特許第5777633号(P5777633)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフトの特許一覧

特許5777633保護された分析物の制御された放出によるテストエレメントにおける酵素の分解の検出
<>
  • 特許5777633-保護された分析物の制御された放出によるテストエレメントにおける酵素の分解の検出 図000008
  • 特許5777633-保護された分析物の制御された放出によるテストエレメントにおける酵素の分解の検出 図000009
  • 特許5777633-保護された分析物の制御された放出によるテストエレメントにおける酵素の分解の検出 図000010
  • 特許5777633-保護された分析物の制御された放出によるテストエレメントにおける酵素の分解の検出 図000011
  • 特許5777633-保護された分析物の制御された放出によるテストエレメントにおける酵素の分解の検出 図000012
  • 特許5777633-保護された分析物の制御された放出によるテストエレメントにおける酵素の分解の検出 図000013
  • 特許5777633-保護された分析物の制御された放出によるテストエレメントにおける酵素の分解の検出 図000014
  • 特許5777633-保護された分析物の制御された放出によるテストエレメントにおける酵素の分解の検出 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5777633
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】保護された分析物の制御された放出によるテストエレメントにおける酵素の分解の検出
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20150820BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20150820BHJP
   C12Q 1/32 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   C12M1/34 EZNA
   G01N33/50
   C12Q1/32
【請求項の数】23
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-543721(P2012-543721)
(86)(22)【出願日】2010年12月15日
(65)【公表番号】特表2013-524770(P2013-524770A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】EP2010069760
(87)【国際公開番号】WO2011073258
(87)【国際公開日】20110623
【審査請求日】2013年8月23日
(31)【優先権主張番号】09179500.5
(32)【優先日】2009年12月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501205108
【氏名又は名称】エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100098464
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 洌
(74)【代理人】
【識別番号】100149630
【弁理士】
【氏名又は名称】藤森 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100110984
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 敬子
(74)【代理人】
【識別番号】100111279
【弁理士】
【氏名又は名称】三嶋 眞弘
(72)【発明者】
【氏名】ホルン、カリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ハインドル、ディーター
(72)【発明者】
【氏名】ハール、ハンス−ペーター
(72)【発明者】
【氏名】シュタインケ、ネリ
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−196167(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/103540(WO,A1)
【文献】 特表2008−523415(JP,A)
【文献】 特開2008−249696(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0126831(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0211006(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/34
C12Q 1/32
G01N 33/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの分析物を測定するための診断用エレメントであって、
(a)該分析物に特異的であって、検出層に含まれる検出試薬、および
(b)規定量の測定すべき分析物(指標分析物)であって、検出試薬との反応に近づき難い放出可能な形態で存在する指標分析物を含み、
指標分析物が検出層または個別の貯蔵層に存在し、および
(i)光化学的および/または電気化学的に溶解されるバリア層が、貯蔵層と検出層との間に配置される、
(ii)指標分析物が、少なくとも1つのエネルギー吸収体を含む疎水性ポリマーマトリクスにカプセル化される、
(iii)指標分析物が、光化学的、電気化学的または光化学的および電気化学的に開裂可能な保護基を含む、または
(iv)前記(i)〜(iii)の2つ以上の組み合わせが適用される、
ただし、前記(i)のみが適用される場合には、指標分析物は貯蔵層に存在する
診断用エレメント。
【請求項2】
検出試薬が、酵素および/または補酵素を含むことを特徴とする請求項1記載の診断用エレメント。
【請求項3】
補酵素が、安定化された補酵素である請求項2記載の診断用エレメント。
【請求項4】
酵素がニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)依存デヒドロゲナーゼ、またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)依存デヒドロゲナーゼであることを特徴とする請求項2または3記載の診断用エレメント。
【請求項5】
酵素がグルコースデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.47)またはグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.49)である請求項4記載の診断用エレメント。
【請求項6】
安定化された補酵素が、安定化されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)化合物であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の診断用エレメント。
【請求項7】
安定化された補酵素が、カルバNADもしくはカルバNADP、または式(I)の化合物であることを特徴とする請求項6記載の診断用エレメント。
【化1】
【請求項8】
検出試薬が、さらにメディエーターおよび/または光学的指示薬を含むことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の診断用エレメント。
【請求項9】
担体層を含むことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の診断用エレメント。
【請求項10】
