に、徐々に温度を上げながら、熔解槽201の底部近くから第1清澄槽204(ガラス供給管204)に進む。
このため、熔解槽201では、ガラス原料の投入された時点における温度T1から第1清澄槽204(ガラス供給管204)に進入する時点における温度T3まで、熔融ガラスMGの温度はなだらかに上昇する温度履歴を有する。なお、
図5中、T1<T2<T3であるが、T2=T3あるいは、T2>T3であってもよく、少なくともT1<T3であればよい。
【0038】
第1清澄槽204の図示されない金属製フランジと第2清澄槽202の図示されない金属製フランジとの間で一定の電流を流して第1清澄槽204の白金あるいは白金合金管を通電加熱することにより、さらに、第2清澄槽202の図示されない金属製フランジと第2清澄槽202の図示されない別の金属製フランジとの間で一定の電流を流して第2清澄槽202の白金あるいは白金合金を通電加熱することにより、第1清澄槽204に進入した熔融ガラスMGを、温度T3からSnO
2が酸素を急激に放出する温度T4(例えば1630℃以上であり、1650〜1700℃であることがさらに好ましい)まで、2℃/分以上の昇温速度で昇温する。昇温速度を2℃/分以上とするのは、後述するように、昇温速度が2℃/分以上の場合に、O
2ガスの放出量が急激に大きくなるからである。なお、温度T3と温度T4の差が大きいほど、熔融ガラスMG中のSnO
2が放出するO
2の量が多くなり、脱泡が促進される。このため、温度T4は、温度T3と比べて例えば50℃程度高いことが好ましい。このとき、第1清澄槽であるガラス供給管204は、
図3(b)に示すような管断面形状を有するので、熔融ガラスMGが加熱源であるガラス供給管204の内壁面と接触して熱を受けるときの加熱表面積は、同じ管断面積で管断面形状が円を成した等価管の場合に比べて大きい。このため、熔融ガラスMGの昇温速度を2℃/分以上として、温度T4まで確実に昇温することができる。
さらに、第2清澄槽202に進入した熔融ガラスMGを、温度T4から温度T4と略同じ温度T5に維持する。なお、温度T3〜温度T5における温度調節は、本実施形態では、各清澄槽を通電加熱する方式を用いるが、この方式には限定されない。例えば、各清澄槽周りに配置した図示されないヒータによる間接加熱を用いて上記温度調節が行われてもよい。
【0039】
このとき、熔融ガラスMGは1630℃以上に加熱されることにより、清澄剤であるSnO
2の還元反応が促進される。これにより、多量の酸素が熔融ガラスMG中に放出される。熔融ガラスMG中の既存の泡Bは、熔融ガラスMGの温度上昇に起因した泡B内のガス成分の圧力の上昇効果による泡径の拡大に、上記清澄剤の還元反応により放出された酸素が泡B内に拡散して入ってくることが重なり、この相乗効果によって泡径が拡大する。
泡径の拡大した泡Bはストークスの法則に従って泡Bの浮上速度が速くなり、泡Bの浮上、破泡が促進される。
第2清澄槽202でも、熔融ガラスMGは引き続き、1630℃以上の高温に維持されるため、熔融ガラスMG中の泡Bは、熔融ガラスMGの液表面に浮上し、液表面で破泡することにより、熔融ガラスMGの脱泡が行われる。
【0040】
脱泡処理は、
図5中では、温度T3から熔融ガラスMGの温度が温度T4に上昇し、その後、温度T4と略同じ温度T5に維持される期間で行われる。
図5中、T4とT5が略同じであるが、T4<T5であってもよいし、T4>T5であってもよい。
なお、熔融ガラスMGの温度が温度T4に達するのは、第1清澄槽204である例を挙げて説明したが、第2清澄槽202内であってもよい。
【0041】
次に、第2清澄槽202から第3清澄槽205に進んだ熔融ガラスMGは、残存する泡Bを吸収するため、温度T5から、温度T6(例えば、1600℃)を経て、温度T7(攪拌工程に適した温度であり、ガラス硝種と攪拌装置のタイプで異なるが、例えば、1500℃である。)まで、冷却される。
