【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による防食被覆材は、熱可塑性樹脂からなる面部と、前記面部と溶着される底部、および、該底部の両端からテーパー状に立ち上がる2つの突部であって双方の突部間の幅が徐々に広がっている突部、から構成され、底部および突部が熱可塑性樹脂からなるアンカー部と、からなり、コンクリート部材の内部にアンカー部が埋設され、該コンクリート部材の表面を被覆してその防食に供されるものである。
【0012】
本発明の防食被覆材は、防食対象となるコンクリート部材の表面を被覆する面部と、この面部に溶着されてコンクリート部材内に埋設されるアンカー部とから形成されたものであり、このアンカー部は、面部と溶着される底部と、この底部の両端からテーパー状に立ち上がる2つの突部であって双方の突部間の幅が徐々に広がっている突部と、から構成されるものであり、面部同様に熱可塑性樹脂からなるものである。
【0013】
すなわち、面部とアンカー部は射出成形にて一体とされるものではなく、双方が溶着されて一体とされたものであり、その製造コストは射出成形による場合に比して格段に廉価となる。
【0014】
アンカー部を縦断面で切断した際の形状としては、コの字型や、面部から突出する方向(外側)に向かってコの字が開いた型(U型もしくは略U型)など挙げることができ、アンカー部の面部に溶着される箇所は面部との溶着性を保証するべく、面部と相補的な直線領域もしくは湾曲領域を備えているのが好ましい。
【0015】
また、面部とアンカー部はともに樹脂の中でも熱可塑性樹脂から形成されており、高温雰囲気の型内で双方が容易にキャビティ形状に応じた形状に軟化もしくは溶融され、双方の一部同士が溶着されて一体化され、クーリングされて所望形状の防食被覆材をなすものであり、豊富な形状バリエーションの面部およびアンカー部が高い接着強度の溶着部で一体化された防食被覆材となる。
【0016】
熱可塑性樹脂の「軟化もしくは溶融」とは、熱可塑性樹脂が非結晶性プラスチックからなる場合は、そのガラス転移点Tgを越えた状態に対して「軟化」が適用され、熱可塑性樹脂が結晶性プラスチックの場合はその融点Tmを超えた状態に対して「溶融」が適用されるものである。
【0017】
結晶化度が極めて低いか、結晶化状態になり得ない非結晶性プラスチックとしては、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ABS樹脂、熱可塑性エポキシなどを挙げることができる。一方、分子鎖が規則正しく配列された結晶領域の量の比率が高いもの、すなわち結晶化度の高い結晶性プラスチックとしては、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ナイロン(PA:ナイロン6、ナイロン66など)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などを挙げることができる。特に、真空成形性が良好で耐薬品性等の防食性に優れている、アクリル変性高耐衝撃性塩化ビニル樹脂製プレートが好ましく、当該プレートとして積水化学工業株式会社製の「KYDEX(カイデックス(登録商標))プレート」を挙げることができる。
【0018】
既述するように、面部の形状は防食対象のコンクリート部材の表面形状に応じた任意の形状であるが、たとえば二次元的な平面、傾斜した2以上の平面からなる三次元的な平面、一つの曲率を有する湾曲面、2以上の曲率からなる湾曲面、平面と湾曲面からなる三次元形状などを挙げることができる。
【0019】
本発明はコンクリート部材にも及ぶものであり、このコンクリート部材は、防食被覆材を構成するアンカー部がその内部に埋設され、面部がその表面を被覆するものである。
【0020】
