(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5777853
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】ナノスケール/略ナノスケールのアモルファスの鋼板の製造のための改善された処理方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20150820BHJP
B22D 11/00 20060101ALI20150820BHJP
B22D 11/06 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
B22D11/00 A
B22D11/06 360G
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2009-533530(P2009-533530)
(86)(22)【出願日】2007年10月18日
(65)【公表番号】特表2010-507023(P2010-507023A)
(43)【公表日】2010年3月4日
(86)【国際出願番号】US2007081810
(87)【国際公開番号】WO2008049069
(87)【国際公開日】20080424
【審査請求日】2010年9月6日
【審判番号】不服2013-25158(P2013-25158/J1)
【審判請求日】2013年12月20日
(31)【優先権主張番号】60/829,988
(32)【優先日】2006年10月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505307611
【氏名又は名称】ザ・ナノスティール・カンパニー・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・ジェイムズ・ブラナガン
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ・ブッファ
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ブレイツァメーター
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド・パラトア
【合議体】
【審判長】
鈴木 正紀
【審判官】
小川 進
【審判官】
河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2005/118902(WO,A2)
【文献】
国際公開第2006/086350(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C38/00
B22D11/00
B22D11/06,360
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)50重量%より多い鉄、b)ホウ素、炭素、ケイ素、リン、及びガリウムから選択されるPグループ元素、及びc)クロム、モリブデン、タングステン、タンタル、バナジウム、ニオブ、マンガン、ニッケル、銅、アルミニウム、及びコバルトから選択される遷移金属を含み、800から1500℃の融点と、105K/s未満の臨界冷却速度とを有する主成分が鉄のガラス形成合金を溶融する段階と、
上部ベルト及び下部ベルトの間で前記鉄合金溶融物を冷却することによる双ベルト鋳造工程により前記主成分が鉄のガラス形成合金を冷却し、冷却につれて前記鉄合金の収縮を補うように、及び前記鉄合金に一定圧力を提供するように、前記ベルト表面間の距離は前記ベルトの長さに沿って減少され、及び50体積%以上で存在する150から1000nmの範囲の構造ユニットを生成するのに十分な速度で0.1mmから30mmの範囲の厚さを有する薄板を形成する段階と、
を含み、前記薄板がα‐Fe、γ‐Fe相、及び複合ホウ素炭化物を含むことを特徴とする主成分が鉄のガラス形成合金薄板の製造方法。
【請求項2】
(a)0.5nmから10nm、および/または
(b)10nmから150nm
