【実施例】
【0028】
次に、本実施形態に従い作製した円柱型リチウムイオン二次電池20の実施例について説明する。
【0029】
実施例では、正極活物質として、スピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)を用いた。また、ECとDMCとの体積比1:2の混合溶媒にリチウム塩のLiPF
6を0.8モル/リットル(0.8M)で溶解させ、ホスファゼン系難燃化剤(株式会社ブリヂストン製、商品名ホスライト(登録商標)、液体状)およびイオン液体を混合した非水電解液を用いた。イオン液体には、カチオン成分としてイミダゾリウムカチオン類の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン(以下、EMIと略記する。)と、アニオン成分としてイミドアニオン類のビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(以下、FSIと略記する。)とを用いた。EMIおよびFSIの混合割合は、電気量が等量となるように、すなわち、本例では、体積比1:1に調整した。非水電解液に対するホスファゼン系難燃化剤の混合量を0〜20vol%の範囲(体積比xでは、0〜0.20の範囲)、イオン液体の混合量を0〜100vol%の範囲(体積比yでは、0〜1.00の範囲)で変化させ、体積比x、体積比yの組み合わせの異なる複数個のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0030】
(非水電解液の難燃性評価)
各リチウムイオン二次電池に用いた非水電解液の難燃性を、次のようにして評価した。すなわち、長さ127mm×幅40mm×厚さ0.2mmのガラスマット(体積:1.016cm
3)に、各非水電解液の2.5〜3.0gを含浸させ、10秒間接炎し、炎を離して消火させることを2回繰り返して行った。1回目、2回目でそれぞれ消火に要する時間(炎を離してからの燃焼時間)を測定した。ガラスマットに含浸させた非水電解液が燃え尽きることなく10秒未満で消火したものを難燃性ありと判定し、10秒以上燃焼したもの、または、非水電解液が燃え尽きたものを難燃性なしと判定した。
【0031】
図2に示すように、ホスファゼン系難燃化剤を混合しない場合(体積比x=0)では、イオン液体を50vol%以上混合すること(体積比y≧0.50)により難燃性を発揮することができる。また、ホスファゼン系難燃化剤を混合した場合には、その体積比xに応じて、難燃性の発揮に必要なイオン液体の体積比yを減少させることができる。なお、
図2において、マル印が難燃性ありと判定されたもの、バツ印が難燃性なしと判定されたものをそれぞれ示している。
【0032】
(電池性能評価)
各リチウムイオン二次電池について、25℃の環境下で3CA放電を行い、放電容量、すなわち、高率放電容量を測定した。非水電解液に対するイオン液体の混合量を50vol%(体積比y=0.50)、ホスファゼン系難燃化剤の混合量を0vol%(体積比x=0)としたときの放電容量を100%とした相対容量を求めた。
図3に、体積比xおよび体積比yを変えて作製したリチウムイオン二次電池の相対容量について、70〜120%の範囲で同じ相対容量となるものをそれぞれ曲線でつないで示した。
図3に示すように、イオン液体の体積比yを減少させることで、3CA放電容量が増大することが判った。また、イオン液体の体積比yが同じでも、ホスファゼン系難燃化剤の体積比xを増加させると、3CA放電容量が減少することが判った。これは、イオン液体およびホスファゼン系難燃化剤がいずれも難燃性を向上させるものの、両者ともに非水電解液の粘性を増大させるためと考えられる。一方、イオン液体がイオン伝導性に優れることから、ホスファゼン系難燃化剤の体積比xの増加に伴い非水電解液の粘性が増大しイオン伝導性が低下しても、イオン液体の体積比yを調整することによりイオン伝導性の低下抑制が可能となる。このことから、ホスファゼン系難燃化剤の体積比xを増加させたときに、イオン液体の体積比yを減少させることで3CA放電容量の増大が可能となることが判った。
【0033】
次に、難燃性と高率放電容量とのいずれにも優れる場合について検討した。
図2に示した難燃性の評価結果、および、
図3に示した高率放電容量の評価結果を
図4に重ねて示した。また、イオン液体の混合量が50vol%を超える範囲(体積比y>0.50)では、リチウムイオンの移動を媒介する有機溶媒であるECおよびDMCの割合が相対的に小さくなり、却って電池性能を損なうため、イオン液体の混合量を50vol%以下(体積比y≦0.50)とした。また、イオン液体の混合により非水電解液の粘性が増大することに加えて、ホスファゼン系難燃化剤の混合でも粘性が増大することから、ホスファゼン系難燃化剤の混合量を20vol%以下(体積比x≦0.20)とした。すなわち、
