特許第5777624号(P5777624)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5777624
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】屈折率測定装置及び屈折率測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/41 20060101AFI20150820BHJP
【FI】
   G01N21/41 Z
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-529578(P2012-529578)
(86)(22)【出願日】2011年8月4日
(86)【国際出願番号】JP2011068336
(87)【国際公開番号】WO2012023481
(87)【国際公開日】20120223
【審査請求日】2014年4月28日
(31)【優先権主張番号】特願2010-183973(P2010-183973)
(32)【優先日】2010年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 友香
(72)【発明者】
【氏名】橋本 信幸
【審査官】 横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−072126(JP,A)
【文献】 特開2005−098743(JP,A)
【文献】 特開2006−349385(JP,A)
【文献】 特開2007−292509(JP,A)
【文献】 特開2007−198818(JP,A)
【文献】 特開2007−273012(JP,A)
【文献】 特開2007−273013(JP,A)
【文献】 特開2006−058196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/61
G01B 11/00−11/30
G02B 27/00−27/64
G02F 1/21− 1/25
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
屈折率の測定対象となる試料を含み、かつ前記光源から入射した光を回折させる測定セルと、
前記測定セルから出射した回折光の0次以外の回折次数を含む少なくとも一つの回折次数の光量を検出する検出器と、
前記少なくとも一つの回折次数のうちの0次以外の回折次数における回折効率と前記試料の屈折率との関係式を用いて、前記検出器により検出された前記少なくとも一つの回折次数のうちの0次以外の回折次数における回折光の光量の測定値に対応する前記試料の屈折率を求める制御部とを有し、
前記測定セルは、
互いに対向するように配置された透明な第1の基板及び第2の基板と、
前記第1の基板と前記第2の基板の間に配置され、既知の屈折率を持つ透明材料により形成され、前記光源からの光を前記試料の屈折率と前記透明材料の屈折率との差に応じて回折する回折格子とを有し、
前記回折格子は、前記第2の基板と対向する前記第1の基板の第1の面に対して平行な第1の方向における幅が、前記第1の基板から前記第2の基板に近づくにつれてステップ状に小さくなる、前記透明材料で形成された複数の部材を有し、該複数の部材が前記第1の方向に沿って所定のピッチで周期的に配置されたバイナリ格子であり、
前記試料は前記第1の基板と前記第2の基板の間の空間のうち、前記回折格子が形成されていない空間に充填される、
屈折率測定装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記少なくとも一つの回折次数のうちの0次以外の回折次数における前記回折光の光量の測定値に基づいて当該回折次数における回折効率の第1の計算値を求め、前記試料の屈折率として想定される複数の屈折率のうち、前記少なくとも一つの回折次数のうちの0次以外の回折次数における、前記回折効率の第1の計算値と、前記想定される屈折率を前記関係式に入力することにより求められる回折効率の第2の計算値間の誤差の統計量が最小となる屈折率を前記試料の屈折率とする、請求項1に記載の屈折率測定装置。
【請求項3】
前記検出器が光量を検出する前記少なくとも一つの回折次数は、0次以外の複数の回折次数を含み
前記制御部は、前記複数の回折次数のうちで前記回折効率の第1の計算値が高い方から順に少なくとも二つの回折次数を選択し、当該選択された回折効率の第1の計算値と、前記想定される屈折率を前記関係式に入力することにより求められる回折効率の第2の計算値間の誤差の統計量が最小となる屈折率を前記試料の屈折率とする、請求項2に記載の屈折率測定装置。
