特許第5777936号(P5777936)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5777936
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】吸引カテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/01 20060101AFI20150820BHJP
   A61M 25/14 20060101ALI20150820BHJP
   A61B 17/00 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   A61M25/01 500
   A61M25/14 512
   A61B17/00 320
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-113567(P2011-113567)
(22)【出願日】2011年5月20日
(65)【公開番号】特開2012-35059(P2012-35059A)
(43)【公開日】2012年2月23日
【審査請求日】2014年2月18日
(31)【優先権主張番号】特願2010-162198(P2010-162198)
(32)【優先日】2010年7月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591140938
【氏名又は名称】テルモ・クリニカルサプライ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100149261
【弁理士】
【氏名又は名称】大内 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】日下部 晋
【審査官】 安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−297063(JP,A)
【文献】 特表2002−514099(JP,A)
【文献】 特開平09−276411(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0070847(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/01−25/14
A61B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端から基端まで連通する吸引ルーメンが形成された吸引チューブと、
前記吸引チューブの先端側の外面に並列して接合されると共に、前記吸引チューブの外部に基端開口部を有するガイドワイヤルーメンが形成されたガイドワイヤチューブと、
を備え、
前記吸引チューブは、一部の外面が前記吸引ルーメンの軸線方向に略平行する平坦部を有し、
前記ガイドワイヤルーメンの前記基端開口部が、前記吸引チューブの前記平坦部に位置しており、
前記吸引チューブは、前記基端開口部よりも先端側で、且つ前記平坦部に対応する部位の先端側に、前記吸引チューブの基端側から先端側に向かって前記吸引ルーメンの内面積が前記平坦部の内面積に対して小さくなるように変化する先端側傾斜部を有し、
前記ガイドワイヤチューブの外表面は、前記先端側傾斜部と対応する位置に傾斜部を有する
ことを特徴とする吸引カテーテル。
【請求項2】
請求項1記載の吸引カテーテルにおいて、
前記吸引ルーメンは、前記ガイドワイヤルーメンに並列しない基端側部分における軸線方向に直交する方向での断面形状が略円形状であり、前記ガイドワイヤルーメンに並列する先端側部分における軸線方向に直交する方向での断面形状が円形状の一部に切欠きを設けた略欠円形状であることを特徴とする吸引カテーテル。
【請求項3】
請求項1又は2記載の吸引カテーテルにおいて、
前記吸引チューブは、前記平坦部に対応する部位の基端側に、基端側に向かって外径が拡径する基端側傾斜部を有することを特徴とする吸引カテーテル。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の吸引カテーテルにおいて、
前記吸引チューブの前記平坦部には、該吸引チューブの軸線方向に沿って前記ガイドワイヤルーメンの前記基端開口部へと連続する溝部が設けられることを特徴とする吸引カテーテル。
【請求項5】
請求項記載の吸引カテーテルにおいて、
前記溝部は、前記吸引チューブの基端側から先端側に向かって傾斜して前記ガイドワイヤルーメンに連通することを特徴とする吸引カテーテル。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の吸引カテーテルにおいて、
前記ガイドワイヤルーメンの前記基端開口部は、前記平坦部において、前記ガイドワイヤルーメンの先端側に向かって前記ガイドワイヤチューブの外径が大きくなるように、斜めに形成されていることを特徴とする吸引カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内で生成された血栓等の異物を吸引ルーメンを介して吸引除去する吸引カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
血管内に詰まった血栓等の異物を除去する治療方法として、長尺なシャフト内に吸引ルーメンが形成された吸引カテーテルを用いた方法が行われることがある。
【0003】
吸引カテーテルは、通常、体内で先行するガイドワイヤが挿通されるガイドワイヤルーメンを有し、ガイドワイヤに案内されながら目的部位まで挿入される。そして、基端のハブに接続されたシリンジ等の吸引具で発せられる陰圧により、先端の吸引口から吸引ルーメンへと異物を吸引し、外部に除去することができる。
