特許第5777595号(P5777595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5777595燃料電池、炭素複合構造、およびその作製方法
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  • 特許5777595-燃料電池、炭素複合構造、およびその作製方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5777595
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】燃料電池、炭素複合構造、およびその作製方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20150820BHJP
   D04H 1/4242 20120101ALI20150820BHJP
   D04H 1/4374 20120101ALI20150820BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20150820BHJP
【FI】
   B32B5/26
   D04H1/4242
   D04H1/4374
   D04H1/728
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-250561(P2012-250561)
(22)【出願日】2012年11月14日
(65)【公開番号】特開2014-98218(P2014-98218A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2012年11月14日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳 ▲えん▼▲しゅく▼
(72)【発明者】
【氏名】韓 姿嫻
(72)【発明者】
【氏名】鄭 淑▲けい▼
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−214824(JP,A)
【文献】 特開2007−099551(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/054636(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00〜43/00
D04H1/00〜18/04
H01M8/00〜 8/24
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素複合構造を製造する方法であって、
酸化ポリマーナノ繊維網および酸化マイクロ繊維網を提供する工程、
前記酸化ナノ繊維網および前記酸化マイクロ繊維網を積層して積層構造を形成する工程、
前記積層構造を樹脂中に含浸する工程、
前記樹脂を酸化する工程、ならびに
前記酸化ナノ繊維網、前記酸化マイクロ繊維網および前記酸化した樹脂を炭化して炭素複合構造を形成する工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記樹脂が、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、またはそれらの組み合わせを含む請求項記載の方法。
【請求項3】
前記酸化ポリマーナノ繊維網を提供する前記工程が、
ポリマー溶液を提供する工程、および
前記ポリマー溶液を紡糸して複数のポリマーナノ繊維を形成する工程であって、前記ポリマーナノ繊維が積み重ねられて前記ポリマーナノ繊維網が形成される工程、
を含む請求項記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマー溶液が、極性溶媒に溶解されたポリアクリロニトリル、ピッチまたはフェノール化合物を含む請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池、炭素複合構造、およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、2つの触媒層、2つのガス拡散層、2つのバイポーラプレート、2つの電流コレクタ、および2つのエンドプレートの間に挟みこまれたプロトン伝導膜からなる。燃料電池(FC)のプロトン伝導膜により分けられた2つの側面は、それぞれ、アノード(水素、改質ガスまたはメタノール)およびカソード(酸素または空気)となる。酸化反応がアノードで進行し、化学的還元反応がカソードで進行する。