検出層、バリア層および/または貯蔵層が、少なくとも1つのエネルギー吸収体を含有するポリマーマトリックスを含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の診断用エレメント。
【請求項11】
ポリマーマトリックスが、少なくとも1つの疎水性ポリマーから形成されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の診断用エレメント。
【請求項12】
疎水性ポリマーが、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリカーボネートおよびそれらの化学的誘導体からなる群より選択されることを特徴とする請求項11記載の診断用エレメント。
【請求項13】
ポリマーマトリックスが少なくとも1つのエネルギー吸収体を共有結合した形態で、および/または遊離の形態で含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の診断用エレメント。
【請求項14】
エネルギー吸収体が、シアニン色素およびスクアリリウム色素から選択される疎水性色素であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の診断用エレメント。
【請求項15】
シアニン色素がクリプトシアニン、インドトリカルボシアニン(C7)、オキサカルボシアニン(C3)、ヨウ化ピナシアノール、チアカルボシアニン(C3)およびチアジカルボシアニン(C5)から選択され、スクアリリウム色素がスクアリリウム色素IIIである請求項14記載の診断用エレメント。
【請求項16】
テストテープ、テストディスク、テストパッド、テストストリップまたはテストストリップドラムとして設計されることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の診断用エレメント。
【請求項17】
いくつかの分析物の測定のために設計されることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の診断用エレメント。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の診断用エレメントを含む分析的測定装置。
【請求項19】
分析物の測定方法であって、
(a)分析物を請求項1〜17のいずれか1項に記載の診断用エレメントと接触させる工程、および
(b)分析物の存在および/または量を測定する工程
を含む方法。
【請求項20】
分析物により生成されたシグナルを較正する方法であって、
(a)請求項1〜17のいずれか1項に記載の診断用エレメントを分析的測定装置に挿入する工程、
(b)分析物を診断用エレメントと接触させることにより、分析的測定装置において第1の検出可能なシグナルを生成する工程、
(c)診断用エレメント中の指標分析物を放出することにより、分析的測定装置において第2の検出可能なシグナルを生成する工程、および
(d)工程(c)において生成されたシグナルを用いて工程(b)において生成されたシグナルを較正する工程
を含む方法。
【請求項21】
分析的測定装置の検出オプティクスを検査する方法であって、
(a)請求項1〜17のいずれか1項に記載の診断用エレメントを分析的測定装置に挿入する工程、
(b)診断用エレメントにおいて指標分析物を放出することにより分析的測定装置において検出可能なシグナルを生成する工程、そして
(c)工程(b)において生成されたシグナルを参照シグナルと関連付ける工程
を含む方法。
【請求項22】
試薬の制御放出のためのシステムであって、
(a)試薬および別個の反応系を含む担体であって、試薬が反応系との反応に対して近づき難い放出可能な形態で存在し、
(i)光化学的および/または電気化学的に溶解されるバリア層が、試薬と反応系との間に配置される、
(ii)試薬が、少なくとも1つのエネルギー吸収体を含む疎水性ポリマーマトリクスにカプセル化される、
(iii)試薬が、光化学的、電気化学的または光化学的および電気化学的に開裂可能な保護基を含む、または
(iv)前記(i)〜(iii)の2つ以上の組み合わせ
が適用され、および
規定された条件下で放出でき
体、ならびに
(b)担体上の試薬を放出するための手段
を含むシステム。
【請求項23】
回路素子としての、請求項22記載のシステムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの分析物を測定するための診断用エレメント、およびそのような該診断用エレメントを含む分析的測定デバイスに関する。本発明はまた、分析物の測定方法、分析物により生成されるシグナルの較正方法、および診断エレメントを用いる分析的測定デバイスの検出光学系を検査する方法に関する。最後に本発明は、試薬の制御された放出のためのシステムおよび回路素子としての該システムの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
診断用エレメントは、臨床的に意義のある分析方法の重要な構成要素である。これは本来、たとえば、分析物に特異的な酵素を利用して直接または間接的に測定される、代謝物または基質などの分析物の測定に関するものである。この場合、分析物は酵素−補酵素複合体を用いて変換され、続いて定量される。このプロセスにおいては、測定されるべき分析物は、適切な酵素、補酵素および任意にはメディエーターと接触され、補酵素が、酵素反応により物理化学的な変化を受け、たとえば酸化または還元される。メディエーターが付加的に使用される場合、メディエーターは、分析物の変換の間に放出された電子を還元された補酵素から光学的指示薬上に、または電極の導電性構成要素上に通常伝達し、それによりプロセスは光度的にまたは電気化学的に検出できる。較正により、測定値と測定すべき分析物の濃度との直接的な関係が得られる。
【0003】
先行技術において既知の診断用エレメントは、限られた品質保持期限と、その品質保持期限を達成するために冷所保管または乾燥保管などの環境に対する特別な要求により特徴付けられている。ある種の適用、たとえば血糖値のモニタリングなどのエンドユーザー自身により実施される検査の場合では、誤りであるが気付かれることのない間違った測定システムの保管のために、使用者により気付かれ難い誤った結果が生じる可能性もあり、個々の疾患の不適切な治療につながることもある。
【0004】
誤った結果は本来、その診断用エレメントにおいて使用される酵素、補酵素およびメディエーターが、一般に水分や熱に敏感であり、その結果不活性となるという事実にもとづく。したがって、たとえば温暖かつ湿潤な環境下でグルコースをグルコースデヒドロゲナーゼ/NAD系により検出する場合、酵素のグルコースデヒドロゲナーゼの活性や補酵素NADの量は時間とともに減少する。そして補酵素の減少は、一般的に酵素の活性の失活よりかなり急速に進行する。
【0005】
診断用エレメントの安定性を高めるために使用される既知の手段は、安定な酵素の使用、たとえば好熱性生物由来の酵素の使用である。さらに、架橋などの化学的な修飾、または突然変異誘発などにより酵素を安定化することも可能である。また、トレハロース、ポリビニルピロリドンおよび血清アルブミンなどの酵素の安定化剤を添加することができる。または酵素を高分子ネットワーク中に、たとえば光重合によって包み込むこともできる。
【0006】
診断用エレメントの安定性を改善するための別の方法は、安定化した補酵素を使用することである。NADおよびNADPまたはその還元型NADHおよびNADPHなどの天然の補酵素は、リボースとピリジン単位との間のグリコシル結合が不安定であるため、塩基性または酸性条件下において相対的に不安定であるが、NAD/NADHおよびNADP/NADPHの様々な誘導体が、ニコチンアミド基またはリボース単位の修飾によって補酵素の安定性が顕著に高められたものとして近年文献に記載されている。
【0007】