の構造ユニットを含む主成分が鉄のガラス形成合金をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1μm以上の構造ユニットを含む主成分が鉄のガラス形成合金をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記主成分が鉄のガラス形成合金の構成要素が、複合炭化物、複合ホウ化物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択された相をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、前記主成分が鉄のガラス形成合金薄板を熱処理によって失透させる段階をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記主成分が鉄のガラス形成合金を500℃から1000℃の範囲で過冷却することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノスケールまたは略ナノスケールのアモルファスの鋼を、ガラス形成合金から製造する方法において、前記合金がオングストロームまたは略ナノスケールの微細構造を有し得る方法に関する。前記合金は、薄板、板、またはストリップに形成され得る。
【背景技術】
【0002】
150年以上前に、Henry Bessemer卿が、液状溶融物から直接鋼板を製造するための双ロール法の特許を初めて受けてから、鋼を製造するための多くの代替方法が開発されてきた。1950年代までは、鋼を固定鋳型またはキャスクに流し込む、インゴットスラブ製造が標準的技法であった。1950年代後半から、鋼の製造において、収率、品質、生産性を向上させるための新たな手段として、連続鋳造法を経て従来のスラブ鋳造法が開発された。前記方法は、仕上げ圧延機における後続圧延用の半製品のビレット、ブルーム、またはスラブを製造するために使用された。1989年に、Nuctor Steel社によって、薄スラブ鋳造と称される別の鋼製造方法が開発され、初めて実施された。前記方法により、連続鋳造法によって製造されるものより、典型的に薄い鋼スラブの製造が可能となった。さらに、前記方法は、20世紀の最も重要な2つの発展の内の1つとして挙げられている。1998年に、Nuctor Steel社によって、双ロール式ストリップ鋳造法(すなわちCastrip(登録商標))が開発された。前記ストリップ鋳造法では、費用のかかる後続圧延作業を必要とせず、溶鋼を流し込み、一段階で所望の厚さの平坦な薄板とする。これは、溶綱を、500mmの回転する2つの銅合金鋳造ロールの隙間の間に向けられたノズルを通過させることで、達成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の合金鋼は、いわゆる従来の液固変態手段によって凝固させる。前記手段によると、一般的に、核形成に先立って少量の液体過冷却が達成されることがあり、高温での急速な拡散のため、結果として粗い構造が形成され得る。過熱液状溶融物において、対応する結晶の成長が起こり、結果として樹枝状成長または細胞成長等の従来の成長モードとなる。理論上は、あらゆる金属成分または合金はガラスを形成し得るが、従来の鋼の金属ガラス形成のための臨界冷却速度は非常に高く、通常10
6〜10
9K/sであり得るため、従来の鋼は、通常の凝固条件下ではガラスを形成しないかもしれない。
【0004】
このようにして、従来の製鋼プロセスは、既存の合金鋼の凝固における課題を補うよう意図されているが、ガラス形成鋼の凝固において見られる特定の課題及び技術的障害のために考案されたものではない。例えば、双ロール法は、従来の普通炭素鋼には効果的であるかもしれない。これは、材料がロールを通過する間に前記材料を凝固させることが第1の目的であり、総熱除去量を最大化させることは、重要ではないまたは第2の目的でしかないかもしれないからである。従来の合金鋼は、溶融物を凝固させるのに十分な数十度まで冷却され得るため、凝固が起こる前にそれほど多くの熱を除去する必要がない。
【0005】
しかしながら、結晶化を避けるため、ガラス形成システムにおける過冷却は、融点から室温まで下がり得る。仮想ガラス転移温度以下での拡散は、非常に遅く、効果的な反応速度が冷却速度にほとんど完全に依存するため、十分なレベルの過冷却は、融点からガラス転移温度(T