水素(またはメタノール)がアノードの触媒層(例えば白金またはその合金)に接触すると、水素はプロトンと電子とに解離する。電子は、(アノードとカソードとを連結している)電気的ブリッジ(electrical bridge)を通ってアノードからカソードへと流れる。プロトンは、アノードからプロトン伝導膜を通り抜けてカソードに達する。留意すべきは、プロトン伝導膜は湿潤膜(wet film)であり、水分子を伴うプロトンはそれを通り抜けることができるが、その他の空気分子は通り抜けられないという点である。カソードの触媒は酸素と電気的ブリッジからの電子とを結合して酸素イオンを形成することができる。酸素イオンはプロトン伝導膜を通り抜けたプロトンと反応し、水分子が形成される。上述した反応は電気化学的酸化および還元反応である。
【0003】
電気化学反応を利用するプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)またはメタノール直接型燃料電池(DMFC)は、高効率、無公害、高速応答などの特性を有する。かかる燃料電池は、電気的ブリッジの電圧を高めるために直列接続することができ、また、電流を増大させるためには、燃料電池の電極反応面積が増大され得る。酸素(通常は空気)が無尽蔵に供給されることより、電力がデバイスに継続的に供給され得る。よって、燃料電池は小型システム電源として用いることができ、また大型発電所、分散電源もしくは移動可能な電源として設計することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7144476号明細書
【特許文献2】米国特許第7838138号明細書
【特許文献3】米国特許第7790304号明細書
【特許文献4】米国特許第7785748号明細書
【特許文献5】米国特許第7608334号明細書
【特許文献6】米国特許第7517604号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2004/0167014号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2005/0100498号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2006/0222840号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2007/0065699号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2007/0238010号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2007/0243446号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第2008/0020261号明細書
【特許文献14】米国特許出願公開第2008/0280164号明細書
【特許文献15】米国特許出願公開第2009/0325030号明細書
【特許文献16】米国特許出願公開第2010/0297526号明細書
【特許文献17】米国特許出願公開第2010/0297904号明細書
【特許文献18】米国特許出願公開第2011/0000615号明細書
【特許文献19】台湾特許第I353398号明細書
【特許文献20】台湾特許出願公開第200937703号明細書
【特許文献21】中国特許第1764752号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガス拡散層を形成する主な方法は抄紙プロセスであり、炭素繊維紙を熱可塑性樹脂中に浸漬し、ホットプレスし、熱炭化(thermal carbonized)させてから、適した大きさにカットして、ガス拡散層を形成するというものである。従来の方法において、燃料電池のガス拡散層は炭化樹脂(carbonized resin)を炭素繊維に接着することにより形成される。しかし、この従来の方法は複雑であるため、製造コストを高め、かつ電池の性能を低下させてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、炭素ナノ繊維網層(carbon nano fiber net layer)、および炭素ナノ繊維網層上の炭素マイクロ繊維網層を含む炭素複合構造を提供する。
【0007】