最後に、診断用エレメントの安定性は、安定なメディエーターを使用することにより高めることもできる。つまり、できる限り低い酸化還元能を有するメディエーターを使用することにより、検査の特異性が高められ、反応の間の干渉が除外される。しかし、酵素/補酵素複合体の酸化還元能が、メディエーターの酸化還元能の下限を形成する。仮にその能力がこの下限よりも低い場合、メディエーターとの反応は低下し、場合によっては停止する。
【0008】
しかしながら、診断用エレメントに使用される化学的検出試薬の成分は必ずしも実施において同じ安定性を有するわけではなく、むしろ異なる速度で生じる分解プロセスにさらされる。したがって、たとえば、カルバNADが補酵素として使用される場合、その効果は補酵素が長期間、高湿度条件下や高温下でさえもカルバ環糖単位により非常に安定なままでいるということであるが、一方診断用エレメントに使用される天然の酵素の活性は連続的に減少する。同様に、たとえば安定化した酵素と天然の補酵素との組合せが使用される場合、酵素の活性は長期間維持されるが、一方補酵素の量は急速に、多かれ少なかれ熱および/または加水分解により減少する。
【0009】
分析物を測定する際の間違った結果を避けるために、診断用エレメントは、診断用エレメントにおいて使用される検出試薬の個々の成分が、測定時になお機能的形態であるかどうか、および検出試薬が分析物の定性および/定量検出に同じ程度に適しているかどうかを評価することができなければならない。これに関連して、たとえば、酵素活性の評価は、タンパク質のコンフォメーションの変化により酵素の不活性化がまず生じそれ故、組成に変化がな、光学的または電気化学的に不活性な粒子が形成されるため、特に問題となる
【発明の概要】
【0010】
したがって、本発明の目的は、特にグルコースを測定するための安定な診断用エレメントであって、先行技術における欠点が少なくとも部分的に取り除かれた診断用エレメントを提供することである。詳細には、診断用エレメントは、検出試薬の個々の成分の機能性がひどく減少されるかまたは完全に欠如しているような場合において、特定の分析物について正しいとされる測定結果を示すことを回避するということを保証すべきである。
【0011】
この目的は、分析物に特異的である検出試薬、規定量の測定すべき分析物(指標(indicator)分析物)であって、検出試薬との反応には近づき難い放出可能な形態で存在する指標分析物を含む、少なくとも1つの分析物を測定するための診断用エレメントにより本発明にしたがい達成される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】検出層、光化学的に開裂可能なバリア層、指標分析物を含有する貯蔵層および担体層を含む、本発明の診断用エレメントの一実施態様の断面図。
図2】検出層、指標分析物とエネルギー吸収体とを含有する光化学的に開裂可能なバリア層、ならびに担体層を含む本発明の診断用エレメントの別の実施態様の断面図。
図3】指標分析物(この場合はグルコース)をカプセル化された形態で含有する本発明の診断用エレメントの保護層の断面図。
図4】指標分析物(この場合はグルコース)をカプセル化された形態で含有する本発明の診断用エレメントの検出層の断面図。
図5】本発明の診断用エレメントの酵素系による指標分析物または試料分析物の変換の速度論。5A:酵素系による試料分析物の変換の開始前の指標分析物の放出。5B:酵素系による試料分析物の変換の完了後の指標分析物の放出。
図6】光化学的放出による指標分析物の蛍光検出およびその後の酵素反応:6A:酵素(GlucDH)および補酵素(NAD)の溶液との接触の前後の、誘導化された形態での指標分析物を含み適切な波長の光で照射された診断用エレメントの蛍光。6B:酵素(GlucDH)および補酵素(NAD)の溶液の非存在下または存在下で、指標分析物を含まない診断用エレメントの蛍光。
図7】熱的ホール形成による指標分析物の蛍光検出およびその後の酵素反応。7A:適切な波長の光で20分間照射した後の色素(クリプトシアニン)をドープしたポリマー層の電子写真。7B:適切な波長の光で20分間照射し、その後酵素(GlucDH)および補酵素(NAD)の溶液と接触した後の色素(クリプトシアニン)をドープしたポリマー層の電子写真。7C:事前の照射なしで、酵素(GlucDH)および補酵素(NAD)の溶液と接触した後の色素(クリプトシアニン)をドープしたポリマー層の電子写真。
図8】グルコースデヒドロゲナーゼ二重変異体、GlucDH_E96G_E170KおよびGlucDH_E170K_K252Lのアミノ酸配列。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の診断用エレメントに使用される検出試薬は、化学的検出試薬が好ましく、たとえば光学的または電気化学的手段を用いて分析物を測定するために適している任意の成分を含むことができる。そのような成分の具体例は、当業者に知られており、特に酵素、補酵素、メディエーター、光学的指示薬ならびに補助物質および/または添加剤などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
好ましい実施態様において、検出試薬は、少なくとも1つの酵素および/または補酵素であって、それらは独立して天然起源、半合成起源または合成起源であってよく、当業者が診断用エレメントの要件に応じて自由に選択することができる酵素および/または補酵素を含む。本発明によれば、少なくとも1つの酵素と少なくとも1つの補酵素との組合せが特に好ましく、酵素は好ましくは測定すべき分析物に対して高い特異性を有し、そしてそれゆえ分析物を測定する際の誤った結果が減少される。
【0015】
本発明の診断用エレメントが酵素を含む場合、該酵素は、好ましくは補酵素依存性酵素である。そのような酵素の例としては、とりわけデヒドロゲナーゼ、グルコースオキシダーゼ(EC1.1.3.4)またはコレステロールオキシダーゼ(EC1.1.3.6)などのオキシダーゼ、たとえばアスパラギン酸またはアラニンアミノトランスフェラーゼなどのアミノトランスフェラーゼ、5’−ヌクレオチダーゼ、クレアチンキナーゼおよびジアフォラーゼ(EC1.6.99.2)が挙げられる。より好ましい実施態様においては、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)−依存性デヒドロゲナーゼ、またはニコチンアミド−アデニン−ジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)−依存性デヒドロゲナーゼが使用され、酵素は特に、アルコールデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.1;EC1.1.1.2)、L−アミノ酸デヒドロゲナーゼ(EC1.4.1.5)、グルコースデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.47)、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.49)、グリセロールデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.6)、3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.30)、乳酸デヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.27;1.1.1.28)、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.37)およびソルビトールデヒドロゲナーゼからなる群より選択される。酵素は、最も好ましくはグルコースデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.47)またはグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.49)である。
【0016】
グルコースデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.47)が酵素として使用される場合、その際、たとえば本発明の方法の範囲内で突然変異グルコースデヒドロゲナーゼを使用することも可能である。本願の範囲内において使用される用語「突然変異体」は、天然の酵素の遺伝的に改変された変異体であって、同数のアミノ酸を有するが野生型酵素と比較して改変されたアミノ酸配列を有する、すなわち野生型酵素とは少なくとも1つのアミノ酸が異なる変異体を意味する。突然変異の導入は、部位特異的または非部位特異的に行うことができるが、各要件および条件に依存して天然の酵素のアミノ酸配列内に少なくとも1つのアミノ酸置換を生じる専門領域において既知の組換え法を用いて部位特異的に行われるのが好ましい。突然変異体は、野生型酵素と比較して高い熱安定性または加水分解安定性を有することが特に好ましい。そのような突然変異体の例は、Baik(Appl. Environ. Microbiol. (2005), 71, 3285)、Vaesquez-Figueroa(Chem. Bio. Chem. (2007), 8, 2295)および国際公開第2005/045016号に記載され、その開示内容は、本明細書に参照として明確に組み込まれる。
【0017】
突然変異されたグルコースデヒドロゲナーゼは、基本的にアミノ酸配列の任意の位置で対応する野生型グルコースデヒドロゲナーゼと比較して改変されているアミノ酸を有することができる。突然変異されたグルコースデヒドロゲナーゼは、好ましくは野生型グルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列の96位、170位および252位の少なくとも1つでの変異を含み、96位および170位の変異を有する突然変異体または170位および252位の変異を有する突然変異体が特に好ましい。突然変異されたグルコースデヒドロゲナーゼが、これらの突然変異から逸脱する更なる変異は含有しないことが有利であると証明された。
【0018】
96、170および252位での突然変異は、原則としては、たとえば野生型酵素の熱安定性または加水分解安定性の向上などの安定化につながる任意のアミノ酸置換を含むことができる。96位での突然変異は、好ましくは、グルタミン酸のグリシンによるアミノ酸置換を含むが、一方170位については、グルタミン酸のアルギニンまたはリジンによるアミノ酸置換、特にグルタミン酸のリジンによる置換が好ましい。252位の突然変異については、リジンのロイシンによるアミノ酸置換が好ましい。
【0019】
突然変異されたグルコースデヒドロゲナーゼは、任意の生物学的起源由来の野生型グルコースデヒドロゲナーゼの突然変異により得ることができ、本発明における用語「生物学的起源」とは、細菌などの原核生物ならびに哺乳類および他の動物などの真核生物を包含する。野生型グルコースデヒドロゲナーゼは、好ましくは細菌に由来し、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)またはバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)由来のグルコースデヒドロゲナーゼが特に好ましく、とりわけバチルス・サブチリス由来のグルコースデヒドロゲナーゼが好ましい。
【0020】
特に好ましい実施態様においては、突然変異されたグルコースデヒドロゲナーゼは、バチルス・サブチリス由来の野生型グルコースデヒドロゲナーゼを突然変異させることにより得られる、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するグルコースデヒドロゲナーゼ(GlucDH_E96G_E170K)または配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するグルコースデヒドロゲナーゼ(GlucDH_E170K_K252L)である。
【0021】
本発明の1つの実施態様において、本明細書に記載される診断用エレメントは、好ましくは安定化された補酵素である補酵素をさらに含む。本発明の意味では安定化された補酵素とは、天然の補酵素と比較して化学的に修飾されており、かつ大気圧下で、湿度、温度(特に0℃〜50℃の範囲)、酸および塩基(特にpH4〜pH10の範囲)および/またはアルコールまたはアミンなどの求核試薬に対して、天然の補酵素と比較してより高い安定性を有し、そして天然の補酵素よりも長期間同じ環境条件下で同じ程度に活性であることができる補酵素である。安定化された補酵素は、天然の補酵素と比較してより高い加水分解安定性を有することが好ましく、検査条件下で完全に加水分解に安定であることが特に好ましい。安定化された補酵素は、天然の補酵素と比較して酵素に対する結合定数を低下させることができる。たとえば、結合定数は2倍またはそれ以上低下される。
【0022】
本発明の意味するところの安定化された補酵素の好ましい例は、安定化されたNAD(P)/NAD(P)H化合物、すなわち天然のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)の誘導体、または式(I)の化合物である。
【化1】
【0023】
安定化された補酵素が、安定化されたNAD(P)/NAD(P)H化合物である場合、安定化されたNAD(P)/NAD(P)H化合物は、好ましくは3−ピリジンカルボニル残基または3−ピリジンチオカルボニル残基を含み、それらはグリコシド結合なしでたとえばリン酸残基などのリン含有残基に直鎖または環状有機残基を介して、特に環状有機残基を介して結合する。
【0024】
安定化されたNAD(P)/NAD(P)H化合物は、一般式(II):
【化2】
(式中、
A=アデニンまたはその類似体
T=各々独立してO、S
U=各々独立してOH、SH、BH、BCNH
V=各々独立してOHまたはリン酸基、または2つの基が環状リン酸基を形成する;
W=COOR、CON(R)、COR、CSN(R)、式中R=各々独立してHまたはC−Cアルキル、
、X=各々独立してO、CH、CHCH、C(CH、NH、NCH
Y=NH、S、O、CH
Z=直鎖または環状有機残基、ただし、Zおよびピリジン残基はグルコシド結合により連結されていない)
の化合物またはその塩または還元型から特に好ましく選択される。
【0025】
好ましい実施態様において、一般式(II)の化合物は、アデニンまたはたとえばC−およびN−置換アデニン、7−デアザなどのデアザ変異体、8−アザなどのアザ変異体または7−デアザもしくは8−アザなどの組み合わせなどのアデニン類似体、またはホルマイシンなどの炭素環類似体を含み、7−デアザ変異体は7位でハロゲン、C1−6アルキニル、C1−6アルケニルまたはC1−6アルキルにより置換されている。
【0026】
さらに好ましい実施態様において、一般式(II)の化合物は、たとえばリボースの代わりに2−メトキシデオキシリボース、2’−フルオロデオキシリボース、ヘキシトール、アルトリトールまたはビシクロ、LNAおよびトリシクロ糖などの多環式類似体を含むアデノシン類似体を含む。
【0027】
特に好ましくは、一般式(II)の化合物において、(二)リン酸の酸素は、たとえばSまたはBHによりOを、NH、NCHまたはCHによりOを、=Sにより=Oを等電子数的に置き換えることもできる。本発明による式(II)の化合物において、Wは好ましくはCONHまたはCOCHである。
【0028】
一般式(II)の化合物において、Zは、4〜6C原子、好ましくは4C原子を含む直鎖残基であって、1または2C原子が、O、SおよびNから選択される1またはそれ以上のヘテロ原子により任意に置き換えられる直鎖残基、または5または6C原子を含む環状基であって、任意にO、SおよびNから選択されるヘテロ原子ならびに任意に1またはそれ以上の置換基、および該環状基とXとに結合する残基CR(式中、R=各々独立してH、F、Cl、CHである)を含む残基が好ましい。
【0029】
Zは、飽和または不飽和炭素環式または複素環式5員環が特に好ましく、とりわけ一般式(III)の基が好ましい。
【化3】
(式中、単結合または二重結合がR5'とR5"との間に存在することができ、そして
=各々独立してH、F、Cl、CH
=CR
