(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5777854
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】液体噴出器
(51)【国際特許分類】
B05B 11/00 20060101AFI20150820BHJP
B65D 83/00 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
B05B11/00 101K
B65D83/00 K
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-43108(P2010-43108)
(22)【出願日】2010年2月26日
(65)【公開番号】特開2011-177628(P2011-177628A)
(43)【公開日】2011年9月15日
【審査請求日】2012年8月30日
【審判番号】不服2014-20769(P2014-20769/J1)
【審判請求日】2014年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(72)【発明者】
【氏名】後藤 孝之
【合議体】
【審判長】
伊藤 元人
【審判官】
中村 達之
【審判官】
金澤 俊郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−66399(JP,A)
【文献】
実開昭50−93305(JP,U)
【文献】
実開平4−50153(JP,U)
【文献】
特開2002−102753(JP,A)
【文献】
特開2000−218198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B11/00
B65D83/00-83/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器口部の内側を通って垂下するシリンダと、このシリンダを固定し当該シリンダの補助シリンダが起立する装着部材と、この装着部材の補助シリンダの内側を摺動するステムと、このステムを嵌合する凹部を有し当該ステムとの間に形成した空間を通して内容物が圧送されるヘッドと、このヘッドの押し下げ及び復帰によりシリンダ及びステムの内側を摺動して内容物を吸引、加圧及び圧送するピストンと、このピストンの摺動に応動してシリンダの吸入口を開閉する吸入弁と、ピストンの摺動に応動してステムの排出口を開閉してヘッドに内容物を圧送する排出弁とを備え、
当該排出口を、ステムの上端に形成し、当該排出口を形作る上端を、排出弁の先端が着座する弁座として構成し、
前記ヘッドの側面に形成された環状の凹溝に、このヘッドを通して圧送された内容物を外界に噴出させる開孔を有し当該ヘッドとの間に流路を形成するノズルチップを設け、
前記環状の凹溝によって該環状の凹溝の内側に前記ヘッドと一体に形成された円柱部の端面に、前記ノズルチップの開孔に通じる複数の流路を形成する複数の端面側凹溝を形成し、
前記ヘッドの前記円柱部の側面に、前記空間に開口して前記複数の端面側凹溝のそれぞれに通じる複数の流路を形成する複数の側面側凹溝を設け、
前記空間の一部として、前記ヘッドの側面とステムの外周面との間に、ステムの上端から前記環状の凹溝の下端を超える位置まで上下に延びると共に前記円柱部とステムとの間の全面に亘って形成された隙間を設け、当該隙間を通じて内容物を圧送させることを特徴とする液体噴出器。
【請求項2】
請求項1において、前記ノズルチップの開孔が位置する部分に、当該開孔に向かって突出する凸部を設けたことを特徴とする液体噴出器。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記排出口を、ステムの先端を内側に向かって環状に折り曲げることで当該ステムの上端に形成し、当該排出口を形作る上端を、排出弁の先端が着座する弁座として構成したことを特徴とする液体噴出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器の口部に装着され、当該容器の内容物を外界に噴出させるための液体噴出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の液体噴出器としては、例えば、
図3及び
図4に示すように、容器20の口部21の内側を通って垂下するシリンダ31から補助シリンダ35を起立させ、当該補助シリンダ35の内側を摺動するステム36に、このステム36との間に形成した空間C
