特許第5777596号(P5777596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5777596
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/08 20060101AFI20150820BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   G03G9/08 311
   G03G9/08 331
   G03G9/08 325
【請求項の数】4
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2012-255706(P2012-255706)
(22)【出願日】2012年11月21日
(65)【公開番号】特開2014-102446(P2014-102446A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2014年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】角岡 奨
【審査官】 福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−090355(JP,A)
【文献】 特開2010−026386(JP,A)
【文献】 特開昭62−090686(JP,A)
【文献】 特開2012−189940(JP,A)
【文献】 特開2009−163026(JP,A)
【文献】 特開2006−243107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08
G03G 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも結着樹脂を含むトナーコア粒子と、前記トナーコア粒子を被覆するシェル層と、からなり、
前記シェル層が、内層と、外層とからなり、
前記結着樹脂のSP値(SP)と、前記内層の材質のSP値(SP)との差であるΔSP(SP−SP)が、0.3以上1.4以下であり、
前記内層のSP値(SP)と、前記外層の材質のSP値(SP)との差であるΔSP(SP−SP)が、0.5以上1.6以下であり、
前記ΔSPが、前記ΔSP未満である、静電荷像現像用トナー。
【請求項2】
前記結着樹脂がポリエステル樹脂を含む、請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記外層が(メタ)アクリル系樹脂、及びスチレン−(メタ)アクリル系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂を含む、請求項1又は2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
前記内層が、ポリエステル樹脂からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
トナーに関して、省エネルギー化、装置の小型化のような観点から、定着ローラーを極力加熱することなく良好に定着可能な、低温定着性に優れるトナーが望まれている。しかし、低温定着性に優れるトナーは、融点やガラス転移点の低い結着樹脂や、低融点の離型剤を使用していることが多く、一般的に、高温で保存する場合に凝集しやすい。トナーに凝集が生じた場合、画像を形成する際に、現像スリーブや、感光体ドラムへのトナーの付着に起因する画像不良や、トナーの帯電不良に起因するかぶりが形成画像に生じる問題がある。
【0003】
そこで、上述のような問題に対処するために、幅広い温度で定着性に優れるトナーを得る目的、高温でのトナーの保存安定性の向上の目的、及びトナーの耐ブロッキング性の向上のような目的で、低融点の結着樹脂を含むコア粒子が、コア粒子に含まれる結着樹脂のガラス転移点(Tg)よりも高いTgを有する樹脂からなるシェル層により被覆されている、コア−シェル構造のトナーが使用されている。
【0004】
このようなコア−シェル構造のトナーとして、コア粒子表面に中間層及びシェル層を有し、中間層がワックスを含有し、シェル層が、軟化点60℃以上120℃以下の結晶性ポリエステル樹脂を、シェル層中に70質量%以上100質量%以下含むトナーが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−099081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のトナーは、中間層及びシェル層の材料として比較的機械的強度の低い材料を選択しているため、トナーが機械的なストレスを受ける場合に、シェル層と中間層との圧壊が生じやすい。シェル層と中間層との圧壊が生じると、離型剤のような成分がトナー粒子表面に露出し、トナーを高温で保存する場合にトナー同士が凝集しやすくなる。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、幅広い温度範囲で被記録媒体に良好に定着され、耐熱保存性、及び機械的強度に優れる、静電荷像現像用トナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、少なくとも結着樹脂を含むトナーコア粒子と、トナーコア粒子を被覆するシェル層とからなる静電荷像現像用トナーについて、シェル層を、内層と、外層とから構成し、結着樹脂のSP値(SP)と、内層のSP値(SP)と、外層のSP値(SP)と、を所定の関係を満たすものとすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
本発明は、
少なくとも結着樹脂を含むトナーコア粒子と、前記トナーコア粒子を被覆するシェル層と、からなり、
前記シェル層が、内層と、外層とからなり、
前記結着樹脂のSP値(SP)と、前記内層の材質のSP値(SP)との差であるΔSP(SP−SP)が、0.3以上1.4以下であり、
前記内層の材料SP値(SP)と、前記外層の材質のSP値(SP)との差であるΔSP(SP−SP)が、0.5以上1.6以下であり、
前記ΔSPが、前記ΔSP未満である、静電荷像現像用トナーに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、幅広い温度範囲で被記録媒体に良好に定着され、耐熱保存性、及び機械的強度に優れる、静電荷像現像用トナーを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0012】
本発明の静電荷像現像用トナー(以下、単にトナーともいう)は、少なくとも結着樹脂を含むトナーコア粒子と、トナーコア粒子を被覆するシェル層とからなる。シェル層は、内層と、外層とからなる。結着樹脂、内層、及び外層の溶解パラメータ(以下、単にSP値とも記す)が所定の範囲の値を有する。以下、本発明で規定するSP値と、本発明の静電荷像現像用トナーとについて説明する。
【0013】
≪SP値≫
本発明で規定するSP値とは、分子凝集エネルギーの平方根で表される値であり、R.F.Fedors,Polymer Engineering Science,14,p147(1974)に記載の方法で計算することができる。単位は(MPa)1/2であり、25℃における値を指す。
【0014】
以下、結着樹脂のSP値をSPとし、シェル層の内層の材質のSP値をSPとし、シェル層の外層の材質のSP値をSPとする。また、SPと、SPとの差を、ΔSPとし、SPと、SPとの差を、ΔSPとする。本発明のトナーを調製する際、結着樹脂と、シェル層の内層の材質と、シェル層の外層の材質とについては、SPと、SP、SPsとが以下の関係:
0.3≦SP−SP(ΔSP)≦1.4、
0.5≦SP−SP(ΔSP)≦1.6、及び
SP−SP(ΔSP)<SP−SP(ΔSP)、
を満たす。
【0015】
SPと、SPと、SPと、が上記の関係を満たすことで、幅広い温度範囲で被記録媒体に良好に定着され、耐熱保存性、及び機械的強度に優れるトナーを得ることができる。
【0016】
ΔSPが小さ過ぎる場合、トナーコア粒子とシェル層の内層とが相溶しやすく、トナーコア粒子からシェル層の内層に移行した離型剤のような成分が、シェル層の内層と外層との界面に露出することがある。この場合、シェル層の内層と外層とが剥離しやすくなるため、シェル層の強度が低下しやすい。シェル層の強度が低下すると、耐熱保存性、及び機械的強度に優れるトナーを得にくくなる。
【0017】
ΔSPが大き過ぎる場合、トナーコア粒子とシェル層の内層とが相溶しにくいため、機械的なストレスに起因してシェル層がトナーコア粒子から剥離しやすくなり、トナーの機械的強度が損なわれる。また、ΔSPが大き過ぎる場合、得られるトナーが低温域で被記録媒体に良好に定着されにくい場合がある。
【0018】
ΔSPが小さ過ぎる場合、シェル層の内層と外層とが相溶しやすく強固に密着するため、シェル層の強度が過度に高くなりやすい。シェル層の強度が過度に高いと、トナーを用紙に対して定着させる際に、シェル層の圧壊が起こりにくいため、トナーの低温定着性が損なわれやすい。
【0019】
ΔSPが大き過ぎる場合、シェル層の内層と外層とが相溶しにくく、シェル層の内層と外層とが良好に接着しにくい。このため、シェル層の強度低下にともない、トナーの耐熱保存性と機械的強度とが損なわれやすい。
【0020】
≪静電荷像現像用トナー≫
本発明のトナーは、トナーコア粒子と、トナーコア粒子を被覆するシェル層とからなる。本発明のトナーは、必要に応じ、その表面に外添剤が付着されたものであってもよい。本発明のトナーは、所望のキャリアと混合して2成分現像剤として使用することもできる。以下、本発明のトナーを構成するトナーコア粒子、及びシェル層と、任意の成分である外添剤と、本発明のトナーを2成分現像剤として使用する場合に用いるキャリアと、本発明のトナーの製造方法とについて順に説明する。
【0021】
[トナーコア粒子]
本発明のトナーを構成するトナーコア粒子は、少なくとも結着樹脂を含む。トナーコア粒子は結着樹脂に加え、所望により、着色剤、離型剤、及び電荷制御剤のような成分を含有してもよい。以下、トナーコア粒子について、必須、又は任意の成分である、結着樹脂、離型剤、着色剤、及び電荷制御剤について順に説明する。
【0022】
〔結着樹脂〕
本発明のトナーのトナーコア粒子に含まれる結着樹脂は、SPと、SPと、SPとが、前述の所定の関係を満たす限り、特に制限されない。
【0023】
結着樹脂の具体例としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、N−ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂といった熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの樹脂の中でも、着色剤のトナー中での分散性、トナーの帯電性、トナーの用紙に対する定着性の面から、スチレンアクリル系樹脂、及びポリエステル樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂がより好ましい。以下、本実施形態で用いるスチレンアクリル系樹脂、及びポリエステル樹脂について説明する。
【0024】
スチレンアクリル系樹脂は、スチレン系単量体とアクリル系単量体との共重合体である。スチレン系単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、p−エチルスチレンが挙げられる。アクリル系単量体の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸iso−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸iso−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸iso−ブチルのような(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
【0025】
結着樹脂としてスチレンアクリル系樹脂を用いる場合、SPは、(メタ)アクリル系樹脂を調製する際に(メタ)アクリル酸の使用量を増減させることで調整できる。
【0026】
結着樹脂としてポリエスエテル樹脂を用いる場合、幅広い温度範囲で良好に定着でき、発色性に優れるトナーを調製しやすい。ポリエステル樹脂としては、2価又は3価以上のアルコール成分と2価又は3価以上のカルボン酸成分との縮重合又は共縮重合によって得られるものを使用することができる。ポリエステル樹脂を合成する際に用いられる成分としては、以下のアルコール成分やカルボン酸成分が挙げられる。
【0027】