5'=O、S、NH、NC〜C−アルキル、CR、CHOH、CHOCH、そして単結合がR5'とR5"との間に存在する場合、R5"=CR、CHOH、CHOCH
二重結合がR5'とR5"との間に存在する場合、R5'=R5"=CR、そして、
、R6'=各々独立してCHまたはCH
【0030】
は、一般式(III)の基においてCHであることが好ましい。さらにR5'は、CH、CHOHおよびNHから選択されることが好ましい。特に好ましい実施態様においては、R5'およびR5"はいずれの場合もCHOHである。なお別の好ましい実施態様において、R5'は、NHであり、かつR5"はCHである。R=H、R=CH、R5'=R5"=CHOHおよびR=R6'=CHである式(III)の基が最も好ましい。
【0031】
最も強く好ましい実施態様においては、安定化された補酵素は、カルバNAD(J.T. Slama, Biochemistry (1988), 27, 183およびBiochemistry (1989), 28, 7688)またはカルバNADPである。本発明にしたがって使用することができる他の安定な補酵素は、国際公開第98/33936号、国際公開第01/49247号、国際公開第2007/012494号、米国特許第5,801,006号明細書、米国特許公開第11/460,366号明細書およびBlackburnらの刊行物(Chem. Comm. (1996), 2765)に記載されており、その開示内容は、本明細書に参照として明確に組み込まれる。
【0032】
本発明のさらに好ましい実施態様において、検出試薬は、たとえばメディエーターおよび/または光学的指示薬などの、分析物の定性的検出および/または定量的検出を促進する少なくとも1つの付加的な成分を含む。本出願の範囲内で使用される用語「メディエーター」は、分析物との反応により得られる還元された補酵素の反応性を増加させ、かつ電子を適切な光学的指示薬または光学的指示薬系に移動させることができる化学化合物を意味する。本発明により考慮されるメディエーターは、とりわけ、たとえば[(4−ニトロソフェニル)イミノ]ジメタノール塩酸塩などのニトロソアニリン、たとえばフェナントレンキノン、フェナントロリンキノンまたはベンゾ[h]キノリンキノンなどのキノン、たとえば1−(3−カルボキシプロポキシ)−5−エチルフェナジニウムトリフルオロメタンスルホネートなどのフェナジン、および/またはジアポラーゼ(EC1.6.99.2)である。
【0033】
本発明の意味するところのフェナントロリンキノンの好ましい例は、1,10−フェナントロリン−5,6−キノン、1,7−フェナントロリン−5,6−キノン、4,7−フェナントロリン−5,6−キノンならびにそれらのN−アルキル化またはN,N’−ジアルキル化塩を含み、N−アルキル化またはN,N’−ジアルキル化塩の場合、ハロゲン化物、トリフルオロメタンスルホネートまたは溶解性を増加させる他のアニオンが対イオンとして好ましい。本発明の目的のために特に適したジアポラーゼは、たとえばブタの心臓、クロストリジウム・クルイベリ(Clostridium kluyveri)およびバチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)由来のジアポラーゼ、ならびに天然のジアポラーゼと比較して改善された触媒機能と熱安定性を有する米国特許公開第2007/0196899号公報に記載されたジアポラーゼ突然変異体などが含まれる。前述の米国出願の開示は本明細書に参照として明確に組み込まれる。
【0034】
還元可能であり、かつ還元された場合に、色、蛍光、レミッション、透過率、偏光および/または屈折率などのその光学的性質が検出可能に変化するあらゆる物質を光学的指示薬として使用することができる。試料中の分析物の存在および/または量の測定は、裸眼で、および/または当業者に適切であることが明らかである光学的、そして特に測光法または蛍光測定法、または電気化学的方法を用いる検出装置によって行うことができる。
【0035】
ヘテロポリ酸、そして特に2,18−リンモリブデン酸が、光学的指示薬として好ましく用いられ、対応するヘテロポリブルーに還元される。あるいは、レザズリンなどのキノン、ジクロロフェノールインドフェノールおよび/またはテトラゾリウム塩を光学的指示薬として使用することも可能である。本発明の目的に適しているテトラゾリウム塩としては、たとえば、市販の製品、WST−3、WST−4およびWST−5(すべてDojindo社)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本発明によれば、本明細書に記載される診断用エレメントは、追加的に規定量の測定すべき分析物(指標分析物)を含み、規定された光学的または電気化学的検出可能なシグナルを生成するために供される。指標分析物と検出試薬との反応により生成されるシグナルの大きさが、所定のシグナル(参照シグナル)に相当し、分析物を測定するために必要とされる機能的形態で存在する検出試薬の個々の成分の適正な量と(たとえば活性な酵素の適正な量と)相関する場合、診断用エレメントは試料分析物の実際の測定の結果を示す。
【0037】
本明細書において使用される用語「機能的な形態で」とは、検出試薬の関連成分が、化学的に活性な形態で存在し、診断用エレメントにおいて意図された機能を果たすことができるということを意味する。対照的に、用語「非機能的な形態で」とは、成分が化学的に不活性な形態で存在するか、または所望の機能を実行するために必要とされる形態とは異なる化学的に活性な形態で存在しておりその意図された機能を果たすことができないということを意味する。
【0038】
本願の範囲内において記載される診断用エレメントは、検出試薬を含む乾燥試薬層を含み、そして分析物を含む試料により濡らすことができるあらゆるテストエレメントであり得る。本発明のテストエレメントは、担体層および検出試薬を含む検出層を含むことが好ましい。この場合、担体層は、その上に検出層が適切な技術を用いて適用でき、その後分析物を測定するために使用される検出試薬のための担体として作用するあらゆる材料で作ることができる。検出試薬は、酵素、補酵素、メディエーター、および/または光学的指示薬に加えて、各適用の目的のために当業者に適切であることが明らかなさらなる試薬および/またはたとえば補助物質および/または添加物などの診断用エレメントを製造するために通常必要とされるさらなる試薬を任意に含む。
【0039】
指標分析物の診断用エレメント内の空間的位置決めには、個別の要求や要請に応じて当業者により選択され得る多様な変異形が含まれる。好ましい実施態様において、本発明によるテストエレメントは、検出試薬と指標分析物が共通の層に存在するように検出層に指標分析物を含む。本発明の別の好ましい実施態様においては、対照的に、指標分析物は検出層から分離された貯蔵層に、そして特に、担体層と検出層との間に位置する貯蔵層に存在し、貯蔵層は、検出層と直接接触しているか、または1つまたはそれ以上の追加的層によりこの層から分離することができる。溶解性バリア層、そして特に光化学的または電気化学的に溶解され、そして好ましくは検出層と接触することができるバリア層が、このような貯蔵層と検出層との間に配置されることが特に好ましい。
【0040】
診断用エレメントの検出試薬との非制御反応とそれによる実際の分析物の測定の偽証(falsification)を回避するために、本発明のテストエレメントは、検出試薬との反応に近づき難い放出可能な形態で指標分析物を含む。本願において使用される用語「検出試薬との反応に近づき難い放出可能な形態で」は、用語「保護された形態で」と同義であるとみなされるものであり、指標分析物と検出試薬とのあいだの(時期尚早な)反応を特に防止するあらゆる方法を包含する。望まれていない化学反応に対して指標分析物を保護する手段には、とりわけ適切な保護基を用いる指標分析物の化学的誘導体化、検出試薬に対して不活性である溶解性マトリックスへの指標分析物のカプセル化、および検出試薬を含む検出層および/または貯蔵層からの指標分析物の空間的な分離などがある。
【0041】
