(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5777632
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】酸化アルミニウムのコロイドディスパーション
(51)【国際特許分類】
C09K 5/10 20060101AFI20150820BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20150820BHJP
G21D 3/08 20060101ALI20150820BHJP
G21D 1/00 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
C09K5/10 E
C09K5/14 E
G21D3/08 G
G21D1/00 Q
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-541550(P2012-541550)
(86)(22)【出願日】2010年11月30日
(65)【公表番号】特表2013-512982(P2013-512982A)
(43)【公表日】2013年4月18日
(86)【国際出願番号】FR2010000796
(87)【国際公開番号】WO2011067482
(87)【国際公開日】20110609
【審査請求日】2013年11月28日
(31)【優先権主張番号】0905838
(32)【優先日】2009年12月3日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】506423291
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジィ アトミーク エ オ ゼネ ルジイ アルテアナティーフ
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポンセレ オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ボノー リオネル
(72)【発明者】
【氏名】ゲットー ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】タルディフ フランソワ
【審査官】
馬籠 朋広
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/019713(WO,A1)
【文献】
Journal of Applied Physics,2009年 7月,Vol.106(2009),014304-1〜014304-10
【文献】
Journal of Applied Physics,2002年,Vol.91(2002), No.7, pp.4568-4572
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)水と、
2)流体の総重量に対して58.8質量%以下のα−Al2O3の粒子であって、
−厚さが最小寸法であり、30nm以下であり、
−これらの粒子のうち個数で90〜95%が210nm以下のサイズを有し、そのうち個数で50%が160nm以下のサイズを有する粒子と
を含む水性コロイドゾルから構成されることを特徴とする熱交換流体。
【請求項2】
さらに、210nm以下のサイズを有する個数で90〜95%の粒子のうち個数で10%が、130nm以下のサイズを有することを特徴とする、請求項1に記載の流体。
【請求項3】
前記α−Al2O3粒子および水のみを含むことを特徴とする、請求項1に記載の流体。
【請求項4】
1.650から1.770g/cm3の間の密度を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の流体。
【請求項5】
1.748g/cm3に等しい密度を有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の流体。
【請求項6】
10cP未満の粘度を有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の流体。
【請求項7】
5cP未満の粘度を有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の流体。
【請求項8】
原子炉の緊急冷却のための、請求項1から7のいずれか一項に記載の熱交換流体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換流体およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換流体は、デバイスの十分な動作には高すぎると考えられる温度に曝される数々のデバイスを冷却することを意図する。
【0003】
例えば、熱交換流体は、マイクロプロセッサ、内蔵電子機器、または熱もしくは電気機関の冷却に使用される。
【0004】
熱交換流体はまた、原子炉の冷却にも使用される。
【0005】
水は、熱交換流体として知られる最良の流体の1つである。
【0006】
一方で、エチレングリコールまたはプロピレングリコール等の添加剤が水に添加されていてもよく、この添加剤は、極度に低い温度での凍結を防止する。
【0007】
しかしながら、どのような軽量化が期待される場合であっても、より少量の熱交換流体(水、水+エチレングリコール)を使用して、同一の、実際にはさらにそれ以上の熱交換特性を得ることができることが、非常に有利である。
【0008】
したがって、熱交換流体の熱伝導率を増加させることが必要である。最近では、熱交換流体へのナノ粒子の添加が、熱交換流体の熱伝導率を大幅に増加させることが実証されている。これらの新規な熱交換流体は、ナノ流体と呼ばれている(Choi(S.)−Enhancing Thermal Conductivity of Fluids with Nanoparticles.−The American Society of Mechanical Engineers、New York、第231巻/MD−第66巻:99〜105、1995年11月、またはYu(W.)、France(D.)、Routbort(J.)およびChoi(S.)、Review and Comparison of Nanofluid Thermal Conductivity and Heat Transfer Enhancements.−Heat Transfer Engineering、第29巻、432〜460頁(2008)、またはDas(S.)、Choi(S.)、Yu(W.)およびPradeep(T.)−Nanofluids:Science and Technology.−J.Wiley(2008))。