【請求項4】
前記測定セルは、前記第1の面に設けられた第1の透明電極と、前記第1の基板と対向する前記第2の基板の第2の面に設けられた第2の透明電極とをさらに有し、かつ前記試料は該第1の透明電極と該第2の透明電極間に配置され、
前記第1の透明電極と前記第2の透明電極との間に配置された前記試料に所定の電圧を印加する電源回路をさらに有する、請求項1〜3の何れか一項に記載の屈折率測定装置。
【請求項5】
光源からの光を、互いに対向するように配置された透明な第1の基板及び第2の基板と、前記第1の基板と前記第2の基板の間に配置され、既知の屈折率を持つ透明材料により形成される回折格子と、前記第1の基板と前記第2の基板の間の空間のうち、前記回折格子が形成されていない空間に充填された屈折率の測定対象となる試料とを含む測定セルへ向けるステップと、
前記測定セルから出射した、前記透明材料の屈折率と前記試料の屈折率との差に応じた前記光源からの光の回折光の0次以外の回折次数を含む少なくとも一つの回折次数の光量を検出するステップと、
前記少なくとも一つの回折次数のうちの0次以外の回折次数における回折効率と前記試料の屈折率との関係式を用いて、前記少なくとも一つの回折次数のうちの0次以外の回折次数における回折光の光量の測定値に対応する前記試料の屈折率を求めるステップと、
を含み、
前記回折格子は、前記第2の基板と対向する前記第1の基板の第1の面に対して平行な第1の方向における幅が、前記第1の基板から前記第2の基板に近づくにつれてステップ状に小さくなる、前記透明材料で形成された複数の部材を有し、該複数の部材が前記第1の方向に沿って所定のピッチで周期的に配置されたバイナリ格子である、
屈折率測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の屈折率を測定する屈折率測定装置及び屈折率測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、気体、液体などの試料の屈折率を測定する様々な装置及び方法が提案されている。代表的な屈折率測定装置として、プリズムを用いて試料の全反射による臨界角を調べることで屈折率を測定するアッベ屈折計が知られている。
また、光の干渉現象を利用した屈折率測定装置が提案されている(例えば、特開2002−168780号公報を参照)。
さらに、光の回折現象を利用した屈折率の測定方法が提案されている。そのような測定方法の一つとして、例えば、特開2006−170727号公報には、非重合性液晶と、重合性モノマあるいはプレポリマと、光重合開始剤からなる組成物を二光束干渉露光により露光して、光学的異方性を示す領域と光学的等方性を示す領域とからなる周期的構造を形成した回折素子である偏光分離素子の屈折率変調量を測定する偏光分離素子の評価方法が開示されている。この方法は、偏光分離素子の温度を制御しつつ、偏光分離素子にレーザ光を照射して回折効率を測定し、屈折率変調量と回折効率の関係、及び回折効率の温度特性から、回折効率に対応する屈折率変調量を特定する。
さらに、特開2007−292509号公報には、回折素子を覆う試料の屈折率を、回折素子の0次回折効率を測定し、測定された0次回折効率と回折格子の格子形状を用いて算出された理論回折効率とが最も一致する屈折率として同定する屈折率測定方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、アッベ屈折計では、臨界角をメモリとの比較で目視により求める。この際に、測定に不慣れなユーザは、正確に臨界角を読み取れず、その結果として屈折率の測定精度が良好でないおそれがあった。また、干渉現象を利用する屈折率測定装置については、精密に干渉縞のピッチを測定するために、振動などによる悪影響を避けるよう、装置の設置場所または装置自身の構造を工夫しなければならない。そのため、干渉現象を利用する屈折率測定装置は、扱いが難しく、また装置が高価になってしまうという問題があった。
さらに、上記の回折現象を利用する屈折率測定方法では、被測定物の温度を変えたり、被測定物に照射する光の波長を変えて、回折効率を複数回測定する必要が有り、そのため、測定手順が煩雑であった。
【0004】
