(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5777591
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】電気加熱鍛縮機用電極
(51)【国際特許分類】
C22C 27/04 20060101AFI20150820BHJP
【FI】
C22C27/04 101
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-242889(P2012-242889)
(22)【出願日】2012年11月2日
(62)【分割の表示】特願2010-131462(P2010-131462)の分割
【原出願日】2010年5月21日
(65)【公開番号】特開2013-57126(P2013-57126A)
(43)【公開日】2013年3月28日
【審査請求日】2012年11月13日
【審判番号】不服2014-11269(P2014-11269/J1)
【審判請求日】2014年6月13日
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000238016
【氏名又は名称】冨士ダイス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】庄司 隆行
(72)【発明者】
【氏名】寺田 修
(72)【発明者】
【氏名】番匠 秀行
(72)【発明者】
【氏名】竹本 鉄也
【合議体】
【審判長】
鈴木 正紀
【審判官】
木村 孔一
【審判官】
小川 進
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−133945(JP,A)
【文献】
特開2007−270339(JP,A)
【文献】
特開2002−275570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C27/00-27/06
C22F1/18
B22F1/00-8/00
C22C1/04-1/05
C22C33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Wが91〜95質量%、NiおよびFeの合計量が3質量%で、その内Feの量はNiとの合計量の0〜25質量%、Crが2〜5質量%、および不可避不純物からなる組成を有し、光学顕微鏡組織写真上でW粒子の長軸径の平均が5μm以上で、かつ4×8×25mm3の試験片の全面を鏡面仕上げ後、大気中で800℃−30min加熱し、その重量変化から単位面積当たりの値を算出した酸化増量が22g/m2以下であり、かつ900℃における高温硬さが170HV1以上である焼結合金により、少なくとも一部が構成されることを特徴とする、被加工材の温度を1000℃以上に上昇させて押し当てられる、自動車エンジンバルブ製造用電気加熱鍛縮機用電極。
【請求項2】
Wの10質量%以下が、周期律表4または5族に属する遷移金属の1種または2種以上で置換されており、かつ4×8×25mm3の試験片の全面を鏡面仕上げ後、大気中で800℃−30min加熱し、その重量変化から単位面積当たりの値を算出した酸化増量が22g/m2以下であり、かつ900℃における高温硬さが170HV1以上である、請求項1に記載の焼結合金により、少なくとも一部が構成されることを特徴とする、被加工材の温度を1000℃以上に上昇させて押し当てられる、自動車エンジンバルブ製造用電気加熱鍛縮機用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特殊合金鋼、チタン合金などの各種部品の製造に用いられる電気加熱鍛縮機用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などに使用される特殊合金鋼などからなるエンジンバルブの多くは、電気加熱鍛縮によって製造されている。このような電気加熱鍛縮に使用される電極の材料には、電気伝導性、高温での機械的性質と耐酸化性に優れることが要求され、従来、この種の用途の材料としては、Cu合金、耐熱鋼、超硬合金などが提案されている。
【0003】
特殊合金鋼などの電気加熱鍛縮は、通常高温、大気中で行われるので、台電極、摺動電極などの電極の材料には電気伝導性、耐熱性および耐酸化性、耐熱衝撃性と共に高温機械的特性が求められる。Cu合金は、電気伝導性が高く加熱冷却し易いものの高温での酸化が著しい。耐熱鋼は、高温での酸化や変形が著しい。普通の超硬合金は、CoやNiなどの結合相金属を含むため、高温で硬度が低下し易く耐酸化性にも劣り、熱衝撃で割れる。また、いわゆるバインダーレス超硬合金は、結合相金属をほとんど含まないため高温での硬度低下は少ないが、やはり耐熱衝撃性で劣る。