特許第5777939号(P5777939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5777939
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】陽極酸化膜生成方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/04 20060101AFI20150820BHJP
【FI】
   C25D11/04 101H
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-123456(P2011-123456)
(22)【出願日】2011年6月1日
(65)【公開番号】特開2012-251188(P2012-251188A)
(43)【公開日】2012年12月20日
【審査請求日】2014年4月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592226198
【氏名又は名称】株式会社ヤマシナ
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100068526
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭生
(74)【代理人】
【識別番号】100156085
【弁理士】
【氏名又は名称】新免 勝利
(72)【発明者】
【氏名】山口 友美恵
(72)【発明者】
【氏名】池田 誠司
(72)【発明者】
【氏名】高木 一樹
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−290575(JP,A)
【文献】 特開昭59−016995(JP,A)
【文献】 特開2002−275695(JP,A)
【文献】 特開昭61−238996(JP,A)
【文献】 特開2012−233213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/04−11/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工する部品を陽極に取り付け、酸性の電解液に浸漬し、通電することにより部品表面に酸化アルミニウムからなる酸化膜を生成させる陽極酸化膜生成方法であって、
電流印加終了の60分前〜3分前から印加電流を40%〜95%の値に低下させて低い電流にすること、
低い電流を流す時間は、陽極酸化時間に対して、1/8〜1/2であること、
部品を陽極に取り付け通電させるための電極冶具において、アルミ合金、又は、チタン合金を使用することを特徴とする、陽極酸化膜生成方法。
【請求項2】
低い電流の値は、電流低下前の高い電流の値よりも0.1〜3.0アンペア低い値である請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純アルミニウムおよびアルミニウム合金を含むアルミニウム金属の表面硬度、耐蝕性、電気絶縁性、耐摩耗性、放熱性などを向上させる目的をもって、アルミニウム金属を陽極に取り付け、酸性液に浸漬し、電流を印加してアルミニウム金属の表面に人為的に酸化を促進させ、酸化膜であるアルミナ(Al2O3)を生成させる「アルミニウム金属陽極酸化技術」に関するものである。
【背景技術】
【0002】
陽極酸化加工は、図1に概略的に示されたような基本的構成の電解槽とその周辺機器により為される。陰極(C)が内壁に取り付けられた電解槽(A)の電解液(B)に、加工材(F)を電極冶具(E)にて陽極(D)に取り付け浸漬し、直流電源(G)にて通電して直流電流を印加することにより、人為的に酸化を加速させ陽極酸化膜を得る。その時、加工材にジュール熱が発生するので、冷却機(H)にて電解液(B)を冷却し、ブロアー(I)によるエアー撹拌によりジュール熱による発熱を拡散させ加工材へのダメージを防ぐ。
【0003】
従来の陽極酸化技術においては、図2図4図6図8図10図12の写真のように、加工するアルミニウム金属部品の形状により狭小な凹部や細孔の内部、加工電解槽の陰極よりの距離が遠い場合や、陰極と直接面せず陰となるところがあるなどした時は、部品内において各部分間で生成する酸化膜の厚さに5〜30ミクロンほどの差が生じ、安定した耐蝕性や電気絶縁性などを損なう原因となっていたが、電流が流れる特性による如何ともしがたい問題であるとし、陽極酸化技術の限界として見過ごされてきた。
【0004】