そこで、本発明は、構成が簡単で、かつ高精度で試料の屈折率を測定可能な屈折率測定装置及び屈折率測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一つの側面によれば、屈折率測定装置が提供される。この屈折率測定装置は、光源と、屈折率の測定対象となる試料を含み、かつ光源から入射した光を回折させる測定セルと、測定セルから出射した回折光の0次以外の回折次数を含む少なくとも一つの回折次数の光量を検出する検出器と、上記の少なくとも一つの回折次数における回折効率と試料の屈折率との関係式を用いて、検出器により検出されたその少なくとも一つの回折次数における回折光の光量の測定値に対応する試料の屈折率を求める制御部とを有する。そして、測定セルは、互いに対向するように配置された透明な第1の基板及び第2の基板と、第1の基板と第2の基板の間に配置され、既知の屈折率を持つ透明材料により形成され、光源からの光を試料の屈折率と回折格子を形成する透明材料の屈折率との差に応じて回折する回折格子とを有し、回折格子は、第2の基板と対向する第1の基板の第1の面に対して平行な第1の方向における幅が、第1の基板から第2の基板に近づくにつれてステップ状に小さくなる、透明材料で形成された複数の部材を有し、その複数の部材が第1の方向に沿って所定のピッチで周期的に配置されたバイナリ格子であり、屈折率の測定対象となる試料は第1の基板と第2の基板の間の空間のうち、回折格子が形成されていない空間に充填される。
【0006】
またこの屈折率測定装置において、制御部は、上記の少なくとも一つの回折次数における回折光の光量の測定値に基づいてその回折次数における回折効率の第1の計算値を求め、試料の屈折率として想定される複数の屈折率のうち、少なくとも一つの回折次数における回折効率の第1の計算値と、想定される屈折率を上記の関係式に入力することにより求められる回折効率の第2の計算値間の誤差の統計量が最小となる屈折率を試料の屈折率とすることが好ましい。
【0007】
またこの屈折率測定装置において、検出器は、測定セルから出射した回折光の複数の回折次数の光量を検出することが好ましい。そして制御部は、複数の回折次数のうちで回折効率の第1の計算値が高い方から順に少なくとも二つの回折次数を選択し、選択された回折効率の第1の計算値と、想定される屈折率を関係式に入力することにより求められる回折効率の第2の計算値間の誤差の統計量が最小となる屈折率を前記試料の屈折率とすることが好ましい。
【0008】
さらに、測定セルは、第1の面に設けられた第1の透明電極と、第1の基板と対向する第2の基板の第2の面に設けられた第2の透明電極とをさらに有し、かつ試料は第1の透明電極と第2の透明電極間に配置されることが好ましい。この場合において、屈折率測定装置は、第1の透明電極と第2の透明電極との間に配置された試料に所定の電圧を印加する電源回路をさらに有することが好ましい。
【0009】
また本発明の他の側面によれば、屈折率測定方法が提供される。この屈折率測定方法は、光源からの光を、互いに対向するように配置された透明材料からなる第1の基板及び第2の基板と、第1の基板と第2の基板の間に配置され、既知の屈折率を持つ透明材料により形成される回折格子と、第1の基板と第2の基板の間の空間のうち、回折格子が形成されていない空間に充填された屈折率の測定対象となる試料とを含む測定セルへ向けるステップと、測定セルから出射した、透明材料の屈折率と試料の屈折率との差に応じた、光源からの光の回折光の1次以上の少なくとも一つの回折次数の光量を検出するステップと、その少なくとも一つの回折次数における回折効率と試料の屈折率との関係式を用いて、その少なくとも一つの回折次数における回折光の光量の測定値に対応する試料の屈折率を求めるステップとを含む。そして回折格子は、第2の基板と対向する第1の基板の第1の面に対して平行な第1の方向における幅が、第1の基板から第2の基板に近づくにつれてステップ状に小さくなる、透明材料で形成された複数の部材を有し、その複数の部材が第1の方向に沿って所定のピッチで周期的に配置されたバイナリ格子である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る屈折率測定装置及び屈折率測定方法は、構成が簡単で、かつ高精度で試料の屈折率を測定できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1は、本発明の一つの実施形態による屈折率測定装置の概略構成図である。
図2Aは、測定セルの一例の概略側面断面図である。
図2Bは、測定セルの他の一例の概略側面断面図である。
図3は、屈折率1.69を持つ試料についての、回折光の光量の測定値から求められた回折効率の値に対して、誤差統計量が最小となる、回折効率の計算式に基づいて算出された回折効率の値を表す実験結果の一例を表すグラフである。
図4は、屈折率測定方法のフローチャートである。
図5は、他の実施形態による測定セルの概略側面断面図である。
