(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記耐熱高線膨張材は、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、フッ素ゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、又はウレタンゴムから構成される
請求項1に記載の人工欠陥材料。
前記耐熱高線膨張材は、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、フッ素ゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、又はウレタンゴムから構成される
請求項4又は5に記載の人工欠陥材料の製造方法。
前記耐熱高線膨張材は、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、フッ素ゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、又はウレタンゴムから構成される
請求項8乃至10のいずれかに記載のFRP構造体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0029】
添付図面を参照して、本発明による人工欠陥材料及びFRP構造体の製造方法の実施の形態を以下に説明する。
【0030】
(第1の実施形態)
図1は、冷却後の完成した人工欠陥材料10(標準試験片)の断面図である。
図2は、治具80の上に強化繊維基材14及び耐熱高線膨張材20を積層配置した状態を示す断面図である。
図3は、強化繊維基材14及び耐熱高線膨張材20をバッグ82で被い、バッグ82と治具80との間で気密性を確保する状態を示す断面図である。
図4は、加温成形時における人工欠陥材料10の断面図である。
【0031】
図1を参照して、人工欠陥材料10は、強化繊維基材14と、マトリックス樹脂16と、耐熱高線膨張材20と、収縮差により形成された空隙22とを備えている。
【0032】
人工欠陥材料10は、製品となるFRP構造体(被検体)を成形した後に、超音波探傷試験を行う際の校正に用いる標準試験片の一部として用いることができる。人工欠陥材料10は、積層した強化繊維基材14同士をマトリックス樹脂16で接着硬化させたFRP構造体であり、剥離を模擬する部分として用いることができる。
【0033】
耐熱高線膨張材20は、加温成形時におけるマトリックス樹脂16の硬化温度と、冷却後の常温との温度差に応じて、大きく熱膨張と熱収縮とを行う素材である。耐熱高線膨張材20の線膨張係数は、FRP構造体の線膨張係数よりも大きくなるように、耐熱高線膨張材20の素材を選定する。
【0034】
加温成形時には、
図4に示すように耐熱高線膨張材20は熱膨張して定形性を維持しつつ体積が増し、耐熱高線膨張材20は人工欠陥材料10のFRP構造体の内部に所定の形状を形成する中子として機能する。
【0035】
冷却後には、
図1に示すように耐熱高線膨張材20は熱収縮して体積が減少する。すると、人工欠陥材料10のFRP構造体の内部に形成した所定の形状と、熱収縮した耐熱高線膨張材20との間に収縮差により形成された空隙22が生ずる。この収縮差により形成された空隙22を、超音波探傷試験用の標準試験片として使用する際の、人工欠陥として用いることができる。
【0036】
耐熱高線膨張材20は、例えば厚さ10〜80μmの無垢部材であり、幅、長さは被検体に生じ得る欠陥に応じて適宜設定することができる。耐熱高線膨張材20の線膨張係数は、FRP構造体の線膨張係数に対して150×10
-6(1/℃)以上(より好ましくは200×10
-6(1/℃)以上)となる高線膨張係数の素材を用いることが好ましい。また、耐熱高線膨張材20の素材は、
図4に示す加温成形時におけるマトリックス樹脂16の硬化温度(樹脂の物性に応じて130〜500℃。)に耐える耐熱性を備える必要がある。
【0037】
例えば、FRP構造体の線膨張係数Δ1=30×10
-6(1/℃)、耐熱高線膨張材20の線膨張係数Δ2=230×10
-6(1/℃)、加温成形時の温度が180℃、冷却後の常温が15℃、温度差ΔT=165℃、耐熱高線膨張材20の厚さt=30μm、と仮定した場合における厚さ方向の収縮差により形成された空隙22の寸法について試算する。
【0038】
この場合に収縮差により形成された空隙22の寸法Hは、H=(Δ1−Δ2)×ΔT×t≒−1μmとなる。この1μmの隙間(収縮差により形成された空隙22)は、耐熱高線膨張材20と強化繊維基材14又はマトリックス樹脂16との間に生ずる空隙であり、実際の製品のFRP構造体(被検体)において実際に発生し得る層間剥離による空隙に近いものである。なお、収縮差により形成された空隙22の寸法Hは、0.1μm以上にすることが望ましい。より好ましくは、収縮差により形成された空隙22の寸法Hとして、1μm以上確保することが好ましい。
【0039】
この収縮差により形成された空隙22は、超音波探傷試験に用いられる超音波を強く反射する。また、この耐熱高線膨張材20の厚さは薄くすることが可能であることから、人工欠陥材料10を被検体と同様の形状及び製造方法で成形することができる。従って、人工欠陥材料10に関する制約が少ないので、多種のFRP構造体(被検体)を模した標準試験片を、容易に製造することができる。
【0040】
図1に示す人工欠陥材料10を用いることにより、超音波探傷試験の校正時におけるノイズ成分を低減することができ、FRP構造体(被検体)の超音波探傷試験における二次検査を省略して検査工数を低減することも可能となる。
【0041】
耐熱高線膨張材20に線膨張係数が大きい素材を用いることにより、FRP構造体の冷却時において耐熱高線膨張材20が熱収縮し、耐熱高線膨張材20はFRP構造体との間で剥がれ易くなる。これにより、耐熱高線膨張材20とFRP構造体との間での剥離をより確実にして、均一な収縮差により形成された空隙22を有する高品質な標準試験片を提供することができる。
【0042】
また、人工欠陥材料10の製造時において、強化繊維基材14の層間に耐熱高線膨張材20を配置する前に、耐熱高線膨張材20の表面に離型剤を塗布する離型処理を行っておくことによって、冷却時における耐熱高線膨張材20の剥離を促進することができる。