0を通して内容物を圧送するヘッド38を嵌合させ、このヘッド38の押し下げ及び復帰によりピストン39をシリンダ31及びステム36の内側を摺動させることで、ピストン39の摺動にシリンダ31内の吸入弁40とステム36の内側に形成した弁座36
sと接触する排出弁41との開閉を応動させる液体噴出器であって、
ピストン39と吸入弁40との間に設けた逆止弁43によって
、容器20を起立させた状態は勿論、容器20を倒立させた状態でも内容物を噴霧させることができるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−218198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の液体噴出器は、液体の噴出にバラつきが生じることがあったが、本願発明者は、その原因が、
図4に示すように、ステム36とヘッド38との間に形成される空間C
0での圧力損失、特に従来は、ステム36の上端に排出口A
2があるのに対し、排出弁41の先端41aが着座する弁座36
sは、同図に示すように、ステム36の下端側に存在し、これに伴う、当該弁座36sから排出口A
2に至るステム36の内部通路Pでの圧力損失及び、空間C
0での圧力損失にあることを見出した。
【0005】
本発明の目的は、圧力損失の軽減された効率的な噴出を可能にする液体噴出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の蓄圧式噴出器は、容器口部の内側を通って垂下するシリンダと、このシリンダを固定し当該シリンダの補助シリンダが起立する装着部材と、この装着部材の補助シリンダの内側を摺動するステムと、このステムを嵌合する凹部を有し当該ステムとの間に形成した空間を通して内容物が圧送されるヘッドと、このヘッドの押し下げ及び復帰によりシリンダ及びステムの内側を摺動して内容物を吸引、加圧及び圧送するピストンと、このピストンの摺動に応動してシリンダの吸入口を開閉する吸入弁と、ピストンの摺動に応動してステムの排出口を開閉してヘッドに内容物を圧送する排出弁とを備え、
当該排出口を、ステムの上端に形成し、当該排出口を形作る上端を、排出弁の先端が着座する弁座として構成し、
前記ヘッドの側面に形成された環状の凹溝に、このヘッドを通して圧送された内容物を外界に噴出させる開孔を有し当該ヘッドとの間に流路を形成するノズルチップを設け、
前記環状の凹溝によって該環状の凹溝の内側に前記ヘッドと一体に形成された円柱部の端面に、前記ノズルチップの開孔に通じる
複数の流路を形成する
複数の端面側凹溝を形成し
、
前記ヘッドの前記円柱部の側面に、前記空間に開口して前記複数の端面側凹溝のそれぞれに通じる複数の流路を形成する複数の側面側凹溝を設け、
前記空間の一部として、前記ヘッドの側面とステムの外周面との間に、ステムの上端から前記環状の凹溝の下端を超える位置まで上下に延びると共に前記円柱部とステムとの間の全面に亘って形成された隙間を設け、当該隙間を通じて内容物を圧送させることを特徴とするものである。
【0007】
本発明に従えば、上述の弁座は、ステムの先端を内側に向かって環状に折り曲げることで構成することができる。従って、弁座は、例えば、ステムの上端のうち、当該ステムの先端の縁部で構成し、又は、排出弁の先端に環状の段差を設けることで、ステムの上端の背面を座部とすることも可能である。
【0008】
本発明によれば
、ノズルチップの開孔が位置する部分に、当該開孔に向かって突出する凸部を設けることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ステムの排出口を、その上端に形成し、当該排出口を形作る上端を、排出弁の先端が着座する弁座として構成したことから、排出弁の先端がステムの弁座から離脱することで圧送される内容物は、排出口からステムとヘッドとの間に形成された空間に直接圧送される。
【0011】
これにより、排出弁が排出口を直接開閉することで
、従来のように、ステムの上端に配置された排出口よりも下端側に弁座を設けた
場合に比べ、ステム、ヘッド、排出弁で囲まれた空間を減少させ、当該排出口に至るまでに生じる圧力損失を軽減することができる。
【0012】
これにより、本発明によれば、圧力損失の軽減された効率的な噴出が可能になる。従って、本発明によれば、従来に比べて細かい霧を噴射させることができる。また、上述の弁座は、ステムの先端を内側に向かって環状に折り曲げることで構成すれば、ステム、ヘッド、排出弁で囲まれた空間の減少につながり、圧力損失を軽減することができる。
【0013】
本発明において