図6は、図5に示された測定セルを用いる、他の実施形態による屈折率測定装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照しつつ、一つの実施形態による、屈折率測定装置について説明する。この屈折率測定装置は、回折格子を内部に有する測定セルに試料を充填し、その測定セルに光を照射することにより回折光を生じさせる。そしてこの屈折率測定装置は、回折光の少なくとも一つの回折次数における回折光の光量を測定し、その測定値から求めた回折効率を、試料の屈折率と回折効率との関係式に基づいて算出される回折効率の計算値と比較することにより、試料の屈折率を求める。
【0013】
図1は、一つの実施形態による屈折率測定装置の概略構成図である。図1に示すように、この屈折率測定装置1は、光源10と、開口絞り11と、測定セル12と、検出器13と、可動ステージ14と、コントローラ15とを有する。このうち、光源10、開口絞り11及び測定セル12は、光軸OAに沿って一列に配置される。
【0014】
光源10は、測定セル12により生じる少なくとも一つの回折次数の回折光を検出器13が検出できる強度の光を発する光源であり、例えば、半導体レーザ、ヘリウムネオンレーザのようなガスレーザ、あるいは、YAGレーザのような固体レーザとすることができる。あるいは、光源10は、発光ダイオード(Light Emitting Diode、LED)であってもよい。また光源10は、後述するコントローラ15による回折効率の計算を簡単化するために、所定の波長を持つ単色光を発する単色光源であることが好ましい。所定の波長は、検出器13が感度を有する波長であればよく、例えば、近赤外〜近紫外に相当する波長の何れかとすることができる。本実施形態では、光源10は、波長650nmの光を発するレーザダイオードを有する。
【0015】
光源10から照射された光は、開口絞り11を通って測定セル12へ照射される。開口絞り11は、測定セル12へ照射される光のスポットを、所定の形状、例えば円形にするための開口を有する。なお、開口絞り11と測定セル12との間に、開口絞り11を通った光を平行光にするためのコリメートレンズが配置されてもよい。また、開口絞り11と測定セル12との間に、測定セル12に照射される光のスポット径を広げるためのビームエクスパンダが配置されてもよい。
【0016】
測定セル12は、試料の屈折率に応じた回折を生じさせるための回折格子を有する。
図2A及び図2Bは、それぞれ、測定セル12の一例の概略側面断面図である。測定セル12は、互いに対して略平行に配置される2枚の基板121、122と、基板121と基板122の間において、基板121上に形成された回折格子123とを有する。なお、基板121と基板122の間に、回折格子123が形成されていない空間があってもよい。そして屈折率の測定対象となる試料124は、基板121と基板122の間の空間のうち、回折格子123が形成されていない空間に充填される。また、基板121と基板122の間に、回折格子123及び充填された試料124を囲むように、試料124が測定セル12から漏洩することを防止するための封止材(図示せず)が設けられる。
光源10からの入射光は、基板121の外側から、基板121の外側の面121aに対して略垂直に入射し、その入射光は回折格子123にて回折され、基板122を通って出射する。
【0017】
基板121、122は、それぞれ、光源10からの入射光に対して透明な材料、例えば、ガラス、または光学プラスチックで形成される平行平板である。なお、基板121の材料は、基板122の材料と異なっていてもよい。また、基板121、122は、例えば、0.5mm〜5mm程度の厚さを持つ。また基板121と基板122間の間隔は、それら基板間に形成される回折格子123が十分な回折効率を与えることができるだけの高さを持つことができる間隔、例えば、数μm〜100μm程度に設定される。
【0018】
回折格子123は、測定セル12へ入射した、光源10からの入射光を回折させる。本実施形態では、回折格子123は、基板122と対向する側の基板121の面121bに対して平行な第1の方向における幅が、基板121から基板122に近づくにつれてステップ状に小さくなる複数のステップ構造123−1〜123−n(ただしnは2以上の整数)が、その第1の方向に沿って所定のピッチで周期的に配置されたバイナリ格子である。
各ステップ構造123−1〜123−nは、上記の第1の方向に対して形状が変化し、一方、第1の方向と直交する方向に対しては形状が変化しない1次元的な構造を有する。各ステップ構造123−1〜123−nが持つステップ数は、例えば、1〜8の何れかに設定される。なお、ステップ数が多いほど回折効率も高くなる。そこで、例えば、ステップ構造を形成する材料と試料124の屈折率との差が小さく、各回折次数に対して得られる回折効率が低いほど、ステップ数が多い方が好ましい。あるいは、ステップ構造の材料を変え、ステップ構造の屈折率と試料124の屈折率との差を大きくしても、ステップ数を多くするのと同様に測定精度が向上する。