【0004】
例えば、特許文献1には、吸引ルーメンを設けた吸引チューブの先端側にガイドワイヤチューブを一体的に設置すると共に、ガイドワイヤルーメンの基端を吸引ルーメン内に開口させた構成からなる吸引カテーテルが開示されている。また、特許文献2には、吸引チューブの先端側の外面にガイドワイヤチューブを設けた吸引カテーテルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−57831号公報
【特許文献2】特開2006−297063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような吸引カテーテルは、体内に挿入されるため、外径が可及的に小径であることが望ましい反面、異物を確実に吸引するため、吸引ルーメンの流路面積(断面積)を十分に確保する必要がある。また、一回の挿入で複数箇所にある異物を容易に繰り返し除去できる等の高い操作性も望まれている。
【0007】
ところが、上記特許文献1記載の構成の場合には、ガイドワイヤルーメンの基端が吸引ルーメン内に開口しているため、吸引時にはガイドワイヤを一旦抜去する必要がある。このため、ある異物を除去した後、次の異物を除去するために吸引カテーテルを体内で進退させる際には、再びガイドワイヤを挿入する必要があり、手技が煩雑になる。また、上記特許文献2記載の構成の場合には、ガイドワイヤルーメンの基端開口部が吸引チューブの外面の傾斜部に一部が埋没するように設置されているため、先端開口部から挿通されたガイドワイヤの基端が、ガイドワイヤルーメンの基端開口部周囲の吸引チューブ外面に引っかかり、ガイドワイヤの挿通に手間を要する可能性がある。
【0008】
本発明はこのような従来の課題を考慮してなされたものであり、高い操作性を得ることができる吸引カテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る吸引カテーテルは、先端から基端まで連通する吸引ルーメンが形成された吸引チューブと、前記吸引チューブの先端側の外面に並列して接合されると共に、前記吸引チューブの外部に基端開口部を有するガイドワイヤルーメンが形成されたガイドワイヤチューブとを備え、前記吸引チューブは、一部の外面(外径)が前記吸引ルーメンの軸線方向に略平行する平坦部を有し、前記ガイドワイヤルーメンの前記基端開口部が、前記吸引チューブの前記平坦部に位置しており、前記吸引チューブは、前記基端開口部よりも先端側で、且つ前記平坦部に対応する部位の先端側に、前記吸引チューブの基端側から先端側に向かって前記吸引ルーメンの内面積が前記平坦部の内面積に対して小さくなるように変化する先端側傾斜部を有し、前記ガイドワイヤチューブの外表面は、前記先端側傾斜部と対応する位置に傾斜部を有することを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、ガイドワイヤの導出口となるガイドワイヤルーメンの基端開口部が、吸引チューブの平坦部に位置していることにより、ガイドワイヤルーメンに挿通されるガイドワイヤは、その基端が前記基端開口部から導出される際に、吸引チューブの外面に引っかかることが回避され、ガイドワイヤの吸引チューブへの追従性が向上するため、当該吸引カテーテルの操作性が向上する。
【0011】
前記吸引ルーメンは、前記ガイドワイヤルーメンに並列しない基端側部分における軸線方向に直交する方向での断面形状が略円形状であり、前記ガイドワイヤルーメンに並列する先端側部分における軸線方向に直交する方向での断面形状が円形状の一部に切欠きを設けた略欠円形状であると、当該吸引カテーテルの外径を可及的に小径に形成しつつ、吸引ルーメンの流路面積(断面積)を十分に確保することができ、異物を円滑に吸引することが可能となる。
【0012】
前記吸引チューブは、前記平坦部に対応する部位の基端側に、基端側に向かって外径が拡径する基端側傾斜部を有するとよい。そうすると、前記平坦部上を案内されたガイドワイヤは、該基端側傾斜部に沿って摺接されるため、ガイドワイヤを吸引チューブの外面上を一層円滑に通過させることができる。
【0015】
前記吸引チューブの前記平坦部には、該吸引チューブの軸線方向に沿って前記ガイドワイヤルーメンの前記基端開口部へと連続する溝部が設けられるとよい。そうすると、ガイドワイヤルーメンに挿通されたガイドワイヤを基端側へと一層円滑に案内することができる。この場合、前記溝部は、前記吸引チューブの基端側から先端側に向かって傾斜して前記ガイドワイヤルーメンに連通することが好ましい。
【0016】
また、前記ガイドワイヤルーメンの前記基端開口部は、前記平坦部において、前記ガイドワイヤルーメンの先端側に向かって前記ガイドワイヤチューブの外径が大きくなるように、斜めに形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガイドワイヤの導出口となるガイドワイヤルーメンの基端開口部が、吸引チューブの平坦部に位置していることにより、ガイドワイヤルーメンに挿通されるガイドワイヤは、その基端が前記基端開口部から導出される際に、吸引チューブの外面に引っかかることが回避され、ガイドワイヤの吸引チューブへの追従性が向上するため、当該吸引カテーテルの操作性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る吸引カテーテルの全体構成図である。
図2図2Aは、図1中で一点鎖線の丸印IIで示す部分を拡大した側面断面図であり、図2Bは、図2Aに示すシャフト本体の平面図である。