本発明の一実施形態は、炭素複合構造を作製する方法であって、酸化ポリマーナノ繊維網および酸化マイクロ繊維網を提供する工程、酸化ナノ繊維網および酸化マイクロ繊維網を積層して積層構造を形成する工程、積層構造を樹脂中に含浸する工程、樹脂を酸化する工程、ならびに、酸化ナノ繊維網、酸化マイクロ繊維網、および酸化した樹脂を炭化して炭素複合構造を形成する工程、を含む方法を提供する。
【0008】
本発明の一実施形態は、2つのエンドプレートの間に配置されるプロトン伝導膜を含む燃料電池を提供する。触媒層、ガス拡散層、バイポーラプレート、および電流コレクタが、プロトン伝導膜とエンドプレートとの間に順次配置され、前記ガス拡散層は、炭素複合構造を形成する、炭素ナノ繊維網層およびその上に積層される炭素マイクロ繊維網層を含む。
【発明の効果】
【0009】
2層からなる炭素複合構造は、単層の炭素ナノ繊維網または単層の炭素マイクロ繊維網と比較してより高い導電率を有する。また、2層からなる炭素複合構造は単層の炭素ナノ繊維網に比べて細孔径分布(pore size distribution)がより低かった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
以下の詳細な説明および実施例により、そして、添付の図面を参照することにより、本発明はより十分に理解される。
【0011】
図1】本発明の一実施形態における燃料電池の断面図を示す。
図2】本発明の一実施形態における炭素複合構造の断面SEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の発明の詳細な説明においては、本発明を説明する目的で、開示される実施形態が十分に理解されるよう、多数の具体的詳細が示されている。しかしながら、これら具体的詳細が無くとも1つまたは複数の実施形態が実施され得ることは明らかである。他の例においては、図面を簡単にするべく、周知の構造およびデバイスは概略的に示してある。
【0013】
本発明は炭素複合構造を形成する方法を提供する。先ず、酸化マイクロ繊維網が提供される。一実施形態において、Toray−090およびSGL−35ECなどの市販の炭素マイクロ繊維網が熱酸化され、酸化マイクロ繊維網が形成される。別の実施形態では、マイクロスケールの直径を有する酸化炭素マイクロ繊維を、ニードルパンチ、抄紙、または製織することにより、不織布、紙、または織布を形成して酸化マイクロ繊維網とする。一実施形態では、酸化マイクロ繊維網は熱プレスにさらにより薄型にされる。
【0014】
次いで、ポリアクリロニトリル(PAN)などのポリマー、ピッチ、またはフェノール化合物を極性溶媒中に溶解してポリマー溶液を形成する。ポリマーを溶解するために適切な極性溶媒としてはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルエチルアミン、ジメチルスルホキシドが挙げられる。ポリマー溶液の濃度は約5wt%から30wt%である。その後、ポリマー溶液は紡糸され、網のように積み重ねられた複数のポリマーナノ繊維が形成される。このポリマーナノ繊維の直径は約100nmから800nmである。紡糸方法としては静電紡糸(electrostatic spinning)または溶液紡糸であってもよい。静電紡糸は約20kVから50kVの電圧で行なわれ、溶液紡糸はノズルの空気圧を約1kg/cm2から5kg/cm2に設定して行なわれる。電圧をより高める、ノズルの空気圧をより高める、またはポリマー溶液の濃度をより低めることによって、より小さな直径を有するナノ繊維が得られる。
【0015】
ポリマーナノ繊維網は、酸化ナノ繊維網を形成するために熱酸化される。酸化ナノ繊維網および酸化マイクロ繊維網は積層され、そしてその後、接着のために樹脂中に含浸される。樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、またはこれらの組み合わせであってもよい。含浸の工程が省かれた場合、酸化ナノ繊維網および酸化マイクロ繊維網の積層体(stack)は薄い層に裂け易くなり、電池の性能が低下する。一実施形態では、酸化ナノ繊維網および酸化マイクロ繊維網は積層され、そしてその後、フェノール樹脂中に含浸される。その後、フェノール樹脂は酸化され、そして、積層体は窒素下、高温で熱炭化される。これにより、酸化ナノ繊維網、酸化マイクロ繊維網および酸化フェノール樹脂が炭化して、炭素複合構造が形成される。炭化工程の熱源としては、マイクロ波または高温炉が挙げられる。
【0016】
別の実施形態では、酸化ナノ繊維網を市販の炭素マイクロ繊維網上に直接積層してから、フェノール樹脂中に含浸してもよい。その後、フェノール樹脂を酸化し、そして、酸化積層体を窒素下、高温で炭化させて、2層からなる炭素複合構造が形成される。
【0017】