化学的誘導体化の場合、これが引き起こす不活性化のために指標分析物は診断用エレメントの検出試薬と直接接触できるが、化学的保護基をもたない指標分析物を用いる場合、検出試薬との直接接触は避けなければならない。この目的のためには、たとえば指標分析物は、検出試薬に不活性であり、規定された条件下で溶解し、そして指標分析物を放出する有機または無機マトリックスにカプセル化することができる。あるいは、検出試薬との時期尚早な反応を避けるために、以下に規定する少なくとも1つの条件のもとで溶解され、たとえば貯蔵層から検出層に指標分析物を放出することが可能なバリア層により指標分析物を検出層から分離することができる。
【0042】
検出試薬との化学反応を可能にするために、診断用エレメントにおいて指標分析物は、検出試薬との反応に近づき難いその形態から所定の時間で放出されなければならない。放出は、適切な手段を用いて、特に、適切な波長の光を照射することにより光化学的に、または電圧を印加することにより電気化学的に、いつでも、特に試料分析物と検出試薬との反応の前または後で行われ、その過程において、存在していたであろう指標分析物の保護基が開裂され、指標分析物を含むマトリックスが少なくとも部分的に溶解され、および/または貯蔵層と検出層との間に位置する溶解性バリア層が少なくとも部分的に崩壊される。溶解性マトリックスまたはバリア層の部分的または完全な崩壊は、たとえば、結晶のおよびアモルファスの固形物上で使用でき、特に光情報処理、分子エレクトロニクス、集積光学および光電子工学において使用できる空間的ホールバーニング法を用いて行うことができる(C. Braeuchle,“Angewandte Chemie”, (1992), 104(4), 431-435)。
【0043】
エネルギー吸収体を含有するポリマーマトリックスは、本発明の範囲内の空間的ホールバーニング法の適用について特に興味深い。エネルギー吸収体は、それらの吸収スペクトルに依存してエネルギーを吸収し、もし蛍光放射線などのエネルギー減衰の他の方法が利用できないならば、このエネルギーをそれらの局所的環境に放出する。照射の持続期間と強度に依存して、周囲のポリマーマトリックスは、加熱効果により膨張し、融解し、破裂しおよび/または化学的修飾反応を受ける。この点において、少なくとも1つのエネルギー吸収体を含むポリマーマトリックスは、指標分析物をカプセルかするために、および/または診断用エレメントの検出試薬との望まれない反応から指標分析物を保護するバリア層として使用することができる。
【0044】
適切な波長、特に分析物測定の波長と少なくとも50nm異なる波長の光による照射でポリマーマトリックスにおいてホールが破壊されまたは生成される場合、指標分析物を規定された条件下で検出試薬と、任意の選択時間で接触させ、好ましくは光学的にまたは電気化学的に測定できるシグナルを生成することが可能である。分析物の測定を、たとえば紫外線領域で(すなわち400nmより短い領域の波長で)、特に約150nm〜約400nmの範囲の波長で行う場合、その後、エネルギー吸収体を励起するために、たとえば>400nmの波長で、特に約450nm〜約800nmの範囲の波長で光を照射することが可能である。
【0045】
したがって、前述した方法は、通常、試薬の制御放出のためのシステムの提供を可能とし、その放出は、系内の他の反応プロセスとは独立して行われ、それゆえ、系内の反応プロセスの標的化した制御を可能とする。その結果、保護された形態で存在し、規定された条件下で放出されることができる試薬、およびそれから分離されている反応系を含む担体、ならびに担体上の試薬を放出するための手段を含むシステムは、たとえば、特に反応カスケードとの関連で回路素子として使用されることができる。これに関連して、試薬は、反応系との反応の前に、特に溶解性マトリックスへの試薬のカプセル化によって、溶解性バリア層による反応系からの試薬の空間的分離によって、および/または本件出願の範囲内で詳細に説明されているように化学的保護基を用いて保護することができる。
【0046】
好ましい態様において、本発明のテストエレメントの検出層、バリア層および/または貯蔵層は、したがって、少なくとも1つのエネルギー吸収体を含み、その結果指標分析物を、診断用エレメントの前述したような適切な波長の光での照射前の検出試薬との直接的な接触から保護することができるポリマーマトリックスを含む。本発明によれば、エネルギー吸収体を含むポリマーマトリックスは、特に本明細書中に記載された診断用エレメントの検出層に組み込まれるか、または、たとえばバリア層といわれるような別の層の形態である。本発明によれば、そのようなバリア層の厚さは、0.05μm〜5μmの範囲、好ましくは1μm〜3μmの範囲である。ポリマーマトリックスが、たとえば化学的保護基をもたない指標分析物を検出層から空間的に分離する目的のバリア層として作用しない場合、その後ポリマーマトリックスは、エネルギー吸収体に加えて好ましくは指標分析物も含有し、ここで、指標分析物は、特に本発明の好ましい変形であるポリマーマトリックスにカプセル化される。
【0047】
ポリマーマトリックスは、好ましくは、診断用エレメントが水分と接触した場合に、指標分析物が部分的溶解の兆候を示すのを防ぐ少なくとも1つの疎水性ポリマーからなる。特に、ポリマーは、熱ホール形成を促進し、5℃〜50℃の温度で安定、すなわちいかなる分解の兆候をも示さない疎水性有機ポリマーである。原則として、水にまたは水で溶解できない疎水性ポリマーが、本発明の意義の範囲内でポリマーマトリックスを形成するのに好適なポリマーとして考慮される。前述したポリマーマトリックスは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルメタクリレート(PEMA)、ポリカーボネートおよびそれらの化学的誘導体からなる群より選択される疎水性ポリマーから特に好ましく形成されるが、当業者に公知の他の疎水性ポリマーも使用することができる。
【0048】
本発明によれば、ポリマーマトリックスは、少なくとも1つのエネルギー吸収体を種々の形態で、たとえば共有結合および/または遊離型で含むことができ、ポリマーマトリックス内のエネルギー吸収体の共有結合は、好ましいものとみなされる。ポリマーマトリックスが共有結合したエネルギー吸収体を含有する場合、その後エネルギー吸収体は、疎水性ポリマーの直接的な成分となることが好ましく、特に、たとえばエネルギー吸収体の適切なモノマーを重合することにより達成することができる疎水性ポリマーのポリマー鎖に結合されることが好ましい。このように、エネルギー吸収体の多数の分子をポリマーマトリックス中に確実に存在させることが可能となり、ポリマーマトリックスを生成するために使用されるポリマー溶液への選択されたエネルギー吸収体の溶解性にかかわりなく、高いエネルギー吸収を可能とし、それにより、指標分析物を放出するためにポリマーマトリックスの溶解を支持するポリマーマトリックスが得られる。対照的に、エネルギー吸収体がポリマーマトリックスに遊離の形態または結合していない形態で存在する場合、すなわちエネルギー吸収体をドープされたポリマーマトリックスが生成される場合は、たとえば適切なポリマー前駆体およびエネルギー吸収体を単純に混合し、その後混合物を重合することにより達成することができる。
【0049】
各要件に依存して、照射により吸収されたエネルギーを少なくとも部分的にその局所環境に放出し、それによりポリマーマトリックスの変化を生じさせる重合ポリマーマトリックス内に含有されるエネルギー吸収体として、エネルギー吸収体を使用することが可能である。ホール形成を促進するために、ポリマーマトリックスおよび/または疎水性ポリマーは、少なくとも1つのエネルギー吸収体に加えて、さらに、たとえば窒素、二酸化炭素、または室温、適切な加熱条件下で気体である他の化合物などの揮発性の高い化合物を放出する熱的に不安定な化合物または熱的に不安定な官能基を含む。これらの化合物または官能基の例としては、特に、アゾ誘導体、カルボン酸誘導体および環状アルケンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