【0009】
流体の熱特性を向上させるための様々な種類のナノ粒子の流体への添加は、広く研究されており、現在では、使用されるナノ粒子が、金属等の良好な熱伝導性材料で本質的に構成される必要はなく、粘土または酸化物、すなわちハロイサイト、ラポナイト、シリカ(SiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)またはアルミナ(Al
2O
3)等(これらの材料は工業的に利用可能な生成物である)の、熱的に著しく非効果的である材料を用いてかなりの性能を得ることができると考えられている。使用されるナノ流体の堅牢性、すなわち経時的安定性、および全体的なエネルギーバランス、すなわち流体の粘度の増加に対する熱伝導率の増加の妥協点等のパラメータを、評価することができる。
【0010】
比較として、層流においては、全体的なエネルギーバランスは、粘度の増加が熱伝導率の増加の5倍未満である場合に、肯定的であるとみなされる。
【0011】
これは、過度に大きい粘度増加によりポンプユニットの出力の増加が必要となり、これが熱伝導率の増加により得られる利益の全て、またはその大部分を相殺する効果を有するためである。
【0012】
より具体的には、アルミナγ−Al
2O
3およびα−Al
2O
3、ならびにその水和誘導体(Al(OH)
3、AlOOH)は、その工業的利用可能性、その非常に低い毒性および数々の形状を有するナノ粒子が得られる可能性に関してより詳細に研究されており、その熱伝導率は、酸化物型の材料に好適である(40m
−1K
−1はα−Al
2O
3に好適である)。
【0013】
水和形態のアルミナの場合は、この熱伝導率がはるかに低い。
【0014】
水の熱伝導率の改善に対するアルミナ粒子の形状およびサイズの影響は、Timofeevaら、「Particle shape effects on thermophysical properties of alumina nanofluids」、Journal of Applied Physics、106、014304(2009)によって詳細に研究されている。
【0015】
この論文は、微小板形態のアルミナ粒子を用いると、ストリップ、スラブまたは円筒形態のアルミナと比較して、アルミナを組み込んだ熱交換流体の熱伝導率の増加が最も低いこと、さらに、微小板形態のアルミナは、同じくストリップ、スラブまたは円筒形態を有する化学的に同等のアルミナと比較して、アルミナを組み込んだ熱交換流体の粘度を最も大きく増加させるアルミナであることを結論としている。
【0016】
したがって、熱交換流体中の添加剤として使用され得るアルミナナノ粒子のうち、微小板形態を有するもの、すなわちその最小寸法が厚さであるものは、熱交換流体中の同等の質量パーセントにおいて、流体の熱伝導率を増加させる最も弱い能力を示す一方でその粘度を大きく増加させるため、最も好適でないナノ粒子である。
【0017】
実際のところ、この最新技術に反して、本発明は、そのような微小板形態のアルミナ粒子を含む熱交換流体を提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Choi(S.)−Enhancing Thermal Conductivity of Fluids with Nanoparticles.−The American Society of Mechanical Engineers、New York、第231巻/MD−第66巻:99〜105、1995年11月
【非特許文献2】Yu(W.)、France(D.)、Routbort(J.)およびChoi(S.)、Review and Comparison of Nanofluid Thermal Conductivity and Heat Transfer Enhancements.−Heat Transfer Engineering、第29巻、432〜460頁(2008)
【非特許文献3】Das(S.)、Choi(S.)、Yu(W.)およびPradeep(T.)−Nanofluids:Science and Technology.−J.Wiley(2008)
【非特許文献4】Timofeevaら、「Particle shape effects on thermophysical properties of alumina nanofluids」、Journal of Applied Physics、106、014304(2009)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
したがって、本発明は、
1)水と、
2)流体の総重量に対して58.8質量%以下のα−Al
2O
3の粒子であって、
−厚さが最小寸法であり、30nm以下、好ましくは15nmから25nmの間であり、
−これらの粒子のうち個数で90〜95%が210nm以下のサイズを有し、そのうち個数で50%が160nm以下のサイズを有する粒子と
を含む水性コロイドゾルから構成されることを特徴とする熱交換流体を提供する。
【0020】
さらに、好ましくは、これらの個数で90〜95%の粒子のうち個数で10%が、130nm以下のサイズを有する。
【0021】
好ましくは、本発明の流体は、10cP未満、より好ましくは5cP未満であり、1.1cPを超える粘度を有する。
【0022】
好ましくは、本発明の流体は、前記α−Al
2O
3粒子および水のみを含む。
【0023】
この場合、好ましくは、流体は、1.650から1.770の間、より好ましくは1.748の密度を有する。
【0024】
本発明の熱交換流体は、原子炉の緊急冷却のための流体として特に適切である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