【0043】
耐熱高線膨張材20の素材として、剥離性に優れたシリコーンゴム、シリコーン樹脂を用いることが好ましい。また、高耐熱性が必要な場合にはフッ素ゴム(フッ素樹脂よりも線膨張係数が大きい素材。)を用いることができる。また、中耐熱性の素材として、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム等の素材を用いることができる。また、耐熱性が不要な場合には、ウレタンゴム等の素材を用いることもできる。また、ショア硬度がA20〜A70の素材を用いることができる。
【0044】
耐熱高線膨張材20の素材を選定するに際しては、価格、成形温度、使用する離型剤に対する耐薬品性、必要となる収縮差により形成された空隙22の寸法(FRP構造体の線膨張係数との差)等を考慮して決定することが好ましい。
【0045】
離型剤には、フッ素系の化合物や、シリコーン系のものを用いることができる。
【0046】
次に、
図1に示す人工欠陥材料10の製造方法(熱硬化型)について説明する。
【0047】
[強化繊維基材14の層を配置する工程]
図2を参照して、人工欠陥材料10を成形する場合には、先ず所定の形状を有する治具80の上に強化繊維基材14を積層配置する。治具80の素材として、金属、FRP構造体、石膏、その他の材料を用いることができ、硬化温度と治具素材の耐熱性を考慮して選定する。また、治具80には、成形を行うFRP構造体に近い線膨張係数を有する素材を用いることが好ましい。
【0048】
[強化繊維基材14の層間に耐熱高線膨張材20を配置する工程]
必要に応じて耐熱高線膨張材20の表面に離型剤を塗布する。そして、強化繊維基材14の少なくとも一つの層間における所定の位置に、所定の大きさの耐熱高線膨張材20を配置する。
【0049】
[強化繊維基材14をバッグ82で被う工程]
図3を参照して、強化繊維基材14、及び耐熱高線膨張材20をシーラント84、バッグ82等の副資材で被い、バッグ82と治具80との間で気密性を確保する。なお、
図3に示す実施形態では、副資材としてシーラント84、及びバッグ82を図示したが、必要に応じてピールプライ、ブリーザクロス、その他の副資材を配置することができる。
【0050】
[強化繊維基材14が配置されたバッグ82の内部を真空に引く工程]
治具80とバッグ82とで囲まれた強化繊維基材14が配置された部位を真空に引いて、大気圧を用いて強化繊維基材14に押圧力を印加する。
【0051】
[強化繊維基材14が配置されているバッグ82の内部にマトリックス樹脂16を注入する工程]
真空に引いた部位にマトリックス樹脂16を注入して、強化繊維基材14及び強化繊維基材14の層間にマトリックス樹脂16を含浸させる。
【0052】
[強化繊維基材14、耐熱高線膨張材20、及びマトリックス樹脂16を常温よりも高温な成形温度に上昇させてFRP構造体の成形を行う工程]
マトリックス樹脂16として熱硬化型のものを用いる場合には、強化繊維基材14、耐熱高線膨張材20、及びマトリックス樹脂16を成形温度まで上昇させて、所定時間かけてマトリックス樹脂16を硬化させ、強化繊維基材14の複数の層同士とマトリックス樹脂を一体化する。この加温によって強化繊維基材14の層間に配置した耐熱高線膨張材20が熱膨張して、一般の樹脂成形時における中子のように機能して人工欠陥部分の形状を形成する(
図4参照。)。加温による硬化時間は、例えば2〜3時間である。
【0053】
[FRP構造体の成形後に常温に下げる工程]
所定の硬化時間が経過してマトリックス樹脂16が硬化したら、FRP構造体の温度を常温に下げて、FRP構造体の人工欠陥材料10を形成する。このときFRP構造体の線膨張係数と耐熱高線膨張材20の線膨張係数との差により、収縮差により形成された空隙22が形成される。その後、バッグ82を取り外すと、
図1に示す人工欠陥材料10が得られる。
【0054】
なお、必要に応じて、FRP構造体(標準試験片)の一部を切除する加工を行って、FRP構造体(標準試験片)から耐熱高線膨張材20を取り出すトリミング工程を追加することもできる。FRP構造体(標準試験片)の成形後に、FRP構造体(標準試験片)から耐熱高線膨張材20を取り出すことによって、耐熱高線膨張材20を含まない標準試験片を製造することができる。
【0055】
耐熱高線膨張材20に、高線膨張係数を有すると共に剥離性に優れる素材を用いることによって、冷却後にFRP構造体と耐熱高線膨張材20との間に隙間を形成することができる。また、耐熱高線膨張材20に、高線膨張係数を有すると共に剥離性に優れる素材を用いることによって、冷却後にFRP構造体から耐熱高線膨張材20を抜き取ることも容易となる。
【0056】
強化繊維基材14の素材として、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、フェノール繊維、ポリエチレン繊維、ポリビニルアルコール繊維等の有機繊維、金属繊維、セラミック繊維、又はこれらの組み合わせを使用することもできる。また、プリプレグ材を用いることもできる。
【0057】
また、マトリックス樹脂16として、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を使用することができる。成形性や、力学特性の面からは、現状では熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。熱硬化性樹脂として、例えば、エポキシ、フェノール、ビニルエステル、不飽和ポリエステル、シアネートエステル、ビスマレイミド、ベンゾオキサジン、その他の樹脂を用いることができ、硬化するために、硬化剤、硬化促進剤、重合開始剤、触媒等が添加されている。更に、エラストマー、ゴム等を添加したものも使用することができる。なお、治具80やバッグの強化繊維基材14の側には、離型剤や樹脂拡散メディアを配置しておくことが好ましい。
【0058】
上記の実施形態では、マトリックス樹脂16として熱硬化型の樹脂を用いる実施形態について説明したが、熱可塑型の樹脂を用いた人工欠陥材料10(標準試験片)を成形することもできる。熱可塑性樹脂として、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファヂイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PEKK(ポリエーテルケトンケトン)、PEK(ポリエーテルケトン)、PI(ポリイミド)、PEI(ポリエーテルイミド)、PA(ナイロンポリアミド)等を用いることができる。