本発明に使用されるエネルギー吸収体は、好ましくはポリマーマトリックスに高度に溶解し、および/または励起後、蛍光を放射しないかまたはわずかのみ放射し、したがって低い量子効率、特に量子効率ゼロの疎水性色素が好ましい。実際の分析物測定の波長(たとえば、λ=375nm)に吸収をもたない、または低い吸収を示すが、実際の測定のあいだ指標分析物の望まれない放出のリスクを回避するオルソゴナル波長(たとえば、λ>500nm)に高い吸光係数を有する本発明の範囲内の疎水性色素を使用することがより好ましい。これに関連して、たとえば、クリプトシアニン、インドトリカルボシアニン(C7)、オキサカルボシアニン(C3)、ヨウ化ピナシアノール、チアカルボシアニン(C3)、チアジカルボシアニン(C5)などのシアン色素、またはスクアリリウム色素IIIなどのスクアリリウム色素が特に好ましく用いられる。
【0051】
本発明の更なる変形においては、検出試薬との反応に近づき難い放出可能な形態で存在する指標分析物は、必要に応じて、規定された条件下で指標分析物を放出可能にする方法において開裂できる光化学的におよび/または電気化学的に開裂可能な保護基を含む。たとえば、グルコースを誘導体化するために使用可能な光化学的に開裂可能な保護基の例としては、特に、アントラキノン誘導体、安息香酸誘導体、クマリン誘導体、ニトロベンゾフェノン誘導体、チオキサンテン誘導体、チオキサンテノン誘導体、キサンテン誘導体およびベラトリル誘導体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の範囲内で使用できる電気化学的に開裂可能な保護基の例には、とりわけ、アンソロン誘導体が含まれる。有機合成における保護基の包括的な概観は、T. W. Greene,“Protecting Groups in Organic Synthesis”, 2nd Edition, John Wiley and sons, New York, 1991にみられる。
【0052】
指標分析物は、好ましくは検出試薬と試料分析物との反応の前または後に本発明にしたがい放出される。分析物の試料で診断用エレメントを濡らした直後(たとえば、1秒以内)には、検出試薬は測定すべき分析物とまだ反応せず、それにより規定量で存在する指標分析物との反応は、干渉を受けずにモニターできるが、診断用エレメントを濡らした約1秒後に試料に溶解された試料分析物の変換の結果を観察する。この点において、通常、試料分析物により生じるシグナルと指標分析物により生じるシグナルとを区別することが不可能であるため、診断用エレメントにおける指標分析物の放出は、試料分析物の変換の結果から、試料分析物のほぼ完全な変換の時間まで望ましくない。したがって、指標分析物は、あるいは試料分析物が検出試薬により完全に変換されるまで放出されず、生成されたシグナルは、全体のシステム検査との一部として測定されることが有利であると示される。
【0053】
分析物を水性または非水性溶液の形態で適用できる診断用エレメントは、本発明の範囲内で好ましく使用される。本発明の特に好ましい実施態様においては、診断用エレメントは、テストテープ、テストディスク、テストパッド、テストストリップ、テストストリップドラムまたは国際公開第2005/084530号に記載されている診断用エレメントであり、この文献への言及は、明確に本明細書になされる。このため、本願に記載された診断用エレメントはそれぞれ、分析物を含有する試料と接触させることができ、そして適切な手段を用いて分析物の定性および/または定量測定を可能にする少なくとも1つのテスト領域を含む。
【0054】
本願明細書において使用される用語「テストテープ(test tape)」は、通常1つ以上の個別のテスト領域、好ましくは少なくとも10個の個別のテスト領域、より好ましくは少なくとも25個の個別のテスト領域、そして最も好ましくは少なくとも50個の個別のテスト領域を含むテープ状診断用エレメントを意味する。個別のテスト領域は、好ましくは数ミリメートルから数センチメートルの距離で、たとえば互いどうしが2.5cmより短い距離でそれぞれ配置され、そして、テストテープは任意には、連続した試験領域の間に、テープ移動中の移動した距離を記録するために、および/または較正のためにマーカー領域を含むことができる。このようなテストテープは、たとえば欧州特許出願公開第1739,432号明細書に記載されており、その開示は、本明細書に参照として明確に組み込まれる。
【0055】
本明細書に使用される用語「テストディスク(test disk)」は、1つ以上の個別のテスト領域、たとえば少なくとも10個の個別のテスト領域を含むことができるディスク型の診断用エレメントを意味する。1つの実施態様において、テストディスクは、テスト薬品の薄層で、たとえば約20μmの厚さを有する層で被覆されており、そこに分析物の試料を適用することができる。大きさに程度の差はあるが、試料の容量に依存してテストディスクの領域が試料により浸潤され、そして分析物を測定するために使用され得る。テスト薬品の層を通じて水分が通過することにより部分的または完全に浸潤され得るテストディスクの非浸潤領域は、その後、分析物のさらなる測定のために利用される。
【0056】
本発明のテストエレメントは、光化学的にまたは電気化学的に検出できる任意の生物学的または化学的物質を測定するために使用することができる。分析物は、好ましくは、リンゴ酸、アルコール、アンモニア、アスコルビン酸、コレステロール、システイン、グルコース、グルタチオン、グリセロール、尿素、3−ヒドロキシ酪酸塩、乳酸、5’−ヌクレオチダーゼ、ペプチド、ピルビン酸塩、サリチル酸塩およびトリグリセリドから選択され、グルコースが特に好ましい。この場合、分析物は、あらゆる源に由来するものであってよく、限定されるものではないが、全血、血漿、血清、リンパ液、胆汁、脳脊髄液、細胞外組織液、尿ならびに、たとえば唾液または汗などの腺分泌物を含む体液に存在するものが好ましい。本明細書に記載される診断用エレメントは、全血、血漿、血清または細胞外組織液の試料中の分析物の存在および/または量を測定するために好ましく用いられる。
【0057】
好ましい実施態様において、本発明は、本明細書に記載された診断用エレメントが、いくつかの分析物の測定用に設計されることを想定しており、ここで本明細書において使用される用語「いくつかの」は、1より大きい任意の数、好ましくは2〜10、より好ましくは2〜5そして最も好ましくは2または3を意味する。本発明のテストエレメントにより、単一のまたはいくつかの異なる試料に存在し得るいくつかの分析物を測定することを意図する場合、その後異なる分析物は、基本的に1つの同じテスト領域において測定されるか、または診断用エレメントの異なるテスト領域において測定され得るが、単一のテスト領域におけるいくつかの分析物の測定が有利である。この目的のため、本発明のテストエレメントは、たとえば、測定すべき分析物各々について、特定の検出試薬および規定された量の別々の分析物を含み、特に、たとえば異なる層から、および/または異なる時間で、診断用エレメント中のそれぞれの指標分析物を放出することにより、個々の分析物の連続的な測定が設計される。
【0058】
分析物の定性および/または定量測定は、あらゆる所望の方法で実施することができる。この目的のためには、先行技術において公知であり、かつ、手動でもしくは適切な手段を使用することによって評価されるかまたは読み出されることが可能である測定可能な信号を発生できる、酵素反応を検出するための全ての方法が、基本的には使用され得る。本発明の範囲内において、たとえば、吸収、蛍光、円偏光二色性(CD)、旋光分散(ORD)、屈折率測定などの測定を含む光学的検出法、ならびに電気化学的技術が好ましく使用される。分析物は、特に好ましくは、光度計測的に、または蛍光計測的に、たとえば補酵素の蛍光計測的に検出可能な変化により間接的に検出される。
【0059】
