特許第5777594号(P5777594)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5777594
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】LCT中毒に対する医薬品
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/55 20060101AFI20150820BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20150820BHJP
   A61K 39/08 20060101ALI20150820BHJP
   A61K 31/336 20060101ALI20150820BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150820BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20150820BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20150820BHJP
   C07K 14/33 20060101ALN20150820BHJP
【FI】
   A61K37/64
   A61K39/395 D
   A61K39/395 R
   A61K39/08
   A61K31/336
   A61P43/00 111
   A61P31/04
   G01N33/68
   !C07K14/33
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-248267(P2012-248267)
(22)【出願日】2012年11月12日
(62)【分割の表示】特願2009-522078(P2009-522078)の分割
【原出願日】2007年5月26日
(65)【公開番号】特開2013-67630(P2013-67630A)
(43)【公開日】2013年4月18日
【審査請求日】2012年11月27日
(31)【優先権主張番号】102006036373.6
(32)【優先日】2006年8月2日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102007004938.4
(32)【優先日】2007年1月26日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506129429
【氏名又は名称】ヨハネス・グーテンベルク−ウニヴェルジテート・マインツ
【氏名又は名称原語表記】Johannes Gutenberg−Universitaet Mainz
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【復代理人】
【識別番号】100182545
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 雪恵
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ フォン アイヒェルストライバー
(72)【発明者】
【氏名】ジェシカ ライネケ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン テンツァー
(72)【発明者】
【氏名】ハンスイェルク シルト
(72)【発明者】
【氏名】マヤ ルプニク
【審査官】 六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第05/05835(WO,A1)
【文献】 国際公開第06/044577(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00−45/08
A61K 31/00−31/80
A61K 39/00−39/44
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用物質として、LCT(大クロストリジウム細胞毒)の自己触媒性プロテアーゼ活性の、少なくとも1種の阻害剤を含有し、該阻害剤が
1,2−エポキシ−3−(p−ニトロフェノキシ)−プロパン(EPNP)であること、
配列番号14に相当するTcdBアミノ酸配列P18177番(SwissProt/TrEMBL)のAS(アミノ酸)1500〜AS1800のTcdBタンパク質領域中のプロテアーゼ活性中心/部位と相互作用する抗体であること、
配列番号14に相当するTcdBアミノ酸配列P18177番(SwissProt/TrEMBL)のAS1653〜AS1678のTcdBタンパク質領域中のプロテアーゼ活性中心/部位と相互作用する抗体であること、
配列番号14に相当するTcdBアミノ酸配列P18177番(SwissProt/TrEMBL)のTcdBタンパク質のAS1665のアミノ酸位置にあるDXGモチーフと相互作用する抗体であること、
配列番号3に相当するTcdAアミノ酸配列P16154番(SwissProt/TrEMBL)のAS1651〜AS1675のTcdAタンパク質領域と相互作用する抗体であること、
配列番号3に相当するTcdAアミノ酸配列P16154番(SwissProt/TrEMBL)のTcdAタンパク質のAS1662のアミノ酸位置にあるDXGモチーフと相互作用する抗体であること、
配列番号19に相当するTcsLアミノ酸配列Q46342番(SwissProt/TrEMBL)のAS1654〜AS1679のTcsLタンパク質領域と相互作用する抗体であること、
配列番号19に相当するTcsLアミノ酸配列Q46342番(SwissProt/TrEMBL)のTcsLタンパク質のAS1666のアミノ酸位置にあるDXGモチーフと相互作用する抗体であること、
配列番号16に相当するTcnαアミノ酸配列Q46149番(SwissProt/TrEMBL)のAS1641〜AS1665のTcnαタンパク質領域と相互作用する抗体であること、
配列番号14に相当するTcdBアミノ酸配列P18177番(SwissProt/TrEMBL)のAS1400〜AS2300のTcdBタンパク質領域と又はTcdA又はTcsL又はTcnαのこの等価の又はホモログのタンパク質領域と相互作用する抗体であること
配列番号14に相当するTcdBアミノ酸配列P18177番(SwissProt/TrEMBL)のAS1517〜AS2142のTcdBタンパク質領域と又はTcdA又はTcsL又はTcnαのこの等価の又はホモログのタンパク質領域と相互作用する抗体であること、あるいは