【0059】
マトリックス樹脂16として熱可塑性型のものを用いる場合には、強化繊維基材14内の所定の位置に所定の大きさの耐熱高線膨張材20を配置した後に、高温下で軟化したマトリックス樹脂16を強化繊維基材14及び強化繊維基材14の層間に含浸させる。このとき、加温によって強化繊維基材14の層間に配置した耐熱高線膨張材20が熱膨張して、人工欠陥部分の形状を形成する。その後FRP構造体(標準試験片)の温度を常温に下げると、FRP構造体(標準試験片)の線膨張係数と耐熱高線膨張材20の線膨張係数との差により、FRP構造体(標準試験片)と耐熱高線膨張材20との間に収縮差により形成された空隙22が形成される。すると、
図1に示す人工欠陥材料10が得られる。また、強化繊維基材14及びマトリックス樹脂16に変えて、熱可塑性のプリプレグ材を用いて人工欠陥材料10を形成することもできる。
【0060】
次に、
図5を参照して、人工欠陥材料の他の構成例について説明する。
図5は、強化繊維基材14の層が多層であり、強化繊維基材14の層間に層間空隙23が形成されている人工欠陥材料10Aの構成例を説明する図である。なお、
図1に示した部位と同一の機能を有する部位については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0061】
人工欠陥材料の形状や構成は、
図1に示した人工欠陥材料10に限定されず、被検体となるFRP構造体の形状や構成に応じて、人工欠陥材料の形状や構成も適宜設定することができる。例えば
図5に示す人工欠陥材料10Aでは、強化繊維基材14の層は3層で表してあるが、数十層以上配置することもできる。また、収縮差により形成された空隙22(人工欠陥)の位置も、必要に応じて適宜配置することができる。更には、被験体となるFRP構造体の形状や構成に応じて、収縮差により形成された空隙22は強化繊維基材14による層間に限定されず、少なくとも1つが接着剤により形成される層間であっても良い。
【0062】
(第2の実施形態)
次に、プリプレグ材14P(強化繊維基材にマトリックス樹脂16を含浸させた基材)を用いた人工欠陥材料10Pについて
図6乃至
図8を用いて説明する。
図6は、冷却後の完成した人工欠陥材料10P(標準試験片)の断面図である。
図7は、治具80の上にプリプレグ材14P、及び耐熱高線膨張材20を積層配置すると共にバッグ82で被い、バッグ82と治具80との間で気密性を確保する状態を示す断面図である。
図8は、加温成形時における人工欠陥材料10Pの断面図である。
【0063】
図6を参照して、人工欠陥材料10Pは、プリプレグ材14Pと、耐熱高線膨張材20と、収縮差により形成された空隙22とを備えている。図には明示されていないが、被験体となるFRP構造体の形状や構成に応じて、収縮差により形成された空隙22は強化繊維基材14による層間に限定されず、少なくとも1つが接着剤により形成される層間であっても良い。
【0064】
人工欠陥材料10Pは、製品となるFRP構造体(被検体)を成形した後に、超音波探傷試験を行う際の校正に用いる標準試験片である。人工欠陥材料10Pは、積層したプリプレグ材14P同士を一体化、硬化させたFRP構造体の標準試験片である。
【0065】
耐熱高線膨張材20は、加温成形時におけるプリプレグ材14Pの硬化温度と、冷却後の常温との温度差に応じて、大きく熱膨張と熱収縮とを行う素材である。耐熱高線膨張材20の線膨張係数は、FRP構造体の線膨張係数よりも大きくなるように、耐熱高線膨張材20の素材を選定する。
【0066】
加温成形時には、
図8に示すように耐熱高線膨張材20は熱膨張して定形性を維持しつつ体積が増し、耐熱高線膨張材20は人工欠陥材料10PのFRP構造体の内部に所定の形状を形成する中子として機能する。
【0067】
冷却後には、
図6に示すように耐熱高線膨張材20は熱収縮して体積が減少する。すると、人工欠陥材料10PのFRP構造体の内部に形成した所定の形状と、熱収縮した耐熱高線膨張材20との間に収縮差により形成された空隙22が生ずる。この収縮差により形成された空隙22を、超音波探傷試験用の標準試験片として使用する際の、人工欠陥として用いることができる。
【0068】
耐熱高線膨張材20、離型剤、耐熱高線膨張材20、治具80、バッグ82、シーラント84等は、上記第1の実施形態で用いた材料、寸法を用いることができる。
【0069】
次に、
図6に示す人工欠陥材料10Pの製造方法(熱硬化型)について説明する。
【0070】
[プリプレグ材14Pの層を配置する工程]
図7を参照して、人工欠陥材料10Pを成形する場合には、先ず所定の形状を有する治具80の上にプリプレグ材14Pを積層配置する。
【0071】
[プリプレグ材14Pの層間に耐熱高線膨張材20を配置する工程]
必要に応じて耐熱高線膨張材20の表面に離型剤を塗布する。そして、プリプレグ材14Pの少なくとも一つの層間における所定の位置に、所定の大きさの耐熱高線膨張材20を配置する。
【0072】
[プリプレグ材14Pをバッグ82で被う工程]
図7を参照して、プリプレグ材14P、及び耐熱高線膨張材20をシーラント84、バッグ82等の副資材で被い、バッグ82と治具80との間で気密性を確保する。なお、
図7に示す実施形態では、副資材としてシーラント84、及びバッグ82を図示したが、必要に応じてピールプライ、ブリーザクロス、その他の副資材を配置することができる。
【0073】
[プリプレグ材14Pが配置されたバッグ82の内部を真空に引く工程]
治具80とバッグ82とで囲まれたプリプレグ材14Pが配置された部位を真空に引いて、大気圧を用いてプリプレグ材14Pに押圧力を印加する。
【0074】
[プリプレグ材14P、及び耐熱高線膨張材20を常温よりも高温な成形温度に上昇させてFRP構造体の成形を行う工程]
マトリックス樹脂16が熱硬化型である場合には、プリプレグ材14P、耐熱高線膨張材20、及びマトリックス樹脂16を成形温度まで上昇させて、所定時間かけてプリプレグ材14P、マトリックス樹脂16を硬化させ、プリプレグ材14Pの複数の層同士を一体化する。この加温によってプリプレグ材14Pの層間に配置した耐熱高線膨張材20が熱膨張して、一般の樹脂成形時における中子のように機能して人工欠陥部分の形状を形成する(