図3図3Aは、図2A中のA−A線に沿う断面図であり、図3Bは、図2A中のB−B線に沿う断面図であり、図3Cは、図2A中のC−C線に沿う断面図であり、図3Dは、図2A中のD−D線に沿う断面図であり、図3Eは、図2A中のE−E線に沿う断面図であり、図3Fは、図2A中のF−F線に沿う断面図であり、図3Gは、図2A中のG−G線に沿う断面図であり、図3Hは、図2A中のH−H線に沿う断面図であり、図3Iは、図2A中のI−I線に沿う断面図である。
図4図4Aは、第2芯棒の断面図であり、図4Bは、図4Aに示す第2芯棒によって成形されたシャフト本体の断面図である。
図5図5Aは、第2芯棒の変形例を示す断面図であり、図5Bは、図5Aに示す第2芯棒によって成形されたシャフト本体の断面図である。
図6図6Aは、第2芯棒の他の変形例を示す断面図であり、図6Bは、図6Aに示す第2芯棒によって成形されたシャフト本体の断面図である。
図7図7Aは、比較例として形成する吸引カテーテルの要部を拡大した側面断面図であり、図7Bは、図7A中のVIIB−VIIB線の断面図である。
図8】ガイドワイヤ挿入性の評価におけるガイドワイヤの挿入抵抗値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る吸引カテーテルについて、その製造方法との関連で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0020】
1.吸引カテーテルの全体構成の説明
図1は、本発明の一実施形態に係る吸引カテーテル10の全体構成図である。本実施形態に係る吸引カテーテル10は、生体器官に予め挿入されたガイディングカテーテル(図示せず)の内腔を先行するガイドワイヤ11をたどって長尺なシャフト本体12を挿通させ、血管内で生じた血栓等の異物を先端の吸引口14から吸引除去するための医療用器具である。当該吸引カテーテル10は、例えば、冠動脈内の血栓の除去に用いられるが、他の血管、胆管、気管、食道、尿道、その他の臓器等の生体管状器官内にある異物の吸引に対しても適用可能である。
【0021】
図1に示すように、吸引カテーテル10は、細径で長尺なシャフト本体12と、シャフト本体12の基端に接続されたハブ16とを備え、シャフト本体12の先端付近にガイドワイヤルーメン20aを備えている。
【0022】
なお、図1及び図2において、シャフト本体12の右側(ハブ16側)を「基端(近位、後端)」側、シャフト本体12の左側(吸引口14側)を「先端(遠位)」側と呼び、他の各図についても同様とする。
【0023】
シャフト本体12は、先端から基端まで連通する吸引ルーメン24aが形成された吸引チューブ24と、吸引チューブ24の先端側の外面に並列して接合され、先端から基端まで連通する前記ガイドワイヤルーメン20aが形成されたガイドワイヤチューブ20とから構成される。吸引チューブ24とガイドワイヤチューブ20は、互いに連通しておらず、隣接して独立している。
【0024】
吸引チューブ24の最先端には、先端に向かって傾斜して開口する吸引口14を有する先端チップ26が設けられている。ガイドワイヤチューブ20の最先端は、吸引口14よりも多少突出しており、この突出部分にX線不透過マーカ(造影マーカ)28が固着されている。X線不透過マーカ28は、ガイドワイヤチューブ20の外周面に設けられ、金や白金等からなるX線(放射線)不透過性を有する材質によって形成されることにより、生体内で当該吸引カテーテル10の先端位置をX線造影下で視認するためのものである。X線不透過マーカ28は、外周面に露出しておらず、ガイドワイヤチューブ20内に埋め込まれていてもよい。
【0025】
吸引チューブ24は、その基端がハブ16に接続及び連通され、ハブ16に設けられるルアーテーパー16a等によって、図示しないシリンジ等の陰圧供給装置を接続可能である。この陰圧供給装置で発生される陰圧(負圧)により、吸引口14から血栓等の異物を吸引し、吸引ルーメン24aから該陰圧供給装置へと移送し外部に除去することができる。なお、図1中の参照符号16bは、吸引チューブ24のハブ16への接続部での屈曲(キンク)を防止するためのストレインリリーフ部である。
【0026】
吸引チューブ24には、その先端から基端まで吸引ルーメン24aの周縁部に沿った状態で、補強部材としてのブレード(編組)30が埋設されている(図2A参照)。ブレード30は、ステンレス鋼等の金属からなるコイルやメッシュであり、つまり、吸引チューブ24は、その壁面内にブレード30を設けて補強された編組チューブである。ブレード30は、先端チップ26に存在させないよう構成してもよい。
【0027】
ガイドワイヤチューブ20は、その先端開口部から導入されるガイドワイヤ11を、ガイドワイヤルーメン20aを通して基端の開口部(基端開口部)22から外部に導出可能である。なお、ガイドワイヤチューブ20と吸引チューブ24との接合構造及び開口部22の周辺構造についての詳細は後述する。
【0028】
吸引チューブ24は、例えば、外径が1.1mm〜4.0mm程度、好ましくは1.2mm〜3.0mm程度であり、肉厚が20μm〜500μm程度、好ましくは100μm〜400μm程度であり、長さが500mm〜2000mm程度、好ましくは1200mm〜1600mm程度の可撓性のあるチューブである。ガイドワイヤチューブ20は、例えば、外径が0.4mm〜1.2mm程度、好ましくは0.6mm〜1.0mm程度であり、肉厚が10μm〜400μm程度、好ましくは100μm〜250μm程度であり、長さが10mm〜350mm程度、好ましくは25mm〜250mm程度の可撓性のあるチューブである。
【0029】