g)まで下がり得ることは当然である。従って、上記のように、従来の鋼において必要な完全な過冷却は、通常50℃以下であり得るが、ガラス形成鋼のための完全な過冷却は、合金化学に依存する範囲で、もっと高温であり得、典型的に500℃〜1000℃であり得る。このような過冷却により、達成できるアモルファス構造の最大厚は制限される。特に、アモルファス構造体は凝固するため、低熱伝導率を有する傾向にある可能性があり、構造体内部から熱エネルギーを除去する妨げとなる。従って、ガラス形成金属合金における凝固挙動は、従来の金属凝固において見られるものとは著しく異なるかもしれない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
典型的な実施形態において、本発明は、合金が800℃〜1500℃の範囲の融点を有し、臨界冷却速度が10
5K/s未満であり、構造ユニットが約150nm〜1000nmの範囲である、鉄合金薄板に関する。前記合金は約5〜100Åまたは約10nm〜150nmの範囲の1つまたはそれより多くの構造ユニットを含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
以下の本発明の実施形態の説明を添付の図面と併せて参照することで、本発明の上述及びその他の特徴、利点、ならびにそれらを達成する手段は、より明確となり、本発明はより深く理解されるであろう。
【0008】
【
図1】
図1は、典型的な双ロール鋳造法の概略図を示す。
【
図2】
図2は、双ロール鋳造法のための金属ガラス形成における2段階の冷却の効果を示すモデル連続冷却変態(CCT)図を示す。
【
図3】
図3は、典型的な双ロール鋳造ローラーの概略図を示す。
【
図4】
図4は、典型的な双ベルト鋳造法の概略図を示す。
【
図5】
図5は、双ロール及び双ベルト鋳造機において液状溶融物の凝固に応じた、2段階の冷却工程の効果を示すモデルCCT図を示す。
【
図6】
図6は、2段階冷却における、達成される完全な過冷却及びその効果に応じた、双ベルト鋳造の長さの効果を示すモデルCCT曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、鉄ベースのガラス形成合金から、略ナノ構造の鋼スラブ、鋼ストリップ、または鋼薄板を形成する方法に関する。ガラス形成鋼システムは、金属/半金属ガラスとして分類され、金属マトリックス内で起こる結晶化は、皆無かそれに近い。当然のことながら、金属/半金属ガラスにおいて、金属/半金属ガラスの固相中で構造ユニットの集合が起こり得る。すなわち、ガラス合金は、固相中でランダムに組織化され得る局所構造ユニットを含み得、前記構造ユニットは、5〜100Åの範囲であり得る。局所構造ユニットがさらに組織化されるに従って、前記構造ユニットは増加し得、ナノスケール(すなわち10〜150nm構造)及び略ナノスケール領域(すなわち150〜1000nm構造)の相が発達し得る。
【0010】
合金化学は、鋼または合金鋼を考慮し得る化学等の多成分化学を含み得る。合金鋼は、主成分(例えば50重量%より多い)が鉄であり得る合金として理解してよい。鉄に加えて、さらに3から30の成分が金属添加物として使用され得る。合金化学は、比較的高濃度のPグループ元素を含み得、前記元素は非金属であるため、金属結合を形成することができない可能性がある。通常、鉄に加えて、ホウ素、炭素、ケイ素、リン、及び/またはガリウムから成る二元共融化学を含み得る。しかしながら、非常に高い割合のこれらの元素は、結晶相中よりも少ない程度に、液状溶融物、固体ガラス中で溶解し得る。溶解する時、Pグループ原子は、自由電子を固定して共有結合を形成し、最外殻の価電子帯を充填/部分的に充填するよう働き得る。この結果、熱伝導率の減少が起こり得、セラミック材料に付随する熱伝導率の範囲、すなわち、あらゆる増分及び数値をそこに含んで、0.1から300W/mK、に相当し得る。その他の金属添加物は、クロム、モリブデン、タングステン、タンタル、バナジウム、ニオブ、マンガン、ニッケル、銅、アルミニウム、コバルト等の遷移金属と、イットリウム、スカンジウム、ランタニドを含む希土類元素とを含み得る。
【0011】
多成分合金の融点は、従来の市販合金鋼よりも低く、960℃から1375℃、1100℃等のあらゆる増分及び数値をそこに含んで、800℃から1500℃の範囲であり得る。さらに、前記合金は、ガラス形成合金であり得、10
0K/sから10
4K/sの間等、10
5K/s未満の金属ガラス形成のための臨界冷却速度を有し得る。凝固中に形成される相は、合金化学、処理条件、処理中の熱履歴に依存し得る。典型的合金は、M
2(BC)
1、M
3(BC)
2、M
23(BC)
6、M
7(BC)