図8参照。)。
【0075】
[FRP構造体の成形後に常温に下げる工程]
所定の硬化時間が経過してマトリックス樹脂16が硬化したら、FRP構造体の温度を常温に下げて、FRP構造体の人工欠陥材料10Pを形成する。このときFRP構造体の線膨張係数と耐熱高線膨張材20の線膨張係数との差により、収縮差により形成された空隙22が形成される。その後、バッグ82を取り外すと、
図6に示す人工欠陥材料10Pが得られる。
【0076】
(第3の実施形態)
前述の第1の実施形態では、耐熱高線膨張材20を強化繊維基材14の層間に配置して、高温の成形温度下において耐熱高線膨張材20を熱膨張させて樹脂成形時における中子のように機能させて人工欠陥部分の形状を形成した。その成形後に常温に下げることによって、FRP構造体の線膨張係数と耐熱高線膨張材20の線膨張係数との差により収縮差により形成された空隙22を形成する実施形態を示した。
【0077】
これに対し第3の実施形態では、耐熱高線膨張材20を強化繊維基材14の層間に配置して、高温の成形温度下において耐熱高線膨張材20を熱膨張させて樹脂成形時における中子として機能させて層間空隙23の形状を成形する。その成形後に常温に下げることによって、FRP構造体12の線膨張係数と耐熱高線膨張材20の線膨張係数との差により収縮差により形成された空隙22を形成して、耐熱高線膨張材20を抜き易くする実施形態である。
【0078】
図9は、二つの強化繊維基材14で囲まれた層間空隙23を有するFRP構造体12の完成後の外観斜視図である。
【0079】
図9を参照して、FRP構造体12は、強化繊維基材14の複数の層と、マトリックス樹脂16と、強化繊維基材14の層で囲まれた層間空隙23(
図9に示す実施形態では断面形状が台形の空間。)とを有している。
【0080】
FRP構造体12は、積層した強化繊維基材14同士をマトリックス樹脂16で一体化、硬化させたものであり、ストリンガー、型材等の構造材である。なお、層間空隙23の形状は、さまざまな形状に成形することができる。
【0081】
次に、
図9に示すFRP構造体12の製造方法について、
図10乃至
図13を用いて説明する。
図10は、成形用の治具80の上に強化繊維基材14及び耐熱高線膨張材20を配置した状態を示す図である。
図11は、耐熱高線膨張材20を取り囲むように強化繊維基材14を上方から配置した状態を示す図である。
図12は、強化繊維基材14及び耐熱高線膨張材20をバッグ82で被い、バッグ82と治具80との間で気密性を確保した加温成形時を説明する図である。
図13は、FRP構造体12の成形を行った後の常温において、バッグ82を取り外した状態を示す図である。
【0082】
[強化繊維基材14を配置する工程]
図10を参照して、FRP構造体12を成形する場合には、先ず所定の形状を有する治具80の上に強化繊維基材14を積層配置する。
【0083】
[強化繊維基材14の層間に耐熱高線膨張材20を配置する工程]
必要に応じて耐熱高線膨張材20の表面に離型剤を塗布する。そして、強化繊維基材14の少なくとも一つの層間となる所定の位置に、所定の大きさの耐熱高線膨張材20を配置する(
図10参照)。次に、耐熱高線膨張材20を取り囲むように強化繊維基材14を上方から被せる(
図11参照)。
【0084】
[強化繊維基材14をバッグ82で被う工程]
図12を参照して、強化繊維基材14、及び耐熱高線膨張材20をシーラント84、バッグ82等の副資材で被い、バッグ82と治具80との間で気密性を確保する。なお、
図7に示す実施形態では、副資材としてシーラント84、及びバッグ82を図示したが、必要に応じてピールプライ、ブリーザクロス、その他の副資材を配置することができる。
【0085】
[強化繊維基材14が配置されたバッグ82の内部を真空に引く工程]
治具80とバッグ82とで囲まれた強化繊維基材14が配置された部位を真空に引いて、大気圧を用いて強化繊維基材14に押圧力を印加する。
【0086】
[強化繊維基材14が配置されているバッグ82の内部にマトリックス樹脂16を注入する工程]
真空に引いた部位にマトリックス樹脂16を注入して、マトリックス樹脂16を強化繊維基材14の束内及び強化繊維基材14の層間に含浸させる。
【0087】
[強化繊維基材14、耐熱高線膨張材20、及びマトリックス樹脂16を常温よりも高温な成形温度に上昇させてFRP構造体の成形を行う工程]
マトリックス樹脂16として熱硬化型のものを用いる場合には、強化繊維基材14、耐熱高線膨張材20、及びマトリックス樹脂16を成形温度まで上昇させて、所定時間かけてマトリックス樹脂16を硬化させ、強化繊維基材14の層同士を接着する。この加温によって、強化繊維基材14の層間に配置した耐熱高線膨張材20が熱膨張して中子として機能し、層間空隙23の内面に所定の形状を成形する。加温成形時の硬化時間は、例えば2〜3時間である。
【0088】
強化繊維基材14の層間に耐熱高線膨張材20を配置して温度を上昇させると、耐熱高線膨張材20が熱膨張するので強化繊維基材14の層を内側から圧縮する力が増す。更に、ショア硬度がA20〜A70の範囲にある耐熱高線膨張材20を用いることにより、中子としての定形性が保たれると共に強化繊維基材14との間で形状が馴染み易く抗わない。強化繊維基材14同士を圧縮する力が付加されることにより、複雑な断面形状を有するFRP構造体12の成形時に生じやすいポロシティ(気泡)を減少させて、FRP構造体12の品質を向上させることができる。
【0089】
[FRP構造体12の成形後に常温に下げる工程]
図13を参照して、所定の硬化時間が経過してマトリックス樹脂16が硬化したら、FRP構造体12の温度を常温に下げてFRP構造体12を形成する。冷却後には、FRP構造体12の線膨張係数と耐熱高線膨張材20の線膨張係数との差により、層間空隙23におけるFRP構造体12と耐熱高線膨張材20との間に収縮差により形成された空隙22が形成される。その後、バッグ82を取り外し、耐熱高線膨張材20を強化繊維基材14の層間空隙23から抜き取ると、