配列番号14に相当するTcdBアミノ酸配列P18177番(SwissProt/TrEMBL)のAS1517〜1593又はAS1918〜AS2142のTcdBタンパク質領域と又はTcdA又はTcsL又はTcnαのこの等価の又はホモログのタンパク質領域と相互作用する抗体であること、を特徴とする、LCTによる中毒を回避又は軽減するための医薬品。
【請求項2】
阻害剤が、クロストリジウムディフィシレ毒素A(TcdA)及び/又はクロストリジウムディフィシレ毒素B(TcdB)及び/又はクロストリジウムソルデリィラタレス毒素(TcsL)及び/又はクロストリジウムノヴィα−毒素(Tcnα)の自己触媒性プロテアーゼ活性の阻害剤であることを特徴とする、請求項1記載の医薬品。
【請求項3】
LCTの自己触媒性プロテアーゼ活性を阻害する物質を同定するためのスクリーニング法であって、前記物質を
配列番号14に相当するTcdBアミノ酸配列P18177番(SwissProt/TrEMBL)のAS1653〜AS1678のTcdBタンパク質領域中のLCT−プロテアーゼの活性中心/部位であるか、配列番号3に相当するTcdAアミノ酸配列P16154番(SwissProt/TrEMBL)のAS1651〜AS1675のTcdAタンパク質領域中のLCT−プロテアーゼの活性中心/部位であるか、配列番号19に相当するTcsLアミノ酸配列Q46342番(SwissProt/TrEMBL)のAS1654〜AS1679のTcsLタンパク質領域中のLCT−プロテアーゼの活性中心/部位であるか、および/または配列番号16に相当するTcnαアミノ酸配列Q46149番(SwissProt/TrEMBL)のAS1641〜AS1665のTcnαタンパク質領域中のLCT−プロテアーゼの活性中心/部位と相互作用させることを特徴とする、前記スクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大クロストリジウム細胞毒(Large Clostridial Cytotoxins、LCTs)、特にクロストリジウムディフィシレ細胞毒素A及びB(TcdA及びTcdB)、クロストリジウムソルデリィラテレス毒素(TcsL)及びクロストリジウムノヴィα毒素(Tcnα)による中毒の回避又は軽減のための医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
クロストリジウムディフィシレは、厳密的に嫌気的に成長する、胞子を形成する、グラム陽性の病原菌であり、これは最初に70年代末に、抗生物質に関連した下痢及び偽膜性の大腸炎の病因論的な剤として同定された。90年代からは、C.ディフィシレは、発展国の最も重要な病室病原菌として評価される。絶え間のない更に広がっている、広範囲スペクトル抗生物質の使用の結果として、C.ディフィシレ感染の発生は、特に入院して治療される患者では更に絶え間なく上昇する。
【0003】
C.ディフィシレに関連した疾患のためには、C.ディフィシレにより産生されたエキソトキシン毒素A(TcdA)及び毒素B(TcdB)が関与している。様々なビルレンス及び毒素産生を有する様々な株が存在する。全ての株のおよそ4分の1は、毒素を産生しない。毒素を形成する株は、ほぼ常に両方の毒素を産生する。TcdAは、腸細胞の細胞毒性損傷により、腸の粘膜の透過性を高め、これにより下痢を誘発するエンテロトキシンである。TcdBは、電解質輸送を妨げ、かつ、腸の液体損失及び機能障害を担う細胞毒素である。細胞毒素TcdA及びTcdBは、いわゆる大クロストリジウム細胞毒(LCTs)の群に属し、かつ、それぞれ3つの機能的ドメイン、即ちC末端ドメイン(宿主細胞膜への毒素の結合を担う)、疎水性中間ドメイン(細胞膜(mit)によりトランスロケーションプロセスを担わせる)、及び、N末端ドメイン(グリコシル転移酵素機能を有し、かつ、この分子の毒性活性を媒介する)を有するペプチド鎖からなる。
【0004】
確かに、宿主細胞中への毒素の吸収プロセスは完全に明確になっていないもの、しかしながら、細胞毒が宿主細胞レセプターへの結合の後にエンドサイトーシスにより宿主細胞中へと達し、かつ、この毒性の発揮のためにはN末端の触媒性ドメインが分離され、かつ、宿主細胞のサイトゾル中へと運ばれるとの事実が存在する。ここで、触媒性ドメインはRhoサブファミリー(Rho、Rac及びCdc42)のGTPアーゼを特異的にグリコシル化し、これはこの側で多量のシグナルトランスダクションカスケードに関与し、かつ、このようにして、問題となるシグナルトランスダクションプロセスを遮断し、これにより細胞骨格の剥離、そして細胞死が最終的に引き起こされる。
【0005】
技術水準においてこれまでには、TcdA及びTcdBの毒素ペプチド鎖の触媒性N末端ドメイン及び他の「大クロストリジウム細胞毒」LCTの分離もが、細胞内プロテアーゼにより触媒作用されると仮定されてきた(Rupnik et al., 2005及びPfeiffer et al., 2003)。相応する示唆はしかしながら提供されることができていない。
【0006】
本発明の根拠となる検査の経過において、意外にも、TcdA及びTcdNの分解が、自己触媒性プロセスであり、これはイノシトールリン酸(IP)により開始され、かつ、従って、クロストリジウムディフィシレの毒素は、グリコシルトランスフェラーゼの触媒性機能の他に、自己分解又は自己触媒性分解のためのプロテアーゼの機能をも有することが見出された。
【0007】
このプロテアーゼ機能は、アスパラギン酸−プロテアーゼとして同定された。プロテアーゼ機能の触媒中心として、タンパク質領域が同定され、これは、配列P18177番(SwissProt/TrEMBL)に応じたTcdBのアミノ酸位置AS1653〜AS1678のアミノ酸配列を含有する。アスパラギン酸−プロテアーゼを特徴付ける、モチーフDXG(Rao et al. 1998)は、アミノ酸位置1665にある。
【0008】
イノシトールリン酸結合部位として、タンパク質領域が同定され、これは、配列P18177番(SwissProt/TrEMBL)に応じたTcdBタンパク質のアミノ酸位置AS1517〜AS2142のアミノ酸配列を含有する。このアミノ酸配列は、イノシン−5−一リン酸−デヒドロゲナーゼ(IMPDH)モチーフを示し、これは2つの領域、即ちAS1517〜AS1593及びAS1918〜AS2142から構成され、これは325アミノ酸長さのタンパク質断片により配列ホモロジー無しに分離されている。
【0009】