コンクリート部材内に上記する各アンカー部を構成する突部が、テーパー状に立ち上がり、かつ突部間の幅が徐々に広がっている形態であることから、間隔を置いてコンクリート部材内に埋設されている2つのアンカー部双方の突部で囲まれたコンクリート領域は、その幅が徐々に狭まるものとなり、このコンクリート領域が当該隣接するアンカー部双方の突部によってアンカー効果(もしくは抜け防止効果)を奏することになる。
【0021】
本発明の防食被覆材によって被覆されたコンクリート部材としては、シールドトンネルを構成するコンクリート製セグメントや、沈砂池やマンホール、汚泥貯留槽などを構成するコンクリート製の床や壁、柱などを挙げることができる。
【0022】
また、本発明は防食被覆材の製造方法にも及ぶものであり、この製造方法の一実施の形態は、熱可塑性樹脂からなる第1、第2のシートのそれぞれの両端を一対のクランプで把持し、対をなす第1、第2の金型が第1、第2のシートを挟む位置に位置決めされる第1のステップ、第1の金型は真空引き用孔を具備し、かつシートに対向するキャビティ面が凹凸状を呈しており、第2の金型も真空引き用孔を具備しており、双方の金型を高温雰囲気として第1、第2のシートを軟化もしくは溶融させ、前記真空引き孔から真空吸引し、中空針を第1、第2の金型のいずれか一方を貫通させ、さらに第1、第2のシートのいずれか一方を貫通させて第1、第2のシートの間に臨ませて圧力流体を提供することにより、第1のシートを凹凸状に加工してその凹部を第2のシートに溶着させ、その凸部が第2のシートから突出した中間体を製造する第2のステップ、連続した凸部をそれらの途中位置で切断することにより、第2のシートから成形された面部の表面に、第1のシートから成形された前記面部と溶着される底部、および、該底部の両端からテーパー状に立ち上がる2つの突部であって双方の突部間の幅が徐々に広がっている突部、から構成された複数のアンカー部が溶着されてなる防食被覆材を製造する第3のステップ、からなるものである。
【0023】
本発明の製造方法は、二枚のシートを同時成形する熱成形法(熱可塑性樹脂シートを加熱し、軟化もしくは溶融させて双方のシートを対応する金型に密着させて成形品を得る方法)である、いわゆるツインコンポジット成形法を適用したものである(ツインコンポジットは登録商標)。
【0024】
第1、第2のステップでは上記ツインコンポジット成形法を適用し、一方の熱可塑性樹脂シート(第2のシート)からなる面部の表面に、凹部と凸部が連続した他方の熱可塑性樹脂シート(第1のシート)のうちの当該凹部が熱溶着してなる中間体が製造される。なお、面部を形成する第2のシートと第1のシートの間に凸部の間には中空空間が形成される。この凸部にある中空空間は、第1、第2の金型それぞれの真空引き用孔からの真空吸引によって第1のシートを凹凸状に加工するとともに第2のシートをたとえば平面状に加工し、さらに、中空針をいずれか一方の金型およびいずれか一方のシートを貫通させて第1、第2のシート間に臨ませ、ここに圧力流体(圧力エア等)を提供することで第1のシートの凸部と第2のシートの間に形成されるものである。
【0025】
この中間体においては、未だ底部とこの底部の両端からテーパー状に立ち上がる2つの突部とからなるアンカー部は形成されていない。
【0026】
この中間体を金型から脱型し、間隔を置いて連続する複数の凸部をそれらの途中位置でたとえばNC切断機で切断することにより、凸部(の中空空間)が外側に開放されて、底部とこの底部の両端からテーパー状に立ち上がる2つの突部とからなるアンカー部が形成される(第3のステップ)。
【0027】
本発明の製造方法によれば、いわゆるツインコンポジット成形法を適用することにより、高い気密性もしくは液密性を要する成形型や高圧かつ高速の射出設備を要してその設備コストが極めて高価な射出成形に比して製造コストを格段に廉価とできる。すなわち、ツインコンポジット成形法で適用される第1、第2の金型は、たとえば金属板を切削して製作することができ、型の大型化に応じてそのコストメリットは一層顕著となる。なお、射出成形以外の代表的な成形法の一つである押し出し成形では、たとえば1.2m程度×3m程度の大型の板からなる面部を有する防食被覆材を製造することは極めて困難であり、幅の小さな部材をジョイントで組み付けて所望する大型寸法の面部を形成することになり、加工手間がかかるものである。