【0019】
図2Aに示される例では、ステップ数は4である。一方、図2Bに示される例では、ステップ数は1である。すなわち、図2Bに示される例では、ステップ構造123−1〜123−nは、それぞれ、矩形断面形状を持つ。
各ステップの高さ(すなわち、基板121の面121bに対する法線方向の長さ)は同一であり、一つのステップの高さは、例えば、入射光の波長の数分の1〜数倍程度に設定される。例えば、ステップ数が4である場合、波長650nmの入射光に対して、各ステップの高さは570nmに設定される。またステップ数が1である場合、波長650nmの入射光に対して、一つのステップの高さは、例えば、2280nmに設定される。あるいは、ステップ数が8である場合、波長650nmの入射光に対して、各ステップの高さは285nmに設定される。
所定のピッチは、回折格子123が入射光を回折させるように、例えば、数μm〜数10μm程度に設定される。
【0020】
回折格子123は、例えば、ナノインプリント法を用いて形成される。具体的には、光源10からの入射光に対して透明な紫外線硬化樹脂が基板121の面121b上に例えば塗布される。その樹脂に対して各ステップ構造を転写させるための金型が押圧される。そして樹脂に対して紫外光を照射して樹脂を硬化させることで、その樹脂に各ステップ構造が転写されることにより、回折格子123が形成される。
【0021】
この回折格子123の各ステップ構造の上端に対して、基板122は接するように配置されてもよく、あるいは、各ステップ構造の上端と接触しないように配置されてもよい。入射光の回折は、回折格子123によって生じるため、基板122と回折格子123との位置関係は、回折光の強度に影響しないためである。なお、基板122と回折格子123の上端が接触しない場合には、例えば、基板121と基板122との間に、例えば基板121と基板122の各コーナーに、基板121と基板122の間隔を、ステップ構造の高さよりも長い所定の距離に保つためのスペーサが設けられることが好ましい。
【0022】
屈折率の測定対象である試料124は、光源10からの入射光に対して、検出器13がその試料124が充填された測定セル12からの回折光の少なくとも一つの回折次数の光の光量を検知できる程度の透明度を持つ物質であり、例えば、糖類を含む溶液などの液体、気体、または液晶である。そして試料124は、基板121と基板122の間の空間のうち、回折格子123が形成されていない空間に充填される。そのため、測定セル12は、回折格子123を構成する部材の屈折率と試料124の屈折率との差に応じて、入射光を回折する。
【0023】
検出器13は、測定セル12の出射側に配置され、測定セル12により生じた少なくとも一つの次数の回折光の光量を検出する。本実施形態では、検出器13は、±1次、±2次、±3次及び0次の回折光の光量を検出できるように配置される。さらに検出器13は、測定セル12から出射する光の光量全体を測定する。
そのために、検出器13は、例えば、フォトダイオード、CCD、またはC−MOSといった、受光した光の光量に応じた電気信号を出力する光電変換素子を有する。あるいは検出器13は、そのような光電変換素子が一列または2次元アレイ状に並べられたものであってもよい。そして検出器13はコントローラ15と接続され、受光した光の光量に応じた電気信号をコントローラ15へ出力する。
【0024】
また検出器13は、可動ステージ14に取り付けられる。可動ステージ14は、例えば、互いに直交する2方向に移動可能な、いわゆるXYステージとすることができる。そして検出器13は、各次数の回折光を受光できるように、光軸OAに沿った方向、あるいは光軸OAに直交し、測定セル12によって入射光が回折される方向に沿って移動可能となっている。
なお、検出器13が、1次元または2次元アレイ状に配置された複数の光電変換素子を有し、一度に複数の次数の回折光を受光できる場合、可動ステージ14は省略され、検出器13は支持部材(図示せず)に固定的に取り付けられてもよい。この場合、検出器13は、光電変換素子ごとに、受光した光量に応じた電気信号をコントローラ15へ出力する。そしてコントローラ15は、着目する回折次数に対応する位置の光電変換素子からの電気信号に基づいて、その着目する回折次数に相当する光量を求めることができる。
【0025】
コントローラ15は、検出器13により測定された少なくとも一つの次数の回折光の光量に基づいて、測定セル12内に充填された試料の屈折率を求める。