C.ディフィシレ感染を有する患者の治療のためには、可能である限りは、まず作動性の抗生物質を中止する。この更なる治療は、症候性にのみ行われる。より長期に持続的な又は重症な疾病経過では、並びに、作動性の抗生物質の中止が他の理由から可能でない場合には、治療のためにメトロンジアゾール又はバンコマイシンが投与される。
【0010】
慣用の抗生物質両方の欠点は多岐にわたる。決定的なのは、この際特に、抗生物質を用いた他の感染状態の治療の結果作動された疾病が、抗生物質療法を用いては効率的に治癒されないことである。このための背景は、C.ディフィシレが健康なヒトの腸中で比較的稀にのみ存在し、かつ、通常の腸フローラに対して耐えることができないとの事実である。正常の腸フローラが抗生物質療法により破壊される場合には、C.ディフィシレは耐え、かつ腸に良好に生息することができる。C.ディフィシルに対して指向した抗生物質療法は、再度、腸フローラの分解を生じ、かつ、これにより、健康な腸フローラの発生をも因果関係上妨げる。これは、抗生物質療法の終了後に観察できる多数の緩解をも説明する。慣用の療法の数々の欠点は、最近の多耐性C.ディフィシル株の増加する発生である。これにより、C.ディフィシルにより誘発された疾病のためのこれまでの単独の療法も役にたたなくなり、かつ、C.ディフィシル疾病の結果死亡例の数が上昇することに脅かされる。これに加えて、C.ディフィシル感染の治療のために必要とされる抗生物質が極めて高価であり、かつ、通常は、正当な場合にのみ貯蔵抗生物質(Reserveantibiotika)として使用されることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、C.ディフィシル感染の特異的な克服(回避、除去、軽減)に適している医薬品の至急の要求が存在し、この際、クロストリジウム又は他の細菌での耐性の発達の危険は生じず、かつ、関係する患者の天然の細菌フローラ、特に腸フローラは損なわれない。
【0012】
本発明の課題は、そのような医薬品の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の課題の解決は、導入部で挙げた種類の医薬品であって、作用物質として、LCTs(大クロストリジウム細胞毒)の自己触媒性のプロテアーゼ活性の、特にクロストリジウムディフィシル毒素A(TcdA)及び/又はクロストリジウムディフィシル毒素B(TcdB)及び/又はクロストリジウムソルデリィラテレス毒素(TcsL)及び/又はクロストリジウムノヴィα毒素(Tcnα)の、少なくとも1種のエフェクター、即ち、阻害剤又は活性化剤を含有することを特徴とする医薬品の提供にある。
【0014】
LCTsの自己触媒性のプロテアーゼ活性のエフェクターとして、以下においてはLCTsの自己触媒性プロテアーゼ活性の活性化剤もまた同様に阻害剤も指す。
【0015】
作用物質又はエフェクターが阻害剤である場合には、その抗毒性作用は、この物質が無傷の毒素の、特にTcdB又はTcdA又はTcsL又はTcnαのプロテアーゼ活性を妨げ、かつ従って、グルコシルトランスフェラーゼ機能を有する細胞毒性的に有効な断片(TcdB及びTcdAの場合には、これは63kDa断片である)の分離を阻止することに基づく。
【0016】
適した阻害剤は、毒素のプロテアーゼ活性を阻害する化学物質である。
【0017】
「化学物質」との概念は、前述の及び後述の実施形態において、無機化合物も有機化合物、イオン及びペプチド又はタンパク質をも指す。
【0018】
有利な阻害剤は、プロテアーゼ活性を不可逆的に阻害する化学物質である。このための一例は、物質EPNP(1,2−エポキシ−3−(p−ニトロフェノキシ)−プロパン)である。この物質は、プロテアーゼの触媒中心中のアスパラギン酸残基と不可逆的に反応し、かつ、このようにしてこのタンパク質分解性作用を阻害する。更なるプロテアーゼ阻害剤は当業者に公知であるか又は当業者により公知の方法(Computer-Modelling, High-Throughput-Screening)を用いて容易に同定されることができる。例えば、「High-Troughput Screenings」の実施のためには、LCTsのプロテアーゼ分解部位の配列のアミノ酸配列に相当するペプチドが合成されることができる。このペプチドの、例えば着色剤AMC(7−アミノ−4−メチルクマリン)とのカップリングにより、当業者に公知の方法を用いてセンサーが産生されることができる。「High-Troughput Screenings」の実施のためには、引き続きラベル化したセンサーに毒素及び候補物質を接触させる。センサーが分解すると、蛍光スペクトルの変更が生じる。この変更は当業者に慣用の方法(蛍光検出器)を用いて容易に認識することができる。蛍光スペクトルの変更が観察できないバッチは、可能性のあるプロテアーゼ阻害剤を含有する。
【0019】
例示的に、LCTsの自己触媒性プロテアーゼ活性の活性化に影響を及ぼす物質の同定のための更なる方法が記載される。このためには、ホロトキシン又は適した毒素断片も使用されることができ、これらは例えば着色剤とカップリングされていて、分解していない毒素又は毒素断片におけるこの蛍光は消滅している。毒素又は毒素断片の自己触媒性分解により、この消滅性の作用は終結される。蛍光スペクトル中の変更は、記載したとおり、容易に把握することができる。
【0020】
特に適した阻害剤、即ち阻害性の機能を有するエフェクターは、化学物質、特にタンパク質、とりわけ抗体であり、これは、LCTsの自己触媒性のプロテアーゼ活性を、プロテアーゼの活性中心と相互作用することにより、阻害する。
【0021】
「相互作用する」との概念は、本願の文脈において、LCTsと化学物質、特にタンパク質との全ての種類の相互作用を意味し、かつ、特に共有結合、例えばジスルフィド結合及び非共有結合、例えばファンデワワールス力、疎水性の又は静電性の相互作用並びに水素架橋−結合を含む。
【0022】
有利には、この際、それぞれ、TcdBアミノ酸配列P18177番(SwissProt/TrEMBL)に応じたAS1500〜AS1800、特にAS1653〜AS1678、とりわけ1665位のDXGモチーフのTcdBタンパク質領域又はTcdA又はTcsL又はTcnαのこれに等価の又はホモログのタンパク質領域と相互作用するタンパク質、特に抗体である。この等価の/ホモログのタンパク質領域とは、TcdAの場合には、アミノ酸配列AS1662位にDXGモチーフを有する、TcdAアミノ酸配列P16154(SwissProt/TrEMBL)に応じたAS1651〜AS1675のアミノ酸配列断片、TcsLの場合には、アミノ酸配列AS1666位にDXGモチーフを有する、TcsLアミノ酸配列Q46342(SwissProt/TrEMBL)に応じたAS1654〜AS1679のアミノ酸配列断片、及びTcnαの場合には、Tcnαアミノ酸配列Q46149(SwissProt/TrEMBL)に応じたAS1641〜AS1665のアミノ酸配列断片である。