3及び/またはM
1(BC)
1等の様々な化学量論に基づいて、複合炭化物、複合ホウ化物、及び/または複合ホウ素炭化物とともに、α‐Fe及び/またはγ‐Fe等の延性相を含み得る。Mは、合金組成内に存在するあらゆる遷移金属を表し得る。
【0012】
ガラス形成合金の核形成は、核形成または相転移の開始に先立って高度の過冷却を可能にすることによって抑制され得る。過冷却は、凍結温度を超えて液体温度を低下させ、依然として液体状態を維持するものであるとして理解してよい。得られた過冷却の程度が、仮想ガラス転移温度(Tg)以下の場合、金属ガラス構造が得られるかもしれない。仮想温度は、ガラス構造が平衡状態にあり得る熱力学的温度として理解してよい。従って、完全な過冷却は、合金化学に応じて、あらゆる範囲及び数値をそこに含んで、500℃から1000℃の範囲であり得る。
【0013】
従って、金属ガラス形成の臨界冷却速度が、合金鋼の製造工程の平均冷却速度より遅い場合、核形成の抑制が起こり得る。さらに、核形成が少なくとも部分的に回避または抑制される場合、核形成の開始に関連する潜熱が減少するか、または放出されないかもしれない。従って、核形成による温度上昇が最小化され得、失透を回避し、及び/または二相液体/固体領域の誘発を回避し、それによって、従来の核形成及び成長の下での凝固を可能にし得る。金属ガラスは、オングストロームスケールの微細構造を含む、微細構造の精密化を示し得る。ガラス薄板はその後、後処理の失透熱処理によって、ナノスケールの複合微細構造へと変換され得る。
【0014】
ガラス形成合金は、双ロール鋳造法、ストリップ鋳造法、ベルト鋳造法等の製造法を使用して処理してよく、結果として従来の合金鋼より非常に精密な微細構造が発達する。前記微細構造は、アモルファス相を形成してランダムに密集し得る固相における、構造ユニットの集合を含み得ることに注意されたい。金属ガラスが形成される場合、精密化の程度または構造ユニットのサイズは、オングストロームスケールの範囲(すなわち、5Åから100Å)であり得、核形成または結晶化が開始される場合、精密化の程度はナノスケールの範囲(すなわち、10から150nm)及びナノスケールの範囲よりわずかに大きい“略ナノスケール”(すなわち、150から1000nm)であり得る。従って、当然のことながら、結果として合金は、約5Åから100Å、10nmから150nm、または150nmから1000nm、及びそれらの組み合わせの範囲の構造ユニットを含み得る構成要素である。従って、約5Åから100Å、10nmから150nm、または150nmから1000nmの範囲の構造ユニットが全て、鉄合金中に存在し得る。さらに、約5Åから100Å、10nmから150nm、または150nmから1000nmの範囲の構造ユニットは、ほぼ単独に、すなわち、90体積%より大きな割合で、存在し得る。
【0015】
当然のことながら、精密化の程度または構造ユニットの微細構造スケールを、ピーク拡がりを分析するための様々な形態のシェラー解析を用いたX線回折と、電子顕微鏡(走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡のいずれか)、または、共焦点走査型顕微鏡を利用したカー顕微鏡によって測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)は、異なる化学組成を有する領域間の差異を検出し得る後方散乱電子を検出することによって、電子後方散乱回折像を生成するために使用し得る。そのような画像は、サンプルの結晶構造を決定するために使用し得る。さらに、SEM電子回折も利用してよい。SEMの空間分解能は、ビームのサイズに依存し得るが、前記分解能は、相互作用体積、または電子ビームと相互作用し得る材料の大きさにも依存し得る。このような方法において、前記分解能は、約1〜20nmの範囲であり得る。
【0016】
さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)も、制限視野回折、収束電子線回折、ビームを振動させるまたは振動させない観測等の技術を使用して微細構造ユニットを測定するために使用してよい。金属ガラス中の極めて微細な秩序に起因する分子集合から生じる、短距離秩序/拡張短距離秩序を確認するのは困難であり得るため、高度なTEM技術を使用してよい。暗視野透過型電子顕微鏡も、高分解能透過型電子顕微鏡または電界放射型透過電子顕微鏡と同様に使用してよい。さらに、サブオングストロームスケールの画像を生成するために、走査型透過電子顕微鏡を収差補正ソフトとともに使用してよい。