熔融ガラスMGの温度が低下することで、泡Bの浮上、脱泡が生じずに、熔融ガラスMGに残存した小泡中のガス成分の圧力も下がり、泡径はどんどん小さくなる。さらに熔融ガラスMGの温度が1600℃以下になると、SnO(SnO
2の還元により得られたもの)の一部が酸素を吸収して、SnO
2に戻ろうとする。このため、熔融ガラスMG中の残存する泡B内の酸素は、熔融ガラスMG中に再吸収され、小泡は一層小さくなる。この小泡は熔融ガラスMGに吸収されて、小泡は最終的に消滅する。
このSnOの酸化反応により泡B内のガス成分であるO
2を吸収させる処理が、吸収処理であり、温度T5から温度T6を経て温度T7まで低下する期間に行われる。
図5では、温度T5〜T6の降温速度が、温度T6〜T7の降温速度に比べて速いが、温度T5〜T6の降温速度が、温度T6〜T7の降温速度に比べて遅くてもよいし、同等であってもよい。少なくともこの吸収処理の間、熔融ガラスMGの温度が1600℃から1500℃の温度範囲を2℃/分以上の降温速度で降温されることが好ましい。しかし、熔融ガラスMGがより高温状態にあるときの降温速度を大きくして、後述するSO
2の拡散を早期に抑制して、泡B内に取り込まれるSO
2を減少させる点で、温度T5〜T6の降温速度が、温度T6〜T7の降温速度に比べて速いことが好ましい。すなわち、吸収処理において、熔融ガラスMGが1500℃以下である温度範囲における降温速度は、1600℃から1500℃の温度範囲における降温速度よりも遅いことが好ましい。
また、温度T6〜T7の降温速度を温度T5〜T6の降温速度よりも遅くすることで、泡B内に取り込まれるSO
2を減少させつつ、攪拌槽203に流入される熔融ガラスMGの第3清澄槽205(ガラス供給管205)内における、外側表面部分と中心部との間の温度差を小さくすることができる。
なお、ガラス基板の生産性の向上と設備コスト削減の点から、吸収処理において、熔融ガラスMGが1500℃以下である温度範囲における降温速度は、1600℃から1500℃の温度範囲における降温速度よりも速いことが好ましい。なお、このような熔融ガラスMGの温度制御を行う場合、成形工程に供給する熔融ガラスMGの量を調整する流量調整装置を設けることが好ましい。
また、泡B内に取り込まれるSO
2を減少させつつ、成形工程に供給する熔融ガラスMGの量を、ガラス供給管206内の熔融ガラスMGの温度管理にて調整できる点で、吸収処理において、熔融ガラスMGが1500℃以下である温度範囲における降温速度は、1600℃から1500℃の温度範囲における降温速度よりも遅いことが好ましい。これにより、ガラス供給管206を特別な形状に加工することや、ガラス供給管206以外に流量調整装置を設けることなしに、成形工程に流入される熔融ガラスMGの量は調整しやすくなる。また、成形工程に流入される熔融ガラスMGのガラス供給管206内における、外側表面部分と中心部との間の温度差を小さくすることができる。
【0042】
上記吸収処理後、あるいは吸収処理の途中で、攪拌槽203に熔融ガラスMGは進入する。攪拌槽203は、熔融ガラスMG中の組成ムラを小さくして熔融ガラスMGを均質化する。なお、攪拌槽203において、上記吸収処理が継続して行われてもよい。この後、成形工程における成形に適した温度T8、例えば1200〜1300℃になるまで熔融ガラスMGは降温される。
【0043】
上述したように、清澄工程と成形工程との間に、熔融ガラスMGの成分を均質に攪拌する攪拌工程を含む。熔解工程では、熔融ガラスMGの熔解開始時の温度T1に比べて高い温度T3で熔融ガラスMGが清澄工程に供給される。清澄工程では、温度T7に比べて低い温度で熔融ガラスMGが攪拌工程に供給される。攪拌工程では、粘度η(poise)に関してlogη=4.3〜5.7となる温度で熔融ガラスMGが成形工程に供給される。成形工程では、熔融ガラスMGの温度が、例えば、1200〜1300℃の状態で、熔融ガラスMGは板状ガラスに成形される。なお、ガラス基板の液相粘度は、logη=4以上であることが好ましく、ガラス基板の液相温度は、1050℃〜1270℃であることが好ましい。このような液相粘度及び液相温度とすることにより、成形方法としてオーバーフローダウンドロー法を適用することができる。