図9に示すFRP構造体12が得られる。なお、必要に応じて、FRP構造体12の一部を切除する加工を行って、耐熱高線膨張材20を取り出すトリミング工程を追加することもできる。
【0090】
強化繊維基材14の素材として、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、フェノール繊維、ポリエチレン繊維、ポリビニルアルコール繊維等の有機繊維、金属繊維、セラミック繊維、又はこれらの組み合わせを使用することもできる。また、プリプレグ材を用いることもできる。
【0091】
また、マトリックス樹脂16として、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を使用することができる。成形性や、力学特性の面からは、現状では熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。熱硬化性樹脂として、例えば、エポキシ、フェノール、ビニルエステル、不飽和ポリエステル、シアネートエステル、ビスマレイミド、ベンゾオキサジン、その他の樹脂を用いることができ、硬化するために、硬化剤、硬化促進剤、重合開始剤、触媒等が添加されている。更に、エラストマー、ゴム等を添加したものも使用することができる。なお、治具80やバッグの強化繊維基材14の側には、離型剤や樹脂拡散メディアを配置しておくことが好ましい。また、熱可塑性樹脂として、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファヂイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PEKK(ポリエーテルケトンケトン)、PEK(ポリエーテルケトン)、PI(ポリイミド)、PEI(ポリエーテルイミド)、PA(ナイロンポリアミド)等を用いることができる。
【0092】
耐熱高線膨張材20は、加温成形時におけるマトリックス樹脂16の硬化温度と、冷却後の常温との温度差に応じて熱膨張及び熱収縮する素材である。耐熱高線膨張材20の線膨張係数は、FRP構造体12の線膨張係数よりも大きくなるように、耐熱高線膨張材20の素材を選定する。大きな線膨張係数を有する耐熱高線膨張材20を用いることにより、耐熱高線膨張材20に抜きテーパを形成することなく、強化繊維基材14の層間空隙23から耐熱高線膨張材20を抜き取ることが容易となる。なお、耐熱高線膨張材20において、抜きテーパを併用することもできる。
【0093】
FRP構造体12から耐熱高線膨張材20を抜き取るためには、FRP構造体12と熱収縮後の耐熱高線膨張材20との間の収縮差により形成された空隙22の寸法が、例えばJIS B 0401に規定されている、すきまばめの寸法公差におけるe8乃至c9以上の隙間になるように耐熱高線膨張材20の素材を選択することが望ましい。
【0094】
例えば、
図9に示す強化繊維基材14で囲まれた層間空隙23の一辺の長さ(基準寸法)が5mmである場合について検討する。基準寸法が5mmの場合におけるe8のはめあいの寸法公差は−25〜−47μmである。
【0095】
例えば、FRP構造体12の線膨張係数Δ1=0.2×10
-6(1/℃)、耐熱高線膨張材20の線膨張係数Δ2=100×10
-6(1/℃)、加温成形時の温度が180℃、冷却後の常温が15℃、温度差ΔT=165℃、耐熱高線膨張材20の長さ(基準寸法)L=5mm、と仮定した場合における収縮差により形成された空隙22の寸法について試算する。
【0096】
この場合に収縮差により形成された空隙22の寸法Hは、H=(Δ1−Δ2)×ΔT×L≒−82μmとなる。この寸法Hは、基準寸法におけるe8のすきまばめの寸法公差(−25〜−47μm)よりも広い隙間を形成するものである。従って、成形後のFRP構造体12から耐熱高線膨張材耐熱高線膨張材20を抜き取る脱型が容易となる。
【0097】
耐熱高線膨張材20の線膨張係数は、FRP構造体の線膨張係数に対して60×10
-6(1/℃)以上となる高線膨張係数の素材を用いることが好ましい。より好ましくは、耐熱高線膨張材20の線膨張係数は、FRP構造体の線膨張係数に対して100×10
-6(1/℃)以上となる高線膨張係数の素材を用いることが好ましい。また、耐熱高線膨張材20の素材は、
図12に示す加温成形時におけるマトリックス樹脂16の硬化温度(樹脂の物性に応じて130〜500℃。)に耐える耐熱性を備える必要がある。
【0098】
また、FRP構造体12の製造時において、強化繊維基材14内に耐熱高線膨張材20を配置する際に、耐熱高線膨張材20の表面に離型剤を塗布しておくことによって、冷却時における耐熱高線膨張材20の剥離を促進することができる。
【0099】
図12に示すように、耐熱高線膨張材20は加温成形時においてFRP構造体12の層間に所定の形状の層間空隙23を形成する。そのためには、耐熱高線膨張材20の硬度はある程度硬く形状精度が高いことが好ましい。なお、耐熱高線膨張材20の硬度が極めて高い場合には、成形後に抜き取る脱型が困難になることが予想される。従って、耐熱高線膨張材20のショア硬度は、A20〜A70の範囲にあることが好ましい。なお、耐熱高線膨張材20として形状精度が高い素材を用いることによって、強化繊維基材14同士を接合する部分(
図11及び
図12に示す実施形態では、台形断面の下底と脚との2箇所の交点部分。)に所定形状のフィレットを形成するなど、層間空隙23の内面に細かな形状を成形することができる。
【0100】
耐熱高線膨張材20の素材として、剥離性に優れたシリコーンゴム、シリコーン樹脂を用いることが好ましい。また、高耐熱性が必要な場合にはフッ素ゴムを用いることができる。また、中耐熱性の素材として、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム等の素材を用いることができる。また、耐熱性が不要な場合には、ウレタンゴム等の素材を用いることもできる。
【0101】
耐熱高線膨張材20の素材を選定するに際しては、価格、成形温度、使用する離型剤に対する耐薬品性、必要となる収縮差により形成された空隙22の寸法(FRP構造体12の線膨張係数との差)等を考慮して決定することが好ましい。
【0102】
離型剤には、フッ素系の化合物や、シリコーン系のものを用いることができる。
【0103】