【0017】
ドメインサイズを測定するために、共焦点走査型カー顕微鏡を使用したドメインの直接測定等の磁気技術も同様に採用してよい。さらなる測定は、磁気モーメント、クーリエ温度、飽和磁化を導く最隣接集団の間接測定も含んでよい。
【0018】
さらに、鉄合金は、あらゆる数値及び増分をそこに含んで、略ナノスケールまたは約150nmから1000nmの範囲の構造ユニットを、50体積(vol)%またはそれを超えて含み得る。また、約5Åから100Åの範囲の構造ユニットを約50体積%またはそれを超えて含み得る。さらに、鉄合金は、約10nmから150nmの範囲の構造ユニットを、約50体積%またはそれを超えて含み得る。さらに、前記合金は、ミクロンサイズ、すなわち約1ミクロンより大きいまたは同等の構造ユニットを含み得る。
【0019】
そこで製造された略ナノスケール合金及び、スラブ、ストリップ、または薄板において見られる特性及び/または特性の組み合わせは、従来の鋼薄板の既存の限度外であり、著しい高硬度、著しい引張強度、優れた強度重量比、強化された耐食性を含み得る。
【0020】
典型的な実施形態において、ガラス形成合金鋼は、合金を急速に凝固させる技術によって処理され得る。前記技術は、サイズが減少した微細構造スケールを維持するために溶鋼を短時間で冷却する方法として理解してよい。例えば、急速な凝固は、溶鋼を、銅、銅合金、銀等の高伝導金属を含み得る金属の冷却表面上で処理することによって得られる。上記で示唆したように、典型的な急速凝固技術は、双ロール鋳造法、ストリップ鋳造法、水平単ベルト鋳造法等のベルト鋳造法を含むが、それらに限定されるものではない。鋼ストリップ、スラブ、または薄板部品は、最低限の処理段階数及び可能な限り薄い実用厚で製造され得る。典型的な実施形態において、後続の圧延工程はなくてよい。凝固した薄板は、ここでは、例えば、0.5mmから15mm厚、10mm厚等のあらゆる数値及び増分をそこに含んで、約0.1mmから30mm厚の厚さを有するものとして理解され得る。従って、例として、ここで鋼薄板は、長さ及び幅と、指定された厚さの値を有する鋼の薄板として理解され得る。前記長さ及び幅の値は、あらゆる数値及び増分をそこに含んで、1から100インチ幅、1から1000インチ長の範囲であり得る。さらに、管、パイプ、または棒等の部品も同様に形成され得る。
【0021】
典型的な実施形態において、水平単ベルト鋳造法は、ベルトの長さ及びロール速度に応じて、合金が単冷却ベルトと所望の時間接触を維持し得るように、冷却表面を備えて利用され得る。従って、前記冷却表面に隣接する薄板の底部分は、ガラスを形成し、上部表面は、放射及び自然対流を介して冷却されるため、ずっと遅く冷却され得る。従って、前記ベルトから除去された表面は、過冷却よりずっと少量が結晶化され、結果として潜熱の放出が起こり得る。潜熱の放出は、急激な温度上昇(すなわち再熱)を引き起こし、下部の液状溶融物の一部を結晶化させ得る。当然のことながら、温度上昇は、合金が液体領域へと至り局所溶融を引き起こすのに十分であり得る。従って、当然のことながら、単冷却ベルト法により、底部分の比較的確実なガラス形成及び外表面に向かって異なる形態の勾配がもたらされ得る。
【0022】
別の典型的実施形態において、双ロール鋳造法は、溶融物がローラー上で急速に冷却されるように利用され得る。
図1に示すのは、双ロール鋳造システム及び方法10の典型的実施形態の概略図である。図示するように、溶融合金鋼12は、第1冷却ローラー14と接触する以前に第1の比較的高い温度を有し得る。ローラー(例えば、銅合金ローラーであり得る)と接触しているとき、合金は、第1速度R
1で急速に冷却され(すなわち、伝熱性を有する)、第2の比較的高い温度T
2のホイールから離れ得る。前記T
2は、第1の比較的高い温度T
1よりいくらか低くてよい。冷却表面から離れた後、熱除去速度は前記冷却表面で見られた速度より比較的遅く(すなわち、放射または自然対流)、結果として低下した冷却速度R
2となる。溶融物は、ストリップまたは薄板16へと凝固し、第2ローラー18を通過し得る。従って、双ロール鋳造法における冷却速度は、2段階で特定され得る。
【0023】
2段階冷却の効果は、