【0044】
図6は、実験炉において行われた測定結果であり、脱泡処理が行われるときの熔融ガラスに含まれるO
2の排出量と昇温速度の関係を示す図である。昇温速度は、1550℃から1640℃の温度範囲における平均速度である。この測定に用いられたガラス基板は、アルカリ金属の含有量が少ない液晶用ディスプレイ用ガラス基板と同じガラス組成を有し、清澄剤としてSnO
2が用いられた。具体的には、以下に示すガラス組成を有する液晶用ディスプレイ用ガラス基板を用いて、
図6に示す測定結果が得られた。
SiO
2:60質量%
Al
2O
3:19.5質量%
B
2O
3:10質量%
CaO:5.3質量%
SrO:5質量%
SnO
2:0.2質量%
図6によると、O
2の排出量を高くするには、熔融ガラスMGの昇温速度を2℃/分以上にすればよいことがわかる。なお、
図6の測定結果において、CO
2は、空洞が形成されたガラス基板に他のガラス基板を積み重ねることにより空洞内の気体(CO
2)を密封し、この状態で各ガラス基板を加熱して融着させることにより、熔融ガラスMG内に泡として存在させたものである。このような昇温速度を達成するために、本実施形態では、第1清澄槽であるガラス供給管204の管断面形状を扁平形状としている。第1清澄槽であるガラス供給管204は、同じ管断面積を有する等価円管の場合に比べて大きな加熱表面積で熔融ガラスに熱を与えるので、熔融ガラスの温度を急速に、かつ、均一に昇温させることができる。
本実施形態では、昇温速度の実質的な上限はなく、例えば、10℃/分以下であればよい。ガラスは熱伝導度が小さいため、昇温速度を上昇させるためには、熱伝達面積を増やさなければならない。熱伝達面積を増やすためには、金属管である第1清澄槽204や第2清澄槽202等の内径を小さくし、さらに第1清澄槽204や第2清澄槽202等を長さ方向に長く形成することが挙げられる。また、熱伝達面積を増やすためには、第1清澄槽204や第2清澄槽202等の温度を、熔融ガラスMGの温度よりも著しく高い温度まで上げることも挙げられる。しかし、第1清澄槽204や第2清澄槽202等の内径を小さくし、さらに第1清澄槽204や第2清澄槽202等を長さ方向に長く形成すると、ガラス基板製造装置が大型化してしまい、好ましくない。また、第1清澄槽204や第2清澄槽202等の温度を、熔融ガラスMGの温度よりも著しく高い温度まで上げると、高温によってガラス基板製造装置が破損するおそれがある。したがって、昇温速度の実質的な上限は10℃/分以下であることが好ましい。以上のことから、昇温速度は、2℃/分〜10℃/分であることが好ましく、3℃/分〜8℃/分であることがより好ましく、3℃〜6.5℃/分であることがさらに好ましい。この範囲において、脱泡処理を効率よく行い、ガラス基板に残存する泡を効率よく低減することができる。
【0045】
また、上述したように、脱泡処理後に行われる泡の吸収処理では、熔融ガラスMGが1600℃から1500℃の温度範囲で2℃/分以上の降温速度で降温される。これは以下説明する理由により行われる。
温度T3から温度T4に熔融ガラスMGを昇温して温度T5に至る期間、SnO
2が酸素を放出して還元される温度である1600〜1630℃以上に熔融ガラスMGは昇温されるので、熔融ガラスMG内の泡に、SnO
2が放出した酸素の取り込みが促進される他、高温になって熔融ガラスMG内に溶存するO
2、CO
2、SO
2の拡散が促進されて、上記泡B内に熔融ガラスMG内に溶存するO
2、CO
2、SO
2も取り込まれる。なお、熔融ガラスMG中へのガス成分の熔解度は、ガラス成分により変わるが、SO