【0023】
更なる適した阻害剤(阻害剤機能を有するエフェクター)は、化学物質、特にタンパク質、とりわけ抗体であり、これは、LCTsの自己触媒性プロテアーゼ活性を、イノシトールリン酸と毒素との相互作用を阻害することにより妨げる。IP結合が妨げられることにより、毒素のタンパク質加水分解性分解は行われないままである。
【0024】
有利には、この際、それぞれ、TcdBアミノ酸配列P18177番(SwissProt/TrEMBL)に応じたAS1400〜AS2300、特にAS1517〜AS2142、とりわけAS1517〜AS1593又はAS1918〜AS2142のTcdBタンパク質領域又は毒素TcdA又はTcsL又はTcnαのこれに等価の又はホモログのタンパク質領域と相互作用するタンパク質、特に抗体である。
【0025】
同じくらい良好に抗体又は他のタンパク質が産生されることができ、これは、イノシトールリン酸結合部位、特に前述のタンパク質領域と直接的に相互作用せず、隣接する領域に対して指向されていて、かつ、このIP結合を立体的に障害し、従って毒素のタンパク質加水分解性による分解を抑制する。更に、抗体又は他のタンパク質が産生されることができ、これは、LCTsのプロテアーゼ機能のDXGモチーフと直接的に相互作用せず、隣接するタンパク質断片中での結合によりタンパク質加水分解性の分解を妨げる。
【0026】
適した阻害剤(阻害剤機能を有するエフェクター)は更に、イノシトールリン酸(IP)、特にイノシトール六リン酸(IP6)の構造類似体を示し、これはIP、特にIP6の代わりに、LCT、特にTcdA及び/又はTcdB、及び/又はTcsL及び/又はTcnαの反応結合部位を有することができるが、IP又はIP6のイニシエーター機能を有しない。これらの構造類似体は、従って、アゴニストIP(特にIP6)に対するアンタゴニストであり、かつ、LCT、特にTcdA及び/又はTcdB及び/又はTcsL及び/又はTcnαのプロテアーゼ活性の拮抗的阻害をもたらす。適した構造類似体は、当業者に公知であるか、又は、公知の及び当業者に慣用の試験方法(このための例は、既に前もって記載されている)を用いて容易に同定されることができる。
【0027】
適した阻害剤は、更に、イノシトールリン酸のための/イノシトールリン酸の抑制物質(同意語、イノシトールリン酸抑制物質又はイノシトールリン酸阻害剤)であり、即ち、イノシトールリン酸、特にイノシトール六リン酸に、LCT、特にTcdA及び/又はTcdB及び/又はTcsL及び/又はTcnαのプロテアーゼ活性の開始のための能力が阻止されているように結合又は変更する阻害物質である。このような物質のための一例は、二価イオン、例えばCa2+であり、これはIP6と不溶性錯体を生じる。類似の物質は、当業者に公知であるか、又は、公知の及び当業者に慣用の試験方法(このための例は、既に前もって記載されている)を用いて容易に同定されることができる。
【0028】
更なる適した阻害剤(阻害剤機能を有するエフェクター)は、イノシトールリン酸の形成を患者(哺乳類、特にヒト)の腸内腔中で又は患者(哺乳類、特にヒト)の体細胞中で抑制するか、又は、既に存在するイノシトールリン酸を分解し、かつこのようにしてLCTsのタンパク質加水分解性開裂を細胞質中への侵入の際に妨げる化学物質である。このような物質のための有利な例は、リチウム、VPA(バルプロ酸)又はCBZ(カルバマゼピン)である。
【0029】
適した活性化剤、即ち、活性化剤機能を有するエフェクターは、毒素のプロテアーゼ活性を活性化する化学物質である。活性化剤の抗毒性作用は、これは、この種の毒素が宿主細胞に結合し、この分離された断片が細胞内部(細胞質)中に達成することができる前に完全な毒素、特にTcdB又はTcdA又はTcsL又はTcnαのプロテアーゼ活性を開始させることに基づく。この活性化剤は、従って、グリコシルトランスフェラーゼ機能を有する細胞毒性的に有効な断片の分離(TcdB及びTcdAの場合には、これは63kDaの断片である)を宿主細胞の外側で引き起こす。この細胞毒性的に有効な断片は、次いで、もはや細胞内部に達することができず、ここで、その細胞毒性作用を発揮する。
【0030】
特に適した活性化剤(活性化剤機能を有するエフェクター)は、単離された(細胞質性のものとは異なり)イノシトールリン酸(IP)、有利にはイノシトール六リン酸(IP6)である。
【0031】
この作用物質を有する医薬品は、患者の腸中に存在するLCT、特にTcdB及び/又はTcdA及び/又はTcsL及び/又はTcnαが、この医薬的に供給されるIPを通じて既に腸中で分離されるという利点を有し、即ち、これが腸細胞又は他の体細胞に結合し、かつ毒的に作用することができる前である。
【0032】
同様に、活性化剤(活性化剤機能を有するエフェクター)として、IP6に類似してLCT、特にTcdA及び/又はTcdB及び/又はTcsL及び/又はTcnαの自己触媒性のプロテアーゼ活性を促進する物質が良好に適している。
【0033】
このような物質は当業者に公知であるか、又は、公知の方法を用いて容易に同定されることができる。このためには、前記で記載された「High-Troughput-Assays」の更に改変された変異体も適する。この際、毒素及び可能性のある活性化剤−物質は一緒に添加され、かつ、時間経過において蛍光スペクトルにおける変更について試験される。短時間に強い変更が生じるバッチは、適した活性化剤(活性化剤作用を有するエフェクター)を含有する。
【0034】
LCTsのプロテアーゼ機能の触媒中心は、本発明により、狙いを定めて投与される抗原(接種物質)として、毒素に対する免疫化を生じるためにも使用されることができる。本発明の主題は従って、LCT(=大クロストリジウム細胞毒)による中毒の回避又は軽減のための医薬品でもあり、これは、ワクチンとしての投与に適し、かつ、TcdB及び/又はTcdA及び/又はTcsL及び/又はTcnαの触媒中心のアミノ酸配列全て又はこの断片を抗原性作用物質として有することにより特徴付けられる。この抗原作用物質1種又は数種は、有利には、タンパク質断片の以下の群から選択される:
TcdBアミノ酸配列P18177番(SwissProt/TrEMBL)の1665位のDXGモチーフ、
TcdBアミノ酸配列P18177番(SwissProt/TrEMBL)のアミノ酸位置AS1653〜AS1678、
TcdBアミノ酸配列P18177番(SwissProt/TrEMBL)のアミノ酸位置AS1500〜AS1800、