、ノズルチップの開孔が位置する部分に、当該開孔に向かって突出する凸部を設ければ、ステムとヘッドとの間に形成された空間を通して圧送された内容物が、高い旋回速度で開孔に到達するため、従来に比べて細かい霧を噴射させることができる。
【0014】
また、本発明では、前記ヘッドの円柱部の端面に、当該ノズルチップの開孔に通じる
複数の流路を形成する
複数の端面側凹溝を形成することで、内容物が開孔に至るまで均一に流れるため、従来に比べて細かい霧を噴射させることができる。
【0015】
更に、前記ヘッドの円柱部の側面に、ステムとの間に形成した空間に開口して
複数の端面側凹溝のそれぞれに通じる複数の流路を形成する
複数の側面側凹溝を設ければ、内容物が開孔に通じる
複数の流路を形成する
複数の端面側凹溝に至るまで均一に流れるため、従来に比べて更に細かい霧を噴射させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一形態である、容器用の噴霧スプレーを一部断面で示す側面図である。
【
図3】本発明の従来技術である、容器用の噴霧スプレーを一部断面で示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の一形態を詳細に説明する。
【0018】
図中、1は、ボトル形容器(
図3参照)の口部上端に配置されるフランジ2を有し容器口部の内側を通って垂下するシリンダである。3は、フランジ2を固定する肩部4を有し当該肩部4の内側からシリンダ1の内径よりも大きな内径の補助シリンダ5が一体に起立する装着部材である。装着部材3は、その内側にねじ部3sを有し、容器口部に着脱可能に装着される。
【0019】
6は、装着部材3の補助シリンダ5の内側を液密状態に摺動する摺動筒7を有し当該摺動筒7の内側から一体に起立するステムである。8は、ステム6を嵌合する凹部8aを有し当該ステム6との間に形成した空間C
1を通して内容物が圧送されるヘッドである。
【0020】
9は、シリンダ1の内側を液密状態に摺動する摺動部9aと、ステム6の内側を液密状態に摺動する摺動部9bとを有し、内容物を吸引、加圧及び圧送するピストンである。ピストン9は、ヘッド8の押し下げ及び復帰の繰り返しに応じてシリンダ1及びステム6の内側をそれぞれ摺動する。
【0021】
10は、ピストン9の摺動に応動してシリンダ1の下端に形成した吸入口A
1を開閉する吸入弁である。本形態では、吸入弁10をボール弁で構成する。
【0022】
11は、ピストン9の摺動に応動してステム6の内側に形成した排出口A
2を開閉してヘッド8に内容物を圧送する排出弁である。本形態では、排出弁11をプランジャ弁で構成する。排出弁11は、その下端に段部11sが形成され、この段部11sで、ピストン9の下端を保持する。
【0023】
また、排出弁11は、リターンスプリングSを介してシリンダ1内に弾性保持されている。これにより、ピストン9は、排出弁11と共に、リターンスプリングSを介してシリンダ1内に弾性保持されている。
【0024】
ステム6は、その排出口A
2を、当該ステム6の先端6aを内側に向かって環状に折り曲げることで当該ステム6の上端6bに形成し、この排出口A
2を形作る上端6bを、排出弁11の先端11aが着座する弁座6sとして構成する。更に詳細には、上端6bのうち、排出口A
2を形作る先端6aの縁部を弁座6sとして構成する。
【0025】
なお、本発明に従えば、弁座6sは、ステム6の上端6
bで構成することができる。従って、弁座6sは、ステム6の上端6bのうち、当該ステム6の先端6aの下側に存在する縁部だけでなく、例えば、排出弁11の先端11aに環状の段差を設けることで、上端6bの背面6fを座部とすることも可能である。
【0026】
加えて、ヘッド8には、ノズルチップ12が設けられている。ノズルチップ12は、周壁12cと、この周壁12cの開口を封止する隔壁12bとを一体に備え、この隔壁12bには、開孔12aが形成されている。この開孔12aは、大径部12a
1と小径部12a
2からなる。
【0027】
ノズルチップ12は、その周壁12cがヘッド8の側面に形成された環状の凹溝8bに嵌合することで抜け止め保持されている。凹溝8bは、ステム6との間に形成された空間C
1に通じ、当該凹溝8bの内側に円柱部8cを形作る。
【0028】
円柱部8cの端面8eには、複数の凹溝8g
1が形成されている。凹溝8g
1はそれぞれ、ノズルチップ12の隔壁12bとの間に、当該ノズルチップ12の開孔12aに通じる流路を形成する。また、凹溝8g
1の合流部8eには、開孔12aに向かって突出する凸部8pが一体に設けられている。
【0029】
凸部8pは、先端に向かって先細りする円錐形状としてなる。なお、凸部8pは、その先端を開孔12aの大径部12a