添付した1つの図を参照して示される以下の説明の記述を読めば、本発明のより良い理解が得られ、また本発明の他の特徴および利点がより明確となる。添付図は、異なる形状のα−アルミナ粒子を含む様々な熱交換流体の熱伝導率Kの増加(純水の熱伝導率K
0に対する)の、水性ゾル中のこれらのアルミナ粒子の質量濃度の関数としての曲線を示す。
【0027】
本発明は、水と、微小板形態を有するとともに非常に正確な粒子サイズ分布を有するα−アルミナ(α−Al
2O
3)粒子とを含む熱交換流体が、他のいかなる形態およびサイズ分布のアルミナ粒子よりも優れた熱伝導率改善特性を有するという発見に基づく。
【0028】
粒子のサイズは、差分光散乱(differential light scattering)(dls)により測定される。
【0029】
したがって、本発明において使用されるアルミナ粒子は、微小板形態の粒子であり、すなわち平坦な粒子の形態を有し、厚さが最小寸法で、30nm以下、好ましくは15nmから25nmの間であり、粒子は以下の正確なサイズ分布を有する。
−粒子のうち個数で90〜95%が、210nm以下のサイズを有し、
−これらの90〜95%の粒子のうち個数で50%が、160nm以下のサイズを有する。好ましくは、さらに、これらの90〜95%の粒子のうち個数で10%が、130nm以下のサイズを有する。
【0030】
この特定の粒子サイズ分布に加えて、本発明において使用されるナノ粒子は、300nmから60nmの間のサイズを有する。
【0031】
サイズは、これらのナノ粒子の最大寸法、典型的にはその平均直径を意味するものとして理解される。このサイズは、透過型顕微鏡により測定される。
【0032】
そのような熱交換流体は、当業者に知られた技術に従い、アルミナナノ粒子を水に混合することにより容易に生成される。
【0033】
水のみの熱伝導率K
0に対する、水およびアルミナ粒子で構成される流体の熱伝導率Kの増加を、異なる形態の酸化アルミナのコロイドディスパーションのナノ粒子の質量濃度の関数として表す
図1中に示されるように、全ての濃度において、最も良好な伝導率の増加を示すのは、Baikowski社から販売されているBA15PS(登録商標)で示されるアルミナのコロイドディスパーションである。特に、BA15PS(登録商標)アルミナナノ粒子のコロイドディスパーションの場合、水およびアルミナで構成される熱交換流体の総重量に対して50質量%のアルミナ濃度において、86%の熱伝導率の増加が得られるが、同じ質量濃度において、Alfa Aesar社から販売されているNanoDur(登録商標)X1121Wアルミナのナノ粒子のコロイドディスパーションは、25%の熱伝導率の増加しか示さない。
【0034】
Alfa Aesar社から販売されているNanoDur(登録商標)X1121WおよびNanoTek(登録商標)Al−6021アルミナのコロイドディスパーションは、20%の質量濃度から漸近的な熱伝導率の増加を示す。
【0035】
これらの水性コロイドゾルの組成に関与するアルミナナノ粒子は、全て結晶性α−アルミナである。
【0037】
これらの粒子は、望ましくない相(主にAlOOHおよびγ−Al
2O
3)を含まない。
【0038】
サイズ領域は同程度であるが、BA15PS(登録商標)アルミナは、サイズの多分散性がより低い。
【0039】
NanoDur(登録商標)X1121WおよびNanoTek(登録商標)Al−6021アルミナのコロイドディスパーションの形態は球形であるが、BA15PS(登録商標)アルミナの方は、微小板形態の、望ましくない相を含まない結晶性α−アルミナであり、そのサイズ分布は、ナノ粒子の90〜95%が210nm以下のサイズを示し、90〜95%のナノ粒子のうち50%が160nm以下のサイズを有し、これらの90〜95%のナノ粒子のうち10%のみが、130nm以下のサイズを有するような分布である。
【0040】
さらに、この種のアルミナを用いると、熱交換流体の粘度は、以下の表に示されるように、最小限の増加に留まる。
【0042】
測定は、Brookfield粘度計で行った。標準として水を25℃で測定すると、理論値である1cPではなく1.05cPの値が得られた。
【0043】
したがって、本明細書において定義されるように、58.8質量%以下の濃度のα−アルミナナノ粒子を、熱交換流体に添加することができる。
【0044】
これらの濃度において、熱交換流体は、依然として安定な水性コロイドゾルであり、すなわち沈降による分離現象は観察されない。
【0045】
当然ながら、当業者は、必要に応じて、所望の熱伝導率のレベルに応じてこのコロイドゾルを希釈することができ、これは、
図1の曲線により決定することができる。
【0046】
本発明において使用されるアルミナナノ粒子は、微小板形態を有する必要があり、非常に異なる形状、V形状、Y形状、またはさらにX形状を示してもよい。
【0047】
本発明において使用されるアルミナをさらに良く定義するために、これらのアルミナ粒子は、2045℃の融点、2980℃の沸点、および3.965の密度を有するα−アルミナで100%構成されることを付け加えるが、これは、熱交換流体の総重量に対して58.8質量%のそのようなアルミナを含む本発明による最良の熱交換流体の密度が、熱交換流体が水である場合、1.650から1.760の間である必要があることを意味する。最も好ましくは、密度は、1.748である。
【0048】
しかしながら、本発明の熱交換流体の優れた熱的性能は、流体が極めて研磨性であるという不利点を有する。
【0049】
結果として、本発明の熱交換流体は、最も好ましくは、長期の寿命を有することが意図されない冷却回路に使用される。
【0050】
これらの回路のうち、原子炉の緊急冷却回路が特に適切である。
【0051】
これは、原子炉の緊急冷却回路では、不測の過熱が発生した場合、反応炉の炉心を極めて迅速に冷却可能であることが問題であるためである。
【0052】
したがって、発電所の再始動の問題がないこの用途においては、可能な限り少ない材料で可能な限り多くの熱を分散させる能力が重視されるため、本発明の熱交換流体の研磨性は重要ではない。
【0053】
本発明の熱交換流体の目的は、燃料棒の溶融および放射性物質の拡散を防止することである。
【0054】
したがって、本発明の熱交換流体は、この種の使用に完璧に適している。