ポリマーナノ繊維網を約200℃から350℃の温度で約1時間から4時間、熱的に酸化する。フェノール樹脂を約150℃から250℃の温度で約1時間から4時間、酸化する。炭素複合構造は、炭素ナノ繊維網および炭素マイクロ繊維網の2層積層構造である。一実施形態において、炭素ナノ繊維網層の炭素ナノ繊維の直径は100nmから800nmであり、そして、炭素ナノ繊維網層の細孔の細孔径(pore size)は約100nmから2.5μmである。炭素ナノ繊維網の厚さは約10μmから100μmまたは約30μmから80μmである。直径が過度に小さい炭素ナノ繊維は、熱収縮係数が過度に大きいために、接着に困難がある。直径が過度に大きい炭素ナノ繊維は、炭素ナノ繊維網に過度の大きな細孔を有させる。炭素ナノ繊維網の過度に小さな細孔は、メタノールを移動させることができない。一方、過度に大きい細孔は、メタノールを遮断することができない。過度に薄い炭素ナノ繊維網は破損し易く、そして、過度に厚い炭素ナノ繊維網は過度に小さな細孔を有する。
【0018】
一実施形態において、炭素マイクロ繊維網層の炭素マイクロ繊維の直径は約2μmから10μmまたは約2μmから8μmであり、そして、炭素マイクロ繊維網層の細孔の細孔径は約3μmから12μmである。炭素マイクロ繊維網の厚さは約100μmから600μmである。炭素マイクロ繊維網層は炭素繊維が交絡している3次元構造を有し、かかる炭素繊維間の導電網(electrically conductive net)は、炭素マイクロ繊維網層の導電性を大幅に高めることができる。
【0019】
一実施形態において、2層積層構造中の炭素ナノ繊維網および炭素マイクロ繊維網の厚さ比は約1〜10:10〜60または2〜6:25〜35である。
【0020】
以下に、当業者に容易に理解されるよう、添付の図面を参照にして例示的な実施形態を詳細に説明する。本発明の発明概念は、本明細書に記載されるこれら例示的な実施形態に限定されることなく、様々な形式で具体化され得る。記載を明確にするため、周知の部分についての説明は省かれており、また全体を通して、類似する参照番号は類似する要素を示すものとする。
【実施例】
【0021】
実施例1(炭素マイクロ繊維網の製造)
6μmから7μmの直径を有するPANの酸化繊維(SHINKONG SYNTHETIC FIBER社により市販されている)にニードルパンチを施して不織布とした。不織布の厚さは3mm、坪量は300g/m2であった。この不織布を窒素下、加熱速度10℃/分で1500℃まで加熱し、これにより不織布の酸化繊維を炭化させて炭素マイクロ繊維網を形成した。炭素マイクロ繊維網の表面抵抗は299mΩ/□、体積抵抗は7mΩ・cm、導電率は133S/cm、耐圧性(pressure durability)は100kg/cm2、細孔径分布は3μmから12μmであった。
【0022】
実施例2(炭素マイクロ繊維網の製造)
6μmから7μmの直径を有するPANの酸化繊維(SHINKONG SYNTHETIC FIBER社により市販されている)にニードルパンチを施して不織布とした。不織布の厚さは3mm、坪量は300g/m2であった。この不織布を熱プレスにより薄くして、厚さ1.5mmのより緻密な不織布とした。薄くされた不織布を窒素下、加熱速度10℃/分で1500℃まで加熱し、これにより薄くされた不織布の酸化繊維を炭化させて炭素マイクロ繊維網を形成した。炭素マイクロ繊維網の表面抵抗は246mΩ/□、体積抵抗は6mΩ・cm、導電率は162S/cm、耐圧性は100kg/cm2、細孔径分布は3μmから10μmであった。炭素マイクロ繊維網の厚さは約300±10μmであった。
【0023】
実施例3(炭素ナノ繊維網の製造)
ポリアクリロニトリル(Tong-Hwa Synthetic Fiber社により市販されている)13gをジメチルアセトアミド(DMAc)87g中に溶解してポリアクリロニトリル溶液を作製した。このポリアクリロニトリル溶液を、印加電圧39.5kVで静電紡糸により紡糸し、ポリマーナノ繊維網を形成させた。このポリマーナノ繊維の直径は200nmから700nmであった。ポリマーナノ繊維網を酸素下、280℃の温度で180分間酸化し、酸化ナノ繊維網を得た。この酸化ナノ繊維網を窒素下、加熱速度10℃/分で1500℃まで加熱して炭化させた。これにより酸化ナノ繊維は炭化され、炭素ナノ繊維網が形成された。炭素ナノ繊維網の厚さは38μmから44μm、表面抵抗は9Ω/cm2、体積抵抗は0.05Ω・cm、導電率は13S/cm、耐圧性は10kg/cm2、細孔系分布は1μmから2μmであった。実施例2の薄くされた炭素マイクロ繊維網に比べ、実施例3の炭素ナノ繊維網は、体積抵抗が著しく低く、機械的強度および耐圧性がより低かった。