2価又は3価以上のアルコール成分の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールのようなジオール類;ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリオキシエチレン化ビスフェノールA、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールAのようなビスフェノール類;ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンのような3価以上のアルコール類が挙げられる。
【0028】
2価又は3価以上のカルボン酸成分の具体例としては、マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、マロン酸、あるいはn−ブチルコハク酸、n−ブテニルコハク酸、イソブチルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、イソドデシルコハク酸、イソドデセニルコハク酸のようなアルキル又はアルケニルコハク酸のような2価カルボン酸;1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、エンポール三量体酸のような3価以上のカルボン酸が挙げられる。これらの2価又は3価以上のカルボン酸成分は、酸ハライド、酸無水物、低級アルキルエステルのエステル形成性の誘導体としたものを用いてもよい。ここで、「低級アルキル」とは、炭素原子数1から6のアルキル基を意味する。
【0029】
結着樹脂がポリエステル樹脂である場合、その酸価は、SPと、SPと、SPとが、前述の所定の関係を満たす限り、特に限定されない。ポリエステル樹脂の酸価は、10mgKOH/g以上40mgKOH/g以下が好ましい。酸価が低すぎると、後述する凝集法でトナーを調製する場合に、トナーに含まれる成分の微粒子を凝集させる際に、微粒子の凝集が良好に進行しにくくなる場合がある、酸価が高すぎると、高湿条件下で、湿度の影響によってトナーの種々の性能が損なわれる可能性がある。また、ポリエステル樹脂の酸価は、ポリエステル樹脂の合成に使用されるアルコール成分が有する水酸基と、カルボン酸成分が有するカルボキシル基とのバランスを調整することによって調整できる。
【0030】
結着樹脂としてポリエステル樹脂を用いる場合、SPは、ポリエステル樹脂の合成の際に使用されるアルコール成分が有する水酸基の量と、カルボン酸成分が有するカルボキシル基の量とのバランスを調整することによって調整できる。
【0031】
結着樹脂としては、熱可塑性樹脂を単独で使用するだけでなく、熱可塑性樹脂に架橋剤や熱硬化性樹脂を添加したものを用いることも可能である。結着樹脂内に一部架橋構造を導入することで、トナーの定着性を低下させることなく、トナーの保存安定性、形態保持性、及び耐久性を向上させることができる。
【0032】
熱可塑性樹脂と共に使用できる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やシアネート系樹脂が好ましい。好適な熱硬化性樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリアルキレンエーテル型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、シアネート樹脂が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、2種以上を組み合わせて使用できる。
【0033】
結着樹脂のガラス転移点(Tg)は、45℃以上70℃以下が好ましい。結着樹脂のガラス転移点が低すぎると、画像形成装置の現像部の内部でトナー同士が融着したり、トナーの保存安定性の低下に起因して、トナー容器の輸送時やトナー容器の倉庫での保管時にトナー同士が一部融着したりする場合がある。また、結着樹脂のガラス転移点が低すぎると、ポリエステル樹脂の強度が低下し、潜像担持部にトナーが付着しやすい。結着樹脂のガラス転移点が高すぎると、トナーが低温で良好に定着しにくい傾向がある。
【0034】
なお、結着樹脂のガラス転移点は、JIS K7121に準拠し、示差走査熱量計(DSC)を用いて、結着樹脂の比熱の変化点から求めることができる。より具体的な測定方法は以下の通りである。測定装置としてセイコーインスツルメンツ株式会社製示差走査熱量計DSC−6200を用い、結着樹脂の吸熱曲線を測定することで求めることができる。測定試料10mgをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを使用する。測定温度範囲25℃以上200℃以下、昇温速度10℃/分、及び常温常湿下の条件で測定して得られる結着樹脂の吸熱曲線を用いて結着樹脂のガラス転移点を求めることができる。
【0035】
結着樹脂の融点(Tm)は、80℃以上120℃以下が好ましい。結着樹脂の融点が高すぎると、トナーを低温で良好に定着しにくくなる場合がある。結着樹脂の融点が低すぎると、高温での保存時にトナーが凝集してしまう場合が有り、トナーの耐熱保存性が損なわれる場合がある。
【0036】
結着樹脂の数平均分子量(Mn)は、1,000以上4,000以下が好ましく、1,500以上3,000以下がより好ましい。また、結着樹脂の質量平均分子量(Mw)は1,500以上11,000以下が好ましく、3,500以上7,000以下がより好ましい。また、数平均分子量(Mn)と質量平均分子量(Mw)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、2以上10以下が好ましい。結着樹脂の分子量分布をこのような範囲とすることで、低温定着性に優れたトナーを得やすくなる。結着樹脂の数平均分子量(Mn)と質量平均分子量(Mw)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0037】
SPは、SPと、SPと、SPとが、前述の所定の関係を満たす限り、特に制限されない。SPは、11.0以上12.0以下が好ましい。SPをこのような値の範囲内とすることで、ΔSP(SP−SP)を、0.3以上1.4以下の範囲内に調整しやすい。
【0038】
本発明のトナーの好ましい製造方法としては、後述する凝集法が挙げられる。凝集法によりトナーを製造する際、結着樹脂としてポリエステル樹脂を用いる場合、所定の方法で測定される、トナー中の、オリゴマーの含有量を低減させる処理を施されたポリエステル樹脂を用いるのが好ましい。そうすることで、トナーコア粒子に所望する量の離型剤を含有させやすくなり、低温定着性に優れるトナーを得やすい。
本出願の明細書では、ポリエステル樹脂中に含まれるオリゴマーの少なくとも一部を除去する処理、又は、合成段階でオリゴマーの生成量を低減させる処理が施されたポリエステル樹脂を「低オリゴマーポリエステル樹脂」と称する。
【0039】
ポリエステル樹脂に含まれる分子量1000以下のオリゴマーの少なくとも一部を除去する方法としては、必要に応じて粉砕されたポリエステル樹脂を、塩基性物質の水溶液を用いて処理する方法や、ポリエステル樹脂中の分子量1000以下の低分子量成分を選択的に溶解することができる有機溶剤を用いて処理する方法が挙げられる。これらの方法の中でも、ポリエステル樹脂中のオリゴマーの除去効率が高い点で、塩基性物質の水溶液を用いてポリエステル樹脂を処理する方法が好ましい。塩基性物質の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムのようなアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのようなアルカリ金属炭酸塩が挙げられる。塩基性物質は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
ポリエステル樹脂に含まれる分子量1000以下のオリゴマーの量は、特に限定されないが、トナー中の、トナーの質量を基準とする分子量1000以下のオリゴマーの量は1000質量ppm以下が好ましい。
【0041】
<トナー中のオリゴマーの含有量の測定方法(メタノール抽出法)>
トナー中の結着樹脂に由来する分子量1000以下のオリゴマーの含有量A(質量ppm)は、
以下の工程(1)〜(3):
(1)静電潜像現像用トナーの試料100gを、メタノール500g中で、60℃、8時間撹拌して、結着樹脂由来のオリゴマーを含むメタノール抽出液を取得する工程、
(2)メタノール抽出液に含まれるオリゴマーのうち、分子量1000以下のオリゴマーの、メタノール抽出液中の含有量を測定し、メタノール抽出液全量に含まれる、分子量1000以下のオリゴマーの質量B(g)を測定する工程、及び
(3)下式:
A=(B/100)×1000000、
に従って、トナーの質量を基準とする、トナー中の分子量1000以下のオリゴマーの含有量A(質量ppm)を算出する工程、
からなる方法に従って測定できる。
【0042】
メタノール抽出液に含まれるオリゴマーのうち、分子量1000以下のオリゴマーの量を測定する方法は、特に限定されない。メタノール抽出液に含まれる、分子量1000以下のオリゴマーの量は、赤外線分光法(IR)、紫外線分光法、核磁気共鳴分光法(NMR)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)、質量分析法のような公知の分析法を用いて分析することが出来る。中でも、分子量1000以下のオリゴマーの量の測定はGPCを用いて測定されるのが好ましい。以下、GPCを用いる分子量1000以下のオリゴマー量の測定方法について説明する。
【0043】
(GPCを用いる分子量1000以下のオリゴマー量測定方法)
テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とし、測定する試料を好ましくは0.1mg/ml以上5mg/ml以内、より好ましくは0.5mg/ml以上2mg/ml以内の濃度でTHFに溶解させる。試料をTHFへ溶解させる方法としては、THF中の試料を撹拌する方法や、THF中の試料を超音波浴に浸漬させる方法がある。その後、得られたTHF溶液をサンプル処理フィルターで濾過して、GPCの測定に用いる測定用試料を得る。GPCの測定は、40℃でカラムを安定化させ、その温度条件下、THF溶液を0.35ml/minの流速で流すことで測定される。試料の分子量分布は単分散ポリスチレンを数種類使用して調製した検量線を用いて、スチレン換算分子量として測定する。少なくとも10点以上測定することが検量線の精度を高くするために好ましい。検出器としてはRI(屈折率)検出器、又はUV(紫外線)検出器が使用できるが、試料の組成によらず検出が可能である点でRI検出器を用いるのが好ましい。カラムとしては標準的なポリスチレンジェルカラムを組み合わせて使用することができる。
【0044】
数平均分子量1000の単分散標準ポリスチレンのGPCを測定し、ピーク位置での保持容量(ml)を求め、これをRVSとする。メタノール抽出液からメタノール成分を溜去した残渣のGPCを測定し、GPCクロマトグラムのピーク全体の面積に対するRVS以下の低分子側のピーク部分の面積の比率として算出する。この際、通常、検出器は示差屈折率計を用いるが、別途オリゴマー部分のみを分取液体クロマトグラフィーで分取し、その単量体組成を熱分解ガスクロマトグラフィー、赤外分光計及びプロトン核磁気共鳴測定装置で調べる。このとき、共重合体全体の組成と全く同一であった場合、オリゴマー部分と共重合体全体の屈折率に差異はないとして、ピーク面積比をすなわち重量比として表わすことができる。分子量1000以下のオリゴマー量をクロマトグラムのピーク面積の比率を百分率で計算して求める。
<GPC測定条件>
装置 :HLC−8320(東ソー株式会社製)
溶離液 :THF(テトラヒドロフラン)
カラム :TSKgel SuperMultiporeHZ−M(東ソー株式会社製)
カラム本数:3本
検出器 :RI
溶出液流速:0.35ミリリットル/分
試料濃度 :2.0g/リットル
カラム温度:40℃
試料量 :10マイクロリットル
試料調製 :溶離液にて調製する。シェーカーを用いて1時間振とう後、フィルター(孔径5ミクロン)を用いてろ過。
検量線 :標準ポリスチレンを用いて作製
【0045】
ポリエステル樹脂が、ポリオキシエチレン化ビスフェノールA、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールAのような芳香環を含む単量体を用いて合成された樹脂である場合、メタノール中の所定の分子量以下のオリゴマーの含有量を測定する方法としては、UV検出器を備える高速液体クロマトグラフィーを用いる方法が好ましい。
【0046】
〔着色剤〕
トナーコア粒子は、必要に応じて着色剤を含んでいてもよい。着色剤は、トナー粒子の色に合わせて、公知の顔料や染料を用いることができる。トナーに添加することができる好適な着色剤の具体例としては以下のような着色剤が挙げられる。