図4に示す曲線で囲まれる範囲で、ホスファゼン系難燃化剤およびイオン液体の混合量、すなわち、体積比xおよび体積比yを設定することにより、難燃性を確保しつつ高率放電容量の低下を抑制することができることとなる。さらに、イオン液体自体が燃えにくいものの、非水電解液の全体として難燃性を確保するためには、ホスファゼン系難燃化剤の混合量を少なくとも5vol%(体積比x≧0.05)とすることが好ましい。
【0034】
図4の好適な範囲を明確にするために、3つの曲線について近似式を求めた。この結果、
図5に示すように、3つの近似式、すなわち、上述した式(1)である0<x≦0.2、式(2)である0<y≦0.5および式(3)であるy≧0.35x
2−0.45x+0.15の関係を満たす範囲が得られた。従って、ホスファゼン系難燃化剤の体積比xと、イオン液体の体積比yとを、式(1)〜式(3)を満たすように設定することで、難燃性および高率放電容量に優れたリチウムイオン二次電池20を得ることができることが判明した。
【0035】
(作用等)
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池20の作用等について説明する。
【0036】
本実施形態では、非水電解液にホスファゼン系難燃化剤が混合されている。ホスファゼン系難燃化剤が電池異常時等の高温環境下で発火を防止する作用や消火作用を発揮するため、ホスファゼン系難燃化剤を混合することにより非水電解液に難燃性ないし自己消火性が付与される。これにより、過充電状態等の電池異常時や異常な高温環境下に曝されたときに非水電解液が発火しても消火されやすくなるので、電池の安全性を確保することができる。
【0037】
また、本実施形態では、非水電解液に、ホスファゼン系難燃化剤が混合されたことに加えてイオン液体が混合されている。イオン液体では、イオン液体を構成するイオン自体の熱分解温度以下での蒸気圧が無視できるほど低く、燃えにくい性質を有している。このため、イオン液体自体を用いることで安全性向上を図ることができる。また、ホスファゼン系難燃化剤が非水電解液より高い粘性を有するため、ホスファゼン系難燃化剤を混合することで非水電解液の粘性を増大させてしまう。この結果、ホスファゼン系難燃化剤のみを添加し難燃性を向上させると非水電解液の粘性増大によりイオン伝導性が低下し電池性能の低下を招くこととなる。これに対して、イオン液体がイオン伝導性に優れるため、イオン液体の混合によりイオン伝導性の低下を抑制することができる。これにより、ホスファゼン系難燃化剤による難燃性が得られるうえ、非水電解液中でのリチウムイオンの移動性が確保されるので、電池性能、とりわけ、高率放電容量の低下を抑制することができる。
【0038】
更に、本実施形態では、非水電解液の体積に対するホスファゼン系難燃化剤の体積比x、イオン液体の体積比yが、上述した式(1)、式(2)および式(3)、すなわち、0<x≦0.2、0<y≦0.5、および、y≧0.35x
2−0.45x+0.15の関係を満たすように設定されている。これにより、ホスファゼン系難燃化剤とイオン液体との混合量が適正化されるので、安全性を確保しつつ電池性能の低下を抑制することができる(
図5も参照)。
【0039】
また更に、本実施形態では、非水電解液の有機溶媒として、ECおよびDMCの混合溶媒が用いられている。ECでは、DMCと比べて、リチウム塩の解離性を高めることができるものの、融点が高く液状とすることが難しい。ECとDMCとを混合することにより、常温で液体のDMCがECを溶解させるため、リチウム塩の解離性にも優れる溶媒とすることができる。
【0040】
なお、本実施形態では、イオン液体として、カチオン成分のEMIと、アニオン成分のFSIとを体積比1:1で混合したものを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。イオン液体としては、上述したカチオン成分から選択される少なくとも1成分およびアニオン成分から選択される少なくとも1成分が含まれていればよく、カチオン成分およびアニオン成分をそれぞれ2成分以上としてもよい。また、カチオン成分およびアニオン成分の混合割合は、カチオンとアニオンとの電気量が等量となるように混合すればよい。
【0041】