特許第4069135号のように、従来の陽極酸化技術に比して、格段に厚い酸化膜を生成させる優れた技術であっても、また、特開2009−030736号のように、「ねじ」のような極端に鋭角部や狭小な凹部を有する形状部品に交流電源を使用して、その波形を調節することにより直流電流(擬似的)を生じさせ、ジュール熱の発生を抑制し、パルス的な電流の立ち上がり時の加圧的電流の流れを利用して加工部品に複合硬質陽極酸化膜を生成させるような特殊な技術であっても、アルミ部品内において生じる酸化膜の厚さの差や、狭小な凹部や細孔の内部などにおいて酸化膜が生成し難いという問題に触れず、如何ともしがたい現象は存在した。また、この方法には、電流の流れが寸断され、皮膜の生成率が鈍化し、生産効率が低下するという欠点が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4069135号
【特許文献2】特開2009−030736号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、狭小な凹部や細孔の内部などを有するような細密な形状(および/または複雑な形状)をしたアルミニウム金属部品であっても硬度及び耐蝕性を向上させた均一な陽極酸化膜を生成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、陽極酸化加工において、電流印加終了の60分前〜3分前から印加電流を40%〜95%の値に低下させて低い電流にすることを特徴とする、陽極酸化膜を生成する方法を提供する。
本発明は、均一な陽極酸化膜を有するアルミニウム金属部品、特にねじを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アルミニウム金属部品に対して硬度及び耐蝕性を向上させた均一な陽極酸化膜を生成することが可能になる。アルミニウム金属部品が細密形状、例えば複雑な細密形状であっても、均一な厚さを有する陽極酸化膜が得られる。
本発明によれば、従来は陽極酸化が困難である種類であるADC12などのアルミニウム金属の上に均一な厚さの陽極酸化膜を形成できる。
アルミニウム金属部品における狭小部分などの従来は耐食性の低かった部分が、高い耐食性および電気絶縁性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】陽極酸化加工槽及び関連機器の概略図。
図2】A1100材を、従来技術法で加工して生成した厚さが均一でない陽極酸化膜の状態の拡大断面写真。
図3】A1100材を、本発明の加工技術で生成した厚さが均一な陽極酸化膜の状態の拡大断面写真。
図4】A7075材を、従来技術法で加工して生成した厚さが均一でない陽極酸化膜の状態の拡大断面写真。
図5】A7075材を、本発明の加工技術で生成した厚さが均一な陽極酸化膜の状態の拡大断面写真。
図6】ADC12材を、従来技術法で加工して生成した厚さが均一でない陽極酸化膜の状態の拡大断面写真。
図7】ADC12材を、本発明の加工技術で生成した厚さが均一な陽極酸化膜の状態の拡大断面写真。
図8】A6063材の開き角度90°形状を、従来技術法で加工して生成した厚さが均一でない陽極酸化膜の状態の拡大断面写真。
図9】A6063材の開き角度90°形状を、本発明の加工技術で生成した厚さが均一な陽極酸化膜の状態の拡大断面写真。
図10】A6063材の開き角度60°形状を、従来技術法で加工して生成した厚さが均一でない陽極酸化膜の状態の拡大断面写真。
図11】A6063材の開き角度60°形状を、本発明の加工技術で生成した厚さが均一な陽極酸化膜の状態の拡大断面写真。
図12】A6063材の開き角度30°形状を、従来技術法で加工して生成した厚さが均一でない陽極酸化膜の状態の拡大断面写真。
図13】A6063材の開き角度30°形状を、本発明の加工技術で生成した厚さが均一な陽極酸化膜の状態の拡大断面写真。
図14】A7075材の均一でない陽極酸化膜に塩水交互浸漬192時間を為した後の腐蝕した状態の拡大断面写真。
図15】A7075材の均一な陽極酸化膜に塩水交互浸漬888時間を為した後の未腐蝕状態の拡大断面写真。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、アルミニウム金属からなる基材に陽極酸化処理を施して、基材上に陽極酸化膜を形成する。
本発明において、加工する部品を陽極に取り付け、酸性の電解液に浸漬し、通電することにより部品表面に人為的に酸化膜を生成させて金属部品の耐蝕性などを向上させる陽極酸化加工処理において、電流印加終了予定時間の60分前〜3分前の間にて印加してきた電流値を40〜95%の値にまで低下させ、電流印加終了まで低下電流値を保持して、印加終了予定時間まで電流を印加して部品表面全体に均一な陽極酸化膜を生成させる。
【0011】