【0047】
黒色着色剤としては、カーボンブラックが挙げられる。具体的には、コロンビアン・カーボン社製のRaven1060、1080、1170、1200、1250、1255、1500、2000、3500、5250、5750、7000、5000 ULTRAII、1190 ULTRAII;キャボット社製のBlack PearlsL、Mogul−L、Regal400R、660R、330R、Monarch800、880、900、1000、1300、1400;デグッサ社製のColor Black FW1、FW2、FW200、18、S160、S170、Special Black 4、4A、6、Printex35、U、140U、V、140V;三菱化学株式会社製のNo.25、33、40、47、52、900、2300、MCF−88、MA600、7、8、100が挙げられる。また、黒色着色剤としては後述するイエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤のような着色剤を用いて黒色に調色された着色剤も利用することができる。カラートナー用着色剤としては、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、シアン着色剤が挙げられる。
【0048】
イエロー着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及びアリルアミド化合物が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、194が挙げられる。
【0049】
マゼンタ着色剤としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及びペリレン化合物が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、及び254が挙げられる。
【0050】
シアン着色剤としては、銅フタロシアニン化合物、銅フタロシアニン誘導体、アントラキノン化合物、及び塩基染料レーキ化合物が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、66が挙げられる。
【0051】
これら着色剤は、単独又は混合して用いることができる。着色剤の使用量はトナーの質量に対して、3質量%以上15質量%以下が好ましい。
【0052】
〔離型剤〕
本発明のトナーのトナーコア粒子は、トナーの定着性や耐オフセット性を向上させる目的で、離型剤を含んでいてもよい。離型剤の種類は、従来からトナー用の離型剤として使用されているものであれば特に限定されない。
【0053】
好適な離型剤としては、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、及びフィッシャートロプシュワックスのような脂肪族炭化水素系ワックス;酸化ポリエチレンワックス、及び酸化ポリエチレンワックスのブロック共重合体のような脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物;キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう、及びライスワックスのような植物系ワックス;みつろう、ラノリン、及び鯨ろうのような動物系ワックス;オゾケライト、セレシン、及びベトロラクタムのような鉱物系ワックス;モンタン酸エステルワックス、及びカスターワックスのような脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスのような脂肪酸エステルを一部、又は全部を脱酸化したワックスが挙げられる。
【0054】
好適に使用できる離型剤としては、さらに、パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸、及びさらに長鎖のアルキル基を有する長鎖アルキルカルボン酸類のような飽和直鎖脂肪酸;ブラシジン酸、エレオステアリン酸、及びバリナリン酸のような不飽和脂肪酸;ステアリルアルコール、エイコシルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール、及びさらに長鎖のアルキル基を有する長鎖アルキルアルコールのような飽和アルコール;ソルビトールのような多価アルコール;リノール酸アミド、オレイン酸アミド、及びラウリン酸アミドのような脂肪酸アミド;メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、及びヘキサメチレンビスステアリン酸アミドのような飽和脂肪酸ビスアミド;エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミドのような不飽和脂肪酸アミド類、m−キシレンビスステアリン酸アミド、及びN,N’−ジステアリルイソフタル酸アミドのような芳香族系ビスアミド;ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、及びステアリン酸マグネシウムのような脂肪酸金属塩;脂肪族炭化水素系ワックスにスチレンやアクリル酸のようなビニル系モノマーをグラフト化させたワックス;ベヘニン酸モノグリセリドのような脂肪酸と多価アルコールとの部分エステル化物;植物性油脂を水素添加することによって得られるヒドロキシル基を有するメチルエステル化合物が挙げられる。
【0055】
具体的な離型剤の使用量はトナーの質量に対して、8質量%以上20質量%以下が好ましく、10質量%以上15質量%以下がより好ましい。離型剤の使用量が過少である場合、形成画像におけるオフセットや像スミアリングの発生の抑制について所望の効果が得られない場合がある。一方、離型剤の使用量が過多である場合、トナー同士の融着によってトナーの保存安定性が低下する場合がある。
【0056】
〔電荷制御剤〕
本発明のトナーのトナーコア粒子は、必要に応じ、電荷制御剤を含んでいてもよい。電荷制御剤は、トナーの帯電レベルの安定性や、所定の帯電レベルに短時間でトナーを帯電可能か否かの指標となる帯電立ち上がり特性を向上させ、耐久性や安定性に優れたトナーを得る目的で使用される。トナーを正帯電させて現像を行う場合、正帯電性の電荷制御剤が使用され、トナーを負帯電させて現像を行う場合、負帯電性の電荷制御剤が使用される。
【0057】
電荷制御剤の種類は、従来よりトナーに使用されている電荷制御剤から適宜選択できる。正帯電性の電荷制御剤の具体例としては、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オルトオキサジン、メタオキサジン、パラオキサジン、オルトチアジン、メタチアジン、パラチアジン、1,2,3−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4−オキサジアジン、1,3,4−オキサジアジン、1,2,6−オキサジアジン、1,3,4−チアジアジン、1,3,5−チアジアジン、1,2,3,4−テトラジン、1,2,4,5−テトラジン、1,2,3,5−テトラジン、1,2,4,6−オキサトリアジン、1,3,4,5−オキサトリアジン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリンのようなアジン化合物;アジンファストレッドFC、アジンファストレッド12BK、アジンバイオレットBO、アジンブラウン3G、アジンライトブラウンGR、アジンダークグリ−ンBH/C、アジンディ−プブラックEW、及びアジンディープブラック3RLのようなアジン化合物からなる直接染料;ニグロシン、ニグロシン塩、ニグロシン誘導体のようなニグロシン化合物;ニグロシンBK、ニグロシンNB、ニグロシンZのようなニグロシン化合物からなる酸性染料;ナフテン酸又は高級脂肪酸の金属塩類;アルコキシル化アミン;アルキルアミド;ベンジルメチルヘキシルデシルアンモニウム、デシルトリメチルアンモニウムクロライドのような4級アンモニウム塩が挙げられる。これらの正帯電性の電荷制御剤の中では、より迅速な立ち上がり性が得られる点で、ニグロシン化合物が特に好ましい。これらの正帯電性の電荷制御剤は、2種以上を組み合わせて使用できる。
【0058】
官能基として4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、又はカルボキシル基を有する樹脂も正帯電性の電荷制御剤として使用できる。より具体的には、4級アンモニウム塩を有するスチレン系樹脂、4級アンモニウム塩を有するアクリル系樹脂、4級アンモニウム塩を有するスチレンアクリル系樹脂、4級アンモニウム塩を有するポリエステル樹脂、カルボン酸塩を有するスチレン系樹脂、カルボン酸塩を有するアクリル系樹脂、カルボン酸塩を有するスチレンアクリル系樹脂、カルボン酸塩を有するポリエステル樹脂、カルボキシル基を有するスチレン系樹脂、カルボキシル基を有するアクリル系樹脂、カルボキシル基を有するスチレンアクリル系樹脂、カルボキシル基を有するポリエステル樹脂が挙げられる。これらの樹脂の分子量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、オリゴマーであってもポリマーであってもよい。
【0059】
正帯電性の電荷制御剤として使用できる樹脂の中では、帯電量を所望の範囲内の値に容易に調節することができる点から、4級アンモニウム塩を官能基として有するスチレンアクリル系樹脂がより好ましい。4級アンモニウム塩を官能基として有するスチレンアクリル系樹脂において、スチレン単位と共重合させる好ましいアクリル系コモノマーの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸iso−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸iso−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸iso−ブチルのような(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
【0060】
また、4級アンモニウム塩としては、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノ(メタ)アクリルアミド、又はジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドから第4級化の工程を経て誘導される単位が用いられる。ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。ジアルキル(メタ)アクリルアミドの具体例としてはジメチルメタクリルアミドが挙げられる。ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの具体例としては、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドが挙げられる。また、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミドのようなヒドロキシ基含有重合性モノマーを重合時に併用することもできる。
【0061】
負帯電性の電荷制御剤の具体例としては、有機金属錯体、キレート化合物が挙げられる。有機金属錯体、及びキレート化合物としては、アルミニウムアセチルアセトナートや鉄(II)アセチルアセトナートのようなアセチルアセトン金属錯体、及び、3,5−ジ−tert−ブチルサリチル酸クロムのようなサリチル酸系金属錯体又はサリチル酸系金属塩が好ましく、サリチル酸系金属錯体又はサリチル酸系金属塩がより好ましい。これらの負帯電性の電荷制御剤は、2種以上を組み合わせて使用できる。
【0062】
正帯電性又は負帯電性の電荷制御剤の使用量は、典型的には、トナー全量を100質量部とした場合に、1.5質量部以上15質量部以下が好ましく、2.0質量部以上8.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以上7.0質量部以下が特に好ましい。電荷制御剤の使用量が過少である場合、所定の極性にトナーを安定して帯電させ難いため、形成画像の画像濃度が所望する値を下回ったり、画像濃度の長期にわたる維持が困難になったりすることがある。また、このような場合、電荷制御剤がトナー中に均一に分散し難く、形成画像にかぶりが生じやすくなったり、トナー成分の付着に起因する潜像担持部の汚染が起こりやすくなったりする。電荷制御剤の使用量が過多である場合、耐環境性の悪化に起因する、高温高湿下での帯電不良に起因する形成画像における画像不良や、トナー成分の付着に起因する潜像担持部の汚染が起こりやすくなる。
【0063】
[シェル層]