2の場合、アルカリ金属成分の含有量の多いガラスでは比較的熔解度が高いが、アルカリ金属成分を含まないか、含んでも少量である本実施形態のような液晶ディスプレイ用ガラス基板に用いるガラス基板では熔融ガラスMG中に熔解できる熔解度は低い。液晶ディスプレイ用ガラス基板に用いるガラス基板では、本来、ガラス原料として、人為的にはS(硫黄)成分を加えないが、原料中の不純物として、或いは、熔解槽201で用いる燃焼ガス(天然ガス、都市ガス、プロパンガス等)に、不純物として、微量に含まれている。このため、これらの不純物として含まれるS成分が、酸化されてSO
2となり、熔融ガラスMGに含まれている泡B内に拡散して入り込む。SO
2は再吸収されにくいので泡Bとして残る。この現象は、従来のAs
2O
3を清澄剤として使用していた時に比べ、非常に顕著に現れる。
SnO
2を清澄剤として使用したガラス組成の場合、熔融ガラスMGの高温での保持時間が長くなるほど、熔融ガラスMG内の既存の泡B内へのSO
2の拡散が促進する。これは、高温になってSO
2の熔融ガラスMG中の拡散速度が速まり、泡B内へ進入し易くなったためであると考えられる。
【0046】
この後、温度T5から温度T7に熔融ガラスMGの降温を行うとき、SnO
2の還元により得られたSnOが酸化反応によりO
2を吸収して酸化しようとする。したがって、熔融ガラスMG内に残存する泡BにあるO
2はSnOに吸収される。しかし、熔融ガラスMG中のSO
2やCO
2の、既存の泡B内への拡散は依然として維持される。このため、温度T5から温度T7の期間中における泡B内のガス成分は、温度T3から温度T5の期間中に比べてSO
2,CO
2の濃度が高い。特に、本実施形態で用いる熔融ガラスMGでは、アルカリ金属の含有量が少ない組成であるので、SO
2の熔融ガラスMGにおける熔解度が小さい。このため、SO
2がガスとして一旦泡Bに取り込まれると、このSO
2は、吸収処理において熔融ガラスMG内に吸収されにくい。
【0047】
以上、温度T5から温度T7の期間では、泡B内のO
2はSnOの酸化反応によりSnOに吸収されるが、SO
2,CO
2の、既存の泡B内への拡散が依然として維持されるので、この期間を短期間にすることにより、SO
2,CO
2の、既存の泡B内への拡散を少なくし、泡Bの成長を抑制することができる。このため、温度T5から温度T7の吸収処理の期間中、熔融ガラスMGが1600℃から1500℃の温度範囲で2℃/分以上の降温速度で降温することにより、後述するようにガラス基板中の泡数を抑制することができる。
【0048】
図7は、ガラス中の泡Bを再現した孔内に含有されるSO
2の含有量の測定結果を示す図であり、ガラスの温度条件と温度維持時間に対するSO
2の含有量の依存性を示す。
図7中の黒丸の大きさが泡Bの大きさを示し、SO
2の含有量を示す。
ガラス基板は、アルカリ金属の含有量が少ない上述した液晶用ディスプレイ用ガラス基板と同じガラス組成を有し、清澄剤としてSnO
2を含有する。具体的には、
図6の測定結果を得るときに作製したガラス基板と同様のガラス組成を有する液晶ディスプレイ用ガラス基板を用いた。
このガラス組成の熔融ガラスを板状に成形したガラス基板に孔を人工的にあけ、孔をあけたガラス基板の両側に酸素雰囲気中で、同種のガラス組成のガラス基板を挟むことにより、O
2が充填された孔を泡として再現した。この孔を有するガラス基板を、1200℃以上の温度と温度維持時間とを種々変えて熱処理し、孔内のSO
2の含有量をガス分析により測定した。1200℃以上にガラス基板を加熱するので、ガラス基板は熔融状態となって、熔融ガラス内に残存する泡Bを再現することができる。
図7によると、略1500℃以上の温度でO
2の充填された孔にSO
2が含有されることがわかる。特に、高温になるほど、さらに温度維持時間が長くなるほど、SO
2の含有量が増えることがわかる。これは、熔融状態となったガラス内に溶存するSO
2の拡散が高温により促進され、孔に取り込まれることを意味する。