TcdAアミノ酸配列P16154番(SwissProt/TrEMBL)の1662位のDXGモチーフ、
TcdAアミノ酸配列P16154番(SwissProt/TrEMBL)のアミノ酸位置AS1651〜AS1675、
TcsLアミノ酸配列Q46342番(SwissProt/TrEMBL)の1666位のDXGモチーフ、
TcsLアミノ酸配列Q46342番(SwissProt/TrEMBL)のアミノ酸位置AS1654〜AS1679、
Tcnαアミノ酸配列Q46149番(SwissProt/TrEMBL)のアミノ酸位置AS1641〜AS1665、
本発明は、以下において、実施例及び図に基づきより詳細に説明される。図は、以下のことを示す:
図1
a:Cy3標識化したTcdB10463及びブタ脾臓抽出物からの混合物(実施例1A)、
b:Cy3標識化したTcdB10463及びタンパク質不含のブタ脾臓抽出物からの混合物(実施例1B)、
c:Cy3標識化したTcdB10463及びイノシトールリン酸からの混合物、
d:標識化していないTcdB10463及びイノシトールリン酸からの混合物、
e:標識化していない(親和性クロマトグラフィにより精製した)TcdB10463及びイノシトールリン酸からの混合物;を用いて実施した、SDS−PAGEにおけるTcdB10463(270kDa)ホロトキシンの、トランスロケーション/リガンドドメイン(207kDa)及びN末端の触媒性ドメイン(63kDa)への開裂、
a−eはそれぞれ、室温で1時間のインキュベーションに関連する。
【0035】
図2:TcdB10463及び/又はIP6の混合物のSDS−PAGE、EPNPでのこの毒素の前処理有り又は無しで;
レーン1:EPNPを用いた前処理後、かつ、IP6無しのTcdB10463、63kDaの範囲中にバンドを検出できない、
レーン2:EPNPを用いた前処理後及びIP6を用いたインキュベーション後の前処理後のTcdB10463、この典型的な63kDaのバンドはわずかにのみ見える:
レーン3:EPNPを用いた前処理無しそしてIP6でのインキュベーション後のTcdB10463、これは、63kDaの分子量範囲中で顕著に際だったバンドが認識可能である;
レーン4:EPNPを用いた前処理無し、そしてIP無しでのTcdB10463、63kDa中にバンドは検出可能でない。
【0036】
図3:天然の(a)及びEPNP改変した(b)TcdBタンパク質の典型的な消化後のESI−LCMSMS−分析MS検査スキャン(大きい画像)及び断片化スペクトル(追加挿入部)。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、SDS−PAGEにおけるTcdB10463(270kDa)ホロトキシンの、トランスロケーション/リガンドドメイン(207kDa)及びN末端の触媒性ドメイン(63kDa)への開裂を示す図である。
図2図2は、EPNPでのこの毒素の前処理有り又は無しでのTcdB10463及び/又はIP6の混合物のSDS−PAGEを示す図である。
図3】天然の(a)及びEPNP改変した(b)TcdBタンパク質の典型的な消化後のESI−LCMSMS−分析MS検査スキャン(大きい画像)及び断片化スペクトル(追加挿入部)。
【実施例】
【0038】
以下の実施例において挙げられる方法の全ては当業者に公知であり、かつ、例えばAusubel et al. (2003)中に記載されている。
【0039】
実施例1:TcdBの自己触媒性プロテアーゼ活性の検出
参照株VPI 10463のクロストリジウム細胞毒B(270kDa)、以下において短縮してTcdB10463と呼ぶ、をまずCy3で蛍光標識化した。このためには、200〜400μgのTcdB10463(tgcBIOMICS, Mainz, Germany)を着色剤Cy3で、この毒素をジメチルホルムアミド中に溶解した着色剤と一緒に1時間4℃でインキュベーションすることにより、製造者の指示(Amersham Biosciences)に応じて標識化した。結合していない着色剤を引き続き、サイズ排除クロマトグラフィ(Size Exclusion Chromatographie = SEC)を用いて取り除き、その際10mMのTris−HCl、pH8.5を展開緩衝液として使用した。着色剤とCy3標識化したTcdB10463のモル比は、0.8〜1.6であった。標識化したTcdB10463をアリコート採取し、−80℃で更なる使用まで貯蔵した。
【0040】
(A)技術水準において公知の「In-vitro-cleavage assay」(このために、特にRupnik et al (2005)を参照のこと、この刊行物の内容は参照により明らかに含まれる)の実施のために、室温で解凍した、Cy3標識化したTcdB10463のアリコートを1時間室温でブタ脾臓細胞抽出物と共にインキュベーションした。
【0041】
このブタ脾臓細胞抽出物を以下のとおり製造した。新規に獲得したブタ脾臓をリン酸緩衝液(PBS)中に取り込み、そして、個々の細胞懸濁液へと破砕した。低塩緩衝液(Low Salt Buffer)、即ち−150mM NH4Cl、1mM KHCO3、0.1mM EDTA、pH7.6−の添加により存在する赤血球を溶解し、従って除去した。引き続き、この脾臓細胞を2回10mM Tris−HCl、pH8.5で洗浄し、すぐさま−80℃で冷凍した。所望される細胞抽出物のために、要求に応じてこの冷凍した脾臓細胞のアリコートをアリコート10mM Tris−HCl、pH8.5中で解凍し、かつ、懸濁し、そしてこの懸濁液を引き続き超音波処理にかけた。この得られる溶解物を1時間200000×g及び4℃で遠心分離し、そしてこの上清を定まった実験のために使用した。
【0042】
このインキュベーション相の終わりに、このインキュベーションの間に生じるTcdB断片を分離及び検出するためにCy3標識化したTcdB10463及びブタ脾臓細胞抽出物からの混合物をSDS−PAGEにかけた。このSDS−PAGEの結果は図1a中に示されている。期待に応じてこの両方の公知の及び特徴的な63kDaの及び207kDaの、クロストリジウムディフィシレ毒素Bの、ここではTcdB10463の断片を得た。
【0043】
ネガティブコントロールとして、TcdB10463のアリコートを脾臓細胞抽出物の混合無しに使用した(参照図1"−")。
【0044】