本発明のトナーを構成するシェル層は、内層と、外層とからなる。シェル層の材質は、内層と外層とを形成でき、第1ΔSP値差(SP−SP)が0.3以上1.4以下であり、第2SP値差(SP−SP)が0.5以上1.6以下であり、SP−SP<SP−SPの関係を満たす限り、特に限定されない。シェル層の材質としては通常、内層の材質のSP値(SP)と、外層の材質のSP値(SP)とを調整しやすい点から、樹脂を使用するのが好ましい。以下、内層と、外層とについて説明する。
【0064】
〔内層〕
内層の材質は、SPと、SPと、SPとが、前述の所定の関係を満たす限り、特に制限されない。内層の材質としては、SPを調整しやすいことから、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン−(メタ)アクリル系樹脂、及びポリエステル樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂が好ましい。そして、ΔSPや、ΔSPを所定の範囲内の値に調整しやすいことから、内層を構成する樹脂はポリエステル樹脂がより好ましい。内層を構成する樹脂として好適に用いられるポリエステル樹脂は、結着樹脂と同様の種類の樹脂を用いることができる。
【0065】
以下、内層を構成することができる樹脂として用いられる、(メタ)アクリル系樹脂と、スチレン−(メタ)アクリル系樹脂とについて説明する。
【0066】
((メタ)アクリル系樹脂)
内層を構成する樹脂として、(メタ)アクリル系樹脂を用いる場合、(メタ)アクリル系樹脂は、少なくとも(メタ)アクリル系モノマーを含むモノマーを重合して得られる樹脂である。(メタ)アクリル系樹脂の調製に使用される(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、及びプロピル(メタ)アクリレートのようなアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N−アリール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、及びN,N−ジアリール(メタ)アクリルアミドのような(メタ)アクリルアミド化合物が挙げられる。
【0067】
また、(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸に由来する単位に含まれるカルボキシル基を酸性基として含むのが好ましい。この場合、(メタ)アクリル系樹脂を調製する際に(メタ)アクリル酸の使用量を増減させることで、(メタ)アクリル系樹脂の酸価と、SPとを調整できる。
【0068】
(メタ)アクリル系樹脂が、(メタ)アクリル系モノマー以外の他のモノマーを共重合した樹脂である場合、他のモノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、及びオクテン−1のようなオレフィン類;酢酸アリル、安息香酸アリル、アセト酢酸アリル、及び乳酸アリルのようなアリルエステル類;ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、クロルエチルビニルエーテル、2−エチルブチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニルトリルエーテル、ビニルクロルフェニルエーテル、ビニル−2,4−ジクロルフェニルエーテル、及びビニルナフチルエーテルのようなビニルエーテル;ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルジエチルアセテート、ビニルクロルアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルブトキシアセテート、ビニルフエニルアセテート、ビニルアセトアセテート、ビニルラクテート、安息香酸ビニル、サリチル酸ビニル、クロル安息香酸ビニル、及びナフトエ酸ビニルのようなビニルエステルが挙げられる。
【0069】
また、(メタ)アクリル系樹脂は、前述の電荷制御剤として使用可能な樹脂と同様に、4級アンモニウム塩のような帯電性の官能基が導入されたものであってもよい。
【0070】
(メタ)アクリル系樹脂に含まれる、(メタ)アクリル系モノマーに由来する単位の含有量の合計は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されないが、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%以上が特に好ましい。
【0071】
(スチレン−(メタ)アクリル系樹脂)
内層を構成する樹脂として、スチレン−(メタ)アクリル系樹脂を用いる場合、スチレン−(メタ)アクリル系樹脂は、少なくとも、スチレン系モノマーと、(メタ)アクリル系モノマーとを含むモノマーを共重合して得られる樹脂である。
【0072】
スチレン−(メタ)アクリル系樹脂の調製に使用される、スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、及びp−クロロスチレンが挙げられる。
【0073】
スチレン−(メタ)アクリル系樹脂の調製に使用される(メタ)アクリル系モノマーは、(メタ)アクリル系樹脂の調製に使用される(メタ)アクリル系モノマーと同様である。また、スチレン−(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸に由来する単位に含まれるカルボキシル基を酸性基として含むのが好ましい。
【0074】
スチレン−(メタ)アクリル系樹脂が、スチレン系モノマー、及び(メタ)アクリル系モノマー以外の他のモノマーを共重合した樹脂である場合、他のモノマーの例は、(メタ)アクリル系樹脂での、(メタ)アクリル系モノマー以外の他のモノマーと同様である。
【0075】
スチレン−(メタ)アクリル系樹脂に含まれる、スチレン系モノマーに由来する単位と(メタ)アクリル系モノマーとに由来する単位の含有量の合計は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されないが、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%以上が特に好ましい。
【0076】
また、スチレン−(メタ)アクリル系樹脂は、前述の電荷制御剤として使用可能な樹脂と同様に、4級アンモニウム塩のような帯電性の官能基が導入されたものであってもよい。
【0077】
内層を構成する樹脂の融点(Tm)は、80℃以上120℃以下が好ましく、85℃以上110℃以下がより好ましく、90℃以上100℃以下がより好ましい。内層を構成する樹脂の融点が高すぎると、トナーを低温で良好に定着させにくくなる場合がある。内層を構成する樹脂の融点が低すぎると、トナーの耐熱保存性が損なわれる場合がある。内層を構成する樹脂の融点は上記の結着樹脂の軟化点の測定方法と同様の方法によって測定することができる。
【0078】
内層を構成する樹脂のTgは、45℃以上60℃以下が好ましく、50℃以上55℃以下がより好ましい。内層を構成する樹脂のTgが低すぎると、高温多湿環境下でトナー粒子の凝集が生じる場合がある。また、内層を構成する樹脂のTgが高すぎると、トナーを低温で良好に定着させにくくなる場合がある。内層を構成する樹脂のガラス転移点は、上記の結着樹脂のガラス転移点の測定方法と同様の方法によって測定することができる。
【0079】
内層を構成する樹脂の数平均分子量(Mn)は、1,000以上4,000以下が好ましく、1,500以上3,000以下がより好ましい。また、内層を構成する樹脂の数平均分子量(Mw)は、1,500以上11,000以下が好ましく、3,500以上7,000以下がより好ましい。また、数平均分子量(Mn)と質量平均分子量(Mw)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、2以上10以下が好ましい。内層を構成する樹脂の数平均分子量(Mn)と質量平均分子量(Mw)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0080】
内層の材質のSP値であるSPは、SPと、SPと、SPとが、前述の所定の関係を満たす限り特に限定されないが、9.5以上11.5以下が好ましい。SPをこのような範囲内の値とすることで、ΔSPを、0.3以上1.4以下に調整しやすく、ΔSPを、0.5以上1.6以下に調整しやすい。また、SPをこのような値の範囲内とすることで、トナーコア粒子と、シェル層の内層とが良好に接着しやすく、シェル層の内層と外層とが良好に接着しやすいため、機械的強度に優れるトナーを得やすい。
【0081】
内層の質量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。具体的には、トナーコア粒子に含まれる結着樹脂100質量部に対して、10質量部以上35質量部以下が好ましい。
【0082】
〔外層〕
外層の材質は、SPと、SPと、SPとが、前述の所定の関係を満たす限り、特に制限されない。外層の材質は、SPを調整しやすいことから、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン−(メタ)アクリル系樹脂、及びポリエステル樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂が好ましい。そして、耐熱保存性に優れるトナーを得やすいことから、外層の材質は(メタ)アクリル系樹脂、及びスチレン−(メタ)アクリル系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂がより好ましい。外層を構成する樹脂として好適に用いられるポリエステル樹脂は、結着樹脂と同様の種類の樹脂を用いることができる。また、外層を構成する樹脂として好適に用いられる、(メタ)アクリル系樹脂、及びスチレン−(メタ)アクリル系樹脂は、内層を構成する樹脂と同様の樹脂を用いることができる。
【0083】
外層を構成する樹脂の融点は、95℃以上140℃以下が好ましく、100℃以上130℃以下がより好ましく、105℃以上125℃以下がより好ましい。外層を構成する樹脂の融点が高すぎると、トナーを低温で良好に定着させにくくなる場合がある。外層を構成する樹脂の融点が低すぎると、トナーの耐熱保存性が損なわれる場合がある。外層を構成する樹脂の融点は上記の結着樹脂の軟化点の測定方法と同様の方法によって測定することができる。
【0084】
外層を構成する樹脂のTgは、45℃以上80℃以下が好ましく、60℃以上70℃以下がより好ましく、63℃以上68.5℃以下が特に好ましい。外層を構成する樹脂のTgが低すぎると、高温多湿環境下でトナー粒子の凝集が生じる場合がある。外層を構成する樹脂のTgが高すぎると、トナーを低温で良好に定着させにくくなる場合がある。外層を構成する樹脂のガラス転移点は、上記の結着樹脂のガラス転移点の測定方法と同様の方法によって測定することができる。
【0085】
外層を構成する樹脂の数平均分子量(Mn)は、3,000以上1,000,000以下が好ましく、4,500以上500,000以下がより好ましい。また、数平均分子量(Mn)と質量平均分子量(Mw)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、2以上30以下が好ましく、3以上10以下がより好ましい。シェル層を構成する樹脂の数平均分子量(Mn)と質量平均分子量(Mw)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0086】
外層の材質のSP値であるSPは、SPと、SPと、SPとが、前述の所定の関係を満たす限り特に限定されないが、8.0以上10.0以下が好ましい。SPをこのような範囲内の値とすることで、ΔSPを、0.5以上1.6以下に調整しやすく、シェル層の内層と外層とが良好に接着しやすい。このため、SPをこのような範囲内の値とすることで、機械的強度に優れるトナーを得やすい。
【0087】
外層の質量はトナーコア粒子に含まれる結着樹脂100質量部に対して、15質量部以上50質量部以下が好ましい。
【0088】
[外添剤]
本発明のトナーは、所望によりその表面を、外添剤を用いて処理されていてもよい。本出願の明細書では、外添剤により処理される粒子を、「トナー母粒子」と称する。外添剤の種類は従来からトナー用に使用されている外添剤から適宜選択できる。好適な外添剤の具体例としては、シリカや、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムのような金属酸化物が挙げられる。これらの外添剤は、2種以上を組み合わせて使用できる。また、これらの外添剤は、アミノシランカップリング剤やシリコーンオイルのような疎水化剤を用いて疎水化して使用することもできる。疎水化された外添剤を用いる場合、高温高湿下でのトナーの帯電量の低下を抑制しやすく、また、流動性に優れるトナーを得やすい。