上記の実施形態では、マトリックス樹脂16として熱硬化型の樹脂を用いる実施形態について説明したが、熱可塑型の樹脂を用いたFRP構造体12についても適用することができる。
【0104】
FRP構造体12の層間空隙23を成形する中子として耐熱高線膨張材20を用いることにより、断面積が小さい層間空隙23や、断面形状が複雑な層間空隙23を安価にて成形することができる。
【0105】
(第4の実施形態)
前述の第3の実施形態では、強化繊維基材14を用いたFRP構造体12について説明した。これに対し第4の実施形態では、プリプレグ材14Pを用いたFRP構造体12Pについて説明する。
【0106】
図14は、二つのプリプレグ材14Pで囲まれた層間空隙23を有するFRP構造体12Pの完成後の外観斜視図である。
【0107】
図14を参照して、FRP構造体12Pは、複数のプリプレグ材14Pと、耐熱高線膨張材20と、プリプレグ材14Pで囲まれた層間空隙23とを有している。
【0108】
FRP構造体12Pは、積層したプリプレグ材14Pを硬化させたものであり、ストリンガー、型材等の構造材である。
【0109】
次に、
図14に示すFRP構造体12Pの製造方法について、
図15乃至
図18を用いて説明する。
図15は、成形用の治具80の上にプリプレグ材14P及び耐熱高線膨張材20を配置した状態を示す図である。
図16は、耐熱高線膨張材20を取り囲むようにプリプレグ材14Pを上方から配置した状態を示す図である。
図17は、複数のプリプレグ材14P及び耐熱高線膨張材20をバッグ82で被い、バッグ82と治具80との間で気密性を確保した加温成形時を説明する図である。
図18は、FRP構造体12Pの成形を行った後の常温において、バッグ82を取り外した状態を示す図である。
【0110】
[複数のプリプレグ材14Pを配置する工程]
図15を参照して、FRP構造体12Pを成形する場合には、先ず所定の形状を有する治具80の上にプリプレグ材14Pを積層配置する。
【0111】
[複数のプリプレグ材14Pの層間に耐熱高線膨張材20を配置する工程]
必要に応じて耐熱高線膨張材20の表面に離型剤を塗布する。そして、プリプレグ材14Pの層間となる所定の位置に、所定の大きさの耐熱高線膨張材20を配置する(
図15参照)。次に、耐熱高線膨張材20を取り囲むようにプリプレグ材14Pを上方から被せる(
図16参照)。
【0112】
[複数のプリプレグ材14Pをバッグ82で被う工程]
図17を参照して、複数のプリプレグ材14P及び耐熱高線膨張材20を、シーラント84、バッグ82等の副資材で被い、バッグ82と治具80との間で気密性を確保する。なお、
図7に示す実施形態では、副資材としてシーラント84、及びバッグ82を図示したが、必要に応じてピールプライ、ブリーザクロス、その他の副資材を配置することができる。
【0113】
[複数のプリプレグ材14Pが配置されたバッグ82の内部を真空に引く工程]
治具80とバッグ82とで囲まれたプリプレグ材14Pが配置された部位を真空に引いて、大気圧を用いてプリプレグ材14Pに押圧力を印加する。
【0114】
[複数のプリプレグ材14P、耐熱高線膨張材20を常温よりも高温な成形温度に上昇させてFRP構造体の成形を行う工程]
複数のプリプレグ材14P、及び耐熱高線膨張材20を成形温度まで上昇させて、所定時間かけてマトリックス樹脂を硬化させる。この加温によって、プリプレグ材14Pの層間に配置した耐熱高線膨張材20が膨張して中子として機能し、層間空隙23の内面に所定の形状を成形する。
【0115】
プリプレグ材14Pの層間に耐熱高線膨張材20を配置して温度を上昇させると、耐熱高線膨張材20が膨張するのでプリプレグ材14Pの層を圧縮する力が増す。
【0116】
[FRP構造体の成形後に常温に下げる工程]
図18を参照して、所定の硬化時間が経過してマトリックス樹脂が硬化したら、FRP構造体12Pの温度を常温に下げる。冷却後には、FRP構造体12Pの線膨張係数と耐熱高線膨張材20の線膨張係数との差により、層間空隙23におけるFRP構造体12Pと耐熱高線膨張材20との間に収縮差により形成された空隙22が形成される。その後、バッグ82を取り外し、耐熱高線膨張材20をプリプレグ材14Pの層間空隙23から抜き取ると、
図14に示すFRP構造体12Pが得られる。
【0117】
耐熱高線膨張材20、離型剤、耐熱高線膨張材20、治具80、バッグ82等は、上記第3の実施形態で用いた材料を用いることができる。
【0118】
(第5の実施形態)
前述の第3の実施形態では、層間空隙23が一箇所存在するFRP構造体12の成形について説明した。これに対し第5の実施形態では、層間空隙23が複数存在するFRP構造体13の成形について説明する。
【0119】
図19は、強化繊維基材14で囲まれた層間に複数の層間空隙23を形成したFRP構造体13の完成後の側面図である。従来は、
図19に示すようなコルゲートサンドイッチ構造の構造材を成形するに際して多くの工程を必要としたり、割型などの高価な治工具を用いる必要があった。
図19に示すFRP構造体13の製造方法について、
図20及び
図21を用いて以下に説明する。
【0120】
図20は、下側の治具80C及び上側の治具80Dの間に強化繊維基材14、14A、14B、14C及び耐熱高線膨張材20A、20Bを配置した加温成形時の説明図である。
図21は、FRP構造体13の成形を行った後の常温において、下側の治具80C、上側の治具80D、及びバッグを取り外した状態を示す図である。
【0121】
[強化繊維基材14A、14B、14Cを配置する工程]
複数の層間空隙23を有するFRP構造体13を成形する場合には、
図20に示すように所定の形状を有する治具80Cの上に強化繊維基材14Aを積層配置する。そして、強化繊維基材14Aの上の所定の間隔を開けた位置に複数の耐熱高線膨張材20Aを配置する。次に、耐熱高線膨張材20Aの上から強化繊維基材14Bを被せて波形に配置する。次に、波形に配置した強化繊維基材14Bの谷部に、耐熱高線膨張材20Bを配置する。次に、耐熱高線膨張材20B及び強化繊維基材14Bの上に、強化繊維基材14Cを配置する。そして、強化繊維基材14Cの上部に治具80Dを配置する。必要に応じて耐熱高線膨張材20A、20Bの表面には離型剤を塗布しておく。
【0122】