したがって、熔融ガラスMGは、脱泡処理後の吸収処理において、速やかに1500℃未満に降温されることが好ましく、本実施形態では、熔融ガラスMGは1600℃から1500℃の温度範囲で2℃/分以上の降温速度で降温されることが好ましい。
【0049】
図8は、
図5に示す熔融ガラスMGの温度履歴を模擬した実験炉でガラス基板を作製したときの発生する泡レベルと降温速度の関係を示す測定結果を示す図である。降温速度は、1600℃から1500℃の温度範囲における平均速度である。作製したガラス基板は、アルカリ金属の含有量が少ない液晶用ディスプレイ用ガラス基板と同じガラス組成を有し、清澄剤としてSnO
2が用いられた。具体的には、
図6の測定結果を得るときに作製したガラス基板と同様のガラス組成を有する液晶ディスプレイ用ガラス基板を用いた。
降温速度が2℃/分未満では、泡レベルが急激に上昇することがわかる。なお、泡レベルとは、降温速度を10℃/分としたときの単位ガラス質量当たりの泡数を基準として、泡数がどの程度悪化するかを表す。例えば泡レベル3は、降温速度を10℃/分としたときの泡数に対して3倍の泡数を意味する。
図8によると、泡レベルを低くするには、降温速度を2℃/分以上にすることが好ましい。
【0050】
図9は、
図2に示すガラス基板を製造する装置を用いてガラス基板を製造したときのガラス基板内に存在する泡レベルと降温速度の関係を示す測定結果を示す図である。このとき、熔融ガラスMGの温度履歴は
図5に示す履歴をとる。降温速度は、1600℃から1500℃の温度範囲における平均速度である。作製したガラス基板は、アルカリ金属の含有量が少ない液晶用ディスプレイ用ガラス基板と同じガラス組成を有し、清澄剤としてSnO
2が用いられた。具体的には、
図6の測定結果を得るときに作製したガラス基板と同様のガラス組成を有する液晶ディスプレイ用ガラス基板を用いた。泡レベルとは、降温速度を8℃/分としたときの単位質量当たりの泡数を基準として、泡数がどの程度悪化するかを表す。例えば泡レベル5は、降温速度を8℃/分としたときの泡数に対して5倍の泡数を意味する。
図9によると、降温速度が2℃/分未満では、泡レベルが急激に上昇することがわかる。したがって、熔融ガラスMGを1600℃から1500℃の温度範囲で2℃/分以上の降温速度で降温されると、泡レベルが低減することがわかる。
図9より、例えば降温速度が3℃/分〜8℃/分において泡レベルを低減する点でより有効であることがわかる。
【0051】
以上のように、熔融ガラス中のSO
2泡数を低減できるので、攪拌工程における攪拌翼回転によって発生するキャビテーションの核となる泡も低減することができ、結果としてガラス基板中の泡数を低減することができる。この効果は、ガラス組成としてBaOやSrOの含有量が少ないガラス基板の製造方法において、より顕著となる。
より詳細には、ガラス組成として含有されるMgO、CaO、SrO、BaOは、炭酸塩として原料に添加されることが多く、その分解温度は、MgOが最も低く、CaO、SrO、BaOの順に高くなる。つまり、分解温度が高いほど、CO
2を放出しはじめる温度が高い。上記のことからも明らかなように、脱泡処理の後に熔融ガラスMGが降温すると、分解温度が高いものほど高い温度でCO
2を吸収しはじめる。例えば、BaOは1300℃近でCO
2の吸収がはじまる。
しかし、ガラス組成として比較的高い温度領域でCO
2の吸収がはじまるBaOやSrOの含有量が少ないガラス基板の製造では、CO
2の吸収が、熔融ガラスMGの温度が低下してから、つまり熔融ガラスMGの粘度が高くなってからはじまる。ここで、CO
2は熔融ガラスMGの粘度が低い方が、熔融ガラスMG中に速く拡散する。そのため、熔融ガラスMGの粘度が高くなってから(温度が低くなってから)CO
2の吸収が始まるガラス基板の製造方法では、CO
2が泡とし熔融ガラスMG中に残存しやすくなる。
本実施形態のように熔融ガラス中に泡のガス成分として存在するSO