【0089】
外添剤の粒子径は0.01μm以上1.0μm以下が好ましい。
【0090】
外添剤の使用量は、典型的には、トナー母粒子100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下が好ましく、0.2質量部以上5質量部以下がより好ましい。
【0091】
[キャリア]
本発明のトナーは、所望のキャリアと混合して2成分現像剤として使用することもできる。2成分現像剤を調製する場合、磁性キャリアを用いるのが好ましい。
【0092】
本発明のトナーを2成分現像剤とする場合の好適なキャリアとしては、キャリア芯材が樹脂を用いて被覆されたものが挙げられる。キャリア芯材の具体例としては、鉄、酸化処理鉄、還元鉄、マグネタイト、銅、ケイ素鋼、フェライト、ニッケル、コバルトのような粒子や、これらの材料とマンガン、亜鉛、アルミニウムとの合金の粒子、鉄−ニッケル合金、鉄−コバルト合金のような粒子、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、チタン酸リチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、ニオブ酸リチウムのようなセラミックスの粒子、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、ロッシェル塩のような高誘電率物質の粒子、樹脂中に上記磁性粒子を分散させた樹脂キャリアが挙げられる。
【0093】
キャリア芯材を被覆する樹脂の具体例としては、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、スチレン−(メタ)アクリル系共重合体、オレフィン系重合体(ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン)、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、アミノ樹脂が挙げられる。これらの樹脂は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0094】
キャリアの粒子径は、電子顕微鏡を用いて測定される粒子径で、20μm以上120μm以下が好ましく、25μm以上80μm以下がより好ましい。
【0095】
本発明のトナーを2成分現像剤として用いる場合、2成分現像剤中のトナーの含有量は、2成分現像剤の質量に対して、3質量%以上20質量%以下が好ましく、5質量%以上15質量%以下がより好ましい。2成分現像剤におけるトナーの含有量をこのような範囲内の量とすることで、形成画像の画像濃度を適度な水準に維持しやすく、現像装置からのトナー飛散の抑制が原因で生じる画像形成装置内部の汚染や、転写紙へのトナーの付着を抑制できる。
【0096】
[静電荷像現像用トナーの製造方法]
本発明のトナーの製造方法としては、形状の均一なトナー粒子を得やすいこと、トナーコア粒子表面に均一な厚さのシェル層を形成しやすいこととから、凝集法が好ましい。以下、凝集法を用いる静電荷像現像用トナーの製造方法について説明する。
【0097】
凝集法の具体的な方法は特に限定されず、従来から、トナーの製造方法として採用されている種々の方法を適用することができる。凝集法を用いる静電荷像現像用トナーの好適な製造方法を、以下の工程(I)〜(VI)の各工程に分けて、順に説明する。
工程(I):結着樹脂を含む微粒子の水性媒体分散液(A)を得た後に、凝集剤の存在下で、微粒子を凝集させて、トナーコア粒子を含む水性媒体分散液(B)を得る工程、
工程(II):水性媒体分散液(B)と、シェル層の内層を構成する樹脂を含む微粒子の水性媒体分散液(C)とを混合して、前記トナーコア粒子と、シェル層の内層を構成する樹脂を含む微粒子とを含む水性媒体分散液(D)を得る工程、
工程(III):水性媒体分散液(D)を加熱して、シェル層の内層を構成する樹脂を含む微粒子からなる被覆層Iをその表面に備えるトナーコア粒子を含む水性媒体分散液(E)を得る工程、
工程(IV):水性媒体分散液(E)と、シェル層の外層を構成する樹脂を含む微粒子の水性媒体分散液(F)とを混合して、表面に被覆層Iを備えるトナーコア粒子と、シェル層の外層を構成する樹脂を含む微粒子とを含む水性媒体分散液(G)を得る工程、
工程(V):水性媒体分散液(G)を加熱して、被覆層Iと、シェル層の外層を構成する樹脂を含む微粒子からなり、被覆層Iの外表面を被覆する被覆層IIと、をその表面に備えるトナーコア粒子を含む水性媒体分散液(H)を得る工程、
工程(VI):水性媒体分散液(H)を加熱して、トナーコア粒子の表面に内層と外層とからなるシェル層を形成する工程、
を含む。
【0098】
本発明の静電潜像現像用トナーの製造方法は、上記工程(I)〜(VI)に加え、必要に応じ、以下の工程(VII)〜(IX)を含んでいてもよい。
(VII):トナーを洗浄する、洗浄工程。
(VIII):トナーを乾燥する、乾燥工程。
(IX):トナー母粒子の表面に外添剤を付着させる、外添工程。
【0099】
以下、工程(I)〜(IX)について順に説明する。
【0100】
〔工程(I)〕
工程(I)では、結着樹脂を含む微粒子の水性媒体分散液(A)を得た後に、凝集剤の存在下で、微粒子を凝集させて、トナーコア粒子を含む水性媒体分散液(B)を得る。以下、結着樹脂を含む微粒子の水性媒体分散液(A)の調製方法と、微粒子の凝集方法とについて説明する。
【0101】
<結着樹脂を含む微粒子の水性媒体分散液(A)の調製方法>
結着樹脂を含む微粒子の水性媒体分散液(A)の調製方法は特に限定されない。結着樹脂を含む微粒子は、結着樹脂の微粒子、又は、結着樹脂と、着色剤、離型剤、及び電荷制御剤のような任意成分とを含む結着樹脂組成物の微粒子の何れであってもよい。通常、結着樹脂を含む微粒子は、水性媒体中で、結着樹脂又は結着樹脂と着色剤、離型剤、及び電荷制御剤のような任意成分とを含む組成物を所望のサイズに微粒子化することで、微粒子の水性媒体分散液として調製される。
【0102】
また、結着樹脂を含む微粒子の水性媒体分散液(A)は、結着樹脂を含む微粒子以外の微粒子を含んでいてもよい。結着樹脂を含む微粒子以外の微粒子の例としては、離型剤の微粒子、着色剤の微粒子が挙げられる。以下、結着樹脂を含む微粒子の調製方法、離型剤の微粒子の調製方法、着色剤の微粒子の調製方法、及び結着樹脂と離型剤とを含む微粒子の調製方法について順に説明する。なお、ここで説明する微粒子とは異なる成分を含む微粒子については、これらの微粒子の製造方法から適宜選択される方法を用いて調製することができる。
【0103】
(結着樹脂を含む微粒子の調製方法)
以下、結着樹脂の微粒子を調製する方法の好適な例について説明する。
【0104】
まず、結着樹脂を、その融点以上の温度まで加熱して、結着樹脂の溶融液を得る。結着樹脂を溶融させる温度は、結着樹脂が均一に溶融する限り特に限定されないが、結着樹脂の融点+10℃以上融点+30℃以下の温度が好ましい。
【0105】
結着樹脂としてポリエステル樹脂を用いる場合、ポリエステル樹脂に含まれる酸基を中和するために、溶融状態の結着樹脂に塩基性物質を添加してもよい。塩基性物質は、ポリエステル樹脂に含まれる酸基を中和することができ、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。好適な塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムのようなアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムのようなアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸水素カリウムのようなアルカリ金属炭酸水素塩、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、イソプロピルアミン、モノメタノールアミン、モルホリン、メトキシプロピルアミン、ピリジン、ビニルピリジンのような含窒素有機塩基が挙げられる。これらの塩基性化合物は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
塩基性化合物の使用量はポリエステル樹脂の酸価を勘案して適宜定められる。典型的には、塩基性化合物の使用量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下が好ましく、5質量部以上15質量部以下がより好ましい。
【0107】
また、結着樹脂の溶融液には、界面活性剤を添加することができる。結着樹脂の溶融液に、界面活性剤を添加する場合、結着樹脂の微粒子を、水性媒体中で、安定して分散させることができる。
【0108】
結着樹脂の溶融液に添加できる界面活性剤は特に限定されず、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤からなる群より適宜選択できる。アニオン系界面活性剤の例としては、硫酸エステル塩型界面活性剤、スルホン酸塩型活性剤、リン酸エステル塩型界面活性剤、及び石鹸が挙げられる。カチオン系界面活性剤の例としては、アミン塩型活性剤、及び4級アンモニウム塩型活性剤が挙げられる。ノニオン系界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコール型活性剤、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物型活性剤、及びグリセリン、ソルビトール、ソルビタンのような多価アルコールの誘導体である多価アルコール型活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤の中では、アニオン系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤の少なくとも一方を用いるのが好ましい。これらの界面活性剤は、1種を用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0109】
界面活性剤の使用量は、結着樹脂の質量に対して、1質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0110】
このようにして調製される結着樹脂の溶融液に水を加えて、さらに撹拌・混合することで、結着樹脂の微粒子を含む水性媒体分散液を調製できる。結着樹脂の溶融液と水とを、撹拌する装置としては、結着樹脂を溶融状態に保持するため、内容物の温度を保持する機能を備える撹拌装置が好ましい。撹拌装置内の内容物の温度を保持する好適な方法としては、ジャケットを備える撹拌装置を用い、ジャケット内に、所定の温度の温水、水蒸気、又は熱媒体油を流通させる方法が挙げられる。好適な撹拌装置の具体例としては、加熱混錬装置(TK ハイビスディスパーミックス HM−3D−5(プライミクス株式会社製))が挙げられる。
【0111】
結着樹脂の溶融液と水とを撹拌して得られる、結着樹脂の微粒子を含む水性媒体分散液に含まれる、結着樹脂の微粒子の粒子径は、結着樹脂の溶融液と水とを混合する際の撹拌速度を調整することで調整できる。結着樹脂の微粒子の体積平均粒子径(D50)は1μm以下が好ましく、0.05μm以上0.5μm以下がより好ましい。結着樹脂の微粒子の粒子径がこのような範囲であると、粒子径分布がシャープであり、形状が均一なトナーを得やすいため、トナーの性能や生産性のばらつきが小さくなる。結着樹脂の微粒子の体積平均粒子径(D50)は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA−950(株式会社堀場製作所製))を用いて測定することができる。
【0112】
(離型剤を含む微粒子の調製)
以下、離型剤の微粒子を調製する方法の好適な例について説明する。離型剤の微粒子を調製する方法は、以下に説明する方法に限定されない。
【0113】
まず、離型剤を予め100μm以下程度に粉砕し、離型剤の粉体を得る。離型剤の粉体を、界面活性剤を含む水性媒体中に添加してスラリーを調製する。次いで、得られるスラリーを離型剤の融点以上の温度に加熱する。加熱されたスラリーに、ホモジナイザーや圧力吐出型分散機を用いて強い剪断力を付与し、離型剤微粒子を含む水性分散液を調製する。
【0114】
分散液に強い剪断力を与える装置としては、NANO3000(株式会社美粒製)、ナノマイザー(吉田機械興業株式会社製)、マイクロフルダイザー(MFI社製)、ゴーリンホモジナイザー(マントンゴーリン社製)、及びクレアミックスWモーション(エム・テクニック株式会社製)が挙げられる。
【0115】