これら吸引チューブ24及びガイドワイヤチューブ20は、使用者が基端側を把持及び操作しながら、長尺なシャフト本体12を前記ガイディングカテーテルや血管等の内部へと円滑に挿通させるために、適度な可撓性と適度な強度(コシ、剛性)を有する構造であることが好ましく、例えば、先端側から基端側に向かって段階的に又は傾斜的に剛性が高くなる構造であるとよい。また、吸引チューブ24及びガイドワイヤチューブ20の内腔である吸引ルーメン24a及びガイドワイヤルーメン20aは、異物やガイドワイヤ11が円滑に通過できることが好ましい。
【0030】
そこで、吸引チューブ24及びガイドワイヤチューブ20は、例えば、ポリアミドエラストマの外層32に、PFA(テトラフロオロエチレンとパーフルオロアルコキシエチレンの共重合体)の内層34を形成した2層チューブで形成するとよい(図2A参照)。また、吸引チューブ24は、上記のように十分な長さを有することから、高い操作性を確保するために、例えば、先端から所定長部分を柔軟な素材又は構造で構成し、その基端側をある程度剛性の高い素材又は構造で構成するとよい。なお、先端チップ26は、吸引チューブ24と同様な材質で形成すればよいが、異物の確実な除去と、体内での挿通性を確保するために、該吸引チューブ24よりも高い硬度を有することが好ましい。
【0031】
2.吸引チューブとガイドワイヤチューブの接合構造及び開口部の周辺構造の説明
次に、吸引チューブ24とガイドワイヤチューブ20との接合構造及び開口部22の周辺構造について説明する。図2Aは、図1中で一点鎖線の丸印IIで示す部分を拡大した側面断面図であり、図2Bは、図2Aに示すシャフト本体12の平面図である。また、図3Aは、図2A中のA−A線(位置A)に沿う断面図であり、図3Bは、図2A中のB−B線(位置B)に沿う断面図であり、図3C(位置C)、図3D(位置D)、図3E(位置E)、図3F(位置F)、図3G(位置G)、図3H(位置H)及び図3I(位置I)についても同様である。なお、図3A図3Iでは、図面の簡単のため、断面ハッチングを省略して図示している。
【0032】
図2Aに示すように、吸引チューブ24は、図2A中の上面側、つまりガイドワイヤチューブ20が接合される側の外面に、基端側傾斜部36と先端側傾斜部38を有し、これらの間に図2Aの側面視で吸引ルーメン24aの軸線O1の方向に平行する平坦部40が設けられている。平坦部40は、外径断面が円形である吸引チューブ24の一部を外から押し潰して平坦に形成したような形状である。平坦部40に対応する吸引ルーメン24a内表面には、内腔平坦部が存在する。平坦部40と該内腔平坦部との間に存在するブレード30も略平坦になっている。平坦部40の基端側に連なって設けられた基端側傾斜部36は、基端側に向かって外面(外径)が拡径する形状であり、平坦部40の先端側に連なって設けられた先端側傾斜部38は、先端側に向かって外面(外径)が縮径する形状である。すなわち、基端側傾斜部36、先端側傾斜部38及び平坦部40は、吸引チューブ24の同一周方向上に軸方向に連続して形成されている。基端側傾斜部36と先端側傾斜部38に対応する吸引ルーメン24a内表面も略同様の角度で傾斜している。なお、平坦部40は、図2Aの側面視でガイドワイヤルーメン20aの軸線O2の方向にも平行している。これらの傾斜部36、38は、外表面の平坦部40の面積が大きく、又は小さくなるよう変化するように構成されている。
【0033】
図2Aに示すように、側面視で軸線O1(O2)の方向に平行する平坦部40に対し、基端側傾斜部36及び先端側傾斜部38は、側面視で軸線O1(O2)の方向に交差する方向に形成されている。平坦部40は、側面視で軸線O1(O2)の方向に完全に平行する構成以外にも、僅かに傾斜又は凹凸した略平行な構成であってもよく、換言すれば、平坦部40は、その前後の基端側傾斜部36又は先端側傾斜部38の軸線O1に対する交差角度よりも小さい交差角度で交差するものであれば含むものとする。
【0034】
このように、吸引チューブ24は、先端側から基端側に向かって、先端側傾斜部38で外径が拡径し、平坦部40を介して再び基端側傾斜部36で外径が拡径する2段傾斜形状からなり、その内腔である吸引ルーメン24aも、これら先端側傾斜部38、平坦部40及び基端側傾斜部36の形状に対応するようにその内径が変化している(図3A図3Iも参照)。すなわち、基端側傾斜部36では、吸引ルーメン24aの内径(内面積)が平坦部40の内径に対して大きくなるよう変化し、先端側傾斜部38では、吸引ルーメン24aの内径(内面積)が平坦部40の内径に対して小さくなるよう変化している。先端側傾斜部38の先端側には先端側平坦部が存在する。該先端側平坦部は外径断面が円形である吸引チューブ24の一部を外から押し潰して平坦に形成した形状である。該先端側平坦部に対応する吸引ルーメン24a内表面には先端側内腔平坦部が存在する。該先端側平坦部と該先端側内腔平坦部との間に存在するブレード30も略平坦になっている。
【0035】
具体的には、吸引ルーメン24aは、ガイドワイヤルーメン20aに並列する先端側部分の軸線O1に直交する方向での断面形状が円形状の一部に切欠きを設けた略欠円形状(この場合は、円の一部を直径と平行する水平方向に切除した形状。異形形状)となっている(図3A図3E参照)。さらに、吸引ルーメン24aは、基端側傾斜部36より基端側部分(ガイドワイヤチューブ20が存在しない部分)の軸線O1に直交する方向での断面形状が略円形状であり(図3I参照)、基端側傾斜部36の間は、先端側から基端側に向かって略欠円形状の切欠きが次第に減少する移行部分となっている(図3F図3H参照)。なお、前記略欠円形状(異形形状)部分の吸引ルーメン24aの外層32は、軸線O1方向に沿って硬度変化していてもよく、例えば、最先端部の外層32は、その直後の外層32よりも硬いことが好ましい。
【0036】