そのために、コントローラ15は、インターフェース部151と、記憶部152と、制御部153とを有する。
インターフェース部151は、例えば、RS232C、あるいはUSBといった所定の通信規格に従ったインターフェース回路を有する。そしてインターフェース部151は、検出器13から測定された光の光量を表す電気信号を受信し、その電気信号を制御部153へ渡す。
【0026】
記憶部152は、例えば、半導体メモリ、あるいは磁気記録媒体若しくは光記録媒体などを有する。記憶部152は、測定セル12内に充填された試料の屈折率を求めるために用いられる各種パラメータなどを記憶する。また記憶部152は、制御部153により算出される、測定セル12内に充填された試料について想定される屈折率の範囲内に含まれる、例えば、0.001〜0.01の単位で変化させた複数の屈折率のそれぞれについての複数の回折次数、例えば、−3次〜+3次の回折効率の計算値を、その屈折率とともに記憶してもよい。
【0027】
制御部153は、少なくとも一つのプロセッサ及びその周辺回路を有する。そして制御部153は、測定セル12内に充填された試料の屈折率を、検出器13から受信した少なくとも一つの回折次数に対する回折光の光量の測定値に対応する試料の屈折率を特定することにより求める。
【0028】
図2A及び図2Bに示されるように、測定セル12が、1次元のバイナリ格子を有する場合、測定セル12により生じる回折光の各回折次数における回折効率は、次式で表される。
ここでηは、m次の回折次数における回折効率を表す。Pは隣接するステップ構造間のピッチ(すなわち、回折格子のピッチ)であり、Nは、各ステップ構造が有するステップ数である。またφは、入射光の波長に対する各ステップ構造が有するステップの一つにおいて生じる光路差の比率であり、次式で表される。
ここでn、nは、それぞれ、ステップ構造を形成する材料の屈折率及び測定セル12に充填された試料の屈折率であり、Dはステップ構造の一つのステップの高さである。λは入射光の波長を表す。
【0029】
(1)式及び(2)式から明らかなように、回折効率は、ステップ構造を形成する材料の屈折率nと測定セル12に充填された試料の屈折率nとの差に応じて決定される。回折効率ηを求めるために使用されるパラメータのうち、試料124の屈折率n以外のパラメータは、全て既知である。したがって、制御部153は、回折光の光量の測定値から求められた回折効率と一致する回折効率を与える試料の屈折率を、上記の(1)式及び(2)式から求めることにより、その試料の屈折率を求めることができる。
【0030】
所定の回折次数における回折効率は、測定セル12に入射する光の光量Iinに対する、その回折次数における回折光の光量Iの比(I/Iin)として定義される。そこで、制御部153は、例えば、測定セル12から出射した光全体の光量に対する、測定セル12による回折光の少なくとも一つの回折次数の光量の比を、その回折次数に対する回折効率の第1の計算値として求める。
なお、制御部153は、測定セル12内の回折格子が含まれない部分を透過した光の全光量を検出器13で検出し、各回折次数の光量をその全光量で割ることにより、各回折次数の回折効率を求めてもよい。回折効率のより厳密な測定においては、事前に測定物に回折構造が形成されていない部分において、試料の透過率T(すなわち、透過光量/入射光量)を測定する。測定された回折効率Tで除した値がより真に近い回折効率となる。透過率測定のためには、測定セル12に、回折構造が付加されていない領域を設けることが好ましい。なお、その領域のサイズは、測定セル12に入射させるレーザのビームの直径に相当する、例えば、2mm〜7mmの直径を持つ円形領域をカバーするサイズであることが好ましい。
一方、制御部153は、試料124の屈折率として想定される屈折率の値及び他の既知のパラメータの値を上記の(1)式及び(2)式に入力して回折効率の第2の計算値を求める。なお、その想定される屈折率に対応する各回折次数の回折効率の第2の計算値が記憶部152に予め記憶されている場合、制御部153は、記憶部152からそれら回折効率の第2の計算値を記憶部152から読み込んで利用してもよい。これにより、制御部153は、屈折率測定時における演算量を削減できる。そして制御部153は、回折効率の第1の計算値と最も一致する回折効率の第2の計算値を与える屈折率nを、実際に測定した試料の屈折率とする。
【0031】