離型剤の微粒子を含む水性媒体分散液に含まれる離型剤の微粒子の体積平均粒子径(D50)は1μm以下が好ましく、0.1μm以上0.7μm以下がより好ましい。このような範囲内の粒子径の離型剤の微粒子を用いると、結着樹脂中に離型剤が均一に分散したトナーを得やすい。離型剤の微粒子の体積平均粒子径(D50)は、結着樹脂の体積平均粒子径(D50)と同様の方法で測定できる。
【0116】
(着色剤を含む微粒子の調製)
以下、着色剤の微粒子を調製する方法の好適な例について説明する。着色剤の微粒子を調製する方法は、以下に説明する方法に限定されない。
【0117】
界面活性剤を含む水性媒体中で、着色剤と、必要に応じて着色剤の分散剤のような成分とを、公知の分散機を用いて分散処理して、着色剤を含む微粒子が得られる。界面活性剤の種類は特に限定されず、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤の何れも使用できる。界面活性剤の使用量は特に限定されないが、臨界ミセル濃度(CMC)以上であるのが好ましい。
【0118】
分散処理に使用する分散機は特に限定されず、超音波分散機、機械式ホモジナイザー、マントンゴーリン、及び圧力式ホモジナイザーのような加圧式分散機や、サンドグラインダー、横型及び縦型ビーズミル、ウルトラアペックスミル(寿工業株式会社製)、ダイノーミル(WAB社製)、MSCミル(日本コークス工業株式会社製)のような媒体型分散機を使用できる。
【0119】
着色剤の微粒子の体積平均粒子径(D50)は0.05μm以上0.2μm以下であることが好ましい。
【0120】
(結着樹脂と離型剤とを含む微粒子の調製方法)
以下、結着樹脂と離型剤とを含む微粒子を調製する方法の好適な例について説明する。
【0121】
結着樹脂と離型剤とを含む微粒子は、前述の結着樹脂の微粒子の好適な調製方法に対して、結着樹脂の溶融液に離型剤を含有させることの他は、前述の結着樹脂の微粒子の好適な調製方法と同様の方法を用いて調製することができる。
【0122】
結着樹脂の溶融液に離型剤を含有させる好適な方法としては、(a)固体状態の結着樹脂と離型剤とを混合した後に、得られる混合物を溶融させる方法、(b)離型剤を加熱して溶融させた後に、溶融した離型剤に結着樹脂を加えて、両者を加熱して溶融させる方法、及び(c)結着樹脂を加熱して溶融させた後に、溶融した結着樹脂に離型剤を加えて、両者を加熱して溶融させる方法が挙げられる。
【0123】
なお、結着樹脂と離型剤とを含む微粒子の調製方法について上記の通り説明したが、結着樹脂と着色剤と離型剤とを含む微粒子も、結着樹脂に配合する成分を変更することの他は、上記の方法と同様にして調製することができる。
【0124】
<微粒子の凝集方法>
上記方法を用いて調製された微粒子は、トナーに所定の成分が含まれるように、適宜組み合わせて、微粒子凝集体であるトナーコア粒子とされる。微粒子を凝集させる好適な方法としては、微粒子の水性媒体分散液に、凝集剤を添加する方法が挙げられる。
【0125】
凝集剤の例としては、無機金属塩、無機アンモニウム塩、2価以上の金属錯体が挙げられる。無機金属塩としては、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムのような金属塩;ポリ塩化アルミニウム、ポリ水酸化アルミニウムのような無機金属塩重合体が挙げられる。無機アンモニウム塩としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムが挙げられる。また、4級アンモニウム塩型のカチオン性界面活性剤、ポリエチレンイミンも凝集剤として使用できる。
【0126】
凝集剤としては、2価の金属の塩、及び1価の金属の塩が好ましく用いられる。2価の金属の塩と1価の金属の塩とは併用されるのが好ましい。2価の金属の塩と1価の金属の塩とでは、微粒子の凝集速度が異なるため、これらを併用すると、得られるトナーコア粒子の粒子径を制御しつつ、粒度分布をシャープなものとしやすい。
【0127】
凝集剤の添加量は、微粒子を含む水性媒体分散液の固形分に対して、0.1mmol/g以上10mmol/g以下が好ましい。また、凝集剤の添加量は、微粒子を含む水性媒体分散液中に含まれる界面活性剤の種類、及び量に応じて、適宜調整するのが好ましい。
【0128】
凝集剤の添加条件は、微粒子の凝集が良好に進行する限り特に限定されない。凝集剤の添加は、微粒子を含む水性媒体分散液のpHを調整した後で、結着樹脂のガラス転移点以下の温度で行うのが好ましい。トナーの結着樹脂として、ポリエステル樹脂を用いる場合、微粒子を含む水性媒体分散液のpHをアルカリ側、好ましくはpH10以上に調整した後に、凝集剤を添加するのが好ましい。このような方法を用いると、均一な凝集を行うことができ、トナーコア粒子の粒子径分布をシャープにすることが出来る。凝集剤は一時に添加してもよく、逐次的に添加することもできる。
【0129】
微粒子凝集体であるトナーコア粒子が所望の粒子径となるまで凝集が進行した後には、凝集停止剤を添加するのが好ましい。凝集停止剤の例としては、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウムが挙げられる。このようにしてトナーコア粒子を含む水性媒体分散液(B)を得ることが出来る。
【0130】
〔工程(II)〕
工程(II)では、工程(I)で得られた水性媒体分散液(B)と、シェル層の内層を構成する樹脂を含む微粒子を含む水性媒体分散液(C)とを混合して、トナーコア粒子と、シェル層の内層を構成する樹脂を含む微粒子とを含む水性媒体分散液(D)を得る。水性媒体分散液(B)と、水性媒体分散液(C)とを混合する方法は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。以下、シェル層の内層を構成する樹脂を含む微粒子の水性媒体分散液(C)の好適な調製方法について説明する。
【0131】
<シェル層の内層を構成する樹脂を含む微粒子の水性媒体分散液(C)の調製>
シェル層の内層を構成する樹脂を含む微粒子の水性媒体分散液(C)は、シェル層の内層を構成する樹脂の種類に応じた好適な方法で調製される。シェル層の内層を構成する樹脂として、ポリエステル樹脂が用いられる場合、シェル層の内層を構成する樹脂を含む微粒子は、上述の結着樹脂を含む微粒子の調製方法と同様の方法で調製されるのが好ましい。また、シェル層の内層を構成する樹脂として、(メタ)アクリル酸に由来する単位を含む(メタ)アクリル系樹脂、及びスチレン−(メタ)アクリル系樹脂のような、カルボキシル基含有ビニル系ポリマーも好適に使用される。なお、本出願の明細書では、エチレン、プロピレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、スチレンのようなビニル基を有する化合物の単独重合体又は共重合体をビニル系ポリマーと称する。以下、シェル層の内層を構成する樹脂としてカルボキシル基含有ビニル系ポリマーを用いる場合の水性媒体分散液(C)の調製方法について説明する。
【0132】
(カルボキシル基含有ビニル系ポリマーを含む微粒子の調製方法)
シェル層の内層を構成する樹脂として、(メタ)アクリル系樹脂、及びスチレン−(メタ)アクリル系樹脂のようなカルボキシル基含有ビニル系ポリマーが用いられる場合、シェル層の内層を構成する樹脂を含む微粒子の水性媒体分散液(C)は、撹拌装置、温度計及びヒーターを備える密閉可能な反応容器中で、水性媒体と、カルボキシル基含有ビニル系ポリマーの粉砕品と、中和剤と、有機溶剤とを、加熱下で撹拌・混合して得られる。
【0133】
カルボキシル基含有ビニル系ポリマーを2種類以上用いる場合には、上記粉砕品として、2種以上の異なる種類のカルボキシル基含有ビニル系ポリマーの粉砕品を混合したものを用いてもよいし、2種以上の異なる種類のカルボキシル基含有ビニル系ポリマーの溶融混錬物を粉砕して得られる粉砕品を用いてもよい。
【0134】
シェル層の内層を構成する樹脂として、カルボキシル基含有ビニル系ポリマーが用いられる場合に使用される中和剤の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属化合物や、アンモニアや、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリンのような有機アミン化合物が挙げられる。これらの中でも、ジエチルアミン、トリエチルアミンを中和剤として用いるのが好ましい。また、中和剤は1種を用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0135】
水性媒体分散液(C)の調製に用いる中和剤の沸点は、0℃以上250℃以下が好ましい。沸点が低すぎると、水性媒体分散液(C)から中和剤が揮発しやすくなり、カルボキシル基含有ビニル系ポリマーを含む微粒子の水性媒体中での分散性が損なわれる場合がある。一方、中和剤の沸点が高過ぎると、中和剤がトナーに残存しやすくなり、トナーの耐熱保存性が損なわれる場合がある。
【0136】
水性媒体分散液(C)の調製に用いる中和剤の使用量は、カルボキシル基含有ビニル系ポリマーに含まれるカルボキシル基のモル数に対して0.5モル当量以上15モル当量以下が好ましく、0.8モル当量以上3.0モル当量以下がより好ましく、1.0モル当量以上2.5モル当量以下が特に好ましい。
【0137】
中和剤として有機アミン化合物及び/又はアンモニアを用いる場合、カルボキシル基含有ビニル系ポリマーを含む微粒子の水性媒体分散液(C)に脱溶剤処理を施すことで、水性媒体分散液(C)中の有機アミン化合物及び/又はアンモニアの少なくとも一部を留去させることができる。この場合についても、水性媒体分散液(C)に残存させる有機アミン化合物及び/又はアンモニアの量は、カルボキシル基含有ビニル系ポリマーに含まれるカルボキシル基のモル数に対して0.5モル当量以上が好ましい。このようにして調製される水性媒体分散液(C)を用いると、耐熱保存性が良好なトナーを得やすい。トナー中の有機アミン化合物及び/又はアンモニアの含有量は、ガスクロマトグラフィーで定量することができる。
【0138】
カルボキシル基含有ビニル系ポリマーを含む微粒子の水性媒体分散液(C)の調製に用いる有機溶剤は、カルボキシル基含有ビニル系ポリマーを含む微粒子の分散性向上を目的として用いられる。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノールのようなアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンのようなケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル類;酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチルのようなエステル類;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートのようなグリコール類又はグリコール誘導体;3−メトキシ−3−メチルブタノール;3−メトキシブタノール;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド;ジメチルアセトアミド;ジアセトンアルコール;アセト酢酸エチルが挙げられる。これらの中でも、水性媒体分散液(C)からの除去が容易な点で、メタノール、エタノール、n−プロパノール、及びイソプロパノールから選択される1種以上を有機溶剤として用いるのが好ましい。有機溶剤は、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0139】
水性媒体分散液(C)の調製に用いる有機溶剤の20℃での水1リットルに対する溶解性は、50g/リットル以上が好ましく、100g/リットル以上がより好ましい。有機溶剤の沸点は、30℃以上250℃以下が好ましく、50℃以上200℃以下がより好ましい。
【0140】
このような物性を有する有機溶剤を用いることで、カルボキシル基含有ビニル系ポリマーを含む微粒子を水性媒体中に良好に分散させることができる。
【0141】
水性媒体分散液(C)の調製に用いる有機溶剤の分子量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されないが、分子量90以下が好ましい。分子量が大きすぎると、カルボキシル基含有ビニル系ポリマーを含む微粒子の水性媒体中での分散性が損なわれる場合がある。
【0142】
水性媒体分散液(C)の調製に用いる有機溶剤の使用量はカルボキシル基含有ビニル系ポリマーの質量に対して、5質量%以上50質量%以下が好ましい。
【0143】