ガイドワイヤチューブ20の開口部22は、軸線O1方向に交差する傾斜を有するカット面形状である。ガイドワイヤチューブ20は、基端の開口部22の略全体が平坦部40に位置し、先端が先端チップ26より多少突出した位置に設定され、この状態で吸引チューブ24の外面(上面)に、例えば熱融着によって軸方向全体が一体的に接合されている。
【0037】
図2A及び図2Bに示すように、ガイドワイヤチューブ20は、開口部22の上端部に近接する位置に、先端側傾斜部38と対応する(平面視で重なる)傾斜部42を有する。つまり、ガイドワイヤルーメン20aは、その先端開口から傾斜部42より先端側の部分までは略一直線の通路であり、該傾斜部42で多少上方(外方)を指向した後、開口部22で開口する。すなわち、ガイドワイヤチューブ20の最も基端側の管状から開口部(傾斜開口部)22に移行する位置で吸引カテーテル10は最大の外径を有する。
【0038】
図3A図3Iに示すように、ガイドワイヤルーメン20aの開口部22が臨む吸引チューブ24の平坦部40から基端側傾斜部36までの外面(上面)には、ガイドワイヤルーメン20a(開口部22)へと連続する凹状の溝部44が形成されている。溝部44は、吸引チューブ24の基端側から先端側に向かって次第に縮径するように傾斜して深くなり、ガイドワイヤルーメン20aへと連通している。なお、図2Aでは、図面の簡単のため、溝部44の底面のみを図示し、該底面から起立する壁部については省略している。
【0039】
ここで、図2A中の位置A〜位置Iにおける軸線O1(O2)に直交する方向での断面について、図3Aに示すように、吸引ルーメン24aの短径をa、長径をb、と称し、シャフト本体12の長径をc、短径をd、と称し、ガイドワイヤルーメン20aの径をe、と称するものとする。そうすると、これら短径a、長径b、長径c、短径d及び径eの寸法は、例えば、短径aが0.92mm、長径bが1.12mm、長径cが1.56mm、短径dが1.31mm、径eが0.40mm、と設定するとよく、勿論、これらの寸法は、当該吸引カテーテル10の仕様等によって適宜変更可能である。なお、吸引ルーメン24aの短径aは、ガイドワイヤルーメン20aの径eの2倍以上の大きさであることが好ましい。
【0040】
この場合、吸引ルーメン24aの短径aと長径bの比(a/b)と、吸引チューブ24にガイドワイヤチューブ20が接合された部分におけるシャフト本体12の短径dと長径cの比(d/c)とは、例えば、比(a/b)が0.821程度、比(d/c)が0.840程度となり、略同等な値となっている。換言すれば、比(a/b)と、比(d/c)とを、いずれも0.8以上の値とし、さらに、両者が略同等、例えば、±20%程度、より好ましくは、±10%程度の範囲内に設定することにより、吸引チューブ24にガイドワイヤチューブ20が接合された部分でのシャフト本体12の軸線O1に直交する方向での断面形状を円形状に近づけることができる。これにより、当該吸引カテーテル10を前記ガイディングカテーテルに挿通させる操作が容易となる。
【0041】
3.吸引カテーテルの作用の説明
次に、上記のように構成される吸引カテーテル10の作用について説明する。
【0042】
先ず、吸引カテーテル10の使用方法としては、一般的な吸引カテーテルと同様に使用できる。すなわち、図示しないガイディングカテーテルを冠動脈内等の目的位置に留置し、該ガイディングカテーテルにガイドワイヤ11を挿通させる。続いて、ガイドワイヤルーメン20aの先端から基端の開口部22へとガイドワイヤ11を挿通させることにより、シャフト本体12の先端を目的位置へと到達させる。そこで、ハブ16に図示しないシリンジ等の陰圧供給装置を接続し、吸引ルーメン24a内に陰圧を発生させることにより、先端の吸引口14から血栓等の異物を吸引し、吸引ルーメン24aを介して体外へと除去する。
【0043】
この場合、当該吸引カテーテル10では、ガイドワイヤ11の導出口(出口)となる開口部22が、吸引チューブ24の平坦部40に位置している。このため、ガイドワイヤルーメン20aに挿通されるガイドワイヤ11は、その基端が開口部22から導出される際に、吸引チューブ24の外面に引っかかることが回避され、ガイドワイヤ11の吸引チューブ24(シャフト本体12)への追従性が向上するため、吸引カテーテル10を円滑に体内へと挿入することができ、当該吸引カテーテル10の操作性を向上させることができる。
【0044】
しかも、ガイドワイヤルーメン20aが吸引ルーメン24aに対して独立して設けられていることから、ガイドワイヤ11を挿入した状態のままで吸引を行うことができる。このため、血管内の所定の異物を吸引除去した後、当該血管の前後にある他の異物を吸引除去する際には、ガイドワイヤルーメン20aに挿入されているガイドワイヤ11をそのまま利用してシャフト本体12を前後に移動させることができ、手技を簡便に且つ迅速に行うことができる。一方、連続的に除去したい異物の形状が異なり、又は他の血管に再度吸引カテーテル10を移動させて異物を除去する場合には、一旦吸引カテーテル10を抜去する必要が生じるが、当該吸引カテーテル10では、上記のように平坦部40を設けたことからガイドワイヤ11の挿通動作が円滑であるため、吸引カテーテル10の再挿入等も極めて容易である。
【0045】
上記の通り、吸引ルーメン24aは、ガイドワイヤルーメン20aに並列する先端側部分の一部に切欠きを設けた断面略欠円形状であり、ガイドワイヤルーメン20aに並列しない基端側部分が断面略円形状である。このため、図3A図3Iから諒解されるように、当該吸引カテーテル10の外径を可及的に小径に形成しつつ、吸引ルーメン24aの流路面積(断面積)を十分に確保することができ、異物を円滑に吸引することが可能である。