もう1つの側面において、本発明は、本発明の診断用エレメントを含み、分析物の定性および/または定量測定を可能にする分析的測定装置に関する。それらの分析的測定装置の例としては、とりわけ、市販の製品、Accu−Chek(登録商標) Active、Accu−Check(登録商標) CompactおよびAccu−Check(登録商標) Mobile(すべてロッシュ社)などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
またさらなる側面において、本発明は、分析物の測定方法であって、
(a)分析物を本発明の診断用エレメントと接触させる工程、および
(b)分析物の存在および/または量を測定する工程
を含む方法に関する。
【0061】
なお、さらなる側面において、本発明は、分析物により生成されたシグナルを較正する方法であって、
(a)本発明の診断用エレメントを分析的測定装置に挿入する工程、
(b)分析物を診断用エレメントと接触させることにより、分析的測定装置において第1の検出可能なシグナルを生成する工程、
(c)診断用エレメント中の指標分析物を放出することにより、分析的測定装置において第2の検出可能なシグナルを生成する工程、および
(d)工程(c)において生成されたシグナルを用いて工程(b)において生成されたシグナルを較正する工程
を含む方法に関する。
【0062】
前述した方法の一部として、本発明の診断用エレメントは、たとえば前述したようにまず分析的測定装置中に挿入される。その後、測定すべき分析物を診断用エレメントと接触させ、その際、分析物と分析物のための特定の検出試薬とをお互いに反応させ、そして第1の光学的にまたは電気的に検出可能なシグナルが分析的測定装置において生成されることが好ましい。
【0063】
第1の測定シグナルが、どの程度正確に分析物の濃度を表しているかを評価するために、診断用エレメント中の指標分析物は、さらなる工程における検出試薬との反応のために近づき難いその形態から放出され、放出は、本発明の診断用エレメントの説明に関連して記載されたような方法を用いて行われることが好ましい。このように放出された指標分析物は、続いて、分析物のための特定の検出試薬と接触させられ、分析的測定装置において第2の光学的にまたは電気的に検出可能なシグナルを生成する。これは、分析物および放出された指標分析物の同時検出のために、第1の測定シグナルより通常より顕著である。
【0064】
たとえば、較正曲線などの適切な手段を用いることにより、好ましくは、適切な分析的測定装置の2つの異なる測定チャネルを用いて検出される第1のおよび第2の測定シグナルを、いずれも分析物のある濃度に関連付けることができる。第1の測定シグナルから算出される分析物の濃度が、第2の測定シグナルから算出される分析物の濃度と合わない場合、ついで第1の測定シグナルから算出される分析物の濃度は、たとえば適切なアルゴリズムを用いて行うことができる第2の測定値の結果を用いて較正される。このように、とりわけ環境の影響により(たとえば、温度、空気湿度)測定値の潜在的な変化、診断用エレメントの製造関連の異常および/または試料における干渉物質の存在を最小限にすることができ、そしてそれにより分析物測定の正確性を改善する。
【0065】
なおさらなる側面において、本発明は、分析的測定装置の検出オプティクスを検査する方法であって、
(a)本発明の診断用エレメントを分析的測定装置に挿入する工程、
(b)診断用エレメントにおいて指標分析物を放出することにより分析的測定装置において検出可能なシグナルを生成する工程、そして
(c)工程(b)において生成されたシグナルを参照シグナルと関連付ける工程
を含む方法に関する。
【0066】
この方法は、特に分析的測定装置の検出オプティクスの汚染をチェックするために使用される。本発明の診断用エレメントを分析的測定装置に挿入した後、たとえば、本発明の診断用エレメントの説明に関連して記載される方法を用いて指標分析物が診断用エレメントにおいて放出され、定義され、好ましくは光学的にまたは電気化学的に検出可能なシグナルが、参照シグナルと相関できる、分析物に対する特定の検出試薬と放出された指標分析物との反応により分析測定装置において生成する。
【0067】
分析的測定装置の検出オプティクスが汚染されている場合、より弱いシグナルが、指標分析物が検出試薬と反応された際の参照シグナルと比較して検出され、結果として使用者が、たとえば光学的または音響的シグナルにより分析的測定装置の不都合に気付くことができ、その場合測定値を否定できる。
【0068】
また、さらなる側面において、本発明は、試薬の制御放出のためのシステムであって、
(a)試薬および別々の反応系を含む担体であって、試薬は反応系との反応のために近づき難く、規定された条件下で放出できる、放出可能な形態で存在する担体、および
(b)担体上の試薬を放出するための手段
を含むシステムに関する。
【0069】
なおさらなる側面において、本発明は、本発明による放出システムの回路素子としての使用に関する。
【0070】
以下の図および実施例により本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0071】
実施例1:誘導体化された形態の指標分析物を含有する診断用エレメントの製造および使用
【0072】
誘導体化された形態のグルコース(トリス−ベラトリル誘導体)およびポリアクリルアミド(アルドリッチ社)を、Pokalon foil(Lonza社)の担体層上に一緒に適用した。その後、このように得られた2層テストエレメントを発光測定装置(自社ロッシュ社)上に置き、375nmの波長の光を2分間照射した。つぎに10mlのリン酸緩衝液(pH7)(メルク社)中、10mgグルコースデヒドロゲナーゼ(GlucDH、ロッシュ社)および10mgニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD;ロッシュ社)の溶液を診断用エレメントに適用し、テストエレメントに使用されたグルコース誘導体からのグルコースの放出を検出するためにNADHの生成を蛍光分析的にモニターした(図6A参照)。
【0073】
空のPokalon foil、または前述のGlucDHおよびNADの溶液と組み合わせたPokalon foilは、参照としてそれぞれ蛍光測定的に測定した(図6B参照)。
【0074】
実施例2:遊離の指標分析物と色素−ドープポリマーマトリックスを含む診断用エレメントの製造と使用
【0075】
色素−ドープポリマーマトリックスを含む診断用エレメントを製造するために、2つの部分溶液1および2を以下の組成で製造した。
【0076】
部分溶液1:
【表1】
【0077】
部分溶液2:
【表2】
【0078】
2つの部分溶液の調製後、ドクターブレードで塗布(30μm湿潤層厚)し、その後乾燥することにより部分溶液1からグルコース含有層を製造した。その後、部分溶液2を、ドクターブレードを用いて指標分析物を含有する乾燥させた層の上に塗布(60μm湿潤層厚)し、そして乾燥した。
【0079】
このように得られた色素ドープポリマー層を、携帯レーザーで照射し(波長650nm、<5ワット)、その約20分後、ホールが照射された層に観察された(図7A)。その後、10mgグルコースデヒドロゲナーゼ(GlucDH、ロッシュ社)および10mgニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD、ロッシュ社)の10mlリン酸緩衝液、pH7(メルク社)の溶液を照射により生じたホールに適用するとすぐに、下層から放出されたグルコースが酵素系との反応により酸化され、緑がかった青色蛍光NADHが形成された(図7B)。
【0080】
参照として、前述のグルコースデヒドロゲナーゼ(GlucDH)とニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)のリン酸緩衝液、pH7の溶液を、事前の色素ドープポリマー層の照射なしに後者の層上に適用した。この場合、熱的に誘導したホールがないため、グルコースは、下層から放出されず、NADHも形成されない(図7C参照)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]