次に、強化繊維基材14A、14B、14C、耐熱高線膨張材20A、20B、治具80C、80Dをバッグ(不図示)で被い、気密性を確保する。そして、バッグの内部を真空に引いて、大気圧を用いて強化繊維基材14に押圧力を印加する。
【0123】
[マトリックス樹脂16の含浸及び成形温度におけるFRP構造体13の成形を行う工程]
次に、真空に引いた部位にマトリックス樹脂16を注入して、マトリックス樹脂16を強化繊維基材14A、14B、14Cに含浸させる。マトリックス樹脂16として熱硬化型のものを用いる場合には、強化繊維基材14A、14B、14C、耐熱高線膨張材20A、20B、及びマトリックス樹脂16を成形温度まで上昇させて、所定時間かけてマトリックス樹脂16を硬化させ、強化繊維基材14A、14B、14C同士を一体化する。この加温によって、強化繊維基材14A、14B、14Cの層間に配置した耐熱高線膨張材20A、20Bが熱膨張して中子として機能し、層間空隙23(
図19、12参照。)の内面の形状を成形する。
【0124】
[FRP構造体13の成形後に常温に下げる脱型工程]
図21を参照して、所定の硬化時間が経過してマトリックス樹脂16が硬化したら、FRP構造体13の温度を常温に下げる。するとFRP構造体13の線膨張係数と耐熱高線膨張材20A、20Bの線膨張係数との差により、層間空隙23におけるFRP構造体13と耐熱高線膨張材20A、20Bとの間に収縮差により形成された空隙22が形成される。その後、バッグ及び治具80C、80Dを取り外し、耐熱高線膨張材20A、20Bを強化繊維基材14A、14B、14Cの層間空隙23から抜き取ると、
図19に示すFRP構造体13が得られる。
【0125】
図20に示すように加温成形時においては耐熱高線膨張材20A、20Bが熱膨張して体積が増すので、耐熱高線膨張材20A、20BはFRP構造体13の層間に所定形状の層間空隙23を形成する中子として機能する。
【0126】
冷却後には、
図21に示すように耐熱高線膨張材20A、20Bは熱収縮して体積が減少する(なお、
図21においては、説明の都合上耐熱高線膨張材20A、20Bの熱収縮を誇張して表してある。)。すると、FRP構造体13の層間に形成した所定の形状と、熱収縮した耐熱高線膨張材20A、20Bとの間に収縮差により形成された空隙22が生ずる。この収縮差により形成された空隙22を生じさせることによって、中子として機能した耐熱高線膨張材20A、20BをFRP構造体13の層間空隙23から抜き取る脱型が容易になる。
【0127】
耐熱高線膨張材20A、20Bの線膨張係数は、FRP構造体13の線膨張係数に対して60×10
-6(1/℃)以上となる高線膨張係数の素材を用いることが好ましい。より好ましくは、耐熱高線膨張材20A、20Bの線膨張係数は、FRP構造体13の線膨張係数に対して100×10
-6(1/℃)以上となる高線膨張係数の素材を用いることが好ましい。
【0128】
耐熱高線膨張材20A、20Bの素材として要求される物性は、第3の実施形態で説明した耐熱高線膨張材20と同様である。また、耐熱高線膨張材20A、20Bの表面に塗布する離型剤に要求される物性も、第3の実施形態で説明した離型剤と同様である。
【0129】
FRP構造体13の層間空隙23を成形する中子として耐熱高線膨張材20A、20Bを用いることにより、断面積が小さい多くの層間空隙23や、断面形状が複雑な多くの層間空隙23を有するFRP構造体13を、安価にて成形することができる。
【0130】
(第6の実施形態)
前述の第5の実施形態では、強化繊維基材14を用いたFRP構造体13について説明した。これに対し第6の実施形態では、プリプレグ材14Pを用いたFRP構造体13Pについて説明する。
【0131】
図22は、プリプレグ材14P(プリプレグ材14Q、14R、14S)で囲まれた層間に複数の層間空隙23を形成したFRP構造体13Pの完成後の側面図である。
図22に示すFRP構造体13Pの製造方法について、
図23及び
図24を用いて以下に説明する。
【0132】
図23は、下側の治具80C及び上側の治具80Dの間にプリプレグ材14Q、14R、14S及び耐熱高線膨張材20を配置した加温成形時の説明図である。
図24は、FRP構造体13Pの成形を行った後の常温において、下側の治具80C、上側の治具80D、及びバッグを取り外した状態を示す図である。
【0133】
[プリプレグ材14P、14Q、14R、14Sを配置する工程]
複数の層間空隙23を有するFRP構造体13Pを成形する場合には、
図23に示すように所定の形状を有する治具80Cの上にプリプレグ材14Qを積層配置する。そして、プリプレグ材14Qの上の所定の間隔を開けた位置に複数の耐熱高線膨張材20Aを配置する。次に、耐熱高線膨張材20Aの上からプリプレグ材14Rを被せて波形に配置する。次に、波形に配置したプリプレグ材14Rの谷部に、耐熱高線膨張材20Bを配置する。次に、耐熱高線膨張材20B及びプリプレグ材14Rの上に、プリプレグ材14Sを配置する。そして、プリプレグ材14Sの上部に治具80Dを配置する。必要に応じて耐熱高線膨張材20A、20Bの表面には離型剤を塗布しておく。また、プリプレグ材14Q、14R、14S同士の接合面には、必要に応じて接着剤を配置しておくことができる。
【0134】
次に、プリプレグ材14Q、14R、14S、耐熱高線膨張材20A、20B、治具80C、80Dをバッグ(不図示)で被い、気密性を確保する。そして、バッグの内部を真空に引いて、大気圧を用いてプリプレグ材14Q、14R、14Sに押圧力を印加する。
【0135】
[成形温度におけるFRP構造体13Pの成形を行う工程]
次に、プリプレグ材14Q、14R、14S、耐熱高線膨張材20A、20Bを成形温度まで上昇させて、所定時間かけて硬化剤を硬化させ、プリプレグ材14Q、14R、14S同士を接着する。この加温によって、プリプレグ材14Q、14R、14Sの層間に配置した耐熱高線膨張材20A、20Bが熱膨張して中子として機能し、層間空隙23(
図22、23参照。)の内面の形状を成形する。
【0136】
[FRP構造体13Pの成形後に常温に下げる脱型工程]