1とオーバーラップさせる構成としているが、これに限定されるものではない。
【0030】
加えて、円柱部8cの側面には、凹溝8g
1のそれぞれに通じる複数の凹溝8g
2が設けられている。凹溝8g
2はそれぞれ、ノズルチップ12の周壁12aとの間に、ステム6との間に形成した空間C
1に開口して当該空間C
1に通じる流路を形成する。
【0031】
なお、
図1中、13は、吸入弁10の上方に配置されたスペーサである。スペーサ13は、下端外縁に周方向に間隔を空けて複数のフィン13aを有し、これらのフィン13aは、リターンスプリングSを介して排出弁11を弾性保持する。
【0032】
また、フィン13aの相互間はそれぞれ、複数の流路として構成されている。これらの流路から導入された内容物は、スペーサ13の上端部を構成するピン13bを案内に、排出弁11に設けた開口部A
3からピストン9との流路を通ってステム6に圧送される。
【0033】
本発明によれば、ステム6の排出口A
2を、当該ステム6の先端6aを内側に向かって環状に折り曲げることで当該ステム6の上端6bに形成し、当該排出口A
2を形作る上端6bを、排出弁11の先端11aが着座する弁座6sとして構成したことから、排出弁11の先端11aがステム6の弁座6
sから離脱することで圧送される内容物は、排出口A
2からステム6とヘッド8との間に形成された空間C
1に圧送される。
【0034】
これに対し、従来は、
図4等に示すように、ステム
36の上端に配置された排出口A
2よりも下端側に弁座36sが設けられていることで、空間C
0に加え、当該弁座36sから排出口A
2に至る内部通路Pでも圧力損失を生じている。
【0035】
即ち、本形態によれば、排出弁11が排出口A
2を直接開閉することで
、従来のように、ステム
36の上端に配置された排出口A
2よりも下端側に弁座36sを設けた
場合に比べ、ステム6、ヘッド8、排出弁11で囲まれた空間を減少させ、当該排出口A
2に至るまでに生じる圧力損失を軽減することができる。
【0036】
これにより、本発明によれば、圧力損失の軽減された効率的な噴出が可能になる。従って、本発明によれば、従来に比べて細かい霧を噴射させることができる。また、本形態の如く、上述の弁座6sを、ステム6の先端6aを内側に向かって環状に折り曲げることで構成すれば、ステム6、ヘッド8、排出弁11で囲まれた空間の減少につながり、圧力損失を軽減することができる。
【0037】
また、本形態の如く、ヘッド8に、このヘッド8を通して圧送された内容物を外界に噴出させる開孔12aを有し当該ヘッド8との間に流路を形成するノズルチップ12を設けると共に、当該開孔12aが位置する部分に、当該開孔12aに向かって突出する凸部8pを設ければ、ステム6とヘッド8との間に形成された空間
C1を通して圧送された内容物が、高い旋回速度で開孔12aに到達するため、従来に比べて細かい霧を噴射させることができる。
【0038】
また、本形態の如く、ヘッド8に、ノズルチップ12との間に、その開孔12aに通じる流路を形成する凹溝8g
1を形成すれば、内容物が開孔12aに至るまで均一に流れるため、従来に比べて細かい霧を噴射させることができる。
【0039】
更に、上述の場合、本形態の如く、ヘッド8に、ステム6との間に形成した空間
C1に開口して凹溝8g
1のそれぞれに通じる複数の流路を形成する凹溝8g
2を設ければ、内容物が凹溝8g
1に至るまで均一に流れるため、従来に比べて更に細かい霧を噴射させることができる。
【0040】
上述したところは、本発明の一形態を示したに過ぎず、特許請求の範囲内において、種々の変更を加えることができる。例えば、上述の形態は、予め液体噴出器としてユニット化されているが、本発明に従えば、ユニット
化させることなく、容器に対して個々のパーツを組み付けるものとすることもできる。また、
スペーサ13の有無は任意である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、例えば、化粧水、整髪料等の化粧品、虫除け等の医薬品及び、美容・健康用品の分野に係る液体噴出器として採用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 シリンダ
2 フランジ
3 装着部材
4 肩部
5 補助シリンダ
6 ステム
7 摺動部
8 ヘッド
9 ピストン
10 吸入弁
11 排出弁
11a 先端
11b 上端
12 ノズルチップ
12a 開孔
12b 隔壁
12c 周壁
12g
1 凹溝
12g
2 凹溝
12a
1 大径部
12a
2 小径部
13 スペーサ
13a フィン
13b ピン