【0046】
吸引チューブ24の外面、つまり平坦部40及び基端側傾斜部36に対応する位置には、ガイドワイヤルーメン20aの開口部22から連続する溝部44が形成されている。これにより、上記した平坦部40によるガイドワイヤ11の円滑な挿通動作を一層向上させることができ、当該吸引カテーテル10の操作性が一層向上する。
【0047】
この際、平坦部40の基端側に連なって基端側傾斜部36が設けられることにより、平坦部40上の溝部44に案内されたガイドワイヤ11は、該基端側傾斜部36に沿って摺接されるため、該ガイドワイヤ11を吸引チューブ24の外面上に沿って一層円滑に通過させることができる。また、平坦部40の先端側に先端側傾斜部38が設けられることにより、ガイドワイヤルーメン20aに挿通されたガイドワイヤ11を平坦部40上に一層円滑に導くことができる。さらに、ガイドワイヤルーメン20aは、先端側傾斜部38に対応する位置に傾斜部42を有する。これにより、ガイドワイヤルーメン20aに挿通されたガイドワイヤ11を、上方が開口する傾斜カット面である開口部22に対して一層円滑に導出させることができる。
【0048】
なお、図3Aに示されるガイドワイヤチューブ20と吸引チューブ24とが並列配置された部位での吸引チューブ24(吸引ルーメン24a)の断面形状を、図5Bに示される略V字形状や図6Bに示される略U字形状に形成された凹部24bを設けた構成とし、ブレード30を該凹部24bを含む吸引ルーメン24aの縁部全周に沿って埋設した構成としてもよい。そうすると、当該吸引カテーテル10の外径を低減しながらも、吸引ルーメン24aの流路面積(断面積)を一層増大させることが可能となる。勿論、吸引チューブ24(吸引ルーメン24a)の断面形状は、上記した図4B図5B及び図6Bに例示したものに限られず、各種の形状とすることも可能である。
【0049】
4.吸引カテーテルの製造方法の説明
次に、上記のような吸引カテーテル10の製造方法の一例について説明する。
【0050】
先ず、所定の長さに設定されたチューブ素材であるガイドワイヤチューブ20のガイドワイヤルーメン20aに図示しない第1芯棒を挿入し、所定の長さに設定されたチューブ素材である吸引チューブ24の吸引ルーメン24aに第2芯棒52を挿入する(図4A参照)。前記第1芯棒及び第2芯棒52は、例えばステンレス鋼等の金属によって形成される。
【0051】
ここで、前記第1芯棒の軸線方向に直交する方向での断面形状は、全長に渡って略円形状とされ、第2芯棒52の軸線方向に直交する方向での断面形状は、全長に渡って円形状の一部をその直径と平行する方向に切断した切欠き部52aを設けた略欠円形状とされる。この場合、前記第1芯棒の長さは、先端がガイドワイヤチューブ20の先端開口部から多少突出し、基端が開口部22から吸引チューブ24の基端側傾斜部36の基端まで達する程度に設定するとよく、第2芯棒52の長さは、先端が吸引チューブ24の吸引口14から多少突出し、基端が図2A中の位置Iまで達する程度に設定するとよい。
【0052】
次に、第2芯棒52が挿入された吸引チューブ24の外面の周方向位置のうち、該第2芯棒52の切欠き部52a(図4A参照)に対応する位置に、前記第1芯棒が挿入されたガイドワイヤチューブ20を並列配置し、両者を圧縮して接合する。従って、ガイドワイヤチューブ20からの押圧力により、吸引チューブ24(吸引ルーメン24a)は第2芯棒52の断面形状に略一致した形状に形成される。
【0053】
以上の製造方法によれば、ガイドワイヤチューブ20には断面略円形状の前記第1芯棒を挿入し、吸引チューブ24には断面略欠円形状の第2芯棒52を挿入し、両者を接合することにより、前記第1芯棒によってガイドワイヤチューブ20が吸引チューブ24側に押圧成形される。この際、第2芯棒52には、切欠き部52aが設けられていることにより、ガイドワイヤチューブ20が吸引チューブ24を押圧変形させると共に、第2芯棒52の切欠き部52aに適宜埋め込まれ、図2A及び図3A図3Iに示される断面形状を持ったシャフト本体12が成形される。
【0054】
従って、当該吸引カテーテル10は、ガイドワイヤルーメン20aが吸引ルーメン24aと独立して形成される構造であるが、その外径を可及的に低減することができる。しかも、図3Aから諒解されるように、吸引ルーメン24aは、シャフト本体12の断面のうち、ガイドワイヤルーメン20aが占有する領域以外の大部分に及んで略欠円形状に形成されるため、その流路面積を可及的に増大させることができる。
【0055】
ここで、吸引チューブ24のチューブ素材には、その軸線方向の先端から基端まで吸引ルーメン24aの縁部に沿うように予めブレード30が埋設されており、このブレード30が、図2A中の位置Aでは、第2芯棒52の切欠き部52aの形状に沿って変形させられるため、その変形したスペースにガイドワイヤチューブ20が適切に埋め込み配置され、当該吸引カテーテル10の外径を可及的に低減することができる。
【0056】
なお、吸引ルーメン24aを成形する第2芯棒52は、図4Aに示す略半月状の断面形状からなる棒材以外であってもよい。例えば、図5A及び図6Aに示すように、ガイドワイヤチューブ20が配置される側に、120°又は90°の略V字形状や略U字形状の切欠き部56a、58aを有する第2芯棒56、58を用いることもできる。
【0057】