制御部153は、回折効率が測定された複数の回折次数のうち、回折効率が高い方から順に所定数の回折次数を選択し、その選択した回折次数のそれぞれについての回折効率の第1の計算値と、回折効率の第2の計算値間の誤差の統計量が最小となるときの屈折率nを、実際に測定した試料の屈折率とすることが好ましい。所定数は、1以上かつ回折光の光量が測定された回折次数の総数以下の整数である。この所定数は、回折光の光量測定時のノイズによる測定誤差の影響を軽減して試料の屈折率を正確に測定するために、2以上に設定されることが好ましい。
なお、誤差統計量を算出するために用いられる回折次数には、0次は含まれない。0次は、回折せずに透過した光に相当するためである。また誤差の統計量は、例えば、各回折次数における回折効率の第1の計算値と回折効率の第2の計算値間の誤差の2乗の総和、あるいは、各回折次数における回折効率の第1の計算値と回折効率の第2の計算値間の誤差の絶対値の総和あるいは平均値とすることができる。
制御部153は、このように少なくとも一つの回折次数の回折効率の第1の計算値と第2の計算値間の差の誤差統計量の最小値及びその最小値に対応する屈折率を求めることにより、試料の屈折率を高精度で測定することができる。
【0032】
図3は、屈折率1.69を持つ試料についての、検出器13により検出された回折光の光量から求められた回折効率の第1の計算値に対して、誤差統計量が最小となる回折効率の第2の計算値を表す実験結果の一例を表すグラフである。
図3に示したグラフ300において、横軸は回折次数を表し、縦軸は回折効率(%)を表す。また各棒グラフは、検出器13により検出された回折光の光量の測定値から求めた回折効率の第1の計算値を表す。一方、各点301〜306は、回折効率の第1の計算値が大きい方の二つの回折次数(この例では、−1次と1次)について、誤差統計量が最小となる試料の屈折率についての回折効率の第2の計算値を表す。図3に示されるように、±3次の範囲内の各回折次数において、回折効率の第1の計算値と第2の計算値とが良好に一致している。そのため、この回折効率の第2の計算値の算出に用いた屈折率が、測定セルに充填された試料の屈折率とほぼ一致することが分かる。
【0033】
図4は、屈折率測定装置1により実行される屈折率測定方法のフローチャートである。
光源10から発した光は、開口絞り11を通って測定セル12へ向けられる(ステップS101)。測定セル12は、その光を回折する。そこで検出器13は、測定セル12から出射した回折光のうち、少なくとも一つの回折次数における回折光の光量を検出する(ステップS102)。そして検出器13は、その回折光の光量に応じた電気信号をコントローラ15へ出力する。
コントローラ15の制御部153は、少なくとも一つの回折次数における回折光の光量の測定値に対応する試料の屈折率を特定することにより、試料の屈折率を求める(ステップS103)。具体的には、制御部153は、上記のように、試料の屈折率として想定される複数の屈折率のうち、(1)式及び(2)式に基づいてその各屈折率について求めた、各回折次数の回折効率の第2の計算値と、対応する回折次数の回折光量の測定値から求めた第1の計算値間の誤差の統計量が最小となる屈折率を、試料の屈折率とする。そしてコントローラ15の制御部153は、試料の屈折率の測定結果を記憶部152に記憶する。あるいは、制御部153は、試料の屈折率の測定結果を図示しない表示装置へ表示する。
【0034】
以上説明してきたように、本発明の一つの実施形態に係る屈折率測定装置は、試料の屈折率に応じた回折光の少なくとも一つの回折次数の回折効率を求めることにより、試料の屈折率を測定する。回折光の各回折次数の回折効率は、この屈折率測定装置に加えられる振動によっては変化しない。そのため、この屈折率測定装置は、免震用の構造を必要とせず簡単な構成とすることができる。さらに、測定セルの作成の際、試料はその測定セル内に充填されるだけでよく、試料そのものを精密に加工する必要が無い。また、測定セルの基板間の間隔は回折効率に対して影響しないので、測定セルの作成を簡単化できる。
さらに、測定セル内の回折格子が精度良く形成されていれば、既知である1次元の周期構造を持つ回折格子による回折効率は、回折理論により決定される計算式により正確に求めることができ、またその計算式により求めた回折効率の値と回折光の光量の測定値から求めた回折効率の値との誤差は小さい。そのため、この屈折率測定装置は、試料の屈折率を正確に測定することができる。また、回折を生じさせるために必要な測定セルのサイズは小さくてよいので、その測定セル内に充填される試料の量も少なくてよい。さらに、この屈折率測定装置は、測定セルに対する1回の光の照射で得られる0次以外の回折次数についての回折効率の測定値を用いて試料の屈折率を求めるので、屈折率測定の手順を簡単化できる。