耐酸化性および高温機械的性質に優れる合金としては、他にW−Ni−Fe系(例えば、特許文献1参照)、W−Ni−Fe−Mo系(例えば、特許文献2参照)などのW基合金が挙げられるが、何れも耐酸化性や高温機械的特性に問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものである。すなわち耐熱性および高温機械的特性に優れるW基合金の、耐酸化性および高温機械的特性をさらに向上させ、電気加熱鍛縮機用電極に適した長寿命の材料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電気加熱鍛縮機用電極の素材をW基合金とするのは、Wが高温での機械的性質に優れるためである。Niを添加するのは焼結性を向上させるためであり、その添加量が1質量%未満では焼結性向上効果が小さくなり、15質量%を超えると高温での硬さ低下率が大きくなる。Niの一部を
Feで置換してもよいが、その添加量の計がNiとの合計量の30質量%を超えると耐酸化性が低下する。Crを添加するのは耐酸化性および高温機械的特性を向上させるためであり、その添加量が1質量%未満では耐酸化性の向上効果が不足し、20質量%を超えると焼結性が低下するので好ましくない。また、Wの一部
を、周期律表
4または5族に属する遷移金属で置換してもよいが、その置換量が10質量%を超えると焼結性が低下し、抗折力が低下する。
【0006】
なお、合金組織を構成するWの長軸径による平均粒度が5μm未満では、熱クラックが発生しやすくなるので好ましくない。
【発明の効果】
【0007】
本発明による焼結合金は、高温における硬さの低下率が小さく、超硬合金や通常のW基合金に比較して耐酸化性に優れているため、電気加熱鍛縮機用電極に用いるとそれらの長寿命化が図れ、産業上の利用価値が高い。
【0008】
例えば、自動車用エンジンバルブの電気加熱鍛縮の場合、被加工材の温度を1000℃以上に上昇させ、台電極に押し当てられる。このとき、耐熱鋼などの場合、100ショットで酸化の進行および変形が発生し交換となる。この台電極の変形はエンジンバルブの最終形状に影響を及ぼすため、不良品の発生に繋がり生産性が低下するが、本発明合金を用いると、酸化や変形が大幅に抑えられ、200〜300ショットの耐用回数が可能となり、大幅に生産性が改善された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−311206号公報
【特許文献2】特開平6−192804号公報
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電気加熱鍛縮機用電極の素材は通常の粉末冶金法によって製造できる。すなわち、W、Ni、
FeおよびCr粉末を所定の組成に配合し、ボールミルあるいはアトライターによる湿式混合を経て乾燥後、所望の形状にプレス圧100〜500MPaで加圧成形する。次に、成形体を1350〜1500℃で30〜120分真空焼結した後、最終的な形状に加工する。
【実施例1】
【0011】
表1には本発明合金
、参考合金、および比較合金の配合組成を示した。本発明合金
および参考合金No.1〜4はNiおよびFe量を一定とし、Cr量を変化させたものであり、
参考合金No.5〜11は、Ni、FeおよびCoの合計量とCr量を変化させたものである。また、
本発明合金および参考合金No.12〜14はNi、FeおよびCr量をNo.2合金と同一とし、Wの一部をTi、Ta
またはMoで置換したものである。比較合金のNo.15〜20はCrを含まないW基合金、No.21〜24は一般的な耐摩耗工具用超硬合金である。WCの粒度は、合金組織においてフルマンの式により求めたものである。ここで、W基合金はすべてフィッシャーサブシーブサイザーの測定による平均粒度が4μmのW粉を用い、湿式ボールミル時間24時間、プレス圧100MPa、真空焼結1460℃−60分の条件で作製した。焼結後のW粒子の長軸径による粒度は、組成により異なるが、10〜100μmの範囲内であった。
【0012】
【表1】
【0013】
表1に示した本発明合金
、参考合金、および比較合金の抗折力、硬さ、高温硬さ、および耐酸化性(酸化増量)の測定結果を表2に示した。酸化増量試験は、4×8×25mm
3の試験片の全面を鏡面仕上げ後、大気中で800℃−30分間加熱し、その重量変化から単位面積当たりの酸化増量を算出した。また、高温硬さ(HV1)はAr雰囲気中で測定した。
【0014】
【表2】
【0015】
No.1〜4および15より、Cr添加量が増加するにつれて酸化増量が減少、すなわち耐酸化性が向上し、室温および高温硬さが向上している。また、No.15〜19のようにNi、FeおよびCoの合計量が増加すると耐酸化性および高温硬さが劣化するが、No.5〜11のようにNi、FeおよびCoの合計量の増加と共にCr量も増加させることにより、耐酸化性の劣化を抑制することができる。また、一般的な超硬合金と比較すると抗折力は低いが、本発明合金は耐酸化性の面では非常に優れているので、電気加熱鍛縮機用電極に用いると、それらの長寿命化を図ることができる。