図1に示すような陽極酸化加工槽(すなわち、電解槽)(A)を用いて、陽極酸化加工を行う。陽極酸化加工槽(A)は、電解液(B)、陰極(C)および陽極(D)を有しており、さらに冷却機(H)および撹拌ブロアー(I)を有している。
硫酸を主体とした酸性電解液(B)に、加工する部材(F)を電極冶具(E)により陽極(D)に取り付け浸漬し、直流電源(G)にて直流電流を印加し、陽極酸化加工を行う。ただし、本発明において使用する陽極酸化加工槽は、図1に示す形状や設備に限定されない。
【0012】
酸性電解液(B)は、硫酸、蓚酸、その他の酸(例えば、燐酸、クロム酸、マロン酸)などの酸の水溶液である。硫酸および蓚酸を用いることが好ましい。さらに、金属塩(例えば、硫酸または蓚酸の金属塩)を用いることが好ましい。金属塩における金属の具体例は、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、銀などである。さらに、有機物、特に、有機低分子重合体、例えば、シリコーン、特に低重合(例えば、分子量200〜5000)のシリコーン、アクリル化合物、特に低重合(例えば、分子量200〜5000)アクリル樹脂組成物およびこれらの混合物を加えてもよい。蓚酸を加えることにより、高い電圧電流密度にて加工する事となり、陽極酸化膜の耐摩耗性や生成率は向上し、加工時間を短縮出来る。通常、蓚酸を使用した時は、皮膜の生成率が鈍化して生産率が低下することを容認し、交流電流を使用して発熱を抑える必要が有るが、硫酸と混合し、加えて、金属塩や有機物を添加することにより、直流電流を印加しても、発熱に起因した皮膜硬度、耐食性などの機能を損なう事は無い。
酸の濃度は、50〜2000g/L、例えば100〜1000g/Lであってよい。濃度が180g/L〜300g/Lの硫酸と、濃度が40g/L〜70g/Lの蓚酸を組み合わせて使用することが特に好ましい。酸以外の他の成分の濃度は、1〜100g/Lであってよい。
電解液の温度は、−10〜+30℃、より好ましくは−5℃〜+10℃であってよい。
【0013】
陰極(C)は、陽極酸化処理用の陰極として使用できる導電性の材料(特に、金属)からできている。
陽極(D)は、アルミニウムである。陽極のアルミニウムが電解して、酸化アルミニウムを形成する。
【0014】
電極冶具(E)は、加工する部材より電流が流れる時の電気抵抗値の高い金属であり、且つ、耐蝕性の高いものであることが好ましい。電極冶具(E)は、望ましくはチタン合金である。場合により、耐蝕性のSUS材(ステンレス鋼)を使用しても良い。アルミニウム金属を使用して良いが、加工するアルミ部材と同種のアルミニウム金属、若しくは、加工するアルミ部材よりも電気抵抗値の高いアルミニウム金属が好ましい。もし、電気抵抗値の低い物や、耐蝕性の低い物を選んだ時は、電流を印加した時に、加工する部材より先に酸化が始まり、電流の流れが阻害されて加工部材に十分な電流が印加されなくなり、加えて、電極冶具(E)の発熱による溶解が始まり、所望の効果を得ることが出来ない。
【0015】
加工する部材(F)はアルミニウム金属からできている。「アルミニウム金属」とは、純アルミニウムまたはアルミニウム合金を意味する。純アルミニウムは、アルミニウムほぼ100重量%(例えば、アルミニウムの純度99.00重量%以上、特に99.50重量%以上)からなる。アルミニウム合金は、アルミニウムに加えて、他の金属を含有する。他の金属の例は、Fe、Mg、Si、Cu、Zn、Ni、Mn、Ag、Cr及びZrである。他の金属は、1種であっても、あるいは2種以上の組合せであってもよい。合金において含まれる他の金属の量は、アルミニウム合金に対して、0.1〜40重量%、例えば0.5〜14重量%であってよい。
【0016】
アルミニウム金属の具体例は、次のとおりである。
純アルミニウム(1000系)、
アルミニウム−銅(Al-Cu)系合金(2000系)、
アルミニウム−マンガン(Al-Mn)系合金(3000系)、
アルミニウム−ケイ素(Al-Si)系合金(4000系)、
アルミニウム−マグネシウム(Al-Mg)系合金(5000系)、
アルミニウム−マグネシウム−ケイ素(Al-Mg-Si)系合金(6000系)、
アルミニウム−亜鉛−マグネシウム(Al-Zn-Mg)系合金(7000系)
【0017】
直流電源(G)により直流電圧を印加する。必要に応じて、交流電圧を印加してもよい。印加電圧は、5〜200ボルト、より好ましくは10〜80ボルトであることが好ましい。印加電流は、加工部品表面積に対して電流密度が1.0A/dm〜50A/dm、より好ましくは1.5A/dm〜30.0A/dmになるようなものであってよい。
【0018】