(B)並行した試験において、(A)中で記載された脾臓細胞抽出物を、Cy3標識化したTcdB10463を用いたインキュベーションの前にタンパク質から精製した。この目的のために、(A)に応じて製造されたブタ脾臓細胞抽出物のアリコートを超音波処理に引き続き、6個のフェノール−クロロホルム抽出にかけ、これは以下のように実施された。ブタ脾臓抽出物をフェノール−クロロホルム−イソアミルアルコール(25/24/1)と容積比1:1で混合した。この混合物を10分間1700×g及び4℃で遠心分離した。この水性の最上層を、新規な遠心分離容器中にデカンテーションし、そして遠心分離及びデカンテーションを更に5回繰り返した。
【0045】
最後の残分からフェノールも取り除くために、引き続きクロロホルム抽出を実施した。このようにして獲得された、水性の及びタンパク質不含の、脾臓細胞抽出物の画分のアリコートを、容積比1:30(30)、1:100(100)又は1:300(300)で、10mM Tris−HCl、pH8.5で希釈し、そして(A)で記載したとおり、室温で解凍された、Cy3標識化されたTcdB10463のアリコートと混合し、そして、1時間室温でインキュベーションした。このインキュベーション相の終わりに、このインキュベーションの間に生じるTcdB断片を分離し、かつ、検出するために、この混合物をSDS−PAGEにかけた。このSDS−PAGEの結果をGel Doc EQ System Image Readers (BIO-RAD Muenchen, Deutschland)を用いて可視可能にし、かつ、図1b中に示した。全ての試験バッチで、TcdB10463の、この両方の特徴的な63kDa及び207kDaの断片が得られた。これは、この脾臓細胞抽出物の水性の及びタンパク質不含の画分が、依然として、TcdB10463をこの両方の特徴的な部分断片に分解するための特性を有するか又は有したことを示す。
【0046】
更なる並行した試験において、(A)中に記載された脾臓細胞抽出物を、(A)に記載されたようにCy3標識化したTcdB10463でインキュベーションし、かつSDS−PAGEにかける前に、熱(96℃、30分間)処理した。このSDS−PAGEの結果は同様に図1b中に示されている。再度、TcdB10463のこの両方の特徴的な63kDa及び207kDaの断片が得られた。この結果は、熱誘導された脾臓細胞抽出物が更に、TcdB10463をその特徴的な部分断片に分解するための特性を有することを示す。
【0047】
(C)更なる一試験系列において、Cy3標識化したTcdB10463及び標識化していないTcdB10463を単独で(即ち、脾臓細胞抽出物の混合無しに)様々なイノシトールリン酸で1時間室温でインキュベーションし、かつ、このそれぞれの混合物を引き続きSDS−PAGEにかけた。この検査の結果は表1及び図1c−e中に示される。これは、意外な核となる内容を提供し、つまり、TcdB10463単独のタンパク質加水分解性分解が、化学物質、例えばIPにより開始可能であり、従って、このタンパク質加水分解性分解が、毒素タンパク質の自己触媒性プロセスであるとの内容である。
【0048】
表1からは、イノシトールリン酸の系列が、TcdB10463の自己触媒性分解を開始することができることが明らかである。イノシトール六リン酸(IP6)は、この試験されたイノシトールリン酸のもとでこの増強された分解活性を引き起こし、即ち、IP6は、最高のイニシエーター活性を有する(参照、図1c−e)。
【0049】
構造類似体又は他のイノシトールリン酸類似物質は、これはイニシエーター活性を有するが、当業者に公知であるか又は公知の方法(例えばComputer-Modelling)を用いて容易に突き止められることができる。例えば、前述の「High-Troughput-Assays」も使用されることができる。
【0050】
インキュベーション試験における、TcdB10463を用いたIP6の異なる濃度の試験(参照、図1c及び1d)は、蛍光標識化した毒素Bの分解のために10μMのIP濃度で十分であり(図1c)、その一方で標識化していない(そして初めてSDS−PAGEにおいて亜鉛着色(Zinc Stain 及びDestain Kit, Biorad, Hercules, USA)により可視可能になった)毒素Bの分解のためには、更により低い1μMまでの濃度で十分である(図1d)。
【0051】
類似の実験を、C.ソルデリィのLCTs TcdB10463、TcsL及びTcnαを用いても実施した。この際、イノシトールリン酸が全ての試験された、LCTファミリーの毒素の自己触媒性分解に対して活性性に作用することが示された。
【0052】
(D)この試験において使用された、C.ディフィシルの培地上清から精製されたTcdB10463がプロテアーゼで汚染されていることを排除するために、特別に精製されたTcdB10463を用いた対照試験を実施した。TcdB10463のこの精製を、アフィニティクロマトグラフィを用いて、モノクローナル抗体2CV(DSM ACC 2321)を使用して以下のように実施した:TccB特異的なモノクローナル抗体2CV(血清不含のハイブリドーマ培地のタンパク質G精製した上清)7mgを、HiTrap NHS セファロースカラム(GE Healthcare, Freiburg, FRGで市販されている)にカップリングした。カップリング及び溶出を製造者指示に従い実施した。この完成したカラムを約4mgのTcdB10463で処理し、かつ、結合していないタンパク質を50mM Tris−HCl、pH7.0;125mM Naclを用いた3回の洗浄により除去した。この溶出を一工程において、0.1M トリエタノールアミン−HCl、pH1を用いて実施した。この毒素は3回、450〜185μg/mlの濃度を有する、4mlの画分において溶出した。この溶出した毒素を、すぐさま1M Tris HCl、pH7.5を用いて、1/10の容積比で中和し、これは、この中和化溶液が、溶出の開始前に既にこの画分のための捕捉管中に装入されていることにより保証された。引き続き、汚染性タンパク質の不在をSDS−PAGE及び引き続く亜鉛染色により検出した(参照図1e"−")。
【0053】
この対照試験は、このようにして精製された標識化されていないTcdB10463のIP6でのインキュベーション、及び、引き続くSDS−PAGE及びこの毒素又は毒素断片の亜鉛染色を用いた検出からなった。この試験の結果を図1e中に示し、かつ、これは、この両方の既知の断片63kDa及び207kDaへのこのホロトキシンの完全な分離を示す。
【0054】
実施例2:プロテアーゼ阻害剤でのインキュベーションによるTcdB10463の不活性化
TcDB10463を実施例1(D)中に記載したとおりにアフィニティクロマトグラフィを用いて、モノクローナル抗体2CVを使用して精製し、引き続き(i)プロテアーゼ阻害剤EPNP(10mM 1,2−エポキシ−3−(ニトロフェノキシ)−プロパン)を用いて又は(ii)対照として緩衝液(50mM HEPES、1M NaCl、1mM EDTA、pH8.0)を用いて、60分間室温で前処理した。