シェル層の内層を構成する樹脂を含む微粒子の体積平均粒子径は、0.03μm以上0.50μm以下が好ましく、0.05μm以上0.30μm以下がより好ましい。シェル層の内層を構成する樹脂を含む微粒子が、このような範囲内の体積平均粒子径である場合、シェル層の内層を構成する樹脂の微粒子からなる被覆層Iをトナーコア粒子の表面に均一に形成させやすい。シェル層の内層を構成する樹脂を含む微粒子の体積平均粒子径は、例えば、電気泳動光散乱光度計(LA−950V2(株式会社堀場製作所製))を用いて、測定することができる。
【0144】
なお、水性媒体分散液(B)と、水性媒体分散液(C)とを混合する前に、分散液中の微粒子の分散状態を安定させるため、予め水性媒体分散液(C)に塩基性物質を加えて、水性媒体分散液(C)のpHを8程度に調整するのが好ましい。
【0145】
〔工程(III)〕
工程(III)では、工程(II)で得られる水性媒体分散液(D)を加熱して、シェル層の内層を構成する樹脂を含む微粒子からなる被覆層Iをその表面に備えるトナーコア粒子を含む水性媒体分散液(E)を得る。水性媒体分散液(D)を加熱する温度は、50℃以上65℃以下が好ましい。このような範囲内の温度で水性媒体分散液(D)を加熱することで、シェル層の内層を構成する樹脂を含む微粒子からなる被覆層Iをトナーコア粒子の表面に均一に形成させることができる。
【0146】
〔工程(IV)〕
工程(IV)では、工程(III)で得られる水性媒体分散液(E)と、シェル層の外層を構成する樹脂を含む微粒子の水性媒体分散液(F)とを混合して、表面に被覆層Iを備えるトナーコア粒子と、シェル層の外層を構成する樹脂を含む微粒子とを含む水性媒体分散液(G)を得る。水性媒体分散液(E)と、水性媒体分散液(F)とを混合する方法は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。また、シェル層の外層を構成する樹脂を含む微粒子の水性媒体分散液(F)の調製方法としては、上述のシェル層の内層を構成する樹脂を含む微粒子の水性媒体分散液(C)の好適な調製方法と同様の方法が挙げられる。
【0147】
シェル層の外層を構成する樹脂を含む微粒子の体積平均粒子径は、0.03μm以上0.50μm以下が好ましく、0.05μm以上0.30μm以下がより好ましい。シェル層の外層を構成する樹脂を含む微粒子がこのような範囲内の体積平均粒子径である場合、シェル層の外層を構成する樹脂の微粒子からなる被覆層IIを被覆層Iの外表面に均一に形成しやすい。シェル層の外層を構成する樹脂を含む微粒子の体積平均粒子径は、例えば、電気泳動光散乱光度計(LA−950V2(株式会社堀場製作所製))を用いて、測定することができる。
【0148】
なお、水性媒体分散液(E)と、水性媒体分散液(F)とを混合する前に、分散液中の微粒子の分散状態を安定させるため、予め水性媒体分散液(F)に塩基性物質を加えて、水性媒体分散液(F)のpHを8程度に調整するのが好ましい。
【0149】
〔工程(V)〕
工程(V)では、工程(IV)で得られる水性媒体分散液(G)を加熱して、被覆層Iと、シェル層の外層を構成する樹脂を含む微粒子からなり、被覆層Iの外表面を被覆する被覆層IIと、を備えるトナーコア粒子を含む水性媒体分散液(H)を得る。水性媒体分散液(G)を加熱する温度は、50℃以上85℃以下が好ましい。このような範囲内の温度で水性媒体分散液(G)を加熱することで、シェル層の外層を構成する樹脂の微粒子からなる被覆層IIを被覆層Iの外表面に均一に形成させることができる。
【0150】
〔工程(VI)〕
工程(VI)では、工程(V)で得られる水性媒体分散液(H)を加熱して、トナーコア粒子の表面に内層と外層とを備えるシェル層を形成し、トナー粒子又はトナー母粒子の水性媒体分散液を得る。水性媒体分散液(H)を加熱する前に、被覆層IIの形成が所望の程度進行した後、上述の凝集停止剤を水性媒体分散液(H)に添加するのが好ましい。凝集停止剤の例としては、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウムが挙げられる。
【0151】
水性媒体分散液(H)を加熱する温度は、シェル層の外層を構成する樹脂のガラス転移点(Tg)以上90℃以下が好ましい。水性媒体分散液(G)をこのような範囲内の温度で加熱することで、被覆層I、及び被覆層IIの膜化を良好に進行させ、トナーコア粒子をシェル層で良好に被覆することができる。
【0152】
〔工程(VII)〕
工程(VI)で得られるトナー粒子又はトナー母粒子は、必要に応じて、(VII)洗浄工程において、水を用いて洗浄される。洗浄方法は特に限定されず、トナー粒子又はトナー母粒子を含む水性媒体分散液から、固液分離してトナー粒子又はトナー母粒子をウエットケーキとして回収し、得られたウエットケーキを、水を用いて洗浄する方法や、トナー粒子又はトナー母粒子を含む水性媒体分散液中の粒子を沈降させ、上澄み液を水と置換し、置換後にトナー粒子又はトナー母粒子を水に再分散させる方法が挙げられる。
【0153】
〔工程(VIII)〕
工程(VI)で得られるトナー粒子又はトナー母粒子は、必要に応じて、(VIII)乾燥工程を経て乾燥される。トナー粒子又はトナー母粒子を乾燥する方法は特に限定されない。好適な乾燥方法としては、スプレードライヤー、流動層乾燥機、真空凍結乾燥器、減圧乾燥機のような乾燥機を用いる方法が挙げられる。これらの方法の中では、乾燥中のトナー粒子の凝集を抑制しやすいことからスプレードライヤーを用いる方法がより好ましい。工程(VI)で回収される粒子をトナー母粒子とする場合、スプレードライヤーを用いて、トナー母粒子を含む水性媒体分散液と共に、シリカのような外添剤の分散液をトナー母粒子に対して噴霧することで、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させることができる。
【0154】
〔工程(IX)〕
本発明の方法を用いて製造される静電潜像現像用トナーは、必要に応じてその表面に外添剤が付着したものであってもよい。工程(IX)では、上記方法工程を経て回収される粒子を、トナー母粒子として用い、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させる。外添剤をトナー母粒子の表面に付着させる方法は特に限定されない。好適な方法としては、ヘンシェルミキサーやナウターミキサーのような混合機を用いて、外添剤がトナー母粒子の表面に埋没しないように条件を調整して混合する方法が挙げられる。
【0155】
以上説明した本発明の静電荷像現像用トナーは、幅広い温度範囲で被記録媒体に良好に定着され、耐熱保存性、及び機械的強度に優れる。このため、本発明の静電荷像現像用トナーは、種々の画像形成装置において、好適に使用される。
【実施例】
【0156】
以下、実施例で本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例に基づいて何ら限定されるものではない。
【0157】
[調製例1]
(ポリエステル樹脂微粒子分散液の調製)
以下の方法に従って、ポリエステル樹脂微粒子分散液を調製した。
ポリエステル樹脂微粒子分散液の調製に用いるポリエステル樹脂として、下記単量体a〜bの配合比を適宜変更して調製された、表1に記載の物性値を有するポリエステル樹脂を用いた。
単量体a:ポリオキシプロピレン(2,2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン
単量体b:ポリオキシエチレン(2,0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン
単量体c:フマル酸
単量体d:トリメリット酸
【0158】
【表1】
【0159】
ポリエステル樹脂を、粉砕装置を用いて粉砕して、平均粒子径30μm程度のポリエステル樹脂粉を得た。次いで、得られたポリエステル樹脂粉200gと、1N−水酸化ナトリウム水溶液(濃度4%)30gと、イオン交換水770gとを混合装置を用いて混合してポリエステル樹脂粉を含む水性懸濁液を得た。
【0160】
得られたポリエステル樹脂粉を含む水性懸濁液を、コンデンサーと撹拌装置(RW20digital(IKA社製))とを備えた2L丸底ステンレス容器に投入した。次いで、ステンレス容器に、アニオン系界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム、エマール 0(花王株式会社製))を樹脂の質量に対して1質量%添加した。その後、水性懸濁液の温度を95℃に上げた。同温度で、回転数200rpmで、水性懸濁液を30分間撹拌した。その後、常温まで急冷された水性懸濁液を、#300メッシュのフィルターを用いてろ過して、低オリゴマーポリエステル樹脂のウエットケーキを得た。低オリゴマーポリエステル樹脂のウエットケーキを、水洗し、乾燥することで、低オリゴマーポリエステル樹脂を得た。
【0161】
得られた低オリゴマーポリエステル樹脂粉を、温度調整用のジャケットを備える加熱混錬装置(TK ハイビスディスパーミックス HM−3D−5(プライミクス株式会社製))に投入した。公転20rpm、自転48rpmで、低オリゴマーポリエステル樹脂粉を撹拌しながら120℃まで加熱して、低オリゴマーポリエステル樹脂粉を溶融させた。その後、溶融液にトリエタノールアミン(塩基性化合物)80gと、ラウリル硫酸ナトリウム(界面活性剤、エマール 0(花王株式会社製))の濃度25質量%の水溶液80gとを添加した。次いで、公転40rpm、自転97rpmで、溶融液を15分撹拌した。その後、98℃のイオン交換水2870gを50g/分の速度で、溶融液に加え、樹脂の乳化液を得た。5℃/分の速度で50℃まで乳化液を冷却して、固形分濃度25質量%のポリエステル樹脂微粒子分散液を得た。分散液中のポリエステル樹脂微粒子の平均粒子径は約115nmであった。ポリエステル樹脂微粒子の粒子径は、粒子径測定装置(LA−950(株式会社堀場製作所製))を用いて測定した。
【0162】
[調製例2]
(アクリル系樹脂微粒子分散液の調製)
以下の方法に従い、重合開始剤の使用量、単量体の配合比、及び連鎖移動剤の使用量を適宜変更して、表2記載の物性値を有するアクリル系樹脂微粒子分散液A〜Iを調製した。
撹拌装置、冷却管、窒素導入管、温度センサーを備えた1000ml四つ口フラスコに、イオン交換水550ml、界面活性剤として表2に記載の量のドデシル硫酸ナトリウム0.35gを仕込み、窒素気流下で撹拌しながら80℃に昇温した後、重合開始剤として過硫酸カリウム水溶液(2.5質量%濃度)を添加した。滴下ロートにて、スチレン、アクリル酸n−ブチル、及びメタクリル酸と、連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタンと、を含むモノマー混合液を1.5時間かけて滴下した。滴下後、同温度にて反応液を2時間撹拌して重合反応を完結させた。重合反応終了後、内容物を室温まで冷却した後、固形分濃度が25質量%となるように反応液にイオン交換水を加えて、表2に記載の物性値を有するアクリル系樹脂微粒子分散液を得た。分散液中のアクリル樹脂微粒子の平均粒子径は約90nmであった。アクリル系樹脂微粒子の平均粒子径は、ポリエステル樹脂微粒子の粒子径と同様の方法を用いて測定した。
【0163】
【表2】
【0164】
[調製例3]
(離型剤微粒子分散液の調製方法)
離型剤(エステルワックス、WEP−3(日油株式会社製))200gと、アニオン系界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム、エマール 0(花王株式会社製))20gと、イオン交換水780gとを混合し、90℃に加熱した後、ホモジナイザー(ウルトラタラックスT50(IKA社製))を用いて、5分間、撹拌速度2,000rpmで乳化を行った。さらに、高圧式ホモジナイザー(NV−200(吉田機械興業株式会社製)、加熱システムを追加)を用いて、100℃、吐出圧力100MPaの処理条件で乳化処理を行い、固形分濃度10質量%の離型剤微粒子分散液を得た。離型剤微粒子分散液に含まれる離型剤の微粒子の平均粒子径は120nmであった。離型剤微粒子の粒子径は、ポリエステル樹脂微粒子の粒子径と同様の方法を用いて測定した。
【0165】
[調製例4]
(顔料微粒子分散液の調製方法)
顔料(シアン顔料、C.I.ピグメントブルー15:3(銅フタロシアニン))100gと、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(エマール E27C(花王株式会社製))20gと、イオン交換水380gとを混合し、撹拌容器内にビーズ(ジルコニア製、φ0.1)を400ml投入したウルトラアペックスミル(寿工業株式会社製)を用いて、ローター周速10m/秒、所持時間2時間の処理条件で分散処理を行い、顔料の濃度が20質量%であり、総固形分濃度が21質量%の顔料微粒子分散液を得た。顔料微粒子分散液に含まれる顔料微粒子の平均粒子径は113nmであった。顔料微粒子の粒子径は、ポリエステル樹脂微粒子の粒子径と同様の方法を用いて測定した。
【0166】
[実施例1〜4、及び比較例1〜8]