本発明において、初めに高い電流で陽極酸化を行い、次いで低い電流で陽極酸化を行う。低い電流は、高い電流の40%〜95%、例えば60〜90%の値である。例えば、低い電流の値は、高い電流の値よりも0.1〜3.0アンペア、0.3〜1.0アンペア低い電流値であってよい。高い電流を流す時間は、5〜120分、例えば10〜80分であり、低い電流を流す時間は、3〜60分、例えば5〜30分である。低い電流を流す時間は、陽極酸化時間(すなわち、電流を流す時間(一般に8分〜180分))に対して、1/8〜1/2、例えば1/5〜1/3であってよい。
【0019】
従来の陽極酸化処理方法においては、電流を印加すると電流の特性により凸部に過度に電流が流れ酸化が促進される傾向がある。また、陰極に対し平行して面する部分や距離的に近い部分は凸部と同じく酸化が促進され、結果として酸化膜が他の部分に比して厚く生成されることがある。
【0020】
よって、酸化が促進された部分は、酸化膜が厚くなり電気抵抗値が上がり、規定の電流値を印加し続けることを求める限り電圧が上昇し、酸化膜が生成し難い部分をも含めて、酸化膜の厚さの差を維持、且つ、増幅させながら酸化膜を成長させ続ける。
【0021】
電流印加終了の前に、電流値を下げて電圧を下げることは、酸化膜が厚く生成し電気抵抗値が上昇した凸部などへの電流供給を停止させる事となり、部品内において電気抵抗値が低い部分、即ち、酸化膜の薄い部分にのみ酸化膜の生成に必要な電流を供給する事となる。
【0022】
その結果、酸化膜の生成し難い狭小な凹部や、陰極に対し陰になっていた部分などにおいて主に電流が供給されることにより加工基材と電解液間でイオン交換がなされて酸化膜が生成されていく。
そして、電気抵抗値が上昇し、電圧が電流値を下げた時点の数値に至った時、再度、凸部などの電流が流れ易い部分へも電流が供給され、その時点で陽極酸化加工を終了する事により、均一な酸化膜を生成させる。酸化膜は、長時間にわたる耐食性にすぐれており、(例えば、図15に示すように192時間にわたる)塩水交互浸漬後も応力腐食割れを生じることはない。
【0023】
また、電流値を下げて陽極酸化加工をする時間は、3〜60分、例えば5〜30分、特に5〜15分である。低い電圧(すなわち、低い電流)を印加する時間が60分を超える場合には、厚く酸化膜が生成していた部分が、電流を供給されず電解液の酸化作用に永く曝される事になり酸化膜に求める耐蝕性などの機能を損なう。因みに、電流の供給があれば電解液とのイオン交換はなされ、基材金属であるアルミニウム金属に生成された酸化膜は成長し、求める機能が損なわれることはない。
電流は、40%〜95%、例えば60〜90%の値に低下させる。電流の低下にほぼ比例して、電圧も低下する。低い電流を流し続けると、電圧が徐々に上昇するが、電圧が低下直前の高い電圧に達した時点で、通電を終了して、陽極酸化加工を終了する。
形成する陽極酸化膜の厚さは、一般に3〜200マイクロメートル、例えば10〜150マイクロメートルである。
【0024】
本発明の方法によれば、種々のアルミニウム金属部品の上にアルミナ膜を形成できる。アルミニウム金属部品が細密および/または複雑な形状を有していても、アルミナ膜は均一な厚さで形成できる。アルミニウム金属部品は、製氷用及び解凍用トレー、炊飯器,鍋,釜,やかんその他の加熱用調理器、瞬間湯沸器、熱交換器、空調機、冷凍機、冷蔵庫、オイルヒーター、ラジエーター、冷却フィン、空冷及び水冷エンジン(放熱の促進)、航空機の翼(着氷防止)、半導体放熱基板、半導体パッケージ、ヒートパイプ、軸受、各種摺動部材、ブレーキシュー、ポプコーンやアイスクリーム製造器、電気機器シャシー、モーターや変圧器等のケーシング、締結具(例えば、ねじ、ボルトナット)であってよい。特にねじが好ましい。
【0025】
本発明は、締結具(例えば、ねじ)による締結後の異種金属間のガルバニックコロージョン、即ち、電解腐蝕を防ぐために有効である。金属のイオン化傾向がH+よりも大きければ、金属表面は容易にイオン化するし、金属酸化物に水溶性があればそれによっても自然酸化膜などのバリアー層は剥離される。
また、金属腐蝕の中心に酸化還元反応があるので、異種金属が接触している部位はガルバニ電池を形成する為に腐蝕を加速する要因になる。
【0026】
現在の産業界が求める重要課題であるマグネシウム合金の有効な締結方法を提案できる。マグネシウム合金は、金属中アルミ(すなわち、アルミニウム金属)よりも比強度が高く、豊富な供給量を誇る重要なベースメタルとなりうる金属であるが、イオン化傾向が大きい卑な金属であり、異種金属との電位差によってガルバニックコロージョンを生じ易い。
然るに、本発明によって製造された「アルミニウムねじ」であれば、その表面硬度と安定した耐蝕性と電気絶縁性によりマグネシウム合金同士の締結やマグネシウム合金と異種金属の締結において問題となるガルバニックコロージョン問題を払拭することが出来る。