2を低減できれば、上述のようにCO
2が残存しやすいガラス基板の製造であっても、キャビテーションの核となる泡の発生も抑制することができ、結果として最終製品としてのガラス基板中の泡数を低減することができる。以上のことから、本実施形態は、BaOの含有量が0〜1.0質量%のガラス基板の製造に好適であり、BaOを実質的に含有しないガラス基板の製造方法にさらに好適である。また、本実施形態は、SrOの含有量が0〜3.0質量%のガラス基板の製造に好適であり、SrOを実質的に含有しないガラス基板の製造方法にさらに好適である。
【0052】
(変形例)
図10(a),(b)は、本実施形態の第1清澄槽であるガラス供給管204の管断面形状の変形例を示す図である。管断面形状は、
図10(a)に示すように、水平方向に細長い略矩形形状であってもよいし、
図10(b)に示すように、水平方向に細長い略矩形形状の角部が直線状に面取りされた断面形状であってもよい。これらの管断面形状であっても、ガラス供給管204の加熱源となる内壁面と接触して熱を受ける熔融ガラスMGの表面積は、従来の同じ管断面積を有する正円の管の内壁面から熱を受ける熔融ガラスの表面積に比べて大きくなっている。このため、熔融ガラスMGは広い表面積で熱を受けるので、熔融ガラスMGの温度を急速に、かつ、均一に昇温することができる。すなわち、第1清澄槽であるガラス供給管204の管断面積に一致する断面積を有する、断面形状が正円である円管を基準とする。このとき、
図10(a),(b)に示す管断面形状を有する第1清澄槽であるガラス供給管204の内壁面に接触して熔融ガラスMGが熱を受ける表面積は、断面形状が正円である円管内を熔融ガラスMGが流れて円管の内壁面から熱を受ける熔融ガラスMGの表面積に比べて大きくなっている。このように、
図10(a),(b)に示す熔融ガラスMGは広い表面積でガラス供給管204の加熱源となる内壁面から熱を受けるので溶融ガラスMGと内壁面との間の最短距離のばらつきは小さくなり、熔融ガラスMGの温度を急速に、かつ、均一に昇温することができる。したがって、脱泡を行う清澄槽では効率よく泡を抜くことができる。
【0053】
図10(c)は、本実施形態の変形例である管内加熱源を説明する図である。
図10(c)に示すように、ガラス供給管204には、ガラス供給管204の内壁面から熔融ガラスMGを加熱する壁面加熱源の他に、ガラス供給管204の管内に、熔融ガラスMGと接触する管内加熱源204aが設けられていてもよい。
図10(d)は、
図10(c)に示す管内加熱源204aを、管断面方向から見た図である。ガラス供給管204の管断面形状は正円である。このような管内加熱源204aを設けることにより、ガラス供給管204の管断面形状が正円であっても、このガラス供給管204を熔融ガラスMGが流れるとき、熔融ガラスMGが加熱源と接触して熱を受ける熔融ガラスMGの表面積は大きくなる。すなわち、
図10(c),(d)に示す管内加熱源204aがガラス供給管204内に設けられことにより、熔融ガラスMGが加熱源と接触して熱を受ける熔融ガラスMGの表面積は、この円管内を熔融ガラスMGが流れるときに熔融ガラスMGが円管の内壁面と接触して内壁面から熱を受ける熔融ガラスの表面積に比べて大きくなっている。このため、熔融ガラスMGが広い表面積で熱を受けるので溶融ガラスMGと内壁面との間の最短距離のばらつきは小さくなり、熔融ガラスMGの温度を急速に、かつ、均一に昇温することができる。したがって、脱泡を行う清澄槽では効率よく泡を抜くことができる。勿論、ガラス供給管204の管断面形状は正円である必要はなく、
図3(b)、
図10(a),(b)に示すような管断面形状を有していてもよい。
なお、本発明者は、シミュレーションにより、上記効果を有することを確認している。
【0054】
以上、本発明のガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。