【0024】
実施例4(炭素ナノ繊維網および炭素マイクロ繊維網の複合構造の製造)
6μmから7μmの直径を有するPANの酸化繊維(SHINKONG SYNTHETIC FIBER社により市販されている)にニードルパンチを施して不織布とした。不織布の厚さは3mm、坪量は300g/m2であった。この不織布を熱プレスにより薄くして、厚さ1.5mmのより緻密な不織布とした。
【0025】
ポリアクリロニトリル(Tong-Hwa Synthetic Fiber社により市販されている)13gをジメチルアセトアミド(DMAc)87g中に溶解してポリアクリロニトリル溶液を作製した。このポリアクリロニトリル溶液を、印加電圧39.5kVで静電紡糸により紡糸し、ポリマーナノ繊維網を形成させた。このポリマーナノ繊維の直径は200nmから700nmであった。ポリマーナノ繊維網を酸素下、270℃の温度で180分間酸化させ、酸化ナノ繊維網を得た。この酸化ナノ繊維網の厚さは59μmから64μmであった。
【0026】
酸化ナノ繊維網および薄くされた不織布を積層し、そしてその後、フェノール樹脂中に含浸した。この積層構造を酸素下、200℃の温度で加熱して、フェノール樹脂を酸化させた。この酸化積層構造を窒素下、加熱速度10℃/分で1500℃まで加熱し、これによって酸化ナノ繊維網、不織布および酸化フェノール樹脂を炭化させ、炭素複合構造を形成させた。炭素ナノ繊維網の厚さは38μmから44μm、炭素マイクロ繊維網の厚さは約300±10μmであった。炭素複合構造の表面抵抗は213mΩ/cm2、体積抵抗は5mΩ・cm、導電率は190S/cm、耐圧性は100kg/cm2、細孔径分布は1μmから1.5μmであった。図2の断面SEM写真に示されるように、炭素ナノ繊維網21および炭素マイクロ繊維網23は積層され炭素複合構造20が形成された。
【0027】
実施例4の2層からなる炭素複合構造は、実施例3の単層炭素ナノ繊維網または実施例2の単層炭素マイクロ繊維網と比較してより高い導電率を有していた。実施例4の2層からなる炭素複合構造の細孔径分布は、実施例3の単層炭素ナノ繊維網に比べてより低いものであった。
【0028】
実施例5(燃料電池試験)
実施例1から4の試料を5cm×5cmのサイズにカットし、そしてその後、触媒被覆膜(catalyst coated membrane、CCM、Dupont社から市販されているE71913)と組み合わせて3層からなる膜/電極接合体(MEA)を作製した。これら接合体を燃料電池試験モジュール中に封入した。テフロン(登録商標)ガスケットによりその気密性を確認した後、燃料電池の試験を行った。
【0029】
アノードの燃料(1M メタノール)の流量は1.83stpm、およびカソードのガス(O2)の流量は300cc/minとした。試験温度は60℃に設定した。燃料電池に0.4Vを印加し、その電流密度およびメタノール遮断能(methanol-blocking ability)を測定した。実施例1の試料を使用した燃料電池の電流密度は55mA/cm2であり、メタノール遮断能は0.577Vであった。実施例2の試料を使用した燃料電池の電流密度は57mA/cm2であり、メタノール遮断能は0.584Vであった。実施例3の試料を使用した燃料電池は耐圧性が不十分であったため、測定は不可能であった。実施例4の試料を使用した燃料電池の電流密度は60mA/cm2であり、メタノール遮断能は0.594Vであった。このように、実施例4の炭素複合構造を使用した燃料電池は、実施例1〜3の単層からなる炭素ナノ繊維網または炭素マイクロ繊維網を使用した燃料電池と比較して、より高い電流密度およびより高いメタノール遮断能を有していた。
【0030】
一実施形態では、図1に示されるように、炭素複合構造は燃料電池のガス拡散層15とすることができる。図1において、プロトン伝導膜11は、2つの触媒層13、2つのガス拡散層15、2つのバイポーラプレート17、2つの電流コレクタ18、および2つのエンドプレート19の間に挟みこまれている。
【0031】
開示された実施形態に各種修飾および変更を加えてもよいことは、当業者には明らかであろう。明細書および実施例は例示的なものと見なされるように意図されており、本発明の開示の真の範囲は以下のクレームおよびそれらの均等物により示される。
【符号の説明】
【0032】
11 プロトン伝導膜
13 触媒層
15 ガス拡散層
16 デバイス
17 バイポーラプレート
18 電流コレクタ
19 エンドプレート
20 炭素複合構造
21 炭素ナノ繊維網
22 炭素マイクロ繊維網
図1
図2