図2に示す金属ガラス形成合金鋼のモデル連続冷却変態(CCT)図に示されている。C形曲線Dはガラスから結晶への変態領域を示し、Eはガラス領域を示す。図示したように、初期冷却曲線Cは、急速であり、ガラス形成鋼化学の発達が可能な領域である。しかしながら、熱除去の総量が不十分である可能性があり、Aでの適度な過冷却条件において、液状溶融物がホイールから剥がれ得る。ガラスから結晶への変態の先端部(点F)はほぼ完全に回避され得るため、ホイールから一度除去された液状溶融物のずっと遅い冷却速度Bにより、結果として比較的大きな結晶(すなわち10μmより大きい)が形成され得る。
図2において、当然のことながら、Tsが過熱温度、Tmが合金の融点、Tu
1が点Aでの過冷却温度1、Tu
2が過冷却温度2、Tgがガラス転移温度を示す。
【0024】
図3は、双ロール鋳造法10の別の典型的な実施形態を示す。ローラー14は、液体合金12が通過する挟部を形成する反対回転であり得る。ローラーと接触して挟部を通過すると、前記合金はローラー表面に沿って凝固し始め、一体化して固体ストリップ16が形成される。さらに、有効な全冷却表面(点線の弧Sで表示)が示され、ローラー外周の4分の1より小さいまたは同等であり得る。例えば、500mm直径のローラーでは、結果としてローラーの全冷却表面は393mm(15.5インチ)のみである。従って、当然のことながら、冷却ローラーの直径を増加させることで、ローラーはより大きな表面積を示し得る。しかしながら、全冷却表面は依然としてローラー外周の4分の1程度であり得る。
【0025】
別の典型的な実施形態において、
図4に示すように、双ベルトが利用され得る。この方法では、2つの冷却表面を備え、両側から合金を冷却することが可能である。全冷却表面20(挟部を形成する上部及び底部ローラーの表面の両方を含む)は、ずっと大きく、すなわち長く、長さによって変化し得る。双ベルトは、高融点の鋼もしくは、銅、銀、金またはそれらの元素から誘導された合金等の高伝導材料から作製され得る。前記挟部または双ベルトの全体は、水またはその他の適切な冷却剤を使用して冷却され得る。ベルトは、図に示すような水平形(傾斜0°)または、そこにあらゆる増分及び数値を含んで、+/−1から180°の範囲の傾斜等、垂直までの角度で配置され得る。さらに、冷却する合金が縮小する傾向にあるため、ベルトは、形成工程を通して冷却しながら、合金に一定の圧力を加えるように調整され得る。このような方法において、ベルト表面間の距離D(点線で図示)は、前記ベルトの長さLに従って減少され得る。
【0026】
図5に示すように、曲線Cによって示される第1冷却が急速で、冷却速度が速い程度に、液体溶融物がベルトの冷却表面上に十分な長さの時間留まる場合、前記液体溶融物は1段階の冷却を受け得る。ベルトの全長は、金属ガラス前駆体が形成され得る温度で液体溶融物が離れるように、調整され得る。金属ガラス前駆体薄板が形成されると、様々な緩和、回復、単一段階及び多段階の熱処理を通して、目的の特性の範囲を備えた特定のナノスケール構造へと変換され得る。理想的に、及びGで示したように、第2段階の遅い冷却が核形成を引き起こさないようにするため、融解除去の点は、ガラス転移温度Tgであるだろう。
【0027】
図6に示すように、冷却ベルトが長いほど、液体溶融物は曲線Cで示した急速な冷却を長く受け得る。ベルト全長が増大するにつれて、より多くの熱を除去することができ、薄板が除去される前にさらなる過冷却が可能となる。より高レベルの過冷却を達成することにより、アモルファス薄板、板、またはストリップをよりよく製造できるようになるだろう。従って、ベルトが長いほど、線B、G、H、Iで示した第2冷却が起こり得る。前記Bは第1長さL
1を有するベルト、Gは、第2の長さL
2を有するベルト、Hは第3の長さL
3を有するベルト、Iは第4の長さL
4を有するベルトでの第2冷却を示し、L
1<L
2<L
3<L
4である。冷却曲線が結晶変態領域を通過するような、2段階の冷却がCCT曲線の先端を回避しない場合であっても、より高度の過冷却により、ナノスケール(すなわち10から150nm)、または略ナノスケール(すなわち150から1000nm)鋼薄板、板、またはその他の形態を依然として製造することが可能であるだろう。
【0028】
従って、表面で、好適には合金の全厚さにわたって生じる核形成を防ぐために、冷却表面は十分に低温であり、十分に高い熱流量を示し得る。さらに、当然のことながら、ある程度の核形成は起こり得るが、微細構造のサイズまたは成長は、ナノまたは略ナノスケールに制限される。