〔トナー母粒子調製工程〕
ステンレス製の容量2Lの丸底フラスコに、結着樹脂として表3〜5に記載の種類のポリエステル樹脂微粒子分散液340gと、離型剤微粒子分散液100gと、顔料分散液25gと、イオン交換水500gとを投入し、これらを25℃で混合した。次いで、フラスコ内の混合物を、撹拌羽根を用いて、回転数200rpmで10分撹拌した。フラスコ内の混合物のpHを、水酸化ナトリウム水溶液を用いて10に調整した後、混合物を10分撹拌した。その後、濃度50質量%の塩化マグネシウム六水和物水溶液(凝集剤)10gを5分かけてフラスコ内に滴下した。次いで、フラスコ内の混合物を、0.2℃/分の速度で昇温させて、微粒子の凝集を開始させた、50℃で昇温を停止した後、フラスコ内の混合物を、300rpmで撹拌しながら、30分間、50℃に保持し、微粒子の凝集を進行させた。その後、フラスコ内の混合物に濃度20質量%の塩化ナトリウム水溶液を50g添加して、微粒子の凝集の進行を停止させ、微粒子凝集体を含む微粒子凝集体分散液を得た。
【0167】
フラスコ内の微粒子凝集体分散液に、濃度5質量%のラウリル硫酸ナトリウム(エマール 0(花王株式会社製))水溶液100gを添加した。次いで、微粒子凝集体を含む分散液を300rpmの撹拌速度で撹拌しながら、0.2℃/分の速度で65℃まで昇温させた。65℃まで昇温した後、同温度、1時間、300rpmの条件で撹拌して、微粒子凝集体に含まれるトナー成分を合一化させると共に、微粒子凝集体の形状を球状に制御した。その後、微粒子凝集体を含む分散液を、10℃/分の速度で、25℃まで冷却し、形状制御された微粒子凝集体をトナーコア粒子として含む、トナーコア粒子分散液を得た。
【0168】
次いで、表3〜5に記載の種類の、シェル層の内層の材料として用いるポリエステル樹脂微粒子分散液100gを、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8に調整した後、フラスコ内のトナーコア粒子分散液に添加した。次いで、フラスコの内容物を、300rpmの撹拌速度で撹拌しながら、0.2℃/分の速度で55℃まで昇温させた。55℃まで昇温した後、同温度で、1時間、300rpmの条件で撹拌することで、表面がポリエステル樹脂微粒子で被覆されたトナーコア粒子の分散液を得た。
【0169】
次いで、表3〜5に記載の種類の、シェル層の外層の材料として用いるアクリル系樹脂微粒子分散液202gを、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8に調整した後、フラスコ内の分散液に添加した。フラスコの内容物を、300rpmの撹拌速度で撹拌しながら、0.2℃/分の速度で60℃まで昇温させた。60℃まで昇温した後、同温度で、2時間、300rpmの条件で撹拌することで、ポリエステル樹脂微粒からなる被覆層の表面がアクリル系樹脂微粒子で被覆されたトナーコア粒子を得た。
【0170】
次いで、フラスコの内容物に、塩化ナトリウム71.5gをイオン交換水288gに溶解させた塩化ナトリウム水溶液を添加した後、フラスコの内容物を、360rpmの撹拌速度で撹拌しながら、0.5℃/分の速度で95℃まで昇温させた。95℃まで昇温した後、同温度で、2時間、360rpmの条件で撹拌した。その後、フラスコの内容物を、1℃/分の速度で、25℃まで冷却し、フラスコの内容物を、塩酸を用いてpHを2に調整した後、トナーコア粒子の表面にシェル層が形成されたトナー母粒子を含む、トナー母粒子分散液を得た。
【0171】
このようにして得られたトナー母粒子の体積平均粒子径と球形化度とを、粒度分布測定装置(マイクロトラック UPA150(日機装株式会社製))を用いて測定した。実施例1〜4、及び比較例1〜8で得られたトナー母粒子の体積平均粒径は5.5μmであり、球形化度は約0.98であった。
【0172】
〔洗浄工程〕
ブフナーロートを用いて、トナー母粒子分散液からトナー母粒子のウエットケーキをろ取した。トナー母粒子のウエットケーキを再度イオン交換水に分散させてトナーを洗浄した。トナー母粒子のイオン交換水を用いる同様の洗浄を6回繰り返した。
【0173】
〔乾燥工程〕
トナー母粒子のウエットケーキを、濃度50質量%のエタノール水溶液に分散させてスラリーを調製した。得られたスラリーを連続式表面改質装置(コートマイザー(フロイント産業株式会社製))に供給して、スラリー中のトナー母粒子を乾燥させて、トナー母粒子を得た。コートマイザーを用いる乾燥の条件は、熱風温度45℃、ブロアー風量2m/分であった。
【0174】
〔外添工程〕
各実施例及び比較例で得られたトナー母粒子について外添処理を行った。
具体的には、トナー母粒子100質量部と、正帯電性シリカ(シリカ90G(日本アエロジル株式会社製):シリカの表面をシリコーンオイル、及びアミノシランで処理したもの)0.4質量部とを、5Lヘンシェルミキサー(三井三池工業株式会社製)を用いて、5分間、撹拌速度30m/秒の条件で混合して外添剤を付着させた。その後、300メッシュ(目開き48μm)の篩を用いてトナーを篩別した。
【0175】
≪評価≫
実施例1〜4、及び比較例1〜8のトナーについて、以下の方法に従って、定着性、耐熱性、及び強度を評価した。実施例1〜4、及び比較例1〜8のトナーの、定着性、耐熱性、及び強度の評価結果を表3〜5に記す。
【0176】
定着性の評価に用いる2成分現像剤を以下の方法に従って調製した。
〔2成分現像剤の調製〕
(キャリアの調製)
MnO換算で39.7mol%、MgO換算で9.9mol%、Fe換算で49.6mol%、SrO換算で0.8mol%になるように各原材料を配合し、水を加え、湿式ボールミルで10時間かけて粉砕・混合した。得られた混合物を乾燥した後、950℃で4時間保持した。次いで、混合物を湿式ボールミルで24時間かけて粉砕してスラリーを調製した。スラリーを造粒乾燥した後、造粒物を、酸素濃度2%の雰囲気中、1270℃で6時間保持した後、解砕、粒度調整を行い、マンガン系フェライト粒子(キャリア芯材)を得た。得られたマンガン系フェライト粒子は、平均粒子径が35μmであり、印加磁場が3000(10/4π・A/m)の時の飽和磁化が70Am/kgであった。
【0177】
次に、ポリアミドイミド樹脂(無水トリメリット酸と4,4’−ジアミノジフェニルメタンとの共重合体)をメチルエチルケトンで希釈して樹脂溶液を調製した。次いで4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体(FEP)と、酸化ケイ素(樹脂全体量の2質量%)とを樹脂溶液に分散させて、固形分換算で150gとなる量のキャリアコート液を得た。ポリアミドイミド樹脂とFEPとの質量比はポリアミドイミド樹脂/FEPとして、2/8であり、樹脂溶液の固形分比率は10質量%であった。
【0178】
得られたキャリアコート液を用い、流動層被覆装置(スピラコータSP−25(岡田精工株式会社製))を用いて、マンガン系フェライト粒子10kgを被覆した。その後、樹脂で被覆されたマンガン系フェライト粒子を220℃で1時間焼成して、樹脂被覆量3質量%の樹脂被覆フェライトキャリアを得た。
【0179】
(トナーとキャリアとの混合)
2成分現像剤の質量に対するトナーの質量が8.0質量%となるように、各実施例、及び比較例で得られたトナーとキャリアとを、ナウターミキサーを用いて、常温常湿条件下において、回転数78rpmで30分間混合して、2成分現像剤を得た。
【0180】
<定着性評価>
得られた2成分現像剤とトナーを用いて、膜厚が30μm±10μm、面粗度(Ra)が5μmのPFA樹脂でコートされたアルミニウム製の定着ローラーを有し、定着温度を調節可能に改造した複写機(TASKalfa 5550ci(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製))を用いて、線速266mm/秒、トナー載り量1.5mgに設定して、被記録媒体に未定着のベタ画像を形成した。定着温度を80℃以上200℃以下の範囲で、複合機の定着装置の定着温度を100℃から10℃ずつ上昇させて、未定着のベタ画像を定着させた。得られた定着画像を用いて、下記測定方法に基づいて定着下限温度と定着上限温度とを測定した。定着性は、下記の基準に従って評価した。
○(合格):定着下限温度が100℃超、且つ定着上限温度が200℃以上。
×(不合格):定着下限温度が100℃超、又は定着上限温度が200℃未満。
【0181】
(定着下限温度及び定着上限温度の測定方法)
10℃ずつ定着温度を変えて形成したベタ画像について、堅牢度試験前後の定着ベタ画像の画像濃度を測定し、下式に従って、堅牢度試験前後の画像濃度から濃度比率を算出した。濃度比率が80%以上であるベタ画像を定着させることができた温度を定着可能温度とした。定着可能温度の下限値を定着下限温度とした。また、定着可能温度の上限値を定着上限温度とした。なお、堅牢度試験は、学振型摩擦堅牢度試験機(JIS L 0849II型(株式会社安田精機製作所製))を用い、荷重200g、擦り操作を20ストロークの条件で行った。また画像濃度は、反射濃度計(RD−918(グレタグマクベス社製))を用いて測定した。
濃度比率(%)=(摩擦後画像濃度/摩擦前画像濃度)×100
【0182】
<耐熱保存性の評価方法>
トナー3gを、容量20mlのポリ容器に秤量し、5分間ポリ容器をタッピング処理した後、55℃に設定された恒温器内に8時間静置し、耐熱保存性評価用のトナーを得た。その後、300メッシュ(目開き48μm)の篩に耐熱保存性評価用のトナーを載せて、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)のマニュアルに従い、レオスタッド目盛り5、時間30秒の条件で、篩別を行った。篩別後、篩に残ったトナーの質量を測定し、下式を用いて凝集度[%]を求めた。
(凝集度算出式)
凝集度[%]=(篩上に残留したトナー質量/篩別前のトナーの質量)×100
また、恒温器内の温度条件を60℃に変える他は、温度条件が55℃の場合と同様にして耐熱保存性評価用のトナーを得た後、凝集度[%]を求めた。
耐熱保存性は、下記の基準に従って評価し、○、及び△の評価を合格、×の評価を不合格とした。
○:トナーの凝集度が20%未満。
△:トナーの凝集度が20%以上、50%未満。
×:トナーの凝集度が50%以上。
【0183】
<強度の評価方法>
トナー0.1gと、平均粒子径1mmのジルコニア製ビーズ20gと、イオン交換水40mlと、を容量50ccのガラス瓶に入れた。撹拌混合機(TURBULA T2F型(Willy A. Bachofen AG社製))を用いて、ガラス瓶の内容物を、90rpmの撹拌条件で5分間撹拌混合して、トナーの強度試験を行った。トナーの強度試験後、混合物からジルコニア製ビーズを分離して、トナー粒子を含む水性媒体分散液を得た。得られた水性媒体分散液について、FPIA−3000(シスメック株式会社製)を用いて、水性媒体中に含まれるトナー粒子の粒子径と、輝度値とを測定した。測定結果から、FPIA−3000(シスメック株式会社製)を用いる測定用の試料中の、粒子径が3μm以上のトナー粒子の数(X)と、粒子径が3μm以上であって輝度値が100以上であるトナー粒子の数(Y)とを得た。Yの値は、強度試験により潰れたトナーの粒子数に相当する。下式を用いて潰れ率[%]を求めた。
潰れ率[%]=(Y/X)×100
強度は、下記の基準に従って評価した。
○:潰れ率が1.0%未満。
×:潰れ率が1.0%以上。
【0184】
【表3】
【0185】
【表4】
【0186】
【表5】
【0187】
実施例1〜4によれば、ΔSPが0.3以上1.4以下であり、ΔSPが0.5以上1.6以下であり、ΔSPがΔSP未満である、トナーであれば、幅広い温度範囲で被記録媒体に良好に定着され、耐熱保存性、及び機械的強度に優れることが分かる。
【0188】
比較例1及び7によれば、ΔSPがΔSPより大きい場合、得られるトナーは、低温域で被記録媒体に良好に定着されにくいことが分かる。
【0189】
比較例5によれば、ΔSPと、ΔSPとが等しい場合、得られるトナーは、幅広い温度範囲での被記録媒体への定着が困難であり、機械的強度に劣ることが分かる。
【0190】
比較例2によれば、ΔSPが過小である場合、得られるトナーは、高温域で被記録媒体に良好に定着されにくく、耐熱保存性、及び機械的強度に劣ることが分かる。
【0191】
比較例3及び6によれば、ΔSPが大き過ぎる場合、得られるトナーは、幅広い温度範囲での被記録媒体への定着が困難であり、耐熱保存性、及び機械的強度に劣ることが分かる。
【0192】
比較例4、及び7によれば、ΔSPが小さ過ぎる場合、得られるトナーは、低温域で被記録媒体に良好に定着されにくいことが分かる。
【0193】
比較例8によれば、ΔSPが大き過ぎる場合、得られるトナーは、低温域で被記録媒体に対して良好に定着されにくく、機械的強度が劣ることが分かる。