【0028】
また、NC切断機による凸部の切断の際には、必要となる孔開け加工や面部外周の精密切断加工などもおこなうことで、精緻に所望する平面輪郭の面部を有する防食被覆材を製造することができる。
【0029】
また、本発明による防食被覆材の製造方法の他の実施の形態は、熱可塑性樹脂からなり、凹凸状をなす第1のシートを真空成形にて用意し、かつ、熱可塑性樹脂からなる第2のシートを用意する第1のステップ、対をなす第1、第2の金型のうち、第1の金型はそのシートに対向するキャビティ面が凹凸状を呈しており、第1のシートと第2のシートを積層して積層体を形成し、双方の金型を高温雰囲気として第1、第2のシートを軟化もしくは溶融させ、第1のシートの凸部が第1の金型の凹部に遊嵌するようにして該積層体を第1、第2の金型のキャビティ内で加圧することにより、第1のシートの凹部を第2のシートに溶着させ、その凸部が第2のシートから突出した中間体を製造する第2のステップ、連続した凸部をそれらの途中位置で切断することにより、第2のシートから成形された面部の表面に、第1のシートから成形された前記面部と溶着される底部、および、該底部の両端からテーパー状に立ち上がる2つの突部であって双方の突部間の幅が徐々に広がっている突部、から構成された複数のアンカー部が溶着されてなる防食被覆材を製造する第3のステップ、からなるものである。
【0030】
本実施の形態は、真空成形法を適用して第1のシートを予め凹凸状に成形しておき、別途の金型内で第1、第2のシート同士を溶着して中間体を製造するものである。この方法によっても、比較例安価な製造コストにて防食被覆材を製造することができる。
【0031】
また、本発明による防食被覆材の製造方法の他の実施の形態は、凹凸状をなすキャビティ面と平面状のキャビティ面を有する金型内に熱可塑性樹脂を押し出してパリソンを形成し、パリソン内に圧力流体を提供して膨らまし、パリソンをキャビティ面に押し付け、第1、第2の金型を型閉めして加圧することにより、連続する積層姿勢のシートであって、平面状のシート部分に凹凸状のシート部分の凹部が溶着し、凸部が平面状のシート部分から突出した中間体を製造する第1のステップ、連続した凸部をそれらの途中位置で切断することにより、第2のシートから成形された面部の表面に、第1のシートから成形された前記面部と溶着される底部、および、該底部の両端からテーパー状に立ち上がる2つの突部であって双方の突部間の幅が徐々に広がっている突部、から構成された複数のアンカー部が溶着されてなる防食被覆材を製造する第2のステップ、からなるものである。
【0032】
本実施の形態は、ブロー成形を適用して連続するシートを膨らませながら凹凸状のシート部分と平面状のシート部分を成形してこれらの積層体を形成し、さらに双方を溶着して中間体を製造するものである。この方法によっても、比較例安価な製造コストにて防食被覆材を製造することができる。
【0033】
さらに本発明によるコンクリート部材の製造方法は、前記製造方法で製造された防食被覆材を型枠とともにセットし、型枠内にコンクリートを充填し、脱型することにより、その内部に防食被覆材のアンカー部が埋設され、その表面に防食被覆材の面部が被覆してなるコンクリート部材を製造するものである。
【0034】
たとえばコンクリート製セグメントを製造する場合は、防食被覆材をセグメント用型枠内へ配設しておき、型枠内に配筋を施してコンクリートを充填し、それが硬化することで、防食被覆材のアンカー部が内部に埋設され、防食被覆材の面部にて表面が防護されたセグメントを製造することができる。
【0035】
なお、セグメントのように湾曲面を有するコンクリート部材に対しては、防食被覆材を構成する面部がシート状の熱可塑性樹脂から形成されていることから、容易に変形して所望する湾曲形状をなすことができる。