【0035】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば、他の実施形態によれば、測定セルは、印加される電圧に応じて屈折率が変化する試料の屈折率、例えば液晶の屈折率を、その試料に印加される電圧ごとに測定可能なように、2枚の基板の表面に設けられた透明電極を有していてもよい。
【0036】
図5は、透明電極を有する測定セルの概略側面断面図である。測定セル22は、互いに対して略平行に配置される2枚の基板221、222と、2枚の基板221及び222のそれぞれの内側の面に設けられた透明電極223、224と、基板221と基板222の間において、透明電極223上に形成された回折格子225とを有する。そして屈折率の測定対象となる試料226は、透明電極223と224の間のスペースのうち、回折格子225が形成されていないスペースに充填される。透明電極223、224は、例えば、ITOと呼ばれる、酸化インジウムに酸化スズを添加した材料により形成される。また回折格子225は、図2Aまたは図2Bに示される回折格子123と同様の構成を有する。
さらに、試料226が液晶分子を含む場合、その液晶分子を所定の方向に配向させるための配向膜が、透明電極223及び224の表面に設けられてもよい。
【0037】
図6は、図5に示された測定セルを用いる、本発明の他の実施形態による屈折率測定装置の概略構成図である。この屈折率測定装置2は、光源10と、開口絞り11と、測定セル22と、検出器13と、可動ステージ14と、コントローラ15と、電源回路16とを有する。コントローラ15は、インターフェース部151と、記憶部152と、制御部153と、電源回路16の駆動回路154とを有する。図6において、屈折率測定装置2の各部には、図1に示した屈折率測定装置1の対応する各部の参照番号と同一の参照番号を付した。
なお、以下では、屈折率測定装置1と異なる点についてのみ説明する。
【0038】
コントローラ15の制御部153は、キーボードまたはマウスなどユーザインターフェース(図示せず)を介して指定された電圧が測定セル22の透明電極223と224間に印加されるように、駆動回路154を制御する。例えば、測定セル22に、試料226として液晶分子が充填され、液晶分子の長軸が光軸OAと直交し、かつ入射光の偏光面と平行となるように配向されるとする。この場合、指定された電圧は、例えば、液晶分子の長軸方向が、光軸OAに対して所定の角度をなすように回転するための電圧に設定される。そして駆動回路154は、指定された電圧に応じた制御信号を電源回路16へ出力する。
電源回路16は、コントローラ15からの制御信号に応じた駆動電圧を発生させ、その駆動電圧を測定セル22の透明電極223、224間に印加する。
なお、電源回路16から透明電極223、224間に印加される駆動電圧は、例えば、パルス高さ変調(PHM)またはパルス幅変調(PWM)された交流電圧とすることができる。
【0039】
屈折率測定装置2は、透明電極223と224間に所定の電圧を印加した状態で、光源10からの光を測定セル25に照射して、その回折光の少なくとも一つの回折次数の光量を検出器13で測定することで、その所定の電圧が印加された試料226の屈折率を測定することができる。そのため、屈折率測定装置2は、透明電極223と224間に印加する電圧を調節することにより、様々な電圧が印加された状態の試料226の屈折率を測定できる。
【0040】
また、上記の何れかの実施形態で用いられる測定セルの回折格子は、その回折格子で生じる回折の回折効率を計算により求めることが可能な様々な構造を有することができる。例えば、測定セルの回折格子は、周期的に配置された鋸歯状の構造を有するブレーズド格子であってもよい。あるいは、回折格子は、同心円状に形成される周期構造を有していてもよい。
また、回折格子は、出射側の基板、すなわち、上記の各実施形態における第2の基板上に形成されてもよい。
【0041】
以上のように、当業者は、本発明の範囲内で、実施される形態に合わせて様々な変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0042】
1、2 屈折率測定装置
10 光源
11 開口絞り
12、22 測定セル
13 検出器
14 可動ステージ
15 コントローラ
16 電源回路
121、122、221、222 透明基板
123、225 回折格子
123−1〜123−n ステップ構造
124、226 試料
223、224 透明電極
151 インターフェース部
152 記憶部
153 制御部
154 駆動回路
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6