図24を参照して、所定の硬化時間が経過してプリプレグ材14Q、14R、14Sが硬化したら、FRP構造体13Pの温度を常温に下げる。するとFRP構造体13Pの線膨張係数と耐熱高線膨張材20A、20Bの線膨張係数との差により、層間空隙23におけるFRP構造体13Pと耐熱高線膨張材20A、20Bとの間に収縮差により形成された空隙22が形成される。その後、バッグ及び治具80C、80Dを取り外し、耐熱高線膨張材20A、20Bをプリプレグ材14Q、14R、14Sの層間空隙23から抜き取ると、
図22に示すFRP構造体13Pが得られる。
【0137】
図23に示すように加温成形時においては耐熱高線膨張材20A、20Bが熱膨張して体積が増すので、耐熱高線膨張材20A、20BはFRP構造体13Pの層間に所定形状の層間空隙23を形成する中子として機能する。
【0138】
冷却後には、
図24に示すように耐熱高線膨張材20A、20Bは熱収縮して体積が減少する(なお、
図24においては、説明の都合上耐熱高線膨張材20A、20Bの熱収縮を誇張して表してある。)。すると、FRP構造体13Pの層間に形成した所定の形状と、熱収縮した耐熱高線膨張材20A、20Bとの間に収縮差により形成された空隙22が生ずる。この収縮差により形成された空隙22を生じさせることによって、中子として機能した耐熱高線膨張材20A、20BをFRP構造体13Pの層間空隙23から抜き取る脱型が容易になる。
【0139】
耐熱高線膨張材20、離型剤、耐熱高線膨張材20、治具80、バッグ82等は、上記第5の実施形態で用いた材料を用いることができる。
【0140】
(従来のFRP構造体12Cの製造方法)
ここで、従来のFRP構造体12Cの製造方法について、
図25乃至
図31を用いて説明する。
図25は、FRP中間構造体12A、12Bをそれぞれ組み合わせて成形した従来のFRP構造体12Cを説明する側面図である。
図26(a)、
図26(b)は、従来のFRP中間構造体12A、12Bを成形する際に用いる下側の治具80C、80Aの治具準備工程を説明する側面図である。
図27(a)、
図27(b)は、下側の治具80C、80Aの上部にプリプレグ材14Pを積層配置する従来の積層工程を説明する側面図である。
【0141】
図28(a)、
図28(b)は、積層したプリプレグ材14Pの上部に、上側の治具80D、80Bを設置する従来の治具設置工程を説明する側面図である。
図29(a)、
図29(b)は、プリプレグ材14Pを炉内で熱硬化させる従来の硬化工程を説明する側面図である。
図30(a)は、FRP中間構造体12Bから、治具80C、80Dを取り外す従来の脱型工程を説明する側面図である。
図30(b)は、FRP中間構造体12Aから、治具80A、80Bを取り外す従来の脱型工程を説明する側面図である。
図31は、従来のFRP中間構造体12A及び12Bを接着により接合する接着工程を説明する図である。
【0142】
図26(a)、
図26(b)に示す従来の治具準備工程を参照して、FRP中間構造体12B、12A毎に、それぞれ下側の治具80C、80A(金型、FRP構造体治具等)を準備する。
【0143】
次に、
図27(a)、
図27(b)に示す従来の積層工程を参照して、下側の治具80C、80Aの上にプリプレグ材14Pをそれぞれ積層配置する。
【0144】
次に、
図28(a)、
図28(b)に示す従来の治具設置工程を参照して、プリプレグ材14Pの上部に、上側の治具80D、80B(金型、FRP構造体治具等)をそれぞれ設置する。そして、治具80A〜治具80D及びプリプレグ材14Pをそれぞれバッグ(不図示)で被う。
【0145】
次に、
図29(a)、
図29(b)に示す従来の硬化工程を参照して、炉内においてプリプレグ材14Pを常温よりも高温な成形温度に上昇させてプリプレグ材14Pを硬化させる硬化処理(オートクレーブ成形)を行う。
【0146】
プリプレグ材14Pが硬化したら、FRP中間構造体12A、12Bの温度を常温に下げ、バッグを取り外す。次に、
図30(a)、
図30(b)の従来の脱型工程に示すように、治具80A〜治具80Dを取り外して脱型を行うと、FRP中間構造体12A、12Bが得られる。
【0147】
次に、
図31を参照して、FRP中間構造体12A、12B同士を組み合わせて接着を行う。接着剤が硬化すると、
図25に示すFRP構造体12Cが完成する。
【0148】
以上のように、層間空隙23を有するFRP構造体12Cを製造する場合には、従来は一旦FRP中間構造体12A、12Bを形成する必要があった。また、FRP中間構造体12A、12Bを成形せずに、割型式の中子を用いて一度に成形を行うことも可能であるが、割型は構造が複雑となり、メンテナンスにも工数が必要なことから、層間空隙23を有するFRP構造体12Cの製造には高いコストが必要であった。
【0149】
第3の実施形態乃至第6の実施形態に示したように、FRP構造体12、13の層間空隙23を成形する中子として耐熱高線膨張材20を用いることにより、断面積が小さい層間空隙23や、断面形状が複雑な層間空隙23を安価にて成形することができる。
【0150】
以上、実施の形態を参照して本発明による人工欠陥材料及びFRP構造体の製造方法を説明したが、本発明による人工欠陥材料及びFRP構造体の製造方法は上記実施形態に限定されない。上記実施形態に様々の変更を行うことが可能である。上記実施形態に記載された事項と上記他の実施形態に記載された事項とを組み合わせることが可能である。
【0151】
また、本発明に係るFRP構造体の製造方法を用いて成形したFRP構造体は、車両、船舶、航空機、あるいは建築部材など種々の分野に用いられる。本発明に係る人工欠陥材料及びFRP構造体の製造方法は、2つ以上の強化繊維基材を組み合わせて、閉空間を有する複雑な最終形状を成形する場合に好適である。また、本発明に係る人工欠陥材料及びFRP構造体の製造方法は、RFI(レジンフィルムインフュージョン成形法)、RTM(樹脂トランスファー成形法)、VaRTM(真空含浸工法)、オートクレーブ成形その他のFRP構造体の成形に用いることができる。
【解決手段】強化繊維基材14の複数の層と、マトリックス樹脂16と、耐熱高線膨張材20とを備えるFRP構造体の人工欠陥材料10であって、FRP構造体の高温成形時には層間に配置された耐熱高線膨張材20が熱膨張して強化繊維基材14の層間に所定の形状が成形され、成形後の常温においては耐熱高線膨張材20が熱収縮して強化繊維基材14との間に収縮差により形成された空隙が形成される。耐熱高線膨張材20の線膨張係数は、FRP構造体の線膨張係数に対して150×10