【0029】
従って、合金鋼の臨界冷却速度が所定の冷却工程より速ければ、完全なアモルファス合金を形成する可能性は損なわれ得る。しかしながら、ここでの合金のガラス形成の性質に起因して、核形成に先立って高程度の過冷却が依然として起こり得る。従来の合金鋼より数百度低い過冷却でガラス形成合金において核形成がここで起こり得るため、より大きな微細構造の精密化が依然として起こり得る。ガラス形成合金鋼の臨界冷却速度が適用された冷却手順より高いような状況において、完全にアモルファスではないが、比較的小さな結晶ドメインが有利な特性を有して形成され得る。この場合に形成され得るラス共析晶は、あらゆる数値及び増分をそこに含んで、200から800nmサイズの厚さを有する、交互に並ぶプレートレット/ラスから構成されるものである。ラス共析晶は、ダクタイル鉄とホウ素炭化物などの複合炭化物相との交互に並ぶ略ナノスケールラスとして理解され得る。
【0030】
鋼からもたらされる特性は、微細構造の精密化の程度、生成された微細構造及びその構成相、ガラス形成合金鋼化学、選択された製造工程、過飽和の程度、(必要であれば)後処理条件、等を含む多くの要素に依存し得る。予定されるマクロ硬さは、あらゆる数値及び増分をそこに含んで、約64から80ロックウェルCの範囲であり得る。この硬さは、マトリックス及び個々の相の平均であるバルクの硬さを示すと理解され得る。マクロ硬さは、形成された相の種類に応じて変化し、230から2500kg/mm
2、850から2000kg/mm
2等のあらゆる数値及び増分をそこに含んで、約100kg/mm
2から3000kg/mm
2で約HV300の範囲であり得る。予定される引張強度は、170,000lb/in
2から480,000lb/in
2等のあらゆる数値及び増分をそこに含んで、約100,000lb/in
2から950,000lb/in
2の範囲であり得る。予定される室温での引張伸びは、1から20%等のあらゆる数値及び増分をそこに含んで、約0.01から40%の範囲であり得る。例えば、室温より高い温度等の、上昇した温度での予定される引張伸びは、4から60%等のあらゆる数値及び増分をそこに含んで、0.1から280%の範囲であり得る。従って、引張伸びは、上昇した温度で高くなり得、(必要であれば)スラブ、ストリップ、または薄板製品を、工業的に使用できる形状及びサイズへ熱機械的に変換することが可能となり得る。
【0031】
略ナノスケール合金鋼は、多くの応用に使用され得る。1つの典型的な実施形態において、合金鋼は、強い侵食または磨耗環境に曝露され得る用途に使用され得る。従って、合金はニッケル基超合金(すなわち625、C−22)またはステンレス鋼(すなわち316、304、430等)の代わりに、または組み合わせて使用され得る。鋼は、工具鋼、Hardox、Brinell 500等の従来の高硬度薄板材料の代替物としてまたは組み合わせて、もしくは炭化クロム、WC、複合炭化物、炭化タングステン等で耐磨耗加工を施されたもの等の磨耗板を肉盛り溶接して、使用され得る磨耗板の形態として使用され得る、または前記形態をとり得る。鋼は、Hardox、Brinell 500等の従来の高硬度薄板材料状の工具鋼、または、炭化クロム、WC、複合炭化物、炭化タングステン等で耐磨耗加工を施されたもの等の肉盛り溶接磨耗板、の代替物として又は組み合わせて使用され得る磨耗板の形態として使用され得る、または前記形態をとり得る。作製された磨耗板は、重量建設業、鉱業、資材運搬業における、シュート、対地作業ツール、トラック荷台、車台部品などを含むがそれらに限定されない多くの応用において、幅広い適用性を有し得る。略ナノ構造薄板のさらなる用途は、合金がチタン合金、超高強度鋼、セラミック材料、従来の装甲鋼、または反発性装甲鋼等に代わって、または組み合わせて使用され得るような、インフラ、民間車両、軍事車両を保護する航空宇宙応用、鋼装甲、または軍事装甲板を含み得る。
【0032】
前述の説明は、本発明を例示及び説明するためのものである。しかしながら、以上の説明は、ここに添付する特許請求の範囲に記述された本発明の範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0033】
10 双ロール鋳造法
12 溶融合金鋼
14 第1ローラー
16 ストリップまたは薄板
18 第2ローラー
20 冷却表面