【0055】
引き続きin-vitro-Cleavage-Assayを、実施例1(A)と同様に実施した。この試験バッチはそれぞれ10μlの容積を含み、かつ、それぞれ50〜100ngの標識化されていないTcdB10463、100μM IP6及び10mM Tris−HCl、pH8.5を含有した。この試験バッチをインキュベーション(1時間、室温で)に引き続きSDS−PAGE(10%)にかけ、そして、毒素及び毒素断片を引き続き亜鉛染色を用いて可視可能にした。
【0056】
図2はこの実験の結果を示す。IP6を用いたTcdB10463単独のインキュベーション(レーン3)は、顕著に際だったバンドを分子量範囲63kDaに示す。この毒素が前もってEPNPで前処理されている場合には(レーン2)、この典型的な63kDaのバンドは弱くのみ現れる。この知見は、EPNPの添加により、TcdB10463のタンパク質加水分解活性(プロテアーゼ活性)がほとんど完全に抑制されていることを示す。
【0057】
EPNPで前処理した毒素を、更に、Moos et al. (2000) に応じたCHO試験において、その残留活性(細胞毒性作用)について試験した。
【0058】
このCHO試験を以下のように実施した。96ウェルのマイクロプレート中にCHO細胞(=Chinese-Hamster-Ovarialcells)を播種し(5000細胞/ウェル)、そして16時間標準的な条件(5%、CO2、37℃、DMEM F12、2mMのL−グルタミンで補給されている、5%FCS)下でインキュベーションした。引き続きこの毒素を、成長培地中への段階式の希釈後にこの細胞へと添加した。100〜10-8の希釈段階を試験した。この細胞を3時間標準的な条件下でインキュベーションした。引き続き、この丸くなった細胞の割合を、ウェルの複数の代表的な断片の写真をとり、そして、伸びている並びに丸くなった細胞をカウントすることにより、顕微鏡で測定した(Moos et al., Meth Enzymol. 2000, 325: 114-125も参照のこと、この刊行物の内容についてはここで参照により明示的に組み込まれる)。
【0059】
このCHO試験の結果は、EPNPを用いて前処理したTcdB10463が、未処理のTcdB10463に比較して実質的により弱い細胞毒性活性を有することを示す(参照、表2)。EPNPのこの阻害性の作用は、既に知られているとおり、触媒性のアスパラギン酸残基がEPNPと共有的な相互作用を生じ、これにより、プロテアーゼの不可逆的な不活性化が生じることに基づくので(Salto et al. 1994)、本試験の結果は、このTcdB10463活性の抑制は、この毒素分子のプロテアーゼ活性の抑制に基づくことを示す。
【0060】
EPNPを用いるここに記載された実験は、TcdB10463及び他のLCTsの毒性作用が、適したプロテーゼ阻害剤を用いた毒素の前処理により顕著に減少されることを示す。
【0061】
EPNPは、LCTsの共有的な阻害剤のためのモデル物質を示す。更なる比較可能な共有的に作用するか又は拮抗的に抑制する阻害剤は、当業者に公知であるか又は公知の方法を用いて、例えば既に記載された「High-Troughput-Assays」を用いて突き止められることができる。
【0062】
実施例3:IP6を用いたプロテアーゼ活性の細胞外活性化によるTcdB10463の細胞毒性作用の不活性化
TcdB10463を、実施例1(C)中に記載されたのと同様に100μMのIP6でインキュベーションした。このインキュベーションに引き続き、このプロテアーゼ活性により分解されるより小さいな63kDaの毒素タンパク質の断片を、このバッチをマイクロコン管(Millipore, 排除サイズ100kD)を用いて精製することにより分離した。この63kDaのTcdB10463の断片を、引き続き実施例2中に記載された、Moos et al. (2000)に応じたCHO試験において細胞の丸み付けについて試験した。この際、このタンパク質を未希釈で、及び、希釈段階において細胞へと添加した。
【0063】
この試験において、TcdB10463のグルコシルトランスフェラーゼ機能を有する63kDaの断片は、所定の条件下で単独では細胞毒性作用を引き起こすことができないことが示された。希釈状態、更には未希釈状態において、細胞の丸み付け(Rhoサブファミリーの特定のGTPアーゼのグルコシル化、ここから生じるシグナルトランスファクションプロセスの遮断及びここから生じる細胞骨格の解離の結果)が観察されることができなかった。自己触媒を用いて産生された毒素断片が細胞外で不活性であるとの結果は、Pfeifer et al. (2003)及びRupnik et al (2005)による結果を確認し、これらは、分離された、TcdB10463の触媒活性ドメインが、真核細胞中では取り込まれず、従って細胞培地中で不活性であることを示す。(しかしながらこの論文においてLCTsの自己触媒活性は明白に排除される(Pfeiffer et al., 2003)又はLCTsの活性化のための細胞内プロテアーゼが考慮される(Rupnik et al., 2005)一方で、本発明との関連において得られる比較結果は、最初に、N末端の毒素断片が自己触媒性に分解されることを示す)。
【0064】
TcdB10463及び他のLCTsの細胞毒性作用は、従って、この毒素のタンパク質加水分解性分解が既に、細胞中への毒素の侵入の前に誘導されることにより抑制されることができる。
【0065】
実施例4:TcdBのプロテアーゼの活性中心の検出
EPNP不活性化した(参照、実施例2)及び未処理のTcdB10463を、SDSゲルを用いて分離し、かつ、亜鉛染色を用いて示した。引き続き、このタンパク質に相当するバンドを切断し、小さな破片に分解した。これらから着色剤を取り除き、乾燥させ、引き続き2mMのDTT中で還元し、20mMのヨードアセトアミドでアルキル化した。このゲル断片の洗浄及び新規の乾燥後に、この断片を、トリプシンを用いて一晩37℃で消化させた。この生じるペプチドを引き続きHPLC(NanoAcquity Ultraperformance Liquid Chromatography, Waters, Milford, USA)を介して分離した。このために2μlの試料を2%の移動相B緩衝液(アセトニトリル中0.1%ギ酸)中の逆相カラム(NanoEase BEH C18(75μm×10cm)、Waters, Milford, USA)に設けた。移動相A緩衝液は、H2O中に0.1%ギ酸を含有した。引き続きこの断片を3〜40%の移動相B緩衝液(300nl/分で90分間)の勾配によりカラムを通じて溶出した。