そうすると、図5B及び図6Bに示すように、上記の製造方法における接合工程において、前記切欠き部56a、58a内にガイドワイヤチューブ20(前記第1芯棒)が埋め込み成形されるため、図2Aの位置Aに対応する位置等では、吸引ルーメン24aの断面形状(内面形状)が第2芯棒56、58の断面形状に略一致し、それぞれ凹部24b、24bを設けた形状となり、ブレード30は、凹部24bを含む吸引ルーメン24aの縁部全周に沿って埋設されることになる(図5B及び図6B参照)。このため、当該吸引カテーテル10の外径を低減しながらも、吸引ルーメン24aの流路面積(断面積)を一層増大させることが可能となる。勿論、第2芯棒の切欠き部の形状は、上記した切欠き部52a、56a、58aに例示したものに限られず、他の角度範囲の形状等であってもよい。
【0058】
また、図4B図5B及び図6Bに示されるように、成形時、ブレード30を確実に変形させて、第2芯棒52、56、58の切欠き部52a、56a、58aの形状(図5B及び図6Bに示す構成例の場合、最終的には凹部24bの形状)に一致させるために、吸引チューブ24について、ガイドワイヤチューブ20が接合される部分(例えば、図2A中の先端から位置Aや位置Bまでの部分)については、ブレード30の強度(剛性)を基端側の部分(例えば、図2A中の位置Iより基端部分)よりも低いものに設定しておくとよい。そうすると、吸引チューブ24の形状を切欠き部52a、56a、58aの形状に一致させる際、ブレード30も円滑に且つ容易に変形させることができ、当該吸引カテーテル10の製造効率や歩留まりが向上する。
【0059】
本発明は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成乃至工程を採り得ることは勿論である。
【実施例】
【0060】
次に、本発明に係る吸引カテーテル10の実施例(性能評価)について、比較例との対比を含めて説明する。
【0061】
1.実施例(吸引カテーテル10)の製造
吸引チューブ24には、ポリアミドエラストマからなる外層32と、フッ素樹脂からなる内層34と、及びそれらの間に配置された丸線編組体補強層(ブレード30)とを含んで構成されるチューブを用い、全長1400mm、外径1.40mm、内径1.10mmの寸法に作製した。ガイドワイヤチューブ20は、ポリアミドエラストマからなる外層32と、フッ素樹脂からなる内層34とを含んで構成されるチューブを用い、全長90mm、外径0.64mm、内径0.45mmの寸法に作製した。
【0062】
吸引チューブ24の最先端部から基端側に1.5mm入った部分まで外層32表面の一部を円周状に削った。そして、先端チップ26の一部が外層32の表面を削った部分に重なるように嵌め込んだ。先端チップ26の寸法は、長さ30mm、外径1.40mm、内径1.15mmである。次に、吸引ルーメン24aに直径1.05mmの芯棒を挿入し、吸引チューブ24と先端チップ26の境界部分に重なるように熱収縮チューブ(図示せず)を被覆し、該熱収縮チューブを被覆した状態で加熱し、吸引チューブ24と先端チップ26を接合した。加熱後に熱収縮チューブを取り除いた。
【0063】
ガイドワイヤチューブ20のガイドワイヤルーメン20aに対し、該ガイドワイヤルーメン20aの軸線方向に直交する方向での断面形状が円形状の第1芯棒を、その基端開口部から突出するように挿入した。また、吸引チューブ24の吸引ルーメン24aに対し、該吸引ルーメン24aの軸線方向に直交する方向での断面形状が短径a=0.85mm、長径b=1.08mmの略欠円形状(図3A図3E参照)の第2芯棒52を、吸引チューブ24の先端側から約200mmの位置まで挿入した。
【0064】
吸引チューブ24の先端側において、第2芯棒52の切欠き部52aの位置と一致する吸引チューブ24の外層32表面上(すなわち、切欠き部52aが臨む面上)にガイドワイヤチューブ20を配置した。次に、ガイドワイヤチューブ20と吸引チューブ24全体に熱収縮チューブを被覆し、該熱収縮チューブを先端から基端へ向かって加熱することで、ガイドワイヤチューブ20と吸引チューブ24を融着させた。加熱後に熱収縮チューブを取り除いた。
【0065】
その後、ガイドワイヤチューブ20から第1芯棒を除去すると共に、吸引チューブ24から第2芯棒52を除去し、先端チップ26の先端を所定の開口形状となるようにカットした。また、ガイドワイヤチューブ20の基端開口部から先端側に向かって7mm入り込んだ位置から開口部22が斜めになるように、ガイドワイヤチューブ20をカットした。さらに、チューブ(吸引チューブ24)の基端にハブ16を連結して吸引カテーテル10を製造した。
【0066】
製造した吸引カテーテル10は、先端側のガイドワイヤチューブ20と吸引チューブ24の並列部分の外径(断面形状)が略円形状であり、この略円形状はほぼ偏心していなかった。ガイドワイヤチューブ20のガイドワイヤルーメン20aは、吸引ルーメン24aと連通していなかった。吸引ルーメン24aの断面は、吸引チューブ24の先端からガイドワイヤチューブ20の開口部22の基端側付近まで連続して略欠円形状に形成されていた。この吸引カテーテル10は、吸引チューブ24の一部の外面に吸引ルーメン24aの軸線方向に略平行な平坦部40を有し、ガイドワイヤチューブ20の開口部22が平坦部40に位置していた。また、この吸引カテーテル10の吸引ルーメン24aは、ガイドワイヤルーメン20aに並列しない基端側部分における軸線方向に直交する方向での断面形状が略円形状であり、ガイドワイヤルーメン20aに並列する先端側部分における軸線方向に直交する方向での断面形状が円形状の一部が切欠かれた略欠円形状であった。
【0067】
吸引チューブ24は、平坦部40に対応する部位の基端側に、基端側に向かって外径が拡径する基端側傾斜部36を有していた。また、吸引チューブ24は、平坦部40に対応する部位の先端側には、先端側に向かって外径が縮径する先端側傾斜部38を有していた。ガイドワイヤチューブ20のガイドワイヤルーメン20aは、先端側傾斜部38に対応する位置に、基端側に向かって拡径する傾斜部42を有していた。