【0027】
その他、本発明によって製造された「アルミニウムねじ」は、熱による線膨張率が樹脂部品と近似値的な数値を示すことにより、樹脂部品と樹脂部品、樹脂部品と金属部品の締結に使用して熱によるひずみが生じ難く、安定した締結力の維持と部品寿命の向上を実現できる。
【実施例】
【0028】
実施例および比較例
図1に示す装置を使用して、アルミニウム金属製のねじ(長さ25mm、M5、ピッチ0.8)及びその他アルミニウム金属製部品に陽極酸化膜を形成した。次に示す条件および表に示す条件を使用した。
(電解液)
硫酸:280g/L
蓚酸:45g/L
硫酸ニッケル:24g/L
アクリル組成物(ヒドロキシプロピルメタクリレート68%と、ネオペンチルグリコールジメタクリレート10%と、ポリプロピレングリコールメタクリレート19.5%と、1,6ヘキサンジオールジグリシジルエーテル1%と、ブチルパーオキシオクトエイト1%と、ハイドロキノンモノメチルエーテル500ppmと、ジシアンジアミド0.3%とから成る): 300g/L
電解液の温度:+10℃
【0029】
得られた陽極酸化膜について、拡大写真により、均一性を評価した。
結果を表A1、表A2、表B、表Cおよび図2〜15に示す。
【0030】
図14および図15で用いた塩水交互浸漬試験は、JIS H8711(アルミニウム合金の応力腐食割れ試験方法)に準じて、行った。塩水交互浸漬試験の手順は以下のとおりである。
(1)ステンレス製の治具、ナットに対し、平ワッシャを介して陽極酸化処理を施したねじを締め付け試料として用いる。
(2)ねじの締め付けは、降伏荷重の90%の軸力になる締め付けトルクとする。
(3)締め付け試料を試験液に10分間浸漬、50分間室内にて保持乾燥を繰り返す。
(4)試験液はイオン交換水による塩化ナトリウム3.5%±0.1%の水溶液を用いた。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
(注)上記表の比率数値が1であれば完全に均一である事を表わし、数値が1を超え大きくなれば狭小部の耐食性が向上して応力腐食に対しての耐力が大きくなっていく事を示す。
【0035】
表Cを参照すると、狭小部確認点膜厚と基準点膜厚の比率について、図2図3の比較、図4図5の比較、図6図7の比較、図8図9の比較、図10図11の比較、図12図13の比較から、本発明によれば、従来に比べて、均一であるか、および/または耐食性に優れるねじが得られことがわかる。
【0036】
電気抵抗値が上昇し、電圧が電流値を下げた時点の数値に至った時、再度、凸部などの電流が流れ易い部分へも電流が供給され、その時点で加工を終了する事により、表A1および表A2に示す図3図5図7図9図11図13のように均一な酸化膜を生成させ、長時間にわたる(例えば、図15に示すように888時間にわたる)塩水交互浸漬後も応力腐食割れの原因である腐食すら生じることはない。
【0037】
図14の如く、従来のように、均一でない陽極酸化膜の場合、狭小な凹部での耐蝕性に劣るために応力腐蝕割れが進行している。しかし、図15のように、均一な陽極酸化膜を生成した場合は、同じ狭小な凹部に応力腐蝕割れは発生していない。
【0038】
検証条件は、3.5%塩水に10分浸漬、50分乾燥の周期にて浸漬を繰り返し続ける塩水交互浸漬法による。加えて、狭小な凹部に耐力の90%の引っ張り応力負荷を、通常のSUS材を使って加え続けて電気的腐蝕も加わった、より過酷な腐蝕環境下にて行われたものである。
【0039】
なお、加工試験は、表A1に記載の如く、陽極酸化膜が容易に生成できるアルミニウム金属A1100材(図2図3)とCuが多量に含有するために陽極酸化膜の生成が難しい、超々ジュラルミンと称されるA7075材(図4図5)、そして、汎用的に使用されているが、Siの含有率が極端に多いために陽極酸化膜の生成が困難であるアルミダイカスト鋳物のADC12材(図6図7)の合計3種類の試験片を用い、腐蝕検査は、中間的位置に存在するA7075材(図4図5)を使用して行った。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、例えば、「ねじ」の様に、同一部材内に鋭角部や狭小な凹部を併せ持つような部品について、特にその表面硬度や耐蝕性、電気絶縁性を向上させるのに有効である。
【符号の説明】
【0041】
A…陽極酸化加工槽
B…電解液
C…陰極
D…陽極
E…電極冶具
F…加工する部材
G…直流電源
H…冷却機
I…撹拌ブロアー
図14
図15
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13