【0066】
この溶出した断片を引き続き質量分析により検査した。このために、Waters社のQ-Tof Premier質量分析計を使用した。この装置を[Glu1]−フィブリノゲンペプチド溶液[500fmol/μl、300nl/分で]を用いてNanoLockSpray-供給源(Waters)の対照スプレーヤーを介して校正した。この結果の分析のためにMassLnyx4.1 Software(Waters)を使用した。
【0067】
この結果の分析は、未処理のTcdBがEPNP処理した毒素とは、典型的な断片においてのみ相違することを示す(図3)。この断片は、アスパラギン酸−プロテアーゼに特徴的なDXGモチーフを1665位に有する、TcdBアミノ酸配列P18177(SwissProt/TrEMBL)に応じたTcdBタンパク質のアミノ酸AS1653〜1678を含有する。
【0068】
TcdBの触媒中心のアミノ酸配列AS1653〜AS1678と相応する触媒中心及び毒素TcdA、TcsL及びTcnαのタンパク質領域の比較は、この領域が高度に保存されていることを示す(参照、図3)。
【0069】
従って、当業者は公知の方法を用いて、この毒素のタンパク質ドメインの活性中心と特異的に相互作用し、従って、例えばLCTsの自己触媒性分解を妨げる抗体又はタンパク質を産生することができる。同様に良好に、直接的にこの活性中心を遮断しないが、隣接した領域に対して指向していて、従って、この毒素の自己タンパク質加水分解性分解を立体的に障害する抗体又はタンパク質も産生されることができる。
【0070】
実施例5:不活性化したTcdBを用いた免疫化の結果の、抗体によるTcdB作用の阻害
TcdBの細胞毒性効果に対する保護を誘導するために、以下のTcdB調製物を製造し、かつ、免疫化のためにウサギにおいて使用した。
調製物A:TcdB、ホルマリンで不活性化、
調製物B:TcdB、EPNPで不活性化(参照、実施例2)、
調製物C:TcdB断片AS1601〜1716(DSGモチーフ)、
調製物D:TcdB断片AS1508〜1601(イノシン結合性モチーフの部分)、
調製物E:TcdB断片AS1508〜2157
(DSGモチーフ及び全体のイノシン結合性モチーフ)。
【0071】
TcdB断片を当業者に公知の方法を用いて、プラスミドpET19 (Novagen)中に発現し、付属のHisタグを介して精製した。引き続きこのHisタグをエンテロキナーゼ消化を用いて分解した。このタンパク質の純度をSDS−ゲル中で試験した(データ示さず)。
【0072】
免疫化のためにウサギを抗原でまず基礎免疫化し、引き続き複数の追加免疫にかけた。このウサギの血液から最終的にポリクローナル抗血清が得られた。
【0073】
このポリクローナル抗血清の中和性作用を試験するために、まずTcdBをポリクローナル抗血清で前処理し(希釈男系1:100)、そして1時間室温でインキュベーションした。引き続きこの抗血清の中和性の作用を実施例2において記載したのと同様にCHO試験に基づき試験した。この血清の中和性作用の程度は、この細胞がTcdBの細胞毒性作用からどれだけ長く保護されるかである。
【0074】
調製物Aで免疫化したウサギは、少ない抗体価のみを有し(参照、表4)、更にこのウサギの血清は中和性に作用しない。この知見は、ホルマリン処理したLCTsでの免疫化検査の当業者に公知の結果に相当する。
【0075】
調製物Bで免疫化された動物は、顕著な力価(1:1500まで希釈可能)を発達したが、但し、この抗血清も、CHO試験における中和性作用を有しない(表4)。
【0076】
調製物C〜Eを用いて免疫化したウサギは、同様に、抗体価を有し、更に、CHO試験においてそのポリクローナル血清は、顕著に中和性の作用を示した(表4)。調製物Eでの免疫化により産生されたポリクローナル血清はこの際、最良の中和性特性を示した。
【0077】
調製物C及びDを用いた別個の免疫化により製造された血清は、これに対して、より少ない中和性作用を示した。
【0078】
イノシトール結合性の領域の一部を含有する断片Dを用いた免疫化の成功は、LCTsのこの断片が、毒性の活性化のために重要な領域であることを確認する。この毒素断片中のIP6の結合は、自己触媒性プロテアーゼ活性の活性化を生じ、従って、LCTsの活性化をも生じる。
【0079】
DSGモチーフ周辺のこの領域の中和性作用は、このプロテアーゼの活性中心に対して指向されている抗体が、このタンパク質加水分解性活性を阻害することができることを確認する。このような抗体を用いて、従って、in vivoでも、LCTsの毒性効果からの保護が達成されることができる。
【0080】
調製物Eを用いた免疫化では、この成功した調製物C及びDの両方の断片のみが一緒に使用されることができる。この両方のTcdB断片を用いた免疫化の成功は、動物において、プロテアーゼの活性中心に対して指向されている抗体も、また同様にイノシトール−リン酸−結合性領域に結合する抗体も誘発することに基づく。この抗血清の作用は、即ち、狙いを定めて毒素の活性化を抑制する特異的な抗体を初めて誘発することができたことに基づく。
【0081】
目標細胞中のLCTsの天然の取り込みのためには、毒素の自己触媒性分解が重要であり、というのは、このようにしてのみ、N末端、本来の毒素の活性を媒介する断片が目標細胞中に放出されるからである。アスパラギン酸−プロテアーゼ及びイノシトール−リン酸結合部位のDSGモチーフの周囲中の特異的抗体の結合は、この毒素の自己触媒性分解を抑制する。患者においては、従って、LCTsの自己触媒性の分解のために必要である、毒素−断片の使用により、LCTsに対する有効な免疫化が達成されることができる。
文献:
【表1】
【0082】
表1:定義されたイノシトールリン酸の添加下でのTcdB10463の自己触媒性分解。
【表2】
【0083】
表2:EPNP前処理有り又は無しでのTcdB10463を用いたインキュベーション後のCHO細胞の細胞の丸み付け(%で)。
【表3】
【0084】
表3:TcdBのプロテアーゼ機能の触媒中心のアミノ酸配列AS1653〜AS1678と、毒素TcdA、TcsL及びTcnαの相応する触媒中心及びタンパク質領域との比較。
【表4】
【0085】
表4:ポリクローナル抗血清で前処理されているTcdBを用いたインキュベーション後のCHO細胞の細胞丸み付け(時間で)の開始。
【表5】
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]