【0068】
2.比較例(吸引カテーテル10’)の製造
図7Aは、比較例として形成する吸引カテーテル10’の要部を拡大した側面断面図であり、図7Bは、図7A中のVIIB−VIIB線の断面図である。比較例として製造する吸引カテーテル10’は、吸引ルーメン24a’を形成する芯棒として、軸線方向と直交方向の断面形状が直径0.98mmの円形状の芯棒を使用し、それ以外は実施例の吸引カテーテル10と同様の方法で製造した。製造された吸引カテーテル10’は、吸引チューブ24’の一部の外面に吸引ルーメン24a’の軸線方向O1’に略平行する平坦部を有していなかった。吸引カテーテル10’は、吸引ルーメン24a’の軸線方向に直交する方向での断面形状が先端から基端まで円形状であった。吸引カテーテル10’の吸引チューブ24’は、ガイドワイヤルーメン20a’の開口部22’付近の基端側に、基端側に向かって外径が拡径する基端側傾斜部36’を有していた。しかしながら、ガイドワイヤルーメン20a’の開口部22’付近の先端側には、先端側に向かって外径が縮径する先端側傾斜部を有していなかった。
【0069】
3.寸法の評価
上記実施例及び比較例に記載の方法で製造した各吸引カテーテル10、10’について、シャフト本体12、12’の各先端部分(ガイドワイヤチューブ20、20’を有する部分)の外径をレーザー外径測定器(株式会社キーエンス製)で測定した。また、各先端部分をシャフト本体12、12’の軸線方向に直交する方向で切断し、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製)で断面積(流路断面積)を測定した。この測定の結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、実施例の吸引カテーテル10は、比較例の吸引カテーテル10’に比べてシャフト本体12の先端部分の外径がより小さいこと、及び吸引カテーテル10’の吸引ルーメン24a’に対し吸引ルーメン24aがほぼ同等の流路断面積を有することが明らかになった。
【0072】
4.吸引性能の評価試験
吸引カテーテル10、10’の吸引性能の評価試験では、吸引カテーテル10、10’の基端のハブ16に二方活栓の一端を取り付け、該二方活栓の他端に30mLシリンジを取り付け、37℃の水を満たした水槽に、吸引カテーテル10、10’先端の吸引口14を挿入した。次に、二方活栓のコックを閉じた状態で、シリンジのプランジャーを30mLの位置まで引いて固定した。その後、コックを開き吸引を開始し、シリンジの表示で5mLに水が吸引された時点を0秒としてシリンジの表示で25mLまで水が入る時間を測定した。上記実施例及び比較例に記載の方法で製造した各吸引カテーテル10、10’についてこの試験を行い、計算にて1秒当たりの吸引量を求めた。この計算結果を表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示すように、実施例のカテーテル10は、一秒当たりの吸引量が比較例のカテーテル10’と同等であることが明らかになった。すなわち、寸法評価及び吸引性能評価から、実施例のカテーテル10は、外径が小径であり、且つ十分な吸引性能を有していることが確認できた。
【0075】
5.ガイドワイヤ挿入性の評価
上記実施例及び比較例に記載の方法で製造した各吸引カテーテル10、10’について、各ガイドワイヤルーメン20a、20a’の先端から基端の開口部22、22’に向かってガイドワイヤ11を挿通し、そのときの抵抗値を測定した。なお、本評価における「抵抗値」とは、各ガイドワイヤルーメン20a、20a’にガイドワイヤ11を所定の速度(例えば、500mm/min)で挿入する際に、ガイドワイヤ11にかかる力の値を算出したものである。ガイドワイヤ11が開口部22、22’から導出されるときの最大抵抗値を表3に示すと共に、最大抵抗値を含めたガイドワイヤ11がガイドワイヤルーメン20a、20a’内を通過する時の挙動を示す抵抗値のグラフを図8に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
表3及び図8に示すように、実施例の吸引カテーテル10は、ガイドワイヤ11が基端の開口部22か導出する際の抵抗値が比較例の吸引カテーテル10’よりも低かった。すなわち、ガイドワイヤルーメン20aの開口部22において、ガイドワイヤ11が吸引チューブ24の外面に引っかかることが回避され、より円滑に挿入動作していることが明らかになった。
【0078】
6.吸引操作の評価
実施例の吸引カテーテル10では、ガイドワイヤルーメン20aにガイドワイヤ11を挿通させた状態で、吸引カテーテル10の基端側のハブ16にシリンジを連結してシリンジのプランジャーを引くことにより陰圧をかけたところ、先端の吸引ルーメン24aの吸引口14から吸引操作することができた。また、吸引操作の合間における吸引操作の停止時に、ガイドワイヤ11をガイドワイヤルーメン20aに挿入した状態で、ガイドワイヤ11に沿って吸引カテーテル10を移動させることができた。以上のことから実施例の吸引カテーテル10は、吸引操作時にガイドワイヤ11を抜去する必要がないことが確認できた。
【符号の説明】
【0079】
10…吸引カテーテル 11…ガイドワイヤ
12…シャフト本体 14…吸引口
20…ガイドワイヤチューブ 20a…ガイドワイヤルーメン
24…吸引チューブ 24a…吸引ルーメン
24b…凹部 30…ブレード
36…基端側傾斜部 38…先端側傾斜部
40…平坦部 42…傾斜部
44…溝部 52、56、58…第2芯棒
52a、56a、58a…切欠き部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8