また、本実施形態では、非水電解液の有機溶媒としてECおよびDMCが体積比1:2で混合された混合溶媒を例示したが、本発明はこれに制限されるものではない。本実施形態以外で用いることのできる有機溶媒としては、ECが含まれていればよく、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ビニレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル等の有機溶媒が混合されていてもよい。また、これらの有機溶媒の混合配合比についても特に限定されるものではない。ECが常温で固体状であることを考慮すれば、DMCが混合されていることが好ましい。本実施形態では、有機溶媒に溶解させるリチウム塩としてLiBF
4やLiPF
6を0.8〜1.0Mの範囲の割合とする例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。リチウム塩としては、通常リチウムイオン二次電池に用いられるリチウム塩を用いることができ、その量としても通常用いられる範囲とすればよい。LiBF
4とLiPF
6とを比較した場合、電池特性に及ぼす効果の異なることを確認している。すなわち、LiBF
4では正極活物質に用いるリチウムマンガン複酸化物からのマンガンイオンの溶出を抑制することから寿命特性の向上に効果があり、LiPF
6では高率放電特性の向上に効果がある。従って、イオン液体により非水電解液中でのイオン伝導性を確保し、ホスファゼン系難燃化剤の混合に伴う高率放電特性の低下を抑制することを考慮すれば、ECおよびDMCの混合溶媒にLiPF
6を0.8〜1.0Mの範囲の割合となるように溶解させた非水電解液を用いることが好ましい。
【0042】
更に、本実施形態では、正極活物質として、スピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウムを例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、リチウムを含む遷移金属複酸化物を用いることができる。このような正極活物質としては、リチウムマンガン複酸化物やリチウムコバルト複酸化物等を挙げることができるが、低コスト化の観点からリチウムマンガン複酸化物を用いることが好ましい。また、結晶中のマンガンサイトの一部がマンガン以外の遷移金属、例えば、マグネシウム、アルミニウム、コバルト、ニッケル等で置換されていてもよい。結晶構造についても、特に制限されるものではないが、熱安定性を考慮すればスピネル結晶構造を有するリチウムマンガン複酸化物を用いることが好ましい。一方、本実施形態では、負極活物質として、黒鉛を主体とする炭素材、すなわち、黒鉛系炭素材を例示したが、本発明はこれに制限されるものではない。黒鉛系炭素材以外に、非晶質炭素を用いることも可能である。電圧特性の平坦化を考慮すれば、黒鉛を主体とする炭素材を用いることが好ましい。
【0043】
また更に、本実施形態では、正極合剤として、正極活物質の100質量部に、導電材として鱗片状黒鉛の8質量部およびアセチレンブラックの2質量部、バインダとしてPVDFの5質量部が配合されている例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。リチウムイオン二次電池に通常使用される別の導電材を用いてもよく、導電材を用いなくてもよい。また、PVDF以外のバインダを用いてもよい。本実施形態以外で用いることのできるバインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ブチルゴム、ニトリルゴム、スチレン/ブタジエンゴム、多硫化ゴム、ニトロセルロ−ス、シアノエチルセルロース、各種ラテックス、アクリロニトリル、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、フッ化プロピレン、フッ化クロロプレン等の重合体及びこれらの混合体等を挙げることができる。さらに、各材料の配合比率を変えてもよいことはもちろんである。
【0044】
更にまた、本実施形態では、円柱型リチウムイオン二次電池20を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、非水電解液を使用する電池一般に適用することができる、また、電池の形状についても特に制限はなく、円柱型以外に、例えば、角型等としてもよい。また、本実施形態では、正極板W1、負極板W3を捲回した電極群6を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、矩形状の正極板、負極板を積層した電極群としてもよい。さらに、本発明の適用可能な電池としては、上述した電池容器7に電池蓋11がカシメ固定されて封口されている構造の電池以外であっても構わない。このような構造の一例として正負極外部端子が電池蓋を貫通し電池容器内で軸芯を介して押し合っている状態の電池を挙げることができる。